説明

薄型偏光膜の製造方法

【課題】優れた光学特性と、優れた面内均一性とを兼ね備えた薄型偏光膜を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の薄型偏光膜の製造方法は、熱可塑性樹脂基材を第1の方向に延伸した後、この熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、積層体を第1の方向に収縮させて、第2の方向に延伸する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型偏光膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、偏光板の薄膜化が望まれていることから、熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層(以下、PVA系樹脂層という)との積層体を延伸して偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような製法によれば、PVA系樹脂層の薄膜化は達成されるが、その光学特性が低いという問題がある。偏光膜を製造する際、延伸により延伸方向と直交する方向が収縮することが一般的に知られており、収縮することで光学特性が向上し得ることが知られている(特許文献2)。しかし、収縮により、配向ムラが生じたり厚みの均一性が低下したりして、得られる薄型偏光膜の面内均一性が低いという問題がある。また、収縮率が高くなるほど光学特性は良好となり得るが、面内均一性の低下が顕著であり、さらには、シワが生じやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−338329号公報
【特許文献2】特開2003−43257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた光学特性と、優れた面内均一性とを兼ね備えた薄型偏光膜を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の薄型偏光膜の製造方法は、熱可塑性樹脂基材を第1の方向に延伸した後、該熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、該積層体を第1の方向に収縮させて、第2の方向に延伸する工程とを含む。
好ましい実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、上記PVA系樹脂層を形成し、該乾燥温度が上記熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以下である。
好ましい実施形態においては、上記第1の方向と上記第2の方向とが直交する。
好ましい実施形態においては、上記積層体を搬送しながら収縮・延伸し、上記第1の方向がMDであり、上記第2の方向がTDである。
好ましい実施形態においては、上記積層体を搬送しながら収縮・延伸し、上記第1の方向がTDであり、上記第2の方向がMDである。
好ましい実施形態においては、積層体の第1の方向の収縮率が25%を超える。
好ましい実施形態においては、積層体の第2の方向の延伸倍率が4.0倍以上である。
本発明の別の局面によれば、光学積層体が提供される。この光学積層体は、上記薄型偏光膜の製造方法により製造された薄型偏光膜と、該薄型偏光膜の少なくとも片側に設けられた基材とを有する。
好ましい実施形態においては、上記基材が上記熱可塑性樹脂基材とは別の光学機能フィルムであり、該光学機能フィルムが接着剤層を介して上記薄型偏光膜の片側に設けられている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、予め、第1の方向に延伸処理を施した熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層とを有する積層体を第1の方向に収縮させて、第2の方向に延伸することにより、優れた光学特性と、優れた面内均一性とを兼ね備えた薄型偏光膜を製造することができる。具体的には、第1の方向に積層体を収縮させて、第2の方向に延伸することで、第2の方向の一軸性を高め得、優れた光学特性を得ることができる。また、第1の方向に延伸処理が施された熱可塑性樹脂基材は、第2の方向への延伸、熱等により、延伸前の状態に戻ろうとし得、第1の方向に均一に収縮させることができる。こうして、高い収縮率であっても、優れた面内均一性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】収縮・延伸工程の具体例を説明する概略図である。
【図2】収縮・延伸工程の別の具体例を説明する概略図である。
【図3】配向ムラの評価方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.薄型偏光膜の製造方法
本発明の薄型偏光膜の製造方法は、熱可塑性樹脂基材を第1の方向に延伸した後、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して積層体を作製する工程(積層体作製工程)と、積層体を第1の方向に収縮させて、第2の方向に延伸する工程(収縮・延伸工程)とを含む。以下、各々の工程について説明する。
【0009】
A−1.積層体作製工程
積層体は、熱可塑性樹脂基材を第1の方向に延伸した後、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成することにより作製される。熱可塑性樹脂基材は、PVA系樹脂層、得られる薄型偏光膜を片側から支持し得る限り、任意の適切な構成とされる。積層体は、代表的には、長尺状に形成される。
【0010】
熱可塑性樹脂基材の厚み(延伸前)は、好ましくは50μm〜250μmである。50μm未満であると、延伸時に破断するおそれがある。また、延伸後に厚みが薄くなり過ぎて、搬送が困難になるおそれがある。250μmを超えると、延伸機に過大な負荷が加わるおそれがある。また、搬送が困難になるおそれがある。
【0011】
熱可塑性樹脂基材の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、シクロオレフィン系樹脂(例えば、ノルボルネン系樹脂)、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0012】
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂の結晶化が急速に進まない温度での積層体の延伸を可能とし、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0013】
上述のように、PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材を第1の方向に延伸する。上記第1の方向は、所望の薄型偏光膜に応じて、任意の適切な方向に設定することができる。1つの実施形態においては、第1の方向は、熱可塑性樹脂基材の搬送方向(MD)である。搬送方向は、好ましくは、長尺状の熱可塑性樹脂基材の長尺方向であり、熱可塑性樹脂基材の長尺方向に対して反時計回りに−5°〜+5°の方向を包含し得る。別の実施例形態においては、第1の方向は、搬送方向に直交する方向(TD)である。搬送方向に直交する方向は、好ましくは、長尺状の熱可塑性樹脂基材の幅手方向であり、熱可塑性樹脂基材の長尺方向に対して反時計回りに85°〜95°の方向を包含し得る。なお、本明細書において、「直交」とは、実質的に直交する場合も包含する。ここで、「実質的に直交」とは、90°±5.0°である場合を包含し、好ましくは90°±3.0°、さらに好ましくは90°±1.0°である。
【0014】
熱可塑性樹脂基材の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に熱可塑性樹脂基材を通して一軸延伸する方法)でもよい。熱可塑性樹脂基材の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の熱可塑性樹脂基材の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。また、本工程における延伸方式は、特に限定されず、空中延伸方式でもよいし、水中延伸方式でもよい。
【0015】
熱可塑性樹脂基材の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、代表的には、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、好ましくはTg+10℃以上、さらに好ましくはTg+15℃〜Tg+30℃である。延伸方式として水中延伸方式を採用し、熱可塑性樹脂基材の形成材料として非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いる場合、延伸温度を熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(例えば、60℃〜100℃)より低くすることができる。
【0016】
熱可塑性樹脂基材の延伸倍率(第1の方向)は、熱可塑性樹脂基材の元長に対して、好ましくは1.5倍以上であり、さらに好ましくは1.75倍以上である。延伸倍率を1.5倍以上とすることにより、後述の積層体をより均一に収縮させることができる。一方、延伸倍率は、好ましくは2.5倍以下である。
【0017】
熱可塑性樹脂基材に、予め、表面改質処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。なお、表面改質処理および/または易接着層の形成は、上記延伸前に行ってもよいし、上記延伸後に行ってもよい。
【0018】
上記PVA系樹脂層の形成方法は、任意の適切な方法を採用することができる。好ましくは、延伸処理が施された熱可塑性樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する。
【0019】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂を用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた薄型偏光膜を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、塗布液がゲル化しやすく、均一な塗布膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0020】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0021】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドN−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0022】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用し得る。
【0023】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0024】
上記乾燥温度は、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以下であることが好ましく、さらに好ましくはTg−20℃以下である。このような温度で乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する前に熱可塑性樹脂基材が変形するのを防止して、得られるPVA系樹脂層の配向性が悪化するのを防止することができる。こうして、熱可塑性樹脂基材がPVA系樹脂層とともに良好に変形し得、後述の積層体の収縮および延伸を良好に行うことができる。その結果、PVA系樹脂層に良好な配向性を付与することができ、優れた光学特性を有する薄型偏光膜を得ることができる。ここで、「配向性」とは、PVA系樹脂層の分子鎖の配向を意味する。
【0025】
PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは3μm〜20μmである。このような薄い厚みでも、上記熱可塑性樹脂基材を用いることで良好に延伸することができる。PVA系樹脂層の含有水分率は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【0026】
A−2.収縮・延伸工程
次に、上記積層体を第1の方向に収縮させて、第2の方向に延伸する。予め、第1の方向に延伸処理を施した熱可塑性樹脂基材で積層体を構成することにより、熱可塑性樹脂基材は、第2の方向への延伸、熱等により、延伸前の状態に戻ろうとし得、積層体を第1の方向に均一に収縮させることができる。こうして、高い収縮率であっても、優れた面内均一性を得ることができる。また、積層体を収縮させて、第2の方向に延伸することで、第2の方向の一軸性を高め得、優れた光学特性を得ることができる。なお、第2の方向が、実質的に、得られる薄型偏光膜の吸収軸方向となる。
【0027】
積層体の収縮は、延伸と同時に行ってもよいし、別のタイミングで行ってもよい。また、その順序も限定されないし、積層体を一段階で収縮させてもよいし、多段階で収縮させてもよい。1つの実施形態においては、好ましくは、積層体を第1の方向に収縮させた後に、第2の方向に延伸する。別の実施形態においては、好ましくは、積層体を第2の方向に延伸しながら、第1の方向に収縮させる。延伸とは別に積層体を収縮させる方法としては、好ましくは、積層体を加熱する(熱収縮させる)方法が挙げられる。当該加熱温度は、好ましくは、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上である。
【0028】
積層体の第1の方向の収縮率は、任意の適切な値に設定することができる。好ましくは25%を超え、さらに好ましくは30%を超え50%未満である。このような収縮率とすることにより、より優れた光学特性を得ることができる。また、このような高い収縮率であっても、優れた面内均一性を得ることができる。なお、第1の方向については、上述のとおりである。
【0029】
上記第2の方向は、所望の薄型偏光膜に応じて、任意の適切な方向に設定することができる。好ましくは、第2の方向と上記第1の方向とは直交する。具体的には、上記第1の方向が熱可塑性樹脂基材の搬送方向(MD)である場合、第2の方向は、好ましくは、搬送方向に直交する方向(TD)である。上記第1の方向が搬送方向に直交する方向(TD)である場合、第2の方向は、好ましくは、搬送方向(MD)である。
【0030】
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。また、本工程における延伸方式は、特に限定されず、空中延伸方式でもよいし、水中延伸方式でもよい。
【0031】
積層体の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、代表的には熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、さらに好ましくはTg+15℃以上である。その一方で、積層体の延伸温度は、好ましくは170℃以下である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0032】
延伸方式として水中延伸方式を採用する場合、延伸温度は、好ましくは85℃以下、さらに好ましくは30℃〜65℃である。85℃を超えると、PVA系樹脂に吸着させたヨウ素が溶出する、PVA系樹脂が溶出する等の不具合が発生するおそれがあり、得られる薄型偏光膜の光学特性が低下するおそれがある。この場合、上記温度でも延伸可能な熱可塑性樹脂基材を選択する。好ましくは、その形成材料として、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂、オレフィン系樹脂(例えば、ポリメチルペンテン)等を用いる。
【0033】
水中延伸方式を採用する場合、積層体をホウ酸水溶液中で延伸することが好ましい。ホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得、剛性と耐水性を付与し得る。その結果、例えば、より高い偏光膜コントラスト比の実現を図ることができる。ホウ酸水溶液は、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、通常、1重量部〜10重量部である。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分程度である。
【0034】
積層体の延伸倍率(第2の方向)は、積層体の元長に対して、好ましくは4.0倍以上である。第1の方向に収縮させることにより、このような高い倍率での延伸が可能となり、優れた光学特性を有する薄型偏光膜を得ることができる。一方、一段延伸における延伸倍率の上限は、5.0倍程度である。積層体が破断するおそれがあるからである。
【0035】
収縮・延伸工程の具体例を図1に示す。図示例では、積層体10をその長尺方向に搬送しながら、同時二軸延伸機を用いて、積層体10を搬送方向(MD)に収縮させて、搬送方向に直交する方向(TD)に延伸する。具体的には、テンター入口の左右のクリップ21,21で把持された積層体10を、所定の速度で搬送しながらTD延伸する。図示例では、積層体の収縮は、例えば、クリップの搬送方向の移動速度を徐々に減速させ、クリップ間距離を縮めることにより制御する。テンター入口の搬送方向のクリップ間距離L1とテンター出口の搬送方向のクリップ間距離L2(クリップの搬送方向の移動速度)とを調整することにより、収縮率を制御することができる。具体的には、クリップのテンター出口の速度を、テンター入口の速度×収縮率とすることで、所望の収縮率を達成し得る。なお、図1において、破線はクリップ21のレールを示す。
【0036】
図1に示すように、同時二軸延伸機を用いて積層体の収縮・延伸を行う場合、好ましくは、積層体を収縮させた後に延伸する。具体的には、搬送方向のクリップ間距離を縮めた後にTD延伸する。このような実施形態によれば、延伸の際に積層体により均一に力がかかり、クリップ把持部が選択的に延伸されるのを防止することができる。具体的には、積層体端辺において、クリップで把持されない部分が内方に湾曲するのを防止することができる。その結果、均一性を高めることができる。
【0037】
収縮・延伸工程の別の具体例を図2に示す。図示例では、積層体10をその長尺方向に搬送しながら、積層体10を周速の異なるロール31,31,32,32間に通して、搬送方向(MD)に延伸する。その際、積層体は、第1の方向(TD)に収縮し得る。この収縮は、MD延伸によるネックインとMD延伸時の熱によるネックイン(熱収縮)とによると考えられる。本工程における延伸条件、上記熱可塑性樹脂基材の延伸条件等を制御することにより、収縮率を制御することができる。
【0038】
A−3.その他の工程
本発明の薄型偏光膜の製造方法は、上記以外に、その他の工程を含み得る。その他の工程としては、例えば、不溶化工程、染色工程、架橋工程、上記延伸とは別の延伸工程、洗浄工程、乾燥(水分率の調節)工程等が挙げられる。その他の工程は、任意の適切なタイミングで行い得る。
【0039】
上記染色工程は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質で染色する工程である。好ましくは、PVA系樹脂層に二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に染色液を塗布する方法、PVA系樹脂層に染色液を噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、二色性物質を含む染色液に積層体を浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。なお、積層体両面を染色液に浸漬させてもよいし、片面のみ浸漬させてもよい。
【0040】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、有機染料が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。二色性物質は、好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜1.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解性を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物塩を配合することが好ましい。ヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムである。ヨウ化物塩の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部〜15重量部である。
【0041】
染色液の染色時の液温は、好ましくは20℃〜40℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、好ましくは5秒〜300秒である。このような条件であれば、PVA系樹脂層に十分に二色性物質を吸着させることができる。
【0042】
上記不溶化工程および架橋工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記洗浄工程は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃である。
【0043】
B.薄型偏光膜
本発明の薄型偏光膜は、上記製造方法により作製される。本発明の薄型偏光膜は、実質的には、二色性物質を吸着配向させたPVA系樹脂膜である。薄型偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。薄型偏光膜の厚みは、好ましくは10μm未満であり、さらに好ましくは0.5μm〜5μmである。
【0044】
薄型偏光膜の使用方法は、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、上記熱可塑性樹脂基材と一体となった状態で使用してもよいし、熱可塑性樹脂基材から他の部材に転写して(熱可塑性樹脂基材を剥離して)使用してもよい。
【0045】
C.光学積層体
本発明の光学積層体は、上記薄型偏光膜と、薄型偏光膜の少なくとも片側に設けられ、薄型偏光膜を支持し得る基材とを有する。この基材としては、上記熱可塑性樹脂基材をそのまま用いてもよいし、上記熱可塑性樹脂基材とは別の光学機能フィルムを用いてもよい。光学機能フィルムの形成材料としては、例えば、上記熱可塑性樹脂と同様の材料が用いられる。これら以外にも、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂等が用いられる。
【0046】
光学機能フィルムは、好ましくは、接着剤層を介して薄型偏光膜の片側に設けられる。光学機能フィルムを設けることにより、カールを抑制することができる。光学機能フィルムの厚みは、好ましくは20μm〜100μmである。光学機能フィルムを用いる場合、予め、薄型偏光膜の片側に設けられている熱可塑性樹脂基材は、好ましくは、剥離される。カールをより確実に抑制できるからである。接着剤層は、任意の適切な接着剤で形成される。接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系接着剤が挙げられる。
【0047】
本発明の光学積層体(薄型偏光膜)は、収縮応力が小さく、高温環境下でも寸法安定性に優れ得る。また、単体透過率41%における偏光度は、好ましくは99.9%以上である。このように光学特性に優れ得る。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
<積層体の作製>
(熱可塑性樹脂基材)
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で厚み150μm、Tg123℃のシクロオレフィン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」)を用いた。
上記熱可塑性樹脂基材を、周速の異なるロール間に通して第1の方向(MD)に空中延伸した。このときの、延伸温度は140℃であり、延伸倍率は2.0倍であった。
(塗布液の調製)
重合度1800、ケン化度98〜99%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH−18」)を水に溶解させて、濃度7重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。
(PVA系樹脂層の形成)
延伸処理を施した熱可塑性樹脂基材の片面に、上記塗布液をダイコーター(ダイコート法)により塗布した後、100℃で180秒間乾燥して、厚み7μmのPVA系樹脂層を形成した。このようにして、積層体を作製した。
【0050】
<収縮・延伸処理>
得られた積層体を、図1に示すように、同時二軸延伸機を用いて、140℃で、第1の方向(MD)に50%収縮させると同時に、第2の方向(TD)に4.5倍に空中延伸した。具体的には、テンター入口の搬送方向のクリップ間距離L1:144mm、テンター出口の搬送方向のクリップ間距離L2:72mmとした。
【0051】
<染色処理>
次いで、積層体を、25℃のヨウ素水溶液(ヨウ素濃度:0.5重量%、ヨウ化カリウム濃度:10重量%)に30秒間浸漬させた。
【0052】
<架橋処理>
染色後の積層体を、60℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:5重量%、ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に60秒間浸漬させた。
【0053】
<洗浄処理>
架橋処理後、積層体を、25℃のヨウ化カリウム水溶液(ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に5秒間浸漬させた。
このようにして、熱可塑性樹脂基材上に、厚み3.1μmの薄型偏光膜を作製した。
【0054】
[実施例2]
上記熱可塑性樹脂基材をテンター延伸機にて第1の方向(TD)に固定端延伸したこと以外は実施例1と同様にして積層体を作製した。
得られた積層体を、周速の異なるロール間に通して、第1の方向(TD)に50%収縮させると同時に、第2の方向(MD)に4.5倍に空中延伸した。このときの、延伸温度は140℃であった。
その後、実施例1と同様にして、染色処理、架橋処理および洗浄処理を行い、熱可塑性樹脂基材上に厚み3.0μmの薄型偏光膜を作製した。
【0055】
[実施例3]
収縮・延伸処理において第1の方向の収縮率を35%(L1:111mm、L2:72mm)としたこと以外は、実施例1と同様にして薄型偏光膜を作製した。
得られた薄型偏光膜の厚みは、2.4μmであった。
【0056】
[実施例4]
収縮・延伸処理において第1の方向の収縮率を28%(L1:100mm、L2:72mm)としたこと以外は、実施例1と同様にして薄型偏光膜を作製した。
得られた薄型偏光膜の厚みは、2.2μmであった。
【0057】
(比較例1)
熱可塑性樹脂基材に延伸処理を施さなかったこと以外は、実施例1と同様にして薄型偏光膜を作製した。
得られた薄型偏光膜の厚みは、3.1μmであった。
【0058】
(比較例2)
熱可塑性樹脂基材に延伸処理を施さなかったこと以外は、実施例2と同様にして薄型偏光膜を作製した。
得られた薄型偏光膜の厚みは、3.0μmであった。
【0059】
(比較例3)
熱可塑性樹脂基材に延伸処理を施さなかったこと以外は、実施例3と同様にして薄型偏光膜を作製した。
得られた薄型偏光膜の厚みは、2.4μmであった。
【0060】
(比較例4)
熱可塑性樹脂基材に延伸処理を施さなかったこと以外は、実施例4と同様にして薄型偏光膜を作製した。
得られた薄型偏光膜の厚みは、2.2μmであった。
【0061】
(比較例5)
熱可塑性樹脂基材に延伸処理を施さなかったこと、および、収縮・延伸処理において第1の方向に収縮させなかった(収縮率を0%とした)こと以外は、実施例1と同様にして薄型偏光膜を作製した。
得られた薄型偏光膜の厚みは、1.6μmであった。
【0062】
(比較例6)
収縮・延伸処理において第1の方向に収縮させなかった(収縮率を0%とした)こと以外は、実施例1と同様にして薄型偏光膜の作製を試みた。
【0063】
各実施例および比較例で得られた薄型偏光膜(積層体)について評価を行った。評価方法および評価基準は、以下のとおりである。測定結果を表1に示す。
1.面内均一性
1−1.シワ
目視にてシワの有無を評価した。
(評価基準)
◎:シワ無し
○:端部にシワ有り
×:全面にシワ有り
1−2.配向ムラ
染色前の積層体にて評価した。図3に示すように、積層体(サンプル)の上下それぞれに市販の偏光板を重ね合わせた状態で下方から光を照射し、上方から目視にて配向ムラを評価した。その際、2枚の偏光板を、互いの吸収軸が平行となるように配置させた。また、積層体の第2の方向(延伸方向)が、偏光板の吸収軸に対して45°の角度をなすように配置させた。
(評価基準)
◎:配向ムラ無し
○:端部に配向ムラ有り
×:全面に配向ムラ有り
1−3.厚み分布
ダイヤルケージ(PEACOCK社製、製品名「DG−205 type pds−2」)を用いて、1450mm幅の幅方向(TD方向)の厚み分布を評価した。
(評価基準)
◎:±1μm以内
○:±2μm未満
×:±2μm以上
2.偏光度
分光光度計(村上色彩社製、製品名「Dot−41」)を用いて、薄型偏光膜(光学積層体)の単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)および直交透過率(Tc)を測定し、単体透過率41%における偏光度(P)を次式にて求めた。なお、これらの透過率は、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。
偏光度(P)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
(評価基準)
◎:99.95%以上
○:99.93%以上
×:99.8%以下
【0064】
【表1】

【0065】
実施例1〜4および比較例1〜4から、積層体の収縮率が高いほど、光学特性により優れた薄型偏光膜が得られることがわかる。一方で、熱可塑性樹脂基材に延伸処理を施さなかった比較例1〜4では、面内均一性が低く、シワも発生した。具体的には、積層体端部の方が中央部に比べて収縮率が大きくなり、均一に収縮されなかった。実施例1〜4と比較例1〜4とをそれぞれ比較すると、予め、熱可塑性樹脂基材に延伸処理を施すことにより、優れた光学特性と、優れた面内均一性とを兼ね備えた薄型偏光膜が得られることがわかる。
【0066】
比較例5から、第1の方向に収縮させて、第2の方向に延伸することにより、光学特性に優れた薄型偏光膜が得られることがわかる。これは、第1の方向に収縮させることにより、第2の方向の一軸性が高くなったためと考えられる。なお、比較例6では、第2の方向に4.5倍まで延伸することができなかった。
【0067】
[実施例5]
実施例3で得られた薄型偏光膜表面に、ビニルアルコール系接着剤を介して厚み80μmの基材(富士フイルム社製、商品名「TD80UL」)を貼り合わせた後、上記熱可塑性樹脂基材を剥離して光学積層体を得た。
【0068】
実施例1〜5および比較例1〜5の光学積層体のカールの度合いを測定した。具体的には、得られた光学積層体から試験片(縦10cm×横10cm)を切り出した。得られた試験片をその凸面が下側になるようにガラス板に載置して、ガラス板から試験片の4つの角の高さをそれぞれ測定した。4角のうち一番大きい値で評価した。
実施例1〜4および比較例1〜5では高さが20mm以上であったのに対し、実施例5では高さが10mm未満と、カールが良好に抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の薄型偏光膜は、液晶テレビ、液晶ディスプレイ、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、カーナビゲーション、コピー機、プリンター、ファックス、時計、電子レンジ等の液晶パネルに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0070】
10 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂基材を第1の方向に延伸した後、該熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、
該積層体を第1の方向に収縮させて、第2の方向に延伸する工程と
を含む、薄型偏光膜の製造方法。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、前記ポリビニルアルコール系樹脂層を形成し、該乾燥温度が前記熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以下である、請求項1に記載の薄型偏光膜の製造方法。
【請求項3】
前記第1の方向と前記第2の方向とが直交する、請求項1または2に記載の薄型偏光膜の製造方法。
【請求項4】
前記積層体を搬送しながら収縮・延伸し、前記第1の方向がMDであり、前記第2の方向がTDである、請求項1から3のいずれかに記載の薄型偏光膜の製造方法。
【請求項5】
前記積層体を搬送しながら収縮・延伸し、前記第1の方向がTDであり、前記第2の方向がMDである、請求項1から3のいずれかに記載の薄型偏光膜の製造方法。
【請求項6】
積層体の第1の方向の収縮率が25%を超える、請求項1から5のいずれかに記載の薄型偏光膜の製造方法。
【請求項7】
積層体の第2の方向の延伸倍率が4.0倍以上である、請求項1から6のいずれかに記載の薄型偏光膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の薄型偏光膜の製造方法により製造された薄型偏光膜と、
該薄型偏光膜の少なくとも片側に設けられた基材とを有する、光学積層体。
【請求項9】
前記基材が前記熱可塑性樹脂基材とは別の光学機能フィルムであり、該光学機能フィルムが接着剤層を介して前記薄型偏光膜の片側に設けられている、請求項8に記載の光学積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−78796(P2012−78796A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180312(P2011−180312)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】