説明

薬物依存症治療剤

【課題】新規かつ明確な作用機序に基づく、薬物依存症の治療剤または予防剤を提供する。
【解決手段】リアノジン受容体の遮断薬を有効成分として含有してなる薬物依存症の治療または予防剤、リアノジン受容体の遮断薬は、式(I):


で表される基を有するヒダントイン化合物またはその塩であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物依存症治療剤に関する。詳しくは、リアノジン受容体遮断薬の新規用途に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物依存症とは、WHOにより、「生体と薬物の相互作用の結果生じる、特定の精神的、時にまた身体状態を併せていう。特定の状態とは、ある薬物の精神効果を体験するために、また時には退薬による苦痛から逃れるために、その薬物を継続的あるいは間歇的に摂取したいという脅迫的欲求を常に伴う行動やその他の反応によって特徴づけられた状態をいう。」と定義されている。従って、薬物依存は精神依存と身体依存とに分類される。精神依存はある薬物を摂取したいという強い欲求、すなわち渇望を症状として呈する病態であり、特に依存性を誘発する薬物の摂取により当該薬物による精神効果が減弱するという耐性が生じるために、同様の精神効果を得るためには薬物摂取量の増加が必要となり、事実、薬物依存症患者で増加していく。身体依存は、このような継続的な薬物の摂取により形成される。この状態の患者は、服用の中止(退薬)により極めて強い退薬症候群が生じるので、その苦痛から逃れるために更なる多量の依存性薬物を摂取したいという渇望が強くなり、依存性薬物の摂取を自ら中止することができなくなるという悪循環に陥る。
【0003】
麻薬は、薬理学的には、上述の2つの薬物依存の様式(精神依存と身体依存)をその病態として出現させる薬物である。麻薬の製造、販売、使用などは国際的にも多くの国において法律的に規制されているが、現時点においても非合法の製造、販売、使用が行われている。麻薬依存は、社会医学的な問題のみならず、医療上にも多くの問題が生じている。
【0004】
麻薬の使用が継続的に行われると、麻薬に対する精神依存が形成され、次いで身体依存の形成により麻薬依存症が完成する。麻薬の慢性使用後にその服用を停止した場合、体内に吸収された麻薬は4〜5日以内に体外に排出され、体内の麻薬の残存は認められなくなるにもかかわらず、容易に麻薬依存症が再発しやすい病態が形成される。
【0005】
現在まで麻薬依存治療は、その原因となる麻薬の使用を中止することが困難であることから、麻薬としての作用が比較的弱く依存形成作用も弱いメサドン置換法などが行われている。この方法は、麻薬を漸次メサドンに切り替えていく方法であるが、十分な効果を得るのは困難であり、また麻薬に対する精神依存形成そのものを阻止あるいは低減させる有効な治療剤はない。
【0006】
覚せい剤にはアンフェタミン、メタンフェタミン、エフェドリン、メチルエフェドリンなどがあり、メチルエフェドリンなどは鎮咳薬として医学的に使用されているが、その他の多くの覚せい剤は非合法に使用されている。覚せい剤は、薬理学的には、上述の2つの薬物依存の様式のうち、精神依存をその病態として出現させる薬物であり、コカインなどの一部の麻薬も精神依存のみをもたらす。しかも、非合法的使用は、医学的知識に基づいた使用ではないため、覚せい剤乱用などの社会医学的な問題のみならず、覚せい剤依存症に陥って医療上にも多くの問題が生じている。
【0007】
覚せい剤の乱用が慢性的に行われると、覚せい剤精神病として総括される病態が出現し、多くの精神症状が観察されるようになる。それらは聴覚過敏、幻聴および幻視などの幻覚、被害妄想などの精神症状が出現し、真性精神病である統合失調症に類似した病態を呈する。
【0008】
覚せい剤の慢性使用あるいは乱用後にその服用を停止した場合、体内に吸収された覚せい剤は4〜5日以内に体外に排泄され、体内の覚せい剤の残存は認められなくなるにもかかわらず、容易に覚せい剤依存症が再発しやすい病態が形成される。再発は、脳障害が後遺症として残っていることに起因していると考えられている。また覚せい剤の長期使用により生じる薬物体験は覚せい剤の再投与や飲酒、ストレスなどにより容易に再発するという現象が覚せい剤依存症患者に見られる。これは逆耐性現象といわれる覚せい剤精神病に見られる現象であり、これらの病態ゆえに覚せい剤依存症患者が覚せい剤の使用を止めようと考え努力してもなかなか立ち直れない原因となっている。
【0009】
現在まで覚せい剤依存治療は、その原因となる覚せい剤の使用を中止することのみであり、他の薬物による治療は効果がなく、事実現在に至るも有効な治療方法がないため、覚せい剤依存症患者の治療は困難を極めている。
【0010】
アルコールは、嗜好品として常用される日本酒、ウィスキー、ワイン、ブランデー、焼酎、ビールなどの主成分である。薬理学的には、アルコールは、上述の2つの薬物依存の様式(精神依存および身体依存)をその病態として出現させる薬物である。近年の社会環境のストレスなどの増加、経済状況の不安定さなどから、アルコール摂取量は世界的に増加傾向を示している。
【0011】
多量のアルコールの飲用が継続的に行われると、アルコールに対する精神依存が形成され、次いで身体依存の形成によりアルコール依存症が完成する。アルコールの慢性飲用後にその飲用を停止した場合、体内に吸収されたアルコールは4〜5日以内に体外に排出され、体内のアルコールの残存は認められなくなるにもかかわらず、容易にアルコール依存症が再発しやすい病態が形成される。
【0012】
このような依存症では、精神症状のみならず、アルコール性肝炎および肝硬変、アルコール性膵炎などを誘発し、また狭心症や心筋梗塞などの心循環器系疾患の合併も多い。さらに、妊娠母胎が多量のアルコールを長期にわたり飲用した場合、アルコール性胎児症候群という出生児に成長遅延、顔面・頭蓋の形成異常(小頭、短眼眼裂、上顎低形成、人中形成不全症等)、中枢神経機能異常(精神遅延、協調運動不良、筋緊張低下、小児期における多動等)など多くの障害が出現し、母子衛生上も極めて由々しき問題である。
【0013】
現在までアルコール依存治療は、その原因となるアルコールの使用を中止することのみを主眼とし、集団で断酒を成功させようとする断酒会やダルクなどの集団精神療法が主となっており、これは有効な治療剤がないためである。
【0014】
このように麻薬依存症、覚せい剤依存症およびアルコール依存症等において、その治療法のみならず、予防法に関しても未だ有用な薬物による実用化が全くなされていない現在、社会医学的にも医療学的にもこれらの薬物依存症は重大な問題に直面しており、早急な治療・予防剤の開発、実用化が切望されている。
【0015】
薬物依存症治療剤の先行技術として、特許文献1にはアザビシクロ誘導体または安息香酸誘導体(5−HT拮抗剤)が、特許文献2にはロリプラム(ホスホジエステラーゼ阻害剤)が、特許文献3にはイフェンプロジルが、特許文献4には内因性ニューロペプチジルオピオイドの分解抑制剤が、特許文献5には(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンが報告されている。しかしいずれの薬物依存症治療剤もその効果は十分とはいえず、まだ実用化には至っていない。
【0016】
ダントロレン(3−[5−(4−ニトロフェニ)フラン−2−イルメチレン]アミノ−2,4−ジオキソ−1,3−イミダゾリジン酸へミヘプタヒロラート)は、細胞内小胞体からのカルシウムイオンの細胞質内への放出を高めるが、その作用はリアノジン受容体の活性化によるものであり、非特許文献1および2に示すように、骨格筋の収縮におけるカルシウムイオン動態にリアノジン受容体が関与し、リアノジン受容体遮断では筋収縮が減弱することなどが証明されている。また、非特許文献3では、ダントロレンはリアノジン受容体遮断による細胞内カルシウムイオン動態への影響以外に炭酸脱水素酵素を阻害する作用が見出されている。非特許文献4は、ダントロレンがリアノジン受容体遮断効果を介して実験的に誘発される痙攣発作を抑制するとしたものであるが、この効果は中枢神経を介したものではなく末梢の骨格筋の収縮を抑制した結果生じたものである。しかしながら、これらの文献はいずれもダントロレンのリアノジン受容体遮断効果による骨格筋収縮の抑制や他の生化学的作用を示したものであり、薬物依存症治療剤としてリアノジン受容体遮断効果により依存性薬物に対する渇望や当該薬物による場所嗜好性の獲得、すなわち精神依存を抑制することを示すものではないことはもちろん、ダンロトレンが薬物依存症の治療・予防剤として有効であることを示したものでないことも明らかである。
【特許文献1】特許第2765845号公報
【特許文献2】特開平9−221423号公報
【特許文献3】特開平11−29476号公報
【特許文献4】国際公開第89/03211号パンフレット
【特許文献5】特開2006−151820号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会技術研究報告 2004年3月 第103巻 第731号 29-32頁
【非特許文献2】Biomedical Research 25(6) 255-261, 2004
【非特許文献3】Biol. Pharm. Bull. 27(5) 613-616, 2004
【非特許文献4】Tohoku J. Exp. Med., 209, 303-310, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、新規かつ明確な作用機序に基づく、薬物依存症の治療剤または予防剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は依存性薬物への渇望の発現機序を行動薬理学的および神経化学的観点から検討を加え、特に神経薬理学的実験データに基づいて渇望としてとらえられる精神依存の出現機序を解明すると共に、薬物依存症の治療・予防剤の開発に取り組んだ。本発明者が依存性薬物による精神依存の獲得の有無を検定するための実験方法は、覚せい剤、アルコール、麻薬などの依存性薬物により動物に生じる報償効果を客観的に測定する方法として世界的に認められている条件付け場所嗜好性試験である。報償効果とはヒトや動物が薬物による薬理作用(例えば覚せい剤では気分が高揚する、体が軽くなる、頭がすっきりして思考力が進んだような感じがし、また発想が鋭くなる、体の感覚が鋭くなる、疲れが取れるなどの作用を指す)を避けようとせず、むしろ積極的に保持、あるいは獲得しようとする薬物の作用をいう。すなわちこの報償効果が薬物の投与により増加すれば精神依存が獲得されたと判断されるのである。
【0019】
条件付け場所嗜好性試験は一般に2つのコンパートメント・ボックスからなり、中央に仕切りを有する実験装置を用い、一方のコンパートメントは床が平らで黒く塗られており、他方は床がざらざらしておりかつ白く塗られている。依存性薬物を投与したマウスを非嗜好性側ボックス(マウスは暗いところを好むが、実験の時には非嗜好性側、すなわち白く床面が塗られたボックスにマウスを置く)に、生理食塩投与マウスは嗜好側ボックスに一定時間(通常は50〜60分)置く。次いで、2日目に、前記依存性薬物投与マウスに薬物を投与せず、生理食塩水を投与して嗜好性側ボックスに置く。この2日間の条件付けを3回(6日間)行った後に、7日目に、依存性薬物あるいは生理食塩水を投与したマウスを中央の仕切りを取って実験装置に置き、一定時間のうちにマウスが非嗜好性側ボックスに滞在する時間を測定する。依存性薬物を投与したマウスが非嗜好性ボックスに滞在する時間が、生理食塩水のみを投与されたマウスが嗜好性側ボックスに滞在する時間より統計的に有意に長ければ、依存性薬物に対する場所嗜好性が獲得された、すなわち精神依存が形成されたと解釈する。また上述の条件付けの後の7日目に場所嗜好性が獲得されたマウスに対し、7日目の場所嗜好性試験の測定の30分前に治療候補薬を投与して場所嗜好性の変化を測定することにより、治療候補薬の覚醒依存に対する効果が検討できる。
このような条件付け場所嗜好性試験を用いて種々の治療候補薬の効果を検討した。
【0020】
本発明者は、上記の条件付け場所嗜好性試験により依存性薬物による精神依存形成時において、中枢神経に存在するリアノジン受容体の発現が増加することを見出し、リアノジン受容体遮断薬、具体的には、下記式(I)
【0021】
【化1】

【0022】
で表される基を有するヒダントイン化合物またはその塩が依存性薬物による精神依存形成を著明に抑制する優れた薬物依存症治療剤および予防剤となりうることを想到し、本発明を完成するに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
【0023】
〔1〕リアノジン受容体の遮断薬を有効成分として含有してなる薬物依存症の治療または予防剤。
〔2〕リアノジン受容体の遮断薬が式(I):
【0024】
【化2】

【0025】
で表される基を有するヒダントイン化合物またはその塩である、前記〔1〕記載の治療または予防剤。
〔3〕式(I)で表される基を有する化合物が、式(II):
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、Rは水素原子または脂溶性付与基を示す)
で表される化合物である前記〔2〕記載の治療または予防剤。
〔4〕Rが水素原子である前記〔3〕記載の治療または予防剤。
〔5〕薬物依存症が精神依存の段階である前記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の治療または予防剤。
〔6〕依存性薬物が精神依存性薬物および身体依存性薬物からなる群より選ばれるものである前記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の治療または予防剤。
【発明の効果】
【0028】
本発明の薬物依存症の治療または予防剤によると、リアノジン受容体遮断薬を有効成分として含むことから、精神依存形成の段階で発現が上昇する中脳辺縁系神経細胞膜に存在するリアノジン受容体の作用を阻害し、細胞内カルシウム貯蔵部位である小胞体から細胞質へのカルシウムの流入を抑制することによって、細胞質内カルシウム濃度の上昇によって引き起こされる薬物依存症を有効に治療または予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の薬物依存症の治療または予防剤は、リアノジン受容体の遮断薬を有効成分として含有することを特徴とする。
【0030】
本発明において、リアノジン受容体とは、脳、特に中脳辺縁系の組織を構成する細胞の小胞体膜に存在するカルシウムチャネルをいう。リアノジン受容体のサブタイプとしては、リアノジン受容体1、2または3があげられるが、哺乳動物の脳ではサブタイプ1〜3のすべてが発現していることから、本発明においてはいずれのサブタイプであってもよい。
【0031】
本発明において、リアノジン受容体の遮断薬は、前記リアノジン受容体に結合して当該受容体からのシグナルを遮断可能な化合物であれば、いずれの化合物を用いてもよい。
【0032】
リアノジン受容体の遮断薬として作用する化合物としては、具体的には、例えば式(I):
【0033】
【化4】

【0034】
で表される基を有するヒダントイン化合物およびその塩があげられる。
【0035】
前記式(I)で表される基を有する化合物としては、具体的には、式(II):
【0036】
【化5】

【0037】
(式中、Rは水素原子または脂溶性付与基を示す)
で表される化合物があげられる。
【0038】
前記式(II)において、Rが水素原子の場合、当該化合物は、ダントロレン(一般名):3−[5−(4−ニトロフェニ)フラン−2−イルメチレン]アミノ−2,4−ジオキソ−1,3−イミダゾリジン酸へミヘプタヒロラートと称する化合物である。ダントロレン(本明細書においては「本発明化合物」と称する場合もある)は、公知の化合物であり、ナトリウム塩1水和物として、1981年から日本で臨床使用されている。
【0039】
前記式(II)のRにおいて、脂溶性付与基としては、
i)低級アルキル:メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシルなどの炭素数1〜6、好ましくは1〜4の低級アルキル;
ii)低級アルケニル:ビニル、プロペニル、イソプロペニル、2−ブテン−1−イル、4−ペンテン−1−イル、5−へキセン−1−イルなどの炭素数2〜6、好ましくは2〜4のアルケニル;
iii)低級アルキニル:2−ブチン−1−イル、4−ペンチン−1−イル、5−へキシン−1−イルなどの炭素数2〜6、好ましくは2〜4のアルキニル;
iv)シクロアルキル:シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの炭素数3〜8、好ましくは3〜6のシクロアルキル;
v)アリール:フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、2−ビフェニリル、3−ビフェニリル、4−ビフェニリル、2−アンスリル、テトラヒドロナフチルなどの炭素数6〜14、好ましくは3〜10のアリール;
vi)アラルキル:ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、1−ナフチルメチル、2−ナフチルメチル、2,2−ジフェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル、2−ビフェニリルメチル、3−ビフェニリルメチル、4−ビフェニリルメチルなどの炭素数7〜16、好ましくは7〜12のシクロアルキル;
vii)アリール−アルケニル:スチリルなどの炭素数6〜14、好ましくは6〜10のシクロアルキル;および
viii)複素環基:異種原子として、炭素原子、窒素原子、酸素原子を1個以上、好ましくは1〜16個、より好ましくは1〜10個有するものが挙げられ、環の数としては、1個又は2個が好ましい。該環は5員環または6員環、これらの縮合環が好ましい。また芳香族複素環、脂肪族複素環の何れでもよい。
かかる複素環基としては、例えば以下の基があげられる。
チエニル(例、2−チエニル、3−チエニル)、フリル(例、2−フリル、3−フリル)、ピリジル(例、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル)、チアゾリル(例、2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル)、オキサゾリル(例、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、5−オキサゾリル)、キノリル(例、2−キノリル、3−キノリル、4−キノリル、5−キノリル、8−キノリル)、イソキノリル(例、1−イソキノリル、3−イソキノリル、4−イソキノリル、5−イソキノリル)、ピラジニル、ピリミジニル(例、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル)、ピロリル(例、1−ピロリル、2−ピロリル、3−ピロリル)、イミダゾリル(例、1−イミダゾリル、2−イミダゾリル、4−イミダゾリル)、ピラゾリル(例、1−ピラゾリル、3−ピラゾリル、4−ピラゾリル)、ピリダジニル(例、3−ピリダジニル、4−ピリダジニル)、ピリミジニル(例、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル)、ピラジニル、イソチアゾリル(例、3−イソチアゾリル)、イソオキサゾリル(例、3−イソオキサゾリル、4−イソオキサゾリル、5−イソオキサゾリル)、イソチアゾリル(例、3−イソチアゾリル、4−イソチアゾリル、5−イソチアゾリル)、インドリル(例、1−インドリル、2−インドリル、3−インドリル、4−インドリル、5−インドリル、6−インドリル、7−インドリル)、イソインドリル(例、1−イソインドリル、2−イソインドリル、3−イソインドリル、4−イソインドリル、5−イソインドリル、6−イソインドリル、7−イソインドリル)、2−ベンゾチアゾリル、ベンゾ[b]チエニル、(例、2−ベンゾ[b]チエニル、3−ベンゾ[b]チエニル、4−ベンゾ[b]チエニル、5−ベンゾ[b]チエニル、6−ベンゾ[b]チエニル、7−ベンゾ[b]チエニル)、ベンゾ[c]チエニル(例、1−ベンゾ[c]チエニル、4−ベンゾ[c]チエニル、5−ベンゾ[c]チエニル)、ベンゾ[b]フラニル(例、2−ベンゾ[b]フラニル、3−ベンゾ[b]フラニル、4−ベンゾ[b]フラニル、5−ベンゾ[b]フラニル、6−ベンゾ[b]フラニル、7−ベンゾ[b]フラニル)、ベンゾ[c]フラニル(例、1−ベンゾ[c]フラニル、4−ベンゾ[c]フラニル、5−ベンゾ[c]フラニル)、ベンゾイミダゾリル(例、1−ベンゾイミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、4−ベンゾイミダゾリル、5−ベンゾイミダゾリル)、ベンゾオキサゾリル(例、2−ベンゾオキサゾリル、4−ベンゾオキサゾリル、5−ベンゾオキサゾリル、6−ベンゾオキサゾリル、7−ベンゾオキサゾリル)、ベンゾチアゾリル(例、2−ベンゾチアゾリル、4−ベンゾチアゾリル、5−ベンゾチアゾリル、6−ベンゾチアゾリル、7−ベンゾチアゾリル)、インダゾリル(例、1−インダゾリル、2−インダゾリル、3−インダゾリル、4−インダゾリル、5−インダゾリル、6−インダゾリル、7−インダゾリル)、1,2−ベンゾイソオキサゾリル(例、1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル、1,2−ベンゾイソオキサゾール−4−イル、1,2−ベンゾイソオキサゾール−5−イル、1,2−ベンゾイソオキサゾール−6−イル、1,2−ベンゾイソオキサゾール−7−イル)、1,2−ベンゾイソチアゾリル(例、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−イル、1,2−ベンゾイソチアゾール−4−イル、1,2−ベンゾイソチアゾール−5−イル、1,2−ベンゾイソチアゾール−6−イル、1,2−ベンゾイソチアゾール−7−イル)、キノリル(例、2−キノリル、3−キノリル、4−キノリル、5−キノリル、6−キノリル、7−キノリル、8−キノリル)、イソキノリル(例、1−イソキノリル、3−イソキノリル、4−イソキノリル、5−イソキノリル、6−イソキノリル、7−イソキノリル、8−イソキノリル)、シンノリニル(例、3−シンノリニル、4−シンノリニル、5−シンノリニル、6−シンノリニル、7−シンノリニル、8−シンノリニル)、フタラジニル(例、1−フタラジニル、4−フタラジニル、5−フタラジニル、6−フタラジニル、7−フタラジニル、8−フタラジニル)、キナゾキニル(例、2−キナゾキニル、4−キナゾキニル、5−キナゾキニル、6−キナゾキニル、7−キナゾキニル、8−キナゾキニル)、キノキサリニル(例、2−キノキサリニル、3−キノキサリニル、5−キノキサリニル、6−キノキサリニル、7−キノキサリニル、8−キノキサリニル)などがあげられ、特に、キノリル(例、2−キノリル、3−キノリル、4−キノリル、5−キノリル、6−キノリル、7−キノリル、8−キノリル)、イソキノリル(例、1−イソキノリル、3−イソキノリル、4−イソキノリル、5−イソキノリル、6−イソキノリル、7−イソキノリル、8−イソキノリル)などの芳香族複素環基;例えばオキサゾリジニル(例、2−オキサゾリジニル)、イミダゾリニル(例、1−イミダゾリニル、2−イミダゾリニル、4−イミダゾリニル)、アジリジニル(例、1−アジリジニル、2−アジリジニル)、アゼチジニル(例、1−アゼチジニル、2−アゼチジニル)、ピロリジニル(例、1−ピロリジニル、2−ピロリジニル、3−ピロリジニル)、ピペリジニル(例、1−ピペリジニル、2−ピペリジニル、3−ピペリジニル)、アゼパニル(例、1−アゼパニル、2−アゼパニル、3−アゼパニル、4−アゼパニル)、アゾカニル(例、1−アゾカニル、2−アゾカニル、3−アゾカニル、4−アゾカニル)、ピペラジニル(例、1,4−ピペラジン−1−イル、1,4−ピペラジン−2−イル)、ジアゼパニル(例、1,4−ジアゼパン−1−イル、1,4−ジアゼパン−2−イル、1,4−ジアゼパン−5−イル、1,4−ジアゼパン−6−イル)、ジアゾカニル(1,4−ジアゾカン−1−イル、1,4−ジアゾカン−2−イル、1,4−ジアゾカン−5−イル、1,4−ジアゾカン−6−イル、1,5−ジアゾカン−1−イル、1,5−ジアゾカン−2−イル、1,5−ジアゾカン−3−イル)、1−モルホリニル、4−チオモルホリニルなどの非芳香族複素環基など;
があげられ、これらは任意の置換基を有していてもよい。
好ましくは、直鎖または分枝鎖状のC1−4アルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、2−プロピル)、置換されていてもよいアリール(フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル)、置換されていてもよい複素環基(エチルピペリジニル、ピリジル、ピロリル)などがあげられる。
【0040】
前記化合物は、塩の形態であってもよい。塩としては特に限定されるものではないが、例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩等があげられる。金属塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等があげられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン等との塩があげられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩があげられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との塩があげられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチン等との塩があげられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸等との塩があげられる。
【0041】
前記化合物の塩は、さらに、それらの1水和物、2水和物、1/2水和物、1/3水和物、1/4水和物、2/3水和物、3/2水和物、6/5水和物等であってもよい。
【0042】
このうち、薬学的に許容し得る塩が好ましい。例えば、化合物内に酸性官能基を有する場合にはアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)等の無機塩、アンモニウム塩等、また、化合物内に塩基性官能基を有する場合には、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、または酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸との塩があげられる。
【0043】
前記薬学的に許容し得る塩は、さらに、それらの1水和物、2水和物、1/2水和物、1/3水和物、1/4水和物、2/3水和物、3/2水和物、6/5水和物等であってもよい。
【0044】
前記化合物は、自体公知の方法により製造することができる。
【0045】
前記化合物はそのままあるいは薬理学的に許容される担体を配合し、経口的または非経口的に投与することができる。
【0046】
前記化合物を経口投与する場合の剤形としては、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。
【0047】
前記化合物を上記の剤形に製造する方法としては、当該分野で一般的に用いられている公知の製造方法を適用することができる。また、上記の剤形に製造する場合には、必要に応じて、その剤形に製する際に製剤分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤などの添加剤を適宜、適量含有させて製造することができる。さらに、前記化合物(I)を上記の剤形に製造する場合には、所望により、製剤分野において通常用いられる着色剤、保存剤、芳香剤、矯味剤、安定剤、粘稠剤などを適量添加することができる。
【0048】
前記化合物を非経口投与する場合の剤形としては、例えば注射剤、注入剤、点滴剤などがあげられる。また、適当なDDS(ドラッグデリバリーシステム、例、リポソーム)とナノテクノロジーを組み合わせ、毛細血管(直径約5μm)を通過可能な注射剤、注入剤、点滴剤とすることも有効である。
【0049】
注射剤、注入剤または点滴剤は自体公知の方法、すなわち、前記化合物を無菌の水性液もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製される。注射用の水性液としては生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などがあげられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(例えばエタノール)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80、HCO−50)などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などがあげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)などと配合してもよい。
【0050】
前記化合物は、中枢神経におけるリアノジン受容体に作用することによって本発明の薬理作用を発揮するので、該化合物は血液脳関門を通過することが求められる。
従って、該化合物が脂溶性の場合は格別の製剤化態様、投与ルートを取るまでもないが、
ダントロレンのように水溶性の場合には、例えば液状製剤を脊髄穿刺することによって中枢神経に到達させることができる。
【0051】
本発明製剤中の前記化合物の含有量は、製剤の形態に応じて相違するが、通常、製剤全体に対して約0.0001ないし100重量%、好ましくは約0.001ないし90重量%である。
【0052】
本発明製剤の1日の投与量は患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、例えば、患者に経口投与する場合には、成人(体重約60kg)1日当りの投与量は有効成分(前記化合物)として約0.01ないし100mg、好ましくは約0.1ないし50mg、さらに好ましくは約0.01ないし10mgであり、これらを1回または2ないし3回に分けて投与することができる。
【0053】
本発明製剤を非経口的に投与する場合は、通常、液剤(例えば注射剤)の形で投与する。その1回投与量は化合物の種類、投与対象、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば注射剤の形にして、通常体重1kgあたり約0.001ないし100mg、好ましくは約0.005ないし50mg、さらに好ましくは約0.001ないし10mgを静脈注射により投与することができる。例えば、有効成分がダントロレンの場合、実質的に血液脳関門を通過しない特徴を有するものであるから、脳に送達するために特定の投与経路で投与することが好ましい。例えば、ダントロレンを含む注射剤の形にして、通常体重1kgあたり約0.001〜約10mg、好ましくは約0.001〜約5mg、より好ましくは約0.002〜約1mgを脳室内もしくは硬膜下投与、または腰椎穿刺もしくは大後頭槽穿刺により投与することが好ましい。また、ダントロレンを適当なDDSと組み合わせ、血液脳関門を通過可能な製剤とすることで、静脈注射により投与することも可能である。
【0054】
本発明製剤が治療または予防の対象とする薬物依存症の引き金となる依存性薬物は、精神依存のみを出現させる薬物(精神依存性薬物)と、精神依存を経て身体依存をも出現させる薬物(身体依存性薬物)とに二分される。精神依存性薬物の薬物としては、アンフェタミン、メタンフェタミン、エフェドリン、メチルエフェドリンなどの覚せい剤、コカインなどの一部の麻薬、シンナー、トルエン、アセトンなどの有機溶剤、大麻、カンナビノイド、ハッシッシ、LSD-25、メスカリンなどの幻覚薬があげられる。身体依存性薬物の薬物としては、モルヒネ、コデインなどの麻薬、ベンゾジアゼピン、フェノバルビタール、などの睡眠薬、アルコール、ニコチンなどがあげられる。
【0055】
本発明者は、種々の薬物による精神依存形成の段階で、脳内リアノジン受容体、特に精神依存形成に関与するとされる側坐核を含む中脳辺縁系の膜に存在するリアノジン受容体の発現解析、および当該受容体のリガンドであるリアノジンを用いた結合実験を行った。その結果、精神依存形成時において、リガンドと受容体との結合量が増加すること、および結合量の増加は、すべてのサブタイプのリアノジン受容体タンパク質の発現の増加に起因するものであることを見出した。本発明の治療または予防剤の有効成分はリアノジン受容体遮断薬であることから、精神依存形成の段階で、あるいはそれ以前に本発明の剤を脳内に到達させることにより、薬物依存症を有効に治療または予防することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
<実験動物>
実験動物の取り扱いについては、川崎医科大学の動物実験委員会(倫理委員会)で承認された学内のガイドラインに従った。
【0058】
<試薬>
モルヒネおよびメタンフェタミンはそれぞれ、麻薬研究者許可証および覚せい剤研究者指定証に基づき購入許可を得て購入した。他の試薬は市販の試薬を購入した。
[H]リアノジンは、GE Healthcare UK Limited (Buckinghamshire, UK)製のものを用いた。
【0059】
[実施例1]
麻薬による場所嗜好性に及ぼす影響
麻薬としてモルヒネを使用し、麻薬による場所嗜好性の獲得はブレイン・リサーチ(Brain Res.602:45-52, 1993)に記載の条件付け場所嗜好性試験に準じて検討した。モルヒネはマウス皮下に5mg/kgの用量で投与した。ダントロレンのモルヒネ誘発性場所嗜好性の変化に対する影響は、生理食塩水に溶解したダントロレンをマウス脳室内に投与した。
【0060】
ダントロレンの投与は2つの異なる時期に行った。モルヒネによる場所嗜好性を獲得させる前、すなわちモルヒネと同時に投与する方法と、モルヒネに対する精神依存が形成されたマウスに対し投与する方法である。前者はモルヒネ精神依存形成の予防、後者はモルヒネ精神依存形成状態に対するダントロレンの効果、すなわちダントロレンの治療効果を観察するためである。
【0061】
上述のモルヒネ精神依存形成時に見られる脳内リアノジン受容体の機能変化を検討するために、精神依存形成に関与するとされる側坐核を含む中脳辺縁系の膜標品(P膜標品)に対し、放射性リガンドとして[H]リアノジンを用い、ジャーナル・ニューロサイエンスに掲載された方法(J Neurosci l2:1094−1100,1992)に準じて結合実験を行った。上記膜標品を50mM Tris-HCl緩衝液中で種々の渡度の[H]リアノジン存在下で、37℃、60分のインキュベーションを行った後に、標品を含む反応液をWhatman GF/Bフィルターを用いて吸引ろ過し、フィルター上に残存する放射活性を測定した。
【0062】
モルヒネ精神依存形成時における側坐核を含む中脳辺線系におけるリアノジン受容体の発現の変化はリアノジン受容体サブタイプの測定を、既報のイムノブロット法(ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー J Biol Chem 277:7979−7988,2002)に準じて行った。
【0063】
実験1-1:本発明化合物によるモルヒネ誘発性場所嗜好性時間の増加に対する抑制効果
図1に示すように、モルヒネの投与により統計学的に有意な場所嗜好性時間の増加が見られた。このモルヒネ誘発性場所嗜好性時間の増加はモルヒネ投与に先立って投与された本発明化合物により用量依存性かつ有意に抑制された。一方、本発明化合物の単独投与では場所嗜好性時間には変化が見られなかった。この実験成績は本発明化合物がモルヒネにより誘発される精神依存形成を抑制する作用、すなわちモルヒネによる精神依存形成を予防する作用を示すと判断できる。
【0064】
実験1-2:モルヒネ誘発性場所嗜好性時間の増加の後に本発明化合物投与による抑制効果
次にモルヒネにより精神依存形成が確立しているマウスに本発明化合物を投与して、臨床的に実際に遭遇する場合の条件に類似した条件を設定して検討を行った。その結果、図2に示すように、モルヒネによって生じた場所嗜好性時間の増加が確立された後の本発明化合物の投与によってもモルヒネの作用は遮断されることが判明した。
【0065】
実験1-3:モルヒネ誘発性場所嗜好性時間増加時における脳内[H]リアノジン結合の変化
モルヒネ誘発性場所噂好性時間増加時における脳内[H]リアノジン結合の変化は種々の濃度の[H]リアノジン存在下で行った結合実験のデータをScatchrd解析により検討した。モルヒネ投与動物では中脳辺縁系において[H]リアノジン結合が増加していることが明らかとなった。しかもそのScatchard解析からこの増加は最大結合量を示すBmax値の増加に起因すること、すなわちリアノジン受容体蛋白が増加していることが明らかにされた(図3)。
【0066】
実験1-4:モルヒネ誘発性場所嗜好性時間増加時における脳内リアノジン受容体サブタイプの発現変化
リアノジン受容体のサブタイプには3種類のサブタイプが存在していることが明らかにされている。従って本実験ではモルヒネ誘発性場所嗜好性時間増加時には中脳辺縁系においてどのサブタイプの発現が変化しているのか、についてイムノブロット法で検討した。図4に示すとおり、モルヒネ誘発性場所嗜好性時間増加時にはすべてのリアノジン受容体サブタイプの発現増加、すなわちリアノジン受容体サブタイプのタンパク質の増加が生じていることが明らかとなった。
【0067】
以上の実験から、モルヒネ誘発性場所嗜好性時間増加時には精神依存形成に重要な関与を果たす中脳辺縁系においてリアノジン受容体の発現増加による機能亢進が生じており、本発明化合物の有する薬理作用であるリアノジン受容体遮断作用はこのリアノジン受容体機能亢進によるモルヒネ誘発性場所嗜好性時間の増加、すなわちモルヒネによる精神依存の形成の阻止および精神依存が獲得された条件下における精神依存病態の解消を生じせしめるものであり、従って麻薬による依存症の予防および治療に使用できる薬物と判断される。
【0068】
[実施例2]
覚せい剤による場所嗜好性に及ぼす影響
覚せい剤としてメタンフェタミンを使用し、覚せい剤による場所嗜好性の獲得はブレイン・リサーチ(Brain Res.602:45-52, 1993)に記載の条件付け場所嗜好性試験に準じて検討した。メタンフェタミンはマウス皮下に1mg/kgの用量で投与した。ダントロレンのメタンフェタミン誘発性場所嗜好性の変化に対する影響は、生理食塩水に溶解したダントロレンをマウス脳室内に投与した。
【0069】
ダントロレンの投与は2つの異なる時期に投与した。メタンフェタミンによる場所嗜好性を獲得させる前、すなわちメタンフェタミンと同時に投与する方法と、メタンフェタミンに対する精神依存が形成されたマウスに対し投与する方法である。前者はメタンフェタミン精神依存形成の予防、後者はメタンフェタミン精神依存形成状態に対するダントロレンの効果、すなわちダントロレンの治療効果を観察するためである。
【0070】
上述のメタンフェタミン精神依存形成時に見られる脳内リアノジン受容体の機能変化を検討するために、精神依存形成に関与するとされる側坐核を含む中脳辺縁系の膜標品(P膜標品)に対し、放射性リガンドとして[H]リアノジンを用い、ジャーナル・ニューロサイエンスに掲載された方法(J Neurosci l2:1094−1100,1992)に準じて結合実験を行った。上記膜標品を50mM Tris-HCl緩衝液中で種々の渡度の[H]リアノジン存在下で、37℃、60分のインキュベーションを行った後に、標品を含む反応液をWhatman GF/Bフィルターを用いて吸引ろ過し、フィルター上に残存する放射活性を測定した。
【0071】
メタンフェタミン精神依存形成時における側坐核を含む中脳辺線系におけるリアノジン受容体の発現の変化はリアノジン受容体サブタイプの測定を、既報のイムノブロット法(ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー J Biol Chem 277:7979−7988,2002)に準じて行った。
【0072】
実験2-1:本発明化合物によるメタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間の増加に対する抑制効果
図5に示すように、メタンフェタミンの投与により統計学的に有意な場所嗜好性時間の増加が見られた。このメタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間の増加はメタンフェタミン投与に先立って投与された本発明化合物により用量依存性かつ有意に抑制された。一方、本発明化合物の単独投与では場所嗜好性時間には変化が見られなかった。この実験成績は本発明化合物がメタンフェタミンにより誘発される精神依存形成を抑制する作用、すなわちメタンフェタミンによる精神依存形成を予防する作用を示すと判断できる。
【0073】
実験2-2:メタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間の増加の後に本発明化合物投与による抑制効果
次にメタンフェタミンにより精神依存形成が確立しているマウスに本発明化合物を投与して、臨床的に実際に遭遇する場合の条件に類似した条件を設定して検討を行った。その結果、図6に示すように、メタンフェタミンによって生じた場所嗜好性時間の増加が確立された後の本発明化合物の投与によってもメタンフェタミンの作用は遮断されることが判明した。
【0074】
実験2-3:メタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間増加時における脳内[H]リアノジン結合の変化
メタンフェタミン誘発性場所噂好性時間増加時における脳内[H]リアノジン結合の変化は種々の濃度の[H]リアノジン存在下で行った結合実験のデータをScatchrd解析により検討した。メタンフェタミン投与動物では中脳辺縁系において[H]リアノジン結合が増加していることが明らかとなった。しかもそのScatchard解析からこの増加は最大結合量を示すBmax値の増加に起因すること、すなわちリアノジン受容体蛋白が増加していることが明らかにされた(図7)。
【0075】
実験2-4:メタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間増加時における脳内リアノジン受容体サブタイプの発現変化
リアノジン受容体のサブタイプには3種類のサブタイプが存在していることが明らかにされている。従って本実験ではメタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間増加時には中脳辺縁系においてどのサブタイプの発現が変化しているのか、についてイムノブロット法で検討した。図8に示すとおり、メタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間増加時にはすべてのリアノジン受容体サブタイプの発現増加、すなわちリアノジン受容体サブタイプのタンパク質の増加が生じていることが明らかとなった。
【0076】
以上の実験から、メタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間増加時には精神依存形成に重要な関与を果たす中脳辺縁系においてリアノジン受容体の発現増加による機能亢進が生じており、本発明化合物の有する薬理作用であるリアノジン受容体遮断作用はこのリアノジン受容体機能亢進によるメタンフェタミン誘発性場所嗜好性時間の増加、すなわちメタンフェタミンによる精神依存の形成の阻止および精神依存が獲得された条件下における精神依存病態の解消を生じせしめるものであり、従って覚せい剤およびコカイン等による依存症の予防および治療に使用できる薬物と判断される。
【0077】
[実施例3]
アルコールによる場所嗜好性に及ぼす影響
アルコールによる場所嗜好性の獲得はブレイン・リサーチ(Brain Res.602:45-52, 1993)に記載の条件付け場所嗜好性試験に準じて検討した。アルコールはマウス腹腔内に2g/kgの用量で投与した。ダントロレンのアルコール誘発性場所嗜好性の変化に対する影響は、生理食塩水に溶解したダントロレンをマウス脳室内に投与した。
【0078】
ダントロレンの投与は2つの異なる時期に投与した。アルコールによる場所嗜好性を獲得させる前、すなわちアルコールと同時に投与する方法と、アルコールに対する精神依存が形成されたマウスに対し投与する方法である。前者はアルコール精神依存形成の予防、後者はアルコール精神依存形成状態に対するダントロレンの効果、すなわちダントロレンの治療効果を観察するためである。
【0079】
上述のアルコール精神依存形成時に見られる脳内リアノジン受容体の機能変化を検討するために、精神依存形成に関与するとされる側坐核を含む中脳辺縁系の膜標品(P膜標品)に対し、放射性リガンドとして[H]リアノジンを用い、ジャーナル・ニューロサイエンスに掲載された方法(J Neurosci l2:1094−1100,1992)に準じて結合実験を行った。上記膜標品を50mM Tris-HCl緩衝液中で種々の濃度の[H]リアノジン存在下で、37℃、60分のインキュベーションを行った後に、標品を含む反応液をWhatman GF/Bフィルターを用いて吸引ろ過し、フィルター上に残存する放射活性を測定した。
【0080】
アルコール精神依存形成時における側坐核を含む中脳辺線系におけるリアノジン受容体の発現の変化はリアノジン受容体サブタイプの測定を、既報のイムノブロット法(ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー J Biol Chem 277:7979−7988,2002)に準じて行った。
【0081】
実験3-1:本発明化合物によるアルコール誘発性場所嗜好性時間の増加に対する抑制効果
図9に示すように、アルコールの投与により統計学的に有意な場所嗜好性時間の増加が見られた。このアルコール誘発性場所嗜好性時間の増加はアルコール投与に先立って投与された本発明化合物により用量依存性かつ有意に抑制された。一方、本発明化合物の単独投与では場所嗜好性時間には変化が見られなかった。この実験成績は本発明化合物がアルコールにより誘発される精神依存形成を抑制する作用、すなわちアルコールによる精神依存形成を予防する作用を示すと判断できる。
【0082】
実験3-2:アルコール誘発性場所嗜好性時間の増加の後に本発明化合物投与による抑制効果
次にアルコールにより精神依存形成が確立しているマウスに本発明化合物を投与して、臨床的に実際に遭遇する場合の条件に類似した条件を設定して検討を行った。その結果、図10に示すように、アルコールによって生じた場所嗜好性時間の増加が確立された後の本発明化合物の投与によってもアルコールの作用は遮断されることが判明した。
【0083】
実験3-3:アルコール誘発性場所嗜好性時間増加時における脳内[H]リアノジン結合の変化
アルコール誘発性場所噂好性時間増加時における脳内[H]リアノジン結合の変化は種々の濃度の[H]リアノジン存在下で行った結合実験のデータをScatchrd解析により検討した。アルコール投与動物では中脳辺縁系において[H]リアノジン結合が増加していることが明らかとなった。しかもそのScatchard解析からこの増加は最大結合量を示すBmax値の増加に起因すること、すなわちリアノジン受容体蛋白が増加していることが明らかにされた(図11)。
【0084】
実験3-4:アルコール誘発性場所嗜好性時間増加時における脳内リアノジン受容体サブタイプの発現変化
リアノジン受容体のサブタイプには3種類のサブタイプが存在していることが明らかにされている。従って本実験ではアルコール誘発性場所嗜好性時間増加時には中脳辺縁系においてどのサブタイプの発現が変化しているのか、についてイムノブロット法で検討した。図12に示すとおり、アルコール誘発性場所嗜好性時間増加時にはすべてのリアノジン受容体サブタイプの発現増加、すなわちリアノジン受容体サブタイプのタンパク質の増加が生じていることが明らかとなった。
【0085】
以上の実験から、アルコール誘発性場所嗜好性時間増加時には精神依存形成に重要な関与を果たす中脳辺縁系においてリアノジン受容体の発現増加による機能亢進が生じており、本発明化合物の有する薬理作用であるリアノジン受容体遮断作用はこのリアノジン受容体機能亢進によるアルコール誘発性場所嗜好性時間の増加、すなわちアルコールによる精神依存の形成の阻止および精神依存が獲得された条件下における精神依存病態の解消を生じせしめるものであり、従ってアルコールによる依存症の予防および治療に使用できる薬物と判断される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明化合物によるモルヒネ誘発性精神依存の形成阻止作用を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明化合物によるモルヒネ誘発性精神依存獲得動物における精神依存病態解消作用を示すグラフである。
【図3】図3は、モルヒネ誘発性精神依存形成時の中脳辺縁系における[H]リアノジン結合の変化を示すグラフである(Scatchard解析による)。
【図4】図4は、モルヒネ誘発性精神依存形成時の中脳辺縁系におけるリアノジン受容体サブタイプ蛋白の発現変化を示す。
【図5】図5は、本発明化合物による覚せい剤誘発性精神依存の形成阻止作用を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明化合物による覚せい剤誘発性精神依存獲得動物における精神依存病態解消作用を示すグラフである。
【図7】図7は、覚せい剤誘発性精神依存形成時の中脳辺縁系における[H]リアノジン結合の変化を示すグラフである(Scatchard解析による)。
【図8】図8は、覚せい剤誘発性精神依存形成時の中脳辺縁系におけるリアノジン受容体サブタイプ蛋白の発現変化を示す。
【図9】図9は、本発明化合物によるアルコール誘発性精神依存の形成阻止作用を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明化合物によるアルコール誘発性精神依存獲得動物における精神依存病態解消作用を示すグラフである。
【図11】図11は、アルコール誘発性精神依存形成時の中脳辺縁系における[H]リアノジン結合の変化を示すグラフである(Scatchard解析による)。
【図12】図12は、アルコール誘発性精神依存形成時の中脳辺縁系におけるリアノジン受容体サブタイプ蛋白の発現変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアノジン受容体の遮断薬を有効成分として含有してなる薬物依存症の治療または予防剤。
【請求項2】
リアノジン受容体の遮断薬が式(I):
【化1】

で表される基を有するヒダントイン化合物またはその塩である、請求項1記載の治療または予防剤。
【請求項3】
式(I)で表される基を有する化合物が、式(II):
【化2】

(式中、Rは水素原子または脂溶性付与基を示す)
で表される化合物である請求項2記載の治療または予防剤。
【請求項4】
Rが水素原子である請求項3記載の治療または予防剤。
【請求項5】
薬物依存症が精神依存の段階である請求項1〜4いずれかに記載の治療または予防剤。
【請求項6】
依存性薬物が精神依存性薬物および身体依存性薬物からなる群より選ばれるものである請求項1〜4いずれかに記載の治療または予防剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【図8】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−79001(P2009−79001A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249462(P2007−249462)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(806000011)財団法人岡山県産業振興財団 (12)
【Fターム(参考)】