説明

薄膜蛍光体の製造方法、薄膜蛍光体、無機EL発光素子、電界放射型ディスプレイ、及び薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置

【課題】高輝度な薄膜蛍光体を短時間で製造することのできる薄膜蛍光体の製造方法の提供、高輝度で発光強度の高い薄膜蛍光体の提供、高輝度で発光強度の高い薄膜蛍光体を製造できる製造装置の提供。
【解決手段】400℃以下で、非晶質の薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記薄膜を加熱して、又は紫外光を照射して、結晶核を生成させる結晶核生成工程と、前記結晶核を生成させた薄膜に紫外光を照射して結晶を成長させる紫外光照射工程と、を有する薄膜蛍光体の製造方法、及び該製造方法によって得られた薄膜蛍光体、該薄膜蛍光体製造用の照射装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜蛍光体の製造方法、薄膜蛍光体、無機EL発光素子、電界放射型ディスプレイ、及び薄膜蛍光体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体を薄膜とした薄膜蛍光体は、粉末の蛍光体に代えて、メタルバックを用いることができない低電圧型(〜5kV)の電界放射型ディスプレイ(フィールドエミッションディスプレイ:FED)への適用が検討されている。
薄膜蛍光体では、膜厚方向が連続的に構成されるため、粉末蛍光体で数十μmの粒子が所々接している状態に比べると、格段に電気抵抗が小さくなり、蛍光体に照射された電子がアノード基板の電極に到達しやすくなるため、チャージアップを抑制できる。
さらに、粉末蛍光体を比べて表面積も小さくなるため、表面劣化を抑え、アウトガスが発生しにくい。従って、薄膜蛍光体を使用することによってアルミバックなしに使用することができる。
【0003】
また、従来の粉末蛍光体では、粒子の大きさが数μ〜数十μmである。したがって、1画素当り数十μm以下の大きさとなる超高精細FEDでは、粒子自体の大きさと画素の大きさが同程度となるため、粉末蛍光体を使用することができない。このような場合にも、薄膜蛍光体を適用することが有効であり、薄膜を各種のパターニング法を用いて加工することで、数μ〜数十μmの微細な画素を形成することができる。
【0004】
このように薄膜蛍光体は、FED用蛍光体として、高精細化、低抵抗化によるチャージアップの抑制、表面積の減少によるアウトガスの抑制などのメリットがあるために期待されている材料である。
【0005】
これまでに、薄膜蛍光体の製造方法としては、例えば、SrGa:Eu薄膜蛍光体の蒸着時に基板温度を450〜600℃に上昇させて薄膜を形成し、その後にレーザを照射することで結晶化を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この方法では、蒸着時に450〜600℃にまで基板を加熱しているので、基板上に形成された薄膜は、ある程度結晶化しており、更に結晶を成長させるために、或いは結晶を整えて結晶性を向上させるために、その後にレーザを照射している。
【0006】
しかし、上記方法では、成膜時に基板を450〜600℃に加熱しているため、成膜された薄膜成分中で蒸発しやすい硫黄が欠損し、求めるSrGa:Eu蛍光体の成分比Sr:Ga:S=1:2:4から外れてくる。その結果、この方法では高輝度な薄膜蛍光体を得ることが難しい。
【0007】
また、400℃以下に基板を加熱した状態でMOCVDによる成膜を行い、結晶性を有する薄膜へレーザを照射して結晶性の向上を行う方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。当該方法は比較的低温の成膜で結晶性を有し、かつ、目的結晶の成分に近い成分比率が得られる場合は有効な手法である。
しかし、この方法で適用できるのは、比較的低温でも結晶化するような蛍光体の場合であって、上記方法においてMOCVDによって得られた薄膜は、多結晶の状態となっており、この多結晶の薄膜にレーザを照射し、結晶方向を整えて、結晶性を向上させている。
【特許文献1】特開2004−111333号公報
【特許文献2】特開平11−339681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の薄膜蛍光体の形成方法のうち、MOCVDによって成膜した後にレーザを照射する方法は、比較的低温でも結晶化するような蛍光体を製造する場合には好適な方法である。しかし、低温では結晶化しにくい蛍光体の場合には、上記方法では非晶質の膜が得られ、これを結晶化させるには、長時間のレーザ照射や加熱が必要であることが明らかとなった。或いは、長時間照射・加熱しても結晶化できない場合もあることが判明した。
また、蒸発しやすい成分を含む薄膜蛍光体を作製するには、蒸発しないような加熱条件下で作製することが熱望されていた。
【0009】
したがって、蒸発しやすい成分を含む蛍光体や、400℃以下のような比較的低温では結晶化し難いような蛍光体であっても、短時間で高輝度な蛍光体が得られる薄膜蛍光体の製造方法が求められていた。
【0010】
そこで、本発明の課題は、高輝度な薄膜蛍光体を短時間で製造することのできる薄膜蛍光体の製造方法を提供することにある。
また、本発明の第二の課題は、高輝度で発光強度の高い薄膜蛍光体、無機EL発光素子又は電界放射型ディスプレイの提供であり、第三の課題は、高輝度で発光強度の高い薄膜蛍光体を短時間で製造できる薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる状況のもと、発明者が鋭意検討した結果、下記手段を採用することにより、本発明の課題を解決しうることを見出した。
【0012】
<1> 基板温度400℃以下で、基板上に非晶質の薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜を加熱して、及び/又は、紫外光を照射して、結晶核を生成させる結晶核生成工程と、
前記結晶核を生成させた薄膜に紫外光を照射して結晶を成長させる紫外光照射工程と、
を有する薄膜蛍光体の製造方法である。
【0013】
基板温度400℃以下のような低温で蛍光体の薄膜を形成すると、結晶化し難い蛍光体の場合には最終目的物の単結晶や多結晶の状態では薄膜は形成されず、非晶質(アモルファス)の状態で作製される。非晶質の薄膜を結晶の薄膜にするには、大きなエネルギーを必要とするため、極めて高温で及び/又は長時間加熱するか、紫外光を長時間照射しなければならないことが明らかとなった。
しかし、本発明に至る過程で、非晶質の薄膜に、結晶核を薄膜中に生成させた後に紫外光を照射すると結晶成長し易くなり、結晶核を作製せずに薄膜全体を結晶化させる場合に比べて、少ないエネルギーで作製できることが明らかとなった。また、結晶核が存在する薄膜では、紫外光の照射によって容易に結晶を成長させることができるので、短時間で結晶化させることができる。
【0014】
したがって、前記<1>に記載の薄膜蛍光体の製造方法によれば、結晶核生成工程を経ることで、従来の方法に比べて低温で結晶化させることができる。それにより、蒸発しやすい成分の欠損が抑えられ、目的とする組成の薄膜蛍光体を得ることができ、結果、高輝度な蛍光体を得ることができる。
【0015】
また、前記<1>に記載の薄膜蛍光体の製造方法によれば、少ないエネルギーで結晶化することができるので、短時間で薄膜蛍光体を形成することができる。
【0016】
更に、薄膜形成工程で得られた薄膜は、非晶質(アモルファス状態)であり、結晶化している薄膜よりも溶融温度が低いことから、分子が動きやすい。したがって、結晶核が生成すれば、より低温で結晶成長することが明らかとなった。したがって、蒸発しやすい成分を含まない蛍光体を製造する場合においても、前記<1>に記載の製造方法によれば、短時間で結晶化できるという利点を有する。
【0017】
<2> 前記結晶核生成工程では、100℃以上600℃以下の基板加熱によって結晶核を生成させることを特徴とする前記<1>に記載の薄膜蛍光体の製造方法である。
【0018】
本発明では、結晶核生成工程を設けることによって、短時間で目的の薄膜蛍光体を作製することができるため、結晶核生成のための条件は重要である。ここで、結晶核の生成は基板加熱によっても行うことができ、100℃以上600℃以下の加熱とすると、効果的に結晶核を生成させることができる。
なお、結晶核生成工程において、例えば600℃まで基板を加熱したとしても、薄膜形成工程で600℃まで基板を加熱したのに比べて、蛍光体成分の蒸発は極めて少ない。この理由については明らかとなっていないが、薄膜形成工程での加熱は、粒子状又は気相の原料が加熱されるのに対し、結晶核生成工程での加熱は、膜状に形成されたものを加熱するので、熱に対する比表面積が小さくなり、蒸発しにくくなるのではないかと推測される。しかし、本発明はこのようなメカニズムによっては限定されない。
【0019】
<3> 前記結晶核生成工程で照射する紫外光のエネルギー密度は、前記紫外光照射工程で照射する紫外光のエネルギー密度よりも低いことを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の薄膜蛍光体の製造方法である。
【0020】
結晶核は、紫外光の照射によっても効果的に生成する。結晶核生成のための紫外光の照射は、薄膜全体を結晶化させるときの紫外光の照射よりも低いエネルギー密度で照射することが、結晶核の生成には有効である。
なお、100℃以上600℃以下の基板加熱を行いながら、紫外光を照射すると、より効率的に結晶核を生成させることが可能となる。
【0021】
<4> 前記紫外光照射工程では、前記薄膜を500℃以下で基板加熱しながら紫外光を照射することを特徴とする前記<1>乃至<3>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法である。
【0022】
結晶核を起点に結晶を成長させ、更には結晶性を向上させるのに、常温で紫外光を照射してもよいが、500℃以下で加熱しながら紫外光を照射すると、結晶成長速度が速くなり、また結晶性を整えるための時間を短縮することができる。
【0023】
<5> 前記紫外光照射工程における紫外光が、エキシマレーザであることを特徴とする前記<1>乃至<4>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法である。
【0024】
紫外光照射工程における紫外光として、エキシマレーザを使用すると、単一波長の紫外光を照射することになって、紫外光以外の波長の光を含まないので、さらに効率的に結晶化や、結晶性の向上を行うことができる。
【0025】
<6> 前記結晶核生成工程から前記紫外光照射工程までを、一連の工程として行うことを特徴とする前記<1>乃至<5>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法である。
【0026】
結晶核生成工程から紫外光照射工程までを一連の工程とすることで、結晶核生成工程で与えたエネルギーを、紫外光照射工程における結晶化のエネルギーに利用することが可能となり、スループットを向上させ、生産性を向上させることができる。
【0027】
<7> 硫黄原子を含む蛍光体、酸素原子を含む蛍光体、窒素原子を含む蛍光体、又はセレン原子を含む蛍光体の薄膜を製造することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法である。
【0028】
本発明の製造方法では、薄膜形成の際の基板加熱温度が従来の方法よりも低いので、蒸発し易い成分を含む蛍光体を製造する場合であっても、目的の組成を有する蛍光体を得ることができ、高輝度な蛍光体を製造することができる。
また、本発明の製造方法によれば、結晶核を生成させてそれを起点に結晶が成長するので、400℃以下の温度では結晶化し難い蛍光体であっても、結晶化させることができる。
【0029】
<8> 前記<1>乃至<7>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法によって結晶化した薄膜蛍光体である。
【0030】
前記<1>乃至<7>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法では、成分の蒸発を防ぐことができるので、得られた薄膜蛍光体は、目的組成の蛍光体であり高輝度となる。また、最小限の最適なエネルギーで結晶化されるために、加熱による蛍光体の劣化を抑えることができるので、高輝度な薄膜蛍光体を得ることができる。
更に、過剰なエネルギーを付与して結晶化すると、完全溶融・再凝固によって薄膜表面の平坦性が低下してしまうが、本発明の製造方法では最小限の最適なエネルギーで結晶化されるために、完全溶融・再凝固を抑えることができるので、平坦性に優れた薄膜蛍光体となる。したがって、上記<8>に記載の薄膜蛍光体は、高精細や高精度な形状加工に適している。
【0031】
<9> ガラス基板上に透明電極を備え、該透明電極上に下部絶縁層を備え、該下部絶縁層上に、前記<1>乃至<7>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法によって得られた薄膜蛍光体を備え、該薄膜蛍光体上に上部絶縁層を備え、該上部絶縁層上に上部電極を備えてなる無機EL発光素子。
【0032】
上記<9>の無機EL発光素子では、上記前記<1>乃至<7>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法によって形成された高輝度な薄膜蛍光体を備えるので、発光強度の高い無機ELとなる。
【0033】
<10> ガラス基板上に透明電極を備え、該透明電極上に、前記<1>乃至<7>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法によって得られた薄膜蛍光体を備えてなる電界放射型ディスプレイである。
【0034】
上記<10>の電界放射型ディスプレイでは、上記前記<1>乃至<7>のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法によって形成された高輝度な薄膜蛍光体を備えるので、発光強度の高い電界放射型ディスプレイとなる。
【0035】
<11> 紫外光発生手段と、紫外光を照射する第1の照射部と、紫外光を照射する第2の照射部と、を備え、
第1の照射部によって、非晶質の薄膜に紫外光を照射して結晶核を生成させ、
第2の照射部によって、前記結晶核を成長させて、
前記<8>に記載の薄膜蛍光体を製造する、薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置である。
【0036】
前記<8>に記載の薄膜蛍光体は、結晶核生成工程と、結晶化・結晶性向上のための紫外光照射工程とを有する製造方法によって得られる。結晶核を生成させるのにも紫外光を照射する場合、2段階の紫外光の照射プロセスが必要となるため、上記<11>に記載の紫外光照射装置によって薄膜を結晶化することが有効である。
したがって、前記<11>に記載の製造装置によれば、短時間で薄膜の結晶化と結晶性の向上処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、高輝度な薄膜蛍光体を短時間で製造できる薄膜蛍光体の製造方法を提供することができる。また、高輝度で発光強度の高い薄膜蛍光体や無機EL発光素子、電界放射型ディスプレイを提供でき、高輝度で発光強度の高い薄膜蛍光体を短時間で製造できる薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下では、まず薄膜蛍光体の製造方法と得られた薄膜蛍光体について説明し、引き続き、薄膜蛍光体製造用の照射装置について説明を行う。
【0039】
<薄膜蛍光体の製造方法>
本発明の薄膜蛍光体の製造方法は、基板温度400℃以下で、基板上に非晶質の薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記薄膜を加熱して、及び/又は、紫外光を照射して、結晶核を生成させる結晶核生成工程と、前記結晶核を生成させた薄膜に紫外光を照射して結晶を成長させる紫外光照射工程と、を有する。
【0040】
図1(a)に示すように、まず、基板2の上に、基板温度400℃以下の温度条件下で非晶質の薄膜20を形成する。基板2としては、低融点大型ガラスや、無アルカリガラス、高歪点ガラスなど各種ガラスやプラスチックなどを使用でき、透明電極であるITO付きとしてもよいし、画素ごとにブラックマトリクスで隔てた構造の基板としてもよく、どの様な種類の基板でも使用できる。このとき、非晶質の薄膜20とは、一般的に非晶質と呼ばれる状態のもののほかに、蛍光体を形成するために用いた原料の一部が結晶化しているものも含む。但し、目的の結晶や結晶核は含まれていないものとする。
例えば、SrGaの蛍光体を作製するために、Sr金属、Ga粉、EuCl粉を用いたとき、これら原料のうち、GaSやSrSなどが結晶として薄膜中に存在していても、原料であるSr、Ga、Sからなる非晶質成分を含有しているため、本発明においては、非晶質の薄膜とする。但し、GaSやSrSなどの結晶が薄膜中に存在する場合であっても、SrGaの結晶核が存在していることは無く、SrGaの多結晶や単結晶の状態にもなっていない。
【0041】
次に、図1(b)に示すように、非晶質の薄膜20に紫外光21Lを照射して、目的結晶の結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21を作製する。図1(b)では、紫外光21Lを照射して結晶核を作製しているが、これに代えて、基板加熱によって結晶核を作製してもよく、基板加熱しながら紫外光を照射して結晶核を作製してもよい。
その後、図1(c)に示すように、目的結晶の結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21に紫外光22Lを照射して結晶を成長させ、目的結晶を含む薄膜蛍光体22を作製する。
以下、工程毎に詳細に説明を行う。
【0042】
(薄膜形成工程)−図1(a)−
本発明にかかる薄膜形成工程では、基板温度400℃以下の温度条件下で、基板上に非晶質の薄膜20を形成する。この非晶質の薄膜20は、最終的には結晶化される。
基板温度400℃以下で薄膜を形成することによって、アモルファスの薄膜を得ることができる。アモルファスの薄膜は、結晶化した薄膜よりも分子が動きやすいので、結晶核が生成しさえすれば、結晶化が進行し易い。その結果、薄膜を結晶化させるための時間を短縮することができる。
【0043】
また、基板温度400℃以下で薄膜を形成することによって、蒸発しやすい成分の欠損を抑え、目的の組成の蛍光体を得ることができるので、より高輝度な蛍光体を作製できる。したがって、本発明の方法は、蒸発しやすい成分を含む蛍光体には特に有効な方法である。しかし、上述の通り、蒸発しやすい成分を含まない蛍光体の作製においても、結晶化の時間を短縮することができるので、本発明の方法を適用することは有益である。
【0044】
本発明にかかる薄膜形成工程での加熱温度は、従来の方法よりも低温であるので、エネルギーコストを低減できる。また作業性にも優れる。
【0045】
薄膜形成工程では、蛍光体組成に対してダメージを与えないという観点から、或いはアモルファスの薄膜を形成できるという観点からは、薄膜形成時の基板温度は低ければ低いほど好ましく、より好ましくは、200℃以下で薄膜を形成する場合である。
一方で、基板温度が変化すると、成膜スピードが変化することから、基板の温度は一定であることが好ましい。真空蒸着の場合には、加熱された原料が熱エネルギーを持って基板の到達し、スパッタの場合にはスパッタされた原子はeVオーダーのエネルギーを持って基板に到達する。そのため、基板の温度が低すぎると基板温度は次第に上昇することとなる。従って、ある程度基板を加熱し、温度制御を行うことが必要である。加えて、蒸発しやすい成分が、単体原子で存在するほどの低温で成膜を行った場合、単体原子の融点や沸点で蒸発が起こる。このようなことを防ぐ意味で、結晶性を有していないかいるかに関わらず、蒸発しやすい原子が他の原料原子と結合を作る程度に基板を加熱することで、こうした原子の蒸発を抑制することができる。このような観点から、100℃以上で薄膜を形成することが好ましく、150℃以上で薄膜を形成することがより好ましい。
【0046】
本発明の薄膜蛍光体の製造方法に適用し得る蛍光体としては、SrGa、BaAlなどの硫黄原子を含有する硫黄系蛍光体、ZnGa、ZnAlなどの酸素原子を含有する酸素系蛍光体、YS、LaSなどの硫黄原子と酸素原子を含有する酸硫化物系蛍光体、GaNやAlNなどの窒素原子を含有する窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体など幅広く適用することができる。
【0047】
特に本発明の製造方法は、蒸発し易い成分を含む蛍光体や、400℃以下の基板温度では結晶化し難い蛍光体など、従来の製造方法では製造し難かった蛍光体をも製造できる有用な方法である。
例えば、蒸発し易い成分を含む蛍光体としては、硫黄系蛍光体、酸素系蛍光体、酸硫化物系蛍光体、窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、セレン化物系蛍光体を挙げることができる。硫黄の沸点は約440℃であるので、400℃を超えるような温度では、硫黄が蒸発しやすい。
【0048】
蒸発し易い成分を含む蛍光体の母体材料としては、組成比としてABまたはAC、BN(Aは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表し、BはB、Al、Ga、In、Yを表し、CはO、S、Se、Teを表す。)などの一連の母体材料、特にSrGa、BaAl、BaGa、CaIn、BaS、SrS、CaS、MgS、ZnS、SrAl、CaAl、CaGa、BaIn、SrIn、MgAl、CaY、BaY、SrY、またはYS、LaS、Y、La、SrGa、BaAl、BaGa、CaIn、BaO、SrO、CaO、MgO、ZnO、SrAl、CaAl、CaGa、BaIn、SrIn、MgAl、CaY、BaY、SrY、BN、AlN、GaN、InN等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0049】
また、一般的に、無機の蛍光体は400℃以下の基板温度では結晶化し難いが、本発明の製造方法によれば、結晶化させることができるので、蛍光体の種類を問わず、様々な蛍光体を作成することができる。このような蛍蛍光体の具体例としては、上述した蛍光体を当然に含むがこれらに限定されない。
【0050】
発光中心元素も特に限定されず、希土類金属元素または遷移金属元素であるEu、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Mn、Cu、Ag、Al等いずれの元素であってもよい。
【0051】
薄膜の形成方法としては、400℃以下で形成できるのであれば特に制限されず、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム(EB)蒸着法、レーザービーム蒸着法、CVD法(熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法)、多元蒸着法(MSD法)、イオンクラスタービーム法(ICB法)、有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、塗布液分解法(MOD)等を適用することができ、大面積の薄膜を形成できるように実用化されているという観点からは、スパッタリング法、電子ビーム(EB)蒸着法を適用することが好ましい。
【0052】
薄膜形成工程によって得られた非晶質の薄膜20の厚さは特に制限されないが、好ましくは100nm〜2μmであり、より好ましくは500nm〜1.5μmである。
【0053】
以下では、SrGa:Euの蛍光体の作製を例に、具体的な薄膜形成方法について説明する。なお、SrGa:Euは、緑色の発光色を呈する材料である。
【0054】
MSDの方法で作製する場合について図2を参照しながら説明する。
図2に示すように、真空ポンプ31に接続される真空容器30内に図3に示す中間基板19を配置する。中間基板19にはマスク8を付属する(図3参照。)。中間基板19の上方には、温度センサー32及びヒーター34が順次配置され、中間基板19の下方には開口部36aを有する開口板36及びシャッタ38が順次配置される。また、シャッタ38の下方には、第1〜第3の蒸着源40a、40b、40cを配置する。第1の蒸着源40a〜40cには、蛍光体を形成するための原料がそれぞれ収容されている。
SrGaの蛍光体を作製する場合には、第1の蒸着源40aにはSr金属が収容され、第3の蒸着源40cにはGa粉が収容されている。第2の蒸着源40bには、発光中心を形成するための物質として、EuCl粉が収容されている。原料の種類が多くなる場合には、更に蒸着源を増設する。
【0055】
成膜条件は、基板温度400℃以下、真空度10−6〜10−9Torr(133−5〜133−8Pa)、室温までの温度降下速度5℃/分とし、Ga/Sr供給比約2〜60とすると、非晶質の薄膜20を形成することができる。
【0056】
電子ビーム(EB)蒸着法で薄膜を形成する場合には、複数の電子ビームによって複数のターゲットを加熱、蒸発させて蒸着を行う電子ビーム蒸着法によって、非晶質の薄膜20を作製することができる。
SrGa:Euの非晶質の薄膜20を作製する場合は、非晶質の薄膜20を蒸着させる基板の温度を400℃以下に調節し、ターゲットにはSr0.99Eu0.01SとGaを使用して、それぞれの成膜レートをコントロールする。
【0057】
スパッタリング法で薄膜を形成する場合、例えば、RFマグネトロンスパッタ法によってSrGa:Euの非晶質の薄膜20を作製することができる。スパッタのターゲットとしてSr0.98Eu0.02Gaターゲットを使用し、スパッタの条件として、例えば、ArもしくはHSを含む雰囲気を微量に流しながら、圧力を7×10−2Torr以下の所定の圧力にコントロールし、基板の温度を400℃以下の所定の温度に調節して成膜を行う。そうして、SrGa:Euの非晶質の薄膜20が作製される。
【0058】
(結晶核生成工程)−図1(b)−
薄膜形成工程で作製した非晶質の薄膜20に目的結晶の結晶核を生成させ、目的結晶の結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21にする。本発明において、「結晶核」とは、例えば、SrGaの場合、SrGaの局所的結合状態以上の結晶性を有するものを指し、SrGaの結合を有していても非晶質なものや、局所的に生成した微結晶、微結晶が若干成長した結晶性の乏しい微小な結晶が薄膜中に散在している状態をいう。
このような結晶核は、X線回折(XRD)で検出される程度の結晶性や大きさであっても、検出が困難な結晶性やサイズであってもよい。
【0059】
非晶質の薄膜20を作製してから、結晶核を生成させることなく、加熱や紫外光照射をし続けることで薄膜全体の結晶化を行った場合、結晶核の生成に合わない条件で薄膜が加熱されるため、結晶核の生成に時間がかかり、生成数が少ない。そのため、数少ない結晶核を起点に結晶成長が進んでいくために、薄膜全体としてみると結晶成長の速度が遅くなったり、長時間の紫外線照射による過熱によって、硫黄の蒸発などが起こって結晶構造を劣化させたりするものと推測される。しかし、本発明のように一旦結晶核を生成させた後に紫外光を照射することで、結晶成長に適した加熱が可能となるのみならず、薄膜中に散在しているそれぞれの結晶核を起点に結晶成長が進行するため、薄膜全体に対する結晶成長の速度を早めることができ、薄膜全体を結晶化するのに要する時間が短いために、薄膜を余計に過熱することがなく、良好な結晶性を保ったまま結晶化をおこなうことができる。もちろん、結晶核の成長に伴って、結晶成長に適度な加熱が加えられることによって、結晶性を向上させることもできるようになるものと思われるが、本発明はこのような作用に限定されない。
【0060】
結晶核は、非晶質の薄膜20を加熱し、及び/又は紫外光を照射することで生成する。
【0061】
加熱によって非晶質の薄膜20に結晶核を生成させるには、100℃以上600℃以下で薄膜を加熱する。好ましくは、薄膜を150℃以上500℃以下で加熱する場合であり、より好ましくは、200℃以上400℃以下で加熱する場合である。なお、ここでいう加熱温度とは、非晶質の薄膜20を備える基板の温度をいう。
【0062】
薄膜中に結晶核が生成するまで加熱すれば、加熱時間については特に制限はなく、好適な加熱時間は、加熱温度や蛍光体の種類によって異なるが、概ね5秒間以上加熱することが好ましく、30分間以上加熱することがより好ましい。
加熱方法は特に制限されないが、ヒーター、ランプなどを用いることができる。
【0063】
また、紫外光の照射によっても、非晶質の薄膜に結晶核を生成させることができる。ここで適用し得る紫外光としては、例えば、紫外光の発生にランプを用いる場合、水銀ランプの255nm、エキシマランプとしてはXeFの351nm、XeClの308nm、KrFの248nmなどの波長を使用することができる。紫外光の発生にレーザを用いる場合、エキシマレーザとしてはXeFの351nm、XeClの308nm、KrFの248nmなどの波長を使用することができる。さらに、固体レーザとしてはYAGレーザの3倍波である355nm、4倍波である266nmなどの波長を使用することができる。
ただし、使用する波長は、非晶質の薄膜20で吸収される波長を用いることが望ましく、非晶質の薄膜20の光学吸収端付近よりも波長の短い紫外光が有効である。例えば、非晶質の薄膜20がSrGaを作製するためのものである場合、310nm付近に光学吸収を示すので、これよりも短い波長の紫外光を照射することが、結晶核を生成させるのに好適である。
【0064】
結晶核生成工程で用いる紫外光の照射エネルギー密度としては、この後行う紫外光照射工程で用いる紫外光のエネルギー密度よりも低くする。そのようなエネルギー密度では、結晶核の作製が効率よく行われる。
そのため、同一紫外光源を用いて、結晶核成長工程と紫外光照射工程とで照射を行う場合、結晶核成長工程での紫外光は紫外光照射工程での紫外光よりも光を収束させなくてすむので、照射面積を広くすることが可能となる。
【0065】
また、結晶核の作製のための紫外光照射時間は、結晶を成長させたり、結晶性を向上させたりするための紫外光照射時間に比べて長い時間が必要である。つまり、結晶核生成工程における紫外光の照射時間の方が、紫外光照射工程における紫外光の照射時間よりも、長時間となる。この理由は、初期の結晶核成長に適切な温度範囲があると考えられ、薄膜中に高密度で均一に結晶核を作製するためには、適切な温度でゆっくり長時間結晶核を成長させることが重要と思われる。これに対して、適切な温度を越える高い温度で加熱した場合、結晶核の生成に時間がかかり、薄膜中に高密度で均一に結晶核を作製できないため、結晶成長や結晶性向上の起点が少ない。したがって、薄膜中に高密度で均一に結晶核を作製した薄膜の方が、薄膜全体の結晶性を向上させるための時間を短縮できると推測されるが、このようなメカニズムに限定されない。
【0066】
そのため、搬送しながら同一紫外光源を用いて照射を行う生産ラインで、結晶核成長工程から紫外光照射工程までを一連の工程で行ったとしても、結晶核生成工程では、エネルギー密度を低くする一方で照射面積を広くし、紫外光照射工程では、照射面積が狭くなるように収束させてエネルギー密度を高くすれば、上記条件、つまり、結晶核生成工程では紫外光照射工程よりも、照射時間を長く且つエネルギー密度を低くすることが可能であるので、一定の搬送速度で行えることになり、スループットを落とすことなく薄膜蛍光体を製造することができる。
【0067】
具体的な照射時間については、照射のエネルギー密度や、照射する紫外光の種類、更には蛍光体の種類によって異なるが、例えば、波長248nmのKrFエキシマランプで照射する場合には、5秒間以上照射することが好ましく、10分間以上照射することがより好ましい。また、波長248nmのKrFエキシマレーザで照射する場合には、1秒間以上照射することが好ましく、1分間以上照射することがより好ましい。もちろん、KrFエキシマ以外の波長308nmのXeClエキシマを使用してもよい。
【0068】
なお、上述のような加熱を行いながら紫外光を照射すると、結晶核を生成させるための時間を短縮することが可能である。
このときの加熱温度は、薄膜中に結晶核を作製するための加熱をアシストする位置づけであり、薄膜のみ部分的に加熱することが可能な紫外光の照射によって主に結晶核の作製を行うという観点から600℃以下であることが好ましく、好適にはガラス基板にダメージを与えない温度とすることが望ましく、
100℃〜500℃で加熱することが好適であり、より好適には、200℃〜400℃である。ここで、加熱温度とは、薄膜を形成した基板の温度をいう。
【0069】
また、前工程の結晶核生成工程において、加熱していた場合には、結晶核生成工程から紫外光照射工程までを一連の工程とすることで、結晶核生成工程で与えた熱エネルギーが薄膜に蓄積されている状態で、紫外光照射工程を行うことができるので、エネルギーを効率的に利用することができる。また、紫外光照射工程における加熱のための待ち時間を省略することも可能であるため、スループットを低下させることなく薄膜蛍光体を製造することができる。
【0070】
結晶核生成工程を行う際の外環境は特に制限がないが、作製目的の蛍光体の結晶の種類に応じて、例えば、硫黄元素を含む蛍光体を作製するときには硫化水素を含む雰囲気としたり、酸素原子を含む蛍光体を作製するときには酸素を含む雰囲気としてもよい。
【0071】
具体的には、例えば硫化物の蛍光体を作製する場合は、1vol%の硫化水素(HS)を含むアルゴン(Ar)雰囲気や、酸化物の蛍光体を作製する場合は酸素を含むガスの酸素濃度をコントロールした雰囲気で、ガスを流しながら、+10℃/minの速度で600℃まで加熱し、30分間600℃で保持した後、−10℃/minの速度で室温まで冷却する。加熱・冷却のスピードは、上記スピードに限定されるものではなく、処理中の雰囲気も任意のものを使用できる。
なお、本発明の製造方法の場合には、蒸発しやすい成分の蒸発を防ぐことができるので、硫化水素を含む雰囲気下や、酸素を含む雰囲気下としなくても、目的組成の蛍光体を得ることができる。
【0072】
このように結晶核生成工程によって結晶核を生成させると、次工程で紫外光を照射したときに結晶核を起点に結晶が成長し易くなり、更には、結晶構造(結晶方向)を整え易くなって結晶性が向上する。
【0073】
(紫外光照射工程)−図1(c)−
目的結晶の結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21に紫外光22Lを照射し、目的結晶を含む薄膜蛍光体22を形成する。
目的結晶の結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21に紫外光22Lを照射すると、結晶核を起点に結晶が成長し、目的結晶を含む薄膜蛍光体22を得ることができる。更に、紫外光を照射すると結晶方向が整い、結晶性が向上する。
【0074】
適用する紫外光の波長は、紫外領域(波長100〜400nm)であれば、所謂UV−C、UV−B、UV−Aと呼ばれる短波長紫外光から長波長紫外光までを含む。紫外光の発生には、先に説明した各種の水銀ランプ、エキシマランプ、エキシマレーザ、固体レーザを使用することができる。
この中でも特にエキシマレーザを使用すると、単一波長の紫外光を照射することになり、さらに効率的に結晶を成長させ、また結晶性を向上させることができる。エキシマレーザとしては、上述のXeFの351nm、XeClの308nm、KrFの248nmなどの波長を使用することができる。
【0075】
ただし、使用する波長は、結晶核を含有する薄膜蛍光体原料膜21で吸収される波長を用いることが望ましく、該薄膜蛍光体原料膜21の光学吸収端付近よりも波長の短い紫外光が有効である。例えば、結晶核を含有する薄膜蛍光体原料膜21がSrGaの結晶核を含有する膜である場合、280〜310nm付近に光学吸収を示すので、これよりも短い波長の紫外光を照射することが、結晶核を生成させるのに好適である。
【0076】
紫外光照射工程における照射紫外光のエネルギー密度としては、上記結晶核成長工程で用いる照射紫外光のエネルギー密度よりも高いことが望ましく、そのようなエネルギー密度では、結晶核成長と結晶性の向上が効率よく行われる。具体的には、SrGaの蛍光体を作製する場合には、薄膜形成時の加熱温度が200℃のときには、20〜150mJのエネルギー密度であることが好ましく、20〜40mJのエネルギー密度であることがより好ましい。
【0077】
また、紫外光照射工程での紫外光の照射時間は、結晶核成長工程で紫外光を用いる場合の紫外光の照射時間に比べて短時間で行うことが可能である。
更に、上述のように、紫外光照射工程における照射紫外光のエネルギー密度は、結晶核成長工程での照射紫外光のエネルギー密度よりも高くすることが望ましいので、2つの工程で共通した紫外光源を用いる場合には、紫外光照射工程での紫外光を収束させる必要があり、その結果照射面積が小さくなる。
しかし、紫外光照射工程での紫外光照射時間は結晶核生成工程での紫外光照射時間よりも短時間とすることが可能であるため、基板を量産時の生産ラインで処理する場合において、スループットを落とすことなく実行することができる。
また、大型ガラス基板上の薄膜を処理するためには、照射する紫外光の形状を長軸と短軸を持つ細長い長方形の形状などに、各種の光学系で成形することが望ましい。
【0078】
紫外光を照射するときの外環境については特に制限がなく、作製目的の蛍光体の結晶の種類に応じて、例えば、硫黄元素を含む蛍光体を作製するときには硫化水素を含む雰囲気としたり、酸素原子を含む蛍光体を作製するときには酸素を含む雰囲気としてもよい。しかし、本発明の製造方法の場合には、蒸発しやすい成分の蒸発を防ぐことができるので、硫化水素を含む雰囲気下や、酸素を含む雰囲気下としなくても、目的組成の蛍光体を得ることができる。
【0079】
また、紫外光を照射する際に加熱を行うと、結晶成長を速めることができる。このときの加熱は、ヒーター、ハロゲンランプ、水銀ランプ、エキシマランプなどいずれの方法でもよく、前記結晶核成長工程において加熱したエネルギーを余熱として利用することも、スループットを向上させ、生産性を向上させることができる観点から好適である。
【0080】
紫外光の照射時の加熱温度は、薄膜中の結晶核を成長させるための加熱をアシストする位置づけであり、薄膜のみ部分的に加熱することが可能な紫外光の照射によって主に結晶核の作製を行うという観点から500℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下あることが更に好ましい。なお、紫外光照射工程における加熱温度とは、薄膜を形成した基板の温度をいう。
【0081】
紫外光照射工程では、薄膜の厚さ方向のすべてに渡って結晶化してもよいが、表面から必要に応じた深さまでを結晶化してもよい。具体的には、チオガレイト薄膜蛍光体膜の場合には、電子線の加速電圧が5kVまでの低電圧型FED用途の薄膜蛍光体の場合、表面から100〜500nm程度の厚みで結晶化し、電子線の加速電圧が10kV程度までの高電圧型FED用途の薄膜蛍光体の場合には、表面から1μm程度の厚みで結晶化することが好ましい。
得られた薄膜蛍光体を電界放射型ディスプレイに適用する場合、所定の陽極電圧が与えるので、例えばチオガレイト薄膜蛍光体膜にあっては、電子線の加速電圧が5kVまでの低電圧型FED用途の薄膜蛍光体の場合、表面から100〜500nmを超える厚さに電子が侵入することはなく、したがって結晶化させる膜厚も100〜500nm以下とすればよいためである。また、電子線の加速電圧が10kV程度までの高電圧型FED用途の薄膜蛍光体の場合には、1μm程度を超える厚さに電子が侵入することはないので、結晶化した部分の膜厚が1μm程度で作製すればよい。
【0082】
電界放射型ディスプレイの場合には、図3に示すように、ガラス基板2及び透明電極3の上に非晶質の薄膜20が設けられるため、非晶質の薄膜20を結晶化するためにレーザ光A1を照射した際に、ガラス基板2及び透明電極3に損傷を与える場合があり得る。
しかし、結晶化していない蛍光体層が所定厚さで残存するような薄膜の厚みで作製すれば、透明電極3及びガラス基板2へのレーザ光A1の直接照射を防止できると共に、レーザ光A1の照射に起因して、透明電極3及びガラス基板2が過度に昇温することを抑制することができる。
【0083】
(その他の工程)
本発明の薄膜蛍光体の製造方法では、上記工程のほかに必要に応じて工程を加えてもよい。
【0084】
本発明の製造方法では、結晶核生成工程を設けて、結晶核を生成させた後に紫外光を照射して結晶を成長させるので、結晶核生成工程を設けないで非晶質の薄膜(蛍光体原料膜)の結晶化を行う場合よりも短時間で結晶化することが可能であり、かつ高輝度な発光が可能な薄膜蛍光体を得ることができる。
【0085】
<薄膜蛍光体>
本発明の薄膜蛍光体は、上述の製造方法によって得られるので、蒸発しやすい成分の欠損を抑えることができ、目的組成の蛍光体となるので、より高輝度な蛍光体となる。
また、薄膜形成時に400℃を超えるような高温の状況下に晒されないため、加熱による蛍光体の劣化を抑えることができるので、蒸発しやすい成分を含まない蛍光体であってもより高輝度な薄膜蛍光体となる。
更に、薄膜形成時に最小限の最適なエネルギーで薄膜を形成し、その後結晶核生成工程を経ることで加熱・照射時間が短縮化されるので、製造工程全体を通して薄膜に与えられるエネルギーは低減されている。したがって、完全溶融・再凝固による薄膜表面の平坦性の劣化が抑えられ、高精細で高精度な形状加工に適した薄膜蛍光体となる。
【0086】
本発明の製造方法では、表面から紫外光が薄膜に吸収されて、結晶が成長し、更に結晶方向が整えられて結晶性が向上する。結晶核の生成も紫外光の照射によってなされる場合には、結晶核の生成についても薄膜の表面から吸収された紫外光によって行われる。そのため、薄膜の深さ方向に結晶核の個数(或いは体積)分布や結晶性の分布をもつ場合がある。その場合は、表面付近の方が結晶性は高い。ただし、薄膜の厚みや紫外光の波長と照射する時間を調整することで、深さ方向の分布を少なくすることができる。
【0087】
<無機蛍光体EL>
本発明の無機EL素子は、ガラス基板上に透明電極を備え、該透明電極上に下部絶縁層を備え、該下部絶縁相上に、上記本発明の薄膜蛍光体の製造方法によって得られた薄膜蛍光体を備え、該薄膜蛍光体上に上部絶縁層を備え、該上部絶縁層上に上部電極を備えてなる無機EL発光素子である。
図16に本発明の薄膜蛍光体を備える無機EL素子を示す。この素子は、ガラス基板2、下部透明電極301、下部絶縁層302、薄膜蛍光体22、上部絶縁層303、及び上部電極を有する。薄膜蛍光体22は、上部・下部電極に交流電圧をかけることで、無機ELの発行原理にしたがって発光し、下部および上部から発光を視認することができる。
【0088】
<電界放射型ディスプレイ>
本発明の電界放射型ディスプレイは、ガラス基板上に透明電極を備え、該透明電極上に、上記記載の本発明の薄膜蛍光体の製造方法によって得られた薄膜蛍光体を備えてなる電界放射型ディスプレイである。
【0089】
図3に本発明の薄膜蛍光体を備える電界放射型デイスプレイ(FED)の陽極を示す。この陽極は、透明電極3及びガラス基板2を有する陽極基板、並びにブラックマトリックス5によって区画された薄膜蛍光体22を有する。薄膜蛍光体22は、図示を省略した陰極の所定のものからの電子線20が薄膜蛍光体22の上方から照射されることにより、ブラックマトリックス5によって区画された所定の薄膜蛍光体22が電子線励起発光するので、これを透明電極3及びガラス基板2を透して視認することができる。7は帯電防止層である。
ガラス基板2としては、低融点大型ガラスや、無アルカリガラス、高歪点ガラスなど各種ガラスなどを使用でき、透明電極であるITO付きのガラス基板としてもよい。
【0090】
電界放射型ディスプレイ(FED)の陽極の作製方法を図4を参照しながら説明する。
図4(a)に示すように、まず、絶縁性及び光透過性を有するガラス基板2の上に透明電極3及びブラックマトリックス5を形成した中間基板19を準備する。ブラックマトリックス5は、黒色カーボンを材料としてレーザアブレーション法によって形成することができる。
【0091】
次に、図4(a)に示すように、ブラックマトリックス5を覆うマスク8を適当に配置し、更に図4(b)に示すように、非晶質の薄膜20を透明電極3上に、上述の薄膜形成方法によって形成する。
【0092】
この中間基板19上の非晶質の薄膜20を加熱して、或いは、紫外光を照射して結晶核を生成させ、結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21にする。
更に、結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21に紫外光を照射し、結晶を成長させ、さらには結晶方向を整えて結晶性を向上させて、目的結晶を含む薄膜蛍光体22とする。
なお本発明では、上述のように、結晶核生成工程から前記紫外光照射工程までを、一連の工程として行ってもよい。
【0093】
更に、必要に応じて、薄膜蛍光体22のチャージアップを防止するために、薄膜蛍光体22の表面に帯電防止層7を形成してもよい。但し、薄膜蛍光体22を薄膜化すれば、表面での帯電が抑制される薄膜蛍光体22となり得るので、帯電防止層7を省略することも可能である。また、電子線の加速電圧が数kV以下と低い場合には、帯電防止層7を省略することができる。
【0094】
ガラス基板2及び透明電極3は、透明電極付きガラス基板であってもよく、任意のものと適宜使用することができる。
また、図3及び図4では、ブラックマトリックス5を備えたFEDについて説明したが、FEDの構成に適宜合わせてブラックマトリックス5を備えなくてもよい。
【0095】
<製造装置>
本発明の薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置は、上述の薄膜蛍光体の製造方法に用いるのに適した装置である。
本発明の薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置は、少なくとも、紫外光発生手段と、紫外光を照射する第1の照射部と、紫外光を照射する第2の照射部と、を備え、第1の照射部によって、非晶質の薄膜に紫外光を照射して結晶核を生成させ、第2の照射部によって、前記結晶核を成長させて、上記本発明の薄膜蛍光体を製造することができる。
【0096】
本発明の薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置の一例を図5に示す。
図5(a)は、パルス・レーザからなるエキシマレーザを発生させるレーザ発振器(紫外光発生手段)を2台使用した場合の紫外光照射装置である。
パルス・レーザからなるエキシマレーザを発生させるレーザ発振器(紫外光発生手段)510aで生じさせたレーザ光Alaを光学系容器519a内に導き、アッテネータ511aによってエネルギーを自動設定すると共に、反射ミラー517aで方向転換させ、長軸ホモジナイザー群512La及び短軸ホモジナイザー群512Sbを通して光を整形してエネルギー分布を均一化させる。均一化した紫外光を長軸用結像レンズ群513La及び短軸用結像レンズ群513Saに通し、反射ミラー518aで方向転換して、このレーザ光514aを非晶質の薄膜20に照射する。照射によって非晶質の薄膜20は、結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21となる。
一方、他の光源であるレーザ発振器(紫外光発生手段)510bで生じさせたレーザ光Albを光学系容器519b内に導き、アッテネータ511bによってエネルギーを自動設定すると共に、反射ミラー517bで方向転換させ、長軸ホモジナイザー群512Lb及び短軸ホモジナイザー群512Sbを通して光を整形してエネルギー分布を均一化させる。均一化した紫外光を長軸用結像レンズ群513Lb及び短軸用結像レンズ群513Sbに通し、反射ミラー518bで方向転換して、このレーザ光514bを結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21に照射する。照射によって結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21は、目的結晶を含む薄膜蛍光体22となる。
なお、非晶質の薄膜20を有する中間基板19は、紫外光照射装置のチャンバー内に設置され、所定の位置まで搬送されて、紫外光が照射される。
【0097】
図5(b)は、パルス・レーザからなるエキシマレーザを発生させるレーザ発振器(紫外光発生手段)を1台使用し、ハーフミラーによって光を2系統に分岐させた場合の紫外光照射装置である。
図5(b)の紫外線照射装置において、図5(a)の紫外線照射装置との差異は、パルス・レーザからなるエキシマレーザを発生させるレーザ発振器(紫外光発生手段)520が1台であること、発生させたレーザ光A2をハーフミラー527aによって光学系容器529a内に導き、他方、反射ミラー527bによって光学系容器529b内に導いたことであり、アッテネータ521、長軸ホモジナイザー群522L、短軸ホモジナイザー群522S、長軸用結像レンズ群523L、短軸用結像レンズ群523S、反射ミラー528については、図5(a)の場合と同様の作用であるため、説明を省略する。
また、ハーフミラー527aにおける透過率は適宜調節することができる。
【0098】
図5(c)は、紫外光の発生に、パルス・レーザからなるエキシマレーザを発生させるレーザ発振器(紫外光発生手段)と、エキシマランプと、を用いる紫外光照射装置である。
図5(c)では、エキシマランプ530aで生じさせた紫外光を反射板532aで反射し、ある程度均一に整形し、例えば長軸×短軸が455×100mmの紫外光534aに整形され、この紫外光534aを非晶質の薄膜20に照射する。照射によって非晶質の薄膜20は、結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21となる。
一方、他の光源であるレーザ発振器(紫外光発生手段)530bで生じさせたレーザ光A3を光学系容器539b内に導き、アッテネータ531bによってエネルギーを自動設定すると共に、反射ミラー537bで方向転換させ、長軸ホモジナイザー群532Lb及び短軸ホモジナイザー群532Sbを通して光を整形してエネルギー分布を均一化させる。均一化した紫外光を長軸用結像レンズ群533Lb及び短軸用結像レンズ群533Sbに通し、反射ミラー538bで方向転換して、このレーザ光534bを、結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21に照射する。照射によって結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21は、目的結晶を含む薄膜蛍光体22となる。
【0099】
図5(d)は、紫外光の発生に、エキシマランプを2台用いる紫外光照射装置である。
エキシマランプ540aで生じさせた紫外光を反射板542aで反射・集光し、紫外光544aに整形して、このレーザ光544aを非晶質の薄膜20に照射する。このとき反射板542aによって、紫外光は均質化される。
更に、エキシマランプ540bで生じさせた紫外光を反射板542bで反射し、集光レンズ543bを通して紫外光を集光し、この集光した紫外光544b1を、結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21に照射する。照射によって結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21は、目的結晶を含む薄膜蛍光体22となる。なお、集光レンズ543bの使用は任意である。
【0100】
また、図5(e)に示すように、エキシマランプ540bを複数個用いて、発生した紫外光を複数の反射板542aで反射・集光させ、焦点を544b2に重ね合わせるようにして、紫外光を結晶核を含む薄膜蛍光体原料膜21に照射する態様も挙げられる。
【0101】
レーザ光A1の照射に際しては、非晶質の薄膜20を収容するチャンバー内を真空・希ガス等の処理材料に適した雰囲気に設定し、適当なエネルギー密度のレーザ光A1を所定回数で照射するように照射条件を選定することが、良好な結晶化を得る上で望まれる。チャンバー内の酸素及び水分を十分に除去すれば、蛍光体が酸化されることを防止できる。
【0102】
最適なエネルギー密度などの照射条件は、レーザ光A1のエネルギー密度などを変えて薄膜蛍光体22を形成した複数の陽極を作製し、それらをSEM(走査型電子顕微鏡)等で直接観察し、結晶性の良好なものを選択することによって決定することができる。
【実施例】
【0103】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0104】
[実施例1]
実施例1においては、ユーロピウム(Eu)をドーピングしたストロンチウムチオガレイト(SrGa:Eu)の薄膜蛍光体を作製した。
【0105】
<2電子ビーム蒸着法による薄膜の形成>
2つの電子ビームによって2つのターゲットを加熱、蒸発させて蒸着を行う2電子ビーム蒸着法(2EB法)によって、合成石英の基板上に非晶質の薄膜−1を形成した。基板の温度を200℃とし、ターゲットにはSr0.99Eu0.01SとGa2S3を使用してそれぞれの成膜レートをコントロールして、基板温度を200℃に調節して、膜厚比率1:1程度で蒸着した。
【0106】
このとき得られた薄膜−1のX線回折の分析結果を図6に示す。図6に示すように、得られた薄膜−1ではピークが現れていないことから、結晶が存在しない非晶質の薄膜であることが確認された。なお、図6における22°付近のブロードなピークは基板に用いたガラスのアモルファスピークであり、43°付近のピークは本発明には関係のない不純物か装置由来のピークであり、これらは発明と本質的には関係がないピークである。
【0107】
<結晶核の生成>
1vol%の硫化水素(HS)を含むアルゴン(Ar)雰囲気を100ml/minの流速で流しながら、薄膜−1に対して、+10℃/minの速度で600℃まで加熱し、30分間600℃で保持した後、−10℃/minの速度で室温まで冷却した。
【0108】
加熱後の薄膜−11についてのX線回折の分析結果を図6に示す。図6に示すように、SrGaに起因する回折ピークが出現し、薄膜中にSrGaの結晶核が生成していることがわかる。
【0109】
<紫外光の照射>
10vol%の硫化水素(HS)を含むアルゴン(Ar)雰囲気を1気圧程度で封入したチャンバーの中で、加熱後の上記薄膜−11を+10℃/minのスピードで500℃まで加熱し、500℃に保った状態でレーザを照射した。
レーザは波長248nmのKrFエキシマレーザを使用した。レーザ発振器で発生させた紫外光を、アッテネータに導き、アッテネータで所望のエネルギーに減衰した。さらに、各種の光学系に導き、本実施例ではフライアイレンズによってビームを均質化し、集光レンズによって集光した。こうして、焦点位置でエネルギーの半値幅約8mm角に成形した均質な紫外光を使用した。
この紫外光を、発振周波数100Hz、エネルギー密度30mJ/cmで、30000ショット照射し、薄膜−110を作製した。
【0110】
照射後の薄膜−110のX線回折の分析結果を図6に示す。図6に示すように、薄膜−11よりも結晶性が向上し、ピークは若干シャープになっている。
また図7は、薄膜−110にブラックライトの紫外線を当てて発光させたときの写真である。矢印で示した白い四角い部分が紫外光レーザを照射した部分であり、結晶が成長し、更に結晶方向が整えられて結晶性が向上したことによって、発光が強くなっていることが確認された。
【0111】
更に、薄膜−110を作製した方法と同様に、但し、紫外光の照射エネルギー密度を、20、30、40、50mJ/cmに変更して、薄膜−111,112,113,114を得た。これらについて、電子線励起スペクトル測定を行った。このときの電子線の加速電圧は3kVであり、電流密度は60μA/cmである。その結果を図8に示す。
図8に示すように、いずれの照射エネルギー密度の紫外光を用いても、輝度が高くなっていることから、薄膜−11に存在した結晶核が成長していることがわかる。特に、この実施例では、20〜40mJの照射エネルギー密度で照射した場合に、高い輝度が得られることが分かった。50mJの場合には、膜表面がアブレーションし、レーザを的確に照射し難く、照射後に得られた膜の表面は融解したような状態であることが分かった。融解してしまうと結晶状態が劣化する可能性がある。
【0112】
さらに、得られた薄膜−111,112,113,114に、真空中で、加速電圧を1〜5kVまで変更し、電流密度が60μA/cmの条件で電子ビームを照射して発光させた。その結果を図9に示す。
電子線の加速電圧を1〜5kVの範囲で変化させると、CL輝度が加速電圧に比例して高くなることが分かった。また、20〜40mJの照射エネルギー密度で照射した場合に、高い輝度が得られることが分かった。
なお、薄膜−111,112,113については、加速電圧5kV、電流密度60μA/cmの条件では、3000cd/mの輝度を得られた。
【0113】
このように本実施例では、5分程度の紫外光の照射によって結晶化が進んでいることが明らかとなり、短時間で結晶化できる方法であることが判明した。
【0114】
[実施例2]
本実施例においては、作製目的の結晶としてユーロピウムをドーピングしたストロンチウムチオガレイト(SrGa:Eu)を、成膜方法にRFマグネトロンスパッタ法を用いて行った例を説明する。
本実施例においては、合成石英の基板を使用した。成膜はRFマグネトロンスパッタ法によって行い、スパッタのターゲットとしてSr0.98Eu0.02Gaターゲットを使用した。
スパッタの条件として、例えば、雰囲気を7×10−2Torrとし、投入電力を200Wとして、基板の温度を150℃まで上昇させて成膜を行った。そうして、約1μmの薄膜−121を得た。
【0115】
図10に得られた薄膜−121をX線回折(XRD)によって結晶性を評価した結果を示す。成膜直後の薄膜では回折ピークを示さないことから、得られた薄膜は非晶質の薄膜であることが分かった。また、22℃付近のブロードなピークは基板に用いたガラスのアモルファスピークであるが、これは発明と本質的には関係がないピークである。
【0116】
その後、結晶核作製工程と紫外線照射工程を連続して実施した。本実施例では、10vol%の硫化水素(HS)を含むアルゴン(Ar)雰囲気を1気圧程度で封入したチャンバーの中で、SrGa結晶を有さない非晶質の薄膜−121を5分で600℃まで急加熱し、30分間600℃で保持した。
その後、続けて500℃まで冷却し、500℃に保った状態でレーザを照射し、室温まで急冷却した。レーザは先の実施例1と同様に波長248nmのKrFエキシマレーザを使用し、焦点位置でエネルギーの半値幅約8mm角に成形した均質な紫外光を使用した。この紫外光を、発振周波数100Hz、エネルギー密度20〜40mJ/cmで、30000ショット照射した。
図10に結晶核作製工程のみで、紫外線照射工程を行っていない薄膜−122をXRDによって結晶性を評価した結果を示す。結晶核作製工程を行うことによって、薄膜中にSrGaの結晶核が作製され、SrGaに起因する小さな回折ピークが出現したことから、SrGaの結晶核を含む薄膜が作製されることが確認できた。
【0117】
図10に連続して紫外線照射工程を行った後の薄膜をXRDによって結晶性を評価した結果を示す。エネルギー密度20、30、40mJ/cmでレーザを照射した薄膜を、それぞれ薄膜−123,124,125とする。紫外線照射工程を行った薄膜では結晶性が向上し、ピーク強度も大きく、そしてシャープになっていることを確認した。
【0118】
図11は、結晶核作製工程と紫外線照射工程を連続して行った後の薄膜に、波長254nmのUVランプの紫外線を当てて発光させた様子である。
10mm角の石英基板上に成膜した薄膜の四角く変色している部分が、紫外光照射工程を行った部分である。写真から、プレアニール工程によって作製された結晶各部分が小さな発光を放っていることが確認でき、その後結晶性の向上工程を実施した薄膜では、照射するレーザのエネルギー密度が大きくなるにつれて、作製された結晶核がが成長して結晶化されている部分が広がっていくことが分かる。結晶化された部分は、この紫外線照射工程によって結晶性が向上し、XRDの結果からも分かるように、30、40mJ/cmでは高い結晶性を有していることが分かる。
【0119】
さらに、結晶核作製工程と紫外線照射工程を連続して行った後の薄膜に、実施例1と同様に真空中で電子ビームを照射して発光を評価し、良好な発光スペクトルと輝度を得た。したがって、本発明によるプレアニール工程と結晶性の向上工程を連続して行うことで、薄膜蛍光体の結晶化の効果が高いことが分かった。また、処理にかかる時間を短縮できることが分かった。
【0120】
[比較例1]
実施例1における2電子ビーム蒸着法による薄膜の形成において、基板温度を200℃としたところを、450℃に変更した以外は同様の方法で、薄膜−211を作製した。このとき得られた薄膜−211のX線回折の分析結果を図12に示す。図12に示すように、得られた薄膜−211ではGaSのピークが存在することから、結晶が存在する薄膜であることが確認された。
【0121】
得られた薄膜−211に対して、実施例1と同様の方法で、600℃で加熱を行った。加熱後の薄膜−212についてのX線回折の分析結果を図12に示す。図12示すように、GaSの結晶ピークがなくなり、SrGaのピークが確認できることから、SrGaの結晶が作製されていることが確認された。
【0122】
加熱後の薄膜−212に対して、実施例1と同様の方法で20〜50mJ/cmのエネルギー密度でレーザ光を照射し、薄膜−213,214,215,216を作製した。照射後の薄膜−216のX線回折の分析結果を図12に示す。図12に示すように、薄膜212で作製されたSrGa結晶からのピークが低くなっている。このようなエネルギー密度では薄膜の溶融が生じており、こうした条件では結晶性を損なうものと考えられる。
【0123】
また、薄膜−213,214,215,216について、実施例1と同様の方法で電子線励起発光輝度の測定を行った。その結果を図13に示す。
図13に示すように、実施例1の場合に比べてすべての薄膜で輝度が低かった。最高輝度を示すものでも、5kVの加速電圧で励起した場合、約1300cd/mの発光輝度しかえられなかった。これは、電子ビーム蒸着法による薄膜の形成時に硫黄が蒸発して、目的のSrGaの成分比率Sr:Ga:S=1:2:4から外れているために目的とするSrGa結晶が作製されにくく、輝度が低くなっているものと思われる。また、高い基板温度によってGaS結晶を含む薄膜では、紫外線照射工程での結晶化が進行しにくいことが考えられる。
【0124】
[比較例2]
実施例1における2電子ビーム蒸着法による薄膜の形成によって、薄膜−3を得た。この薄膜−3に対して、800℃で30分間加熱したところ、発光を示す蛍光体が得られた。このように、結晶核を生成せずに結晶を成長させる場合には、30分の時間を要した。
【0125】
[比較例3]
実施例2におけるRFマグネトロンスパッタ法による薄膜の形成によって、薄膜−221を得た。この薄膜−221に対して、紫外線照射工程のみを実施例2と同様の手順で実施した。紫外光にKrFエキシマレーザを用い、エネルギー密度40および60mJ/cmで、発振周波数100Hzで30分間まで照射し、照射エネルギー密度40mJ/cmのものでは、薄膜−222(10分)、223(20分)、224(30分)および、照射エネルギー密度60mJ/cmのものでは、薄膜−225(5分)、226(10分)、227(20分)を作製したところ、発光を示す蛍光体が得られた。
【0126】
また、薄膜−222から227までの全ての薄膜について、実施例1と同様の方法で電子線励起発光輝度の測定を行った。その結果を照射エネルギー密度40mJ/cmのものに関しては図14に、照射エネルギー密度60mJ/cmのものに関しては図15にそれぞれ示す。図14、図15に示すように、実施例1の場合に比べてどちらの薄膜も輝度が低かった。最高輝度を示すものでも、5kVの加速電圧で励起した場合、薄膜−224では約1000cd/m、薄膜−227では約1500cd/mの発光輝度しか得られなかった。さらに、照射時間を長くしたいと、高輝度な薄膜蛍光体が得られなかった。これは、結晶核を作製していない薄膜−221の状態では、結晶成長が進みにくく、高輝度化することが難しいことを示していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の薄膜蛍光体の製造方法を説明する図であり、(a)は薄膜形成工程、(b)は結晶核生成工程、(c)は紫外光照射工程を説明する図である。
【図2】薄膜を形成する装置の一例としてMSD装置の概略を示す図である。
【図3】本発明の電界放射型ディスプレイの陽極の一例を示す図である。
【図4】電界放射型ディスプレイ(FED)の陽極の作製方法を説明する図である。
【図5a】本発明の薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置の一例を示す図である。
【図5b】本発明の薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置の一例を示す図である。
【図5c】本発明の薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置の一例を示す図である。
【図5d】本発明の薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置の一例を示す図である。
【図5e】本発明の薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置の一例を示す図である。
【図6】実施例1で得られた薄膜のX線回折の分析結果を示すグラフである。
【図7】実施例1で得られた薄膜−110にブラックライトの紫外線を当てて発光させたときの写真である。
【図8】実施例1で得られた薄膜の電子線励起スペクトルの結果を示すグラフである。
【図9】実施例1で得られた薄膜の発光強度を示すグラフである。
【図10】実施例2で得られた薄膜のX線回折の分析結果を示すグラフである。
【図11】実施例2で得られた薄膜−124及び125にブラックライトの紫外線を当てて発光させたときの写真である。
【図12】比較例1で得られた薄膜のX線回折の分析結果を示すグラフである。
【図13】比較例1で得られた薄膜の電子線励起スペクトルの結果を示すグラフである。
【図14】比較例3で得られた薄膜の電子線励起スペクトルの結果を示すグラフである。
【図15】比較例3で得られた薄膜の電子線励起スペクトルの結果を示すグラフである。
【図16】本発明の無機ELの構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0128】
2 基板
3 透明電極
5 ブラックマトリックス
7 帯電防止層
8 マスク
19 中間基板
20 非晶質の薄膜
21 薄膜蛍光体原料膜
22 薄膜蛍光体
510a、510b、520 レーザ発振器
511a、511b、521a、521b アッテネータ
512La、512Lb、522La、522Lb 長軸用ホモジナイザー群
512Sa、512Sb、522Sa、522Sb 短軸用ホモジナイザー群
513La、513Lb、523La、523Lb 長軸用結像レンズ群
513Sa、513Sb、523Sa、523Sb 短軸用結像レンズ群
514a、514b、524a、524b レーザ光
517a、517b、527b 反射ミラー
518a、518b、528a、528b 反射ミラー
519a、519b、529a、529b 光学系容器
527a ハーフミラー
530a、540a、540b ランプ
532a、542a、542b ランプ用反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板温度400℃以下で、基板上に非晶質の薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜を加熱して、及び/又は、紫外光を照射して、結晶核を生成させる結晶核生成工程と、
前記結晶核を生成させた薄膜に紫外光を照射して結晶を成長させる紫外光照射工程と、
を有する薄膜蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記結晶核生成工程では、100℃以上600℃以下の基板加熱によって結晶核を生成させることを特徴とする請求項1に記載の薄膜蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記結晶核生成工程で照射する紫外光のエネルギー密度は、前記紫外光照射工程で照射する紫外光のエネルギー密度よりも低いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄膜蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記紫外光照射工程では、前記薄膜を500℃以下で基板加熱しながら紫外光を照射することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の薄膜蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記紫外光照射工程における紫外光が、エキシマレーザであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記結晶核生成工程から前記紫外光照射工程までを、一連の工程として行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法。
【請求項7】
硫黄原子を含む蛍光体、酸素原子を含む蛍光体、窒素原子を含む蛍光体、又はセレン原子を含む蛍光体の薄膜を製造することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法によって得られた薄膜蛍光体。
【請求項9】
ガラス基板上に透明電極を備え、該透明電極上に下部絶縁層を備え、該下部絶縁層上に、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法によって得られた薄膜蛍光体を備え、該薄膜蛍光体上に上部絶縁層を備え、該上部絶縁層上に上部電極を備えてなる無機EL発光素子。
【請求項10】
ガラス基板上に透明電極を備え、該透明電極上に、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の薄膜蛍光体の製造方法によって得られた薄膜蛍光体を備えてなる電界放射型ディスプレイ。
【請求項11】
紫外光発生手段と、紫外光を照射する第1の照射部と、紫外光を照射する第2の照射部と、を備え、
第1の照射部によって、非晶質の薄膜に紫外光を照射して結晶核を生成させ、
第2の照射部によって、前記結晶核を成長させて、
請求項8に記載の薄膜蛍光体を製造する、薄膜蛍光体製造用の紫外光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−1873(P2008−1873A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199993(P2006−199993)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】