説明

蓄光成形体およびその製造方法

【課題】印刷部が、明暗所を問わず同系色で発光し、印刷部を鮮明な輪郭で視認することができる蓄光成形体、および、そのような蓄光成形体を簡易な工程で製造することができる蓄光成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の蓄光成形体1は、蓄光材と樹脂とを含有する蓄光体2からなり、蓄光体2は、着色材が印刷された印刷部3を有し、該印刷部3が、有色であるとともに発光する。印刷部3の印刷方法としては、例えば、昇華型着色材を蓄光体2内に染み込ませることによって着色する昇華印刷法が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば屋内外の通路や道路などに設置される避難誘導用の標識等として用いられる蓄光成形体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー志向が高まった近年、電気を使用した緊急時の非常灯や非難誘導看板の代わりとして、蓄光材を使用した蓄光表示板が提案されている。
このような蓄光表示板の例として、透明基板上に、スクリーン印刷等で文字等を形成した後、該透明基板上に、樹脂と蓄光材を配合した蓄光層を形成した蓄光表示板が提案されている。(特許文献1参照)
また、基材と、該基材上に設けられた蓄光塗料層と、該蓄光塗料層上に設けられた半透明の光透過性着色基材層とを有し、この光透過性着色基材層が昇華型着色材により着色された蓄光表示板が提案されている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−233178号公報
【特許文献2】特開平10−247065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の蓄光表示板では、蓄光層の発光がスクリーン印刷部によってマスキングされ、マスキングされた部分は、暗闇で発光しないために、蓄光発光部以外のマスキングした部分は発色せずに黒くなり、本来の着色色を表現することができなかった。
また、スクリーン印刷であることから、印版が必要であり、色数が増えるだけ版数も増えてしまう。このため、印刷に手間やコストがかかってしまい、多品種少量生産には向かないという問題がある。
【0005】
また、特許文献2の蓄光表示板では、昇華型着色材による着色層が、蓄光塗料層上の光透過性着色基材層に形成されていることから、蓄光塗料層上に模様が載ったような、浮いた状態に見える。このため、模様の鮮明さに欠けてしまう。
さらに、光透過性着色基材層には、昇華型着色材が染み込み難く、昇華型着色材の転写に時間がかかっていたり、高い温度でなければ昇華し難いといった課題があり、素材によっては転写できないものもあった。
更に、通常、転写工程は、一旦別工程で成形した成形品を、改めて転写工程へ持ち込んで印刷していたため、成形品の型脱着や運搬時間等で2度手間になっている部分が多く、省力化の面で課題があった。
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑み提案されたものであり、印刷部が、明暗所を問わず同系色で発光し、印刷部を鮮明な輪郭で視認することができる蓄光成形体、および、そのような蓄光成形体を簡易な工程で製造することができる蓄光成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。
(1)蓄光材と樹脂とを含有する蓄光体からなり、前記蓄光体は、着色材が印刷された印刷部を有し、該印刷部が、有色であるとともに発光することを特徴とする蓄光成形体。
(2)前記印刷部は、昇華型着色材を前記蓄光体内に入り込ませることによって前記蓄光体を着色する昇華印刷法によって形成されていることを特徴とする(1)に記載の蓄光成形体。
(3)前記昇華印刷法による印刷部は、前記昇華型着色材を他の層を介さずに直接前記蓄光体に染み込ませることにより形成された印刷部であることを特徴とする(2)に記載の蓄光成形体。
(4)前記昇華型着色材は、少なくとも蓄光材の周囲に存する樹脂部に染み込んでいることを特徴とする(2)または(3)に記載の蓄光成形体。
【0008】
(5)蓄光材と樹脂とを含有する蓄光材配合樹脂を成形して蓄光体を得る工程と、前記蓄光体上に、昇華型着色材が所定のパターンで付着した転写シートを、前記昇華型着色材側が前記蓄光体側となるように重ね合わせる工程と、前記蓄光体および前記転写シートを加熱することにより、前記昇華型着色材を、前記蓄光体内に染み込ませることによって、前記蓄光体を着色する工程とを有することを特徴とする蓄光成形体の製造方法。
(6)目的とする蓄光体形状に対応する表面用成形型内および裏面用成形型内に、前記蓄光材配合樹脂を収容し、加熱加圧することによって前記蓄光体を得る工程と、前記裏面用成形型内の蓄光体と前記表面用成形型との間に、前記転写シートを、前記昇華型着色材側が前記蓄光体側となるように挿入する工程と、前記蓄光体および前記転写シートを加熱加圧することにより、前記昇華型着色材を、前記蓄光体内に染み込ませることによって前記蓄光体を着色する工程とを有することを特徴とする(5)に記載の蓄光成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蓄光成形体は、蓄光材と樹脂とを含有する蓄光体からなり、蓄光体は、着色材が印刷された印刷部を有し、該印刷部が、有色であるとともに発光するため、印刷色を変えることで、印刷色に応じて、暗闇でも明るい場所で見える色と同等の発光色を得ることができる。
【0010】
また、印刷方法が、蓄光体内に昇華型着色材を入り込ませて着色する昇華印刷法である場合には、様々な色や柄を同時に付けることが可能であり、スクリーン印刷のような印版が不要である。このため、色数を自由に設定することができ、また、印刷の手間もコストも最小限に抑えることが可能なため、多品種少量生産にも低コストで対応することができる。
【0011】
また、昇華印刷法による印刷を、他の層を介さずに、蓄光体に対して直接行う場合には、蓄光材周囲の樹脂部が昇華型着色材によって着色され、見た目には蓄光材が着色された様に、すなわち、着色材の色相を呈しながら発光しているように見える。また、昇華型着色材の発色と蓄光材の発光とが略同一平面上で生じるため、蓄光材による発光面に対して昇華型着色材の発色模様が浮き出て見えることがなく、仕上がりが自然で、柄の輪郭も鮮明となる。
また、蓄光体は、樹脂中に蓄光材が含まれていることから、樹脂のみからなる基材と比較して、昇華型着色材が染み込み易い。このため、低温・短時間で昇華印刷することができ、昇華印刷に際する蓄光体の熱劣化を抑えることができる。また、従来、熱変形温度が低く印刷できなかった素材への印刷も可能となる。
【0012】
また、本発明によれば、蓄光成形体を、蓄光材配合樹脂を成形して蓄光体を得る工程と、昇華型着色材が所定のパターンで付着した転写シートを、蓄光体上に、昇華型着色材側が蓄光体側となるように重ね合わせる工程と、蓄光体および転写シートを加熱することにより、昇華型着色材を、蓄光体内に染み込ませることによって蓄光体を着色する工程とによって製造する。これにより、必要な時だけ蓄光体の着色を行うことが可能なため、柄数に応じて在庫を持つ必要もなく、少量多品種生産にも対応できる。また、部分的な色付けは、部分加熱で加飾が可能なため、エネルギー消費量も抑えることができる。
【0013】
また、表面用成形型内および裏面用成形型内に収容された蓄光材配合樹脂を加熱加圧して蓄光体を得た後、蓄光体と表面用成形型との間に、転写シートを挿入して型締めし、蓄光体と転写シートとを加熱加圧して蓄光体に昇華印刷を行う場合には、蓄光体の成形と昇華型着色材の転写とが連続的に行われ、蓄光体を、転写工程に運搬して改めてセットする手間が不要になる。これにより、蓄光成形体の製造工程を短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の蓄光成形体を示す概略断面図である。
【図2】実施例1で作製した蓄光成形体を示す写真である。
【図3】比較例1で作製した蓄光成形体を示す写真である。
【図4】実施例8において、蓄光成形体の作製工程を示す模式図である。
【図5】実施例8で作製した蓄光成形体を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本発明の蓄光成形体の実施形態について説明する。
図1は、本発明の蓄光成形体の一実施形態を示す概略断面図である。
図1に示す蓄光成形体1は、蓄光材と樹脂とを含有する蓄光体2からなり、蓄光体2は、着色材が印刷された印刷部3を有し、該印刷部3が、有色であるとともに発光するように構成されている。以下、各部の構成について詳細に説明する。
【0016】
蓄光体2は、蓄光材と樹脂とを混合した蓄光材配合樹脂を成形することによって形成されたものである。
蓄光材とは、燐光特性を有する物質を用いた材料であって、太陽光や人工光等の光線を吸収蓄積し、その蓄積した光を放出するものである。
このような蓄光材としては、例えば、蓄光顔料単体、蓄光顔料の表面にガラスや樹脂等を被覆したビーズ状の蓄光材(蓄光ビーズ被覆体)、蓄光顔料と蓄光ビーズ被覆体とが混合されたもの等、蓄光顔料が配合された各種物質を例示することができる。蓄光顔料および蓄光顔料加工品の具体例としては、特開平7−11250号公報に例示された根本特殊化学社製の蓄光材、特開平8−73845号公報に例示された日亜化学工業社製の蓄光材等が挙げられる。また、蓄光ビーズ被覆体の具体例としては、特開2007−112685号公報に例示されたエム・ケー・ケー社(現、アライズ・コーポレート社)製の蓄光材等が挙げられる。
【0017】
また、蓄光材は、その表面がシランカップリング剤等により表面処理されていてもよい。蓄光材表面をシランカップリング剤等で表面処理することにより、母材樹脂と蓄光材間の密着性が向上し、蓄光材配合樹脂成形物(蓄光体2)の機械強度や耐水性が向上する。シランカップリング剤には、蓄光材表面を処理するタイプと、蓄光材と混合する前の樹脂もしくは蓄光材と樹脂とを混合した蓄光材配合樹脂に添加しておくタイプがあり、どちらでも使用できる。
【0018】
蓄光体2に使用する樹脂としては、特に制限はないが、印刷部3の印刷方法として昇華印刷法を用いる場合には、耐熱温度が昇華型着色材の昇華温度より高いものを用いることが好ましい。これにより、昇華印刷法によって印刷を行う際に、蓄光体2の外観の損傷を抑えることができる。また、透明性または半透明性を有する樹脂が、蓄光体2の発光輝度を高くする点から好ましいが、透明性の低い樹脂であっても、蓄光材と混合して成形したとき、その成形体の表面近傍に蓄光材が存在でき、成形体が暗闇で光って見えるものであれば用いることができる。
ここで、本明細書において、「透明」とは、可視光線透過性が70%以上であることを意味する。また、「半透明」とは、可視光線透過性が5%以上70%未満であることを意味する。樹脂膜厚により可視光線透過性は変化するため、目的の樹脂膜厚において前記条件を満たすものを指す。
【0019】
樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂(アクリトニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)や、エンプラで知られる、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、液晶ポリマーなどでもよい。これらの樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0020】
蓄光体2において蓄光材の樹脂に対する添加量は、特に制限はなく、その好ましい添加量は使用する樹脂の透明度にもよっても異なるが、母材樹脂100重量部に対し、5重量部以上300重量部以下が好ましく、10重量部以上200重量部以下がより好ましい。
蓄光材の添加量が前記範囲より少ないと、十分な燐光輝度が得られない可能性がある。また、蓄光体2における樹脂比率が増えるため、例えば昇華型着色材を蓄光体2に印刷する場合に、印刷に必要な時間や温度が増大することが考えられる。このため、蓄光材の添加量は5重量部以上が好ましい。
【0021】
一方、蓄光材の添加量が300重量部を超えると、成形材料となる蓄光材配合樹脂の粘度が高くなり、該蓄光材配合樹脂中への気泡混入不良を生じる可能性がある。特に、平均粒径が100μ以下の蓄光材の場合、蓄光材配合樹脂中で樹脂と接触する表面積が大きいため、このような傾向が顕著になる。また、蓄光材の添加量が大きくなると、蓄光材同士をつなぎ合わせる効果も兼ねる、母材樹脂の割合が小さくなることから、成形品の強度低下が生じる可能性がある。
【0022】
なお、蓄光材の粒径が大きい程、蓄光材の樹脂と接触する表面積が小さくなり、蓄光材配合樹脂の粘度は低くなる。このため、粒径の大きい蓄光材を使用した場合には、粒径の小さい蓄光材を使用した場合と比較して、蓄光剤配合樹脂中への気泡混入、成形性との兼ね合いにより蓄光材の添加量を増やすこともできる。このような点から、蓄光材の添加量は、その粒径に応じて適宜調整するのが好ましい。
【0023】
また、蓄光材の一部を充填材と置き換えてもよい。充填材の例としては、ガラスビーズ、シリカ、水酸化アルミ、炭酸カルシウム、寒水などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これら充填材のうち、蓄光体2に添加して該蓄光体の透明度を低下させるものを用いる場合には、その添加量は、蓄光体2において所望の透明度が得られる量とする。
【0024】
以上のような蓄光体2は、発光輝度や発光色が一様であってもよいが、これらが多様に変化していても構わない。
後者の蓄光体2としては、蓄光材の密度に分布をもたせることで発光輝度を変化させた蓄光体、発光色の異なる複数種の蓄光材を配合した蓄光体、蓄光材が配合された樹脂に、さらに蛍光材や着色材を混合して着色した蓄光体、色相や輝度の異なる複数種の樹脂を用い、これらの流し込み位置を制御することで模様を形成し、色の変化を付けた蓄光体、フィルム上に供給された透明有色の樹脂上に、蓄光材配合樹脂を流し込み、着色樹脂を蓄光材配合樹脂側に転写した蓄光体等が挙げられる。
【0025】
本発明の蓄光成形体1は、以上のような蓄光体2からなり、その少なくとも一方の主面に着色材が印刷された印刷部3を有している。そして、この印刷部3が有色であるとともに発光するように構成されている。
このような蓄光成形体1では、印刷部3が、暗闇においても明るい所で見える色と同等の発光色を呈し、良好な視認性を得ることができる。
【0026】
印刷部3の印刷方法としては、蓄光体2内に昇華型着色材を入り込ませて、より具体的には染み込ませることによって蓄光体2を着色する昇華印刷法が好適である。昇華型着色材としては、染料系昇華型着色材および顔料系昇華型着色材のいずれでもよい。
蓄光体2に、昇華印刷法による印刷を直接行うと、その蓄光材周囲の樹脂部に昇華型着色材が入り込み、より具体的には染み込み、昇華型着色材が染み込んだ領域(印刷部)が有色であるとともに発光して見える。また、昇華型着色材の発色と蓄光材の発光とが略同一平面上で生じるため、蓄光材による発光面に対して昇華型着色材の発色模様が浮き出て見えることがなく、仕上がりが自然で、柄の輪郭も鮮明となる。
また、昇華印刷法は、様々な色や柄を同時に付けることが可能であり、スクリーン印刷のような印版が不要である。このため、色数を比較的自由に設定することができ、また、印刷の手間やコストも最小限に抑えることが可能なため、多品種少量生産にも低コストで対応することができる。
さらに、蓄光体2は、樹脂中に蓄光材が含まれていることから、樹脂のみからなる光透過性基材と比較して、昇華型着色材が染み込み易い。このため、低温・短時間で昇華印刷することができ、昇華印刷に際する成形品の熱劣化を抑えることができる。
【0027】
また、以上は蓄光成形体1の基本的な構成であり、本発明の蓄光成形体1は、この他の構成を有していても構わない。
例えば印刷部3を昇華印刷法によって形成した後に、昇華型着色材の紫外線劣化や外観向上を目的として、紫外線吸収材を混合等した、紫外線防止効果を有する透明または半透明樹脂層をスプレーコート法などにより形成することも可能である。透明または半透明の樹脂層としては、特に制限はないが、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や、アクリル系やウレタン系塗料を吹き付けて硬化させて成膜しても構わない。また、樹脂層は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂よりなるフィルムや板などで蓄光体表面を覆うことで形成してもよい。ここで、蓄光体2との密着性を得たり、反りを小さくするためには、樹脂層は、蓄光体2を構成する樹脂と同じ樹脂若しくは同じ収縮率の樹脂を使用するのが好適である。
【0028】
また、蓄光体2は、印刷用着色材(例えば、昇華型着色材)と接触する面(印刷面)が、樹脂と蓄光材が配合された面とされていればよく、他方の面の構成は問わない。
例えば、蓄光輝度向上のため、蓄光体2の印刷面と反対側に隠蔽層を設けても構わない。隠蔽層は、白色であるのが好ましい。これにより、隠蔽層が他の色相である場合に比べて、輝度を高くすることができる。
【0029】
<蓄光成形体の製造方法>
次に、本発明の蓄光成形体の製造方法について説明する。なお、ここでは図1に示す蓄光成形体を製造する場合を例にする。
まず、前述の蓄光材および樹脂を混合して蓄光材配合樹脂を調製する。
次に、この蓄光材配合樹脂を成形して蓄光体2を得る。
【0030】
蓄光材配合樹脂の成形方法としては、特に制限はないが、例として次の方法がある。即ち、
(1)凹型(裏面用成形型)内に蓄光材配合樹脂を流し込み、表面用成形型で型締めした後、硬化(加熱加圧)、脱型して成形品(蓄光体2)を得る方法(プレス成形法)、(2)型に蓄光材配合樹脂をスプレー等によって成膜し、その後、硬化、脱型して蓄光体2を得る方法、(3)2枚のフィルム等により蓄光材配合樹脂をはさみ込み、シート状として硬化させ、脱型して蓄光体2を得る方法、(4)プリプレグ状態の樹脂に蓄光材を添加し、加熱成形した後、型で一体成形する方法等がある。
【0031】
蓄光材をSMC(シートモールディングコンパウンド)やBMC(バルクモールディングコンパウンド)などの成形材料中へ配合してプレス成形する加熱加圧時の転写基材成形時の条件としての成形圧力は、3.98MPa〜9.81MPa程度(40kgf/cm〜100kgf/cm)であることが好ましく、4.90MPa〜7.85MPa(50kgf/cm〜80kgf/cm)であることがより好ましい。成形圧力が、3.98MPa未満では、成形品中の空気が抜けにくい不具合が発生する傾向がある。
【0032】
また、表面用型および裏面用型の温度は、110℃〜155℃程度であることが好ましく、120℃〜145℃程度であることがより好ましい。表面用型および裏面用型の温度が110℃未満では、蓄光材配合樹脂が完全に硬化するまでに時間が長くかかり、生産性が低下する傾向がある。一方、表面用型及び裏面用型温度が155℃を超えると、蓄光材配合樹脂の硬化の進行が早くなり、成形材料のプリゲルなどによりFRP(Fiber Reinforced Plastics)成形品の外観が低下する傾向がある。
【0033】
次に、得られた蓄光体2の表面に所望のパターンで印刷を行うことで印刷部3を形成し、図1に示す蓄光成形体1を得る。ここでは、印刷法として昇華印刷法を用いる場合を例にして説明する。
昇華型着色材の印刷方法としては、蓄光体2表面に、直接昇華型着色材を載せた後、加熱して昇華型着色材を蓄光体2内に染み込ませる方法や、転写シートに昇華型着色材を印刷した後、転写シートの昇華型着色材側の面を蓄光体2表面に当て、転写シート側より加熱することによって、昇華型着色材を蓄光体内へ染み込ませる方法(転写法)があり、蓄光体2が固体のため、後者の方法が好ましい。
また、転写シートへの昇華型着色材の印刷は、コンピュータ制御されたプリンタにより行うことができるため、解像度の高い文字や図柄を表示物として容易に形成することができる。また、昇華型着色材が印刷された転写シートは、シート状であるため、保管スペースをとらず、あらたまった保管場所が必要とならないという利点もある。
【0034】
転写法を用いる場合、転写温度は100℃以上300℃未満が好ましく、150℃以上220℃未満がより好ましい。転写温度が100℃未満であると、インクが昇華しない可能性があり、一般的な樹脂の耐熱温度は300℃未満である為、300℃以上であると成形体を熱により劣化させる恐れがある。但し、耐熱温度が300℃以上の樹脂も存在する為、厳密には、転写温度の上限はこの限りではない。また、転写温度が高い程、短時間で高い転写率が得られるため、耐熱温度の範囲で高い方が好ましい。
また、転写時の加圧力は、それが高い程、加熱体と成形品との密着力が増大するため好ましい。具体的には、転写時の加圧力は50g/cm以上が好ましく、500g/cm以上がより好ましい。ただし、成形品に反りが生じていた場合など、加熱体と成形品との間に隙間が生じている場合には、加圧力を高く設定するなど適宜対応する。
【0035】
ここで、プレス成形法と転写法とを組み合わせて蓄光成形体1を得る場合、蓄光体2を成形した後、該蓄光体2を脱型せずに、続けて昇華型着色材の転写を行うのが好ましい。具体的には、蓄光体2をプレス成形によって得た後、型を開き、転写シートの昇華型着色材が付着した面を、蓄光体2側へ向けて貼り合せて型を締め、加熱加圧することによって、昇華型着色材を蓄光体2に染み込ませる。
通常、転写工程は、一旦別工程で成形した成形品を、改めて転写工程へ持ち込んで印刷することによって行われており、この場合、成形品の型脱着や運搬等が2度手間になってしまう。これに対して、前述のように蓄光体2を成形した後、該蓄光体2を脱型せずに、続けて昇華型着色材の転写を行うことにより、蓄光体2を、転写工程に運搬して改めてセットする手間が不要になり、蓄光成形体の製造工程を短縮することが可能になる。
【0036】
ここで、転写シートを金型内へ収容すると、転写シートの昇華型着色材が、金型の熱によって、成形品に付着する前(金型が閉まりきる前)に昇華してしまう可能性がある。このため、金型の熱が転写シートに伝わるのを抑制する目的で、金型と転写シートとの間に断熱材を敷設すると良い。断熱材としては、シリコンゴムなどのクッション性を有するものを用いるのが好ましい。これにより、成形品と転写シートへ加わる成形圧のムラが小さくなって密着性が上がるため、転写ムラを少なくすることができる。
【0037】
以上、本発明の蓄光成形体およびその製造方法について説明したが、各実施形態において、蓄光成形体を構成する各部および製造方法の各工程は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
蓄光材(根本特殊化学社製、商品名ルミノーバG−300)100gとアクリル系樹脂(トマテック社製)100gとを混合、成形することによって蓄光体を得た。
次に、顔料系の昇華型着色材(赤色と水色)が所定の柄となるように付着した転写シートを用意した。
次に、この転写シートを、前記工程で得られた蓄光体の表面に、昇華型着色材の付着面が蓄光体側となるようにして貼り付けた。そして、この蓄光体/転写シートの積層体を、転写シート側が下方となるように熱板上に載置し、150℃、625g/cmで10分間加熱・加圧し、転写シートの昇華型着色材の柄を蓄光体に転写した。
以上の工程により、蓄光体に昇華型着色材が印刷された蓄光成形体を得た。
【0039】
(比較例1)
前記実施例1と同様にして蓄光体を得た。
次に、蓄光体の表面に、アクリル系樹脂(東罐マテリアル・テクノロジー社製)を供給し、硬化処理を行うことで半透明樹脂層を形成した。
次に、顔料系の昇華型着色材(赤色と水色)が所定の柄となるように付着した転写シートを用意した。
次に、この転写シートを、前記工程で得られた蓄光体の半透明樹脂層の表面に、昇華型着色材の付着面が半透明樹脂層側となるようにして貼り付けた。そして、この蓄光体/半透明樹脂層/転写シートの積層体を、転写シート側が下方となるように熱板上に載置し、150℃、625g/cmで10分間加熱・加圧し、転写シートの昇華型着色材の柄を半透明樹脂層に転写した。
以上の工程により、半透明樹脂層に昇華型着色材が印刷された蓄光成形体を得た。
【0040】
実施例1および比較例1で作製された各蓄光成形体の外観写真を、図2および図3にそれぞれ示す。図2(a)において、上側の半分ほどを示す黒い領域は実際は赤い色の着色剤による転写印刷部分であるが、その他の試料表面の乳白色の領域との境界部分の輪郭は鮮明に表示されている。図2(b)は下半分の領域が薄水色の着色剤による転写印刷部分であるが、図2(b)の上半分の領域の試料表面の乳白色の部分と下半分の領域の着色部分との境界は輪郭鮮明に表示されているとともに、転写印刷部分の色合いも濃くなっている。これらに対し、図3(a)に示す上半分の赤色着色剤による転写印刷部分と下半分の乳白色の部分との境界部分は輪郭が不鮮明であり、図3(b)に示す上半分の薄水色着色剤による転写印刷部分と下半分の乳白色の部分との境界部分は輪郭が不鮮明であり、色合いも薄い状態であった。
図2、3を見てわかるように、実施例1の蓄光成形体(図2)は、比較例1の蓄光成形体(図3)に比べて転写柄の輪郭が明瞭で、インクによる着色も濃かった。
【0041】
(実施例2〜実施例7)
前記実施例1と同様にして蓄光体を得た。
次に、顔料系の昇華型着色材(黒)が所定の柄となるように付着した転写シートを用意し、転写の際の加熱温度および時間を表1に示すように変える以外は、前記実施例1と同様にして、蓄光体に昇華型着色材が印刷された蓄光成形体を得た。
【0042】
(比較例2〜比較例7)
前記比較例1と同様にして半透明樹脂層が形成された蓄光体を得た。
次に、顔料系の昇華型着色材(黒)が所定の柄となるように付着した転写シートを用意し、転写の際の加熱温度および時間を表1に示すように変える以外は、前記比較例1と同様にして、半透明樹脂層に昇華型着色材が印刷された蓄光成形体を得た。
【0043】
[評価]
各実施例および各比較例で作製された各蓄光成形体について、着色部を、XYZ表色系の色差計で色差測定し、下記式を用いて着色率(転写率)を算出した。
転写率:[(Y転写前−Y転写後)/Y転写前]×100(%)
この評価結果を、昇華型着色材の転写条件と併せて表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、半透明樹脂層を設けていない蓄光成形体(実施例2〜7)は、半透明樹脂層を設けた蓄光成形体(比較例2〜7)に比べて、転写率の温度・時間依存性が小さく、比較的低い温度で短時間に、高い転写率を得ることができた。また、転写温度180℃以上は転写率の変化に大差なく、240℃では基材が熱劣化により茶変色した。
【0046】
(実施例8:標識の作製)
図4に示すように、ベース型11上に、立体テープを用いて200×200mmサイズの略矩形状の枠12を設け、成形型を作製した。
次に、促進剤となる6%ナフテン酸コバルトを1.1g配合した不飽和ポリエステル樹脂(ディーエイチ・マテリアル社製)220gと、蓄光材(根本特殊化学社製、商品名ルミノーバ)220gとを配合した溶液を調製し、この溶液に、硬化剤となるパーメックN(日油社製、商品名)を2.2g添加し、攪拌することによって蓄光材配合樹脂13を調製した。
【0047】
次に、この蓄光材配合樹脂13を、前記工程で作製した枠12内に流し込み、70℃で60分間加熱することで硬化させた。
次に、枠12内の成形体を、脱型し、所望の形状(150×150mm)に切断することによって蓄光体14を得た。
【0048】
次に、蓄光体14上に、昇華転写シート16を、その昇華型着色材付着部17が蓄光体14側となるようにして重ねた。ここで、昇華転写シート16は、その一方の面に、昇華型着色材が文字と矢印の反対パターンで印刷されたものである。この蓄光体/昇華転写シートの積層体を、熱板15上に、昇華転写シート16側が熱板15側となるように載置した。
【0049】
次に、この積層体に、昇華転写シート側と反対側から2kgの荷重18をかけ、160℃で5分間転写を行った後、蓄光体から昇華転写シートを剥離した。
以上の工程により、その表面に、昇華型着色材による文字と矢印が印刷された蓄光成形体19を得た(図5参照)。
この蓄光成形体を、暗闇で発光させると、着色部(文字と矢印)も発光した。
【符号の説明】
【0050】
1、19…蓄光成形体、2、14…蓄光体、3…印刷部、13…蓄光材配合樹脂、15…熱板、16…昇華転写シート、17…昇華形着色材付着部、18…加重、19…成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄光材と樹脂とを含有する蓄光体からなり、前記蓄光体は、着色材が印刷された印刷部を有し、該印刷部が、有色であるとともに発光することを特徴とする蓄光成形体。
【請求項2】
前記印刷部は、昇華型着色材を前記蓄光体内に入り込ませることによって前記蓄光体を着色する昇華印刷法によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の蓄光成形体。
【請求項3】
前記昇華印刷法による印刷部は、前記昇華型着色材を他の層を介さずに直接前記蓄光体に染み込ませることによって形成された印刷部であることを特徴とする請求項2に記載の蓄光成形体。
【請求項4】
前記昇華型着色材は、少なくとも前記蓄光材の周囲に存する樹脂部に染み込んでいることを特徴とする請求項2または3に記載の蓄光成形体。
【請求項5】
蓄光材と樹脂とを含有する蓄光材配合樹脂を成形して蓄光体を得る工程と、
前記蓄光体上に、昇華型着色材が所定のパターンで付着した転写シートを、前記昇華型着色材側が前記蓄光体側となるように重ね合わせる工程と、
前記蓄光体および前記転写シートを加熱することにより、前記昇華型着色材を、前記蓄光体内に入り込ませることによって、前記蓄光体を着色する工程とを有することを特徴とする蓄光成形体の製造方法。
【請求項6】
目的とする蓄光体形状に対応する表面用成形型内および裏面用成形型内に、前記蓄光材配合樹脂を収容し、加熱加圧することによって前記蓄光体を得る工程と、
前記裏面用成形型内の前記蓄光体と前記表面用成形型との間に、前記転写シートを、前記昇華型着色材側が前記蓄光体側となるように挿入する工程と、
前記蓄光体および前記転写シートを加熱加圧することにより、前記昇華型着色材を、前記蓄光体内に染み込ませることによって前記蓄光体を着色する工程とを有することを特徴とする請求項5に記載の蓄光成形体の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−194828(P2011−194828A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66603(P2010−66603)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(301050924)株式会社ハウステック (234)
【Fターム(参考)】