説明

蓄光性カラー合成樹脂

【課題】
蓄光性蛍光体を合成樹脂に混合した製品の色は、通常は蓄光性蛍光体の発光色に限られるため、用途が限定されていた。一方、合成樹脂に着色剤を混合した場合には、蓄光性蛍光体から発せられる光が着色剤に遮られ、十分な残光特性を発揮できないという問題があった。
【解決手段】
合成樹脂に混合する蓄光性蛍光体の平均粒径を20μm程度とすると、着色剤を混合した場合でも十分な残光特性を有することがわかった。また、製造時に合成樹脂を融点温度より10℃以上30℃以下高い温度で融解し、蓄光性蛍光体を混練して分散させると残光特性が高く色むらの少ない蓄光性カラー合成樹脂が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色剤を使用した蓄光性合成樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光や電灯から受けた光のエネルギーを蓄積し、暗闇においても長時間光を発する性質を蓄光性といい、蓄光性を有する物質を蓄光性蛍光体という。蓄光性蛍光体は光の吸収、蓄光、発光を何度でも繰り返すことができるため、非常口などの防災表示、時計の文字盤、アクセサリーなどに使用されている。蓄光性蛍光体の特性は、発光色、発光輝度、残光時間(光の照射を止めてから光り続ける時間)などにより特徴付けられる。蓄光性蛍光体には、主として硫化亜鉛(ZnS)を母結晶とするものと、アルミン酸ストロンチウム塩(SrAlなど)を母結晶とするものとがある。前者の蓄光性蛍光体は黄緑色の光を発し、残光時間は0.5時間程度である。後者の蓄光性蛍光体は、緑色の光を発し、残光時間は5時間以上である。
【0003】
蓄光性蛍光体の使用形態の一例として、特許文献1に示されているように、合成樹脂に蓄光性蛍光体を添加した製品が挙げられる。蓄光性蛍光体の発光特性を十分発揮するためには合成樹脂が透明であることが好ましい。合成樹脂が着色されていると、蓄光性蛍光体が発光した光が着色剤に吸収されてしまい、合成樹脂の発光輝度が低下するためである。
【特許文献1】特許第3260995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、透明な合成樹脂に蓄光性蛍光体を添加しただけでは、合成樹脂の色は蓄光性蛍光体の発光色に限定される。このような場合、蓄光性蛍光体を添加した合成樹脂を消費者の好みの色とすることができないため、用途が限定されていた。例えば、赤い壁にアルミン酸ストロンチウム塩系蓄光性蛍光体を添加した合成樹脂を使用する場合には、照明が点灯している状態では蓄光性蛍光体の緑色が目立ってしまい、建造物の外観を損なってしまう。蓄光性蛍光体を添加した合成樹脂の需要をさらに増やすためには、合成樹脂を消費者の好みの色に着色し、かつ蓄光性を維持することが必要である。合成樹脂を着色する場合は、樹脂に所望の着色剤を混合するという方法が従来から行われているが、蓄光性蛍光体と混合したときは、着色剤により蓄光性蛍光体から発せられる光が外部に放出されにくくなり、合成樹脂が十分な蓄光性を有しないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は着色剤を添加しても十分な蓄光性を発揮する合成樹脂を得ることを目的とする。すなわち第一の発明は、合成樹脂と、平均粒径が10μm以上30μm以下である蓄光性蛍光体と、着色剤とを材料としてなる蓄光性カラー合成樹脂を提供する。第二の発明は、前記蓄光性蛍光体が前記合成樹脂に対して1重量%以上20重量%以下含まれている、第一の発明に記載の蓄光性カラー合成樹脂を提供する。第三の発明は、前記着色剤が前記合成樹脂に対して0.1重量%以上0.3重量%以下含まれている、第一または第二の発明に記載の蓄光性カラー合成樹脂を提供する。第四の発明は、前記蓄光性蛍光体がアルミン酸ストロンチウム塩系蓄光性蛍光体である、第一から第三のいずれか一の発明に記載の蓄光性カラー合成樹脂を提供する。第五の発明は、合成樹脂を融解して融点温度より0℃以上50℃以下高い温度とする融解ステップと、前記融解ステップにて融解した合成樹脂に着色剤および蓄光性蛍光体を加えた混合物を1分以上30分以下混練する混練ステップと、前記混練ステップにて混練された混合物を成型する成型ステップと、からなる蓄光性カラー合成樹脂製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、十分な蓄光性を発揮し、かつ消費者の好みの色に着色された合成樹脂を得ることができる。したがって、蓄光性蛍光体を添加した合成樹脂の需要を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本発明はこれら実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【0008】
実施形態1は主に請求項1、2及び3について説明する。実施形態2は主に請求項4について説明する。実施形態3は主に請求項5について説明する。
【0009】
<実施形態1>
<実施形態1:概念>
本実施形態は、蓄光性を有し、かつ蓄光性蛍光体の発光色以外の色に着色した合成樹脂に関する。
【0010】
<実施形態1:構成>
本実施形態の蓄光性カラー合成樹脂は、合成樹脂と蓄光性蛍光体と着色剤とを材料としてなる。この他にも、必要に応じて、ガラス繊維、シリカ、シリコーン球などを混合しても良い。
【0011】
合成樹脂は、蓄光性カラー合成樹脂の母材となるものである。合成樹脂は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とがあるが、加工が容易であることから、熱可塑性樹脂がより好ましい。本実施形態に用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン6、ナイロン66、ポリブチレンテレフタレート、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、熱可塑性ポリウレタン、硬質および軟質塩ビ樹脂などである。
【0012】
蓄光性蛍光体は、平均粒径が10μm以上30μm以下である。一般に蓄光性蛍光体は平均粒径が大きいほど発光輝度が高いため、平均粒径は10μm以上であることが好ましい。一方、平均粒径が大きすぎると成型が困難となり、また、成型品の表面が荒れて見栄えが悪くなるため、粒径は30μm以下であることが好ましい。
【0013】
着色剤は、合成樹脂に混合して、特定の色調を発現させるための顔料である。使用される着色剤の例として、カーボンブラック(黒)、フタロシアニンブルー(青)、ジメチルキナクリドン(赤)、モノアゾ(黄)、酸化チタン(白)などが用いられる。着色剤は合成樹脂に対して0.1重量%以上0.3重量%以下含まれているのが好ましい。着色剤の含有量が0.1重量%以下では、蓄光性カラー合成樹脂が十分に着色されず、着色剤の含有量が0.3重量%以上では着色剤が多すぎて、蓄光性カラー合成樹脂の残光特性が低下するためである。
【0014】
本実施形態の蓄光性カラー合成樹脂の用途としては、ボールペンなどの文房具、避難経路表示、装飾品及び釣具などが挙げられる。
【0015】
<実施形態1:効果>
本実施形態により、十分な蓄光性を発揮し、かつ消費者の好みの色に着色された合成樹脂を得ることができる。したがって、蓄光性蛍光体を添加した合成樹脂の需要を増大させることができる。
【0016】
<実施形態2>
<実施形態2:概念>
本実施形態は、蓄光性蛍光体がアルミン酸ストロンチウム塩系である蓄光性カラー合成樹脂に関する。
【0017】
<実施形態2:構成>
本実施形態は使用される蓄光性蛍光体がアルミン酸ストロンチウム塩系蓄光性蛍光体である。アルミン酸ストロンチウム塩とは、主要構成元素が、Sr、Al、Oの3元素である物質である。具体的な化学式としては、SrAlやSrAl1425などである。アルミン酸ストロンチウム塩のみでは、蓄光性を有しないため、通常はアルミン酸ストロンチウム塩を母結晶として、少量のEu、Dy、Bなどを母結晶中に添加した物質を蓄光性蛍光体とする。蓄光性蛍光体におけるEu、Dy、Bの含有量はSrに対するモル比で0.002%以上20%以下である。SrAlを母結晶とする蓄光性蛍光体は緑色の光を発し、SrAl1425を母結晶とする蓄光性蛍光体は青色の光を発する。アルミン酸ストロンチウム塩を母結晶とする蓄光性蛍光体は、従来の硫化亜鉛を母結晶とする蓄光性蛍光体に比べ、5〜10倍程度の残光時間を有する。また化学的にも安定で、耐光性を有するという特徴がある。
【0018】
アルミン酸ストロンチウム塩系の蓄光性蛍光体の製造方法について説明する。出発原料として、炭酸ストロンチウム(SrCO)、アルミナ(Al)、酸化ユーロピウム(Eu)、酸化ディスプロシウム(Dy)及びホウ酸(B)などを用い、これらの混合物を還元雰囲気中及び1200℃以上の条件で数時間焼成する。還元雰囲気を用いるのはEu3+をEu2+に還元するためである。次に得られた塊状の物質を粉砕して、所望の粒度の粉末が得られるようにフィルターで分離する。また得られた粉末に付着した不純物を除去するため、酢酸およびグリセリンの混合液で洗浄しても良い。
【0019】
<実施形態2:実施例>
図1は本実施形態の蓄光性カラー合成樹脂の表面を光学顕微鏡により撮影した写真である。合成樹脂はオレンジ色に着色されている。図1に示されている粒状の物質は母結晶がSrAlで表される蓄光性蛍光体である。図1から、蓄光性蛍光体の平均粒径は約20μmであることがわかる。
【0020】
図2は別の蓄光性カラー合成樹脂であって、図1に示されている合成樹脂よりも発光輝度の低いものの表面を光学顕微鏡により撮影した写真である。蓄光性蛍光体の平均粒径は約50μmであり、その他の条件は図1の蓄光性カラー合成樹脂と同じである。以上の結果から、合成樹脂に混合する蓄光性蛍光体の平均粒径は20μm程度が適当であることがわかる。
【0021】
図3は合成樹脂に対して蓄光性蛍光体を5重量%、図4は合成樹脂に対して蓄光性蛍光体を10重量%混合した蓄光性カラー合成樹脂の残光輝度測定結果である。合成樹脂は透明だが、蓄光性蛍光体が合成樹脂の透明度を弱めるため、蓄光性蛍光体が5重量%含まれている蓄光性カラー合成樹脂は半透明で、蓄光性蛍光体が10重量%含まれている蓄光性カラー合成樹脂は不透明である。残光が肉眼で認められるのは約0.3mcd/mであり、いずれの色においても1時間以上の残光時間を有することがわかる。
【0022】
<実施形態2:効果>
本実施形態の蓄光性カラー合成樹脂に使用する蓄光性蛍光体は、残光特性が従来の硫化亜鉛系蓄光性蛍光体よりも高いため、発光輝度が高い製品を得ることができる。
【0023】
<実施形態3>
<実施形態3:概念>
本実施形態は、着色剤を使用しても十分な蓄光性を発揮する合成樹脂の製造方法に関する。
【0024】
本実施形態の蓄光性カラー合成樹脂製造方法は、融解ステップ(S0301)と、混練ステップ(S0302)と、成型ステップ(S0303)とからなる。
【0025】
融解ステップ(S0301)は、合成樹脂を融解して融点温度より0℃以上50℃以下高い温度とする。合成樹脂の融解温度は、好ましくは、融点温度より10℃以上30℃以下高い温度である。合成樹脂の融解温度が融点温度+50℃より高くなると、合成樹脂と蓄光性蛍光体の反応で黒ずみが発生し、融解温度が融点温度+10℃より低くなると、合成樹脂が十分に軟化せず混練が困難である。
【0026】
混練ステップ(S0302)は、融解ステップ(S0301)にて融解した合成樹脂に着色剤および蓄光性蛍光体を加えた混合物を1分以上30分以下混練する。混練時間が1分以下の場合は、蓄光性蛍光体が合成樹脂内に十分に分散せず、発光時の色むらが生じる。また、混練時間が30分以上になると、合成樹脂と蓄光性蛍光体が反応し、黒ずみが発生する。
【0027】
成型ステップ(S0303)は、混練ステップ(S0302)にて混練された混合物を成型する。成型方法としては主に押し出し成型と射出成型とがある。押し出し成型は混練した混合物を型枠を通して、棒状、板状とし、押し出された棒状体あるいは板状体を所望の形状に切断する。射出成型は、混練した混合物を金型に流し込み成型するものである。これら以外にも、例えばトランスファー成型、圧縮成型などの成型方法がある。
【0028】
<実施形態3:効果>
本実施形態により、製品全体に蓄光性蛍光体及び着色剤が分散された蓄光性カラー合成樹脂を得ることができ、十分な蓄光性を発揮するとともに、見栄えを良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】蓄光性カラー合成樹脂の表面を光学顕微鏡で観察した写真。蓄光性蛍光体の平均粒径が約20μmの場合。
【図2】蓄光性カラー合成樹脂の表面を光学顕微鏡で観察した写真。蓄光性蛍光体の平均粒径が約50μmの場合。
【図3】半透明タイプ蓄光性カラー合成樹脂の残光輝度測定結果。
【図4】不透明タイプ蓄光性カラー合成樹脂の残光輝度測定結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂と、
平均粒径が10μm以上30μm以下である蓄光性蛍光体と、
着色剤と、
を材料としてなる蓄光性カラー合成樹脂。
【請求項2】
前記蓄光性蛍光体が前記合成樹脂に対して1重量%以上20重量%以下含まれている、請求項1に記載の蓄光性カラー合成樹脂。
【請求項3】
前記着色剤が前記合成樹脂に対して0.1重量%以上0.3重量%以下含まれている、請求項1または2に記載の蓄光性カラー合成樹脂。
【請求項4】
前記蓄光性蛍光体がアルミン酸ストロンチウム塩系蓄光性蛍光体である、請求項1から3のいずれか一に記載の蓄光性カラー合成樹脂。
【請求項5】
合成樹脂を融解して融点温度より0℃以上50℃以下高い温度とする融解ステップと、
前記融解ステップにて融解した合成樹脂に着色剤および蓄光性蛍光体を加えた混合物を1分以上30分以下混練する混練ステップと、
前記混練ステップにて混練された混合物を成型する成型ステップと、
からなる蓄光性カラー合成樹脂製造方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−84622(P2007−84622A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272496(P2005−272496)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(599012684)
【出願人】(501334327)TDOグラフィックス株式会社 (14)
【Fターム(参考)】