説明

薬剤溶出式近接照射療法の方法および器具

増殖性組織障害を、放射線照射および表面に送達された治療薬により治療するための、侵入型近接照射療法用器具および方法を提供する。この近接照射療法用器具は、近位部および遠位部ならびにこれらを通って伸びる少なくとも1個の管を有する挿入部材を備える。拡張可能な表面部材は、挿入部材の遠位部に結合され、その上に放出可能なように結合された治療薬を含む。近接照射療法用器具が組織腔内に配置された場合、および拡張可能な表面部材が拡張された場合、治療薬の少なくとも一部が組織腔の周囲の組織へ送達される。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は一般に、増殖性組織障害の治療、より詳細にはそのような障害の薬剤溶出式近接照射療法用器具による治療に使用するための方法および器具に関する。
【0002】
悪性腫瘍は、できるだけ腫瘍を多く切除するために、腫瘍の外科的切断により治療されることが多い。しかし腫瘍を取り囲んでいる正常組織への腫瘍細胞の浸潤は、外科的に治療することは困難であるかまたは不可能であるので、浸潤は外科的切除の治療的価値を制限することがある。放射線療法は、腫瘍辺縁のサイズの縮小またはその安定化を目的として、切除後に残存する腫瘍辺縁を標的化することにより、外科的切除を補助するために使用することができる。放射線療法は、外部-ビーム照射、定位放射線手術法、および永久もしくは一時的近接照射療法を含むいくつかの方法のひとつ、または方法の組合せにより投与することができる。本明細書において使用される用語「近接照射療法」は、腫瘍または他の増殖性組織病巣部位またはその近傍において、体内に挿入された治療用放射線源により送達される放射線療法を意味する。この放射線源の近接性のために、近接照射療法は、より局在化された線量を標的組織領域に送達するという利点をもたらす。
【0003】
例えば、近接照射療法は、放射線源を治療される組織へ直接埋込むことにより実施される。近接照射療法は、1)悪性腫瘍再増殖が、原発性腫瘍部位の当初の境界の2または3cm以内に、局所的に生じる場合;2)放射線療法が、悪性腫瘍の増殖を制御することが証明された治療である場合;および、3)悪性腫瘍に関して放射線の線量-反応相関関係が存在するが、通常の外部ビーム放射線療法により安全に投与され得る線量が、正常組織の忍容性により制限される場合に、最も適している。近接照射療法において、放射線量は、放射線療法線源に密に近接している部分で最高であり、高い腫瘍線量を提供するが、他方で周囲を取り囲む正常組織には控えめである。侵入型(interstitial)近接照射療法は、とりわけ悪性脳腫瘍および乳癌の治療に有用である。
【0004】
Williamsの米国特許第5,429,582号「Tumor Treatment」は、切除した腫瘍を取り囲む組織内に存在するかもしれない癌細胞を殺傷するために、外科的に切除された腫瘍を取り囲む組織を、放射性放出物(radioactive emission)により治療する方法および器具を開示している。Williamsは、放射性放出物に加え、周囲の組織へ熱を送達する外部トランスミッター、およびそれを通して化学療法薬を滲出することができる透過性のバルーンを開示している。この器具は有効であるが、透過性の材料にはいくつかの課題が存在する。この透過性の材料は、一貫した透過性を実現するために、厳密な標準品に製造されなければならず、および使用時の化学療法薬の送達率の制御は複雑である。送達率は、化学療法薬にもたらされる圧力によって左右されるので、この薬物の投与は、余分の器具および注意が必要である。加えてこの薬物は、全ての方向に均一に送達され、所望の領域に焦点化することができない。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明は概して、近位部、遠位部、およびこれらを通って伸びる少なくとも1個の管(lumen)を有する挿入部材を備える、薬剤溶出式近接照射療法用器具を提供する。拡張可能な表面部材は、挿入部材の遠位部に結合され、その中の空間容積を規定する。この器具は更に、拡張可能な表面部材に放出可能なように結合された治療薬を備えている。この器具が組織腔内部に配置される場合には、この治療薬の少なくとも一部が、隣接組織へ送達される。
【0006】
拡張可能な表面部材上に配置された治療薬は、使用者が、薬物を隣接組織へ直接送達することを可能にする。本発明のひとつの局面において、治療薬は、拡張可能な表面部材の表面上の層内に配置され、組織腔内の拡張可能な表面部材の膨張により、切除された組織腔を取り囲む組織へ送達される。この近接照射療法用器具は、治療薬に加え、組織腔を取り囲む標的組織へ放射線を送達するための放射線源を備える。放射線源は、拡張可能な表面部材内に配置されることが好ましい。
【0007】
別の本発明の態様は、切除された組織腔を取り囲む標的組織に配置され、および外部放射線源から放射線を送達する、薬剤溶出式組織配置器具を含む。この器具は、近位部および遠位部を有するカテーテル本体部材、外面に放出可能なように結合された治療薬を伴う拡張可能な表面部材、ならびに外部放射線源を備える。切除された組織腔内の拡張可能な表面要素の拡張は、治療薬を送達し、および外部放射線源から放射線ビームを受け取るように周囲の組織を配置する。
【0008】
別の本発明の態様において、治療物質を送達する方法が提供される。この方法は、近位部および遠位部を含む挿入部材を備える薬剤溶出式近接照射療法用器具を提供する。空間容積を規定する拡張可能な表面部材は、挿入部材の上に配置され、および治療薬は、拡張可能な表面部材に放出可能なように結合されている。この方法は更に、組織腔内に近接照射療法用器具を配置し、治療薬を組織腔を取り囲む組織へ送達することを含む。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、侵入型薬剤溶出式近接照射療法用器具による、乳房の悪性腫瘍のような、増殖性組織障害を治療する方法および器具を提供する。この近接照射療法用器具は、近位部、遠位部、およびこれらを通って伸びる少なくとも1個の管を有する挿入部材を備える。部材に放出可能なように結合された治療薬を有する、拡張可能な表面部材は、挿入部材の遠位部に結合され、およびその中の空間容積を規定する。近接照射療法用器具が放射線療法のために切除された腫瘍腔内部に配置される場合、治療薬の少なくとも一部は、隣接組織に送達される。
【0010】
多くの近接照射療法手法は典型的には、最初の増殖性組織、例えば癌性腫瘍のの少なくとも一部の摘出、その後の放射線を隣接組織へ送達するための器具の切除された組織腔への留置に関連している。本発明は、器具の表面から直接隣接組織へ、化学療法薬などの治療薬を送達するための、改善された近接照射療法用器具を提供する。治療薬は標的組織と直接物理的に接触するように置かれるので、表面送達により、使用者は送達をより良く制御することができる。このことは、一部の治療薬の有効性は、標的組織領域への直接送達によって決まるので、利点を提供する。加えて治療薬は標的領域へ密に近接している部位で送達されることにより、希釈が最小化される。多くの治療薬は、特に全身投与された場合に、人体に毒性があり、従ってこの近接照射療法用器具の表面からの送達は、健常領域への曝露も最小化する。更に薬剤を溶出する表面は、透過膜の正確な加工および送達される物質の慎重な圧力制御を必要とするような透過膜を通る送達などの、他のより複雑な送達方法を改善する。従って本発明は、先行技術の器具に勝る多くの利点を提供する。
【0011】
図1は、近位部14、遠位部16、およびこれらを通って伸びている少なくとも1個の管18(図示せず)を備える挿入部材12を有する、薬剤溶出式近接照射療法用器具10を含む、本発明のひとつの態様を例示している。拡張可能な表面部材20は、挿入部材12の遠位部に結合されている。拡張可能な表面部材は、その中の空間容積24を規定し、およびそれに放出可能なように結合された治療薬22を含む。器具10が切除された組織腔へ挿入された場合、治療薬22の少なくとも一部が、隣接組織に送達される。
【0012】
図1に示されるように、拡張可能な表面部材は、器具10の挿入および拡張可能な表面部材20の拡張の後、切除された組織腔の壁と接触するので、治療薬は、拡張可能な表面部材20に結合されることが好ましい。この治療薬は、拡張可能な表面部材20の表面上に積層され、その結果拡張可能な表面部材は、組織と接触するように拡張され、治療薬の少なくとも一部が放出される。別の態様において、治療薬は、拡張可能な表面部材20の側壁に少なくとも部分的に包埋され、その結果拡張可能な表面部材が拡張した時に、治療薬は放出および/または拡散される。それにもかかわらず、少なくとも一部の治療薬22は、拡張可能な表面部材を通過することはなく、拡張可能な表面部材から組織へと移動する。
【0013】
ひとつの態様において、複数層が、拡張可能な表面部材20の表面に塗布される。各層は、同じ治療薬を有してもよく、その結果それらの層は事実上ひとつの厚い層を表す。あるいは異なる濃度の治療薬または異なる治療薬が、異なる層に認められてもよい。異なる層内に異なる治療薬を配置することにより、この器具は、治療手技の期間に必要に応じ異なる治療薬を送達することができる。例えば、1個または複数の第一の外側層は、器具10の挿入後、隣接組織へ送達される化学療法薬を有することができる。引き続き抗生物質製剤を、内側層から投与することができ、その結果これは、器具10を引き出す直前に、周囲の組織により受け取られる。活性物質の曝露前に放出する不活性/失活した物質として第一の層を有することは、治療的物質の遅延型または時限放出型の放出法を表す。
【0014】
この治療薬は、周囲の組織のある領域へ送達されるこの治療を制限するために、拡張可能な表面部材の一部のみに結合することもできる。例えば、拡張可能な表面部材20の部分的コーティングは、器具10を取り囲んでいる組織の一部が、治療薬に対し感受性のある場合に有益である。器具10は、治療薬でコーティングされた領域は、感受性のある組織と接触せず、および治療薬は感受性のある組織に送達されないように、組織腔内に配置される。部分的コーティングは、それらの治療を組織表面へ焦点化する近接照射療法用器具にとっても好ましい。図2は、治療される組織の予め決定された表面領域に合わせた形状である治療表面26(図示せず)を有する近接照射療法用器具10を例示している。この器具は、挿入部材12、および治療表面26上に放出可能なように配置された治療薬22を伴う拡張可能な表面20を備える。使用時に、治療表面は、標的組織に対して配置され、治療薬が送達される。好ましくは、治療薬22は、拡張可能な表面部材の他の部分には結合されず、その理由はそれらの他の部分は、標的組織と接触していないからである。
【0015】
図3から8は、その上に放出可能なように結合された治療薬を含むことができる、近接照射療法用器具10の別の例を例示している。図3は、近接ポート28から膨張ポート30まで伸びる内部管18を有する挿入部材12を備える、組織を配置する器具10の基本的デザインを示している。膨張ポート30は、挿入部材12の側壁を貫いて形成され、および内部管18と交差している。それらの遠位端に近接する、挿入部材12に取り付けられたものは、拡張可能な表面部材20により規定されている空間容積24である。拡張可能な表面部材20の内部は、近位ポート28との液体連絡路内にある。治療薬22は、拡張可能な表面部材に放出可能なように結合されている。
【0016】
器具10の拡張可能な表面部材20は、膨張可能なバルーンにより規定することができる。用語「バルーン」は、必ずしもではないが弾性材料により構成されている、伸長可能な器具を含むことが意図されていることは理解されるであろう。本発明のバルーンは、手術用カテーテルとの併用のためにデザインされた様々なバルーンまたは他の伸長可能な器具を含むことができる。バルーンは、挿入部材12を通り、かつバルーンへの膨張材料の注入により拡張することができる。この膨張材料は、バルーンがWilliamsらの米国特許第5,611,923号および第5,931,774号に開示されたような侵入型近接照射療法処置を提供するために使用される場合に放射性治療物質を含有することができ、前記両特許は本明細書に参照として組入れられている。
【0017】
ひとつの態様において、バルーンは充填することができ、治療液体の活性成分に対し実質的に不透過性であり、および例えば血液、脳脊髄液などの体液に対しても不透過性であるような、固形材料により構成される。不透過性のバルーンは、放射性治療用液体との組合せにおいて有用であり、放射性材料が、この治療器具から逃れ出し、および手術野または患者の組織が汚染されることを防ぐ。
【0018】
別の態様において、バルーンは、治療用液体に対し透過性であり、治療用液体が器具10から、身体の管腔もしくは腔へ流れ出ることを可能にする。透過性のバルーンは、バルーン壁を通り液体治療薬を送達するために有用である。Winklerの米国特許第6,200,257号および第6,537,194号は、透過性のバルーンおよび治療用物質の例を開示している。治療薬22が透過性のバルーン壁の上に配置される場合、治療薬22が拡張可能な表面部材から放出される後まで、治療用液体の通路を閉鎖することが好ましいであろう。あるいは、透過性のバルーン壁の一部は、治療物質を含まないことができる。
【0019】
本発明は、例えば図4Aおよび5に示されたような、二重壁構造の、複数のバルーンを使用することも企図している。図4Aおよび5は、増殖性組織の治療のための、二重壁バルーン型の近接照射療法用器具10を例示している。器具10は、近位ポート28および34から、挿入部材12の側壁を貫いて形成されかつ各々管18および32と交差している膨張ポート30および36へ伸びている、第一および第二の管18および32を有する挿入部材12を含む(図4B)。
【0020】
挿入部材12に取り付けられたものは、それらの遠位端に近接し、一般に球形のバルーン41により規定され得る内側空間容積38である。内側容積38の内部は、膨張ポート36との液体連絡路内にある。内側空間容積38の周囲は、外側空間容積24であり、これはこれらのふたつの容積が膨張されるかまたはそうでなければ支持される場合に、内側空間容積38の壁から適当に間を空けた外側バルーン20により規定されている。外側容積24は、膨張ポート30を包囲している。図4Aおよび5の態様は、放射線照射を、内側空間容積38から外側壁を取り囲んでいる組織へ送達するために使用することができる。外側空間容積24は好ましくは、空気、放射線吸収する液体、例えば造影剤、または治療用液体により充満されている。Winklerらの米国特許第6,413,204号は、増殖性組織障害の治療のための近接照射療法用器具において使用される複数-壁のあるバルーンを開示し、その全体は本明細書に参照として組入れられている。
【0021】
図4Aおよび5に示されたように、治療薬22は、外側バルーンの表面上に放出可能なように結合されている。この器具は、組織腔内で膨張されるので、外側バルーンの壁上の治療薬は、周囲の組織と接触され、この治療薬は、標的組織へ送達されるであろう。治療薬は、外側バルーン壁を完全に覆い、その結果組織腔は、均一な投与量の治療薬を受け取ることが好ましい。
【0022】
器具10の挿入部材12は、拡張可能な表面部材20を切除された組織腔内に配置するための手段を提供し、および膨張材料(使用される場合)を送達する通路を提供する。これらの図に例示された挿入部材の例は管状構造を有するが、当業者は、この挿入部材12は、様々な形状およびサイズを有することができることを理解するであろう。本発明における使用に適した挿入部材は、当該技術分野において公知であるカテーテルを含むことができる。挿入部材12は様々な材料で構成することができるが、ひとつの態様において、この挿入部材材料はシリコン、好ましくは少なくとも部分的にX線-不透過性であるシリコンであり、その結果器具10の挿入後の挿入部材12のx-線による位置づけを促進する。挿入部材12は、治療用液体の貯蔵庫およびバルーンの取付けのための通常のアダプターに加え、例えば患者の体の輪郭へ挿入部材12を合わせるための、直角形器具(rignt-angle device)のような器具も備える。
【0023】
バルーンおよび本体部材12は、様々な方法で製造することができるが、一部の態様において、バルーンは、バルーン本体上の実質的に単独の点で、またはその単独の側で、本体部材12に結合される。このような取付けは、バルーン(例えば球形バルーン)を、膨張容積の範囲にわたり、実質的に一定(例えば球形)の形に維持することを可能にする。すなわち、このバルーンは、例えばFoleyカテーテル用のバルーンの場合に一般的であるように、本体部材への複数の取付け点により形が拘束されない。
【0024】
別の態様において、拡張可能な表面部材は、図6Aおよび6Bに示されたように、挿入部材12に、拡張可能な表面部材20の両端で固定される。例示された態様は、近位端から遠位端へのそれらの長手方向に伸びている、少なくとも1個の内部管18を有する細長い挿入部材12を備える。挿入部材12の側壁中の開口部は、内部管18および空間容積24の間に液体連絡路を提供する1個または複数の膨張ポート30を規定する。拡張可能な表面20は、拡張可能な表面部材20の近位端および遠位端44、46の挿入部材12への結合により、管状挿入部材12へ取付けることができる。図6Bに示されたように、膨張材料の挿入部材12の近位端への注入は、膨張材料が内部管18を流れ膨張ポート30の外へ出、ならびに拡張可能な表面20内の空間容積24に充満するように仕向け、これにより拡張可能な表面20を膨張する。拡張可能な表面部材20上に配置された治療薬22はその後、組織と接触する位置にあり、および標的組織領域へ放出される。
【0025】
図7Aにおいて、器具10の更なる態様は、管状本体12の内部管18内に存在する拡張可能な表面20を有するように描かれている。この態様において、拡張可能な表面部材20上に放出可能なように配置された治療薬22は、拡張可能な表面部材の膨張前に、組織との接触から少なくとも部分的に保護され、その理由は、拡張可能な表面部材は、挿入部材12内部に配置されるからである。示されたように、内部管18は、本体12の長手方向に伸びており、および拡張可能な表面20は、挿入部材12の遠位端に固定するよう取付けられている。膨張材料は、内部管18を通って注入されるので、拡張可能な表面20は、図7Bに示されたように管状本体12からの外側に向かって拡張する。拡張可能な表面の拡張により、拡張可能な表面部材上に配置された治療物質は、組織と接触する位置にあり、および治療物質を放出する。この器具は、器具10の挿入時に、正常組織へ偶然送達される治療物質について懸念がある場合に、特に利点がある。
【0026】
拡張可能な表面部材20は、図8に例示されたような、ケージ(cage)48を備える様々な構造により規定することができる。図示された器具10は、本体部材12および拡張可能な表面20を備え、この拡張可能な表面は、本体部材12の遠位端の近傍へ配置されたケージ48により規定される。好ましくは、ケージ48は、ニチノールなどの形状記憶金属、または膨張可能なポリエチレンケージのような適当なプラスチックにより形成される。使用の際に、このケージは、特定の切除された腔に合致するよう所望の形状で形成され、インビボにおいて標的部位への送達のために収縮され、その後外科的に切除された領域を取り囲む組織が適当な形状をとることを引き起こすように膨張される。この場合、治療薬22は、ケージに放出可能なように結合され、ケージが組織と接触した時点で、少なくとも部分的に放出されるであろう。
【0027】
本発明の治療薬22は、増殖性組織障害の治療のために使用される任意の材料を含むことができる。加えて、この治療薬は、外科的手技の間に組織を治療するために使用される任意の物質、例えば治癒を迅速化しおよび/または感染防止を補助する物質などを示すことができる。ひとつの態様において、治療薬は、化学療法薬、抗新生物形成薬、抗血管新生薬、免疫調節薬、ホルモン剤、免疫療法薬、抗生物質、鎮痛薬、またはそれらの組合せからなる群より選択される材料を含む。
【0028】
この治療薬は、切除された組織腔内の組織と接触された場合に、治療薬が少なくとも部分的に放出される限りは、様々な方法で拡張可能な表面部材20に結合することができる。例えば治療薬22は、熱結合、溶媒結合、接着剤、活性成分の時限放出を提供するための活性および不活性材料の吸着層、化学結合、力学的手段により放出することができる結合(例えば、アプリケーター表面の延伸、処理する表面温度または電荷の変化など)により、結合することができる。加えてこの治療薬は、治療薬の拡張可能な表面部材への接合を補助するための結合剤と混合することができる。この結合剤は好ましくは、生体適合性ポリマーを含み、更により好ましくは生体吸収性ポリマー、例えばポリ(L-乳酸)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチラート)、ポリ(ヒドロキシブチラート-コ-バレレート)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(D,L-乳酸)、ポリ(グリコール酸-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、コポリ(エーテル-エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ならびに生体分子、例えばフィブリン、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、コラーゲンおよびヒアルロン酸などを含む。当業者は、この治療薬はその結合法が、切除された組織腔の周囲の組織への結合剤の少なくとも部分的放出を可能にする限りは、様々な方法で、拡張可能な表面部材へ結合することができることを理解するであろう。
【0029】
治療薬の送達速度は、治療薬と混合された他の材料、治療薬の濃度、治療薬の特徴および治療物質と共に使用される拡張可能な表面部材の種類を含む、多くの要因によって決まるであろう。当業者は、送達の時点および送達速度を、これらのおよび他の要因を基に調節することができることを理解するであろう。
【0030】
前述の治療薬に加え、他の材料を、治療薬22の結合または送達を補助するために、拡張可能な表面部材上に配置することができる。例えば挿入プロセス時の治療薬喪失の機会を少なくするために、コーティング層で治療薬含有層をコーティングすることができる。コーティング層は、先に列記された生体吸収性材料で製造され、その結果器具10の挿入後、コーティング層は、治療薬含有層に吸収および曝露されるであろう。
【0031】
本発明の方法は、原発性悪性疾患、転移性病巣、悪性の乳癌および脳腫瘍を含む、様々な増殖性組織障害を治療するために使用することができる。多くの乳癌患者は、乳腺腫瘤摘出術としても公知である、乳房温存術の候補であり、この手法は一般に初期の小さい腫瘍について行われる。乳房温存術には、原発性腫瘍部位の近傍での再発の機会を低下するために、続けて放射線療法が行われることがある。患部への強力な直接線量の投与は、残存する癌細胞を破壊し、そのような再発の防止を補助することがある。
【0032】
手術療法および放射線療法は、脳腫瘍のような身体の他の領域に発症する悪性疾患の標準療法でもある。手術の目的は、生存脳組織に損傷を及ぼすことなく、腫瘍をできるだけ多く摘出することである。悪性腫瘍全体を摘出する能力は、それが隣接正常組織を浸潤する傾向により制限される。部分摘出は、放射線療法により治療される腫瘍の量を減少し、かつ一部の状況下では脳に対する圧力の低下により症状を緩和することを補助する。
【0033】
これらおよび他の悪性疾患を治療する本発明の方法は、癌性腫瘍の少なくとも一部を摘出し、かつ切除腔を作成するための、腫瘍部位の外科的切除により始まる。腫瘍切除後、器具10は、腫瘍切除腔に配置される。これは、外科医が術中にこの器具を留置するよう、手術部位を縫合する前に行うことができるか、または代わりに、一旦患者が手術から十分に回復してから、器具10を挿入することができる。後者の場合、器具10を導入するための新たな切開を作成することができる。いずれの場合においても、その後拡張可能な表面20が、切除された組織腔内で拡張される。
【0034】
拡張可能な表面部材上に配置された治療薬22は、拡張可能な表面部材が拡張する際に、組織腔を取り囲む組織に送達される。ひとつの態様において、この治療薬は、残存する増殖性組織を治療するために周囲の組織に送達される化学療法薬である。一部の態様においては、標的組織を治療しおよび健常組織が手術から回復することを補助するために、複数の治療薬が周囲の組織へ送達される。
【0035】
放射線照射は好ましくは、器具10を取り囲む標的組織へも送達される。本発明の放射線源は好ましくは、増殖性組織障害を治療するために放射線照射を送達することができる、任意の放射線源を含む。放射線源の例は、高線量近接放射線照射、中線量近接放射線照射、低線量近接放射線照射、パルス線量速度近接放射線照射、外部ビーム放射線照射、およびそれらの組合せを含む。
【0036】
放射線照射は、外部放射線源からに加え、前述のように拡張可能な表面部材20の内側から送達することができる。内部放射線照射の態様は、全体が本明細書に参照として組入れられている、Winklerらの米国特許第6,413,204に開示されたように、対称な等線量曲線を送達することを含む。追加の内部放射線照射治療は、Winklerらの米国特許第6,482,142に開示されたような、非対称な放射線照射プロファイルを含むことができ、この特許も全体が本明細書に参照として組入れられている。
【0037】
あるいは、外部放射線源を使用することができる。ひとつの態様において、本発明の器具は、外部放射線照射により増殖性組織疾患を治療するための、薬剤溶出式組織配置器具である。この器具は、近位部および遠位部を有するカテーテル本体部材、ならびに空間容積を規定する拡張可能な表面部材、および外部放射線源を備える。治療薬は、切除された組織腔の周囲の組織へ送達するために、拡張可能な表面部材に放出可能なように結合される。拡張可能な表面部材が切除された組織腔内に配置されおよび拡張される場合、これは単に治療薬を送達するのみではなく、外部放射線源から治療用の放射線を周囲の組織が受け取るように配置する。「Tissue Positioning Systems and Method for Use with Radiation Therapy」と題される、代理人整理番号第101360-64号の米国特許出願は、外部放射線照射治療の方法および器具の例を開示しており、これもその全体が本明細書に参照として組入れられている。
【0038】
当業者は、先に説明された態様を基に、本発明の更なる特徴および利点を理解するであろう。従って、本発明は、添付された「特許請求の範囲」に示されたものを除き、特に示されおよび説明されたものに制限されるものではない。本明細書において引用された全ての刊行物および参考文献はそれらの全体が、明白に本明細書に参照として組入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
本発明は、添付図面と共に、以下の詳細な説明により、より完全に理解されるであろう。
【0040】
【図1】本発明の近接照射療法用器具の透視図を例示する。
【図2】透視図で示された本発明の近接照射療法用器具の別の態様を例示する。
【図3】全景で示された本発明の近接照射療法用器具の別の態様を例示する。
【図4】図4Aは、全景で示された本発明の近接照射療法用器具の別の態様を例示する。図4Bは、図4Aに図示した器具の横断面図を例示する。
【図5】全景で示された本発明の近接照射療法用器具の別の態様を例示する。
【図6】図6Aは、全景で示された本発明の近接照射療法用器具の別の態様を例示する。図6Bは、膨張した位置での図6Aの器具を例示する。
【図7】図7Aは、全景で示された本発明の近接照射療法用器具の別の態様を例示する。図7Bは、膨張した位置での図7Aの器具を例示する。
【図8】全景で示された本発明の近接照射療法用器具の別の態様を例示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位部、遠位部、およびこれらを通って伸びる少なくとも1個の管(lumen)を有する、挿入部材;
挿入部材の遠位部に結合され、その中の空間容積を規定する、拡張可能な表面部材;および、
拡張可能な表面部材に放出可能なように結合された治療薬
を備えた、薬剤溶出式近接照射療法用器具であって、
ここで近接照射療法用器具が組織腔内に配置される場合に、治療薬の少なくとも一部が隣接組織へ送達される、薬剤溶出式近接照射療法用器具。
【請求項2】
拡張可能な表面部材が、液体保持する拡張可能な表面部材である、請求項1記載の器具。
【請求項3】
治療薬が、非放射性である、請求項1記載の器具。
【請求項4】
放射線源が、空間容積内部に配置される、請求項1記載の器具。
【請求項5】
放射線源が、拡張可能な表面部材に形が実質的に類似している3次元等線量プロファイルを作成する、請求項4記載の器具。
【請求項6】
治療薬が、拡張可能な表面部材の外面上に配置される、請求項1記載の器具。
【請求項7】
治療薬が、拡張可能な表面部材の外面上にコーティングされている、請求項1記載の器具。
【請求項8】
治療薬の複数の層が、拡張可能な表面部材の表面上に配置されている、請求項7記載の器具。
【請求項9】
異なる治療薬が、異なる層中に配置されている、請求項8記載の器具。
【請求項10】
治療薬が、拡張可能な表面部材の側壁内に分散されている、請求項1記載の器具。
【請求項11】
治療薬が、拡張可能な表面部材の表面の一部にのみ配置されている、請求項1記載の器具。
【請求項12】
治療薬が、拡張可能な表面部材の表面の約半分未満の上に配置されている、請求項11記載の器具。
【請求項13】
拡張可能な表面部材が、組織表面に対し配置されるように適合された第一の表面を備える、請求項1記載の器具。
【請求項14】
治療薬が、第一の表面上にのみ配置されている、請求項13記載の器具。
【請求項15】
治療薬が、化学療法薬、抗新生物形成薬、抗血管新生薬、免疫調節薬、ホルモン剤、免疫療法薬、鎮痛薬、抗生物質、またはそれらの組合せからなる群より選択される、請求項1記載の器具。
【請求項16】
治療薬が、結合剤と混合されている、請求項1記載の器具。
【請求項17】
結合剤が、生体吸収性ポリマー結合剤である、請求項16記載の器具。
【請求項18】
近位部および遠位部を有する、カテーテル本体部材;
空間容積を規定する、拡張可能な表面部材;および
拡張可能な表面部材の外面に放出可能なように結合された治療薬
を備えた、切除された組織腔の周囲の標的組織を、標的組織が測定された放射線量を受け取ることができるように配置するための、薬物溶出式組織配置器具でありって、
ここで器具が切除された組織腔内部に配置される場合に、治療薬の少なくとも一部が、切除された組織腔を取り囲んでいる組織へ送達される、薬物溶出式組織配置器具。
【請求項19】
拡張可能な表面部材が、治療薬透過性の材料で構成されている、請求項18記載の器具。
【請求項20】
拡張可能な表面部材の壁を通って透過することが可能な第二の治療薬が、拡張可能な表面部材内部に配置されている、請求項19記載の器具。
【請求項21】
第二の治療薬の送達のための液体送達経路が、拡張可能な表面部材内の空間容積へ、および透過性の拡張可能な表面部材を通って外側へとカテーテル本体部材を通って伸びている、請求項20記載の器具。
【請求項22】
拡張可能な表面部材が、透過性部分および非透過性部分を備え、ならびに治療薬が、非透過性部分にのみ結合されている、請求項18記載の器具。
【請求項23】
治療薬が、化学療法薬、抗新生物形成薬、抗血管新生薬、免疫調節薬、ホルモン剤、免疫療法薬、抗生物質、またはそれらの組合せからなる群より選択される、請求項18記載の器具。
【請求項24】
放射線源が、拡張可能な表面部材内部に配置されている、請求項18記載の器具。
【請求項25】
外部放射線源が、拡張可能な表面部材の外側に配置されている、請求項18記載の器具。
【請求項26】
以下を含む、治療物質を送達する方法:
近位部および遠位部を含むカテーテル本体部材、空間容積を規定する拡張可能な表面部材、ならびに拡張可能な表面部材に放出可能なように結合された治療薬を備える、薬剤溶出式近接照射療法用器具を提供する工程;
組織腔内部に近接照射療法用器具を配置する工程;ならびに
治療薬を、組織腔の周囲の組織へ送達する工程。
【請求項27】
組織腔が、乳腺腫瘤摘出手技時に作製された切除された組織腔である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
治療物質が、化学療法薬である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
複数の治療薬が、拡張可能な表面部材上に配置されている、請求項26記載の方法。
【請求項30】
外側層内に配置された第一の治療薬が、内側層内に配置された第二の治療薬が放出を開始する前に、放出を開始する、請求項29記載の方法。
【請求項31】
組織腔が、自然に形成された腔である、請求項26記載の方法。
【請求項32】
腔が、膀胱、食道、腸管、尿道および尿管からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
組織腔が、機械的に形成される、請求項26記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−511281(P2007−511281A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539825(P2006−539825)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/037560
【国際公開番号】WO2005/049141
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(506002993)サイティック コーポレーション (12)
【Fターム(参考)】