説明

薬剤をオロチン酸誘導体として投与することで薬剤の組織内濃度を下げる組成物及びその方法

本発明は、副作用として毒性や薬物有害反応を引き起こすとして知られている医薬品を、該医薬品のオロチン酸誘導体を生成することによって化学的に再構築する分野に関する。具体的には、アントラサイクリン、ドキソルビシン及びダウノルビシンのオロチン酸誘導体に関し、これら誘導体は、非癌組織中の医薬品濃度を下げることができる。これらのオロチン酸誘導体は、動物におけるSCCAKI−Iの腎腫瘍の抑制と心臓組織内のドキソルビシン濃度の減少について塩酸ドキソルビシンと比べて同等の有効性を有し、アントラサイクリンが生成したフリーラジカルによって誘導される毒性の減少を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品のオロチン酸誘導体に関し、特に、抗癌剤を該抗癌剤のオロチン酸誘導体に変換することにより、薬物毒性の影響を受けやすい非癌組織において薬剤の組織内濃度を下げることに関する。
本発明は、非癌組織において、副作用として毒性や薬物有害反応を引き起こすとして知られている医薬品を、該医薬品のオロチン酸誘導体を生成することによって化学的に再構築する分野に関する。具体的には、抗癌剤として使用されるアントラサイクリン、ドキソルビシン及びダウノルビシンの誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質ドキソルビシン(DOX)及びその誘導体、その他陽イオン性アントラサイクリンは、現在、白血病や固形癌を含む癌治療において臨床的に大きな関心が示されている。
【0003】
生物活性剤の輸送システムとしてリポソームを使用することには、非常に大きな期待が集まっている。抗腫瘍薬の投与にリポソームを使用することにより、従来の投与方法を改善できることが多くの事例で立証されている(非特許文献1及び非特許文献2)。様々な特許文献において、抗フリーラジカル剤をリポソーム内に含むと、脂質過酸化反応の抑制剤としての作用が向上することが示されている(特許文献1)。リポソームのカプセル化は、カプセル化されていない薬剤に比べて、実質的に薬剤の機能特性に影響を及ぼす可能性がある。さらに異なるリポソーム製剤は、リポソームの化学組成や物理的形状において互いに異なる。このような相違点は、リポソーム製剤の機能特性に実質的に影響する。塩酸ドキソルビシンは、(85,105)-10-[(3-アミノ-2,3,6-トリデオキシ-α-L-リキソ-ヘキソピラノシル)オキシル-8-グリコリル-7,8,9,10-テトラヒドロ-6,8,11-トリヒドロキシ-1-メトキシ-5, 12-ナフサアセンジオン塩酸塩を称したものである。この薬物の分子式は、C2729NO11HCLであり、分子量は579.99である。
【0004】
DOXIL(登録商標)(塩酸ドキソルビシン導入)は、STEALTH(登録商標)リポソームに被包された塩酸(HCL)ドキソルビシンであり、静脈投与に使用される。DOXIL(登録商標)のSTEALTH(登録商標)リポソームは、表面にメトキシポリエチレングリコールが結合しており(いわゆるペギレーションと称する作用)、リポソームが単核食細胞系によって検出されることを防ぐとともに血液循環時間を高める。
【0005】
STEALTH(登録商標)リポソームは、ヒト内で約55時間の半減期を有する。これらリポソームは血液中で安定である。リポソームのドキソルビシンを直接的に測定すると、薬剤の少なくとも90%が、循環中にリポソーム被包性を維持している。
【0006】
DOXIL(登録商標)を高い蓄積量で用いる実験は制限されている。これにより、DOXIL(登録商標)は、塩酸ドキソルビシンの従来の製剤に類似した心筋毒性を有すると想定できる。うっ血性心不全を引き起こす不可逆性の心筋毒性は、大抵心臓の支持療法に反応せず、塩酸ドキソルビシンの総投与量が550mg/mに達することがある。DOXIL(登録商標)を使用して治療した患者の10%において、腫れ、頭痛、冷え、背部痛、胸や喉の圧迫感、及び/又は低血圧が生じた。大抵の患者は、注入が終了した時点、数時間から1日にわたってこれら反応が消散した。一部の患者は、注入速度を遅くすることでこれら反応が消散した。そして、重大な、時には生命に関わる又は致命的なアレルギー反応が生じることも報告されている。
【0007】
ドキソルビシンは、長期間の日程で投与可能である。そして、ドキソルビシンの抗腫瘍活性は、最大薬物濃度ではなく、濃度X回の曲線下面積(AUC)に比例する。高濃度の塩酸ドキソルビシンのAUCは、9.9mg/ml-hである。DOXIL(登録商標)のAUC(mg/ml-h)は590である。
【0008】
(心毒性)
ドキソルビシン及びその他のアントラサイクリンによって示される心毒性は、病理学及び機構の点で固有である。成人に対してアントラサイクリンの臨床用途が制限されている主な理由は、骨髄抑制、粘膜炎、及び腫瘍部の薬剤耐性である。しかしながら、個々の患者においては、ドキソルビシンは乳癌の治療に最も使用されており、患者の腫瘍が薬剤に反応しているにもかかわらず心毒性になる可能性がある。これは、アントラサイクリンを単独又は他の化学療法剤と併用して使用する際のみの問題ではなく、モノクローナル抗体であるトラスツズマブ及びHER2/非癌タンパクに対する抗体を使用する際にも問題となる。このHER2/非癌タンパクとは、それ自身が進行性乳癌の治療において活性を有するものである。トラスツズマブによって生じるアントラサイクリン誘導型心臓発作の観測された潜在性は、HER/新発現を高濃度に示す癌を有する患者集団においてドキソルビシンを用いると、その効能を消失させる。子供は本薬剤の心毒性に対する感受性がより高く、これにより、小児腫瘍学においてドキソルビシンを使用することは重大な問題となる(非特許文献3)。
【0009】
したがって、より良い応答率、広い応答スペクトラム及び/又は心臓毒性軽減を備える類似物質への需要は大きい。ハロゲン化アントラサイクリンは、ドキソルビシンとは機構的に異なり、ダウノルビシンが生成される。特に、糖成分に結合するフッ素基を有する誘導体は、腫瘍細胞を殺傷する高い能力を有する。過去、そして従来のドキソルビシンの多くが、特許文献2、3、4、5及び6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,605,703号(1997年2月25日発行)
【特許文献2】米国特許第5,304,687号(1994年4月19日発行)
【特許文献3】米国特許第5,605,703号(1997年2月25日発行)
【特許文献4】米国特許第6,210,930号(2001年4月3日発行)
【特許文献5】米国特許第6,284,737号(2001年9月4日発行)
【特許文献6】米国特許第6,653,455号(2003年11月25日発行)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Gabizon et al, Cancer Res. (1982) 42; 4239-4739
【非特許文献2】Van Hossel et al, Cancer Res (1984) 44; 3698-3705
【非特許文献3】Management of Drug Toxicity, Ch 31-42 in the Chemotherapy Source Book 3rd ed, Michael C. Perry, Lippincott Williams&Wilkins, 2001
【非特許文献4】Rahman et al, Cancer Res (1980) 40; 1532-1537, Gabizon et al, J. Natt Cancer Inst (1986) 77; 459-467
【非特許文献5】Forssen et al, Cancer Treat Rep (1983)67; 481-484
【非特許文献6】The Physician desk Reference 56th ed, pages 101-133(又は更新版)
【非特許文献7】Biochemistry, ed, Lubert Stryer, ed, W.H. Freeman & Co NY, 4th ed, 739-762 (1995)
【非特許文献8】El Hag IA et al, In vivo 1: 309-312 (1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本発明は従来技術とは区別可能である。この理由は、いずれの従来技術も、毒性や医薬品副作用を軽減させるために、非癌組織における薬剤の濃度を抑制する及び/又は下げることは示していないからである。より効果的で毒性の低い薬剤は広く求められており、これが本発明の基本的な目的である。上記文献の関連内容は、参照することにより本発明に組み込むこととする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、医薬品のオロチン酸誘導体組成物を提供することにより、従来技術の欠点を克服する。この組成物は、医薬品の非誘導形態と比較して、薬物毒性の標的である非癌組織からの医薬品のクリアランスを増加させる。
【0014】
本発明は、医薬品のオロチン酸誘導体を生成することにより、副作用として組織毒性を引き起こすとして知られている医薬品を化学的に再構築する分野に関する。具体的には、抗癌剤として使用されるアントラサイクリン、ドキソルビシン及びダウノルビシンのオロチン酸誘導体に関する。
【0015】
前述した従来技術を考慮し、本発明者は、オロチン酸ドキソルビシンやオロチン酸ダウノルビシンとして例示されるアントラサイクリンのオロチン酸誘導体を考案した。この誘導体は、アントラサイクリンの心臓組織濃度を減少させる有機化学成分(図1の一般構造式A)を含む。
【0016】
本発明の主な目的は、ドキソルビシン又はダウノルビシンの組成物、この組成物のオロチン酸誘導体及び類似化合物を得て、これにより心臓に蓄積される薬剤の組織濃度に関連する薬剤の毒性を軽減することである。
【0017】
本発明はまた、具体的には、塩酸ドキソルビシン、オロチン酸及び水酸化カリウムからオロチン酸ドキソルビシン及び関連誘導体を調製する方法を提供する。本方法は、a)水酸化カリウムをオロチン酸と反応させ、オロチン酸カリウムを抽出し、抽出されたオロチン酸カリウムを塩酸ドキソルビシンと反応させることにより、オロチン酸ドキソルビシンを形成する工程を備える。
【0018】
本発明のその他の目的は、ヒト腫瘍、具体的には原発性腫瘍又は転移性腫瘍、増殖性造血疾患や白血病を、オロチン酸ドキソルビシンを用いて治療する方法を提供すること、また、薬剤毒性の影響を受けやすい標的である非癌組織における薬剤の濃度を、塩酸ドキソルビシンを投与した時と比べて、10%〜100%下げることにより、薬剤の毒性二次的影響を軽減する方法を提供することである。
【0019】
本発明は、非癌組織における医薬品の濃度を下げる方法を提供する。本方法は、a)医薬品をオロチン酸誘導体組成物に変換し、オロチン酸誘導体をオロチン酸誘導体が必要な患者に投与し、非癌組織における医薬品の濃度を測定する工程を備える。この医薬品は、アセトアニリド、アクチノマイシンD、アドリアマイシン、アミノアクリジン、アミノイミダゾール、アミノキノリン、アニリド、アントラサイクリン抗生物質、抗エストロゲン、ベンザゼピン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、セファロスポリン、シスプラチン、コルヒチン、環状ペプチド、シクロホスファミド、ダウノルビシン、ジベンザゼピン、ジギタリス配糖体、ジヒドロピリジン、ドキソルビシン、エピフォドフィロトキシン、エピルビシン、エルゴリン、麦角アルカロイド、エトポシド、5‐フルオロウラシル、イダルビシン、イフォスアミド、イミダゾール、インターロイキン‐2、インターフェロン・アルファ・イソキノリン、マクロライド、メルファラン、メトトレキサート、マイトマイシン‐C、ミトキサントロン、ナフタレン、ナイトロジェン・マスタード、オピオイド、オキサジン、オキサゾール、パクリタクセル、フェノチアジン、フェニルアルカミン、フェニルピペリジン、ピペラジン、ピペリジン、多環芳香族炭化水素、ピリジン、ピリジン、ピリミジン、ピロリジン、ピロリジノン、キナゾリン、キノリン、キニーネ、ラウオルファ・アルカロイド、レチノイド、サリチル酸塩、ステロイド、スチルベン、スルホン、スルホニル尿素、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、THP‐アドリアマイシン、トラスツズマブ、トリアゾール、トロパン、ビンブラスチン、ビンクリスチン又はビンカアルカロイドからなる群から選択される。
【0020】
本発明のある実施形態では、アントラサイクリンのオロチン酸誘導体は、下式(化1)により表される一般構造式を有する。
【0021】
【化1】

【0022】
式中、R1は、水素(--H)基、水酸(--OH)基、メトキシ(--OCH3)基、6−20個の炭素原子を有するアリール基、一般構造式--O--CO(CH2nCH3を有するとともにnが1から約20の整数である脂肪酸アシル基、又は一般構造式--O--CO(CH2)1(CH=CH)m(CH2)nCH3を有するとともにnが1から3の整数、mが1から約6の整数、nが1から約9の整数である脂肪酸アシル基である。
とR夫々は、互いに独立し、水素(--H)基、水酸(--OH)基、メトキシ(--OCH3)基又は二重結合酸素部分である。
は、水素(--H)基、水酸(--OH)基、メトキシ(--OCH3)基又はハロゲン化物である。
とY夫々は、互いに独立し、水素(--H)基、水酸(--OH)基、メトキシ(--OCH3)基、又は、二重結合酸素基、二重結合硫黄基もしくは二重結合窒素基である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ダウノルビシン及びドキソルビシン、並びにダウノルビシン及びドキソルビシンのオロチン酸誘導体の構造式を示す。
【図2】オロチン酸ドキソルビシンの合成を示す。
【図3】オロチン酸ドキソルビシンを示す質量分析である。
【図4】オロチン酸ドキソルビシンを示すNMR(核磁気共鳴分析)である。
【図5】塩酸ドキソルビシンを用いて治療を行う際のSC CAKI-1腎腫瘍の応答性を示す。
【図6】オロチン酸ドキソルビシンを用いて治療を行う際のSC CAKI-1腎腫瘍の応答性を示す。
【図7】塩酸ドキソルビシン又はオロチン酸ドキソルビシンを用いて治療を行う際のSC CAKI-1腎腫瘍の応答性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
癌患者の治療に用いられる薬物治療は、多数の臓器や臓器系を損傷することがある。これらの中で最も頻繁に損傷を受けるのは、急速な細胞回転を有する組織であり、例えば、造血系、消化管及び尿生殖器管が挙げられる。心臓は、急速な細胞回転を有さない組織で構成されるために急速な回復が不可能であり、化学療法の影響を受けることがある。このような治療が心臓に影響すると身体に障害を引き起こす又は生命を脅かす可能性があることから、心毒性を回避するために治療法を大きく改良することが必要となる。ある事例では、心臓への化学療法薬剤の影響は、自己制限的なものであり、原因薬物の使用を中止することによって容易に改善可能である。しかしながら、他の事例では、損傷は、壊滅的、進行性、不可逆的であり最終的には致命的である場合がある。心臓毒性の形態によっては、予測が困難である場合があり、警告無く、時には1回目の使用中に患者に作用する場合がある。その他の状況では、毒性は明確且つ容易に予測可能である。それにもかかわらず、組織損傷が同水準となるのに必要な暴露量の点では、相当なばらつきが見られる。
【0025】
一部の薬剤は薬剤自身が毒性を有しているが、この毒性は薬剤がその他の薬剤と併用して使用された場合に増強される。この組み合わせは、各成分の毒性の合計よりも強い毒性となる可能性がある。末端器官の毒性を許容可能な濃度に維持する一方、薬剤の抗腫瘍潜在性を最大限に得ることが必要であるため、毒性を有する薬剤で治療を受けた患者の評価は、個人別に行われる必要がある。
【0026】
大抵の心毒性薬剤は、心臓への効果によって分類可能である。例えば、(1)心筋抑制に関連する薬剤(例えば、アントラサイクリン‐ドキソルビシン、THP‐アドリアマイシン、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン;他のアントラキノン‐ミトキサントロン、シクロホスファミド等の毒性強化剤、マイトマイシン‐C、エトポシド、メルファラン、ビンクリスチン又はブレオマイシン、及びその他の剤、例えばインターフェロン・アルファ及びトラスツズマブ)、(2)虚血に関連する抗癌剤(例えば、5‐フルオロウラシル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、シスプラチン、又はインターロイキン)、(3)低血圧に関連する抗癌剤(例えば、インターロイキン‐2)、そして(4)心毒性に関連する混合型剤(例えば、パクリタクセル、アクチノマイシンD、マイトマイシンC又はイフォスアミド)である。
【0027】
ドキソルビシンは、アントラサイクリン群の中で最も一般的に用いられており、広く研究が進められている。そして、ドキソルビシンは、心毒性及び筋疾患に関連する薬剤のモデルとしての役目を果たしている。この有効性は、蓄積量に関連する心臓毒性によって部分的に制限されている。この心臓毒性は、一般的に治療単位中の後半に生じるが、治療完了後、数ヶ月後又は数年後に現れることもある。このことは、治療が完了した後も組織内に薬剤が残留することを強く示唆している。したがって、治療終了時だけではなく、その後短期間及び長期間にわたって、非癌性細胞又は非疾患性細胞に薬剤が蓄積することを軽減する及び/又は防ぐことが非常に必要とされている。
【0028】
特に、毒性の発現は、徐々に進行し、潜在的に不可逆であり、生命を脅かすものである。ドキソルビシン(心筋症関連)の発病機構は、完全には解明されていない。そして、ドキソルビシン及び関連薬剤を投与される患者における心臓毒性の正確な機構や、心機能異常を引き起こす一連の事象については、未だ研究中である。しかしながら、心臓組織においてドキソルビシン及び関連薬剤が蓄積することにより、心機能異常や損傷が進行することは、疑いようがない事である。したがって、本発明の目的は、心臓等の標的器官において薬剤及びその代謝産物が蓄積することを軽減する及び/又は防ぐことである。ドキソルビシンは、膜脂質に直接的に損傷を引き起こし、また、酸素フリーラジカルを介して間接的に損傷を引き起こす。この酸素フリーラジカルとは、カルシウム輸送に影響し、最終的には心機能を低下させるものである。したがって、心臓組織におけるドキソルビシンの蓄積を軽減又は完全に防止することは極めて重要であり、これにより、薬剤の副作用を、潜在的に短期間及び長期間にわたって軽減することが可能となる。
【0029】
ドキソルビシン心筋症は、化学療法において最大耐量又はその付近量を投与し、その治療単位を成功して完了した後、数ヶ月や数年後であっても現れる可能性がある。ドキソルビシンを投与された患者の多数は治癒しており化学療法の後長期間にわたって生存するため、無症状の心臓障害を顕著に有する患者は更なるストレスを経験し、耐性が低くなる可能性がある。この結果、最初の発作から数ヶ月又は数年後に、症候性心機能異常が発生することになる。本発明の目的は、化学療法剤が投与された時に、心臓組織からの薬剤の蓄積を防ぐ及び/又は薬剤の速度を速めることにより、心臓内の薬剤濃度を下げ、薬剤が引き起こす最初の心臓発作の規模や発生を抑えることである。
【0030】
動物モデルにおいて、リポソームにおけるドキソルビシンのカプセル化が、慢性及び急性どちらにおいても毒性の二次的影響を著しく下げることが確認されている(非特許文献4)。その他の毒性指標、例えば、脱毛症、体重減少、吐き気、嘔吐及び浸出による真皮壊死は、リポソーム内のドキソルビシンにより著しく軽減する可能性がある(非特許文献5)。重大なことに、様々な腫瘍モデルにおいて、この毒性の顕著な軽減は、抗腫瘍効果の軽減によって生成されるものではないことが立証されている。
【0031】
ドキソルビシンを用いた治療で観察される心筋症は、アルファ−・トコフェロール欠乏条件下で実験動物の心筋に見られる損傷に類似している。これらの結果は、薬剤によって生じた損傷が、細胞膜脂質が関連していると考えられるフリーラジカル反応の増加により引き起こされることを示唆している。したがって、ドキソルビシン(以下、DOXと称する)をリポソームの脂質二重層内に取り込むことは、フリーラジカル系反応の発散を促進させる可能性がある。そして、非癌組織にあるDOX内のフリーラジカル濃度を生化学的方法によって測定することにより、DOXのオロチン酸誘導体が、このフリーラジカル濃度を下げることが示されている。
【0032】
本発明の目的は、化学療法剤が投与された時に、心臓組織からの薬剤の蓄積を防ぐ及び/又は薬剤の速度を速めることにより心臓内の薬剤濃度を下げ、薬剤が引き起こす最初の心臓発作の規模や発生を抑え、これにより、フリーラジカルの遊離を減少させることである。
【0033】
(オロチン酸誘導体として用いられる薬剤の特性)
本明細書で用いられる「薬剤」の用語は、疾病の治療又は予防に使用することを目的とした化学薬品と定義する。薬剤には、生物に影響を与える合成又は天然の物質や、認可されている調合剤を含む。例えば、調合剤としては、非特許文献6に記載されているもの等が挙げられる。これらの文献は、参照することにより本発明に組み込むこととする。「薬剤」の用語の定義は、未だ発見されていない又は利用不可能な好適な特性を有する化合物も含む。本発明は、荷電、非荷電、親水性、相性イオン又は疎水性の成分からなる薬剤に使用可能であるとともに、これらいずれの物性の組合せも利用可能である。疎水性薬剤とは、非イオン化形態において、水よりも脂質又は油脂に溶解する薬剤と定義する。より好適な疎水性薬剤類としては、水よりもオクタノール中でより溶解する薬剤が挙げられる。
【0034】
化合物又は数多くの類の化合物に属する薬剤はオロチン酸誘導体に変換され、オロチン酸誘導体として経口投与可能である。この化合物又は薬剤には、例えば、アセトアニリド、アクチノマイシン・Dアドリアマイシン、アミノアクリジン、アミノイミダゾール、アミノキノリン、アニリド、アントラサイクリン抗生剤、アンチエストロゲン、ベンザゼピン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、セファロスポリン、シスプラチン、コルヒチン、環状ペプチド、シクロホスファミド、ダウノルビシン、ジベンザゼピン、ジギタリス配糖体、ジヒドロピリジン、ドキソルビシン、エピジポドフィルロトキシン、エピルビシン、エルゴリン、麦角アルカロイド、エトポシド、5−フルオロウラシル、イダルビシン、イフォスアミド、イミダゾール、インターロイキン−2、インターフェロン・アルファ・イソキノリン、マクロライド、メルファラン、メトトレキサート、マイトマイシン‐C、ミトキサントロン、ナフタレン、ナイトロジェン・マスタード、オピオイド、オキサジン、オキサゾール、パクリタクセル、フェノチアジン、フェニルアルカミン、フェニルピペリジン、ピペラジン、ピペリジン、多環芳香族炭化水素、ピリジン、ピリジン、ピリミジン、ピロリジン、ピロリジノン、キナゾリン、キノリン、キニーネ、ラウオルファ・アルカロイド、レチノイド、サリチル酸塩、ステロイド、スチルベン、スルホン、スルホニル尿素、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、THP‐アドリアマイシン、トラスツズマブ、トリアゾール、トロパン、ビンブラスチン、ビンクリスチン又はビンカアルカロイドの類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
化学療法剤の「副作用」「毒性」又は「医薬品副作用」は、化学療法剤投与後の急性期において、且つ癌が治癒して無症状の組織損傷を有する患者において、見られるものである。薬物が放出された組織において、重度で、障害を引き起こし、不可逆な副作用が見られることが良くある。臨床医は、化学療法薬による潜在的な組織/器官の合併症について配慮し、療法を開始する前に、適切な基礎組織検査を実施する必要がある。
【0036】
薬剤の「クリアランス」は、血液が抽出器官へ灌流することによりおこる。「抽出」とは、器官に存在する薬剤を不可逆的に除去(排出)する割合、又は異なった化学形態に変換(代謝)される割合を指す。従って、クリアランス(CL)は、器官を通過する血流量と器官によって抽出される薬剤の割合の積により計算される。
【0037】
薬剤のクリアランスは、通常は肝臓及び腎臓でおこり、遊離型でタンパク質結合していない薬剤だけが、クリアランスに応じると推測されている。肝クリアランス、即ち肝細胞膜の脂質コアを介した受動拡散は、親油性薬剤を用いることで行われる。特に、この受動拡散は、分子量400以上のイオン化分子(陰イオン性及び陽イオン性)の場合、類洞の運搬システムにより増加する。同様に、細管上における他の担体は、薬剤又は薬剤代謝産物を胆汁に運搬する。このシステムは、肝臓による取り込み及び胆管による排出という2つの異なる過程を有する。素早く膜通過するサイズが小さい親油性薬剤である場合、肝臓による取り込みはクリアランスの主要な要素とはならない一方、多数の水素結合を有する高分子量化合物(500以上)である場合、肝臓による取り込みが主なクリアランス過程となる。これは、たとえ、肝臓による取り込みの後に代謝が起こる場合でも同様である。
【0038】
本発明は、非癌組織において、医薬品のオロチン酸誘導体のクリアランスを向上させる方法を提供し、薬理学的研究により測定されるクリアランスを、医薬品投与時と比べ、少なくとも25%増加させるものとする。本発明は、また、非癌組織において、医薬品のオロチン酸誘導体のクリアランスを向上させる方法を提供し、薬物動態学的研究により測定されるクリアランスを、医薬品投与時と比べ、少なくとも50%増加させるものとする。本発明はさらに、非癌組織において、医薬品のオロチン酸誘導体のクリアランスを向上させる方法を提供し、薬理学的研究により測定されるクリアランスを、医薬品投与時と比べ、少なくとも100%増加させるものとする。
【0039】
本発明は、非癌組織において、医薬品のオロチン酸誘導体のクリアランスを向上させる組成物を提供し、この組成物は、薬理学的研究により測定されるクリアランスを、医薬品投与時と比べ、少なくとも50%増加させるものとする。また、非癌組織において、医薬品のオロチン酸塩のクリアランスを向上させる組成物を提供し、この組成物は、薬物動態学的研究により測定されるクリアランスを、医薬品投与時と比べ、少なくとも100%増加させるものとする。本発明は、更に、非癌組織において、医薬品のオロチン酸誘導体のクリアランスを向上させる組成物を提供し、この組成物は、薬物動態学的研究により測定されるクリアランスを、医薬品投与時と比べ、少なくとも100%増加させるものとする。
【0040】
吸収又は流出は、受動拡散、能動輸送又は促進能動輸送の3つのいずれかの方法により生じる。受動拡散では、単に分子濃度が膜両側で浸透圧平衡に達するまで、分子が粘膜関門を通過する。能動輸送では、分子は粘膜を通過し、能動的にくみ出される。促進能動輸送では、担体(一般的にはタンパク質)が、分子を膜輸送して吸収させるために必要である。
【0041】
(薬剤をオロチン酸誘導体に変換することにより薬剤の副作用を減少させる方法)
出願番号11/063,943号(2005年2月22日出願)の係属中出願において、発明者は、医薬品をオロチン酸塩に変換させることで、消化管から十分に吸収されない薬剤の経口による生物学的利用能を向上させる方法について述べている。本発明では、発明者はオロチン酸誘導体として薬剤を投与すると、薬剤の医薬品形態と比較して、器官内の薬剤濃度が減少することを開示する。これにより、薬剤投与時や、原発癌後又は疾病が治癒した後長期間たった後でも潜在的な毒性を減少させることが可能となる。したがって、医薬品のオロチン酸誘導体の特に有用な製剤は、低用量の投与で効き目が素早く着実な作用を提供し、薬物間相互作用及び副作用を減少させることができる。全ての参照文献は、本発明に完全に含まれることとする。
【0042】
オロチン酸は遊離型ピリミジンであり、これは、主要ピリミジンヌクレオチドであるウリジル酸塩(UPP)合成に重要である。ピリミジンは細胞内制御及び代謝の中心的役割を担っている。ピリミジンは、DNA/RNA生合成の基質であり、特定のアミノ酸生合成制御因子、並びに、リン脂質、糖脂質、糖及び多糖生合成の補助因子である。従来のデノボ合成であるピリミジン生合成経路は、UMP合成で終了する(非特許文献7)。また、5‐フルオロウラシルは、ラットの肝臓通常細胞において、酸の溶解成分、RNA及びDNAへの取り込みを測定した結果、肝臓に対して有毒であることが報告された。オロチン酸の投与は、肝臓及び小腸のRNAへの取り込みを減少させるため、肝臓において5‐FUによる毒性を減少させることが示唆されている(非特許文献8)。本発明は、薬剤のオロチン酸誘導体を提供し、このオロチン酸誘導体は、溶解することで荷電分子及び遊離型オロチン酸として薬剤を放出し、薬剤誘導型の肝臓、心臓又はその他の組織における毒性を減少させる。
【0043】
本発明は医薬品の有効性を向上させる方法及び組成物を提供し、この医薬品をオロチン酸誘導体に変換し、オロチン酸誘導体を必要としている患者に投与する過程を備える。医薬品としては、アセトアニリド、アクチノマイシン、D−アドリアマイシン、アミノアクリジン、アミノイミダゾール、アミノキノリン、アニリド、アントラサイクリン抗生物質、抗エストロゲン、ベンザゼピン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、セファロスポリン、シスプラチン、コルヒチン、環状ペプチド、シクロホスファミド、ダウノルビシン、ジベンザゼピン、ジギタリス配糖体、ジヒドロピリジン、ドキソルビシン、エピフォドフィロトキシン、エピルビシン、エルゴリン、麦角アルカロイド、エトポシド、5‐フルオロウラシル、イダルビシン、イフォスアミド、イミダゾール、インターロイキン‐2、インターフェロン・アルファ・イソキノリン、マクロライド、メルファラン、メトトレキサート、マイトマイシン‐C、ミトキサントロン、ナフタレン、ナイトロジェン・マスタード、オピオイド、オキサジン、オキサゾール、パクリタクセル、フェノチアジン、フェニルアルカミン、フェニルピペリジン、ピペラジン、ピペリジン、多環芳香族炭化水素、ピリジン、ピリジン、ピリミジン、ピロリジン、ピロリジノン、キナゾリン、キノリン、キニーネ、ラウオルファ・アルカロイド、レチノイド、サリチル酸塩、ステロイド、スチルベン、スルホン、スルホニル尿素、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、THP‐アドリアマイシン、トラスツズマブ、トリアゾール、トロパン、ビンブラスチン、ビンクリスチン又はビンカアルカロイドの群から選択されるものとする。
【0044】
本発明は、医薬品のオロチン酸誘導体の有効性を向上させる方法及び組成物を提供する。この向上は、薬剤の組織蓄積によって、長期間毒性を引き起こす又は毒性を誘導する潜在性を有するとして公知な薬剤を用いる際に、器官/組織内の薬剤濃度が減少していることによって判断される。
【実施例】
【0045】
(実施例1 オロチン酸ドキソルビシンの化学合成)
図2はオロチン酸ドキソルビシンの合成を示す。オロチン酸(1.0g)を65℃の水200mlに溶解させた。水酸化カリウム(KOH)(1当量(eq))がオロチン酸に添加され、この混合物を透明溶液となるまで85℃で攪拌した。得られた溶液は冷却され、沈殿物を濾過により採取することにより、無色の固体物(0.95g)を得た。この無色固体物を24時間真空乾燥した。質量分析によって、この化学構造はオロチン酸カリウムであることが示唆された。
【0046】
上記工程により合成されたオロチン酸カリウム(0.4g)を65℃の水150mlに溶解した。得られた溶液は真空下で脱気され、アルゴンで保護した。塩酸ドキソルビシン(1.0g、1当量)が添加され、得られた赤色溶液は、過剰な量のアンバーライトIR120樹脂で、2時間同温度で処理された。溶液を濾過した後、ドライアイスで冷凍、凍結乾燥し、オロチン酸ドキソルビシン(J−I220)1.35gを赤色固体物の形状で生成した。質量分析(図3)及び核磁気共鳴分析(図4)によって、この化学構造はオロチン酸ドキソルビシンであることが示唆された。
【0047】
(実施例2:塩酸ドキソルビシン及びオロチン酸ドキソルビシンを投与したSC CAKI−1の腎腫瘍の応答性)
本試験の目的は、CAKI−1ヒト腎腫瘍異種移植片に対して、塩酸ドキソルビシン(DOX)及びそのオロチン酸誘導体(オロチン酸DOX)の抗腫瘍効果を評価することである。この移植片は、雄性胸腺欠損NCr‐nu/nuマウスに皮下(SC)移植されたものである。DOXとオロチン酸DOXを同等量投与した動物の心臓が分析され、これら動物の心臓内のDOX濃度が測定された。
【0048】
薬物製剤:DOX溶液(塩酸ドキソルビシン USP28、Yick-Vic Chemical&Pharmaceutical (HK) Ltd、カオルーン、香港、バッチ番号M050705)0.8mg/mlが、生理食塩水を投与する日には毎日新たに処方された。この0.8mg/mlの溶液は、生理食塩水によって0.53及び0.35mg/mlに希釈された。
【0049】
実施例1に示す如く、オロチン酸DOX(ロットナンバーJ1220-13-II)が、USP28(バッチ番号M050705)から合成された。オロチン酸DOX溶液0.975mg/mlが、生理食塩水を投与する日には毎日新たに処方された。この0.975mg/mlの溶液は、生理食塩水によって、0.65及び0.43mg/mlにさらに希釈された。
【0050】
化合物及び賦形剤の両方が、投与ごとに動物体重当り0.1mg/10gの注入量でマウスに投与された。7群のマウス(各群が10匹のマウス)が、次に示す如く、四日ごとに計4回(q4d×4、日付:13、17、21及び25日目)静脈内投与された。1群は生理食塩水、2、3及び4群はDOXをそれぞれ8.0、5.3、3.5mg/kg/1投与分、投与した。5、6及び7群は、オロチン酸DOXをそれぞれ9.75、6.5及び4.3mg/kg/1投与分、投与した(DOXのMW(分子量)が580、オロチン酸DOXのMW(分子量)が708であることに基づく)。
【0051】
腫瘍が測定され、その量は式:L×W/2=mmを用いて決定した。重量は、1mm=1mgであると仮定して計算した。本研究は、腫瘍移植後95日で終了した。
【0052】
26日目(最後の注射後1日目)では、各群1、2及び5夫々から5匹の動物が安楽死し、心臓を採取してドキソルビシン濃度を測定した。
【0053】
(結果)
腫瘍重量:DOXの投与を8.0、5.3及び3.5mg/kg/1投与分の投与量で行い(図5)、オロチン酸DOXの投与を、同等量である9.75、6.5及び4.3mg/kg/1投与分の投与量で行った(図6)。このオロチン酸DOXの投与(静脈内:iv)は、図6に示す如く、雄性NCr‐nu/nuマウスに皮下移植されたCAKI−1ヒト腎腫瘍異種移植片の成長を非常に効果的に抑制した。腫瘍成長は、オロチン酸DOXの投与と、オロチン酸DOXと塩酸DOXの静脈投与が同程度の抗腫瘍効果を示すDOXの投与とを比較したときに、有意差は無かった。(図7)。
【0054】
【表1】

【0055】
(マウスの心臓におけるドキソルビシンの測定)
ドキソルビシンの濃度を、HPLC質量分析器/質量分析器を用いて測定した。平均7398ng/gである動物の心臓組織において、8.0mg/kg/1投与分の投与量でDOXを静脈内投与した(群2)。そして、平均5264ng/gである動物の心臓組織において、9.75mg/kg/1投与分の投与量でオロチン酸DOXを静脈内投与した(群5)。言い換えると、オロチン酸DOXを投与した動物の心臓組織のドキソルビシン濃度は、DOXを投与した動物の心臓組織の組織濃度と比較して、28%下がった。重要なことに、心臓組織の試料は、最後の静脈注射の1日後に得られたものである。これは、2つの異なるDOXの形態を静脈投与した後、たった1日後であっても、塩酸DOXと比較して、オロチン酸DOXによるDOX濃度の著しい減少が見られたことを示唆している。当業者であれば、これら2群間の心臓のDOX濃度の違いは、長期間にわたるとさらに大きくなることが予測できる。このことは、塩酸DOXの有効性は、蓄積量に関連する心臓毒性によって部分的に制限されていることから明らかである。この心臓毒性は、一般的に治療単位中の後半に生じるか、治療完了後、数ヶ月後又は数年後に現れるものである。これは、治療が完了した後も組織内に薬剤が残留することを強く示唆している。したがって、治療終了時だけではなく、その後短期間及び長期間にわたって、非癌性細胞、通常細胞又は非疾患性細胞に薬剤が蓄積することを軽減する及び/又は防ぐことが非常に必要とされている。本発明は、DOXオロチン酸誘導体としてのドキソルビシン組成物を提供し、またその組成物の製造方法を提供する。これにより、DOXの心臓内濃度を下げ、短期間及び/又は長期間において心臓をドキソルビシンの毒作用から守り、より安全な状態とすることが可能となる。
【0056】
本発明は開示した実施例によって範囲を制限されるものではなく、実施例は本発明の特徴の一つを示したにすぎず、機能的に同等な方法はいずれも本発明の範囲内とする。本明細書で示した以外にも実に多様な本発明の改良が、前述の記述により、当業者に明白になるであろう。そのような改良は添付の請求項の範囲内とする。
【0057】
当業者は日常的な実験だけで、本明細書記載の本発明のいずれかの実施例と同等の実施例が実施可能であることを認識又は確認するであろう。そのような同等の実施例は本発明の請求項に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非癌組織における医薬品の濃度を下げる方法であって、該方法は、
a)前記医薬品をオロチン酸誘導体組成物に変換する工程と、
b)前記オロチン酸誘導体を前記オロチン酸誘導体が必要な被検者に投与し、非癌組織における前記医薬品の濃度を測定する工程を備え、
前記医薬品は、アセトアニリド、アクチノマイシン‐D‐アドリアマイシン、アミノアクリジン、アミノイミダゾール、アミノキノリン、アニリド、アントラサイクリン抗生物質、抗エストロゲン、ベンザゼピン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、セファロスポリン、シスプラチン、コルヒチン、環状ペプチド、シクロホスファミド、ダウノルビシン、ジベンザゼピン、ジギタリス配糖体、ジヒドロピリジン、ドキソルビシン、エピフォドフィロトキシン、エピルビシン、エルゴリン、麦角アルカロイド、エトポシド、5‐フルオロウラシル、イダルビシン、イフォスアミド、イミダゾール、インターロイキン‐2、インターフェロン・アルファ・イソキノリン、マクロライド、メルファラン、メトトレキサート、マイトマイシン‐C、ミトキサントロン、ナフタレン、ナイトロジェン・マスタード、オピオイド、オキサジン、オキサゾール、パクリタクセル、フェノチアジン、フェニルアルカミン、フェニルピペリジン、ピペラジン、ピペリジン、多環芳香族炭化水素、ピリジン、ピリジン、ピリミジン、ピロリジン、ピロリジノン、キナゾリン、キノリン、キニーネ、ラウオルファ・アルカロイド、レチノイド、サリチル酸塩、ステロイド、スチルベン、スルホン、スルホニル尿素、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、THP‐アドリアマイシン、トラスツズマブ、トリアゾール、トロパン、ビンブラスチン、ビンクリスチン又はビンカアルカロイドからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記オロチン酸誘導体組成物が、前記医薬品の投与時と比較して前記医薬品の濃度を25%下げることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記オロチン酸誘導体組成物が、前記医薬品の投与時と比較して前記医薬品の濃度を50%下げることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記オロチン酸誘導体組成物が、前記医薬品の投与時と比較して前記医薬品の濃度を100%下げることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
医薬品のオロチン酸誘導体を製造する方法であって、該方法は、
a)水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化アルミニウムからなる郡から選択されるアルカリ溶媒と、オロチン酸を混合する工程と、
b)得られたアルカリオロチン酸塩の沈殿物を濾過して乾燥させる工程と、
c)工程(b)で得られたアルカリオロチン酸塩を医薬品と反応させることにより、該医薬品のオロチン酸誘導体を得る工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記工程(c)で使用される医薬品が、アセトアニリド、アドリアマイシン、アミノアクリジン、アミノイミダゾール、アミノキノリン、アニリド、アントラサイクリン抗生物質、抗エストロゲン、ベンザゼピン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、セファロスポリン、コルヒチン、環状ペプチド、シクロホスファミド、ジベンザゼピン、ジギタリス配糖体、ジヒドロピリジン、ドキソルビシン、エピフォドフィロトキシン、エピルビシン、エルゴリン、麦角アルカロイド、フルオロウラシル、イミダゾール、イソキノリン、マクロライド、メトトレキサート、ナフタレン、ナイトロジェン・マスタード、オピオイド、オキサジン、オキサゾール、パクリタクセル、フェノチアジン、フェニルアルカミン、フェニルピペリジン、ピペラジン、ピペリジン、多環芳香族炭化水素、ピリジン、ピリジン、ピリミジン、ピロリジン、ピロリジノン、キナゾリン、キノリン、キニーネ、ラウオルファ・アルカロイド、レチノイド、サリチル酸塩、ステロイド、スチルベン、スルホン、スルホニル尿素、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、トリアゾール、トロパン、ビンブラスチン又はビンカアルカロイドからなる群から選択されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
非癌組織における医薬品の濃度を下げる方法であって、
医薬品のオロチン酸誘導体を用いることにより、薬理学的研究により測定される非癌組織における医薬品の濃度を、該医薬品の投与時と比較して少なくとも25%下げることを特徴とする方法。
【請求項8】
前記組成物が、薬理学的研究により測定される前記医薬品の非癌組織からのクリアランスを、前記医薬品の投与時と比較して少なくとも50%増大させることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、薬理学的研究により測定される前記医薬品の非癌組織からのクリアランスを、前記医薬品の投与時と比較して少なくとも100%増大させることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項10】
医薬品の薬物副作用を軽減させる方法であって、該方法は、
前記医薬品をオロチン酸誘導体組成物に変換する工程と、
前記オロチン酸誘導体を前記オロチン酸誘導体が必要な被検者に投与する工程を備え、
前記医薬品が、アセトアニリド、アドリアマイシン、アミノアクリジン、アミノイミダゾール、アミノキノリン、アニリド、アントラサイクリン抗生物質、抗エストロゲン、ベンザゼピン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、セファロスポリン、コルヒチン、環状ペプチド、シクロホスファミド、ジベンザゼピン、ジギタリス配糖体、ジヒドロピリジン、ドキソルビシン、エピフォドフィロトキシン、エピルビシン、エルゴリン、麦角アルカロイド、フルオロウラシル、イミダゾール、イソキノリン、マクロライド、メトトレキサート、ナフタレン、ナイトロジェン・マスタード、オピオイド、オキサジン、オキサゾール、パクリタクセル、フェノチアジン、フェニルアルカミン、フェニルピペリジン、ピペラジン、ピペリジン、多環芳香族炭化水素、ピリジン、ピリジン、ピリミジン、ピロリジン、ピロリジノン、キナゾリン、キノリン、キニーネ、ラウオルファ・アルカロイド、レチノイド、サリチル酸塩、ステロイド、スチルベン、スルホン、スルホニル尿素、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、トリアゾール、トロパン、ビンブラスチン又はビンカアルカロイドからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記組成物が、オロチン酸誘導体として、フリーラジカル生成により測定される前記医薬品の薬物副作用を前記医薬品の投与時と比較して少なくとも25%軽減させることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、オロチン酸誘導体として、フリーラジカル生成により測定される前記医薬品の薬物副作用を前記医薬品の投与時と比較して少なくとも50%軽減させることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、オロチン酸誘導体として、フリーラジカル生成により測定される前記医薬品の薬物副作用を前記医薬品の投与時と比較して少なくとも100%軽減させることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項14】
医薬品のオロチン酸誘導体を含む組成物であって、
前記医薬品が、アセトアニリド、アドリアマイシン、アミノアクリジン、アミノイミダゾール、アミノキノリン、アニリド、アントラサイクリン抗生物質、抗エストロゲン、ベンザゼピン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、セファロスポリン、コルヒチン、環状ペプチド、シクロホスファミド、ジベンザゼピン、ジギタリス配糖体、ジヒドロピリジン、ドキソルビシン、エピフォドフィロトキシン、エピルビシン、エルゴリン、麦角アルカロイド、フルオロウラシル、イミダゾール、イソキノリン、マクロライド、メトトレキサート、ナフタレン、ナイトロジェン・マスタード、オピオイド、オキサジン、オキサゾール、パクリタクセル、フェノチアジン、フェニルアルカミン、フェニルピペリジン、ピペラジン、ピペリジン、多環芳香族炭化水素、ピリジン、ピリジン、ピリミジン、ピロリジン、ピロリジノン、キナゾリン、キノリン、キニーネ、ラウオルファ・アルカロイド、レチノイド、サリチル酸塩、ステロイド、スチルベン、スルホン、スルホニル尿素、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、トリアゾール、トロパン、ビンブラスチン又はビンカアルカロイドのオロチン酸誘導体からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項15】
薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤をさらに備えることを特徴とする請求項14記載の組成物。
【請求項16】
下式(化1)により表される構造式を有する化合物。
【化1】

[式中、R1は、水素(--H)基、水酸(--OH)基、メトキシ(--OCH3)基、6−20個の炭素原子を有するアリール基、一般構造式--O--CO(CH2nCH3を有するとともにnが1から約20の整数である脂肪酸アシル基、又は一般構造式--O--CO(CH2)1(CH=CH)m(CH2)nCH3を有するとともにnが1から3の整数、mが1から約6の整数、nが1から約9の整数である脂肪酸アシル基であって、
とR夫々は、互いに独立し、水素(--H)基、水酸(--OH)基、メトキシ(--OCH3)基又は二重結合酸素部分であって、
は、水素(--H)基、水酸(--OH)基、メトキシ(--OCH3)基又はハロゲン化物であって、
とY夫々は、互いに独立し、水素(--H)基、水酸(--OH)基、メトキシ(--OCH3)基、又は、二重結合酸素基、二重結合硫黄基もしくは二重結合窒素基である。]
【請求項17】
下式(化2)により表される構造式を有する化合物。
【化2】

【請求項18】
下式(化3)により表される構造式を有する化合物。
【化3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−535702(P2010−535702A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522898(P2009−522898)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/017458
【国際公開番号】WO2008/016711
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(508305627)サヴィファーム インク (2)
【Fターム(参考)】