説明

薄板検査装置

【課題】薄板である測定対象物の形状等のバラツキや支持手段の設置位置に関わらず、測定対象物のクラックの有無の検知について安定した測定を可能とする薄板検査装置を得る。
【解決手段】振動板12から放射される音波によって、測定対象物50は、音圧の疎密に伴い、浮力を得て、その全体が加振され、変位量Δr2で振動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板に発生したクラックを安定に検知する薄板検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体基板等の薄板形状の測定対象物に振動を与えて、発生した音を解析することによってクラック(欠陥)を検知する技術がある。その一例として、支持手段に設置された基板に打撃を与えることにより打音を発生させ、発生した音圧及び振動を検知し、その検知した特徴量について解析を実施することによって、基板のクラックの有無を判定する薄板の非破壊検査装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−333436号公報(実施例1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている非破壊検査装置においては、測定対象物を支持して、ある特定点のみに対し加振し、測定対象物のクラックの有無に基づく振動及び音圧の違いからクラックを検知するようにしている。しかしながら、特定点のみの加振では、振動は横波が主となり、加振点から伝播するため、薄板の厚さ若しくは反りといった形状又は支持手段の設置位置によって伝播の仕方に大きなバラツキが生じると共に、支持手段近傍等で振動の伝播が弱められ、その結果、クラックが有る場合も無い場合も解析される特徴量に差が現れず、クラックを検知できない場合があるという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、薄板である測定対象物の形状等のバラツキや支持手段の設置位置に関わらず、測定対象物のクラックの有無の検知について安定した測定を可能とする薄板検査装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る薄板検査装置は、クラックの有無の検知対象となる板状の測定対象物を載置させる支持部と、前記測定対象物との間に空気層を介し、前記支持部に載置された前記測定対象物と接触しないで、該測定対象物を振動させる加振部と、前記測定対象物が振動することによって発生する音を検出し、その音情報に基づいて、前記測定対象物のクラックの有無を検知するクラック有無判断部と、を備え、前記加振部は、前記測定対象物の該加振部と対向している面と略垂直方向に前記測定対象物全体を振動させるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加振部によって、測定対象物に接触せずに測定対象物全体に縦波を主とする均一な振動を与えることができ、測定対象物の形状及び支持手段の設置位置に関わらず、測定対象物のクラックの有無の検知について安定した測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100において検査対象となる測定対象物50の振動の原理の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100において検査対象となる測定対象物50が振動によって異音を発生する原理の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100において検査対象となる測定対象物50から発生する音のFFT処理後の波形の例を示すものである。
【図5】本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100における音響エネルギー解析部15によってFFT処理された音圧レベル波形の、測定対象物50の変位量Δr2の変動に伴う変化を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100における音響エネルギー解析部15によってFFT処理された音圧レベルの平均値の、測定対象物50の変位量Δr2の変動に伴う変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
(薄板検査装置100の構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100の概略構成図である。以下、図1を参照しながら、薄板検査装置100の構成について説明する。また、図1を含め、以下の図面においては、各構成部材同士の大きさの関係を限定するものではなく、実際のものとは異なる場合がある。
【0010】
本実施の形態に係る薄板検査装置100は、少なくとも、薄板である測定対象物50に対して超音波を放射する超音波発生部20、測定対象物50を固定させずに設置させる支持手段21、超音波発生部20によって加振された測定対象物50から発生する音を検出して解析するクラック有無判断部22によって構成されている。
なお、超音波発生部20は、本発明の「加振部」に相当する。
【0011】
超音波発生部20は、少なくとも、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電素子10aが設けられた振動部10、その振動部10の下面に取り付けられ、円錐台形状に構成されたホーン11、そのホーン11の下面に固着され、金属板(剛体)で構成された振動板12、及び、圧電素子10aにパルス電圧を印加する発振部13によって構成されている。
【0012】
支持手段21は、少なくとも、錐状の先端に測定対象物50を固定させずに設置させる錐状突起部17、バネ等の弾性体によって構成され、錐状突起部17の下部に固定された振動緩衝部18、及び、その振動緩衝部18の他端が固定される設置台19によって構成されている。
なお、この支持手段21によって、測定対象物50を下から支持するために、錐状突起部17及び振動緩衝部18はそれぞれ3つ以上備えているものとすればよい。
【0013】
クラック有無判断部22は、超音波発生部20から照射される超音波により支持手段21に支持された測定対象物50が振動することによって発生する音を検出する音検出装置14、及び、その音検出装置14によって検出された音の音響エネルギーを解析する音響エネルギー解析部15によって構成されている。
【0014】
振動部10は、15kHz〜45kHz帯域内に共振周波数f0を有する圧電素子10aを挟み込んで備えており、その圧電素子10aで発生した振動を伝播する金属(剛体)によって形成されている。
【0015】
圧電素子10aは、正電極端子及び負電極端子を介して発振部13に接続され、その発振部13から印加されるパルス電圧によって振動する。このとき、圧電素子10aは、発振部13から共振周波数f0近傍のパルス電圧が印加されることによって、共振周波数f0近傍にピークを有する振動を発振する。
【0016】
ホーン11は、圧電素子10aを備えた振動部10から発生する振動の振幅を増幅する機能を有し、両端面が開口され、内部に振動部10からの振動を増幅して伝播させる音響通路が形成され、そして、振動部10と振動板12との間に挟持されている。また、ホーン11は、円錐台形状に構成され、振動部10側から振動板12に向けて徐々に縮径されているのが好ましい。
【0017】
振動板12は、金属板(剛体)によって構成され、ホーン11の両端の開口部のうち、振動部10側に固定された一方の開口部の反対側の開口部にネジ止め又は接着等によって固着されている。また、振動板12は、振動部10から発生する振動の振動エネルギーがホーン11を介して伝播され、振動部10の振動と共振して強力な共振波を発生する。このとき、振動板12は、振動部10の圧電素子10aが共振周波数f0で振動することによって、同様に共振周波数f0によって共振するように構成されている。図1で示されるように、上記のような振動板12による振動の幅を、変位量Δr1とする。また、振動板12は、振動によってその両面(ホーン11側の面及びその反対側の面)の全体から超音波の音響流を放射する。また、振動板12は、振動部10から発生する高周波数の振動の「腹」の部分に当たるように固着するようにすれば、特定の振動モードで振動することになり、振動板12と測定対象物50との間には、空気の疎密を繰り返す定在波による音響流が発生する。また、この振動板12の平面の面積である板面積は、測定対象物50の板面積以上であるものとする。これによって、振動板12の振動によって、測定対象物50全体に縦波を主とする均一な振動による音波を与えることができ、測定対象物50の形状及び支持手段21の設置位置に関わらず、測定対象物50のクラックの有無の検知について安定した測定が可能となる。
【0018】
なお、図1で示されるように、振動部10と振動板12との間にホーン11が設置される構成としているが、これに限定されるものではなく、ホーン11を設けず、振動板12を振動部10に直接取り付けるものとしてよい。例えば、振動板12を密度が小さく弾性の高い素材であるアルミ等の軽量な素材によって構成し、さらに、圧電素子10aが、発振部13からより高電圧なパルス電圧を印加さえることによって、ホーン11無しでも高周波数の音波を放射することが可能であり、ホーン11が必ずしも必要というわけではない。
【0019】
測定対象物50は、例えば、シリコン基板又は太陽電池用セル等の半導体ウェハ基板、又は、金属材料等の薄い板状のものであるとする。この測定対象物50は、振動板12と音検出装置14との間の空気層において、振動板12におけるホーン11が設置された面とは反対側の面に対向するように、支持手段21における錐状突起部17の上に固定されずに載置されている。そして、測定対象物50は、振動板12から放射される超音波を受けて振動する。図1で示されるように、上記のような測定対象物50による振動の幅を、変位量Δr2とする。また、錐状突起部17は、バネ等の弾性体である振動緩衝部18及びその振動緩衝部18が設置される設置台19によって支持され、測定対象物50に接して支持する先端部分が錐状に形成されたものである。このように測定対象物50が支持手段21に支持されることによって、測定対象物50と錐状突起部17との接触面積を小さくし、振動板12からの超音波によって測定対象物50が振動する動作に対する支持手段21の影響を小さくすると共に、測定対象物50の振動を振動緩衝部18によって受け止めることによって、測定対象物50と支持手段21との間で生じる衝突を抑制し、測定対象物50を傷つけることなく、かつ、測定対象物50と支持手段21との接触による雑音発生の抑制が可能となる。
【0020】
音検出装置14は、例えば、マイクロホン、音センサー、超音波センサー、又はこれらのいずれかを組み合わせたものによって構成され、振動板12から放射される超音波によって振動する測定対象物50から発生する音を検出する。この音検出装置14によって検出された音情報は、音響エネルギー解析部15に送信される。
【0021】
なお、図1で示されるように、音検出装置14は、1つだけ備えられる構成としているが、これに限定されるものではなく、複数備えられる構成としてもよい。このように音検出装置14が複数備えられることによって、音検出装置14を1個設ける場合よりも、測定対象物50におけるクラックの検知範囲が広範囲となり、さらに、測定対象物50に発生したクラックの位置を決定できる等、クラック検知精度を向上させることができる。
また、それぞれ感度の異なる音検出装置14を複数設けるものとしてもよく、この場合、測定対象物50に存在するクラックの大きさを、ある程度把握できることができる。
【0022】
音響エネルギー解析部15は、音検出装置14から受信した測定対象物50からの音情報に基づいて、その音の音響エネルギーを解析するものである。このとき、音響エネルギー解析部15は、例えば、その音情報に対してFFT(Fast Fourier Transform)処理を実施し、その音の音圧レベルを周波数の関数に変換することによって、その音の音響エネルギーを解析し、測定対象物50におけるクラックの有無を検知する。この音響エネルギー解析部15による測定対象物50におけるクラックの検知動作の詳細は、後述する。
【0023】
なお、この音響エネルギー解析部15によってクラックの有無を検知する場合、その検知結果を報知する報知手段を設けてもよい。
【0024】
(薄板検査装置100によるクラック検知動作)
図2は、本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100において検査対象となる測定対象物50の振動の原理の説明図であり、図3は、同測定対象物50が振動によって異音を発生する原理の説明図であり、そして、図4は、同測定対象物50から発生する音のFFT処理後の波形の例を示すものである。以下、図2〜図4を参照しながら、薄板検査装置100によるクラック検知動作について説明する。
【0025】
まず、薄板検査装置100による検査対象である測定対象物50が、支持手段21に載置される。次に、発振部13は、圧電素子10aに対して、圧電素子10a及び振動板12の共振周波数f0近傍のパルス電圧を印加する。これによって、圧電素子10aは、印加されたパルス電圧によって、共振周波数f0近傍の周波数で振動し、この圧電素子10aを挟持した振動部10にその振動が伝播する。この振動部10の振動は、ホーン11によってその振幅が増幅され、振動板12に伝播する。そして、振動板12は、その全体が変位量Δr1で共振し、その共振に伴う高い音圧レベルを有する超音波が振動板12全体から放射される。この振動板12から放射された超音波は、音響流となり、図2で示されるように、空気中に音圧の疎密を作り出す。特に、振動板12から放射される音波が、一定の音圧レベルを超えると、測定対象物50は、音圧の疎密に伴い、浮力を得て、その全体が加振され、変位量Δr2で振動することになる。
【0026】
ここで、圧電素子10a及び振動板12の共振周波数f0は、以下の(1)及び(2)の理由によって、15kHz〜45kHz帯域内となるようにするとよい。
【0027】
(1)15kHz未満だと人間の可聴領域となるため、人間の聴覚で感じ取ることが可能となり、使用者に不快感を与える可能性がある。
(2)45kHzを超えると周波数が大き過ぎて、十分な振幅が得られないため、音圧レベルが低下することになる。
【0028】
次に、図2を参照しながら、測定対象物50が振動板12によって放射される超音波が生成する音圧の疎密によって振動する原理を説明する。
測定対象物50によって、振動するのに必要なエネルギーは異なるが、測定対象物50が、例えば、半導体ウェハ又は太陽電池用セルである場合、その振動には130dB以上の音圧レベルが必要であることがわかっている。そこで、本実施の形態に係る薄板検査装置100における超音波発生部20は、130dB以上の音圧レベルの超音波が発生できるように構成されている。前述したように、振動板12から放射される超音波は、空気中にゆらぎを発生させ、超音波の波長に伴って、空気中に音圧(気圧)の「疎」の部分(減圧される部分)と「密」の部分(加圧される部分)とを生成する。つまり、「疎」の部分から「密」の部分に向かって空気の移動が発生する。これによって、支持手段21上に載置された測定対象物50は、振動板12から放射される超音波の音圧によって浮力を得て、測定対象物50にかかる重力とその浮力とのバランスによって、その全体が振動することになる。この場合、振動板12は、測定対象物50の上面、すなわち、測定対象物50における振動板12と対向する面が「密」の部分と近くなるように設置する必要がある。これは、測定対象物50における振動板12と対向する面と反対側の面が「密」の部分に近いと、測定対象物50において重力方向に空気の移動が発生するため、測定対象物50は、支持手段21に押し付けられる状態となり、測定対象物50の振動は抑制されてしまうためである。
【0029】
以上のように、振動板12が放射する超音波によって、測定対象物50が振動すると、測定対象物50から音波である弾性波が発生する。ここで、固体中(自由音場)に生じる弾性波の縦波の伝播速度を下記の式(1)に、そして、固体中(自由音場)に生じる弾性波の横波の伝播速度を下記の式(2)に示す。
【0030】
Cp=√[{E・(1−σ)}/{ρ・(1+σ)・(1−2σ)}] (1)
Cs=√[E/{ρ・2(1+σ)}] (2)
(Cp:縦波の伝播速度、Cs:横波の伝播速度、E:ヤング率、ρ:密度、σ:ポアソン比)
【0031】
固体内部には縦波及び横波が伝播するが、固体内部ではポアソン比σは0.3程度が一般的であり、横波に比べて縦波の伝播速度の方が速くなる。測定対象物50におけるクラックの有無は、ヤング率Eの値を変化させるため、クラック有無による変化は、横波の伝播速度よりも縦波の伝播速度の方が大きく影響を受けるということが上記の式(1)及び式(2)から明らかとなる。また、空気を媒質とする振動は、空気中に気圧の疎密を作る縦波として伝播するため、振動板12から放射される超音波は、固体である測定対象物50に対しても縦方向の振動を与えやすいことになる。つまり、測定対象物50におけるクラックの有無は、測定対象物50からの音波である弾性波の伝播の仕方に大きく影響を与える。
【0032】
次に、図3を参照しながら、クラックを有する測定対象物50が振動することによって、異音(ビビリ音)が発生する原理を説明する。図3においては、測定対象物50においてクラックが発生している状態が示されている。また、図3(a)は、測定対象物50のクラック部分の断面図を示し、図3(b)は、その断面図のクラック部分の拡大図を示している。
【0033】
図3(a)で示されるように、測定対象物50において、クラックを境にして右側部分をエリアA、そして、左側部分をエリアBとする。また、エリアAの幅、すなわち、クラックから測定対象物50の右端部までの距離をaとし、エリアBの幅、すなわち、クラックから測定対象物50の左端部までの距離をb(>a)とする。このとき、超音波発生部20から放射される超音波によって、測定対象物50におけるエリアAが振動する場合の振動周波数をfaとし、エリアBが振動する場合の振動周波数をfbとする。
【0034】
図3(b)で示されるように、超音波発生部20が放射する超音波によってクラックを有する測定対象物50が縦方向に振動する場合、基本的にはエリアA及びエリアB共に振動するが、クラックを境にして、エリアAとエリアBとのヤング率に相違が発生し、振動周波数が異なることになる。このとき、エリアAにおける距離aの方が、エリアBにおける距離bよりも小さいため、エリアAの振動周波数faは、エリアBの振動周波数fbよりも高くなる。また、測定対象物50におけるクラックから両端部までの距離に関わらず、エリアA及びエリアBの振動には位相差φも生じる。このように、クラックを境にしたエリアAとエリアBとの振動周波数の相違、又は、振動の位相差によって、クラック部分が擦れ、異音(ビビリ音)が発生するのである。
【0035】
次に、図4を参照しながら、クラック有無判断部22が測定対象物50から発生する音を検出して解析し、測定対象物50のクラックの有無を判定する動作を説明する。
前述のように、測定対象物50が発生する音は、クラック有無判断部22における音検出装置14によって検出される。音検出装置14によって検出された音情報は、音響エネルギー解析部15に送信される。音響エネルギー解析部15は、この音情報をFFT処理し、音の音圧レベルを周波数の関数に変換する。このFFT処理によって、測定対象物50からの音が有する様々な周波数成分において、それぞれの周波数成分の音圧レベルの大小がわかるようになる。図4は、この音響エネルギー解析部15によってFFT処理された周波数の関数である音圧レベルの波形を示すものである。この図4のうち、図4(a)は、測定対象物50にクラックがない場合の音圧レベルの波形を示し、図4(b)は、測定対象物50にクラックがある場合の音圧レベルの波形を示すものである。この図4においては、横軸が振動周波数[Hz]を示し、縦軸がレスポンス(音圧レベル)[dB]を示している。
【0036】
図4(a)で示されるように、測定対象物50にクラックが発生していない場合には、振動板12が共振周波数f0で振動しているときに(ア)で示された測定対象物50から主波長であるピーク周波数(発振周波数Fs)の音波が発生し、それ以外の(イ)で示される周波数領域には、周波数の変化は見られない。ここで、図4(a)で示される音圧レベルの波形と、その波形のうち(イ)で示される周波数領域の音圧レベルを平均したものを示す線Pとを比較すると、測定対象物50の発振周波数Fs近傍部分のみ線Pを超えるが、それ以外の周波数領域においてはこの線Pを超えない。
【0037】
一方、図4(b)で示されるように、測定対象物50にクラックが発生している場合には、振動板12が共振周波数f0で振動しているときに(ア)で示された測定対象物50から主波長であるピーク周波数(発振周波数Fs)の音波が発生する他、それ以外の(ウ)で示される周波数領域には複数のピーク周波数成分が現れる。このように、測定対象物50から複数のピーク周波数成分を有する音波が放射されることによって、いわゆるビビリ音と呼ばれる異音が発生することになる。このとき、図4(b)で示される音圧レベルの波形と、その波形のうち(ウ)で示される周波数領域の音圧レベルを平均したものを示す線Qとを比較すると、発振周波数Fs近傍部分が線Qを超えるのみならず、(ウ)で示される周波数領域の複数のピーク周波数成分のうち、線Qを超えるものがいくつか発生する。また、図4(b)で示されるように、線Qは、ピーク波形を有する(ウ)の周波数領域で音圧レベルが平均化されたものなので、線Pよりも高い値となっている。
【0038】
音響エネルギー解析部15は、例えば、音圧レベル波形を平均化した前述の線Q(クラックが発生していない場合は線P)を演算し、この線Qを閾値として、この閾値を超えるピーク波形が、図4(b)における(ア)で示される発振周波数Fsにおけるピーク波形以外に存在すると判定した場合、測定対象物50にクラックが発生していると判定するものとすればよい。また、音響エネルギー解析部15によってFFT処理された音圧レベル波形の周波数の測定帯域を特に限定するものではないが、例えば、音検出装置14によって検出可能な5kHz〜80kHzの帯域とすればよい。
【0039】
以上のように、音検出装置14によって検出された音を、音響エネルギー解析部15によってFFT処理して周波数応答として解析することによって、測定対象物50におけるクラック有無を容易に判定することができる。
【0040】
なお、上記のように音響エネルギー解析部15による判定の閾値を、周波数の関数として示される音圧レベルを平均化した図4(b)で示される線Qとしたが、これに限定されるものではなく、音響エネルギー解析部15は、測定対象物50にクラックが発生していない場合の測定結果から、予め閾値(例えば、線P)を定めておき、この閾値に基づいて、クラックの有無を判定してもよく、あるいは、任意に定めた所定の閾値に基づいて、クラックの有無を判定するものとしてもよい。
【0041】
また、音響エネルギー解析部15に接続された表示装置を備えるものとしてもよく、この表示装置が、音響エネルギー解析部15によってFFT処理が実施され、周波数の関数として示された音圧レベルの波形、及び、その波形から測定対象物50におけるクラックの有無の判定結果を表示させるものとしてもよい。これによって、人間の視覚によって容易に測定対象物50におけるクラックの有無の判定結果を認識することができる。また、測定対象物50から発生する異音(ビビリ音)によって、人間の聴覚によってもある程度、クラックの有無が判定できるが、クラックによる異音(ビビリ音)が人間の聴覚では聞き取ることのできない超音波領域にある場合、この表示装置を備えることによって、音圧レベル波形とクラックの判定結果が容易に目視によって確認することができる。
【0042】
(変位量Δr2の変動に伴う音圧レベル波形の変化)
図5は、本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100における音響エネルギー解析部15によってFFT処理された音圧レベル波形の、測定対象物50の変位量Δr2の変動に伴う変化を示す図である。
図5で示される実線の音圧レベルの波形は、測定対象物50の変位量Δr2が最小値である場合のものであり、そして、破線の音圧レベルの波形は、変位量Δr2が最大値である場合のものである。図5で示されるように、変位量Δr2が最小値である場合の音圧レベルの波形も、最大値である場合の音圧レベルの波形も、その発振周波数Fsは共通であり、変位量Δr2の変動に影響を受けない。したがって、測定対象物50におけるクラックの有無の検知範囲を、図5で示されるように、例えば、変位量Δr2の変動に伴う音圧レベル波形の変化部分とは異なる周波数帯域における検知範囲cとした場合、音響エネルギー解析部15による測定対象物50におけるクラックの有無の検知動作は、変位量Δr2の変動によって影響を受けない。すなわち、音響エネルギー解析部15は、測定対象物50の変位量Δr2の変動に関わらず、クラックの有無の検知が可能となる。
【0043】
(変位量Δr2の変動に伴う音圧レベル波形の平均値の変化)
図6は、本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100における音響エネルギー解析部15によってFFT処理された音圧レベルの平均値の、測定対象物50の変位量Δr2の変動に伴う変化を示す図である。
測定対象物50の変位量Δr2については、その形状等によってバラツキがあり、この変位量Δr2のいかなる値(すなわち最小値と最大値との間の範囲)においても、クラックを有する測定対象物50の音圧レベルの平均値は、クラックのない良品の測定対象物50の音圧レベルの平均値よりも上回っている。すなわち、測定対象物50の形状等のバラツキ等に起因して変位量Δr2が変動しても、例えば、前述の閾値を図4で示される線Pとしても、音響エネルギー解析部15によるクラックの有無の検知が可能であることがわかる。
【0044】
(実施の形態1の効果)
以上の構成及び動作のように、振動板12の振動によって、測定対象物50全体に縦波を主とする均一な振動による音波を与えることができ、測定対象物50の形状及び支持手段21の設置位置に関わらず、測定対象物50のクラックの有無の検知について安定した測定が可能となる。
【0045】
また、測定対象物50と錐状突起部17との接触面積を小さくし、振動板12からの超音波によって測定対象物50が振動する動作に対する支持手段21の影響を小さくすると共に、測定対象物50の振動を振動緩衝部18によって受け止めることによって、測定対象物50と支持手段21との間で生じる衝突を抑制し、測定対象物50を傷つけることなく、かつ、測定対象物50と支持手段21との接触による雑音発生の抑制が可能となる。
【0046】
また、音検出装置14によって検出された音を、音響エネルギー解析部15によってFFT処理して周波数応答として解析することによって、測定対象物50におけるクラック有無を容易に判定することができる。
【0047】
そして、測定対象物50の形状等のバラツキによる変位量Δr2の変動に関わらず、音響エネルギー解析部15による測定対象物50のクラックの有無の検知動作が可能となる。
【0048】
なお、上記の構成のように、超音波発生部20の振動板12から超音波を測定対象物50に向けて放射するものとしたが、必ずしも超音波を用いる必要はなく、測定対象物50全体に縦波を主とする均一な振動を与えることができる音波を放射できるものとすれば、測定対象物50のクラックの有無の検知は可能である。ただし、振動板12から放射する音波を超音波とすることによって、人間の聴覚で感じ取れることはなく、使用者に不快感を与えることがない。
【符号の説明】
【0049】
10 振動部、10a 圧電素子、11 ホーン、12 振動板、13 発振部、14 音検出装置、15 音響エネルギー解析部、17 錐状突起部、18 振動緩衝部、19 設置台、20 超音波発生部、21 支持手段、22 クラック有無判断部、50 測定対象物、100 薄板検査装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の測定対象物が載置される支持部と、
前記測定対象物との間に空気層を介して、該測定対象物に向かって音波を放射し、該音波によって該測定対象物を振動させる加振部と、
前記測定対象物が振動することによって発生する音を検出し、その音情報に基づいて、前記測定対象物のクラックの有無を検知するクラック有無判断部と、
を備え、
前記加振部は、前記測定対象物の前記加振部と対向している面と略垂直方向に前記測定対象物全体を振動させる
ことを特徴とする薄板検査装置。
【請求項2】
前記加振部は、前記測定対象物に対向し、振動することによって前記測定対象物に向かって音波を放射する振動板と、圧電素子を有し、該圧電素子の振動を前記振動板に伝播させる振動部と、前記圧電素子にパルス電圧を印加して該圧電素子を振動させる発振部と、を備えた
ことを特徴とする請求項1記載の薄板検査装置。
【請求項3】
前記振動板と前記振動部との間に設置され、前記振動部から前記振動板に向かって徐々に径が小さくなる円錐台形状に形成されたホーンを備え、
該ホーンは、前記振動部から発生する振動を増幅させて、該振動を前記振動板に伝播させる
ことを特徴とする請求項2記載の薄板検査装置。
【請求項4】
前記振動板の板面積は、前記測定対象物の板面積よりも大きい
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の薄板検査装置。
【請求項5】
前記振動板は、放射する音波によって該振動板と前記測定対象物との間の空気層において生成される気圧が高い部分及び低い部分のうち、気圧が高い部分が前記測定対象物の前記振動板に対向する面側近傍に位置するように音波を放射する
ことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか一項に記載の薄板検査装置。
【請求項6】
前記振動板が放射する音波は、15kHz以上45kHz以下の超音波である
ことを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれか一項に記載の薄板検査装置。
【請求項7】
前記支持部は、弾性体によって支持された先端が錐状の複数の突起部を備え、
前記測定対象物は、前記突起部に載置される
ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の薄板検査装置。
【請求項8】
前記クラック有無判断部は、前記測定対象物からの前記音情報に対して、FFT処理を実施して前記音情報の音圧レベルを周波数の関数である音圧レベル波形に変換し、所定の閾値と前記音圧レベル波形における音圧レベルの大きさとを比較することによって、前記測定対象物のクラックの有無を検知する
ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の薄板検査装置。
【請求項9】
前記クラック有無判断部は、前記測定対象物の前記音圧レベル波形のうち発振周波数に相当するピーク波形部分を除いた波形部分において、音圧レベルの平均値を算出し、該平均値を前記閾値とする
ことを特徴とする請求項8記載の薄板検査装置。
【請求項10】
前記クラック有無判断部は、前記測定対象物の前記音圧レベル波形のうち、発振周波数に相当するピーク波形部分を除いた波形部分において、前記閾値より大きい音圧レベルが存在する場合、前記測定対象物においてクラックがあると判定する
ことを特徴とする請求項8又は請求項9記載の薄板検査装置。
【請求項11】
前記クラック有無判断部は、前記測定対象物の前記音圧レベル波形のうち、該測定対象物の変位量の変動に伴って該音圧レベル波形形状が変化する発振周波数近傍の波形部分に対応する周波数領域を除いた周波数領域において、前記閾値に基づいて前記測定対象物のクラックの有無を検知する
ことを特徴とする請求項8又は請求項9記載の薄板検査装置。
【請求項12】
前記クラック有無判断部によってもとめられた前記測定対象物の前記音圧レベル波形、及び、該測定対象物のクラックの有無の検知結果を表示する表示装置を備えた
ことを特徴とする請求項8〜請求項11のいずれか一項に記載の薄板検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−103034(P2012−103034A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249556(P2010−249556)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】