説明

薄膜の製造方法

【課題】ドクターブレードを用いることなく、凹版印刷法によって所定のパターンでインキを印刷し、薄膜をパターン形成することのできる薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】 所定の基台上に薄膜をパターン形成する薄膜の製造方法であって、薄膜を形成すべきパターンに対応する部位に凹部が形成され、かつ薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示す凹版を用意する工程と、前記凹版に前記インキを供給し、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる工程と、前記インキを保持した凹版を用いて前記インキを印刷する工程と、印刷したインキを固化することによって薄膜をパターン形成する工程とを含む薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の基台上に薄膜をパターン形成する方法の1つとして印刷法がある。すなわち薄膜となる材料を含むインキを、所定の印刷法によって基板上にパターン塗布し、これを固化することによって所定の基台上に薄膜をパターン形成することができる。
【0003】
印刷法には平版印刷法、凸版印刷法、および凹版印刷法など複数の種類がある。これらのうちの凹版印刷法では、まず凹版の凹部にインキを保持させ、次に凹版を所定の基台に押圧し、インキを所定の基台上に印刷することによって、インキをパターン塗布している。なおインキが、凹版の凹部だけでなく凸部にも付着していると、印刷する際に不要な部位にまでインキが塗布される。そのため凹版印刷法では凹部にのみインキを保持させる必要がある。しかしながら凹部に限定してインキを供給することは困難なため、凹部にのみインキを保持させる方法として、まず凹版の全面にインキを供給し、その後、凸部に付着したインキを除去する方法が一般的にとられている。たとえばまず凹版の全面にインキを供給し、次に凹版にドクターブレードを押し当てた状態で、このドクターブレードを走査することによって、凸部に付着したインキを除去することができる。これによって凹版の凹部にのみインキを充填することができる(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−56686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら不要なインキを除去するドクターブレードを使用した場合、以下の問題が生じる。すなわちドクターブレードは通常、凹版が損傷することを防ぐために、凹版に比べて磨耗し易い部材によって構成されている。そのため使用時にドクターブレードが磨耗し、インキに異物が混入するという問題がある。またドクターブレードは凹版に比べて磨耗し易い部材によって構成されているとしても、すなわち凹版の方がドクターブレードに比べて磨耗し難い部材によって構成されているとしても、凹版は、ドクターブレードが押し当てられることによって受ける損傷を完全に防ぐことは難しいため、使用により劣化するという問題がある。
【0006】
従って本発明の目的は、ドクターブレードを用いることなく、凹版印刷法によって所定のパターンでインキを印刷し、薄膜をパターン形成することのできる薄膜の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の基台上に薄膜をパターン形成する薄膜の製造方法であって、
薄膜を形成すべきパターンに対応する部位に凹部が形成され、かつ薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示す凹版を用意する工程と、
前記凹版に前記インキを供給し、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる工程と、
前記インキを保持した凹版を用いて前記インキを印刷する工程と、
印刷したインキを固化することによって薄膜をパターン形成する工程とを含む薄膜の製造方法に関する。
また本発明は、前記インキには水系溶媒または水系分散媒を用い、かつシリコーンからなる凹版を用いる、前記薄膜の製造方法に関する。
また本発明は、酸性を示すインキを用いる、前記薄膜の製造方法に関する。
また本発明は、所定の基台と、この基台上に所定のパターンで形成された導電性を示す薄膜とを備える導電性薄膜付き基板の製造方法であって、
薄膜を形成すべきパターンに対応する部位に凹部が形成され、かつ導電性を示す薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示す凹版を用意し、
前記凹版に前記インキを供給し、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる工程と、
前記インキを保持した凹版を用いて前記インキを印刷する工程と、
印刷したインキを固化することによって導電性を示す薄膜を形成する工程とを含む導電性薄膜付き基板の製造方法に関する。
また本発明は、凹部を有する凹版の前記凹部へのインキの充填方法であって、
インキに対して撥液性を示す凹版に前記インキを供給して、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる、前記インキの充填方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ドクターブレードを使用することなく凹版の凹部のみにインキを保持させることができるため、凹版印刷法によって所定のパターンでインキを印刷し、薄膜をパターン形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】凹版21を模式的に示す平面図である。
【図2】凹版21を模式的に示す断面図である。
【図3】撥液性を示す凹版21にインキを供給した状態を示す図である。
【図4】平板状の塗工部材を使用してインキを供給する方法を模式的に示す図である。
【図5】凹版21を用いて基台2にインキを印刷する際の動作を模式的に示す図である。
【図6】鋳型を用いて凹版を作製する工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、所定の基台上に薄膜をパターン形成する薄膜の製造方法であって、薄膜を形成すべきパターンに対応する部位に凹部が形成され、かつ薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示す凹版を用意する工程と、前記凹版に前記インキを供給し、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる工程と、前記インキを保持した凹版を用いて前記インキを印刷する工程と、印刷したインキを固化することによって薄膜をパターン形成する工程とを含む薄膜の製造方法に関する。
【0011】
本発明は凹版印刷法によって基台上に所定の薄膜をパターン形成する薄膜の製造方法に関するものであり、薄膜および基台の種類は特に限定されない。そのため以下ではまず薄膜および基台の種類を特定することなく、薄膜の製造方法について説明し、次に特定の薄膜の製造方法について説明する。
【0012】
<凹版を用意する工程>
凹版を用意する工程では、薄膜を形成すべきパターンに対応する部位に凹部が形成され、かつ薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示す凹版を用意する。図1は凹版21を模式的に示す平面図であり、図2は凹版21を模式的に示す断面図である。図1では凹版21の凹部22にハッチングを施している。すなわち図1はストライプ状のパターンに凹部22が形成された凹版を示している。
【0013】
凹版21には所定のパターンの凹部22が形成されている。凹部22のパターンは、基台上に形成する薄膜のパターンと同じである。たとえば基台上にストライプ状のパターンの薄膜を形成する場合には、ストライプ状のパターンの凹部22が形成された凹版21を用意する。また基台上にたとえば格子状の薄膜を形成する場合には、格子状のパターンの凹部が形成された凹版を用意する。
【0014】
凹版21には、薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示すものが用いられる。撥液性の程度は、使用するインキに対する接触角で表すことができる。撥液性の程度としては、使用するインキに対する接触角が40°以上が好ましく、さらに好ましくは50°以上である。なおインキに対する接触角が大きすぎると不都合が生じることもある。たとえば凹版に供給されたインキは、接触角が大きいほど凝集し易くなるため、供給されたインキが凹部内において時間とともに凝集し、結果として、ストライプの延在する方向においてその途中でインキが分断することがある。また接触角が大きすぎると凹部の表面でインキが弾かれるために、凹部にインキが充填されないことがある。そこでインキを適切に保持するためには、インキに対する接触角は通常100°以下であり、90°以下が好ましい。
【0015】
<凹部にのみインキを保持させる工程>
本工程では、凹版に前記インキを供給し、凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる。図3は撥液性を示す凹版21にインキを供給した状態を示す図である。インキを供給する際には、凹版21の凹凸が形成されている側の表面を鉛直方向の上方に向けて凹版を配置し、この凹版21上にインキを供給する。
【0016】
凹版へのインキの供給方法としてはたとえばダイコート法、グラビアコート法、バーコート法を挙げることができる。またたとえば図4に示すように平板状の塗工部材を使用してインキを供給することもできる。
【0017】
図4は平板状の塗工部材を使用してインキを供給する方法を模式的に示す図である。まず平板状の塗工部材25を凹版21上に対向して配置する。塗工部材25と凹版21とには所定の間隔が設けられている。次に塗工部材25と凹版21との間にインキを供給する。さらに塗工部材25と凹版21との間にインキが保持された状態を維持したまま、塗工部材と凹版21との間の間隔を一定にして、塗工部材25または凹版21を相対移動する。これによって所定の膜厚のインキを凹版21に供給することができる。なお図4では、ストライプの延在する方向に対して垂直な方向に塗工部材25を移動することによってインキを供給する工程を示しているが、たとえばストライプ状の凹部が形成された凹版であれば、ストライプの延在する方向に沿ってインクを供給してもよい。すなわちストライプの延在する方向に塗工部材25を移動することによってインキを供給してもよい。
【0018】
凹版21に供給されたインキは凹版が撥液性を示すためにその表面で弾かれるが、凹版21の凹部22に供給されたインキは位置エネルギーの低い凹部22にそのまま保持される。他方、凸部23に供給されたインキは、凸部23の表面で弾かれ、位置エネルギーの低い凹部22に移動する。結果として、凹部22上および凸部23上に供給されたインキは凹部22に充填される。特に凸部23および凹部22にそれぞれ供給されたインキが連なっている場合、表面積が小さくなる向きの力(表面張力)が働くので、凸部23に供給されたインキは、凹部22に充填されたインキにつられて位置エネルギーの低い凹部22に移動する。インキは表面張力が低いほどより円滑に凹部22に移動する。そのため表面張力の小さいインキを使用することが好ましく、その表面張力は、65mN/m以下が好ましく、60mN/m以下がさらに好ましい。
【0019】
また凹版21に供給される際のインキの粘度は低い方が好ましい。粘度が低い方が、凸部23に供給されたインキが円滑に凹部22に移動し易いためである。凹版21に供給される際のインキの粘度は10〜25mPa・sが好ましい。
【0020】
このようにインキに対して撥液性を示す凹版21を用いることによって、ドクターブレードを使用することなく、凹部22にのみインキを保持させることができる。
【0021】
図5は凹版21を用いて基台2にインキを印刷する際の動作を模式的に示す図である。図1に示す凹版21は通常、円柱状の版胴に巻き回されて使用される。凹版21は、版胴24の回転とともに所定の速度で回転しつつ、所定の圧力で基台に押し当てられる。基台2は、押圧される凹版21の接線方向の速度と同じ速度で移動する。インキは凹版21の上部に供給される。図5に示すように、平板状の塗工部材25を、凹版21上に所定の間隔を開けて配置し、塗工部材25と凹版21との間にインキが保持された状態を維持したまま凹版21を回転させることで、所定の膜厚のインキを凹版21に供給することができる。インキの供給量は凹版21の凹部の深さ、凹版21と塗工部材25との間隙の寸法、および凹版21の回転速度を調整することによって制御することができる。供給されたインキは、前述したように凹版21の凹部22にのみ充填される。
【0022】
本実施形態ではインキは凹版21の全面に供給されるが、インキの供給後、インキの凹部22へ移動を促進するための処理を凹版21に施すことが好ましい。たとえばインキの供給後、凹版21を水平方向から傾けることによりインキの移動を促進することができる。インキを凹版21に供給した後に凹版を反転し、下方に配置される被印刷物に凹版を押圧して印刷を行う場合、インキの供給後に凹版21を傾けることになるため、その際にインキの移動が促進される。図5に示すように、円柱状の版胴24に凹版21を巻き回して使用する場合、凹版21が回転することによってその表面が鉛直方向に対して平行となる状況が必然的に生じる。その際に、凸部23上に供給されたインキの移動が促進される。また凹版21に振動を与えることによってインキの移動を促進することもできる。たとえば凹版21に振動を与えながらインキを供給する、または塗工部材25に振動を与えつつ凹版21にインキを供給することによってインキの移動を促進することができる。このような振動として、揺動を凹版21や塗工部材25に与えてもよい。
【0023】
以上のように、インキに対して撥液性を示す凹版に前記インキを供給して、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させることにより、凹部を有する凹版の前記凹部へのインキの充填方法を行うことができる。
【0024】
<インキを印刷する工程>
本工程では基台上の前記薄膜が形成されるべき部位にインキを印刷する。インキの印刷は、凹部にのみインキを保持させた凹版を被印刷物に押圧することによって行われる。たとえば図5に示すように、凹版21の凹部22にのみインキが充填された凹版21を所定の速度で回転しつつ、所定の圧力で基台に押し当てることによって印刷が行われる。
【0025】
なお図5では凹版に保持されたインキを基台2に直接的に印刷する凹版印刷法を模式的に示しているが、本発明はたとえば凹版に保持されたインキを所定の部材に一旦転写し、さらにこれを基台2に印刷するいわゆるオフセット印刷法にも適用することができる。また図5では被印刷物に対して凹版21が鉛直方向の上方に配置され、この凹版21が被印刷物に押圧されることによって印刷が行われるが、たとえば被印刷物に対して凹版21を鉛直方向の下方に配置し、鉛直方向の上方から被印刷物を凹版に押圧することによって印刷を行ってもよい。また図4および図5では、塗工部材25が凹版に対して平行になるように対向して配置された図を示しているが、塗工部材25は、このような配置に限らず、凹版に対して平行から任意の角度だけ傾いた状態で配置されていてもよい。
【0026】
被印刷物に印刷されるインキの粘度によっては、凹部22に保持されたインキが、被印刷物に意図した通りには転写されずに、凹部22に残留することがある。そこで意図した分量のインキを印刷するために、被印刷物に印刷される際のインキの粘度を調整することが好ましい。インキの粘度の調整は、凹版21に供給されたインキの溶媒の一部を乾燥させることによって行うことができる。たとえばインキが凹版21に供給されてから被印刷物に印刷されるまでの時間を調整することによって、インキの粘度を調整することができる。またたとえばインキを凹版21に供給した後に加熱乾燥を施すことによって、その粘度を調整することもできる。図5に示すように凹版を版胴に巻き回して使用する場合、版胴の径および版胴の回転速度を適宜設定することで、インキが凹版21に供給されてから被印刷物に印刷されるまでの時間を調整することができる。これによってインキの粘度を調整することができる。
【0027】
<インキの固化>
本工程では印刷したインキを固化することによって薄膜をパターン形成する。印刷した薄膜の固化は、たとえば溶媒を除去することによって行なわれる。溶媒の除去は、自然乾燥、加熱乾燥および真空乾燥などによって行なわれる。またインキが、光や熱などのエネルギーを加えることによって重合する材料を含む場合、インキを印刷した後に光や熱などのエネルギーを加えることによって薄膜を固化してもよい。
【0028】
以上説明した工程を経ることによって所定の基台上に所定のパターンで薄膜を形成することができる。上述の薄膜の製造方法では、インキに対して撥液性を示す凹版21を用いることによって、ドクターブレードを使用することなく、凹部22にのみインキを保持させることができ、凹版印刷法によって所定のパターンでインキを印刷し、薄膜をパターン形成することができる。これによってドクターブレードの使用に起因する前述の従来の問題を解決することができる。
【0029】
<インキおよび凹版>
凹版は、インキに対して撥液性を示す材料を用いて形成すればよく、シリコーン、樹脂、ガラス、金属などを用いて形成すればよい。また凹版がインキに対して所期の撥液性を示さない場合、凹版の表面に撥液処理を施すことによって、所期の撥液性を示す凹版を構成してもよい。少なくとも凸部23の表面が撥液性を示す場合、凸部23上に供給されたインキは弾かれて凹部22に充填されるので、撥液処理は、少なくとも凸部23の表面に行えばよい。
【0030】
凹版には、インキに対して耐性を有するものを用いることが好ましい。たとえばインキによって腐食し難い凹版、またはインキによって形状が変形しにくい凹版を用いることが好ましい。
【0031】
たとえばシリコーン製の凹版は有機溶剤を吸収するため、有機系の溶媒または分散媒(以下、「溶媒または分散媒」を溶媒等ということがある。)を用いたインキを使用すると膨潤し、形状が変形することがある。そのため有機系の溶媒等を用いたインキを使用する場合、金属、ガラスなどからなる凹版を用いることが好ましい。なお有機系の溶媒等を用いたインキに対して凹版が所定の撥液性を示さない場合、凹版の表面に撥液処理を施せばよく、たとえばフッ素コーティングを施せばよい。
【0032】
また水系の溶媒等を用いたインキを使用する場合、金属からなる凹版は腐食することがあるため、シリコーン製の凹版を用いることが好ましい。シリコーンとしてはたとえば信越シリコーン製のシリコーン(製品名「SIM−360」、「KE−12」、「KE−17」)を用いることができる。
【0033】
特に酸性のインキを用いる場合、凹版が腐食するおそれがあるため、酸性の溶液に対して、耐性を有する凹版を用いることが好ましい。金属製の凹版、および金属製のドクターブレードは酸性のインキによって腐食し易いため、酸性を示すインキを凹版印刷によってパターン塗布することは従来困難であった。しかしながらたとえば酸性のインキに対する耐性が高く、かつ水系の溶媒等に対して高い撥液性を示すシリコーン製の凹版を用いることによって、強酸性を示すインキであっても、凹版印刷によってパターン塗布を行うことができる。
【0034】
インキの溶媒等としては、薄膜となる材料を溶解または分散するものであればよく、水系もしくは有機系の溶媒等を用いることができる。水系の溶媒等とは、水またはアルコールを意味し、その例として純水、イソプロピルアルコールなどをあげることができる。また有機系の溶媒等としては、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系の溶媒等、テトラヒドロフランなどのエーテル系の溶媒等、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系の溶媒等、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系の溶媒等、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系の溶媒等をあげることができる。
【0035】
凹版はたとえばレーザー光や鋳型を用いて形成することができる。図6は鋳型を用いて凹版を作製する工程を模式的に示す図である。まず図6(1)に示すように、鋳型を作製するために、ガラスや、金属、樹脂などからなる所定の基台31を用意する。次ぎにこの基台31上に、マスク32となる薄膜を形成する。たとえばガラス基台を用いる場合、クロムからなる薄膜を基台31上に形成する。その後フォトリソグラフィー法によって薄膜を所定の形状にパターニングし、マスク32を形成する。さらに図6(2)に示すように、マスク32で保護された基台をエッチングする。その後マスク32を除去することにより鋳型33を形成する。そして図6(3)に示すように凹版となる材料を鋳型上に流し込み、これを硬化することによって、凹部22が形成された凹版21を得ることができる。凹版となる材料としては、たとえば液状のシリコーンRTV(Room Temperature Vulcanizing)ゴムを用いることができる。このように鋳型を用いることによって線幅が10μm程度の微細な凹部22を備える凹版21を形成することができる。
【0036】
(導電性薄膜付き基板)
次に導電性薄膜付き基板の製造方法について説明する。本発明は、所定の基台と、この基台上に所定のパターンで形成された導電性を示す薄膜とを備える導電性薄膜付き基板の製造方法であって、薄膜を形成すべきパターンに対応する部位に凹部が形成され、かつ導電性を示す薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示す凹版を用意し、前記凹版に前記インキを供給し、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる工程と、前記インキを保持した凹版を用いて前記インキを印刷する工程と、印刷したインキを固化することによって導電性を示す薄膜を形成する工程とを有する導電性薄膜付き基板の製造方法である。
【0037】
本実施形態では、基台上に導電性薄膜をパターン形成することにより、導電性薄膜付き基板を製造する。なお本実施形態は、前述した実施形態と、塗布するインキの種類および凹版の種類が異なるのみなので、重複する説明を省略して、異なる部分のみを説明する。
【0038】
インキは、導電性を示す薄膜となる材料と、この材料を溶解または分散する溶媒等とからなる。導電性を示す薄膜となる材料としては、導電性を示す有機物、メッキ触媒などをあげることができる。
【0039】
溶媒等としては、導電性を示す薄膜となる材料を溶解または分散する液体であればよく、たとえば前述した溶媒等を適宜使用することができる。
【0040】
凹版にはインキに対して撥液性を示すものが用いられる。前述したようにインキに対して耐性を有する凹版を用いることが好ましく、たとえば酸性のインキを使用する場合にはシリコーン製の凹版を用いることが好ましい。
【0041】
導電性を示す有機物としてはPEDOT(ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン))をあげることができる。PEDOTを含むインキは一般に溶媒として水が用いられ、強酸性を示す。そのため酸性のインキによって腐食し易い金属性の凹版やドクターブレードを用いた従来の凹版印刷法では、PEDOTを含むインキをパターン塗布することが困難であった。これに対して本発明では酸性のインキに対して耐性および撥液性を示す凹版を使用することにより、たとえば強酸性を示すPEDOTを含むインキであっても、ドクターブレードを使用することなく、凹版印刷法によってインキをパターン塗布することができる。
【0042】
導電性を示す薄膜を基台上の形成することによって、帯電防止基板や電磁波遮蔽基板などに使用される導電性薄膜付き基板を作製することができる。
【0043】
たとえば透明なプラスチック板やガラス板からなる透明な基台上に導電性薄板をパターン形成することによって、透視性を有する導電性薄膜付き基板を得ることができる。さらに導電性薄板の線幅を細くすることによって、透明性を有する導電性薄膜付き基板を得ることができる。
【実施例】
【0044】
<ストライプ状の凹部を有する凹版の作製>
まずガラス基板にクロムを成膜し、このクロム薄膜をパターニングすることによって線幅が50μm、ピッチが200μmのストライプ状のマスクをガラス基板上に形成した。このクロムマスクを介してガラスエッチングを行い、線幅が130μm、深さが40μm、ピッチが200μmのストライプ状の凹部をガラス基板に形成した。このようにして作製したガラスの鋳型に信越シリコーン社製シリコーン樹脂KE−17を流し込み、所定のシリコーン樹脂製凹版を得た。
【0045】
<インクの作製>
PEDOT(H.C.Starck社製;Baytron AI4083) 65重量部と、グリセリン 33重量部と、界面活性剤サーフィノール 2重量部とからなる導電性薄膜形成用のインキを調製した。このインキの表面張力は44mN/mであり、粘度は16mPa・sであった。また凹版とインキとの接触角は87°であった。
【0046】
<転写工程>
上記で作製した凹版を版胴に取り付け、このシリコーン凹版の端部と、凹版に対向して配置された平板状の塗工部材とにインクを供給し、さらに版胴を回転させることによって凹版にインクを供給し、これをガラス基板に転写したところ、所定のストライプ状のパターンでインキを塗布することができた。
【符号の説明】
【0047】
2 基台
21 凹版
22 凹部
23 凸部
24 版胴
25 塗工部材
31 基台
32 マスク
33 鋳型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基台上に薄膜をパターン形成する薄膜の製造方法であって、
薄膜を形成すべきパターンに対応する部位に凹部が形成され、かつ薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示す凹版を用意する工程と、
前記凹版に前記インキを供給し、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる工程と、
前記インキを保持した凹版を用いて前記インキを印刷する工程と、
印刷したインキを固化することによって薄膜をパターン形成する工程とを含む薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記インキには水系溶媒または水系分散媒を用い、かつシリコーンからなる凹版を用いる、請求項1記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
酸性を示すインキを用いる、請求項1または2記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
所定の基台と、この基台上に所定のパターンで形成された導電性を示す薄膜とを備える導電性薄膜付き基板の製造方法であって、
薄膜を形成すべきパターンに対応する部位に凹部が形成され、かつ導電性を示す薄膜となる材料を含むインキに対して撥液性を示す凹版を用意し、
前記凹版に前記インキを供給し、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる工程と、
前記インキを保持した凹版を用いて前記インキを印刷する工程と、
印刷したインキを固化することによって導電性を示す薄膜を形成する工程とを含む導電性薄膜付き基板の製造方法。
【請求項5】
凹部を有する凹版の前記凹部へのインキの充填方法であって、
インキに対して撥液性を示す凹版に前記インキを供給して、前記凹版の凹部にのみ前記インキを保持させる、前記インキの充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−167588(P2011−167588A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31079(P2010−31079)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】