説明

蓄電素子用電極の製造方法、蓄電素子用電極および蓄電素子

【課題】ポリテトラフルオロエチレンの含有量を低く抑えても電極コンポジット層が集電体から脱落しにくい蓄電素子用電極を製造できる蓄電素子用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)少なくともポリテトラフルオロエチレン水性分散液、電極活物質および導電助剤を混合し、25℃の粘度が100〜1100mPa・sの分散液(A)を調製する工程、(b)25℃の粘度が1200〜20000mPa・sに増粘するように、前記分散液(A)を撹拌して増粘液(B)を得る工程、(c)集電体の表面に増粘液(B)を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程、(d)積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程を有する蓄電素子用電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子用電極の製造方法、蓄電素子用電極および蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電素子用電極は、電極活物質、導電助剤およびバインダを分散媒に分散させた電極コンポジット層形成用分散液を、集電体に塗布、乾燥して電極コンポジット層を形成して、集電体と電極コンポジット層との積層体を得た後、積層体を圧延することによって得られる。
バインダとしては、フィブリル(繊維)が相互に絡み合ったネットワーク(網目状形状)によって、電極コンポジット層を結着して脱落を防止できる点から、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す。)を用いるのが好ましい。
【0003】
しかし、PTFEは、撹拌等のシェアストレスによってもフィブリル化しやすいため、電極コンポジット層形成用分散液の調製の際には注意を要する。すなわち、電極活物質、導電助剤およびPTFE水性分散液を混合した後、各成分を均一に分散させるために撹拌すると、PTFEが液中でフィブリル化し、絡み合ってしまう(特許文献1の段落[0018]参照)。そのため、各成分が均一に分散する前に液が増粘してしまい、各成分が均一に分散した電極コンポジット層形成用分散液を調製できなくなってしまう。その結果、均質な電極コンポジット層を形成できなくなる。
【0004】
そこで、電極コンポジット層形成用分散液の調製の際には、分散安定剤の水溶液に電極活物質および導電助剤を加え、充分に撹拌することによって、電極活物質および導電助剤が均一に分散した分散液を得た後、該分散液にPTFE水性分散液を逐次加えて混合することによって、該分散液を増粘させないようにして電極コンポジット層形成用分散液を調製している。
【0005】
しかし、該方法で調製された電極コンポジット層形成用分散液を用いて電極コンポジット層を形成した場合、PTFEの含有量が電極コンポジットに対して約2質量%未満の場合、電極コンポジット層が集電体から脱落しやすいという問題が生じる。そのため、PTFEの含有量を電極コンポジットに対して約3質量%以上にする必要がある(特許文献1の段落[0018]参照)。しかし、PTFEの含有量を増やしても、電極コンポジット層が集電体から脱落する場合がある。そして、PTFEの含有量を増やしすぎると、電極コンポジット中の電極活物質の含有量が減るため、最終的に得られる蓄電素子の放電容量を損ね、余分なPTFEは出力を低下させてしまう。また、PTFEの含有量が多すぎるため、電極コンポジット層形成用分散液がゲル化しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−106897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PTFEの含有量を低く抑えても、電極コンポジット層を良好に結着して電極コンポジット層が集電体から脱落しにくい蓄電素子用電極を製造できる蓄電素子用電極の製造方法;PTFEの含有量を低く抑えても、電極コンポジット層を良好に結着して電極コンポジット層が集電体から脱落しにくい蓄電素子用電極;および、信頼性が高く、放電容量や出力が大きい蓄電素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蓄電素子用電極の製造方法は、下記の工程(a)〜(d)を有することを特徴とする。
(a)ポリテトラフルオロエチレンの含有量が電極コンポジット(100質量%)に対して0.2〜7.0質量%となるように、少なくともポリテトラフルオロエチレン水性分散液、電極活物質および導電助剤を混合し、25℃の粘度が100〜1100mPa・sの分散液(A)を調製する工程。
(b)25℃の粘度が1200〜20000mPa・sに増粘するように、前記分散液(A)を撹拌して増粘液(B)を得る工程。
(c)集電体の表面に前記増粘液(B)を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程。
(d)前記積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程。
【0009】
前記導電助剤は、親水性カーボンブラックであることが好ましい。
本発明の蓄電素子用電極は、本発明の製造方法で得られたものであることを特徴とする。
本発明の蓄電素子は、本発明の蓄電素子用電極を備えてなるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄電素子用電極の製造方法によれば、PTFEの含有量を低く抑えても、電極コンポジット層が集電体から脱落しない蓄電素子用電極を製造できる。
本発明の蓄電素子用電極は、PTFEの含有量を低く抑えても、電極コンポジット層が集電体から脱落しにくい。
本発明の蓄電素子は、信頼性が高く、放電容量や出力が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】例11のコンポジット電極における電極コンポジット層の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】例18のコンポジット電極における電極コンポジット層の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】例25および例26のコンポジット電極を用いたリチウム二次電池のモデルセルの高負荷特性を比較して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、電極コンポジット層は、集電体の表面に層状に形成された電極コンポジットからなる層を指し、電極コンポジットは、電極コンポジット層を構成している材料の複合体を指す。本発明における電極コンポジットとは、電極活物質、導電助剤、バインダ、その他の固形添加剤などの複合体である。
【0013】
<蓄電素子用電極の製造方法>
本発明の蓄電素子用電極の製造方法は、下記の工程(a)〜(d)を有する方法である。
(a)少なくともポリテトラフルオロエチレン水性分散液、電極活物質および導電助剤を混合し、25℃の粘度が100〜1100mPa・sの分散液(A)を調製する工程。
(b)25℃の粘度が1200〜20000mPa・sに増粘するように、分散液(A)を撹拌して増粘液(B)を得る工程。
(c)集電体の表面に増粘液(B)を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程。
(d)積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程。
【0014】
〔工程(a)〕
工程(a)は、PTFE水性分散液、電極活物質および導電助剤、必要に応じて水性分散媒、分散安定剤、他のバインダ、他の添加剤等を混合し、25℃の粘度が100〜1100mPa・sの分散液(A)を調製する工程である。
【0015】
(粘度)
分散液(A)の25℃の粘度は、100〜1100mPa・sであり、150〜1000mPa・sが好ましく、200〜900mPa・sがより好ましい。分散液(A)の25℃の粘度が100mPa・s未満では、後述の工程(b)において極めて長時間の撹拌を加えても増粘液(B)の粘度を1200mPa・s以上に高めることが難しい。分散液(A)の25℃の粘度が1100mPa・sを超えると、分散液(A)中に各成分が均一に分散する前に分散液(A)が増粘してしまうため、各成分が均一に分散した増粘液(B)を得にくくなり、その結果、均質な電極コンポジット層を形成できなくなる。
分散液(A)の25℃の粘度は、B型粘度計を用いて測定される粘度である。
【0016】
分散液(A)の調製の際には、分散液(A)の25℃の粘度が1100mPa・sを超えない範囲内において、穏やかな条件で各成分を混合した液を撹拌しても構わない。
【0017】
(PTFE水性分散液)
PTFE水性分散液は、水性分散媒中にPTFEの粒子が分散したものであり、通常は界面活性剤を含む。
PTFE水性分散液は、乳化重合法によって得られたPTFEを含む乳濁液に、公知の処理を施すことによって得られる。
水性分散媒としては、水(蒸留水、イオン交換水等)が好ましく、水溶性の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0018】
PTFEの分子量は、50万〜5000万が好ましい。
PTFE粒子の平均粒子径は、0.01〜10μmが好ましく、0.05〜2μmがより好ましく、0.1〜1μmがさらに好ましい。PTFE粒子の平均粒子径が該範囲内であれば、PTFE水性分散液の安定性が良好となり、また、工程(c)においてフィブリル化しやすい。
PTFE粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法で測定される平均粒子径である。
【0019】
(電極活物質)
電極活物質は、特に限定はされず、公知の正極活物質、負極活物質から自由に選択して用いることができる。
【0020】
正極活物質としては、金属酸化物類、金属硫化物類、導電性有機化合物類等が挙げられ、安定した電池特性を長期にわたって発現できる点から、金属酸化物類(リチウム複合金属酸化物、リチウム金属フォスフォオリビン類等)が特に好ましい。
金属酸化物類は、Liと他の1種の金属との複合酸化物であってもよく、Liと他の複数の金属との複合酸化物であってもよい。リチウムニッケル複合酸化物の場合、LiNiO等をそのままリチウムイオン電池の正極に用いることはほとんどなく、LiやNiの一部を、Co、Mn、Al、B、Cr、Cu、F、Fe、Ga、Mg、Mo、Nb、O、Sn、Ti、V、Zn、Zr等の中から選ばれる1種または複数の元素で置き換えたものが用いられる。
正極活物質としては、電子伝導性を高める目的から、電極活物質の表面や電極活物質の内部に導電性炭素質材料を複合化させた材料を用いてもよい。
【0021】
負極活物質としては、黒鉛系炭素材料、非黒鉛系炭素材料、金属系材料等が挙げられる。
炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ炭化物、石油系ピッチ炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂の炭化物、セルロースの炭化物、これら炭化物の部分黒鉛化物、ファーネスブラック、アセチレンブラック、炭素繊維等が挙げられる。
金属系材料としては、スズ系、シリコン系、チタン系、金属窒化物、リチウム、リチウム合金、リチウムチタン複合酸化物、その他の酸化物系等が挙げられる。
【0022】
電極活物質の平均粒子径は、10nm〜500μmが好ましい。該範囲には、従来の蓄電素子に用いられた電極活物質の平均粒子径の範囲よりもより小さい範囲も含まれる。本発明においては、平均粒子径の小さい電極活物質であっても、電極コンポジット層を形成でき、かつ蓄電素子の製造工程や使用の際に、電極コンポジット層からの電極活物質の脱落もほとんどない。
電極活物質の平均粒子径は、レーザー回折散乱法で測定されるD50(すなわち全粒子の粒子径の累積%の中央値)である。
【0023】
(導電助剤)
導電助剤としては、グラファイト類(天然黒鉛、人造黒鉛等)、カーボンブラック類(サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック等)、ケッチェンブラック、ニードルコークス、カーボンファイバ、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、グラフェン等が挙げられる。
【0024】
導電助剤としては、水性分散媒への分散性が良好である点から、親水性カーボンブラックが好ましい。
親水性カーボンブラックとしては、ホウ素化アセチレンブラック、表面が酸化処理されたカーボンブラック等が挙げられ、長期に渡って優れた電子伝導性を有する点から、ホウ素化アセチレンブラックが好ましい。
導電助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、通常のカーボンブラックと親水性カーボンブラックとを併用しても、親水性カーボンブラックによる効果が発揮される。
【0025】
導電助剤の平均粒子径は、3〜1000nmが好ましく、5〜200nmがより好ましい。繊維状カーボン材料の場合、導電助剤の繊維長は、取扱容易である点から、100μm以下が好ましいとされるが、カーボンナノチューブ等の柔軟な繊維状材料の場合は、繊維長に制限はない。
【0026】
(水性分散媒)
水性分散媒としては、水(蒸留水、イオン交換水等)のみであってもよく、水溶性の有機溶媒を含んでいてもよい。水溶性の有機溶媒を含む水性分散媒を用いると、乾燥過程で電極コンポジット層の歪が抑えられ、より均質で集電体との密着性の良好な電極コンポジット層を形成できる。
【0027】
水溶性の有機溶媒は、水より沸点が高いことが好ましい。水溶性の有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチレンスルホン、N−メチルピロリドン、エチレングリコール類、プロピレングリコール類、グリセリン等が挙げられる。
水溶性の有機溶媒の割合は、取り扱いが容易である点から、水性分散媒(100質量%)のうち、0〜50質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましい。
【0028】
(分散安定剤)
分散安定剤は、水性分散媒に電極活物質、導電助剤、PTFE粒子等を微細にかつ均一に分散させるものである。
【0029】
分散安定剤としては、水溶性の有機溶媒(ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等)、水溶性高分子(カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等)、界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ペルフルオロヘキサン酸アンモニウム等)等が挙げられる。
分散安定剤としては、電極活物質や導電助剤の分散性向上に有効であり、かつ分散液(A)の安定性にも寄与する点から、水溶性高分子または界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、高分子界面活性剤も好ましい。
【0030】
水溶性高分子としては、ポリアクリル酸類、メチルセルロース類、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと記す。)類、クラウンエーテル類、デキストリン類、水溶性食物繊維類等が挙げられる。
また、高分子界面活性剤としては、1分子中に親水性連鎖と含フッ素オレフィンを有する含フッ素高分子界面活性剤等が挙げられる。
なお、分散安定剤として例示した中に、バインダとしても機能すると見られる材料もあるが、本発明においてそれらを分散安定剤として取り扱う。
【0031】
(他のバインダ)
本発明においては、PTFEとともに、他のバインダを用いてもよい。
他のバインダとしては、セルロース、ポリオレフィン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、含フッ素ポリマー、繊維状炭素質材料等が挙げられる。
他のバインダとしては、蓄電素子に用いた際の耐酸化還元性が良好である点から、含フッ素ポリマーが好ましい。
【0032】
他のバインダは、粉体または分散液が好ましく、均質な電極コンポジット層の形成が容易である点から、分散液がより好ましい。分散媒としては、水性分散媒が好ましい。
他のバインダは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(含有量)
分散液(A)における固形分濃度は、電極コンポジット層の形成が容易である点から、分散液(A)(100質量%)中、10〜90質量%が好ましく、15〜80質量%がより好ましい。
固形分とは、分散液(A)に含まれる成分のうち、電極コンポジットを構成する電極活物質、導電助剤、バインダ、その他の固形添加剤等である。
【0034】
PTFEの含有量は、電極コンポジット(100質量%)に対して、0.2〜7.0質量%が好ましい。PTFEの含有量が0.2質量%以上であれば、電極コンポジットを強力に結着して電極コンポジット層が脱落しにくくなる。PTFEの含有量が7.0質量%以下であれば、最終的に得られる蓄電素子は良好な電池特性を発現できる。PTFEの含有量は、増粘液(B)の調製と粘度制御が容易である点から、0.3〜5.0質量%がより好ましく、高い放電容量と良好な出力特性を長期に渡って安定して発現できる点から、0.5〜3.0質量%がさらに好ましい。
【0035】
電極活物質の含有量は、電極コンポジット(100質量%)に対して、80〜99.8質量%が好ましく、85〜97.5質量%がより好ましい。電極活物質の含有量が80質量%以上であれば、最終的に得られる蓄電素子の放電容量は充分に大きい。電極活物質の含有量が99.8質量%以下であれば、結着良好な電極コンポジット層を有する蓄電素子用電極が製造可能となる。
【0036】
導電助剤の含有量は、電極コンポジット(100質量%)に対して、0質量%超15質量%以下が好ましく、0質量%超12質量%以下がより好ましい。導電助剤の含有量が該範囲内であれば、最終的に得られる蓄電素子は高い放電容量と大きな出力特性を発現できる。
【0037】
分散液(A)中の分散安定剤の含有量は、分散液(A)(100質量%)中、0〜2質量%であるのが一般的であり、本発明においても該範囲が好適に用いられる。
電極コンポジット中の他のバインダの含有量は、全バインダ量(100質量%)に対して、0〜50質量%が好ましく、0〜30質量%がより好ましい。
【0038】
〔工程(b)〕
工程(b)は、25℃の粘度が1200〜20000mPa・sに増粘するように、工程(a)で得られた分散液(A)を撹拌して増粘液(B)を得る工程である。
【0039】
(粘度)
増粘液(B)の25℃の粘度は、1200〜20000mPa・sであり、1500〜15000mPa・sが好ましく、1800〜10000mPa・sがより好ましい。増粘液(B)の25℃の粘度が1200mPa・s以上であれば、増粘液(B)中の複数のPTFE粒子が相互に集合した凝集構造を形成し、工程(d)においてPTFEのフィブリル化が高度に発達しやすくなるため、より緻密な網目構造を形成でき、電極活物質をより強く結着して保持できる。その結果、電極コンポジット層が集電体から脱落しにくくなる。
一方、増粘液(B)の25℃の粘度が1200mPa・s未満では、増粘液(B)を集電体の表面に厚塗りできず、必要とする厚さの電極コンポジット層を1回の塗工で形成できない。増粘液(B)の25℃の粘度が20000mPa・sを超えると、増粘液(B)がゲル化して、増粘液(B)を集電体の表面に均一に塗布できない。
【0040】
増粘液(B)の25℃の粘度は、分散液(A)の2倍以上が好ましく、2〜100倍がより好ましく、2〜50倍がさらに好ましい。粘度の増加が2倍以上であれば、増粘液(B)中の複数のPTFE粒子が相互に集合した凝集構造がさらに形成されやすくなり、工程(d)においてPTFEのフィブリル化がさらに高度に発達しやすくなるため、より緻密な網目構造を形成でき、電極活物質をより強く結着して保持できる。その結果、電極コンポジット層が集電体からさらに脱落しにくくなる。
増粘液(B)の25℃の粘度は、B型粘度計を用いて測定される粘度である。
【0041】
(撹拌方法)
撹拌方法としては、分散液(A)に高いシェアストレスを加えることができる方法であればよく、たとえば、下記の方法が挙げられる。
(i)分散液(A)を撹拌装置(高速ミキサ、ブレードとクロススクリューからなるミキサ等)で処理する方法。
(ii)回転速度の大きく異なる2つのロータ間、2つのディスク間、またはロータとステータ間に分散液(A)を通して処理する方法。
(iii)分散液(A)をノズルから高圧で噴射して相互に衝突させる、または遮蔽物に衝突させる方法。
(iv)分散液(A)を超音波処理する方法。
(v)分散液(A)を、ビーズミル、遊星ボールミルまたはボールミルで処理する方法。
【0042】
増粘液(B)の25℃の粘度の調整は、たとえば撹拌装置を用いる場合、撹拌条件(撹拌装置、撹拌翼、回転数、撹拌時間等)を調整することによって行うことができる。
【0043】
〔工程(c)〕
工程(c)は、集電体の表面に工程(b)で得られた増粘液(B)を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程である。
【0044】
塗布方法としては、広く公知の塗布方法を採用できる。公知の塗布方法としては、たとえば、ロールコータ、ダイコータ、スプレー等による塗工方法、スクリーン印刷、インクジェットプリンタ等による印刷方法、その他の方法が挙げられ、これらの方法は本発明においても好適に使用できる。
乾燥方法としては、広く公知の乾燥方法を採用できる。乾燥装置は、トンネル型であってもよく、コンベヤ型であってもよく、乾燥方式は、熱風式であってもよく、接触式であってもよく、これらは本発明においても好適に使用できる。
【0045】
集電体としては、金属箔(アルミニウム、ニッケル、ステンレススチール、銅等)、金属網状物、金属多孔体等が挙げられる。リチウムイオン電池の正極集電体としては、アルミニウム箔が好ましく、負極集電体としては銅箔が好ましい。ニッケル水素電池の正極集電体としては、ニッケル箔、発泡ニッケル等が用いられる。
集電体の厚さは、1〜100μmが好ましい。集電体の厚さが該範囲内であれば、蓄電素子の耐久性および信頼性を充分に確保でき、また、蓄電素子が軽量となる。
【0046】
工程(c)において形成される電極コンポジット層の厚さは、乾燥後の厚さで1〜1000μmが好ましい。
【0047】
〔工程(d)〕
工程(d)は、工程(c)で得られた積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程である。
圧延方法としては、ロールプレスや平板プレス等による公知の圧延方法を用いればよい。圧延条件は、蓄電素子や電極活物質の種類によっても異なるが、プレス温度は、通常、室温〜500℃程であり、プレス圧力は、通常、50〜1000MPaである。
【0048】
圧延後の電極コンポジット層の厚さは、1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。電極コンポジット層の厚さが該範囲内であれば、得られる蓄電素子の放電容量や出力が充分に大きくなり、また、電極コンポジット層が集電体から脱落しにくい。
【0049】
電極コンポジット層には、高性能化および長寿命化を目的として、新たな追加成分を、噴霧、浸漬、暴露等の手段によって添加してもよい。追加成分としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、炭酸リチウム、リン酸リチウム等が挙げられる。
【0050】
〔作用効果〕
以上説明した本発明の蓄電素子用電極の製造方法にあっては、PTFE水性分散液、電極活物質および導電助剤を混合して得られた比較的低粘度の分散液(A)を、撹拌して特定の粘度にまで増粘させることによって増粘液(B)を得ているため、増粘液(B)中の複数のPTFE粒子が相互に集合した凝集構造を形成する。そのため、増粘液(B)を集電体の表面に塗布、乾燥し、電極コンポジット層を形成した後、圧延することによって、PTFEのフィブリルが高度に発達しやすくなる。その結果、フィブリルによってより緻密な網目構造が形成され、従来の電極コンポジット層に比べてPTFEの含有量が低く抑えられていたとしても、電極活物質をより強く保持できる。その結果、PTFEの含有量を低く抑えても、電極コンポジット層が集電体から脱落しにくくなる。しかも、繊維形状を有する少量のバインダで結着された本発明における電極コンポジット層は、電極コンポジット層中のイオンの流れを極めてスムースにする効果も持つことから、最終的に得られる蓄電素子は、高い放電容量を持つうえ、優れた負荷特性と高出力特性を発現できる。
【0051】
また、導電助剤として水性分散媒に均一に分散しやすい親水性カーボンブラックを用いた場合、工程(b)において分散液(A)を増粘することによって、工程(a)において水性分散媒に均一に分散した親水性カーボンブラックが、増粘液(B)中で再凝集しにくくなる。そのため、工程(b)を行わない従来の製造方法では、電極コンポジット層を形成するまで親水性カーボンブラックが均一に分散した状態を維持できなかったのに対して、工程(b)を行う本発明の製造方法では、電極コンポジット層を形成するまで、親水性カーボンブラックが均一に分散した状態を維持できる。その結果、最終的に得られる蓄電素子は、高い放電レートにおいても比較的高い放電容量を発揮でき、極めて優れた高負荷特性を発現できる。
【0052】
<蓄電素子用電極>
本発明の蓄電素子用電極は、本発明の製造方法で得られたものである。
本発明の蓄電素子用電極にあっては、本発明の製造方法で得られたものであるため、PTFEの含有量を低く抑えても、電極コンポジット層が集電体から脱落しにくい。
また、本発明の製造方法によって得られた蓄電素子用電極は、平均粒子径の比較的小さい電極活物質を活用できることや、PTFEの含有量を従来よりも減らすことができることによって、蓄電素子に用いた際に、高いエネルギー密度を保持してしかもハイパワー特性を発現できる利点がある。
【0053】
<蓄電素子>
本発明の蓄電素子は、本発明の蓄電素子用電極を備えてなるものである。
蓄電素子としては、一次電池や二次電池(リチウム電池類(リチウムイオン電池、リチウムポリマ電池、リチウム一次電池等)、ニッケル水素電池等)、キャパシタ(電気二重層キャパシタ等)等が挙げられる。
本発明の蓄電素子にあっては、PTFEの含有量を低く抑えても、電極コンポジット層が集電体から脱落しにくい本発明の蓄電素子用電極を備えてなるものであるため、信頼性が高く、放電容量や出力が大きい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
例1〜7は製造例であり、例8〜17、19、24、25は実施例であり、例18、20〜23、26は比較例である。
【0055】
(粘度)
B型粘度計(ブルックフィールド社製)を用い、25℃における分散液(A)および増粘液(B)の粘度を測定した。
【0056】
(脱落試験)
アルミニウム箔の表面に増粘液(B)を塗布して120℃にて2時間乾燥した後、300℃にて10分間熱処理してロールプレス圧延し、電極コンポジット層の膜厚を120μmに調整した。得られたコンポジット電極から幅2cm、長さ10cmの大きさに切り抜いた試験片を直径2mmの丸棒に沿って100回折り曲げる脱落試験を行って、電極コンポジット層の強度および電極活物質の保持力を調べた。
【0057】
(充放電試験)
得られたコンポジット電極を所定の大きさに打抜いた正極板、およびリチウム箔を所定の大きさに切り出した負極板のそれぞれに、リード線を取り付け、ポリオレフィン系セパレータを介してステンレス製セルケースに収納した。セルケースに、エチレンカーボネートとジエチレンカーボネートの混合液に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lとなるように溶かした電解質溶液を注入してリチウム二次電池のモデルセルを得た。
モデルセルを充放電試験機に取り付け、25℃において充電電流0.6mA/cmで電池電圧4.3Vになるまで充電した後、放電電流2.0mA/cm(1.25Cレートに相当)で2.0Vになるまで放電する充放電の繰り返しを100サイクル行った。
特性評価は、初期放電容量および100サイクル後の放電容量を測定し、初期放電容量に対する100サイクル後の放電容量の維持率を求めて行った。
ただし例17の充放電試験は、充電電圧を4.3Vから2.0Vに、放電電圧を2.0Vから1.3Vに替えて行った。
また、例25および例26については高負荷特性も評価した。すなわち、放電電量1.25Cレートで10サイクル繰り返した後、1.6Cレートを10サイクル、同様に段階的に放電電流を上げてそれぞれ10サイクルを繰り返し、40Cレートまでの放電容量を測定して評価した。
【0058】
〔例1〕
PTFE水性分散液(バインダ(1))の調製:
100Lの耐圧重合槽に、パラフィンワックスの736g、超純水の59L、ペルフルオロオクタン酸アンモニウム(以下、APFOと記す。)の15gを仕込んだ。70℃に昇温した後、窒素パージしてから脱気し、撹拌しながらテトラフルオロエチレンを内圧1.9MPaまで導入した。これに0.5質量%のジコハク酸ペルオキシド水溶液の1Lを圧入して重合を開始した。テトラフルオロエチレンを供給しながら重合圧1.9MPaに保持して45分間重合した後、90℃まで昇温して2.5質量%のAPFO水溶液の1Lを加え、95分間継続した。得られた乳濁液から凝集物、パラフィン等を除去し、平均粒子径0.21μm、PTFE含有量26.0質量%、APFO含有量0.05質量%のPTFE水性分散液の25.1kgを得た。
【0059】
PTFE水性分散液に0.2kgのポリオキシエチレンラウリルエーテルを主成分としたノニオン界面活性剤を加えて溶解させ、0.3kgのアニオン交換樹脂を分散させて24時間撹拌した後、ろ過してアニオン交換樹脂を取り除いた。ろ液に28質量%のアンモニア水の0.04kgを加え、相分離法により80℃にて10時間濃縮し、上澄み液を除去した後、15gのラウリル硫酸ナトリウム(以下、SLSと記す。)を新たに加えて、平均粒子径0.21μm、PTFE含有量59.8質量%、SLS含有量1.1質量%、APFO含有量0.01質量%のPTFE水性分散液(以下、バインダ(1)と記す。)の10.5kgを得た。PTFE水性分散液の一部から取り出し、精製、乾燥したPTFEは、熱分析した結果、融点が327℃の結晶性含フッ素ポリマーであった。得られたPTFEは、フィブリル状にすることが可能であった。
【0060】
〔例2〕
含フッ素ポリマー水性分散液(バインダ(2))の調製:
3Lの耐圧重合槽にイオン交換水の1.0L、炭酸カルシウムの2.2g、過硫酸アンモニウムの0.7g、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの31g、SLSの1g、エチルビニルエーテルの161g、シクロヘキシルビニルエーテルの178g、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルの141gを仕込み、冷却と窒素ガス加圧とを繰り返して脱気した後、クロロトリフルオロエチレンの482gを仕込んで、30℃にて12時間重合反応を行った。得られた乳濁液から凝集物を除去し、ポリマー含有量50.1質量%であるフッ素系ポリマー水性分散液(以下、バインダ(2)と記す。)の1250gを得た。この水性分散液の一部を取り出し、精製、乾燥したポリマーは結晶融点を持たない非晶性のフッ素系ポリマーであり、フィブリル状形態とすることができなかった。このフッ素系ポリマーはその他のバインダに該当する。
【0061】
〔例3〕
リチウム鉄フォスフェート(電極活物質(1))の合成:
3.08kgの85%リン酸を純水の10.0kgで希釈した。リン酸水溶液を撹拌しながら1.00kgの炭酸リチウムを加えて溶解させ、リン酸リチウムの水溶液を得た。該水溶液に、鉄1当量あたりの分子量が92.4であるオキシ水酸化鉄の2.50kgを加え、さらに純水の4.00kgを追加してリチウム鉄フォスフェート用原料の水性ペーストを得た。該ペーストを直径0.1mmのジルコニアビーズを用いて2時間ビーズミル処理した後、固形分濃度51.4質量%のカラメル水溶液の1.00kgを加えて溶解させてから噴霧乾燥し、D50=2.0μmの乾燥粉を得た。該乾燥粉を、水素5%含有窒素ガスを0.8L/分の流速で供給しながら5℃/分の昇温速度で600℃まで加熱し、600℃にて5時間保持した後、−5℃/分の降温速度設定で冷却して、D50=2.8μmのリチウム鉄フォスフェート(以下、電極活物質(1)と記す。)を得た。
D50は、全粒子の粒子径の累積%の中央値を示し、測定はレーザー回折散乱法で行った。
【0062】
〔例4〕
リチウム鉄フォスフェート(電極活物質(2))の調製:
例3と同様にして合成したリチウム鉄フォスフェートの4.00kgを、11.0kgのイオン交換水に分散させた。この分散液を205MPaに加圧して相互に衝突させる操作を5回繰り返した後、分散液からリチウム鉄フォスフェートを取り出して120℃にて乾燥させたら、D50=0.4μmのリチウム鉄フォスフェート(以下、電極活物質(2)と記す。)が得られた。
【0063】
〔例5〕
リチウムマンガン複合酸化物(電極活物質(3))の合成:
炭酸マンガンの7.6molおよび炭酸リチウムの2.2molを純水の1000gに分散させ、直径0.1mmのジルコニアビーズで2時間ビーズミル処理した後、噴霧乾燥し、得られた粉体をローラーコンパクターでペレット状に造粒した。該造粒体を、酸素22%および窒素78%からなる合成空気を0.8L/分の流速で供給しながら5℃/分の速度で400℃まで加熱して15時間保持した。その後、同様にして980℃まで加熱して15時間保持した後、−2℃/分の速度で400℃まで降温した。400℃に15時間保持した後、同様にして5℃/分の速度で650℃に加熱した。15時間後、−2℃/分の降温速度設定で冷却して壊砕し、D50=1.3μmのLi過剰のリチウムマンガン複合酸化物(以下、電極活物質(3)と記す。)を得た。
【0064】
〔例6〕
リチウム(ニッケル・マンガン・コバルト)複合酸化物(電極活物質(4))の合成:
炭酸ニッケルを大気中700℃にて15時間焼成して調製した酸化ニッケルの3.3mol、炭酸マンガンを大気中700℃にて15時間焼成して調製した二酸化マンガンの3.3mol、結晶性の低いオキシ水酸化コバルトの3.3mol、炭酸リチウムの5.05molを純水に分散させ、直径0.5mmのジルコニアビーズで1時間ビーズミル処理した後、噴霧乾燥して乾燥粉を得た。該乾燥粉を大気中850℃にて15時間焼成し、D50=4.1μmのリチウム(ニッケル・マンガン・コバルト)複合酸化物(以下、電極活物質(4)と記す。)を得た。
【0065】
〔例7〕
リチウムチタン複合酸化物(電極活物質(5))の合成:
酸化チタンと炭酸リチウムをLi対Ti元素比が4.12対5の割合で配合してボールミル混合し、大気下の500℃にて8時間仮焼成した後、再度ボールミルで壊砕して混合し、800℃にて10時間本焼成してリチウムチタン複合酸化物を得た。該複合酸化物をエタノール中でボールミル壊砕した後、500℃にて10分間後焼成して、D50=0.9μmのリチウムチタン複合酸化物(以下、電極活物質(5)と記す。)を得た。
【0066】
〔例8〕
(工程(a))
1LのディスポーザブルポリビーカーにCMCの0.5質量%水溶液の200gを秤量し、スリーワンモータに取り付けられた直径50mmのスクリュー型羽根をビーカー内に配置した。CMC水溶液を断続して緩く混合しながら市販電池用アセチレンブラック(平均粒子径50nm、以下、ABと記す。)の10.0gを少量ずつ添加して、CMC水溶液にABを分散させた。ABの全量を添加した後、スリーワンモータの回転数を250rpmに上げて混合を1時間継続し、分散液(X)を得た。
【0067】
ついで、分散液(X)を断続的に緩く混合しながら、分散液(X)に電極活物質(2)の185gを少量ずつ添加して分散させた。電極活物質の全量を添加した後、スリーワンモータの回転数を250rpmに上げて混合を継続し、分散液(Y)を得た。1時間後、分散液(Y)を133gのイオン交換水とともに1Lの広口ポリ瓶に移し、粒径1mmのガラスビーズの500gを加えて密閉し、ロッキングミル(セイワ技研社製)に設置した。ロッキングミル処理を2時間続けた後、80メッシュのナイロン紗を通してガラスビーズを除去しながら、広口ポリ瓶の内容物を0.5Lのディスポーザブルポリビーカーに移し、365.3gの分散液(Z)を得た。前記スクリュー型羽根をビーカー内に配置し、分散液(Z)を回転数100rpmで混合しながら、分散液(Z)に4.16gのバインダ(1)を少量ずつ添加した後、同様にして0.55gのバインダ(2)を少量ずつ加えた。それぞれ全量のバインダを添加した後、回転数を250rpmに上げて混合を続け、目的の分散液(A)を得た。1時間後、分散液(A)の一部を100mLのディスポーザブルポリビーカー移し、25℃の粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(工程(b))
分散液(A)の全てを1Lの広口ポリ瓶に移し、粒径1mmのガラスビーズの350gを加えて密閉し、30分間ロッキングミル処理して撹拌した。撹拌後、80メッシュのナイロン紗を通してガラスビーズを除去し、233.1gの増粘液(B)を得た。増粘液(B)の一部を100mLのディスポーザブルポリビーカー移し、25℃の粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
(工程(c))
アルミニウム箔の表面に増粘液(B)を、ドクターブレードを用いて塗布し、80℃で2時間乾燥させて積層体を得た。
【0070】
(工程(d))
ロールプレスを用いて積層体を圧延して、アルミニウム箔の表面に厚さ約120μmの電極コンポジット層が形成されたコンポジット電極を得た。
コンポジット電極を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察すると、直径30nm程のフィブリルがネットワークを形成して結着された構造を確認でき、PTFEがバインダとして効率よく機能していることがわかった。
【0071】
該コンポジット電極について上述の脱落試験を行った。結果を表1に示す。また、該コンポジット電極を用いて上述の充放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0072】
〔例9〜26〕
混合液の組成、撹拌時間を表1に示すように変更した以外は、例8と同様にしてコンポジット電極を得た。なお、表中の「親水性AB」は、ホウ素化アセチレンブラックである。また、例24の集電体にはアルミニウム箔に替えて市販のカーボンコートアルミニウム箔を用いた。
該コンポジット電極について上述の脱落試験を行った。結果を表1に示す。また、該コンポジット電極を用いて上述の充放電試験を行った。結果を表1に示す。
また、例11のコンポジット電極における電極コンポジット層の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。電極コンポジット層に亀裂を作り、電極コンポジット層の内部を観察したところ、表面同様にPTFEのフィブリルが行き渡っているのが観察された。
また、例18のコンポジット電極における電極コンポジット層の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。PTFEのフィブリルが電極コンポジット層の表面近傍に偏在しているのが観察された。
また、例25および例26のコンポジット電極を用いたリチウム二次電池のモデルセルの高負荷特性を比較して示したグラフを図3に示す。例25のコンポジット電極を用いたリチウム二次電池のモデルセルが高負荷特性に極めて優れていることがわかる。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法で得られた蓄電素子用電極は、一次電池や二次電池(リチウム電池類(リチウムイオン電池、リチウムポリマ電池、リチウム一次電池等)、ニッケル水素電池等)、キャパシタ(電気二重層キャパシタ等)等の電極として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)〜(d)を有する、蓄電素子用電極の製造方法。
(a)ポリテトラフルオロエチレンの含有量が電極コンポジット(100質量%)に対して0.2〜7.0質量%となるように、少なくともポリテトラフルオロエチレン水性分散液、電極活物質および導電助剤を混合し、25℃の粘度が100〜1100mPa・sの分散液(A)を調製する工程。
(b)25℃の粘度が1200〜20000mPa・sに増粘するように、前記分散液(A)を撹拌して増粘液(B)を得る工程。
(c)集電体の表面に前記増粘液(B)を塗布し、乾燥して電極コンポジット層を形成し、積層体を得る工程。
(d)前記積層体を圧延し、蓄電素子用電極を得る工程。
【請求項2】
前記導電助剤が、親水性カーボンブラックである、請求項1に記載の蓄電素子用電極の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で得られた、蓄電素子用電極。
【請求項4】
請求項3に記載の蓄電素子用電極を備えてなる、蓄電素子。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−94331(P2012−94331A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239918(P2010−239918)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】