説明

薄膜の製造法

【課題】 本発明は、このような状況下為されたものであり、フェロセン修飾界面活性剤を用いて分散された粉体類を含む水性電解媒体中に、被担持体である電極を設置し、設置された電極を通電して前記電極上に薄膜を形成する技術に於いて、形成する薄膜の均一性を向上せしめる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】 無機粉体が分散されたフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に設置された少なくとも一つの電極に電位をかけて電極酸化して、前記電極上に薄膜を形成するステップを含む薄膜製造法において、前記水性電解媒体中に有機溶媒を含むことを特徴とする薄膜製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水珪酸、アルミナ、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の粉体から形成される薄膜の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
無水珪酸、アルミナ、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の粉体は、隠蔽性、半透過性、顔料としての着色性等の光学的な効果を有している。また、これらの粉体は、酸化触媒作用、光反応促進触媒作用等の触媒作用または、酸化安定性などの化学反応に対して安定な性質を利用する保護被膜素材としての性質等も有している。このように、これらの粉体は、工業的に有用な性質を有している。
これらの粉体を薄膜として金属面などに担持させることは、これらの工業的に有用な性質を効率的に発揮させることが出来るので好ましい。しかしながら、金属面などの被担持体へ、これら粉体を薄膜担持させることは、粉体類と被担持体との親和性が低い場合が多いため、容易になし得ないのが現状である。
【0003】
このような状況から、粉体を用いて、被担持体の表面上に薄膜を形成させる方法が種々検討されている。例えば、被担持体を電極とする方法であって、フェロセン修飾界面活性剤を用いて、電導性を有する水性担体中に粉体類を分散させ、この水性担体中に被担持体である電極を設置し、電極に電位をかけて、被担持体上でフェロセン修飾界面活性剤を電解酸化し、界面活性能を低下せしめ、被担持体上に粉体を析出させ、薄膜を形成する方法が考案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14を参照)。
しかしながら、このような方法によって形成される薄膜は、その均一性について課題を残していた。即ち、このようなフェロセン修飾界面活性剤を用いて分散された粉体類を含む、水性電解媒体中に、被担持体である電極を設置し、設置された電極を通電して、前記電極上に薄膜を形成する技術において、形成する薄膜の均一性を向上せしめる技術の開発が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特公平3−59998号公報
【特許文献2】特公平6−87083号公報
【特許文献3】特開平2−83386号公報
【特許文献4】特開平2−83387号公報
【特許文献5】特開平2−96585号公報
【特許文献6】特開平2−188594号公報
【特許文献7】特開平2−235895号公報
【特許文献8】特開平2−250892号公報
【特許文献9】特開平2−250893号公報
【特許文献10】特開平2−256692号公報
【特許文献11】特開平2−256693号公報
【特許文献12】特開平9−239374号公報
【特許文献13】特開平6−67014号公報
【特許文献14】特開平11−241198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下為されたものであり、フェロセン修飾界面活性剤を用いて分散された粉体類を含む水性電解媒体中に、被担持体である電極を設置し、設置された電極を通電して、前記電極上に薄膜を形成する技術に於いて、形成する薄膜の均一性を向上せしめる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況に鑑みて、本発明者らは、フェロセン修飾界面活性剤を用いて分散された粉体類を含む水性電解媒体中に、被担持体である電極を設置し、設置された電極を通電して、前記電極上に薄膜を形成する技術に於いて、形成する薄膜の均一性を向上せしめる技術を求めて、鋭意研究努力を重ねた。その結果、無機粉体が分散されたフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に有機溶媒を添加することにより、このような薄膜を形成できることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、以下に示すとおりである。
[1] 分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に設置された少なくとも一つの電極に電位をかけて電極酸化して、前記電極上に薄膜を形成するステップを含む薄膜製造法であって、前記水性電解媒体は有機溶媒を含むことを特徴とする薄膜製造法。
[2] 前記無機粉体が前記有機溶媒で被覆されていることを特徴とする、[1]に記載の薄膜製造法。
[3] 前記無機粉体が、無水珪酸、二酸化チタン、カーボンブラックであることを特徴とする、[1]または[2]に記載の薄膜製造法。
[4] 前記無機粉体が、アルキルシランで表面処理されていることを特徴とする[1]〜[3]の何れか1つに記載の薄膜製造法。
[5] 前記有機溶媒が、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素であることを特徴とする、[1]〜[4]の何れか1つに記載の薄膜製造法。
[6] 前記炭素数6〜10の脂肪族炭化水素が、オクタンであることを特徴とする、[5]に記載の薄膜製造法。
[7] 前記フェロセン修飾界面活性剤が、11−(フェロセニル)ウンデシルトリメチルアンモニウム塩であることを特徴とする、[1]〜[6]の何れか1つに記載の薄膜製造法。
[8] 前記無機粉体が光学的効果を有することを特徴とする、[1]〜[7]の何れか1つに記載の薄膜製造法。
[9] [8]に記載の方法により製造された薄膜を粉砕して得られる粉体。
[10] 前記無機粉体が触媒活性を有することを特徴とする、[1]〜[7]の何れか1つに記載の薄膜製造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、フェロセン修飾界面活性剤を用いて分散された粉体類を含む水性電解媒体中に、被担持体である電極を設置し、設置された電極を通電して前記電極上に薄膜を形成する技術に於いて、形成する薄膜の均一性を向上せしめる技術を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に設置された少なくとも一つの電極に電位をかけて電極酸化して、前記電極上に薄膜を形成するステップを含む薄膜製造法に関する。
【0009】
前記の通り、本発明の薄膜製造法における水性電解媒体中は少なくとも、(1)無機粉体(2)フェロセン界面活性剤(3)有機溶媒を含み、さらに(4)支持電解質を含むことが好ましい。
【0010】
水性電解媒体に分散されている無機粉体は、水不溶性である。隠蔽性、半透過性、および顔料としての着色性等の光学的な効果、酸化触媒作用および光反応促進触媒作用等の触媒作用、または、酸化安定性などの化学反応に対して安定な性質等を有することが好ましい。
無機粉体の好ましい例には、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化鉄、酸化コバルト、無水珪酸、アルミナ、カーボンブラックなどの炭素粉末などが含まれる。特に好ましい無機粉体は、無水珪酸、二酸化チタン、カーボンブラックなどが含まれる。
また、光学的な効果を発揮する無機粉体の好ましい例としては、酸化チタン、無水珪酸、カーボンブラック、酸化亜鉛であり、触媒作用を持つ無機粉体の好ましい例としては、酸化チタン、酸化亜鉛であり、化学反応に対して安定な性質を有する無機粉体の好ましい例としては、無水珪酸である。
前記無機粉体の粒径は特に制限されないが、好ましくは1次粒子径が0.001〜10μmであり、さらに好ましくは0.01〜0.2μmである。
【0011】
前記無機粉体は、表面処理されていてもよく、このような表面処理としては、通常無機粉体の表面に施す表面処理であれば特段の限定はない。表面処理の好ましい例には、オクチルシリル化処理などのアルキルシラン処理、ハイドロジェンメチルポリシロキサン焼き付け処理、アシル化グルタミン酸塩被覆処理、リン脂質被覆処理、リン酸塩被覆処理などが含まれる。特に好ましい表面処理はアルキルシラン処理である。表面処理剤は、粉体の総質量に対して1〜50質量%を施せばよい。また、表面処理の方法は通常知られている方法に準じる。
前記粉体は、既に市販されているものを用いることもでき、市販品の好ましい例には、無水珪酸である「アエロジル200」(日本アエロジル株式会社製)、無水珪酸をオクチルシリル化した「アエロジルR805」(日本アエロジル株式会社製)、二酸化チタンをオクチルシリル化した「アエロジルT805」(日本アエロジル株式会社製)、カーボンブラックである「デンカブラック」(電気化学工業株式会社製)等が含まれる。前記無機粉体の平均粒径は、0.001〜10μmであることが好ましい。
【0012】
水性電解媒体中における前記無機粉体の添加量は水性電解媒体に対して0.001〜3.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%であることがより好ましい。また、前記粉体の水性電解媒体中における添加量は、フェロセン修飾界面活性剤の総質量に対して、3.5〜140質量%であることが好ましい。
【0013】
水性電解媒体中に含まれるフェロセン修飾界面活性剤は、界面活性剤の性質を有し、かつ、水性電解媒体中で電解酸化されるフェロセン誘導体であれば、特段の制限はない。フェロセン修飾界面活性剤の好ましい例には、前記特許文献1〜14に記載されたフェロセン修飾界面活性剤などが含まれる。特に好ましいフェロセン修飾界面活性剤には、11−(フェロセニル)ウンデシルトリメチルアンモニウム塩である、「フェロセニルTMA」(11−(フェロセニル)トリメチルウンデシルアンモニウムブロミド:同仁化学株式会社製、以下「FTMA」と称す。)と「フェロセニルPEG」(11−(フェロセニル)ウンデシルポリオキシエチレンエーテル:同仁化学株式会社製)などが含まれる。水性電解媒体中における前記フェロセン修飾界面活性剤は、濃度は1〜100mMが好ましく、5〜20mMであることがより好ましい。通電中の何れかの時に、上記濃度であればよい。
【0014】
水性電解媒体中に含まれる有機溶媒としては、非極性の有機溶媒が好ましい。有機溶媒の好ましい例には、シリコーン類や炭素数6〜10の脂肪族炭化水素などが含まれる。上記シリコーン類の好ましい例には、ジメチコン、フェニルメチコン、シクロメチコンなどが含まれる。また、上記炭素数6〜10の脂肪族炭化水素としては、直鎖、分岐、環状構
造を有するもののいずれもが使用可能であり、好ましい例には、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルオクタン、イソオクタン、ノルマルデカン、2−エチルオクタンなどが含まれる。特に好ましい例には、無機粉体の水性電解媒体中への分散効果と、無機粉体の電極上への析出効果とに優れるオクタンが含まれる。これは、上記炭素数6〜10の脂肪族炭化水素の中でも、オクタンは親和性に優れ、フェロセン修飾界面活性剤が可溶化しやすい油であるためである。かかる有機溶媒は唯一種を用いることもできるし、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
前記有機溶媒は無機粉体と混合されて、水性電解媒体中に添加されてもよく、または分散された無機粉体を含む水性電解媒体中に添加されても良い。
水性電解媒体に分散する前に無機粉体と混合する有機溶媒の好ましい適用量は、無機粉体の総質量に対して、1〜20質量倍であり、より好ましくは1〜5質量倍である。これは有機溶媒量が少なすぎると、無機粉体と有機溶媒の混合物の粘度が高くなりすぎて、取り扱いに難が存する場合があり、多すぎると被膜形成を阻害する場合が存するからである。
また、無機粉体が水性電解媒体中に分散された後に添加される有機溶媒の好ましい適用量は、無機粉体の総質量(水性電解媒体の総質量)に対して、1〜20質量倍であり、より好ましくは1〜5質量倍である。これは、有機溶媒量が少なすぎると、表面の疎水性が不足するため薄膜が形成しなくなり、多すぎると、有機溶媒が吸着可溶化限界量を超えてしまい、相分離するためである。通電前の何れかの時に、上記適用量であればよい。
【0016】
前記有機溶媒は無機粉体を被覆していることが好ましく、前記有機溶媒は膜を形成するためのバインダーとしての作用を有する。一般的な疎水化処理された無機粉体を、フェロセン修飾界面活性剤を含む水性電解溶媒に分散させて電気分解をした場合、電極付近でのみ無機粉体が析出されるが、一般的な疎水化処理のみでは、無機粉体表面の親水性が依然高いためにバルク(水性電界溶媒)に単独で再分散して、薄膜が製造されないことがある。従って、薄膜製造法においては、有機溶媒により無機粉体を被覆して疎水化した方が好ましい。従って、無機粉体表面における有機溶媒の存在量、分布などにより、形成する膜の性質が異なる。
【0017】
水性電解媒体中には、無機粉体、フェロセン修飾界面活性剤および有機溶媒以外に、支持電解質を溶解させておくことが好ましい。前記支持電解質としては、電離する金属塩で電極反応を起こさなければ特段の限定はない。支持電解質の例としては、硫酸塩(リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、アルミニウムなどの塩)、酢酸塩(リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウムなどの塩)、ハロゲン化物塩(リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの塩)、水溶性酸化物塩(リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの塩)などが含まれる。支持電解質として好ましい例にはアルカリ金属のハロゲン塩が含まれ、特に好ましい例には臭化リチウムが含まれる。水性電解媒体中における前記支持電解質の濃度は20〜150mMであることが好ましい。通電前の何れかの時に、上記濃度であればよい。
【0018】
本発明の薄膜製造法で用いられる水性電解媒体は、特に制限はなく、例えば、水、などが含まれる。
【0019】
分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体を得る方法には、例えば以下の二通りの方法が含まれる。
(イ)無機粉体が加えられた有機溶媒を良く攪拌して有機溶媒被覆粉体とする。その後、得られた有機溶媒被覆粉体を、フェロセン修飾界面活性剤と支持電解質とを含有する水
性電解媒体中に添加して分散させて、上記分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体を得る。
(ロ)無機粉体を、フェロセン修飾界面活性剤と支持電解質とを含有する水性電解媒体中に、超音波などを用いて分散させる。得られた分散液に有機溶媒を加え、超音波分散を行い、上記分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体を得る。
上記(ロ)の方法は、フェロセン修飾界面活性剤と無機粉体が形成するアドミセルに有機溶媒を吸着可溶化させることで、無機粉体表面が疎水化されると思われる。
【0020】
上記分散は、無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を均一に分散できればよい。分散方法に特に制限はなく、例えば、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、パールミル、サンドミル、三本ミル、マグネチックスターラー、超音波、攪拌機、ミキサー、分散機、高圧ホモジナイザーなどを用いて分散する。好ましくは超音波、などを用いて分散する。
分散時間は特に制限はないが、上記(イ)の方法では90分間以上分散することが好ましい。また、上記(ロ)の方法では、分散液と有機溶媒が可溶化平衡に達することで、粒子表面に完全に均一に有機溶媒が吸着され、バインダーとしても機能が効率よく発揮され、良好な膜を形成する。このため、上記(ロ)の方法では、可溶化平衡に達するよう、36時間以上分散させることが好ましい。
また、分散温度も特に制限はないが、あまり温度が低くなると、分散量や可溶化量が減少するため好ましくない。
【0021】
前記の通り、本発明の薄膜製造法においては、分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に、少なくとも一つの、電位をかける電極(陽極または作用極)が設置される。また、前記水性電解媒体中には、電位を制御する少なくとも一つの電極(参照極)が設置されることが好ましい。
【0022】
分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に設置される電極(陽極または作用極:以後「陽極」と称す。)は、フェロセンの酸化電位(+0.15V体飽和甘コウ電極)より貴な金属もしくは導電体であれば特に制限はない。陽極としては、ITO(酸化インジウムと酸化スズとの混合酸化物)、白金、金、銀、グラシーカーボン、導電性金属酸化物、有機ポリマー導電体、などが含まれる。好ましい陽極はITOである。
また、前記陽極と通電するように設置される電極(陰極または対極:以後「陰極」と称す。)としては、白金、金、銀、グラシーカーボン、導電性金属酸化物、有機ポリマー導電体、等が含まれる。好ましい陰極は白金である。
さらに、分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に設置される、電位制御のための電極(参照極)の例としては具体的に、SCE、NHE、銀―塩化銀電極等が含まれる。
【0023】
陽極(作用極)は、通電されることにより、分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体を電解酸化することができればよく、どのように設置されてもよい。
前記電解酸化とは、水性電解媒体中に設置された少なくとも一つの陽極(作用極)に電位をかけて電極酸化し、分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体が前記陽極(作用極)上で直接または間接に酸化を受けることをいう。
【0024】
電極の設置例としては、図17に示すように、2室のH型セルを用いて、無機粉体が分散されたフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体(4)を含む電解槽に陽極(1)を設け、液絡(6)を通して他の電解槽に陰極(2)を設けてもよい。また、一定の
電位をかける電位制御のため、参照極(3)を設けることが好ましい。陽極および陰極に電位をかけるポテンシオスタットなどの電気化学測定装置へ接続する部(7)を陽極、陰極、および参照極にそれぞれ設けることが好ましい。さらに、陽極を設けた電解槽は好ましくは窒素置換されており、そのために該電解槽に窒素ガス挿入口(8)を設けてもよい。
液絡(6)の例としては、KCl入り寒天塩橋、多孔質ガラス隔膜、ルギン管、ガラスフィルターなど一般的な電気化学で用いられている液絡が含まれる。好ましい液絡はガラスフィルターである。陰極を設けた電解槽の溶液(5)の例としては、KCl、KNO3、NaCl、KBr、NaBr、LiBrなどの一般的な支持電解質を水に溶解した電解質水溶液が含まれる。陰極を設けた電解槽の好ましい溶液はLiBr水溶液である。
また、分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体(4)は、通電による電解酸化中に、無機粉体および有機溶媒を補充添加してもよく、または陽極側の水性電解媒体を系外へ抜き出し、新たに分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体を加えてもよい。
【0025】
本発明の薄膜製造法は、無機粉体が分散されたフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に設置された少なくとも一つの陽極(作用極)に電位をかけて電極酸化して、前記電極上に薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする。ここで、電極酸化するとは、水性電解媒体中に設置された少なくとも一つの陽極(作用極)に電位をかけて、水性電解媒体中に設置された少なくとも一つの参照極で電位を制御して、前記陽極(作用極)で酸化反応を起こすことである。
さらに、任意に薄膜が形成された電極(支持体)を水性電解媒体から取り出し、水洗浄する工程、さらには所望により乾燥させる工程を含んでいてもよい。
【0026】
本発明の製造方法における電解の条件は、電位は0.1〜0.5V、より好ましくは0.2〜0.4Vであり、電解時間は0.1〜48時間、より好ましくは1〜24時間である。電流電源としては、例えば、ポテンシオスタット、積層乾電池など一般的な電源を用いることができる。
【0027】
乾燥の条件は、特に制限はなく、例えば減圧乾燥(真空乾燥を含む)、加温乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥などが含まれる。
【0028】
本発明の方法では、無機粉体がフェロセン修飾界面活性剤で均一に分散され、バインダーである有機溶媒が均一に粒子表面に吸着されており、電極近傍でのみフェロセン修飾界面活性剤から粉体が放出される。放出された粉体は物理吸着により電極に吸着する。その後は有機溶媒がバインダーとなり膜が堆積するが、電極付近でのみ粉体が一定量放出されるので、大きな粉体だけが放出されたり、あるいは大きな粉体同士のみが凝集したりすることはない。このことにより、均一な薄膜が形成できると考えられる。よって、形成される薄膜は、無機粉体の粒径に分布が存していても、均一な薄膜とすることができる。
【0029】
本発明の薄膜は、薄膜を形成している無機粉体の酸化触媒としての性質、光反応触媒の性質等を利用して触媒自体として使用することができる。また、電極自体の表面改質にも使用可能である。
触媒作用を利用した薄膜の例としては、異臭、汚れ分解を目的としたタイルや家屋の外壁用タイルなどが含まれる。
また、薄膜を形成している無機粉体の化学物質などに対する安定性を利用して、薄膜形成体の支持体(電極)の保護被膜とすることができる。
通常無機粉体表面を有機溶媒でコーティングする際は、ボールミルなどで無機粉体と有機溶媒を攪拌して表面コーティングを行うが、この方法は表面の処理が均一に行われていないことがあり、粒子表面に膜形成に必要な疎水性を十分に付与できていない。一方、本
発明の薄膜は、吸着可溶化を用い、無機粉体表面を有機溶媒で均一にコーティングしている。従って、本発明の薄膜を粉砕などの加工を行い適当な大きさに調整することで、通常よりも均一に表面処理された無機粉体を得ることができる。このように粉砕などの加工を行い、薄膜を形成している無機粉体の光学効果を活用して、光学機能を有するものとして利用することができる。光学機能を有するものの例としては、化粧料用粉体のような粉体原料などが含まれる。
【0030】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0031】
<実施例1>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)に、0.2gのアエロジルR805および0.6gのオクタンを乳鉢にて十分攪拌・混合して得たアエロジルR805−オクタンペーストを添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、その後超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を用いて、電解酸化を行い、陽電極上に無機粉体であるアエロジルR805を析出させた。電解酸化の条件は後述する。その後、作用極であるITOを電解セルから取り出し、常温・常圧にて1日乾燥させた。その後、水で洗浄し、再度常温・常圧にて1日乾燥させた。これを実施例1のサンプルとする。
【0032】
(電解酸化条件)
作用極にITO(シート抵抗 10Ω)、対極にPt線、参照極に飽和カロメル電極(SCE)を用いた3電極系を用い、調製した分散液を2室のH型セルの作用極側に入れ、北斗電工(株)社製ポテンシオスタットmodel HA−301にて印加電位+0.3V vs. SCEに制御しながら、24時間定電位電解を行った(図17)。
【0033】
<実施例2>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)にアエロジルR805を0.2g添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、超音波を30分間照射した。その後オクタンを0.6g添加し、30分攪拌した後、超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を実施例1と同様に処理した。これを実施例2のサンプルとする。
【0034】
<実施例3>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)にアエロジルR805を0.2g添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、超音波を30分間照射した。その後オクタンを0.6g添加し、36時間攪拌した後、超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を実施例1と同様に処理した。これを実施例3のサンプルとする。
【0035】
<実施例4>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)にアエロジル200を0.2g添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、超音波を30分間照射した。その後オクタンを0.6g添加し、30分攪拌した後、超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を実施例1と同様に処理した。これを実施例4のサンプルとする。
【0036】
<実施例5>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)に
アエロジル200を0.2g添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、超音波を30分間照射した。その後オクタンを0.6g添加し、36時間攪拌した後、超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を実施例1と同様に処理した。これを実施例5のサンプルとする。
【0037】
<比較例1>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)にアエロジル200を0.2g添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、その後超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を実施例1と同様に処理した。これを比較例1のサンプルとする。
【0038】
<比較例2>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)にアエロジルR805を0.2g添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、その後超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を比較例1と同様に処理した。これを比較例2のサンプルとする。
【0039】
<試験1>
実施例1〜5及び比較例1、2の薄膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
オートファインコータ(日本電子株式会社製 JFC−1600)を用いて、実施例1〜5及び比較例1、2の薄膜にPt蒸着を行った。Pt蒸着の条件は、30mA にて20秒間の蒸着を計4回行った。その後、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製 S−510)、および電子プローブ・マイクロアナライザー(日本電子株式会社製 EPMA)を取り付けた走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM−6500F)を用いてSEM観察を行った。これらの結果は図(図1〜7)に示す。
図1〜7より、本発明の薄膜の形成法によって形成された実施例1〜5の薄膜は均一できれいな薄膜が形成していることが判る(図1〜図5)。又、比較例1、2では、薄膜形成支持体であるITOが観察されていることから、薄膜が形成されていないことが判る(図6および図7)。
実施例1〜3では、疎水化処理されたアエロジルR805を用いたのに対し、実施例4および5では、疎水化処理されていないアエロジル200を用いた。実施例4および5では疎水化処理されていない無機粉体を用いたにもかかわらず、実施例1〜3と同様に薄膜が形成されていることが判る。すなわち、無機粉体表面が親水性であっても、オクタンで無機粉体の表面を処理することにより、膜形成が可能であることが分かった。
【0040】
<試験2>
EPMAを取り付けたJSM−6500Fを用いて、実施例1〜5及び比較例1、2の薄膜表面の元素分析を行った。なお、測定の際の加速電圧は通常使用する15KeVではITOのべース基盤であるガラスのSiを検出してしまうため、ITO中のSiを検出しない5KeVとした。結果を図(図8〜14)に示す。
実施例の元素分析の結果では、アエロジルのSi,C,O原子が検出されているため、目的通りの薄膜が形成されていることが判る(図8〜12)。一方、比較例の元素分析の結果では、アエロジルのSi原子が検出されていないため、薄膜が形成されていないことが判る(図13および14)。
【0041】
<実施例6>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)にアエロジルT805を0.2g添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、超音波を30分間照射した。その後オクタンを0.6g添加し、36時間攪拌した後、超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を実施例1と同様に処理した。これを
実施例6のサンプルとする。この実施例6のサンプルも前記試験1と同様に走査型電子顕微鏡で観察した。この結果を図15に示す。これより、この薄膜も均一なものであることが判る。
【0042】
<実施例7>
0.1MのLiBr水溶液を用いて調製した15mMのFTMA水溶液(40ml)にデンカブラックを0.2g添加し、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌し、超音波を30分間照射した。その後オクタンを0.6g添加し、36時間攪拌した後、超音波を30分間照射し、分散液を得た。この分散液を実施例1と同様に処理した。これを実施例7のサンプルとする。この実施例7のサンプルも前記試験1と同様に走査型電子顕微鏡で観察した。この結果を図16に示す。これより、この薄膜も均一なものであることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、金属酸化物の薄膜形成に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1の試験1の薄膜観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図2】実施例2の試験1の薄膜観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図3】実施例3の試験1の薄膜観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図4】実施例4の試験1の薄膜観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図5】実施例5の試験1の薄膜観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図6】比較例1の試験1の薄膜観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図7】比較例2の試験1の薄膜観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図8】実施例1の試験2の元素分析結果を示す図である。
【図9】実施例2の試験2の元素分析結果を示す図である。
【図10】実施例3の試験2の元素分析結果を示す図である。
【図11】実施例4の試験2の元素分析結果を示す図である。
【図12】実施例5の試験2の元素分析結果を示す図である。
【図13】比較例1の試験2の元素分析結果を示す図である。
【図14】比較例2の試験2の元素分析結果を示す図である。
【図15】実施例6の薄膜の観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図16】実施例7の薄膜の観察結果(SEM写真)を示す図である。(図面代用写真)
【図17】実施例および比較例で用いた2室のH型セルの図である。
【符号の説明】
【0045】
1 陽極(作用極:ITO)
2 陰極(対極:Pt線)
3 参照極(SCE)
4 分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体
5 電解質水溶液
6 ガラスフィルター(液絡)
7 電気化学測定装置へ接続する部
8 窒素ガス挿入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散された無機粉体およびフェロセン修飾界面活性剤を含有する水性電解媒体中に設置された少なくとも一つの電極に電位をかけて電極酸化して、前記電極上に薄膜を形成するステップを含む薄膜製造法であって、
前記水性電解媒体は有機溶媒を含むことを特徴とする薄膜製造法。
【請求項2】
前記無機粉体が前記有機溶媒で被覆されていることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜製造法。
【請求項3】
前記無機粉体が、無水珪酸、二酸化チタン、カーボンブラックであることを特徴とする、請求項1または2に記載の薄膜製造法。
【請求項4】
前記無機粉体が、アルキルシランで表面処理されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の薄膜製造法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の薄膜製造法。
【請求項6】
前記炭素数6〜10の脂肪族炭化水素が、オクタンであることを特徴とする、請求項5に記載の薄膜製造法。
【請求項7】
前記フェロセン修飾界面活性剤が、11−(フェロセニル)ウンデシルトリメチルアンモニウム塩であることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の薄膜製造法。
【請求項8】
前記無機粉体が光学的効果を有することを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の薄膜製造法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により製造された薄膜を粉砕して得られる粉体。
【請求項10】
前記無機粉体が触媒活性を有することを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の薄膜製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−161149(P2006−161149A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200613(P2005−200613)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【出願人】(598069939)
【出願人】(501403014)
【Fターム(参考)】