説明

薬物を選択するための方法

遺伝子のパネルに関する患者の遺伝子型を決定するステップと、遺伝子型に基づいて薬物を選択するステップとを含む、患者への薬物を選択するための方法を記載する。また、薬物代謝酵素をコードする遺伝子および神経伝達に関与する産物をコードする遺伝子の対立遺伝子を検出するための核酸分子を含む、製造品も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者への薬物(例えば、向精神薬)を選択するための方法に関し、より具体的には、薬物代謝酵素をコードする遺伝子、および、例えば神経伝達に関与する産物をコードする遺伝子の、遺伝子型に基づいた患者の薬物の選択に関する。
【発明の概要】
【0002】
概要
本発明は、精神科診断と薬物に対する薬理学的反応とに関連する多型を有する一連の遺伝子の同定に基づく。結果として、本発明の方法により、患者の遺伝子型を決定すること、ならびに遺伝子型に基づいて、該患者への適切な薬物を選択することが可能になる。本発明の方法は、多数の遺伝子型アセスメントの出力を統合することを可能にし、どの薬物を選択および投薬するかに関する重要かつ改善された臨床情報を提供する。したがって、本発明の該方法は、該患者の至適反応をもたらす薬物の同定のための合理的方法を提供する。
【0003】
一側面において、本発明は、患者への向精神薬(例えば、抗うつ剤、抗精神病薬、抗不安鎮静剤、または気分安定化剤)を選択するための方法を特徴とする。該方法は、遺伝子のパネルに関する該患者の遺伝子型を提供するステップであって、該パネルが、少なくとも3つのチトクロムP450遺伝子およびセロトニントランスポータ遺伝子を含む、ステップと、該遺伝子型に基づいて該向精神薬を選択するステップとを含む。該少なくとも3つのチトクロムP450遺伝子は、CYP2D6、1A2、および2C19をコードすることができ、該患者の遺伝子型を提供するステップは、該患者が、CYP1A2*1Aまたは1A2*3対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、または2C19*2A対立遺伝子、およびCYP2D6*1A、2D6*2、2D6*2N、2D6*3、2D6*4、2D6*5、2D6*6、2D6*7、2D6*8、2D6*10、2D6*12、または2D6*17対立遺伝子を有するかどうかを判断することを含むことができる。該方法は、該患者が、2D6*41対立遺伝子を含むかどうかを判定するステップをさらに含むことができる。
【0004】
該パネルは、セロトニン受容体2A遺伝子をさらに含むことができる。例えば、該パネルは、CYP2D6、2C19、および1A2をコードするチトクロムP450遺伝子、セロトニントランスポータ遺伝子、ならびにセロトニン受容体2A遺伝子を含むことができる。該向精神薬を選択するステップは、該チトクロムP450遺伝子の遺伝子型を、各チトクロムP450遺伝子によってコードされる各チトクロムP450酵素の、該向精神薬を代謝させる能力と相関させることと、該セロトニントランスポータ遺伝子および該セロトニン受容体遺伝子の遺伝子型を、該患者の該向精神薬に反応する能力と相関させることとを含むことができる。
【0005】
該パネルは、4つのチトクロムP450遺伝子(例えば、CYP2D6、2C19、3A4、および1A2をコードする遺伝子)を含むことができる。該患者の遺伝子型を提供するステップは、該患者が、CYP2D6*2、2D6*3、2D6*4、2D6*10、または2D6*17対立遺伝子、CYP2C19*2A、2C19*2B、2C19*3、2C19*4、2C19*5A、2C19*5B、2C19*6、2C19*7、または2C19*8対立遺伝子、CYP3A4*1B、3A4*2、3A4*5、3A4*6、3A4*12、3A4*13、3A4*15A、3A4*17、3A4*18A対立遺伝子、およびCYP1A2*1F対立遺伝子を含むかどうかを判定することを含むことができる。
【0006】
該パネルは、少なくとも5つのチトクロムP450遺伝子(例えば、CYP1A1、1A2、2D6、2C19、および3A4)を含むことができる。該患者の遺伝子型を提供するステップは、該患者が、CYP1A1*1A、1A1*2、1A1*3、または1A1*4対立遺伝子、CYP1A2*1Aまたは1A2*3対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、または2C19*2A対立遺伝子、CYP2D6*1A、2D6*2、2D6*2N、2D6*3、2D6*4、2D6*5、2D6*6、2D6*7、2D6*8、2D6*10、2D6*12、2D6*17、または2D6*35対立遺伝子、およびCYP3A4*1Aまたは3A4*1B対立遺伝子を有することができるかどうかを判定することを含むことができる。
【0007】
該パネルは、複数のドーパミン受容体遺伝子(例えば、ドーパミン受容体D1、D2、D3、D4、D5、およびD6をコードするドーパミン受容体遺伝子)、複数のセロトニン受容体遺伝子(例えば、セロトニン受容体1A、1B、1D、2A、または2Cをコードするセロトニン受容体遺伝子)、トリプトファン水酸化酵素遺伝子、および/またはカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ遺伝子をさらに含むことができる。セロトニン受容体遺伝子2Aは、特に有用である。一部の実施形態においては、該遺伝子のパネルは、CYP2D6、2C19、3A4、および1A2遺伝子、セロトニン受容体遺伝子、ならびにセロトニン受容体2A遺伝子を含む。
【0008】
一部の実施形態においては、該パネルは、少なくとも10のチトクロムP450遺伝子(例えば、CYP1A1、1A2、1B1、2A6、2B6、2C8、2C9、2C18、2C19、2D6、2E1、3A4、および3A5をコードする遺伝子)を含む。該患者の遺伝子型を決定するステップは、該患者が、CYP1A1*1A、1A1*2、1A1*3、または1A1*4対立遺伝子、1A2*1Aまたは1A2*3対立遺伝子、CYP1B1*1、1B1*2、1B1*3、1B1*4、1B1*11、1B1*14、1B1*18、1B1*19、1B1*20、または1B1*25対立遺伝子、CYP2A6*1A、2A6*1B、2A6*2、または2A6*5対立遺伝子、CYP2B6*1、2B6*2、2B6*3、2B6*4、2B6*5、2B6*6、または2B6*7対立遺伝子、CYP2C8*1A、2C8*1B、2C8*1C、2C8*2、2C8*3、または2C8*4対立遺伝子、CYP2C9*1、2C9*2、2C9*3、または2C9*5対立遺伝子、CYP2C18*m1または2C18*m2対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、または2C19*2A対立遺伝子、CYP2D6*1A、2D6*2、2D6*2N、2D6*3、2D6*4、2D6*5、2D6*6、2D6*7、2D6*8、2D6*10、2D6*12、2D6*17、または2D6*35対立遺伝子、CYP2E1*1A、2E1*1C、2E1*1D、2E1*2、2E1*4、2E1*5、または2E1*7対立遺伝子、CYP3A4*1Aまたは3A4*1B対立遺伝子、およびCYP3A5*1A、3A5*3、3A5*5、または3A5*6対立遺伝子を有するかどうかを判定することを含むことができる。
【0009】
別の側面において、本発明は、基材を含む製造品を特徴とする。該基材は、複数の不連続領域を含み、各領域は、核酸分子の異なる集団を含み、該核酸分子の異なる集団は、CYP1A2*1Aおよび1A2*3対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、および2C19*2A対立遺伝子、CYP2D6*1A、2D6*2、2D6*2N、2D6*3、2D6*4、2D6*5、2D6*6、2D6*7、2D6*8、2D6*10、2D6*12、2D6*17、および2D6*35対立遺伝子、ならびに5HTTプロモータ反復およびエクソン2変数反復対立遺伝子を検出するための核酸分子を独立して含む。該核酸分子の集団は、以下の1つまたは複数を検出するための核酸分子をさらに含むことができる:CYP1A1*1A、1A1*2、1A1*3、および1A1*4対立遺伝子、CYP1B1*1、1B1*2、1B1*3、1B1*4、1B1*11、1B1*14、1B1*18、1B1*19、1B1*20、および1B1*25対立遺伝子、CYP2A6*1A、2A6*1B、2A6*2、および2A6*5対立遺伝子、CYP2B6*1、2B6*2、2B6*3、2B6*4、2B6*5、2B6*6、および2B6*7対立遺伝子、CYP2C8*1A、2C8*1B、2C8*1C、2C8*2、2C8*3、および2C8*4対立遺伝子、CYP2C9*1、2C9*2、2C9*3、および2C9*5対立遺伝子、CYP2C18*m1および2C18*m2対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、および2C19*2A対立遺伝子、CYP2E1*1A、2E1*1C、2E1*1D、2E1*2、2E1*4、2E1*5、および2E1*7対立遺伝子、CYP3A4*1Aおよび3A4*1B対立遺伝子、DAT1 40bp VNTRおよび10反復対立遺伝子、ならびにCYP3A5*1A、3A5*3、3A5*5、および3A5*6対立遺伝子。該集団は、TPH A218C、A779C、G5806T、A6526G、および(CT)m(CA)n(CT)p対立遺伝子を検出するための核酸分子をさらに含むことができる。
【0010】
また、本発明は、患者への薬物を選択するのに用いるデータベースを構築する方法も特徴とする。該方法は、コンピュータシステムにおいて、遺伝子のパネルに関する複数の遺伝子型を受け取るステップであって、該遺伝子のパネルが、CYP2D6遺伝子、CYP2C19遺伝子、CYP1A2遺伝子、セロトニントランスポータ遺伝子、およびセロトニン受容体2A遺伝子を含む、ステップと、該遺伝子型に基づいて特定された複数の薬物特性を受け取るステップと、各薬物特性が該遺伝子型のうちの1つと関連するように、該複数の遺伝子型および該薬物特性を保存するステップとを含む。該少なくとも1つの薬物特性は、薬物を同定することができ、該薬物は、該薬物特性に含まれる多数のカテゴリのうちの1つに入れることができる。そのようなカテゴリは、安全に使用できる薬物、慎重に使用されるべき薬物、使用時に厳密に監視すべき薬物、避けるべき薬物、およびそれらの組み合わせから成る群から選択することができる。該薬物特性は、該患者の遺伝子型のための多くの可能性のある薬物を同定することができる。
【0011】
別の側面において、本発明は、実行時に、プロセッサに操作を行わせる実行可能な命令を含むコンピュータプログラム製品を特徴とする。該操作は、遺伝子のパネルに関する複数の遺伝子型を受け取るステップであって、該遺伝子のパネルが、CYP2D6遺伝子、CYP2C19遺伝子、CYP1A2遺伝子、セロトニントランスポータ遺伝子、およびセロトニン受容体2A遺伝子を含む、ステップと、該遺伝子型に基づいて特定された複数の薬物特性を受け取るステップと、各薬物特性が該遺伝子型のうちの1つと関連するように、該遺伝子型および該薬物特性を保存するステップとを含むことができる。
【0012】
また、本発明は、患者への薬物を選択する方法も特徴とする。該方法は、コンピュータシステムにおいて、遺伝子のパネルに関する患者の遺伝子型を受け取るステップであって、該遺伝子のパネルが、CYP2D6遺伝子、CYP2C19遺伝子、CYP1A2遺伝子、セロトニントランスポータ遺伝子、およびセロトニン受容体2A遺伝子を含む、ステップと、遺伝子型と関連する複数の薬物特性を含むデータベースにおいて、該患者の遺伝子型と関連する薬物特性を同定するステップと、該患者の遺伝子型を受け取るステップに対応して該同定された薬物特性を出力するステップとを含む。ユーザは、該コンピュータシステムに該患者の遺伝子型を入力することができるか、または患者の遺伝子型は、該患者の遺伝子型を決定するのに使用される機器から直接受け取られ得る。
【0013】
該薬物特性は、例えば、特定の補助因子に基づくいくつかの薬物の順位を含むことができる。該方法は、(例えば、該患者が有する遺伝子型多型を受け取るステップに基づいて、または該患者に関する臨床反応を受け取るステップに基づいて)該同定された薬物特性を出力するステップの前に、該順位を調節するステップを含む。該臨床反応は、該患者の家族によるものであり得る。
【0014】
さらに別の側面において、本発明は、実行時に、プロセッサに操作を行わせる実行可能な命令を含むコンピュータプログラム製品を特徴とし、遺伝子のパネルに関する患者の遺伝子型を受け取るステップであって、該遺伝子のパネルが、CYP2D6遺伝子、CYP2C19遺伝子、CYP1A2遺伝子、セロトニントランスポータ遺伝子、およびセロトニン受容体2A遺伝子を含む、ステップと、遺伝子型と関連する複数の薬物特性を含むデータベースにおいて、該患者の遺伝子型と関連する薬物特性を同定するステップと、該患者の遺伝子型を受け取るステップに対応して該同定された薬物特性を出力するステップとを含む。
【0015】
特に別段の定義がない限り、本明細書で使用した全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと同様または等価の方法および材料を、本発明の実施に使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記述する。本明細書に記載する全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照することによりそれら全体が本願明細書に組み込まれる。不一致が生じる場合には、定義を含めて、本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例証の目的のみであり、制限することを意図しない。
【0016】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、説明および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態に準じるコンピュータシステム100のブロック図である。
【図2】患者への薬物を選択するのに用いるデータベースを構築するための方法200のフローチャートである。
【図3】患者への薬物を選択する方法300のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
概して、本発明は、薬物選択に有用である遺伝子の遺伝子型に基づいて、患者への薬物(例えば、向精神薬)を選択するための方法を特徴とする。遺伝子型同定される遺伝子は、典型的には、薬物の代謝に影響する、またはより良好な治療反応と関連する産物をコードする。薬物代謝酵素遺伝子(例えば、チトクロムP450遺伝子)の問題の遺伝子型に基づいて薬物を最初に除外するアルゴリズムを使用することができる。そのようなアルゴリズムの第2の段階は、潜在的に適切な薬物のリスト(例えば、抗うつ剤)で開始することができ、標的遺伝子の遺伝子型に基づいて至適治療のさらなる分類をもたらすことができる。例えば、抗うつ剤では、潜在的な抗うつ剤のさらなる分類は、セロトニントランスポータ(5HTTR)およびセロトニン受容体2A(HTR2A)の遺伝子型に基づくことができる。
【0019】
向精神薬は、抗精神病薬または神経遮断薬、抗不安鎮静剤、抗うつ剤または気分高揚剤、およびリチウム塩またはバルプロ酸等の気分安定化薬を含む。抗精神病薬の非限定的な実施例として、3環系フェノチアジン(例えば、クロルプロマジン、トリフルプロマジン、チオリダジン、およびメソリダジン、フルフェナジン、およびトリフロペラジン)、チオキサンテン(例えば、クロルプロチキセン、クロペンチキソール、フルペンチキソール、ピフルチキソール、およびチオチキセン)、ならびにジベンゼピン(例えば、ロキサピン、クロザピン、クロチアピン、メチアピン、ゾテピン、ICI−204、636、フルペルラピン、およびオランザピン)、ハロペリドール等のブチロフェノン、フルスピリレン、ペンフルリドール、およびピモジド等のジフェニルブチルピペリジン、ハロペリドールデカン酸塩、ならびにインドロンが挙げられる。抗不安鎮静剤の非限定的な例として、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、オキサゼパム、クロラゼプ酸、ロラゼパム、プラゼパム、アルプラゾラム、およびハラゼパム等のベンゾジアゼピンが挙げられる。抗うつ剤または気分高揚剤は、3級アミン3環系(例えば、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドキセピン、およびイミプラミン)および2級アミン3環系(例えば、アモキサピン、デシプラミン、マプロチリン、プロトリプチリン、およびノルトリプチリン)等のノルエピネフリン再取り込み阻害剤、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エシタロプラム、およびベンラファキシン等の選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin-reuptake inhibitor:SSRI)、ブプロピオン、ネファゾドン、およびトラゾドン等の非定型抗うつ剤、ミルタザピン等のノルアドレナリン作動性および特異的セロトニン作動性抗うつ剤、ならびにフェネルジン、トラニルシプロミン、およびセレギリン等のモノアミン酸化酵素阻害剤が挙げられる。
【0020】
特定の民族では、青年人口の10%もの数が、多くの抗うつ剤薬物の低代謝と関連する2D6ハプロタイプを有する。Wongら(2001)Ann.Acad.Med.Singapore29:401-406を参照。これらの個人の臨床的ゲノム試験は、治療および予後に明らかな影響を与える。極端な症例において、低代謝群であった子供で、そのように同定されなかった子供は、悲劇的な結果となっている。これらの陰性症例報告は、低2D6代謝群であると認識されなかった9歳男児の死亡報告を含んでいる。フルオキセチンを用いたこの子供の治療は、多数の症状の出現にもかかわらず、これらの症状が非常に高い血清フルオキセチン値に関連しているとして認識されなかったために、継続された。Salleeら(2000)J. Child Adol.Psychiatry 10(1):27-34。低用量の薬物投与時に、予測せぬ副作用を特定するための慎重な臨床的監視は、遺伝子型同定への代替的な臨床的戦略であるが、一方で、薬物代謝酵素(例えば、チトクロムP450遺伝子)をコードする複数の遺伝子および他の標的遺伝子(例えば、向精神薬のための神経伝達に関与する遺伝子)のゲノム試験は、罹患患者において潜在的に危険な副作用を回避することができる安全な方法を提供する。
【0021】
遺伝子のパネル
方法は、患者から生体試料を得るステップと、遺伝子のパネルに関する患者の遺伝子型を得るステップとを含む。典型的には、遺伝子型同定される遺伝子のパネルは、少なくとも3つのチトクロムP450遺伝子を含む。チトクロムP450遺伝子は、表1に記載したP450遺伝子から選択することができる。例えば、少なくとも3つのチトクロムP450遺伝子は、CYP2D6、1A2、および2C19をコードすることができる。抗うつ剤薬物を選択するための実施形態においては、4つのチトクロムP450遺伝子(例えば、CYP2D6、2C19、3A4、および1A2をコードする遺伝子)の遺伝子型を得ることができる。他の実施形態においては、少なくとも5つのチトクロムP450遺伝子(例えば、CYP1A1、1A2、2D6、2C19、および3A4をコードする遺伝子)の遺伝子型を得ることこができる。さらに他の実施形態においては、少なくとも10のチトクロムP450遺伝子(例えば、CYP1A1、1A2、1B1、2A6、2B6、2C8、2C9、2C18、2C19、2D6、2E1、3A4、および3A5をコードする遺伝子)の遺伝子型を得ることができる。これらのチトクロムP450遺伝子のそれぞれに関する対立遺伝子を表1に記載する。
【0022】
CYP2D6の基質は、典型的には、酸化される炭素原子から離れて配置されるカチオン性結合部位を有する弱塩基である。特に、CYP2D6の基質は、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、ハロペリドール、およびデシプラミンを含む。ベンラファキシンは、主にCYP2D6酵素によって、活性代謝物であるO−デスメチルベンラファキシンに生体内変換されることができるCYP2D6の別の基質である。また、ベンラファキシンは、CYP2D6酵素を必要とする不活性代謝物であるN−デスメチルベンラファキシンへと代謝されることもできる。一部の個人は、触媒活性を欠いている酵素の合成または減弱した触媒活性を持つ酵素の合成をもたらす、変化したCYP2D6遺伝子配列を有する。これらの個人は、SSRI(例えば、ベンラファキシン)および3環系抗うつ剤(tricyclic antidepressant:TCA)に対する代謝が低い。また、機能CYP2D6遺伝子の重複も観察されており、SSRIおよび他の薬の超急速代謝をもたらす。不活性化多型、欠失、または重複のない個人は、薬剤高代謝群の表現型を有し、CYP2D6*1として表される。CYP2D6*2対立遺伝子は、アミノ酸置換に起因する減少した酵素活性を有する。CYP2D6*3および*4対立遺伝子は、低代謝群表現型に繋がる総欠乏のほぼ70%を占める。CYP2D6*3(2549A>del)に関与する多型は、mRNAにおいてフレームシフトを産生する。CYP2D6*4対立遺伝子(1846G>A)に関与する多型は、mRNAスプライシングを破壊する。これらの変更は、触媒活性を欠くCYP2D6の切断型を産生する。他の低代謝群は、CYP2D6*5、*10、および*17である。CYP2D6*5は、完全な遺伝子欠失に起因する。CYP2D6*10および*17における多型は、減少した酵素活性を有するCYP2D6酵素においてアミノ酸置換を産生する。これらの多型の全ては、常染色体劣性である。その結果として、これらの多型に対してホモ接合性である個人または複合ヘテロ接合性である個人のみが低代謝群である。1つの正常遺伝子および1つの多型遺伝子を有するヘテロ接合性である個人は、高(正常)および低代謝群の間の中間の代謝を有する。
【0023】
CYP1A2は、クロザピンおよびイミプラミンを含む多くの芳香族および複素環式アミンを代謝する。CYP1A2*1F対立遺伝子は、より高い誘導能または活性の増加を有する産物をもたらすことができる。Sachseら(1999)Br.J.Clin.Pharmacol.47:445-449を参照。また、CYP2C19は、イミプラミン、シタロプラム、およびジアゼパムを含む多くの基質も代謝する。CYP2C19*2A、*2B、*3、*4、*5A、*5B、*6、*7、および*8対立遺伝子は、ほとんど活性を有さない、または活性の無い産物をコードする。Ibeanuら(1999)J.Pharmacol.Exp.Ther.290:635-640を参照。
【0024】
CYP1A1は、反応性代謝物の肝外生成による毒性またはアレルギー反応と関連づけられ得る。CYP3A4は、アルプラゾラムを含む種々の基質を代謝する。CYP1B1は、反応性代謝物の肝外生成による毒性またはアレルギー反応と関連づけることができ、また、ステロイドホルモン(例えば、17β−エストラジオール)を代謝する。CYP2A6およびCYP2B6のための基質は、バルプロ酸およびブプロピオンをそれぞれ含む。CYP2C9のための基質は、タイレノールおよびアンタビュース(ジスルフィラム)を含む。CYP2E1のための基質は、フェニトインおよびカルバマゼピンを含む。1つまたは複数のチトクロムP450酵素における活性の減少は、1つまたは複数の他のチトクロムP450酵素に影響を及ぼし得る。
【0025】
(表1)チトクロムP450遺伝子



【0026】
典型的には、薬物を選択するために、薬物代謝酵素をコードする遺伝子の遺伝子型に加え、他の標的遺伝子の遺伝子型もまた得られる。標的遺伝子は、薬物の特定のクラスに反応する患者の能力に関連する産物をコードすることができる。例えば、抗うつ剤を選択するために、標的遺伝子は、セロトニントランスポータ遺伝子およびセロトニン受容体2A遺伝子であることができる。したがって、一実施形態においては、遺伝子のパネルは、CYP2D6遺伝子、1A2遺伝子、および2C19遺伝子、セロトニントランスポータ遺伝子、ならびにセロトニン受容体2A遺伝子であることができる。抗精神病薬を選択するために、標的遺伝子は、ドーパミントランスポータ遺伝子であることができる。
【0027】
表2は、薬物代謝酵素をコードする遺伝子に加えて、遺伝子型同定され得る標的遺伝子に関する対立遺伝子を記載する。例えば、遺伝子型同定される遺伝子のパネルは、1つまたは複数のドーパミン受容体遺伝子(例えば、ドーパミン受容体D1、D2、D3、D4、D5、および/またはD6をコードする遺伝子)、ドーパミントランスポータ遺伝子、1つまたは複数のセロトニン受容体遺伝子(例えば、セロトニン受容体1A、1B、1D、2A、または2Cをコードする遺伝子)、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)遺伝子、あるいはトリプトファン水酸化酵素遺伝子を含むことができる。一実施形態においては、COMT遺伝子およびトリプトファン水酸化酵素遺伝子は、チトクロムP450遺伝子を有するパネル上に含まれる。他の実施形態においては、1つまたは複数のドーパミン受容体遺伝子、1つまたは複数のセロトニン受容体遺伝子、COMT遺伝子、およびトリプトファン水酸化酵素遺伝子は、チトクロムP450遺伝子と組み合わせて評価される。
【0028】
(表2)



【0029】
例えば、抗うつ剤を選択するために、3つの(例えば、2D6、2C19、および1A2をコードする遺伝子)または4つのチトクロムP450遺伝子(例えば、2D6、2C19、3A4、および1A2をコードする遺伝子)、セロトニントランスポータ(5HTTR)遺伝子、およびセロトニン受容体2A(HTR2A)遺伝子の遺伝子型が患者において評価され得る。特に、患者が、CYP2D6*2、*3、*4、*10、*17、または*5del対立遺伝子、CYP2C19*2(A,B)、*3、*4、*5(A,B)、*6、*7、*8対立遺伝子、CYP1A2*1F対立遺伝子、セロトニントランスポータ遺伝子の短または長形、およびHTR2A T102C多型を持つかどうかを判定することができる。3A4遺伝子がパネルに含まれる実施形態において、患者が、CYP3A4*1B、*2、*5、*6、*12、*13、*15A、*17、または*18A対立遺伝子を持つかどうかを判定することができる。これらの遺伝子のそれぞれは、少なくとも1つの抗うつ剤薬物の代謝に影響するか、より良好な治療反応と関連する。本明細書に記載するように、アルゴリズムは、6つの遺伝子(例えば、2D6遺伝子、2C19遺伝子、3A4遺伝子、1A2遺伝子、5HTTR遺伝子、およびHTR2A遺伝子)の遺伝子型に関連する一連の6つの規則に基づいて作成された。同様に、アルゴリズムは、5つの遺伝子(例えば、2D6遺伝子、2C19遺伝子、1A2遺伝子、5HTTR遺伝子、およびHTR2A遺伝子)に関連する一連の5つの規則に基づいて作成され得る。これらのアルゴリズムに基づき、患者の遺伝子型に基づいた薬物特性が所定の患者に提供され、患者が特定の抗うつ剤に反応するかまたは耐性があるかどうかを判定する試行錯誤を経ることなく、許容可能な抗うつ剤を臨床医が選択することが可能になる。
【0030】
遺伝子型の判断
mRNAを使用することもできるが、概して、ゲノムDNAが遺伝子型を決定するために使用される。ゲノムDNAは、典型的には、末梢血液試料等の生体試料から抽出されるが、組織(例えば、口腔粘膜の粘膜擦過または腎もしくは肝組織から)を含む他の生体試料から抽出することができる。通例の方法は、血液または組織試料からゲノムDNAを抽出するために使用することができ、その方法には、例えば、フェノール抽出が含まれる。代替として、ゲノムDNAは、QIAamp(登録商標)Tissue Kit(Qiagen,Chatsworth,カリフォルニア州)、Wizard(登録商標)ゲノムDNA精製キット(Promega)、およびA.S.A.P.(商標)ゲノムDNA単離キット(Boehringer Mannheim, Indianapolis,インディアナ州)等のキットで抽出することができる。
【0031】
典型的には、増幅ステップは、遺伝子型同定を進める前に行われる。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)技術を使用して、患者から増幅産物を得ることができる。PCRは、標的核酸が酵素的に増幅される手順または技術を言う。関心の領域または範囲外の領域の末端からの配列情報は、典型的には、増幅される鋳型の逆鎖と配列が同一であるオリゴヌクレオチドプライマーを設計するために用いられる。PCRは、総ゲノムDNAまたは総細胞RNAからの配列を含む、DNAならびにRNAから特定の配列を増幅するために使用され得る。プライマーは、典型的には、14から40ヌクレオチドの長さであるが、10ヌクレオチドから何百ものヌクレオチドの長さの範囲であり得る。一般的なPCR技術は、例えば、PCR Primer:A Laboratory Manual, Dieffenbach, C. およびDveksler編,G., Cold Spring Harbor Laboratory Press,1995に記載される。鋳型の源としてRNAを使用する場合、逆転写酵素が、相補的DNA(cDNA)鎖を合成するために使用され得る。また、リガーゼ連鎖反応、鎖置換増幅、自己維持的配列複製または核酸配列ベースの増幅は、単離核酸を得るために使用され得る。例えば、Lewis(1992) Genetic Engineering News 12(9):1、Guatelliら(1990)Proc. Natl. Acad. Sci USA 87:1874-1878、およびWeiss(1991)Science 254:1292-1293を参照。
【0032】
典型的には、プライマーは、10から50ヌクレオチドの長さの単鎖または2本鎖オリゴヌクレオチドであり、かつ哺乳類ゲノムDNAと組み合わされて、PCR条件を受ける場合に、遺伝子内の関心領域に対応する核酸産物を産生するために伸長させることができる。典型的には、PCR産物は、少なくとも30ヌクレオチドの長さ(例えば、30、35、50、100、250、500、1000、1500、または2000以上のヌクレオチドの長さ)である。表7に記載したもの等のプライマーはドーパミントランスポータ、ドーパミン受容体、トリプトファン水酸化酵素、セロトニントランスポータ、セロトニン受容体、およびCOMTをコードする遺伝子に関するPCR産物を産生するために特に有用である。一対のオリゴヌクレオチドプライマーを同じPCR反応で使用する場合に、哺乳類DNAの特定の領域は増幅する(つまり、多数の正確なコピーが産生されるように複製される)ことができ、一方のプライマーは、核酸のコード鎖からのヌクレオチド配列を含み、他方のプライマーは、核酸の非コード鎖からのヌクレオチド配列を含む。核酸の「コード鎖」は、特定のRNA転写物と(RNA転写物がチミジン残基の代わりにウラシルを含有することを除いて)同じヌクレオチド配列を有する非転写鎖であり、一方、核酸の「非コード鎖」は、転写のための鋳型として機能する鎖である。
【0033】
単一PCR反応混合物は、一対のオリゴヌクレオチドプライマーを含み得る。代替として、単一反応混合物は、複数のオリゴヌクレオチドプライマー対を含み得、この場合、多数のPCR産物が生成され得る(例えば、5、10、15、または20プライマー対)。各プライマー対は、例えば、1つのエクソンまたは1つのエクソンの一部を増幅することができる。また、イントロン配列も増幅され得る。
【0034】
関心遺伝子のエクソンまたはイントロンは増幅され、次いで、直接配列決定され得る。色素プライマー配列決定を、ヘテロ接合性試料検出の精度を増加させるために使用することができる。代替として、後述する1つまたは複数の技術を、遺伝子型を決定するために使用できる。
【0035】
例えば、対立遺伝子に特異性を有するハイブリダイゼーションを、哺乳類の完全なハプロタイプを含む配列変異体を検出するために使用することができる。Stonekingら,1991,Am. J. Hum. Genet. 48:370−382、およびPrinceら,2001,Genome Res.,11(1):152−162を参照。実際には、1つまたは複数の哺乳類からのDNAまたはRNAの試料は、対のプライマーを使用して増幅することができ、結果として生じる増幅産物は、基材上(例えば、不連続領域中)で固定化され得る。核酸プローブが、例えば変異体核酸配列等の関心配列に特異的に結合できるように、ハイブリダイゼーション条件は選択される。そのようなハイブリダイゼーションは、一部の配列変異体が単一ヌクレオチドの差異のみを含むため、典型的には高いストリンジェンシー下で行われる。高いストリンジェンシー条件は、低イオン強度溶液の使用および洗浄への高い温度を含むことができる。例えば、核酸分子は、2X SSC(0.3M NaCl/0.03M クエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate:SDS))中42℃でハイブリダイズすることができ、0.1X SSC(0.015M NaCl/0.0015Mクエン酸ナトリウム)、0.1%SDS中65℃で洗浄することができる。ハイブリダイゼーション条件は、長さおよび配列組成を含む核酸分子の固有な特徴を考慮するように調節され得る。プローブは、検出を促進するために(例えば、蛍光で)標識することができる。一部の実施形態においては、増幅反応で使用されるプライマーの1つは、ビオチン標識され(例えば、逆方向プライマーの5'末端)、結果として生じるビオチン標識された増幅産物は、アビジンまたはストレプトアビジン被覆基材上(例えば、不連続領域中)で固定化される。
【0036】
対立遺伝子特異的な制限消化は、以下の方法で行うことができる。制限部位を導入するヌクレオチド配列変異体では、特定の制限酵素を用いる制限消化は、対立遺伝子を区別することができる。共通制限部位を変化させない配列変異体では、変異プライマーは、変異体対立遺伝子が存在する場合または野生型対立遺伝子が存在する場合に、制限部位を導入するように設計され得る。関心核酸の一部は、変異プライマーおよび野生型プライマーを使用して増幅することができ、続いて適切な制限エンドヌクレアーゼで消化することができる。
【0037】
1つまたは複数のヌクレオチドの挿入または欠失等の特定の変異体は、変異体を包含するDNAフラグメントのサイズを変更させる。変異体を包含する領域を増幅し、サイズ標準と比較して増幅された産物のサイズを測定することによって、ヌクレオチドの挿入または欠失を評価することができる。例えば、関心遺伝子の領域は、変異体のいずれか一方の側からのプライマーセットを使用しても増幅され得る。プライマーのうちの1つは、典型的には、サイズ決定を容易にするために、例えば蛍光部分で標識される。増幅された産物を、プライマーとは異なる蛍光部分で標識されるサイズ標準セットとともに、アクリルアミドゲルを介して電気泳動することができる。
【0038】
PCR条件およびプライマーは、変異体対立遺伝子が存在する場合にのみ、または野生型対立遺伝子が存在する場合にのみ(MSPCRまたは対立遺伝子に対して特異的なPCR)、産物を増幅するように開発することができる。例えば、患者DNAおよび対照は、野生型プライマーまたは変異体対立遺伝子に特異的であるプライマーのいずれか一方を使用して、別々に増幅することができる。反応物の各セットを、次いで、DNAを可視化する標準的な方法を使用して増幅産物の存在について検査する。例えば、反応物を、アガロースゲルによって電気泳動し、DNAを、エチジウムブロマイドまたは他のDNA挿入色素で染色することによって可視化することができる。ヘテロ接合性患者からのDNA試料では、反応産物は各反応において検出されるだろう。野生型対立遺伝子だけを含有する患者試料は、野生型プライマーを使用する反応においてのみ増幅産物を有するだろう。同様に、変異体対立遺伝子だけを含有する患者試料は、変異体プライマーを使用する反応においてのみ増幅産物を有するだろう。また、2つのエネルギー移動で標識した汎用プライマー(例えば、蛍光等の緑色色素で標識された1つのプライマーおよびスルホローダミン等の赤色色素で標識された1つのプライマー)に対してプライミング部位を導入する対立遺伝子に特異的なプライマーを使用して、対立遺伝子に特異的なPCRを行うこともできる。増幅産物を、プレートリーダにおいて緑色および赤色蛍光に対して分析することができる。Myakishevら,2001,Genome11(1):163−169を参照。
【0039】
ミスマッチ開裂方法も、PCR増幅で異なる配列を検出し、続いて、野生型配列およびミスマッチ部分での開裂とのハイブリダイゼーションのために使用することができる。カルボジイミドまたはヒドロキシルアミンおよび4酸化オスミウム等の化学試薬を、ミスマッチのヌクレオチドを修飾して、開裂を促進するために使用することができる。
【0040】
また、多くのチトクロムP450変異体を検出するためのキットも市販されている。例えば、TAG−IT(商標)キットは、Tm Biosciences Corporation(Toronto、オンタリオ州)から入手可能である。
【0041】
薬物の選択
パネル上の各遺伝子に対して遺伝子型を決定した後、薬物を選択することができる。典型的には、選択するステップは、チトクロムP450遺伝子の遺伝子型を、各チトクロムP450遺伝子によってコードされた各チトクロムP450酵素の薬物を代謝する能力と相関させることを含む。例えばセロトニントランスポータおよびセロトニン受容体2A等のパネル上の他の標的遺伝子の遺伝子型は、患者の薬物に反応する能力と相関させることができる。
【0042】
アルゴリズムを、個々の患者への最も適切な薬物を選択するために使用することができる。アルゴリズムの設計は、多数の可能性のある薬物の予備的同定をもたらす表現型の最初の同定を必要とする。アルゴリズムの次のステップで、標的遺伝子分析の結果を順次入力することができる。適切な薬物の潜在的リストは、最初に同定された可能性のある選択肢のセットにおける同定された薬物のそれぞれに、正、負、または中立の確立を割り当てるアルゴリズム方程式における特定の補助因子に基づいて、その後順位序列することができる。この過程は、患者が有する遺伝子型多型に基づいて順位序列を調節する。アルゴリズム方程式の次の入口点で、CYP遺伝子分析の結果を導入することができる。このアルゴリズム分析は、薬物を以下の3つのカテゴリに入れるように設計される。(1)使用に許容可能な薬物、つまり、特定の遺伝子型を有する個人において正常代謝の高い確率を有する薬物、(2)慎重にすれば使用できる薬物(例えば、薬物は、通常ではない代謝に基づいて何らかの投薬調節を必要とする可能性がある)、および(3)例えば、投薬において起こり得る問題のために、回避されるべきまたは注視および監視しながら使用されるべき薬物。選択過程のこの時点で、患者の一等親および二等親の親族の薬物反応に関連するデータを、同定された第1のカテゴリ内での薬剤の薬物選択に関連するアルゴリズム方程式に入力することができる。次いで、順位序列された適切な薬物の調節は、家族の臨床反応に基づいて計算され得る。
【0043】
適切な薬物の選択は、標的データおよび薬剤代謝に関連するデータの両方を含むことによってさらに向上させることができる。これにより、特定の患者の臨床反応に対するCYP産物の影響を判定することができる。例えば、標的データおよび薬剤代謝に関連するデータを含めることにより、使用可能な薬剤の量、患者の薬剤を利用する能力、および薬剤の受容体標的の質に関する情報を提供し、薬物選択の合理的なアプローチを提供する。
【0044】
この過程の実施例は、所定の患者への適切な抗うつ剤の選択であろう。うつ病の表現型が確立され次第、最初の多数の抗うつ剤薬物が同定される。例えば、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオン、エシタロプラム、セルトラリン、ミルタザピン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、パロキセチン、およびノルトリプチリンは、最初の多数の抗うつ剤薬物群となり得る。付加的な抗うつ剤が使用可能となるにつれて、または付加的な薬理ゲノミクスデータが使用可能となるにつれて、この最初の多数の薬物群を変更できることを理解されたい。その後、標的遺伝子型同定からデータを入力する。アルゴリズムの第1の構成要素の実行時に、遺伝子型が、2D6に関する低代謝および1A2に関する正常代謝を反映することが明らかとなった場合、薬物の順位序列は、推奨用量で効果的なおよび適切に管理される可能性がある薬物としてフルボキサミンおよびブプロプリオンを同定するだろう。アルゴリズムの次の段階で、個人がセロトニントランスポータ遺伝子の長形に対してホモ接合性である場合、フルボキサミンは、使用に許容可能なものとして確認されるだろう。次いで、アルゴリズムからの出力は、履歴データと一体化することができる。例えば、家族がフルボキサミンに良好に反応した場合、これは薬物が使用に許容可能なことを確証し、または1等親および2等親の親族がこの薬物に対して問題のある反応を有した場合、代替物が選択され得る。
【0045】
コンピュータシステム
本明細書に記述した技術は、コンピュータプログラムにおいて特定の命令を実行するプロセッサを有するコンピュータシステムにおいて実施することができる。コンピュータシステムは、患者の遺伝子型を受け取るステップに基づいて、薬物特性を出力するようにアレンジしてもよい。特に、コンピュータプログラムは、システムが、個々の患者への最も適切な薬物(例えば、向精神薬)を選択できるようにする命令を含み得る。
【0046】
以下は、システムに含まれ得る特徴の実施例である。コンピュータシステムが、受け取ったデータに基づいて表現型を同定し、多数の可能性のある薬物群の予備的同定を提供できるように、コンピュータプログラムを構成してもよい。システムは、アルゴリズム方程式の特定の補助因子に基づいて、同定された薬物を順位序列することが可能であり得る。システムは、患者が保有する遺伝子型多型に基づいて順位序列を調節することが可能であり得る。システムは、患者の家族によって等の臨床反応に基づいて順位序列を調節することが可能であり得る。
【0047】
図1は、一実施形態に準じる上記の操作において使用することができるコンピュータシステム100のブロック図である。システム100は、プロセッサ110、メモリ120、記憶装置130および入力/出力装置140を含む。構成要素110、120、130および140のそれぞれは、システムバス150を使用して相互接続される。システムは、患者の遺伝子型を決定するための分析機器160を含み得る。
【0048】
プロセッサ110は、システム100内での実行命令を処理することが可能である。一実施形態においては、プロセッサ110は、単一スレッドプロセッサである。別の実施形態においては、プロセッサ110は、マルチスレッドプロセッサである。プロセッサ110は、情報を入力/出力装置140を介して送受信するためのものを含む、メモリ120内または記憶装置130上に保存された命令を処理することができる。
【0049】
メモリ120は、システム100内に情報を保存する。一実施形態においては、メモリ120は、コンピュータ可読媒体である。一実施形態においては、メモリ120は、揮発性メモリユニットである。他の実施形態では、メモリ120は、不揮発性メモリユニットである。
【0050】
記憶装置130は、システム100に大容量記憶を提供することが可能である。一実施形態においては、記憶装置130は、コンピュータ可読媒体である。種々の異なる実施形態においては、記憶装置130は、フロッピーディスク装置、ハードディスク装置、光ディスク装置、またはテープ装置であり得る。
【0051】
入力/出力装置140は、システム100に入力/出力操作を提供する。一実施形態においては、入力/出力装置140は、キーボードおよび/または位置決め装置を含む。一実施形態においては、入力/出力装置140は、グラフィカルユーザインターフェースを表示するための表示ユニットを含む。
【0052】
システム100は、データベースを構築するために使用することができる。図2は、患者への薬物を選択するのに使用するためのデータベースを構築する方法200のフローチャートを示す。好ましくは、方法200は、システム100において行われる。例えば、コンピュータプログラム製品は、プロセッサ110に方法200のステップを行わせる命令を含むことができる。方法200は、以下のステップを含む。
【0053】
ステップ210では、遺伝子のパネルのために複数の遺伝子型170を受け取る。システム100内のコンピュータプログラムは、入力/出力装置140上に適切なグラフィカルユーザインターフェースを提示するための命令を含んでもよく、グラフィカルユーザインターフェースは、キーボード等の入力/出力装置140を使用して、遺伝子型170を入力するようにユーザを促すことができる。
【0054】
ステップ220では、複数の薬物特性180を受け取る。薬物特性180は、遺伝子型170に基づいて特定される。ユーザは、キーボード等の入力/出力装置140を使用して薬物特性180を入力することができる。例えば、薬物特性180は、少なくとも1つの薬物に関する情報190を含んでもよい。
【0055】
ステップ230では、各薬物特性180が遺伝子型170のうちの1つと関連するように、受け取った遺伝子型170および薬物特性180を保存する。システム100は、記憶装置130に薬物特性180および遺伝子型170を保存することができる。例えば、保存するステップが完了すると、システム100は、特定の遺伝子型170と関連する特定の薬物特性180のうちの1つを同定することができる。薬物特性180を同定すると、システム100は、以下の実施例において説明するような同定された薬物特性180内に含まれる情報190にアクセスすることができる。
【0056】
システム100は、薬物を選択するために使用することができる。図3は、患者への薬物を選択する方法300のフローチャートを示す。好ましくは、方法300は、システム100において行われる。例えば、コンピュータプログラム製品は、プロセッサ110に方法300のステップを行わせる命令を含むことができる。方法300は、以下のステップを含む。
【0057】
ステップ310では、遺伝子のパネルのための患者の遺伝子型を受け取る。遺伝子型は、入力/出力装置140を介してユーザによって入力されてもよい。例えば、ユーザは、分析機器160(システム100に接続されてもよく、またはされてなくてもよい)を使用して、遺伝子のパネルのための患者の遺伝子型を得てもよい。ユーザは、システム100が受け取るように、キーボード等の入力/出力装置140に患者の遺伝子型をタイプしてもよい。
【0058】
遺伝子型は、分析機器160から直接受け取ることができる。例えば、分析機器160は、ネットワークで通信できるように、プロセッサおよび適切なソフトウェアを含んでもよい。システム100は、ネットワークアダプタ等の入力/出力装置140を介して分析機器160に接続され、患者の遺伝子型を直接受け取ることができる。
【0059】
ステップ320では、患者の遺伝子型と関連する薬物特性180のうちの1つを同定する。例えば、システム100は、記憶装置130においてデータベース検索を行うことができる。特に、システム100は、一致が見つかるまで、個々の薬物特性180に関する遺伝子型170にアクセスすることができる。任意のステップ325を下記で説明する。
【0060】
ステップ330では、患者の遺伝子型を受け取るステップに応答して、同定された薬物特性180を出力する。システムは、入力/出力装置140を介して同定された薬物特性180を出力することができる。例えば、同定された薬物特性は、表示装置上の適切なグラフィカルユーザインターフェースに印字または表示することができる。別の実施例として、システム100は、入力/出力装置140が接続されるローカルエリアネットワークまたはインターネット等のネットワークを介して同定された薬物特性を送信してもよい。
【0061】
薬物特性180は、どのようにシステム100がそれらを出力するかの点で柔軟性があるように作成することができる。例えば、1つまたは複数の薬物特性180における情報190は、いくつかの薬剤の順位を含むことができる。プログラムは、受け取った患者の遺伝子型に規則を適用するための命令を含んでもよく、それに従って順位を調節することができる。そのような履行において、方法300は、同定された薬物特性を出力する前に、順位を調節する任意のステップ325を含むことができる。例えば、システム100は、患者が有する遺伝子型多型を(任意で、患者の遺伝子型が受け取られたのと同じ方法で)受け取ることができ、ステップ325において、それに従って順位を調節し得る。別の実施例として、ステップ325は、臨床反応に基づいて順位を調節するステップを含み得る。臨床反応は、患者の遺伝子型と同じ方法で、システム100によって受け取ることができる。例えば、順位は、患者の家族の一員による臨床反応に基づいて調節することができる。
【0062】
薬物特性180は、必要に応じて更新することができる。例えば、新しい薬物の市場への導入は、1つまたは複数の既存の薬物特性の修正を促し得る。また、新しい薬物は、新しい薬物特性を作成するための基礎となり得る。薬物特性の調節または作成は、実質的に上記のように行われてもよい。
【0063】
薬物特性180は、それらが作成された同じシステムにおいて、または異なるシステムにおいて、薬物選択のために使用することができる。すなわち、システム100は、薬物特性180のデータベースを構築するために最初に使用することができ、その後、システム100は、特定の患者への遺伝子型に関する薬物特性を選択するために使用することができる。別の実施例として、1つまたは複数の薬物特性180は、本発明によれば、リモート処理のためにグローバルコンピュータネットワーク等のコンピュータ可読媒体内で送信することができる。
【0064】
製造品
一実施形態においては、製造品は、オリゴヌクレオチドプライマーを含有する組成物である。典型的には、そのような組成物は、それぞれ10から50ヌクレオチドの長さである第1のオリゴヌクレオチドプライマーおよび第2のオリゴヌクレオチドプライマーを含有し、これらは哺乳類からのゲノムDNAと組み合わせられて、PCR条件を受けることができ、標的遺伝子内の関心領域に対応する核酸産物を生じる。組成物は、PCR(例えば、DNAポリメラーゼまたはヌクレオチド)に必要である緩衝液および他の試薬も含有してよい。さらに、組成物は、複数のの核酸産物を生成することができるように、1つまたは複数の付加的な対のオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、5、10、15、または20プライマー対)を含有することができる。
【0065】
別の実施形態においては、製造品は、基材上に固定化された核酸分子の集団を含む。適切な基材は、核酸の固定化のためのベースを提供し、一部の実施形態においては、不連続領域内への核酸の固定化を可能にする。基材が複数の不連続領域を含む実施形態において、単離核酸の異なる集団は、各不連続領域において固定化することができる。核酸分子の異なる集団は、表1および2に記載した1つまたは複数の対立遺伝子を検出するために、核酸分子を独立して含むことができる。
【0066】
適切な基材は、任意の形状または形態であることができ、例えば、ガラス、シリコン、金属、プラスチック、セルロースまたは合成物で構成することができる。例えば、適切な基材は、マルチウェルプレートもしくは膜、スライドガラス、チップ、またはポリスチレンもしくは電磁ビーズを含むことができる。核酸分子またはポリペプチドは、原位置で合成、基材上に直接固定化、または共有結合、イオン結合、もしくは物理的結合によるものを含むリンカーを介して固定化することができる。可逆的または切断可能なリンカーを含む、核酸およびポリペプチドを固定化するためのリンカーは、当技術分野においては既知である。例えば、米国特許第5,451,683号およびWO98/20019を参照。固定化された核酸分子は、典型的には、約20ヌクレオチドの長さであるが、約10ヌクレオチドから約1000以上ヌクレオチドの長さまで、さまざまであり得る。
【0067】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、これらは、特許請求の範囲に記述される本発明の範囲を限定するものではない。
【0068】
実施例
実施例1
患者のCYP450遺伝子型
この実験は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤に対して非定型反応を持つ青年のアセスメント結果を明らかにする。欠乏をもたらす以下のCYP2D6対立遺伝子を検出した。*2(1661G>Cおよび2850C>T)、*3(2549A>del)、*4(1661G>Cおよび1846G>A)、*10(100C>T、1661G>Cおよび1846G)、*17(1023C>Tおよび2850C>T)。CYP2D6(*5del)の欠失は、PCR増幅後の電気泳動法によって検出した。CYP2D6遺伝子の縦列重複を、電気泳動法後の検出によって、重複特異的な配列の増幅によって検出した。
【0069】
ゲノムDNAを、以下に記載したプライマーを使用して、Applied Biosystems Thermal Cyclerにおいてポリメラーゼ連鎖反応で増幅した。小文字「f」および「r」は、合成の方向を意味する(「f」は、前方/センス合成反応を示し、「r」は、逆向きアンチセンス合成反応を示す)。増幅されたDNAは、正常および多型変異体に特異性を有するオリゴヌクレオチドプローブ(後述)とハイブリダイズし、Nanogen Molecular Biology Workstationを使用して検出した。オリゴヌクレオチドプローブを蛍光で標識した(例えば、CY3またはCY5)。
【0070】
PreNestオリゴヌクレオチド(1次増幅)
増幅プライマー:

【0071】
Nestオリゴヌクレオチド(2次増幅)
CYP2D6(C100T)
増幅プライマー

プローブおよび安定剤:

【0072】
CYP2D6(C1023T)
増幅プライマー

プローブおよび安定剤:

【0073】
CYP2D6(G1661CおよびG1846A)
注記:この単位複製配列には2つの多型がある。
増幅プライマー:

プローブおよび安定剤:

【0074】
CYP2D6(A2549delおよびC2850T)
増幅プライマー

プローブおよび安定剤:

【0075】
PCR増幅
A.PreNest(最初の増幅)
CYP2D6 PreNest B
CYP2D6(C1661G)、CYP2D6(G1846A)、CYP2D6(A2549Del)、CYP2D6(C100T)、CYP2D6(C2850T)、およびCYP2D6(C1023T)多型に対する最初のPreNest PCRは、試料ごとに以下の試薬を用いて行った。総量50μLにおいて、0.6μL 25μM PreNest B F、0.6μL 25μM PreNestB R、2.5μL 10mM dNTP、39.55μL dH2O、5.0μL Expand Buffer 3(Roche)、0.75μL Expand Enzyme Mix(Roche)、および1.0μlゲノムDNA。PCRは、2分間94℃で保持し、次いで、30サイクルの変性を94℃で30秒間、アニーリングを67℃で30秒間、伸長を68℃で7分間、続いて、10分間72℃での最終的な伸長をすることによって行った。予期されたPCR産物は、ほぼ4.8〜5Kbであった。
【0076】
全てのその後のPCRは、増幅のための鋳型としてPreNest B産物を使用して行った。
【0077】
CYP2D6(100)B
(C100T)ネステッドPCRを、鋳型として1μlの最初のPreNest B単位複製配列を使用して行った。このPCRの産物は、CYP2D6(C100T)変異を検出するために使用し、以下の試薬(25μL総量)を使用する。1.0μl 25μM CYP2D6(100)Bf、1.0μl 25μM CYP2D6(100)Br、12.5μl Qiagen Hot Start Master Mix、および9.5μl dH2O。PCRは、95℃で15分間保持し、次いで、30サイクルの変性を95℃で30秒間、アニーリングを57℃で30秒間、および伸長を72℃で1分間、続いて72℃で7分間の最終的な伸長を行うことによって実施した。
【0078】
CYP2D6(1023)B
(C1023T)ネステッドPCRを鋳型として1μlのPreNest B産物を使用して行った。このPCRの産物は、CYP2D6(C1023T)変異を検出するために使用し、以下の試薬(25μL総量)を使用する。1.0μl 25μM CYP2D6(1023)Bf、1.0μl 25μM CYP2D6(1023)Br、12.5μl Amplitaq Gold Master Mix、および9.5μl dH2O。PCRは、95℃で10分間保持し、次いで、30サイクルの変性を95℃で30秒間、アニーリングを59℃で30秒間、および伸長を72℃で1分間、続いて72℃で7分間の最終的な伸長を行うことによって実施した。
【0079】
CYP2D6(C1661GおよびG1846A)B
(C1661GおよびG1846A)ネステッドPCRを、鋳型として1μlのPreNest B産物を使用して行った。このPCRの産物は、CYP2D6(C1661G)およびCYP2D6(G1846A)変異を検出するために使用し、以下の試薬(25μL総量)を使用する。1.0μl 25μM CYP2D6(1661,1846)Bf、1.0μl 25μM CYP2D6(1661,1846)Br、12.5μl 2X Amplitaq Gold Master Mix、および9.5μl dH2O。PCRは、95℃で10分間保持し、次いで、30サイクルの変性を95℃で30秒間、アニーリングを63℃で30秒間、および伸長を72℃で1分間、続いて72℃で7分間の最終的な伸長を行うことによって実施した。
【0080】
CYP2D6(A2549DelおよびCYP2D6C2850T)B
(A2549DelおよびC2850T)ネステッドPCRを鋳型として1μlのPreNest B産物を使用して行った。このPCRの産物は、CYP2D6(A2549Del)およびCYP2D6(C2850T)変異を検出するために使用し、以下の試薬(25μL総量)を使用する。1.0μl 25μM CYP2D6(2549、2850)Bf、1.0μl 25μM CYP2D6(2549、2850)Br、12.5μl 2X Amplitaq Gold Master Mix、および9.5μl dH2O。PCRは、95℃で10分間保持し、次いで、30サイクルの変性を95℃で30秒間、アニーリングを57℃で30秒間、および伸長を72℃で1分間、続いて72℃で10分間の最終的な伸長を行うことによって実施された。
【0081】
多型は、Nanogensユーザマニュアルに従って、Nanogen Molecular Biology Workstationを使用して検出した。試料は、Millipore脱塩プレート上で脱塩した。1.5ml遠心分離管に、以下の試薬を添加した。2.0μlの野生型プローブ、2.0μlの多型プローブ、2.0μlの安定剤、および44μlの高塩緩衝液。各アッセイは、標識され、それに特異的であるプローブおよび安定剤を有した。試薬をボルテックスし、短時間回転させ、5分間Nanochipアレイ上に分注し、色の濃い容器内に置いた。チップは、2度ごとの読み取りで、24℃から50℃の趨勢方法で読み取った。蛍光プローブは24℃でハイブリダイズさせ、全てのプローブは、50℃で脱ハイブリダイズさせたことが確認された。相対的蛍光ユニット(relative fluorescence unit:RFU)が50℃で任意のチップ上で80を超えた場合、チップは、200μlの1.0M NaOH中に10分間揮散し、dH2Oで3回および高塩緩衝液で1回洗浄した。ヘテロ接合体対照(既知のヘテロ接合体であって、一方は、RFUを「正規化」またはスケールし、他方は、先に遺伝子型同定されたヘテロ接合体に観察される補正趨勢パターンを確認する)および陰性対照(DNAなし)を各多型に対して含めた。バックグラウンド除去法では、L−ヒスチジンを使用した。
【0082】
表3〜5は、異なる年齢グループの参加者総数および上記手順を使用して検出されたCYP2D6推測代謝表現型の概要を述べる。表6は、うつ病の抗うつ剤薬物耐性サブタイプを有する患者において観測された特定の2D6ハプロタイプを提供する。
【0083】
(表3)各グループ分けにおける参加者の総数(全ての年齢、N=86)
CYP2D6推測代謝表現型

【0084】
(表4)各グループ分けにおける参加者の総数(年齢:<19、N=12)
CYP2D6推測代謝表現型

【0085】
(表5)各グループ分けにおける参加者の総数(年齢:>18、N=74)
CYP2D6推測代謝表現型

【0086】
(表6)うつ病の抗うつ剤薬物耐性サブタイプ1

1P=低、N=正常、I=中間、HI=より高い誘導能、WT=野生型


【0087】
これらの青年の全ては、非定型2D6ハプロタイプ(表3〜5を参照)を有することが分かった。また、成人試料におけるチトクロムP450遺伝子対立遺伝子の分析の初期結果は、2D6遺伝子(表3〜5を参照)の多型における高度の可変性も示した。低2D6代謝と関連する多型を有する青年は、2D6酵素によって代謝される選択的セロトニン再取り込み阻害剤で治療された場合に、薬物に対する不良な反応または高頻度の副作用を特徴とする病歴を有することが認められらた。
【0088】
実施例2
ドーパミントランスポータ、ドーパミン受容体、トリプトファン水酸化酵素、セロトニン受容体、およびCOMT遺伝子の遺伝子型の決定
表7の以下のプローブおよびプライマーは、ドーパミントランスポータ(DAT1、SLC6A3)、ドーパミン受容体(DRD1、DRD2、DRD3、DRD4、およびDRD5)、トリプトファン水酸化酵素(TPH)、セロトニントランスポータ(5−HTT)、セロトニン受容体(HTR1A、HTR1B、HTR1D、HTR2A、およびHTR2C)、およびCOMT遺伝子の遺伝子型を検出するために生成することができる。



【0089】
実施例3
CYP2D6、CYP2C19、および5HTTR遺伝子の遺伝子型を、上述の方法を使用して97人の患者において判定した。実施例1に示すように、CYP2D6*2、*3、*4、*10、*17、および*5del対立遺伝子、CYP2C19*2(A、B)、*3、*4、*5(A、B)、*6、*7、および*8対立遺伝子、ならびに5HTTR遺伝子の短/長形を評価した。
【0090】
遺伝子型同定された各患者は、少なくとも1つの抗うつ剤薬物に対する不良な反応または少なくとも1つの抗うつ剤薬物に対する耐え難い副作用のいずれか一方を呈した。遺伝子型情報に基づいて、18薬物特性を生成した(表8)。表8において、PMは、低代謝群であり、IMは、中間代謝群であり、EMは、高代謝群であり、sは、遺伝子の短形であり、lは、遺伝子の長形である。各薬物特性は、使用に許容可能な抗うつ剤薬物、慎重に使用される抗うつ剤薬物、ならびに避けられるまたは慎重におよび厳密に監視して使用される抗うつ剤薬物を提供する。
【0091】
(表8)薬理学的研究からの薬物アルゴリズムマイクロアレイ結果

【0092】
薬物特性1は、2D6および2C19低代謝群ならびに5HTTR遺伝子のs/s形と関連する。薬物特性1を有する患者において、ブプロピオンは使用に許容可能であり、ミルタザピンおよびフルボキサミンは慎重に使用することができ、一方、シタロプラム、エシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、ノルトリプチリン、およびセルトラリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0093】
薬物特性2は、2D6および2C19低代謝群ならびに5HTTR遺伝子のs/l形と関連する。薬物特性2を有する患者において、フルボキサミンおよびブプロピオンは使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは慎重に使用することができ、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0094】
薬物特性3は、2D6および2C19低代謝群ならびに5HTTR遺伝子のl/l形と関連する。薬物特性3を有する患者において、フルボキサミンおよびブプロピオンは使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは慎重に使用することができ、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0095】
薬物特性4は、2D6低代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のs/s形と関連する。薬物特性4を有する患者において、ブプロピオンは使用に許容可能であり、ミルタザピン、シタロプラム、フルボキサミン、およびエシタロプラムは、慎重に使用することができ、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、ノルトリプチリン、およびセルトラリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0096】
薬物特性5は、2D6低代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のs/s形と関連する。薬物特性5を有する患者において、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオンおよびエシタロプラムは使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは慎重に使用することができ、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0097】
薬物特性6は、2D6低代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のl/l形と関連する。薬物特性6を有する患者において、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオンおよびエシタロプラムは、使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは、慎重に使用することができ、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0098】
薬物特性7は、2D6中間代謝群、2C19低代謝群、および5HTTR遺伝子のs/s形と関連する。薬物特性7を有する患者において、ブプロピオンは、使用に許容可能であり、ミルタザピン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、フルボキサミン、およびセルトラリンは、慎重に使用することができ、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、フルオキセチン、イミプラミン、およびパロキセチンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0099】
薬物特性8は、2D6中間代謝群、2C19低代謝群、および5HTTR遺伝子のs/l形と関連する。薬物特性8を有する患者において、フルボキサミン、ブプロピオン、およびセルトラリンは使用に許容可能であり、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、およびノルトリプチリンは慎重に使用することができ、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、フルオキセチン、およびイミプラミンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0100】
薬物特性9は、2D6中間代謝群、2C19低代謝群、および5HTTR遺伝子のl/l形と関連する。薬物特性9を有する患者において、フルボキサミン、ブプロピオン、およびセルトラリンは使用に許容可能であり、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、およびノルトリプチリンは、慎重に使用することができ、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、フルオキセチン、およびイミプラミンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0101】
薬物特性10は、2D6高代謝群、2C19低代謝群、および5HTTR遺伝子のs/s形と関連する。薬物特性10を有する患者において、ブプロピオンおよびベンラファキシンは使用に許容可能であり、ミルタザピン、ノルトリプチリン、イミプラミン、アミトリプチリン、セルトラリン、パロキセチン、およびフルオキセチンは、慎重に使用することができ、ならびにフルボキサミン、シタロプラム、およびエシタロプラムは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0102】
薬物特性11は、2D6高代謝群、2C19低代謝群、および5HTTR遺伝子のs/l形と関連する。薬物特性11を有する患者において、セルトラリン、ベンラファキシン、パロキセチン、ブプロピオン、およびフルオキセチンは使用に許容可能であり、ならびにミルタザピン、フルボキサミン、ノルトリプチリン、シタロプラム、エシタロプラム、イミプラミン、およびアミトリプチリンは、慎重に使用することができる。
【0103】
薬物特性12は、2D6高代謝群、2C19低代謝群、および5HTTR遺伝子のl/l形と関連する。薬物特性12を有する患者において、セルトラリン、ベンラファキシン、パロキセチン、ブプロピオン、およびフルオキセチンは使用に許容可能であり、ならびにミルタザピン、フルボキサミン、ノルトリプチリン、シタロプラム、エシタロプラム、イミプラミン、およびアミトリプチリンは慎重に使用することができる。
【0104】
薬物特性13は、2D6中間代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のs/s形と関連する。薬物特性13を有する患者において、ブプロピオンおよびミルタザピンは使用に許容可能であり、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、ノルトリプチリン、シタロプラム、フルボキサミン、エシタロプラム、およびセルトラリンは慎重に使用することができ、ならびにパロキセチンおよびフルオキセチンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきである。
【0105】
薬物特性14は、2D6中間代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のs/l形と関連する。薬物特性14を有する患者において、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオン、エシタロプラム、セルトラリン、およびミルタザピンは使用に許容可能であり、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、慎重に使用することができる。
【0106】
薬物特性15は、2D6中間代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のl/l形と関連する。薬物特性15を有する患者において、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオン、エシタロプラム、セルトラリン、およびミルタザピンは使用に許容可能であり、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは慎重に使用することができる。
【0107】
薬物特性16は、2D6高代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のs/s形と関連する。薬物特性16を有する患者において、ブプロピオン、ミルタザピン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは使用に許容可能であり、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、フルボキサミン、セルトラリン、エシタロプラム、およびシタロプラムは慎重に使用することができる。
【0108】
薬物特性17は、2D6高代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のs/l形と関連する。薬物特性18は、2D6高代謝群、2C19高代謝群、および5HTTR遺伝子のl/l形と関連する。薬物特性17または18を有する患者において、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオン、エシタロプラム、セルトラリン、ミルタザピン、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、使用に許容可能である。
【0109】
実施例4
CYP2D6、CYP2C19、CYP3A4、CYP1A2、およびHTR2A遺伝子の遺伝子型を、上述の方法を使用して10人の患者において決定した。5HTTR遺伝子の遺伝子型は、領域に隣接するプライマーを使用して、遺伝子の多型領域を増幅することによって決定した。反応産物は、電気泳動法(Agilent Technologies)を使用してサイズ決定した。CYP3A4*1B、*2、*5、*6、*12、*13、*15A、*17、および*18A対立遺伝子、CYP1A2*1F対立遺伝子、ならびにHTR2A 102多型を検出した。
【0110】
CYP2D6遺伝子型に基づいて、患者を、低、中間、高、または超急速代謝群に分類した。CYP2C19、CYP3A4、およびCYP1A2遺伝子型のそれぞれについて、患者を、高または高でない(つまり、低)代謝群のいずれか一方に分類した。5HTTR遺伝子型については、患者を、遺伝子の短/短(s/s)形、遺伝子の短/長(s/l)形、または遺伝子の長/長(l/l)形を有するとして分類した。HR2A遺伝子型については、患者を、C/C対立遺伝子を有するまたはT/TもしくはT/C対立遺伝子を有するとして分類した。
【0111】
以下の6つの規則は、遺伝子型を192の治療推奨に分類するために使用された。第1の規則はCYP2D6遺伝子型に関する。低代謝群および急速代謝群では、CYP2D6基質を、「厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れた。中間代謝群では、排他的CYP2D6基質を、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れた。中間代謝群では、CYP2D6によって部分的に代謝される基質を、「注意深く使用する」カテゴリに入れた。高代謝群では、CYP2D6基質を、「使用に許容可能」カテゴリに入れた。
【0112】
第1の規則を適用後、2C19遺伝子型に関する第2の規則を適用した。それらのCYP2C19遺伝子型に基づく低代謝群では、排他的CYP2C19基質を、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れた。自身のCYP2C19遺伝子型に基づく高または中間代謝群では、CYP2C19基質を、「使用に許容可能」カテゴリに入れた。CYP2D6およびCYP2C19の両方によって主に代謝される基質は、CYP2C19が低であり、CYP2D6が中間または低のいずれかであった場合に、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れ、またはCYP2C19が低であり、CYP2D6が高であった場合は、「注意深く使用する」カテゴリに入れた。
【0113】
3A4遺伝子型に関する第3の規則は、第1および第2の規則を適用後に適用した。それらのCYP3A4遺伝子型に基づく低代謝群では、排他的CYP3A4基質を、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れた。自身のCYP3A4遺伝子型に基づく高または中間代謝群では、CYP3A4基質を「使用に許容可能」カテゴリに入れた。3つの酵素CYP2D6、CYP2C19、またはCYP3A4のうちの任意の2つによって主に代謝される基質は、3つのうちの任意の2つが中間または低代謝群であった場合は、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れ、または2つの最も主要な酵素のうちの1つが低代謝群であった場合は、「注意深く使用する」カテゴリに入れた。
【0114】
1A2遺伝子型に関する第4の規則は、最初の3つの規則を適用後に適用した。CYP1A2遺伝子型に基づく低代謝群では、CYP1A2基質を、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリ(主要CYP1A2基質としてのフルボキサミンを含む)に入れた。CYP1A2遺伝子型に基づく低代謝群では、それらの主要経路のうちの1つとしてCYP1A2経路を有する基質を「慎重に使用する」カテゴリに入れた。
【0115】
最初の4つの規則を適用後、5HTTR遺伝子型に関する第5の規則を適用した。セロトニントランスポータ遺伝子のホモ接合性短遺伝子型(s/s)では、「使用に許容可能」に分類されたSSRIを、「慎重に使用する」カテゴリに移行した。セロトニントランスポータ遺伝子のホモ接合性短遺伝子型(s/s)では、「慎重に使用する」に分類されたSSRIを「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに移行した。SSRIクラス外の抗うつ剤は、5HTTR遺伝子型に基づいてカテゴリを移行しない。
【0116】
最初の5つの規則を適用後に、HR2A遺伝子型に関する第6の規則を適用した。5−ヒドロキシトリプタミンセロトニン受容体2A遺伝子の「変異型」では、パロキセチンが「使用に許容可能」カテゴリにあった場合、これを「慎重に使用する」カテゴリに移行した。パロキセチンが「慎重に使用する」カテゴリにあった場合、これを「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」に移行した。
【0117】
患者の遺伝子型および関連する薬物特性に基づいて、患者に適した薬物を選択した。表9は、10人の患者のデータの概要を述べる。7人のうち4人の患者の事例研究を以下に示す。
【0118】
第1の事例は、遺伝子型同定され、CYP2D6(*3/*9)に関して低代謝群であり、CYP2C19(*2/*2)に関しても低代謝群であることが分かった16歳の白人女性である。彼女は、6歳でADHDであると診断され、治療は不成功に終わっていた。その後、彼女は、うつ病および気分失調症の症状を発現し、EFFEXOR等のCYP2D6によって代謝される多くの薬物治療を受けた。さらに、彼女は、セロトニントランスポータ遺伝子の短形に関してホモ接合性であった。これらの鍵遺伝子の彼女の特異的遺伝子型に基づいて、アルゴリズムは、彼女のうつ病を制御ための潜在的戦略は比較的少ない数しか存在しないことを示す。HR2A TT/TCの彼女の遺伝子型、5HTTRのs/s形、1A2および3A4に関する高代謝群、ならびに2C19および2D6に関する低代謝群に基づいて生成された薬物特性は、ブプロピオンが使用に許容可能であり、ミルタザピンおよびフルオキサミンは、慎重に使用されるべきであり、シタロプラム、エシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、ノルトリプチリン、およびセルトラリンは、避けるべきまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用するべきであることを示した。
【0119】
遺伝子型同定の前に、彼女は、シタロプラムに対して幻覚を起すという(発生率1%未満)特に異常な副作用を有した。この通常でない、かつ危険な副作用は、彼女がこの薬物を受け取る前に遺伝子型同定されていたなら、回避できた可能性がある。シタロプラムの代謝に主として関与する代謝酵素は、CYP2C19であり、2次的な代謝経路は、CYP2D6である。これらの経路の両方が、この患者において機能していなかった。したがって、シタロプラムの適度な用量でさえも、この患者は、急性聴覚および視覚幻覚を発症し、その後、非定型抗精神病薬で治療された。さらに、この患者に有効な治療計画を策定できないことに基づいて、彼女は、2ヶ月間州立病院に紹介される前に、3回の急性期の入院および1回の部分入院経験を必要とした。彼女は、12を超える向精神薬を試して不成功に終わった。臨床医が、標準用量で処方された薬剤の多くを彼女が使用できないことに気付いていたならば、彼女の治療は大幅に改善した可能性があり、恐らく、彼女の入院の一部は、回避できた可能性があることは疑いの余地もない。さらに、彼女のセロトニントランスポータ遺伝子型(C/C)は、処方された薬物の多くに不良な反応を示していただろう。遺伝子型同定の後で、彼女は、代替的な経路(LAMICTAL(ラモトリギン)およびTRILEPTAL(オクスカルバゼピン))によって代謝される2つの気分安定剤の組み合わせを処方された。また、彼女は、彼女が内部代謝経路を有するCYP2D6によって代謝されることに加えて、CYP3A4によって代謝されるABILIFY(アリピプラゾール)での治療に耐容性を示している。現在、彼女は適度に良好である。
【0120】
第2の事例は、持続性抑うつ病および広汎性不安症ならびに向精神薬不耐性の長期にわたる経緯を有する42歳の白人の女性である。この患者は、包括的な神経学的評価をうけたが、彼女の症状に対して基本的な説明をもたらせなかった。この患者は、過去に少なくとも9つの向精神薬で治療された。CYP2D6不耐性の顕著な例としては、パロキセチン摂取時の急性幻覚の発症およびアミトリプチリンへの非常に低い耐性が挙げられる。この患者は、低CYP2D6代謝およ中間CYP2C19代謝を有した。これは、シタロプラムでの治療に耐容性を示すことの困難を示唆するまれな遺伝子型を表す。実際、彼女は、シタロプラム摂取時に易刺激性および嗜眠を有した。さらにこの課題を悪化させたのは、また彼女は、セロトニン受容性阻害剤への不良な反応と関連する、セロトニントランスポータの短形に関するホモ接合性でもあった。彼女は、彼女の精神医学上の問題のために多数の外来通院を行った。病歴のより初期に彼女の遺伝子型を認識していれば、彼女の臨床医は、彼女が耐容性を示すことができなかった多くの薬物を明らかに回避することができただろう。HR2A TT/TCの彼女の遺伝子型、5HTTRのs/s形、1A2および3A4に関する高代謝群、ならびに2C19および2D6に関する低代謝群に基づいて生成された薬物特性は、ブプロピオンが使用に許容可能であり、ミルタザピンおよびフルオキサミンは、慎重に使用されるべきであり、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、ノルトリプチリン、およびセルトラリンは、避けるべきまたは監視とともに慎重に使用するべきであることを示した。
【0121】
第3の病歴は、大うつ病性障害と診断された67歳の女性であり、過去に7つの異なる薬物で治療された。これらは効果的でなく、彼女は2回の精神科入院を必要とした。彼女は、CYP2D6(*4/*9)およびCYP2C19(*2/*2)の両方に関して低代謝群であると判断された。さらに、彼女は、セロトニントランスポータ遺伝子の長形に関してホモ接合性であった。HR2A C/Cの彼女の遺伝子型、5HTTRのl/l形、1A2および3A4に関する高代謝群、ならびに2C19および2D6に関する低代謝群に基づいて、関連した薬物特性は、フルオキサミンおよびブプロピオンが使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは、慎重に使用されるべきであり、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けるべきまたは監視とともに慎重に使用するべきであることを示した。彼女の遺伝子型が既知であったならば、彼女が、EFFEXOR(ベンラファキシン)およびLEXAPRO(エシタロプラムシュウ酸塩)の両方に副作用を有するあろうことを予測することが可能であっただろう。これは、LEXAPROの代謝に関与する3つの代謝経路のうちの2つが完全に不活性であったことを考えれば、予測できた可能性がある。彼女の遺伝子型同定の後で、彼女は、電撃療法(electroconvulsive therapy:ECT)で良好に治療され、同時に、CYP2D6およびCYP2C19に代わる代謝経路を有する、REMERON(ミルタザピン)、トラゾドン、およびKLONOPIN(クロナゼパム)で良好に治療された。
【0122】
第4の事例は、気分変調症および慢性不安症であると診断された50歳の白人女性である。彼女は、耐容性を示すことができなかった2つのCYP2D6薬物を含む多数の向精神薬を処方された。彼女の遺伝子型は、彼女が、低CYP2D6代謝群(*4/*4)および中間CYP2C19代謝群(*1/*2)であったことを示した。彼女は、セロトニントランスポータ遺伝子の長および短形に関してヘテロ接合性であった。HR2A C/Cの彼女の遺伝子型、5HTTRのl/s形、1A2および3A4に関する高代謝群、ならびに2C19および2D6に関する低代謝群に基づいて、関連した薬物特性は、フルオキサミンおよびブプロピオンが使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは、慎重に使用されるべきであり、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けるべきまたは監視とともに慎重に使用するべきであることを示した。
【0123】
この患者は、多大の費用で複数回入院した。また、彼女は、非常に不快であったことが分かる前に、1回量のみのPROZAC(フルオキセチン)およびZOLOFT(セルトラリン)を摂取できたことを含む、さまざまな非精神医学的薬物に耐容性を示すことが困難であることが分かった。特に興味深いのは、彼女は、潜在性用量のパロキセチンに最終的に反応し、これは、通常用量において耐容性を示すことがなかったであろう、効果的な薬物を投与する方法を見つけるためのアルゴリズムを使用する例を示す。
【0124】
(表9)


【0125】
HR2A C/Cの患者番号5の遺伝子型、5HTTRのl/l形、1A2および3A4に関する高代謝群、ならびに2C19および2D6に関する低代謝群に基づいて、関連した薬物特性は、フルオキサミンおよびブプロピオンが使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは、慎重に使用されるべきであり、ならびにシタロプラム、エシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けるべきまたは監視とともに慎重に使用するべきであることを示した。
【0126】
患者番号6の遺伝子型(HTR2A CC、5HTTR l/s、1A2、3A4、および2D6高、ならびに2C19低)と関連する薬物特性は、セルトラリン、ベンラファキシン、ブプロピオン、およびフルオキセチンが使用に許容可能であり、ならびにミルタザピン、フルボキサミン、ノルトリプチリン、シタロプラム、エシタロプラム、イミプラミン、アミトリプチリン、およびパロキセチンは、慎重に使用することができることを示した。
【0127】
患者番号7の遺伝子型(HTR2A TT/TC、5HTTR l/s、1A2、3A4、および2C19高、ならびに2D6超急速)と関連する薬物特性は、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオン、およびエシタロプラムが使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは慎重に使用することができ、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきであることを示した。
【0128】
患者番号8の遺伝子型(HTR2A TT/TC、5HTTR l/l、1A2、3A4、および2C19高、ならびに2D6中間)と関連する薬物特性は、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオン、エシタロプラム、セルトラリン、およびミルタザピンが使用に許容可能であり、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきであることを示した。
【0129】
患者番号9の遺伝子型(HTR2A TT/TC、5HTTR l/s、ならびに1A2、3A4、2C19、および2D6高)と関連する薬物特性は、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオン、エシタロプラム、セルトラリン、ミルタザピン、パロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンが、使用に許容可能であることを示した。
【0130】
患者番号10の遺伝子型(HTR2A TT/TC、5HTTR l/s、1A2、3A4、および2C19高、ならびに2D6低)と関連する薬物特性は、シタロプラム、フルボキサミン、ブプロピオン、およびエシタロプラムが使用に許容可能であり、セルトラリンおよびミルタザピンは、慎重に使用されるべきであり、ならびにパロキセチン、フルオキセチン、ベンラファキシン、アミトリプチリン、イミプラミン、およびノルトリプチリンは、避けられるべきまたは慎重および厳密に監視して使用されるべきであることを示した。
【0131】
実施例5
CYP2D6、CYP2C19、CYP1A2、およびHTR2A遺伝子の遺伝子型は、上述の方法を使用して、患者において決定した。CYP2D6遺伝子型に基づいて、患者を低、中間、高、または超急速代謝群であると分類した。CYP2C19遺伝子型では、患者を高、中間、または低代謝群のいずれかであると分類した。1A2遺伝子型では、患者を低、中間、高、または超急速代謝群であると分類した。5HTTR遺伝子型では、患者を、遺伝子の短/短(s/s)形、遺伝子の短/長(s/l)形、または遺伝子の長/長(l/l)形を有するとして分類した。HR2A遺伝子型では、患者をC/C対立遺伝子、T/T対立遺伝子、またはT/C対立遺伝子を有するとして分類した。
【0132】
以下の5つの規則は、遺伝子型を治療推奨に分類するために使用することができる。第1の規則はCYP2D6遺伝子型に関する。低代謝群および超急速代謝群では、CYP2D6基質は、「厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れることができる。中間代謝群では、排他的CYP2D6基質は、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れることができる。中間代謝群では、CYP2D6によって部分的に代謝される基質は、「注意深く使用する」カテゴリに入れることができる。高代謝群では、CYP2D6基質は、「使用に許容可能」カテゴリに入れることができる。
【0133】
第1の規則を適用後、2C19遺伝子型に関する第2の規則を適用することができる。それらのCYP2C19遺伝子型に基づく低代謝群では、排他的CYP2C19基質は、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れることができる。それらのCYP2C19遺伝子型に基づく高または中間代謝群では、CYP2C19基質は、「使用に許容可能」カテゴリに入れることができる。CYP2D6およびCYP2C19の両方によって主として代謝される基質は、CYP2C19が低であり、CYP2D6が中間または低のいずれかであった場合に、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに入れることができ、またはCYP2C19が低であり、CYP2D6が高であった場合に、「注意深く使用する」カテゴリに入れることができる。
【0134】
1A2遺伝子型に関する第3の規則は、第1および第2の規則が適用された後に適用することができる。それらのCYP1A2遺伝子型に基づく低および超急速代謝群では、排他的CYP1A2基質は、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリ(1次的CYP1A2基質としてフルボキサミンを含む)に入れることができる。CYP1A2遺伝子型に基づく低代謝群では、1次的経路のうちの1つとしてCYP1A2経路を有する基質は、「慎重に使用する」カテゴリに入れることができる。それらのCYP1A2遺伝子型に基づく高または中間代謝群では、CYP1A2基質は、「使用に許容可能」カテゴリに入れることができる。他の実施形態においては、中間代謝群は、「慎重に使用する」カテゴリに入れることができる。
【0135】
最初の3つの規則を適用後、5HTTR遺伝子型に関する第4の規則を適用することができる。セロトニントランスポータ遺伝子のホモ接合性短遺伝子型(s/s)では、「使用に許容可能」に分類されるSSRIは、「慎重に使用する」カテゴリに移行することができる。セロトニントランスポータ遺伝子のホモ接合性短遺伝子型(s/s)では、「慎重に使用する」に分類されるSSRIは、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」カテゴリに移行することができる。SSRIクラス外の抗うつ剤は、5HTTR遺伝子型に基づいてカテゴリを移行しない。
【0136】
HR2A遺伝子型に関する第5の規則は、最初の4つの規則を適用後に適用することができる。5−ヒドロキシトリプタミンセロトニン受容体2A遺伝子の「変異型」では、パロキセチンが「使用に許容可能」カテゴリにある場合に、「慎重に使用する」カテゴリに移行することができる。パロキセチンが「慎重に使用する」カテゴリにある場合、それは、「避けるまたは厳密な監視とともに非常に慎重に使用する」に移行することができる。
患者の遺伝子型および関連した薬物特性に基づいて、患者に適した薬物を選択することができる。
【0137】
実施例6
本実施例は、薬理ゲノム研究に登録した患者について実施された電子カルテ審査を説明する。38人の患者がベンラファキシンで治療され、2D6遺伝子に関して遺伝子型同定された。2つの不活性2D6対立遺伝子または1つの不活性および1つの減少2D6対立遺伝子のいずれかを有すると定義されるように、遅い(「低」とも称する)代謝群であった参加者は、75mgより多いベンラファキシンの用量で維持されなかった。対照的に、少なくとも1つの完全に機能する2D6対立遺伝子を有する残り33人の被験者(79%)のうちの26人は、150mg以上の用量のベンラファキシンに耐容性を示した(p<.002)。
【0138】
臨床ガイドラインは、ベンラファキシンの典型的な開始用量を75mg/日と推奨する。しかしながら、高齢者患者へは、37.5mg/日の初回用量が通常処方される。75mg/日の初回用量に反応しない患者では、225mg/日の最大用量まで、75mgの量ずつ日用量を増加させることが推奨される。完全に活性ではない2D6遺伝子を有する患者は、2D6遺伝子の1つまたは2つの機能的コピーを有する患者と比較した場合、ベンラファキシンと、任意の所与の用量のベンラファキシンへのN−デスメチルベンラファキシン(つまり、不活性代謝物)との両方のより高い血清レベルを有することが予測される。その結果として、不全代謝群は、2D6基質薬物のより高い投与量に耐容性を示すことができなくなる。制限された2D6代謝能力を有する患者は、比較的低い用量で治療的臨床反応を達成すると予想することができる。
【0139】
方法
向精神薬に対する非定型反応の確認された病歴を有する199人の患者の試料を、治験プロトコルの一部として2D6遺伝子に関して遺伝子型同定した。非定型反応は、有害な副作用の発生または薬物への無反応と定義した。14の変異体対立遺伝子は、TM Bioscienceプラットフォームを使用して検査した。2D6遺伝子型の測定に関する試験・再試験信頼度は、99%を超えて正確であった。電子医療記録の再調査は、このプロトコルへの38人の参加者が、治療の経過前または経過中に、参加者の2D6遺伝子型に関して知識を持っていなかった臨床医によって、ベンラファキシンで以前に治療されていたことを明らかにした。表10は、2D6対立遺伝子および対応する活性レベルを提供する。
【0140】
(表10)

【0141】
38人の患者のこのグループにおいて、5つの「遅い代謝群」を同定した。これらの患者のそれぞれは、1つの完全に不活性な対立遺伝子(例えば、*3または*4)を有した。さらに、各患者は、活性低下(例えば、*9、*10、*17または*41)をともなう第2の対立遺伝子を持っていた。ベンラファキシンで治療された他の33人の患者の全ては、少なくとも1つの完全に活性な対立遺伝子を持っていた。
【0142】
遅い2D6代謝を持つ5人の患者のうち、75mgより多いベンラファキシンの用量で維持された患者はいなかった。対照的に、残りの33人(79%)の被験者のうち26人は、150mgまたは225mgの投与量レベルのベンラファキシンで維持された。投与量レベルのこの差は、フィッシャーの直接確率検定を使用して有意であった(p<.002)。機能的2D6遺伝子を欠いた5人の被験者の臨床記述を下記に示す。
【0143】
事例1:44歳の白人女性は、気分変調性障害と診断され、75mgのベンラファキシンを処方された。彼女は、口渇および食欲の増加を経験したが、抑うつ症状の減少が報告された。彼女の用量は、112.5mgに増加し、この時期、彼女のうつ病は悪化し、彼女は疲労を訴えた。その後、彼女の用量は75mgに減少し、この用量で4ヶ月間良好であった。彼女は、*3 2D6対立遺伝子および*9 2D6対立遺伝子を持っていた。
【0144】
事例2:16歳の白人のティーンエイジャーは、6歳で注意欠陥多動性障害と診断された。その後、彼女は、13歳でうつになり、15歳で精神病の症状を発症し、16歳で双極性障害と診断された。彼女は、75mgのベンラファキシンを1ヶ月間処方され、その後、過度の傾眠をもよおし、および気分が改善されなかったために、薬物は中止された。彼女は、*3 2D6対立遺伝子および*9 2D6対立遺伝子を持っていた。
【0145】
事例3:大うつ病性障害と診断された54歳の白人の女性は、37.5mgのベンラファキシンを最初に処方された。彼女は、耐え難い悪心、不眠症、および食欲の減少のために4日後に薬物を中止した。彼女は、*4 2D6対立遺伝子および*17 2D6対立遺伝子を持っていた。
【0146】
事例4:46歳の白人男性は、全般性不安障害と診断された。彼は、1日当たり37.5mgのベンラファキシンを処方され、その後4日間にわたってより不安になった。不安症の訴えが増加するにつれて、彼は、心臓の動悸を含む生理的症状もまた発症した。ベンラファキシンを中止すると、彼の不安症の症状は改善した。彼は、*4 2D6対立遺伝子および*41 2D6対立遺伝子を持っていた。
【0147】
事例5:15歳のアジア系アメリカ人ティーンエイジャーは、大うつ病性障害と診断され、過去に過量服用による3度の自殺未遂および5回の入院の精神医学的病歴があることが確認された。彼女がいくらかの気分の変動を報告した懸案事項があったにも関わらず、彼女は、75mgのベンラファキシンを処方された。その後、ベンラファキシンは、耐え難い副作用が原因で5日後に中止された。彼女は、以前、低量の他の2D6基質薬物(例えば、パロキセチンおよびフルオキセチン)を処方されていた時に、副作用を経験していた。彼女は、*4 2D6対立遺伝子および*10 2D6対立遺伝子を持っていた。
【0148】
精神医学的患者のこの臨床試料の分析は、2D6遺伝子の完全に機能するコピーを欠いた個人が、75mgを超えるベンラファキシンの維持量に耐容性を示さなかったことを示す。一事例において、被験者は、治療を行う臨床医が用量を減少して75mgに戻す前に、112.5mgを一時的に摂取することができていた(事例5)。これが、任意の用量でベンラファキシンに耐容性を示した、不活性および部分的に不活性な2D6対立遺伝子を有するただ一人の患者であった。対照的に、2D6遺伝子の少なくとも1つの完全に機能的なコピーを持っていた患者の79%は、150mg以上の用量のベンラファキシンに耐容性を示した。
【0149】
「低い代謝群」と同定された5人の患者を検討したところ、2つのパターンが示された。4人の患者は、悪心、不眠症、食欲不振、動悸および傾眠を含むさまざまな副作用のために、ベンラファキシンに耐容性を示さなかった。「低い代謝群」であった1人の被験者は、75mgで治療的反応があったが、彼女は、112.5mgへの用量増加に耐容性を示さなかった。
【0150】
これらの分析の臨床上の意義の1つは、2D6対立遺伝子の機能するコピーを欠く患者に対して、ベンラファキシンは、37.5mgの用量で開始されるべきであり、投与量は、慎重に増加させるべきである。代替的な戦略は、フルボキサミン等の2D6以外の1次的代謝経路を有する代替的な抗うつ剤またはエシタロプラムもしくはセルトラリン等の代謝の代替的な経路を有する抗うつ剤を選択することであろう。
【0151】
この臨床報告の長所は、これらの患者に対処した治療を行う精神医学者の誰もが2D6遺伝子型を認識していなかったことである。その結果として、投薬決定は、遺伝子型情報に基づく表現型の予測よりも、むしろ、患者の臨床反応に基づいた。
【0152】
この報告の1つの制限は、臨床データが電子機器による医療記録から取り出されたことである。ベンラファキシン投与量は常に正確に文書化されたが、効果、および患者の治療的反応に関する記述は、標準化された方法で報告されなかった。この研究に参加するための試験対象患者基準は、有害な副作用の発生または薬物への無反応として定義される、抗うつ剤薬物への非定型反応を示すことであった。その結果として、薬物投与量を維持する、上昇させるまたは低下させる決定は、薬物に対する患者の耐性および反応に基づき、診断および併存症と無関係であった。
【0153】
要約すれば、2D6遺伝子の少なくとも1つの完全に機能する対立遺伝子を持っていなかった患者は、75mgよりも多い用量のベンラファキシンで維持されなかった。不全遺伝子型、およびより高い用量のベンラファキシンに対する不耐性の病歴とのこの関連性は、チトクロムP450 2D6の遺伝的変異が、長年観察されている抗うつ剤薬物に対する、患者特有の変異に貢献し得ることを示す。
【0154】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明とともに記述したが、上記の説明は、例示のみであり、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定することを意図しないことを理解されたい。他の側面、利点、および変更は、以下の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)遺伝子のパネルに対する患者の遺伝子型を提供するステップであって、前記パネルが、CYP2D6遺伝子、CYP2C19遺伝子、CYP1A2遺伝子、セロトニントランスポータ遺伝子、およびセロトニン受容体2A遺伝子を含む、ステップと、
(b)前記遺伝子型に基づいて前記向精神薬を選択するステップと、
を含む、患者への向精神薬を選択するための方法。
【請求項2】
前記患者の遺伝子型を提供するステップが、前記患者が、CYP1A2*1Aまたは1A2*3対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、または2C19*2A対立遺伝子、およびCYP2D6*1A、2D6*2、2D6*2N、2D6*3、2D6*4、2D6*5、2D6*6、2D6*7、2D6*8、2D6*10、2D6*12、または2D6*17対立遺伝子を含むかどうかを判定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者の遺伝子型を提供するステップが、前記患者が2D6*41対立遺伝子を含むかどうかを判定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パネルが、4つのチトクロムP450遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記4つのチトクロムP450遺伝子が、CYP2D6、2C19、3A4、および1A2である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記患者の遺伝子型を提供するステップが、前記患者が、CYP2D6*2、2D6*3、2D6*4、2D6*10、または2D6*17対立遺伝子、CYP2C19*2A、2C19*2B、2C19*3、2C19*4、2C19*5A、2C19*5B、2C19*6、2C19*7、または2C19*8対立遺伝子、CYP3A4*1B、3A4*2、3A4*5、3A4*6、3A4*12、3A4*13、3A4*15A、3A4*17、3A4*18A対立遺伝子、およびCYP1A2*1F対立遺伝子を含むかどうかを判定することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記パネルが、5つのチトクロムP450遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記5つのチトクロムP450遺伝子が、CYP1A1、1A2、2D6、2C19、および3A4である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記患者の遺伝子型を提供するステップが、前記患者が、CYP1A1*1A、1A1*2、1A1*3、または1A1*4対立遺伝子、CYP1A2*1Aまたは1A2*3対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、または2C19*2A対立遺伝子、CYP2D6*1A、2D6*2、2D6*2N、2D6*3、2D6*4、2D6*5、2D6*6、2D6*7、2D6*8、2D6*10、2D6*12、2D6*17、または2D6*35対立遺伝子、およびCYP3A4*1Aまたは3A4*1B対立遺伝子を含むかどうかを判定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子のパネルが、ドーパミントランスポータ遺伝子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記パネルが、複数のドーパミン受容体遺伝子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ドーパミン受容体遺伝子が、ドーパミン受容体D1、D2、D3、D4、D5、およびD6をコードする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記パネルが、セロトニン受容体1A、1B、1D、または2Cをコードするセロトニン受容体遺伝子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記パネルが、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ遺伝子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記パネルが、少なくとも10のチトクロムP450遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも10のチトクロムP450遺伝子が、CYP1A1、1A2、1B1、2A6、2B6、2C8、2C9、2C18、2C19、2D6、2E1、3A4、および3A5である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記患者の遺伝子型を提供するステップが、前記患者が、CYP1A1*1A、1A1*2、1A1*3、または1A1*4対立遺伝子、1A2*1Aまたは1A2*3対立遺伝子、CYP1B1*1、1B1*2、1B1*3、1B1*4、1B1*11、1B1*14、1B1*18、1B1*19、1B1*20、または1B1*25対立遺伝子、CYP2A6*1A、2A6*1B、2A6*2、または2A6*5対立遺伝子、CYP2B6*1、2B6*2、2B6*3、2B6*4、2B6*5、2B6*6、または2B6*7対立遺伝子、CYP2C8*1A、2C8*1B、2C8*1C、2C8*2、2C8*3、または2C8*4対立遺伝子、CYP2C9*1、2C9*2、2C9*3、または2C9*5対立遺伝子、CYP2C18*m1または2C18*m2対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、または2C19*2A対立遺伝子、CYP2D6*1A、2D6*2、2D6*2N、2D6*3、2D6*4、2D6*5、2D6*6、2D6*7、2D6*8、2D6*10、2D6*12、2D6*17、または2D6*35対立遺伝子、CYP2E1*1A、2E1*1C、2E1*1D、2E1*2、2E1*4、2E1*5、または2E1*7対立遺伝子、CYP3A4*1Aまたは3A4*1B対立遺伝子、およびCYP3A5*1A、3A5*3、3A5*5、または3A5*6対立遺伝子を含むかどうかを判定することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記パネルが、トリプトファン水酸化酵素遺伝子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記向精神薬が、抗うつ剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記向精神薬が、抗精神病薬、抗不安鎮静剤、または気分安定化剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記向精神薬を選択するステップが、
(a)前記チトクロムP450遺伝子の遺伝子型を、各前記チトクロムP450遺伝子によってコードされる各チトクロムP450酵素の前記向精神薬を代謝させる能力と相関させることと、
(b)前記セロトニントランスポータ遺伝子および前記セロトニン受容体2A遺伝子の遺伝子型を、前記向精神薬に反応する前記患者の能力と相関させることと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
基材を含む製造品であって、前記基材が複数の不連続領域を含み、各前記領域が核酸分子の異なる集団を含み、前記核酸分子の異なる集団が、CYP1A2*1Aおよび1A2*3対立遺伝子、CYP2C19*1A、2C19*1B、および2C19*2A対立遺伝子、CYP2D6*1A、2D6*2、2D6*2N、2D6*3、2D6*4、2D6*5、2D6*6、2D6*7、2D6*8、2D6*10、2D6*12、2D6*17、および2D6*35対立遺伝子、セロトニン受容体2A C/T、T/T、C/C対立遺伝子、ならびに5HTTプロモータ反復およびエクソン2変数反復対立遺伝子を検出するための核酸分子を独立して含む、製造品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−502174(P2010−502174A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523060(P2009−523060)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/075092
【国際公開番号】WO2008/017038
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(501083115)メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ (27)
【Fターム(参考)】