説明

薬剤取り替え時期表示具

【課題】屋外での使用に際し風などの影響を受けにくく、しかも、薬液保持部材に含有される薬液添加量を変化させるだけで、各種の有効期間に対応して適用可能な薬剤取り替え時期表示具の提供。
【課題を解決するための手段】薬剤揮散体の薬剤取り替え時期表示具であって、表面に隠蔽層を有する基材にパラフィン系溶剤を添加した薬液保持部材をプラスチック製容器に入れ、この容器の上面を、厚さが70〜250μmの薬液透過性フィルムで被覆した薬剤取り替え時期表示具。好ましくは、前記パラフィン系溶剤はイソパラフィンで、かつ、主留分の20℃における蒸気圧は1×10−4〜1×10−1mmHgである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤取り替え時期表示具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、含有する薬液の残量に応じて、表示面上に薬剤使用可能期間を示す形態のインジケーターが多々知られている。
例えば、特開2003−302906号公報では、含有液体の揮散によって表示が発現するインジケーター用表示基板において、液体透過性を呈する基板材と、該基板材面上に部分的に積層され液体含有時に光に対し低屈折率を呈する形成材からなる複数の表示部と、各表示部の間を区切る基板材の液体不透過性部からなり、液体含有時に該表示部域の間で液体の移動が生じないことを特徴とする表示基板が提案されている。
【0003】
また、特開2008−76607号公報には、少なくとも2つの視覚的に相異なる状態を呈する表示層を有してなるシート基材に液状物質が保持されてなる液状物質保持シート全体が、厚さ10〜100μmのオレフィン系樹脂フィルムで被覆された期間表示器が記載されている。
特に後者の期間表示器は、シートをフィルムで被覆しているため屋外でも使用可能とされているが、具体的な実施例で用いられているフィルムの厚さは20〜30μmと薄く、しかもシートがフィルムと密着しているので、風などの屋外条件が液状物質の揮散性に少なからず影響を及ぼすことが避けられない。更に、液状物質(エステル化合物)とオレフィン系樹脂フィルムとの親和性を考慮すると、取り替え時期が表示されるまでの期間の調節は、エステル化合物の種類や、フィルムの種類の変更を必要とし、種々の有効期間を有する薬剤揮散具に適用させるには、複雑なものとならざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−302906号公報
【特許文献2】特開2008−76607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、薬剤揮散体の取り替え時期を示すための薬剤取り替え時期表示具であって、屋外での使用に際し風などの影響を受けにくく、しかも、薬液保持部材に含有される薬液添加量を変化させるだけで、各種の有効期間に対応して適用可能な薬剤取り替え時期表示具の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)薬剤揮散体の薬剤取り替え時期表示具であって、
表面に隠蔽層を有する基材にパラフィン系溶剤を添加した薬液保持部材をプラスチック製容器に入れ、この容器の上面を、厚さが70〜250μmの薬液透過性フィルムで被覆したことを特徴とする薬剤取り替え時期表示具。
(2)前記パラフィン系溶剤がイソパラフィンで、かつ、主留分の20℃における蒸気圧が1×10−4〜1×10−1mmHgである(1)記載の薬剤取り替え時期表示具。
(3)前記基材の体積(A)と被覆後のプラスチック製容器内の体積(B)との比(A/B)が、0.05〜0.8である(1)又は(2)に記載の薬剤取り替え時期表示具。
(4)前記基材が紙又は不織布であり、しかも、前記薬液透過性フィルムがポリエチレン又はポリプロピレン製フィルムである(1)ないし(3)のいずれかに記載の薬剤取り替え時期表示具。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、屋外での使用に際し風などの影響を受けにくく、しかも、薬液保持部材に含有される薬液添加量を変化させるだけで、各種の有効期間に対応して適用可能な薬剤取り替え時期表示具を提供する。
そして、本発明の薬剤取り替え時期表示具を用いることにより、薬剤揮散体の取り替え時期を正確に表示し、変更時期を使用者に伝えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の薬剤取り替え時期表示具は、主として屋外、屋外に近い屋内、玄関先などの場所で使用される薬剤揮散体に備えられるものである。ここで、薬剤揮散体とは、害虫防除剤や害虫の寄り付きを抑える虫除け剤などの薬剤を有するとともに、該薬剤を空中に放散する機能を備えた器具、装置等をいう。
【0009】
本発明の薬剤取り替え時期表示具は、表面に隠蔽層を有する基材にパラフィン系溶剤を添加した薬液保持部材をプラスチック製容器に入れ、この容器の上面を、厚さが70〜250μmの薬液透過性フィルムで被覆して構成される。
薬液保持部材に用いる基材としては、各種の材質のもの、例えば、通常の紙素材、パルプ紙、板紙、合成繊維混抄紙、不織布、織物、ポリオレフィン樹脂等が挙げられるが、なかでも、パラフィン系溶剤の吸液性に優れた紙又は不織布が好適である。
この基材の表面には、必要に応じて、各種の顔料や染料等を塗布あるいは印刷し、文字や絵柄などを表示したり、全面着色したりして色の変化をもたせ、視認性を高めることが出来る。
【0010】
上記基材の表面に塗工される隠蔽層としては、薬液が含有された時に透明に変性するものであればいずれも用いることが可能であるが、例えば、無定形シリカ、カオリン、炭酸カルシウム等の無機顔料、プラスチックピグメント微粉体等の有機顔料、あるいはこれらに種々のバインダーを混合したものなどを挙げることが出来る。
【0011】
本発明では、隠蔽層を塗工した基材に添加する薬液として、パラフィン系溶剤を用いることを第一の特徴とする。
特許文献2(特開2008−76607号公報)では、液状物質としてエステル化合物を用いているが、オレフィン系樹脂フィルムとの親和性の点から、取り替え時期が表示されるまでの期間の調節は、必ずしも満足のいくものでなかった。しかるに、本発明者らは、種々の薬液を検討した結果、パラフィン溶剤を用いることによって、薬液添加量を変化させるだけで各種の有効期間に対応可能な薬剤取り替え時期表示具の提供が可能となったものである。
パラフィン系溶剤としては、イソパラフィン及びノルマルパラフィンのいずれも使用可能であるが、特に、主留分の20℃における蒸気圧が1×10−4〜1×10−1mmHgのイソパラフィンは、粘度が低く、基材に対する拡散性にも優れており、性能的に好ましい。
かかるパラフィン系溶剤の具体例を示せば、アイソパーM(エクソンモービルケミカル社製、主留分の蒸気圧:8×10−2mmHg)、アイソパーV(エクソンモービルケミカル社製、主留分の蒸気圧:4×10−3mmHg)、IP2835(出光石油化学製、主留分の蒸気圧:3×10−3mmHg)、デオトミゾール(三光化学工業製、主留分の蒸気圧:2×10−2mmHg)等があげられるが、これらに限定されない。
【0012】
本発明では、薬液保持部材がプラスチック製容器に収納して用いられることを第二の特徴とする。このため、薬液保持部材とフィルムは、特許文献2(特開2008−76607号公報)のように密着せず、後記するように、薬液保持部材とフィルム間に形成される適度な空間が、パラフィン系溶剤の揮散調整に役立つものである。
なお、本発明で用いるプラスチック製容器としては、通常の種々の材質のものが可能であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリルニトリルなどがあげられる。なかんずく、材質としてポリエステルもしくはポリアミドを選択すると、薬液であるパラフィン系溶剤がプラスチック製容器に吸着されるのが極力抑えられ、かつ成形性も良好なので、本発明の目的に適している。
【0013】
本発明の第三の特徴は、前記プラスチック製容器の上面を、厚さが70〜250μmの薬液透過性フィルムで被覆したことにある。すなわち、特許文献2(特開2008−76607号公報)で用いられたオレフィン系樹脂フィルム(実施例での厚さ:20〜30μm)と異なり、厚さが70〜250μmの薬液透過性フィルムを採用することによって、パラフィン系溶剤の揮散が風などの影響を受けにくくなり、かつ揮散調整の面でも有利となった。
薬液透過性フィルムとしては、薬液透過性である限り使用可能で、例えば、ポリエチレン(超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリスチレン、セルロース系樹脂フィルム等を例示できる。なかでも、ポリエチレン又はポリプロピレン製フィルムの場合、多種の中から所望の薬液透過性を有する仕様を選択できるので使いやすい。
【0014】
上記薬液透過性フィルムの上面側を更に薬液非透過性のフィルムで覆い、使用者が使用開始時に該薬液非透過性フィルムのみを剥がすように設計してもよい。かかる構成によれば、パラフィン系溶剤の揮散が常に使用開始時と同時にスタートすることになるので、交換時期のバラツキを小さくすることができる。
ここで用いられる薬液非透過性フィルムとしては、アルミフィルム(アルミ箔)、ポリエステルもしくはポリアミドフィルム等をあげることができ、なかでもアルミフィルムは、パラフィン系溶剤の薬液透過性フィルムからの揮散を完全に抑え、内部の薬液保持部材の表示機能に影響を生じさせないので好適である。
【0015】
本発明の薬剤取り替え時期表示具では、前記したように、薬液保持部材と薬液透過性フィルム間に形成される適度な空間がパラフィン系溶剤の揮散調整に寄与する。このため、前記基材の体積(A)と薬液透過性フィルム被覆後のプラスチック製容器内の体積(B)との比(A/B)が、0.05〜0.8、好ましくは0.1〜0.5となるように設計するのが良い。
この数値が小さいと薬剤取り替え時期表示具の使用開始前において、表示具の色むらが発生する可能性があり、一方、この数値が高すぎると、即ち、両者の密着性が高くなると、パラフィン系溶剤の薬液透過性フィルムからの揮散性に問題を生じ易い傾向がある。
【0016】
本発明は、このように、薬液保持部材に添加する薬液としてパラフィン系溶剤を選択し、薬液保持部材をプラスチック製容器に収納して用い、更にプラスチック製容器の上面を厚さが70〜250μmの薬液透過性フィルムで被覆したことを大きな特徴とする。
最良の実施形態としては、例えば、主留分の20℃における蒸気圧が1×10−3〜1×10−2mmHgであるイソパラフィンを添加した薬液保持部材を、A/Bの比率が0.1〜0.5となるようにポリエステル製容器に入れ、この上面を厚さが100〜120μmの高密度ポリエチレンフィルムで覆った薬剤取り替え時期表示具があげられ、かかる組み合わせによれば、イソパラフィンの添加量と取り替え時期表示期間の相関性も良く、薬液添加量を変化させるだけで各種の有効期間に対応させることも容易となる。
【0017】
こうして得られた本発明の薬剤取り替え時期表示具は、害虫防除剤、害虫忌避剤、虫除け剤、ダニ防除剤、ダニ忌避剤、防カビ剤、消臭剤など、各種の機能を有する薬剤揮散体に備えられ、該機能を発揮する時期を示すためのインジケーターとして使用される。特に、屋外、屋外に近い屋内、玄関先など、風など環境の影響を受けやすい使用場面で有用性が高い。
【0018】
つぎに具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の薬剤取り替え時期表示具を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
パルプ紙基材(大きさ:18×22×1mm、体積A:396mm3)の片面に緑色の顔料を星型に塗布後、更にその上に隠蔽層としてシリカと樹脂の混合物を塗工したものに、アイソパーV(イソパラフィン系溶剤、20℃の蒸気圧:4×10−3mmHg)50mgを添加して薬液保持部材を得た。塗工面を上にしてこの薬液保持部材を、内部が窪んだポリエステル製容器(体積B:1240mm3)に入れ、容器上面をポリエチレン製フィルム(厚さ:100μm)で覆い、容器外周部をヒートシールして本発明の薬剤取り替え時期表示具を作製した。なお、A/Bの体積比率は、0.32であった。
【0020】
メトフルトリン200mgを含有させた網状樹脂シート(7.5×14.5cm×2面)をプラスチックケースに収納してなる虫除け用薬剤揮散体に、得られた本発明の薬剤取り替え時期表示具を装填した。
これを風通しの良いベランダの物干し竿に吊るして使用したところ、およそ60日後、表示具の基材面に緑色の星型が現れ、使用の交換時期を示した。本品のインジケーター機能は屋外での使用にも拘わらず十分正確で使い易かった。
【実施例2】
【0021】
実施例1に準じて、表1に示す薬剤取り替え時期表示具を作製した。なお、プラスチック製容器の材質としてはポリエステル(PET)を用いた。
【0022】
【表1】




【0023】
表1に示す薬剤取り替え時期表示具につき、以下の表示機能試験を行った。
[試験方法]
表示具を25℃で、風速1m/秒(及び風速0.3m/秒)の条件に置き、経時的に表示具の退色を目視観察した。判定は、○:開始直後と変化なし、△:開始直後に較べて僅かに退色、×:完全に退色、で示し、終点の経過日数を表示期間とした。
【0024】
【表2】



【0025】
試験の結果、本発明の薬剤取り替え時期表示具は、風などの環境条件の影響をあまり受けず所定の時期に取り替えの表示時期を示し、良好な表示性能であった。また、本発明1と本発明2の対比から、薬液保持部材に含有される薬液添加量を変化させるだけで、各種の表示期間に対応できることが認められ、極めて有用かつ実用的であることが実証された。
これに対し、薬液としてイソプロパノールを用いた比較例1では、薬液の添加後直ぐに退色してしまい、表示具として不適当であった。また、比較例2や比較例3のように、パラフィン系溶剤以外の薬液である、ミリスチン酸イソプロピルやパルミチン酸イソプロピルを用いた場合、退色時期が非常に遅れるとともに退色の時期が明瞭でなく、本発明の趣旨に合致しなかった。なお、ミリスチン酸イソプロピルを、特許文献2(特開2008−76607号公報)に準じて、厚みが20μmのポリエチレンフィルムに密着させた構成(比較例4)では、薬液の揮散に伴って表示機能を奏したものの、風の影響が避けられず、性能的に満足のいくものとは言えなかった。この傾向は、本発明で用いるパラフィン系溶剤の場合(比較例5)も同様で、従って、薬液保持部材に添加する薬液としてパラフィン系溶剤を選択したうえで、薬液保持部材をプラスチック製容器に収納して用い、更にプラスチック製容器の上面を厚さが70〜250μmの薬液透過性フィルムで被覆することによってはじめて、本発明が目的とする表示性能を奏し得ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の薬剤取り替え時期表示具は、害虫防除剤、害虫忌避剤、虫除け剤、ダニ防除剤、ダニ忌避剤、防カビ剤、消臭剤、芳香剤、抗菌剤など、有効成分を揮散させるあらゆるタイプの各種製品に適用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤揮散体の薬剤取り替え時期表示具であって、
表面に隠蔽層を有する基材にパラフィン系溶剤を添加した薬液保持部材をプラスチック製容器に入れ、この容器の上面を、厚さが70〜250μmの薬液透過性フィルムで被覆したことを特徴とする薬剤取り替え時期表示具。
【請求項2】
前記パラフィン系溶剤がイソパラフィンで、かつ、主留分の20℃における蒸気圧が1×10−4〜1×10−1mmHgであることを特徴とする請求項1に記載の薬剤取り替え時期表示具。
【請求項3】
前記基材の体積(A)と被覆後のプラスチック製容器内の体積(B)との比(A/B)が、0.05〜0.8であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬剤取り替え時期表示具。
【請求項4】
前記基材が紙又は不織布であり、しかも、前記薬液透過性フィルムがポリエチレン又はポリプロピレン製フィルムであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の薬剤取り替え時期表示具。


【公開番号】特開2011−59284(P2011−59284A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207674(P2009−207674)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】