説明

薬物の徐放のための錠剤

薬物の粉末、薬物に対する徐放マトリックスの粉末、および少なくとも1の電解質の粉末を含む少なくとも3の乾燥粉末の圧縮混合により作られる、薬物の経口投与のための薬学的な徐放錠について開示する。前記徐放マトリックスは、架橋結合していない高アミロースデンプンからなり、前記高アミロースは、少なくとも1のカルボキシル基を含んでなる少なくとも1の有機的な置換基により置換される。前記有機的な置換基は、好ましくは、2〜4の炭素原子を有するカルボキシアルキル、その塩、またはそれらの混合物である。前記錠剤は、改善された保全性を有するという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、徐放性の剤形に関する。さらに本発明は、親水性の錠剤の保全性を維持する医薬製剤であって、錠剤中に含まれる薬物の徐放性のためのマトリックスとして置換アミロースを含んでなる医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の徐放システムおよびその特徴
数年間、薬物投与の特性に対しての注目が増大し、薬物の徐放を可能にする新たな医薬剤形の開発へと導いている。
【0003】
薬物の徐放のために使用することができる多数の経口的な剤形の中で、錠剤は、それらの効率の良い製造技術のために医薬産業において主流である。
【0004】
薬物およびポリマーの混合物の直接的な圧縮により得られるマトリックス錠が、活性成分の徐放を経口的に達成するための最も単純な方法であってよい。もちろん、これらの錠剤は、製造工程、それに続く取扱いおよび包装規格に適合するように、良好な機械的特性(例えば、錠剤の硬さおよび破砕に対する耐性)も示すべきである。
【0005】
さらに、マトリックスポリマーは、容易に得られ、生体適合性且つ無毒であるべきであり、生分解性の合成ポリマーは、分解産物の吸収の後に毒性が表れるという不利益を有する可能性があることに注意すべきである。
【0006】
多糖類マトリックス
薬物の徐放のためのマトリックスである限り、いくつかの型のポリマーが提案されてきた。親水性マトリックスにおいて使用されるそのようなポリマーの例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース誘導体、グアーガムまたはアルギナート(alginate)誘導体のような非セルロース性多糖類、カルボポール(Carbopol:登録商標) のようなアクリル酸ポリマーである[Buri P. and Doelker E., Pharm. Acta Helv., 55, 189-197 (1980)]。ポリ(ビニルピロリドン)も、上述したポリマーに加えて提案されている[Lapidus H. and Lordi N.G., J. Pharm. Sci., 57, 1292-1301 (1968)]。例えばエチルセルロースまたはポリビニルクロリドのような他のポリマーは、不活性なマトリックス中に配置されてきた[Salomon J.-L. and Doelker E., Pharm. Acta Helv., 55, 174-182 (1980)]。
【0007】
錠剤に対する多糖類の生分解性マトリックスは、デンプンのような天然産物の分解はヒトの体内で自然に起こるので興味の対象となる[Kost J. et al., Biomaterials, 11, 695-698 (1990)]。
【0008】
デンプンは、2つの異なる部分で構成される:(1)アミロース;約4,000のグルコース単位を含有する分岐していない部分、および(2)アミロペクチン;約100,000のグルコース単位を含有する分岐した部分[Biliaderis C., Can. J. Physiol. Pharmacol., 69, 60-78 (1991)]。
【0009】
修飾されていない、修飾された、誘導体化された、および架橋結合したデンプンが、錠剤中の結合剤、崩壊剤、または充填剤として提案されてきたが[Short et al., 米国特許第3,622,677号および4,072,535号; Trubiano, 米国特許第4,369,308号; McKee, 米国特許第3,034,911号]、徐放性については述べられていない。それ故、本発明について考慮する場合、これらの特許は関連しない。
【0010】
いくつかの研究では、薬物の徐放のために物理的および/または化学的に修飾されたデンプンの使用について開示している。これらの論文の著者は、通常の型のデンプン、すなわちアミロースの含量が少ないものについて示しており、アミロースの役割についてもアミロース自体についても言及していない[Nakano M. et al., Chem. Pharm. Bull., 35, 4346-4350 (1987); Van Aerde P. et al., Int. J. Pharm., 45, 145-152 (1988)]。いくつかの研究では、薬物の徐放錠において使用される熱的に修飾されたデンプン中のアミロースの存在は負の役割であるとさえしている[Hermann J. et al., Int. J. Pharm., 56, 51-63 & 65-70 (1989) and Int. J. Pharm., 63, 201-205 (1990)]。
【0011】
医薬製剤に対するアミロースの物理的修飾についても開示されている:結合-崩壊剤としての非顆粒性アミロース[Nichols et al., 米国特許第3,490,742号]、大腸でコーティングが酵素分解されることによる遅延放出型の経口的な組成物に対するコーティングとしてのガラス質アミロース[Alwood et al., 米国特許第5,108,758号]。これらの特許は、薬物の徐放のためのマトリックス賦形剤としての置換アミロースに関するものではなく、従って、本発明に関連するものではない。
【0012】
Wai-Chiu C. et al. [Wai-Chiu et al., 米国特許第5,468,286号]は、錠剤、ペレット、カプセル、または顆粒の製造において有用なデンプンの結合剤および/または賦形剤について開示している。前記錠剤賦形剤は、α-1,6-D-グルカノヒドロラーゼを用いてデンプンを酵素的に脱分枝し、少なくとも20重量%の「短鎖アミロース」を産生することにより調製される。この賦形剤に対して、徐放性の性質については主張されていない。さらに、デンプン(修飾されていない、修飾された、または架橋結合した)は、α-1,6-D-グルカノヒドロラーゼで酵素的に処理することにより脱分枝し、いわゆる「短鎖アミロース」を産生するべきである。それ故、アミロペクチンの含量が高いデンプンが明らかに好ましく、アミロースは、分枝状でないため脱分枝が不可能であることから適切でないとして拒否される。アミロースの役割は、無視されるだけでなく、否定的に考えられる。
【0013】
この参考文献に関して、「短鎖アミロース」が存在しないことも強調されるべきである。本明細書および付属する特許請求の範囲において、「アミロース」という用語を用いる場合、α-1,4-D-グルコース結合により直線的な配列で結合した、250より多いグルコース単位(ほとんどの科学文献によると1,000〜5,000)からなる長鎖を有するアミロースのみを指す。これは、20〜25のグルコース単位の短鎖とは全く異なる。従って、この研究は、置換アミロースのマトリックス錠の保全性を維持するための特別な医薬製剤に関する本発明とは無関係である。
【0014】
いくつかの特許は、薬物の徐放のため、またはある一定の場合には結合剤−崩壊剤として、架橋結合したアミロースを錠剤中に使用することに関するものである[Mateescu et al., 米国特許第5,456,921号; Mateescu et al., 米国特許第5,603,956号; Cartilier et al., 米国特許第5,616,343号; Dumoulin et al., 米国特許第5,807,575号; Chouinard et al., 米国特許第5,885,615号; Cremer et al., 米国特許第6,238,698号]。
【0015】
Lenaerts V. et al. [米国特許第6,284,273号]は、アミラーゼに対する耐性を与えられた架橋結合した高アミロースデンプンについて開示している。そのようなアミラーゼ耐性デンプンは、高アミロースデンプンとポリオールとを共架橋結合することにより得られる。高アミロースデンプンの架橋結合の前に、徐放のための高アミロースデンプンに対する添加剤として使用することができる適切な薬剤には、限定するものではないが、ポリビニルアルコール、β-(1-3)キシラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、およびグアーガムが含まれる。
【0016】
Lenaerts V. et al. [米国特許第6,419,957号]は、薬物の緩徐な放出のためのマトリックスとして、官能基を有する架橋結合した高アミロースデンプンが開示されている。このマトリックス錠の賦形剤は、以下のステップを含んでなる方法により調製される:(a)高アミロースデンプンを、高アミロースデンプン100g当り約0.1g〜約40gの架橋結合剤の濃度で架橋結合される架橋結合剤と反応させ、架橋結合したアミロースを得ることと、(b)架橋結合した高アミロースデンプンを、架橋結合したアミロース100g当り約75g〜約250gの官能基-結合試薬の濃度で官能基-結合試薬と反応させ、官能基を有する架橋結合したアミロースを得ること。
【0017】
Lenaerts V. et al. [米国特許第6,607,748号]は、徐放性の医薬製剤において使用するための架橋結合した高アミロースデンプンおよび製造方法について開示する。そのような架橋結合した高アミロースデンプンは、(a)高アミロースデンプンの架橋結合および化学的修飾、(b)ゲル化、および(c)前記徐放性の賦形剤の粉末を得るための乾燥により調製される。
【0018】
これらの特許全ては、架橋結合したアミロースおよびその変種についてのみ開示しており、本発明で使用される直線的に置換されたアミロースとは区別される。
【0019】
上記で既に述べたように、カルボキシメチルデンプンは、錠剤崩壊剤として開示されている[McKee, 米国特許第3,034,911号]。これは、この特許において使用されまたは開示されている全てのデンプンは低いレベルのアミロースを含有すると説明することができ、今日では、薬物の徐放性の性質を得るためには高アミロース含量であることが不可欠な特徴であるということが既知である[Cartilier et al., 米国特許第5,879,707号, Substituted amylose as a matrix for sustained drug release]。
【0020】
例えば、Mehta A. et al. [米国特許第4,904,476号]は、崩壊剤としてナトリウムデンプングリコラートの使用についても開示している。この特許は、高アミロースデンプンについて考えている本発明とは反対に、低い含量のアミロースを含むカルボキシメチルデンプンのみについて考えており、徐放システムとは反対の崩壊剤についても開示している。
【0021】
Staniforth J. et al. [米国特許第5,004,614号]は、分配の間、環境的な液体の入口に対して実質的に不浸透性であり、活性薬物の出口に対して実質的に不浸透性であり、薬物放出のための開口部を有するコーティングを用いた徐放機構について開示している。架橋結合したまたは架橋結合していないカルボキシメチルデンプンのナトリウム塩は、コーティングのための他の物質の中で提案されている。
【0022】
ここで述べられているコーティングされた徐放システムは、構造的な側面および含まれる放出メカニズムを考えた場合、マトリックス錠とは全く異なるものである。また、コーティングを通る開口部の必要不可欠な存在は、本発明とは異なる。さらに、本発明で述べられている親水性のマトリックスシステムは、水性の環境に対して不浸透性であるコーティングを必要とする米国特許第5,004,614とは反対に、錠剤に水が浸透することを必然的に伴う。最後に、本発明の必要不可欠な特徴である高アミロース含量であることの必要性については何ら言及されていない。
【0023】
Cartilier L. et al. [米国特許第5,879,707号]は、経口投与のための薬学的な徐放錠であって、少なくとも1の薬学的な薬物の粉末および薬物に対する徐放マトリックスの粉末を含む、少なくとも2の乾燥粉末の圧縮混合からなる錠剤について開示している。前記徐放マトリックスは、塩基性の媒質中で、アミロース分子のヒドロキシル基と機能的に反応する少なくとも1の有機的な置換基をアミロースと反応させることにより調製される、非結晶性の、架橋結合していない、置換されたアミロースから本質的になる。
【発明の概要】
【0024】
置換アミロースは、薬物徐放性の親水性マトリックス錠を直接的な圧縮により調製するための興味深い賦形剤であるということが既知である。
【0025】
消化管に沿って移動している経口的な医薬製剤の周りの環境のpH変化を模擬したpH変化を起こす媒質中に浸した場合、少なくとも1のカルボキシル基を含んでなる有機的な基で置換された高アミロースデンプンは電解質と好都合に結合し、膨潤した親水性のマトリックス錠の保全性を維持することが見出された。
【0026】
電解質の非存在下において、そのような膨潤した錠剤は、錠剤を内的ストレスから開放するために錠剤の亀裂および/または部分的もしくは完全な分離を生じ、通常の且つ安全な治療的使用ができなくなる。驚くべきことに、電解質の添加は、膨潤したマトリックス構造の完全な安定化を提供するか、または少なくとも上述した問題の出現を有意に遅延させ、それらの程度を低下させる。
【0027】
特に、電解質の添加により、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠を有利に改善できることが見出された。そのような添加は、膨潤したマトリックス錠の保全性を維持することを可能にする一方で、注目すべき近似直線の放出プロファイルを有する薬物の徐放および持続性の放出を可能にする。
【0028】
本発明の第1の目的は、少なくとも1の薬物の経口投与のための改善された保全性を有する薬学的な徐放錠を提供することであり、前記錠剤は、
前記少なくとも1の薬物の粉末、
前記薬物に対する徐放マトリックスの粉末、および
少なくとも1の電解質
を含む少なくとも3つの乾燥粉末の圧縮混合からなり、前記徐放マトリックスは、架橋結合していない高アミロースデンプンからなり、前記高アミロースは、少なくとも1のカルボキシル基を含んでなる少なくとも1の有機的な置換基により置換される。
【0029】
好ましくは、前記高アミロースデンプンは、2〜4の炭素原子を含むカルボキシアルキル、このカルボキシアルキルの塩、またはそれらの混合物である少なくとも1の有機的な置換基により置換される。より好ましくは、前記有機的な置換基は、カルボキシメチル、カルボキシメチルナトリウム、またはそれらの混合物である。
【0030】
好ましくは、置換アミロースデンプンの置換度は、高アミロースデンプンkg当りの前記少なくとも1の有機的な置換基のモル数の割合として表した場合、0.1以上である。より好ましくは、前記置換度は0.1〜0.4の範囲である。
【0031】
本発明により使用される電解質は、乾燥粉末の形態または乾燥粉末に吸着された液体の形態であってよい。
【0032】
好ましくは、前記電解質は、低分子量の電解質からなり、強酸または弱酸、強塩基または弱塩基、および強電解質または弱電解質である塩から選択されてよい。それらは、緩衝液からなってもよい。
【0033】
好ましくは、前記電解質は、弱い有機塩基および弱い有機酸から選択されてもよい。より好ましくは、それらは塩からなる。
強電解質は、弱電解質より好ましい。
【0034】
本発明において使用することができる最も好ましい電解質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸、塩酸アルギニン、尿素、リン酸水素ナトリウム、およびリン酸二ナトリウムである。
【0035】
錠剤中に存在する薬物は、極めて溶けやすい〜極めて溶けにくいという範囲の溶解性であってよい。それは、塩、遊離塩基、または遊離酸のような薬学的に適した形態であってよい。本発明の錠剤には、1より多い薬物が含まれてもよい。
【0036】
本発明による錠剤には、医薬の領域で通常使用されるような少なくとも1の他の賦形剤が含まれてもよい。例として、前記賦形剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、着色剤、酸化防止剤、および/または充填剤からなってよい。
【0037】
驚くべきことに、極めて溶けやすいイオン性の薬物を含有する高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠は、放出速度およびマトリックスの保全性に関して優れた性能を示し、特に、その薬物を高濃度で含む場合に優れている。この場合において、前記薬物は電解質としても作用する。
【0038】
本発明のもう1つの目的は、少なくとも1の薬物の経口投与のための改善された保全性を有する薬学的な徐放錠であって、少なくとも以下の2つの乾燥粉末の加圧混合からなる錠剤を提供することである:
前記少なくとも1の薬物の粉末、および
薬物に対する徐放性マトリックスの粉末;
前記薬物は、錠剤の全重量の少なくとも20重量%を示す極めて溶けやすいイオン性の薬物であり、前記徐放性マトリックスは、架橋結合していない高アミロースデンプンからなり、前記高アミロースはカルボキシメチル、カルボキシメチルナトリウム、およびそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1の有機的な置換基により置換され、前記置換されたアミロースデンプンは、高アミロースデンプンkg当りのカルボキシメチル置換基のモル数の割合として表した場合、0.1以上の置換度を有する。
【0039】
好ましくは、前記置換されたアミロースデンプンの置換度は0.1〜0.4の範囲である。
【0040】
本発明のこのもう1つの目的による錠剤には、少なくとも1の他の賦形剤が含まれてもよい。適した賦形剤は、医薬の領域で周知の賦形剤であり、限定するものではないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、着色剤、酸化防止剤、および充填剤が含まれる。
【0041】
本発明およびその利点は、添付した図面を参照して、以下の非限定的な詳細な説明および実施例を読むことでより理解されるであろう。
【発明の詳細な説明】
【0042】
予備的な考察
Cartilier L. et al. [米国特許第5,879,707号]は、経口投与のための薬学的な徐放錠であって、少なくとも1の薬学的な薬物の粉末および前記薬物に対する徐放マトリックスの粉末を含む、少なくとも2の乾燥粉末の圧縮混合からなる錠剤について開示している。前記徐放マトリックスは、本質的に、アミロース分子のヒドロキシル基と反応する官能基を有する少なくとも1の有機的な置換基とアミロースを塩基性媒質中で反応させることにより調製される、非結晶性であり、架橋結合しておらず、置換されたアミロースからなる。典型的な置換アミロースの錠剤は、水中で膨潤するが、膨潤した状態における驚くほど高い機械的な強度において、慣習的な膨潤可能な親水性マトリックスとは異なる。結果として、例えば消化管への投与の後のように機械的なストレスが生じた後でさえ、崩壊しない錠剤を製造することが可能となる。本発明の種々の側面は、以下の科学文献にも記載されている[Chebli C. and Cartilier L., J. Pharm. Belg., 54(2), 51-53 & 54-56 (1999); Chebli C. et al., Pharm. Res., 16(9), 1436-1440 (1999); Chebli C. and Cartilier L., Int. J. Pharm., 193(02), 167-173 (2000); Chebli C. et al., Int. J. Pharm., 222(2), 183-189 (2001), Cartilier L. et al., Proceedings of ISAB-2005, page 102, 3rd International Symposium on Advanced Biomaterials/Biomechanics, April 3-6, 2005]。
【0043】
しかしながら、米国特許第5,879,707号において開示されている発明について、いくつか意見を述べることができる:
−上述した参考文献において提供される実施例および実験結果の全ては、非イオン性の置換アミロースポリマーの使用について示すが、米国特許第5,879,707号は非イオン性の置換基に限定せず、親水性マトリックスを酵素分解から保護するためにカルボキシル基(-COOH)を結合させる可能性について述べる。
【0044】
−インビトロでの薬物放出試験は、一定のpH(pH=7.34)に維持された水性媒質中で行われた。置換アミロースポリマーが非イオン性であるので、ゲル化の性質はpH非依存性であり、それ故、消化管のpH変化を模擬するpH勾配における放出試験を行う必要がなかった。
【0045】
−また、好ましくは、前記置換アミロースの置換基とアミロースの割合(アミロースkg当りの置換基のモルで表す)は、0.4以上である。より好ましくは、0.4〜7.0の範囲である。
【0046】
−さらに、錠剤中に使用される薬学的な薬物が極めて溶けにくい場合、そのような薬物の粉末は錠剤の80重量%まで存在してよい。しかしながら、前記薬学的な薬物が高い溶解性を有する場合、そのような薬物の粉末は、錠剤の40重量%を超えるべきでない。さらに、溶けやすい薬物であるサリチル酸ナトリウムについて得られた結果は(実施例5および図16を参照されたい)、薬物を10%含有する400mgの錠剤について薬物の95%が放出される時間は6.5時間であり、徐放を示すが、持続性の放出という点においては不十分な結果である。
【0047】
一方、カルボキシメチルデンプン、すなわち少ない量のアミロースを含有しており、且つクロロ酢酸またはクロロ酢酸ナトリウムと反応したデンプンは、即時放出型の錠剤において崩壊剤として使用され、それらの迅速な崩壊および水性環境中に分散した活性成分の引き続く迅速な溶解を促進する[Bolhuis G.K. et al., Drug Develop. Ind. Pharm. 12(4), 621-630 (1986); Bolhuis G.K et al., Acta Pharm. Tech., 30(1), 242-32 (1984)]。そのような製品は、商標エクスプロタブ(Explotab:登録商標)で商業化されている。それは、活性成分をゆっくりと放出するために剤形の保全性を保持しようとする親水性マトリックスシステムとは逆のことを目的としている。侵食可能なマトリックスはまさに特別な場合であり、物理的および/または化学的なマトリックス分解が進行的であり、活性成分の徐放を可能にするように制御される。
【0048】
低アミロースカルボキシメチルデンプンは何十年もの間患者に与えられており、それ故その安全性が証明されているので、カルボキシメチルデンプンが崩壊剤として使用される事実にもかかわらず、カルボキシメチルアミロース、より正確には高アミロースカルボキシメチルデンプンの徐放性の性質を評価することに関心を持つであろう。また、カルボキシメチルアミロースは経口的な薬物の徐放に対して使用することができるイオン性ポリマーであるため、インビトロ放出試験において、消化管で生じるpH変化を考慮する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0049】
米国特許第5,879,707号に従って、高アミロースカルボキシメチルデンプンおよび薬物を含んでなるマトリックス錠が得られ、それらの放出の特性について試験されている。それらの放出の特性は、消化管に沿って移動する間の錠剤環境のpH変化を模擬したpH勾配、すなわち強酸性から中程度のアルカリ性の環境においても評価されている。
【0050】
クロロ酢酸またはクロロ酢酸ナトリウムとのエステル化反応により置換された高アミロースデンプンを含有するマトリックス錠は、中程度のアルカリ性媒質、すなわちpH=7.4の水溶液中で良好な薬物の徐放の性質を示した。驚くべきことに、pH=7.4の水溶液中に浸された場合における最もよい徐放性の性質および応力に対するよい機械的耐性により選択された錠剤は、pH勾配を用いて評価した場合、亀裂を生じるか、中心でゆるく結合した2つの部分に分離するか、またはいくつかの部分に分裂さえした。それらが浸された水性媒質が何であろうと、非常に低い置換度の高アミロースカルボキシメチルデンプンを含有するいくつかの錠剤には同じ問題がある。
【0051】
このような錠剤の不十分な機械的挙動は、それらの正常な治療的使用を不可能にする。実際に、胃が激しく動いて著しい物理的な力が製剤に働いた場合、錠剤が分解して別れる強い危険性があり、特に薬剤が溶けやすいかまたは極めて溶けやすい場合には、薬物放出の突発へと導き得る。さらに、乾燥または圧縮コーティング錠、二層または多層錠、およびジオメトリー(geometry)徐放錠のような場合、マトリックス錠の保全性は厳密に維持されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0052】
上述した参考文献で報告されている種々の置換アミロース錠の膨潤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのような通常の親水性マトリックスと比較した場合、中程度であると述べることができる。これは、非常に強固なゲルを含有する本発明の高アミロースカルボキシメチルデンプン錠について特に真実である。ゲルの硬性およびその密接したネットワークは錠剤への水の浸入を阻害するが、より重要なことは、マトリックス錠の外への溶解した薬物の拡散を強く減少させることである。結果として、薬物は溶解した状態で錠剤中に蓄積され、それ故内部の浸透圧が上昇し、最終的には亀裂および/または完全もしくは部分的な錠剤の分裂を生じ、錠剤内部の応力を除去しようとする。
【0053】
上述した課題を解決するための最も簡単な理論的なアプローチは、ポリマー濃度を減少させるために薬物濃度を増大させることであり、それによりゲルネットワークの堅さも減少する。実際に、錠剤の空隙率の増加によりゲルの弾性の欠如の問題を解決することが期待されるが、そのようなアプローチは失敗した。
【0054】
上述した課題を解決するための次の理論的なアプローチは、高アミロースカルボキシメチルデンプン錠の保全性を維持するために膨潤したポリマー(イオン性または非イオン性)を加えることであり、これらのポリマーはうまくいけば高アミロースカルボキシメチルデンプンと結合し、薬物の拡散を促進するためにより弾性があり、より密度の低いネットワークを形成することにより、マトリックス錠の内部の応力を除去する。同様の物質(高アミロース含量または低アミロース含量のα化デンプン、可溶性のデンプン誘導体)を加えることに基づくアプローチと同様、このアプローチも全体として失敗した。前記アプローチは薬物濃度を増大させることに似ている事実にもかかわらず、非イオン性の可溶性充填剤を加えることも試みたが、失敗することが証明された。最終的に、不溶性のイオン性充填剤も同様に失敗した。
【0055】
電解質を水に溶解した場合、溶質は溶液中ではイオンの形態で存在する。NaClまたはHClのような強電解質は、中程度の濃度の水溶液中でほぼ完全にイオンの形態で存在する。HCl、HNO3、H2SO4のような無機酸、アルカリ金属系のNaOHおよびKOHのような無機塩基、アルカリ土類金属のBa(OH)2およびCa(OH)2、およびほとんどの無機および有機塩は高度にイオン化され、強電解質の分類に属する。酢酸のような弱電解質については、分子およびイオンの間に平衡が存在する。ほとんどの有機酸および塩基、ならびにH3BO3およびNH4OHのようないくつかの無機化合物は、弱電解質の分類に属する。いくつかの塩および錯イオンでさえ弱電解質である[Martin A. et al., Physical Pharmacy, 1983a]。
【0056】
電解質の理論は、医薬の分野におけるいくつかの出願において見られる。有機的な薬物が溶解性に乏しい場合、薬物の水溶性を増大させるために、しばしばそれらの塩を合成する。また、電解質は注射溶液の張度を調節するために加えられ、それを等張性にする。浸透圧性のポンプは薬物送達機構の周知の型であり、塩の使用は推進力、すなわち浸透圧を発生させ、コアの周囲の半透膜中に開けられた穴を通して一定の薬物放出を可能にする[Martin A. et al., Physical Pharmacy, 1983b]。電解質は、浸透圧性の物質として使用されてよいが、非イオン性の物質も使用されてよい:「本発明において放出を修飾する物質として有用な浸透圧性の物質は、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸ナトリウム、ラクトース、グルコース、スクロース、マンニトール、尿素、ならびに当該分野で既知の多くの他の有機および無機化合物である」[米国特許第5,004,614号]。これは実際に、薬物放出を促進または加速する浸透圧性の物質の古典的な出願である。これらの出願は全て、電解質は一般的に高い溶解性を有すること、およびそれは水性媒質への溶解の結果として浸透圧を生じることによるという事実に基づく。
【0057】
電解質、典型的に塩化ナトリウムを高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス製剤に加えることは、理論上なされるべきこととは反対である。実際に、塩化ナトリウムは、より多くの水をより速く錠剤の内部へ取り込むことにより内部の浸透圧を上昇させ、錠剤に亀裂を生じさせ、中心でゆるく結合した2つの部分に分裂させるかまたはいくつかの部分に破裂させ、これらは前記電解質が存在しない場合よりも早く、且つ高いレベルであるべきである。驚くべきことに、電解質の添加は、膨潤したマトリックス構造の完全な安定化を提供し、少なくとも有意に、上述した問題の出現を遅延させ、および/またはそれらの強度を減少させるため、経口的な薬物送達において使用することができる。それにもかかわらず、強電解質は、弱有機酸および塩基のような弱電解質よりも好ましい。
【0058】
驚くべきことに、塩酸プソイドエフェドリンのような極めて溶けやすいイオン性の薬物を含有する高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠は、特に高濃度の薬物を含有する場合に、放出速度およびマトリックスの保全性に関して優れた挙動を示した。極めて溶けやすいイオン性の薬物の場合、低い濃度で薬物を含有する製剤が要求される時に、現在通用しているラクトースのような充填剤を電解質で少なくとも部分的に置換することが有用であろう。
【0059】
本発明による薬学的な徐放錠は、少なくとも薬学的な薬物の粉末、少なくとも徐放マトリックスとして使用される高アミロースカルボキシメチルデンプンの粉末、および電解質を含む乾燥粉末の混合を、既知の方法で圧縮することにより調製される。望む場合、前記錠剤には少量の滑沢剤、および1以上の充填剤が粉末の形態で含まれてもよい。望む場合、2以上の薬物の混合物が、1つの薬物の代わりに使用されてよい。一般的に通常の方法であって、限定するものではないが、粉末の混合、乾式または湿式造粒を含む方法により、前記薬物および他の成分が混合された場合、結果として生じる混合物は圧縮されて錠剤を形成する。そのような錠剤を調製する方法は当該分野において周知であり、これ以上述べる必要はない。本発明による薬学的な徐放錠は、例えば直接圧縮により調製された乾燥被膜型であってもよい。もう一度言うと、乾燥被膜錠を調製する方法は周知であるため、これ以上述べる必要はない。
【実施例】
【0060】
実施例1
マトリックス錠の調製
経口投与のための薬学的な徐放性の錠剤に関する本発明について考えると、本質的に、少なくとも3つの乾燥粉末の圧縮混合からなり、前記乾燥粉末には、少なくとも1の薬学的な薬物の粉末、前記薬物に対する徐放マトリックスの粉末、および少なくとも1の電解質の粉末が含まれ、前記マトリックス錠の調製については上記で説明した。マトリックス製剤中に使用される薬物、高アミロース置換デンプン、電解質、および種々の賦形剤は、錠剤の調製方法としてここに記載されている。
【0061】
本発明の利点を説明するために、膨潤したマトリックス錠の保全性の評価または放出プロファイルの研究に対するモデルとして種々の薬物が選択された。いくつかの他の薬物については、本発明の説明において簡単に述べられたことに留意されたい。明確にするために、表1に記載されているある一定の説明的な用語を使用する。それらは、薬局方に記載された溶解性の範囲を示唆する["The United States Pharmacopeia XXIII-The National Formulary XVIII", 1995]。これらの用語は、2071ページの「説明および溶解性(Description and Solubility)」と題された表で定義されており、ある割合の溶質に対して必要な対応する溶媒の割合を与える。実施例に記載されているおよび/またはここで簡単に説明されている種々の薬物の溶解性は、以下に示す通りである:
【表1】

【0062】
最初に、高アミロースデンプン(ハイロンVII(Hylon VII:登録商標), The National Starch and Chemical Company, Bridgewater, NJ, U.S.A.)とクロロ酢酸ナトリウム(Aldrich Chemical Company, Saint Louis, MO, U.S.A.)とを強塩基性の媒質中で反応させて、置換アミロース(SA)を調製した[米国特許第5,879,707号を参照されたい]。単に置換基/高アミロースデンプンの割合を変化させることにより、異なる置換度が得られる。本実施例により調製された生成物は、SA, CA.lab-nと呼ばれ、ここで、「SA」は高アミロース置換デンプンを意味し、「CA」は使用された置換基、ここではクロロ酢酸を意味し、「.lab」は研究室規模で得られたバッチ(batch)を意味し、「n」は「高アミロースデンプンkg当りの置換基のモル数」の割合として表された置換度(DS)を示す。ハイロンVII(登録商標)が約70%のアミロース鎖および30%のアミロペクチンを含有することを覚えていることは価値がある。実施例10で使用されているSA, CA.lab-0.00は、反応媒質に作用物質を加えないことを除いて、同じ方法で処理された高アミロースデンプンであることに留意されたい。
【0063】
第2に、高アミロースカルボキシメチルナトリウムデンプンは、Roquette Freres S.A. (Lestrem, France)から直接得た。しかしながら、SA, CAの試験的なバッチはアセトンの代わりにアルコールを用いて乾燥した。前記DSは、研究室規模のバッチとは異なる方法で表される:作用物質のモル数を無水グルコースのモル数で割ったものとして定義され;無水グルコースのモル数は、デンプンの乾燥重量を162で割ることにより得られる(162=無水グルコース1単位の分子量)。SA, CA-0.05 (より正確には0.046)および0.07 (より正確には0.067)は、本発明において使用される。
【0064】
いくつかの電解質も本発明に含まれてよい:塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、塩酸アルギニン、およびクエン酸。
【0065】
最後に、特定の賦形剤が評価される製剤の一部である場合、適切な実施例においてそれらの役割を説明した。
【0066】
錠剤は、直接的な圧縮、すなわち薬物、SA, CA.lab-nまたはSA, CA-n、電解質、もしあれば賦形剤の乾燥混合、もしあればそれに続く圧縮により調製した。薬物および製剤の他の成分は、乳鉢を用いて手動で混合した。膨潤したマトリックスの保全性の評価のために、それぞれ400mgの秤量値の錠剤をIR 30-トンプレス(ton- press)(C-30 Research & Industrial Instruments Company, London, U.K.)上で、2.5トン/cm2の圧力で20秒間圧縮した。錠剤の直径は1.26cmであった。薬物の放出の評価のために、それぞれ400、600、または800mgの秤量値の錠剤をIR 30-トンプレス(C-30 Research & Industrial Instruments Company)上で、2.5トン/cm2の圧力で20秒間圧縮した。錠剤の直径は1.26cmであった。
【0067】
実施例2
膨潤した錠剤の保全性の評価
出願人は、水溶液中で膨潤させた場合、特にpH勾配に曝された場合、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠に亀裂が生じるか、中心でゆるく結合した2つの部分に分裂するか、またはいくつかの部分に分かれることを観察した。驚くべきことに、電解質の添加は、膨潤したマトリックス構造の完全な安定化、または少なくとも上述した課題の発生の有意な遅延および/またはそれらの強度の減少を提供し、経口的な薬物送達における適用を許容することに注目した。それ故、水溶液中における錠剤の浸漬の間に生じる変化ならびにそれらの出現の瞬間について述べるために、標準化された方法が設計されている。
【0068】
実施例1で述べたように調製された錠剤は、回転パドル(50rpm)を備えたU.S.P.XXIII溶解装置No.2において、37℃で、900mlの塩酸溶液媒質(pH=1.2)中に個々に置いた。酸性溶液中に1.5時間置いた後、錠剤を、回転パドル(50rpm)を備えた同じU.S.P.XXIII溶解装置No.2において、37℃で、リン酸緩衝液媒質(pH=7.4)に試験の終わりまで移した。全ての製剤について3回試験した。
【0069】
表において、巨視的な変化の観察は、それらについて述べ、それらが生じる瞬間(時間)を記録する特定の定性的な用語で標準化した。2つの事象の順序、すなわち亀裂の後に破裂することは、錠剤における亀裂の発生の後にしばしばマトリックス構造のより激しい変化、部分的または全体の破裂が起こるとして述べた。以下の用語を用いた:C1=亀裂型1;nC1=複数の亀裂型1;C2=亀裂型2;DC=ダブルコーン;M=マッシュルーム;M=マッシュルーム型、しかし片面のみ;はがれ;びらん。C1は、円柱の放射状の表面に沿って生じる単一の亀裂を意味する。nC1は、錠剤の放射状の表面に沿って生じる複数の亀裂を意味する。C2は、錠剤の片面または両面に生じる1以上の亀裂を意味する。DCは、錠剤が中心でゆるく結合した2つの部分に縦方向に分かれることを意味し;それぞれの部分は、収縮するゲルの内部張力により凸形状になる。MおよびMは、錠剤の部分的な破裂を意味し、残存した全ての部分は、錠剤の主要な部分に結合し;その形状はマッシュルームまたは砂漠地帯における乾燥した地面のように見える。これらの構造的な変化は、図1および2において模式的に示した。
【0070】
実施例4〜25の分析からいくつかの経験則を引き出すことができる:C1はDCを導き;C2はMまたはMを導き;nC1は剥がれを導き;C1+C2はDC、M、M、DC+M、またはDC+Mを導き;びらんの進行は亀裂の発生とは関係ない。しかしながら、電解質の添加は、亀裂の現象が必ずしも破裂の発生に導かれないように変化の過程を穏やかにし;電解質は、DCの発生を阻害してM構造の発生へと導くこともできる。これは、むしろ半定量的なアプローチを考慮することを可能にし、錠剤が完全に別れて分裂するほどインビトロにおける望ましくない突発的な放出のリスクが高くなることを記憶に留めておく。
【0071】
実施例3
薬物放出の評価
いくつかの典型的なマトリックス錠の薬物放出の性質は、インビトロでの溶解試験により評価した。やや溶けやすい〜やや溶けにくいの間の中間の溶解性を有する薬物モデルとして、アセトアミノフェンを用い;その溶解性は、生理的な条件においてpHによる影響を受けない。塩酸プソイドエフェドリンは、極めて溶けやすいイオン性の薬物モデルとして使用した。
【0072】
2つのタイプの実験条件で試験を行った:a)一定のpH(pH=7.4)、米国特許第5,879,707号と全く同様の方法;b)だいたい生理的な条件を模擬したpH勾配であって、pHは酸性値(pH=1.2)から中程度にアルカリ性の値(pH=7.4)へと変化させた。
【0073】
a)一定のpH
上述した実施例1で開示したように調製した錠剤を、回転パドル(50rpm)を備えたU.S.P.XXIII溶解装置No.2において、37℃で、900mlのリン酸緩衝液の媒質(pH=7.4)中に個々に置いた。予め決めておいた時間間隔で放出されたアセトアミノフェンの量を分光測定した(アセトアミノフェン:242nm)。全ての製剤について3回試験した。薬物放出の結果は、時間(時)の関数において放出された累積的な%またはmgで表す。
【0074】
b)pH勾配
上述した実施例1に開示したように調製した錠剤を、回転パドル(50rpm)を備えたU.S.P.XXIII溶解装置No.2において、37℃で、900mlの塩酸溶液の媒質(pH=1.2)中に個々に置いた。酸性溶液中に0.5、1、または2時間置いた後、錠剤を、回転パドル(50rpm)を備えた同じU.S.P.XXIII溶解装置No.2において、37℃で、リン酸緩衝液媒質(pH=7.4)に試験の終わりまで移した。予め決められた時間間隔で、放出されたアセトアミノフェンまたは塩酸プソイドエフェドリンの量を分光測定した(アセトアミノフェン:242nmおよび塩酸プソイドエフェドリン:257nm)。全ての製剤について3回試験した。薬物放出の結果は、時間(時)の関数において放出された累積的な%またはmgで表す。
【0075】
実施例4
負荷する錠剤薬物のインビトロでの錠剤の保全性への影響
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。活性成分(A.I.)はアセトアミノフェンであって、非イオン性の薬物であり、温度に依存してやや溶けにくい〜やや溶けやすい(室温〜沸騰水)薬物であり、その溶解性は生理的条件下におけるpHにより影響を受けない。前記製剤およびその評価を表2に示す。
【表2】

【0076】
アセトアミノフェンおよび高アミロースカルボキシメチルデンプンを含有するマトリックス錠は、早くに主要な亀裂(C1型)を示し、それに続いて最も悪い形態へと分裂する(DC)ので、それらの置換度にかかわらず実用的ではない。負荷する薬物を増大させることにより、前記過程を促進および/または拡大し、課題を解決するための適切なアプローチを構成しない。
【0077】
実施例5
非イオン性の親水性ポリマーを加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表3に示す。
【表3】

【0078】
高い割合の高アミロースカルボキシメチルデンプンSA, CA-0.05および低い割合のHPMC K4Mを含有するマトリックス錠には、まだ同じ問題、すなわち亀裂C1および破裂DCが存在する。HPMC K4Mの濃度の増加は、全ての錠剤で剥がれを生じるという他の問題が生じる。HPMCの割合がSA, CA-0.05の割合よりも高くなる場合、錠剤はもはや構造的な問題を生じないが、本発明の範囲外である。それ故、非イオン性の親水性ポリマーの添加は、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠のマトリックスの保全性についての問題において役立つ解決策ではない。
【0079】
実施例6
非イオン性の親水性ポリマー(cont.)の添加による効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表4に示す。
【表4】

【0080】
SA, CA-0.07に対するHPMC K4Mの添加に関して、SA, CA-0.05の場合と同じ観察をすることができる。低い割合のHPMC K4Mは、亀裂および破裂の問題を妨げることができない。HPMC K4Mの割合を増加させることにより、剥がれの現象が生じ始める。置換度を変化させることおよび非イオン性の親水性ポリマーを加えることは、上述した課題に対する価値のある解決法ではない。
【0081】
実施例7
非イオン性の親水性ポリマーの添加による効果(HPMC K4Mよりも親水性が低い)
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表5に示す。
【表5】

【0082】
高アミロースカルボキシメチルデンプンSA, CA-0.05および30〜45%の割合のHPMC E4Mを含有するマトリックス錠には、まだ剥がれという同じ問題が存在する。HPMC E4Mの割合がSA, CA-0.05より高い場合、錠剤にはこの構造的な問題は存在しないが、本発明の範囲外である。それ故、HPMC E4Mよりも親水性が低い非イオン性ポリマーの添加は、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠のマトリックスの保全性における問題に対する価値のある解決法ではない。錠剤に最初の亀裂が生じる前に少し得られる時間は、HPMC E4Mの親水性が低いという事実により説明することができる。
【0083】
実施例8
イオン性の親水性ポリマーの添加による効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表6に示す。製剤2および3の場合、錠剤を酸性媒質中にわずか30分しか浸していないことに注意されたい。
【表6】

【0084】
イオン性の親水性ポリマーをSA, CA-0.05マトリックス錠に加えても、亀裂および破裂の発生を止めることができない。さらに、ステアリン酸マグネシウムのような疎水性の滑沢剤をそのような組成物に加えることにより、著しいびらんの進行が始まる。これは、上述した課題を解決するために、SA, CA-0.05マトリックス錠の製剤においてそのようなポリマーを使用することの不可能性に対して加える。
【0085】
実施例9
α化したデンプンの添加による効果(低アミロース含量)
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表7に示す。
【表7】

【0086】
低いアミロース含量のα化したデンプンを加えても、SA, CA-0.05高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックスの保全性の維持を助けることはできなかった。高アミロースカルボキシメチルデンプンの置換度を増加し、且つ前記α化デンプンを加えることにより、α化デンプンが存在しない場合よりもC1の亀裂およびDCの破裂がわずかに早く生じるように過程を促進した(実施例4を参照されたい)。
【0087】
実施例10
α化された高アミロースデンプンの添加による効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表8に示す。
【表8】

【0088】
高アミロース含量のα化デンプンを添加しても、SA, CA-0.05高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックスの保全性の維持を助けることはできなかった。前記α化デンプンは、亀裂の発生をわずかに遅延させ、C1に加えてC2を示した。DCの破裂は、α化デンプンが存在しない場合と同じ時間に生じた(実施例4を参照されたい)。
【0089】
実施例11
デンプン由来のオリゴ糖であるデキストリンの添加による効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表9に示す。
【表9】

【0090】
デキストリンのようなオリゴ糖の濃度を増大させても、SA, CA-0.05または0.07マトリックス錠の使用に付随する問題の本質を修飾することはできなかったが、それらが出現するまでの時間を次第に減少させた。それ故、低分子量の同様のポリマーを加えることは、上述した課題を解決するための価値のある解決法を構成しない。
【0091】
実施例12
非イオン性の可溶性充填剤である糖を加えることによる効果
非イオン性の可溶性充填剤である糖を、アセトアミノフェンを含有するSA, CA-0.05マトリックス錠の製剤に加えた。実施例1に記載したように錠剤を調製し、実施例2に記載したように評価した。しかしながら、この戦略も効果がないことが証明された。
【0092】
例えば、10%のアセトアミノフェン、80%のSA, CA-0.05、および10%のショ糖を含有する錠剤は、たった2時間後に亀裂(C1+C2型)を生じ、たった4時間後に分裂(DC+M型)した。デキストリンの場合も同じ種類の観察がなされた。非イオン性の糖類の賦形剤の溶解性を増大させることは(ショ糖>デキストリン>デンプン)、マトリックス錠の保全性において負の影響を与える(比較として実施例4も参照されたい)。
【0093】
実施例13
不溶性のイオン性充填剤を加えることによる効果
製剤に加える非イオン性賦形剤の溶解性を増大させることはSA, CAマトリックス錠の保全性に対して負の影響を及ぼすことを考慮して、不溶性のイオン性充填剤であるエンコンプレス(Emcompress:登録商標)(リン酸カルシウムのある一定のタイプ)を用いていくつかの試みが行われた。再び、前記課題を解決することはできず、それらを増大すらさせた。例えば、10%のアセトアミノフェン、75%のSA, CA-0.05、および15%のエンコンプレス(登録商標)を含有する錠剤は、たった1.5時間後にC1型の亀裂を生じ、DC破裂へとすばやく導いた。
【0094】
実施例14
低分子量有機酸を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表10に示す。
【表10】

【0095】
弱電解質であるクエン酸のような低分子量の有機酸を加えることは、前記課題、すなわち亀裂および破裂を部分的に解決する助けとなった。実際に、亀裂の性質をC1からC2に変化させ、それらが生じる瞬間をわずかに遅延させた。
【0096】
実施例15
低分子量の有機塩基および有機酸から形成される塩を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表11に示す。
【表11】

【0097】
塩酸アルギニンを加えることは、上述した課題を部分的に解決する助けとなった。実際に、塩酸アルギニンの濃度を増大させた時に亀裂の性質がC1からC2に変化しただけでなく、破裂の性質がDCからMまたはMに変化し、それ故、錠剤の通常の形態を保持した。しかしながら、塩酸アルギニンを同じ濃度に保持しながら薬物濃度を増大させすぎると、課題が再発した。それ故、製剤に加える電解質の濃度は、A.I.の濃度および溶解性に適応させる必要がある。錠剤番号1は著しい膨潤(300%)を示したが、試験の5時間後に収縮を示したことに留意されたい。
【0098】
実施例16
リン酸緩衝液(pH=7.4)を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表12に示す。
【表12】

【0099】
SA, CA-0.05マトリックス錠に関して、緩衝液(pH=7.4)の添加は、亀裂または破裂が生じるまでの時間を延長しなかったが、1%のそのような緩衝液は、亀裂、特に破裂の性質を部分的なもの(=M)に都合よく変化させるのに十分であった。そのような改善は、SA, CA-0.07では見られなかった。より高いDSは、より多くのカルボキシル基がポリマー上に結合していることを意味し、それ故、緩衝液の存在下でマトリックスの挙動を変化させる。緩衝液の添加は、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックスの保全性によい影響を与えることができ、緩衝液の性質および濃度(pH値)は、ポリマーのDSおよび錠剤中に含まれる薬物の性質および濃度の関数により慎重に選択すべきであることを提供した。
【0100】
実施例17
リン酸緩衝液(pH=6.0)を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。錠剤およびその評価を表13に示す。
【表13】

【0101】
SA, CA-0.05マトリックスについて、リン酸緩衝液(pH=6.0)の添加は、亀裂が生じるまでの時間をわずかに増加させた。SA, CA-0.07に関しては、検討した濃度の範囲において改善は見られなかった。緩衝液の性質および濃度の選択に関する実施例16の注釈ならびに薬物の性質および濃度の影響はここでも同様に適用する。
【0102】
実施例18
リン酸緩衝液(pH=5.4)を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表14に示す。
【表14】

【0103】
SA, CA-0.05マトリックス錠に濃度を増加させたリン酸緩衝液(pH=5.4)を加えることにより、亀裂および破裂の性質ならびにそれらの出現時間において、膨潤した錠剤の保全性について改善を示した。SA, CA-0.07マトリックス錠に関しては、生じる亀裂の型において微小な改善が見られたのみであった。緩衝液の性質および濃度の選択に関する実施例16の注釈ならびに薬物の性質および濃度の影響はここでも同様に適用する。
【0104】
実施例19
塩を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表15に示す。
【表15】

【0105】
SA, CA-0.05マトリックス錠に5%以上の濃度の塩化ナトリウムを加えることにより、破裂の性質(M)において膨潤した錠剤の保全性を改善し、C1の亀裂が生じるまでの時間をわずかに延長した。この傾向は、SA, CA-0.07マトリックス錠についても見られたが、C1の発生時間が劇的に増大した(約7倍)。また、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックスを安定化しようとする場合には、一方では電解質の性質と濃度との関係、他方ではポリマーマトリックスの置換度との関係があった。
【0106】
実施例20
塩(cont.)を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表16に示す。
【表16】

【0107】
薬剤および塩化ナトリウムの両方の濃度を増加させることにより、膨潤したマトリックス錠を十分に安定化した。亀裂も破裂も生じず、電解質の添加による驚くべき利点を示した。
【0108】
実施例21
塩(cont.)を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表17に示す。
【表17】

【0109】
薬物および塩化ナトリウムの濃度を慎重に選択した場合、圧力は、置換アミロースマトリックス錠の製造を普通に実行するときの膨潤したマトリックス錠の保全性には影響を与えなかった。このことは、本発明の有益性を再び示す。
【0110】
実施例22
塩(cont.)を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表18に示す。
【表18】

【0111】
非イオン性の親水性ポリマーのような他の賦形剤は、塩化ナトリウムを用いた場合、高アミロースカルボキシメチルデンプンと併用することができる。塩化ナトリウムを添加することの利点は、マトリックスの保全性を改善することについて残る。SA, CA-0.05/HPMC K4Mの割合を考慮した場合、剥がれの現象が消えることに気づく。
【0112】
実施例23
塩(cont.)を加えることによる効果
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンであった。製剤およびその評価を表19に示す。
【表19】

【0113】
同様の方法で、α化デンプンのような賦形剤は、塩化ナトリウムを用いた場合、高アミロースカルボキシメチルデンプンと併用することができる。塩化ナトリウムを加えることによる利点は、マトリックスの保全性を改善することに関して残る。
【0114】
実施例24
電解質を加えることによる効果:他の活性成分の適用
本発明の多様性および利点を説明するために、錠剤の保全性を評価するためのもう1つの薬物モデルとしてテオフィリンを選択した。実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。製剤およびその評価を表20に示す。
【表20】

【0115】
溶けにくい薬物であるテオフィリンは、マトリックスの保全性に関して、アセトアミノフェンと同じ課題を示すように見える。薬物負荷のゆるやかな増加は、前記課題を促進し、拡大する(錠剤2を参照されたい)。塩化ナトリウムの添加により上述した課題は減少するが、負荷する薬物を増加させた場合、電解質の添加による利益を維持するために、負荷する電解質の増加を伴う必要がある(錠剤3〜6を参照されたい)。錠剤6は、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠の保全性を維持するために、電解質の混合物、すなわち塩化ナトリウムおよび塩酸アルギニンを使用することの利点について示す。
【0116】
実施例25
電解質を加えることによる効果:他の活性成分(cont.)の適用
本発明の多様性および利点を説明するために、錠剤の保全性を評価するためのもう1つの薬物モデルとして塩酸ブプロピオンを選択した。実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例2に記載した試験条件に従って評価した。錠剤およびその評価を表21に示す。
【表21】

【0117】
溶けやすい薬物である塩酸ブプロピオンは、マトリックスの保全性に関して、アセトアミノフェンおよびテオフィリンと同じ問題を示すように見える。これら2つの薬物のように、塩酸ブプロピオンの負荷の増加は、課題を促進し拡大する(錠剤2〜5を参照されたい)。塩化ナトリウムおよび塩酸アルギニンの混合物の添加は、上述した課題を解決し、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠の保全性を維持するために電解質の混合物を使用することの利益を示す。
【0118】
実施例26
SA, CA.lab錠を実施例1に記載の方法に従って調製し、pHを1.2または7.4で一定に維持したことを除いて、実施例3に記載された試験条件に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンとした。図3は、薬物を10%含有する400mgの錠剤について、酸性および中程度のアルカリ性条件下でSA, CA.lab-1.55マトリックス錠から放出されたアセトアミノフェンの割合(%)を時間(時)の関数で示したものである。突発的な放出速度は、両方の実験、すなわち酸性および中程度のアルカリ性条件下におけるインビトロでの放出で同様であった。放出プロファイルのこの部分は、基本的に、マトリックス表面に存在する薬物および水性環境に直接的に曝される薬物の溶解によるものである。酸性および中程度のアルカリ性環境下において同じであるアセトアミノフェンの溶解性は、結果として驚くべきものではない。放出プロファイルの第二の部分は、著しい違いを示し、酸性媒質中における放出速度は中程度のアルカリ性媒質中における放出速度よりもずっと遅い。高アミロースカルボキシメチルデンプンゲルは、pHに依存して異なる構造をとると結論付けることができる。
【0119】
実施例27
SA, CA.lab錠を実施例1に記載の方法に従って調製し、実施例3に記載の試験条件(pH勾配、pH=1.2で1時間)に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンとした。図4は、薬物を10%含有する400mgの錠剤について、SA, CA.lab-1.8、SA, CA.lab-1.55、およびSA, G-2.7マトリックス錠から放出されたアセトアミノフェンの割合(%)を時間(時)の関数で示したものである。SA, CA.labマトリックス錠は、酸性媒質(pH=1.2)中に1時間浸し、その後、中程度のアルカリ性媒質(pH=7.4)に移した。米国特許第5,879,707号から抽出したSA, G-2.7についてのデータは、一定pH(pH=7.4)の媒質を用いたことを除いて、SA, CA錠の試験と全く同じ実験条件で得られたものである。
【0120】
一方では、SA, CA.lab-1.55錠はSA, CA.lab-1.8マトリックスよりも薬物の放出が遅く;他方では、pH勾配によってSA, CA.lab-1.55錠にいくつかの著しい亀裂および破裂が見られる。アセトアミノフェンのようなやや溶けやすい薬物の放出に関して、インビトロにおいてSA, G-2.7錠と同等の挙動を示したが、インビトロでの適用を考えた場合、この欠点がそれらを役に立たなくする。
【0121】
実施例28
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例3に記載の試験条件(pH勾配、pH=1.2で1時間)に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンとした。図5は、薬物を10%と異なる塩化ナトリウムの負荷(0、10、および15%)を含有する400mgの錠剤について、SA, CA-0.05マトリックス錠から放出されたアセトアミノフェンの割合(%)を時間(時)の関数で示したものである。
【0122】
驚くべきことに、アセトアミノフェンのようなやや溶けやすい薬物をすでに10%含有する錠剤中に有意な濃度(10〜15%)の塩化ナトリウムを有するにもかかわらず、典型的な放出プロファイルがまだ観察できる。また、放出速度において違いがないことは、塩化ナトリウムを10%含有する組成物と15%含有する組成物との間でも見られた。塩化ナトリウムの存在は、アセトアミノフェンの突発的な放出を増加させない。アセトアミノフェンのみを含有する錠剤については、4時間の評価の後に薬物濃出のわずかな促進が観察できることに留意する。実際に、その付近の時間に主要な亀裂が生じ、亀裂により生じた表面に存在する薬物の放出を促進した。しかしながら、溶解装置における撹拌は、消化過程で撹拌する胃と比較して極めて緩やかであることを考慮すべきである。そのような条件下では、錠剤は別々に破壊され、より著しい結論を導くであろう。また、放出プロファイルの結果にはないが、塩化ナトリウムにより、試験の8〜9時間後に中程度の部分的な破裂(M*)が生じたのみであることにも留意されたい。
【0123】
実施例29
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例3に記載の試験条件(pH勾配、pH=1.2で0.5、1、または2時間)に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンとした。図6は、10%の薬物と10%の塩化ナトリウムを含有する400mgの錠剤について、錠剤を酸性媒質中に0.5、1、または2時間浸した場合にSA, CA-0.05マトリックス錠から放出されたアセトアミノフェンの割合(%)を時間(時)の関数で示したものである。
【0124】
高アミロースナトリウムカルボキシメチルデンプンがイオン性ポリマーのナトリウム塩であるにもかかわらず、そのようなマトリックスからの放出プロファイルが酸性下に置かれた時間により影響を受けないことは注目すべきである。さらに、錠剤を酸性からアルカリ性の媒質へ移した場合にも、放出プロファイルの変化は観察されなかった。
【0125】
実施例30
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例3に記載の試験条件(pH勾配、pH=1.2で0.5、1、または2時間)に従って評価した。A.I.は、アセトアミノフェンとした。全ての錠剤は10%の薬物および10%の塩化ナトリウムを含有していた。錠剤の1つのバッチには0.2%のステアリン酸マグネシウムが含まれ、その放出プロファイルをステアリン酸マグネシウムを含有しない錠剤と比較した。周知の錠剤滑沢剤であるステアリン酸マグネシウムは、SA, CA-0.05マトリックス錠からのアセトアミノフェンの放出速度に影響を与えなかった。
【0126】
実施例31
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例3に記載の試験条件(pH勾配、pH=1.2で1時間)に従って評価した。A.I.は、塩酸プソイドエフェドリン(PE)とした。図7は、異なる薬物負荷(20、37.5、50、および60%)を含有する800mgの錠剤について、SA, CA-0.05マトリックス錠から放出されたPEの割合(%)を時間(時)の関数で示したものである。塩酸プソイドエフェドリンのような極めて溶けやすいイオン性薬物を含有する高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックスは、驚くべきことに、消化管に沿って移動する際の錠剤環境のpH変化を模擬したpH勾配、すなわち強酸から中程度のアルカリ性環境において放出速度およびマトリックスの保全性に関して評価した場合に、優れた徐放性の挙動を示した。20%の薬物を含有する錠剤に対応する放出プロファイルは、マトリックス中に生じる小さな亀裂に対応して、放出速度が少し速められることに留意されたい。PEは極めて溶けやすく、新しく水性の環境に曝された表面が薬物の溶解を始めるため、わずかな第二の突発的な影響が生じる。
【0127】
実施例32
実施例1に記載の方法に従って錠剤を調製し、実施例3に記載の試験条件(pH勾配、pH=1.2で1時間)に従って評価した。A.I.はPEとした。図8は、異なる重量(400、600、および800mg)のSA, CA-0.05マトリックス錠における薬物全体の放出時間(時)を、PEの割合(%)の関数として示したものである。PEは非イオン性であり、極めて溶けやすい薬物であり、特に高い用量の場合、通常は配合するのが極めて困難になる。図8は、優れた挙動を示す高用量の薬物を負荷したSA, CA-0.05マトリックスが簡単に達成されることを示す。驚くべきことに、20%より低い薬物負荷の場合は、マトリックス中に亀裂を生じるため成功しないことに留意されたい。しかしながら、これは、マトリックスを安定化するために塩化ナトリウムのような電解質を加えた場合に観察されたものとよく一致する。従って、低用量の薬物を含む製剤を配合する場合、ラクトースのような現在通用している充填剤の代わりに、SA, CA-0.05錠に電解質を加え、有用な錠剤重量および安定なマトリックスを得る必要がある。一方、本発明によると、非常に高用量の極めて溶けやすいイオン性の薬物を錠剤に組み込むことができ、非常によい放出制御を達成できることを明確にする。
【0128】
もちろん、開示および例示したように、付属の特許請求の範囲の範囲から外れることなく、上述した発明には多くの修飾を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1は、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠において観察される、異なるタイプの亀裂を示す:a)C1;b)nC1;c)C2。
【図2】図2は、高アミロースカルボキシメチルデンプンマトリックス錠において観察される、異なるタイプの破裂を示す:a)DC=ダブルコーン(double cone)(この特定の場合において、いくつかのC2亀裂も生じることに注意されたい);M=マッシュルームタイプ、しかし表面のみである。2つ目の錠剤は、乾燥しているにもかかわらずその特有の構造を保持している。
【図3】図3は、薬物を10%含有する400mgの錠剤について、酸性および中程にアルカリ性の媒質においてSA, CA.lab-1.55マトリックス錠から放出されるアセトアミノフェンの割合(%)を、時間(時)の関数として示した図表である。
【図4】図4は、薬物を10%含有する400mgの錠剤について、SA, CA.lab-1.8, SA, CA.lab-1.55、および SA, G-2.7から放出されるアセトアミノフェンの割合(%)を時間(時)の関数として示した図表である。SA, CA.labマトリックス錠は、酸性媒質(pH=1.2)中に1時間浸し、その後中程度のアルカリ性媒質(pH=7.4)に浸した。米国特許第5,879,707号から抽出したSA, G-2.7のデータは、一定のpHの媒質(pH=7.4)を用いたことを除いて、SA, CA.lab錠の試験と厳密に同じ実験条件下で得られたものである。
【図5】図5は、薬物を10%と異なる塩化ナトリウムの添加(0、10、および15%)を含有する400mgの錠剤について、SA, CA-0.05マトリックス錠から放出されるアセトアミノフェンの割合(%)を時間(時)の関数として示した図表である。
【図6】図6は、薬物を10%と塩化ナトリウムを10%含有する400mgの錠剤について、それらを酸性媒質中に0.5、1、または2時間浸漬した場合に、SA, CA-0.05マトリックス錠から放出されるアセトアミノフェンの割合(%)を時間(時)の関数として示した図表である。
【図7】図7は、異なる薬物量(20、37.5、50、および60%)を含有する800mgの錠剤について、SA, CA-0.05マトリックス錠から放出される塩酸プソイドエフェドリン(PE)の割合(%)を時間(時)の関数として示した図表である。
【図8】図8は、異なる重量(400、600、および800mg)のSA, CA-0.05マトリックス錠について、全薬物の放出時間を塩酸プソイドエフェドリンの割合(%)の関数として示した図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1の薬物の経口投与のための改善された保全性を有する薬学的な徐放錠であって、少なくとも以下の3つの乾燥粉末の圧縮混合からなる錠剤:
前記少なくとも1の薬物の粉末、
前記薬物に対する徐放マトリックスの粉末、および
少なくとも1の電解質の粉末;
前記徐放マトリックスは架橋結合していない高アミロースデンプンからなり、前記高アミロースは、少なくとも1のカルボキシル基を含んでなる少なくとも1の有機的な置換基により置換される。
【請求項2】
請求項1に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の有機的な置換基が、2〜4の炭素原子を含有するカルボキシアルキル、前記カルボキシアルキルの塩、またはそれらの混合物である錠剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の有機的な置換基が、カルボキシメチル、カルボキシメチルナトリウム、およびそれらの混合物からなる群より選択される錠剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の錠剤であって、前記置換アミロースデンプンの置換度が、高アミロースデンプンkg当りにおける前記少なくとも1の有機的な置換基のモル数の割合として表した場合に0.1以上である錠剤。
【請求項5】
請求項4に記載の錠剤であって、前記置換アミロースの置換度が、高アミロースデンプンkg当りにおける前記少なくとも1の有機的な置換基のモル数の割合として表した場合に0.1〜0.4である錠剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の電解質が、乾燥粉末の形態または乾燥粉末に吸着された液体の形態である錠剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の電解質が、強酸または弱酸、強塩基または弱塩基、および塩からなる群より選択される低分子量の電解質である錠剤。
【請求項8】
請求項7に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の電解質が、弱有機塩基および弱有機酸からなる群より選択される低分子量の電解質である錠剤。
【請求項9】
請求項7に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の電解質が塩である錠剤。
【請求項10】
請求項7に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の電解質が緩衝液である錠剤。
【請求項11】
請求項7に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の電解質が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸、塩酸アルギニン、尿素、リン酸ナトリウム、およびリン酸二ナトリウムからなる群より選択される錠剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の錠剤であって、前記乾燥粉末の混合に少なくとも1の他の賦形剤が含まれる錠剤。
【請求項13】
請求項12に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の他の賦形剤が、滑沢剤、着色剤、酸化防止剤、および充填剤からなる群より選択される錠剤。
【請求項14】
少なくとも1の薬物の経口投与のための改善された保全性を有する薬学的な徐放錠であって、以下の少なくとも2の乾燥粉末の圧縮混合からなる錠剤:
前記少なくとも1の薬物の粉末、および
前記薬物に対する徐放マトリックスの粉末;
前記少なくとも1の薬物は極めて溶解しやすいイオン性の薬物であり、錠剤の全重量の少なくとも20重量%を占め、前記徐放マトリックスは、架橋結合していない高アミロースデンプンからなり、前記高アミロースは、カルボキシメチル、カルボキシメチルナトリウム、およびそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1の有機的な置換基により置換され、前記置換アミロースデンプンの置換度は、高アミロースデンプンkg当りにおけるカルボキシメチル置換基のモル数の割合で表した場合に0.1〜0.4の範囲である。
【請求項15】
請求項14に記載の錠剤であって、前記乾燥粉末の混合に少なくとも1の他の賦形剤が含まれる錠剤。
【請求項16】
請求項15に記載の錠剤であって、前記少なくとも1の他の賦形剤が、滑沢剤、着色剤、酸化防止剤、および充填剤からなる群より選択される錠剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−525322(P2008−525322A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547121(P2007−547121)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【国際出願番号】PCT/CA2005/001934
【国際公開番号】WO2006/066399
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(507211864)ユニベルシテ・ドゥ・モンレアル (1)
【Fターム(参考)】