説明

蓄電デバイス用負極及び蓄電デバイス並びにそれらの製造方法

【課題】エネルギー密度、出力密度が高く、急速な充放電を繰り返しても容量低下が少ない蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】リチウムイオンキャパシタ部20とリチウム電池部30を備えた蓄電デバイスにおいて、共通負極6の負極集電箔7の貫通孔10内部に樹脂を含む粒子12を充填し、共通負極6にリチウムイオンをドープした後、加熱処理により粒子12を溶融させ、貫通孔10を閉塞するようにした。これにより、充放電の際に貫通孔10を通じてリチウムイオンが出入りすることなく、貫通孔10周辺で電極反応分布が生じないため、急速な充放電を繰り返しても容量低下が少ないサイクル特性に優れた蓄電デバイスが得られる。また、負極集電箔7の貫通孔10内部に樹脂を含む粒子12を充填した後、電極ペーストを塗布するようにしたので、均一な負極電極層8、9を容易に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を有する負極集電箔を用いた蓄電デバイス用負極及び蓄電デバイス、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型蓄電装置及び電動工具、さらには電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられており、近年その需要が増加している。リチウム二次電池の正極には、LiCoOのようなリチウム含有金属酸化物、負極には黒鉛等の炭素材料が使用される。リチウム二次電池の動作は、充電時に正極のリチウム含有金属酸化物から負極にリチウムが供給され、放電時に負極中のリチウムが正極に戻るというリチウムイオンの挿入・脱離反応を利用したものである。この電池は電圧が高く、高エネルギー密度である反面、出力特性やサイクル特性、安全性の面では十分とはいえない。
【0003】
一方、電気二重層キャパシタは、活性炭等のカーボン材料とバインダからなるシート状の正極及び負極と、両極を電気的に絶縁する多孔質セパレータと、これらに含浸された電解液で構成されている。電気二重層キャパシタは、両極と電解液との界面に発生する電気二重層の静電容量により電解液中のイオンが電極間を移動するのを利用して充放電を行うもので、電気化学反応を伴わない。このため、電気二重層キャパシタは、充放電レート特性、サイクル特性に優れており、電子機器のバックアップ電源や自動車等の各種輸送機の電源として使用されている。しかし、電気二重層キャパシタは、リチウム二次電池に比べるとエネルギー密度が低い。
【0004】
近年、これらのリチウム二次電池と電気二重層キャパシタを組み合わせたリチウムイオンキャパシタの開発が盛んに行われている。リチウムイオンキャパシタは、正極電極層に電気二重層キャパシタ用活性炭、負極電極層にリチウム電池用炭素材料を用いたハイブリッド型のキャパシタである。このリチウムイオンキャパシタは、負極電極層にリチウムイオンをドープすることにより負極電位を低くして高いセル電圧を得ることができるため、従来の電気二重層キャパシタに比べてエネルギー密度の向上が図られる。
【0005】
リチウムイオンキャパシタにおいては、正極及び負極の集電箔がそれぞれ貫通孔を有しており、これらの電極に金属リチウム箔を接触させ、リチウムイオンが電気化学的接触により正極または負極を透過することにより、リチウムイオンがドープされる。例えば特許文献1では、集電箔としてリチウムイオンを移動させる貫通孔が開いたエキスパンドメタルやパンチングメタル等を用いた帯電デバイスが提示されている
【0006】
また、特許文献2では、リチウム二次電池と電気二重層キャパシタを組み合わせた蓄電デバイスとして、貫通孔を有する負極集電箔の片面に負極電極層を設けた共通負極を有し、この共通負極の負極電極層側の面に第一のセパレータを介してリチウムイオンキャパシタ正極を対向させ、負極集電箔側の面に第二のセパレータを介してリチウム二次電池正極を対向させた蓄電デバイスが提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−26480号公報
【特許文献2】特開2009−141181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1及び特許文献2で提示されたものも含め、貫通孔を有する集電箔を用いた蓄電デバイスにおいては、集電箔の一方の面に電極活物質層(電極層)を形成する際に、塗布した電極ペーストが貫通孔を通って反対側の面に流れたり、反対側の面に塗布した電極ペーストの溶媒が貫通孔に浸み込んだりするため、均一な電極活物質層の形成が困難であった。これらの問題を回避するため、電極活物質層を集電箔の両面同時に形成する方法があるが、装置が大型化し、製造コストが上昇するという問題があった。
【0009】
さらに、集電箔が貫通孔を有する多孔体から形成されている蓄電デバイスにおいては、急速な充放電を繰り返すことにより貫通孔周辺で電極反応分布が生じ、電極の劣化を進行させ、充放電容量の低下を引き起こすという問題があった。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、貫通孔を有する集電箔に対して均一な電極活物質層の形成が容易に行える蓄電デバイス用負極を得ることを目的とする。
【0011】
さらに、エネルギー密度、出力密度が高く、急速な充放電を繰り返しても容量低下が少ない蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【0012】
また、貫通孔を有する集電箔に対して均一な電極活物質層の形成が容易に行える蓄電デバイス用負極の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、エネルギー密度、出力密度が高く、急速な充放電を繰り返しても容量低下が少ない蓄電デバイスを作製することが可能な蓄電デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る蓄電デバイス用負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面に設けられた負極活物質層を備え、負極集電箔は、その一方の面から他方の面に貫通する複数の貫通孔を有し、貫通孔の内部に樹脂を含む粒子が充填されているものである。
【0015】
また、本発明に係る蓄電デバイス用負極の製造方法は、複数の貫通孔を有する負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面に設けられた負極活物質層を備えた蓄電デバイス用負極の製造方法であって、樹脂を含む粒子、第一のバインダ、及び第一の溶媒からなる樹脂溶液を混合調製し、この樹脂溶液を負極集電箔の貫通孔に充填する負極集電箔作製工程と、負極集電箔作製工程の後、負極活物質層材料、第二のバインダ、及び第二の溶媒からなる電極ペーストを混合調製し、この電極ペーストを負極集電箔の少なくとも一方の面に塗布して負極活物質層を形成する負極作製工程を含んで製造するようにしたものである。
【0016】
また、本発明に係る蓄電デバイスは、キャパシタ正極集電箔の一方の面にキャパシタ正極電極層が設けられたリチウムイオンキャパシタ正極と、負極集電箔の両面に負極電極層が設けられた共通負極と、電池正極集電箔の一方の面にリチウム金属化合物を含む電池正極電極層が設けられたリチウム電池正極と、キャパシタ正極電極層と共通負極の一方の負極電極層との間に配置された第一のセパレータと、電池正極電極層と共通負極の他方の負極電極層との間に配置された第二のセパレータを備え、負極集電箔は、その一方の面から他方の面に貫通する複数の貫通孔を有し、貫通孔の内部に樹脂を含む粒子が充填されているものである。
【0017】
また、本発明に係る蓄電デバイスの製造方法は、複数の貫通孔を有する負極集電箔を用意し、樹脂を含む粒子、第一のバインダ、及び第一の溶媒からなる樹脂溶液を貫通孔の内部に充填した後、負極集電箔の両面に負極電極層を順次形成し、共通負極を作製する共通負極作製工程と、キャパシタ正極集電箔の一方の面にキャパシタ正極電極層が設けられたリチウムイオンキャパシタ正極と、第一のセパレータと、共通負極と、第二のセパレータと、電池正極集電箔の一方の面にリチウム金属化合物を含む電池正極電極層が設けられたリチウム電池正極をこの順に積層した蓄電素子を容器内に収納し、電解液を注入して容器を封口するセル作製工程と、セル作製工程の後、リチウム電池正極から共通負極へ電気化学的操作によりリチウムイオンをドープするリチウムイオンドープ工程と、リチウムイオンドープ工程の後、容器の外側から蓄電素子を加熱し、貫通孔内部の樹脂を含む粒子を溶融させる貫通孔閉塞工程を含んで製造するようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、負極集電箔の貫通孔内部に樹脂を含む粒子が充填されているので、この負極に対してリチウムイオンをドープした後に加熱処理により樹脂を含む粒子を溶融させて貫通孔を閉塞することができるため、急速な充放電を繰り返しても容量低下が少ない蓄電デバイス用負極を得ることが可能である。
【0019】
また、本発明に係る蓄電デバイス用負極の製造方法によれば、負極集電箔の貫通孔内部に樹脂を含む粒子を充填した後に、電極ペーストを負極集電箔の少なくとも一方の面に塗布して負極活物質層を形成するようにしたので、電極ペーストが貫通孔を通って反対側の面に流れたり、電極ペーストの溶媒が貫通孔に浸み込んだりすることを防止でき、貫通孔を有する負極集電箔に対して均一な電極活物質層の形成が容易に行える。
【0020】
また、リチウムイオンキャパシタ正極、共通負極、及びリチウム電池正極を備えた蓄電デバイスにおいて、負極集電箔の貫通孔内部に樹脂を含む粒子が充填された共通負極を用いることにより、この負極に対してリチウムイオンをドープした後に加熱処理により樹脂を含む粒子を溶融させて貫通孔を閉塞することができるため、エネルギー密度、出力密度が高く、急速な充放電を繰り返しても容量低下が少ない蓄電デバイスを得ることが可能である。
【0021】
また、本発明に係る蓄電デバイスの製造方法によれば、リチウムイオンドープ工程の後、容器の外側から蓄電素子を加熱し、貫通孔内部の樹脂を含む粒子を溶融させて貫通孔を閉塞するようにしたので、エネルギー密度、出力密度が高く、急速な充放電を繰り返しても容量低下が少ない蓄電デバイスを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係る蓄電デバイスセルの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る蓄電デバイスセルに用いられる負極集電箔の加熱処理前、加熱処理後の状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る蓄電デバイスセルの構成を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例における蓄電デバイスセルの充放電サイクル試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態1について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る蓄電デバイスセルの構成を示している。本実施の形態1に係る蓄電デバイスセルは、リチウムイオンキャパシタ正極1(以下キャパシタ正極1と略す)とリチウム電池正極4、及びこれらの正極1、4との間にそれぞれ第一、第二のセパレータ11a、11bを介して配置された共通負極6を備えている。
【0024】
キャパシタ正極1は、平滑なアルミニウム箔であるキャパシタ正極集電箔2aの一方の面に、リチウムイオンキャパシタ正極電極層3(以下キャパシタ正極電極層3と略す)が設けられている。また、リチウム電池正極4は、電池正極集電箔2bの一方の面に、リチウム金属化合物を含む電池正極電極層であるリチウム電池正極電極層5が設けられている。
【0025】
共通負極6は、複数の貫通孔10を有する負極集電箔7の両面に、負極活物質層が設けられたもので、一方の面にはリチウムイオンキャパシタ負極電極層8(以下キャパシタ負極電極層8と略す)が、もう一方の面にはリチウム電池負極電極層9が設けられている。キャパシタ正極電極層3とキャパシタ負極電極層8の間には第一のセパレータ11aが配置され、リチウムイオンキャパシタ部20を構成している。また、リチウム電池正極電極層5とリチウム電池負極電極層9の間には第二のセパレータ11bが配置され、リチウム電池部30を構成している。
【0026】
キャパシタ正極電極層3の材料としては、表面積が広く静電容量が大きいカーボン材料が用いられる。具体的には、例えば直径10μm程度の粒子状の活性炭が好適であり、水蒸気賦活活性炭、アルカリ活性炭、及びナノゲートカーボン等を用いることができる。キャパシタ正極電極層3の厚さは通常50μm〜150μmであるが、使用するカーボンの種類やセルの設計容量によって最適な厚さは異なる。
【0027】
キャパシタ正極電極層3は、バインダによって結着され、圧延法、塗布法及びモールド成形法等により、キャパシタ正極集電箔2aの一方の面の全域に形成される。従って、キャパシタ正極電極層3の外形形状は、端子部を除いてキャパシタ正極集電箔2aの形状と同じである。なお、バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、スチレンブタジエンラバー(SBR)系、アクリル系合成ゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が用いられる。
【0028】
一方、リチウム電池正極電極層5の材料としては、リチウム二次電池の正極電極層として一般的に用いられるリチウム金属化合物が用いられる。具体的には、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、及びこれらの複合体等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。中でも、オリビン型結晶構造を有するリン酸鉄リチウムを用いた場合、負極に炭素材料を使用したときの作動電圧範囲がリチウムイオンキャパシタの作動電圧範囲内にあり、リチウム電池部30の容量を効率的に使用できる。
【0029】
キャパシタ正極集電箔2a、電池正極集電箔2b、及び負極集電箔7等の集電箔の厚さは通常8μm〜50μmであり、その蓄電デバイスを充放電する際の充放電電流によって選定される。充放電電流が大きい場合には、内部抵抗を小さくするために厚い集電箔が用いられ、充放電電流が小さい場合には、エネルギー密度を向上させるために薄い集電箔が用いられる。
【0030】
共通負極6の負極集電箔7には、リチウムイオンを透過させるためにイオンが拡散する経路として、その一方の面から他方の面に貫通する複数の貫通孔10が形成されている。貫通孔10の断面形状は特に規定されるものではなく、円形、正方形、長方形、くさび型等が用いられる。孔径は10μm〜500μm程度が好ましい。貫通孔10内部には、樹脂を含む粒子が充填されている。これについては、後に図2を用いて詳細に説明する。
【0031】
キャパシタ正極集電箔2a、電池正極集電箔2b、及び負極集電箔7に接続される集電端子は、デバイス内で安定に存在する導電性の材質であれば特に限定はしないが、正極ではアルミニウム、負極ではニッケル、銅等の金属、及びニッケルメッキ銅のようなメッキ金属で形成されたものが用いられる。あるいは、集電箔の端部付近の電極層が塗布されていない部分を集電端子としてもよい。
【0032】
キャパシタ負極電極層8及びリチウム電池負極電極層9の材料としては、電気化学反応によってリチウムの脱挿入が可能な材料が用いられる。具体的には、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、スズまたはシリコン系の合金、チタン酸リチウム、あるいはリチウム電池の負極として用いられている負極材料等を用いることができる。なお、キャパシタ負極電極層8の静電容量はキャパシタ正極1の静電容量より十分大きいことが望ましい。これは、キャパシタ負極電極層8の容量が小さい場合、充放電時の負極の電位変化が大きく、サイクル特性が低下するためである。
【0033】
第一のセパレータ11a及び第二のセパレータ11bは、負極と正極とを隔離し、両極間の絶縁を確保しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ11a、11bの材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる微多孔膜、セルロース系の紙セパレータ、及びポリエステルからなる不織布等が用いられる。
【0034】
図1に示す蓄電デバイスセルは、図示しない容器に収納され、容器内には電解液が満たされる。容器は、デバイス内部からの電解液の漏出やデバイス外部からの水分の侵入を防ぐもので、ステンレス、アルミニウム等の金属からなる円筒型または角型の容器や、金属と樹脂により構成されるラミネートフィルムからなる袋状または箱型の容器等が用いられる。ラミネートフィルムによる容器は、熱融着(ヒートシール)によってシールすることができるものがよい。
【0035】
金属容器を用いる場合、十分な厚さがあれば単独で用いることもできるが、一般には軽量化のために、数μm〜数10μmの厚さの金属箔に樹脂がラミネートされたものを用いる。その際、容器の内面には熱融着性を付与するためのポリエチレンまたはポリプロピレンのフィルム、外面には強度向上のためのポリエチレンテレフタレートや延伸ナイロンフィルムを積層させることが好ましい。
【0036】
電解液は、特に限定するものではないが、リチウム二次電池に使用される電解質、例えばLiPF、LiClO、LiBF等を有機溶媒に溶解したものが用いられる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のエステル系溶媒、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、γ−ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)等の溶媒を、単独または複数組み合わせて用いることができる。なお、100℃以上の高温においてもイオン伝導性を有するように、有機溶媒はEC、PC、GBL等の高沸点溶媒を含むことが望ましい。さらに、電解液には、他の添加物が含まれていてもよい。
【0037】
次に、本実施の形態1に係る蓄電デバイスセルに用いられる負極集電箔7について、図2を用いて詳細に説明する。図2(a)は、加熱処理前の負極集電箔、図2(b)は、加熱処理後の負極集電箔を示している。図2(a)に示すように、負極集電箔7の貫通孔10内部には、樹脂を含む粒子12が充填されている。樹脂を含む粒子12は、バインダ13により互いに結着され、貫通孔10の内部に保持されている。粒子径は1μm〜数10μmであり、形状は特に限定されるものではないが、球形に近い方がよい。
【0038】
樹脂を含む粒子12としては、結晶性樹脂からなるものが好ましく、例えば、低密度ポリエチレン粒子、エチレンアクリル酸共重合体粒子、低融点ポリエステル粒子、及びこれらの複合粒子等が用いられる。これらの結晶性樹脂からなる粒子12は、蓄電デバイスセルを加熱処理することによって溶融し、貫通孔10内部でより密着する。低融点ポリエステル粒子は、比較的低い温度で溶融するため、加熱処理時の電解液の揮発や分解を抑制することができる。
【0039】
バインダ13は、樹脂を含む粒子12を互いに結着させ、貫通孔10の内部に保持するために用いられる。このため、加熱処理により溶融される前の状態において、樹脂を含む粒子12だけで貫通孔10内部に留まることが可能であれば、バインダ13は必ずしも必要ではない。バインダ13としては、蓄電デバイス用電極の結着剤として用いられているポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンラバー、ポリテトラフルオロエチレン等が用いられる。
【0040】
以下に、蓄電デバイス用負極の製造方法及びこの蓄電デバイス用負極を用いた蓄電デバイスの製造方法について、図1及び図2を用いて説明する。本実施の形態1に係る蓄電デバイス用負極である共通負極6は、負極集電箔7の両面にそれぞれ負極活物質層であるキャパシタ負極電極層8とリチウム電池負極電極層9が設けられているが、以下に示す蓄電デバイス用負極の製造方法は、負極集電箔7の一方の面に負極電極層が設けられた蓄電デバイス用負極に対しても同様に適用可能である。なお、具体的な材料や寸法については後述の実施例1〜実施例3に示し、ここでは省略する。
【0041】
まず、樹脂を含む粒子12、第一のバインダ13、及び第一の溶媒(図示せず)からなる樹脂溶液を混合し、粘度を調整する。複数の貫通孔10を有する負極集電箔7を離型フィルム上に固定し、上記樹脂溶液を負極集電箔7上に塗布し、ゴム製のヘラで樹脂溶液を掻き取りながら貫通孔10に充填する。その後、所定温度で乾燥する(負極集電箔作製工程)。
【0042】
負極集電箔作製工程の後、負極活物質層材料、第二のバインダ、及び第二の溶媒からなる電極ペーストを混合調製し、この電極ペーストを負極集電箔7の少なくとも一方の面に塗布して負極電極層を形成する(負極作製工程)。図1に示すセルの場合は、負極集電箔7の両面に負極電極層8、9を順次形成し、共通負極6を作製する。塗工後の負極電極層8、9は、気孔率が高く密度が低すぎるため、所定の温度で平滑ロール(カレンダーロール)プレスを行い、適正な気孔率に調整される(共通負極作製工程)。
【0043】
この時点では、図2(a)に示すように、貫通孔10内部に充填された粒子12は、バインダ13で結着されているが、貫通孔10は完全には閉塞されておらず、空隙14が存在する。この空隙14は、貫通孔10の径に比べて非常に小さく、リチウムイオンは通過させるが、電極ペーストのような高粘度の液体は通さない。従って、負極作製工程において負極集電箔7に電極ペーストを塗布する際に、電極ペーストが貫通孔10を通って反対側の面に流れたり、溶媒が貫通孔10から浸み込んだりすることを防止でき、均一な負極電極層8、9を形成することができる。
【0044】
次に、キャパシタ正極集電箔2aの一方の面にキャパシタ正極電極層3が設けられたキャパシタ正極1と、第一のセパレータ11aと、共通負極6と、第二のセパレータ11bと、電池正極集電箔2bの一方の面にリチウム金属化合物を含む電池正極電極層5が設けられたリチウム電池正極4をこの順に積層し、図1に示す蓄電素子を形成する。この蓄電素子を容器内に収納し、電解液を注入して容器を封口する(セル作製工程)。
【0045】
セル作製工程の後、リチウム電池正極4から共通負極6へ電気化学的操作(電気化学的接触もしくは電位操作)によりリチウムイオンをドープする(リチウムイオンドープ工程)。このリチウムイオンドープ工程の後、容器の外側から蓄電素子を加熱し、貫通孔10内部の樹脂を含む粒子12を溶融させ、貫通孔10を閉塞する(貫通孔閉塞工程)。
【0046】
加熱処理後の負極集電箔7は、図2(b)に示すように、樹脂を含む粒子12が加熱により軟化、溶融し、体積が膨張するとともにその形状が変形し、空隙に充填される。これにより、リチウムイオンの通路が閉塞される。
【0047】
蓄電素子の加熱方法としては、容器の外側を直接シート状のヒーターで挟んで加熱する方法(全体加熱)と、共通負極6に接続された負極端子部を抵抗加熱または誘導加熱することにより、負極集電箔7を選択的に加熱する方法(部分加熱)がある。加熱温度は、樹脂を含む粒子12の融点近傍の温度が適当であり、加熱により樹脂が軟化、溶融して貫通孔10内部の空隙14を閉塞する温度とする。また、加熱時間は、貫通孔10内部の樹脂を含む粒子12を溶融するために必要な時間とするが、電解液の揮発や分解を抑えるために短時間であることが好ましい。部分加熱では、全体加熱に比べて加熱時間を短く、セル全体としての加熱温度を低くすることが可能である。
【0048】
なお、本実施の形態1に係る蓄電デバイスセルは、図1に示す構造に限定されるものではなく、負極に対して正極が対向しており、この正負極間に電解液を含浸させたセパレータが存在している構造であればよい。図1では単一ユニットのセルを示しているが、平板状の電極を複数枚重ね合わせた積層型構造、帯状の電極を捲回した巻き型構造、または帯状の電極を折り畳みながら重ねた折り畳み型構造とすることにより、大容量のセルを作製することができる。また、負極に対向する正極の面積を若干小さく(約1%〜10%)することにより、正負極間のイオン伝導性を向上させることができる。
【0049】
本実施の形態1に係る蓄電デバイス用負極の製造方法によれば、負極集電箔7の貫通孔10内部に樹脂を含む粒子12を充填した後、負極集電箔7に電極ペーストを塗布するようにしたので、電極ペーストが貫通孔10を通って反対側の面に流れたり、電極ペーストの溶媒が貫通孔10に浸み込んだりすることを防止できる。従って、貫通孔10を有する負極集電箔7に対して、均一な負極電極層8、9を容易に形成することができる。
【0050】
また、本実施の形態1に係る蓄電デバイスの製造方法によれば、蓄電デバイスの共通負極6にリチウムイオンをドープした後、加熱処理により貫通孔10内部の樹脂を含む粒子12を溶融させ、貫通孔10を閉塞するようにした。これにより、充放電の際に貫通孔10を通じてリチウムイオンが出入りすることなく、貫通孔10周辺で電極反応分布が生じないため、充放電の繰り返しによる電極の劣化が抑制され、サイクル特性が大幅に向上する。
【0051】
これらのことから、本実施の形態1によれば、リチウムイオンキャパシタ部20とリチウム電池部30を含む蓄電デバイスにおいて、共通負極6の負極集電箔7の貫通孔10内部に樹脂を含む粒子12を充填することにより、リチウムイオンキャパシタの高い出力密度と、リチウム二次電池の高いエネルギー密度を実現できるとともに、急速な充放電を繰り返しても容量低下が少ない、サイクル特性に優れた蓄電デバイスを提供することが可能である。
【0052】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係る蓄電デバイスセルの構成を示している。なお、図3中、図1と同一、相当部分には同一符号を付している。本実施の形態2に係る蓄電デバイスセルは、図1に示す蓄電デバイスセルを複数積層したものである。このような積層構造の場合、両端以外の正極は、正極集電箔2の一方の面にキャパシタ正極電極層3、もう一方の面にリチウム電池正極電極層5が設けられた共通正極15となる。
【0053】
本実施の形態2に係る積層構造の蓄電デバイスセルの製造方法について説明する。なお、共通負極作製工程は、上記実施の形態1と同様であるのでここでは省略する。また、具体的な材料や寸法については後述の実施例4に示し、ここでは省略する。
【0054】
キャパシタ正極電極層材料、バインダ、及び溶媒からなる電極ペーストを混合調製し、この電極ペーストを正極集電箔2の一方の面に塗布してキャパシタ正極電極層3を形成する。続いて、リチウム電池正極電極層材料、バインダ、及び溶媒からなる電極ペーストを混合調製し、この電極ペーストを正極集電箔2のもう一方の面に塗布してリチウム電池正極電極層5を形成し、共通正極15を作製する(共通正極作製工程)。
【0055】
次に、図3に示すように、最下層となるリチウム電池正極電極層5の上に、共通負極6、共通正極15を交互に重ね合わせた後、その上にさらに共通負極6、キャパシタ正極1を互いの電極層が対向するように中心を揃えて積層する。なお、正負の電極層間には、セルロース系紙からなるセパレータ11を配置する。
【0056】
さらに、キャパシタ正極集電箔2a端部に設けられた集電タブと、電池正極集電箔2b端部に設けられた集電タブ、及び正極集電箔2の端部に設けられた集電タブを重ね、これらを接続して正極端子16とする。同様に、各々の負極集電箔7の端部に設けられた集電タブを重ね、これらを接続して負極端子17とする。このようにして得られた蓄電素子を容器内に収納し、電解液を注入して容器を封口する(セル作製工程)。
【0057】
セル作製工程の後、正極端子16を充放電装置のプラス端子に、負極端子17をマイナス端子に接続して充電を行い、負極へのリチウムイオンのドープを行う(リチウムイオンドープ工程)。このリチウムイオンドープ工程の後、容器の外側から蓄電素子を加熱し、貫通孔10内部の樹脂を含む粒子12を溶融させ、貫通孔10を閉塞する(貫通孔閉塞工程)。その後、容器を開封し、電解液量を調整した後、再度封口する。本実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様の効果に加え、蓄電デバイスセルを積層構造とすることにより、大容量のデバイスを実現することができる。
【実施例1】
【0058】
以下に、実施例1として、本発明に係る蓄電デバイスセルの製造方法について具体的な数値を挙げて説明する。実施例1で作製される蓄電デバイスセルの構造は、図1に示すものと同様である。なお、実施例1で作製された蓄電デバイスセルについて充放電サイクル試験を実施し、他の実施例及び比較例で作製された蓄電デバイスと性能の比較を行った結果を図4に示す。
【0059】
(負極集電箔作製工程)
負極集電箔の貫通孔に充填される樹脂を含む粒子としての平均粒子径6μmの低密度ポリエチレン、第一のバインダとしてのポリフッ化ビニリデン、及び第一の溶媒としてのn−メチルピロリドンからなる樹脂溶液を混合調整した。幅200mm、厚さ15μmの銅箔に孔径100μmの貫通孔が形成された開口率10%の集電箔を離型フィルム上に固定し、その上に上記樹脂溶液を所定量滴下し、ゴムヘラで表面の樹脂溶液を掻き落として70℃の乾燥機中で乾燥した。乾燥後、離型フィルムから集電箔を剥がし、表面に残った粒子及びバインダを除去して負極集電箔とした。
【0060】
(共通負極作製工程)
負極電極層の材料としての黒鉛、第二のバインダとしてのポリフッ化ビニリデン、及び第二の溶媒としてのn−メチルピロリドンからなる電極ペーストを混合調製した。上記負極集電箔を離型フィルム上に固定し、その上に上記電極ペーストをドクターブレード法により塗布後、70℃の乾燥機中で乾燥して負極電極層を形成した。本実施例1では、負極集電箔の貫通孔に粒子が充填されているため、電極ペーストが貫通孔を通って裏面に流れることはなかった。裏面も同様に電極ペーストを塗布し、乾燥して共通負極原反を得た。この共通負極原反をカレンダーロールプレスにて加圧して電極の気孔率を調整し、負極集電箔の両面に負極電極層が設けられた共通負極を得た。
【0061】
上記工程で得られた共通負極を一辺30mm×43mmの長方形に切り出し、長尺方向の端部7mmの負極電極層を剥がして集電タブとした。また、短辺側の電極層の一部を剥がして集電タブとした。その後、集電タブにNiメッキ銅箔を超音波溶接により接続し、負極集電端子とした。
【0062】
(キャパシタ正極作製工程)
キャパシタ正極電極層材料としての活性炭、バインダとしてのアクリル系ポリマー、及び溶媒としての水からなる電極ペーストを混合調製した。この電極ペーストを幅200mm、厚さ20μmのアルミニウム箔からなるキャパシタ正極集電箔の一方の面に塗布後、100℃の乾燥機中で乾燥し、キャパシタ正極電極層を形成した。この正極原反をカレンダーロールプレスにて加圧して電極の気孔率を調整し、キャパシタ正極を得た。このキャパシタ正極を29mm×42mmの長方形に切り出し、長尺方向の端部7mmのキャパシタ正極電極層を剥がして集電タブとした。
【0063】
(リチウム電池正極作製工程)
リチウム電池正極電極層材料としてのリン酸鉄リチウム、導電材としてのアセチレンブラック、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン、及びNMP溶媒からなる電極ペーストを混合調整した。この電極ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる電池正極集電箔の一方の面に塗布後、乾燥し、リチウム電池正極電極層を形成した。この正極原反をカレンダーロールプレスにて加圧して電極の気孔率を調整し、リチウム電池正極を得た。このリチウム電池正極を29mm×42mmの長方形に切り出し、長尺方向の端部7mmのリチウム電池正極電極層を剥がして集電タブとした。
【0064】
(セル作製工程)
キャパシタ正極、第一のセパレータ、共通負極、第二のセパレータ、リチウム電池正極をこの順に、互いの電極層が対向するように中心を揃えて積層し、蓄電素子を形成した。第一及び第二のセパレータとして、厚さ40μmのセルロース系紙セパレータを用いた。さらに、キャパシタ正極集電タブとリチウム電池正極集電タブを重ね、これらにアルミニウム箔を超音波溶接により接続して正極集電端子とした。この蓄電素子を容器としてのアルミラミネートフィルム外装に収納し、電解液として1.2mol/リットルのLiPF6を含むエチレンカーボネート−ジエチルカーボネートの混合溶媒を注入して容器を封口し、セルを作製した。
【0065】
(リチウムイオンドープ工程及び貫通孔閉塞工程)
その後、正極集電端子を充放電装置のプラス端子に、負極集電端子を充放電装置のマイナス端子に接続して2mAで2時間充電を行い、リチウム電池正極から共通負極へ電気化学的操作によりリチウムイオンをドープした。リチウムイオンドープ工程の後、セルをシート状のヒーターで挟み、100℃で2分間加熱した。その後、容器を開封し、電解液量を調整した後、再度封口して試験用セルとした。
【0066】
(充放電サイクル試験結果)
上記工程によって作製された試験用セルについて、60mAで4VまでCC充電、60mAで2VまでCC放電の条件でサイクル試験を行った。この試験において5000サイクル後の容量維持率は81%であり、良好な結果が得られた。
【実施例2】
【0067】
以下に、実施例2として、本発明に係る蓄電デバイスセルの製造方法について具体的な数値を挙げて説明する。実施例2で作製される蓄電デバイスセルの構造は、図1に示すものと同様である。なお、実施例2で作製された蓄電デバイスセルについて充放電サイクル試験を実施し、他の実施例及び比較例で作製された蓄電デバイスと性能の比較を行った結果を図4に示す。
【0068】
(負極集電箔作製工程)
負極集電箔の貫通孔に充填される樹脂を含む粒子としての平均粒子径2μmの低融点結晶性ポリエステル粒子、第一のバインダとしてのスチレンブタジエンラバー、粘度調整剤としてのカルボキシメチルセルロース及び水からなる樹脂溶液を混合調整した。幅200mm、厚さ15μmの銅箔に孔径100μmの貫通孔が形成された開口率10%の負極集電箔を離型フィルム上に固定し、その上に上記樹脂溶液を所定量滴下し、ゴムヘラで表面の溶液を掻き落として60℃の乾燥機中で乾燥した。乾燥後、離型フィルムから集電箔を剥がし、表面に残った粒子及びバインダを除去して負極集電箔とした。
【0069】
以降の共通負極作製工程からリチウムイオンドープ工程までは上記実施例1と同様であるので説明を省略する。本実施例2では、貫通孔閉塞工程において、セルをシート状のヒーターで挟み、80℃で2分間加熱した。その後容器を開封し、電解液量を調整した後、再度封口して試験用セルとした。
【0070】
(充放電サイクル試験結果)
上記工程によって作製された試験用セルについて、60mAで4VまでCC充電、60mAで2VまでCC放電の条件でサイクル試験を行った。この試験において5000サイクル後の容量維持率は86%であり、良好な結果が得られた。本実施例2では、貫通孔に充填する粒子として低融点のポリエステル粒子を用いているため、上記実施例1よりもドープ後の加熱温度を低くすることができ、電解液の揮発や分解が抑制された結果、上記実施例1よりも高い容量維持率が得られたと考えられる。
【実施例3】
【0071】
以下に、実施例3として、本発明に係る蓄電デバイスセルの製造方法について具体的な数値を挙げて説明する。実施例3で作製される蓄電デバイスセルの構造は、図1に示すものと同様である。なお、実施例3で作製された蓄電デバイスセルについて充放電サイクル試験を実施し、他の実施例及び比較例で作製された蓄電デバイスと性能の比較を行った結果を図4に示す。
【0072】
負極集電箔作製工程については、上記実施例2と同様である。また、以降の共通負極作製工程からリチウムイオンドープ工程までは上記実施例1と同様であるので説明を省略する。本実施例3では、貫通孔閉塞工程において、セルをシート状のヒーターで挟み、80℃で1分間加熱すると同時に、負極集電端子をヒーターにより180℃で1分間加熱した。その後容器を開封し、電解液量を調整した後、再度封口して試験用セルとした。
【0073】
(充放電サイクル試験結果)
上記工程によって作製された試験用セルについて、60mAで4VまでCC充電、60mAで2VまでCC放電の条件でサイクル試験を行った。この試験において5000サイクル後の容量維持率は87%であり、良好な結果が得られた。本実施例3では、上記実施例2と同様に低融点のポリエステル粒子を用い、さらに、負極端子部を加熱することにより選択的に負極集電箔を加熱しているので、セル全体の加熱温度を低く、且つ加熱時間を短くすることができ、電解液の揮発や分解がさらに抑制された結果、上記実施例1及び実施例2よりも高い容量維持率が得られたと考えられる。
【実施例4】
【0074】
以下に、実施例4として、本発明に係る蓄電デバイスセルの製造方法について具体的な数値を挙げて説明する。実施例4で作製される蓄電デバイスセルの構造は、図3に示すものと同様である。なお、負極集電箔作製工程、共通負極作製工程については、上記実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0075】
(共通正極作製工程)
キャパシタ正極電極層材料としての活性炭、バインダとしてのアクリル系ポリマー、溶媒としての水からなる電極ペーストを混合調製した。この電極ペーストを、正極集電箔である幅300mm、厚さ20μmのアルミニウム箔の一方の面に塗布し、キャパシタ正極電極層を形成した。さらに、正極集電箔のもう一方の面にリチウム電池正極電極層材料としてのリン酸鉄リチウム、導電材としてのアセチレンブラック、PVDFをNMPに分散させた電極ペーストを塗布後、100℃で乾燥させ、ロールプレスして気孔率を調整した。これを29mm×42mmの長方形に切り出し、長尺方向の端部7mmの電極層を剥がして集電タブとした。
【0076】
(セル作製工程)
最下層となるリチウム電池正極電極層の上に、共通負極、共通正極の順に交互に9枚ずつ重ね合わせた後、その上にさらに共通負極、キャパシタ正極を互いの電極層が対向するように中心を揃えて積層した。正負の電極層間には、それぞれ厚さ40μmのセルロース系紙からなるセパレータを配置した。
【0077】
さらに、キャパシタ正極集電箔端部に設けられた集電タブと、電池正極集電箔端部に設けられた集電タブ、及び正極集電箔の端部に設けられた集電タブを重ね、これらにアルミニウム箔を超音波溶接により接続して正極端子とした。同様に、各々の負極集電箔の端部に設けられた集電タブを重ね、これらにNiメッキ銅箔を超音波溶接により接続して負極端子とした。このようにして得られた蓄電素子を、容器としてのアルミラミネートフィルムの外装に収納し、電解液として例えば1.2mol/リットルのLiPF6を含むエチレンカーボネート−ジエチルカーボネートの混合溶媒を注入した後、アルミラミネートフィルムの外装を封口し、セルを作製した。
【0078】
(リチウムイオンドープ工程及び貫通孔閉塞工程)
その後、正極端子を充放電装置のプラス端子に、負極端子を充放電装置のマイナス端子に接続して20mAで2時間充電を行い、負極へのリチウムイオンのドープを行った。リチウムイオンのドープ後、セル全体をシート状のヒーターで挟み、90℃で3分間加熱すると共に、負極端子をヒーターにより180℃で3分間加熱した。その後、容器を開封し、電解液量を調整した後、再度封口して試験用セルとした。
【0079】
(充放電サイクル試験結果)
上記工程によって作製された試験用セルについて、500mAで4VまでCC充電、500mAで2VまでCC放電の条件でサイクル試験を行った。この試験において5000サイクル後の容量維持率は85%であり、良好な結果が得られた。
【0080】
〔比較例1〕
以下に、比較例1に係る蓄電デバイスセルの製造方法について説明する。この比較例1で作製される蓄電デバイスセルの主な構造は、図1に示すものと同様である。なお、比較例1で作製された蓄電デバイスセルについて充放電サイクル試験を実施し、他の実施例及び比較例で作製された蓄電デバイスと性能の比較を行った結果を図4に示す。
【0081】
(共通負極作製工程)
負極集電箔の貫通孔に樹脂を含む粒子を充填せずに使用した。負極電極層の形成は、上記実施例1と同様に、負極電極層材料としての黒鉛、第二のバインダとしてのポリフッ化ビニリデン、第二の溶媒としてのn−メチルピロリドンからなる電極ペーストを、離型フィルム上に固定した集電箔上にドクターブレード法により塗布した。
【0082】
しかし、電極ペーストが貫通孔を通って集電箔裏面に流れてしまい、表面に所定の目付量が塗布できなかった。また、乾燥後の電極表面は凹凸が多く、平滑な電極を形成することができなかった。70℃で乾燥後、裏面に流れ出た負極電極層を剥ぎ取り、裏面に所定量のペーストを塗布し乾燥した後、再度、表面に不足分の電極ペーストを塗布し、所定の目付とした。以降のリチウムイオンドープ工程までは上記実施例1と同様に行ったが、貫通孔閉塞工程は行わなかった。
【0083】
(充放電サイクル試験結果)
上記工程によって作製された試験用セルについて、60mAで4VまでCC充電、60mAで2VまでCC放電の条件でサイクル試験を行った。この試験において5000サイクル後の容量維持率は51%であり、上記実施例1〜実施例3に比べて大幅に低かった。本比較例1では、負極集電箔の貫通孔に樹脂を含む粒子を充填しなかったため、貫通孔内部には電極ペーストが充填されており、貫通孔を通じてリチウムイオンが出入りする。このため、充放電時に貫通孔内部をリチウムイオンが移動し、負極内における電極反応分布が生じ、電極劣化が促進されたと考えられる。
【0084】
〔比較例2〕
以下に、比較例2に係る蓄電デバイスセルの製造方法について説明する。この比較例2で作製される蓄電デバイスセルの主な構造は、図1に示すものと同様である。なお、比較例2で作製された蓄電デバイスセルについて充放電サイクル試験を実施し、他の実施例及び比較例で作製された蓄電デバイスと性能の比較を行った結果を図4に示す。
【0085】
(負極集電箔作製工程)
負極集電箔の貫通孔に充填される樹脂を含む粒子として、低密度ポリエチレンの代わりに平均粒子径6μmのアルミナ粒子を用いた。以降の共通負極作製工程から貫通孔閉塞工程までは上記実施例1と同様に行った。
【0086】
(充放電サイクル試験結果)
上記工程によって作製された試験用セルについて、60mAで4VまでCC充電、60mAで2VまでCC放電の条件でサイクル試験を行った。この試験において5000サイクル後の容量維持率は63%であり、上記実施例1〜実施例3に比べて低かった。本比較例2では、負極集電箔の貫通孔に無機物粒子であるアルミナ粒子を充填したので、リチウムイオンドープ工程後の加熱処理によって粒子が溶融せず、貫通孔は完全には閉塞されていない。このため、充放電時に貫通孔内部をリチウムイオンが移動し、負極内における電極反応分布が生じ、電極劣化が促進されたと考えられる。
【0087】
〔比較例3〕
以下に、比較例3に係る蓄電デバイスセルの製造方法について説明する。この比較例3で作製される蓄電デバイスセルの主な構造は、図1に示すものと同様である。
【0088】
(負極集電箔作製工程)
負極集電箔の貫通孔に充填される樹脂を含む粒子としての平均粒子径6μmの低密度ポリエチレン、第一の溶媒としてのn−メチルピロリドンからなる樹脂溶液を混合調整し、第一のバインダは混合しなかった。幅200mm、厚さ15μmの銅箔に孔径100μmの貫通孔が形成された開口率10%の集電箔を離型フィルム上に固定し、その上に上記樹脂溶液を所定量滴下し、ゴムヘラで表面の溶液を掻き落とし、70℃の乾燥機中で乾燥した。しかし、乾燥後、離型フィルムから集電箔を剥がす際に粒子が貫通孔から落ちてしまい、貫通孔に粒子を充填することができなかった。
【0089】
以降の共通負極作製工程から貫通孔閉塞工程までは上記実施例1と同様に行った。本比較例3において作成されたセルについて、上記比較例2と同様の充放電サイクル試験を行った結果、上記実施例1〜実施例3に比べて容量維持率が低かった。
【0090】
〔比較例4〕
以下に、比較例4に係る蓄電デバイスセルの製造方法について説明する。この比較例4で作製される蓄電デバイスセルの主な構造は、図1に示すものと同様である。
【0091】
本比較例4では、リチウムイオンドープ工程までは上記実施例1と同様に作製したが、リチウムイオンドープ工程の後、貫通孔閉塞工程を行わなかった。すなわち、セルを加熱処理していないため、貫通孔内部の樹脂を含む粒子は溶融されておらず、貫通孔は閉塞されていない。本比較例4において作成されたセルについて、上記比較例2と同様の充放電サイクル試験を行った結果、上記実施例1〜実施例3に比べて容量維持率が低かった。
【0092】
上記比較例3及び本比較例4では、負極集電箔の貫通孔に樹脂を含む粒子が充填されていない、あるいは貫通孔内部の樹脂を含む粒子が溶融されていないため、いずれも貫通孔は閉塞されていない。このため、充放電時に貫通孔内部をリチウムイオンが移動し、負極内における電極反応分布が生じ、電極劣化が促進されたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型蓄電装置及び電動工具、さらには電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる蓄電デバイスとして利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 リチウムイオンキャパシタ正極、2 正極集電箔、2a キャパシタ正極集電箔、2b 電池正極集電箔、3 リチウムイオンキャパシタ正極電極層、
4 リチウム電池正極、5 リチウム電池正極電極層、6 共通負極、7 負極集電箔、8 リチウムイオンキャパシタ負極電極層、9 リチウム電池負極電極層、
10 貫通孔、11 セパレータ、11a 第一のセパレータ、
11b 第二のセパレータ、12 樹脂を含む粒子、13 バインダ、14 空隙、
15 共通正極、16 正極端子、17 負極端子、
20 リチウムイオンキャパシタ部、30 リチウム電池部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電箔と、前記負極集電箔の少なくとも一方の面に設けられた負極活物質層を備え、前記負極集電箔は、その一方の面から他方の面に貫通する複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の内部に樹脂を含む粒子が充填されていることを特徴とする蓄電デバイス用負極。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイス用負極であって、前記粒子は、バインダにより互いに結着されていることを特徴とする蓄電デバイス用負極。
【請求項3】
請求項1に記載の蓄電デバイス用負極であって、前記粒子は、結晶性樹脂からなることを特徴とする蓄電デバイス用負極。
【請求項4】
請求項3に記載の蓄電デバイス用負極であって、前記粒子として、低密度ポリエチレン粒子、エチレンアクリル酸共重合体粒子、低融点ポリエステル粒子、及びこれらの複合粒子のいずれかを用いたことを特徴とする蓄電デバイス用負極。
【請求項5】
複数の貫通孔を有する負極集電箔と、前記負極集電箔の少なくとも一方の面に設けられた負極活物質層を備えた蓄電デバイス用負極の製造方法であって、
樹脂を含む粒子、第一のバインダ、及び第一の溶媒からなる樹脂溶液を混合調製し、この樹脂溶液を前記負極集電箔の前記貫通孔に充填する負極集電箔作製工程、
前記負極集電箔作製工程の後、前記負極活物質層材料、第二のバインダ、及び第二の溶媒からなる電極ペーストを混合調製し、この電極ペーストを前記負極集電箔の少なくとも一方の面に塗布して前記負極活物質層を形成する負極作製工程を含むことを特徴とする蓄電デバイス用負極の製造方法。
【請求項6】
キャパシタ正極集電箔の一方の面にキャパシタ正極電極層が設けられたリチウムイオンキャパシタ正極と、
負極集電箔の両面に負極電極層が設けられた共通負極と、
電池正極集電箔の一方の面にリチウム金属化合物を含む電池正極電極層が設けられたリチウム電池正極と、
前記キャパシタ正極電極層と前記共通負極の一方の前記負極電極層との間に配置された第一のセパレータと、
前記電池正極電極層と前記共通負極の他方の前記負極電極層との間に配置された第二のセパレータを備え、
前記負極集電箔は、その一方の面から他方の面に貫通する複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の内部に樹脂を含む粒子が充填されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の蓄電デバイスであって、前記粒子は、バインダにより互いに結着されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項8】
請求項6に記載の蓄電デバイスであって、前記粒子は、結晶性樹脂からなることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項9】
請求項8に記載の蓄電デバイスであって、前記粒子として、低密度ポリエチレン粒子、エチレンアクリル酸共重合体粒子、低融点ポリエステル粒子、及びこれらの複合粒子のいずれかを用いたことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項10】
複数の貫通孔を有する負極集電箔を用意し、樹脂を含む粒子、第一のバインダ、及び第一の溶媒からなる樹脂溶液を前記貫通孔の内部に充填した後、前記負極集電箔の両面に負極電極層を順次形成し、共通負極を作製する共通負極作製工程、
キャパシタ正極集電箔の一方の面にキャパシタ正極電極層が設けられたリチウムイオンキャパシタ正極と、第一のセパレータと、前記共通負極と、第二のセパレータと、電池正極集電箔の一方の面にリチウム金属化合物を含む電池正極電極層が設けられたリチウム電池正極をこの順に積層した蓄電素子を容器内に収納し、電解液を注入して前記容器を封口するセル作製工程、
前記セル作製工程の後、前記リチウム電池正極から前記共通負極へ電気化学的操作によりリチウムイオンをドープするリチウムイオンドープ工程、
前記リチウムイオンドープ工程の後、前記容器の外側から前記蓄電素子を加熱し、前記貫通孔内部の前記樹脂を含む粒子を溶融させる貫通孔閉塞工程を含むことを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、前記貫通孔閉塞工程において、前記共通負極に接続された負極端子部を加熱することにより、前記負極集電箔を選択的に加熱することを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−59396(P2012−59396A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198828(P2010−198828)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】