説明

薬剤容器、及び薬剤注射装置

【課題】取り扱いが簡単で、かつ、安全に薬剤の投与を行うことができる薬剤注射装置、及びその薬剤注射装置に用いられる薬剤容器を提供する。
【解決手段】薬剤注射装置1は、薬剤が充填された薬剤容器3と、第1及び第2の針先10,11を有する針管9と、針管9を保持する針保持部7と、薬剤容器3を設置する薬剤容器設置部4とを備える。薬剤容器3は、容器本体27と、容器本体27に形成された針穿刺部と、針穿刺部16の先端に設けられたシール部材とを備える。針穿刺部16は、針管の第2の針先11が挿入される部位である。容器本体27はシート状の第1部材18と第2部材17とを接合して形成されており、第1部材18が第2部材17に向かって押圧されることで、容器本体27内部に充填された薬剤Mが排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤が封入された可撓性を有する薬剤容器、及びその薬剤容器を備える薬剤注射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリンジ内に予め薬剤が充填されたプレフィルドシリンジが多く利用されるようになってきた。このようなプレフィルドシリンジでは、薬剤投与時にバイアル瓶からシリンジ内に薬剤を吸引する必要がなく、投与に要する時間を短縮できる他、薬剤の無駄を減らすことができる。
【0003】
また、プレフィルドシリンジの代わりに可撓性を有する薬剤容器を用いた注射装置が開発されている(特許文献1及び2)。このような注射装置では、まず、薬剤容器と注射針を連通させる。そして、薬剤容器を押圧することで、薬剤容器の内部に封入された薬剤を注射針から外部へ排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−137343号公報
【特許文献2】特表平10−509335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された注射装置は、可撓性の薬剤容器が注射針の延伸方向に対して略垂直な方向に変形可能となっている。このため、注射針を穿刺する方向と薬剤容器を押圧する方向が異なってしまう。したがって、薬剤投与時に、特に片手で投与を行うとき、注射針を生体に穿刺した状態の注射装置を安定して保持しながら、薬剤容器の薬剤を注射針から排出させることが難しかった。特に、背圧(back-pressure)が高い皮内などの部位へ薬剤を投与する場合は、注射針の穿刺深さが安定せず、目的の部位に薬剤を投与することが難しく、薬剤投与によって期待される効果が得られないという問題が生じる。
【0006】
上述の点に鑑み、本発明の目的は、取り扱いが簡単で、かつ、安全に薬剤の投与を行うことができる薬剤注射装置、及びその薬剤注射装置に用いられる薬剤容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の薬剤容器は、容器本体と、針穿刺部と、シール部材とを備える。容器本体は、シート状の第1部材とシート状の第2部材を接合することで薬剤を充填するための液室が形成されている。針穿刺部は、第2部材において外側に向かって突出して形成され、針管が刺入される。シール部材は、針穿刺部の端部に設けられ、針管が貫通する。そして、この薬剤容器では、第1部材が第2部材に向かって押圧されることで、シール部材を貫通して針穿刺部に刺入された針管を介して、液室に充填された薬剤が排出される。
【0008】
本発明の薬剤容器では、第1部材が第2部材に向かって押圧されることで、容器本体の液室に充填された薬剤が排出される。これにより、薬剤の排出が簡便になされる。また、薬剤排出時に、針管の針先が針穿刺部内にあるので、第2部材側に押圧された第1部材を針管の針先が貫通することがない。
【0009】
本発明の薬剤注射装置は、薬剤容器と、針管と、針保持部と、薬剤容器設置部とを備える。針管は、生体を穿刺する第1の針先と、薬剤容器に刺入する第2の針先を有する。針保持部は、針管の中間部を保持する。薬剤容器設置部は、針保持部の第2の針先側に設けられ、薬剤容器が設置される。また、薬剤容器は、容器本体と、針穿刺部と、シール部材とを備える。容器本体は、シート状の第1部材とシート状の第2部材を接合することで薬剤を充填するための液室が形成されている。針穿刺部は、第2部材において外側に向かって突出して形成され、針管が刺入される。シール部材は、針穿刺部の端部に設けられ、針管が貫通する。そして、この薬剤容器では、第1部材が第2部材に向かって押圧されることで、シール部材を貫通して針穿刺部に刺入された針管を介して、液室に充填された薬剤が排出される。
【0010】
本発明の薬剤注射装置では、第1部材が第2部材に向かって押圧されることで、容器本体の液室に充填された薬剤が排出される。これにより、生体への薬剤の投与が簡便になされる。また、薬剤排出時に、第2の針先が針穿刺部内にあるので、第2部材側に押圧された第1部材を第2の針先が貫通することがない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、注射針を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置を安定して保持しながら、薬剤容器を押圧して薬剤を注射針から排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る薬剤注射装置の断面構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る薬剤注射装置に用いられる薬剤容器の分解斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る薬剤注射装置の使用状態における断面図であり、第1の針先が生体に穿刺した状態を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る薬剤注射装置の使用状態における断面図であり、第2の針先が薬剤容器内部に刺入した状態を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る薬剤注射装置の使用状態における断面図であり、薬剤の投与が完了した状態を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る薬剤注射装置の断面構成図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る薬剤注射装置の使用状態における断面図であり、第2の針先が薬剤容器内部に刺入した状態を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る薬剤注射装置の使用状態における断面図であり、第1の針先が生体に穿刺した状態を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る薬剤注射装置の使用状態における断面図であり、薬剤の投与が完了した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の薬剤容器及びその薬剤容器を用いた薬剤注射装置の実施形態例について、図1〜図9を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施形態:薬剤注射装置
1−1.薬剤容器の構成例
1−2.注射針組立体の構成例
1−3.薬剤注射装置の使用方法
2.第2の実施形態:薬剤注射装置
2−1.薬剤容器の構成例
2−2.薬剤注射装置の使用方法
【0014】
〈1.第1の実施形態:薬剤注射装置〉
図1は、本発明の第1の実施形態に係る薬剤注射装置1の断面構成図であり、薬剤容器3と注射針組立体2の使用前の状態を示した図である。図1に示すように、本実施形態例の薬剤注射装置1は、薬剤Mが封入された薬剤容器3と、針管9が組み込まれた注射針組立体2とを備えて構成され、使用者が薬剤容器3を直接押圧して変形させることにより、薬剤Mの投与を行うことができる構成とされている。
【0015】
本実施形態例では、薬剤注射装置1は、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる薬剤注射装置を例として説明する。なお、皮膚は、表皮と、真皮と、皮下組織の3部分から構成される。表皮は、皮膚表面から50〜200μm程度の層であり、真皮は、表皮から続く1.5〜3.5mm程度の層である。そして、皮膚上層部とは、皮膚のうちの表皮と真皮を指す。なお、ワクチンのような薬剤の皮膚上層部への投与量は、50〜300μL程度、好ましくは100μL程度である。
以下に、注射針組立体2及び薬剤容器3の構成を詳述すると共に、薬剤注射装置1の使用方法について説明する。
【0016】
[1−1.注射針組立体の構成例]
注射針組立体2は、針孔を有する中空の針管9と、この針管9が固定される針ハブ26とで構成される。
【0017】
針管9は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で22〜33ゲージのサイズ(外径0.2〜0.7mm)のものが使用できる。皮膚上層部への投与に用いる場合には、26ゲージ〜33ゲージのものを使用することができ、好ましくは30〜33ゲージのものが使用できる。
【0018】
針管9の一端には、生体に穿刺される第1の針先10が設けられ、他端には、薬剤容器3の後述するシール部材21に穿刺される第2の針先11が設けられている。すなわち、この針管9は、両頭針で構成されている。第1の針先10は、刃面10aを有している。この刃面10aの針管9が延びる方向の長さ(以下、「ベベル長B」という)は、後述する皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、また、33ゲージの針管に短ベベルを形成したときのベベル長である約0.5mm以上であればよい。つまり、ベベル長Bは、0.5〜1.4mmの範囲に設定されるのが好ましい。
【0019】
さらに、ベベル長Bは、皮膚上層部の最薄の厚さが0.9mm(小児)以下であればなおよい。すなわち、ベベル長Bは、0.5〜0.9mmの範囲に設定されることがより好ましい。なお、「短ベベル」とは、注射用針に一般的に用いられる、針の長手方向に対して18〜25°をなす刃面を指す。
【0020】
第2の針先11は、刃面11aを有している。この刃面11aの針管9が延びる方向の長さは、任意に設定することができるが、第1の針先10の刃面10aと同じ長さに設定することができる。
【0021】
針管9の材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管9は、ストレート針や、少なくとも一部がテーパー構造となっているテーパー針を適用することができる。テーパー針としては、第1の針先10側の外径よりも第2の針先11側の外径を大きくし、その中間部分をテーパー構造とすればよい。なお、この場合は、第1の針先10と第2の針先11の形状が異なってもよい。
【0022】
次に、針ハブ26について説明する。針ハブ26は、針管9の中間部を保持する針保持部7と、針保持部7の一端に設けられた薬剤容器設置部4と、針保持部7の他端に設けられた調整部5、安定部6、ガイド部8とを備える。
【0023】
針ハブ26の材質としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂が挙げられる。その中でも、成形が容易であるという点で、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)のような樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
針保持部7は、略円柱状に形成されており、一端に設けられた薬剤容器設置部4と、他端に設けられた調整部5、安定部6、ガイド部8と一体に構成されている。また、針保持部7の軸心には貫通孔12が形成されており、ここにおいて針管9の中央部が固着される。貫通孔12に対する針管9の固着の方法については後述する。また、針保持部7の他端の外周面には、針保持部7の半径外方向に突出するリング状のフランジ24が設けられている。このフランジ24は、針保持部7の軸方向において対向する平面24a,24bを有している。フランジ24の平面24aは、針保持部7の端面7aと同一平面になっている。また、フランジ24の先端部は、ガイド部8になっている。このガイド部8については、後で詳しく説明する。
【0025】
薬剤容器設置部4は、中央部に挿入孔15を有する四角形の板状の部材で構成されており、針保持部7の一端に設けられている。薬剤容器設置部4は、針保持部7に面する側とは反対側の面が、薬剤容器3が設置される設置面25とされている。設置面25は、中心から外側にかけて薬剤容器3が設置される側に湾曲するように球面状に形成された凹面25aと、設置面25の外周部に平坦に形成された平坦面25bとで構成されている。この湾曲して形成された球面状の凹面25aの径は、後述する薬剤容器3の液室の径とほぼ同じ径とされる。
【0026】
また、薬剤容器設置部4の中央部には、設置面25から針保持部7の貫通孔12が臨むように、所定の深さに開口して設けられた挿入孔15が形成されている。この挿入孔15は、後述するが、使用時において薬剤容器3の針穿刺部16が挿入される開口である。
【0027】
さらに、設置面25の周縁部の4つの辺には、薬剤容器3を設置した際に薬剤容器3の設置位置を決定すると共に、薬剤容器3の設置面25の面方向に対するずれを防止するための係止片14が設けられている。係止片14は、設置面25の平坦面25bから略垂直に突出した板状に形成されており、係止片14の高さは、後述する薬剤容器3のフランジ片23の高さよりも高く形成されることが好ましい。なお係止片14は、ピン(棒状)であってもよい。
【0028】
調整部5は、針保持部7の他端の中央部に設けられており、針保持部7の軸方向に突出する凸部として構成され、調整部5の端面は、針管9の第1の針先10が突出する針突出面5aになっている。この調整部5の軸心は、針保持部7の軸心に一致している。
【0029】
針保持部7及び調整部5の軸心には、薬剤容器設置部4の挿入孔15の底面から調整部5の針突出面5aにかけて、針管9が貫通する貫通孔12が設けられている。そして、針保持部7には貫通孔12に接着剤22を注入するための注入用孔13が設けられている。この注入用孔13は、針保持部7の外周面から貫通孔12に連通するように開口して形成されている。針保持部7では、注入用孔13から貫通孔12へ注入された接着剤22により、針管9が針保持部7に固着され、針保持部7及び調整部5を貫通するように針管9が固定される。
【0030】
そして、針管9の第1の針先10は、調整部5の針突出面5aから所定の長さだけ突出し、第2の針先11は、薬剤容器設置部4の挿入孔15内に所定の長さだけ突出し、設置面25上に突出しないように、針管9が固定されている。すなわち、本実施形態例では、第2の針先11の突出長は、挿入孔15の深さよりも短くなるように設定されている。
【0031】
ここで、第2の針先11の挿入孔15内での突出長は、少なくとも刃面11aのベベル長に、薬剤容器3を構成する第2部材17の厚みとシール部材21の厚みを加えた長さになっている。これにより、針管9を薬剤容器3の内部に確実に連通させることができる。
【0032】
また、調整部5では、針突出面5aは、針管9の軸方向に直交する平面として形成されている。この針突出面5aは、針管9を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して針管9を穿刺する深さを規定する。つまり、針管9が皮膚上層部に穿刺される深さは、針突出面5aから突出する針管9の長さ(以下、「突出長L」という。)によって決定される。
【0033】
皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5〜3.0mmの範囲内にある。そのため、針管9の突出長Lは、0.5〜3.0mmの範囲に設定することができる。
【0034】
ところで、ワクチンは、一般的に上腕部に投与されるが、皮膚上層部への投与を考えた場合は皮膚が厚い肩周辺部、特に三角筋部がふさわしいと考えられる。そこで、小児19人と大人31人について、三角筋の皮膚上層部の厚みを測定した。この測定は、超音波測定装置(NP60R−UBM 小動物用高解像度用エコー、ネッパジーン(株))を用いて、超音波反射率の高い皮膚上層部を造影することで行った。なお、測定値が対数正規分布となっていたため、幾何平均によってMEAN±2SDの範囲を求めた。
【0035】
その結果、小児の三角筋における皮膚上層部の厚みは、0.9〜1.6mmであった。また、成人の三角筋における皮膚上層部の厚みは、遠位部で1.4〜2.6mm、中央部で1.4〜2.5mm、近位部で1.5〜2.5mmであった。以上のことから、三角筋における皮膚上層部の厚みは、小児の場合で0.9mm以上、成人の場合で1.4mm以上であることが確認された。したがって、三角筋の皮膚上層部における注射において、針管9の突出長Lは、0.9〜1.4mmの範囲に設定することが好ましい。
【0036】
突出長Lをこのように設定することで、第1の針先10の刃面10aを皮膚上層部に確実に位置させることが可能となる。その結果、刃面10aに開口する針孔(薬剤排出口)は、刃面10a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部に位置することが可能である。なお、薬剤排出口が皮膚上層部に位置しても、第1の針先10が皮膚上層部に深く刺されば、第1の針先10の端部の側面と切開された皮膚との間から薬剤Mが皮下に流れてしまうため、刃面10aが確実に皮膚上層部にあることが重要である。
【0037】
なお、皮膚上層部の投与に用いる場合には、26ゲージよりも太い針管では、ベベル長Bを1.0mm以下にすることは難しい。したがって、針管9における第1の針先10の突出長Lを好ましい範囲(0.9〜1.4mm)に設定するには、26ゲージよりも細い針管を使用することが好ましい。
【0038】
針突出面5aは、周縁から針管9の周面までの距離Sが1.4mm以下となるように形成し、好ましくは0.3〜1.4mmの範囲で形成する。この針突出面5aの周縁から針管9の周面までの距離Sは、皮膚上層部へ薬剤を投与することで形成される水疱に圧力が加わることを考慮して設定している。つまり、針突出面5aは、皮膚上層部に形成される水疱よりも十分に小さく、水疱の形成を妨げない大きさに設定している。その結果、針突出面5aが針管9の周囲の皮膚を押圧して、投与された薬剤が漏れるということを防止することができる
【0039】
安定部6は、針保持部7に設けたフランジ24の平面24aから突出する円形の筒孔を有する筒状に形成されている。安定部6の筒孔には、針管9及び調整部5が配置されている。つまり、安定部6は、針管9が貫通する調整部5の周囲を覆う筒状に形成されており、針管9から針保持部7の半径外方向に離間して設けられている。
【0040】
安定部6の端面6aは、調整部5の針突出面5aよりも針管9の針保持部7側に位置している。薬剤注射装置1の使用において、針管9の第1の針先10を生体に穿刺すると、まず、針突出面5aが皮膚の表面に接触し、その後、安定部6の端面6aに接触する。このとき、安定部6の端面6aが皮膚に接触することで薬剤注射装置1が安定し、針管9を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。
【0041】
なお、安定部6の端面6aは、針突出面5aと同一平面上に位置させたり、また、針突出面5aよりも針管9の第1の針先10側に位置させたりしても、針管9を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。なお、安定部6を皮膚に押し付けた際の皮膚の盛り上がりを考慮すると、安定部6の端面6aと針突出面5aにおける軸方向の距離rは、1.3mm以下に設定することが好ましい。
【0042】
また、安定部6の内径dは、皮膚に形成される水疱の直径と同等であるか、それよりも大きい値に設定されている。具体的には、安定部6の内壁面から針突出面5aの周縁までの距離Tが4mm〜15mmの範囲となるように設定されている。これにより、安定部6の内壁面から水疱に圧力が印加されことによって水疱形成が阻害されることを防止することができる。
【0043】
安定部6の内壁面から針突出面5aの周縁までの距離Tは、4mm以上であれば、特に上限はない。しかしながら、距離Tを大きくすると、安定部6の外径が大きくなるため、小児のように細い腕に針管9を穿刺する場合に、安定部6の端面6a全体を皮膚に接触させることが難しくなる。そのため、距離Tは、小児の腕の細さを考慮して15mmを最大と規定することが好ましい。
【0044】
また、針突出面5aの周縁から針管9の周面までの距離Sが0.3mm以上であれば、調整部5が皮膚に進入することはない。したがって、安定部6の内壁面から針突出面5aの周縁までの距離T(4mm以上)及び針突出面5aの直径(約0.3mm)を考慮すると、安定部6の内径dは9mm以上に設定することができる。
【0045】
なお、安定部6の形状は、円筒状に限定されるものではなく、例えば、中心に筒孔を有する四角柱や六角柱等の角筒状に形成してもよい。
【0046】
ガイド部8は、針保持部7の側面部から針保持部7の半径外方向に突出するリング状のフランジ24の外周側で形成され、安定部6の外周面に対して略垂直に突出している。
【0047】
更に、ガイド部8は、皮膚と接触する接触面8aを有している。接触面8aは、安定部6の端面6aと略平行をなす平面である。ガイド部8の接触面8aが皮膚に接触するまで安定部6を押し付けることにより、安定部6及び針管9が皮膚を押圧する力を常に所定値以上に確保することができる。これにより、針管9の針突出面5aから突出している部分(突出長Lに相当)が確実に皮膚内に穿刺される。
【0048】
ガイド部8の接触面8aから安定部6の端面6aまでの距離(以下、「ガイド部高さ」という。)Yは、針管9及び安定部6が適正な押圧力で皮膚を押圧し穿刺することができるようにその長さが設定されている。これにより、針管9及び安定部6による皮膚への押圧力をガイド部8が案内し、針管9の第1の針先10(刃面10a)を皮膚上層部に確実に位置させることができると共に、使用者に安心感を与えることができる。なお、針管9及び安定部6の適正な押圧力は、例えば、3〜20Nである。
【0049】
ガイド部高さYは、安定部6の内径dの範囲が11〜14mmの場合、ガイド部8の先端面から安定部6の外周面までの長さ(以下、「ガイド部長さ」という。)Xに基づいて適宜決定される。例えば、安定部6の内径dが12mmであり、ガイド部長さXが3.0mmのとき、ガイド部高さYは、2.3〜6.6mmの範囲に設定される。
【0050】
また、薬剤容器設置部4の針保持部7側の面は針保持部7から半径外方向に延在しており、この薬剤容器設置部4の針保持部7側の面とフランジ24の平面24bと針保持部7の外周面とから把持部70が形成されている。把持部70はボビン状をなしており周回した凹部を有する。使用時には、例えば、人差し指と中指を把持部70の凹部に位置させ、針保持部7を挟み込むようにして薬剤注射装置1を把持することができる。把持部70は凹状に窪んでいることで指を安定化させ、薬剤注射装置1を把持し易くしている。
【0051】
[1−2.薬剤容器の構成]
次に、薬剤容器3について説明する。図2は、本実施形態例に係る薬剤注射装置1に用いられる薬剤容器3の分解斜視図である。
薬剤容器3は、内部に薬剤Mが封入された容器本体27と、薬剤容器3外部から針が挿入される針穿刺部16と、針穿刺部16の先端に設けられたシール部材21とで構成されている。
【0052】
容器本体27は、押圧される側となるシート状の第1部材18と、針穿刺部16が形成される側となるシート状に形成された第2部材17とで構成されている。
第1部材18、及び第2部材17は、透明な可撓性の材料で形成されており、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の軟質樹脂材料を挙げることができる。また、第1部材18及び第2部材17の材料は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンに、スチレン系熱可塑性エラストマやオレフィン系熱可塑性エラストマをブレンドし柔軟化したものでもよい。
【0053】
そして、これらの第1部材18と第2部材17の周縁が貼り合わされることにより、袋状に形成され、この袋状に形成された容器本体27の内部空間が、薬剤Mが充填される液室28になっている。本実施形態例では、容器本体27は、シート状の第1部材18と第2部材17の周縁部を例えば熱融着や超音波融着により液密に接合することにより袋状に形成している。
【0054】
第1部材18と第2部材17とが接合されて形成されることにより、接合面とされた第1部材18及び第2部材17の周縁は、フランジ片23を構成する。このフランジ片23は、薬剤容器3を注射針組立体2に設置する際に有効に用いられる部位である。
本実施形態例では、第1部材18及び第2部材17として四角形のシートを採用し、接合面に対して垂直な方向から見たときの液室28の輪郭がほぼ円形になるように接着した。したがって、フランジ片23の外形は四角形になっている。
【0055】
また、第2部材17の中央部には、容器本体27の外側に向けて突出した突出部19が構成されている。この突出部19は、針穿刺部16を構成するものである。突出部19は容器本体27の内部に連通する筒孔を有して構成され、突出部19の内面は容器本体27の内面から連続して形成されている。
【0056】
このような容器本体27は、射出成形、押出成形、カレンダー成形、ブロー成形、インフレーション成形等によって製造することができる。
【0057】
ところで、第1部材18及び第2部材17に適用される可撓性を有する材料の引張弾性率は、500MPa以下、好ましくは50〜300MPaが、取り扱い易さ、液の排出性などの点で好ましい。第1部材18及び第2部材17の厚さは、その層構成や用いる素材の特性(柔軟性、強度、水蒸気透過性、耐熱性等)等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、100〜500μm程度であるのが好ましく、200〜360μm程度であるのがより好ましい。また、容器本体27の内面は、低密度ポリエチレン製ラミネートフィルムのようなフィルムでコートしてもよい。
【0058】
以上にようにして形成された容器本体27は、水蒸気バリヤー性を有することが好ましい。容器本体27が水蒸気バリヤー性を有することにより、内部からの水分の蒸散が防止できるとともに、外部からの水蒸気の侵入を防止することができる。
【0059】
水蒸気バリヤー性の程度としては、水蒸気透過度が50g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であることが好ましく、より好ましくは、10g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であり、さらに好ましくは、1g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下である。この水蒸気透過度は、JISK7129(A法)に記載の方法により測定される。
【0060】
針穿刺部16は、第2部材17に形成された突出部19と、その突出部19の側部を囲むように設けられた環状のガード部20で構成されており、容器本体27に対する押圧方向に突出して形成されている。
【0061】
ガード部20は、非可撓性の材料で構成され、内径が第2部材17の突出部19の外径とほぼ同じとされており、その突出部19に対して超音波融着されている。ここで、非可撓性とは、薬剤容器を押圧する力に対して変形しない性質と定義する。ガード部20の軸方向の長さは、挿入孔15の深さとほぼ同じ長さに形成される。また、ガード部20の内径は、薬剤容器3を押圧する使用者の指の幅よりも小さい径とされ、針管9の第2の針先11が挿入される部分となるため、第2の針先11の外形よりも大きい径とされる。使用時の薬剤容器3と注射針組立体2との合わせズレなどを考慮し、ガード部20の内径は2〜8mmの範囲で形成されるのが好ましい。
【0062】
ガード部20の構成材料は、非可撓性、すなわち、薬剤容器3を押圧する力に対して変形しない材料であればよく、例えば、前述した針ハブ26の構成材料と同様の材料を用いることができる。
【0063】
シール部材21は、第2部材17で構成された突出部19の先端に貼り付けられている。シール部材21としては、針管9との液密性を良好にするためにゴム弾性を有する材料から形成することが好ましい。このゴム弾性を有する材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレン系エラストマ、熱可塑性エラストマ、シリコーンゴム、あるいはそれらの混合物等を挙げることができる。
【0064】
本実施形態例では、使用時において、シール部材21側から注射針組立体2に保持された針管9の第2の針先11が薬剤容器3内に貫通する構成とされる。シール部材21は、針管9の周面に液密に密着し、薬剤容器3内部の薬剤Mが第2の針先11と容器本体27との隙間から漏れるのを防ぐ効果を有する。また、シール部材21は、ある程度の圧力で押し付けないと第2の針先11が刺通できないような刺通抵抗性を有し、シール部材21の第2の針先11に対する刺通抵抗力が、生体の第1の針先10に対する抵抗力よりも大きい材料で構成される。
【0065】
このような薬剤容器3に充填される薬剤Mとしては、本例では、例えばインフルエンザ等の各種の感染症を予防する各種のワクチンが挙げられるが、ワクチンに限定されるものではない。なお、ワクチン以外では、例えば、ブドウ糖等の糖質注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、抗生物質注射液、造影剤、ステロイド剤、ホルモン剤、蛋白質分解酵素阻害剤、脂肪乳剤、抗癌剤、麻酔薬、覚せい剤、麻薬、ヘパリンカルシウム、抗体医薬等が挙げられる。
【0066】
ところで、このような薬剤容器3は、容器本体27を形成した後、薬剤Mを充填させても良いが、薬剤Mを充填させた状態で容器本体27を形成することもできる。薬剤Mを充填させた状態で容器本体27を形成する場合には、成形(ブロー)、充填(フィル)、密封(シール)を一連の作業で行うブローフィル成型により製造することができる。
【0067】
薬剤Mを充填した薬剤容器3をブローフィル成型により製造するには、まず、長方形の2枚のシートを重ね合わせて互いの長辺側を融着し、略筒状の容器材を形成する。次に、筒状の容器材の一端(短辺側)を融着により封止し、薬剤Mを充填する。そして、他端(短辺側)を融着により封止し、その他端を切断する。これにより、薬剤Mを充填した容器本体27が形成される。
なお、融着金型の形状を工夫することで、液室の形状を自在に変更できる。
【0068】
[1−3.薬剤注射装置の使用方法]
次に、本実施形態例の薬剤注射装置1の使用方法について説明する。図3は、注射針組立体2に薬剤容器3を設置して第1の針先10を生体に穿刺した状態を示す断面図である。図4は、第2の針先11が薬剤容器3のシール部材21を貫通し、針穿刺部16に刺入した状態を示す断面図である。図5は、薬剤注射装置1による薬剤Mの投与が完了した状態を示す断面図である。
【0069】
薬剤注射装置1の使用前の状態は、注射針組立体2と薬剤容器3が分離されている(図1参照)。したがって、薬剤注射装置1を使用する場合は、まず、薬剤容器3のシール部材21が針管9の第2の針先11に当接するように、薬剤容器3を薬剤容器設置部4の設置面25に設置する。シール部材21は、第2の針先11がシール部材21に刺通しようとする力に対して、ある程度の抵抗力を有するため、薬剤容器3を設置面25に設置した段階では、第2の針先11がシール部材21を貫通することはない。そしてこのとき、薬剤容器3のフランジ片23は設置面25の周縁に形成された係止片14に係止されるので、薬剤容器3が位置決され、薬剤容器3の設置面25の面方向に対するずれが防止される。
これにより、薬剤容器3が注射針組立体2にセットされ、薬剤注射装置1の準備がなされる。
【0070】
次に、薬剤容器3が設置面25に設置された状態を保持しながら、安定部6の端面6aを皮膚に対向させる。これにより、針管9の第1の針先10が、穿刺する皮膚に対向される。
【0071】
次に、図3に示すように、薬剤容器3の第1部材18を第2部材17側に向けて押圧することで、注射針組立体2を皮膚側にほぼ垂直に移動させ、第1の針先10を皮膚に穿刺すると共に、安定部6の端面6aを皮膚に押し付ける。なお、本実施形態例では、使用者が薬剤容器3の第1部材18を指で押圧することで薬剤注射装置1に押圧力を発生させる。
【0072】
このとき、シール部材21の第2の針先11に対する抵抗力が、生体の第1の針先10に対する抵抗力よりも大きい材料で構成されているため、第2の針先11がシール部材21に穿刺する前に、第1の針先10が生体に穿刺される。
【0073】
ここで、調整部5の針突出面5aと安定部6の端面6aは、同一平面上に位置している。これにより、調整部5の針突出面5aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させることができ、針管9の第1の針先10を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0074】
次に、薬剤容器3の第1部材18を第2部材17側にさらに押圧することで、薬剤注射装置1を生体側に押圧し、ガイド部8の接触面8aを皮膚に接触させる。ここで、ガイド部高さYは、針管9及び安定部6が適正な押圧力で皮膚に穿刺し薬剤を注入することができるようにその長さが設定されている。そのため、安定部6によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。したがって、使用者に対して安定部6の押圧力を案内することができると共に適正な押圧力で安定部6を皮膚に押し付けることができ、針管9の第1の針先10及び刃面10aを確実に皮膚上層部内に位置させることができる。
【0075】
このように、ガイド部8が安定部6の押圧力を案内する目印となることで、針管9の第1の針先10を皮膚上層部に確実に位置させることができ、皮膚上層部内に確実に薬剤Mを投与することができると共に、使用者の安心感を向上させることが可能である。
【0076】
また、安定部6が皮膚と当接することで、針管9を安定させて、針管9を皮膚に対して真っ直ぐに穿刺することができる。よって、針管9に生じるブレを防止することができ、薬剤Mの安定した投与を行うことができる。
【0077】
更に、例えば0.5mm程度のごく短い突出長の針では、第1の針先10を皮膚に当接させても皮膚に刺さらない場合がある。しかし、安定部6が皮膚に押し付けられて垂直方向に皮膚が押し下げられると、安定部6の内側の皮膚が引っ張られて皮膚に張力が加わった状態となる。そのため、針管9の第1の針先10に対して皮膚が逃げ難くなるので、安定部6は、皮膚に第1の針先10がより刺さり易くなるという効果も有している。
【0078】
また、突出長Lが0.5〜3.0mmの範囲に設定されているため、針管9の第1の針先10及び刃面10aは、確実に皮膚上層部内に位置する。調整部5は、針管9の周囲に密着して固定されており、針管9の調整部5を貫通する部分と調整部5との間には間隙が生じないようになっている。
【0079】
そのため、調整部5の針突出面5aを皮膚に当接させると、針管9の周囲の皮膚を平らに変形させることができる。その結果、針管9を突出長Lだけ皮膚に穿刺させることができ、針管9の第1の針先10を皮膚上層部内に確実に位置させることができる。
【0080】
そして、ガイド部8の接触面8aが皮膚に接触するまで容器本体27の第1部材18を第2部材17側に押圧したとき、その押圧力がシール部材21の第2の針先11に対する抵抗力よりも大きくなる。このため、第2の針先11がシール部材21に穿刺すると共に、薬剤容器3の針穿刺部16が薬剤容器設置部4に形成された挿入孔15に挿入される。このとき、挿入孔15の深さと針穿刺部16の突出長はほぼ同じ長さとされているため、針穿刺部16の先端が挿入孔15の底面に当接するまで針穿刺部16が挿入孔15に挿入し、これにより、第2の針先11が針穿刺部16内に刺入する。第2の針先11の挿入孔15内での突出長は、挿入孔15の深さよりも短く設定されているので、第2の針先11の針穿刺部16への刺入長は、針穿刺部16の突出長よりも短く、第2の針先11が設置面25から突出することはない。
そして、これにより、薬剤容器3に封入された薬剤Mと針管9の通液が完了する。
【0081】
次に、使用者は、薬剤容器3の第1部材18を第2部材17側に更に押圧することで、可撓性の第1部材18を第2部材17側に変形させる。これにより、容器本体27の内圧が高まり、容器本体27内部に封入された薬剤Mが針管9の第2の針先11を通って第1の針先10から生体内に排出される。そして、第1部材18が第2部材17に密着するまで第1部材18を押し付けることで、薬剤容器3内の全ての薬剤Mが排出され、薬剤Mの投与が終了する。
【0082】
本実施形態例の薬剤注射装置1では、第1の針先10を生体に穿刺するために薬剤注射装置1を押圧する方向と、容器本体27内部の薬剤Mを第1の針先10から排出させるために、薬剤容器3を押圧する方向が同じとされる。したがって、薬剤容器3の第1部材18を第2部材17側に押圧することにより、薬剤注射装置1が生体に押し付けられると共に、容器本体27内部の薬剤Mが、第1の針先10から排出される。これにより、第1の針先10の生体への押圧力を安定に保ちながら薬剤Mの排出が可能となるため、使用者は安定かつ簡便に薬剤Mを投与することが可能となる。
【0083】
上述の使用方法の説明では、各動作を段階を追って説明したが、第1の針先10を生体に穿刺する動作から薬剤Mを排出する動作まで、全て薬剤容器3を第1部材18から第2部材17方向に押圧することで連続して行うことができる。このため、実際には、一連の動作の時間差を短くすることができる。また、操作が簡便であるから、片手で穿刺から薬剤の投与まで行うことができる。
【0084】
また、本実施形態例の薬剤注射装置1では、生体への第1の針先10に穿刺する方向と、薬剤Mを排出させるために薬剤容器3を押圧する方向が同じ方向とされ、薬剤排出時では第2の針先11に指が近づく方向に操作しなければならない。しかしながら、本実施形態例では、薬剤容器3の第2部材17側に突出した針穿刺部16が形成されており、その針穿刺部16が薬剤容器設置部4の挿入孔15に挿入されたとき、第2の針先11は設置面25側に突出しない。このため、使用者の指が第1部材18及び第2部材17を介して設置面25に当接した場合にも、第2の針先11が可撓性の第1部材18を突き抜けて使用者の指を穿刺することがない。これにより、使用者の安全性を確保することができる。
【0085】
本実施形態例では、薬剤容器3の針穿刺部16を挿入することができる挿入孔15を設けたが、必ずしも挿入孔15を形成しなくてもよい。本実施形態例では、針穿刺部16が非可撓性の材料で形成されたガード部20で構成され、かつ、その内径が指の平均的な径よりも小さく形成されている。このため、第1部材18を第2部材17側に押圧して薬剤Mを排出させた場合、指が非可撓性の針穿刺部16の容器本体27側の面に当接した時点で薬剤Mの排出が終了する。このとき、第2の針先11の刺入長が針穿刺部16の筒孔16aよりも短くなるように構成することにより、第2の針先11が針穿刺部16上に突出することがなく、使用者への誤刺を防ぐことができる。
【0086】
本実施形態例のように挿入孔15を形成した場合には、安全性を高めることができる他、設置面25の凹面25aに指が当接するまで押圧できるので、第1部材18を第2部材17側により密着するまで押圧することができ、残液の低減が図られる。
【0087】
さらに、本実施形態例では、設置面25の凹面25aが湾曲した形状とされているため、第1部材18を第2部材17に押圧したとき、凹面25aに可撓性の第1部材18及び第2部材17を介して使用者の指が密接に当接する。このため、容器本体27内部に充填された薬剤Mを十分に排出させることができ、残液を低減することができる。
【0088】
本実施形態例では、薬剤Mが可撓性の材料からなる薬剤容器3に充填されており、その薬剤容器3を指で押圧することで薬剤Mの投与が可能となる。このため、従来のように、非可撓性の薬剤容器内の薬剤を押し子で押圧することで排出するようなシリンジよりも構成が簡素である。したがって、従来のシリンジに比較して、コストの低減を図ることができ、特に少量の薬剤が充填された薬剤注射装置として用いる場合に有効である。
【0089】
〈2.第2の実施形態〉
次に、本発明の第2の実施形態に係る薬剤容器、及びその薬剤容器を用いた薬剤注射装置について説明する。図6は、本発明の第2の実施形態に係る薬剤注射装置30の断面構成図であり、薬剤容器34と注射針組立体2の使用前の状態を示した図である。本実施形態例は、第1の実施形態とは、薬剤容器34の構成が異なる例である。図6において図1に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0090】
[2−1.薬剤容器の構成]
まず、薬剤容器34の構成について説明する。本実施形態例の薬剤容器34は、内部に薬剤Mが封入された容器本体35と、薬剤容器34外部から針が挿入される針穿刺部33と、針穿刺部33の先端に設けられたシール部材21とで構成されている。
【0091】
容器本体35は、シート状に形成された可撓性の第1部材18と、非可撓性の第2部材31とで構成されている。第1部材18及び第2部材31は、それぞれ四角形状に形成されており、第1の実施形態と同様、第1部材18及び第2部材31が重ね合わされて周縁が接合されることにより、内部に液室を有するように構成されている。
【0092】
第2部材31は、第1部材18側とは反対側に膨出したドーム形状とされた凹部31aと、その外周部に平坦に形成された平坦部31bとで構成されている。凹部31aの第1部材18側の面は、中心から外側にかけて第1部材18に面する側に湾曲するように球面状に形成された凹面とされている。また、凹部31aの設置面25側の面は設置面25に嵌合する形状とされている。
【0093】
また、第2部材31の中央部には、第2部材31が第1部材18側とは反対側に突出するように円筒状に形成された針穿刺部33が形成されている。針穿刺部33の筒孔33aは容器本体35の内部、すなわち液室28と連通しており、針穿刺部33の内面は、第2部材31の内面と連続して形成されている。また、針穿刺部33の先端は開口されている。この針穿刺部33の第2部材31からの突出長と、薬剤容器設置部4の挿入孔15の深さとはほぼ同じに構成されている。
【0094】
また、針穿刺部33の内径は、薬剤容器34を押圧する使用者の指の幅よりも小さい径とされ、針管9の第2の針先11が挿入される部分となるため、第2の針先11の外形よりも大きい径とされる。使用時の薬剤容器34と注射針組立体2との合わせズレなどを考慮し、針穿刺部33の内径は2〜8mmの範囲で形成されるのが好ましい。
そして、針穿刺部33の開口された先端には、シール部材21が液密に貼り付けられている。
【0095】
第1部材18の構成材料は、第1の実施形態における第1部材と同様の材料を用いることができ、第2部材31の構成材料は、上述した針ハブ26と同様の材料を用いることができる。これらの第1部材18及び第2部材31で構成される容器本体35も第1の実施形態と同様の方法で製造することができる。
【0096】
そして、本実施形態例では、可撓性の第1部材18が、非可撓性の第2部材31の周縁に形成された平坦部31bにおいて接合されることにより、容器本体35が形成される。第1部材18は、第2部材31の平坦面部3bに接合されるため、異なる材料においても、接合強度を強固なものとすることができる。また、接合面とされた第1部材18及び第2部材31の周縁は、フランジ片23を構成する。このフランジ片23は、第1の実施形態と同様、薬剤容器3を注射針組立体2に設置する際に有効に用いられる部位である。
【0097】
[2−2.薬剤注射装置の使用方法]
次に、本実施形態例の薬剤注射装置30の使用方法について説明する。図7は、注射針組立体2に薬剤容器3を設置すると共に、第2の針先11が薬剤容器34のシール部材21を貫通し、針穿刺部33に刺入した状態を示す断面図である。図8は、第1の針先10を生体に穿刺した状態を示す断面図である。図9は、薬剤注射装置30による薬剤Mの投与が完了した状態を示す断面図である。
【0098】
薬剤注射装置1の使用前の状態は、注射針組立体2と薬剤容器34が分離されている(図6参照)。したがって、薬剤注射装置30を使用する場合は、まず、薬剤容器34のシール部材21が針管9の第2の針先11上部に当接するように、薬剤容器3を薬剤容器設置部4の設置面25に載置する。
【0099】
さらに、使用者は、薬剤容器34のフランジ片23を第1部材18側から所定の力で押圧することで、薬剤容器34の針穿刺部33が挿入孔15に挿入するように薬剤容器34を設置面25側に移動させる。これにより、図7に示すように、第2の針先11がシール部材21を貫通し、薬剤容器34の針穿刺部33に刺入する。
これにより、薬剤容器34が注射針組立体2にセットされ、薬剤注射装置1の準備がなされる。
【0100】
このとき、挿入孔15の深さと針穿刺部33の突出長はほぼ同じ長さとされているため、針穿刺部33の先端は挿入孔15の底面に当接し、薬剤容器34の第2部材31も設置面25に当接する。また、第2の針先11の挿入孔15内での突出長は、挿入孔15の深さよりも短く設定されているので、第2の針先11の針穿刺部33への刺入長は、針穿刺部33の突出長よりも短く、第2の針先11が設置面25の凹面25a上に突出することはなく、すなわち、第2部材31の内面から突出することはない。そしてこのとき、薬剤容器3のフランジ片23は設置面25の周縁に形成された係止片14に係止されるので、薬剤容器3が位置決され、薬剤容器3の設置面25の面方向に対するずれが防止される。
このとき、薬剤容器34に封入された薬剤Mが針管9に通液している。
【0101】
ところで、薬剤Mの針管9への通液時において、使用者は薬剤容器34のフランジ片23を押圧して薬剤容器34を設置面25側に移動させるため、液室28が押圧されない。このため液室28の薬剤Mが第1の針先10から排出するのを防ぐことができる。また、本実施形態例では、薬剤容器34の第2部材31が非可撓性の材料で構成されているので、フランジ片23を押圧する力によって薬剤容器34を設置面25側に簡単に移動することができる。
【0102】
次に、第2の針先11がシール部材21側から薬剤容器34内部に穿刺された状態を保ちながら、安定部6の端面6aを皮膚に対向させる。これにより、針管9の第1の針先10が、穿刺する皮膚に対向される。次に、薬剤容器34以外の部位、例えば、針保持部7の側部を把持し、第1の針先10が生体に穿刺される方向に押圧する。そして、注射針組立体2を皮膚側にほぼ垂直に移動させ、第1の針先10を皮膚に穿刺すると共にガイド部8の接触面8aが皮膚に接触するまで安定部を押し付ける。
これにより、図8に示すように第1の針先10が生体に穿刺される。
【0103】
本実施形態例では第1の針先10を生体に穿刺する前に通液がなされているが、第1の針先10を生体に穿刺する際に薬剤容器34に押圧しない、すなわち、薬剤容器34以外の部位を把持して押圧することで、第1の針先10から薬剤Mが先に排出されるのを防ぐことができる。
【0104】
次に、使用者は、可撓性の第1部材18を第2部材31側に押圧する。これにより、容器本体35の内圧が上昇し、容器本体35内部に封入された薬剤Mが針管9の第2の針先11を通って第1の針先10から生体内に排出される。そして、第1部材18が第2部材31に密着するまで第1部材18を押し付けることで、容器本体35内の全ての薬剤Mが排出され、薬剤Mの投与が終了する。
【0105】
本実施形態例の薬剤注射装置30では、薬剤容器34の薬剤容器設置部4に設置される第2部材31が非可撓性の材料で形成され、かつ湾曲して形成されているため、第2の針先11がシール部材21に穿刺される前は設置面25上で安定しない。このため、生体に第1の針先10を穿刺する前の段階で通液を完了させ、その後、生体に第1の針先10を穿刺することで、安定した状態で薬剤Mの投与を行うことができる。
その他、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0106】
本実施形態例では、注射針組立体2において、薬剤容器設置部4の設置面25を湾曲させて形成したが、平坦面となるように形成してもよい。なお、本実施形態例では、容器本体35を構成する第2部材31自体が湾曲した形状とされているため、第1部材18を第2部材31側に押圧したとき、湾曲した面に可撓性の第1部材18を介して使用者の指が密接に当接するため、容器本体35内部に充填された薬剤Mを十分に排出させることができ、残液を低減することができる。また、薬剤容器設置部4の設置面25を湾曲させて形成することにより、薬剤容器34を薬剤容器設置部4に設置する際に、より安定に設置することができ、使用上の安全性を確保することができる。
【0107】
なお、本実施形態例では、針ハブ26において、針管9の第2の針先11が、薬剤容器設置部4の設置面25の上部に突出しないように針保持部7に保持される構成としたが、設置面25の上部に突出させてもよい。本実施形態例のように、薬剤容器34の容器本体35を構成する第2部材31が非可撓性の材料で構成され、ある程度の厚みを有する場合には、挿入孔15の深さよりも針穿刺部の筒孔33aの長さのほうが長くなる。そのような場合においては、第2の針先11を設置面25上に突出させても、針穿刺部33への刺入長を筒孔33aよりも短くすることができ、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0108】
本発明の薬剤注射装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0109】
上述の第1及び第2の実施形態では、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる薬剤注射装置を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明の薬剤注射装置としては、第1の針先10側の突出長Lを設定することにより、例えば、皮下、筋肉等の生体のその他の部位に薬剤を注入するものにすることもできる。
【0110】
また、上述の第1及び第2の実施形態では、薬剤容器3、34の第1部材18として、可撓性を有しその変形において特に制限を受けない部材を挙げて説明した。しかしながら、可撓性を有しその変形の仕方に制限がある部材、例えば、一定以上の圧力を加えると降伏して反転する(座屈が発生する)ような部材を用いることができる。この座屈して反転する部材の場合、座屈させるために必要な押圧力は、穿刺のために必要な押圧力、及び第2の針先がシール部材を貫通するのに必要な押圧力よりも高く設定される。また、反転後は押圧力を弱めても変形が終息するまで薬剤容器中の薬剤に所定の圧力がかかるので、安定して薬剤を注入し続けることができる。このような部材は合成樹脂や金属で形成することができる。
【0111】
また、上述の第1及び第2の実施形態では、針管9を針保持部7に接着剤を用いて固定したが、本発明に係る針管は、例えば、高周波融着や圧入等のその他の固着方法によって針保持部に固定することもできる。
【0112】
また、上述の第1及び第2の実施形態では、安定部6、ガイド部8及び薬剤容器設置部4を針保持部7と一体に形成したが、それぞれを針保持部7とは別体に形成し、各部品を組み立てることで針ハブを形成してもよい。
【0113】
また、上述の第1及び第2の実施形態では、調整部5を針保持部7と一体に形成したが、調整部を針保持部とは別体に形成し、針管に固定してもよい。
【符号の説明】
【0114】
1、30・・・薬剤注射装置、2・・・注射針組立体、3、34・・・薬剤容器、4・・・薬剤容器設置部、5・・・調整部、6・・・安定部、7・・・針保持部、8・・・ガイド部、9・・・針管、10・・・第1の針先、11・・・第2の針先、12・・・貫通孔、13・・・注入用孔、14・・・係止片、15・・・挿入孔、16、33・・・針穿刺部、17、31・・・第2部材、18・・・第1部材、19・・・突出部、20・・・ガード部、21・・・シール部材、22・・・接着剤、23・・・フランジ片、24・・・フランジ、25・・・設置面、26・・・針ハブ、27、35・・・容器本体、28・・・液室、70・・・把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の第1部材とシート状の第2部材を接合することで薬剤を充填するための液室を形成した容器本体と、
前記第2部材において外側に向かって突出して形成され、針管が刺入される針穿刺部と、
前記針穿刺部の端部に設けられ、前記針管が貫通するシール部材とを備え、
前記第1部材が前記第2部材に向かって押圧されることで、前記シール部材を貫通して前記針穿刺部に刺入された前記針管を介して、前記液室に充填された薬剤が排出されることを特徴とする薬剤容器。
【請求項2】
前記第2部材は可撓性の材料から形成され、
前記針穿刺部は、前記シール部材が設けられていない部分を包囲する、非可撓性のガード部を備える請求項1に記載の薬剤容器。
【請求項3】
前記第1部材は可撓性の材料から形成され、前記第2部材は非可撓性の材料から形成されている請求項1に記載の薬剤容器。
【請求項4】
前記第1部材が前記第2部材に向かって押圧される方向が、前記針穿刺部に刺入された針管の軸方向と一致するように構成された請求項1〜3のいずれかに記載の薬剤容器。
【請求項5】
前記第1部材と前記第2部材の前記液室に相当する部分が、それぞれドーム状に形成され相対するように配置されている請求項1〜4のいずれかに記載の薬剤容器。
【請求項6】
内部に薬剤が充填された薬剤容器と、
生体を穿刺する第1の針先と前記薬剤容器に刺入する第2の針先とを有する針管と、
前記針管の中間部を保持する針保持部と、
前記針保持部の前記第2の針先側に設けられ、前記薬剤容器が設置される薬剤容器設置部とを備え、
前記薬剤容器は、シート状の第1部材とシート状の第2部材を接合することで薬剤を充填するための液室を形成した容器本体と、前記第2部材において外側に向かって突出して形成され、前記第2の針先が刺入される針穿刺部と、前記針穿刺部の端部に設けられ、前記第2の針先が貫通するシール部材とを有し、
前記第1部材が前記第2部材に向かって押圧されることで、前記シール部材を貫通して前記針穿刺部に刺入された前記針管を介して、前記液室に充填された薬剤が排出されることを特徴とする薬剤注射装置。
【請求項7】
前記針管は、前記第2の針先が前記針穿刺部に刺入されたとき該第2の針先が該針穿刺部内に止まるように前記針保持部に保持されている請求項6に記載の薬剤注射装置。
【請求項8】
前記薬剤容器設置部は、前記薬剤容器を設置する設置面と、該設置面の中央部に前記針管の第2の針先を囲むように形成され、前記針穿刺部が挿入される挿入孔とを有し、
前記第2の針先は、前記設置面に達しないように前記針保持部に保持されている請求項6又は7に記載の薬剤注射装置。
【請求項9】
前記第2部材は可撓性の材料から形成され、
前記針穿刺部は、前記シール部材が設けられていない部分を包囲する、非可撓性のガード部を備える請求項6〜8のいずれかに記載の薬剤注射装置。
【請求項10】
前記薬剤容器が前記薬剤容器設置部に設置されたとき、前記第2の針先は前記シール部材に当接するが貫通しないことを特徴とする請求項9に記載の薬剤注射装置。
【請求項11】
前記シール部材の前記第2の針先による刺入に対する抵抗力は、前記生体に第1の針先による刺入に対する抵抗力より大きいことを特徴とする請求項10に記載の薬剤注射装置。
【請求項12】
前記第1部材は可撓性の材料から形成され、前記第2部材は非可撓性の材料から形成されている請求項6〜8のいずれかに記載の薬剤注射装置。
【請求項13】
前記第1部材が前記第2部材に向かって押圧される方向が、前記針穿刺部に刺入された針管の軸方向と一致するように構成された請求項6〜12のいずれかに記載の薬剤注射装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−10971(P2012−10971A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150494(P2010−150494)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】