説明

薬液散布車

【課題】ドリフト現象の発生を抑止できることに加えて、付着性能および/または到達性が優れた薬液散布車が要求されている。
【解決手段】薬液散布車1は、薬液タンク9を搭載した車体2の後部に設けられた空気吸入口6と、車体2の一側方から上方を経て他側方に至る車体周方向の部分に開口した空気吹出口7とを連通する通風路5を備えていて、通風路5に送風機9が配備され、空気吹出口7に複数のノズルA,Bがそれぞれの液滴噴出方向を放射状外向きにして車体周方向に列設されているものであって、前記ノズルとして非混気式ノズルBと混気式ノズルAを用いるとともに、混気式ノズルAと非混気式ノズルBとを車体周方向に混在させて配置したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液タンクを搭載してノズルから薬液を農作物に噴霧する薬液散布車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の薬液散布車はスピードスプレーヤ(SS)と俗称され、例えば下記の特許文献1に記載されたものが知られている。この薬液散布車は、薬液タンクを搭載した車体の後部に設けられた空気吸入口と、車体の一側方から上方を経て他側方に至る車体周方向の部分に開口した空気吹出口とを連通する通風路を備えていて、通風路に送風機が配備され、空気吹出口に複数のノズルがそれぞれの液滴噴出方向を車体走行方向と直角の放射状外向きにして車体周方向に列設されている。それら複数のノズルはいずれも、図13および図14(a)に示すような慣用ノズルCが使用されている。このような慣用ノズルCは薬液に気体を混合しない非混気式構造が採用されていて、比較的細粒の噴霧滴を中空円錐形の噴霧パターンRとして高速で噴射し、さらに薬液散布車の送風により加速されて放出するようになっている。従って、この薬液散布車は、農作物の全体に隈なく噴霧滴を付着させる尺度の付着性能と、薬液散布車からできるだけ遠くに噴霧滴を飛ばす尺度の到達性が共に優れているとされている。
【0003】
しかしながら、慣用ノズルCは液体のみを噴口から噴射するので、噴射された噴霧滴の径は例えば100μm以下と極めて細かくなる。そのために、噴霧滴が空気中に浮遊しやすく、噴霧滴が風に乗って飛散する、いわゆるドリフト現象により遠方まで到達し、或る種の薬液散布が禁止されている隣の菜園に無為に噴霧されるおそれがある。かかる不具合を防ぐためには、やむなく噴射量を少なくして薬液を散布しなければならず、作業性の低い薬液散布にならざるを得なかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−51754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、図14(b)に示すようなドリフト低減ノズルDが薬液散布車に使用されている。このドリフト低減ノズルDは混気式構造を持ち、噴霧平均粒径200〜300μm程度の粗大粒子を中空円錐形の噴霧パターンSとして低速で噴射するようになっている。この薬液散布車によれば、ドリフト低減ノズルDから粗大粒子が低速で噴霧され、これが薬液散布車の送風により加速されて放出されるので、ドリフト現象は発生しにくい。しかしながら、付着性能および到達性ともに慣用ノズルCより大きく劣り、実用性に欠けるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、ドリフト現象の発生を抑止できることに加えて、付着性能および/または到達性が優れている薬液散布車の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る薬液散布車は、薬液タンクを搭載した車体の後部に設けられた空気吸入口と、車体の一側方から上方を経て他側方に至る車体周方向の部分に開口した空気吹出口とを連通する通風路を備えていて、通風路に送風機が配備され、空気吹出口に複数のノズルがそれぞれの液滴噴出方向を放射状外向きにして車体周方向に列設されている薬液散布車において、前記ノズルとして、内部に導液路を有するノズル本体と、導液路の先端に設けられて噴口を有する噴板と、導液路の他端に形成されて薬液タンクからの導液管と接続される接続口部とを備え、噴口の軸心方向に視て扁平形状の噴霧パターンで液滴を噴口から噴き出す非混気式ノズル、および、内部に導液路を有するノズル本体と、導液路の先端に設けられて噴口を有する噴板と、導液路の他端に形成されて薬液タンクからの導液管と接続される接続口部と、噴板と接続口部との間のノズル本体に形成されて導液路に空気を取り入れる空気取入口部とを備え、噴口の軸心方向に視て扁平形状の噴霧パターンで液滴を噴口から噴き出す混気式ノズルを用いるとともに、前記混気式ノズルと前記非混気式ノズルとを車体周方向に混在させて配置した構成にしてある。
【0008】
また、前記構成において、非混気式ノズルの液滴噴出方向を、混気式ノズルの液滴噴出方向に対し車体走行方向後向きに傾けた方向とするように設定したものである。
【0009】
そして、前記した各構成において、混気式ノズルおよび非混気式ノズルから噴き出される液滴の噴霧パターンの当該扁平形状の長径方向が車体周方向を向くように、混気式ノズルおよび非混気式ノズルをそれぞれ配置したものである。
【0010】
更に、前記した各構成において、混気式ノズルと非混気式ノズルとを車体周方向に交互に配置したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る薬液散布車によれば、扁平形状の噴霧パターンで液滴を噴口から噴き出す非混気式ノズルと、扁平形状の噴霧パターンで液滴を噴口から噴き出す混気式ノズルとが車体周方向に混在して配置されているので、混気式ノズルからの低速の大粒液滴は、薬液散布車の送風により加速されて空気吹出口から放出される。また、非混気式ノズルから噴射された高速の中粒液滴も薬液散布車の送風により加速されて空気吹出口から放出される。従って、付着性能および/または到達性が高くなる。一方、非混気式ノズルからの中粒液滴は混気式ノズルからの大粒液滴と混じりあって大粒化されやすく、これによりドリフト現象の発生が抑止されるという効果を奏する。
【0012】
また、非混気式ノズルの液滴噴出方向を、混気式ノズルの液滴噴出方向に対し車体走行方向後向きに傾けた方向にしたものでは、混気式ノズルから噴射された液滴が空気吹出口から車体走行方向と直角の外向きに放出され、非混気式ノズルから噴射された液滴が車体走行方向後向きに放出されるので、各ノズルから噴射された液滴は車体走行方向に関して互いに重なることなく散布される。これら重ならない液滴の散布範囲を合計すると、従来の慣用ノズルやドリフト低減ノズルに匹敵する車体走行方向に広範囲の散布を行なうこととなる。また、非混気式ノズルからの中粒液滴は薬液散布車の送風により十分に加速されることなく放出されるので、ドリフト現象の発生を抑制することができる。
【0013】
そして、混気式ノズルおよび非混気式ノズルから噴き出される液滴の噴霧パターンの当該扁平形状の長径方向が車体周方向を向くように、混気式ノズルおよび非混気式ノズルをそれぞれ配置したものでは、異なるノズルの液滴噴出方向を車体走行方向にずらしやすくなる。これにより、車体走行方向に関して噴霧パターンの重なりをいっそう回避することができ、各ノズルからの噴き出される液滴の特性を損なわせることなく、車体走行方向に広範囲の散布を行なうことができる。
【0014】
更に、混気式ノズルと非混気式ノズルとを車体周方向に交互に配置したものでは、各ノズルからの噴霧パターンの混在を均一にしながらに散布を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1に係る薬液散布車の側面図である。
【図2】前記薬液散布車の背面図である。
【図3】前記薬液散布車に用いる混気式ノズルを示し、(a)は平断面図、(b)は正面図である。
【図4】前記薬液散布車に用いる非混気式ノズルを示し、(a)は平断面図、(b)は正面図である。
【図5】前記薬液散布車の動作態様を示す平面態様図である。
【図6】前記実施形態1の薬液散布車と比較例1の薬液散布車の液体散布による付着性能試験の結果を示すグラフの図である。
【図7】前記実施形態1の薬液散布車と比較例1の薬液散布車の液体散布によるドリフト試験の結果を示すグラフの図である。
【図8】前記実施形態1の薬液散布車と比較例1の薬液散布車の液体散布により被験者の身体各部に付着した液体の被覆面積率を示すグラフの図である。
【図9】本発明の実施形態2,4,5に用いる非混気式ノズルを示し、(a)は平断面図、(b)は正面図である。
【図10】(a)〜(d)は実施形態2〜5に係る薬液散布車の動作態様をそれぞれ示す平面態様図である。
【図11】本発明の実施形態4,5に用いる混気式ノズルを示し、(a)は平断面図、(b)は正面図である。
【図12】本発明の実施形態6に係る薬液散布車の背面図である。
【図13】比較例1の薬液散布車に用いる慣用ノズルを示し、(a)は平断面図、(b)は正面図である。
【図14】(a)〜(d)は比較例1〜4に係る薬液散布車の動作態様をそれぞれ示す平面態様図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
[実施形態1].
図1は本発明の実施形態1に係る薬液散布車の側面図、図2は前記薬液散布車の背面図である。
各図において、この実施形態1に係る薬液散布車1は、例えば4輪を有する車体2の前後略中央部に薬液タンク3を搭載している。薬液タンク3の後方位置にはエンジン11が搭載されている。車体2のケーシング後部は、後ろ向きに細くなるコーン状の風ガイド部材10とつながっている。風ガイド部材10にはエンジン11の駆動軸12を通す軸穴(符号付け省略)が形成されている。風ガイド部材10から後方に突出した駆動軸12の先端に、送風機9が取り付けられている。風ガイド部材10および送風機9の周囲には外周ケース4が配備され、風ガイド部材10の外周面および送風機9の先端と外周ケース4の内周面との間が通風路5となっている。
【0017】
また、外周ケース4の前側周縁部と風ガイド部材10との間は、空気吹出口7となっている。すなわち、空気吹出口7は、車体2の一側方15Aから上方15Cを経て他側方15Bに至る車体周方向に開口している。外周ケース4後側の中央開口部は空気吸入口6となっており、空気吸入口6は通風カバー8で通風可能に被われている。従って、この空気吸入口6と空気吹出口7は通風路5を介して連通している。薬液タンク3は、薬液を送るポンプ14の吸込側と接続され、ポンプ14の吐出側は導液管13の一端部と接続されている。導液管13の他端部は、空気吹出口7内に配備された背面視円弧状の導液管16と接続されている。導液管16には、複数の導液管25,25,25,・・・が周方向に適宜間隔で分岐接続されている。各導液管25の先端には、混気式ノズルAまたは非混気式ノズルBが接続される。これらの混気式ノズルAと非混気式ノズルBは車体周方向に交互に配置されている。この薬液散布車1は、走行速度が例えば約1〜19km/hであり、送風量が例えば約300〜900m3/minである。
【0018】
混気式ノズルAは、図3に示すように、内部を導液路19が縦貫するノズル本体20と、導液路19の先端に設けられた円板状の噴板22と、導液路19の他端に形成されて導液管25と連通する接続口部23と、噴板22と接続口部23との間のノズル本体20に形成されて導液路19に空気を取り入れる空気取入口部35とを備えている。噴板22は円板中心部に噴口21を有している。噴板22はO−リング33を挟んだ状態でキャップ34によりノズル本体20の先端に固定される。導液路19の末端には、開口30を有するオリフィス部材32が装着されている。ノズル本体20の接続口部23は、パッキン27および二孔パッキン28とともにジョイント部材24の一端側開口内に装入され、キャップ26により固定されている。導液路19内におけるオリフィス部材32出側のノズル本体20の内壁には、導液路19内に空気などの気体を取り込むための空気取入口部35が形成されている。ジョイント部材24の他端側開口には、パッキン29が挿入されて導液管25が接続される。
【0019】
この混気式ノズルAは、噴板22の膨らみ部の長手方向と直角の方向に視て扇形状(噴霧角度:30〜45°程度、図2参照)で、且つ、噴口21の軸心Z方向に視て扁平形状(図3(b)参照)である噴霧パターンPとして、農薬液などの液滴を噴口21から噴き出すようになっている。また、混気式ノズルAは、ノズル本体20の途中で気体を薬液に混入させて噴射するタイプであり、ノズル本体20の中心線(1点鎖線Zで示す)上に薬液が直進噴射される。混気式ノズルAは、薬液噴霧量が例えば2〜5L/min程度であり、使用時噴霧圧力が例えば1.0〜2.0 MPa程度であり、空気混入量が例えば噴霧薬液量の約0.2〜1.5倍であり、果樹園等での散布量が例えば300〜500L/10アール(散布幅4〜5m程度、作業速度0.5〜0.8m/s程度)である。薬液散布車用の従来の慣用ノズルC(図13参照)が平均噴霧粒径90〜100μm程度の微細な噴霧粒子を噴射するのに対し、混気式ノズルAは、その混気方式と、噴板22の特徴構造と、噴口21の特徴形状とからなる粗大粒子噴霧発生機構により、平均噴霧粒径300〜400μm程度の粗大な噴霧粒子を噴射する。混気式ノズルAは、その液滴噴出方向が車体走行方向(矢印Y方向)と直交する方向の外向きとなるように、薬液散布車1の導液管25に取り付けられる。
【0020】
非混気式ノズルBは、図4に示すように、内部に導液路19Aを有するノズル本体20Aと、導液路19Aの先端に設けられて噴口21Aを有する噴板22Aと、導液路19Aの他端に形成されて導液管25と連通する接続口部23とを備えている。ノズル本体20Aの先端部はジョイント部材24の軸心(1点鎖線Gで示す)から15度屈曲して形成されている。ノズル本体20Aの基部に形成された大径開口部には、開口30Aを有するオリフィス部材32Aが装入されO−リング31によりシールされている。他の構成要素は、前述した混気式ノズルAに用いたものと同じである。
【0021】
この非混気式ノズルBのノズル本体20Aは、その液滴噴出方向が、混気式ノズルAの液滴噴出方向(矢印Yと直角の方向外向き)に対し車体走行方向後向き(矢印Y方向の逆方向)に例えば15度傾くように、薬液散布車1の導液管25に取り付けられる。この非混気式ノズルBは、噴板22Aの膨らみ部の長手方向と直角の方向に視て扇形状(噴霧角度:30〜45°程度、図2参照)で、且つ、噴口21Aの軸心Z方向に視て扁平形状(図4(b)参照)である噴霧パターンQとして、農薬液などの液滴を噴口21Aから噴き出すようになっている。非混気式ノズルBにおける、薬液噴霧量、使用時噴霧圧力、および果樹園等での散布量は混気式ノズルAの場合とほぼ同じである。この非混気式ノズルBは、その非混気方式と、噴板22Aの特徴構造と、噴口21Aの特徴形状とからなる粗大粒子噴霧発生機構により、平均噴霧粒径200〜300μm程度(混気式ノズルAの場合よりもやや細かい)の粗大な噴霧粒子を噴射する。
【0022】
混気式ノズルAおよび非混気式ノズルBは、それぞれから噴き出される液滴の噴霧パターンP,Qの扁平形状の長径方向(矢印Wで示す)が車体周方向に沿うようにそれぞれ配置される。但し、これらのノズルA,Bは、噴板22,22Aの膨らみ部の長手方向が車体前後方向(矢印Fで示す)から10度傾くようにそれぞれ配置されている。これにより、隣り合うノズルA,Bからの噴霧パターンP,Qが互いに平行となって干渉しないようにされている。
【0023】
上記のように構成された薬液散布車1の作用を以下に説明する。上記の薬液散布車1は、図5に示すように、果樹園等での薬剤散布作業に使用される。この場合、粒径の大きな噴霧滴を噴霧パターンPとして車体進行方向と直角の方向に噴射する混気式ノズルAと、噴霧パターンPよりもやや細かい粒径の噴霧滴を噴霧パターンQとして車体進行方向と直角の方向に対し15度斜め後方に噴射する非混気式ノズルBとが導液管25,25,25,・・・にそれぞれ車体周方向に交互に装着されている。この場合、混気式ノズルAからは噴霧平均粒径300〜400μm程度の非常に粗大な粒子が多く噴射される。一方、非混気式ノズルBからは噴霧平均粒径200〜300μm程度の粗大な粒子が多く噴射される。尚、図5では理解をしやすくするために、車体2の左側にのみ噴霧パターンP,Qを1つずつ記載したが、実際には噴霧パターンP,Q,P,Q,P,Q,・・・が車体2の一側方15Aから上方15Cを経て他側方15Bにわたって現われることは言うまでもない。後述する図10および図14についても同じである。
【0024】
この実施形態1の薬液散布車1によれば、混気式ノズルAからの低速噴霧の大粒子(P)は、薬液散布車1の送風により加速されて空気吹出口7の全周から側方に放出される。一方、非混気式ノズルBからの高速噴霧の中粒子(Q)は、斜め後方に噴霧されるため、薬液散布車1の送風により十分に加速されることなく放出される。このため、非混気式ノズルBからの高速中粒子はドリフトが抑制され、付着性と到達性が安定する。そして、噴霧の広がりは、2種類の噴霧パターンP,Qの噴霧域が合計されることにより、後述の慣用ノズルCやドリフト低減ノズルDにも相当する車体走行方向の広い範囲をカバーでき、付着性が向上するのである。
この組合せは、薬液散布車1の送風機9が比較的低風量の時でも、到達性の低い混気式ノズルAからの低速噴霧の大粒子が送風により加速される一方、非混気式ノズルBからの高速中粒子は送風により加速されない。従って、付着性と到達性およびドリフトの相反する要素が適度のバランスとなり、ドリフトを抑制できるものの中では最も付着性能が高い構成となる。すなわち、この実施形態1の薬液散布車1が全実施形態うちで最も優れた構成と言える。
【0025】
そこで、実施形態1の薬液散布車1を用いて、噴霧薬液の付着性能試験、ドリフト試験、作業者被曝試験、および防除効果試験を行なった。薬液散布車1は市販車(丸山製作所社製の品番A-α602、タンク容量600L、風量300〜600m3/minの範囲で可変)を転用した。対照機として、現地ほ場慣用の薬液散布車(タンク容量1000L、風量740m3/minおよび490m3/minの2段切替)に、後で詳述する慣用ノズルCを装着したものを比較例1として用いた。設定散布量は現地ほ場の慣行である450L/10アール(有効散布幅5m、散布速度0.7m/s程度)とした。
【0026】
「付着試験」:
岩手農研センターわい化栽培リンゴ園に試験区(樹間5m×列間5m×列長45m×3列、樹高約4m、品種:ふじ)内の付着測定樹(1樹)の樹冠内に、高さが地上から0.5m、1.5m、2.5m、3.5mの4段階それぞれで、樹幹中心と同中心から前後左右0.5m離れた位置の計16箇所に、感水紙を水平上下・垂直左右面を水付着面として設置した。試験では対象3樹列総ての両側から清水を散布し、散布後速やかに感水紙を回収し、液滴付着状況を標準付着度指標に基づいて目視で指数化し、集計した。
実施形態1の薬液散布車1による付着度指数は、図6に示すように、300〜500m3/minの低風量時でも、比較例1の薬液散布車を用いた場合と概ね同等レベルであり、同等レベルの付着性能を確保できることが確認された。
【0027】
「ドリフト試験」:
散布ほ場境界から風下方向に距離10〜30mの地点に感水紙を風下方向5m間隔で直線上に配置した測定列を3列(間隔を5m以上確保)設置した。全樹列に散布後、回収した感水紙から画像処理により試験面全体面積に対する付着液斑の被覆面積率を測定した。
実施形態1の薬液散布車1によれば、図7に示すように、どの距離においても、ドリフトを比較例1の薬液散布車を用いた場合の概ね半分以下に抑制することができた。このように、実施形態1の薬液散布車1は付着性能とドリフト低減効果の双方に優れていることがわかる。
【0028】
「作業者被曝」:
オペレータの頭頂部、顔面(帽子前縁)、後頭部(帽子後縁)、左肩、右肩、背中、腹部、左ひざ、右ひざの各測定点に感水紙を貼付し、散布後回収した感水紙から試験面全体面積に対する付着液斑の被覆面積率を測定した。
実施形態1の薬液散布車1によれば、被曝測定部位の感水紙への付着液斑被覆面積率は、図8に示すように、比較例1の薬液散布車による場合の半分以下に抑制され、実施形態1の薬液散布車1の使用により作業者被曝も抑制できることが確認された。
【0029】
「防除効果試験」:
前記の園地に、実施形態1の薬液散布車1で風量600m3/min、500m3/min、300m3/minの3試験区を設置し、これら3試験区と、比較例1の薬液散布車を用いた現地慣行防除区において、殺ダニ剤の2回の散布(1回目の1ヶ月後に2回目の散布を行なった)によるナミハダニに対する防除効果を調査した。
実施形態1の薬液散布車1を用いた殺ダニ剤散布による防除効果は、ほぼ1頭/葉以下と、少発生条件ながら、比較例1の薬液散布車を用いた場合と概ね同等であった。特に、薬液散布車1による風量500m3/minの条件での防除効果は、比較例1の薬液散布車(風量740m3/min)を用いた場合と大きな差が無く、低風量時においても防除効果を維持できた。
【0030】
[実施形態2].
尚、上記の実施形態1では、車体走行方向と直交する方向から後ろ向きに傾けた非混気式ノズルBを使用したが、本発明はそれに限定されるものでなく、非混気式ノズルBに替え、例えば図9に示す非混気式ノズルB1を用いることもできる。この非混気式ノズルB1は、ノズル本体20Bが直線状に形成されるとともに直線状の導液路19を有していて、オリフィス部材32AおよびO−リング31を省略したこと以外、非混気式ノズルBの構成と同じである。また、非混気式ノズルB1からの噴霧パターンは非混気式ノズルBからの噴霧パターンQとほとんど同じであり、図10(a)に示すように、車体走行方向(矢印Y方向)と直角の方向外向きに噴射される。この場合、非混気式構造を採る非混気式ノズルB1からは噴霧平均粒径200〜300μm程度の粗大な粒子が多く噴射される。
【0031】
この実施形態2の薬液散布車1によれば、混気式構造で低速噴霧である混気式ノズルAからの大粒子と、非混気式構で高速噴霧である非混気式ノズルB1の中粒子とが重なり、薬液散布車1の送風により加速されて空気吹出口7の全周から側方に放出される。そのため、非混気式ノズルB1からの高速中粒子が十分に加速されるので付着性と到達性が優れる。しかしながら、加速された中粒子がドリフトとなる傾向がある。また、噴霧の広がりは慣用ノズルCからのコーンタイプの噴霧パターンR(図14(a))と比べて車体走行方向に幾分狭くなる。
【0032】
[実施形態3].
この実施形態3の薬液散布車1は、図10(b)に示すように、全ての非混気式ノズルB,B,B,・・・を車体走行方向に180度反転させて導液管25,25,25,・・・に取り付けたこと以外は、実施形態1と同様に構成されている。
この実施形態3の薬液散布車1によれば、混気式ノズルAからの低速噴霧の大粒子は、薬液散布車の送風により加速されて空気吹出口7の全周から側方に放出される。一方、非混気式ノズルBからの高速噴霧の中粒子が、空気吹出口7の全周から斜め前方に噴霧されるため、薬液散布車1の送風によっては十分に加速されず、さらに薬液散布車1の走行に伴う空気流による空気抵抗を受けることになる。このため、非混気式ノズルBからの高速中粒子は、ドリフトは抑制されるが、到達性が損なわれ噴霧の広がりも小さくなる。このため、付着性および到達性が実施形態1と比べて幾分劣る。
【0033】
[実施形態4].
上記の実施形態1〜3では、混気式ノズルとして混気式ノズルAを用いた例を示したが、本発明では混気式ノズルAに替えて、例えば図11および図10(c)に示す混気式ノズルA1を用いることも可能である。この混気式ノズルA1はノズル本体20Aの先端部がジョイント部材24の軸心Gから15度傾いて形成され、これに伴って導液路19Aの軸心Zもジョイント部材24の軸心Gから15度傾いている。他の構成は実施形態2と同様である。この混気式ノズルA1からは噴霧平均粒径300〜400μm程度の非常に粗大な粒子が多く噴射される。
従って、この実施形態4の薬液散布車1によれば、混気式ノズルA1からの低速噴霧の大粒子は、斜め後方に噴霧されるため薬液散布車の送風により十分に加速されることなく放出される。一方、非混気式ノズルB1からの高速噴霧の中粒子は、薬液散布車の送風により十分に加速されて空気吹出口7の全周から側方に放出される。このため、混気式ノズルA1からの低速噴霧の大粒子はドリフトしにくいが、実施形態1と比べると幾分到達性に劣る。また、非混気式ノズルBからの高速中粒子は十分加速されるため到達性は大きくなるが、実施形態1と比べると幾分ドリフトを生じやすくなる。
【0034】
[実施形態5].
この実施形態5の薬液散布車1は、図10(d)に示すように、全ての混気式ノズルA1,A1,A1,・・・を車体走行方向に180度反転させて導液管25,25,25,・・・に取り付けたこと以外、実施形態4と同様に構成されている。
従って、この実施形態5の薬液散布車1によれば、混気式ノズルA1からの低速噴霧の大粒子が斜め前方に噴霧されるため、薬液散布車の送風により十分に加速されることなく、さらに薬液散布車の走行に伴う空気流による抵抗を受ける。一方、非混気式ノズルBからの高速噴霧の中粒子は、薬液散布車の送風により十分に加速されて空気吹出口7の全周から側方に放出される。このため、混気式ノズルA1からの低速噴霧の大粒子はドリフトしにくいが、到達性に劣ることとなり同時に噴霧の広がりも小さくなる。このため、実施形態1と比べると付着性および到達性が幾分劣る。また、非混気式ノズルB」の高速中粒子は十分加速されて到達性が大きくなるが、実施形態1と比べると幾分ドリフトを生じやすくなる。
【0035】
[比較例1].
これまで薬液散布車に使用されてきた慣用ノズルCを図13に示す。この慣用ノズルCは非混気式構造であり、内部に導液路を有するノズル本体72の先端に、噴口74を有する噴板73がO−リング33とともにキャップ34で固定され、ノズル本体72の他端に取り付けられたジョイント部材75がキャップ26で導液管25に接続されている。ノズル本体72内には、導液路内を流れる薬液を回転させて噴口74に送る液旋回部材76が配備されている。薬液散布車に取り付けられた状態で、噴口74の軸心は車体走行方向と直角の方向を向いている。この慣用ノズルCからは、中空円錐形いわゆるコーン形の噴霧パターンRで噴口74から噴霧滴が噴射される。噴霧平均粒径は90〜100μm程度であり、比較的細かい粒子が多い。
従って、この実施形態1の薬液散布車によれば、非混気式構造の慣用ノズルCから細かい粒子が高速で噴霧され、さらに薬液散布車の送風により加速されて空気吹出口7の全周から側方に放出される。このため、付着性および到達性ともに優れるが、ドリフトが大量に発生しやすい。
【0036】
[比較例2].
この比較例2は、図14(b)に示すように、全ての慣用ノズルC,C,C,・・・をドリフト低減ノズルD,D,D,・・・に替えたこと以外、比較例1と同様の構成にされている。これらのドリフト低減ノズルDは混気式構造であり、主に噴霧平均粒径200〜300μm程度の粗大粒子を中空円錐形いわゆるコーン形の噴霧パターンSで低速に噴射する。
従って、この比較例2の薬液散布車によれば、混気式構造のドリフト低減ノズルDから粗大粒子が低速で噴霧され、これが薬液散布車の送風により加速されて空気吹出口7の全周から側方に放出される。このため、ドリフトは発生しにくいが、付着性および到達性とも慣用ノズルCより劣る。
【0037】
[比較例3].
この比較例3は、図14(c)に示すように、全ての慣用ノズルC,C,C,・・・を既述の混気式ノズルA,A,A,・・・に替えたこと以外、比較例1と同様の構成にされている。
従って、この比較例3の薬液散布車によれば、混気式構造を採る混気式ノズルAから非常に粗大な粒子が低速で噴霧され、これが薬液散布車の送風により加速されて空気吹出口7の全周から側方に放出される。このため、ドリフトは発生しにくいが、薬液の到達性は劣る。また、コーン形の噴霧パターンSであるドリフト低減ノズルDと比べると、混気式ノズルAが扇形状の噴霧パターンPであることで噴霧の密度が高く、速度もやや速いために到達性は勝る。しかしながら、混気式ノズルAは噴霧の広がりが車体走行方向に狭いため、付着性が劣る場合がある。従って、慣用ノズルCと比較すると、付着性および到達性ともに劣る。
【0038】
[比較例4].
この比較例4は、図14(d)に示すように、全ての慣用ノズルC,C,C,・・・を既述の非混気式ノズルB,B,B,・・・に替えたこと以外、比較例1と同様の構成にされている。
従って、この比較例4の薬液散布車によれば、非混気式構造を採る非混気式ノズルBから粗大な粒子が高速で噴霧され、これが薬液散布車の送風により若干加速されるのみで空気吹出口7の全周から斜め後方に放出される。このため、ドリフトは比較的発生しにくいが、噴霧の速度が速いため到達性に優れる。しかし、噴霧の広がりがコーン形の噴霧パターンRおよび噴霧パターンSよりも走行方向に狭いために付着性が劣る。
【0039】
[実施形態6].
実施形態6の薬液散布車1は、図12に示すように、ノズルN,N,N,・・・の外方位置に、複数の風向板ユニット40,40,40,・・・を配備したこと以外は、実施形態1〜5と同様に構成されている。各ノズルNは、既述した混気式ノズルA,A1または非混気式ノズルB,B1のいずれかである。各風向板ユニット40は、車体2に取り付けられた枢支軸41と、枢支軸41に回動自在に支持されて左右方向に揺動する風向板42と、風向板42を揺動駆動させるモータなどの駆動源43とを備えている。更に、それぞれの風向板ユニット40の駆動源43を駆動させて各風向板42の揺動角度を個別に制御する制御装置44を備えている。
【0040】
この実施形態6の薬液散布車1によれば、制御装置44が各風向板ユニット40の風向板42の揺動角度をそれぞれ調整する。例えば、園地内で最も外側の樹列45Aと外から2列目の樹列45Bの間を走行しながら散布作業を行なう場合を考える。この場合、制御装置44は、例えば車進行方向左側の風向板ユニット40,40,40の各風向板42を駆動して斜め横向きにする。これにより、空気吹出口7から多量の送風が2列目の樹列45Bに勢いよく送られ、薬液の散布を確実に行なうことができる。一方で、制御装置44は、車進行方向右側の風向板ユニット40,40,40の各風向板42を駆動して垂直向きに立てる。これにより、最外側の樹列45Aに向けて、非常に弱い送風を送ったり、あるいは空気吹出口7を閉鎖して送風を止めたりする。従って、樹列45Aの外側の隣接地に他者の園地が在るような場合でも、当該他者の園地に薬液を至らしめるという不具合を解消することができる。すなわち、種々の散布作業の態様を応用性よく自在に選択することができる。
この実施形態ではノズルN,N,N,・・・列の左右側方位置に風向板42を3枚ずつ設けた例を示したが、風向板42の設置枚数は前記に限るものでない。また、ノズルN,N,N,・・・列の上方位置に風向板42,42,42・・・を配備してもよい。そして、前記では、各風向板42の揺動角度を個別に制御するようにしたが、風向板42,42,42・・・をグループ分けし、グループ毎の風向板42,42,42・・・を同じ制御形態で揺動させるようにしても構わない。
【0041】
尚、上記した実施形態1〜6においては、混気式ノズルと非混気式ノズルとを車体周方向に交互に配置したが、本発明では必ずしもこれらを交互に配置しなければならないものでなく、車体周方向に「混在」させても構わない。このような混気式ノズルと非混気式ノズルとを車体周方向に配置する態様としての「混在」には、例えば、混気式ノズルを2個並べ、続いて非混気式ノズルを2個並べ、次に混気式ノズルを1個、非混気式ノズルを1個並べるといった態様も含まれる。無論、「交互」は「混在」に含まれる概念である。
【符号の説明】
【0042】
1 薬液散布車
2 車体
3 薬液タンク
5 通風路
6 空気吸入口
7 空気吹出口
9 送風機
15A 一側方
15B 他側方
15C 上方
19,19A 導液路
20,20A,20B ノズル本体
21,21A 噴口
22,22A 噴板
23 接続口部
24 ジョイント部材
25 導液管
35 空気取入口部
A,A1 混気式ノズル
B,B1 非混気式ノズル
G 1点鎖線
P 噴霧パターン
Q 噴霧パターン
W 矢印
Y 矢印
Z 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液タンクを搭載した車体の後部に設けられた空気吸入口と、車体の一側方から上方を経て他側方に至る車体周方向の部分に開口した空気吹出口とを連通する通風路を備えていて、通風路に送風機が配備され、空気吹出口に複数のノズルがそれぞれの液滴噴出方向を放射状外向きにして車体周方向に列設されている薬液散布車において、
前記ノズルとして、
内部に導液路を有するノズル本体と、導液路の先端に設けられて噴口を有する噴板と、導液路の他端に形成されて薬液タンクからの導液管と接続される接続口部とを備え、噴口の軸心方向に視て扁平形状の噴霧パターンで液滴を噴口から噴き出す非混気式ノズル、
および、
内部に導液路を有するノズル本体と、導液路の先端に設けられて噴口を有する噴板と、導液路の他端に形成されて薬液タンクからの導液管と接続される接続口部と、噴板と接続口部との間のノズル本体に形成されて導液路に空気を取り入れる空気取入口部とを備え、噴口の軸心方向に視て扁平形状の噴霧パターンで液滴を噴口から噴き出す混気式ノズルを用いるとともに、
前記非混気式ノズルと前記混気式ノズルとを車体周方向に混在させて配置したことを特徴とする薬液散布車。
【請求項2】
非混気式ノズルの液滴噴出方向を、混気式ノズルの液滴噴出方向に対し車体走行方向後向きに傾けた方向とするように設定したことを特徴とする請求項1に記載の薬液散布車。
【請求項3】
混気式ノズルおよび非混気式ノズルから噴き出される液滴の噴霧パターンの当該扁平形状の長径方向が車体周方向を向くように、混気式ノズルおよび非混気式ノズルをそれぞれ配置したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薬液散布車。
【請求項4】
混気式ノズルと非混気式ノズルとを車体周方向に交互に配置したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の薬液散布車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−205983(P2011−205983A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77736(P2010−77736)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(397002360)ヤマホ工業株式会社 (14)
【出願人】(000141174)株式会社丸山製作所 (134)
【Fターム(参考)】