説明

薬物の効力を増強するための組成物および方法

【課題】細胞傷害性または抗新生物薬物に対する取得したまたは固有の細胞抵抗性を減弱または克服する方法の提供。
【解決手段】メトトレキセート、パクリタキセル(タキソール)、5-フルオロウラシルおよびシクロホスファミドまたはそれらの配合物である細胞傷害性または抗新生物剤とヒアルロン酸としても知られるヒアルロナンを共投与することで当該薬物の癌細胞殺滅能を増強させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物の効力の増強に関し、さらに詳しくは、細胞または生体の薬物に対する抵抗性を克服することに関する。
【0002】
(発明の背景)
任意の化学療法剤または薬物の臨床的有用性はその薬物に対する細胞抵抗性の発生によって著しく影響を受けることがある。したがって、薬物に対する抵抗性に関与する細胞機構を解明し、同時にこのような抵抗性を克服することを試みて、これまでかなりの量の研究が行われてきた。現在までに薬物の抵抗性に関与する可能性が考えられる多くの細胞機構が提案されている。これらには、
(i)薬物の代謝の変化(これには活性化の低下および不活性化の上昇が包含される)、
(ii)活性化合物に対する標的細胞または生体の非透過性
(iii)阻害酵素の特異性の変化
(iv)標的分子の産生増加
(v)細胞傷害性損傷の修復の増強、および
(vi)交互生化学的経路による阻害反応の副経路の利用
が包含される。
【0003】
薬物抵抗性に関与する細胞機構は複雑であり、したがって、薬物抵抗性の問題を克服するため一般的に適用可能な方法の開発はほとんど進歩していない。薬物抵抗性はほとんどすべての化学療法的応用に伴う問題であるが、さらに複雑化する因子は、多くの場合、併用される多くの薬物による継続的かつ長期間の処置が要求されることである。
【0004】
癌の処置においては、たとえば、活性薬物に対する癌癌細胞の非透過性が観察されることが多い。しかも、1つの薬物に対する抵抗性は生化学的に異なる他の薬物に対する抵抗性を付与することがしばしば見出される。これは多重薬物抵抗性と呼ばれる。多重薬物抵抗性の問題により影響される典型的な薬物にはドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチンおよびアクチノマイシンDが包含される。少なくとも一部の場合には、多重薬物抵抗性は、MdrIタンパク質と呼ばれ、P-糖タンパク質としても知られる細胞膜薬物エフラックストランスポーターの高レベルの発現に連結している複雑な表現型である。この「膜」ポンプは広い特異性を有し、細胞から、化学的に無関係な広範囲の様々な毒素を除去するように働く(Endicottら, 1989 参照)。
【0005】
最近、スペクトルの広い薬物抵抗性の類似の機構がある種の微生物で報告されている。これらの結果は、哺乳動物細胞の多重薬物抵抗性ポンプに類似のきわめて広範囲の基質特異性を有する細菌エフラックスシステムの存在を指示するものである(Nikaido, 1993 参照)。
【0006】
多重薬物抵抗性を逆転させる物質は抵抗性修飾剤(RMA)として知られ、ヒト癌が抵抗性になった化学療法剤の細胞傷害性を増強するのに重要である。多くの薬物がインビトロにおいてRMAとして同定されているが、これらの大部分は、多重抵抗性を逆転するのに要求される用量ではインビボにおいて高い毒性を示すため治療的に使用される可能性はほとんどまたは全くない。たとえば、アジドのような代謝毒はインビトロにおいては多重薬物抵抗性を逆転することができるが、インビボでは全く役に立たない。他の高度に有効なRMAの大部分、たとえばPSC833はMdrIタンパク質上の薬物結合部位の競合的アンタゴニストとして働くように思われる。これらの薬物の多くはまた、それらのインビボにおける有用性を限定する毒性を有する。したがって、多重薬物抵抗性を逆転させるためには別の薬理学的戦略を開発する必要がある。
【0007】
抗新生物薬物の貧弱な腫瘍への取り込みを克服し、全身毒性を低下させる試みにおいて(Singhら, 1991)、研究者らは抗新生物薬物たとえばメトトレキセート(MTX)を悪性組織の局在に標的化することを試みてきた。幾つかの研究は既にそれらの腫瘍への親和性によって選択されたポリマーに薬物を連結させることにより化学療法剤を腫瘍に標的化することを試みている(Hudeczら, 1993; Kleinら, 1994; Akimaら, 1996)。これらのポリマーは活性薬物のそれらの標的組織への送達を補助するものではあるが、しかしながら、それらは必ずしも薬物抵抗性の問題を克服するものではない。
【0008】
腫瘍標的化剤として提案された1つのポリマーはヒアルロナン(HA)である。ヒアルロン酸としても知られるHAは、直鎖状のポリマーからなる天然に存在する多糖であり、動物界を通して普遍的に見出される。HAはきわめて水溶性が高く、それにより生物学的システムに理想的な薬物送達ビヒクルとなっている。
【0009】
本出願人らは今回、HAが驚くべきことに薬物担体として薬物の有用性を増大させるのみでなく、薬物抵抗性の克服にも使用されるユニークな構造および物理化学的性質を表すことを見出したのである。約1 g/Lの高濃度において、HAは分子量に比べて例外的に大きな容量を占め(Laurent, 1970)、このレベルまたはそれ以下で、それは緩く連結して巨大分子ネットワークを形成する(図1)。何らかの特定の理論に拘泥することを望むものではないが、HAの物理的特性に基づいて、多糖と薬物たとえばメトトレキセート間の相互作用の機構は以下2形態のいずれかまたは両者をとるものと本発明者らは考えている。
【0010】
(i)化学的相互作用(図2A)
MTXのアミン基とHAのカルボキシル基の間にはイオン性結合が存在できるが、このような相互作用では沈殿を生じる可能性がある。他の可能な相互作用は薬物上の利用可能なアミン基とHAのヒドロキシル基との間の水素結合を介するものであるが、メトトレキセートは水に比較的不溶性であり、したがってもしこれが存在したとしてもきわめて弱い相互作用であると思われ、これは考え難い。MTXとHAの間の最も考えやすい結合はMTXの多くの疎水性グループとHAの二次構造における疎水性パッチの間の疎水性相互作用を介するものである(Scottら, 1989)。
【0011】
(ii)分子会合
MTXをHAゲル中に単に「混合」した場合(図2B)、特別な化学結合を形成することなく、MTXは高濃度のHAによって形成された三次元ネットワーク内に捕捉され(Mikelsaar & Scott, 1994)、薬物は投与後、単純にHAから拡散する。HAが急速に取り込まれ、特異的な細胞受容体によって結合された場合、薬物はこれらの点、たとえばHA受容体を有するリンパ節、肝臓、骨髄、腫瘍細胞において高濃度に放出される。
【0012】
この場合も何らかの特定の理論に拘泥することを望むものではないが、HAが活性薬物の標的化を補助する1つの機構は、幾つかの腫瘍タイプにおけるHA受容体の特徴的な過剰発現を介する可能性がある(Stamenkovicら, 1991; Wangら, 1998)。HA受容体CD44, ヒアルロナン仲介運動性の受容体(RHAMM)およびICAM-1は腫瘍の発生(Bartolazziら, 1994)および進行


に関与している。RHAMMは腫瘍細胞の運動性および浸潤を仲介する主要因子である(Hardwickら, 1992)。RHAMMが線維芽細胞のH-rasトランスフォーメーションに必須であることが証明され(Hallら, 1995)、これがこの受容体を腫瘍形成および増殖に強力に関与させることになっている。HAの代謝への関与が考えられる(McCourtら, 1994)受容体であるICAM-1は、マウス肥満細胞腫のようなトランスフォームされた組織(Gustafsonら, 1995a)、ならびにヒト乳癌の腫瘍細胞の間質およびクラスター(Ogawaら, 1998)において高度に発現される。
【0013】
腫瘍細胞におけるHA受容体の発現の増加は、化学療法処置の基準へのHAの導入を試みる理論的な背景を提供する。しかしながら、現在までに得られているきわめて限られたデータは本発明に請求された方法を実際に教示するものとは言えない。たとえば、マイトマイシンCおよびエピルビシンに対するHAの化学的複合体化によって限られた成功が達成され、研究者らは結腸癌の増殖を0.8〜25%阻害することができたという(Akimaら, 1996)。Kleinおよび共同研究者ら(1994)はHAを5-FUと単に混合することにより移植されたラット乳癌およびFischerの膀胱癌への薬物の取り込みの増加が達成されたことを報告している。マウス肥満細胞腫が静脈内に注射されたHAに親和性を有することも証明されている(Gustafsonら, 1995b)。
【0014】
一部のHAの研究はHAが薬物担体として使用できることを示してはいるが、この研究のどれも、HAが薬物に対する細胞抵抗性を克服できることは何ら示していない。
【0015】
(発明の要約)
本発明は細胞傷害性または抗新生物薬物の有効性を増強させる方法において、上記薬物とヒアルロナンを共投与する工程からなり、ヒアルロナンとの共投与が薬物の癌細胞殺滅能を増強する方法に関する。
【0016】
通常、細胞傷害性または抗新生物薬物とヒアルロナンの共投与はその癌細胞殺滅能を増強させる。すなわち、通常はその薬物に対して抵抗性である癌細胞はそれに感受性になる。
【0017】
好ましくは、薬物はメトトレキセート、パクリタキセル(タキソール)または5-フルオロウラシル(5-FU)である。
【0018】
本発明の第二の態様によれば、ヒアルロナンおよび細胞傷害性または抗新生物薬物からなる細胞傷害性または抗新生物医薬組成物が提供される。任意に、慣用の医薬用アジュバントをこの医薬組成物に含有させることができる。
【0019】
通常、上記薬物はヒアルロナンの内部に同伴されるかまたはヒアルロナンに結合する。
【0020】
本発明の第三の態様によれば、細胞傷害性または抗新生物薬物の有効性を増強させる方法において、ヒアルロナンおよび上記薬物からなる医薬組成物を投与する工程からなる方法が提供される。
【0021】
理論に拘泥するわけではないが、薬物抵抗性を克服するために可能な機構は、
1.ヒアルロナンが抵抗性細胞上の受容体に結合するか、または膜エンドサイトーシスを介して細胞内に進入し、同伴または結合された薬物の細胞内送達を生じ、それが治療的に活性にされることを可能にする。
2.ヒアルロナンが抵抗性細胞の表面に結合し、そこで同伴または結合された薬物がヒアルロナンのネットワークから細胞内に拡散し、薬物の抵抗性細胞への送達を生じる。
3.ヒアルロナンおよび他のムコ多糖が薬物を同伴し、また様々な薬物を結合できるコイル状のコンフィギュレーションを採用する。
【0022】
本発明の第四の態様によれば、本発明は薬物抵抗性を減弱または克服する方法において、細胞傷害性または抗新生物薬物を、その薬物を同伴および/または結合することが可能で、抵抗性細胞上の受容体への結合またはバルク(bulk)エンドサイトーシスを介して細胞内に進入できるムコ多糖類と共投与する工程からなり、上記薬物は細胞内に送達され、そこで治療的に活性にされる方法を提供する。
【0023】
理論に拘泥するものではないが、ヒアルロナンと薬物の組み合わせは、薬物のより長期間にわたる細胞内への維持を生じ、薬物の長期にわたる放出および薬物がその薬理学的作用を発揮する時間の延長が可能になる。
【0024】
したがって、本発明の第五の態様においては、薬物の有効性を増強させる方法において、上記薬物を上記薬物が単独で投与された場合より長期間細胞内に維持されるような方法で上記薬物を会合するムコ多糖と共投与する工程からなる方法を提供する。たとえば、薬物が細胞傷害性薬物である場合、薬物は長期間細胞内に維持され、長期間の放出、およびさらに長時間その毒性作用を発揮することが可能になる。
【0025】
本発明の第六の態様によれば、薬物抵抗性疾患を処置する方法において、このような処置を必要とする患者に、ヒアルロナンおよび薬物を共投与する工程から構成される方法が提供される。
【0026】
一実施態様においては、本発明のこの態様は、薬物抵抗性疾患を処置する方法においてこのような処置を必要とする患者に、ヒアルロナンおよび薬物からなる組成物を投与する工程から構成される方法を提供する。
【0027】
とくに、薬物抵抗性疾患を処置する方法は薬物抵抗性の癌を有する患者に適用することができる。好ましくは、癌は、メトトレキセートまたは5-FUに対して抵抗性である。
【0028】
さらに好ましくは、上記薬物の抵抗性は多重薬物抵抗性である。
【0029】
本発明の第七の態様によれば、癌を処置する方法において、薬物を、上記薬物が単独で投与された場合より長期間、癌細胞内に維持されるような方法で、上記薬物を同伴もしくは結合および/または会合することが可能なムコ多糖と共投与する工程からなる方法を提供する。
【0030】
本発明の第八の態様によれば、薬物の胃腸毒性を低減させる方法において、薬物を、上記薬物の胃腸毒性が低下するような方法で上記薬物を同伴もしくは結合および/または会合することができるムコ多糖と共投与する工程からなる方法を提供する。
【0031】
本明細書および特許請求の範囲の記載を通じて、「からなる」の語ならびにその変化型たとえば「からなり」および「から構成される」の語は「包含するがそれらに限定されるものではない」ことを意味し、他の添加物、成分、数または工程を排除する意図ではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、高濃度においてHAが三次元ネットワークを形成し、これは小分子たとえばメトトレキセートを同伴できることを示す。HA/薬物の病原部位への標的化はHAの特異的受容体への急速な結合、ついでHAからの薬物の拡散および/またはHAおよび/または薬物受容体を介するHAおよび薬物両者の共インターナリゼーションによって達成される。
【図2】図2Aは、メトトレキセートとHAの間の可能な分子相互作用を示す。これらには(i)イオン性結合、(ii)水素結合、または(iii)疎水性結合が包含される。 図2Bは、HA中におけるメトトレキセートの絡み合いの模式的表示である。高濃度においてHAは大きなコイル状分子によって表される三次元ネットワークを形成する。星印はわずか454 Dの分子量を有するメトトレキセートを表し、400〜900 kDのHA分子中に容易に同伴される。
【図3】図3は、ヌードマウスにおいて増殖したヒト乳癌腫瘍の一般的な病理を示す。パネルAはグレードII〜IIIのヒト腫瘍の一般的形態を示す。パネルBは図3Aに示す腫瘍の他の切片の顕微鏡写真を示す。この切片は周囲のマウス筋肉(M)、腫瘍カプセル(C)、腫瘍の壊死領域(N)、浸潤腫瘍(T)を示し、癌細胞が浸潤癌と会合していることが多く(Carter, 1990)ファイル状に癌細胞が並んだ「インディアンファイル」として知られる共通の現象を指示する(→)。
【図4】図4は、悪性な乳癌の古典的な病理学的特徴を示す。パネルAは、大きな壊死領域(N)を伴う特徴的な浸潤管癌の切片を示し、腫瘍のさらに侵襲的な過程を指示する。パネルBは血液細胞の存在を示し(→)、腫瘍が血管を新生すること、したがって生存していることが確認される。血管にきわめて接近して数個の管(D)が観察される。パネルCは(A)と標識され、核の分断によって指示されるように、アポトーシスを受けている細胞を示す。
【図5】図5は、ヌードマウスで増殖したヒト乳癌腫瘍上におけるHA受容体の免疫組織化学同定を示す。パネルAは癌胎児性抗原(CEA)の腫瘍における局在を示す。パネルBはヒト乳癌上におけるRHAMMの発現を示す。パネルCはヒト乳癌におけるICAM-1の発現を示す。HA受容体の局在、ICAM-1は内皮組織の周囲に一次的である(→)。パネルDはヒト乳癌におけるCD44の発現を示す。CD44Hは腫瘍細胞の約95%に検出された。H: ヒト起源の細胞;M: マウス起源の細胞
【図6】図6は、腫瘍のメトトレキセート標的化のための担体として使用されるヒアルロナンの分子量分析の結果を示す。
【図7】図7は、HAを担体として用い、ヒト乳癌のメトトレキセート標的化を示す。
【図8】図8は、HAの存在下、肝臓におけるメトトレキセートの取り込みの増加を示す。
【図9】図9は、薬物をHAとともに投与した場合、胃腸管におけるメトトレキセートの取り込みの減少を示す。
【図10】図10は、MTX/HAの間の可能な生理学的相互作用およびその結果の薬物/HA併用療法の腫瘍標的化能の模式的表示である。
【図11】図11は、HAの5-FUとの併用の細胞傷害性相乗的インビトロ作用を示す。
【図12】図12は、HAを担体として用い、ヒト乳癌腫瘍の5-FU標的化を示す。
【図13】図13は、ヒトにおけるHAの消失経路を示す。
【図14】図14は、胃、脳および肺臓における5-FUの取り込みの増加を示す。
【図15】図15は、血漿5-FUの薬物動態的消失に対するHAの作用を示す。
【図16】図16は、実験的終点の定義についての基準を示す。基準2(パネルA)および基準3(パネルB)を示す。
【図17】図17は、5-FU/HAアジュバント療法(6週処置基準)の効果:一次腫瘍容量に対する有効性を示す。
【図18】図18は、5-FU/HAアジュバント療法(6週処置基準)の効果:体重に対する有効性を示す。
【図19】図19は、5-FU/HAアジュバント療法(6週処置基準)の効果:癌のリンパ節への伸展および新たな腫瘍の形成に対する有効性を示す。
【図20】図20は、6カ月の有効性試験における腫瘍の一般的外観を示す。
【図21】図21は、5-FU/HAアジュバント療法の患者の生存率に対する有効性を示す。
【図22】図22は6週にわたりCMF/HA療法で処置したマウスの体重変化%を示す。
【図23】図23は6週にわたりCMF/HA療法で処置したマウスにおける腫瘍容量の変化%を示す。
【図24】図24は水に溶解したMTXの1H NMRスペクトルを示す。このスペクトルはMTX中の各グループの水素を容易に同定することができる。
【図25】図25は、MTXのHAとの可能性がある相互作用を示す。
【図26】図26は、ヒアルロン酸の600 MHz および298 Kでの600 MHz スペクトルを示す。
【図27】図27はMTX単独および2 nmole, 10 nmole, 20 nmole および80 nmoleのHA(50 kDa)を増量して添加したMTXの298 Kにおける 600 MHz 1H NMRスペクトルを示す。
【図28】図28は、5-FUおよび5-FU(1.25 mg/kg, 1.6 mg/mlおよび6.4mg/ml)をHA(750 kDa, 3 mg/ml)と70.0と8.5 ppm の間298 Kにおける 600 MHz 1H NMRスペクトルを示す。
【0033】
略号
BSA ウシ血清アルブミン
Ci キューリー
CMF シクロホスファミド、メトトレキセートおよび5-フルオロウラシル
Cyc シクロホスファミド
DNA デオキシリボ核酸
Dpm 減衰/分
DTTP デオキシチミジントリホスフェート
ECM 細胞外マトリックス
EDTA エチレンジアミン四酢酸
ELISA 固相酵素免疫測定法
FCS ウシ胎児血清
5-FU 5-フルオロウラシル
GAG グリコサミノグリカン
GlcNAc N-アセチルグルコサミン
GlcUA グルクロン酸
HA ヒアルロナン/ヒアルロン酸
HABP ヒアルロナン結合タンパク質
HAase ヒアルロニダーゼ
HBSS ハンクス平衡塩溶液
HRP 西洋ワサビペルオキシダーゼ
h 時間
Kav ゲル内の分布有効容量
L リットル
min 分
PBS リン酸緩衝食塩溶液
PM 形質膜
RHAAM HA-仲介運動性の受容体
RMCa ラット乳癌
RNA リボ核酸
RT 室温
S-phase 合成相
S.D. 標準偏差
SEM 平均の標準誤差
Ve 溶出容量
V0 空隙容量
Vt 総容量
TGD 腫瘍成長遅延
TDT 腫瘍倍加Ti
【0034】
(本発明の詳細な説明)
本発明をついでさらに以下の非限定的実施例を参照しながら説明する。しかしながら、実施例は単に例示的なものであり、上述の本発明の一般性に対していかなる意味でも限定として理解すべきではない。とくに、本発明は癌との関連において詳細に説明されるが、この場合の所見は癌の処置に限定されるものではないことは明らかであろう。たとえば、細胞傷害性薬物は他の状態の処置にも使用されるものであり、メトトレキセートは重症慢性関節リウマチの処置に広く使用されている。
【0035】
実施例1 ヌードマウスにおけるヒト乳癌腫瘍の確認およびインシトウにおける乳癌腫瘍上のヒアルロナン受容体の同定
ヒト乳癌の適切な動物モデルを確立するためには、病理学的試験を実施することが必要である。腫瘍が生理学的に生存可能であるためには、毛細管ネットワークが腫瘍に栄養を供給するための血管新生が必須である。血管新生、管の浸潤、壊死、アポトーシス、高い有糸分裂指数および核の異常の存在はすべて、乳癌の特徴である。
【0036】
ヒト乳癌細胞系MDA-MB-468(American Tissue Culture Collection, Rock ville, U.S.A.)はHA受容体、CD44, RHAMMおよびICAM-1のその発現に基づいて選択された。細胞は定常的に増殖させ、175 cm2の培養フラスコ内で10%ウシ胎児血清(FCS)および10μg/mlのゲンタマイシンを補充したLeibovitz L-15メジウム中で単層としてサブクローニングした。マウス細胞への注射のためには、100%の集蜜性に達するまで増殖させ、0.05%トリプシン/0.01%EDTA溶液中でトリプシン処理し、2回Beckman TJ-6実験室遠心分離器(Beckman, Australia)により400 gavで10分間遠心分離して洗浄し、モデル-MZ Coulter Counter(Coulter Electronics, England)を用いて計数し、血清を含まないLeibovitz L-15メジウムに1×108細胞/mlに再懸濁した。
【0037】
無胸腺のBalb/c/WEHI雌性ヌードマウス(Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research, Melbourne, Australia)6〜8週齢85匹を特異的な病原体を含まない条件下に維持し、滅菌した飼料および水を自由に与えた。上述のようにして1000万個のMDA-MB 468細胞を調製し、各マウスの乳首下の脂肪パッドに直接注射した。腫瘍の増殖は96%のマウスで観察された。腫瘍の増殖が可視的に検知可能な場合は、腫瘍の進行は腫瘍容量を毎週測定してモニタリングした。腫瘍容量は3方向の垂直な直径から次式を用いて計算した。
V=(1/6) p (d1d2d3)
式中、Vは腫瘍容量(mm3
d1は腫瘍の第一の直径(mm)
d2は腫瘍の第二の直径(mm)
d3は腫瘍の第三の直径(mm)である(Lamszusら, 1997)。
【0038】
腫瘍の移植後8週における平均腫瘍サイズは482.2 mm3(SEM, 39.8 mm3)であった。
【0039】
腫瘍の誘導から約8週後に、2匹の担癌マウスに致死用量のネンブタールを投与した。マウスの屠殺から3分以内に、腫瘍を外科的に摘出し、直ちに10%緩衝ホルマリン中で12時間固定した。固定した腫瘍を一連の70〜100%エタノール洗浄で一夜脱水し、ついでパラフィンに包埋し、それから2〜4μmの切片を切り出した。切片をスライド上に載せ、脱蝋し、冠水する。スライドを3×5分間リン酸緩衝食塩溶液(PBS)中で洗浄した。異好性タンパク質を10%ウシ胎児血清とのインキュベーションついでPBS洗浄によってブロックした。検出抗体を6分間室温(RT)で適用した。抗血清もしくは抗体はRHAMM(Applied Bioligands Corporation, Manitoba, Canada), ICAM-1, CD44V6, CD44V10, 総CD44H, およびCAEに対して作成した。すべての他の検出抗体はZymed (California, U.S.A)から購入した。スライドをPBS中で3×5分間洗浄し、内因性ペルオキシダーゼ活性を20分間0.3%H2O2/メタノール中に浸漬してブロックした。ついでさらにPBS洗浄し、ペルオキシダーゼ接合ブタ抗-ウサギ二次抗体(Dako, Denmark)を60分間RTで適用し、PBS中で3×5分間洗浄した。Sigma Fast DAB (3,3'-ジアミノベンチジン, Sigma, St. Louis, U.S.A) 錠を製造業者の説明書に従って調製し、DAB溶液を5〜10分間RTで適用した。スライドを流水で10分間洗浄し、ヘマトキシリンによって対比染色し、脱水して搭載した。
【0040】
ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した乳癌切片の検査では、図3および4に示すように、生存腫瘍に関連するすべての通常の特徴が証明され、動物宿主によるグレードIIヒト乳癌の維持は成功したことが確認された。悪性の特徴であるいくつかの性質がある。(B)と標識されたスライドの切片はこれらの性質を示す。切片(B)に観察される悪性の病理学的特徴は、
i) 高い核/細胞質比
ii) 角のあるクロマチンおよび核
iii) 不規則な核膜
である。
【0041】
グレードII〜IIIのレベルの腫瘍はヌードマウスモデルで維持されると結論された。グレードII〜IIIのレベルの腫瘍は、一般に約47%の予後生存率を与える(Bloom & Richardson, 1957)。グレードII〜IIIのレベルの腫瘍は、
i) 中等度の核多形性、過染色性、および有糸分裂活性、表示された腫瘍の切片を通して観察される特徴;および
ii) 管形成はほとんどまたは全くないこと
によって特徴づけられる。壊死(N)の大きな領域を転移した腫瘍に相関させることが可能で、これは強い侵襲的浸潤過程を示唆する(Carter, 1990)。腫瘍の浸潤縁は()によって指示される。
【0042】
この実験の主要な目的は、これらのマウスで確立された組織学的および細胞学的挙動がそれらの自然のヒト宿主におけるこのような腫瘍の場合に匹敵することの確認であった。この目的を達成するために、本発明者らはまた、マウスにおける腫瘍細胞がヒト起源であり、それらは高度に関連するHA受容体、たとえばRHAMM, CD44および推定ICAM-1を発現することも示した。腫瘍標的化が受容体仲介インターナリゼーションまたは結合を介して起こると仮定されるので、HA受容体、ICAM-1, CD44およびRHAMMの発現を確認することが必要であった。図5B〜Dはこれらのすべての受容体が存在したことを証明する。表1には試験した2つの腫瘍における受容体の発現程度を掲げる。
【表1】

【0043】
腫瘍細胞のヒト起源は腫瘍および周辺組織をヒト特異的癌マーカーで染色して確認した。CEAの存在は腫瘍がヒト起源であったことを明瞭に証明したが、これはマウス宿主の心脈管系によって維持された(図5A)。ポリクローナルCEA抗血清が分泌され、それはヒトCEAと排他的に反応する。この顕微鏡写真は褐色の染色で明らかなように、完全にヒト起源(H)であることが証明された。周囲の腫瘍カプセルおよび脂肪組織は抗血清(M)による染色を欠くことにより示されるように明らかにマウス起源である。褐色染色は腫瘍細胞上におけるRHAMMの高発現を証明する。最も強い染色は壊死および腫瘍浸潤組織を取り巻く領域に認めることができる。
【0044】
実施例2 メトトレキセート/ヒアルロナン薬物配合物の調製および注射
ヌードマウスモデルの有用性が確立されたので、今回HA/MTX製剤の有効性を試験するために使用することができた。
MTXの保存溶液は粉末MTXを0.5%w/v 食塩溶液(pH 9)に溶解し、0.9%w/v NaClで24.5 mg/ml 濃度として調製した。保存溶液は、[3H]メトトレキセートを添加し、注射用等級の食塩で注射用濃度に希釈する前に、滅菌を保証するために、0.22μm のフィルターを通してろ過した。MTXの薬物動態に関する比較データはヌードマウスおよびヒトについて既に報告されている(Inabaら, 1998)ので、可能な限りヒト治療用量に近くシュミレートするため、この試験の設計に使用した。個々の注射溶液は、50μl 中15 mg/kg MTX(平均体重60 kg について0.42 mg/kg のヒト治療用量に均等;Inabaら, 1988)を送達するように個々のマウスの体重に従って調製した。
【0045】
乾燥したHA(モデルMr 8.9×105 kDa)を24.5 mg/ml MTX保存溶液の一部に加え、一夜ボルテックス攪拌して溶解し、最終濃度21 mg/ml とした。滅菌性を保証するため、ゲンタマイシンを濃度50μg/ml に加え、一夜4℃でインキュベートした。ついで[3H]メトトレキセートを添加したのち、HA/MTX保存混合物を注射用等級の食塩で注射用濃度に希釈した。注射はマウスの体重により、50μl 中MTX 15 mg/kg およびHA 12.5 mg/kg が送達されるように個々に注射した。生体内に注射したこの量のHAによれば、実験期間中飽和キネティックスが観察された(Fraserら, 1983)。
【0046】
メトトレキセート/HA 注射用混合物の調製時にHA がその分子量を保持することを保証するために、注射用溶液を、カラム特性1.6 cm×70 cm, サンプルサイズ 2 ml, 流速18 ml/時および分画サイズ2 ml でSephacryl S-100サイズ排除ゲル(Pharmacia, Uppsala, Sweden)上で分析した。図6は混合操作時にHAがその分子量を維持したことを示している。
【0047】
マウスは各群40匹の2群に無作為に分割した。群1にはMTXのみを投与した。群2にはMTX/HA併用療法を行った。動物は個別に注射ボックスに収容し、注射は尾静脈に行った。各注射液により、トリチル化メトトレキセート(注射された平均崩壊度/分(dpm)±平均の標準誤差(SEM):19,159.146±1,336,819)を含む15 mg/kg MTX±12.5 mg/kg HAが送達された。マウスは尿を収集できるように、柔らかい非湿潤性のプラスチック製の檻に個別に収容した。注射後30分、1時間、2時間、4時間または8時間に、マウスをネンブタール(Glaxo, Australia Pty. Ltd., Melbourne, Australia)0.1 ml の腹腔内注射によって麻酔し、注射針およびシリンジを用いて心臓または大動脈から血液を採集した。血液収集後、動物は頚椎脱臼によって屠殺した。
【0048】
血液をEDTA-被覆ガラス試験管に取り、14,000 gav で10分間遠心分離して血漿を調製した。100μl の30%v/v 過酸化水素で脱色し、3 ml のHiSafeII シンチラントを加えたのち、50μl のアリコート中で放射能をカウントした。ケミおよびフォトルミネセンスを克服するためサンプルはWallac 1410 β-カウンター中、サンプルのソースに依存して、3, 7または20 d期にわたってカウントした。カウンティングの間の期間にはサンプルは室温で暗所に保存した。すべての計算はすべてのケミおよびフォトルミネセンスを除いた安定化サンプルについて実施した。
【0049】
血漿中の注射MTXの百分率を計算するためには、標準式:
マウス体重(g)×マウス血液容量(0.07)×血液の血漿部分(0.59)
を用いて各マウスの総血漿容量を計算することが必要であった。ついで血漿中の注射MTXの百分率は
血漿容量(ml)×血漿dpm/ml×100/総注射dpm=血漿中%注射MTX
によって計算した。
【0050】
血流中に送達されたMTXの量の正確な割合を保証するため尾静脈の注射部位を切り取り、MTXを定量した。注射部位に残された注射MTXの平均百分率は3.78%(SEM: 0.57%)であった。血流に送達されたMTXの量(組織および腫瘍に分布可能なMTX)は次のように計算された。
血流に送達されたMTXの量(dpm)=
注射シリンジの重量差(mg)×注射物質のDpm/mg−注射部位に残ったDpm
血流に送達されたMTXは以下「注射用量」と呼ぶ。
【0051】
サンプル集団間の正確な比較を可能にし、臓器および腫瘍塊中のわずかな変動を正規化するために、生体臓器および腫瘍ならびに体液中のMTX濃度は組織グラム数あたりの注射用量の%として表示した。
【0052】
注射部位に残った注射MTXの平均百分率は3.78%(SEM: 0.57%)であった。このような変動を正規化するため、腫瘍および組織に見出されたdpmを注射dpm−注射部位に残ったdpmの百分率として計算した。この量は以下利用可能なdpmまたは利用可能メトトレキセートと呼ぶことにする。結果は表2にまとめる。
【表2】

【0053】
薬物をHAと共投与した場合、MTXの血漿レベルには統計的な有意差は認められなかった。MTXの全般的な薬物動態は変化しないままで、最大MTX血漿レベルに静脈内注射後0.5〜2時間以内で到達した(MIMS, 1997)。
【0054】
可能な尿は非湿潤性プラスチック製の檻からシリンジおよび注射針で収集した。尿は14,000 gavで10分間遠心分離して澄明にした。その放射性カウントは8〜30μlの範囲のサンプルに3 ml のHiSafeII シンチラントを加えたのち測定した。各マウスにより排泄された尿の容量の正確な測定における技術的困難性にもかかわらず、本発明者らは尿中の注射MTX用量の百分率を次式で計算した。
収集の時間(時間)×42μl×dpm/μl尿×100/注射総dpm
=尿中注射MTXの%
【0055】
排尿頻度の変動により、各マウスから尿を収集することはできなかった。3回またはそれ以上の標品が各処置あたり各時点で利用可能であった場合は、その時点においてデータのノンパラメトリックな統計的検定を行った。MTX/HAを投与されたマウスの尿には50%(p=0.043)以上のMTXが投与1時間後に認められた(表2参照)。
【0056】
マウスの屠殺後直ちに、腫瘍、肝臓、心臓、脾臓、膀胱、左および右腎臓、子宮、肺臓、胃、腸、脳およびリンパ節を摘出し、総放射能を分析した。各組織の総放射能は100〜400 mg の組織を3〜6 ml のOptiSolv(ACC, Melbourne, Australia)中に22℃で36時間可溶化して測定した。可溶化の完了時に、組織中の放射能は10 ml のHiSafeII シンチラントを加えたのちカウントした。この場合も、ケミおよびフォトルミネセンスを克服するためにサンプルはWallac 1410 β-カウンター中、サンプルのソースに依存して、3, 7または20 d期にわたって2分間カウントした。カウンティングの間の期間には、サンプルは室温で暗所に保存した。すべて計算はすべてのケミおよびフォトルミネセンスを除いた安定化サンプルについて実施した。数字はメジアン±SEM(n=8)を表す。
【0057】
代謝的に活性な臓器たとえば肝臓、脾臓および腎臓が腫瘍標的化の増大に何らかのプラスの局面を妨害できる薬物標的化の高レベルは経験されなかったということを確立することは重要であった。表2には試験した様々な時点での各組織のメトトレキセートの取り込みを掲げる。
【0058】
Mann-Whitneyの順位和検定およびStudentのτ-検定を用いて、MTXをHAと共投与した場合のMTX濃度/g 組織には統計的な有意差はなかった。各時点における動物が少数なため、1つのデータポイントが重複すればMann-Whitney試験は統計的に無効になるが、肝臓、子宮および腸では明確な傾向が認められた。
【0059】
肝臓では、HAと組み合わせた場合に、図7に示すように、短期間のMTXの取り込み増加がみられた。30分および1時間の時点で、肝臓にはMTX濃度にそれぞれ平均(メジアン)65%および26%の上昇が認められた。2時間では、処置に無関係に肝臓におけるMTXの量には差は観察されなかった。4時間後には興味ある傾向が明瞭になり、図8に示すように、HAと共注射した場合、肝臓におけるMTXの低下が見出された(4時間:68%低いMTX, 8時間:75%低いMTX)。
【0060】
腸には有意な傾向があり、HAとMTXを組み合わせた場合にはすべての時点で、図9に示すように薬物の取り込み低下を生じた。
腸は完全にホモジナイズし、ついで組織約400 mg を3〜6 ml のOptiSolv中に22℃で24時間可溶化し、ついで10 ml のHiSafeII シンチラントを加えた。ケミおよびフォトルミネセンスを克服するため、サンプルはWallac 1410 β-カウンター中、サンプルのソースに依存して、3, 7または20 d期にわたって2分間カウントした。カウンティングの間の期間には、サンプルは室温で暗所に保存した。すべて計算はすべてのケミおよびフォトルミネセンスを除いた安定化サンプルについて実施した。
【0061】
数字は平均(メジアン)±SEM(n=8)を表す。マッチしたペアについてのノンパラメトリックなランダム化試験でのデータの分析では、HAの共投与は薬物の胃腸管への排泄を有意に低下させることが証明された(p=0.031, 片側検定)。
MTX濃度の低下は43〜67%の範囲であった。マッチしたペアについてのノンパラメトリックなランダム化試験でのデータの分析では、HAの共投与は薬物の胃腸管への排泄を有意に低下させることを示した(p=0.031, 片側検定)。
【0062】
肺ではHAと共投与した場合、4時間の時点で有意なMTXの低下があり、52%の平均(メジアン)低下(p=0.014%)を生じた。他の時点では有意差は証明されなかったが、しかしながら、この観察の意味は不確定である。
脾臓、子宮、脳、心臓、リンパ節、胃および腎臓では認めるべき傾向は検出されなかった。
【0063】
メトトレキセートの腫瘍細胞へのHA標的化には2つの機構の可能性がある(図10)。
HAをMTXと配合した場合には有意な標的化効果が認められた(図7)。薬物の腫瘍における保持の最も大きい相対的増加は、0.5時間(平均24%の増加)、1時間(平均30%の増加)および2時間(平均119%の増加)に認められたが、一方、4時間および8時間での増加は無視できるものであった。集団サイズが小さいことおよびデータのノンパラメトリックな分布により、Mann-Whitney順位和検定を使用し、HAを共注射した場合に薬物の腫瘍取り込みは有意に上昇することが明らかにされた。1時間における統計的有意差はp=0.021であり、2時間においてはp=0.050であった。他の時点では、有意差は証明されなかったが、腫瘍のMTX濃度/gはHAと共注射した場合よりもかなり高い傾向を示した。
【0064】
図7に示したデータは、HAとの共投与は注射後30分以内に腫瘍によるMTXの取り込みを著しく上昇させることを明らかに証明するものである。その上、共投与は腫瘍内における薬物の濃度に以後の分解時においても明らかに高いレベルを維持する。ノンパラメトリックな検定で評価した場合、1時間の時点で有意差はp=0.021(n1=8, n2=8)であり、2時間の時点で有意差はp=0.05(n1=8, N2=8)であった。
【0065】
HAを含む捕捉されたMTXは受容体(CD44および/またはI-CAM-1)に結合し、受容体仲介エンドサイトーシスを介してインターナライズされ、薬物が腫瘍細胞内に放出される。
【0066】
HA分子のメッシュは外向きの拡散に対する障碍として作用し、したがってHAが受容体(CD44, RHAMMおよび/またはI-CAM-1)に結合したのちは、捕捉されたMTXは腫瘍細胞中に拡散することができる。HAマトリックスによって細胞の表面に保持される一方、MTXは基底にある細胞中へのMTXの能動輸送に通常用いられる利用性が上昇する。
【0067】
副作用と、活性の望ましい部位以外の組織に対する薬物の分布はまた、HAとのその会合によって影響されることがある。たとえば、HAは通常、受容体仲介細胞性取り込みと肝臓(80〜90%)、腎臓(10%)、脾臓および骨髄における異化により血流から除去され、後二者の部位においてはわずかな種間の変動がある。期待されるように、HAは少なくとも短時間、薬物の肝臓への送達を上昇させるようにみえる。30分および1時間の時点で、肝臓はそれぞれ65%および26%のMTX濃度の平均(メジアン)上昇を示した。2時間の時点では、肝臓中のMTX量に処置に無関係に差は観察されなかった。興味ある傾向は4時間後に明らかになり、HAを共注射した場合、肝臓にはMTXの低下が見出された(4時間:68%低下、8時間:75%低下)。静脈内投与後、MTXは体液中に広く分布し、肝臓中に何ヶ月も残留できる(McEvoy, 1988)ので、HAと共投与された場合、4時間および8時間の時点におけるMTXの平均濃度の低下は、薬物動態的クリアランスの経路におけるバランスの変化が指示されるものと考えられる。HAが、肝臓の内皮細胞(LEC)で急速に代謝されることを考慮すると、HAと共インターナライズされたMTXは肝臓の洞様毛細管被覆細胞内で放出され、そこで肝細胞中に拡散されて胆汁中ついで胃腸管内に分泌されるか、もしくは循環に戻ってさらに体液中へ分布および尿中へ排泄されるか、または両者の経路をとる。
【0068】
短時間の肝臓への標的化は治療的利点になり得る。肝臓への転移の場合、MTXへの急速な高濃度での暴露は有利であり、観察された標的化はわずか1時間ほどのものであるから、長期の毒性の問題はないと思われる。肝臓標的化は、生物活性化を要求する薬物、たとえば薬物/HAがLECに標的化されるマイトマイシンC、ドキソルビシン等で利用できる。LBCに濃縮された不活性薬物が活性化するために肝細胞内に拡散され、このようにして活性化の標的化機構として作用することができる。
【0069】
MTX毒性の主要部位の1つは胃腸管である。HAとMTXの共投与はGI管へ送達される薬物の量を有意に低下させる。胃腸内でのMTX濃度の低下には幾つかの機構の関与が考えられる。
メトトレキセートはきわめて小さな分子であり、通常は大部分の毛細管壁を通過することが期待される一方、HAとの会合はこの経路の通過は著しく低下するものと考えられる。
肝臓内皮細胞におけるHAの急速な分解は、MTXの急速な放出および血流中への復帰を生じ、これにより1時間の時点で指示されたように、腎クリアランスの上昇を受け、MTX/HAプレパレーションを投与されたマウスの尿に50%以上のMTXが排泄される。
【0070】
MTXの生体からの最終的除去の主要な経路は尿中への排泄である。HAにより薬物の腎臓含量はわずかに上昇するように見えるが、本発明者らは他の証拠から、HAは腎臓によって取り込まれ速やかに異化されるので、その保持時間はきわめて短く、会合した薬物は迅速に尿中に放出されると考えている。
【0071】
結論
ここに報告された結果は、治療薬剤のヒアルロナンとの共投与が所望の標的である病理学的組織へのそれらの選択的送達、すなわち、その点でのさらに高く、さらに有効な濃度を達成する前提を調べる前臨床的試験の第一の段階を提示するものである。この場合、ヒト乳癌および他の悪性腫瘍ならびに慢性関節リウマチの現在の処置基準に広く用いられている細胞傷害性薬剤、メトトレキセートを、ヒアルロナンとともにまたはヒアルロナンを用いないで静脈内経路によって試験した。
【0072】
本発明者らは、ヌードマウスモデルが生存宿主におけるヒト乳癌の試験にとくに適当なモデルであることを見出し、疾患組織の部位に対する直接治療剤にHAを使用し、それらの有用な効果を増強させる基本的な問題の一部を解決した。本発明者らの結果は、HAと特別な会合の形態を示さない小分子量の薬物で達成され、HAが血流中に注射された場合、病理学的組織に送達されるこのような薬物の量を依然として増加させることが証明された。この試験は、生体において支配的な条件で、MTXはHAとともに、ヒト乳癌への送達の有意な増強を達成するのに十分維持され、また胃腸管毒性の望ましくない副作用を強力に低下させることを証明するものである。
【0073】
実施例3 パクリタキセル/ヒアルロナン薬物配合物の調製および注射
HA/パクリタキセルのためのヌードマウスモデルの有用性が確立されたので、今回他の化学療法剤の有効性を試験するために使用することができた。治療的重要性により、パクリタキセル(タキソールとしても知られる)を使用することに決定した。
パクリタキセルは西洋イチイTaxus brevifoliaから単離され(Waniら, 1971)、進行した卵巣癌および乳癌に対して臨床的に活性であり(Rowniskyら, 1990; McGuireら, 1989)、現在他の様々な癌の処置のための臨床試験が進行中である。しかしながら、パクリタキセルに伴う大きな問題はそのきわめて高い親油性と、その結果、貧弱な水溶性である。この問題を解決するための努力がパクリタキセルの同族体およびプロドラッグの合成を導き、また同時に安全かつ生物学的適合性のある処方を組み立てる努力が払われている。これまで、臨床的な開発が保証される十分な安定性、溶解性または活性を示したプロドラッグはない(Mathewら, 1992; Vyasら, 1991)。しかしながら、半合成タキサンはパクリタキセルより高い溶解性および効力を示していて(Basseryら, 1991)、Taxotereからの1種はヒト試験に入っている(Bissetら, 1993)。
【0074】
静脈内送達に用いられるパクリタキセルの現時点での臨床用処方は、薬剤6 mg/ml とともにエタノールとCremophor EL の1:1 (v/v) 比を使用している。Cremophor ELは実際にポリエトキシ化ヒマシ油であり、澄明な、油状の粘稠な黄色の界面活性剤である。安定性試験では最初の処方は4℃において5年の貯蔵寿命を有することが示されている。プレパレーションは使用前に0.9%食塩水または5%デキストロースで0.3〜1.2 mg/ml に希釈し、これらの条件下でのこの物質の物理学的および化学的安定性は約27時間である。しかしながら、ビヒクルのこれらのレベルへの希釈は過飽和溶液を生じ(Adamsら, 1993)、確立された指針外で使用すると、沈殿を生じる傾向がある。したがって、粒子の注入に対する安全手段として投与時に並列フィルターが要求される。希釈したパクリタキセル溶液はまた、製造から24時間以内に使用することが薦められている。上記溶液の曇りも認められ、これには輸液バッグおよびチューブからCremophorによる可塑剤の抽出に原因が帰せられている(Waughら, 1991)。
前述の物理学的不安定性に加えて、Cremophorの最も重要な問題は、それが薬理学的作用をもつと報告されていることである。様々な薬物がシクロスポリン、タクロリムスおよびテニポシドを含めて、Cremophor ELを用いて投与されている。しかしながら、パクリタキセルとともに投与されるCremophor ELの用量は他の市販薬剤と用いられる量よりも多い。Cremophorは重篤なまたは致命的な過敏性相を引き起こすことが観察されている。ビヒクルの毒性もまた、動物またはヒトへのパクリタキセルの急速な輸液に際して観察される致命的なまたは生命に危険があるアナフィラキシー反応の大きな原因になる可能性がある(Dye & Watkins, 1980; Lorenzら, 1977; Weissら, 1990)。
【0075】
パクリタキセルの保存溶液を調製し、個々の注射液は、個々のマウスの体重に従って調製される。
【0076】
乾燥したHA(モデルMr 8.9×105 kDa)を少量ずつ24.5 mg/ml のパクリタキセル保存溶液に加え、一夜ボルテックス攪拌して溶解し、最終濃度21 mg/ml とする。滅菌製を保証するため、ゲンタマイシンを濃度50μg/ml に加え、一夜4℃でインキュベートする。ついで[3H]パクリタキセルを添加したのち、HA/パクリタキセル保存混合物を注射用等級の食塩で注射用濃度に希釈する。注射はマウスの体重により、50μl 中パクリタキセル 15 mg/kg およびHA 12.5 mg/kg が送達されるように個々に注射する。生体内に注射したこの量のHAによれば、実験期間中飽和キネティックスが観察された(Fraserら, 1983)。
【0077】
パクリタキセル/HA 注射用混合物の調製時にHA がその分子量が保持されていることを保証するために、注射用溶液を、カラム特性1.6 cm×70 cm, サンプルサイズ 2 ml, 流速18 ml/時および分画サイズ2 ml でSephacryl S-100サイズ排除ゲル(Pharmacia, Uppsala, Sweden)上で分析する。図4は、混合操作時にHAがその分子量を維持したことを示している。
【0078】
マウスは各群40匹の動物を2群に無作為に分割する。群1にはパクリタキセルのみを投与し、群2にはパクリタキセル/HAの併用治療を行う。動物は個別に注射ボックスに収容し、注射は尾静脈に行う。各注射液中に、トリチル化パクリタキセル(注射された平均崩壊度/分(dpm)±平均の標準誤差(SEM):19,159.146±1,336,819)が送達される。マウスは尿を収集できるように、柔らかい非湿潤性のプラスチック製の檻に個別に収容する。注射後30分、1時間、2時間、4時間または8時間に、マウスをネンブタール(Glaxo, Australia Pty. Ltd., Melbourne, Australia)0.1 ml の腹腔内注射によって麻酔し、注射針およびシリンジを用いて心臓または大動脈から血液を採集する。血液収集後、動物は頚椎脱臼によって屠殺する。
【0079】
血液をEDTA-被覆ガラス試験管に取り、14,000 gav で10分間遠心分離して血漿を調製する。100μl の30%v/v 過酸化水素で脱色し、3 ml のHiSafeII シンチラントを加えたのち、50μl のアリコート中で放射能をカウントする。ケミおよびフォトルミネセンスを克服するためサンプルはWallac 1410 β-カウンター中、サンプルのソースに依存して、3, 7または20 d期にわたってカウントする。カウンティングの間の期間にはサンプルは室温で暗所に保存する。すべての計算はすべてのケミおよびフォトルミネセンスを除いた安定化サンプルについて実施する。
【0080】
血漿中の注射パクリタキセルの百分率を計算するためには、標準式:
マウス体重(g)×マウス血液容量(0.07)×血液の血漿部分(0.59)
を用いて各マウスの総血漿容量(ml)を計算することが必要である。ついで、血漿中の注射パクリタキセルの百分率は
血漿容量(ml)×血漿dpm/ml×100/総注射dpm
=血漿中%注射パクリタキセル
によって計算する。
【0081】
血流中に送達されたパクリタキセルの量の正確な割合を保証するため尾静脈の注射部位を切り取り、パクリタキセルを定量する。注射部位に残った注射パクリタキセルの平均百分率も測定される。血流に送達されたパクリタキセルの量(組織および腫瘍に分布可能なパクリタキセル)は次のように計算される。
血流に送達されたパクリタキセルの量(dpm)=
注射シリンジの重量差(mg)×注射物質のDpm/mg−注射部位に残ったDpm
血流に送達されたパクリタキセルは以下「注射用量」と呼ぶ。
【0082】
サンプル集団間の正確な比較を可能にし、臓器および腫瘍塊中のわずかな変動を正規化するために、生体臓器および腫瘍ならびに体液中のパクリタキセル濃度は組織グラム数あたりの注射用量の%として表示する。
【0083】
注射部位に残った注射パクリタキセルの平均百分率を計算する。このような変動を正規化するため、腫瘍および組織に見出されたdpmを注射dpm−注射部位に残ったdpmの百分率として計算する。この量は以下利用可能なdpmまたは利用可能パクリタキセルと呼ぶことにする。
【0084】
可能な尿は非湿潤性プラスチック製の檻からシリンジおよび注射針で収集する。尿は14,000 gavで10分間遠心分離して澄明化する。その放射能カウントは8〜30μlの範囲のサンプルに3 ml のHiSafeII シンチラントを加えたのち測定する。
【0085】
マウスの屠殺後直ちに、腫瘍、肝臓、心臓、脾臓、膀胱、左および右腎臓、子宮、肺臓、胃、腸、脳およびリンパ節を摘出し、総放射能を分析する。各組織の総放射能は100〜400 mg の組織を3〜6 ml のOptiSolv(ACC, Melbourne, Australia)中に22℃で36時間可溶化して測定する。可溶化の完了時に、組織中の放射能は10 ml のHiSafeII シンチラントを加えたのちカウントする。この場合も、ケミおよびフォトルミネセンスを克服するため、サンプルはWallac 1410 β-カウンター中、サンプルのソースに依存して、3, 7または20 d期にわたって2分間カウントする。カウンティングの間の期間には、サンプルは室温で暗所に保存する。すべて計算はすべてのケミおよびフォトルミネセンスを除いた安定化サンプルについて実施する。
【0086】
実施例4 5-フルオロウラシルおよびHA導入の使用
5-フルオロウラシル(5-FU)は乳癌および胃腸管の癌の処置に一般に用いられている抗代謝剤である(Piper & Fox, 1982)。5-FUは、それがDNAおよびRNA両者の合成を妨害する細胞内においてその活性ヌクレオチド型に変換される。この薬物はインビボにおいて2つの機構を介して機能する。
(i)FdUMPはチミジル酸シンターゼに強固に結合し、DNAの合成に要求される4種のデオキシリボヌクレオチドの1つである、デオキシチミジントリホスフェート(dTTP)の必須な前駆体であるチミジル酸の形成を妨害する。この阻害によって創成されたチミジンのない状態は能動的に分割している細胞に毒性である(Pinedo & Peters, 1988)。
(ii)5-FUが機能する第二の方法は、FUTPのRNAへの導入がRNA機能を妨害することである。Fdurdおよび5-FUによって引き起こされるチミジル酸シンターゼの阻害は細胞に対して細胞傷害性作用を引き起こすことができる。5-FUの濃度および暴露の持続の両者が細胞傷害性の重要な決定因子である。RNAに向けられた作用が暴露の長期間持続で優先されるので、DNAに向けられた作用が多分、S相における細胞の短期間暴露時にさらに重要であろうと考えられる。
【0087】
幾つかの試験が抗癌剤の薬物送達システムとしてのHAの使用を検討している。Coradiniら(1999)は、HA/酪酸ナトリウム配合物がインビトロにおいて乳癌細胞による取り込みを増大させるか否かを決定するために、酪酸ナトリウムをHAに共有結合により結合させた。この研究は薬物送達ビヒクルとしてのHAの作用機構がHA-酪酸エステル誘導体のCD44受容体への輸送に関与する可能性を指示した。HA/薬物複合体はインターナライズされ、ついでHA/薬物複合体は細胞質で加水分解を受け、ついで酪酸塩が放出され、これが抗増殖作用を発揮した。1つのインビボ試験が、マウスルイス肺異種移植の処置方法としてHAに共有結合で連結されたマイトマイシンCを用いて行われた(Akimaら, 1996)。HA-MMC複合体は、単独の薬物マイトマイシンCが抗腫瘍活性を示さなかった0.01 mg/kg の低用量で抗腫瘍活性を生じることが見出された。
【0088】
例5 ヒト乳癌細胞中の5−FUとHAの相乗作用の研究
HA結合親和性(クルティ(Culty)ら、1994)とCD44およびRHAMMのHA受容体の発現(ワング(Wang)ら、1996)に基づき、ヒト乳腺癌株MDA−MB−468、MDA−MB−435およびMDA−MB−231を選択した。細胞株の特徴の要約を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
細胞株MDA−MB−468、MDA−MB−435およびMDA−MB−231は、例1に記載のようにルーチンに培養した。
【0091】
0nM 5−FU+100nmのHAを含有する培地で増殖させた乳癌細胞は、未処理細胞と比較した時、統計的に有意な増殖作用または細胞障害作用を示さないことが、表4から明らかである。
【0092】
【表4】

【0093】
従って、すべての結果を、0nM 5−FU/0nM HA細胞数のパーセントとして表した。細胞株の間で増殖パターンの明確な差が認められ、例えばMDA−MB−231細胞とMDA−MB−468細胞は、塗布効率が悪く、試験培地を適用する前に多くの浮遊細胞が存在した。MDA−MB−435細胞株は、高塗布効率を示し、非常に速い増殖速度を示した。
【0094】
HAを5−FUと一緒にすると、MDA−MB−468細胞株で相乗的細胞障害作用が観察されたが、MDA−MB−231やMDA−MB−435乳癌細胞株では観察されなかった。これを、図11に示す。5−FU単独のIC50は>50μmであったが、HAと一緒にすると、IC50は40nMであり、薬物投与量は1250倍まで低下した。
【0095】
インビトロ実験の結果は、HAの存在下で乳癌細胞に5−FUを適用すると、細胞死滅が増加することを示した。MDA−MB−468細胞は、5−FU/HA治療法に対する最大の感受性を示し、IC50は>50μMから40nMに低下し、一方MDA−MB−231とMDA−MB−435は、5−FU/HA組合せにより大きく影響を受けなかった。クルティ(Culty)ら、1994により測定すると、乳癌細胞株はすべて、MDA−MB−468(60〜80%)、MDA−MB−231(40〜60%)およびMDA−MB−435(40〜60%)で高レベルのCD44受容体を発現した。これらの実験で使用される3つの細胞株は、HAを分解することができ、腫瘍細胞中のCD44の機能は、HAの分解の仲介であることを示している(クルティ(Culty)ら、1994)。
【0096】
考慮すべき他の要因は、化学療法剤への細胞の以前の暴露である。患者から癌細胞株を単離する前に、癌患者はしばしば化学療法または放射線照射を受け、これが治療耐性細胞を含有する腫瘍を生成することがある。MDA−MB−435とMDA−MB−231の場合は、細胞株が得られた患者は、すでに5−FUに暴露されていた(カイロー(Cailleau)、1974)。癌細胞は、薬物の細胞障害性を克服するいくつかの適応機構を有するため、治療後に残存した腫瘍塊が5−FUに耐性であり、従ってインビトロで薬物に対する細胞の感受性を変化させている可能性が高い。
【0097】
マウスで得られたインビボのデータをヒトへの治療に外挿することを目的として、実験モデルと計画を注意深く開発した。ヒトの乳癌異種移植片に対するインビボターゲティングと5−FU/HA補助(アジュバント)療法の治療効果を決定的に証明するために、以下の要因を試験した:
【0098】
異質遺伝子型の細胞に対する免疫反応を避ける研究で充分受容されているモデルであるヌードマウスの、充分証明されたウォルターアンドエリザホールインスティテュート(Walter And Eliza Hall Institute)株で、ヒト乳癌を樹立した。
【0099】
ヌードマウスとヒトについてすでに公表されている(イナバ(Inaba)ら、1988)5−FUの薬物動力学についての比較データを、この研究の計画で使用して、ヒトの治療投与量をできるだけ厳密にシミュレートした。
【0100】
大きな目的は、これらのマウスで樹立した腫瘍の組織学的および細胞学的挙動が、それらの天然のヒト宿主においてかかる腫瘍のそのような挙動に匹敵するかどうかの実証であった。この目的の達成の過程で我々は、マウス中の腫瘍細胞がヒト起源であり、これらはRHAMMやCD44のような高度に関連するHA受容体を発現することも証明した。
【0101】
例6 HAと5−FU溶液の調製
乾燥したHA(モードMr 7×105kDa)を0.9%w/v発熱性物質不含注射用等級のNaClに溶解して、HAストック溶液(10μM、7mg/ml)を調製した。均一な溶解を確実にするために、HAを4℃で一晩溶解し、次に完全にボルテックス混合した。ストック溶液の調製中にHAがその分子量を維持したことを確認するために、溶液をセファクリルS−1000サイズ排除ゲル(カラムの規格、1.6×70cm、試料サイズ2ml、流速18ml/時間および2mlの画分サイズ)で分析した。HAは最終濃度100nMで使用し、すべての希釈は適当な増殖培地中で行った。
【0102】
5−FUのストック溶液は、5−FUを0.1M 水酸化ナトリウムに溶解し、0.9%w/vの発熱性物質不含注射用等級のNaClで濃度を20mg/mlとして調製した。このストック溶液を0.22μmフィルターでろ過して無菌にしてから、[3H]−FUを加え、注射用等級のNaClで注射濃度に希釈した。50μl中30mg/kgの5−FUを投与(平均体重60kgのヒトへの治療投与量10.5mg/kgに等しい;イナバ(Inaba)ら、1988)する目的で、各マウスの体重に応じて各注射物を調製した。発熱性物質不含HAストック溶液(10mg/ml;モードMr 7×105kDa)を20mg/ml 5−FUストック溶液の一部に加え、ボルテックス混合しながら一晩攪拌し、HAの最終濃度を12.5mg/kgマウス体重と等しくさせた。50μl中30mg/kgの5−FUと12.5mg/kgのHAを投与するために、マウスの体重に従って注射物を個々に調製した。この量のHAを体内に注射すると、実験期間について飽和動力学が観察されるであろう(フレーザー(fraser)ら、1983)。HAが、注射混合物の調製の間その分子量を維持したことを確認するために、注射溶液をカラムの規格が1.6cm×70cmのセファクリルS−1000サイズ排除ゲルで、流速18ml/時間と2mlの画分サイズで分析した。ウロン酸測定により、カラム画分中のヒアルロナンを検出した。
【0103】
ウロン酸測定を使用して、ゲルろ過クロマトグラフィー法で採取した画分からヒアルロナンの存在を定量的に検出した。次に25μlのアリコートの各画分を96ウェルプレートに移した。次に250μlのカルバゾール試薬(硫酸中3Mカルバゾール/0.025Mホウ酸)を、これらの溶液に加えた。96ウェルプレートを80℃で45〜60分インキュベートした。550nmのフィルターのついたダイナテク(Dynatech)MR7000プレートリーダーを使用して、96ウェルプレートを読んだ。吸光度がバックグランド吸光度より>3標準偏差の時、有意であると見なした。バックグランドは、VoとVtの前後の試料点と等しい数(平均数は16であった)を取って計算した(フレーザー(fraser)ら、1988)。
【0104】
HAと5−FUに調製物(0.5% NaCl(pH8.9)中10mg/mlのHAと20mg/mlの5−FU)は、HAの分子量に対して分解作用を示さなかった。サイズ排除ゲル中のクロマトグラフィー分析は、モード分子量700,000Daを示した。
【0105】
例7 薬物細胞障害性測定法:実験計画
インビトロでの薬物力価測定実験を計画するには、静脈内投与後に血漿中で到達する濃度に似た薬物濃度を適用することが好ましい。5−FUを静脈内経路(iv)で10.5mg/kg(400mg/m2)で治療的に投与すると、30分以内のピーク血漿レベルは8μg/mlである(6μM、クボ(Kubo)、1990)。これらのインビボの血漿濃度に基づき、以下の薬物濃度を選択した:0、1、5、10、20、50、100μM 5−FU+100nM HA。細胞株MDA−MB−468、MDA−MB−231およびMDA−MB−435を、例4〜5で上記したように増殖させた。培養物がコンフルエンスに達した時、フラスコから細胞を0.25%トリプシン/0.05% EDTA中に取った。単一細胞懸濁物を、コールター(Coulter)カウンター(ZM1モデル)で計測し、細胞を細胞特異的培地に100,000細胞/mlで再懸濁した。ウェル当たり0.5mlの細胞懸濁液を加えて細胞を24ウェルプレート(表面積2cm2)に広げて、50,000細胞/ウェルを得た。培養物を24時間付着させ、次に培地を除去し、単層をHBSSで洗浄し、試験培地(5−FU+HA)を適用した。試験培地中で4日間増殖後、培養物をHBSSで洗浄し、細胞を0.25%トリプシン/0.05% EDTAでトリプシン処理して、ウェルから除き、細胞をコールター(Coulter)カウンターで計測した。
【0106】
例8 薬物送達および腫瘍ターゲティング(標的化)ビヒクルとしてのHAの評価
例5〜7に記載のインビトロの薬物感受性実験、およびCD44とRHAMMのHA受容体の発現の結果に基づいて、ヒト乳癌細胞株MDA−MB−468を、ヌードマウスヒト腫瘍異種移植片の作成のための癌細胞接種物として選択した。細胞をルーチン法で増殖させ、例5で上記したように継代した。マウスへの注射のために、細胞を100%コンフルエンスになるまで増殖させ、0.25%トリプシン/0.01% EDTA溶液でトリプシン処理して、ベックマン(Beckman)TJ−6ベンチ遠心分離で400gavで10分間2回遠心分離して洗浄し、モデル−ZMコールター(Coulter)カウンターを使用して計測し、無血清レイボビッツ(Leibovitz)L−15培地に1×108細胞/mlで再懸濁した。
【0107】
メスの無胸腺CBA/WEHIヌードマウス(6〜8週令)を、特定病原体未感染の条件下で維持し、無菌の食料と水は自由に与えた。各マウスに、5×106細胞/50μlを含有する注射を1回行った。第1乳首のすぐ下の乳房脂肪体中に、26ゲージ針を使用して細胞を注入した(ラムスズス(Lamszus)ら、1997)。腫瘍の測定は、直角の3つの直径(d123)を毎週測定して行った。腫瘍容量は、以下の式を使用して推定した:
(1/6)π(d123
【0108】
癌細胞接種の約4〜8週後に、5−FU±HAによる処理を開始した。各試験で使用したマウスの平均腫瘍サイズを表5に要約する。
【0109】
【表5】

【0110】
乳癌細胞株MDA−MB−468の腫瘍原性と、適当な動物宿主に注入した時腫瘍を生成させる能力を確立するために、病理試験をする必要があった。腫瘍が生理学的に活性があるためには、新血管新生(毛細管ネットワークが腫瘍に栄養物質を供給する)が必須である。血管新生、導管性浸潤、壊死、アポトーシス、高い分裂指数、および核異常の存在は、すべて乳癌に特徴的である。ヘマトキシリンとエオシン染色した乳癌切片を観察すると、これらのすべての特徴が証明され、この動物宿主が悪性度IIのヒト乳癌をうまく維持したことを確証している。
【0111】
腫瘍誘導の約8週間後、2匹の担癌マウスに致死量のネンブタールを与えた。マウスの死亡の3分以内に、腫瘍を外科的に取り出し、直ちに10%緩衝化ホルマリン中で12時間固定した。固定した腫瘍を、一連の70〜100%のエタノールで一晩脱水し、次にパラフィンに包埋し、そこから2〜4μm切片を切った。切片をスライド上に置き、パラフィンを除き、水にした。スライドをPBS中で3×5分洗浄した。異種親和性のタンパク質を、10%胎児牛血清で10分間インキュベートしてブロックし、次にPBSで洗浄した。室温で60分検出抗体を適用した。検出抗血清または抗体は、RHAMM、CD44HおよびCAEに対するものであった。スライドをPBSで3×5分洗浄し、メタノール中の0.3%の過酸化水素に20分浸漬して内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックした。さらにPBSで洗浄後、ペルオキシダーゼ結合ブタ抗ウサギ2次抗血清を室温で60分適用し、PBSで3×5分洗浄した。シグマファスト(Sigma Fast)3,3’−ジアミノベンジジン錠剤(ダブ(DAB))を、製造業者の説明書に従って調製し、DAB溶液を室温で5〜10分適用した。スライドを水道水で10分洗浄し、ヘマトキシリンで対染色し、脱水し、マウントした。
【0112】
腫瘍と周りの組織をヒト特異的癌マーカーで染色することにより、腫瘍がヒト起源であることを確認した。CEAの存在は、腫瘍がヒト由来であることを明確に証明し、一方マウス宿主の心血管系により維持された。腫瘍ターゲティングは受容体介在内在化または結合を介して起きると仮定したため、HA受容体、CD44およびRHAMMの発現を確立する必要があった。表6は、ヒト乳癌異種移植片上の受容体の発現程度のリストを示す。
【0113】
【表6】

【0114】
例9 ヌードマウスモデル中の5−FUとHAの使用
マウスをランダムに、25匹の2群に分けた。第1群には、[3H]5−FUのみを、第2群には[3H]5−FU/HAの組合せを投与した。注射の前後に注射シリンジの重さを測定して、尾静脈への処理は定量的に行った。30mg/kgの5−FU±12.5mg/kgのHA内に含有されるトリチウム化5−FU(平均注入dpm±SEM;31,333,002±131,348)を、各注射で投与した。
【0115】
血流中に送達される[3H]5−FUの量を正確に定量するために、尾静脈上の注射部位を切開し、その[3H]5−FU含量を測定した。血流中に送達された5−FUの量(組織や腫瘍に分配されることができる5−FU)は、以下のように計算した:
(血流に送達された5−FUの量)(dpm)=(注射シリンジの重さの差)(mg)×(注射物質のdpm/mg)−(注射部位に残存するdpm)
【0116】
血流に送達された5−FUの量を、「注射投与量」と呼ぶ。
【0117】
試料集団間を正確に評価し、臓器や腫瘍の重さの小さな変動を標準化するために、体内の臓器や腫瘍および体液中の5−FUの濃度を、注射投与量/グラム組織の%として表した。
【0118】
尿が集められるように、柔らかい湿ったプラスチックの囲いにマウスを1匹ずつ入れた。注射の10分、20分、30分、1時間または2時間後に、0.1mlネンブタールを腹腔内投与してマウスを麻酔した。
【0119】
マウスを麻酔して、針とシリンジを使用して心臓または大血管から血液を採取した。血液をEDTAガラス管に取り、14,000gavで10分遠心分離して血漿を調製した。過酸化水素(30%v/v)100μlで脱色し、3mlのハイセーフII(HiSaveII)シンチレーション液を加えて、放射活性を測定した。化学ルミネセンスと光ルミネセンスを抑えるために、試料の起源に従って3、7または20d期間にわたって、試料をワラック(Wallac)1410β−カウンターで2分間計測した。計測の間、試料は暗所で周囲温度で保存した。すべての計算は、すべての化学ルミネセンスと光ルミネセンスが消失した安定化した試料について行った。血漿中の注入された5−FUの割合を決定するために、各マウスの総血漿量(ml)を計算する必要があった。標準的式は以下の通りである:
(マウスの重さ(g))×マウス血液量(0.07)×血液の血漿の比(0.59)1
【0120】
血漿中の注入した5−FUの割合は、以下から計算した:
(血漿容量(ml)×dpm/ml血漿×100)/(注入した総dpm)
【0121】
可能な場合は、シリンジと針を有する非湿潤プラスチックの囲いから尿を採取した。14,000gavで10分間遠心分離して、尿を清澄化した。8〜30μlの試料に3mlのハイセーフII(HiSaveII)シンチレーション液を加えて、放射活性を測定した。各マウスの出す尿量を正確に定量することの技術的困難さがあり、尿中の注入した5−FU投与量の%を、以下の式により計算した:
(採取時間(h)×42μl1×dpm/μl尿×100)/(注入した総dpm)
【0122】
いったん血液を採取後、マウスを頚部脱臼により殺した。マウスの死亡直後に、腫瘍、肝臓、心臓、脾臓、膀胱、左腎臓、右腎臓、子宮、肺、胃、小腸、脳およびリンパ節を切りだし、総放射活性を分析した。組織当たりの総放射活性を測定した。100〜400mgの組織を3〜6ml中に22℃で36時間可溶化して、組織当たりの総放射活性を測定した。可溶化の終了後、10mlのハイセーフII(HiSaveII)シンチレーション液を加えて組織を測定した。化学ルミネセンスを避けるために、上記したように試料を計測した。
【0123】
図12に示すように、HAを5−FUと組合せると大きなターゲティング作用があった。薬物の腫瘍保持の最も大きな相対的上昇は10分で観察され、ここでHAは薬物取り込みを2.42倍増加させた(p=0.001、スチューデントt検定)。HA/5−FU投与の20分と30分後、5−FUの腫瘍取り込みの統計的に有意な上昇も認められ、薬物取り込みの上昇はそれぞれ1.5倍と2倍であった(p<0.001、スチューデントt検定)。他の時点は、単独投与の5−FUとHAとの同時注入とで統計的に有意な差は示さなかった。
【0124】
肝臓、脾臓、および腎臓のような代謝臓器が高レベルの薬物ターゲティング(これは、腫瘍ターゲティングの上昇の陽性面に逆作用する)を受けないことを確立することは重要であった。表7は、試験した種々の時点での各組織の[3H]5−FU取り込みのリストを示す。
【0125】
【表7】

【0126】
図13は、HAの主要な代謝臓器が肝臓、リンパ節、および脾臓であり、5−FUが肝臓中で広範に代謝されることを示す。
【0127】
5−FUがHAとともに注入されると、これらの臓器は5−FU取り込みの有意な増加を示す。しかし腎臓は、HAとの投与後に10分で5−FUターゲティングの有意な上昇(1.8倍、p=0.004)を示した。この時点後、統計的に有意ではないが、サンプリング期間の最後まで、薬物取り込みの上昇の傾向は続いた。
【0128】
膀胱、小腸および骨髄は、5−FUの取り込みの上昇を示さなかった。子宮のような組織では、10分で薬物取り込みの短時間の上昇があった(1.8倍、p=0.032)が、他の時点では差は示されず、従ってこの観察の有意性は不明である。
【0129】
胃、脳および肺は、1つまたは2つのサンプリング時点で5−FU取り込みの上昇を示した。しかし各時点の動物の数が少ない(n=5)ため、統計的有意性を支持することができなかったが、図14A〜Cに示すように明確な傾向が観察された。
【0130】
後の1時間と2時間のサンプリング時点で、心臓5−FUの有意な低下が認められ、HAとの同時投与により、それぞれ59%(p=0.003)と53%(p=0.021)低下した。
【0131】
排尿速度の変動のために、各マウスから尿を採取することができなかった。従って統計的な解析をするには不充分な尿が採取された。
【0132】
5−FUをHAと同時注入すると、5−FUの循環レベルが早期に低下した(表7)。ヒアルロナンは血漿5−FUを55%(p=0.001)低下させた。図15に示すように5−FU/HAを投与されたマウスでは、薬物動態血漿半減期は28分から56分に変化した。
【0133】
例10 マウスへの治療投与処方
ヒト乳癌の最も一般的な治療処方は、28日間のサイクルの1日目と8日目に投与されるシクロホスファミド、メソトレキセート、および5−フルオロウラシルである。ヒト乳癌では、初期の治療処方は6サイクルであり、この時点で患者の状態が再評価され、従って我々は、マウスを長期薬効試験で6サイクル(6ヶ月)と短期薬効試験で6サイクル(6週)に伏して、ヒトの治療処方をできるだけシミュレートするようにした。マウスの生活史が2年であることを考慮して、我々は表8に示すように短期と長期の治療プロトコールを開始した。
【0134】
【表8】

【0135】
マウスを、短期試験では各群8匹の7群と、長期試験では8匹の5群に分けた(投与量と治療投与スケジュールについては表8を参照されたい)。
【0136】
化学療法を6ヶ月以上続けても一般的には利点はないため(ハリス(Harris)ら、1992)、治療は6ヶ月を超えることはしなかった。
【0137】
例8に記載のように長期試験の治療適用日に、マウスの体重と腫瘍容量を測定した。6週間の試験中毎日、マウスの体重と腫瘍容量を測定した。マウスを1匹ずつ注射ボックスに入れ、尾静脈から注射をした。化学療法に対する患者の応答で、ストレスは大きな因子であることが実験的に証明されており(シャックネイ(Shackney)ら、1978)、従って我々は、等しい数のマウスを各ケージに入れ、ケージ当たりのマウスの数は、実験の段階に依存して5〜8匹で変動させた。
【0138】
疾患の進行のために安楽死が必要となった時、または6ヶ月(長期)もしくは6週間(短期)の治療処方が完了した時を、実験の終点とした。動物倫理指針により、疾患の進行の程度を評価する独立の係員がマウスを2週間ごとに観察した。図16に示すように、以下の基準を使用して、マウスが、死亡させるべき実験の終点に達したかどうかを決定した:
【0139】
1)マウスが飲食をせず、体重が大きく低下した;
2)腫瘍のサイズが体重の10%より大きかった(パネルA);
3)腫瘍の塊が大きいため、マウスが動けなかった(パネルB);
【0140】
実験の終点で、0.1mlのネンブタール(60mg/ml)を腹腔内投与注入してマウスを麻酔し、頚部脱臼によりマウスを死亡させた後、血液を採取した。
【0141】
6週間の試験後に、腫瘍の大きさを測定すると、図17に示すように5−FUと5−FU/HA治療の両方とも、食塩水群より有意に小さい腫瘍を示した(p=0.005)。5−FU処理群と5−FU/HA処理群との間に、腫瘍容量に有意な差はなく、両方の治療法が一次(原発性)腫瘍に対して同等の効力を示すことを示している。食塩水とHAの一次腫瘍容量の間には統計的差はなかった。
【0142】
マウスを死亡させた直後に、腫瘍、肝臓、心臓、脾臓、膀胱、左の腎臓、右の腎臓、子宮、肺、胃、小腸、脳およびリンパ節を切りだし、0.06Mリン酸(pH7.5)と塩化セチルピリジニウム(1.0%v/v)で緩衝化した4%ホルマリンに入れた。組織を16〜24時間固定してから、組織学的処理を行った。固定した組織を段階的に100%エタノールまで脱水し、パラフィンブロックに包埋し、そこからの2〜4μmの切片をガラス顕微鏡スライド上に置いた。ヘマトキシリン核染色とエオシン細胞質染色により組織切片を染色すると、処理の毒性を示す病理的特徴が強調された。
【0143】
マウス1匹につき9〜11個のリンパ節を採取し、腫瘍領域を排水したすべての節が採取できるようにした。リンパ節の転移の検出には現在2つの方法が使用されている。
【0144】
i)大きい臓器構造のルーチンのヘマトキシリンとエオシン染色
ii)癌胎児性抗原のような癌マーカーを使用する免疫組織化学
【0145】
転移検出の両方の方法が本試験では使用される。すべての市販のCEA抗体がヒト乳癌細胞と反応するわけではなく、従って我々は、5つの異なる抗体(ダコ(DAKO)、アマシャム(Amersham)、およびケーピーエル(KPL))の反応性を試験した。
【0146】
ヘマトキシリンとエオシン染色リンパ節は、ピー・アレン(P. Allen)博士(認定病理学者)が観察し、各節を、腫瘍細胞の存在について顕微鏡で観察した。CEA免疫染色リンパ節を顕微鏡で観察し、陽性に染色された節を数え、リンパ節転移が陽性であると見なした。
【0147】
腫瘍容量は、毛管測定により毎日または毎週モニターし、腫瘍容量は上記例8に記載のように計算した。
【0148】
5−FUの最も一般的な毒性作用は、胃腸管に対してであり、出血性腸炎や小腸穿孔が起きる(マーチンデール(Martindale)、1993)。消化管異常(例えば、下痢)についてマウスを毎日モニターし、より重症の毒性症状(例えば、体重減少)について毎週モニターした。体重減少は、腫瘍の重さを引いて求めた真の体重を計算してモニターし、これはシバモト(Shibamoto)ら、1996で引用された1g×腫瘍容量(cm3)として計算した。体重変化の証明のために、
[(体重(腫瘍以外)−治療の開始時の体重(腫瘍以外)]×100/(治療の開始時の体重(腫瘍以外))
により、マウスの体重を、治療の開始時に体重に対して標準化した。
【0149】
治療処方にかかわらず、下痢のような毎日の消化管異常は認められなかった。体重減少(腫瘍の重さを除く)を指標として使用して、各治療処方について純粋の消化管毒性を予測した。各マウスの死亡時に、体重の変化パーセントを既に記載されているように計算した。5−FU/HA群治療群と比較すると食塩水群、HA群、5−FU治療群では、標準化した体重に統計的に有意な差があった(図18)。5−FU/HA補助(アジュバント)療法を受けたマウスは、未治療群(これは、体重の真の増加は2%であった)と比較して治療の間に、16%の体重増加を示した(スチューデントt検定、p=0.025)。
【0150】
癌胎児性抗原(CEA)の免疫組織化学検出を古典的な診断的病理学と組合せると、リンパ節転移の優れた定量値を与えた。平均的なマウスは15〜19個のリンパ節を含有(ラムスズス(Lamszus)ら、1997)し、従ってこの試験では、約60〜70%のマウスのリンパ節を調べた。注意深く操作して、乳房の脂肪体と胸部領域を排水させたすべての節を取り出し調べた。表9Aに示すように、すべてのマウスはリンパ節の転移を示した。
【0151】
【表9】

【0152】
図19Aは、リンパ節関与(マウス当たりの転移節の数)の割合が、5−FU、5−FU/HAおよびHA治療により大きく影響を受けることを示し、食塩水群は、リンパ節関与の量が6倍増加した。再度HAは、治療的価値を有することを示した。
【0153】
試験の最後にマウスを解剖しながら、すべての組織を腫瘍結節について顕微鏡的かつ巨視的に観察した。HA/5−FUまたはHA治療を受けたマウスを除いて、新しい腫瘍が首の回りまたは原発性腫瘍に隣接する領域の脇の下部分に観察された。治療処方へのHAの取り込みは、図19Bに示すように新しい腫瘍形成を阻害した。
【0154】
治療法にかかわらず、全体的な生存率には有意差は無く(表9A)、すべての群が治療処方を完了した。
【0155】
5−FU治療に伴う大きな毒性は、骨髄の減少と以後の白血球の低下であるため、治療に関連する血液毒性を評価する必要があった。マウスを麻酔して、針とシリンジを使用して心臓または大きい血管から血液を採取した。マウス粘着性食塩水(M)中で血液の1/10希釈を作成し、これを血球計算計で計測して、白血球数を推定した。好中球、リンパ球、および赤血球を数えて、血球分画を行った。血球細胞亜集団の合計は、マウス血液について公表されているデータと比較して推定した。
【0156】
治療により臓器萎縮や肥大が誘導されなかったことを確認するために、死後に臓器を取り出し重量を測定した。各臓器の重さは、真の全体重の%として計算し、食塩水のみの群の臓器の重さと比較した(第1群)。
【0157】
例11 長期治療:6ヶ月処方
この試験はまだ継続しているが、有意なデータが作成されている。
【0158】
TDTは、腫瘍の大きさまたは細胞数が2倍になるのに要した時間(日数)であり、測定が簡単であり、概念的に臨床的な腫瘍挙動に容易に関連付けられる腫瘍増殖のパラメータである(シャックネイ(Shackney)ら、1978)。腫瘍の倍加時間をモニターすることにより、腫瘍の化学療法応答を評価することがしばしば可能である(ゆっくり増殖する腫瘍は、化学療法に対する応答が悪いため)(シャベル(Schabel)ら、1975)。
【0159】
各治療の腫瘍倍加時間を表9Bに示す。
【0160】
【表10】

【0161】
5−FU/HA治療と5−FU治療との間のTDTには有意差はなかった。6週間試験と同様に、HAの投与はまた、一次腫瘍に対して治療作用を示し、TDTは食塩水群の13±4日に対して26±1.75日であった。5−FUの24時間のHAの投与は、腫瘍増殖の遅延に関して5−FUの治療的価値に抵抗するようであった。
【0162】
腫瘍の大きさと容量は、腫瘍治療の応答と進行をモニターするのに有用なパラメータであるが、最終的には治療による細胞障害性作用を示さない。我々は、HA/5−FU治療がより多くの細胞を死滅させ細胞の位置を破壊したかどうかを確立しようとした。死滅している細胞は、病理的に以下の症状が現れる:
i)核の分解(アポトーシス)
ii)細胞の溶解(壊死)
【0163】
全腫瘍画像をMCIDコンピューターにスキャンして、全腫瘍領域を計算すると、死滅する細胞の数が定量された。断片化した核を有する細胞または溶解細胞の輪郭を描き、スキャンし、次にこれらの領域をデジタル化し、死滅する細胞の正確な領域を計算した。死滅細胞に帰因する腫瘍のパーセントは、以下により計算される:
(アポトーシスと壊死細胞の面積×100)/(全乳癌の面積)
【0164】
生きた細胞は、死滅中のまたは死滅した細胞より多くの水を有し、従って乾燥した腫瘍の大きさ対湿潤した腫瘍の大きさの比を計算することにより、生きた細胞対生きていない細胞の全面積を推定することができる。50℃で48時間乾燥の前後に腫瘍を二分し、半分を腫瘍の病理のために処理し、残りの半分の重さを測定した。湿潤した腫瘍塊のパーセントとして乾燥重量を以下により計算した:
(乾燥した腫瘍の重量×100)/(湿性乳癌の重量)
【0165】
全体的患者生存時間は、治療の開始後にマウスが生きた時間(日数または週数)として計算した。
【0166】
各治療の腫瘍の倍加時間を表9Aに示す。5−FU/HA治療と5−FU治療との間のTDTには有意差はなかった。しかしHAの投与は、一次腫瘍に対して治療作用を示し、TDTは食塩水群より有意に大きかった(p、0.05、多重比較Tukey検定)。5−FU前のHA24の投与は、腫瘍増殖の遅延に関して5−FUの治療的価値に抵抗するようであった。
【0167】
5−FUの引用された治療率は26%である(イナバ(Inaba)ら、1989)が、5−FUを投与されたマウスは「治療」されなかった。HA/5−FUを補助療法を受けた2匹のマウスは「治療」され、腫瘍は完全に壊死し、約12週間の治療後に脱落した。図20Bは、HAとHA/5−FUで治療を受けたマウスの小さい痂皮の特徴的な出現を示し、図20Cは、小さい面積の壊死の出現と以後の大きい面積の痂皮の形成を示す。このマウスのうちの1匹では、小さな結節が再増殖したが、第2のマウスは22週でもまだ腫瘍がなかった。図20Aから明らかなように、5−FUと食塩水を投与されたマウスは大きな腫瘍があり、このため最終的に腫瘍が大きいためマウスは死亡した(表9B)が、HA±5−FUを投与されたマウスは、特徴的な腫瘍の出現を示し、小さな壊死の後に痂皮が生成した。
【0168】
第22週に、5−FU/HAマウスの37.5%はまだ生きており、5−FU/HA補助療法のマウスの大きな死因は、体重減少と代謝性ストレスであった(表9B)。
【0169】
ヒト乳癌異種移植片を有するマウスにHA±5−FUを投与すると、全体の患者生存率には有意な差があるようである。24週間の試験の第22週に、生き残っている群は、図21に示すように5−FU/HA群とHA群のみであった。
【0170】
結論
5−FUターゲティングからのデータは、5−FUをHAとともに10、20および30分にHAとともに注入すると、腫瘍による5−FU取り込みはそれぞれ2.4倍、1.5倍および2倍増加し、5−FU取り込みの統計的に有意な上昇があった(表7)。これは、5−FUがHAにより腫瘍にターゲティングされていたことを示す。5−FUの腫瘍細胞へのHAターゲティングには2つの可能な機序がある:
【0171】
関連5−FUを含有するHAは受容体(CD44)に結合し、受容体介在エンドサイトーシスを介して内在化され、こうして腫瘍細胞中に薬物を放出する。
【0172】
HA分子メッシュは外部への拡散の障害として作用し、その結果HAが受容体(CD44とRHAMM)に結合した後、同伴された5−FUは、腫瘍細胞中に拡散することができる。HAマトリックスにより細胞の表面に維持されるが、5−FUは、通常は5−FUが下の細胞に移行するのに使用される能動輸送機序の利用性が向上している。
【0173】
HAの異化作用は、主にリンパ節(フレーザー(Fraser)ら、1988)と肝臓(ロウレン(Laurent)ら、1986)で起きる。HAは通常、肝臓(80〜90%)、腎臓(10%)、脾臓(0.1%)および骨髄(0.1%)で、受容体介在細胞取り込みと異化により血流から排除される(フレーザー(Fraser)ら、1983)。循環HAは、肝内皮細胞(LEC)受容体(エリクソン(Eriksson)ら、1983)とも呼ばれる代謝性受容体により取り込まれ、CD44受容体は、代謝ではなく細胞プロセスに関連したHA内在化に関与し、一方RHAMM受容体は、細胞の運動性にのみ関与しているようである。HAを5−FUと組合せると、高レベルの5−FUが、HAまたは5−FU代謝の部位にターゲティングされる。ターゲティング実験のデータ(表6)は、HAとともに投与すると肝臓への5−FUターゲティングに有意な上昇は無かったことを示す。肝臓へのターゲティングの上昇は観察されなかったため、肝臓上のLEC受容体は、CD44受容体と比較してHAに対する結合親和性が低いかも知れないことを示唆する。他の可能性は、肝臓細胞上に発現されるCD44アイソフォーム(スタメンコビック(stamenkovic)ら、1991)が、高い親和性でHAには結合しないことである。肝臓と同様に、他の代謝臓器である脾臓、骨髄およびリンパ節では、5−FUのターゲティングの上昇は観察されなかった。
【0174】
肝臓にターゲティングされた5−FUでは、10分以内に有意な1.8倍の上昇があった。他の4つの時点は、HA/5−FUを同時投与した時、腎臓による5−FU取り込みの有意な上昇は示さなかったが、一般的な傾向が起きており、HAとの投与により腎臓により多くの5−FUが送達された。体内から5−FUを除去する最終的排除の主要な経路は、尿排泄である。HAとの薬物の腎含量はほとんど増加しないようであるが、我々は、他の証拠から、HAは腎臓により取り込まれ迅速に異化され、その結果その滞留時間が短く、結合した薬物は尿中に迅速に放出されると考えている。
【0175】
胃、脳、肺および子宮のような組織では、1つ以上の時点で短期のターゲティングが認められる。母集団の試料数を増やすことを必要とし、これらの観察結果が真実かどうかを明確に示す、一貫した薬物動力学的パターンは得られていない。10〜30分で脳へのターゲティングが上昇する場合は、これは、HAが、薬物が血液脳関門を通過する能力を増強することに関連しているという(ネルソン(Nelson)とフォーク(Falk)、1994))以前の観察結果により説明される。
【0176】
HAとの投与で30分と1時間の時点で、5−FUレベルの有意な上昇があった。肺のマクロファージは高レベルのHA結合性CD44アイソフォーム(アンダーヒル(Underhill)ら、1993)を含有し、これがターゲティングの上昇の原因かも知れない。これは、肺癌の治療における治療的利点に関連している可能性があり、小および大細胞肺癌はCD44とRHAMMの過剰発現を有すると報告されている(ホースト(Horst)ら、1990)。
【0177】
HAを5−FUと同時注入した時、1時間と2時間の時点で心臓への5−FUのターゲティングが有意に低下した。5−FU投与は心臓毒性を引き起こすことがある(MIMS、1997)ため、5−FUのHAとの投与は、5−FUを単独で投与した時と比較して心臓への毒性の程度を減少させるかも知れない。
【0178】
HA/5−FU補助療法の治療効果を評価する時、長期と短期の治療プロトコールでいくつかの観察結果が一貫している。
【0179】
HA/5−FUまたはHA単独を投与されたマウスは、より多くのエネルギーを有し、体重を維持または増加するようであり、この観察結果は、6ヶ月試験でのHA/5−FUマウスの生存時間の増加により支持される。
【0180】
5−FU/HAまたはHAを投与されたマウスの腫瘍は、外部の壊死が出現し、2つの腫瘍が脱落した。
【0181】
5−FUへのHAの添加は、治療を6週間行った時、1次治療の容量への大きな作用はないようであったが、これは、腫瘍の血管が原因かも知れない。腫瘍は3つの領域からなる。5−FU有りおよび無しでHAを投与すると、これは腫瘍に達し、傷害された血管の大きなギャップ結合を介して、充分血管形成しかつ半壊死領域に入るであろう。HAの水を吸収する能力のために、これは細胞外液の腫瘍の壊死領域への流入を引き起こし、従って腫瘍の容量の増加を招き、腫瘍血管をさらに傷害する可能性がある。この仮説は、HA±5−FUで治療した腫瘍は、壊死と腫瘍細胞内液の洩れとをルーチンに示すという観察結果に一致する。壊死細胞対生存細胞の面積の計算と乾燥容量:湿潤容量の比の計算が完了すれば、この仮説を証明できるであろう。
【0182】
長期薬効試験は、図21に示すように、HA/5−FU治療を受けたマウスの生存率の上昇を示した。これらのマウスの平均腫瘍容量はまた、他の治療群と比較して低下しているようであった。また長期試験でも、HA/5−FU群の死因は主に代謝性ストレスであり、5−FU群の死因は、大きすぎる腫瘍のサイズによる非運動性であることが、認められた。HAのみのすべてのマウスは、毒性ではなく大きすぎる腫瘍のサイズによる非運動性によって死亡した。すなわちHAは、毒性作用は無いようであった。ターゲティング結果から、HAと5−FUを組合せて腫瘍に投与した時、5−FUのターゲティングの上昇が起きることがわかった(図12)。HA特異的受容体CD44とRHAMM(これは、腫瘍部位で多量に存在することが証明されている(クルティ(Culty)ら、1994;ワング(Wang)ら、1996))へのHAの結合を介して5−FUを腫瘍にターゲティングするHAの能力は、5−FUおよび他の細胞障害性薬剤とのHAの使用が、治療作用を有するのに充分な薬物が腫瘍に到達しないことの問題を克服するのを助ける可能性があることを反映しているかも知れない。また、短期試験において、5−FU/HAマウスは、すべての他の群と比較して体重の有意な上昇を示すことがわかった(図21)。従って腫瘍部位へのHAのターゲティング能力は、5−FUが他の臓器(例えば小腸)に行く量を減少させ、こうして5−FU療法に伴う副作用(特に、消化管毒性)を低下させるかも知れない。
【0183】
例1〜3に開示されたMTX/HA補助療法の以前の評価と比較して、我々は、表10に要約するように、明確な共通の結果と差を認めた。
【0184】
【表11】

【0185】
2つの試験の主要な差は、腫瘍の出発時の大きさであり、MTX/HA試験では平均腫瘍容量175.13mm3であったのに対して5−FU/HA試験では61.63mm3であった。腫瘍への粒子移動と腫瘍の大きさに対する患者の応答の動力学により、これは、TDT予測に関連して得られた異なる結果の原因かも知れない。
【0186】
例12 ヒアルロナンとの併用療法の治療効果
ヒトの一次(原発性)および転移性乳癌の最も一般的に使用される治療処方は、シクロホスファミド(Cyc)、MTXおよび55−FU(これは、28日サイクルの1日目と8日目に投与される)の併用化学療法である。併用療法(しばしばCMFと呼ばれる)は、通常6サイクル行われ、この時点で患者の状態が再評価される。CMF療法による抗腫瘍応答率は、約50%であると報告(ボナドンナ(Bonadonna)、1981;ボナドンナ(Bonadonna)、1988)されているが、この治療法は多くの副作用(例えば、疲労、吐き気、白血球減少、および嘔吐)を有する(ボナドンナ(Bonadonna)、1976;メイアロウィッツ(Meyerowitz)、1979)。MTXと5−FUの両方についての薬物送達ビヒクルとしてHAの使用がうまくいっているため、我々は、6週間と6ヶ月の治療処方でHA/CMF補助(アジュンバント)療法の治療効果と毒性を調べた。
【0187】
MTXと5−FUは、それぞれ上記例2と6に記載のように調製した。Cysのストック濃度は、1gの凍結乾燥薬物を1mlの注射用等級の発熱性物質不含蒸留水に溶解し、注射用等級の0.9%塩化ナトリウムで50mlとして調製した。ストック溶液を少量ずつアリコートし、使用するまで−20℃に保存した。
【0188】
CMF注射液は、薬物のストック溶液の適量を取って、以下の最終薬物濃度を得た:
30mg/kg 5−FU(ストック溶液:20mg/ml)
15mg/kg MTX(ストック溶液:24.5mg/ml)
26mg/kg Cyc(ストック溶液:20mg/ml)
12.5mg/kg HA(ストック溶液:10mg/ml)
【0189】
CMF/HA補助療法の治療効果と可能な毒性を確立するために、ヌードマウス中のヒト乳癌異種移植片を使用した。できるだけヒトの治療処方をシミュレートするために、マウスを長期薬効試験の6サイクル(6ヶ月)の治療、短期薬効試験の6サイクル(6週間)の治療を行った。マウスを、短期試験ではランダムに1群8匹の7群に分け、長期試験ではランダムに8匹の5群に分けた。
【0190】
マウスを、7日間処方の1日目と2日目に30mg/kg 5−FU;15mg/kg MTX;26mg/kg Cyc±12.5mg/kgで6週間治療するか、または28日処方の1日目と8日目に上記で6ヶ月治療した。対照群は食塩水、12.5mg/kg HAを投与したものか、または1日目に12.5mg/kg HAを投与され2日目にCMFを投与されたマウスである。治療の毒性についてマウスを毎日モニターし、腫瘍の大きさを毎日または毎週測定した(表11を参照)。
【0191】
【表12】

【0192】
表12aと12bに示すように、6週間試験では以下が観察された:
【0193】
1)HA(CMF/HA、HA次にCMFまたはHAのみ)を含有する治療処方を受けたマウスは、CMFのみの群より50%多い生存を示した。CMF治療群の平均生存期間は、40.4日であり、他のすべての群は42日であった。
【0194】
2)HAとCMFの組合せで治療したマウスはすべて、CMFのみまたはHAのみの組合せで治療したマウスに対して、有意な体重増加(t検定、p<0.001)を示し、健康の増強を示した(図22を参照)。
【0195】
3)食塩水で治療したマウスの腫瘍の倍加時間(治療対照群は無し)は他の治療群より有意に短い(t検定、p<0.001)が、他の治療群の間には統計的に有意な差はなかった(図23を参照)。
【0196】
4)原発性腫瘍の終点の容量について、CMF治療群とCMF/HA治療群の間で有意差(t検定、p=<0.001)があり、CMFは7/8匹のマウスで腫瘍の大きさが低下し、CMF/HAは一次腫瘍の大きさを3/8匹のマウスでのみ低下させた。
【0197】
5)マウスをHA±CMFで治療した時、治療毒性は認められなかったが、CMFのみで治療したマウスは、疲労、結膜炎、全身性の健康不良を示した。
【0198】
CMF/HAまたはHA治療を28日サイクルの1日目と8日目に行うと、以下が観察された:治療群の間で生存期間に有意差はなかった。
【0199】
1)治療群の間で体重増加に有意差はなかった。
2)HA±CMFを投与されたマウスの一次腫瘍は、小さい壊死と痂皮形成を示した。
3)一次腫瘍の治療において、単独物質としてのCMFは、食塩水やHA治療に対して治療効果を示さなかった。CMFにHAを加えると、有意に大きな(t検定、p=0.001)一次腫瘍が得られた。
【0200】
この試験から以下の結論が導かれる:
【0201】
1)HA/CMF補助療法の長期投与(6ヶ月)は、治療効果の上昇または治療副作用の低下を示さない。
2)HA/CMF補助療法の短期投与(6週間)は、単独治療としてのCMFの投与に対して多くの利点を示す。
3)有意な体重増加。
4)治療を完了するマウス数の50%の増加。
5)疲労、結膜炎、食欲減退のような副作用がなくなる。
6)HAを投与されたマウスは毒性症状を示さなかった。
【0202】
【表13】

【0203】
【表14】

【0204】
例13 化学療法薬とHAとの相互作用の性質のNMR研究
HAと化学療法薬との相互作用の性質を詳細に調べるために、1H核磁気共鳴(NMR)スペクトル法を使用した。酸化重水素(22O(99.96%))を、ケンブリッジアイソトープラボラトリーズ(Cambridge Isotope Laboratories))から得た。MTXは、ファールディングファーマシューチカルズ(Faulding Pharmaceuticals))から得て、5−FUとHAストック溶液は、既に記載されているように調製した。
【0205】
スペクトルは、


DRXスペクトル計を600MHzで運転してシールドした勾配ユニットで298Kで記録した。2D実験は、t1ディメンジョンで直交検出の時間比例相増加を使用して相感受性モードで記録した(マリオン(Marion)と


、1983)。2D実験は、混合時間120msのMLEV−17スピンロックシーケンス(バックス(Bax)とデービス(Davis)、1985)を使用するTOCSYシーケンス;混合時間250と400msのNOESY(クマール(Kumar)ら、1980)、および混合時間250msのROESYスペクトルを含んだ。プローブの温度較正は、エチレングリコールの化学シフトと比較して行った。すべての化学シフト(ppm)は、4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホネート(DSS、0ppm)のメチル共鳴を参照とした。
【0206】
NOESY、ROESYおよびTOCSY実験の水シグナルの溶媒抑制は、修飾ウォーターゲート(WATERGATE)シーケンス(ピオット(Piotto)ら、1992)を使用して行った(ここで、1msの2つの勾配パルスを二項3−9−19パルスの両側に適用した)。スペクトルは、F2で4096の複合データ点で6024Hzより上で、F1ディメンジョンの512の増分で、TOCSY実験では32スキャン/増分、NOESYでは80スキャンで、ルーチンに取った。静かに交換するNHプロトンは、16Kデータ点以上と32スキャンで取った一連の1次元(1D)スペクトルを取ることにより検出した。
【0207】
NMR拡散実験は、500MHzで運転する勾配制御ユニットのついた


AMXスペクトル計で取った。すべて実験は、298Kで16K以上の298Kデータ点と7575Hzで16または64スキャンで取った。拡散実験には、15.44G/cmの勾配強度を使用した。各拡散実験は、一連の12PFGLEDスペクトルから得られた(ここで、遅延(τ=20ms、Δ=50ms、T=30msおよびTe=14ms)、Gの大きさは一定に維持したが、フィールド勾配パルス(δ)の長さは、1msのステップで0.2msから最終スペクトルの12.2msまで増加させた)。
【0208】
すべてのスペクトルは、シリコングラフィックス(Silicon Graphics)インディゴ(Indigo)ワークステーションでXwinnmar(ブルーカー(Bruker))ソフトウェアを使用して処理した。2D実験のために、t1ディメンジョンは、ゼロ充填から2048の実際のデータ点までであり、90°相シフトサイン−ベルウィンドウ関数は、フーリエ変換の前に適用した。
【0209】
NMR実験は、HAを加えた時MTXの1H NMRスペクトル中の変化をモニターするように設計した。薬物MTXのスペクトルの特異的変化(ピークの広がりまたは移動)をモニターすることにより、どの薬物分子の領域がHAと相互作用(もしあれば)するかがわかる。図24は、H2Oに溶解したMTXの1H NMRスペクトルを示す。このスペクトルは、メソトレキセート中の水素の各基を容易に同定する。
【0210】
メソトレキセート
メソトレキセートは、ヒアルロナン分子と反応できる多くの官能基を有する。MTXの2,4−アミノ−プテリジン芳香環上の一級アミンは、ヒアルロナン分子上のカルボキシル基とイオン性結合を形成することができる。メソトレキセート上のアミン基とヒアルロナンの炭水化物環上のヒドロキシル基との水素結合が、もう1つの可能性である。MTXの疎水性芳香環と、折り畳まれたヒアルロナンポリマー上の疎水性パッチとの疎水性相互作用も可能である。これらの相互作用を図25に示す。
【0211】
メソトレキセートとHAとの間に特異的な相互作用があるかどうかという問題を解決するために、NMR実験を計画して、HAを添加した時のMTXの1H NMRスペクトルの変化をモニターした。図26は、600MHzと298Kでのヒアルロン酸の600MHzスペクトルを示す。
【0212】
図27は、MTX単独と、2nmole、10nmole、20nmoleおよび80nmoleと増加するHA(50kDa)を添加したMTXの298Kでの600MHz 1H NMRスペクトルである。これらのスペクトルは、MTX中のいずれのピークにも化学シフト位置の変化がないことを示す。HAを連続的に添加するとスペクトルに現れる追加のピークは、ヒアルロン酸による共鳴と完全に一致する。これらのスペクトルでMTXの共鳴のいずれにも化学シフト位置の変化が無いため、HA分子と相互作用しているMTX分子の特定の領域は無いようである。
【0213】
MTX上のNH基とHA上の酸性基との間で強い相互作用があるかどうかを決定する1つの方法は、NHプロトンの交換速度を測定することである。これらの水素は不安定であり、バルク溶媒と急速に交換することができる。しかし、もしこれらがHA分子との強い相互作用に関与しているなら、これらはバルク溶媒から防御され、その交換速度は低下するであろう。この実験では、MTXのアミン水素は、D2Oからの重水素と交換し、交換速度は、MTXとHAとの相互作用の強度の定量的推定値を与える。0.5%w/v Na2CO3(pH9)に溶解したMTXとHAの溶液に酸化重水素を添加して調製した溶液の1H NMR分析は、4分以内にMTXのすべてのアミン水素が、試料中の重水素と交換したことを示した。この結果は、MTX中のアミン水素が、バルク溶媒との交換から防御されていないことを示唆する。
【0214】
1H NMRスペクトルからアミン水素のピークが消失する理由は、重水素が水素とは大きく異なる共鳴周波数を有し、従って1H NMRスペクトルには現れないためである。類似の実験をルーチンに使用して、ポリペプチドやタンパク質中の骨格アミド水素が溶媒から防御されるかどうかを試験する。タンパク質のアミド水素が、αらせんおよびβシート2次構造を安定化する水素結合に関与する時、これらの水素の交換速度はしばしば劇的に低下する。ある場合にはこれらの相互作用に関与する水素シグナルは、その相互作用とバルク溶媒(例えば、タンパク質の疎水性コア中)からの防御の強さに依存して数時間、数日またはさらには数ヶ月続く場合もある。
【0215】
MTX単独およびHAの存在下で、拡散実験を行った。これらの実験は、捕捉されたMTXの拡散がHAフレームワークの存在により遅延するかどうかを示すであろう。二重測定の1H NMR拡散実験の結果は、MTXとHA存在下のMTXとの拡散係数の間の差は無視できるものであったため、大多数のMTX分子について、MTX拡散速度の遅延が無いことを示した。この知見は、HAフレームワークにおいて、HA分子中に大きな溶媒空洞があり、これが薬物が媒体中を自由に拡散することを可能にすることを示唆する。
【0216】
拡散実験は、MTX分子のバルクは、HAフレームワークを通して自由に拡散することを示唆した。このシナリオは、わずかな割合(例えばMTX分子の5%)が非特異的にHA分子と弱く相互作用しているかどうかを考慮していない。
【0217】
上記実験から、MTXはHAとは強く相互作用せず、その相互作用はもしあったとしても特異的ではないことが明らかである。非特異結合について弱く結合するリガンド(10-3〜10-7M)を試験する1つの方法は、移動NOESY実験を行うことである。これらの2D実験では、リガンドが巨大分子HAに弱く結合するなら、交差ピークが現れる。MTX/HAの移動NOESYスペクトルは、MTXのHAへの結合による交差ピークは示さず、MTXとHAとの相互作用は無視できるものであることを示唆する。
【0218】
わずかな割合(例えばMTX分子の5%)がHA分子に非特異的に弱く相互作用するかどうかのさらなるチェックとして。ROESYスペクトルのピークは、遊離状態およびHAへの結合状態の間の化学的交換において、MTX分子のわずかな割合があるかどうかを示す。250msのROESYスペクトルは、化学交換ピークを示さず、わずかな割合のMTXさえもHAと相互作用しないことを示唆する。
【0219】
5−フルオロウラシル
図28は、298Kでの70.0と8.5ppmの間の、5−FUと、HA(750kDa、3mg/ml)と一緒の5−FU(1.25mg/ml、1.6mg/mlおよび6.4mg/ml)の600MHz 1H NMRスペクトルを示す。相互作用があるかどうかを調べる最初の実験は、50Kdaヒアルロン酸を用いて行った。5−FUとHAとの間に相互作用は観察されなかった(データは示していない)。相互作用が、使用したHAの分子量に依存するかどうかを調べるために、750kDaヒアルロナンを用いてさらに力価測定実験を行った。使用した5−FUの濃度は、スエーデン臨床的治験の準備のために行われたHA/5−FU補助療法キングズカレッジロンドン製剤研究と同様であった。これらの濃度は、HA/5−FUの混合、注入バッグ中、および血漿中で予測されるHA/5−FU濃度で使用される濃度をシニュレートするように計画した。残念ながら、5−フルオロウラシルのアミン共鳴は、これらの製剤のpH(8.8〜9.1)でバルク溶媒の水と急速に交換し、従ってこれらの共鳴は5−FUのスペクトル中には見えない。Cの1つの共鳴のみが、5−FUのスペクトルに見える。これらの溶液のpHを低下させることは、低いpH値では溶液から5−FUが沈殿するため、現実的ではない。これらのスペクトルは、5−FUのCピークの化学シフト位置に変化が無いことを示す。これらのスペクトルは、5−FUがHA分子とは相互作用しないらしいことを示す。
【0220】
拡散実験は、5−FU単独およびHAの存在下で行った。表13の二重測定の1H NMR拡散実験の結果は、5−FU単独とHAの存在下での5−FUの拡散係数の差は無視できるものであるため、5−FU拡散がヒアルロナンの存在により遅延されないことを示す。
【0221】
【表15】


2D実験、NOESYとROESY:その1H NMRスペクトル中に1つの共鳴のみしか存在しないため、5−FU上の2D実験は不可能である。
【0222】
MTXについて力価測定実験、重水素交換実験、拡散実験および移動NOESY実験と、5−FUについて力価測定実験と拡散実験を使用して、ヒアルロナンの存在下でのMTXと5−FUのNMR分析を行うと、化学療法薬物とヒアルロナンとの間で相互作用は検出されなかった。これらの結果は、ヒアルロナンネットワークによる化学療法薬物の捕捉は、病原性の部位に送達される薬物の量を上昇させるのに充分であることを示唆する。これらの結果は、ゲルろ過クロマトグラフィー、平衡透析、およびヒアルロナンとMTXおよび5−FUとの分子相互作用のCDスペクトル法(これらも相互作用を検出しなかった)を使用した従来の研究と完全に一致する。
【0223】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞傷害性または抗新生物薬物に対する取得したまたは固有の細胞抵抗性を減弱または克服する方法において、それを必要とする患者に、上記薬物の有効量をヒアルロナンとともに全身的に共投与する工程からなり、上記薬物はその薬物単独の同量に比べて細胞傷害的にまたは抗新生物的により有効である方法。
【請求項2】
上記薬物はメトトレキセート、パクリタキセル(タキソール)、5-フルオロウラシルおよびシクロホスファミドまたはそれらの配合物からなる群より選択される「請求項1」記載の方法。
【請求項3】
上記薬物はヒアルロナンと、薬物が上記ヒアルロナンにより同伴および/または結合されるように配合される「請求項2」記載の方法。
【請求項4】
上記の配合された薬物およびヒアルロナンは抵抗性細胞上の受容体に結合できる「請求項3」記載の方法。
【請求項5】
上記の配合された薬物およびヒアルロナンは、バルクエンドサイトーシスを介して抵抗性細胞内に進入することが可能であり、同薬物は細胞内に送達され、それによりそれが治療的に活性になる「請求項3」記載の方法。
【請求項6】
取得したまたは固有の細胞抵抗性は薬物抵抗性疾患と関連する「請求項1」記載の方法。
【請求項7】
薬物抵抗性疾患は薬物抵抗性癌である「請求項6」記載の方法。
【請求項8】
薬物の胃腸管毒性を低下させる方法において、それを必要とする患者に有効量の上記薬物をヒアルロナンとともに全身的に共投与する工程からなり、上記薬物単独の同量に比較して上記薬物は低下した胃腸管毒性を有する方法。
【請求項9】
細胞傷害性または抗新生物薬物に対する取得したまたは固有の細胞抵抗性を減弱または克服するための医薬組成物において、
分子量700,000ダルトンより大きいヒアルロナン、および細胞傷害性または抗新生物薬物からなり、
上記組成物はそれを必要とする患者に全身的に投与され、上記薬物単独に比較して細胞傷害的にまたは抗新生物的により有効であり、
ただし薬物がパクリタキセルである場合にはヒアルロナンの分子量は750,000ダルトンより大きい医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−178802(P2011−178802A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104334(P2011−104334)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【分割の表示】特願2000−593339(P2000−593339)の分割
【原出願日】平成12年1月6日(2000.1.6)
【出願人】(501274654)アルケミア オンコロジー ピーティワイ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】