薬剤注射装置
【課題】注射針を生体に穿刺した状態の注射装置を安定して保持しながら、可撓性の薬剤容器を押圧して薬剤を注射針から排出できるようにすること。
【解決手段】薬剤注射装置1は、薬剤容器3と、針管5と、針保持部11と、薬剤容器設置部15を備える。針管5は、第1の針先8と第2の針先9を有しており、中間部が針保持部11に保持されている。第2の針先9は薬剤容器設置部15から突出している。薬剤容器3は、容器本体31と、シール部材32と、保護板33を有する。容器本体31は、第2の針先9が貫通する接触部35と、接触部35に対向する押圧部36とを有し、押圧部36が接触部35側に押圧されて変形する。シール部材32は、接触部35の第2の針先9が貫通する部分に取り付けられ、針管5の周面に液密に密着する。保護板33は、容器本体31内に挿入された第2の針先9が押圧部36を貫通することを回避する。
【解決手段】薬剤注射装置1は、薬剤容器3と、針管5と、針保持部11と、薬剤容器設置部15を備える。針管5は、第1の針先8と第2の針先9を有しており、中間部が針保持部11に保持されている。第2の針先9は薬剤容器設置部15から突出している。薬剤容器3は、容器本体31と、シール部材32と、保護板33を有する。容器本体31は、第2の針先9が貫通する接触部35と、接触部35に対向する押圧部36とを有し、押圧部36が接触部35側に押圧されて変形する。シール部材32は、接触部35の第2の針先9が貫通する部分に取り付けられ、針管5の周面に液密に密着する。保護板33は、容器本体31内に挿入された第2の針先9が押圧部36を貫通することを回避する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤が封入された可撓性を有する薬剤容器を備える薬剤注射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリンジ内に予め薬剤が充填されたプレフィルドシリンジが多く利用されるようになってきた。このようなプレフィルドシリンジでは、薬剤投与時にバイアル瓶からシリンジ内に薬剤を吸引する必要がなく、投与に要する時間を短縮できる他、薬剤の無駄を減らすことができる。
【0003】
また、プレフィルドシリンジの代わりに可撓性を有する薬剤容器を用いた注射装置が開発されている(特許文献1及び2)。このような注射装置では、まず、薬剤容器と注射針を連通させる。そして、薬剤容器を押圧することで、薬剤容器の内部に封入された薬剤を注射針から外部へ排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−137343号公報
【特許文献2】特表平10−509335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された注射装置は、可撓性の薬剤容器が注射針の延伸方向に対して略垂直な方向に変形可能となっている。このため、注射針を穿刺する方向と薬剤容器を押圧する方向が異なってしまう。したがって、薬剤投与時に、特に片手で投与操作を行う場合は、注射針を生体に穿刺した状態の注射装置を安定して保持しながら、薬剤容器の薬剤を注射針から排出させることが難しかった。特に、背圧(back-pressure)が高い皮内などの部位へ薬剤を投与する場合は、注射針の穿刺深さが安定せず、目的の部位に薬剤を投与することが難しく、薬剤投与によって期待される効果が得られないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、注射針を生体に穿刺した状態の注射装置を安定して保持しながら、可撓性の薬剤容器を押圧して薬剤を注射針から排出させることができる注射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の薬剤注射装置は、薬剤が充填された薬剤容器と、針管と、針保持部と、薬剤容器設置部とを備えている。針管は、生体を穿刺する第1の針先と、薬剤容器の内部に刺入可能な第2の針先とを有しており、この針管の中間部が針保持部に保持されている。薬剤容器設置は、針保持部の第2の針先側に設けられており、この薬剤容器設置部から第2の針先が突出している。
薬剤容器は、容器本体と、シール部材と、貫通回避部とを有している。容器本体は、第2の針先が貫通すると共に薬剤容器設置部に接触する接触部と、接触部に対向する押圧部とを有し、押圧部が接触部側に押圧されて変形する。シール部材は、接触部の第2の針先が貫通する部分に取り付けられ、針管の周面に液密に密着する。貫通回避部は、容器本体内に刺入された第2の針先が押圧部を貫通することを回避する。
【0008】
上記構成の薬剤注射装置では、針管の第2の針先が薬剤容器の容器本体における接触部を貫通すると容器本体内と針管の内腔が連通する。そして、容器本体の押圧部を接触部側に押圧すると、容器本体に充填された薬剤が針管の第1の針先から外部へ排出される。したがって、容器本体を押圧する方向と、針管の第1の針先を生体に穿刺する方向が同じ方向になる。その結果、第1の針先を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置を安定して保持しながら、薬剤容器を押圧して薬剤を第1の針先から排出させることができる。
【0009】
また、貫通回避部は、接触部を貫通した第2の針先が押圧部を貫通することを回避する。これにより、薬剤の第1の針先からの排出が止まることを防止できると共に、第2の針先が押圧部を押圧する指先等に刺さることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
上記構成の薬剤注射装置によれば、注射針を生体に穿刺した状態の注射装置を安定して保持しながら、可撓性の薬剤容器を押圧して薬剤を注射針から排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態における注射針組立体に薬剤容器を設置して第1の針先を生体に穿刺した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態における針管の第2の針先が薬剤容器の接触部を貫通した状態を示す断面図である。
【図4】本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【図5】本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図6】本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態における注射針組立体に薬剤容器を設置して第1の針先を生体に穿刺した状態を示す断面図である。
【図7】本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態における注射針組立体の第2の針先が薬剤容器を貫通した状態を示す断面図である。
【図8】本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【図9】本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図10】本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態における注射針組立体に薬剤容器を設置した状態を示す断面図である。
【図11】本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態における第1の針先を生体に穿刺した状態を示す断面図である。
【図12】本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の薬剤注射装置を実施するための形態について、図1〜図12を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0013】
1.第1の実施の形態
[薬剤注射装置]
まず、本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態について、図1を参照して説明する。
図1は、薬剤注射装置の第1の実施の形態の構成を示す断面図である。
【0014】
図1に示すように、薬剤注射装置1は、注射針組立体2と、この注射針組立体2に設置される薬剤容器3から構成されている。この薬剤注射装置1は、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる。
【0015】
皮膚は、表皮と、真皮と、皮下組織の3部分から構成される。表皮は、皮膚表面から50〜200μm程度の層であり、真皮は、表皮から続く1.5〜3.5mm程度の層である。そして、皮膚上層部とは、皮膚のうちの表皮と真皮を指す。なお、ワクチンなどの薬剤の皮膚上層部への投与量は、50〜300μL程度、好ましくは100μL程度である。
【0016】
[注射針組立体]
注射針組立体2は、針孔を有する中空の針管5と、この針管5が固定される針ハブ6を備えている。
針管5は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で22〜33ゲージ(外径0.2〜0.7mm)のものを使用し、好ましくは26〜33ゲージ、より好ましくは30〜33ゲージのものを使用する。
【0017】
針管5の一端には、生体に穿刺される第1の針先8が設けられ、他端には薬剤容器3の後述する接触部35に穿刺される第2の針先9が設けられている。第1の針先8は、刃面8aを有している。この刃面8aの針管5が延びる方向の長さ(以下、「ベベル長B」という)は、皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、また、33ゲージの針管に短ベベルを形成したときのベベル長である約0.5mm以上であればよい。つまり、ベベル長Bは、0.5〜1.4mmの範囲に設定されるのが好ましい。
【0018】
さらに、ベベル長Bは、皮膚上層部の最薄の厚さが0.9mm(小児)以下であればなおよい。すなわち、ベベル長Bは、0.5〜0.9mmの範囲に設定されることがより好ましい。なお、「短ベベル」とは、注射用針に一般的に用いられる、針の長手方向に対して18〜25°をなす刃面を指す。
【0019】
第2の針先9は、刃面9aを有している。この刃面9aの針管5が延びる方向の長さは、任意に設定することができるが、第1の針先8の刃面8aと同じ長さに設定することができる。
【0020】
針管5の材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管5は、ストレート針や、少なくとも一部がテーパー構造となっているテーパー針を適用することができる。テーパー針としては、第1の針先8側の外径よりも第2の針先9側の外径を大きくし、その中間部分をテーパー構造とすればよい。なお、この場合は、第1の針先8と第2の針先9の形状が異なってもよい。
【0021】
次に、針ハブ6について説明する。
針ハブ6は、針管5の中間部を保持する針保持部11と、調整部12と、安定部13と、ガイド部14と、薬剤容器設置部15を備えている。この針ハブ6の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0022】
針保持部11は、略円柱状に形成されており、軸方向に垂直な端面11aを有している。調整部12は、針保持部11の端面11aの中央部に設けられており、針保持部11の軸方向に突出する円柱状の凸部からなっている。この調整部12の軸心は、針保持部11の軸心に一致している。
【0023】
針保持部11及び調整部12の軸心には、針管5が貫通する貫通孔18が設けられている。そして、針保持部11には、貫通孔18に接着剤20を注入するための注入用孔19が設けられている。この注入用孔19は、針保持部11の外周面に開口されており、貫通孔18に連通している。すなわち、注入用孔19から貫通孔18へ注入された接着剤20により、針管5が針保持部11に固着される。
【0024】
針保持部11の外周面には、針保持部11の半径外方向に突出するリング状のフランジ21が設けられている。このフランジ21は、針保持部11の軸方向において対向する平面21a,21bを有している。フランジ21の平面21aは、針保持部11の端面11aと同一平面になっている。また、フランジ21の外縁部は、ガイド部14になっている。このガイド部14については、後で詳しく説明する。
【0025】
調整部12の端面は、針管5の第1の針先8側が突出する針突出面12aになっている。針突出面12aは、針管5の軸方向に直交する平面として形成されている。この針突出面12aは、針管5を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して針管5を穿刺する深さを規定する。つまり、針管5が皮膚上層部に穿刺される深さは、針突出面12aから突出する針管5の長さ(以下、「突出長L」という。)によって決定される。
【0026】
皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5〜3.0mmの範囲内にある。そのため、針管5の突出長Lは、0.5〜3.0mmの範囲に設定することができる。
【0027】
ところで、ワクチンは一般的に上腕部に投与されるが、皮膚上層部への投与の場合には、皮膚が厚い肩周辺部、特に三角筋部が好ましい。そこで、小児19人と大人31人について、三角筋の皮膚上層部の厚みを測定した。この測定は、超音波測定装置(NP60R−UBM 小動物用高解像度用エコー、ネッパジーン(株))を用いて、超音波反射率の高い皮膚上層部を造影することで行った。なお、測定値が対数正規分布となっていたため、幾何平均によってMEAN±2SDの範囲を求めた。
【0028】
その結果、小児の三角筋における皮膚上層部の厚みは、0.9〜1.6mmであった。また、成人の三角筋における皮膚上層部の厚みは、遠位部で1.4〜2.6mm、中央部で1.4〜2.5mm、近位部で1.5〜2.5mmであった。以上のことから、三角筋における皮膚上層部の厚みは、小児の場合で0.9mm以上、成人の場合で1.4mm以上であることが確認された。したがって、三角筋の皮膚上層部における注射において、針管5の突出長Lは、0.9〜1.4mmの範囲に設定することが好ましい。
【0029】
突出長Lをこのように設定することで、第1の針先8の刃面8aを皮膚上層部に確実に位置させることが可能となる。その結果、刃面8aに開口する針孔(薬剤排出口)は、刃面8a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部に位置することが可能である。なお、薬剤排出口が皮膚上層部に位置しても、第1の針先8が皮膚上層部よりも深く刺されば、第1の針先8端部の側面と切開された皮膚との間から薬剤が皮下に流れてしまうため、刃面8aが確実に皮膚上層部にあることが重要である。
【0030】
なお、26ゲージよりも太い針管では、ベベル長Bを1.0mm以下にすることは難しい。したがって、針管5の突出長Lを好ましい範囲(0.9〜1.4mm)に設定するには、26ゲージよりも細い針管を使用することが好ましい。
【0031】
針突出面12aは、周縁から針管5の外周面までの距離Sが1.4mm以下となるように形成し、好ましくは0.3〜1.4mmの範囲で形成する。この針突出面12aの周縁から針管5の周面までの距離Sは、皮膚上層部へ薬剤を投与することで形成される水疱に圧力が加わることを考慮して設定している。つまり、針突出面12aは、皮膚上層部に形成される水疱よりも十分に小さく、水疱の形成を妨げない大きさに設定している。その結果、針突出面12aが針管5の周囲の皮膚を押圧しても、投与された薬剤が漏れることを防止することができる。
【0032】
安定部13は、針保持部11に設けたフランジ21の平面21aから突出する円形の筒孔を有する筒状に形成されている。安定部13の筒孔には、針管5及び調整部12が配置されている。つまり、安定部13は、針管5が貫通する調整部12の周囲を覆う筒状に形成されており、針管5から針保持部11の半径外方向に離間して設けられている。
【0033】
安定部13の端面13aは、調整部12の針突出面12aよりも針管5の第2の針先9側に位置している。針管5の第1の針先8を生体に穿刺すると、まず、針突出面12aが皮膚の表面に接触し、その後、安定部13の端面13aに接触する。このとき、安定部13の端面13aが皮膚に接触することで薬剤注射装置1が安定し、針管5を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。
【0034】
なお、安定部13の端面13aは、針突出面12aと同一平面上に位置させたり、また、針突出面12aよりも針管5の第1の針先8側に位置させたりしても、針管5を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。なお、安定部13を皮膚に押し付けた際の皮膚の盛り上がりを考慮すると、安定部13の端面13aと針突出面12aとの針保持部11の軸方向の距離は、1.3mm以下に設定することが好ましい。
【0035】
また、安定部13の内径dは、皮膚に形成される水疱の直径と同等であるか、それよりも大きい値に設定されている。具体的には、安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離Tが4mm〜15mmの範囲となるように設定されている。これにより、安定部13の内壁面から水疱に圧力が印加されることによって水疱形成が阻害されることを防止することができる。
【0036】
安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離Tは、4mm以上であれば、特に上限はない。しかしながら、距離Tを大きくすると、安定部13の外径が大きくなるため、小児のように細い腕に針管5を穿刺する場合に、安定部13の端面13a全体を皮膚に接触させることが難しくなる。そのため、距離Tは、小児の腕の細さを考慮して15mmを最大と規定することが好ましい。
【0037】
針突出面12aの周縁から針管5の外周面までの距離Sが0.3mm以上であれば、調整部12が皮膚に進入することはない。したがって、安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離T(4mm以上)及び針突出面12aの直径(約0.3mm)を考慮すると、安定部13の内径dは9mm以上に設定することができる。
【0038】
なお、安定部13の形状は、円筒状に限定されるものではなく、例えば、中心に筒孔を有する四角柱や六角柱等の角筒状に形成してもよい。
【0039】
ガイド部14は、フランジ21における安定部13よりも外周側の部分である。このガイド部14は、皮膚と接触する接触面14aを有している。接触面14aは、フランジ21における平面21aの一部であり、安定部13の端面13aと略平行をなす平面である。ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触するまで安定部13を押し付けることにより、安定部13及び針管5が皮膚を押圧する力を常に所定値以上に確保することができる。これにより、針管5の針突出面12aから突出している部分(突出長Lに相当)が確実に皮膚内に穿刺される。
【0040】
ガイド部14の接触面14aから安定部13の端面13aまでの距離(以下、「ガイド部高さ」という。)Yは、針管5及び安定部13が適正な押圧力で皮膚を押圧し穿刺することができるようにその長さが設定されている。これにより、針管5及び安定部13による皮膚への押圧力をガイド部14が案内し、針管5の第1の針先8(刃面8a)を皮膚上層部に確実に位置させることができると共に、使用者に安心感を与えることができる。なお、針管5及び安定部13の適正な押圧力は、例えば、3〜20Nである。
【0041】
ガイド部高さYは、安定部13の内径dの範囲が11〜14mmの場合、ガイド部14の先端面から安定部13の外周面までの長さ(以下、「ガイド部長さ」という。)Xに基づいて適宜決定される。例えば、安定部13の内径dが12mmであり、ガイド部長さXが3.0mmのとき、ガイド部高さYは、2.3〜6.6mmの範囲に設定される。
【0042】
薬剤容器設置部15は、針保持部11の端面11aと反対側の端部に連続して設けられている。この薬剤容器設置部15は、所定の厚みを有する四角形の板状に形成されており、中心が針保持部11の軸心に一致している。薬剤容器設置部15の針保持部11とは反対側の面15a(以下、上面15aという)は、針保持部11の軸方向に直交する平面になっている。
【0043】
薬剤容器設置部15の上面15aには、凹部16が設けられている。この凹部16は、針保持部11の軸線上の点を中心とした球面16aを設けることにより形成されている。
薬剤容器設置部15の上面15a及び球面16aは、薬剤容器3の接触部35が接触する設置面22になっている。
【0044】
針管5の第2の針先9側は、球面16aの中央部から突出している。第2の針先9側が球面16aから突出する長さは、少なくとも刃面9aのベベル長に、薬剤容器3の後述する接触部35の厚みとシール部材32の厚みを加えた長さになっている。これにより、針管5を薬剤容器3の内部に確実に連通させることができる。
【0045】
また、上面15aの4つの辺には、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器3の移動(ずれ)を防止する係止片23がそれぞれ設けられている。係止片23は、上面15aから略垂直に突出した板状に形成されている。なお係止片23は、ピン(棒状)であってもよい。
【0046】
また、薬剤容器設置部15の下面15bは、針保持部11から半径外方向に延在しており、この下面15bとフランジ21の平面21bと針保持部11の外周面とから把持部110が形成されている。把持部110は、ボビン状に形成されており、周回した凹部を有する。薬剤注射装置1の使用時には、例えば、人差し指と中指を把持部110の凹部に位置させ、両者で針保持部11を挟み込むようにして薬剤注射装置1を把持することができる。このような把持部110は、凹状に窪んでいることで指を安定させ、薬剤注射装置1を把持し易くしている。
【0047】
[薬剤容器]
次に、薬剤容器3について説明する。
薬剤容器3は、容器本体31と、シール部材32と、貫通回避部の第1の具体例を示す保護板33から構成されている。
【0048】
容器本体31は、2枚のシートを重ね合わせ、周縁部を例えば熱融着や超音波融着により液密に接合することにより扁平な袋状に形成されている。このような容器本体31は、射出成形、押出成形、カレンダー成形、ブロー成形、インフレーション成形等によって製造することができる。
【0049】
容器本体31は、一方のシートである接触部35と、他方のシートである押圧部36から構成されており、これら接触部35及び押圧部36が互いに重なり合って接合されることで容器本体31にはフランジ片37が形成されている。そして、接触部35と押圧部36によって形成される内部空間は、薬剤100が充填された液室になっている。
本実施の形態では、容器本体31として四角形のシートを採用し、接触部35と押圧部36が対向する方向から見た液室の輪郭が略円形になるように接合しており、フランジ片37の外形は、四角形になっている。
【0050】
接触部35と押圧部36は、液室を挟んで対向している。針管5の第2の針先9は、接触部35を貫通して容器本体31内(液室)に配置される。この状態で押圧部36を接触部35側に押圧すると、押圧部36の内面が接触部35の内面に接近し、容器本体31の内圧が高まる。その結果、容器本体31内の薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から外部へ排出される。
【0051】
接触部35及び押圧部36は、可撓性を有する材料によって形成されており、第2の針先9が貫通可能になっている。これら接触部35及び押圧部36の材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の軟質樹脂材料、あるいは、ポリエチレンまたはポリプロピレンに、スチレン系熱可塑性エラストマやオレフィン系熱可塑性エラストマをブレンドし柔軟化したものを挙げることができる。これらの材料は、用途に応じて2層、3層と積層させた複合材料として用いることができる。
【0052】
軟質樹脂材料の引張弾性率は、500MPa以下、好ましくは50〜300MPaが、取り扱い易さ、液の排出性などの点で好ましい。軟質樹脂材料の厚さは、その層構成や用いる素材の特性(柔軟性、強度、水蒸気透過性、耐熱性等)等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、100〜500μm程度であるのが好ましく、200〜360μm程度であるのがより好ましい。また、容器本体31の内面は、低密度ポリエチレン製ラミネートフィルムのようなフィルムでコートしてもよい。
【0053】
また、容器本体31は、水蒸気バリヤー性を有することが好ましい。容器本体31が水蒸気バリヤー性を有することにより、内部からの水分の蒸散が防止できるとともに、外部からの水蒸気の侵入を防止することができる。
水蒸気バリヤー性の程度としては、水蒸気透過度が50g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であることが好ましく、より好ましくは、10g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であり、さらに好ましくは、1g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下である。この水蒸気透過度は、JISK7129(A法)に記載の方法により測定される。
【0054】
薬剤100としては、例えば、インフルエンザ等の感染症を予防する各種のワクチンが挙げられるが、ワクチンに限定されるものではない。なお、ワクチン以外では、例えば、ブドウ糖等の糖質注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、抗生物質注射液、造影剤、ステロイド剤、ホルモン剤、蛋白質分解酵素阻害剤、脂肪乳剤、抗癌剤、麻酔薬、覚せい剤、麻薬、ヘパリンカルシウム、抗体医薬等が挙げられる。
【0055】
薬剤100を充填した薬剤容器3は、例えば、成形(ブロー)、充填(フィル)、密封(シール)を一連の作業で行うブローフィル成型により製造することができる。
薬剤100を充填した薬剤容器3をブローフィル成型により製造するには、まず、長方形の2枚のシートを重ね合わせて互いの長辺側を融着し、略筒状の容器材を形成する。次に、筒状の容器材の一端(短辺側)を融着により封止し、薬剤100を充填する。そして、他端(短辺側)を融着により封止し、その他端を切断する。これにより、薬剤100を充填した薬剤容器3が形成される。なお、融着金型の形状を工夫することで液室の形状を自在に作製することができる。
【0056】
シール部材32は、接触部35における外面の中央部に貼り付けられている。この接触部35の中央部は、第2の針先が貫通する部分である。つまり、シール部材32は、接触部35の第2の針先が貫通する部分に貼り付けられており、第2の針先9がシール部材32と接触部35を貫通して容器本体31内に刺入される。
【0057】
シール部材32は、貫通した針管5の周面に液密に密着する。これにより、針管5の第2の針先が接触部35を貫通した状態で、針管5と接触部35との間から薬剤が漏れることを防止することができる。また、シール部材32の第2の針先9の刺入に対する抵抗力は、生体(例えば、皮膚)の第1の針先8の刺入に対する抵抗力よりも大きい。これにより、第1の針先8が生体に穿刺されてから、第2の針先9をシール部材32(接触部35)に貫通させることができる。
【0058】
シール部材32としては、針管5との液密性を良好にするためにゴム弾性を有する材料から形成することが好ましい。このゴム弾性を有する材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレン系エラストマ、熱可塑性エラストマ、シリコーンゴム、あるいはそれらの混合物等を挙げることができる。
【0059】
保護板33は、押圧部36における外面の中央部に貼り付けられており、接触部35に貼り付けたシール部材32に対向している。この保護板33は、押圧部36を押圧して接触部35に接近させたときに、容器本体31内に挿入されている第2の針先9に当接し、第2の針先9が押圧部36を貫通することを妨げる。
【0060】
保護板33としては、第2の針先9が貫通しない程度の硬度を有している。この保護板33の材料としては、例えば、鉄、ステンレス等の金属を挙げることができる。また、保護板33としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)等の硬質の合成樹脂から形成してもよい。
【0061】
[薬剤注射装置の使用方法]
次に、薬剤注射装置1の使用方法について、図2〜図4を参照して説明する。
図2は、注射針組立体2に薬剤容器3を設置して第1の針先8を生体に穿刺した状態を示す断面図である。図3は、第2の針先9が薬剤容器3の接触部35を貫通した状態を示す断面図である。図4は、薬剤注射装置1による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【0062】
薬剤注射装置1の使用前の状態は、注射針組立体2と薬剤容器3が分離されている(図1参照)。したがって、薬剤注射装置1を使用する場合は、まず、注射針組立体2の薬剤容器設置部15に薬剤容器3を設置し、薬剤注射装置1を組み立てる。
【0063】
薬剤注射装置1の組み立て状態としては、針管5の第2の針先がシール部材32に当接している第1の組み立て状態と、第2の針先9が薬剤容器3の容器本体31内に挿入されている第2の組み立て状態がある。ここでは、まず、第1の組み立て状態にした場合の使用方法を説明し、その後、第2の組み立て状態にした場合の使用方法を説明する。
【0064】
〈第1の組み立て状態〉
薬剤注射装置1を第1の組み立て状態にする場合は、注射針組立体2の薬剤容器設置部15に薬剤容器3を対向させ、薬剤容器3のフランジ片37の各辺が薬剤容器設置部15の各係止片23とそれぞれ平行になるように薬剤容器3の位置を調整する。
【0065】
次に、薬剤容器設置部15に薬剤容器3を載せる。これにより、薬剤注射装置1が第1の組み立て状態になる。このとき、針管5の第2の針先9はシール部材32に当接し、接触部35を貫通していない。そして、接触部35の外面は、シール部材32を貼り付けた中央部が押圧部36側に凹となるように湾曲する(図2参照)。そして、接触部35の周縁部が薬剤容器設置部15の上面15a及び球面16a(設置面22)に接触する。
【0066】
また、薬剤容器3のフランジ片37は、薬剤容器設置部15の各係止片23に当接する。これにより、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器3の移動が係止され、薬剤容器3を位置決めすることができる。
【0067】
次に、針管5の第1の針先8を生体に穿刺する。第1の針先8を生体に穿刺するには、まず、安定部13の端面13aを皮膚に対向させる。次に、薬剤注射装置1を皮膚に対して略垂直に移動させ、薬剤容器3の押圧部36を接触部35側に押圧して、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける(図2参照)。このとき、第2の針先9はシール部材32を貫通せずに、第1の針先8が皮膚に穿刺される。そして、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0068】
続いて、ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触するまで薬剤容器3の押圧部36を押圧する。ここで、ガイド部高さY(図1参照)は、針管5及び安定部13が適正な押圧力で皮膚に穿刺し薬剤を注入することができるようにその長さが設定されている。そのため、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。
【0069】
その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。このように、ガイド部14が安定部13の適正な押圧力を認識させる目印となることで、使用者が安心して薬剤注射装置1を使用することができる。
【0070】
また、安定部13が皮膚に当接することで、薬剤注射装置1の姿勢が安定し、針管5を皮膚に対して真っ直ぐに穿刺することができる。また、穿刺後に針管5に生じるブレを防止することができ、薬剤の安定した投与を行うことができる。
【0071】
例えば0.5mm程度のごく短い突出長の針管では、針先を皮膚に当接させても皮膚に刺さらない場合がある。しかし、安定部13に押し付けられた皮膚が垂直方向に押し下げられることにより、安定部13の内側の皮膚が引っ張られて皮膚に張力が加わった状態となる。そのため、針管5の第1の針先8に対して皮膚が逃げ難くなる。したがって、安定部13を設けることにより、皮膚に第1の針先8をより刺さり易くするという効果を得ることもできる。
【0072】
ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触すると、第2の針先9がシール部材32及び接触部35を貫通し、針管5の針孔が容器本体31内(液室)に連通する(図3参照)。そして、容器本体31内に挿入された第2の針先9に保護板33が当接するまで押圧部36を押圧する(図4参照)。これにより、容器本体31内に圧力がかかり、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0073】
このとき、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体31(押圧部36)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置1を安定して保持しながら、容易に容器本体31を押圧することができる。その結果、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができ、皮膚上層部へ投与する薬剤100の量を安定させることができる。また、穿刺作業とそれに続く注入作業を一連の動作で行うことができるので、操作が容易となり、薬剤注射装置1を片手で操作することができる。
【0074】
また、容器本体31内に挿入された第2の針先9に保護板33が当接するため、接触部35を貫通した第2の針先9が押圧部36を貫通することはない。これにより、薬剤100が確実に第1の針先8から排出されると共に、押圧部36を押圧する指先等に第2の針先9が刺さらないようにすることができる。
【0075】
また、本実施の形態では、薬剤容器3の接触部35が第2の針先9が貫通可能な可撓性を有する材料によって形成し、設置面22の球面16aに接触させるようにした。これにより、薬剤容器3における押圧部36の内面全体を接触部35の内面全体に容易に当接させることができ、薬剤容器3に残留する薬剤の量を少なくすることができる。
【0076】
また、本実施の形態では、薬剤容器設置部15に薬剤容器3の接触部35が接触する球面16aを形成した。しかしながら、薬剤容器設置部における薬剤容器の接触部が接触する面は、円錐面にすることもできる。
【0077】
〈第2の組み立て状態〉
次に、薬剤注射装置1を第2の組み立て状態にした場合の使用方法について説明する。
薬剤注射装置1を第2の組み立て状態にする場合は、注射針組立体2の薬剤容器設置部15に薬剤容器3を対向させ、薬剤容器3の各フランジ片37が薬剤容器設置部15の各係止片23とそれぞれ平行になるように薬剤容器3の位置を調整する。
【0078】
次に、薬剤容器設置部15に薬剤容器3を載せて、薬剤容器3の押圧部36を押圧する。これにより、針管5の第2の針先9がシール部材32を貫通して、針管5の針孔が容器本体31内(液室)に連通する。その結果、薬剤注射装置1が第2の組み立て状態になる。
【0079】
次に、注射針組立体2の針ハブ6を把持して安定部13の端面13aを皮膚に対向させ、さらに薬剤注射装置1を皮膚に対して略垂直に移動させて、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける。このとき、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0080】
続いて、把持した針ハブ6をさらに皮膚側に押圧して、ガイド部14の接触面14aを皮膚に接触させる(図3参照)。これにより、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。
【0081】
次に、容器本体31内に挿入された第2の針先9に保護板33が当接するまで押圧部36を押圧する(図4参照)。これにより、容器本体31内に圧力がかかり、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0082】
第2の組み立て状態においても、第1の組み立て状態と同様に、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体31(押圧部36)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置1を安定して保持しながら、容易に容器本体31を押圧することができる。その結果、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができ、皮膚上層部へ投与する薬剤100の量を安定させることができる。
【0083】
また、保護板33が第2の針先9に当接するため、容器本体31内に挿入された第2の針先9が再び容器本体31を貫通することはない。したがって、薬剤100の排出が妨げられることは無く、且つ、第2の針先9が押圧部36を押圧する指先等に刺さらないようにすることができる。
【0084】
2.第2の実施の形態
[薬剤注射装置]
まず、本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態について、図5を参照して説明する。
図5は、薬剤注射装置の第2の実施の形態の構成を示す断面図である。
【0085】
図5に示すように、第2の実施の形態の薬剤注射装置41は、第1の実施の形態の薬剤注射装置1(図1参照)と同様の構成を有している。この薬剤注射装置41が薬剤注射装置1と異なる点は、薬剤容器43と薬剤容器設置部55のみである。そのため、ここでは、薬剤容器43と薬剤容器設置部55について説明し、薬剤注射装置1と共通する構成部品には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0086】
薬剤注射装置41は、注射針組立体42と、この注射針組立体42に設置される薬剤容器43から構成されている。この薬剤注射装置41は、薬剤注射装置1と同様に、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる。
【0087】
注射針組立体42は、針孔を有する中空の針管5と、この針管5が固定される針ハブ46を備えている。針ハブ46は、針管5の中間部を保持する針保持部11と、調整部12と、安定部13と、ガイド部14と、薬剤容器設置部55を備えている。この針ハブ46の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0088】
薬剤容器設置部55は、針保持部11の端面11aと反対側の端部に連続して設けられている。この薬剤容器設置部55は、針保持部11の軸方向に直交する一面が開口された筐体状に形成されており、四角形の底部56と、4つの側板部57を有している。底部56の中心は、針保持部11の軸心に一致している。この底部56の内面56aは、針保持部11の軸方向に直交する平面であり、薬剤容器43の接触部35が接触する設置面になっている。
【0089】
針管5の第2の針先9側は、内面56aの中央部から突出している。第2の針先9側が内面56aから突出する長さは、少なくとも刃面9aのベベル長に、薬剤容器43の接触部35の厚みとシール部材32の厚みを加えた長さになっている。これにより、針管5を薬剤容器43の内部に確実に連通させることができる。また、4つの側板部57は、薬剤容器43の後述するフランジ片67に係合して、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器43の移動(ずれ)を抑止する。
【0090】
[薬剤容器]
次に、薬剤容器43について説明する。
薬剤容器43は、容器本体61と、シール部材32から構成されている。
【0091】
容器本体61は、接触部35と、薬剤容器設置部55の底部56と同じ大きさの四角形の板状に形成された押圧部66から構成されている。この容器本体61は、接触部35及び押圧部66の周縁部を液密に接合することにより扁平な袋状に形成されている。
【0092】
接触部35及び押圧部66の互いに接合された周縁部は、容器本体61のフランジ片67を形成している。そして、接触部35と押圧部66によって形成される内部空間は、薬剤100が充填された液室になっている。
なお、容器本体61の液室は、第1の実施の形態に係る薬剤容器3と同様に、接触部35と押圧部66が対向する方向から見た輪郭が略円形になっている。
【0093】
押圧部66は、容器本体61の一面を形成しており、接触部35に対向している。この押圧部66は、押圧されて接触部35に接近すると、容器本体61内に挿入されている第2の針先9に当接して止まる。つまり、押圧部66は、容器本体の一部でありながら、第2の針先9の貫通を回避する貫通回避部を兼ねている。
【0094】
押圧部66の材料としては、第2の針先9が貫通しない程度の硬度を有するものであればよく、例えば、鉄、ステンレス等の金属や、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)等の硬質の合成樹脂を挙げることができる。
【0095】
[薬剤注射装置の使用方法]
次に、薬剤注射装置41の使用方法について、図6〜図8を参照して説明する。
図6は、注射針組立体42に薬剤容器43を設置して第1の針先8を生体に穿刺した状態を示す断面図である。図7は、第2の針先9が薬剤容器43の接触部35を貫通した状態を示す断面図である。図8は、薬剤注射装置41による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【0096】
薬剤注射装置41の使用前の状態は、注射針組立体42と薬剤容器43が分離されている(図5参照)。したがって、薬剤注射装置41を使用する場合は、まず、注射針組立体42の薬剤容器設置部55に薬剤容器43を設置し、薬剤注射装置41を組み立てる。
【0097】
薬剤注射装置1の組み立て状態としては、第1の実施の形態と同様に、第1の組み立て状態と、第2の組み立て状態がある。
【0098】
〈第1の組み立て状態〉
薬剤注射装置1を第1の組み立て状態にする場合は、注射針組立体42の薬剤容器設置部55に薬剤容器43を対向させ、薬剤容器43のフランジ片67の各辺が薬剤容器設置部55の各側板部57とそれぞれ平行になるように薬剤容器43の位置を調整する。
【0099】
次に、薬剤容器設置部55に薬剤容器43を載せる。これにより、薬剤注射装置41が第1の組み立て状態になる。このとき、針管5の第2の針先9は、シール部材32に当接し、接触部35を貫通していない。そして、接触部35の外面は、シール部材32を貼り付けた中央部が押圧部36側に凹となるように湾曲する(図6参照)。
【0100】
また、薬剤容器43に設けたフランジ片67の周縁は、薬剤容器設置部55の各側板部57の内面に当接する。これにより、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器43の移動が係止され、薬剤容器43を位置決めすることができる。
【0101】
次に、薬剤注射装置41を皮膚に対して略垂直に移動させ、薬剤容器43の押圧部66を接触部35側に押圧して、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける(図6参照)。このとき、第2の針先9はシール部材32を貫通せずに、第1の針先8が皮膚に穿刺される。そして、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0102】
続いて、ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触するまで薬剤容器3の押圧部36を押圧する。これにより、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。このように、ガイド部14が安定部13の適正な押圧力を認識させる目印となることで、使用者が安心して薬剤注射装置1を使用することができる。
【0103】
ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触すると、第2の針先9がシール部材32及び接触部35を貫通し、針管5の針孔が容器本体61内(液室)に連通する(図7参照)。そして、容器本体31内に挿入された第2の針先9に当接するまで押圧部36を押圧する(図8参照)。これにより、容器本体61内に圧力がかかり、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0104】
このとき、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体61(押圧部66)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置41を安定して保持しながら、容易に容器本体61を押圧することができる。その結果、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができ、皮膚上層部へ投与する薬剤100の量を安定させることができる。また、また、穿刺作業とそれに続く注入作業を一連の動作で行うことができるので、操作が容易となり、薬剤注射装置41を片手で操作することができる。
【0105】
また、容器本体61内に挿入された第2の針先9は、押圧部66に当接し、押圧部66を貫通することはない。これにより、薬剤100が確実に第1の針先8から排出されると共に、押圧部66を押圧する指先等に第2の針先9が刺さらないようにすることができる。
【0106】
〈第2の組み立て状態〉
次に、薬剤注射装置41を第2の組み立て状態にした場合の使用方法について説明する。
薬剤注射装置41を第2の組み立て状態にする場合は、注射針組立体42の薬剤容器設置部55に薬剤容器43を対向させ、薬剤容器43の各フランジ片67が薬剤容器設置部55の各側板部57とそれぞれ平行になるように薬剤容器3の位置を調整する。
【0107】
次に、薬剤容器設置部55に薬剤容器43を載せて、薬剤容器43の押圧部66を押圧する。これにより、針管5の第2の針先9がシール部材32を貫通して、針管5の針孔が容器本体61内(液室)に連通する。その結果、薬剤注射装置41が第2の組み立て状態になる。
【0108】
次に、注射針組立体42の針ハブ46を把持して安定部13の端面13aを皮膚に対向させ、さらに薬剤注射装置1を皮膚に対して略垂直に移動させて、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける。このとき、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0109】
続いて、把持した針ハブ46をさらに皮膚側に押圧して、ガイド部14の接触面14aを皮膚に接触させる(図7参照)。これにより、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。
【0110】
次に、容器本体61内に挿入された第2の針先9に当接するまで押圧部66を押圧する(図8参照)。これにより、容器本体61の内圧が上昇し、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0111】
第2の組み立て状態においても、第1の組み立て状態と同様に、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体61(押圧部66)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置41を安定して保持しながら、容易に容器本体61を押圧することができる。その結果、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができ、皮膚上層部へ投与する薬剤100の量を安定させることができる。
【0112】
また、押圧部66が第2の針先9に当接するため、容器本体61内に挿入された第2の針先9が再び容器本体を貫通することはない。したがって、薬剤100の排出が妨げられることは無く、且つ、第2の針先9が押圧部36を押圧する指先等に刺さらないようにすることができる。
【0113】
本実施の形態では、容器本体61の押圧部66を四角形の板状に形成した。しかしながら、押圧部の内面を球面状に形成し、薬剤容器設置部の設置面を押圧部の内面の曲率半径と等しい又はそれ以上の曲率半径である球面状に形成してもよい。また、押圧部を第2の針先9が貫通しない程度の硬度を有し、且つ撓み変形可能な材料で形成し、押圧することで薬剤容器設置部の設置面の形状に応じて変形するようにしてもよい。
【0114】
3.第3の実施の形態
[薬剤注射装置]
まず、本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態について、図9を参照して説明する。
図9は、薬剤注射装置の第3の実施の形態の構成を示す断面図である。
【0115】
図9に示すように、第3の実施の形態の薬剤注射装置71は、第1の実施の形態の薬剤注射装置1(図1参照)と同様の構成を有している。この薬剤注射装置71が薬剤注射装置1と異なる点は、薬剤容器73と薬剤容器設置部85のみである。そのため、ここでは、薬剤容器73と薬剤容器設置部85について説明し、薬剤注射装置1と共通する構成部品には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0116】
薬剤注射装置71は、注射針組立体72と、この注射針組立体72に設置される薬剤容器73から構成されている。この薬剤注射装置71は、薬剤注射装置1と同様に、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる。
【0117】
注射針組立体72は、針孔を有する中空の針管5と、この針管5が固定される針ハブ76を備えている。針ハブ76は、針管5の中間部を保持する針保持部11と、調整部12と、安定部13と、ガイド部14と、薬剤容器設置部85を備えている。この針ハブ76の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0118】
薬剤容器設置部85は、針保持部11の端面11aと反対側の端部に連続して設けられている。この薬剤容器設置部85は、所定の厚みを有する四角形の板状に形成されており、中心が針保持部11の軸心に一致している。薬剤容器設置部85の針保持部11とは反対側の面85a(以下、上面85aという)は、針保持部11の軸方向に直交する平面になっている。
【0119】
薬剤容器設置部85の上面85aには、凹部86が設けられている。この凹部86は、針保持部11の軸線上の点を中心点とした球面86aを設けることにより形成されている。
薬剤容器設置部85の上面85a及び球面86aは、薬剤容器73の接触部92が接触する設置面82になっている。
【0120】
また、薬剤容器設置部85の球面86aには、段部87が形成されている。この段部87は、薬剤容器設置部85の中心部に設けられており、底面87aを有している。針管5の第2の針先9側は、段部87の底面87aから突出している。第2の針先9が底面87aから突出する長さは、少なくとも刃面9aのベベル長に、薬剤容器73の後述する接触部92の厚みとシール部材32の厚みを加えた長さになっている。
【0121】
また、上面85aの4つの辺には、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器73の移動(ずれ)を防止する係止片83がそれぞれ設けられている。係止片83は、上面85aから略垂直に突出した板状に形成されている。なお係止片83は、ピン(棒状)であってもよい。
【0122】
[薬剤容器]
次に、薬剤容器73について説明する。
薬剤容器73は、容器本体91と、シール部材32から構成されている。
【0123】
容器本体91は、接触部92と、押圧部93から構成されている。
接触部92は、器状に形成されており、液室を形成する接触側収納体94と、押圧部93に接合される接合片95からなっている。接触側収納体94は、押圧部93とは反対側に膨出するドーム状に形成されている。この接触側収納体94の外面は、薬剤容器設置部85の球面86aに接触する。そのため、接触側収納体94における外面の曲率半径は、薬剤容器設置部85の球面86aの曲率半径と略等しくなっている。
【0124】
また、接触側収納体94の中心部には、針管5の第2の針先9が貫通する貫通孔94aが設けられている。この貫通孔94aは、シール部材32によって液密に封止されている。
【0125】
接合片95は、接触側収納体94の周縁から突出する枠体からなり、外形が四角形に形成されている。この接合片95の一方の平面は、押圧部93の後述する接合片97に液密に接合される。また、接合片95の他方の平面は、薬剤容器設置部85の上面85aに接触する。そして、接合片95の周端は、薬剤容器設置部85の係止片83に係合する。
【0126】
接触部92は、適当な剛性を有することで非可撓性となるように形成されている。ここで、非可撓性とは、薬剤容器73を押圧する力が加えられても変形しない性質と定義する。この接触部92の材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)等の合成樹脂を挙げることができる。また、接触部92は、鉄、ステンレス等の金属から形成してもよい。
【0127】
押圧部93は、液室を形成する押圧側収納体96と、接触部92の接合片95に接合される接合片97からなっている。押圧側収納体96は、接触側収納体94とは反対側に膨出するドーム状に形成されている。この押圧側収納体96は、可撓性を有しており、一定以上の圧力を加えると、降伏して反転する(座屈が発生する)ように形成されている。
押圧側収納体96に座屈が発生すると、押圧側収納体96は、接触側収納体94側に凸となるように反転し、その内面が接触側収納体94の内面に接触する。
【0128】
押圧側収納体96の中心部には、貫通回避部の第2の具体例を示す針収容部96aが設けられている。この針収容部96aは、押圧側収納体96の内面に連続する凹部として形成されており、押圧側収納体96に座屈が生じたときに、容器本体91内に挿入された第2の針先9を収容する。
【0129】
押圧側収納体96に針収容部96aを設けることにより、第2の針先9が押圧部93を貫通しないようにすることができる。また、押圧側収納体96に座屈が生じたときに、押圧側収納体96の内面を接触側収納体94の内面に接触させることができるため、容器本体91内に残留する薬剤の量を少なくすることができる。
【0130】
押圧部93は、一定以上の圧力を加えると、降伏して反転する材料を用いて形成する。この押圧部93の材料としては、例えば、鉄、ステンレス等の金属、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂等の合成樹脂を挙げることができる。
【0131】
接触部92の接合片95と押圧部93の接合片97は、接着剤、超音波融着等の固着方法により液密に接合されている。これら接触部92の接合片95及び押圧部93の接合片97が互いに重なり合って接着されることで容器本体91にはフランジ片98が形成されている。そして、接触側収納体94と押圧側収納体96によって形成される内部空間は、薬剤100が充填された液室になる。
【0132】
[薬剤注射装置の使用方法]
次に、薬剤注射装置71の使用方法について、図10〜図12を参照して説明する。
図10は、注射針組立体72に薬剤容器73を設置した状態を示す断面図である。図11は、第1の針先8を生体に穿刺した状態を示す断面図である。図12は、薬剤注射装置71による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【0133】
薬剤注射装置71の使用前の状態は、注射針組立体72と薬剤容器73が分離されている(図9参照)。したがって、薬剤注射装置71を使用する場合は、まず、注射針組立体72の薬剤容器設置部85に薬剤容器73を設置し、薬剤注射装置71を組み立てる。
【0134】
薬剤注射装置71を組み立てる場合は、注射針組立体72の薬剤容器設置部85に薬剤容器73を対向させ、薬剤容器73のフランジ片98の各辺が薬剤容器設置部85の各係止片83とそれぞれ平行になるように薬剤容器73の位置を調整する。
【0135】
次に、薬剤容器設置部85に薬剤容器73を載せて、各フランジ片98を薬剤容器設置部85の上面85aに押し付ける。これにより、各フランジ片98が薬剤容器設置部85の上面85aに接触し、薬剤容器73の接触側収納体94が薬剤容器設置部85の球面86aに接触する。そして、針管5の第2の針先9がシール部材32を貫通して、針管5の針孔が容器本体91内(液室)に連通する。その結果、薬剤注射装置71の組み立てが完了する。
【0136】
薬剤注射装置71が組み立てられると、薬剤容器73のフランジ片98の各辺は、薬剤容器設置部85の各係止片83に当接する。これにより、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器73の移動が抑止され、薬剤容器73を位置決めすることができる。
【0137】
次に、注射針組立体72の針ハブ76を把持して安定部13の端面13aを皮膚に対向させ、さらに薬剤注射装置71を皮膚に対して略垂直に移動させて、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける。このとき、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0138】
続いて、把持した針ハブ76をさらに皮膚側に押圧して、ガイド部14の接触面14aを皮膚に接触させる(図11参照)。これにより、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。
【0139】
次に、薬剤容器73の押圧部93(押圧側収納体96)を押圧する。これにより、押圧側収納体96に座屈が発生し、押圧側収納体96は、接触側収納体94側に凸となるように変形(反転)する。その結果、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0140】
薬剤注射装置71においても、第1の実施の形態の薬剤注射装置1と同様に、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体91(押圧部93)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置71を安定して保持しながら、容易に容器本体91を押圧することができる。その結果、簡単に容器本体91を変形させることができ、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができる。
【0141】
また、押圧側収納体96に座屈が発生したとき、容器本体91内に挿入された第2の針先9は、針収容部96aに収容される。これにより、第2の針先9が押圧部93を貫通することは無い。したがって、薬剤100の排出が途中で止まることは無く、且つ、第2の針先9が押圧部93を押圧する指先等に刺さることもない。
また、座屈が発生した押圧部93における押圧側収納体96の内面を接触側収納体94の内面に当接させることができる。その結果、容器本体91内に残留する薬剤の量を少なくすることができる。
【0142】
さらに、座屈の発生による押圧部93の反転後は、押圧部93に対する押圧力を弱めてもその変形が終わるまで容器本体91内に所定の圧力がかかるので、安定して薬剤を注入し続けることができる。
【0143】
本実施の形態では、針管5の第2の針先9がシール部材32を貫通させた状態を薬剤注射装置71の組み立て状態とした。しかしながら、薬剤注射装置71においても、第1の実施の形態の薬剤注射装置1と同様に、シール部材32に針管5の第2の針先9が当接して貫通しない状態を組み立て状態としてもよい。
その場合は、押圧側収納体96を押圧すると、まず、針管5の第1の針先8が生体に穿刺され、次に、第2の針先9がシール部材32を貫通し、最後に押圧側収納体96が降伏して反転するように構成する。
【0144】
本実施の形態では、薬剤容器設置部85に設置面82の一部として球面86aを形成したが、本実施の形態に係る薬剤容器設置部の設置面は、薬剤容器における接触部の形状に合わせることなく任意の形状にすることができる。例えば、薬剤容器設置部の設置面を平面にしてもよい。
【0145】
本実施の形態では、薬剤容器73の接触側収納体94及び押圧側収納体96をドーム状に形成した。しかしながら、本実施の形態に係る接触側収納体及び押圧側収納体としては、例えば、接触側収納体及び押圧側収納体を切頭円錐状に形成してもよい。この場合も、押圧側収納体に一定以上の圧力を加えると、押圧側収納体が降伏して反転し、薬剤を針管の第1の針先から排出させる。
【0146】
本実施の形態では、薬剤容器73の押圧部93を座屈が発生するように形成した。しかし、これに限定されず、例えば、第1の実施の形態の押圧部36と同じものを採用してもよい。その場合は、第1の実施の形態と同様に、押圧部に保護板33を取り付ける必要がある。
【0147】
以上、本発明の薬剤注射装置の実施の形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の薬剤注射装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0148】
上述の第1〜第3の実施の形態では、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる薬剤注射装置を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明の薬剤注射装置としては、第1の針先8側の突出長Lを設定することにより、例えば、皮下、筋肉等の生体のその他の部位に薬剤を注入するものにすることもできる。
【0149】
また、上述の第1〜第3の実施の形態では、針管5を針保持部11に接着剤を用いて固定したが、本発明に係る針管は、例えば、高周波融着や圧入等のその他の固着方法によって針保持部に固定することもできる。
【0150】
また、上述の第1〜第3の実施の形態では、安定部13、ガイド部14及び薬剤容器設置部を針保持部11と一体に形成したが、安定部、ガイド部及び薬剤容器設置部をそれぞれ針保持部11とは別体に形成し、各部品を組み立てることで針ハブを形成してもよい。
【0151】
また、上述の第1〜第3の実施の形態では、調整部12を針保持部11と一体に形成したが、調整部を針保持部とは別体に形成し、針管に固定してもよい。
【符号の説明】
【0152】
1,41,71…薬剤注射装置、 2,42,72…注射針組立体、 3,43,73…薬剤容器、 5…針管、 6,46,76…針ハブ、 8…第1の針先、 9…第2の針先、 11…針保持部、 12…調整部、 12a…針突出面、 13…安定部、 13a…端面、 14…ガイド部、 14a…接触面、 15,55,85…薬剤容器設置部、 15a,85a…上面、 16,86…凹部、 16a,86a…球面、 18…貫通孔、 19…注入用孔、 20…接着剤、 21…フランジ、 22,82…設置面、 23,83…係止片、 31,61,91…容器本体、 32…シール部材、 33…保護板(貫通回避部)、 35,92…接触部、 36,66,93…押圧部、 37,67,98…フランジ片、 56…底部、 56a…内面、 57…側板部、 87…段部、 87a…底面、 94…接触側収納体, 94a…貫通孔, 95,97…接合片、 96…押圧側収納体、 96a…針収容部(貫通回避部)、 100…薬剤、 110…把持部
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤が封入された可撓性を有する薬剤容器を備える薬剤注射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリンジ内に予め薬剤が充填されたプレフィルドシリンジが多く利用されるようになってきた。このようなプレフィルドシリンジでは、薬剤投与時にバイアル瓶からシリンジ内に薬剤を吸引する必要がなく、投与に要する時間を短縮できる他、薬剤の無駄を減らすことができる。
【0003】
また、プレフィルドシリンジの代わりに可撓性を有する薬剤容器を用いた注射装置が開発されている(特許文献1及び2)。このような注射装置では、まず、薬剤容器と注射針を連通させる。そして、薬剤容器を押圧することで、薬剤容器の内部に封入された薬剤を注射針から外部へ排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−137343号公報
【特許文献2】特表平10−509335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された注射装置は、可撓性の薬剤容器が注射針の延伸方向に対して略垂直な方向に変形可能となっている。このため、注射針を穿刺する方向と薬剤容器を押圧する方向が異なってしまう。したがって、薬剤投与時に、特に片手で投与操作を行う場合は、注射針を生体に穿刺した状態の注射装置を安定して保持しながら、薬剤容器の薬剤を注射針から排出させることが難しかった。特に、背圧(back-pressure)が高い皮内などの部位へ薬剤を投与する場合は、注射針の穿刺深さが安定せず、目的の部位に薬剤を投与することが難しく、薬剤投与によって期待される効果が得られないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、注射針を生体に穿刺した状態の注射装置を安定して保持しながら、可撓性の薬剤容器を押圧して薬剤を注射針から排出させることができる注射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の薬剤注射装置は、薬剤が充填された薬剤容器と、針管と、針保持部と、薬剤容器設置部とを備えている。針管は、生体を穿刺する第1の針先と、薬剤容器の内部に刺入可能な第2の針先とを有しており、この針管の中間部が針保持部に保持されている。薬剤容器設置は、針保持部の第2の針先側に設けられており、この薬剤容器設置部から第2の針先が突出している。
薬剤容器は、容器本体と、シール部材と、貫通回避部とを有している。容器本体は、第2の針先が貫通すると共に薬剤容器設置部に接触する接触部と、接触部に対向する押圧部とを有し、押圧部が接触部側に押圧されて変形する。シール部材は、接触部の第2の針先が貫通する部分に取り付けられ、針管の周面に液密に密着する。貫通回避部は、容器本体内に刺入された第2の針先が押圧部を貫通することを回避する。
【0008】
上記構成の薬剤注射装置では、針管の第2の針先が薬剤容器の容器本体における接触部を貫通すると容器本体内と針管の内腔が連通する。そして、容器本体の押圧部を接触部側に押圧すると、容器本体に充填された薬剤が針管の第1の針先から外部へ排出される。したがって、容器本体を押圧する方向と、針管の第1の針先を生体に穿刺する方向が同じ方向になる。その結果、第1の針先を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置を安定して保持しながら、薬剤容器を押圧して薬剤を第1の針先から排出させることができる。
【0009】
また、貫通回避部は、接触部を貫通した第2の針先が押圧部を貫通することを回避する。これにより、薬剤の第1の針先からの排出が止まることを防止できると共に、第2の針先が押圧部を押圧する指先等に刺さることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
上記構成の薬剤注射装置によれば、注射針を生体に穿刺した状態の注射装置を安定して保持しながら、可撓性の薬剤容器を押圧して薬剤を注射針から排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態における注射針組立体に薬剤容器を設置して第1の針先を生体に穿刺した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態における針管の第2の針先が薬剤容器の接触部を貫通した状態を示す断面図である。
【図4】本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【図5】本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図6】本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態における注射針組立体に薬剤容器を設置して第1の針先を生体に穿刺した状態を示す断面図である。
【図7】本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態における注射針組立体の第2の針先が薬剤容器を貫通した状態を示す断面図である。
【図8】本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【図9】本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図10】本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態における注射針組立体に薬剤容器を設置した状態を示す断面図である。
【図11】本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態における第1の針先を生体に穿刺した状態を示す断面図である。
【図12】本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の薬剤注射装置を実施するための形態について、図1〜図12を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0013】
1.第1の実施の形態
[薬剤注射装置]
まず、本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態について、図1を参照して説明する。
図1は、薬剤注射装置の第1の実施の形態の構成を示す断面図である。
【0014】
図1に示すように、薬剤注射装置1は、注射針組立体2と、この注射針組立体2に設置される薬剤容器3から構成されている。この薬剤注射装置1は、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる。
【0015】
皮膚は、表皮と、真皮と、皮下組織の3部分から構成される。表皮は、皮膚表面から50〜200μm程度の層であり、真皮は、表皮から続く1.5〜3.5mm程度の層である。そして、皮膚上層部とは、皮膚のうちの表皮と真皮を指す。なお、ワクチンなどの薬剤の皮膚上層部への投与量は、50〜300μL程度、好ましくは100μL程度である。
【0016】
[注射針組立体]
注射針組立体2は、針孔を有する中空の針管5と、この針管5が固定される針ハブ6を備えている。
針管5は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で22〜33ゲージ(外径0.2〜0.7mm)のものを使用し、好ましくは26〜33ゲージ、より好ましくは30〜33ゲージのものを使用する。
【0017】
針管5の一端には、生体に穿刺される第1の針先8が設けられ、他端には薬剤容器3の後述する接触部35に穿刺される第2の針先9が設けられている。第1の針先8は、刃面8aを有している。この刃面8aの針管5が延びる方向の長さ(以下、「ベベル長B」という)は、皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、また、33ゲージの針管に短ベベルを形成したときのベベル長である約0.5mm以上であればよい。つまり、ベベル長Bは、0.5〜1.4mmの範囲に設定されるのが好ましい。
【0018】
さらに、ベベル長Bは、皮膚上層部の最薄の厚さが0.9mm(小児)以下であればなおよい。すなわち、ベベル長Bは、0.5〜0.9mmの範囲に設定されることがより好ましい。なお、「短ベベル」とは、注射用針に一般的に用いられる、針の長手方向に対して18〜25°をなす刃面を指す。
【0019】
第2の針先9は、刃面9aを有している。この刃面9aの針管5が延びる方向の長さは、任意に設定することができるが、第1の針先8の刃面8aと同じ長さに設定することができる。
【0020】
針管5の材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管5は、ストレート針や、少なくとも一部がテーパー構造となっているテーパー針を適用することができる。テーパー針としては、第1の針先8側の外径よりも第2の針先9側の外径を大きくし、その中間部分をテーパー構造とすればよい。なお、この場合は、第1の針先8と第2の針先9の形状が異なってもよい。
【0021】
次に、針ハブ6について説明する。
針ハブ6は、針管5の中間部を保持する針保持部11と、調整部12と、安定部13と、ガイド部14と、薬剤容器設置部15を備えている。この針ハブ6の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0022】
針保持部11は、略円柱状に形成されており、軸方向に垂直な端面11aを有している。調整部12は、針保持部11の端面11aの中央部に設けられており、針保持部11の軸方向に突出する円柱状の凸部からなっている。この調整部12の軸心は、針保持部11の軸心に一致している。
【0023】
針保持部11及び調整部12の軸心には、針管5が貫通する貫通孔18が設けられている。そして、針保持部11には、貫通孔18に接着剤20を注入するための注入用孔19が設けられている。この注入用孔19は、針保持部11の外周面に開口されており、貫通孔18に連通している。すなわち、注入用孔19から貫通孔18へ注入された接着剤20により、針管5が針保持部11に固着される。
【0024】
針保持部11の外周面には、針保持部11の半径外方向に突出するリング状のフランジ21が設けられている。このフランジ21は、針保持部11の軸方向において対向する平面21a,21bを有している。フランジ21の平面21aは、針保持部11の端面11aと同一平面になっている。また、フランジ21の外縁部は、ガイド部14になっている。このガイド部14については、後で詳しく説明する。
【0025】
調整部12の端面は、針管5の第1の針先8側が突出する針突出面12aになっている。針突出面12aは、針管5の軸方向に直交する平面として形成されている。この針突出面12aは、針管5を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して針管5を穿刺する深さを規定する。つまり、針管5が皮膚上層部に穿刺される深さは、針突出面12aから突出する針管5の長さ(以下、「突出長L」という。)によって決定される。
【0026】
皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5〜3.0mmの範囲内にある。そのため、針管5の突出長Lは、0.5〜3.0mmの範囲に設定することができる。
【0027】
ところで、ワクチンは一般的に上腕部に投与されるが、皮膚上層部への投与の場合には、皮膚が厚い肩周辺部、特に三角筋部が好ましい。そこで、小児19人と大人31人について、三角筋の皮膚上層部の厚みを測定した。この測定は、超音波測定装置(NP60R−UBM 小動物用高解像度用エコー、ネッパジーン(株))を用いて、超音波反射率の高い皮膚上層部を造影することで行った。なお、測定値が対数正規分布となっていたため、幾何平均によってMEAN±2SDの範囲を求めた。
【0028】
その結果、小児の三角筋における皮膚上層部の厚みは、0.9〜1.6mmであった。また、成人の三角筋における皮膚上層部の厚みは、遠位部で1.4〜2.6mm、中央部で1.4〜2.5mm、近位部で1.5〜2.5mmであった。以上のことから、三角筋における皮膚上層部の厚みは、小児の場合で0.9mm以上、成人の場合で1.4mm以上であることが確認された。したがって、三角筋の皮膚上層部における注射において、針管5の突出長Lは、0.9〜1.4mmの範囲に設定することが好ましい。
【0029】
突出長Lをこのように設定することで、第1の針先8の刃面8aを皮膚上層部に確実に位置させることが可能となる。その結果、刃面8aに開口する針孔(薬剤排出口)は、刃面8a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部に位置することが可能である。なお、薬剤排出口が皮膚上層部に位置しても、第1の針先8が皮膚上層部よりも深く刺されば、第1の針先8端部の側面と切開された皮膚との間から薬剤が皮下に流れてしまうため、刃面8aが確実に皮膚上層部にあることが重要である。
【0030】
なお、26ゲージよりも太い針管では、ベベル長Bを1.0mm以下にすることは難しい。したがって、針管5の突出長Lを好ましい範囲(0.9〜1.4mm)に設定するには、26ゲージよりも細い針管を使用することが好ましい。
【0031】
針突出面12aは、周縁から針管5の外周面までの距離Sが1.4mm以下となるように形成し、好ましくは0.3〜1.4mmの範囲で形成する。この針突出面12aの周縁から針管5の周面までの距離Sは、皮膚上層部へ薬剤を投与することで形成される水疱に圧力が加わることを考慮して設定している。つまり、針突出面12aは、皮膚上層部に形成される水疱よりも十分に小さく、水疱の形成を妨げない大きさに設定している。その結果、針突出面12aが針管5の周囲の皮膚を押圧しても、投与された薬剤が漏れることを防止することができる。
【0032】
安定部13は、針保持部11に設けたフランジ21の平面21aから突出する円形の筒孔を有する筒状に形成されている。安定部13の筒孔には、針管5及び調整部12が配置されている。つまり、安定部13は、針管5が貫通する調整部12の周囲を覆う筒状に形成されており、針管5から針保持部11の半径外方向に離間して設けられている。
【0033】
安定部13の端面13aは、調整部12の針突出面12aよりも針管5の第2の針先9側に位置している。針管5の第1の針先8を生体に穿刺すると、まず、針突出面12aが皮膚の表面に接触し、その後、安定部13の端面13aに接触する。このとき、安定部13の端面13aが皮膚に接触することで薬剤注射装置1が安定し、針管5を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。
【0034】
なお、安定部13の端面13aは、針突出面12aと同一平面上に位置させたり、また、針突出面12aよりも針管5の第1の針先8側に位置させたりしても、針管5を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。なお、安定部13を皮膚に押し付けた際の皮膚の盛り上がりを考慮すると、安定部13の端面13aと針突出面12aとの針保持部11の軸方向の距離は、1.3mm以下に設定することが好ましい。
【0035】
また、安定部13の内径dは、皮膚に形成される水疱の直径と同等であるか、それよりも大きい値に設定されている。具体的には、安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離Tが4mm〜15mmの範囲となるように設定されている。これにより、安定部13の内壁面から水疱に圧力が印加されることによって水疱形成が阻害されることを防止することができる。
【0036】
安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離Tは、4mm以上であれば、特に上限はない。しかしながら、距離Tを大きくすると、安定部13の外径が大きくなるため、小児のように細い腕に針管5を穿刺する場合に、安定部13の端面13a全体を皮膚に接触させることが難しくなる。そのため、距離Tは、小児の腕の細さを考慮して15mmを最大と規定することが好ましい。
【0037】
針突出面12aの周縁から針管5の外周面までの距離Sが0.3mm以上であれば、調整部12が皮膚に進入することはない。したがって、安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離T(4mm以上)及び針突出面12aの直径(約0.3mm)を考慮すると、安定部13の内径dは9mm以上に設定することができる。
【0038】
なお、安定部13の形状は、円筒状に限定されるものではなく、例えば、中心に筒孔を有する四角柱や六角柱等の角筒状に形成してもよい。
【0039】
ガイド部14は、フランジ21における安定部13よりも外周側の部分である。このガイド部14は、皮膚と接触する接触面14aを有している。接触面14aは、フランジ21における平面21aの一部であり、安定部13の端面13aと略平行をなす平面である。ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触するまで安定部13を押し付けることにより、安定部13及び針管5が皮膚を押圧する力を常に所定値以上に確保することができる。これにより、針管5の針突出面12aから突出している部分(突出長Lに相当)が確実に皮膚内に穿刺される。
【0040】
ガイド部14の接触面14aから安定部13の端面13aまでの距離(以下、「ガイド部高さ」という。)Yは、針管5及び安定部13が適正な押圧力で皮膚を押圧し穿刺することができるようにその長さが設定されている。これにより、針管5及び安定部13による皮膚への押圧力をガイド部14が案内し、針管5の第1の針先8(刃面8a)を皮膚上層部に確実に位置させることができると共に、使用者に安心感を与えることができる。なお、針管5及び安定部13の適正な押圧力は、例えば、3〜20Nである。
【0041】
ガイド部高さYは、安定部13の内径dの範囲が11〜14mmの場合、ガイド部14の先端面から安定部13の外周面までの長さ(以下、「ガイド部長さ」という。)Xに基づいて適宜決定される。例えば、安定部13の内径dが12mmであり、ガイド部長さXが3.0mmのとき、ガイド部高さYは、2.3〜6.6mmの範囲に設定される。
【0042】
薬剤容器設置部15は、針保持部11の端面11aと反対側の端部に連続して設けられている。この薬剤容器設置部15は、所定の厚みを有する四角形の板状に形成されており、中心が針保持部11の軸心に一致している。薬剤容器設置部15の針保持部11とは反対側の面15a(以下、上面15aという)は、針保持部11の軸方向に直交する平面になっている。
【0043】
薬剤容器設置部15の上面15aには、凹部16が設けられている。この凹部16は、針保持部11の軸線上の点を中心とした球面16aを設けることにより形成されている。
薬剤容器設置部15の上面15a及び球面16aは、薬剤容器3の接触部35が接触する設置面22になっている。
【0044】
針管5の第2の針先9側は、球面16aの中央部から突出している。第2の針先9側が球面16aから突出する長さは、少なくとも刃面9aのベベル長に、薬剤容器3の後述する接触部35の厚みとシール部材32の厚みを加えた長さになっている。これにより、針管5を薬剤容器3の内部に確実に連通させることができる。
【0045】
また、上面15aの4つの辺には、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器3の移動(ずれ)を防止する係止片23がそれぞれ設けられている。係止片23は、上面15aから略垂直に突出した板状に形成されている。なお係止片23は、ピン(棒状)であってもよい。
【0046】
また、薬剤容器設置部15の下面15bは、針保持部11から半径外方向に延在しており、この下面15bとフランジ21の平面21bと針保持部11の外周面とから把持部110が形成されている。把持部110は、ボビン状に形成されており、周回した凹部を有する。薬剤注射装置1の使用時には、例えば、人差し指と中指を把持部110の凹部に位置させ、両者で針保持部11を挟み込むようにして薬剤注射装置1を把持することができる。このような把持部110は、凹状に窪んでいることで指を安定させ、薬剤注射装置1を把持し易くしている。
【0047】
[薬剤容器]
次に、薬剤容器3について説明する。
薬剤容器3は、容器本体31と、シール部材32と、貫通回避部の第1の具体例を示す保護板33から構成されている。
【0048】
容器本体31は、2枚のシートを重ね合わせ、周縁部を例えば熱融着や超音波融着により液密に接合することにより扁平な袋状に形成されている。このような容器本体31は、射出成形、押出成形、カレンダー成形、ブロー成形、インフレーション成形等によって製造することができる。
【0049】
容器本体31は、一方のシートである接触部35と、他方のシートである押圧部36から構成されており、これら接触部35及び押圧部36が互いに重なり合って接合されることで容器本体31にはフランジ片37が形成されている。そして、接触部35と押圧部36によって形成される内部空間は、薬剤100が充填された液室になっている。
本実施の形態では、容器本体31として四角形のシートを採用し、接触部35と押圧部36が対向する方向から見た液室の輪郭が略円形になるように接合しており、フランジ片37の外形は、四角形になっている。
【0050】
接触部35と押圧部36は、液室を挟んで対向している。針管5の第2の針先9は、接触部35を貫通して容器本体31内(液室)に配置される。この状態で押圧部36を接触部35側に押圧すると、押圧部36の内面が接触部35の内面に接近し、容器本体31の内圧が高まる。その結果、容器本体31内の薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から外部へ排出される。
【0051】
接触部35及び押圧部36は、可撓性を有する材料によって形成されており、第2の針先9が貫通可能になっている。これら接触部35及び押圧部36の材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の軟質樹脂材料、あるいは、ポリエチレンまたはポリプロピレンに、スチレン系熱可塑性エラストマやオレフィン系熱可塑性エラストマをブレンドし柔軟化したものを挙げることができる。これらの材料は、用途に応じて2層、3層と積層させた複合材料として用いることができる。
【0052】
軟質樹脂材料の引張弾性率は、500MPa以下、好ましくは50〜300MPaが、取り扱い易さ、液の排出性などの点で好ましい。軟質樹脂材料の厚さは、その層構成や用いる素材の特性(柔軟性、強度、水蒸気透過性、耐熱性等)等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、100〜500μm程度であるのが好ましく、200〜360μm程度であるのがより好ましい。また、容器本体31の内面は、低密度ポリエチレン製ラミネートフィルムのようなフィルムでコートしてもよい。
【0053】
また、容器本体31は、水蒸気バリヤー性を有することが好ましい。容器本体31が水蒸気バリヤー性を有することにより、内部からの水分の蒸散が防止できるとともに、外部からの水蒸気の侵入を防止することができる。
水蒸気バリヤー性の程度としては、水蒸気透過度が50g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であることが好ましく、より好ましくは、10g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であり、さらに好ましくは、1g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下である。この水蒸気透過度は、JISK7129(A法)に記載の方法により測定される。
【0054】
薬剤100としては、例えば、インフルエンザ等の感染症を予防する各種のワクチンが挙げられるが、ワクチンに限定されるものではない。なお、ワクチン以外では、例えば、ブドウ糖等の糖質注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、抗生物質注射液、造影剤、ステロイド剤、ホルモン剤、蛋白質分解酵素阻害剤、脂肪乳剤、抗癌剤、麻酔薬、覚せい剤、麻薬、ヘパリンカルシウム、抗体医薬等が挙げられる。
【0055】
薬剤100を充填した薬剤容器3は、例えば、成形(ブロー)、充填(フィル)、密封(シール)を一連の作業で行うブローフィル成型により製造することができる。
薬剤100を充填した薬剤容器3をブローフィル成型により製造するには、まず、長方形の2枚のシートを重ね合わせて互いの長辺側を融着し、略筒状の容器材を形成する。次に、筒状の容器材の一端(短辺側)を融着により封止し、薬剤100を充填する。そして、他端(短辺側)を融着により封止し、その他端を切断する。これにより、薬剤100を充填した薬剤容器3が形成される。なお、融着金型の形状を工夫することで液室の形状を自在に作製することができる。
【0056】
シール部材32は、接触部35における外面の中央部に貼り付けられている。この接触部35の中央部は、第2の針先が貫通する部分である。つまり、シール部材32は、接触部35の第2の針先が貫通する部分に貼り付けられており、第2の針先9がシール部材32と接触部35を貫通して容器本体31内に刺入される。
【0057】
シール部材32は、貫通した針管5の周面に液密に密着する。これにより、針管5の第2の針先が接触部35を貫通した状態で、針管5と接触部35との間から薬剤が漏れることを防止することができる。また、シール部材32の第2の針先9の刺入に対する抵抗力は、生体(例えば、皮膚)の第1の針先8の刺入に対する抵抗力よりも大きい。これにより、第1の針先8が生体に穿刺されてから、第2の針先9をシール部材32(接触部35)に貫通させることができる。
【0058】
シール部材32としては、針管5との液密性を良好にするためにゴム弾性を有する材料から形成することが好ましい。このゴム弾性を有する材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレン系エラストマ、熱可塑性エラストマ、シリコーンゴム、あるいはそれらの混合物等を挙げることができる。
【0059】
保護板33は、押圧部36における外面の中央部に貼り付けられており、接触部35に貼り付けたシール部材32に対向している。この保護板33は、押圧部36を押圧して接触部35に接近させたときに、容器本体31内に挿入されている第2の針先9に当接し、第2の針先9が押圧部36を貫通することを妨げる。
【0060】
保護板33としては、第2の針先9が貫通しない程度の硬度を有している。この保護板33の材料としては、例えば、鉄、ステンレス等の金属を挙げることができる。また、保護板33としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)等の硬質の合成樹脂から形成してもよい。
【0061】
[薬剤注射装置の使用方法]
次に、薬剤注射装置1の使用方法について、図2〜図4を参照して説明する。
図2は、注射針組立体2に薬剤容器3を設置して第1の針先8を生体に穿刺した状態を示す断面図である。図3は、第2の針先9が薬剤容器3の接触部35を貫通した状態を示す断面図である。図4は、薬剤注射装置1による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【0062】
薬剤注射装置1の使用前の状態は、注射針組立体2と薬剤容器3が分離されている(図1参照)。したがって、薬剤注射装置1を使用する場合は、まず、注射針組立体2の薬剤容器設置部15に薬剤容器3を設置し、薬剤注射装置1を組み立てる。
【0063】
薬剤注射装置1の組み立て状態としては、針管5の第2の針先がシール部材32に当接している第1の組み立て状態と、第2の針先9が薬剤容器3の容器本体31内に挿入されている第2の組み立て状態がある。ここでは、まず、第1の組み立て状態にした場合の使用方法を説明し、その後、第2の組み立て状態にした場合の使用方法を説明する。
【0064】
〈第1の組み立て状態〉
薬剤注射装置1を第1の組み立て状態にする場合は、注射針組立体2の薬剤容器設置部15に薬剤容器3を対向させ、薬剤容器3のフランジ片37の各辺が薬剤容器設置部15の各係止片23とそれぞれ平行になるように薬剤容器3の位置を調整する。
【0065】
次に、薬剤容器設置部15に薬剤容器3を載せる。これにより、薬剤注射装置1が第1の組み立て状態になる。このとき、針管5の第2の針先9はシール部材32に当接し、接触部35を貫通していない。そして、接触部35の外面は、シール部材32を貼り付けた中央部が押圧部36側に凹となるように湾曲する(図2参照)。そして、接触部35の周縁部が薬剤容器設置部15の上面15a及び球面16a(設置面22)に接触する。
【0066】
また、薬剤容器3のフランジ片37は、薬剤容器設置部15の各係止片23に当接する。これにより、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器3の移動が係止され、薬剤容器3を位置決めすることができる。
【0067】
次に、針管5の第1の針先8を生体に穿刺する。第1の針先8を生体に穿刺するには、まず、安定部13の端面13aを皮膚に対向させる。次に、薬剤注射装置1を皮膚に対して略垂直に移動させ、薬剤容器3の押圧部36を接触部35側に押圧して、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける(図2参照)。このとき、第2の針先9はシール部材32を貫通せずに、第1の針先8が皮膚に穿刺される。そして、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0068】
続いて、ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触するまで薬剤容器3の押圧部36を押圧する。ここで、ガイド部高さY(図1参照)は、針管5及び安定部13が適正な押圧力で皮膚に穿刺し薬剤を注入することができるようにその長さが設定されている。そのため、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。
【0069】
その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。このように、ガイド部14が安定部13の適正な押圧力を認識させる目印となることで、使用者が安心して薬剤注射装置1を使用することができる。
【0070】
また、安定部13が皮膚に当接することで、薬剤注射装置1の姿勢が安定し、針管5を皮膚に対して真っ直ぐに穿刺することができる。また、穿刺後に針管5に生じるブレを防止することができ、薬剤の安定した投与を行うことができる。
【0071】
例えば0.5mm程度のごく短い突出長の針管では、針先を皮膚に当接させても皮膚に刺さらない場合がある。しかし、安定部13に押し付けられた皮膚が垂直方向に押し下げられることにより、安定部13の内側の皮膚が引っ張られて皮膚に張力が加わった状態となる。そのため、針管5の第1の針先8に対して皮膚が逃げ難くなる。したがって、安定部13を設けることにより、皮膚に第1の針先8をより刺さり易くするという効果を得ることもできる。
【0072】
ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触すると、第2の針先9がシール部材32及び接触部35を貫通し、針管5の針孔が容器本体31内(液室)に連通する(図3参照)。そして、容器本体31内に挿入された第2の針先9に保護板33が当接するまで押圧部36を押圧する(図4参照)。これにより、容器本体31内に圧力がかかり、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0073】
このとき、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体31(押圧部36)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置1を安定して保持しながら、容易に容器本体31を押圧することができる。その結果、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができ、皮膚上層部へ投与する薬剤100の量を安定させることができる。また、穿刺作業とそれに続く注入作業を一連の動作で行うことができるので、操作が容易となり、薬剤注射装置1を片手で操作することができる。
【0074】
また、容器本体31内に挿入された第2の針先9に保護板33が当接するため、接触部35を貫通した第2の針先9が押圧部36を貫通することはない。これにより、薬剤100が確実に第1の針先8から排出されると共に、押圧部36を押圧する指先等に第2の針先9が刺さらないようにすることができる。
【0075】
また、本実施の形態では、薬剤容器3の接触部35が第2の針先9が貫通可能な可撓性を有する材料によって形成し、設置面22の球面16aに接触させるようにした。これにより、薬剤容器3における押圧部36の内面全体を接触部35の内面全体に容易に当接させることができ、薬剤容器3に残留する薬剤の量を少なくすることができる。
【0076】
また、本実施の形態では、薬剤容器設置部15に薬剤容器3の接触部35が接触する球面16aを形成した。しかしながら、薬剤容器設置部における薬剤容器の接触部が接触する面は、円錐面にすることもできる。
【0077】
〈第2の組み立て状態〉
次に、薬剤注射装置1を第2の組み立て状態にした場合の使用方法について説明する。
薬剤注射装置1を第2の組み立て状態にする場合は、注射針組立体2の薬剤容器設置部15に薬剤容器3を対向させ、薬剤容器3の各フランジ片37が薬剤容器設置部15の各係止片23とそれぞれ平行になるように薬剤容器3の位置を調整する。
【0078】
次に、薬剤容器設置部15に薬剤容器3を載せて、薬剤容器3の押圧部36を押圧する。これにより、針管5の第2の針先9がシール部材32を貫通して、針管5の針孔が容器本体31内(液室)に連通する。その結果、薬剤注射装置1が第2の組み立て状態になる。
【0079】
次に、注射針組立体2の針ハブ6を把持して安定部13の端面13aを皮膚に対向させ、さらに薬剤注射装置1を皮膚に対して略垂直に移動させて、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける。このとき、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0080】
続いて、把持した針ハブ6をさらに皮膚側に押圧して、ガイド部14の接触面14aを皮膚に接触させる(図3参照)。これにより、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。
【0081】
次に、容器本体31内に挿入された第2の針先9に保護板33が当接するまで押圧部36を押圧する(図4参照)。これにより、容器本体31内に圧力がかかり、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0082】
第2の組み立て状態においても、第1の組み立て状態と同様に、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体31(押圧部36)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置1を安定して保持しながら、容易に容器本体31を押圧することができる。その結果、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができ、皮膚上層部へ投与する薬剤100の量を安定させることができる。
【0083】
また、保護板33が第2の針先9に当接するため、容器本体31内に挿入された第2の針先9が再び容器本体31を貫通することはない。したがって、薬剤100の排出が妨げられることは無く、且つ、第2の針先9が押圧部36を押圧する指先等に刺さらないようにすることができる。
【0084】
2.第2の実施の形態
[薬剤注射装置]
まず、本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態について、図5を参照して説明する。
図5は、薬剤注射装置の第2の実施の形態の構成を示す断面図である。
【0085】
図5に示すように、第2の実施の形態の薬剤注射装置41は、第1の実施の形態の薬剤注射装置1(図1参照)と同様の構成を有している。この薬剤注射装置41が薬剤注射装置1と異なる点は、薬剤容器43と薬剤容器設置部55のみである。そのため、ここでは、薬剤容器43と薬剤容器設置部55について説明し、薬剤注射装置1と共通する構成部品には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0086】
薬剤注射装置41は、注射針組立体42と、この注射針組立体42に設置される薬剤容器43から構成されている。この薬剤注射装置41は、薬剤注射装置1と同様に、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる。
【0087】
注射針組立体42は、針孔を有する中空の針管5と、この針管5が固定される針ハブ46を備えている。針ハブ46は、針管5の中間部を保持する針保持部11と、調整部12と、安定部13と、ガイド部14と、薬剤容器設置部55を備えている。この針ハブ46の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0088】
薬剤容器設置部55は、針保持部11の端面11aと反対側の端部に連続して設けられている。この薬剤容器設置部55は、針保持部11の軸方向に直交する一面が開口された筐体状に形成されており、四角形の底部56と、4つの側板部57を有している。底部56の中心は、針保持部11の軸心に一致している。この底部56の内面56aは、針保持部11の軸方向に直交する平面であり、薬剤容器43の接触部35が接触する設置面になっている。
【0089】
針管5の第2の針先9側は、内面56aの中央部から突出している。第2の針先9側が内面56aから突出する長さは、少なくとも刃面9aのベベル長に、薬剤容器43の接触部35の厚みとシール部材32の厚みを加えた長さになっている。これにより、針管5を薬剤容器43の内部に確実に連通させることができる。また、4つの側板部57は、薬剤容器43の後述するフランジ片67に係合して、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器43の移動(ずれ)を抑止する。
【0090】
[薬剤容器]
次に、薬剤容器43について説明する。
薬剤容器43は、容器本体61と、シール部材32から構成されている。
【0091】
容器本体61は、接触部35と、薬剤容器設置部55の底部56と同じ大きさの四角形の板状に形成された押圧部66から構成されている。この容器本体61は、接触部35及び押圧部66の周縁部を液密に接合することにより扁平な袋状に形成されている。
【0092】
接触部35及び押圧部66の互いに接合された周縁部は、容器本体61のフランジ片67を形成している。そして、接触部35と押圧部66によって形成される内部空間は、薬剤100が充填された液室になっている。
なお、容器本体61の液室は、第1の実施の形態に係る薬剤容器3と同様に、接触部35と押圧部66が対向する方向から見た輪郭が略円形になっている。
【0093】
押圧部66は、容器本体61の一面を形成しており、接触部35に対向している。この押圧部66は、押圧されて接触部35に接近すると、容器本体61内に挿入されている第2の針先9に当接して止まる。つまり、押圧部66は、容器本体の一部でありながら、第2の針先9の貫通を回避する貫通回避部を兼ねている。
【0094】
押圧部66の材料としては、第2の針先9が貫通しない程度の硬度を有するものであればよく、例えば、鉄、ステンレス等の金属や、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)等の硬質の合成樹脂を挙げることができる。
【0095】
[薬剤注射装置の使用方法]
次に、薬剤注射装置41の使用方法について、図6〜図8を参照して説明する。
図6は、注射針組立体42に薬剤容器43を設置して第1の針先8を生体に穿刺した状態を示す断面図である。図7は、第2の針先9が薬剤容器43の接触部35を貫通した状態を示す断面図である。図8は、薬剤注射装置41による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【0096】
薬剤注射装置41の使用前の状態は、注射針組立体42と薬剤容器43が分離されている(図5参照)。したがって、薬剤注射装置41を使用する場合は、まず、注射針組立体42の薬剤容器設置部55に薬剤容器43を設置し、薬剤注射装置41を組み立てる。
【0097】
薬剤注射装置1の組み立て状態としては、第1の実施の形態と同様に、第1の組み立て状態と、第2の組み立て状態がある。
【0098】
〈第1の組み立て状態〉
薬剤注射装置1を第1の組み立て状態にする場合は、注射針組立体42の薬剤容器設置部55に薬剤容器43を対向させ、薬剤容器43のフランジ片67の各辺が薬剤容器設置部55の各側板部57とそれぞれ平行になるように薬剤容器43の位置を調整する。
【0099】
次に、薬剤容器設置部55に薬剤容器43を載せる。これにより、薬剤注射装置41が第1の組み立て状態になる。このとき、針管5の第2の針先9は、シール部材32に当接し、接触部35を貫通していない。そして、接触部35の外面は、シール部材32を貼り付けた中央部が押圧部36側に凹となるように湾曲する(図6参照)。
【0100】
また、薬剤容器43に設けたフランジ片67の周縁は、薬剤容器設置部55の各側板部57の内面に当接する。これにより、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器43の移動が係止され、薬剤容器43を位置決めすることができる。
【0101】
次に、薬剤注射装置41を皮膚に対して略垂直に移動させ、薬剤容器43の押圧部66を接触部35側に押圧して、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける(図6参照)。このとき、第2の針先9はシール部材32を貫通せずに、第1の針先8が皮膚に穿刺される。そして、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0102】
続いて、ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触するまで薬剤容器3の押圧部36を押圧する。これにより、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。このように、ガイド部14が安定部13の適正な押圧力を認識させる目印となることで、使用者が安心して薬剤注射装置1を使用することができる。
【0103】
ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触すると、第2の針先9がシール部材32及び接触部35を貫通し、針管5の針孔が容器本体61内(液室)に連通する(図7参照)。そして、容器本体31内に挿入された第2の針先9に当接するまで押圧部36を押圧する(図8参照)。これにより、容器本体61内に圧力がかかり、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0104】
このとき、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体61(押圧部66)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置41を安定して保持しながら、容易に容器本体61を押圧することができる。その結果、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができ、皮膚上層部へ投与する薬剤100の量を安定させることができる。また、また、穿刺作業とそれに続く注入作業を一連の動作で行うことができるので、操作が容易となり、薬剤注射装置41を片手で操作することができる。
【0105】
また、容器本体61内に挿入された第2の針先9は、押圧部66に当接し、押圧部66を貫通することはない。これにより、薬剤100が確実に第1の針先8から排出されると共に、押圧部66を押圧する指先等に第2の針先9が刺さらないようにすることができる。
【0106】
〈第2の組み立て状態〉
次に、薬剤注射装置41を第2の組み立て状態にした場合の使用方法について説明する。
薬剤注射装置41を第2の組み立て状態にする場合は、注射針組立体42の薬剤容器設置部55に薬剤容器43を対向させ、薬剤容器43の各フランジ片67が薬剤容器設置部55の各側板部57とそれぞれ平行になるように薬剤容器3の位置を調整する。
【0107】
次に、薬剤容器設置部55に薬剤容器43を載せて、薬剤容器43の押圧部66を押圧する。これにより、針管5の第2の針先9がシール部材32を貫通して、針管5の針孔が容器本体61内(液室)に連通する。その結果、薬剤注射装置41が第2の組み立て状態になる。
【0108】
次に、注射針組立体42の針ハブ46を把持して安定部13の端面13aを皮膚に対向させ、さらに薬剤注射装置1を皮膚に対して略垂直に移動させて、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける。このとき、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0109】
続いて、把持した針ハブ46をさらに皮膚側に押圧して、ガイド部14の接触面14aを皮膚に接触させる(図7参照)。これにより、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。
【0110】
次に、容器本体61内に挿入された第2の針先9に当接するまで押圧部66を押圧する(図8参照)。これにより、容器本体61の内圧が上昇し、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0111】
第2の組み立て状態においても、第1の組み立て状態と同様に、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体61(押圧部66)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置41を安定して保持しながら、容易に容器本体61を押圧することができる。その結果、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができ、皮膚上層部へ投与する薬剤100の量を安定させることができる。
【0112】
また、押圧部66が第2の針先9に当接するため、容器本体61内に挿入された第2の針先9が再び容器本体を貫通することはない。したがって、薬剤100の排出が妨げられることは無く、且つ、第2の針先9が押圧部36を押圧する指先等に刺さらないようにすることができる。
【0113】
本実施の形態では、容器本体61の押圧部66を四角形の板状に形成した。しかしながら、押圧部の内面を球面状に形成し、薬剤容器設置部の設置面を押圧部の内面の曲率半径と等しい又はそれ以上の曲率半径である球面状に形成してもよい。また、押圧部を第2の針先9が貫通しない程度の硬度を有し、且つ撓み変形可能な材料で形成し、押圧することで薬剤容器設置部の設置面の形状に応じて変形するようにしてもよい。
【0114】
3.第3の実施の形態
[薬剤注射装置]
まず、本発明の薬剤注射装置の第3の実施の形態について、図9を参照して説明する。
図9は、薬剤注射装置の第3の実施の形態の構成を示す断面図である。
【0115】
図9に示すように、第3の実施の形態の薬剤注射装置71は、第1の実施の形態の薬剤注射装置1(図1参照)と同様の構成を有している。この薬剤注射装置71が薬剤注射装置1と異なる点は、薬剤容器73と薬剤容器設置部85のみである。そのため、ここでは、薬剤容器73と薬剤容器設置部85について説明し、薬剤注射装置1と共通する構成部品には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0116】
薬剤注射装置71は、注射針組立体72と、この注射針組立体72に設置される薬剤容器73から構成されている。この薬剤注射装置71は、薬剤注射装置1と同様に、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる。
【0117】
注射針組立体72は、針孔を有する中空の針管5と、この針管5が固定される針ハブ76を備えている。針ハブ76は、針管5の中間部を保持する針保持部11と、調整部12と、安定部13と、ガイド部14と、薬剤容器設置部85を備えている。この針ハブ76の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0118】
薬剤容器設置部85は、針保持部11の端面11aと反対側の端部に連続して設けられている。この薬剤容器設置部85は、所定の厚みを有する四角形の板状に形成されており、中心が針保持部11の軸心に一致している。薬剤容器設置部85の針保持部11とは反対側の面85a(以下、上面85aという)は、針保持部11の軸方向に直交する平面になっている。
【0119】
薬剤容器設置部85の上面85aには、凹部86が設けられている。この凹部86は、針保持部11の軸線上の点を中心点とした球面86aを設けることにより形成されている。
薬剤容器設置部85の上面85a及び球面86aは、薬剤容器73の接触部92が接触する設置面82になっている。
【0120】
また、薬剤容器設置部85の球面86aには、段部87が形成されている。この段部87は、薬剤容器設置部85の中心部に設けられており、底面87aを有している。針管5の第2の針先9側は、段部87の底面87aから突出している。第2の針先9が底面87aから突出する長さは、少なくとも刃面9aのベベル長に、薬剤容器73の後述する接触部92の厚みとシール部材32の厚みを加えた長さになっている。
【0121】
また、上面85aの4つの辺には、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器73の移動(ずれ)を防止する係止片83がそれぞれ設けられている。係止片83は、上面85aから略垂直に突出した板状に形成されている。なお係止片83は、ピン(棒状)であってもよい。
【0122】
[薬剤容器]
次に、薬剤容器73について説明する。
薬剤容器73は、容器本体91と、シール部材32から構成されている。
【0123】
容器本体91は、接触部92と、押圧部93から構成されている。
接触部92は、器状に形成されており、液室を形成する接触側収納体94と、押圧部93に接合される接合片95からなっている。接触側収納体94は、押圧部93とは反対側に膨出するドーム状に形成されている。この接触側収納体94の外面は、薬剤容器設置部85の球面86aに接触する。そのため、接触側収納体94における外面の曲率半径は、薬剤容器設置部85の球面86aの曲率半径と略等しくなっている。
【0124】
また、接触側収納体94の中心部には、針管5の第2の針先9が貫通する貫通孔94aが設けられている。この貫通孔94aは、シール部材32によって液密に封止されている。
【0125】
接合片95は、接触側収納体94の周縁から突出する枠体からなり、外形が四角形に形成されている。この接合片95の一方の平面は、押圧部93の後述する接合片97に液密に接合される。また、接合片95の他方の平面は、薬剤容器設置部85の上面85aに接触する。そして、接合片95の周端は、薬剤容器設置部85の係止片83に係合する。
【0126】
接触部92は、適当な剛性を有することで非可撓性となるように形成されている。ここで、非可撓性とは、薬剤容器73を押圧する力が加えられても変形しない性質と定義する。この接触部92の材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)等の合成樹脂を挙げることができる。また、接触部92は、鉄、ステンレス等の金属から形成してもよい。
【0127】
押圧部93は、液室を形成する押圧側収納体96と、接触部92の接合片95に接合される接合片97からなっている。押圧側収納体96は、接触側収納体94とは反対側に膨出するドーム状に形成されている。この押圧側収納体96は、可撓性を有しており、一定以上の圧力を加えると、降伏して反転する(座屈が発生する)ように形成されている。
押圧側収納体96に座屈が発生すると、押圧側収納体96は、接触側収納体94側に凸となるように反転し、その内面が接触側収納体94の内面に接触する。
【0128】
押圧側収納体96の中心部には、貫通回避部の第2の具体例を示す針収容部96aが設けられている。この針収容部96aは、押圧側収納体96の内面に連続する凹部として形成されており、押圧側収納体96に座屈が生じたときに、容器本体91内に挿入された第2の針先9を収容する。
【0129】
押圧側収納体96に針収容部96aを設けることにより、第2の針先9が押圧部93を貫通しないようにすることができる。また、押圧側収納体96に座屈が生じたときに、押圧側収納体96の内面を接触側収納体94の内面に接触させることができるため、容器本体91内に残留する薬剤の量を少なくすることができる。
【0130】
押圧部93は、一定以上の圧力を加えると、降伏して反転する材料を用いて形成する。この押圧部93の材料としては、例えば、鉄、ステンレス等の金属、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂等の合成樹脂を挙げることができる。
【0131】
接触部92の接合片95と押圧部93の接合片97は、接着剤、超音波融着等の固着方法により液密に接合されている。これら接触部92の接合片95及び押圧部93の接合片97が互いに重なり合って接着されることで容器本体91にはフランジ片98が形成されている。そして、接触側収納体94と押圧側収納体96によって形成される内部空間は、薬剤100が充填された液室になる。
【0132】
[薬剤注射装置の使用方法]
次に、薬剤注射装置71の使用方法について、図10〜図12を参照して説明する。
図10は、注射針組立体72に薬剤容器73を設置した状態を示す断面図である。図11は、第1の針先8を生体に穿刺した状態を示す断面図である。図12は、薬剤注射装置71による薬剤の投与が完了した状態を示す断面図である。
【0133】
薬剤注射装置71の使用前の状態は、注射針組立体72と薬剤容器73が分離されている(図9参照)。したがって、薬剤注射装置71を使用する場合は、まず、注射針組立体72の薬剤容器設置部85に薬剤容器73を設置し、薬剤注射装置71を組み立てる。
【0134】
薬剤注射装置71を組み立てる場合は、注射針組立体72の薬剤容器設置部85に薬剤容器73を対向させ、薬剤容器73のフランジ片98の各辺が薬剤容器設置部85の各係止片83とそれぞれ平行になるように薬剤容器73の位置を調整する。
【0135】
次に、薬剤容器設置部85に薬剤容器73を載せて、各フランジ片98を薬剤容器設置部85の上面85aに押し付ける。これにより、各フランジ片98が薬剤容器設置部85の上面85aに接触し、薬剤容器73の接触側収納体94が薬剤容器設置部85の球面86aに接触する。そして、針管5の第2の針先9がシール部材32を貫通して、針管5の針孔が容器本体91内(液室)に連通する。その結果、薬剤注射装置71の組み立てが完了する。
【0136】
薬剤注射装置71が組み立てられると、薬剤容器73のフランジ片98の各辺は、薬剤容器設置部85の各係止片83に当接する。これにより、針保持部11の軸方向に直交する方向への薬剤容器73の移動が抑止され、薬剤容器73を位置決めすることができる。
【0137】
次に、注射針組立体72の針ハブ76を把持して安定部13の端面13aを皮膚に対向させ、さらに薬剤注射装置71を皮膚に対して略垂直に移動させて、第1の針先8を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける。このとき、針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させるため、針管5の第1の針先8側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0138】
続いて、把持した針ハブ76をさらに皮膚側に押圧して、ガイド部14の接触面14aを皮膚に接触させる(図11参照)。これにより、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。その結果、安定部13の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の第1の針先8及び刃面8aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。
【0139】
次に、薬剤容器73の押圧部93(押圧側収納体96)を押圧する。これにより、押圧側収納体96に座屈が発生し、押圧側収納体96は、接触側収納体94側に凸となるように変形(反転)する。その結果、薬剤100が針管5の針孔(不図示)を通って第1の針先8から皮膚上層部に注入される。
【0140】
薬剤注射装置71においても、第1の実施の形態の薬剤注射装置1と同様に、針管5を皮膚に穿刺する方向と、容器本体91(押圧部93)を押圧する方向が同じ方向になる。したがって、第1の針先8を生体に穿刺した状態の薬剤注射装置71を安定して保持しながら、容易に容器本体91を押圧することができる。その結果、簡単に容器本体91を変形させることができ、薬剤100を確実に第1の針先8から皮膚上層部に排出させることができる。
【0141】
また、押圧側収納体96に座屈が発生したとき、容器本体91内に挿入された第2の針先9は、針収容部96aに収容される。これにより、第2の針先9が押圧部93を貫通することは無い。したがって、薬剤100の排出が途中で止まることは無く、且つ、第2の針先9が押圧部93を押圧する指先等に刺さることもない。
また、座屈が発生した押圧部93における押圧側収納体96の内面を接触側収納体94の内面に当接させることができる。その結果、容器本体91内に残留する薬剤の量を少なくすることができる。
【0142】
さらに、座屈の発生による押圧部93の反転後は、押圧部93に対する押圧力を弱めてもその変形が終わるまで容器本体91内に所定の圧力がかかるので、安定して薬剤を注入し続けることができる。
【0143】
本実施の形態では、針管5の第2の針先9がシール部材32を貫通させた状態を薬剤注射装置71の組み立て状態とした。しかしながら、薬剤注射装置71においても、第1の実施の形態の薬剤注射装置1と同様に、シール部材32に針管5の第2の針先9が当接して貫通しない状態を組み立て状態としてもよい。
その場合は、押圧側収納体96を押圧すると、まず、針管5の第1の針先8が生体に穿刺され、次に、第2の針先9がシール部材32を貫通し、最後に押圧側収納体96が降伏して反転するように構成する。
【0144】
本実施の形態では、薬剤容器設置部85に設置面82の一部として球面86aを形成したが、本実施の形態に係る薬剤容器設置部の設置面は、薬剤容器における接触部の形状に合わせることなく任意の形状にすることができる。例えば、薬剤容器設置部の設置面を平面にしてもよい。
【0145】
本実施の形態では、薬剤容器73の接触側収納体94及び押圧側収納体96をドーム状に形成した。しかしながら、本実施の形態に係る接触側収納体及び押圧側収納体としては、例えば、接触側収納体及び押圧側収納体を切頭円錐状に形成してもよい。この場合も、押圧側収納体に一定以上の圧力を加えると、押圧側収納体が降伏して反転し、薬剤を針管の第1の針先から排出させる。
【0146】
本実施の形態では、薬剤容器73の押圧部93を座屈が発生するように形成した。しかし、これに限定されず、例えば、第1の実施の形態の押圧部36と同じものを採用してもよい。その場合は、第1の実施の形態と同様に、押圧部に保護板33を取り付ける必要がある。
【0147】
以上、本発明の薬剤注射装置の実施の形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の薬剤注射装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0148】
上述の第1〜第3の実施の形態では、皮膚上層部に薬剤を注入する場合に用いる薬剤注射装置を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明の薬剤注射装置としては、第1の針先8側の突出長Lを設定することにより、例えば、皮下、筋肉等の生体のその他の部位に薬剤を注入するものにすることもできる。
【0149】
また、上述の第1〜第3の実施の形態では、針管5を針保持部11に接着剤を用いて固定したが、本発明に係る針管は、例えば、高周波融着や圧入等のその他の固着方法によって針保持部に固定することもできる。
【0150】
また、上述の第1〜第3の実施の形態では、安定部13、ガイド部14及び薬剤容器設置部を針保持部11と一体に形成したが、安定部、ガイド部及び薬剤容器設置部をそれぞれ針保持部11とは別体に形成し、各部品を組み立てることで針ハブを形成してもよい。
【0151】
また、上述の第1〜第3の実施の形態では、調整部12を針保持部11と一体に形成したが、調整部を針保持部とは別体に形成し、針管に固定してもよい。
【符号の説明】
【0152】
1,41,71…薬剤注射装置、 2,42,72…注射針組立体、 3,43,73…薬剤容器、 5…針管、 6,46,76…針ハブ、 8…第1の針先、 9…第2の針先、 11…針保持部、 12…調整部、 12a…針突出面、 13…安定部、 13a…端面、 14…ガイド部、 14a…接触面、 15,55,85…薬剤容器設置部、 15a,85a…上面、 16,86…凹部、 16a,86a…球面、 18…貫通孔、 19…注入用孔、 20…接着剤、 21…フランジ、 22,82…設置面、 23,83…係止片、 31,61,91…容器本体、 32…シール部材、 33…保護板(貫通回避部)、 35,92…接触部、 36,66,93…押圧部、 37,67,98…フランジ片、 56…底部、 56a…内面、 57…側板部、 87…段部、 87a…底面、 94…接触側収納体, 94a…貫通孔, 95,97…接合片、 96…押圧側収納体、 96a…針収容部(貫通回避部)、 100…薬剤、 110…把持部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤が充填された薬剤容器と、
生体を穿刺する第1の針先と、前記薬剤容器の内部に刺入可能な第2の針先とを有する針管と、
前記針管の中間部を保持する針保持部と、
前記針保持部の前記第2の針先側に設けられ、前記第2の針先が突出する薬剤容器設置部と、を備え、
前記薬剤容器は、
前記第2の針先が貫通すると共に前記薬剤容器設置部に接触する接触部と、前記接触部に対向する押圧部とを有し、前記押圧部が前記接触部側に押圧されて変形する容器本体と、
前記接触部の前記第2の針先が貫通する部分に取り付けられ、前記針管の周面に液密に密着するシール部材と、
前記容器本体内に刺入された前記第2の針先が前記押圧部を貫通することを回避する貫通回避部と、
を有することを特徴とする薬剤注射装置。
【請求項2】
前記容器本体の前記押圧部は、可撓性を有する材料から形成されており、
前記貫通回避部は、前記押圧部に設けられ、前記容器本体内に刺入された前記第2の針先に当接する当接部または前記第2の針先を収容する凹部である
ことを特徴とする請求項1に記載の薬剤注射装置。
【請求項3】
前記シール部材の前記第2の針先による刺入に対する抵抗力は、前記生体の前記第1の針先による刺入に対する抵抗力よりも大きい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薬剤注射装置。
【請求項4】
前記押圧部は、所定の圧力を加えると前記接触部側に凸となる座屈が生じるように形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の薬剤注射装置。
【請求項5】
前記薬剤容器設置部は、前記薬剤容器の前記接触部が接触する球面状の設置面を有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の薬剤注射装置。
【請求項6】
前記容器本体の前記接触部は、可撓性を有する材料から形成されており、
前記押圧部は、前記第2の針先に当接しても貫通しない材料によって形成され、前記貫通回避部を兼ねる
ことを特徴とする請求項1に記載の薬剤注射装置。
【請求項7】
前記容器本体の前記接触部は、非可撓性で前記押圧部側に開口された器状に形成され、前記シール部材によって封止された貫通孔を有し、
前記押圧部は、可撓性を有する材料によって形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の薬剤注射装置。
【請求項8】
前記薬剤容器設置部は、前記薬剤容器の押圧方向に対して直交する方向への移動を防止する係止片を有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の薬剤注射装置。
【請求項9】
前記針管の前記第1の針先側の周囲に設けられ、前記第1の針先を生体に穿刺する場合に皮膚と当接する針突出面が形成された調整部を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の薬剤注射装置。
【請求項10】
前記調整部は、前記針保持部と一体に形成されていることを特徴とする請求項9に記載の薬剤注射装置。
【請求項1】
薬剤が充填された薬剤容器と、
生体を穿刺する第1の針先と、前記薬剤容器の内部に刺入可能な第2の針先とを有する針管と、
前記針管の中間部を保持する針保持部と、
前記針保持部の前記第2の針先側に設けられ、前記第2の針先が突出する薬剤容器設置部と、を備え、
前記薬剤容器は、
前記第2の針先が貫通すると共に前記薬剤容器設置部に接触する接触部と、前記接触部に対向する押圧部とを有し、前記押圧部が前記接触部側に押圧されて変形する容器本体と、
前記接触部の前記第2の針先が貫通する部分に取り付けられ、前記針管の周面に液密に密着するシール部材と、
前記容器本体内に刺入された前記第2の針先が前記押圧部を貫通することを回避する貫通回避部と、
を有することを特徴とする薬剤注射装置。
【請求項2】
前記容器本体の前記押圧部は、可撓性を有する材料から形成されており、
前記貫通回避部は、前記押圧部に設けられ、前記容器本体内に刺入された前記第2の針先に当接する当接部または前記第2の針先を収容する凹部である
ことを特徴とする請求項1に記載の薬剤注射装置。
【請求項3】
前記シール部材の前記第2の針先による刺入に対する抵抗力は、前記生体の前記第1の針先による刺入に対する抵抗力よりも大きい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薬剤注射装置。
【請求項4】
前記押圧部は、所定の圧力を加えると前記接触部側に凸となる座屈が生じるように形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の薬剤注射装置。
【請求項5】
前記薬剤容器設置部は、前記薬剤容器の前記接触部が接触する球面状の設置面を有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の薬剤注射装置。
【請求項6】
前記容器本体の前記接触部は、可撓性を有する材料から形成されており、
前記押圧部は、前記第2の針先に当接しても貫通しない材料によって形成され、前記貫通回避部を兼ねる
ことを特徴とする請求項1に記載の薬剤注射装置。
【請求項7】
前記容器本体の前記接触部は、非可撓性で前記押圧部側に開口された器状に形成され、前記シール部材によって封止された貫通孔を有し、
前記押圧部は、可撓性を有する材料によって形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の薬剤注射装置。
【請求項8】
前記薬剤容器設置部は、前記薬剤容器の押圧方向に対して直交する方向への移動を防止する係止片を有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の薬剤注射装置。
【請求項9】
前記針管の前記第1の針先側の周囲に設けられ、前記第1の針先を生体に穿刺する場合に皮膚と当接する針突出面が形成された調整部を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の薬剤注射装置。
【請求項10】
前記調整部は、前記針保持部と一体に形成されていることを特徴とする請求項9に記載の薬剤注射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−10970(P2012−10970A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150493(P2010−150493)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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