説明

薄肉球状黒鉛鋳鉄鋳物

【課題】特別な装置や工程を必要とする鋳造方法を使用することなく、特別なRE、Bi等の添加剤の使用もなく、肉厚3.0mm以下の球状黒鉛鋳鉄鋳物を鋳放しでチルなし組織の鋳物を得る。
【解決手段】球状黒鉛鋳鉄鋳物を鋳放しで、鋳造する際、質量%Mg:0.013〜0.030%、Cu:1.8〜3.3%、Sn:0.01〜0.05%を含有する溶湯を用い、
2.5μm以上の粒径の黒鉛粒数を肉厚3.0mm以下の部分で1300個/mm以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄物の球状黒鉛鋳鉄鋳物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛鋳鉄は、優れた強度を有し、黒鉛を含有するため鋼に比べ被削性や減衰能性、耐磨耗に優れ、自動車部品や機械部品、土木部品等、種々の用途に広く使用されるに至っている。世界規模で省エネルギーや二酸化炭素排出量の削減等、環境保全が急務となり、鋳造品にも極限的薄肉化による軽量化が強く求められている。
【0003】
従来の球状黒鉛鋳鉄鋳物では厚さは通常3.5mm程度が限界とされてきたが、軽量化のために球状黒鉛鋳鉄鋳物を3.0mm以下に薄肉化することが求められている。薄肉化すると鋳造時に薄肉部の冷却速度が速くなりチル組織が発生し、強度低下をきたす。これを解消するためには熱処理でチルを消す必要が生じ経済性の面で問題がある。また、熱処理すると薄肉のためひずみが生じるという問題があった。
【0004】
特開2007‐204815号公報(特許文献1)では、鋳鉄溶湯の酸素量と硫黄量を同時に低減させ肉厚3ミリ以下の球状黒鉛鋳鉄をチルなしで製造することを特徴とし、肉厚2ミリでの黒鉛粒数が900個/mm以上の高靱性薄肉球状黒鉛鋳鉄が開示されている。これは脱酸及び脱硫処理を行うため、実施装置が複雑になりコスト高となる欠点がある。
【0005】
鋳造工学Vol・74号30〜35頁(非特許文献1)では、MgSの黒鉛核生成についての検証を行い、肉厚2ミリで粒径2.5μm以上で計測し、最大1100〜1300個/mmの黒鉛粒数が得られ、SとMgの含量を上げることで最大値1300個/mmとなり、チル組織を発生させないための最低黒鉛粒数は1100〜1300個/mm以上と報告されている。しかし、これはSの増加にあわせてMgを増加させることになり、引け巣欠陥の増大をきたすという問題がある。
【0006】
また岩手大学工学部では、薄肉球状黒鉛鋳鉄のチル化を低減する方法として「希土類元素による鋳放し球状黒鉛鋳鉄の機械的性質」の論文(参考文献)で、鋳鉄中のS量に対し化学量的なRE(希土類元素)を添加することによりREの硫化物を生成し、その硫化物が黒鉛晶出の下地として有効に作用する結果、球状黒鉛粒数が増加し薄肉球状黒鉛鋳鉄のチル化が著しく低減すると述べている。このREの添加は一般に行われてきたが、最近のRE入手困難の問題が生じ、鋳造関係者はREなしでの製造を模索した研究を強化している。したがって、REに依存しない鋳造方法が待たれている。
【0007】
特開平8‐120396号公報(特許文献2)ではBiを添加し、黒鉛粒径を10〜30μm程度に小さくして黒鉛粒数400個/mm以上、引張強さ800Mpa前後で、被削性の良好なパーライト球状黒鉛鋳鉄が開示されている。しかしBi添加は引け巣の発生を助長することがわかっており、その使用はある程度の範囲に限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007‐204815号公報
【特許文献2】特開平8‐120396号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】鋳造工学Vol・74号30〜35頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように鋳物製品の軽量化のために最小肉厚を3.0mm以下にすると、チル組織が発生するという問題があり、この解決が重要な課題となっている。その対策として、RE添加、Bi添加、SとMg増量などの方法が提案されている。しかし、いずれの方法も特殊元素の入手困難や、引け巣の増加などの課題があり、決定的な対策方法とはなっていない。したがって、肉厚3.0mm以下チルなしの組織の薄肉球状黒鉛鋳鉄鋳物を鋳放しで得ることが極めて困難な状況であり、それを達成できる技術は従来存在しない。
【0011】
本発明では、特別な装置や工程、例えば脱酸、脱硫の装置や工程を必要とする鋳造方法を使用することなく、特別なREやBi等添加剤の使用もなく極めて簡単に鋳放しで球状黒鉛鋳鉄鋳物、特に製品の最小肉厚3.0mm以下であってチルのないチルなし組織の薄肉球状黒鉛鋳鉄鋳物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
その解決手段の第1手段として、化学組成が質量%で、C:3.0〜4.0%、Si:2.0〜3.0%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.01〜0.05%、S:0.01〜0.03%、Mg:0.013〜0.030%、Cu:1.8〜3.3%、Sn:0.01〜0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄であって、該球状黒鉛鋳鉄の金属組織中の2.5μm以上の粒径を有する黒鉛粒数が、肉厚3.0mm以下の薄肉部分で、1300個/mm以上であることを特徴とする薄肉球状黒鉛鋳鉄。
【0013】
第2手段として、第1手段記載の薄肉球状黒鉛鋳鉄において、該球状黒鉛鋳鉄の組織中2.5μm以上の粒径を有する黒鉛粒数が、肉厚2.0mm以下の薄肉部分で、1600個/mm以上であることを特徴とする薄肉球状黒鉛鋳鉄。
【0014】
第3手段として、注湯時にFe‐SiをSi当量で組織中質量%0.05〜0.15%、インモールド法により二次接種することによって、薄肉球状黒鉛鋳鉄の金属組織中の2.5μm以上の粒径を有する黒鉛粒数が、肉厚3.0mm以下の薄肉部分で1500個/mm以上であることを特徴とする上記第1手段に記載の薄肉球状黒鉛鋳鉄。
【0015】
第4手段として、第3手段記載の薄肉球状黒鉛鋳鉄において、該球状黒鉛鋳鉄の組織中の2.5μm以上の粒径を有する黒鉛粒数が、肉厚2.0mm以下の薄肉部分で2000個/mm以上であることを特徴とする薄肉球状黒鉛鋳鉄。
を夫々提案する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、肉厚3.0mm以下の薄肉球状黒鉛鋳鉄鋳物が鋳放しで、金属組織がチルなし組織で製造が可能となり、鋳型に「はかせ」を付けたり、チル消しの熱処理を要することなく、大幅な簡略化工程とすることができ、経済的であり、又、大きな軽量化効果を生み出すことができるようになった。
【0017】
又、従来のチルを避けるための方法であるRE添加、Bi添加、SとMg増量などの方法は、材料の入手困難や、引け巣などの悪害を伴っていたが、本発明によってこれらの問題は全て解決され、製造コストを大幅に削減することができた。その結果、環境保全の面でRE使用量の大幅な低減、鋳放しによる省エネルギーに加え、軽量化による省エネルギーなどの時代の要求に応えるものであり、更には鋳鉄の用途を飛躍的に拡大する本発明の工業的価値は非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明鋳鉄と従来材の薄板試験片によるMg量と黒鉛粒数の関係及びチル発生の有無を示す比較図
【図2】本発明鋳鉄3の金属組織写真を示す図
【図3】本発明鋳鉄3の黒鉛画像を示す図
【図4】比較例1の金属組織写真を示す図
【図5】本発明鋳鉄7の金属組織写真を示す図
【図6】本発明鋳鉄7の黒鉛画像を示す図
【図7】比較例2の金属組織写真を示す図
【図8】比較例3の金属組織写真を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明の実施の形態を説明する。尚、「薄肉」とは肉厚3mm以下をいう。
【0020】
第一手段では化学組成が質量%で、C:3.0〜4.0%、Si:2.0〜3.0%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.01〜0.05%、S:0.01〜0.03%、Mg:0.013〜0.030%、Cu:1.8〜3.3%、Sn:0.01〜0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄鋳物であって、鋳放しで鋳造し、2.5μm以上の粒径を有する黒鉛粒数を肉厚3.0mm以下の薄肉部分で1300個/mm以上とすることを特徴とする薄肉球状黒鉛鋳鉄であるが、まず化学組成について、質量%でC:3.0〜4.0%、Si:2.0〜3.0%、Mn:1.0%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下残部Fe及び不可避的不純物の構成は一般的な球状黒鉛鋳鉄の組成である。化学組成について、本発明の重要な構成は、Mg、Cu、Snの成分である。以下にこれらの成分の作用効果を詳細に説明する。
【0021】
Mgは黒鉛を球状化するためには不可欠な元素であり、通常質量%で、0.030〜0.050%(好ましくは0.035〜0.045%)程度が一般的に採用されている。低過ぎると黒鉛の球状化を崩し、球状化率低下となって、強度要求を満たすことができない。逆に高過ぎると引け巣を助長する。一方、Mgは金属組織をチル化する元素であることが知られており、薄肉鋳物では特に低減したい元素である。しかし、球状化を維持することが優先であるので上記通常範囲が適用されている。
【0022】
したがって、チル化を抑制するにはMg量を低減すればよいが、そのチル化を抑制する原理は従来明確にはされていなかった。本発明者らはチル化傾向と黒鉛粒数の関係を詳細に研究した結果、Mgを低減すると黒鉛粒数が大幅に増加するという事実を発見した。この結果は通常の球状黒鉛鋳鉄においても認められるがその作用は小さい。一方、本発明の以下に詳細に説明する高Cuと微量のSnを組み合わせた球状黒鉛鋳鉄ではその作用がきわめて大きいことがわかった。すなわち本発明の高Cuと微量のSn及び低Mgの組合せにより球状化率を維持したまま大幅な黒鉛粒数の増加が得られ、チルが発生しないという新知見が得られたのである。
【0023】
本発明ではそのMgを質量%で0.013〜0.030%の低Mgとした。0.013%より低いと球状化不良となり、0.030%を超えるとチル化傾向が強くなる。これは、後述の高Cuと微量のSnの成分構成の効果によって更に明らかにされる。
【0024】
Cuの臨界量は研究者により異なり質量%で1.5〜2.2%と言われており、それを超えての含有は、オーステナイト粒界に偏析し、不規則形黒鉛を晶出して球状化を阻害し、加えて2%以上の添加は、チル化傾向も増大すると指摘されてきた。これに対し、本発明者は特許第3723706号で、臨界量を越えて添加した高Cuに微量のSnを添加することで黒鉛形状、金属基地組織が改善され、チルも無く、引張り強さと伸びが大幅に向上することを開示し実用化に至っている。
【0025】
本発明においても、Cuについてはほぼこの成分範囲を適用し、質量%で1.8〜3.3%の高Cuとした。Cuの作用効果は、析出する黒鉛の周囲に分布して黒鉛の成長(大径化)を抑制することがあるが、更に真球度の高い球状黒鉛を創成することが本発明者らの研究によって明らかになっている。この点については、図2、図5の金属組織写真及び図3、図6に示される黒鉛画像図によって球状黒鉛の真球度の高さが理解されよう。
【0026】
この真球度について、高Cuの場合、球状黒鉛の周囲に偏析されるCuに対応するようにその周囲にSn層が濃化するため、この両者により球状黒鉛の拡散を押さえ閉じ込める点は判っている。
【0027】
Snの作用は、Cuが質量%で1.8%より低い場合は、パーライトの層間距離を小さくする効果がある。さらに本発明のようなCuが1.8%以上の高Cuの場合には、黒鉛近傍に濃化して黒鉛の崩れを抑制し球状化を高める効果がある。このようなSnの作用は、含有量が0.01%以下だと効果が得られず、0.05%以上だと逆に黒鉛形状の崩れを生じるので、Snは質量%で微量の0.01〜0.05%とした。
【0028】
化学組成の構成の効果を総合的に説明すると、多量のCuと微量のSnの組合せによる特殊材質のもつ真球度の高い球状黒鉛を創成する作用効果によって、黒鉛粒数が増加し、黒鉛形状の崩れが抑制される。その結果、Mgを低減しても黒鉛の球状化率の低下が抑制される。そして、Mgを低減することの効果としてチル化傾向が低減されることになる。つまり、高Cu、微量Sn、低Mgの組合せによる相乗効果で、黒鉛形状の効果的形成及び黒鉛粒数が通常の球状黒鉛鋳鉄より大幅な増大をもたらし、チル化傾向が低減され、薄肉鋳物のチルなし組織の形成に寄与するものである。
【0029】
上記のように本発明のポイントは、高Cu%と微量のSn%の組合せによる真球度の高い球状黒鉛を生成する作用によるチル抑制効果、加えて従来にない低Mg%による黒鉛粒類の大巾増加とチル抑制効果の最適な組合せにより肉厚3mm以下の薄肉部においても鋳放しでチルなし組織の球状黒鉛鋳鉄の製造を可能にするものである。
【0030】
上記の高Cu%と微量のSn%及び低Mg%の組合せについては、下記表1及び表2に種々の組合せで行った実験結果を示しており、黒鉛粒数の大巾増加が確認されている。
【0031】
更に、高Cuと微量のSnの組合せでMg質量%0.013〜0.034%の低Mgで、85%以上の球状化率が得られ、この範囲で黒鉛粒数は500個/mm以上のものが得られている。
この高Cuと微量のSnによりチル抑制効果に加えての低Mgにより球状黒鉛鋳鉄、特に肉厚3mm以下の薄肉部の鋳放しでチルなし組織の鋳造が可能になったのである。
【0032】
鋳造時にFe‐SiをSi当量で質量%で0.05〜0.15%、インモールド法により二次接種することによって、さらに黒鉛粒数の増加を促進し、安定したチル抑制効果を生じさせた。接種量は0.05%より少ないと効果は少なく、0.15%を超えると効果が飽和状態となり、また、接種材の溶け残りも生じやすく介在欠陥となるので、Si当量で質量%0.05〜0.15%とした。
【0033】
化学組成が質量%で、C:3.0〜4.0%、Si:2.0〜3.0%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.01〜0.05%、S:0.01〜0.03%、Mg:0.013〜0.030%、Cu:1.8〜3.3%、Sn:0.01〜0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶湯を用い球状黒鉛鋳鉄を鋳放しで鋳造する際、薄肉部を形成する際に、3.0mm以下の該薄肉部分で、2.5μm以上の黒鉛粒径を有する黒鉛粒数を1300個/mm以上に構成する。この構成により、チルなし組織の球状黒鉛鋳鉄、特に薄肉部分がRE等の添加なく、形成できるのである。
【0034】
上記の構成は、インモールド法による二次接種を行わないで、球状黒鉛鋳鉄に薄肉部を形成する際に2.5μm以上の球径を有する黒鉛粒数が肉厚3.0mm以下の薄肉部分で黒鉛粒数が1300個/mm以上である球状黒鉛鋳鉄である。黒鉛粒数を1300個/mm以上とした理由は、黒鉛粒数とチル発生の有無を詳細に検討した図1及び表1、表2に於いて明らかになった結果によるもので、薄肉部で黒鉛粒数が1300個/mm以上ではチルは発生しないからである。
【0035】
表1は薄板2mm厚の、表2は薄板3mm厚の試験片の夫々の黒鉛粒数及びインモールド接種及びチルの有無を表わす。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
又、本発明は、肉厚2.0mm以下の薄肉部分で黒鉛粒数1600個/mm以上であることを規定した球状黒鉛鋳鉄である。肉厚2.0mm以下の部分ではさらに冷却速度が加速されチル化傾向が強くなるので、それを防ぐために肉厚3.0mmの場合よりも多い黒鉛粒数が必要であった。
【0039】
又、本発明は、上記球状黒鉛鋳鉄と同じ化学組成で、注湯時にFe‐SiをSi当量で質量%で0.05〜0.15%、インモールド法により二次接種することによって、黒鉛粒数をさらに増加させ、肉厚3.0mm以下の薄肉部分で黒鉛粒数1500個/mm以上としてチル抑制の効果を促進した薄肉球状黒鉛鋳鉄である。
【0040】
又、本発明は、肉厚2.0mm以下の薄肉部分での黒鉛粒数を2000個/mm以上とし、チル抑制の効果を促進した、薄肉球状黒鉛鋳鉄である。
【0041】
次に本発明の目的である薄板試験片での実施例を説明する。まずチル発生の有無を評価する際の方案について説明する。鋳造品は強度向上目的でリブを多用する場合が多い。薄肉のリブやその先端部に溶湯が充填される際、行き止まりとなり急冷されチルが発生し易い。したがって、通常はチル防止目的で鋳型の薄肉部に「はかせ」を付けるケースが多い。しかし「はかせ」を付けると、その分、余分な溶湯を入れる必要が生じ、歩留まり低下や鋳造仕上げ工数が増えコスト増加になる。本薄肉試験片には実用性を重視して「はかせ」を付けない方案とした。すなわち、本薄肉試験片は一般的なチル防止の「はかせ」有りに比べ、より厳しい条件のものである。尚、「はかせ」とは、薄肉品は溶湯が急冷しチルが発生し易いので、薄肉部の先端に溜部として「はかせ」を付け、薄肉部に最初に入った、ぬるい湯を通過させ鋳型内で製品の外に作った「はかせ」に収納させて、はかせ(捌かせ)てしまう等の手立てである。
【実施例1】
【0042】
2,000kg容量の低周波誘導炉を用いて、鋼屑及び戻し材を使用し、本発明のCuとSnを添加してFCD800相当の溶湯とした。この溶湯を市販のFe‐Si‐Mg‐RE合金の黒鉛球状化剤を用い黒鉛球状化剤の添加量を変えてサンドウィッチ法で球状化処理を実施後にFe‐Siをインモールド法によりSi当量で質量%0.10%二次接種し、肉厚2mmの薄板試験片(60mm×30mm×2mm)に鋳込んだ結果を図1の本発明鋳鉄Aに示す。Mg0.013〜0.030%,Cu2.8%,Sn0.02%の範囲での添加で、黒鉛粒数は2000個/mm以上で、チルは皆無である。黒鉛粒数の測定はJISで定められた5視野平均の黒鉛粒数であり黒鉛粒径2.5μm以上を測定した。
【0043】
次に前記の本発明の化学組成で、かつ同様手順でFe‐Siの二次接種を実施せずに肉厚2mmの薄板試験片に鋳込んだ結果を図1の本発明鋳鉄Bに示す。黒鉛粒数は1600個/mm以上で、チルは皆無のチルなし組織であった。
【0044】
次に前記と同様手順でFe‐Siの二次接種を実施し、肉厚3mmの薄板試験片(60mm×30mm×3mm)に鋳込んだ結果を図1の本発明鋳鉄Cに示す。黒鉛粒数は1500個/mm以上で、チルは皆無のチルなし組織であった。
【0045】
次に前記と同様手順でFe‐Siの二次接種を実施せずに肉厚3mmの薄板試験片に鋳込んだ結果を図1の本発明鋳鉄Dに示す。黒鉛粒数は1300個/mm以上で、チルは皆無のチルなし組織であった。
【0046】
比較例として従来技術の化学成分の材料について実験した。上記同様に2,000kg容量の低周波誘導炉を用いて、鋼屑及び戻し材を使用し、Cu、Snを添加せずFCD500相当の溶湯とした。この溶湯を市販のFe‐Si‐Mg‐RE合金の黒鉛球状化剤を用い黒鉛球状化剤の添加量を変えてサンドウィッチ法で球状化処理を実施後にFe‐Siをインモールド法によりSi当量で0.10%二次接種し、肉厚2mmの薄板試験片(60mm×30mm×2mm)に鋳込んだ結果を図1の比較例Eに示す。Mg0.023%での黒鉛粒数は1707個/mmで、試験片全面にチルが発生した。
【0047】
次に前記と同様手順でFe‐Siの二次接種を実施せずに肉厚2mmの薄板試験片に鋳込んだ結果を図1の比較例Fに示す。Mg質量%0.023%での黒鉛粒数は1505個/mmで、試験片全面にチルが発生した。
【0048】
又、前記と同様手順でFe‐Siの二次接種を実施し、肉厚3mmの薄板試験片(60mm×30mm×3mm)に鋳込んだ結果を図1の比較例Gに示す。Mg質量%0.023%での黒鉛粒数は1589個/mmで、試験片全面にチルが発生した。
【0049】
次に前記と同様手順でFe‐Siの二次接種を実施せずに肉厚3mmの薄板試験片に鋳込んだ結果を図1の比較例Hに示す。Mg質量%0.023%での黒鉛粒数は1474個/mmで、試験片全面にチルが発生した。
【0050】
薄板試験片での結果をまとめると表1、2に示す如くのようになる。従来材であるFCD500相当材では、低Mgでも、インモールド法による二次接種有り無しにかかわらずチルが発生した。これに比べ、本発明材では、インモールド法による二次接種有り無しにかかわらずチルが発生しなかった。インモールド法による二次接種なしでは、肉厚3.0mm以下において黒鉛粒数は1300個/mm以上でチルは皆無、肉厚2mm以下において黒鉛粒数は1600個/mm以上でチルは皆無、インモールド法による二次接種有りでは、肉厚3.0mm以下において黒鉛粒数は1500個/mm以上となりチルは皆無、肉厚2mm以下において黒鉛粒数は2000個/mm以上となりチルは皆無のチルなし組織であった。
【0051】
この結果を従来の文献に記載されている技術と比較すると次のように説明できる。鋳造工学Vol・74号30〜35頁では、MgS黒鉛核生成についての検証を行い、肉厚2ミリで黒鉛粒径2.5μ以上で計測し最大1100〜1300個/mmの黒鉛粒数が得られ、SとMgを上げることで最大値1300個/mmとなり、チルを発生させないための最低黒鉛粒数は1100〜1300/mm以上と報告されている。しかし「はかせ」を用いない本実施例の実験では、この黒鉛粒数以上でもチルが発生した。これは「はかせ」を付けない試験を実施したため急冷されチル発生の条件がより厳しくなったためである。すなわち高Cu、微量Snを含有しない従来技術の鋳鉄では黒鉛粒数増加によるチル防止効果より、急冷によるチルの促進が優位になったためである。従来技術に対し本発明の高Cu、微量Sn、低Mgと二次接種の相乗効果によるチル防止効果は従来の常識を覆す結果である。
【実施例2】
【0052】
次に金属組織のチル発生状況についての実験結果を説明する。2,000kg容量の低周波誘導炉を用いて、鋼屑及び戻し材を使用し、Cu、Sn及びその他の成分を表1のように変えて添加し、本発明鋳鉄ではFCD800相当の溶湯、比較例ではFCD500相当の溶湯として、この溶湯を市販のFe‐Si‐Mg‐RE合金の黒鉛球状化剤を用い、サンドウィッチ法でMg質量%0.013〜0.029%と表1に示すように変化させ、球状化処理を実施後にFe‐Siをインモールド法によりSi当量で0.10%二次接種し、肉厚2mmの薄板試験片(60mm×30mm×2mm)に鋳込んだ結果を表1に、本発明鋳鉄3の金属組織写真を図2、図9に、また本発明鋳鉄の3の黒鉛画像を図3に示す。きわめて緻密な金属組織でありチルの発生は皆無のチルなし組織である。そして比較例1の金属組織写真を図4に示す。該比較例1は全面に激しいチルが発生しているのがわかる。
【0053】
次に上記と同様手順で肉厚3mmの薄板試験片(60mm×30mm×3mm)に鋳込んだ結果を表2に、本発明鋳鉄7の金属組織写真を図5に、また本発明鋳鉄7の黒鉛画像を図6に示す。肉厚2mmと同じくきわめて緻密な金属組織でありチルの発生は皆無である。比較例2の金属組織写真を図7に示す。該比較例2は全面に激しいチルが発生しているのがわかる。
【0054】
次にMg量を増加した場合のチル化傾向を明らかにするために、本発明においてMgを質量%0.032%に増量して実験を行った。2,000kg容量の低周波誘導炉を用いて、鋼屑及び戻し材を使用し、CuとSnを添加してFCD800相当の溶湯として、この溶湯を市販のFe‐Si‐Mg‐RE合金の黒鉛球状化剤を用い、サンドウィッチ法でMg0.032%で球状化処理を実施後にFe‐Siをインモールド法によりSi当量で0.10%二次接種し、肉厚2mmの薄板試験片(60mm×30mm×2mm)に鋳込んだ比較例3を表2に示す。この表示のように、質量%Cu2.9%、Sn0.02%である。また、その金属組織写真を図8に示す。質量%Mg0.032%では部分的にチル発生しているのがわかる。Mg質量%0.03%以上になるとこのようにチル化傾向が徐々に強まるのである。この結果から、本発明のMg量の上限を0.030%とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が質量%で、C:3.0〜4.0%、Si:2.0〜3.0%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.01〜0.05%、S:0.01〜0.03%、Mg:0.013〜0.030%、Cu:1.8〜3.3%、Sn:0.01〜0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄であって、該球状黒鉛鋳鉄の組織中の2.5μm以上の粒径を有する黒鉛粒数が、肉厚3.0mm以下の薄肉部分で、1300個/mm以上であることを特徴とする薄肉球状黒鉛鋳鉄。
【請求項2】
前記薄肉球状黒鉛鋳鉄において組織中の2.5μm以上の粒径を有する肉厚2.0mm以下の薄肉部分で黒鉛粒数が1600個/mm以上であることを特徴とする請求項1記載の薄肉球状黒鉛鋳鉄。
【請求項3】
注湯時にFe‐SiをSi当量で組成中質量%0.05〜0.15%、インモールド法により二次接種することによって、薄肉球状黒鉛鋳鉄の組織中2.5μm以上の粒径を有する黒鉛粒数が、肉厚3.0mm以下の薄肉部分で1500個/mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の薄肉球状黒鉛鋳鉄。
【請求項4】
前記薄肉球状黒鉛鋳鉄において、組織中の2.5μm以上の粒径を有する肉厚2.0mm以下の薄肉部分で黒鉛粒数が2000個/mm以上であることを特徴とする請求項3記載の薄肉球状黒鉛鋳鉄。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−79418(P2013−79418A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219404(P2011−219404)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(599158649)青梅鋳造 株式会社 (6)
【Fターム(参考)】