説明

薄膜の透湿度測定装置および透湿度測定方法

【課題】薄膜の透湿度を精度よく測定できる装置、およびその測定方法を提供する。
【解決手段】透湿度測定装置1は、絶縁基板5上に下部電極膜3、下部電極膜3の少なくとも一部を覆うように吸湿性膜2、および下部電極膜3の少なくとも一部と吸湿性膜2を挟んで面的に対向し、かつ下部電極膜3とは絶縁された上部電極膜4を有し、下部電極膜3と上部電極膜4との間に容量計7が接続され、吸湿性膜2を覆う被測定試料膜6の透湿度を、容量計7で測定するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿による静電容量変化から薄膜の透湿度を測定する装置、及び透湿度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気電子部品や電化製品は、水分や酸素の侵入を防止するために表面コーティングがなされている。該コーティング膜の防水、防湿性能は、コーティング膜の透湿度を測定することで評価できる。該透湿度を測定する手段の一例として、静電容量型湿度センサが利用できる。
【0003】
特許文献1にはポリイミド樹脂を利用した静電容量型湿度センサが示されている。一方、特許文献2には感湿膜にフッ素系有機化合物を利用した静電容量式湿度センサが、特許文献3にはフッ素化ポリイミド材料が示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−005867号公報
【特許文献2】特開2001−249099号公報
【特許文献3】特開2000−026380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の湿度センサでは感度が低すぎて、コーティング膜の透湿度を精密に測定できていないのが現状である。
【0006】
本発明は、薄膜の透湿度を精度よく測定できる装置、およびその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、絶縁基板上に下部電極膜、該下部電極膜の少なくとも一部を覆うように吸湿性膜、および該下部電極膜の少なくとも一部と該吸湿性膜を挟んで面的に対向し、かつ該下部電極膜とは絶縁された上部電極膜を有し、該下部電極膜と該上部電極膜との間に容量計が接続され、該吸湿性膜を覆う被測定試料膜の透湿度を、容量計で測定することを特徴とする透湿度測定装置である。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された透湿度測定装置であって、該上部電極膜が水分透過性の電極膜であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載された発明は、請求項1に記載された透湿度測定装置であって、該吸湿性膜がポリイミド膜であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載された発明は、請求項1に記載された透湿度測定装置であって、該吸湿性膜がフッ素化ポリイミド膜であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載された発明は、絶縁基板上に下部電極膜、該下部電極膜の少なくとも一部を覆うように吸湿性膜、および該下部電極膜の少なくとも一部と該吸湿性膜を挟んで面的に対向し、かつ該下部電極膜とは絶縁された上部電極膜を有する湿度センサの、該吸湿性膜を被測定試料膜で覆い、該下部電極膜と該上部電極膜との間の容量を測定し、その容量から被測定試料膜の透湿度を換算して算出することを特徴とする透湿度測定方法である。
【0012】
請求項6に記載された発明は、請求項5に記載された透湿度測定方法であって、前記容量から被測定試料膜の透湿度を換算して算出する式が
【0013】
【数1】


【0014】
(数1中、Dは透湿度、Δtは測定時間、dは膜厚、εは水の比誘電率、εは乾燥時の薄膜の比誘電率、εは吸湿時の薄膜の比誘電率、Cは吸湿時の薄膜の静電容量、Cは乾燥時の薄膜の静電容量)
であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載された発明は、請求項5に記載された透湿度測定方法であって、被測定試料膜に前記湿度センサを少なくとも2個設け、うち1個は透湿度が既知の吸湿性膜を用いた標準センサを使用して、キャリブレーションを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の透湿度測定装置は、10−3〜10−5g/m・dayという高感度で薄膜の透湿度を測定することができる。該透湿度測定装置は薄膜を透過する水分が微量でも精度よく測定するので、薄膜の防水、防湿効果を容易に評価できる。
【0017】
本発明の透湿度測定方法によれば、高価な装置を必要とせず、簡便な作業で精密に薄膜の透湿度を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の透湿度測定装置及び測定方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の透湿度測定装置1の一実施例の斜視図を、図2はその断面図を示したものである。絶縁基板5に下部電極膜3を帯状に形成し、その上に、該下部電極膜3の少なくとも一部が覆われるように吸湿性膜2をコーティングする。次いで、該吸湿性膜2を挟んで少なくとも下部電極膜3の一部と面的に対向するように、上部電極膜4を帯状に形成する。下部電極膜3及び上部電極膜4は容量計7に接続している。
【0020】
こうして得られた透湿度測定装置1の上部電極膜側表面に、下部電極膜3と上部電極膜4とが対向している部分の少なくとも一部が覆われるように被測定試料膜6をコーティングする。
【0021】
前記吸湿性膜2が水分を吸収すると、吸湿性膜2の静電容量が変化する。この静電容量変化を容量計にて測定し、前記数式を用いて透湿度を算出する。
【0022】
前記吸湿性膜は、薄いほど水分検知の感度が上がり、より微量の水分を検出できる。しかし薄すぎると膜強度が低下してしまう。前記吸湿性膜の膜厚は、50nm〜5μmであるとよい。前記吸湿性膜は、膜厚が数百ナノメートルから数ミクロン程度の場合、スピンコート法により作製する。一方前記膜厚が数百ナノメートル以下の場合は、真空蒸着法で作製すると好ましい。
【0023】
前記吸湿性膜として、フッ素化ポリイミド膜を用いることが好ましい。フッ素化ポリイミドは、ポリイミドの有する親水性と、フッ素の有する疎水性との両特性を兼ね備えている。周囲の湿度に応じて、水分を迅速に吸収、離脱させることができるため、湿度環境が急激に変化しても、被測定試料膜の透湿度を正確に測定することができる。透湿度測定を適切に行うためには、前記フッ素化ポリイミド膜におけるフッ素含有量が5〜50重量%であると好ましい。このようなフッ素化ポリイミドとして、具体的には、トリフルオロメチル基やヘキサフルオロプロパン基を含有するポリイミドが挙げられる。
【0024】
前記下部電極膜3は膜厚10nm〜1μmであり、前期上部電極4は5nm〜100nmであると良い。上部・下部電極4とも真空蒸着やスパッタ法により作成する。上部電極4は導電性を保ち、なおかつ水分の透過可能な厚さで無ければならない。上部電極4は金であると望ましいが、アルミや銀であっても良い。下部電極は上部電極と下部電極が重なり合う面積は0.01mm2〜10cm2であると良い。
【0025】
前記絶縁基板は、ガラス基板であるとより好ましく、裏面が防水処理されたポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのようなプラスチックフィルムでも良い。
【0026】
被測定試料膜の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート膜、ポリプロピレン膜、その他 ポリエチレン、フィルム上に成膜された酸化シリコンや窒化膜が挙げられる。
【0027】
薄膜の透湿度は、その膜厚や温度に影響される。したがって、透湿度が既知の吸湿性膜を用いた標準センサを準備し、被測定試料膜の片側表面に該標準センサ1個と前記湿度センサ1個以上とを設けてキャリブレーションを行ってもよい。
【0028】
図3は、本発明の透湿度測定装置の別な実施例を示した図である。上部に窓を設けた金属製の円筒状ヘッド8内に前記の透湿度測定装置1を設置する。該装置の下部電極膜3及び上部電極膜4は、ヘッド外部の容量計7(図3に図示)に接続している。
【0029】
透湿度測定ヘッド11上部の窓部分に、被測定試料膜6を密着固定する。該薄膜6を透過しヘッド内に侵入した水分がヘッド内の透湿度測定装置により測定され、前記と同様にして透湿度が決定される。ヘッド内はあらかじめ真空に引いて、ヘッド内の水分を除去しておく。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明を適用する透湿度測定装置を作製した例を実施例1に示す。
【0031】
(実施例1)
縦25 mm、横25 mm、厚さ1mmのガラス基板を水、アセトンで洗浄した。尚、アルコールで洗浄することもでこともできる。このガラス基板に、幅5mm、膜厚100nmとなるように金を蒸着し、下部電極膜を形成した。その上に、感湿膜としてトリフルオロメチル其やヘキサフルオロプロパン基を含有するポリイミドの薄膜を膜厚1000nmとなるようスピンコート法にて形成した。なお、ポリイミドは溶媒に不溶であるため、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液をスピンコートしてポリイミドを作成した。次に、その上に、下部電極膜と対向する向きで幅5mm、膜厚100nmとなるように金を蒸着し、上部電極膜を形成した。下部金電極膜及び上部金電極膜の蒸着は、真空蒸着法にて行った。上部電極膜及び下部電極膜を容量計に接続し、実施例1の透湿度測定装置を得た。
【0032】
(校正試験)
作製した透湿度測定装置について、校正試験を行った。あらかじめ真空に引いておいた容器中に、一定量の水蒸気を含んだ窒素ガスを流し込んだ。水晶振動子上のポリイミド膜に水蒸気を吸着させ、その吸着量を膜厚計から読み取った。同時に、同じ場所に実施例1で得られた透湿度測定装置を設置し、吸湿させた時の静電容量の変化を容量計で測定した。測定結果を図4に示す。
【0033】
図4から明らかなように、単位面積あたりの吸着量と、吸着による静電容量増加分との関係は、直線関係を示した。これは、測定の安定度は測定精度に影響するが、数分程度の短時間であれば0.01%の静電容量変化、すなわち10ng/cmの精度まで測定可能であることを意味している。
【0034】
次に、実施例1の透湿度測定装置を用いて、薄膜の透湿度を測定した例を実施例2に示す。
【0035】
(実施例2)
実施例1で得られた透湿度測定装置の上部電極膜側表面に、膜厚60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)の薄膜を熱圧着して、透湿度測定用の試料を得た。
【0036】
(静電容量測定)
実施例2で作製した試料を用いて、静電容量を測定した。
容量計には市販のインピーダンスアナライザー型番4284Aあるいは4294A(アジレント・テクノロジー社製)を用い、温度30℃、周波数10kHzで湿度を0%から80%まで変化させつつ、静電容量の経時変化を測定した。比較のため、被測定薄膜を設けていない実施例1の装置についても同様に測定した。測定結果を図5に示す。
【0037】
図5から明らかなように、実施例1の装置は測定開始直後に応答し、静電容量が大きく変化した。一方PET薄膜を設けた実施例2の装置は静電容量変化が少なかったが、精度よく測定できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の透湿度測定装置は、電子部品、平面ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス材料などに施されるコーティング膜の透湿度モニターとして利用できる。また、優れたコーティング膜の開発にも貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を適用する透湿度測定装置の斜視図である。
【0040】
【図2】本発明を適用する透湿度測定装置の断面図である。
【0041】
【図3】本発明を適用する透湿度測定装置の一実施例の断面図である。
【0042】
【図4】実施例1の透湿度測定装置における単位面積あたりの容量変化を示すグラフである。
【0043】
【図5】実施例1及び実施例2の透湿度測定装置における静電容量の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1は透湿度測定装置、2は感湿膜、3は下部電極膜、4は上部電極膜、5は絶縁基板、6は被測定試料膜、7は容量計、8は円筒状ヘッド、11は透湿度測定ヘッドである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に下部電極膜、該下部電極膜の少なくとも一部を覆うように吸湿性膜、および該下部電極膜の少なくとも一部と該吸湿性膜を挟んで面的に対向し、かつ該下部電極膜とは絶縁された上部電極膜を有し、該下部電極膜と該上部電極膜との間に容量計が接続され、該吸湿性膜を覆う被測定試料膜の透湿度を、容量計で測定することを特徴とする透湿度測定装置。
【請求項2】
該上部電極膜が水分透過性の電極膜であることを特徴とする請求項1に記載の透湿度測定装置。
【請求項3】
該吸湿性膜がポリイミド膜であることを特徴とする請求項1に記載の透湿度測定装置。
【請求項4】
該吸湿性膜がフッ素化ポリイミド膜であることを特徴とする請求項1に記載の透湿度測定装置。
【請求項5】
絶縁基板上に下部電極膜、該下部電極膜の少なくとも一部を覆うように吸湿性膜、および該下部電極膜の少なくとも一部と該吸湿性膜を挟んで面的に対向し、かつ該下部電極膜とは絶縁された上部電極膜を有する湿度センサの、該吸湿性膜を被測定試料膜で覆い、該下部電極膜と該上部電極膜との間の容量を測定し、その容量から被測定試料膜の透湿度を換算して算出することを特徴とする透湿度測定方法。
【請求項6】
前記容量から被測定試料膜の透湿度を換算して算出する式が
【数1】


(数1中、Dは透湿度、Δtは測定時間、dは膜厚、εは水の比誘電率、εは乾燥時の薄膜の比誘電率、εは吸湿時の薄膜の比誘電率、Cは吸湿時の薄膜の静電容量、Cは乾燥時の薄膜の静電容量)
であることを特徴とする請求項5に記載の透湿度測定方法。
【請求項7】
被測定試料膜に前記湿度センサを少なくとも2個設け、うち1個は透湿度が既知の吸湿性膜を用いた標準センサを使用して、キャリブレーションを行うことを特徴とする請求項5に記載の透湿度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−139447(P2007−139447A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330129(P2005−330129)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】