説明

薬液投与装置

【課題】薬液(インスリン)を投与する装置全体を小型化する。
【解決手段】シール部41及び押付部42によりシリンダ14におけるピストン11側をシールすると共に、ピストン11がシリンダ14内で摺動する際の摺動抵抗を大幅に減少させることができるので、ピストン11を駆動させる駆動部に供給する電力を減少させることができ、これに伴い電源部を構成する電池を小さくすることができ、かくして装置全体を小型化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液投与装置に関し、例えば薬液を使用者の体内に投与する場合に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、薬液(インスリン)を投与する装置として、使用者の皮膚に付着させて用いられる携帯型の装置であって、薬液容器である外筒内に充填された薬液をシール部材(ピストン)を介して押し出すことにより体内に投与する、所謂シリンジポンプ型の装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−501283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した装置では、薬液容器である外筒とピストンとの間で薬液の漏れを防止するために例えば高分子材料(熱可塑性エラストマ)などでピストンを構成したり、ピストンの少なくとも外周部を高分子材料(熱可塑性エラストマ)などを設けるようになされている。
【0005】
一方、使用者に長時間に保持させる装置ではより小型化することが求められる。装置を小型化する場合、内部に搭載される電源も小さくしなければならず、これに伴って薬液を外部に送出する力もより小さくしなければならない。
【0006】
しかしながら、シール部材であるピストンとして高分子材料(熱可塑性エラストマ)を使用する場合に、ピストンと外筒との間の摺動抵抗が大きいために供給電力を少なくすることができず、内部に搭載される電源が大きくなってしまい、小型化することができないといった問題があった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、小型化し得る薬液投与装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明は、使用者の体内に薬液を投与するための薬液投与装置であって、薬液が入れられる薬液貯蔵部と、薬液貯蔵部から外部へ薬液が流れる流路を形成する流路部と、流路部の途中に設けられたシリンダ部と、シリンダ部内を摺動するピストンとを有し、流路部は、薬液貯蔵部とシリンダ部とを接続する流入路と、シリンダ部と使用者の生体へと接続される流出路とから成り、流路部は薬液貯蔵部からシリンダ部へと薬液が流れるように流入路上に設けられた該薬液の流れる方向を制御する第1制御部と、シリンダ部から外部使用者の生体内へ薬液が流れるように、流出路上に設けられた該薬液の流れる方向を制限する第2の制限部とを有し、ピストンの外周と周方向にわたって接するように覆うシール部と、シール部をピストンの外周と周方向にわたって接するように該ピストンに押し付けると共に、シリンダとシール部の間の隙間を塞ぐ押付部とを有し、シール部材は、親油性かつ非親水性の多孔質部材にシリコーンオイルが含有されてなる。
【0009】
これにより、ピストンをシリンダ部内で摺動させて薬液貯蔵部に貯蔵された薬液を流路部を介して使用者の体内に送液する際に、シール部及び押付部によりシリンダ部におけるピストン側の漏れを塞ぐとともに、ピストンと接するシール部でピストンとの摺動抵抗を減少させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ピストンがシリンダ内で摺動する際の摺動抵抗を減少させることができるので、ピストンを駆動させる駆動部に供給する電力を減少させることができ、これに伴い電源部を小型化することができ、かくして装置全体を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】薬液投与装置の構成を示す略線図である。
【図2】薬液投与装置の分解斜視図である。
【図3】送出部による薬液の送出の様子を示す略線図である。
【図4】駆動部の構成を示す略線図である。
【図5】駆動部の断面図である。
【図6】振動体の変形の様子を示す略線図である。
【図7】ピストン、シリンダ、シール部及び押付部の構成を示す略線図である。
【図8】実験装置の構成を示す略線図である。
【図9】実験結果を示す図である。
【図10】薬液投与装置の電気的構成を示す略線図である。
【図11】薬液投与処理手順を示すフローチャートである。
【図12】他の実施の形態における駆動部の構成を示す略線図である。
【図13】他の実施の形態における薬液投与装置の電気的構成を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0013】
〔1.薬剤投与装置の構成〕
図1に示すように、薬液投与装置1は、使用者の皮膚に貼り付けることにより保持されて使用される携帯型の装置であり、上側が開口し内部に空間が設けられた下筐体部2と該下筐体部2の開口に嵌合する上筐体部3により扁平な略直方体形状に形成される。
【0014】
薬液投与装置1の大きさは、使用者の皮膚にはりつけることができる程度にまで小型化されていればよいが、例えば横32mm、縦44mm、高さ11mm略直方体形状が挙げられる。
【0015】
下筐体部2には、両面テープ等でなる貼付部4が底面2Aに設けられる。薬液投与装置1は、接着部4が使用者の皮膚に貼り付けられることにより該使用者に保持される。
【0016】
薬液投与装置1は、下筐体部2の底面2Aに、内部に充填された薬液を使用者の体内へ投与するために該使用者の皮膚を穿刺するための針やカニューレ等でなる穿刺部5と、内部に設けられた薬液貯蔵部(図2)に薬液を注入するための注入路である注入部6とが設けられる。
【0017】
薬液投与装置1は、図2に示すように、下筐体部2と上筐体部3とで形成される空間に注入部6、薬液貯蔵部7、基板部8及び送出部9が配される。
【0018】
薬液貯蔵部7は、柔軟性を有する材料により形成された容器(本実施の形態では2mL)である。薬液貯蔵部7を構成する材質としては、例えば、ポリオレフィンを含むものであるのが好ましく、特に好ましいものとして、ポリエチレンまたはポリプロピレンに、スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーをブレンドし柔軟化した軟質樹脂を挙げることができる。そして、薬液貯蔵部7には薬液が注入部6を介して外部から充填される。薬剤貯蔵部7に貯蔵される薬液としては、例えばインスリンや各種ホルモン、モルヒネなどの鎮痛薬、あるいは抗炎症薬剤などが挙げられる。基板部8は、電源電力を供給する電源部64(図10)や送出部9を制御する回路などが配される。
【0019】
送出部9は、図2及び図3に示すように、ピストン11、CPU61(図6)の制御に応じて該ピストン11を往復駆動させる駆動部12、及び薬液貯蔵部7から穿刺部5まで薬液が流れる流路を形成する流路部13、一端が流路部13に接続され他端から挿入されるピストン11が内部で摺動されるシリンダ14、流路部13の流路の開閉を行い薬液の流れを制限する制限部15を含む構成とされる。
【0020】
ピストン11は、駆動部12により駆動されてシリンダ14内で所定のストロークで摺動する。ピストン11の材質としては、例えば、ステンレス鋼、銅合金、アルミ合金、チタン材、ポリプロピレンやポリカーカーボネートなどの熱可塑性エラストマー等が挙げられ、その直径は例えば、0.8mm程度である。また、ピストン11はシリンダ14内を摺動することにより一定量の薬液を送液するが、そのストロークは例えば2mm程度である。
【0021】
流路部13は、流入路を形成する吸込管13A、流出路を形成する送出管13B及びシリンダ部へと接続するための接続管13Cにより構成される。吸込管13Aは、一端が薬剤貯蔵部7に接続され、他端が接続管13Cと接続される。送出管13Bは、一端が穿刺部5と接続され、他端が接続管13Cと接続される。接続管13Cは、端部がそれぞれ吸込管13A及び送出管13Bと接続され、中央部分にシリンダ14が接続される。
【0022】
制限部15は、第1の制限部を構成する吸込側蓋部21及び吸込側押付部23、第2の制限部を構成する送出側蓋部22及び送出側押付部24により構成される。
【0023】
吸込側蓋部21及び送出側蓋部22は、弾性変形可能な部材でなり、吸込管13A及び送出管13Bのそれぞれ他端に対して所定の間隔だけ離間して配される。吸込側押付部23及び送出側押付部24は、CPU61(図10)の制御に応じて動作するアクチュエータであり、吸込側蓋部21及び送出側蓋部22を吸込管13A及び送出管13Bの他端に押し当てることにより吸込管13A及び送出管13Bの他端をそれぞれ塞ぐ。
【0024】
シリンダ14は、ピストン11の直径より大きな内径で、一端が接続管13Cと接続され、他端側からピストン11が挿入され内部で摺動する。シリンダ14とピストン11との直径の差は、例えば0.01mm程度である。
【0025】
送出部9は、薬液貯蔵部7から外部に薬液を送出する際、図3に示すように、ピストン11が最も押込まれる位置(以下、最押込位置とも呼ぶ)にきた時、吸込側押付部23を吸込側蓋部21から離して吸込管13A及び接続管13Cの間の流路を開放すると共に、送出側押付部24により送出側蓋部22を送出管13Bの他端に押し付けて送出管13B及び接続管13Cの間の流路を塞ぐ(図3(A))。
【0026】
そして送出部9は、ピストン11を最押込位置から最も引き戻される位置(以下、これを最引戻位置とも呼ぶ)までシリンダ14内で摺動させ(以下、この摺動方向を引戻方向とも呼ぶ)、薬液貯蔵部7に貯蔵された薬液を吸込管13A及び接続管13Cを介してシリンダ14内に吸い出す(図3(B))。
【0027】
送出部9は、ピストン11が最引戻位置に移動されると、吸込側押付部23により吸込側蓋部21を吸込管13Aの他端に押し付けて吸込管13A及び接続管13Cの間の流路を塞ぎ(図3(C))、送出側押付部24を送出側蓋部22から離して送出管13B及び接続管13Cの間の流路を開放する(図3(D))。
【0028】
送出部9は、ピストン11を最引戻位置から最押込位置までシリンダ14内を摺動させ(以下、この摺動方向を押込方向とも呼ぶ)、シリンダ14の内部に吸い出された薬液を接続管13C、送出管13B及び穿刺部5を介して使用者の体内に送出する(図3(E)及び(F))。
【0029】
送出部9は、ピストン11を一往復させる動作(図3(A)〜(F))で所定量の薬液を使用者の体内に投与でき、この動作を設定された周期及び間隔で繰り返し行うことにより、所望の投与速度及び投与量で薬液を使用者に投与できる。
【0030】
駆動部12は、図4及びその断面図である図5に示すように、支持体31、軸支持体32、軸体33、振動体34、移動体35、軸当接体36及び締付体37を含む構成とされる。
【0031】
支持体31は、その一端側に設けられた軸支持体32を介して駆動部12の各部を支持する。また支持体31は、対向する面同士が所定間隔(ピストン11のストローク及び突出部35Bの幅を合わせた距離)離れるようにして移動体35の方向に移動制限部31A及び31Bが突設されており、該移動制限部31A及び31Bによりピストン11の移動を制限する。
【0032】
軸支持体32は、軸体33が挿通される孔が設けられる。軸体33は、略円柱形状でなり、軸支持体32の孔に挿通されて軸方向に移動可能に支持される。軸体33の一端には、例えば電圧素子でなる振動体34が当接される。
【0033】
振動体34は、CPU41(図7)の制御に基づいて電圧が印加されることにより、中央部分が周辺部分に対して押し出されるように湾曲する。このとき湾曲する方向は印加される電圧の方向によって異なる。具体的には、例えば電圧を印加していないときは平面状になっており、(図6(A))、図6(B)の方向(この方向を仮に正方向とする)に電圧を印加することで軸体33を押し出すように変形し、図6(B)とは反対方向(この方向を仮に負方向とする)に電圧を印加することで軸体33を引き戻すように変形する(図6(C))。
【0034】
軸体33は、軸支持体32を挟んで振動体34とは反対側で移動体35及び軸当接体36に締付体37を介して囲まれるようにして所定の摩擦力で挟持される。
【0035】
移動体35は、軸当接体36と対向する軸対向部35Aとは反対側にピストン11が接続される。
【0036】
また移動体35は、支持体31の移動制限部31A及び31Bの間で、移動体35が移動した際に移動制限部31A及び31Bの対向するそれぞれの面に当接するように所定幅の突出部35Bが設けられる。
【0037】
駆動部12は、振動体34への印加電圧が緩やかに正方向に変化すると該振動体34が伸びて軸体33を押込方向に移動させる。このとき移動体35、軸当接体36、締付体37及びピストン11は、軸体33と移動体35及び軸当接体36との摩擦力により軸体33と共に押込方向に移動する。
【0038】
その後、駆動部12は、振動体34への印加電圧が急激に負方向に変化すると該振動体34が縮んで軸体33を引戻方向に移動させる。このとき移動体35、軸当接体36、締付体37及びピストン11は、慣性力が軸体33と移動体35及び軸当接体36との摩擦力に打ち勝つことにより軸体33が滑り、その位置に留まる。
【0039】
このようにして駆動部12は、この1回の動作でピストン11を押込方向に微小量移動させる。微小量としては、例えば約0.2μm程度である。駆動部12は、これを所定回数繰り返し行うことによりピストン11を最引戻位置から最押込位置まで移動させる。例えば、駆動部12を10000回移動させることにより、2mm移動させることができる。このとき駆動部12は、移動制限部31Aに突出部35Bが当接することにより最押込位置より押込方向にピストン11が移動することを防止できる。
【0040】
一方、駆動部12は、振動体34への印加電圧が急激に正方向に変化すると該振動体34が伸びて軸体33を押込方向に移動させる。このとき移動体35、軸当接体36、締付体37及びピストン11は、慣性力が軸体33と移動体35及び軸当接体36との摩擦力に打ち勝つことにより軸体33が滑り、その位置に留まる。
【0041】
駆動部12は、振動体34への印加電圧が緩やかに負方向に変化すると該振動体34が縮んで軸体33を引戻方向に移動させる。このとき移動体35、軸当接体36、締付体37及びピストン11は、軸体33と移動体35及び軸当接体36との摩擦力により軸体33と共に引戻方向に移動する。
【0042】
このようにして駆動部12は、この1回の動作でピストン11を引戻方向に微小量移動させる。微小量としては、たとえば約0.2μmである。駆動部12は、これを所定回数繰り返し行うことによりピストン11を最押込位置から最引戻位置まで移動させる。所定回数としては、たとえば10000回であり、これにより2mmピストン11を移動させることができる。このとき駆動部12は、移動制限部31Bに突出部35Bが当接することにより最引戻位置より引戻方向にピストン11が移動することを防止できる。
【0043】
ところで図7(A)に示すように、ピストン11の直径が0.8mmであるのに対してシリンダ14の内径が0.81mmであり、ピストン11とシリンダ14は5μmの間隔が設けられる。
【0044】
そこで図7(B)に示すように薬液投与装置1では、シリンダ14におけるピストン11が挿入される側の端に当接し、ピストン11の外周を覆うようにしてシール部41が設けられる。シール部41は、多孔質部材で構成されている。多孔質部材としては、例えば、紙やスポンジなどが挙げられる。親油性かつ非親水性の材質としては、たとえばシリコーンオイル若しくはシリコーンオイル及び蝋が染込まれている。
【0045】
なお、シリコーンオイルは常温で液体であり、蝋は常温で固体であり多孔質部材に染込まれる際には常温より高い温度で融解された状態でシリコーンオイルと混合され染込まされて常温に戻されることにより固化する。
【0046】
押付部42は、例えば弾力性を有するシリコーンチューブでなり、シリンダ14とシール部41の間を塞ぎ、かつシリンダ14の他端側の一部と共にシール部41をピストン11の周方向に渡って接するように押え付ける。
【0047】
シール部41は、多孔質部材にシリコーンオイル若しくはシリコーンオイル及び蝋が染込まれており、かつ多孔質部材が非親水性であるので、シリンダ14内に引き込まれた薬液がシール部材41とピストン11の間を通って外部に漏れることを防止することができる。
【0048】
また押付部42は、シリンダ14とシール部41の間を塞いでいるので、シリンダ14内に引き込まれた薬液がシリンダ14と押付部42及びシール部41と押付部42との間を通って外部に漏れることを防止することができる。
【0049】
シリンダ14内では、ピストン11が最引戻位置から最押込位置へ摺動する際にはシリンダ14の内部圧力が所定圧力(例えば、約100kPa)まで上昇することが予想されており、この状態で薬液がシリンダ14におけるピストン11側から外部に漏れないことが必要となる。
【0050】
そこでシリンダ14の内部圧力を100kPaより高い150kPaに上昇させた状態での漏れの有無、シリンダ14に薬液を模した溶液で満たしてのピストン11の摺動抵抗、シリンダ14内の圧力を100kPa以上にしてのピストン11の摺動抵抗を測定する実験を行った。
【0051】
図8に示すように、実験装置50は、シリンダ14における一端側にピストン11、シール部41及び押付部42が配される。シリンダ14のシール部41が設けられていない端側には配管51が接続されており、該配管51におけるシリンダ14とは反対側に圧力を加えるためのシリンジ52が接続される。
【0052】
シリンダ14及び配管51の内部には薬液を模した溶液が満たされており、シリンジ52を押し込むことによりシリンダ14及び配管51の内部圧力を上昇させる。
【0053】
また実験装置50は、配管51内の圧力を測定するための圧力計53が該配管51に接続され、ピストン11のシリンダ14に挿入されていない端側には摺動抵抗を測定するためのフォースゲージ54が配される。
【0054】
本実験では、圧力計63の表示が150kPaになるまでユーザによりシリンジ52を押し込み、その状態でシール部41を介してシリンダ14におけるピストン11側から外部に溶液が漏れたか否かを確認した。
【0055】
また本実験では、シリンダ14及び配管51に溶液を満たした状態で、ピストン11をフォースゲージ63で押込み、ピストン11が動く直前のフォースゲージ54の値を摺動抵抗として測定した。
【0056】
さらに本実験では、圧力計53の表示が100kPa以上になるまで使用者によりシリンジ52を押し込み、その状態でピストン11が動く直前のフォースゲージ54の値を内圧100kPaの摺動抵抗として測定した。
【0057】
実験結果を図9に示すように、シリンダ14及び配管51の内部圧力を150kPaしてもピストン11側から外部に溶液が漏れないことが確認された。
【0058】
また摺動抵抗については、ばらつきがあるもののほぼ30gf以下に収まっており、実験によっては5〜8gfと非常に小さい摺動抵抗であることが確認された。
【0059】
なお、この実験との対比のために、直径3mmのピストンに対してシリンダとの間をシリコーンオイルが塗布された高分子材料(熱可塑性エラストマ)で塞いだシリンジの摺動抵抗も測定した。高分子材料(熱可塑性エラストマ)を使用した際の摺動抵抗は大よそ50gfであり、シール部41及び押付部42を設けた場合より大きな値となった。
【0060】
〔2.薬液投与装置の電気的構成〕
薬液投与装置1は、図10に示すように、CPU(Central Processing Unit)61、ROM(Read Only Memory)62、RAM(Random Access Memory)63、電源部64、インターフェース部(I/F部)65、報知部66、駆動部12及び制限部15がバス67を介して接続される。
【0061】
CPU61、ROM62、RAM63、電源部64及び報知部66は、基板部8上(図示せず)に配される。電源部64は電池が適応される。報知部66は例えば音声で報知するためのスピーカや、光で報知するためのLEDなどが適応される。
【0062】
インターフェース部65は、上筐体部3又は下筐体部2に配されユーザの入力命令を受け付けるボタン(図示せず)等が適応される。またインターフェース部45の代わりに無線による通信を行うためのアンテナ及び通信回路からなる通信部を搭載し、本ポンプとは別体となる操作部(図示せず)から無線通信による入力命令を受け付ける方式でもよい。
【0063】
CPU61は、ROM62に格納された基本プログラムをRAM63に読み出して実行することより全体を統括制御すると共に、ROM62に記憶された各種アプリケーションプログラムをRAM63に読み出して実行することにより各種処理を実行する。使用者は薬液投与装置1を操作し、制御部であるCPU61に指令を出すことで、CPU61は基本プログラムを読みだし、駆動部12及び制限部15を制御することで使用者へ薬剤が投与される。
【0064】
CPU61は、薬液を使用者に投与する際、薬液投与プログラムをRAM63に読み出して実行することにより、図11に示すフローチャートに従った薬液投与処理を実行する。
【0065】
CPU61は、薬液投与処理を実行すると、薬液が注入部6を介して外部から充填され(ステップSP1)、貼付部2が使用者の皮膚に貼り付けられると共に穿刺部5が使用者の皮膚に穿刺された後(ステップSP2)、インターフェース部65を介して入力された投与量、投与速度などのパラメータを設定する(ステップSP3)。
【0066】
そしてCPU61は、設定されたパラメータに基づいて駆動部12及び制限部15を制御して薬液の投与を開始し(ステップSP4)、薬液貯蔵部7に貯蔵された薬液がすべて投与された場合(ステップSP5でYES)、処理を終了する。
【0067】
なお、薬液貯蔵部7に貯蔵される薬液量とピストン11が一往復した際に送出される薬液量が決められているので、CPU61は、ピストン11の往復回数に基づいて薬液貯蔵部7に送出した薬液量を算出し、貯蔵された薬液がすべて送出された(投与された)か否かを判断する。
【0068】
CPU61は、薬液貯蔵部7に貯蔵された薬液がすべて送出されていない場合(ステップSP5でNO)、ステップSP3で設定された投与量の薬液が投与されるまでステップSP5〜SP7を繰り返す。
【0069】
CPU61は、ステップSP3で設定された投与量の薬液が投与された場合(ステップSP6でYES)、次に薬液を投与する入力命令がインターフェース部65を介して入力されるまで待ち受ける(ステップSP8)。
【0070】
〔3.動作及び効果〕
以上の構成において、薬液投与装置1は、薬液(薬液)が貯蔵される薬液貯蔵部7から使用者の体内へ該薬液を送出するための流路部13と一端が接続されたシリンダ14の他端側でピストン11が摺動することにより該薬液を使用者の体内に送出する。
【0071】
この薬液投与装置1では、シリンダ14におけるピストン11が挿入される側に該ピストン11の外周を覆うように、親油性でかつ非親水性の多孔質部材にシリコーンオイル或いはシリコーンオイル及び蝋を染込させたシール部41が設けられる。また薬液投与装置1では、シリンダ14とシール部41の間を塞ぎ、ピストン11にシール部を押し付ける押付部42が設けられる。
【0072】
従って薬液投与装置1は、シール部41及び押付部42によりシリンダ14におけるピストン11側をシールすることができ、またピストン11がシリンダ14内で摺動する際の摺動抵抗を従来のように高分子材料(熱可塑性エラストマ)でシールした場合に対して大幅に減少させることができる。
【0073】
これにより薬液投与装置1では、ピストン11を駆動させる駆動部12に供給する電力を減少させることができ、これに伴い電源部45を構成する電池を小さくすることができる。かくして薬液投与装置1は、装置全体を小型化することができる。
【0074】
ところで、薬液が充填された外筒内で薬液をシール部材で直接押し出すシリンジポンプでは、シリンジ内に薬液を充填させる体積を確保するため、シリンジ及びプランジャーの断面積が本発明のピストン11及びシリンダ14の断面積と比べて大きい。
【0075】
従って、薬液を押し出す際にシール部材に加わる力も大きくなるので、シリンジとシール部材とに間が開いていると薬液が漏れやすいため高分子材料(熱可塑性エラストマ)等でシールされて漏洩を防止する。
【0076】
このようにシリンジポンプでは、高分子材料(熱可塑性エラストマ)でシールするとシール部材の摺動抵抗が大きくなるので、該摺動抵抗を減らすためにシリコーンオイルが外筒の内面やプランジャーの外周に塗布される場合がある。
【0077】
しかしながら高分子材料(熱可塑性エラストマ)を用いている以上、上述の実験結果で示したように摺動抵抗を本願発明のように小さくすることができない。
【0078】
これに対して薬液投与装置1は、シール部41がシリンダ14におけるピストン11側をシールすると共に摺動抵抗を減少させる潤滑剤としても機能することにより、ピストン11がシリンダ14内で摺動する際の摺動抵抗を大幅に減少させることができる。
【0079】
以上の構成によれば、シール部41及び押付部42によりシリンダ14におけるピストン11側をシールすると共に、ピストン11がシリンダ14内で摺動する際の摺動抵抗を大幅に減少させることができるので、ピストン11を駆動させる駆動部12に供給する電力を減少させることができ、これに伴い電源部45を構成する電池を小さくすることができ、かくして装置全体を小型化することができる。
【0080】
〔4.他の実施の形態〕
なお上述した実施の形態においては、ピストン11を往復移動させるものとして駆動部12を適用するようにした場合について述べたが、ピストン11を往復移動させるものであれば、例えば、ギアが回転軸に取り付けられたDCモータを回転させ、該ギアを介して送りねじによりピストン11を往復移動させるようにしてもよい。
【0081】
また上述した実施の形態においては、支持体31の移動制限部31A及び31Bに移動体35の突出部35Bが当接することによりピストン11の移動を制限するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。
【0082】
例えば、図4との対応部分に同一符号を付した図12に示すように、駆動部112は、支持体31に代わって、移動制限部31A及び31Bの代わりにピストン位置検出部131Aが移動体35と対向する位置に配された支持体131が設けられる。
【0083】
ピストン位置検出部131Aは、移動体35の位置を検出することによりピストン11の位置が検出できるものであればよく、磁気センサ、超音波センサ又は光センサ(レーザー距離計)などが適用される。なお、磁気センサを適応した場合、突出部35Bを磁性体にすればよい。
【0084】
駆動部112を用いた薬液投与装置100は、図10との対応部分に同一符号を付した図13に示すように、ピストン位置検出部131Aがバス67を介して各部と接続される。ピストン位置検出部131Aは、移動体35の位置を所定間隔ごとに検出するようになされており、移動体35に基づいてピストン11の位置を示す信号をCPU61に送出する。CPU61は、ピストン位置検出部131Aから供給されるピストン11の位置を示す信号に基づいて上述した薬液投与プログラム等を実行する。
【0085】
また上述した実施の形態においては、制限部15が吸込側蓋部21、送出側蓋部22、吸込側押付部23及び送出側押付部24により構成され、吸込側押付部23及び送出側押付部24を介して吸込側蓋部21及び送出側蓋部22を吸込管13A及び送出管13Bの他端に押し付けて流路部13の流路を薬液貯蔵部7から使用者の体内へ薬液が流れるよう制限するようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、制限部15の代わりに自動弁又は一方向弁を設け、流路部13の流路を薬液貯蔵部7から使用者の体内へ薬液が流れるよう制限するようにしてもよい。
【0086】
また上述した実施の形態においては、シール部41と押付部42とがそれぞれ別々に設けられるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、シール部41と押付部42が一体として形成されていてもよい。例えば、シリコーンオイル若しくはシリコーンオイル及び蝋が染込まれている親油性でかつ非親水性の多孔質部材がピストン11の周方向に渡って接しかつ該多孔質部材とシリンダ14の間が塞ぐように多孔質部材だけで構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、例えば医療分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1……薬液投与装置、2……下筐体部、3……上筐体部、4……貼付部、5……穿刺部、6……注入部、7……薬液貯蔵部、8……基板部、9……送出部、11……ピストン、12……駆動部、13……流路部、14……シリンダ、15……制限部、31……支持体、32……軸支持体、33……軸体33……振動体、35……移動体、41……シール部41……押付部、50……実験装置、61……CPU、62……ROM、63……RAM、64……電源部、65……インターフェース部、66……報知部、67……バス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の体内に薬液を投与するための薬液投与装置であって、
薬液が入れられる薬液貯蔵部と、
前記薬液貯蔵部から使用者の体内へ薬液を送液する流路を形成する流路部と、
前記流路部の途中に設けられたシリンダ部と、
前記シリンダ部内を摺動するピストンと、
前記ピストンの外周と周方向にわたって接するように覆うシール部と、
前記シール部を前記ピストンの外周と周方向にわたって接するように該ピストンに押し付けると共に、前記シリンダと前記シール部の間の隙間を塞ぐ押付部と
を有し、
前記流路部は、前記薬液貯蔵部と前記シリンダ部とを接続する流入路と、前記シリンダ部と使用者の生体へと接続される流出路とから成り、
前記流路部は前記薬液貯蔵部から前記シリンダ部へと薬液が流れるように前記流入路上に設けられた該薬液の流れる方向を制限する第1の制限部と、前記シリンダ部から外部前記使用者の生体内へ薬液が流れるように、前記流出路上に設けられた該薬液の流れる方向を制限する第2の制限部とを有し、
前記シール部材は、親油性かつ非親水性の多孔質部材にシリコーンオイルが含有されてなる、
ことを有することを特徴とする薬液投与装置。
【請求項2】
前記シール部は、多孔質部材にシリコーンオイル及びワックスが含有されている
ことを特徴とする請求項1に記載の薬液投与装置。
【請求項3】
前記シリンダ部の内径は、0.7mm以上3mm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薬液投与装置。
【請求項4】
前記ピストンと前記シリンダ部との間は、2μm以上20μm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薬液投与装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−200418(P2012−200418A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67896(P2011−67896)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】