説明

薄膜太陽電池および製造方法

本発明は、薄膜太陽電池およびそのような電池を製造する方法に関する。特に本発明は、薄い吸収材層を備えたCu(In,Ga)Se(CIGS)系薄膜太陽電池における複合裏面コンタクト(314)の使用に関する。複合裏面コンタクト(314)は、基材(105)と吸収材(115)との間に設けられ、吸収材/複合裏面コンタクト界面における反射率を上昇させる裏面反射体層(311)と、少なくとも1つのコンタクト層であって、吸収材に関して裏面コンタクトの適切な電気特性を確保するコンタクト層(310、313)と、および/または面内電流に対して低いシート抵抗を確保するコンダクタンス層(312)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池およびそのような電池の製造方法に関する。特に本発明は、吸収材層を備えたCu(In,Ga)Se(CIGS)系薄膜太陽電池における裏面反射体の使用に関する。
【0002】
背景技術
太陽電池は、太陽電池が太陽輻射のエネルギーを直接電気に変換するため、最小限の環境影響で電力を生成する手段を提供する。太陽電池、すなわち光電池(PV)の技術は、電池の効率、その信頼性、耐用年数および生産コストの両者に関して、近年、実質的な伸展を示してきた。太陽電池技術は今や十分に確立され、世界市場は10年以上に渡って毎年20〜25%の高い成長率を示している。しかしながらPV電気の高いコストは、到達可能な市場をなお制限している。
【0003】
Cu(In,Ga)Se(CIGS)薄膜太陽電池技術は、電気の光電池による生成をよりコスト効率的にして、それゆえ到達可能な市場を拡張するための最も有望な候補の1つと見なされている。今日の市場を支配しているケイ素(Si)技術と比較して、薄膜技術は生産工程においてある固有の利点、たとえば材料およびエネルギーの消費減少、ならびに太陽電池モジュール内の個々の太陽電池間の電気的相互接続の簡略化を有している。今日の主要な3つの薄膜技術、すなわちCIGS、アモルファスケイ素(a−Si)およびテルル化カドミウム(CdTe)の中で、CIGS技術は、今や19%を超える最高の電力変換効率を示している[1]。
【0004】
代表的な従来技術のCIGS太陽電池100が図1に示されており、厚さ1〜3mmのガラス基材105と、厚さ0.2〜1μmのMo裏面コンタクト110と、1.5〜2.5μmのCIGS層(吸収材)115と、40〜60nmのCdSバッファ層122、5〜100nmのZnO層125および300〜400nmのZnO:Al層130を含むウィンドウ層120とを含む。構造は、層厚に関して変化させることができ、たとえば層を追加および/または除去できる。たとえば湿潤工程、スパッタリングならびに化学気相蒸着(CVD)および原子層蒸着(ALD)などの蒸着技法を含む多数の製造工程が使用および/または示唆される。
【0005】
CIGS技術の中で、製造コストをさらに削減する1つの方法は、CIGS吸収材層の厚さを、今日一般に使用されている1.5〜2.5μm未満に減少させることである。より薄い吸収材によって、比較的希少で高価な材料、たとえばインジウム(In)およびガリウム(Ga)の消費が低減される。さらに同じ蒸着速度では、より薄い吸収材はより短時間で成長可能であり、このことによりスループットの向上が引き起こされ、したがって生産の資本コストの削減がもたらされる。
【0006】
薄すぎる吸収材の明らかな欠点は、性能の低下である。Lundbergおよび共同研究者[2]によって示されるように、吸収材厚が0.5μm未満のCIGS太陽電池は、合理的に高い効率で製造できる(η>10%)。しかしながら図1に示した標準ガラス/Mo/CIGS/CdS/ZnO/ZnO:Al構造を前提とすると、厚い(〜1.8μm)吸収材を備えたデバイスと比較して、効率の明らかな低下がある。このような効率低下は主に、より薄い吸収材における吸収低下に起因する電池の短絡回路電流の減少によるものである[2]。
【0007】
薄い吸収材における高い光吸収を維持するために、光トラップ方式を利用することが既知である。光トラップ方式は、吸収材層に浸透した光がこの層で実際に吸収される確率を上昇させる機構として定義できる。図2に示すように、光トラップは、たとえば吸収材裏界面および表界面での散乱によって、そして吸収材/裏面コンタクト界面での界面での反射率Rおよび吸収材/ウィンドウ(表)界面での反射率Rの最大化によって、吸収材115での傾斜角度での光の移動を行わせることによって実現できる。明らかに、吸収材での光の総吸収を最大限にするために、光の吸収材層内へのカップリングも、ウィンドウ/吸収材系の反射率はもちろんのこと、ウィンドウでの光の吸収を最大限にすることによって最大化されるはずである。
【0008】
光トラップは、a−Si薄膜太陽電池技術において十分に確立されており、たとえば参考文献[3]およびその中の参考文献を参照。CIGS太陽電池では、主に、吸収材材料のバンドギャップエネルギーを超えるエネルギーを持つ太陽輻射における光子の吸収が2μmの薄さのCIGS吸収材ではすでに、ほぼ完了しているという事実のために、これまで光トラップの応用はほとんどなかった。しかしながら上述したように、CIGS太陽電池での光トラップの必要性は、マイクロメートル未満の吸収材層を持つ電池にとっては明白となっている。CIGS吸収材層が一般に使用されている1.5〜2.5μmよりも薄く作成される場合、ウィンドウ層を通じて吸収材へ透過された光のかなりの割合が、ウィンドウ/吸収材界面から吸収材/裏面コンタクト界面への最初の通過の間に吸収されないであろう。吸収材の吸収係数は光子エネルギーの上昇と共に増加するため、この吸収損失は、吸収材のバンドギャップエネルギーにより近い、より低い光子エネルギーに相当する長い光子波長ではさらに顕著である。
【0009】
CIGS太陽電池の裏面反射体に関する、すなわち裏面コンタクト反射率を上昇させる目的の代わりの裏面コンタクト材料に関する実験的研究は、本発明の発明者らによって、TiNが調査された[4]。そしてW、Cr、Ta、Nb、V、Ti、Mnが調査されたOrgassaおよび共同研究者による研究[5]を含む。後者の研究では、W、Ta、Nbおよび基準Mo接点はほぼ不活性であるのに対して、Cr、V、TiおよびMnは、Seとの化学反応によって分解する蛍光があることが見出された。安定なW、Ta、およびNbのうち、Nb、そしてとりわけTaは、Moよりも優れた反射体特性を有することが期待される。CIGS/裏面コンタクトサンプルの測定された反射率の光学効果は可視であったが、かなりの程度まで表面散乱の差によって遮られていた。吸収材厚が0.9μmの太陽電池デバイスでは、裏面コンタクトの電子特性の差が、光学的差異を支配していた。裏面コンタクトの電子的損失は、0.5μm厚のサブ層をCIGS吸収材に追加することによって一部は抑制可能であり、[Ga]/([Ga]+[In])比(Gaグレーディング)が上昇して、それにより裏面コンタクトに向かうバンドギャップが上昇した。しかしながら、このGaグレーディングおよび1.4μmの総吸収材厚によって、代わりの裏面コンタクトによる短絡回路電流に著しい利得はなかった。
【0010】
TiN裏面反射体を用いた[4]のサンプルでは、0.5μmの吸収材厚にて、Gaグレーディングによって、量子効率スペクトルおよび短絡回路電流における光学利得が明らかに証明された。しかしながら光学利得は電子損失によって逆に反応して、Mo裏面コンタクトを備えた基準デバイスの13.4%と比較して、13.1%の総効率をもたらした。
【0011】
良好な反射体特性を備えた裏面コンタクトは、薄い(ミクロン未満の)吸収材厚を備えたCIGS太陽電池の高い効率を維持するのに適切に思われる。そのような反射体材料は利用可能であるが、標準Mo裏面コンタクトを備えたデバイスに関して全体的により悪い、またはあまり改善されていない電力変換効率だけが報告されている。
【0012】
発明の概要
明らかに、吸収材の厚さを減少させたときに、太陽電池構造の効率の損失を最小限に抑える、または好ましくは十分に補償するように構成された改良薄膜太陽電池構造、そしてその製造方法が必要である。特にそのような薄膜太陽電池は、従来技術の太陽電池構造における反射体層の使用に関連する電子損失の問題に対処する必要がある。
【0013】
本発明の目的は、従来技法の欠点を克服する薄膜太陽電池および薄膜太陽電池の製造方法を提供することである。
【0014】
これは請求項1に定義された薄膜太陽電池、および請求項21に定義された方法によって克服される。
【0015】
課題は、基材および吸収材、ならびに基材と吸収材との間に設けられた複合裏面コンタクトを含む薄膜太陽電池によって解決される。複合裏面コンタクトは、
吸収材/複合裏面コンタクト界面にて反射率を上昇させる裏面反射体層と、
以下の層、
吸収材に関する裏面コンタクトの適切な電気特性を確保するコンタクト層、
面内電流に対して低いシート抵抗を確保するコンダクタンス層
の少なくとも1つと、
を含む。
【0016】
コンタクト層は、好ましくは多数キャリアのためのコンタクト抵抗または少数キャリアのための裏面コンタクト再結合に関して複合裏面コンタクトの電気特性を変化させ、さらに好ましくは、コンタクト層は、多数ホールのための低いコンタクト抵抗および/または少数電子のための低い裏面コンタクト再結合を提供する。
【0017】
本発明により提供される複合裏面コンタクトは特に、p型半導体Cu(In,Ga)Se(CIGS)またはCu(In,Ga)(Se,S)またはCu(Al,In)(Se,S)の薄膜吸収材を備えた太陽電池に利用できる。反射体層は好ましくは、遷移金属窒化物、たとえばZrN、HfNまたはTiNの1つまたは組合せによって生成される。コンタクト層は好ましくは、金属元素のセレン化物または硫化物より成り、および/または吸収材で使用されるのと同じであるが、より高い多数キャリア濃度および/またはより広いバンドギャップを持つ黄銅鉱材料クラスより成る。
【0018】
本発明の太陽電池構造を製造する方法は、
吸収材(115)に近接して裏面反射体層(311)を形成するステップと、
基材上にコンダクタンス層を形成するステップと、および/または
反射体層(311)と吸収材との間にコンタクト層を形成し、それにより基材と吸収材との間に複合裏面コンタクト(314)を設けるステップと、
を含む。
【0019】
本発明によって提供される1つの利点は、従来の太陽電池構造で反射体層の使用に関連付けられてきた電子損失のない、または少なくとも非常に低い電子損失を有する、薄い吸収材を備えた太陽電池構造において、反射体層を使用できることである。
【0020】
本発明のさらなる利点は、たとえばNaF前駆体層の使用によりNaを吸収材に添加する機構および方法に複合裏面コンタクトを、好都合に組合せできることである。
【0021】
本発明のなお別の利点は、CIGS吸収材の成長中に、複合裏面コンタクトの反射体層が複合裏面コンタクトの他の層を腐食および高温への暴露ならびに強烈な化学環境から保護できることである。あるいは複合裏面コンタクトが不活性で安定な材料、たとえばZrNまたはTiNより完全に成る場合、複合裏面コンタクトは全体として、たとえば腐食への耐性が高くなるであろう。
【0022】
本発明の実施形態は、従属請求項で定義する。本発明の他の目的、利点および新規な特徴は、添付の図面および請求項と併せて考慮したときに、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0023】
上で概説した本発明の特徴および利点を以下の詳細な説明において、同じ参照番号が全体を通じて同じ要素を指す図面と併せて、十分に説明する。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の実施形態はここで、図を参照してさらに説明されるであろう。
【0025】
説明において、黄銅鉱Cu(In,Ga)Se(CIGS、CuIn1−xGaSe、Ga含有率パラメータxは0〜1の範囲)光吸収層を好ましい例として使用する。当業者によって認識されるように、他の光吸収材が本発明による薄膜太陽電池で使用できる。そのような光吸収材の例は、これに限定されるわけではないが、適切な原子組成の黄銅鉱Cu(In,Ga)(Se,S)および黄銅鉱Cu(Al,In)(Se,S)を含む。
【0026】
図2より、効率的な光トラップを達成するためには、CIGS/裏面コンタクト115/110界面における高い反射率Rが非常に好ましいことが理解できる。吸収材を通じて裏面コンタクトまで透過する光の反射率が高いと、裏面コンタクトから前面に移動するときに、この光の大きな割合が吸収される別の機会を得る。一般に使用されるモリブデン(Mo)裏面コンタクト110は、CIGS/Mo界面115/110にて比較的低い反射率を生じるため、光学的観点から最適とは程遠い。しかしながら、上で触れた研究で報告されたように、MoをCIGS/Mo界面にてより高い反射率を与える材料と置換することは、太陽電池の効率全体を必ずしも改善するわけではない。特に代わりの裏面コンタクト材料の不適切な電子特性は、光学利得を妨げる電子損失を生じてきた。それにより結果は、一般的なMo裏面コンタクトを備えたデバイスと比較して、全体的に悪化した、またはごくわずかに改善された電力変換効率でありうる。効率に著しく影響を及ぼす考えられる因子は、CIGS/裏面コンタクト界面115/110における、またはその付近での多数キャリア(ホール)および少数キャリア(電子)の特性、そして太陽電池電流の抵抗特性を含む。光学特性に関して適切な材料を選択する場合も、これらの因子に対処する必要がある。このことは裏面コンタクト材料の選択を狭める。裏面コンタクトが満足する必要のある要件は、以下のようにまとめられる。
【0027】
・吸収材層に対する高い反射率R
・太陽電池電流を少ない電力損失で運搬するために低いシート抵抗を有する。
【0028】
・CIGS吸収材の成長の間に高温および強烈な化学環境に耐えるために、そして腐食に対して高い耐性であるために、化学的に不活性である。
【0029】
・CIGS吸収材中の多数キャリア(ホール)のために低いコンタクト抵抗を提供する。
【0030】
・裏面コンタクト界面での吸収材の少数キャリア(電子)の低い再結合を引き起こす。
【0031】
本発明により、複合裏面コンタクト314がガラス基材105とCIGS吸収材層115との間に提供され、これは図3a〜cに示されている。複数の層の使用により、複合裏面コンタクト314は、少なくとも高い反射性の裏面コンタクトを良好な電子特性と組合せるだけでなく、上に示した要件を満足する特性の組合せを提供する。複合裏面コンタクト314は、
1)吸収材/裏面コンタクト界面にて高い反射率を生じる裏面反射体層311と、
2)吸収材に関する裏面コンタクトの適切な電気特性を確保する、たとえば複合裏面コンタクト314における多数キャリアに対する低いコンタクト抵抗および少数キャリアの低い再結合の要求の、好ましくは両方、しかし少なくとも1つを満足させることができる、少なくとも1つのコンタクト層310、313と、
3)面内電流に対して低いシート抵抗を確保する、少なくとも1つのコンダクタンス層312と、
を含む。
【0032】
層の組合せを使用することにより、層それぞれに対する材料要求は軽減される。このことは、候補材料の選択を広げ、薄い吸収材層および標準Mo裏面コンタクトを備えた薄膜太陽電池よりも高い電力変換効率を生じる可能性を有する複合裏面コンタクト314の実現を可能にする。それゆえ複合裏面コンタクトは、吸収材層の縮小と以前に関連付けられた電力変換効率の低下を少なくとも部分的に補償する。コンタクト層310、313を提供することは、反射体層311が使用されないときに得られたデバイスの電気性能を少なくとも維持するために、適切な電子特性を備えた中間コンタクト層310、313を使用して、吸収材層115の電子特性を反射体層311の電子特性に匹敵させることと考えられる。一部の場合では、上述の層の2つ以上が同じ材料によって実現できる。
【0033】
図3aに示した本発明の第1の実施形態により、Rの高い値および低いシート抵抗を得るために、適切な光学特性を備えた反射体層311およびコンダクタンス層312、好ましくはMoが太陽電池構造100のCIGS吸収材115の下へ導入されている。反射体層311およびコンダクタンス層312は、複合裏面コンタクト314を形成する。裏面反射率の値は、吸収材の光学バンドギャップを超えた光子エネルギー0〜0.2eVの領域において、好ましくは0.5超、さらに好ましくは0.9超であるべきである。本発明の第1の実施形態による反射体層311のための適切な材料は、これに限定されるわけではないが、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化チタン(TiN)、銀(Ag)、金(Au)およびアルミニウム(Al)を含む。ZrN、HfNまたはTiNは、その化学的安定性および良好な付着特性のために特に好ましい。これらの材料の特性および生じた効率は、以下でさらに述べられるであろう。反射体層311がコンダクタンス層312と組合されるため、反射体層311のシート抵抗は重要ではない。この場合、コンダクタンス層312(低いシート抵抗層)は通例および好ましくは、側方面内方向へ電流の大半を運搬する。シート抵抗は好ましくは、2Ω/平方以下である。Moはコンダクタンス層材料として好ましいが、適切な電気および化学特性を備えた他の材料、たとえばタングステン(W)およびタンタル(Ta)が使用できる。
【0034】
本発明の第1の実施形態の代わりの実現において、複合裏面コンタクト314は単一の材料を用いて実現される。これは選択された材料が上の要件を十分な程度に満足する、すなわち高い反射率は別として、合理的に高い導電率を有し、反射体層の生じたシート抵抗が十分に低くなるように十分な厚さで作成される場合に、許容される性能を生じることができる。この代わりの実施形態は、製造上の観点から好都合でありうる。ZrNの特性は、光学的および電気的の両方で上の要件を満足する。1μmのZrN厚では、0.5Ω/平方以下のシート抵抗が得られる。加えてZrNは高い化学的安定性を有し、本発明のこの代わりの実施形態での好ましい選択肢である。
【0035】
上述したように、複合裏面コンタクト314は、高い太陽電池性能を得るために複数の太陽で良好な電気特性を有するべきである。低いシート抵抗に加えて、吸収材層での光電池プロセスに適合する電気特性を有する、すなわち吸収材層115から複合裏面コンタクト314へ通過する多数キャリア(ホール)に対する低いコンタクト抵抗および吸収材/裏面コンタクト界面115/314での少数キャリア(電子)の低い再結合を特徴とする、CIGS吸収材層115への界面を提供すべきである。CIGS太陽電池に利用できる最良の反射体材料の一部は、十分に良好な電気特性を備えた裏面コンタクトを生じない。
【0036】
図3bに示す本発明の第2の実施形態において、所望の電子特性は、反射体層311の上に適切な電子および光学特性を備えたコンタクト層313を導入することによって、裏面コンタクト反射率Rの損失を伴わずに、または非常に低い損失で実現される。以下に挙げる材料の特性は、コンタクト層の所望の光学および電子特性を得るために好都合である。コンタクト層313は好ましくは、吸収材115の材料と同じ多数電荷型の半導体材料の薄層である。光学的には、コンタクト層の材料は好ましくは、相当するする光子エネルギー領域での反射体材料の複素屈折率の実部および虚部それぞれと比較した複素屈折率の実部の高い値および虚部の低い値と同様に、吸収材材料の光学バンドギャップより広い少なくとも0.2eVの光学バンドギャップを特徴とすべきである。屈折率の差は、反射体層311への界面での高い反射率を可能にする。コンタクト層313が薄く作成され、広い光学バンドギャップを有することは、この層における低い吸収を確保する。コンタクト材料は電子的に、好ましくは高度のドーピングを特徴とし、そのことは反射体層311に対する低いコンタクト抵抗を促進する。裏面コンタクトにおける少数キャリアの再結合を抑制するために、コンタクト層の電子特性は、好ましくは少数キャリアが反射体層311への界面に到達するのを防止する電位障壁を生じるべきである。p型吸収材の場合、コンタクト材料はそれゆえ、好ましくは吸収材材料よりも低い電子親和性を特徴とすべきであり、これに対してn型吸収材の場合には、それは吸収材材料と比較して、電子親和性およびバンドギャップの合計よりも大きな値を特徴とすべきである。裏面コンタクトでの少数キャリアの再結合をさらに抑制するために、コンタクト層313は、好ましくは吸収材層115への界面および反射体層311への界面において、低い密度の界面欠陥状態を生じるべきであり、このことは低い再結合速度をもたらす。
【0037】
コンタクト層313は、好ましくはMoSeまたはCuIn1−xGaSeより成り、Ga含有率パラメータxの値は、CIGS吸収材115のxの平均値よりも大きい。後者の場合は、CIGS吸収材115の成長中のInおよびGaの相互拡散は、吸収材層115とコンタクト層313との間の界面での段階的変化よりも、Ga含有率xに勾配を生じる。それにもかかわらず、そのようなコンタクト層は、吸収材/裏面コンタクト界面の電気特性改善への要求をなお満足する。他の代わりの材料は、これに限定されるわけではないが、たとえばTi、Zr、Hfのような周期律系の第IVB族、たとえばV、Nb、Taのような第VB族、たとえばCr、Mo、Wのような第VIB族、たとえばMn、Reのような第VIIB族から選択された金属元素のセレン化物または硫化物を含む。あるいは、吸収材115で使用されるのと同じ材料であるが、より重度にドーピングされた層、または吸収材層115で使用されたのと同じ黄銅鉱材料クラスであるが、吸収材層115の平均バンドギャップと比較してより高いバンドギャップを得るために原子組成が変更された層を使用できる。この第2の実施形態でも、ZrNが反射体層311の材料の最も好ましい選択肢である。しかしながらコンタクト層313は、反射体層311の電気特性に関する制約の一部をさらに軽減するため、材料のより幅広い選択が利用可能であり、所与の反射体材料を用いた性能の改善が実現できる。好ましい材料は、HfN、TiN、Ag、AuおよびAlを含む。
【0038】
本発明の第3の実施形態において、コンタクト層313は、図3cに示す複合コンタクト層310を形成する複数の層によって実現される。これはさらに、コンタクト層313に対する要件を満足する可能性を向上させることができる。たとえば第1のコンタクト層320は、反射体層311への界面にて多数キャリアへの低いコンタクト抵抗および/または少数キャリアへの低い再結合速度を確保し、複合コンタクト層内の第2のコンタクト層315は、少数キャリアが反射体層311への界面へ到達するのを防止する電位障壁を提供できる。CIGS吸収材の場合の好ましい複合コンタクト層を図3cに示す。xが吸収材115について有効な平均xよりも大きい、CuIn1−xGaSeの第2のコンタクト層315(電位障壁層)が吸収材115に隣接して設けられ、それゆえ少数電子に対する障壁が設けられる。第2のコンタクト層315は通例および好ましくは、吸収材115と同じ方法で、吸収材115と同じ連続プロセスで製造される。通例、吸収材115と電位障壁層315との間に明瞭な区別はなく、図3cに破線で示される。電位障壁層315も異なる見解から、太陽電池電流の発生に寄与する光の吸収が電位障壁層315においても、この層におけるより幅広いバンドギャップのためにより小幅な程度であるが発生するという点で、吸収材115の一部となるであろう。MoSeの第1のコンタクト層320は、電位障壁層315の下に設けられる。前の実施形態で例示したように、他のセレン化物または硫化物はあるいは、第1のコンタクト層320にて使用できる。
【0039】
光学および電気要件の両方を満足するために、複合裏面コンタクト314は好ましくは、コンダクタンス層312、反射体層311、およびコンタクト層313を含むべきである。複合裏面コンタクトの層は、面内電流に対する低いシート抵抗と、吸収材/裏面コンタクト界面における高い反射率と、多数キャリアに対する低いコンタクト抵抗および少数キャリアに対する低い裏面コンタクト再結合とをそれぞれ提供する主要な機能を有する。しかしながらある用途において、および/または材料の慎重な選択によって、1つ以上の層を省略できる。上述したように、高度の反射をもたらす材料はしばしば良導体であるため、たとえば多くの場合において、反射体層311およびコンダクタンス層312に同じ材料を使用することが可能である。次に2つの層が組合されて1つの層となるが、太陽電池構造100においては、コンダクタンス層312および反射体層311の機能に相当する2つの異なる機能を備えている。
【0040】
CIGS層中でのNaの存在が吸収材の性能を改善することが一般に認められている。標準Mo裏面コンタクト110は、拡散障壁として機能しない。この場合、Na源は主にガラス基材105であり、製造プロセスの間にNaがCIGS層へ拡散する。実験は、本発明により複合裏面コンタクト314へ導入された層が、ガラス基材からCIGS層へのNa拡散に対する障壁として作用しうることを示した。特に反射体層、たとえばZrN膜はNa拡散を阻害できる。この場合、Naは既知の方法を用いて、たとえば吸収材層115の蒸着前の、NaF前駆体層の蒸着によって制御された方式で吸収材層に供給される。前駆体層の使用により、制御された量のNaを吸収材に供給する方法は、SE199400003609に教示されている。
【0041】
裏面コンタクトは通例、CIGS吸収材の成長の間には高温および強烈な化学環境に、および太陽電池の運転および/または保管中には腐食にさらされる。本発明による太陽電池構造の1つの利点は、反射体層を複合裏面コンタクト314の他の層、または複合裏面コンタクト314の他層の一部の保護物として好都合に使用できることである。この機能を実現するためには、反射体層は、CIGS吸収材成長の間の高温および強烈な化学環境に耐えるために、そして非常に耐食性であるために化学的に不活性であることが必要である。好ましい反射体材料、たとえばZrN、HfNおよびTiNの選択もこれらの特性を示す。
【0042】
たとえばZrNが反射体材料およびコンタクトおよび/またはコンダクタンス材料の両方として使用される、すなわち複合裏面コンタクト314が同じ材料から構成されている実施形態において、完全な複合裏面コンタクトは、たとえば腐食に耐えるために十分適した電池構造の不活性および安定性部分として見なすことができる。
【0043】
これらの材料の不活性および安定性特性は、吸収材層の成長の間に安定性であり、反射体層が必要でない太陽電池構造、たとえば1.5〜2.5μmの吸収材(CIGS層)を備えた上述の標準CIGS太陽電池においても非常に耐食性である裏面コンタクトを製造するために好都合に使用できる。
【0044】
裏面コンタクトR反射率は、吸収材層および裏面コンタクト材料の複素屈折率に依存する波長によって決定される。図4は、反射体材料TiN、ZrNおよびAgと同様に、標準Moコンタクトの波長の関数としての垂直入射でのRのシミュレーションを示す。TiNによって得られたMoよりも高いRが太陽電池電流の増加をもたらすことが実験的に証明されている[4]。Agは最高のRを生じるが、Ag膜はCIGS吸収材の蒸着によって安定でないため、好ましくは実際のデバイスではさらなる保護が必要である。ZrNは、図4に示したスペクトル領域を通じてTiNよりも著しく高いRを示す。ZrNは、高い化学的安定性を有することも既知であり、高温でのCIGS吸収材の蒸発によって安定であることが証明されている。このことはZrNを、本発明での裏面反射体材料の好ましい選択肢としている。
【0045】
図5aは、R=0の場合と同様に、ZrNおよびMo裏面反射体を用いたAM1.5基準スペクトル[6]に入射光がよって与えられたときの吸収材厚の関数としての、垂直入射にてCIGS吸収材に吸収された同等の電流密度Aのシミュレーションを示す。黒記号は散乱なしで完全干渉を伴う鏡面反射モデルの結果を示し、白記号は、吸収材裏面および前面界面での理想Lambertian散乱のモデルケースの結果を示す、[4]を参照。図5bは、同じモデルケースにおけるR=0に対する、ZrNおよびMo裏面反射体による吸収利得を示す。
【0046】
図4および図5に示すシミュレーションの結果は、吸収材吸収の利得がZrNなどの適切な裏面反射体材料を使用して標準Mo裏面コンタクトに対して向上したRによって得られることを明確に証明している。500nmのCIGS厚では、鏡面反射モデルでのMoに比較したZrNの利得は約1mA/cmである。これらのシミュレーションの量的精度は、入力された光学特性の品質によって、そして単純化された光学モデルが実際のケースの状況をどれだけ巧みに表現しているかによって変わる。
【0047】
本発明による太陽電池構造を製造する本発明による方法は、図6のフローチャートを参照して説明されるであろう。従来のCIGS太陽電池を製造する既知の方法と同一である方法のステップは、ごく簡潔に概説され、本発明の一部とは見なされないものとする。そのような従来方法の包括的説明は、たとえば[7]に見出すことができる。以下に示すそのようなステップの詳細は、非制限的な例として見なすべきである。当業者によって実現されるように、たとえば各種の蒸着および蒸発技法は、使用した材料、利用可能な装置などに応じて好都合に使用できる。
【0048】
ガラス基材から開始する従来の方法は以下のステップを含む。
【0049】
610:Mo裏面コンタクトのスパッタリング
ベースライン基材は、1mm厚ソーダ石灰ガラス基材より成る。洗浄後、これらの基材をDCマグネトロンスパッタリング蒸着された0.4μm厚のモリブデン層でコーティングする。Mo裏面コンタクトのシート抵抗は通例、0.5Ω/sqである。
【0050】
620:CIGS吸収材層の蒸発
CIGS層は、元素Cu、In、GaおよびSeの開放ボート源からの同時蒸発によって蒸着させる。四重極質量分析計を使用して、Cu、InおよびGaの蒸発速度を制御する。Se源は温度制御され、Seは蒸発中に過剰に蒸発される。
【0051】
630:CdS/ZnO/ZnO:Alバッファおよびウィンドウ層の形成
40〜50nm厚のCdSバッファ層は、化学浴蒸着(CBD)によって蒸着される。約80nm厚で名目上未ドーピングの高抵抗ZnOの第2バッファ層は、セラミックZnOターゲットからRFマグネトロンスパッタリングによって蒸着される。AlドーピングZnOターゲットからのRFマグネトロンを使用して、透明導電性ZnO:Alトップコンタクトを蒸着する。この層の厚さは約350nmであり、シート抵抗は通例20〜30Ω/sqである。
【0052】
本発明による方法は、以下のステップを導入する。
【0053】
615:反射体層の形成
このステップは、CIGS層を蒸発させるステップ620の前に実施する。反射体層は複数の方法で設けられるが、提案された反射体層材料の性質を考えると、スパッタリングがしばしば好ましい技法である。一例として、好ましい窒化ジルコニウムの考えられるプロセスが以下に与えられるであろう。
【0054】
616:コンタクト層の形成
反射体層の上にコンタクト層を設ける任意のステップは、好ましくはスパッタリングによって実施され、以下に例示されるように、おそらくSeまたはS雰囲気中でのアニーリング、あるいは蒸発が後に続く。コンタクト層は、複数の層によって形成された複合コンタクト層でもよい。
【0055】
617:NaF前駆体層の蒸着
CIGS層に隣接してNaF前駆体層を設ける任意のステップは、好ましくは以下で例示するような蒸発によって実施できる。
【0056】
専用コンダクタンス層を提供する本発明の実施形態において、Mo裏面コンタクト層(ステップ610)のスパッタリングは、以下のステップと置換される:
611:コンダクタンス層の形成
ステップは、反射体層の形成のステップ615の前に実施され、低いシート抵抗を持つ層、好ましくはDCマグネトロンスパッタリングによって蒸着されたモリブデンの層の蒸着を含む。
【0057】
プロセスの実施例
本発明による上述のステップを実現する実施例が説明されるであろう。
【0058】
ステップ615の実施例:反射体層の形成:
窒化ジルコニウム(ZrN)裏面反射体層を、元素Zrターゲットからの反応性DCマグネトロンスパッタリングによって、混合されたアルゴンおよび窒素雰囲気中でガラスまたはMoコーティングガラス基材上に作成した。プラズマ電流は、すべての蒸着で2.5Aにて一定に維持した。スパッタリングパラメータの処理圧、アルゴン流量および窒素流量を変化させて、一連のZrN蒸着を数回行った。たとえば処理圧5mTorr、Ar流量100sccm、N流量18sccm、および蒸着時間400秒を用いて、良好な光学特性を備えた膜を得た。これらの設定値を用いて、ガラス基材上で成長速度約2.5nm/秒および抵抗0.45μΩmが得られ、これは400秒の蒸着ではシート抵抗0.5Ω/sq以下のシート抵抗をもたらす。Mo基材上では成長速度はわずかに高く、約3nm/秒であった。
【0059】
スパッタZrN膜は、光学的に鏡面反射、すなわち非散乱性である。上で与えたプロセスパラメータを用いてMo基材へスパッタされた代表的なZrN膜の光学特性を、分極光によって5°の入射角で測定した鏡面反射反射率により図7に示す。また図に示すように、相当する波長領域400〜1500nmにおける光学特性は、Drudeモデルによって十分に説明される。このモデルに従って、複素屈折率の二乗に等しい誘電関数は、光エネルギー
【数1】

【0060】
によって変わる。
【0061】
図6に示す、このモデルのパラメータの測定された反射率データへの適合は、εinf=10.28、E=9.88eVおよびΓ=0.76eVを生じた。そのように得られたZrNの光学特性を図4および5に示したシミュレーションで使用した。
【0062】
616a:コンタクト層(MoSeコンタクト層)の形成:
一部のZrN裏面反射体の上に、最初にMoの薄層をスパッタリングして、次にこの層を高温にて低圧Se雰囲気に暴露させることによって、MoSeのコンタクト層を形成した。約2nmのMo層厚によって、良好な結果が得られた。Seアニーリングステップは、CIGS蒸発系において実施された。期間は20分であり、基材を約500℃にて維持した。MoSeを裏付けるX線光電子分光法(XPS)による材料分析は、この手順によって構成された。
【0063】
616b:コンタクト層(CuGaSeコンタクト層)の形成:
一部のZrN裏面反射体の上に、CIGS蒸発系を使用して、同時蒸発によってCuGaSeのコンタクト層を形成した。この層の厚さは約70nmであった。上述したように、吸収材層成長の間のGaおよびInの相互拡散は、この層の組成を変化させ、Ga含有率の勾配を生じさせるであろう。CuGaSeコンタクト層の最終組成は、Cu1−xGaSeであり、x<1であった。複合コンタクト層310が使用された場合は、MoSeコンタクト層は第1のコンタクト層320に相当し、CuGaSeの層は第2のコンタクト層315に相当する。
【0064】
617:NaF前駆体層の蒸着
NaFは、CIGS蒸発に使用したのとは異なる蒸発系の閉鎖ボート源から熱によって蒸発させた。蒸着速度および厚さは、水晶モニタによって監視した。各CIGSの調製では、前駆体を、コンタクト層を持つ、または持たないZrN裏面反射体と共にサンプルに、そして標準Mo裏面コンタクトと共に1つの基準サンプルに同時に施工した。黄銅鉱コンタクト層を使用する場合、NaF前駆体をこれらの層の前に蒸着することができる。
【0065】
各種の太陽電池構造によるデバイス性能の比較
出願人らは多数の太陽電池製造試験を履行して、本発明による太陽電池における複合裏面コンタクト314の効果を評価した。各試験において、ZrN反射体サンプルをMo基準サンプルと比較した。ZrNの蒸着、施工可能ならばMoSeまたはCuGaSeコンタクト層の蒸着を除いて、すべてのプロセスステップは同じであった。デバイス性能を電流−電圧(IV)測定値および量子効率(QE)測定値によって評価した。初期IV測定の後に、すべてのデバイスを200℃の空気中で合計4分間アニーリングした。このアニーリング手順によって、太陽電池デバイスの効率は、通例1%上昇する(絶対)。
【0066】
以下で、試験A、試験Bおよび試験Cと呼ぶ3つの試験による3つの結果を比較する。試験Aでは、標準Mo裏面コンタクトを用いて製造した基準サンプルを、本発明の第1の実施形態による、複合ZrN/Mo裏面コンタクト内にZrN反射体層を含む反射体サンプルと比較する。試験BおよびCでは、基準サンプルを、本発明の第2の実施形態による、ZrN反射体の上にコンタクト層を含む反射体サンプルと比較する。試験Bでは、コンタクト層はCuGaSeの層であり、試験Cではコンタクト層はMoSeの層であり、試験BおよびCでは複合裏面コンタクトMoSe/ZrN/MoおよびCuGaSe/ZrN/Moをそれぞれ生じる。試験AおよびCにおいて、面積がそれぞれ0.5cmの太陽電池8個が各サンプル上に画成されたが、試験Bでは16個が画成された。
【0067】
CIGS吸収材の厚さは、約0.5〜0.6μmに制御された。実際の厚さは、プロフィロメトリーによって測定し、各試験において反射体および基準サンプルについて非常に類似していた。CIGS層の原子組成は、X線蛍光(XRF)によって測定した。試験A〜Cのすべてで、比[Cu]/([In]+[Ga])は0.8〜0.9の範囲内であり、反射体と基準サンプルとの組成差は有意ではなかった。
【0068】
図8は、試験A〜CからのMo基準サンプルおよびZrN反射体サンプルの最良の電池の量子効率の比較を示す。QEは、太陽電池に入射する光子が、光子の波長の関数として短絡回路条件で測定された外部電流中の1つの電子に寄与する確率を説明する。この確率は、入射光子が吸収されて、太陽電池に電子−ホール対を生成する確率と、このように生成された電子−ホール対が収集される、すなわち太陽電池での再結合により光電流への寄与を阻止されない確率との積と見なされる。
【0069】
収集確率が反射体サンプルと基準サンプルで同じ場合、裏面コンタクト反射率R(図4)の上昇がCIGS吸収材における電子−ホール対の生成の確率の上昇を引き起こすため、反射体サンプルではより高いQEが予想される。このような生成の増加は、CIGSの吸収係数がより弱いために光のより大きな割合の光が裏面コンタクトに到達する、より長い波長にとって最も重要である。電池が鏡面反射である場合、より高いRがこの領域のQEにおいてさらに顕著な干渉パターンも生じるはずである。図8で基準電池および反射体電池のQEを比較すると、すべての試験A〜Cにおいて、反射体電池が実際に長い波長の基準よりも高いQEを示すことと、この領域において干渉パターンがより顕著であることが見出される。
【0070】
Mo基準電池のQEが、短い波長の反射体電池のQEより高いという事実は、収集確率の差に起因しうる。このことは、Rに対してはQEよりも感度が低いが、他方、収集損失には無感受性である、電池反射率Rの測定によって裏付けられる。試験Cについて図8で示すように、最良の反射体電池の測定された(鏡面反射)電池反射率は、電池が有効である波長領域を通して最良の基準電池の(鏡面反射)電池反射率よりも高く、より顕著な干渉を示す。このことは、MoSeコンタクト層の存在下でもZrN裏面反射体の有益な光学効果を明らかに示す。図9に内部量子効率IQE(λ)=QE(λ)/(1−R(λ))も示す。Rの上昇による増加は、長い波長のQEよりも大きく、より短い波長の基準に対する減少はより小さい。
【0071】
表1は、試験A、BおよびCにおける基準および反射体サンプルの平均太陽電池パラメータの開回路電圧(Voc)、曲線因子(FF)、短絡回路電流(Jsc)および電力変換効率(η)を示す。統計的異常値を除去して、各サンプルの電池で得た値について平均を取る。表1より、試験Aにおいて、反射体サンプルの性能は基準よりも著しく悪いのに対して、試験Bにおいて、反射体サンプルの性能は基準のサンプルにより近く、試験Cにおいては、基準サンプルより優れていることが明らかである。試験A、BおよびC間のこれらの差は、コンタクト層が含まれるときに、裏面コンタクトの改善された電気特性によって説明できる。反射体サンプル上にコンタクト層が含まれない試験Aにおいて、裏面コンタクトにおける電子のより高い再結合およびホールに対するより高い抵抗は、基準と比較して性能の低下を生じさせる。試験Cにおいて、反射体サンプルの裏面コンタクトの改善された電気特性は、MoSeコンタクト層が含まれるときに改善された光学性能と組合されて、全体的により優れた性能を引き起こす。当業者によって認識されるように、試験Bで使用されたCuGaSeコンタクト層と試験Cで使用されたMoSeコンタクト層が複合CuGaSe/MoSeコンタクト層で組合されたときに、さらなる改善が期待される。
【0072】
表1:試験A〜CによるMo基準デバイスおよびZrN反射体デバイスの電池の平均太陽電池パラメータ開回路電圧(Voc)、曲線因子(FF)、短絡回路電流(JSC)および電力変換効率(η)。VocおよびFFはIV特徴から直接得られるが、Jsc値および、結果として補正されたη値は、IV測定におけるスペクトル不一致について、QEスペクトルを使用して、グリッド損失を考慮して補正される。
【表1】

【0073】
本発明を現在、最も実用的であると見なされているものおよび好ましい実施形態に関連づけて述べたが、本発明が開示された実施形態に限定されず、これとは反対に添付請求項の要旨および範囲内に含まれる各種の改良および同等の機構を対象とすることが理解されるものとする。
【0074】
参考文献
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】従来のCIGS薄膜太陽電池の層状化構造の概略図である。
【図2】吸収材/裏面コンタクト界面での高い反射率Rおよび吸収材/ウィンドウ界面での高い反射率Rによる、ならびに吸収材における傾斜角での光移動による、吸収材層における光トラップを図式的に示す。
【図3a】裏面コンタクト反射率Rを向上させるための反射体層を含む本発明によるデバイス構造を示す。
【図3b】裏面コンタクトの電気特性改良のために反射体層の上にコンタクト層を含む、本発明の実施形態によるデバイス構造を示す。
【図3c】裏面コンタクトの電気特性改良のために反射体層の上に複合コンタクト層を含む、本発明の実施形態によるデバイス構造を示す。
【図4】反射体材料Ag、ZrN、およびTiNの、そして標準Moコンタクトの波長の関数としての、垂直入射でのCIGS/裏面コンタクト反射率Rのシミュレーションを示す。
【図5a】理想鏡面反射モデル(黒記号)および理想散乱モデル(白記号)を使用して、各種の裏面コンタクト材料での吸収材の厚さの関数としてのCIGS吸収材層における計算された光吸収を示す。
【図5b】同じモデルケースにおける、R=0に対するZrNおよびMo裏面反射体での吸収利得を示す。
【図6】本発明による方法の原理ステップを示すフローチャートである。
【図7】代表的な相対スパッタZrN反射体の測定およびモデル化された反射率を示す。
【図8】試験A(コンタクト層なし)、B(CuGaSeコンタクト層)およびC(MoSeコンタクト層)によるMo基準サンプル(破線)およびZrN反射体サンプル(実線)の最良の電池の量子効率(QE)スペクトルの比較を示す。
【図9】MoSeコンタクト層を含む、試験CからのMo基準サンプル(破線)およびZrN反射体サンプル(実線)の最良の電池の内部量子効率IQE(λ)=QE(λ)/(1−R(λ))および鏡面反射デバイス反射率R(λ)の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(105)および吸収材(115)を含む薄膜太陽電池であって、複合裏面コンタクト(314)が前記基材と前記吸収材との間に設けられ、前記複合裏面コンタクト(314)が、吸収材/複合裏面コンタクト界面における反射率を上昇させる裏面反射体層(311)と、前記吸収材に対して前記裏面コンタクトの適切な電気特性を確保するコンタクト層(310、313)及び面内電流に対して低いシート抵抗を確保するコンダクタンス層(312)の少なくとも1つの層と、
を含むことを特徴とする、薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記コンタクト層(310、313)が、多数キャリアに対するコンタクト抵抗または少数キャリアの裏面コンタクト再結合という特性の少なくとも1つに対して、前記複合裏面コンタクト(314)の電気特性を変更する、請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記吸収材(115)がp型半導体Cu(In,Ga)Se(CIGS)またはCu(In,Ga)(Se,S)またはCu(Al,In)(Se,S)の薄膜である、請求項1または2に記載の薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記複合裏面コンタクト(314)が前記反射体層(311)と前記基材(105)との間に設けられたコンダクタンス層(312)を含み、前記コンダクタンス層が太陽電池のシート抵抗を低下させる、請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項5】
前記複合裏面コンタクト層(314)が前記反射体層と前記吸収材との間に設けられたコンタクト層(310、313)を含み、前記コンタクト層が多数ホールに対する低い直列抵抗および/または少数電子の低い裏面コンタクト再結合を提供する、請求項2〜4のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項6】
前記反射体層が、吸収材の光学バンドギャップより高い光子エネルギー0eV〜0.2eVの領域において、吸収材/複合裏面コンタクト界面にて0.5を超える反射率、Rを与える材料によって形成される、請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項7】
前記反射体層がZrN、HfN、またはTiNなどの遷移金属窒化物の1つまたは組合せによって形成される、請求項6に記載の薄膜太陽電池。
【請求項8】
前記反射体層がAg、AlまたはAuなどの元素金属の1つまたは組合せによって形成される、請求項6に記載の薄膜太陽電池。
【請求項9】
前記コンダクタンス層が、面内電流に対する2Ω/平方未満のシート抵抗を与える材料によって形成される、請求項6〜8のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項10】
前記コンダクタンス層がMoにより形成される、請求項9に記載の薄膜太陽電池。
【請求項11】
前記コンタクト層が、吸収材と同じ導電率タイプの、前記吸収材と前記裏面コンタクトとの間で1Ωcm未満の総コンタクト抵抗を与える半導体材料によって形成される、請求項5〜10のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項12】
前記コンタクト層が、たとえばTi、Zr、Hfのような周期律系の第IVB族、たとえばV、Nb、Taのような第VB族、たとえばCr、Mo、Wのような第VIB族、たとえばMn、Reのような第VIIB族から選択された金属元素のセレン化物または硫化物より成る、請求項5〜10のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項13】
前記コンタクト層がMoSeより形成される、請求項12に記載の薄膜太陽電池。
【請求項14】
前記コンタクト層が前記吸収材で使用されるのと同じ黄銅鉱材料クラスより形成される、請求項5〜10のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項15】
前記コンタクト層が、前記吸収材で使用されるのと同じであるが、より高い多数キャリア濃度を有する黄銅鉱材料クラスより形成される、請求項14に記載の薄膜太陽電池。
【請求項16】
前記コンタクト層が、前記吸収材で使用されるのと同じであるが、前記吸収材における平均バンドギャップと比較してより高いバンドギャップを得るために変更された原子組成を有する材料より形成される、請求項5〜10のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項17】
前記コンタクト層が請求項12〜16のうちの一項に記載の複数のコンタクト層を含む複合コンタクト層である、請求項5〜10のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項18】
前記複合コンタクト層がCuIn1−xGa(Se,S)(式中、xは、前記吸収材におけるxの平均値よりも大きい)、およびMoSeによって形成される、請求項17に記載の薄膜太陽電池。
【請求項19】
前記複合裏面コンタクト(314)が単一の材料、好ましくはZrNによって実現される、請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項20】
前記反射体層が耐食性であり、それにより前記複合裏面コンタクトを腐食から保護する、上の請求項のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【請求項21】
薄膜太陽電池を製造する方法であって、基材(105)および吸収材(115)を提供するステップを含み、該方法が、
(615)前記吸収材(115)付近への裏面反射体層(311)の形成のステップと、
(611)基材上へのコンダクタンス層の形成のステップと、
(616)前記反射体層(311)と前記吸収材との間へのコンタクト層の形成のステップとを特徴とし、
前記基材と前記吸収材との間に複合裏面コンタクト(314)を設けるステップとを含む、方法。
【請求項22】
前記コンタクト層(616)を形成するステップが、第1のコンタクト層(616a)および第2のコンタクト層(616b)を提供するステップを含み、前記第1のコンタクト層が、前記吸収材と同じ導電率タイプの半導体材料により形成され、前記第2のコンタクト層が、前記吸収材で使用されるのと同じであるが、より高いバンドギャップおよび/または多数キャリア濃度を有する材料により形成される、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−528600(P2007−528600A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502760(P2007−502760)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【国際出願番号】PCT/SE2005/000321
【国際公開番号】WO2005/088731
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(506298987)ソリブロ アーベー (2)
【Fターム(参考)】