説明

薄膜形成方法及び薄膜形成装置

【課題】基板上に形成しなくとも、従来よりも薄い薄膜を容易に形成できる薄膜形成方法及び薄膜形成装置を提供する。
【解決手段】薄膜形成装置10は、超伝導コイルからなる筒状の超伝導磁石11と、超伝導磁石11が内部に収められているクライオスタット12と、超伝導磁石11によって発生した磁場に勾配磁場を発生させる勾配磁場発生器(図示せず)と、線部材で形成された環状部材13とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無重力状態又は無重力状態に近い状態の空間内における薄膜形成方法及び薄膜形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
すでに、本発明者の一部が発明者として名を連ねている下記特許文献1において、繊維状材料を溶媒に混合したものを基板の上に滴下した上で溶媒を気化させ、薄膜状の組織を無重力状態又は無重力状態に近い状態の空間内で製造する発明が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許公開2007−69282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基板上で製膜すると、膜面が基板に密着するために膜面が汚染される可能性がある。また、基板の上に滴下した後に気化させた場合、繊維状材料が折り重なったようなある程度の厚みのある薄膜でないと、基板から取れないという問題があった。すなわち、非常に薄い薄膜を形成できても、その薄膜を基板から取る技術がさらに必要であった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、膜の汚染の抑制を図れると共に、基板上に形成しなくとも、従来よりも薄い薄膜を容易に形成できる薄膜形成方法及び薄膜形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の薄膜形成方法は、所定の溶液が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を印加しつつ、環状部材の先端全体を前記溶液に浸ける浸漬工程と、前記環状部材を前記液体から離間しつつ、前記環状部材の内側に前記溶液の膜を形成する溶液膜形成工程と、前記環状部材に形成された前記溶液の膜から溶媒を気化させる気化工程とを有している。
【0007】
別の観点として、本発明の薄膜形成方法は、管状部材の先端が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を印加しつつ、前記管状部材の内側から前記管状部材の先端に所定の溶液を送入する送入工程と、前記管状部材の内側から気体を送り込み、前記溶液を前記管状部材の先端で膨らませて、シャボン玉状の溶液の膜を形成する溶液膜形成工程と、前記管状部材に形成された前記溶液の膜から溶媒を気化させる気化工程とを有しているものであってもよい。
【0008】
上記各構成によれば、基板上に形成せずに、従来よりも薄い薄膜を容易に形成できる。また、基板上にて膜を形成する場合には、基板が清浄である必要があるが、本発明の薄膜形成方法によれば、基板を使用しないので、基板が清浄であるかどうかを問題とせずに、清浄な膜を形成できる。
【0009】
本発明の薄膜形成方法においては、前記溶液膜形成工程と、前記気化工程との間に、所定方向の磁場を前記溶液の膜にさらに印加して、溶質の配向を調整する工程を有しているものであってもよい。
【0010】
上記構成によれば、膜中の溶質の配向を調整できるので、溶媒が気化した後に、配向が揃っている結晶からなる薄膜を形成できる。
【0011】
本発明の薄膜形成装置は、所定空間が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を発生させる超電導磁石と、前記所定空間内に配設されている溶液溜め部材と、前記溶液溜め部材に溶液が存在する際、自体を前記溶液に浸漬できるように移動自在に配設されている環状部材とを備えている。
【0012】
別の観点として、本発明の薄膜形成装置は、所定空間が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を発生させる超電導磁石と、前記所定空間内における無重力領域に溶液を送入するための送入部材と、前記無重力領域に溶液が浮上している際、自体を前記溶液に浸漬できるように移動自在に配設されている環状部材とを備えていてもよい。
【0013】
さらに、別の観点として、本発明の薄膜形成装置は、所定空間が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を発生させる超電導磁石と、前記所定空間内に先端部が位置するように配設されている管状部材と、前記管状部材の内部に液体又は/及び気体を送入できる送入器とを備えているものであってもよい。
【0014】
上記各構成の薄膜形成装置によれば、基板上に形成せずに、従来よりも薄い薄膜を容易に形成できる。また、基板上にて膜を形成する場合には、基板が清浄である必要があるが、本発明の薄膜形成装置によれば、基板を使用しないので、基板が清浄であるかどうかを問題とせずに、清浄な膜を形成できる。
【0015】
本発明の薄膜形成装置においては、前記所定空間内に所定方向の磁場をさらに発生させる磁石を備えているものであってもよい。これにより、溶媒を気化させる前の膜中における溶質の配向を調整できるので、溶媒が気化した後に、配向が揃っている結晶からなる薄膜を形成できる装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る薄膜形成装置について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る薄膜形成装置の概略図である。なお、図1の超伝導磁石及びクライオスタットにおいては、断面図を示している。
【0017】
薄膜形成装置10は、超伝導コイルからなる筒状の超伝導磁石11と、超伝導磁石11が内部に収められているクライオスタット12と、超伝導磁石11によって発生した磁場に勾配磁場を発生させる勾配磁場発生器(図示せず)と、線部材で形成された環状部材13を備えている。
【0018】
超伝導磁石11は超電導線のコイルからなる円筒状のものであり、磁場が鉛直方向に発生するいわゆる縦型の超電導磁石である。クライオスタット12内に収められており、冷却器又は液体ヘリウムなどで冷却され励磁されている。なお、この超伝導磁石11によって発生した磁場内に、例えば勾配磁場発生器を設けて、鉛直方向の高さによって磁場が変化する勾配磁場を発生させるが、この勾配磁場発生器は、超伝導磁石11とともにクライオスタット12内に収められた超電導線からなる逆転コイルであってもよいし、磁場内に設けられた金属のリングであってもよい。または、勾配磁場発生器を用いずに、超伝導磁石11のみで磁場及び磁場勾配を発生させてもよい。
【0019】
環状部材13は、金属の針金又は非磁性材料などで形成されており、一部が同様の材料からなる線部材14で吊り下げられている。線部材14によって、上下方向への環状部材13の移動が可能となっているので、超伝導磁石11が作動している際の無重力状態空間又は無重力状態に近い状態の空間に浮いている又は溶液溜め部材(図示せず)に溜められている、溶液15に接する又は浸漬できるようになっている。このように、無重力状態又は無重力状態に近い状態においては、溶液15に環状部材13を接する又は浸漬した後、溶液15から環状部材13を引き離すことで、環状部材13の内側に溶液15の膜(図示せず)を形成することができる。なお、溶液15を無重力状態空間又は無重力状態に近い状態の空間で浮かせるには、管状の送入部材(図示せず)を用いて、溶液15を無重力状態空間又は無重力状態に近い状態の空間に送入することで達成できるが、送入の勢いはできるだけ小さくする方が好ましい。所定箇所において浮上させることが容易となるからである。
【0020】
溶液15としては、ポリアクリル酸又はポリビニルアルコールが溶けている水溶液・アルコール溶液や、カーボンナノチューブを分散させたポリアクリル酸又はポリビニルアルコールが溶けている水溶液・アルコール溶液などが例として挙げられる。
【0021】
上記構成によれば、超伝導磁石11によって形成された無重力状態空間又は無重力状態に近い状態の空間において、環状部材13の内側に、環状部材13以外とは非接触で溶液15の膜を形成することができ、この溶液15の膜から溶媒を気化させることで、溶質からなる薄膜(図示せず)を形成することができる。したがって、基板上に形成せずに、無重力状態の空間又は無重力状態に近い状態の空間で、従来よりも薄い薄膜を容易に形成できる装置及び方法を提供できる。なお、無重力状態の空間又は無重力状態に近い状態の空間から外部に出ても、大きな外力が加えられない限り、薄膜が破瓜してしまうことはない。また、基板上にて膜を形成する場合には、基板が清浄である必要があるが、本実施形態の薄膜形成装置10によれば、基板を使用しないので、基板が清浄であるかどうかを問題とせずに、清浄な膜を形成できる。なお、薄膜として、高分子薄膜や、結晶膜を形成することができる。
【0022】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態に係る薄膜形成装置について説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係る薄膜形成装置の概略図である。なお、図1においては、超伝導磁石及びクライオスタットについて、断面図を示している。また、第1実施形態の符号1、2と同様の部位には、順に符号21、22とし、その説明を省略することがある。
【0023】
本実施形態の薄膜形成装置20は、第1実施形態における環状部材3、線部材4の代わりに、管状部材23を有している点で、第1実施形態と異なっている。なお、溶液24aは、第1実施形態の溶液15と同様のものが用いられる。
【0024】
管状部材23は、超伝導磁石1内に形成される無重力状態の空間又は無重力状態に近い状態の空間に設けられた一端部23aと、気体供給口と液体供給口とを別個に有する他端部23bとを有している。また、図示していないが、気体供給口と液体供給口とには、気体供給器、液体供給器がそれぞれ接続されている。そして、一端部23aには、液体供給器を用いて他端部23bの液体供給口から送入された溶液24aの内部に、気体供給器を用いて他端部23bの気体供給口から送入された気泡24bが入れられることによって、膜24が形成される(図2においては、形成途中を示している)。なお、膜24は、形成終了後においては、ほぼ風船状あるいはシャボン玉状の厚さが薄い薄膜(図示せず)となる。
【0025】
上記構成によれば、無重力状態又は無重力状態に近い状態で、溶液24aの薄膜(図示せず)を管状部材23以外とは非接触で形成することができ、この溶液24aの膜から溶媒を気化させることで、溶質からなる膜を形成することができる。したがって、基板上に形成せずに、無重力状態の空間又は無重力状態に近い状態の空間で、従来よりも薄い薄膜を容易に形成できる装置及び方法を提供できる。なお、無重力状態の空間又は無重力状態に近い状態の空間から外部に出ても、大きな外力が加えられない限り、薄膜が破瓜してしまうことはない。また、基板上にて膜を形成する場合には、基板が清浄である必要があるが、本実施形態の薄膜形成装置20によれば、基板を使用しないので、基板が清浄であるかどうかを問題とせずに、清浄な膜を形成できる。なお、薄膜として、高分子薄膜や、結晶膜を形成することができる。
【0026】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記各実施形態の薄膜形成装置における無重力空間内に、所定方向の磁場をさらに発生させるための磁石が設けられていてもよい。これにより、溶媒を気化させる前の膜中における溶質の配向を調整できるので、溶媒が気化した後に、配向が揃っている結晶からなる薄膜を形成できる装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る薄膜形成装置の概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る薄膜形成装置の概略図である。
【符号の説明】
【0028】
11、21 超電導磁石
12、22 クライオスタット
13 環状部材
14 線状部材
15、24a 溶液
23 管状部材
24 膜
23a (管状部材23の)一端部
23b (管状部材23の)他端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の溶液が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を印加しつつ、環状部材の先端全体を前記溶液に浸ける浸漬工程と、
前記環状部材を前記液体から離間しつつ、前記環状部材の内側に前記溶液の膜を形成する溶液膜形成工程と、
前記環状部材に形成された前記溶液の膜から溶媒を気化させる気化工程とを有していることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
管状部材の先端が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を印加しつつ、前記管状部材の内側から前記管状部材の先端に所定の溶液を送入する送入工程と、
前記管状部材の内側から気体を送り込み、前記溶液を前記管状部材の先端で膨らませて、シャボン玉状の溶液の膜を形成する溶液膜形成工程と、
前記管状部材に形成された前記溶液の膜から溶媒を気化させる気化工程とを有していることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項3】
前記溶液膜形成工程と、前記気化工程との間に、所定方向の磁場を前記溶液の膜にさらに印加して、溶質の配向を調整する工程を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜形成方法。
【請求項4】
所定空間が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を発生させる超電導磁石と、
前記所定空間内に配設されている溶液溜め部材と、
前記溶液溜め部材に溶液が存在する際、自体を前記溶液に浸漬できるように移動自在に配設されている環状部材とを備えていることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項5】
所定空間が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を発生させる超電導磁石と、
前記所定空間内における無重力領域に溶液を送入するための送入部材と、
前記無重力領域に溶液が浮上している際、自体を前記溶液に浸漬できるように移動自在に配設されている環状部材とを備えていることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項6】
所定空間が無重力状態又は無重力状態に近い状態となるように磁場を発生させる超電導磁石と、
前記所定空間内に先端部が位置するように配設されている管状部材と、
前記管状部材の内部に液体又は/及び気体を送入できる送入器とを備えていることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項7】
前記所定空間内に所定方向の磁場をさらに発生させる磁石を備えていることを特徴とする請求項4又は5に記載の薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−273016(P2008−273016A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118749(P2007−118749)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年11月15日 日本磁気科学会発行の「第1回日本磁気科学会年次大会 プログラム・要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年11月30日 日本マイクログラビティ応用学会発行の「日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol.23 No.4 2006」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年12月16日 第3回ナノ・バイオ・インフォ化学シンポジウム実行委員会発行の「第3回ナノ・バイオ・インフォ化学シンポジウム 講演予稿集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年1月20日 インターネットアドレス「http://www.jstage.jst.go.jp/browse/cl/36/2/_contents」「http://www.jstage.jst.go.jp/article/cl/36/2/36_306/_article」「http://ssl.jstage.jst.go.jp/ppvtop/cl/36/2/36_306」「http://ssl.jstage.jst.go.jp/ppvinput」「http://www.jstage.jst.go.jp/login?mid=cl&sourceurl=/article/cl/36/2/306/_pdf&lang=en」「http://www.jstage.jst.go.jp/article/cl/36/2/306/_pdf」
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月19日 国立大学法人 広島大学主催の「国立大学法人広島大学大学院理学研究科 学位請求論文発表会」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第87春季年会(2007)講演予稿集CD−ROM」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月23日 国立大学法人 広島大学大学院理学研究科発行の「理学研究科 理学部 通信 −2007.3.23−211」に発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】