説明

薄膜デバイス、有機EL装置および液晶表示装置、電子機器、薄膜デバイスの製造方法、有機EL装置の製造方法および液晶表示装置の製造方法

【課題】隔壁部で仕切られたデバイス形成領域において、断面形状が平坦で安定した膜厚を有する機能性の薄膜が積層された薄膜デバイス、この薄膜デバイスを有する有機EL装置および液晶表示装置、電子機器、薄膜デバイスの製造方法、有機EL装置の製造方法および液晶表示装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の有機EL装置20において、薄膜デバイスとしての発光素子部22は、デバイス形成領域Aを区画する多層バンク13と、デバイス形成領域Aに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより形成された多層の薄膜層としての有機EL機能層21を備えている。多層バンク13のデバイス形成領域Aの側の壁面に第1バンク14と第2バンク15および第3バンク16を積層することにより、2つの段差部14a,15aを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性材料を含む機能液を基板上に吐出して乾燥させることにより形成される薄膜デバイスに係り、有機EL装置および液晶表示装置、電子機器、薄膜デバイスの製造方法、有機EL装置の製造方法および液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に隔壁部(バンク)を設け、バンクによって仕切られた区画領域に機能性材料を含む機能液を吐出して、機能液に含まれる溶媒を蒸発させることにより形成される機能性材料からなる薄膜デバイスが知られている。
【0003】
このような薄膜デバイスにおいて、デバイス特性を左右する重要な要素として区画領域内に形成された薄膜がいかにムラ無く均一に形成されているか、また、断面形状において一定の膜厚を有していることが望まれる。
【0004】
均一な厚みで積層された薄膜層を備えた機能性薄膜デバイスとして、バンクが薄膜層の液相材料である薄膜材料液に対し親和性を示す親和性バンク層と当該薄膜材料液に対し非親和性を示す非親和性バンク層とが交互に積層されて構成されたものが知られている(特許文献1)。この場合、薄膜層は、親和性バンク層とその上に積層された非親和性バンク層との境界を含む平面がその界面となるようにその厚みが調整されて形成されたものである。より具体的には、薄膜層として発光作用を示す発光層や色彩を付与するための着色層が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−329741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の機能性薄膜デバイスにおいて、バンクは、親和性バンク層と非親和性バンク層とが積層され、その内壁面が一様の平面を構成している。したがって、バンクで仕切られた区画領域に機能液(薄膜材料液)を付与し、付与された機能液を乾燥すると、機能液に含まれる溶媒成分が蒸発するのに伴って機能液のエッジ部(所謂コンタクトライン)が徐々に基板側に向かって該内壁面を後退してゆく。やがて、溶媒の蒸発が終了すれば、機能液は薄膜として固定されるが、コントタクトラインは、必ずしも積層された親和性バンク層と非親和性バンク層との境界面で停止(ピニング)するとは限らない。一般に低濃度の溶質を含む溶液の場合は、コーヒーステイン現象と呼ばれているように、コンタクトラインに近いほど溶媒の蒸発速度が速く、それを補うように溶媒が移動するので、乾燥後コンタクトライン付近により多くの溶質が集まり易い。すなわち、この場合も、薄膜の膜厚ムラがバンク内壁に沿って生じやすいという課題を有している。
【0007】
また、バンクで仕切られた区画領域内に異なる材料からなる薄膜を積層して薄膜デバイスを形成する場合、各機能液ごとにコンタクトラインの停止位置(ピニング位置)が不安定な場合、積層された薄膜デバイスの断面形状が平坦化し難い。
【0008】
本発明は、上記課題を考慮してなされたものであり、隔壁部で仕切られたデバイス形成領域において、断面形状が平坦で安定した膜厚を有する機能性の薄膜が積層された薄膜デバイス、この薄膜デバイスを有する有機EL装置および液晶表示装置、電子機器、薄膜デバイスの製造方法、有機EL装置の製造方法および液晶表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の薄膜デバイスは、複数のデバイス形成領域を有する基板上に形成され、複数のデバイス形成領域を仕切るように設けられた隔壁部としての多層バンクと、複数のデバイス形成領域のそれぞれに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して積層された多層の薄膜層とを備え、多層バンクが少なくとも3層以上からなり、多層バンクの壁面にバンク層がデバイス形成領域の側に張り出した少なくとも2つ以上の段差部を設けたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、デバイス形成領域を仕切る少なくとも3層以上からなる多層バンクの壁面にバンク層がデバイス形成領域の側に張り出した少なくとも2つ以上の段差部を有している。したがって、デバイス形成領域に機能性材料を含む機能液を付与して乾燥すると、機能液中の溶媒の蒸発に伴って機能液のエッジ部は、多層バンクの壁面を伝わりながら基板側に後退し、該壁面に設けられた段差部のバンク層の境界において停止(ピニング)し易い。よって、付与された機能液のエッジ部を安定した位置でピニングすることができる。ゆえに、ピニング位置が安定することにより、デバイス形成領域において、断面形状が平坦で安定した膜厚を有する少なくとも2層以上の多層の薄膜層からなる薄膜デバイスを提供することができる。なお、段差部とは、バンク層を積層することにより多層バンクのデバイス形成領域側の壁面に形成された略階段状の部位を指すものである。
【0011】
上記多層バンクにおいて、nは1以上の自然数であり、前記多層の薄膜層のn層目を形成するための機能液に対して、n層目のバンク層が親液性を示し、n+1層目のバンク層がn層目のバンク層に比べて撥液性を示すことが好ましい。
【0012】
この構成によれば、付与されたn層目を形成するための機能液は、n層目のバンク層に対して濡れ易く、n+1層目のバンク層に弾かれるため、乾燥により多層バンクの壁面に設けられた段差部のn層目のバンク層とn+1層目のバンク層との境界において、機能液のエッジ部がより安定的にピニングされる。ゆえに、断面形状がより平坦で安定した膜厚を有する少なくとも2層以上の多層の薄膜層からなる薄膜デバイスを提供することができる。
【0013】
また、上記多層バンクにおいて、nは1以上の自然数であり、n層目のバンク層の厚みが多層の薄膜層のn層目の厚みと略同等であることが好ましい。これによれば、多層バンクに設けられた段差部は、各バンク層を積層することにより構成されるので、段差部と略同等の厚みを有する各薄膜層をデバイス形成領域において、断面形状が平坦な状態で積層することができる。すなわち、それぞれにより均一な厚みを有する多層の薄膜層を備えた薄膜デバイスを提供することができる。
【0014】
また、上記複数のデバイス形成領域には、透明導電膜からなる陽極を有し、多層の薄膜層が陽極の上に積層された発光機能を有する有機EL機能層であることを特徴とする。これによれば、断面形状が平坦で安定した膜厚を有する多層の薄膜層が有機EL機能層であるため、陽極と有機EL機能層を覆う陰極との間に駆動電流を与えれば、有機EL機能層の膜厚ムラに起因する発光ムラや輝度ムラが少なく安定した発光が得られる薄膜デバイスとしての有機EL発光素子を提供することができる。
【0015】
また、上記多層の薄膜層が光学的に透明な機能層と当該機能層に積層された着色層とを含むカラーフィルタであるとしてもよい。これによれば、断面形状が平坦で安定した膜厚を有する多層の薄膜層が光学的に透明な機能層と当該機能層に積層された着色層とを含むカラーフィルタであるため、着色層の膜厚ムラに起因する色ムラなどが少ない薄膜デバイスとしてのカラーフィルタを提供することができる。また、着色層は、光学的に透明な機能層上に積層されるので、多層バンクの高さ(厚み)と着色層の厚みとの差を機能層によって補うことができ、結果的に多層バンクと着色層との間に凹凸が生じにくく、より断面形状が平坦なカラーフィルタを提供することができる。
【0016】
本発明の有機EL装置は、上記発明の薄膜デバイスを備えたことを特徴とする。これによれば、上記発明の薄膜デバイスとしての有機EL発光素子を備えているので、発光ムラや輝度ムラが少なく安定した発光が得られる有機EL装置を提供することができる。
【0017】
本発明の液晶表示装置は、上記発明の薄膜デバイスを備えたことを特徴とする。これによれば、上記発明の薄膜デバイスとしてのカラーフィルタを備えているので、色ムラなどが少ない液晶表示装置を提供することができる。
【0018】
本発明の電子機器は、上記発明の有機EL装置または液晶表示装置を備えたことを特徴とする。これによれば、上記発明の発光ムラや輝度ムラが少なく安定した発光が得られる有機EL装置または、上記発明の色ムラなどが少ない液晶表示装置を備えているので、高い表示品質を有する電子機器を提供することができる。
【0019】
本発明の薄膜デバイスの製造方法は、複数のデバイス形成領域を有する基板上に形成され、複数のデバイス形成領域のそれぞれに積層された多層の薄膜層を有する薄膜デバイスの製造方法であって、複数のデバイス形成領域を仕切るように隔壁部としての多層バンクを形成するバンク形成工程と、多層バンクにより区画された複数のデバイス形成領域のそれぞれに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより多層の薄膜層を形成する薄膜形成工程とを備え、バンク形成工程では、バンク層を少なくとも3層以上積層し、多層バンクの壁面にバンク層がデバイス形成領域の側に張り出した少なくとも2つ以上の段差部を形成することを特徴とする。
【0020】
この方法によれば、バンク形成工程では、バンク層を少なくとも3層以上積層し、多層バンクの壁面にバンク層がデバイス形成領域の側に張り出した少なくとも2つ以上の段差部を形成する。そして、薄膜形成工程では、多層バンクにより区画された複数のデバイス形成領域のそれぞれに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより多層の薄膜層を形成する。したがって、付与された機能液は、機能液中の溶媒の蒸発に伴って機能液のエッジ部が多層バンクの壁面を伝わりながら基板側に後退し、該壁面に形成された段差部のバンク層の境界において停止(ピニング)する。よって、付与された機能液のエッジ部を安定した位置でピニングすることができる。ゆえに、ピニング位置が安定することにより、デバイス形成領域において、断面形状が平坦で安定した膜厚を有する少なくとも2層以上の多層の薄膜層からなる薄膜デバイスを製造することができる。
【0021】
上記バンク形成工程では、nは1以上の自然数であり、多層の薄膜層のn層目を形成するための機能液に対して、n層目のバンク層が親液性を示し、n+1層目のバンク層がn層目のバンク層に比べて撥液性を示すように多層バンクを形成することが好ましい。この方法によれば、付与されたn層目を形成するための機能液は、n層目のバンク層に対して濡れ易く、n+1層目のバンク層に弾かれるため、乾燥により多層バンクの壁面に設けられた段差部のn層目のバンク層とn+1層目のバンク層との境界において、機能液のエッジ部をより安定的にピニングすることができる。ゆえに、断面形状がより平坦で安定した膜厚を有する少なくとも2層以上の多層の薄膜層からなる薄膜デバイスを製造することができる。
【0022】
また、上記薄膜形成工程では、nは1以上の自然数であり、多層バンクのn層目のバンク層の厚みと略同等な厚みとなるように機能液を付与して乾燥することにより、多層の薄膜層のn層目を形成することが好ましい。この方法によれば、多層バンクの壁面において段差部を構成する各バンク層の厚みと略同等な厚みとなるように複数種の機能液をそれぞれ付与して乾燥することにより、多層の薄膜層を形成する。したがって、デバイス形成領域において、断面形状がより平坦な状態で各バンク層の厚みと略同等な厚みを有する薄膜層を積層することができる。すなわち、段差部と薄膜層との間で凹凸が生じにくく、それぞれにより均一な厚みを有する多層の薄膜層を備えた薄膜デバイスを製造することができる。
【0023】
また、上記バンク形成工程の前に、基板上の複数のデバイス形成領域のそれぞれに、透明導電膜からなる陽極を形成する陽極形成工程を備え、上記薄膜形成工程では、少なくとも有機EL発光材料を含む複数種の機能液をデバイス形成領域の陽極上に付与して乾燥することにより、薄膜デバイスとしての有機EL機能層を形成することを特徴とする。
【0024】
この方法によれば、薄膜形成工程では、少なくとも有機EL発光材料を含む複数種の機能液をデバイス形成領域の陽極上に付与して乾燥することにより、薄膜デバイスとしての有機EL機能層を形成する。したがって、デバイス形成領域において、断面形状が平坦で安定した膜厚を有する多層の薄膜層としての有機EL機能層を備えた薄膜デバイスを製造することができる。
【0025】
また、上記薄膜形成工程では、透明な機能性材料を含む機能液をデバイス形成領域に付与して乾燥することにより機能層を形成し、当該機能層上に異なる着色層形成材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより複数色の着色層を積層して薄膜デバイスとしてのカラーフィルタを形成するとしてもよい。
【0026】
この方法によれば、デバイス形成領域において、断面形状が平坦で安定した膜厚を有する多層の薄膜層としての透明な機能層と複数色の着色層とを含む薄膜デバイスとしてのカラーフィルタを製造することができる。
【0027】
本発明の有機EL装置の製造方法は、複数のデバイス形成領域を有する少なくとも1つの基板と、複数のデバイス形成領域ごとに形成された透明導電膜からなる陽極と、陽極上に積層された有機EL発光層を含む有機EL機能層とを備えた有機EL装置の製造方法であって、上記発明の薄膜デバイスの製造方法を用いて有機EL機能層を形成することを特徴とする。
【0028】
この方法によれば、上記発明の断面形状が平坦で安定した膜厚を有する多層の薄膜層としての有機EL機能層を形成することができる薄膜デバイスの製造方法を用いるので、有機EL機能層の膜厚ムラに起因する発光ムラや輝度ムラが少ない有機EL装置を製造することができる。
【0029】
本発明の液晶表示装置の製造方法は、いずれか一方に複数のデバイス形成領域を有する一対の基板と、複数のデバイス形成領域に形成された複数色の着色層を含むカラーフィルタと、一対の基板に挟持された液晶とを備えた液晶表示装置の製造方法であって、上記発明の薄膜デバイスの製造方法を用いてカラーフィルタを形成することを特徴とする。
【0030】
この方法によれば、上記発明の断面形状が平坦で安定した膜厚を有する多層の薄膜層としての機能層と複数色の着色層とを含むカラーフィルタを形成することができる薄膜デバイスの製造方法を用いるので、着色層の膜厚ムラに起因する色ムラなどが少ない液晶表示装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施形態1)
本実施形態は、薄膜デバイスとしての有機EL発光素子を備えた有機EL装置とその製造方法を例に説明する。
【0032】
<有機EL装置>
図1は、有機EL装置の要部構造を示す概略断面図である。同図(a)は概略断面図を示し、同図(b)は、同図(a)の円内を拡大した図である。なお、図は説明のため適宜縮尺して表示している。
【0033】
図1(a)に示すように、本実施形態の有機EL装置20は、複数の有機EL発光素子からなる発光素子部22を有する基板1と、基板1と空間24を隔てて封着された封止基板23とを備えている。また基板1は、素子基板2上に回路素子部3を備えており、発光素子部22は、回路素子部3上に重畳して形成され、回路素子部3により駆動されるものである。発光素子部22には、3色の発光層18R,18G,18Bを含む有機EL機能層21が発色ごとにデバイス形成領域Aに形成され、ストライプ状となっている。基板1は、3色の発光層18R,18G,18Bに対応する3つのデバイス形成領域Aを1組の絵素とし、この絵素が素子基板2の回路素子部3上にマトリクス状に配置されたものである。本実施形態の有機EL装置20は、発光素子部22からの発光が素子基板2側に出射するものである。
【0034】
封止基板23は、ガラス又は金属からなるもので、封止樹脂を介して基板1に接合されており、封止された内側の表面には、ゲッター剤23aが貼り付けられている。ゲッター剤23aは、基板1と封止基板23との間の空間24に侵入した水又は酸素を吸収して、発光素子部22が侵入した水又は酸素によって劣化することを防ぐものである。なお、このゲッター剤23aは省略しても良い。
【0035】
基板1は、素子基板2の回路素子部3上に複数のデバイス形成領域Aを有するものであって、複数のデバイス形成領域Aを区画すると共に、壁面に段差部を有する隔壁部としての多層バンク13と、複数のデバイス形成領域Aに形成された透明導電膜からなる陽極12とを備えている。また複数のデバイス形成領域Aの陽極12の上に積層された多層の薄膜層としての複数の有機EL機能層21を備えている。
【0036】
各有機EL機能層21は、正孔注入輸送層形成材料を含む機能液を陽極12の上に付与して乾燥することにより形成された正孔注入輸送層17と、有機EL発光材料を含む3種の機能液を付与して乾燥することにより正孔注入輸送層17に積層された3色の発光層18R,18G,18Bとを有している。
【0037】
図1(b)に示すように、多層バンク13は、第1バンク14と第2バンク15および第3バンク16からなり、第1バンク14と第2バンク15が、デバイス形成領域Aの内側に張り出すように設けられて、多層バンク13の壁面に2つの段差部14a,15aを形成している。
【0038】
第1バンク14は、絶縁性を有する材料からなり、例えば、シリコンの酸化物や窒化物などの無機材料を用いて、陽極12を額縁状に覆うように設けられている。厚みは、およそ50nmであり、正孔注入輸送層17と略同等な厚みとなるように形成されている。これにより、各有機EL機能層21を覆うように形成された陰極19と陽極12とが電気的に短絡することを防止している。
【0039】
第2バンク15は、有機材料からなり、例えば、アクリル系の感光性樹脂を塗布してフォトリソグラフィ法により第1バンク14の一部がデバイス形成領域Aに張り出すように第1バンク14に積層されている。厚みは、およそ100nmであり、各発光層18R,18G,18Bと略同等な厚みとなるように形成されている。
【0040】
第3バンク16は、有機材料からなり、例えば、ポリイミド、フッ素結合を有する有機化合物を用いることができる。厚みは、およそ50〜100nmであり、第2バンク15の一部がデバイス形成領域Aに張り出すように第2バンク15に積層されている。
【0041】
このような多層バンク13は、正孔注入輸送層形成材料を含む機能液に対して、第1バンク14が親液性を示し、第1バンク14に比べて第2バンク15が撥液性を示す。また、有機EL発光材料を含む3種の機能液に対して第2バンク15と第3バンク16とを比較すると、第2バンク15が親液性を示し、第2バンク15に比べて第3バンク16が撥液性を示す。したがって、壁面に2つの段差部14a,15aを有する多層バンク13によって区画されたデバイス形成領域Aに正孔注入輸送層形成材料を含む機能液を付与して乾燥すれば、当該機能液が第1バンク14の段差部14aに対してよく濡れ広がり、第2バンク15によって弾かれるので、段差部14aの第2バンク15との境界において、当該機能液のエッジ部が安定的にピニングされる。同様にして、デバイス形成領域Aに有機EL発光材料を含む3種の機能液を付与して乾燥すれば、段差部15aの第3バンク16との境界において、当該機能液のエッジ部が安定的にピニングされる。このように各機能液のエッジ部が安定的にピニングされるので、断面形状において、ピニング位置が不安定なためにデバイス形成領域A内で機能液が盛り上がったり、落ち込んだりして乾燥されることを抑制し、乾燥後に平坦でほぼ一定の膜厚を有する薄膜層が得られる。よって、有機EL機能層21は、断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する正孔注入輸送層17と同じく断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する各発光層18R,18G,18Bとが積層されている。
【0042】
このように多層バンク13は、多層バンク13によって区画されたデバイス形成領域Aにm層からなる薄膜層を有する薄膜デバイスを設ける場合、少なくともm+1層のバンク層を積層する。そして、n層目の薄膜層を形成する機能液に対してn層目のバンク層が親液性を示し、n+1層目のバンク層がn層目のバンク層に比べて撥液性を示すように設ける。これにより乾燥後の機能液のエッジ部のピニング位置を安定させようとするものである。なおこの場合、mは2以上の自然数、nは1以上の自然数である。
【0043】
図1(a)に示すように、素子基板2は、例えばガラス等の透明な基板からなり、素子基板2上にシリコン酸化膜からなる下地保護膜2aが形成され、この下地保護膜2a上に多結晶シリコンからなる島状の半導体膜4が形成されている。尚、半導体膜4には、ソース領域4a及びドレイン領域4bが高濃度Pイオン打ち込みにより形成されている。なお、Pイオンが導入されなかった部分がチャネル領域4cとなっている。さらに下地保護膜2a及び半導体膜4を覆う透明なゲート絶縁膜5が形成され、ゲート絶縁膜5上にはAl、Mo、Ta、Ti、W等からなるゲート電極6が形成され、ゲート電極6及びゲート絶縁膜5上には透明な第1層間絶縁膜7と第2層間絶縁膜8が形成されている。ゲート電極6は半導体膜4のチャネル領域4cに対応する位置に設けられている。また、第1層間絶縁膜7および第2層間絶縁膜8を貫通して、半導体膜4のソース領域4a、ドレイン領域4bにそれぞれ接続されるコンタクトホール9,10が形成されている。そして、第2層間絶縁膜8上に、ITO(Indium Tin Oxide)等からなる透明な陽極12が所定の形状にパターニングされて配置され、一方のコンタクトホール9がこの陽極12に接続されている。また、もう一方のコンタクトホール10が電源線11に接続されている。このようにして、回路素子部3には、各陽極12に接続された駆動用の薄膜トランジスタ3aが形成されている。尚、回路素子部3には、保持容量とスイッチング用の薄膜トランジスタも形成されているが、図1(a)ではこれらの図示を省略している。
【0044】
発光素子部22は、陽極12と、陽極12上に順次積層された正孔注入輸送層17、各発光層18R,18G,18Bと、多層バンク13と各発光層18R,18G,18Bとを覆うように積層された陰極19とを備えている。尚、陰極19と封止基板23およびゲッター剤23aを透明な材料で構成すれば、封止基板23側から発光する光を出射させることができる。また、後述する薄膜デバイスの製造方法としての発光素子部の製造方法を用いて形成されている。
【0045】
有機EL装置20は、ゲート電極6に接続された走査線(図示省略)とソース領域4aに接続された信号線(図示省略)とを有し、走査線に伝わった走査信号によりスイッチング用の薄膜トランジスタ(図示省略)がオンになると、そのときの信号線の電位が保持容量に保持され、該保持容量の状態に応じて、駆動用の薄膜トランジスタ3aのオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用の薄膜トランジスタ3aのチャネル領域4cを介して、電源線11から陽極12に電流が流れ、更に有機EL機能層21(正孔注入輸送層17と各発光層18R,18G,18B)を介して陰極19に電流が流れる。各発光層18R,18G,18Bは、これを流れる電流量に応じて発光する。有機EL装置20は、このような発光素子部22の発光メカニズムにより、所望の文字や画像などを表示することができる。また各発光層18R,18G,18Bの断面形状が平坦で膜厚がほぼ一定な有機EL機能層21を備えているため、断面形状が不均一による発光ムラ、輝度ムラ等の表示不具合の少ない高い表示品質を有している。
【0046】
<発光素子部の製造方法>
次に本実施形態の薄膜デバイスの製造方法としての発光素子部22の製造方法について図2〜図5に基づいて説明する。図2は、発光素子部の製造方法を示すフローチャート、図3(a)〜(e)および図4(f)〜(i)は、発光素子部の製造方法を示す概略断面図、図5は、液滴吐出ヘッドの構造を示す概略分解斜視図である。尚、図3(a)〜(e)および図4(f)〜(i)においては、素子基板2上に形成された回路素子部3は、図示を省略している。
【0047】
図2に示すように、本実施形態の発光素子部22の製造方法は、複数のデバイス形成領域Aごとに透明導電膜からなる陽極12を形成する陽極形成工程(ステップS1)と、複数のデバイス形成領域Aを仕切るように隔壁部としての多層バンク13を形成するバンク形成工程(ステップS2〜ステップS4)と、多層バンク13により区画された複数のデバイス形成領域Aのそれぞれに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより多層の薄膜層としての有機EL機能層21を形成する工程(ステップS5〜ステップS6)と、多層バンク13と各有機EL機能層21を覆うように陰極19を形成する陰極形成工程(ステップS7)とを備えている。
【0048】
図2のステップS1は、陽極形成工程である。ステップS1では、図3(a)に示すように、回路素子部3が形成された素子基板2の表面を覆うようにITOなどの透明導電膜を真空蒸着法またはスパッタ法により成膜する。そして、フォトリソグラフィ法により所定の形状となるように透明導電膜をパターニングして陽極12を形成する。この場合、陽極12の膜厚は、およそ50〜100nmである。そして、ステップS2へ進む。
【0049】
図2のステップS2は、第1バンク14を形成する工程である。ステップS2では、図3(b)に示すように、各陽極12が形成された素子基板2の表面を覆うように、シリコン酸化膜をおよそ厚み50nmとなるように成膜する。そして、フォトリソグラフィ法により各陽極12を額縁状に囲むようにシリコン酸化膜をパターニングして各第1バンク14を形成する。さらに、各第1バンク14が形成された素子基板2の表面を、O2ガスを処理ガスとしてプラズマ処理する。これにより陽極12の表面、第1バンク14の表面を含む表面を活性化させて親液処理する。なお、第1バンク14の表面に親液性を付与する方法は、上記プラズマ処理に限らない。第1バンク14は、絶縁性の無機材料からなるため、第1バンク14が形成された素子基板2を純水を用いた湿式洗浄あるいはUV照射などの乾式洗浄を施すことにより、親液性を付与することができる。さらには、これらの親液処理は必須ではなく、パターニング後の第1バンク14の表面が十分に清浄な状態ならば、親液性を示す場合もある。そして、ステップS3へ進む。
【0050】
図2のステップS3は、第2バンク15を形成する工程である。ステップS3では、図3(c)に示すように、各デバイス形成領域Aを区画すると共に、第1バンク14のデバイス形成領域Aの内側への張り出し量が3〜5μmとなるように、第1バンク14の上に第2バンク15を形成する。第2バンク15の材料としては、アクリル系の感光性樹脂材料を用いることができる。第2バンク15の形成方法としては、例えば、第1バンク14が形成された素子基板2の表面に感光性樹脂材料をロールコート法やスピンコート法で塗布し、乾燥させて厚みがおよそ100nmの感光性樹脂層を形成する。そして、デバイス形成領域Aに対応した大きさで開口部が設けられたマスクを素子基板2と所定の位置で対向させて露光・現像することにより、第2バンク15を形成する方法が挙げられる。これにより、後に付与される機能液30に対して、第1バンク14の段差部14aが親液性を示し、第2バンク15の壁面が段差部14aに比べて撥液性を示すこととなる。そして、ステップS4へ進む。
【0051】
図2のステップS4は、第3バンク16を形成する工程である。ステップS4では、図3(d)に示すように、各デバイス形成領域Aを区画すると共に、第2バンク15のデバイス形成領域Aの内側への張り出し量が3〜5μmとなるように、第2バンク15の上に第3バンク16を形成する。第3バンク16の材料としては、ポリイミドやフッ素結合を有する有機化合物を用いることができる。第3バンク16の形成方法としては、例えば、デバイス形成領域Aを遮蔽し第3バンク16の形成領域に対応した開口部を設けたマスクを素子基板2と所定の位置で対向させて、当該マスクを介してポリイミドやフッ素結合を有する有機化合物を含む溶液をスプレーして形成した厚膜を乾燥する方法が挙げられる。この場合、第3バンク16の厚みは、およそ0.5〜1μmである。これにより後に付与される各機能液40,41,42に対して、アクリル系の感光性樹脂からなる第2バンク15は親液性を示し、ポリイミドまたはフッ素結合を含む有機化合物からなる第3バンク16は第2バンク15に比べ撥液性を示す。そして、ステップS5へ進む。
【0052】
図2のステップS5は、正孔注入輸送層形成工程である。ステップS5では、図3(e)に示すように、正孔注入輸送層形成材料を含む機能液30をデバイス形成領域Aに付与する。機能液30を付与する方法としては、機能液30を液滴として吐出可能な液滴吐出ヘッド50と、この液滴吐出ヘッド50を素子基板2に対向させて、液滴吐出ヘッド50と素子基板2とを相対移動可能な走査機構を備えた液滴吐出装置(図示省略)を用いる。
【0053】
ここで液滴吐出ヘッド50について説明しておく。図5に示すように液滴吐出ヘッド50は、液滴が吐出される複数のノズル52を有するノズルプレート51と、複数のノズル52がそれぞれ連通するキャビティ55を区画する隔壁54を有するキャビティプレート53と、複数のキャビティ55に対応する振動子59を有する振動板58とが、順に積層され接合された構造となっている。
【0054】
キャビティプレート53は、ノズル52に連通するキャビティ55を区画する隔壁54を有すると共に、このキャビティ55に機能液Lを充填するための流路56,57を有している。流路57は、ノズルプレート51と振動板58とによって挟まれ、出来上がった空間が、機能液Lが貯留されるリザーバの役目を果たす。
【0055】
機能液Lは、図示しない供給機構から配管を通じて供給され、振動板58に設けられた供給孔58aを通じてリザーバに貯留された後に、流路56を通じて各キャビティ55に充填される。
【0056】
振動子59は例えば圧電素子(ピエゾ素子)であり、外部から駆動電圧パルスが印加されることにより接合された振動板58を変形させる。これにより隔壁54で仕切られたキャビティ55の体積が増加してキャビティ55に機能液Lをリザーバから吸引し、駆動電圧パルスの印加が終了すると、振動板58は基に戻り充填された機能液Lを加圧する。これにより、ノズル52から機能液Lを液滴として吐出できる構造となっている。
【0057】
図3(e)に示すように液滴吐出ヘッド50から吐出された機能液30は、液滴として素子基板2の陽極12に着弾して濡れ拡がる。機能液30はデバイス形成領域Aの面積に応じて必要量が液滴として吐出され表面張力で盛り上がった状態となる。そして図4(f)に示すように、素子基板2を例えばランプアニール等の方法で加熱することにより、機能液30の溶媒成分を乾燥させて除去する。乾燥により機能液30のエッジ部は、多層バンク13の壁面に沿って陽極12側に後退し、段差部14aの第2バンク15との境界でピニングされる。これにより第1バンク14で区画された領域に断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する正孔注入輸送層17が形成される。正孔注入輸送層形成材料としては、ポリマー前駆体がポリテトラヒドロチオフェニルフェニレンであるポリフェニレンビニレン、1,1−ビス−(4−N,N−ジトリルアミノフェニル)シクロヘキサン、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム、ポリスチレンスルフォン酸、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸との混合物(PEDOT/PSS)等を例示することができる。また、溶媒としては、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリノン等の極性溶媒を例示することができる。本実施形態では、PEDOT(Polyethylene Dioxy Thiophene;ポリエチレンジオキシチオフェン)を用いた。尚、この場合、各デバイス形成領域Aに同一材料からなる正孔注入輸送層17を形成したが、後の発光層の形成材料に対応して正孔注入輸送層17の材料をデバイス形成領域Aごとに変えてもよい。そしてステップS6へ進む。
【0058】
図2のステップS6は、発光層形成工程である。ステップS6では、図4(g)に示すように、複数のデバイス形成領域Aに有機EL発光材料を含む3種の機能液40,41,42を付与する。各機能液40,41,42を付与する方法としては、先のステップS5と同様にして、液滴吐出ヘッド50に各機能液40,41,42を充填して、それぞれ液滴として対応するデバイス形成領域Aに着弾させる。機能液40は発光層18R(赤色)を形成する材料を含み、機能液41は発光層18G(緑色)を形成する材料を含み、機能液42は発光層18B(青色)を形成する材料を含んでいる。
【0059】
有機EL発光材料としては、蛍光或いは燐光を発光することが可能な公知の高分子発光材料である、ポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリジアルキルフルオレン(PDAF)、ポリフルオレンベンゾチアジアゾール(PFBT)、ポリアルキルチオフェン(PAT)や、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)等のポリシラン系などを好適に用いることができる。また、これらの有機EL発光材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0060】
各機能液40,41,42に含まれる溶媒としては、例えば、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼン等の炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサン等のエーテル系化合物、更にプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン等の極性化合物を例示できる。
【0061】
これらのうち、微粒子の分散性と機能液の安定性、また液滴吐出法(インクジェット法)への適用の容易さの点で、水、アルコール類、炭化水素系化合物、エーテル系化合物が好ましく、より好ましい溶媒としては、水、炭化水素系化合物を挙げることができる。
【0062】
図4(g)に示すように、着弾した各機能液40,41,42は、デバイス形成領域Aに濡れ拡がって断面形状が円弧状に盛り上がる。そして、図4(h)に示すように、素子基板2を例えばランプアニール等の方法で加熱することにより、各機能液40,41,42の溶媒成分を乾燥させて除去する。乾燥により各機能液40,41,42のエッジ部は、多層バンク13の壁面に沿って正孔注入輸送層17側に後退し、段差部15aの第3バンク16との境界でピニングされる。これにより第2バンク15で区画された領域に断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する各発光層18R,18G,18Bが形成される。そしてステップS7へ進む。
【0063】
尚、付与された各機能液40,41,42の乾燥方法は、各機能液40,41,42をすべて付与した後に一括乾燥する方法に限らず、各機能液40,41,42ごとに、乾燥を施してもよい。乾燥方法としては、溶媒の蒸発速度をほぼ一定とすることが可能な、減圧乾燥が好ましい。
【0064】
図2のステップS7は、陰極形成工程である。ステップS7では、図4(i)に示すように、素子基板2の各発光層18R,18G,18Bと多層バンク13の表面とを覆うように陰極19を形成する。陰極19の材料としては、Ca、Ba、Al等の金属やLiF等のフッ化物を組み合わせて用いるのが好ましい。特に発光層に近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいAl等の膜を形成するのが好ましい。また、陰極19の上にSiO2、SiN等の保護層を積層してもよい。このようにすれば、陰極19の酸化を防止することができる。陰極19の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法等が挙げられる。特に発光層の熱による損傷を防止できるという点では、蒸着法が好ましい。
【0065】
<有機EL装置の製造方法>
本実施形態の有機EL装置20の製造方法は、回路素子部3が形成された基板1に上記薄膜デバイスの製造方法を用いて発光素子部22を形成する工程と、発光素子部22が形成された基板1と封止基板23とを空間24を介して封止樹脂により封止接着する工程とを備えている。このようにして製造された有機EL装置20は、各発光層18R,18G,18Bの断面形状がほぼ平坦で膜厚もほぼ一定であるため、各発光層18R,18G,18Bごとの抵抗がほぼ一定となる。すなわち回路素子部3により発光素子部22に駆動電圧を印加して発光させると、各発光層18R,18G,18Bごとの抵抗ムラによる発光ムラや輝度ムラ等が少ない、見映えのよい表示品質が得られる。
【0066】
上記実施形態1の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態1の有機EL装置20において、薄膜デバイスとしての発光素子部22は、デバイス形成領域Aを区画すると共に壁面に2つの段差部14a,15aを有する多層バンク13と、デバイス形成領域Aに複数種の機能性材料を含む複数種の機能液30,40,41,42を付与して乾燥することにより形成された多層の有機EL機能層21とを備えている。また、多層バンク13は、n層目の薄膜層を形成する機能液に対してn層目のバンク層が親液性を示し、n+1層目のバンク層がn層目のバンク層に比べて撥液性を示すように設けられている。これにより乾燥後の各機能液のエッジ部のピニング位置を安定させることができる。ピニング位置が安定するので、有機EL機能層21の正孔注入輸送層17および各発光層18R,18G,18Bの断面形状を平坦でほぼ一定の膜厚とすることができる。なおこの場合、nは1以上の自然数である。
【0067】
(2)上記実施形態1の有機EL装置20は、断面形状が平坦でほぼ一定した膜厚を有する多層の有機EL機能層21を有し、陽極12と有機EL機能層21を覆う陰極19との間に駆動電流を与えれば、有機EL機能層21の膜厚ムラに起因する発光ムラや輝度ムラが少なく安定した発光が得られる薄膜デバイスとしての発光素子部22を備えた有機EL装置20を提供することができる。
【0068】
(3)上記実施形態1の発光素子部22の製造方法において、バンク形成工程(ステップS2〜ステップS4)では、デバイス形成領域A側の壁面に2つの段差部14a,15aを形成するように第1バンク14と第2バンク15と第3バンク16とを積層して多層バンク13を形成する。また、有機EL機能層21を形成する工程(ステップS5〜ステップS6)では、多層バンク13により区画された複数のデバイス形成領域Aのそれぞれに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより正孔注入輸送層17と各発光層18R,18G,18Bとを積層して多層の薄膜層としての有機EL機能層21を形成する。正孔注入輸送層17を形成する機能液30に対して、第1バンク14は親液性を示し、第2バンク15は第1バンク14に比べて撥液性を示すので、乾燥後の機能液30のエッジ部は、段差部14aの第2バンク15との境界において、安定的にピニングされる。同様に各発光層18R,18G,18Bを形成する各機能液40,41,42に対して、第2バンク15は親液性を示し、第3バンク16は第2バンク15に比べて撥液性を示すので、乾燥後の各機能液40,41,42のエッジ部は、段差部15aの第3バンク16との境界において、安定的にピニングされる。したがって、乾燥後の各機能液のエッジ部のピニング位置が安定するので、断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する正孔注入輸送層17および各発光層18R,18G,18Bからなる有機EL機能層21を形成することができる。すなわち、有機EL機能層21の膜厚ムラに起因する発光ムラや輝度ムラが少なく安定した発光が得られる薄膜デバイスとしての発光素子部22を製造することができる。
【0069】
(4)上記実施形態1の有機EL装置20の製造方法は、薄膜デバイスの製造方法としての発光素子部の製造方法を用いて、発光素子部22を形成する。したがって、有機EL機能層21の膜厚ムラに起因する発光ムラや輝度ムラが少なく安定した発光が得られる薄膜デバイスとしての発光素子部22を備えた有機EL装置20を製造することができる。
【0070】
(実施形態2)
本実施形態は、薄膜デバイスとしてのカラーフィルタを備えた液晶表示装置とその製造方法を例に説明する。
【0071】
<液晶表示装置>
図6は、液晶表示装置の構造を示す概略斜視図である。図6に示すように、本実施形態の液晶表示装置100は、TFT(Thin Film Transistor)透過型の液晶表示パネル120と、液晶表示パネル120を照明する照明装置130とを備えている。液晶表示パネル120は、着色層108R,108G,108Bを含むカラーフィルタ111と、画素電極114に3端子のうちの1つが接続されたTFT素子115を有する素子基板112と、これらの一対の基板111,112によって挟持された電気光学材料としての液晶(図示省略)とを備えている。また、液晶表示パネル120の外面側となる一対の基板111,112の表面には、透過する光を偏向させる上偏光板118と下偏光板119とが配設される。
【0072】
カラーフィルタ111は、透明なガラス等からなる基板101と、複数のデバイス形成領域としての着色領域をマトリクス状に区画する隔壁部としての多層バンク102を備えている。また、多層バンク102により区画された複数の着色領域に透明な機能性材料を含む機能液を付与して乾燥することにより形成された機能層としての透明樹脂層107と、複数の着色領域に異なる着色層形成材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより透明樹脂層107に積層されたRGB3色の着色層108R,108G,108Bとを備えている。さらに、多層バンク102と着色層108R,108G,108Bとを覆う平坦化層としてのオーバーコート層(OC層)109と、OC層109を覆うように形成されたITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜からなる対向電極110とを備えている。
【0073】
多層バンク102は、Crなどの遮光性を有する金属あるいはその酸化膜からなる遮光膜103上に設けられ(図6では下方向に向かって)、第1バンク104と第2バンク105および第3バンク106により構成されている。多層バンク102の壁面には、第1バンク104と第2バンク105とが着色領域の側に張り出した2つの段差部104a,105aが設けられている。
【0074】
第1バンク104は、有機材料からなり、例えば、アクリル系の感光性樹脂を塗布してフォトリソグラフィ法により遮光膜103に積層されている。厚みは、およそ0.5μmであり、透明樹脂層107と略同等な厚みとなるように形成されている。
【0075】
第2バンク105は、有機材料からなり、例えば、フェノール系の感光性樹脂を塗布してフォトリソグラフィ法により第1バンク104の一部が着色領域に張り出すように第1バンク104に積層されている。厚みは、およそ1.0〜1.5μmであり、着色層108R,108G,108Bと略同等な厚みとなるように形成されている。
【0076】
第3バンク106は、有機材料からなり、例えば、ポリイミド、フッ素結合を有する有機化合物を用いることができる。厚みは、およそ0.5μmであり、第2バンク105の一部が着色領域に張り出すように第2バンク105に積層されている。
【0077】
このような多層バンク102は、透明樹脂材料を含む機能液に対して、第1バンク104が親液性を示し、第1バンク104に比べて第2バンク105が撥液性を示す。また、着色層形成材料を含む3種の機能液に対して第2バンク105と第3バンク106とを比較すると、第2バンク105が親液性を示し、第2バンク105に比べて第3バンク106が撥液性を示す。したがって、壁面に2つの段差部104a,105aを有する多層バンク102によって区画された着色領域に透明樹脂材料を含む機能液を付与して乾燥すれば、当該機能液が第1バンク104の段差部104aに対してよく濡れ広がり、第2バンク105によって弾かれるので、段差部104aの第2バンク105との境界において、当該機能液のエッジ部が安定的にピニングされる。同様にして、着色領域に異なる着色層形成材料を含む複数種(3色)の機能液を付与して乾燥すれば、段差部105aの第3バンク106との境界において、当該機能液のエッジ部が安定的にピニングされる。このように各機能液のエッジ部が安定的にピニングされるので、断面形状において、ピニング位置が不安定なために着色領域内で機能液が盛り上がったり、落ち込んだりして乾燥されることを抑制し、乾燥後に平坦でほぼ一定の膜厚を有する透明樹脂層107および着色層108R,108G,108Bが得られる。よって、カラーフィルタ111は、断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する透明樹脂層107および着色層108R,108G,108Bとが積層されている。
【0078】
このように多層バンク102の基本的な構成は、上記実施形態1の多層バンク13と同様であり、デバイス形成領域にm層からなる薄膜層を有する薄膜デバイスを設ける場合、少なくともm+1層のバンク層を積層する。そして、n層目の薄膜層を形成する機能液に対してn層目のバンク層が親液性を示し、n+1層目のバンク層がn層目のバンク層に比べて撥液性を示すように設ける。これにより乾燥後の機能液のエッジ部のピニング位置を安定させようとするものである。mは2以上の自然数、nは1以上の自然数である。
【0079】
このようなカラーフィルタ111は、後述する薄膜デバイスの製造方法としてのカラーフィルタの製造方法を用いて製造されている。
【0080】
素子基板112は、同じく透明なガラス等の材料からなり、絶縁膜113を介してマトリクス状に形成された画素電極114と、画素電極114に対応して形成された複数のTFT素子115とを有している。TFT素子115の3端子のうち、画素電極114に接続されない他の2端子は、互いに絶縁された状態で画素電極114を囲むように格子状に配設された走査線116とデータ線117とに接続されている。
【0081】
照明装置130は、例えば光源として白色のLED、EL、冷陰極管等を用い、これらの光源からの光を液晶表示パネル120に向かって出射することができる導光板や拡散板、反射板等の構成を備えたものであれば、どのようなものでもよい。
【0082】
以上のように、液晶表示装置100は、断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する透明樹脂層107と着色層108R,108G,108Bとを有するカラーフィルタ111を備えているので、着色層108R,108G,108Bの膜厚ムラによる色ムラなどが少ない高い表示品質を有している。また、透明樹脂層107に着色層108R,108G,108Bが積層されているので、透明樹脂層107を設けない場合に比べて、多層バンク102と着色層108R,108G,108Bの液晶側の表面の凹凸を少なくすることができ、OC層109をさらに積層することによって、より平坦な対向電極110を得ることができる。したがって、対向電極110と画素電極114との間隔(セル厚)のバラツキをより少なくすることが可能である。すなわち、セル厚ムラによる表示ムラを低減可能である。OC層109は必須ではなく、多層バンク102と着色層108R,108G,108Bとを覆うように対向電極110を設けてもよい。
【0083】
尚、液晶表示装置100は、スイッチング素子としてTFT素子115に限らずTFD(Thin Film Diode)素子を有したものでもよく、さらには、少なくとも一方の基板に着色層108R,108G,108Bを備えるものであれば、画素を構成する電極が互いに交差するように配置されるパッシブ型の液晶表示装置でもよい。また、各偏光板118,119は、視角依存性を改善する目的等で用いられる位相差フィルムなどの光学機能性フィルムと組み合わされたものでもよい。
【0084】
<カラーフィルタの製造方法>
次に本実施形態の薄膜デバイスの製造方法としてカラーフィルタ111の製造方法について図7〜図9に基づいて説明する。図7は、カラーフィルタの製造方法を示すフローチャート、図8(a)〜(e)および図9(f)〜(i)はカラーフィルタの製造方法を示す概略断面図である。
【0085】
図7に示すように、本実施形態のカラーフィルタ111の製造方法は、基板101の表面に遮光膜103を形成する工程(ステップS11)と、遮光膜103上に多層バンク102を形成する工程(ステップS12〜ステップS14)とを備えている。また、液滴吐出装置を用いて、デバイス形成領域としての着色領域に透明樹脂材料を含む機能液を付与して透明樹脂層107を形成する工程(ステップS15)と、着色領域に異なる着色層形成材料を含む3種(3色)の機能液を付与して乾燥し各着色層108R,108G,108Bを形成する着色層形成工程(ステップS16)とを備えている。さらに多層バンク102と着色層108R,108G,108Bとを覆うようにOC層109を形成するOC層形成工程(ステップS17)を備えている。
【0086】
実際のカラーフィルタ111の製造工程では、1つの液晶表示パネル120に対応するカラーフィルタ111がマトリクス状に配置されるよう設計されたマザー基板が用いられる。マザー基板は、液晶表示パネル120を効率的かつ安価に製造するために大型化している。このような大型のマザー基板に複数色の着色層を形成する方法として、着色層形成材料を無駄なく使用して着色層を効率的に形成するために液滴吐出法(インクジェット法)を用いている。
【0087】
図7のステップS11は、遮光膜形成工程である。ステップS11では、図8(a)に示すように、遮光膜103を基板101上に形成する。遮光膜103の材料は、例えば、Cr、Ni、Al等の不透明な金属、あるいはこれらの金属の酸化物等の化合物を用いることができる。遮光膜103の形成方法としては、蒸着法あるいはスパッタ法で上記材料からなる膜を基板101上に成膜する。膜厚は、遮光性が保たれる膜厚を選定された材料に応じて設定すればよい。例えば、Crならば、100〜200nmが好ましい。そして、フォトリソグラフィ法により開口部103aに対応する部分以外をレジストで覆い、上記材料に対応する酸等のエッチング液を用いて膜をエッチングする。これにより開口部103aを有する遮光膜103が形成される。そして、ステップS12へ進む。
【0088】
図7のステップS12は、第1バンク形成工程である。ステップS12では、図8(b)に示すように、遮光膜103の上に第1バンク104を形成する。第1バンク104の材料としては、アクリル系の感光性樹脂材料を用いることができる。第1バンク104の形成方法としては、例えば、遮光膜103が形成された基板101の表面に上記感光性樹脂材料をロールコート法やスピンコート法で塗布し、乾燥させて厚みがおよそ0.5μmの感光性樹脂層を形成する。そして、着色領域Dに対応した大きさで開口部が設けられたマスクを基板101と所定の位置で対向させて露光・現像することにより、第1バンク104を形成する方法が挙げられる。なお、第1バンク104を構成する感光性樹脂材料に遮光性を有する材料を用いれば、遮光膜103を省いてもよい。そしてステップS13へ進む。
【0089】
図7のステップS13は、第2バンク形成工程である。ステップS13では、図8(c)に示すように、各着色領域Dを区画すると共に、第1バンク104の着色領域Dの内側への張り出し量が3〜5μmとなるように、第1バンク104の上に第2バンク105を形成する。第2バンク105の材料としては、フェノール系の感光性樹脂材料を用いることができる。第2バンク105の形成方法としては、例えば、第1バンク104が形成された基板101の表面に上記感光性樹脂材料をロールコート法やスピンコート法で塗布し、乾燥させて厚みがおよそ1.0〜1.5μmの感光性樹脂層を形成する。そして、着色領域Dに対応した開口部が設けられたマスクを基板101と所定の位置で対向させて露光・現像することにより、第1バンク104の一部が着色領域側に張り出すように第2バンク105を形成する方法が挙げられる。これにより、後に付与される機能液60に対して、アクリル系の感光性樹脂材料からなる第1バンク104は親液性を示し、フェノール系の感光性樹脂材料からなる第2バンク105は第1バンク104に比べ撥液性を示す。そしてステップS14へ進む。
【0090】
図7のステップS14は、第3バンク形成工程である。ステップS14では、図8(d)に示すように、各着色領域Dを区画すると共に、第2バンク105の着色領域Dの内側への張り出し量が3〜5μmとなるように、第2バンク105の上に第3バンク106を形成する。第3バンク106の材料としては、ポリイミドやフッ素結合を有する有機化合物を用いることができる。第3バンク106の形成方法としては、例えば、着色領域Dを遮蔽し第3バンク106の形成領域に対応した開口部を設けたマスクを基板101と所定の位置で対向させて、当該マスクを介してポリイミドやフッ素結合を有する有機化合物を含む溶液をスプレーして形成した厚膜を乾燥する方法が挙げられる。この場合、第3バンク106の厚みは、およそ0.5μmである。これにより、第2バンク105の一部が着色領域D側に張り出すように第3バンク106が形成される。また、後に付与される各機能液70,71,72に対して、フェノール系の感光性樹脂からなる第2バンク105は親液性を示し、ポリイミドまたはフッ素結合を含む有機化合物からなる第3バンク106は第2バンク105に比べ撥液性を示す。そして、ステップS15へ進む。
【0091】
図7のステップS15は、透明樹脂層形成工程である。ステップS15では、図8(e)に示すように、透明樹脂材料を含む機能液60を液滴吐出ヘッド50に充填し、着色領域Dに付与する。機能液60は着色領域Dの面積に応じて必要量が液滴として吐出され表面張力で盛り上がった状態となる。そして図9(f)に示すように、基板101を例えばランプアニール等の方法で加熱することにより、機能液60の溶媒成分を乾燥させて除去する。乾燥により機能液60のエッジ部は、多層バンク102の壁面に沿って基板101側に後退し、段差部104aの第2バンク105との境界でピニングされる。これにより第1バンク104で区画された領域に断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する透明樹脂層107が形成される。この場合、透明樹脂材料としてアクリル系樹脂を用い、溶媒としてアルコール類や炭化水素化合物を用いるのが好ましい。そして、ステップS16へ進む。
【0092】
図7のステップS16は、着色層形成工程である。ステップS16では、図9(g)に示すように、液滴吐出ヘッド50から各着色領域Dのそれぞれに対応する機能液70,71,72を液滴として付与する。機能液70はR(赤色)の着色層形成材料を含み、機能液71はG(緑色)の着色層形成材料を含み、機能液72はB(青色)の着色層形成材料を含むものである。各着色領域Dごとに必要量の機能液70,71,72が付与され盛り上がる。そして、図9(h)に示すように、基板101を例えばランプアニール等の方法で加熱することにより、付与された機能液70,71,72から溶剤成分を除去する。乾燥により各機能液70,71,72のエッジ部は、多層バンク102の壁面に沿って基板101側に後退し、段差部105aの第3バンク106との境界でピニングされる。これにより第2バンク105で区画された領域に断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する着色層108R,108G,108Bが形成される。付与された機能液70,71,72を一括乾燥する方法としては、これに限らず、溶剤成分を均一に乾燥可能な減圧乾燥法が望ましい。そしてステップS17へ進む。
【0093】
図7のステップS17は、OC層形成工程である。ステップS17では、図9(i)に示すように、多層バンク102と着色層108R,108G,108Bとを覆うようにOC層109を形成する。OC層109の材料としては、透明なアクリル系樹脂材料を用いることができる。形成方法としては、スピンコート法、オフセット印刷などの方法が挙げられる。OC層109は、着色層108R,108G,108Bが形成された基板101の表面の凹凸を緩和して、後にこの表面に膜付けされる対向電極110を平担化するために設けられている。また、対向電極110との密着性を確保するために、OC層109の上にさらにSiO2などの薄膜を形成してもよい。
【0094】
上記のカラーフィルタ111の製造方法によれば、断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する透明樹脂層107と着色層108R,108G,108Bとを備えたカラーフィルタ111を製造することが可能である。
【0095】
<液晶表示装置の製造方法>
本実施形態の液晶表示装置100の製造方法は、上記カラーフィルタ111の製造方法を用いて基板101の上にカラーフィルタ111を形成する工程と、画素電極114、TFT素子115、走査線116、データ線117等が形成された素子基板112と基板101とを所定の間隔を置いて接着剤で接着し、その隙間に液晶を充填する工程とを備えている。これによれば、色ムラ等の不良が低減された見映えのよい表示品質を有する液晶表示装置100を製造可能である。なお、カラーフィルタ111に対向電極110を形成する方法、素子基板112に画素電極114、TFT素子115、走査線116、データ線117等を形成する方法は、公知の方法を用いればよい。
【0096】
上記実施形態2の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態2の液晶表示装置100において、薄膜デバイスとしてのカラーフィルタ111は、着色領域Dを区画すると共に壁面に2つの段差部104a,105aを有する多層バンク102と、着色領域Dに複数種の機能性材料を含む複数種の機能液60,70,71,72を付与して乾燥することにより形成された透明樹脂層107と各着色層108R,108G,108Bとを備えている。また、多層バンク102は、n層目の薄膜層を形成する機能液に対してn層目のバンク層が親液性を示し、n+1層目のバンク層がn層目のバンク層に比べて撥液性を示すように設けられている。これにより乾燥後の各機能液のエッジ部のピニング位置を安定させることができる。ピニング位置が安定するので、カラーフィルタ111の透明樹脂層107および各着色層108R,108G,108Bの断面形状を平坦でほぼ一定の膜厚とすることができる。なおこの場合、nは1以上の自然数である。
【0097】
(2)上記実施形態2の液晶表示装置100は、断面形状が平坦でほぼ一定した膜厚を有する多層のカラーフィルタ111を有し、画素電極114と対向電極110との間に駆動電圧を与えれば、着色層108R,108G,108Bの膜厚ムラに起因する色ムラなどが少ない安定した表示品質が得られる薄膜デバイスとしてのカラーフィルタ111を備えた液晶表示装置100を提供することができる。また、基板101側に透明樹脂層107を設け、その上に着色層108R,108G,108Bを積層するので、多層バンク102と着色層108R,108G,108Bとの間の凹凸を少なくすることができ、より平坦な対向電極110を得ることができる。よって、画素電極114と対向電極110との間のセル厚のバラツキを小さくすることができ、セル厚ムラによる表示ムラを低減することができる。
【0098】
(3)上記実施形態2のカラーフィルタ111の製造方法は、バンク形成工程(ステップS12〜ステップS14)では、デバイス形成領域としての着色領域D側の壁面に2つの段差部104a,105aを形成するように第1バンク104と第2バンク105と第3バンク106とを積層して多層バンク102を形成する。また、カラーフィルタ111を形成する工程(ステップS15〜ステップS16)では、多層バンク102により区画された複数の着色領域Dのそれぞれに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより透明樹脂層107と各着色層108R,108G,108Bとを積層して多層のカラーフィルタ111を形成する。透明樹脂層107を形成する機能液60に対して、第1バンク104は親液性を示し、第2バンク105は第1バンク104に比べて撥液性を示すので、乾燥後の機能液60のエッジ部は、段差部104aの第2バンク105との境界において、安定的にピニングされる。同様に各着色層108R,108G,108Bを形成する各機能液70,71,72に対して、第2バンク105は親液性を示し、第3バンク106は第2バンク105に比べて撥液性を示すので、乾燥後の各機能液70,71,72のエッジ部は、段差部105aの第3バンク106との境界において、安定的にピニングされる。したがって、乾燥後の各機能液のエッジ部のピニング位置が安定するので、断面形状が平坦でほぼ一定の膜厚を有する透明樹脂層107および各着色層108R,108G,108Bからなるカラーフィルタ111を形成することができる。すなわち、着色層108R,108G,108Bの膜厚ムラに起因する色ムラなどが少ない薄膜デバイスとしてのカラーフィルタ111を製造することができる。
【0099】
(4)上記実施形態2の液晶表示装置100の製造方法は、薄膜デバイスの製造方法としてのカラーフィルタの製造方法を用いて、カラーフィルタ111を形成する。したがって、着色層108R,108G,108Bの膜厚ムラに起因する色ムラなどが少ない薄膜デバイスとしてのカラーフィルタ111を備えた液晶表示装置100を製造することができる。
【0100】
(実施形態3)
次に上記実施形態1の有機EL装置あるいは実施形態2の液晶表示装置を備えた電子機器の具体例について説明する。図10(a)は電子機器としての携帯電話機を示す概略斜視図、図10(b)は電子機器としての携帯型情報処理装置を示す概略斜視図である。
【0101】
図10(a)に示すように、本実施形態の電子機器としての携帯電話機200は、表示部201に有機EL装置20あるいは液晶表示装置100が搭載されている。
【0102】
図10(b)に示すように、本実施形態の電子機器としての携帯型情報処理装置300は、入力用のキーボード302を有する情報処理装置本体303と、表示部301とを備えている。表示部301には、有機EL装置20あるいは液晶表示装置100が搭載されている。
【0103】
上記実施形態3の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態3の携帯電話機200および携帯型情報処理装置300は、上記実施形態1の有機EL装置20あるいは上記実施形態2の液晶表示装置100を搭載しているため、発光ムラ、輝度ムラ、色ムラ等の表示不具合の少ない、高い表示品質で文字や画像等の情報を確認することが可能な電子機器としての携帯電話機200および携帯型情報処理装置300を提供することができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。例えば上記各実施形態以外の変形例は、以下の通りである。
【0105】
(変形例1)上記実施形態1の有機EL装置20の多層バンク13において、それぞれ異なる材料からなる第2バンク15、第3バンク16を第1バンク14に積層して設けることに限定されない。例えば、第2バンク15と第3バンク16とを同一の材料のアクリル系の感光性樹脂により壁面に段差部が生じるように形成し、フッ素系の処理ガスでプラズマ処理することによって、撥液性が第2バンク15<第3バンク16となるように設けることも可能である。また、親液性または撥液性を付与可能な材料をバンク構成部材に添加し、当該材料の添加量を変えることにより、第2バンク15と第3バンク16との相対的な親液性または撥液性の程度に差を生じさせるようにしてもよい。本変形例は、上記実施形態2の液晶表示装置100の多層バンク102においても同様に適用することができる。
【0106】
(変形例2)上記実施形態1の有機EL装置20の封止基板23は必ずしも必要としない。例えば、素子基板2の発光素子部22を覆うように遮光性を有する樹脂等からなる封着剤によって封止してもよい。
【0107】
(変形例3)上記実施形態1の有機EL装置20の構成はこれ限定されず、例えば、封止基板23の替わりにカラーフィルタ111を備えた基板101を用い、陰極19を透明な状態に形成して、白色発光可能な発光層を有する発光素子部22を備えた基板1と封止することにより、所謂トップエミッション型の有機EL装置20とすることも可能である。
【0108】
(変形例4)上記実施形態2の液晶表示装置100において、カラーフィルタ111を構成する透明な機能層は、透明樹脂層107に限定されない。例えば、着色層108R,108G,108Bに対して異なる屈折率を有する透明材料を用いて機能層を形成すれば、照明装置130から出射し着色層108R,108G,108Bを透過した照明光を当該機能層で拡散あるいは指向性を持たせるなどの射出方向を制御することが可能である。
【0109】
(変形例5)上記実施形態2の液晶表示装置100において、カラーフィルタ111の着色層108R,108G,108Bの配置は、これに限定されない。図11は、着色層の配置を示す平面図である。例えば、着色層108R,108G,108Bの配置は、同図(a)に示したストライプ状であるが、同図(b)に示すように同一色の着色層が斜め方向に配置されたモザイク状、あるいは同図(c)に示すように三角形の頂点の位置に着色層が配置されたデルタ状でも、本発明の薄膜デバイスの製造方法としてのカラーフィルタの製造方法を適用することができる。なお、上記実施形態1の有機EL装置20の発光層18R,18G,18Bの配置においても同様である。また、着色層は3色に限定されず、RGB以外に色再現範囲を拡大する他の色を加えた多色の構成としてもよい。
【0110】
(変形例6)上記実施形態1の有機EL装置20または上記実施形態2の液晶表示装置100を搭載した電子機器としては、実施形態3の携帯電話機200あるいは携帯型情報処理装置300に限定されない。例えば、PDA(Personal Digital Assistants)と呼ばれる携帯型情報機器や携帯端末機器、ワープロ、デジタルスチルカメラ、車載用モニタ、デジタルビデオカメラ、液晶テレビ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワークステーション、テレビ電話機、POS端末機等、電気光学装置である有機EL装置や液晶表示装置を用いる機器が挙げられる。
【0111】
(変形例7)上記各実施形態では、薄膜デバイスとして発光素子部22やカラーフィルタ111を例示したが、多層の薄膜層を備えるデバイスであれば、他のデバイスにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】(a)および(b)は有機EL装置の要部構造を示す概略断面図。
【図2】発光素子部の製造方法を示すフローチャート。
【図3】(a)〜(e)は発光素子部の製造方法を示す概略断面図。
【図4】(f)〜(i)は発光素子部の製造方法を示す概略断面図。
【図5】液滴吐出ヘッドの構造を示す概略分解斜視図。
【図6】液晶表示装置の構造を示す概略斜視図。
【図7】カラーフィルタの製造方法を示すフローチャート。
【図8】(a)〜(e)はカラーフィルタの製造方法を示す概略断面図。
【図9】(f)〜(i)はカラーフィルタの製造方法を示す概略断面図。
【図10】(a)は電子機器としての携帯電話機を示す概略斜視図、(b)は電子機器としての携帯型情報処理装置を示す概略斜視図。
【図11】(a)〜(c)は着色層の配置を示す平面図。
【符号の説明】
【0113】
2…基板としての素子基板、12…陽極、13…多層バンク、14…バンク層としての第1バンク、15…バンク層としての第2バンク、16…バンク層としての第3バンク、17…薄膜層としての正孔注入輸送層、18R,18G,18B…薄膜層としての発光層、20…有機EL装置、21…有機EL機能層、22…薄膜デバイスとしての発光素子部、30,40,41,42,60,70,71,72…機能液、100…液晶表示装置、101…基板、102…多層バンク、104…バンク層としての第1バンク、105…バンク層としての第2バンク、106…バンク層としての第3バンク、107…薄膜層としての透明樹脂層、108R,108G,108B…薄膜層としての着色層、111…薄膜デバイスとしてのカラーフィルタ、200…電子機器としての携帯電話機、300…電子機器としての携帯型情報処理装置、A…デバイス形成領域、D…デバイス形成領域としての着色領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデバイス形成領域を有する基板上に形成され、
前記複数のデバイス形成領域を仕切るように設けられた隔壁部としての多層バンクと、
前記複数のデバイス形成領域のそれぞれに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して積層された多層の薄膜層とを備え、
前記多層バンクが少なくとも3層以上からなり、前記多層バンクの壁面にバンク層が前記デバイス形成領域の側に張り出した少なくとも2つ以上の段差部を設けたことを特徴とする薄膜デバイス。
【請求項2】
前記多層バンクにおいて、nは1以上の自然数であり、前記多層の薄膜層のn層目を形成するための前記機能液に対して、n層目のバンク層が親液性を示し、n+1層目のバンク層が前記n層目のバンク層に比べて撥液性を示すことを特徴とする請求項1に記載の薄膜デバイス。
【請求項3】
前記多層バンクにおいて、nは1以上の自然数であり、n層目のバンク層の厚みが前記多層の薄膜層のn層目の厚みと略同等であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜デバイス。
【請求項4】
前記複数のデバイス形成領域には、透明導電膜からなる陽極を有し、
前記多層の薄膜層が前記陽極の上に積層された発光機能を有する有機EL機能層であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の薄膜デバイス。
【請求項5】
前記多層の薄膜層が光学的に透明な機能層と前記機能層に積層された着色層とを含むカラーフィルタであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の薄膜デバイス。
【請求項6】
請求項4に記載の薄膜デバイスを備えたことを特徴とする有機EL装置。
【請求項7】
請求項5に記載の薄膜デバイスを備えたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項8】
請求項6に記載の有機EL装置または請求項7に記載の液晶表示装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
複数のデバイス形成領域を有する基板上に形成され、前記複数のデバイス形成領域のそれぞれに積層された多層の薄膜層を有する薄膜デバイスの製造方法であって、
前記複数のデバイス形成領域を仕切るように隔壁部としての多層バンクを形成するバンク形成工程と、
前記多層バンクにより区画された前記複数のデバイス形成領域のそれぞれに異なる機能性材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより前記多層の薄膜層を形成する薄膜形成工程とを備え、
前記バンク形成工程では、バンク層を少なくとも3層以上積層し、前記多層バンクの壁面に前記バンク層が前記デバイス形成領域の側に張り出した少なくとも2つ以上の段差部を形成することを特徴とする薄膜デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記バンク形成工程では、nは1以上の自然数であり、前記多層の薄膜層のn層目を形成するための前記機能液に対して、n層目のバンク層が親液性を示し、n+1層目のバンク層が前記n層目のバンク層に比べて撥液性を示すように前記多層バンクを形成することを特徴とする請求項9に記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記薄膜形成工程では、nは1以上の自然数であり、前記多層バンクのn層目のバンク層の厚みと略同等な厚みとなるように前記機能液を付与して乾燥することにより、前記多層の薄膜層のn層目を形成することを特徴とする請求項9または10に記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記バンク形成工程の前に、前記基板上の前記複数のデバイス形成領域のそれぞれに、透明導電膜からなる陽極を形成する陽極形成工程を備え、
前記薄膜形成工程では、少なくとも有機EL発光材料を含む前記複数種の機能液を前記デバイス形成領域の前記陽極上に付与して乾燥することにより、薄膜デバイスとしての有機EL機能層を形成することを特徴とする請求項9ないし11のいずれか一項に記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記薄膜形成工程では、透明な機能性材料を含む機能液を前記デバイス形成領域に付与して乾燥することにより機能層を形成し、前記機能層上に異なる着色層形成材料を含む複数種の機能液を付与して乾燥することにより複数色の着色層を積層して薄膜デバイスとしてのカラーフィルタを形成することを特徴とする請求項9ないし11のいずれか一項に記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項14】
複数のデバイス形成領域を有する少なくとも1つの基板と、前記複数のデバイス形成領域ごとに形成された透明導電膜からなる陽極と、前記陽極上に積層された有機EL発光層を含む有機EL機能層とを備えた有機EL装置の製造方法であって、
請求項12に記載の薄膜デバイスの製造方法を用いて前記有機EL機能層を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項15】
いずれか一方に複数のデバイス形成領域を有する一対の基板と、前記複数のデバイス形成領域に形成された複数色の着色層を含むカラーフィルタと、前記一対の基板に挟持された液晶とを備えた液晶表示装置の製造方法であって、
請求項13に記載の薄膜デバイスの製造方法を用いてカラーフィルタを形成することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−280866(P2007−280866A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108352(P2006−108352)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】