説明

薬剤蒸散容器

【課題】内包装用袋のヒートシール強度を容易に調整可能であり、ヒートシール部の特定の領域を破断できる薬剤蒸散容器を提供する。
【解決手段】薬剤蒸散容器1は、樹脂製の外容器2と、外容器2内に収納される内包装用袋3とで構成されている。内包装用袋3の収納部8には液状またはゲル状の薬剤4が充填されている。内包装用袋3の上部シール部10には、三角形状のシール抜き部30が上部シール部10の長手方向に沿って多数形成されている。また、隣接するシール抜き部30は、三角形の頂部30aを内包装用袋3の内側に向けたものと、三角形の底辺部30bを内包装用袋3の内側に向けたものとが交互に隣接して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香剤や消臭剤、防虫剤等の蒸散性の薬剤を包装し、保管時には薬剤の蒸散を防止するとともに使用時には薬剤透過性フィルムを介して外部に蒸散させることができる薬剤蒸散容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、揮発性を有する液状、或いはゲル状の芳香剤に対しては、その芳香剤ガスが透過しないガス遮断性の包材からなる袋、成形容器等の中に芳香剤を密封保存し、使用時に袋若しくは成形容器の一部を開封してガスを外部へ揮散させるような包装形態がとられていた。
【0003】
このような従来の包装形態においては、袋や成形容器の開封時に芳香剤の流出或いは飛散が発生し、漏出した芳香剤によりユーザの手や周辺を汚染したり、芳香剤の容量減少により使用時間が短縮したりする問題があった。
【0004】
そこで、封入された芳香剤の使用性を向上させた包装形態が種々提案されており、例えば特許文献1には、内面がヒートシール性を有し、薬剤遮断性フィルムを含む多層フィルムからなる内包装用袋に揮発性芳香剤を充填密封し、この内包装用袋を、少なくとも一部が薬剤透過性フィルムからなる外包装用袋または容器で密封包装した芳香剤包装体が開示されている。そして、内包装用袋の内層樹脂層としてヒートシール強度の低い熱接着性樹脂を選択して使用することにより、芳香剤の使用時に内包装用袋を強く押えてヒートシール部を容易に破断させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭60−1730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の芳香剤包装体では、内層樹脂層としてヒートシール強度の低い熱接着性樹脂層が積層された特殊な仕様の多層フィルムを用いるため、製造コストが高くなるという問題点があった。また、内包装用袋のヒートシール強度が強すぎると使用時の開封性が低下し、ヒートシール強度が弱すぎると製品の流通時に内包装用袋に不用意な破断が生じるおそれがあるが、内層樹脂層として使用する熱接着性樹脂の種類によってヒートシール強度が決まるため、使用目的に応じたヒートシール強度の調整が困難であった。また、ヒートシール強度の部分的な調整ができないため、使用時に内包装用袋の特定の領域から破断させることが困難であった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、内包装用袋のヒートシール強度を容易に調整可能であり、ヒートシール部の特定の領域を破断できる薬剤蒸散容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、液状またはゲル状の薬剤が封入される収納部と、該収納部の周縁を封止するシール部とを有し、封入される薬剤が透過不可能な薬剤遮断性フィルム層と最内層である熱接着性樹脂層とを少なくとも含む積層体により形成される内包装用袋と、該内包装用袋が密封して収納され、ガス化した前記薬剤が透過可能な薬剤透過性フィルムにより少なくとも一部が形成された外容器と、を有する薬剤蒸散容器において、前記シール部の少なくとも一部は、複数のシール抜き部が形成され外部からの押圧により剥離可能な弱シール部となっており、前記シール抜き部の少なくとも一部は前記シール部の内縁側に向けて頂部を有することを特徴としている。
【0009】
また本発明は、上記構成の薬剤蒸散容器において、前記弱シール部は、前記シール部の内縁側に向けて頂部を有する三角形状のシール抜き部と、前記シール部の外縁側に向けて頂部を有する三角形状のシール抜き部とが、前記シール部の長手方向に沿って交互に配置されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の構成によれば、外容器の外部から内包装用袋を指で押さえて複数のシール抜き部が形成された弱シール部を破断することにより、内包装用袋を破断する際の薬剤の漏出を防止することができる。従って、ユーザの手や周辺を汚染したり、薬剤の容量減少により使用時間が短縮したりするおそれがなくなる。また、複数のシール抜き部の少なくとも一部がシール部の内縁側に向けて頂部を有するので、通常の熱接着性樹脂を用いて弱シール部のヒートシール強度を簡単に低下できるため、熱接着性樹脂層としてヒートシール強度の低い特殊な仕様の樹脂を用いる必要がなく、薬剤蒸散容器の製造コストも低減することができる。さらに、内包装用袋の特定の位置に弱シール部を形成できるため、内包装用袋の特定の領域から破断させることができる。
【0011】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の薬剤蒸散容器において、シール部の内縁側に向けて頂部を有する三角形状のシール抜き部と、外縁側に向けて頂部を有する三角形状のシール抜き部とを、シール部の長手方向に沿って交互に配置することにより、隣接するシール抜き部間の隙間が小さくなり破断し易くなる。従って、外容器の外部から容易に破断することができ、ヒートシール強度も安定した弱シール部となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る薬剤蒸散容器の概略平面図
【図2】薬剤蒸散容器の側面断面図
【図3】内包装用袋3を構成する積層材の積層構成を示す部分断面図
【図4】内包装用袋3の上部シール部10の部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る薬剤蒸散容器の概略平面図であり、図2は、薬剤蒸散容器の側面断面図(図1のAA′矢視断面図)である。図1及び図2に示す薬剤蒸散容器1は、樹脂製の外容器2と、外容器2内に収納される内包装用袋3とで構成されている。内包装用袋3の収納部8には液状またはゲル状の薬剤4(ここでは芳香剤)が充填されている。
【0014】
外容器2は、外容器本体2aと蓋部材2bとで構成され、それぞれの外縁部に形成されたフランジ部5を熱融着して一体化されている。蓋部材2bには窓部6が形成されており、窓部6は薬剤透過性フィルム7で密封されている。外容器2としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂の射出成形品、あるいは上記熱可塑性樹脂製のシートを真空成形、圧空成形して得られるシート成形品を使用できる。
【0015】
また、後述するように、使用時には外容器2の外側から内包装用袋3を指で押圧して破断させる必要があるため、外容器2は容易に弾性変形可能な材質で形成しておくことが好ましい。
【0016】
薬剤透過性フィルム7としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体等の熱可塑性樹脂の1つ以上を含む多層フィルムを用いることができ、酸素ガス透過度が100cc/m2・24h・atm以上が好ましく、500cc/m2・24h・atm以上がより好ましい。なお、外容器本体2aと蓋部材2b、蓋部材2bと薬剤透過性フィルム7との熱融着のために、少なくとも外容器2の内面は熱融着可能な材質としておく必要がある。
【0017】
内包装用袋3は、収納部8が側部シール部9と上部シール部10とで三方シールされており、上部シール部10は内包装用袋3を押圧することにより破断可能な弱シール部となっている。上部シール部10の詳細な構成については後述する。
【0018】
図3は、内包装用袋3を構成する積層体の積層構成を示す部分断面図である。積層体11は、最外層である基材層20と、薬剤遮断性フィルム層21と、最内層である熱接着性樹脂層22とが順次積層されてなる構成であり、基材層20と薬剤遮断性フィルム層21、薬剤遮断性フィルム層21と熱接着性樹脂層22の間には接着剤層23が積層されている。
【0019】
基材層20は、積層体11を構成する基本素材となること、更に、薬剤遮断性フィルム層21(後述)を保持する基材となること等から、それらの形成、加工等の条件に耐え、かつ、その特性を損なうことなくそれらを良好に保持することができ、更に、包装体の製造に際し、加工作業性、耐熱性、滑り性、耐ピンホール性、水蒸気またはガスバリア性、その他の諸物性において優れたものであることが好ましい。
【0020】
基材層20としては、ポリアミド系樹脂からなる延伸フィルム、2軸延伸ナイロンフィルム、2軸延伸ポリプロピレンフィルム、2軸延伸ポリエステル系樹脂フィルム等の単体ないしそれらの積層体が用いられ、2軸延伸ポリエステル系樹脂フィルムが特に好適に用いられる。前記のポリアミド系樹脂からなる延伸フィルム4としては、具体的には、例えば、MXDナイロン6フィルム、MXDナイロン樹脂とナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、その他等の各種のポリアミド系樹脂との2ないし3層以上からなる多層積層フィルム、あるいは、エチレン−ビニルアルコール共重合体と上記のナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、その他等の各種のポリアミド系樹脂との2ないし3層以上からなる多層積層フィルムを使用することができる。特に、エチレン−ビニルアルコール共重合体と上記のナイロンと共押出しからなる多層積層フィルムが、高いガスバリア性を有し、更に、保香性、透明性、耐衝撃性、耐屈曲ピンホール性、耐突き刺し性、柔軟性、耐薬品性に優れるのでより好ましいものである。また、その膜厚としては、6〜50μm位が望ましい。前記の多層積層フィルムとしては、例えば、ナイロン樹脂層とエチレン−ビニルアルコール共重合体層とナイロン樹脂層とからなる共押共延伸フィルム、ナイロン樹脂層とMXDナイロン樹脂層とナイロン樹脂層とからなる共押共延伸フィルム、または、MXDナイロンからなる延伸フィルムを使用することができる。上記のポリアミド系樹脂延伸フィルムは、腰、強度、酸素ガス、水蒸気等に対するガスバリア性、耐衝撃性、耐屈曲ピンホール性、耐突き刺し性等に優れるという利点を有する。上記において、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムとしては、例えば、酢酸ビニルの含有率が約79〜92wt%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を完全ケン化したエチレン含有率25〜50モル%位のエチレン−ビニルアルコール共重合体を使用することができる。上記のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、高いガスバリア性を有し、更に、保香性、透明性等に優れているものである。上記のエチレン−ビニアルコール共重合体においては、エチレン含有率が、50モル%以上のものは、酸素ガスバリア性が急激に低下し、また、透明性も悪くなることから好ましくなく、また、25モル%以下のものは、その薄膜がもろくなり、また、高湿度下において酸素ガスバリア性が低下して好ましくないものである。また、前記2軸延伸ポリエステル系樹脂フィルムの具体的な材質としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン−2、6−ナフタレート樹脂、ポリブチレン−2、6−ナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂等の各種のポリエステル系樹脂を使用することができる。また、これらのフィルムに酸化アルミニウム、酸化珪素等の無機酸化物を蒸着したフィルムや、これらのフィルムにポリビニルアルコールや塩化ビニリデン等のバリア性樹脂をコーティングもしくは共押出ししたフィルムを用いることができる。基材層5の厚さは、通常6〜50μm程度である。
【0021】
薬剤遮断性フィルム層21は、内包装用袋3に薬剤遮断性を付与してガス化した薬剤4の透過を防止するものである。薬剤遮断性フィルム層21としては、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム(EVOH)、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、その他等の樹脂を選択して、そのフィルムを積層して使用することができる。その他、薬剤遮断性フィルム層21の材料としては、例えば、アルミニウム箔あるいはそのアルミ蒸着膜、あるいは酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物の蒸着膜を延伸フィルムの上に設けることができる。延伸フィルム上に蒸着膜を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を挙げることができる。また、酸化ケイ素の蒸着膜を形成する場合、オルガノシロキサンを原料とするプラズマ化学気相成長法を用いて蒸着膜を形成することができる。薬剤遮断性フィルム層21の厚さは9〜100μm程度である。
【0022】
熱接着性樹脂層22は、熱によって溶融して積層体11の内面同士を相互に融着し得るものであればよく、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、メタロセン触媒(シングルサイト触媒)を使用して重合したエチレン・α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂等から選ばれた1種ないし2種以上を使用することができる。
【0023】
熱接着性樹脂層22の形成方法としては、上記の熱接着性樹脂を溶融押出し法により積層する方法や、熱接着性の単層ないし多層フィルムを積層する方法が用いられる。熱接着性樹脂層22の層厚としては、ヒートシール性等を考慮すると、10μm〜100μm程度、特に15μm〜50μm程度であることが好ましい。
【0024】
接着剤層23は、積層体11を構成する基材層20、薬剤遮断性フィルム層21、熱接着性樹脂層22を強固に密着させて層間剥離(デラミネーション)の発生を防止するものである。接着剤層23を構成する接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル酸のエチル、ブチル、2−エチルヘキシルエステル等のホモポリマー、或いは、これらとメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等との共重合体等からなるポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーとの共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等からなるゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、アルカリ金属シリケート、低融点ガラス等からなる無機系接着剤等を使用することができる。
【0025】
なお、接着剤層23に代えて接着性樹脂層を積層しても良い。接着性樹脂層は熱によって溶融して基材層20、薬剤遮断性フィルム層21、熱接着性樹脂層22を相互に熱接着可能な樹脂であれば良く、前述した熱接着性樹脂層22と同様の樹脂が使用できる。
【0026】
なお、図3に示した積層体11の積層構造は好ましい一例であり、少なくとも薬剤遮断性フィルム層21と最内層である熱接着性樹脂層22とを含む積層構造であれば良い。積層体11の具体的な構成を例示すると、二軸延伸ポリエステルフィルム(基材層)/接着剤層/EVOH樹脂層(薬剤遮断性フィルム層)/接着剤層/ヒートシール性二軸延伸ポリプロピレンフィルム(HSOPP;熱接着性樹脂層)等が挙げられる。
【0027】
図4は、内包装用袋3の上部シール部10の部分拡大図である。上部シール部10には、三角形状のシール抜き部30が上部シール部10の長手方向に沿って多数形成されている。また、隣接するシール抜き部30は、三角形の頂部30aを内包装用袋3の内側(図4の下側)に向けたものと、三角形の底辺部30bを内包装用袋3の内側に向けたものとが交互に隣接して配置されている。これにより、上部シール部10は剥離強度が側部シール部9に比べて小さく、内包装用袋3を指で押圧することにより容易に剥離する程度に設定されている。
【0028】
次に、本発明の薬剤蒸散容器1の使用方法について説明する。外容器2に収納した状態で外部から内包装用袋3を押圧すると、内包装用袋3に封入された薬剤4(ここでは芳香剤)を介して上部シール部10に圧力が作用する。この圧力は上部シール部10の内縁部10aに集中するため、内縁部10aに最も近接するシール抜き部30の頂部30aと内縁部10aとの間からシールが剥離し始める。
【0029】
押圧力を強めていくと、剥離が大きく広げられてシール抜き部30が内包装用袋3の内部と連通する。そして、内包装用袋3に封入された薬剤4はシール抜き部30内に流入する。さらに押圧を継続すると、隣接するシール抜き部30との間、及び底辺部30bと外縁部9aとの間のシールが剥離し、内包装用袋3に封入された薬剤4は外容器2内に流出する。
【0030】
この状態で薬剤蒸散容器1を所定の場所に設置することにより、外容器2内の薬剤4は徐々にガス化する。ガス化した薬剤4は、外容器2の窓部5を密封する薬剤透過性フィルム7を通過して外容器2の外部に蒸散する。
【0031】
なお、上記実施形態では上部シール部10全域にシール抜き部30を形成して弱シール部としたが、上部シール部10の一部のみにシール抜き部30を形成して弱シール部としても良い。また、上部シール部10に代えて側部シール部9にシール抜き部30を形成しても良いし、側部シール部9及び上部シール部10の両方にシール抜き部30を形成しても良い。
【0032】
上記構成により、外容器2の外部から内包装用袋3を指で押さえて上部シール部10を破断するだけで、外容器2の薬剤透過性フィルム7を介して薬剤を蒸散させることができる。従って、漏出した薬剤によりユーザの手や周辺を汚染したり、薬剤の容量減少により使用時間が短縮したりするおそれがなくなる。
【0033】
また、通常の熱接着性樹脂を用いて上部シール部10のヒートシール強度を低下させることができるため、熱接着性樹脂層22としてヒートシール強度の低い特殊な仕様の樹脂を用いる必要がなく、薬剤蒸散容器1の製造コストも低減することができる。さらに、内包装用袋3の特定の位置に弱シール部を形成できるため、内包装用袋3の特定の領域から破断させることができる。
【0034】
弱シール部である上部シール部10は、ヒートシール部材(ヒートシールバー)の表面にシール抜き部30の形状に合わせて網目状の刻印を形成したり、熱導電性の低い材料を埋め込んだりすることで、側部シール部9と同条件で形成可能となる。
【0035】
ここで、上部シール部10の剥離強度が小さくなるほど開封性は向上する反面、外部からの圧力により薬剤4が漏出する危険性は高くなる。従って、内包装用袋3に要求される耐圧強度と開封性に応じて剥離強度を設定する必要がある。上部シール部10の剥離強度は、シール抜き部30の形状や隣接するシール抜き部30同士の間隔、シール抜き部30と上部シール部10の内縁部10aまたは外縁部10bとの間隔によって調整可能である。例えば、図4に示すように三角形の頂部30aを内包装用袋3の内側に向けたシール抜き部30を形成しておけば、頂部30aの剥離強度が低下するため、内包装用袋3の開封性を一層向上させることができる。上部シール部10の剥離強度は3N/15mm程度が好ましい。
【0036】
次に、本発明の薬剤蒸散容器の製造方法について説明する。先ず、基材層20に接着剤層23を介して薬剤遮断性フィルム層21を積層した後、接着剤層23を介して熱接着性樹脂層22を積層して積層体11を製造する。
【0037】
次に、積層体11の内面(熱接着性樹脂層22側の面)を対向して重ね合わせ、二辺をヒートシールして側部シール部9を形成した後、薬剤4を所定量充填して残りの一辺をヒートシールして上部シール部10を形成し、内包装用袋3とする。このとき、上部シール部10にシール抜き部30を形成する。ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【0038】
本発明に用いられる内包装用袋3は、連続的に、或いはバッチ式に製造することができる。例えば連続的に製造する場合、ロール状に巻かれた二枚の長尺の積層体11を順次繰り出し、両方の積層体10の周囲をヒートシールすると同時に薬剤4を充填する工程を連続して行うことにより、薬剤4が封入された複数の内包装用袋3がマトリクス状に連なる長尺状の中間体を製造する。その後、中間体はスリッターにより長尺方向にカットされ、さらに所定数ずつ幅方向にカットされて個々の内包装用袋3となる。
【0039】
また、バッチ式に製造する場合は、積層体10を二枚重ね合わせて熱接着性樹脂層22を対向させ、さらにその周辺端部を、例えば側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型等のヒートシール形態によりヒートシールして種々の形態の内包装用袋3を製造することができる。
【0040】
さらに、一枚の積層体11のみで内包装用袋3を製造することも可能である。即ち、積層体11を折り曲げて二方シール型、三方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)等のヒートシール形態により、少なくとも一部にシール抜き部30により弱シール部が形成された内包装用袋3を製造すれば良い。
【0041】
最後に、薬剤4が密封された内包装用袋3を外容器本体2aに収納し、薬剤透過性フィルム7が装着された蓋部材2bを被せてフランジ部5を熱融着することにより、薬剤蒸散容器1を製造する。
【0042】
こうして得られた本発明の薬剤蒸散容器1は、液状或いはゲル状の芳香剤、消臭剤、防虫剤等の包装材として、易開封性、内容物の蒸散性、製造性等の優れた特性を有することから、使用性及び製造コスト等を著しく改良した薬剤蒸散容器を提供できるものである。
【0043】
その他本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では樹脂成形された外容器2の窓部5に薬剤透過性フィルム7を装着したが、外容器2全体を薬剤透過性フィルムで形成することもできる。
【0044】
また、上記の製造方法は好ましい一例に過ぎず、例えば積層体11の製造方法として、通常の包装材料を製造するときに使用する積層法、例えば、ウエットラミネーション法、無溶剤ラミネーション法、共押出ラミネーション法、インフレーション法、その他の方法を用いることもできる。
【0045】
また、必要ならば上記各層の積層を行う際に、被積層基材の表面に、例えばコロナ放電処理、オゾン処理、フレーム処理、ブラスト処理等の前処理を任意に施すことができる。以下、実施例を用いて本発明の構成を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0046】
基材層20として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、この基材層20の表面に、薬剤遮断性フィルム層21として厚さ12μmのEVOHフィルムを、接着剤層としてのポリウレタン系接着剤を介して積層した。さらに、EVOHフィルム側の表面に、熱接着性樹脂層22として厚さ30μmのHSOPPフィルムを、接着剤層としてのポリウレタン系接着剤を介して積層して積層体11を製造した。
【0047】
次に、上記で製造した2枚の積層体11を使用し、両方の熱接着性樹脂層22を内面になるようにして対向させ、図4に示したような、三角形状のシール抜き部30を上部シール部10の長手方向に沿って多数形成した内包装用袋3を本発明、通常のヒートシール(ベタシール)した内包装用袋3を比較例として、シール強度を比較した。なお、本発明におけるシール抜き部30の三角形の頂部30aから上部シール部10の内縁部10aまでの間隔は2.0mmとした。
【0048】
シール強度の測定方法は、幅25mmの2枚の積層体11をヒートシールしたものを、オートグラフ(島津製作所社製)を用いて引張りスピード300mm/分で剥離したときの強度を測定した(n=20)。ヒートシール条件は、全てシール温度150℃、シール圧1kg、シール時間1秒とした。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、上部シール部10にシール抜き部30を形成した本発明の内包装用袋3では、剥離強度が6.7N/25mm幅(≒4N/15mm幅)となり、上部シール部10を通常のヒートシールとした比較例の内包装用袋3(8.6N/25mm幅)に比べて剥離強度を約3/4程度に小さくすることができた。
【0051】
この内包装用袋3にゲル状の芳香剤を充填し、図1及び図2に示したような樹脂製の外容器2内に収納した。外容器2の外側から内包装用袋3を指で押圧したところ、内包装用袋3を容易に破断して使用することができた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、芳香剤や消臭剤、防虫剤等の蒸散性の薬剤を包装し、保管時には薬剤の蒸散を防止するとともに使用時には薬剤透過性フィルムを介して外部に蒸散させる薬剤蒸散容器に利用可能である。本発明の利用により、易開封性、内容物の蒸散性、製造性等の優れた特性を有することから、使用性及び製造コスト等を著しく改良した薬剤蒸散容器を提供することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 薬剤蒸散容器
2 外容器
3 内包装用袋
4 薬剤
5 フランジ部
6 窓部
7 薬剤透過性フィルム
8 収納部
9 側部シール部
10 上部シール部(弱シール部)
11 積層体
20 基材層
21 薬剤遮断性フィルム層
22 熱接着性樹脂層
23 接着剤層
30 シール抜き部
30a 頂部
30b 底辺部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状またはゲル状の薬剤が封入される収納部と、該収納部の周縁を封止するシール部とを有し、封入される薬剤が透過不可能な薬剤遮断性フィルム層と最内層である熱接着性樹脂層とを少なくとも含む積層体により形成される内包装用袋と、
該内包装用袋が密封して収納され、ガス化した前記薬剤が透過可能な薬剤透過性フィルムにより少なくとも一部が形成された外容器と、
を有する薬剤蒸散容器において、
前記シール部の少なくとも一部は、複数のシール抜き部が形成され外部から前記収納部を押圧することにより剥離可能な弱シール部となっており、前記シール抜き部の少なくとも一部は前記シール部の内縁側に向けて頂部を有することを特徴とする薬剤蒸散容器。
【請求項2】
前記シール抜き部は、前記シール部の内縁側に向けて頂部を有する三角形状のシール抜き部と、前記シール部の外縁側に向けて頂部を有する三角形状のシール抜き部とが、前記シール部の長手方向に沿って交互に配置されることを特徴とする請求項1に記載の薬剤蒸散容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−205794(P2012−205794A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74076(P2011−74076)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】