説明

薄切片作製装置

【課題】包埋ブロックの表面を変形させること無く、また、包埋ブロックの表面を観察しながら正確かつ均一な厚さの薄切片を作製し、自動的に次工程に搬送することが可能な薄切片作製装置を提供する。
【解決手段】薄切片作製装置1は、包埋ブロックBを固定する試料台2と、包埋ブロックBを薄切して薄切片を作製するカッター3と、薄切片を搬送する搬送手段20と、試料台2を所定の送り方向Xに移動させる送り機構6備え、搬送手段20は、ベルト23と、カッター3の上方に設けられた方向切替部21と、後部ローラ22とを備え、ベルト23は、カッター3の後方からカッター3と方向切替部21との間に挿通されて、方向切替部21によって上方に折り返されるととともに、後部ローラ22によってカッター3の後方へ送り機構6の送り方向Xと平面視略平行に巻き戻される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して薄切片を作製するとともに、作製した薄切片を次工程に搬送する薄切片作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査、観察する方法の1つとして、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックを、厚さ数μmの極薄の薄切片に薄切した後に、包埋剤を溶した試料を観察する方法が知られている。薄切片を作製する工程の詳細としては、試料台に包埋ブロックを固定し、カッターを所定の移動速度で移動させることで、厚さ3〜5μm程度の薄切片を作製する。そして、このように作製した薄切片を細い糸などで引っ掛けて取出し、伸展工程、乾燥工程などの次工程に搬送していた。従来、この作製された薄切片を取り出し、搬送する工程は、薄切片が極薄で、カール、しわ、破れなどの損傷が発生しやすいことから、手作業で行われてきた。一方、例えば、前臨床試験においては、一試験当たり数百個の包埋ブロックを作製し、さらに一包埋ブロック当たり数枚の薄切片を作製する。このため、作業者は膨大な枚数の薄切片を作製し、次工程に搬送する必要があり、これらの工程の自動化が試みられている。
【0003】
例えば、包埋ブロックを薄切するカッターと、包埋ブロックが固定され、カッターに対して往復運動する試料台と、接着層を有し、試料台の上方で供給ロールと集めロールとの間に延びているテープと、包埋ブロックの上方において、包埋ブロックの表面にテープを押圧する押圧装置とを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような装置によれば、カッターで包埋ブロックを薄切する際に、カッターの切れ刃の前方において、押圧装置によって包埋ブロックの表面にテープを押圧することで、作製された薄切片がテープに接着されて搬送できるとされている。
【0004】
また、包埋ブロックとテープとを異なる極性の電荷に帯電させ、薄切の初期段階にはテープに付与する張力を低くしてテープを薄切開始部に接触、付着させて、薄切の途中から張力を増加させて、テープに付着した薄切片をカッターのすくい面から離す薄切片の作製方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公昭49−28711号公報
【特許文献2】特許第3560728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2による装置及び方法では、ともにカッターによって薄切する前に、包埋ブロックの表面にテープを押し付けて、テープを接着、あるいは静電気力などによって付着させる必要があり、テープを包埋ブロックに押し付けることで、包埋ブロックの表面が変形してしまう恐れがあった。すなわち、包埋ブロックの表面が変形してしまうことで、正確に、また、均一な厚さで薄切片を作製することができなくなってしまう問題があった。また、包埋ブロックの上方にテープが位置することで、包埋ブロック中に包埋された試料は、常にテープあるいはカッターに覆われた状態であるため、薄切片の作製中に包埋ブロックの表面を観察することができなくなってしまう問題があった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、包埋ブロックの表面を変形させること無く、また、包埋ブロックの表面を観察しながら正確かつ均一な厚さの薄切片を作製し、自動的に次工程に搬送することが可能な薄切片作製装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを固定する試料台と、該試料台に固定された前記包埋ブロックを薄切して薄切片を作製するカッターと、該カッターによって作製された前記薄切片を前記カッターの後方へ搬送し、次工程に引渡す搬送手段と、前記試料台、または、前記カッター及び前記搬送手段のいずれか一方を所定の送り方向に移動させて、前記カッターによって前記包埋ブロックを薄切させる送り機構とを備えた薄切片作製装置であって、前記搬送手段は、前記薄切片が載置され、前記薄切片を搬送するベルトと、前記カッターの切れ刃の向きと略平行に、該切れ刃と近接して、かつ、前記カッターとの間に前記ベルトを挿通可能な隙間を有して、前記カッターの上方に設けられた方向切替部と、前記カッターの後方に設けられた後部ローラとを備え、前記ベルトは、前記カッターの後方から前記カッターに向って走行し、前記カッターと前記方向切替部との間に挿通されて、前記方向切替部によって上方に折り返されるとともに、前記後部ローラによって前記カッターの後方へ巻き戻されることを特徴としている。
【0008】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、試料台、または、カッターのいずれか一方が送り機構で送り方向に移動することで、試料台に固定された包埋ブロックはカッターによって薄切され、薄切片が作製される。この際、包埋ブロックの薄切される表面は露出した状態であり、包埋ブロックの表面を押圧した状態で薄切する構成では無いので、包埋ブロックの表面を観察しながら、正確、かつ均一な厚さで薄切することができる。そして、作製されていく薄切片が相対的にカッターの前記送り方向後方へ移動するのに伴って、薄切片はカッターの上方において方向切替部で折り返され送り方向へ巻き戻されるベルトに接触し、載置され、ベルトとともにカッターの後方へ搬送することができる。
【0009】
また、上記の薄切片作製装置において、前記搬送手段の前記ベルトの走行速度は、前記送り機構による移動速度と略等しい速度に設定されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る薄切片作製装置によれば、ベルトの走行速度が、送り機構による移動速度、すなわちカッターによって作製されていく薄切片の作製速度と略等しい速度である。このため、ベルトの走行速度が速いため、作製されていく薄切片がベルトによって引っ張られて切断されてしまう、あるいは、ベルトの走行速度が遅いため、作製されていく薄切片がベルトとカッターの切れ刃との間でしわになってしまうようなことが無い。
【0010】
また、上記の薄切片作製装置において、前記カッターの前方において、前記方向切替部と対向する位置には、前記カッターによって薄切された前記薄切片に送風し、前記搬送手段の前記方向切替部で折り返された前記ベルトに前記薄切片を押し付ける送風手段が設けられていることがより好ましいとされている。
【0011】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、作製されていく薄切片は、送風手段によって送風されることで、薄切片の後方に位置するベルトに押し付けられる。このため、作製されていく薄切片は、より確実にベルトに載置され、ベルトによってカッターの後方へ搬送される。特に、カッターによって薄切する際に、作製されていく薄切片はカッター前方へカールしてしまう場合があるが、送風手段によって送風されることで、カールしてしまうことを防ぐことができる。
【0012】
また、上記の薄切片作製装置において、前記カッターを支持する固定台と、両端部が下方に突出し、中央に凹部が形成された断面略コの字状で、前記両端部が前記カッターの上面に当接し、前記固定台との間で前記カッターを挟持するとともに、前記凹部によって、前記カッターとの間に前記カッターの後方から前方へ貫通する貫通孔を形成するホルダとを備え、該ホルダの前端には前記方向切替部が形成され、前記ベルトは、前記カッターの後方から前記貫通孔に挿通され、前記方向切替部によって折り返されることがより好ましいとされている。
【0013】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、ベルトは、カッターの後方からホルダとカッターとの間に形成された貫通孔を通り、ホルダの前端に形成された方向切替部で折り返される。このため、カッターの切れ刃近傍においてベルトとカッターとをより近接して配置することができるので、カッターによって作製されて後方へ移動していく薄切片をより確実にベルトに載置させることができる。
【0014】
さらに、上記の薄切片作製装置において、前記搬送手段は、前記ベルトが巻き付けられており、前記ベルトを供給する供給ローラを備え、前記ベルトは、前記供給ローラから前記方向切替部に向って走行し、前記方向切替部で折り返され、前記後部ローラに巻き取られることがより好ましいとされている。
この発明に係る薄切片作製装置によれば、後部ローラが回転してベルトが巻き取られることによって、ベルトは供給ローラから供給され、方向切替部で折り返される。そして、作製された薄切片を載置し、後部ローラに巻き取られる位置まで、載置した薄切片を搬送することができる。
【0015】
さらに、上記の薄切片作製装置において、前記カッターの前記切れ刃の向きは、前記カッターによって形成される切断面上において、前記送り機構の前記送り方向と直交する軸線に対して所定の引き角を有して設けられ、前記供給ローラから前記方向切替部へ走行する前記ベルトの供給方向は、前記切れ刃の向きと直交する軸線に対して、前記引き角と略等しい角度だけ傾斜して設定されているとともに、前記方向切替部で折り返された前記ベルトは、前記後部ローラによって前記送り機構の前記送り方向と平面視略平行に巻き戻されることがより好ましいとされている。
【0016】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、カッターが引き角を有して設けられているので、包埋ブロックを薄切する際の抵抗を抑え、より正確かつ均一な厚さで、また、良好な切断面で薄切することができる。この際、方向切替部がカッターの切れ刃の向きと略平行で、切れ刃に近接して設けられているため、カッターによって作製されていく薄切片を確実にベルト上に載置することができる。一方、ベルトは、後部ローラによって薄切片が作製されていく方向、すなわち送り機構の送り方向に巻き戻されている。このため、カッターによって作製され、ベルトと接触して搬送されていく薄切片は、ベルトの走行によってねじれなどが作用して切断されてしまうこと無く、ベルト上に載置した状態で搬送される。また、供給ローラから方向切替部へベルトが走行する供給方向が切れ刃の向きと直交する軸線に対して引き角と略等しい角度だけ傾斜していることで、方向切替部が切れ刃とともに引き角を有して設けられていても、ベルトがねじれてしまうことが無い。このため、供給ローラから方向切替部へ、また、方向切替部から後部ローラへ、ベルトを円滑に走行させることができる。
【0017】
また、上記の薄切片作製装置において、前記搬送手段の前記ベルトは、前記後部ローラと前記方向切替部との間に巻回された無端ベルトであることがより好ましいとされている。
この発明に係る薄切片作製装置によれば、ベルトが後部ローラから方向切替部に巻回された無端ベルトであることで、ベルトは無限走行し、作製された薄切片を連続して搬送することができる。
【0018】
さらに、上記の薄切片作製装置において、前記カッターの前記切れ刃の向きは、前記カッターによって形成される切断面上において、前記送り機構の前記送り方向と直交する軸線に対して所定の引き角を有して設けられ、前記搬送手段の前記ベルトは、所定の間隔を有して配設された複数の略紐状の環状体で形成され、該環状体のそれぞれは、前記後部ローラと前記方向切替部との距離に対応して異なる周長を有し、前記後部ローラによって前記送り機構の前記送り方向と平面視略平行に巻き戻されることがより好ましいとされている。
【0019】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、カッターが引き角を有して設けられているので、包埋ブロックを薄切する際の抵抗を抑え、より正確かつ均一な厚さで、また、良好な切断面で薄切することができる。一方、ベルトは、後部ローラによって薄切片が作製されていく方向、すなわち送り機構の送り方向に巻き戻されている。このため、カッターによって作製され、ベルトと接触して搬送されていく薄切片は、ベルトの走行によってねじれなどが作用して切断されてしまうこと無く、ベルト上に載置した状態で搬送される。この際、方向切替部はカッターの切れ刃と略平行であることで、ベルトが巻回されている後部ローラと方向切替部とは平行な位置関係とならない。しかし、ベルトを形成する複数の環状体のそれぞれが後部ローラと方向切替部との距離に対応して異なる周長を有しているので、ねじれること無く、円滑に、後部ローラと方向切替部との間を無限走行することができる。
【0020】
また、上記の薄切片作製装置において、前記カッターの後方には、液体が満たされた液槽が設けられ、前記搬送手段の前記ベルトは、前記後部ローラ、または、前記後部ローラと前記方向切替部との間において、前記液槽の前記液体に浸漬されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る薄切片作製装置によれば、ベルトに載置された薄切片を、ベルトとともに液槽の液体まで搬送することで、ベルトに載置された状態から液槽の液体中へ離脱させ、次工程に引き渡すことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の薄切片作製装置によれば、搬送手段として、方向切替部と後部ローラとを備え、ベルトをカッターの上方へ折り返し、カッターの後方へ巻き戻すことで、包埋ブロックの表面を観察しながら、カッターによって薄切片を作製し、搬送することができる。また、カッターによって薄切する際に、包埋ブロックの表面を押圧するものが無い。このため、正確、かつ均一な厚さで、薄切片を自動的に作製し、次工程に搬送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
図1及び図2は、この発明に係る第1の実施形態を示している。図1に示す薄切片作製装置1は、生体試料Aが包埋された包埋ブロックBから厚さ3〜5μm程度の極薄の薄切片を作製し、薄切片に含まれる生体試料Aを検査、観察する過程において、自動的に、包埋ブロックBから薄切片を薄切し、次工程に搬送する装置である。生体試料Aは、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器などの組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野などで適時選択されるものである。また、包埋ブロックBは、上記のような生体試料Aを包埋剤B1によって包埋、すなわち周囲を覆い固めたものである。このような包埋ブロックBは、より詳しくは、以下のように作製されるものである。まず、上記の生体試料Aの塊をホルマリンに漬けて、生体試料Aを構成する蛋白質を固定する。そして、組織を固い状態にした後、適当な大きさに切断する。最後に、切断された生体試料Aの内部の水分を包埋剤B1に置き換えたものを、溶解した包埋剤B1の中に埋め込んで、固めることで作製される。ここで、包埋剤B1は、上記のように液状化と冷却固化が容易に可能とされるとともに、エタノールに浸漬することで溶解する材質であり、樹脂やパラフィンなどである。以下、薄切片作製装置1の構成について説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、薄切片作製装置1は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを固定する試料台2と、包埋ブロックBを薄切するカッター3と、カッター3によって包埋ブロックBから薄切された薄切片Sを搬送する搬送手段20とを備える。試料台2は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを位置決めし、固定することが可能である。また、試料台2の下方には、Xステージ4及びZステージ5を有する送り機構6が設けられ、試料台2に固定された包埋ブロックBを、薄切する送り方向X及び高さ方向Zに位置調整するとともに、送り方向Xに所定の移動速度で送ることが可能である。また、薄切片作製装置1は、カッター3を支持する固定台7を備えるとともに、固定台7の上面7aにはホルダ8が設けられ、カッター3の上面3aに当接することで、固定台7との間でカッター3を挟持して、固定している。カッター3は、先端部の切れ刃3bの向きを送り方向Xと直交するように固定されている。また、カッター3の後方には、水Wが満たされた液槽9が設けられている。
【0024】
搬送手段20は、カッター3の切れ刃3bの向きと略平行に、切れ刃3bと近接して設けられた方向切替部である方向切替ローラ21と、カッター3の後方に設けられた後部ローラ22と、方向切替ローラ21と後部ローラ22との間に巻回された無端ベルト23とを備える。図1に示すように、方向切替ローラ21と後部ローラ22とは、無端ベルト23が送り機構6の送り方向Xと平面視略平行に走行可能に配置されている。また、図1及び図2に示すように、ホルダ8の上面には、一対の支持部材8aが上方に突出して設けられている。そして、方向切替ローラ21は、カッター3のホルダ8との間に無端ベルト23を挿通可能な隙間を有して、支持部材8aに回転可能に軸着されている。また、後部ローラ22は、液槽9の内壁9aに回転可能に軸着されており、液槽9の水Wに浸漬された状態となっている。さらに、方向切替ローラ21と後部ローラ22との間には、方向切替ローラ21及び後部ローラ22よりも上方に位置し、フレーム24に回転可能に軸着された中間ローラ25、26が設けられている。なお、カッター3を支持する固定台7も前端部24aにおいて、フレーム24に固定されている。さらに、中間ローラ26には、駆動部であるモータ27が接続されている。
【0025】
すなわち、図1に示すように、搬送手段20の無端ベルト23は、モータ27が駆動することによって、送り機構6の送り方向Xと平面視略平行となるように無限走行する。さらに、より詳しくは、図2に示すように、無端ベルト23は、カッター3の後方の後部ローラ22からカッター3に向って走行し、中間ローラ25を経由して、方向切替ローラ21とホルダ8との間に挿通されて、カッター3の切れ刃3bに近接した位置まで誘導される。そして、方向切替ローラ21によって上方に折り返されるとともに、中間ローラ26を経由して後部ローラ22によってカッター3の後方へ巻き戻されることになる。なお、モータ27の回転数は、上記無端ベルト23の走行速度が、送り機構6の送り方向Xへの移動速度と略等しくなるように設定されている。
【0026】
次に、この実施形態の薄切片作製装置1の作用について説明する。図2に示すように、まず、送り機構6のZステージ5によって、包埋ブロックBの高さ方向Zの位置調整を行い、カッター3によって所定の厚さ(3〜5μm程度)に薄切できるように、カッター3と包埋ブロックBとの相対的位置を決定する。そして、送り機構6のXステージ4を駆動して、所定の移動速度で試料台2に固定された包埋ブロックBを送り方向Xに移動させるとともに、モータ27を駆動して無端ベルト23を走行させる。カッター3は固定台7によって搬送手段20のフレーム24に固定されているので、カッター3及び搬送手段20に対して、包埋ブロックBが相対的に移動することになる。そして、図3に示すように、カッター3が包埋ブロックBを薄切することにより、薄切片Sが作製されていく。この際、包埋ブロックBの表面B2を押圧したりすることが無いので、包埋ブロックBの表面B2が変形してしまう恐れが無く、また、表面B2を観察しながら薄切することができる。このため、包埋ブロックBは、正確、かつ、均一な厚さで薄切されていく。そして、作製されていく薄切片Sは、カッター3によって上方に捲り上げられ、カッター3の後方へ移動する。
【0027】
次に、方向切替ローラ21は、カッター3の上方において、切れ刃3bに近接して設けられているので、薄切片Sがカッター3の後方に移動するのに伴って、薄切片Sの先端S1は方向切替ローラ21で折り返され、送り方向Xへ巻き戻される無端ベルト23に接触することになる。さらに、カッター3によって薄切片Sが作製されていくことで、作製された薄切片Sは、カッター3の後方へ走行する無端ベルト23に載置された状態となる。そして、カッター3によって包埋ブロックBが完全に薄切されることで、薄切片Sは包埋ブロックBから切り離され、無端ベルト23とともにカッター3の後方へ搬送される。なお、無端ベルト23の走行速度は、送り機構6による移動速度、すなわちカッター3によって作製されていく薄切片Sの作製速度と略等しい速度である。このため、作製されていく薄切片Sは、無端ベルト23の走行速度が早く、無端ベルト23に引っ張られて切断されてしまうことが無い。あるいは、無端ベルト23の走行速度が遅く、無端ベルト23とカッター3の切れ刃3bとの間でしわになってしまうようなことが無い。
【0028】
そして、後部ローラ22が位置するところまで搬送されることで、無端ベルト23に載置された薄切片Sは、無端ベルト23とともに液槽9の水Wまで搬送され、無端ベルト23から離脱し、水中Wに浮かべられることになり、次工程に引渡される。なお、薄切片Sは、液槽9において水Wに浮かべられることにより、水の表面張力が作用するので、薄切した際に生じてしまったしわ、反り、歪みなどの変形を修正することができる。また、搬送手段20は無端ベルト23による無限走行としているので、搬送された薄切片Sを液槽9の水中Wで離脱させた後、再びカッター3に向って走行し、作製された薄切片Sを連続して搬送することが可能である。さらに、無端ベルト23が液槽9の水Wに浸漬されていることで、無端ベルト23は常に湿潤状態を保っている。このため、薄切片Sと無端ベルト23との間には表面張力が作用するので、無端ベルト23によって薄切片Sをより確実に搬送することが可能となる。
【0029】
以上のように、薄切片作製装置1によれば、搬送手段20として、方向切替ローラ21と後部ローラ22とを備え、無端ベルト23をカッター3の上方へ折り返し、カッター3の後方へ巻き戻すことで、包埋ブロックBの表面B2を観察しながら、カッター3によって薄切片Sを作製し、搬送することができる。また、カッター3によって薄切する際に、包埋ブロックBの表面B2を押圧するものが無い。このため、正確、かつ均一な厚さで、薄切片Sを自動的に作製し、次工程に搬送することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
図4は、この発明に係る第2の実施形態を示している。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0031】
図4に示すように、この実施形態の薄切片作製装置30においては、カッター3の前方の方向切替ローラ21と対向する位置に、送風手段である送風機31が設けられている。そして、送風機31は、カッター3によって薄切された薄切片Sに送風し、方向切替ローラ21で折り返された無端ベルト23に薄切片Sを押し付けることが可能である。このため、作製されていく薄切片Sは、より確実に無端ベルト23に載置され、無端ベルト23によってカッター3の後方へ搬送される。特に、カッター3によって薄切する際に、薄切片S´のように、カッター3の前方へカールしてしまう場合があるが、送風機31によって送風されることで、カールしてしまうのを防ぐことができる。
【0032】
(第3の実施形態)
図5及び図6は、この発明に係る第3の実施形態を示している。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0033】
図5に示すように、この実施形態の薄切片作製装置40においては、カッター3の切れ刃3bの向きが、カッター3によって形成される切断面上において、送り機構6の送り方向Xと直交する軸線Lに対して引き角θを有して設けられている。また、図5及び図6に示すように、搬送手段41は、ベルト42と、ベルト42が巻き付けられており、ベルト42を供給する供給ローラ43と、カッター3の後方に設けられた中間ローラ44、45と、ベルト42を巻き取る後部ローラ46とを備えている。また、供給ローラ43は、フレーム47に回転可能に軸着されており、供給ローラ43から方向切替ローラ21にベルト42を供給する供給方向Pが、カッター3の切れ刃3bの向きと直交する軸線Mに対して、引き角θと略等しい角度φだけ傾斜するように配置されている。中間ローラ45は、液槽9の内壁9aに回転可能に軸着されており、液槽9の水Wに浸漬されている。また、中間ローラ44は、フレーム47に回転可能に軸着されており、方向切替ローラ21と中間ローラ45との間において、方向切替ローラ21及び中間ローラ45よりも上方に位置するように配置されている。さらに、後部ローラ46は、フレーム47に回転可能に軸着されているとともに、モータ27と接続されており、中間ローラ44よりも下方に位置するように配置されている。そして、これら中間ローラ44、45及び後部ローラ46は、方向切替ローラ21で折り返されたベルト42を送り方向Xと平面視略平行に走行可能に配置されている。なお、カッター3を支持する固定台7もフレーム47の前端部47aに固定されている。
【0034】
すなわち、搬送手段41のベルト42は、モータ27が駆動し、後部ローラ46が回転することによって、供給ローラ43から軸線Mに対して角度φだけ傾斜した供給方向Pへ供給され、走行する。そして、方向切替ローラ21で上方に折り返されて、カッター3の後方へ送り方向Xと略平行な方向に走行する。そして、中間ローラ44を経由して、中間ローラ45において水Wに浸漬されるとともに、再び折り返され、後部ローラ46に巻き取られる。
【0035】
このような薄切片作製装置40によれば、カッター3が引き角θを有して設けられているので、包埋ブロックBを薄切する際の抵抗を抑え、より正確かつ均一な厚さで、また、良好な切断面で薄切することができる。この際、方向切替ローラ21は、カッター3の切れ刃3bの向きに略平行であり、また、ベルト42は、薄切片Sが作製されていく方向、すなわち送り機構6の送り方向Xと略平行に後部ローラ46によって巻き戻されている。このため、カッター3によって作製されていく薄切片Sは、確実にベルト42上に載置されるとともに、ベルト42の走行によってねじれなどが作用して切断されてしまうこと無く、円滑に搬送することができる。一方、供給ローラ43から方向切替ローラ21へベルト42が走行する供給方向Pが、切れ刃3bの向きと直交する軸線Mに対して引き角θと略等しい角度φだけ傾斜していることで、方向切替ローラ21が切れ刃3bとともに引き角θを有して設けられていても、ベルト42がねじれてしまうことが無い。このため、供給ローラ43から方向切替ローラ21へ、また、方向切替ローラ21から中間ローラ44、45を経由して後部ローラ46へ、ベルト42を円滑に走行させることができる。
【0036】
(第4の実施形態)
図7は、この発明に係る第4の実施形態を示している。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0037】
図7に示すように、この実施形態の薄切片作製装置50においては、カッター3が軸線Lに対して引き角θを有して設けられており、搬送手段51は、方向切替ローラ21と、後部ローラ52と、方向切替ローラ21と後部ローラ52との間に巻回された無端ベルト53とを備えている。カッター3を支持する固定台7は、フレーム54に固定されている。また、後部ローラ52は、フレーム54に回転可能に軸着されており、無端ベルト53を送り方向Xに走行可能に配置されている。また、無端ベルト53は、所定の間隔を有して配設された複数の略紐状の環状体55で形成されている。環状体55のそれぞれは、後部ローラ52と方向切替ローラ21との距離に対応して異なる周長を有している。このため、無端ベルト53は、ねじれること無く、円滑に、後部ローラ52と方向切替ローラ21との間を無限走行することができる。すなわち、薄切片作製装置50においては、カッター3が引き角θを有しているので、薄切の際の抵抗を抑えることができるともに、環状体55で形成された無端ベルト53とすることで作製された薄切片を連続して搬送することができる。
【0038】
(第5の実施形態)
図8から図10は、この発明に係る第5の実施形態を示している。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0039】
図8及び図9に示すように、この実施形態の薄切片作製装置60においては、固定台7にカッター3を固定するホルダ61の正面視した断面形状(図8に示すD−D断面)が、両端部61aが下方に突出し、中央に凹部61bが形成されているとともに、凹部61bには所定の間隔で複数の凸部61cが形成されている。そして、両端部61a及び凸部61cがカッター3の上面3aに当接し、カッター3を固定台7との間に挟持することで、カッター3は固定台7に固定され、カッター3とホルダ61の凹部61b及び凸部61cとによって、カッター3の前方から後方へ貫通する複数の貫通孔62が形成されている。また、図10に示すように、ホルダ61の先端部61dには、断面円状に形成された方向切替部63が設けられている。そして、無端ベルト53を形成する環状体55のそれぞれは、カッター3の後方から貫通孔62のそれぞれに挿通され、方向切替部63によって折り返されている。
【0040】
このような薄切片作製装置60によれば、無端ベルト53の環状体55のそれぞれがカッター3の後方からホルダ61とカッター3との間に形成された貫通孔62を通り、ホルダ61の前端に形成された方向切替部63で折り返される。このため、カッター3の切れ刃3b近傍において無端ベルト53とカッター3とをより近接して配置することができるので、カッター3によって作製されて後方へ移動していく薄切片Sをより確実に無端ベルト53に載置させることができる。なお、本実施形態においては、無端ベルト53を形成する複数の環状体55のそれぞれが複数の貫通孔62のそれぞれに挿通されるものとしたが、無端ベルト53を帯状のベルトとして、ホルダ61に凸部61cが設けられていない構成としても、同様の効果を期待することができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0042】
なお、送り機構6は、試料台2を送り方向X及び高さ方向Zに移動可能としたが、これに限ることは無く、試料台2を固定して、カッター3及び搬送手段20を同時に移動させる構成としても良い。少なくとも、カッター3及び搬送手段20に対して、包埋ブロックBを固定している試料台2を相対的に移動することが可能であれば良い。また、送り機構6による移動速度とベルトの走行速度は略等しく設定されているとしたが、作製されていく薄切片Sを損傷しないようにベルトに載置して搬送させる範囲において、これらの速度は相互に調整されるものである。また、カッター3の後方には液槽9が設けられているが、薄切片Sはベルトに載置されただけの状態であるので、これに限らず、他の構成によっても容易に取り出して次工程に引き渡すことができる。また、液槽9には水Wが満たされているとしたが、水を主体とする液体でも良く、また、薄切片Sの包埋剤B1を溶解しない性質の液体であれば種々選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の平面図である。
【図2】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の断面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置の断面図である。
【図4】この発明の第2の実施形態の薄切片作製装置の断面図である。
【図5】この発明の第3の実施形態の薄切片作製装置の平面図である。
【図6】この発明の第3の実施形態の薄切片作製装置の側面図である。
【図7】この発明の第4の実施形態の薄切片作製装置の平面図である。
【図8】この発明の第5の実施形態の薄切片作製装置の平面図である。
【図9】この発明の第5の実施形態の薄切片作製装置の正面視した部分断面図である。
【図10】この発明の第5の実施形態の薄切片作製装置の側方視した部分断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1、30、40、50、60 薄切片作製装置
2 試料台
3 カッター
3a 上面
3b 切れ刃
6 送り機構
7 固定台
7a 上面
8、61 ホルダ
9 水槽
20、41、51 搬送手段
21 方向切替ローラ(方向切替部)
22、46、52 後部ローラ
23、53 無端ベルト(ベルト)
31 送風機(送風手段)
42 供給ローラ
43 ベルト
55 環状体
62 貫通孔
63 方向切替部
A 生体試料
B 包埋ブロック
B1 包埋剤
B2 表面
L 送り方向Xと直交する軸線
M 切れ刃の向きと直交する軸線
P 供給方向
S 薄切片
W 水(液体)
X 送り方向
θ 引き角
φ 軸線Mに対する供給方向Pの角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料が包埋された包埋ブロックを固定する試料台と、該試料台に固定された前記包埋ブロックを薄切して薄切片を作製するカッターと、該カッターによって作製された前記薄切片を前記カッターの後方へ搬送し、次工程に引渡す搬送手段と、前記試料台、または、前記カッター及び前記搬送手段のいずれか一方を所定の送り方向に移動させて、前記カッターによって前記包埋ブロックを薄切させる送り機構とを備えた薄切片作製装置であって、
前記搬送手段は、前記薄切片が載置され、前記薄切片を搬送するベルトと、
前記カッターの切れ刃の向きと略平行に、該切れ刃と近接して、かつ、前記カッターとの間に前記ベルトを挿通可能な隙間を有して、前記カッターの上方に設けられた方向切替部と、
前記カッターの後方に設けられた後部ローラとを備え、
前記ベルトは、前記カッターの後方から前記カッターに向って走行し、前記カッターと前記方向切替部との間に挿通されて、前記方向切替部によって上方に折り返されるとともに、前記後部ローラによって前記カッターの後方へ巻き戻されることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薄切片作製装置において、
前記搬送手段の前記ベルトの走行速度は、前記送り機構による移動速度と略等しい速度に設定されていることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の薄切片作製装置において、
前記カッターの前方において、前記方向切替部と対向する位置には、前記カッターによって薄切された前記薄切片に送風し、前記搬送手段の前記方向切替部で折り返された前記ベルトに前記薄切片を押し付ける送風手段が設けられていることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の薄切片作製装置において、
前記カッターを支持する固定台と、
両端部が下方に突出し、中央に凹部が形成された断面略コの字状で、前記両端部が前記カッターの上面に当接し、前記固定台との間で前記カッターを挟持するとともに、前記凹部によって、前記カッターとの間に前記カッターの後方から前方へ貫通する貫通孔を形成するホルダとを備え、
該ホルダの前端には前記方向切替部が形成され、前記ベルトは、前記カッターの後方から前記貫通孔に挿通され、前記方向切替部によって折り返されることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の薄切片作製装置において、
前記搬送手段は、前記ベルトが巻き付けられており、前記ベルトを供給する供給ローラを備え、
前記ベルトは、前記供給ローラから前記方向切替部に向って走行し、前記方向切替部で折り返され、前記後部ローラに巻き取られることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項6】
請求項5に記載の薄切片作製装置において、
前記カッターの前記切れ刃の向きは、前記カッターによって形成される切断面上において、前記送り機構の前記送り方向と直交する軸線に対して所定の引き角を有して設けられ、
前記供給ローラから前記方向切替部へ走行する前記ベルトの供給方向は、前記切れ刃の向きと直交する軸線に対して、前記引き角と略等しい角度だけ傾斜して設定されているとともに、
前記方向切替部で折り返された前記ベルトは、前記後部ローラによって前記送り機構の前記送り方向と平面視略平行に巻き戻されることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の薄切片作製装置において、
前記搬送手段の前記ベルトは、前記後部ローラと前記方向切替部との間に巻回された無端ベルトであることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項8】
請求項7に記載の薄切片作製装置において、
前記カッターの前記切れ刃の向きは、前記カッターによって形成される切断面上において、前記送り機構の前記送り方向と直交する軸線に対して所定の引き角を有して設けられ、
前記搬送手段の前記ベルトは、所定の間隔を有して配設された複数の略紐状の環状体で形成され、該環状体のそれぞれは、前記後部ローラと前記方向切替部との距離に対応して異なる周長を有し、前記後部ローラによって前記送り機構の前記送り方向と平面視略平行に巻き戻されることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の薄切片作製装置において、
前記カッターの後方には、液体が満たされた液槽が設けられ、
前記搬送手段の前記ベルトは、前記後部ローラ、または、前記後部ローラと前記方向切替部との間において、前記液槽の前記液体に浸漬されていることを特徴とする薄切片作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−178287(P2007−178287A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377722(P2005−377722)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】