説明

薬物反応を予測するための方法および組成物

本発明は、薬物反応を予測するための方法および組成物に関する。特に、本発明は、VKORC1 遺伝子の多型の有無に基づいて、個別化されたワーファリン投与量を決定するための方法および組成物を提供する。さらに、本発明は、VKORC1 遺伝子の発現レベルに基づいて、個別化されたワーファリン 投与量を決定するための方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、薬物反応を予測するための方法および組成物に関する。特に、本発明は、VKORC1遺伝子の多型の有無に基づいて、個別化されたワーファリン投与量を決定するための方法および組成物を提供する。さらに、本発明は、VKORC1遺伝子の発現レベルに基づいて、個別化されたワーファリン投与量を決定するための方法および組成物を提供する。
【0002】
本願は一部、NHLBI-Program for Genomic Applications (PGA)助成金 (U01 HL66682)、Program for Genomic Applications (PGA)助成金 U01 HL66682、NIH General Medical Sciences 助成金 GM068797、およびUW NIEHSが資金提供したCenter for Ecogenetics and Environmental Health, 助成金 NIEHS P30ES07033による支援を受けた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
米国のみで毎年30億を上回る処方箋が書かれ、数億人の病気が効果的に予防または治療されている。しかし、処方薬は患者において強力な毒性の作用を引き起こすこともある。これらの作用は薬物有害反応(ADR)と呼ばれる。薬物有害反応は重篤な障害を引き起こし、死亡の原因にさえなることもある。個体が薬物を利用し、体から排出するやり方の違いは、ADRの最も重要な原因の1つである。代謝の違いによっても、一部の個体では、ある用量の薬物の効果は望ましい効果より低くなる。
【0004】
毎年、薬物有害反応により自動車事故による死亡者数の3倍である10万6,000人を上回る米国人が死亡し、さらに210万人が重篤な傷害を受ける。ADRは、米国人の4番目に大きな死因である。毎年、これを上回る死因は心臓病、癌、および脳卒中しかない。全入院患者の7パーセントが重篤なまたは死に至るADRに罹患する。全ADRの2/3超が病院外で起こる。薬物有害反応は、死亡、障害、および資源消費の重篤で、一般的な、増大する原因である。
【0005】
薬物に関連する異常は全入院患者の約10パーセントを占めると見積もられている。米国での薬物に関連する罹患および死亡は、年に766億〜1360億ドルの費用がかかると見積もられている。
【0006】
ほとんどの処方薬は、現在、「フリーサイズ(one size fits all)」法で標準的な用量で処方されている。しかしながら、この「フリーサイズ」法は、異なる個体に劇的に異なる代謝能を与え、ある特定の薬物からは利益を得る重要な遺伝子差を考慮に入れていない。遺伝子差は人種または民族性の影響を受ける場合があるが、主として、相関するゲノム特性を特定しなければ予測できない場合もある。必要とされているものは、ある特定の薬物またはある特定の薬物投与量に対する個体の反応を予測する改善された方法である。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、薬物反応を予測するための方法および組成物に関する。特に、本発明は、VKORC1遺伝子の多型の有無に基づいて、個別化されたワーファリン投与量を決定するための方法および組成物を提供する。さらに、本発明は、VKORC1遺伝子の発現レベルに基づいて、個別化されたワーファリン投与量を決定するための方法および組成物を提供する。
【0008】
従って、ある態様では、本発明は、(例えばVKORC1 mRNAまたはVKORC1タンパク質の発現を測定することによって)VKORC1多型の存在および/またはVKORC1遺伝子発現のレベルを決定し、発現レベルおよび/または多型とワーファリン投与量を相関づけるための組成物、キット、および方法を提供する。従って、ある態様では、本発明は、被験体から試料を得る工程;および被験体のVKORC1ハプロタイプ、SNP遺伝子型、または任意の診断用SNPと連鎖不平衡にあるSNPを決定する工程を含む方法を提供する。ある態様では、前記方法は、被験体のVKORC1ハプロタイプ(例えば、H1、H2、H7、H8、またはH9ハプロタイプ)に基づいて、被験体のワーファリン最適用量を決定する工程をさらに含む。ある態様では、前記方法は、被験体のCYP2C9遺伝子型を決定する工程をさらに含む。ある態様では、被験体のVKORC1遺伝子型を決定する工程は、核酸に基づく検出アッセイ(例えば、配列決定アッセイまたはハイブリダイゼーションアッセイ)の使用を含む。ある態様では、本発明は、被験体のクレードタイプ(例えば、AA、AB、またはBBクレードタイプ)を決定する工程をさらに含む。
【0009】
他の態様では、本発明は、被験体から試料を得る工程;SEQ ID NO:1の1つもしくは複数の位置(例えば、位置381、3673、5808、6484、6853、7566、および9041)にある一塩基多型またはこれらの部位と連鎖不平衡にある任意の多型の遺伝子型を決定する工程;ならびに一塩基多型の遺伝子型に基づいて、被験体のワーファリン最適投与量を決定する工程を含む、方法を提供する。ある態様では、被験体のVKORC1遺伝子型を決定する工程は、核酸に基づく検出アッセイ(例えば、配列決定アッセイまたはハイブリダイゼーションアッセイ)の使用を含む。
【0010】
さらに、本発明は、被験体の血液凝固薬(例えば、ワーファリン)最適用量を決定するためのキットを提供する。このキットは、被験体のVKORC1ハプロタイプ(例えば、H1、H2、H7、H8、またはH9ハプロタイプ)を特異的に検出することができる検出アッセイ;および被験体のワーファリン最適投与量を決定するための説明を含む。ある態様では、キットは、被験体のCYP2C9遺伝子型を決定するための試薬をさらに含む。ある態様では、検出アッセイは、核酸に基づく検出アッセイ(例えば、配列決定アッセイまたはハイブリダイゼーションアッセイ)である。ある態様では、このキットは、被験体のクレードタイプ(例えば、AA、AB、またはBBクレードタイプ)を決定するための説明書をさらに含む。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、被験体から試料を得る工程;および被験体のVKORC1発現レベルを決定して、ワーファリン療法に対する反応性を決定する工程を含む、方法を提供する。ある態様では、前記方法は、被験体のVKORC1発現レベルに基づいて、被験体のワーファリン最適用量を決定する工程をさらに含んだ。ある特定の態様では、前記方法は、被験体のCYP2C9遺伝子型を決定する工程をさらに含む。ある態様では、被験体のVKORC1発現レベルを決定する工程は、(例えば、定量RT-PCRアッセイまたは核酸ハイブリダイゼーションアッセイを用いることによって)被験体によって発現されたVKORC1 mRNAの量を決定する工程を含む。他の態様では、被験体のVKORC1発現レベルを決定する工程は、(例えば、試料を、VKORC1ポリペプチドに特異的に結合する抗体を曝露することによって)被験体によって発現されたVKORC1ポリペプチドの量を決定する工程を含む。
【0012】
さらに、本発明は、被験体のワーファリン最適投与量を決定するためのキットを提供する。このキットは、被験体のVKORC1発現レベルを特異的に検出するように構成されている検出アッセイを実施するための試薬;および被験体のワーファリン最適投与量を決定するための説明書を含む。ある態様では、試薬は、被験体によって発現されたVKORC1 mRNAの量を決定するための試薬(例えば、定量RT-PCRアッセイまたは核酸ハイブリダイゼーションアッセイのための試薬)を含む。他の態様において、試薬は、被験体によって発現されたVKORC1ポリペプチドの量を決定するための試薬(例えば、VKORC1ポリペプチドに特異的に結合する抗体)を含む。ある態様において、このキットは、被験体のCYP2C9遺伝子型を決定するための試薬をさらに含む。
【0013】
定義
本発明を理解しやすくするために、多くの用語および句を以下で定義する。
【0014】
本明細書で使用する用語「一塩基多型」または「SNP」は、1つまたは複数の変種ヌクレオチドを有する、ヌクレオチド配列に沿った任意の位置を意味する。一塩基多型(SNP)は、ヒトゲノムに見られるDNA配列変化の中で最もよくある形態であり、一般的に、ヒトゲノムプロジェクトの一環として作成されたベースライン参照DNA配列との違いとして、または一般集団から抽出された個体のサブセット間で見られる違いとして定義される。無作為に選択された任意の2つのヒト染色体を比較した時に、SNPは平均して1000塩基対当たり約1個のSNPの割合で生じる。ある特定の個体または家族に限定され得る、極めて稀なSNPが特定されることがあり、逆に、一般集団(血縁関係の無い多くの個体)において極めてよく見られると見出されることがある。SNPは、DNA複製中の(すなわち、自然に起こる)エラーによって、または変異原性薬剤(すなわち、ある特定のDNA損傷物質)によって生じることがあり、生物が生殖する間に後の個体世代に遺伝することがある。
【0015】
本明細書で使用する用語「連鎖不平衡」は、一塩基多型間で遺伝子型に相関関係がある一塩基多型を意味する。いくつかの統計学的測定値を用いて、この関係(すなわち、D'、r2など)参照値を定量することができる (例えば、Devlin and Risch 1995 Sep 20;29(2):311-22を参照されたい)。ある態様では、SNP-SNP対は、r2が>0.5であれば連鎖不平衡にあるとみなされる。
【0016】
本明細書で使用する用語「ハプロタイプ」は、一緒に遺伝する、密接に連鎖している対立遺伝子の一群を意味する。
【0017】
本明細書で使用する用語「ハプロタイプクレード」または「クレード」は、ハプロタイプ群の中の全てのハプロタイプが互いに類似する程度が、ハプロタイプ群の中の任意のハプロタイプと他の任意のハプロタイプと類似する程度より大きい、任意のハプロタイプ群を意味する。クレードは、例えば、統計クラスター分析を実施することによって特定することができる。
【0018】
本明細書で使用する用語「被験体」は、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類などを含むが、これに限定されない任意の動物(例えば、哺乳動物)を意味する。典型的に、用語「被験体」および「患者」は、ヒト被験体に関して本明細書において同義に用いられる。
【0019】
本明細書で使用する用語「非ヒトトランスジェニック動物」は、内因性VKORC1遺伝子が(例えば、「VKORC1」もしくは「VKORC1ノックイン」の結果として)不活性化されている、または内因性VKORC1遺伝子が変化している(例えば、多型型VKORC1遺伝子を含有する)非ヒト動物(好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、マウス)を意味する。
【0020】
本明細書で使用する用語「非ヒト動物」は、げっ歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ目、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、鳥類などの脊椎動物を含むが、これに限定されない全ての非ヒト動物を意味する。
【0021】
本明細書で使用する用語「遺伝子導入システム」は、核酸配列を含む組成物を細胞または組織に送達する任意の手段を意味する。例えば、遺伝子導入システムには、ベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、および他の核酸に基づく送達システム)、裸の核酸のマイクロインジェクション、ポリマーに基づく送達システム(例えば、リポソームに基づくシステムおよび金属粒子に基づくシステム)、バイオリスティック注入などが含まれるが、これに限定されない。本明細書で使用する用語「ウイルス遺伝子導入システム」は、所望の細胞または組織への試料の送達を容易にするための、ウイルスエレメント(例えば、インタクトなウイルス、改変ウイルス、および核酸またはタンパク質などのウイルス成分)を含む遺伝子導入システムを意味する。本明細書で使用する用語「アデノウイルス遺伝子導入システム」は、アデノウイルス科(Adenoviridae)に属するインタクトなウイルスまたは変化したウイルスを含む遺伝子導入システムを意味する。
【0022】
本明細書で使用する用語「部位特異的組換え標的配列」は、組換え因子の認識配列をもたらす核酸配列、および組換えが起こる位置を意味する。
【0023】
本明細書で使用する用語「核酸分子」は、DNAまたはRNAを含むが、これに限定されない任意の核酸含有分子を意味する。この用語は、DNAおよびRNAの公知の任意の塩基類似体を含む配列を含む。塩基類似体には、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、プソイドイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンを含むが、これに限定されない。
【0024】
用語「遺伝子」は、ポリペプチド、前駆体、またはRNA(例えば、rRNA、tRNA)の生成に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNA)配列を意味する。ポリペプチドは完全長コード配列によってコードされてもよく、完全長または断片の所望の活性または機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、免疫原性など)が保持されている限り、コード配列の任意の部分によってコードされてもよい。この用語は、構造遺伝子のコード領域、ならびに遺伝子が完全長mRNAの長さに対応するように、コード領域の5'末端および3'末端に隣接して位置し、両末端から約5kbまたはそれ以上の距離にわたる配列も含む。コード領域の5'側に位置し、mRNAに存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3'側または下流に位置し、mRNAに存在する配列は、3'非翻訳配列と呼ばれる。用語「遺伝子」は、遺伝子のcDNA形態およびゲノム形態の両方を含む。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる非コード配列が間にあるコード領域を含有する。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子セグメントである。イントロンは、エンハンサーなどの調節エレメントを含有してもよい。イントロンは、核転写物または一次転写物から除去される、すなわちスプライシングされる。従って、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物に存在しない。mRNAは、翻訳中に、新生ペプチドにあるアミノ酸の配列または順序を指定するように機能する。
【0025】
本明細書で使用する用語「異種遺伝子」は天然環境にない遺伝子を意味する。例えば、異種遺伝子は、別の種に導入された、ある種に由来する遺伝子を含む。異種遺伝子はまた、何らかの方法で変えられている(例えば、変異されている、複数コピーで付加されている、本来ない調節配列に結合されているなど)生物に本来ある遺伝子も含む。異種遺伝子は、異種遺伝子配列が、典型的に、染色体内の遺伝子配列と天然で関連することが見出されていないDNA配列とつながれている点で、または天然で見出されない染色体の部分と関連している点で(例えば、遺伝子が天然で発現しない遺伝子座において遺伝子が発現する点で)内因性遺伝子と区別される。
【0026】
本明細書で使用する用語「トランスジーン」は、生物(例えば、非ヒト動物)のゲノムに組み込まれ、有性生殖中に生物の子孫に遺伝する異種遺伝子を意味する。
【0027】
本明細書で使用する用語「トランスジェニック生物」は、トランスジーンがゲノムに組み込まれており、有性生殖中にトランスジーンを子孫に伝える生物(例えば、非ヒト動物)を意味する。
【0028】
本明細書で使用する用語「遺伝子発現」は、遺伝子の「転写」によって(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素作用を介して)遺伝子にコードされている遺伝情報をRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)に変換するプロセス、およびmRNAの「翻訳」によって、タンパク質をコードする遺伝子のRNAをタンパク質に変換するプロセスを意味する。遺伝子発現は、このプロセスの多くの段階で調節することができる。「アップレギュレーション」または「活性化」は、遺伝子発現産物(すなわち、RNAまたはタンパク質)の生成を増大させる調節を意味するのに対して、「ダウンレギュレーション」または「抑制」は、生成を低下させる調節を意味する。アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに関与する分子(例えば、転写因子)は、それぞれ、「アクチベーター」および「リプレッサー」と呼ばれることが多い。
【0029】
遺伝子のゲノム形態は、イントロンを含有することに加えて、RNA転写物に存在する配列の5'側および3'側に位置する配列を含んでもよい。これらの配列は「隣接」配列または領域と呼ばれる(これらの隣接配列は、mRNA転写物に存在する非翻訳配列の5'側または3'側に位置する)。5'隣接領域は、プロモーターおよびエンハンサーなどの、遺伝子の転写を制御する、または遺伝子の転写に影響を及ぼす調節配列を含有してもよい。3'隣接領域は、転写終結、転写後切断、およびポリアデニル化を指向する配列を含有してもよい。
【0030】
用語「野生型」は、天然の供給源から単離された遺伝子または遺伝子産物を意味する。野生型遺伝子は、ある集団に最も頻繁に観察される遺伝子であり、従って、任意に、遺伝子の「正常型」または「野生型」と設計される遺伝子である。対照的に、用語「改変された」または「変異体」は、野生型遺伝子または野生型遺伝子産物と比較した時に、配列および/または機能特性が改変されていることを示す(すなわち、特徴が変化している)遺伝子または遺伝子産物を意味する。天然の変異体を単離できることに留意する。これらの天然の変異体は、野生型遺伝子または野生型遺伝子産物と比較した時に、(核酸配列が変化していることを含めて)特徴が変化しているという事実によって特定される。
【0031】
本明細書で使用する用語「をコードする核酸分子」、「をコードするDNA配列」、および「をコードするDNA」は、デオキシリボ核酸鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの順序または配列を意味する。これらのデオキシリボヌクレオチドの順序によって、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序が決まる。従って、DNA配列はアミノ酸配列をコードする。
【0032】
本明細書で使用する用語「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド」および「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」は、遺伝子のコード領域を含む核酸配列、言い換えると、遺伝子産物をコードする核酸配列を意味する。コード領域は、cDNA、ゲノムDNA、またはRNAの形で存在してもよい。DNAの形で存在する時、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖(すなわち、センス鎖)でもよく、二本鎖でもよい。適切な転写開始および/または一次RNA転写物の正確なプロセシングを可能にするために、必要に応じて、エンハンサー/プロモーター、スプライスジャンクション、ポリアデニル化シグナルなどの適切な制御エレメントを、遺伝子のコード領域の近くに配置することができる。または、本発明の発現ベクターに用いられるコード領域は、内因性エンハンサー/プロモーター、スプライスジャンクション、介在配列、ポリアデニル化シグナルなど、または内因性制御エレメントおよび外因性制御エレメントの組み合わせを含有してもよい。
【0033】
本明細書で使用する用語「オリゴヌクレオチド」は、長さが短い一本鎖ポリヌクレオチド鎖を意味する。オリゴヌクレオチドは、典型的に、長さが200残基未満(例えば、15〜100残基)である。しかしながら、本明細書で使用する用語はまた、さらに長いポリヌクレオチド鎖を含むことが意図される。オリゴヌクレオチドは、多くの場合、その長さによって言及される。例えば、24残基オリゴヌクレオチは「24マー(mer)」と呼ばれる。オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイズまたは他のポリヌクレオチドとのハイブリダイズによって二次構造および三次構造を形成してもよい。このような構造には、二重鎖、ヘアピン、十字部、湾曲部、および三重鎖が含まれ得るが、これに限定されない。
【0034】
本明細書で使用する用語「相補的な」または「相補性」は、塩基対合則によって関連付けられるポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)に関して用いられる。例えば、配列「5'-A-G-T-3'」は配列「3'-T-C-A-5'」に相補的である。相補性は、塩基対合則に従って核酸塩基の一部しかマッチしない「部分的」なものでもよい。または、核酸間の相補性が「完全な」または「全体的な」ものでもよい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に著しい影響を及ぼす。このことは、増幅反応、ならびに核酸間の結合に依存する検出方法において特に重要である。
【0035】
用語「相同性」は相補性の程度を意味する。相同性は部分的なものでもよく、完全なものでもよい(すなわち、同一性)。部分的に相補的な配列は、完全に相補的な核酸分子が標的核酸とハイブリダイズするのを少なくとも部分的に阻害する核酸分子であり、「実質的に相同」である。完全に相補的な配列と標的配列とのハイブリダイゼーションの阻害は、低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイゼーションアッセイ(サザンブロットまたはノザンブロット、溶液ハイブリダイゼーションなど)を用いて調べることができる。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシー条件下で、完全に相同な核酸分子と標的との結合(すなわち、ハイブリダイゼーション)において競合し、結合を阻害する。だからといって、低ストリンジェンシー条件は非特異的結合が許される条件というわけではない。低ストリンジェンシー条件では、2つの配列の互いとの結合が特異的な(すなわち、選択的な)相互作用であることが必要とされる。非特異的結合が無いことは、実質的に非相補的な(例えば、同一性が約30%未満の)第2の標的を使用することによって試験することができる。非特異的結合の非存在下では、プローブは第2の非相補的な標的にハイブリダイズしない。
【0036】
用語「実質的に相同な」は、cDNAまたはゲノムクローンなどの二本鎖核酸配列に関して用いられる場合、前記のような低ストリンジェンシー条件下で、二本鎖核酸配列の一方の鎖または両方の鎖とハイブリダイズすることができる任意のプローブを意味する。
【0037】
遺伝子は、一次RNA転写物のディファレンシャルなスプライシングによって生成される複数のRNA種を生じてもよい。同じ遺伝子のスプライスバリアントであるcDNAは、配列が同一な領域または完全に相同な領域(両cDNAには同じエキソンまたは同じエキソンの一部が存在することを示す)、および完全に同一でない領域(例えば、cDNA1にはエキソン「A」が存在し、代わりにcDNA2にはエキソン「B」が含まれることを示す)を含有する。2つのcDNAは配列が同一の領域を含有するので、両方とも、両cDNAに見られる配列を含有する遺伝子全体または遺伝子の一部に由来するプローブにハイブリダイズする。従って、これらの2つのスプライスバリアントはこのようなプローブと実質的に相同であり、互いに実質的に相同である。
【0038】
用語「実質的に相同な」は、一本鎖核酸配列に関して用いられる場合、前記のような低トリンジェンシー条件下で、一本鎖核酸配列とハイブリダイズすることができる(すなわち、一本鎖核酸配列の相補物である)任意のプローブを意味する。
【0039】
本明細書で使用する用語「ハイブリダイゼーション」は、相補核酸の対合に関して用いられる。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強度(すなわち、核酸間の結合の強度)は、核酸間の相補性の程度、関与する条件のストリンジェンシー、形成したハイブリッドのTm、および核酸内のG:C比などの要因の影響を受ける。構造内に相補核酸の対合を含有する1つの分子は、「自己ハイブリダイズ」していると言われる。
【0040】
本明細書で使用する用語「Tm」は「融解温度」に関して用いられる。融解温度は、二本鎖核酸分子集団の半分が一本鎖に解離するようになる温度である。核酸のTmを計算する式は当技術分野において周知である。標準的な参考文献によって示されているように、Tm値の簡単な推定値は、核酸が1M NaClの水溶液中にある場合、式Tm=81.5+0.41(%G+C)によって計算することができる(例えば、Anderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization [1985]を参照されたい)。他の参考文献は、Tm計算のために構造特徴ならびに配列特徴を考慮に入れた、より高度な計算を収録している。
【0041】
本明細書で使用する用語「ストリンジェンシー」は、核酸ハイブリダイゼーションが行われる温度、イオン強度、および有機溶媒などの他の化合物の存在の条件に関して用いられる。「低ストリンジェンシー条件」下では、関心対象の核酸配列は、その正確な相補物、1塩基ミスマッチを有する配列、密接に関連する配列(例えば、90%またはそれ以上の相同性を有する配列)、および部分的な相同性しか有さない配列(例えば、50〜90%の相同性を有する配列)とハイブリダイズする。「中ストリンジェンシー条件」下では、関心対象の核酸配列は、その正確な相補物、1塩基ミスマッチを有する配列、および密接に関連する配列(例えば、90%またはそれ以上の相同性を有する配列)としかハイブリダイズしない。「高ストリンジェンシー条件」下では、関心対象の核酸配列は、その正確な相補物、および(温度などの条件に応じて)1塩基ミスマッチを有する配列としかハイブリダイズしない。言い換えると、高ストリンジェンシー条件下では、1塩基ミスマッチを有する配列とのハイブリダイゼーションを排除するように、温度を上げることができる。
【0042】
「高ストリンジェンシー条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに関して用いられる場合、長さが約500ヌクレオチドのプローブが用いられる時に、5× SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaH2PO4・H2Oおよび1.85g/l EDTA、pHをNaOHで7.4に調整)、0.5%SDS、5×デンハルト試薬、ならびに100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中で42℃での結合またはハイブリダイゼーション、その後の、0.1× SSPE、1.0%SDSを含む溶液で42℃での洗浄に等しい条件を含む。
【0043】
「中ストリンジェンシー条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに関して用いられる場合、長さが約500ヌクレオチドのプローブが用いられる時に、5× SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaH2PO4・H2O、および1.85g/l EDTA、pHをNaOHで7.4に調整)、0.5%SDS、5×デンハルト試薬、ならびに100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中で42℃での結合またはハイブリダイゼーション、その後の、1.0× SSPE、1.0%SDSを含む溶液で42℃での洗浄に等しい条件を含む。
【0044】
「低ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブが用いられる時に、5× SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaH2PO4・H2O、および1.85g/l EDTA、pHをNaOHで7.4に調整)、0.1%SDS、5×デンハルト試薬[50×デンハルト試薬は500ml当たり、5g Ficoll (Type 400, Pharamcia)、5g BSA(Fraction V; Sigma)を含有する]、ならびに100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中で42℃での結合またはハイブリダイゼーション、その後の、5× SSPE、0.1%SDSを含む溶液で42℃での洗浄に等しい条件を含む。
【0045】
当業者であれば、低ストリンジェンシー条件を含めるために非常に多くの等しい条件を使用できることをよく知っている。プローブの長さおよび種類(DNA、RNA、塩基組成)、ならびに標的の種類(DNA、RNA、塩基組成、溶解状態でまたは固定化された状態で存在するなど)、ならびに塩および他の成分の濃度(例えば、ホルムアミド、デキストラン硫酸、ポリエチレングリコールの有無)などの要因が考慮に入れられ、前記の条件とは異なるが、前記の条件に等しい低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションの条件を生じるために、ハイブリダイゼーション溶液を変えることができる。さらに、当業者であれば、高ストリンジェンシーの条件下でハイブリダイゼーションを促進する条件(例えば、ハイブリダイゼーション工程および/または洗浄工程の温度を上げる、ハイブリダイゼーション溶液にホルムアミドを使用するなど)を知っている(「ストリンジェンシー」についての前記の定義を参照されたい)。
【0046】
本明細書で使用する用語「検出アッセイ」は、ある特定の遺伝子(例えば、VKORC1遺伝子)のある特定の対立遺伝子にある変種核酸配列(例えば、多型または変異)の有無を検出するためのアッセイを意味する。
【0047】
核酸に関して用いられる場合、用語「単離された」は、「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」と同様に、特定され、天然供給源において通常関連している少なくとも1つの成分または汚染物質から分離された核酸配列を意味する。単離された核酸は、天然で見出される形態または状況とは異なる形態または状況で存在する。対照的に、単離されていない核酸は、天然で存在する状態で見出されるDNAおよびRNAなどの核酸である。例えば、ある特定のDNA配列(例えば、遺伝子)は、宿主細胞染色体上で、隣接する遺伝子の近くに見出される。ある特定のタンパク質をコードするある特定のmRNA配列などのRNA配列は、多数のタンパク質をコードする非常に多くの他のmRNAとの混合物として細胞中に見出される。しかしながら、ある特定のタンパク質をコードする単離された核酸には、一例として、ある特定のタンパク質を通常発現している細胞内にあるが、天然細胞とは異なる染色体位置にある核酸、または天然で見出されるものとは異なる核酸配列が別の方法で隣接している核酸が含まれる。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖の形で存在してもよい。タンパク質を発現するために、単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドが用いられる場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは少なくともセンス鎖またはコード鎖を含有する(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖でもよい)が、センス鎖およびアンチセンス鎖を両方とも含有してもよい(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは二本鎖でもよい)。
【0048】
本明細書で使用する用語「精製された」または「精製する」は、試料からの成分(例えば、汚染物質)の除去を意味する。例えば、抗体は、非免疫グロブリンの汚染タンパク質を除去することによって精製され、標的分子に結合しない免疫グロブリンを除去することによっても精製される。非免疫グロブリンタンパク質の除去および/または標的分子に結合しない免疫グロブリンの除去は、試料中の標的に反応する免疫グロブリンのパーセントを高める。別の例では、組換えポリペプチドが細菌宿主細胞内で発現され、宿主細胞タンパク質を除去することによってポリペプチドが精製される。それによって、試料中の組換えポリペプチドのパーセントが上がる。
【0049】
「アミノ酸配列」および「ポリペプチド」または「タンパク質」などの用語は、アミノ酸配列を、列挙されたタンパク質分子に関連するネイティブな完全アミノ酸配列に限定することを意味しない。
【0050】
本明細書で使用する用語「ネイティブなタンパク質」は、タンパク質が、ベクター配列によってコードされるアミノ酸残基を含有しないことを示している。すなわち、ネイティブなタンパク質は、天然にある時にタンパク質に見出されるアミノ酸のみを含有する。ネイティブなタンパク質は組換え手段によって生成されてもよく、天然供給源から単離されてもよい。
【0051】
本明細書で使用する用語「一部」は、(「ある特定のタンパク質の一部」のように)タンパク質に関連する場合、タンパク質の断片を意味する。断片は、サイズが4アミノ酸残基〜全アミノ酸配列から1アミノ酸を引いたものでもよい。
【0052】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、1または複数のDNAセグメントをある細胞から別の細胞に移す核酸分子に関して用いられる。用語「ビヒクル(vehicle)」は、時として、「ベクター」と同義に用いられる。ベクターは、多くの場合、プラスミド、バクテリオファージ、または植物ウイルスもしくは動物ウイルスに由来する。
【0053】
本明細書で使用する用語「発現ベクター」は、所望のコード配列、および特定の宿主生物における機能的に結合されたコード配列の発現に必要な適切な核酸配列を含有する組換えDNA分子を意味する。原核生物における発現に必要な核酸配列は、通常、プロモーター、オペレーター(任意)、およびリボソーム結合部位を、多くの場合他の配列と共に含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0054】
用語「過剰発現」および「過剰発現する」ならびに文法上の均等物は、対照または非トランスジェニック動物のある特定の組織において観察されるものより約3倍高い(または大きい)発現レベルを示すために、mRNAのレベルに関して用いられる。mRNAのレベルは、ノザンブロット分析を含むが、これに限定されない、当業者に公知の任意の多数の技法を用いて測定される。分析された各組織からロードされたRNAの量の違いを調整するために、適切な対照がノザンブロットに含まれる(例えば、全組織に本質的に同じ量で存在し、各試料に存在する豊富なRNA転写物である28S rRNAの量を、ノザンブロット上で観察されたmRNA特異的シグナルを規準化または標準化する手段として使用することができる)。正確にスプライシングされたトランスジーンRNAとサイズが一致するバンドに存在するmRNAの量が定量される。トランスジェニックmRNAの発現の定量では、トランスジーンプローブにハイブリダイズする他のマイナーなRNA種は考慮されない。
【0055】
本明細書で使用する用語「トランスフェクション」は、真核細胞への外来DNAの導入を意味する。トランスフェクションは、当該技術分野において公知の様々な手段によって達成することができる。このような手段には、リン酸カルシウム-DNA共沈殿、DEAE-デキストランを介したトランスフェクション、ポリブレンを介したトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、バイオリスティックが含まれる。
【0056】
用語「安定なトランスフェクション」または「安定にトランスフェクトされた」は、トランスフェクトされる細胞のゲノムへの外来DNAの導入および組込みを意味する。用語「安定なトランスフェクタント」は、ゲノムDNAに外来DNAが安定に組み込まれている細胞を意味する。
【0057】
用語「一過性トランスフェクション」または「一過性にトランスフェクトされた」は、外来DNAがトランスフェクトされる細胞のゲノムに組み込まれない、細胞への外来DNAの導入を意味する。外来DNAは、数日間、トランスフェクト細胞の核に残り続ける。この間、外来DNAは、染色体内の内因性遺伝子の発現を支配する調節制御の影響下にある。用語「一過性トランスフェクタント」は、外来DNAを取り込んでいるが、このDNAを組み込んでいない細胞を意味する。
【0058】
使用される用語「真核生物」は、「原核生物」と区別することができる生物を意味する。この用語は、核膜に包まれた、染色体を含む真核が存在する、膜に包まれた細胞小器官が存在する、真核生物において一般的に観察される他の特徴などの真核生物の通常の特徴を示す細胞を有する全ての生物を含むことが意図される。従って、この用語は、菌類、原生動物、および動物(例えば、ヒト)などの生物を含むが、これに限定されない。
【0059】
本明細書で使用する用語「インビトロ」は、人為的な環境、および人為的な環境の中で起こるプロセスまたは反応を意味する。インビトロ環境は試験管および細胞培養からなってもよいが、これに限定されない。用語「インビボ」は、天然環境(例えば、動物または細胞)および天然環境の中で起こるプロセスまたは反応を意味する。
【0060】
用語「試験化合物」および「候補化合物」は、疾患、病気、病、または身体機能の障害(例えば、癌)を治療または予防するのに使用するための候補物質である任意の化学的実体、薬剤、薬物などを意味する。試験化合物は、公知の治療用化合物および潜在的な治療用化合物の両方を含む。試験化合物は、本発明のスクリーニング方法を用いたスクリーニングによって治療に役立つことを確かめることができる。
【0061】
本明細書で使用する用語「試料」は、その最も広い意味で用いられる。1つの意味では、任意の供給源から得られた標本または培養物、ならびに生物学的試料および環境試料を含むことが意図される。生物学的試料は動物(ヒトを含む)から得られてもよく、流体、固体、組織、および気体を含む。生物学的試料は、血漿、血清などの血液生成物を含む。環境試料は、表面物質、土、水、および産業試料などの環境物質を含む。しかしながら、このような例は、本発明に適用可能な試料タイプを限定するものと解釈してはならない。
【0062】
発明の詳細な説明
クマリン抗凝固薬は、血栓塞栓事象を長期間予防するための世界的な決定的治療薬である。2003年、米国のみで経口抗凝固物質ワーファリンのために合計2120万の処方箋が書かれた。残念なことに、ワーファリンは、この薬物の抗凝固作用を変え得る多くの要因、すなわち、治療域が狭い、用量要件の民族差がはっきりしている、および投薬における個体間のばらつきが広いために相当の用量管理問題をもたらす。これらの難問は、特に脳卒中予防において、抗凝固療法が全体的に十分に利用されていないことの一因となっているかもしれない(Fang et al., Arch Intern Med 164, 55-60 (2004); Gage et al., Stroke 31, 822-7 (2000))。より活性のあるワーファリン(S)-鏡像異性体の主要な異化酵素であるチトクロムP450(CYP)2C9の構造遺伝子変異は治療中の不都合なアウトカムの危険因子であり(Higashi et al., Jama 287, 1690-8 (2002))、VKORC1の極めて稀な変異は顕性ワーファリン耐性の基礎をなしている(Rost et al., Nature 427, 537-41 (2004))。ある1つのVKORC1多型とワーファリン投与量に関係があることが述べられている(D'Andrea, Blood, September 9, 2004)。しかしながら、本発明の前には、ワーファリン用量要件の違いの多くは説明されていないままであった(Gage et al., Thromb Haemost 91 , 87-94 (2004))。
【0063】
ワーファリンは、凝固因子合成の必須成分である、ビタミンKH2(還元ビタミンK)、のビタミンKエポキシドからの再生を阻害することによって抗血栓作用を発揮する(Suttie, Adv Exp Med Biol 214, 3-16 (1987))。この酵素活性は、最近発見されたビタミンKエポキシド還元酵素遺伝子VKORC1によって測定される(Li et al., Nature 427, 541-4 (2004); Rost et al., 前記)。
【0064】
本発明の開発中に行われた実験から、ある特定のVKORC1ハプロタイプとワーファリン最適投与量の間には相関関係があることが証明された。従って、ある態様において、本発明は、被験体のワーファリンおよび関連薬物(例えば、同じ生物学的経路に関与する薬物)の最適用量を決定するための方法および組成物を提供する。
【0065】
本発明の開発中に行われたさらなる実験から、VKORC1発現とVKORC1ハプロタイプの間には相関関係があることが証明された(例えば、実施例2を参照されたい)。(i)Aハプロタイプと低いmRNA発現の関係および(ii)Bハプロタイプと高いmRNA発現の関係は、この抗凝固物質による酵素阻害の簡単な非競合モデルによって予測されたように、ワーファリン用量に及ぼすこれらのハプロタイプの影響と一致している(Fasco et al., Biochemistry 1983; 22:5655-60)。本発明は、ある特定の機構に限定されない。実際には、本発明を実施するために、この機構を理解する必要はない。それにもかかわらず、VKORC1 mRNAのレベルは各ハプロタイプによって支配され、ビタミンKエポキシド還元酵素複合体のタンパク質合成レベルを決定し、その結果、患者におけるワーファリン維持量の違いを説明することが意図される。この作用を説明する主要なSNP候補は、大きなハプロタイプ分離(部位381、3673、6484、6853、および7566)を指定し、ワーファリン維持量を予測するものである。これらの部位を含む潜在的に保存されている非コード領域を特定するために、これらのSNPを、ラット、マウス、およびイヌ種の相同領域にマッピングした。この情報価値のあるグループから2つのSNP(6484および6583)だけが保存されている。これらはエキソン2に隣接しているが、エキソンスプライシングに必要な標準的な領域の外にある。これらの領域は、転写因子結合部位に結合する調節配列として作用すると考えられる。
【0066】
CYP2C9(およびVKORC1)、UGT1A1、ならびにTPMTの遺伝子変種によって有効性が左右される、ワーファリン、イリノテカン、およびチオプリンのような薬物を伴う治療の前、または治療と同時にジェノタイピングを行う利点は、規制当局と臨床コミュニティの間で活発な議論が交わされる分野である(Lesko et al., Nat Rev Drug Discov 2004; 3:763-9)。最近公表されたガイドラインは、5〜10mg/day 19のワーファリン初期投薬を示唆している。しかしながら、本発明の開発中に行われた実験は、この方針が低用量VKORC1 A/A患者を、必要以上に高い用量の薬物に曝露する可能性があることを示唆している。従って、ある態様において、本発明は、ワーファリン最適投与量の決定を助けるためにVKORC1発現および多型の分析を含む方法を提供する。
【0067】
I.1人1人に合わせたワーファリン投薬
ある態様では、本発明は、被験体のVKORC1ハプロタイプまたはクレードタイプを特定する工程を含む、1人1人に合わせてワーファリンを投薬する方法を提供する。以下で説明するように(実験セクションを参照されたい)、本発明の開発中に行われた実験から、ワーファリン最適投与量に関連する一連のVKORC1多型が特定された。VKORC1の7個の部位(381、3673、5808、6484、6853、7566、および9041)にある多型が特定された。これらの多型は、2つの低用量(2.9mg/dおよび3.0mg/d)ハプロタイプ(H1およびH2)ならびに2つの高用量(6.0mg/dおよび5.5mg/d)ハプロタイプ(H7およびH9)に関連することが見出された。従って、本発明は、このような多型およびハプロタイプを任意の方法によって直接的または間接的に検出するための、ワーファリンおよび関連薬物に対する反応を予測するための、薬物投与量を選択するための、ならびに薬物代謝に関する研究を行うための組成物、方法、およびキットを提供する。これらの多型は、研究者および医師に利用可能な情報を向上させるために、他の多型(例えば、CYP2C9)と一緒に検出されてもよい。
【0068】
ある態様では、本発明の方法は、被験体のハプロタイプを特定し、被験体の最適投与量範囲を決定する工程を含む。本発明の方法は、ワーファリンおよび関連薬物のより安全な、従って、より広範囲の使用を可能にする。VKORC1多型を決定するための例示的な方法を以下で説明する。
【0069】
1.直接配列決定アッセイ
本発明のある態様では、VKORC1多型配列は直接配列決定アッセイを用いて決定される。これらのアッセイでは、最初に、任意の適切な方法を用いて被験体からDNA試料が単離される。ある態様では、関心対象の領域が適切なベクターにクローニングされ、宿主細胞(例えば、細菌)での増殖によって増幅される。他の態様では、関心対象の領域にあるDNAがPCRを用いて増幅される。
【0070】
増幅後に、関心対象の領域(例えば、関心対象のSNPまたは変異を含有する領域)にあるDNAは、放射性マーカーヌクレオチドを用いた手作業による配列決定、および自動配列決定を含むが、これに限定されない任意の適切な方法を用いて配列決定される。配列決定の結果は任意の適切な方法を用いて表示される。配列は調べられ、ある特定のSNPまたは変異の有無が確かめられる。
【0071】
2.PCR法
本発明のある態様では、変種配列は、PCRに基づくアッセイを用いて検出される。ある態様では、PCR法は、変種対立遺伝子または野生型対立遺伝子(例えば、多型または変異の領域)にしかハイブリダイズしないオリゴヌクレオチドプライマーの使用を含む。DNA試料を増幅するために、両方のプライマーセットが用いられる。変異プライマーだけからPCR産物が得られれば、患者は変異対立遺伝子を有する。野生型プライマーだけからPCR産物が得られれば、患者は野生型対立遺伝子を有する。
【0072】
3.ハイブリダイゼーションアッセイ
本発明の好ましい態様において、変種配列はハイブリダイゼーションアッセイを用いて検出される。ハイブリダイゼーションアッセイにおいて、ある特定のSNPまたは変異の有無は、試料に由来するDNAが相補的DNA分子(例えば、オリゴヌクレオチドプローブ)にハイブリダイズする能力に基づいて確かめられる。ハイブリダイゼーションおよび検出のための様々な技術を用いた様々なハイブリダイゼーションアッセイを利用することができる。以下で、アッセイの選択について説明する。
【0073】
a.ハイブリダイゼーションの直接検出
ある態様では、プローブと関心対象の配列(例えば、SNPまたは変異)のハイブリダイゼーションは、結合したプローブを視覚化することによって直接検出される(例えば、ノザン法またはサザン法;例えば、Ausabel et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY [1991]を参照されたい)。これらのアッセイでは、被験体からゲノムDNA(サザン)またはRNA(ノザン)が単離される。次いで、DNAまたはRNAは、ゲノム内で稀にしか切断せず、アッセイされているマーカーの近くでは切断しない一連の制限酵素を用いて切断される。次いで、DNAまたはRNAは(例えば、アガロースゲルにおいて)分離され、膜に転写される。検出が行われているSNPまたは変異に特異的な、標識された(例えば、放射性ヌクレオチドを取り込ませることによって標識された)1種類またはそれ以上の種類のプローブを、低ストリンジェンシー条件下、中ストリンジェンシー条件下、または高ストリンジェンシー条件下で、膜と接触させておく。結合しなかったプローブが除去され、標識プローブを視覚化することによって結合の存在が検出される。
【0074】
b.「DNAチップ」アッセイを用いたハイブリダイゼーションの検出
本発明のある態様では、変種配列はDNAチップハイブリダイゼーションアッセイを用いて検出される。このアッセイでは、一連のオリゴヌクレオチドプローブが固体支持体に取り付けられる。オリゴヌクレオチドプローブは、ある特定のSNPまたは変異に特有なものとなるように設計される。関心対象のDNA試料はDNA「チップ」と接触され、ハイブリダイゼーションが検出される。
【0075】
ある態様では、DNAチップアッセイは、GeneChip(Affymetrix, Santa Clara, CA;例えば、米国特許第6,045,996号;同第5,925,525号;および同第5,858,659号を参照されたい;これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)法である。GeneChip技術では、「チップ」に取り付けられたオリゴヌクレオチドプローブの小型化高密度アレイが用いられる。プローブアレイは、固相化学合成と、半導体産業で用いられる光リソグラフィ製造法を組み合わせた、Affymetrixの光指向性化学合成プロセスによって製造される。このプロセスは、チップの暴露部位を定める一連の光リソグラフィマスクと、それに続く特異的な化学合成段階を用いて、各プローブがアレイの予め定められた位置にある高密度オリゴヌクレオチドアレイを構築する。複数のプローブアレイが大きなガラスウエハー上に同時に製造される。次いで、ウエハーはさいの目に切られ、プローブアレイ1つ1つが射出成形プラスチックカートリッジに入れられる。射出成形プラスチックカートリッジはプローブアレイを環境から保護し、ハイブリダイゼーション用のチャンバーとして役立つ。
【0076】
分析しようとする核酸は単離され、PCR増幅され、蛍光レポーター基で標識される。次いで、標識されたDNAは、フルイディクスステーション(fluidics station)を用いてアレイとインキュベートされる。次いで、アレイはスキャナに挿入され、ハイブリダイゼーションのパターンが検出される。ハイブリダイゼーションデータは、プローブアレイに結合している標的に既に組み込まれている蛍光レポーター基から発する光として集められる。標的と完全にマッチするプローブは、一般的に、ミスマッチを有するプローブより強いシグナルを生じる。アレイ上の各プローブの配列および位置は既知であるので、プローブアレイに適用された標的核酸の同一性は、相補性によって確かめることができる。
【0077】
他の態様では、電子的に捕捉されたプローブを含有するDNAマイクロチップ(Nanogen, San Diego, CA)が用いられる(例えば、米国特許第6,017,696号;同第6,068,818号;および同第6,051,380号を参照されたい;これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)。マイクロエレクトロニクスを用いることによって、Nanogenの技術は、荷電分子が半導体マイクロチップ上の指定された試験部位に、および指定された試験部位から活発に動き、集まるのを可能にしている。ある特定のSNPまたは変異に特有のDNA捕捉プローブがマイクロチップ上の特定の部位に電子的に配置される、すなわち「アドレス指定」される。DNAは強い負電荷を有するので、正電荷の領域に電子的に移動することができる。
【0078】
まず最初に、マイクロチップ上の試験部位または一列の試験部位が正電荷によって電子的に活性化される。次に、DNAプローブを含有する溶液がマイクロチップ上に導入される。負に荷電したプローブは正に荷電した部位に迅速に移動する。正に荷電した部位にプローブが集まり、マイクロチップ上の部位に化学結合する。次いで、マイクロチップは洗浄され、特異的に結合したDNAプローブのアレイが完成するまで、別個のDNAプローブの別の溶液が添加される。
【0079】
次いで、DNA捕捉プローブのどれが試験試料中の相補DNA(例えば、PCR増幅された関心対象の遺伝子)とハイブリダイズするかを確かめることによって、試験試料に標的DNA分子が存在するかどうかが分析される。標的分子をマイクロチップ上の1つまたは複数の試験部位に移動させ、集めるために、電子電荷も用いられる。試料DNAをそれぞれの試験部位に電子的に集めることによって、試料DNAと相補的捕捉プローブとの迅速なハイブリダイゼーションが促進される(ハイブリダイゼーションは数分で起こり得る)。結合しなかったDNAまたは非特異的に結合したDNAを各部位から除去するために、この部位の極性または電荷が負に逆転され、それによって、結合しなかったDNAまたは非特異的に結合したDNAは、強制的に捕捉プローブから溶液に戻される。結合を検出するために、レーザーに基づく蛍光スキャナが用いられる。
【0080】
なおさらなる態様では、表面張力の差による平面(チップ)上での流体の隔離に基づくアレイ技術(ProtoGene, Palo Alto, CA)が用いられる(例えば、米国特許第6,001,311号;同第5,985,551号;および同第5,474,796号を参照されたい;これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)。Protogeneの技術は、化学コーティングによって付与された表面張力の差によって平面上で流体を隔離することができるという事実に基づいている。このように隔離されたら、試薬をインクジェット印刷することによって、オリゴヌクレオチドプローブがチップ上で直接合成される。反応部位が表面張力によって定められているアレイは、4つ1組の圧電ノズルの下で、X/Y平行移動ステージに取り付けられる。圧電ノズルは4種類の標準的なDNA塩基のそれぞれに対応する。平行移動ステージはアレイの各列に沿って移動し、適切な試薬が各反応部位に送達される。例えば、Aアミダイトは、合成段階中にアミダイトAが結合される部位にのみ送達される。全表面に大量に注ぎ、次いで、回転によって除去することによって、一般的な試薬および洗浄液が送達される。
【0081】
Protogeneの技術を用いて、関心対象のSNPまたは変異に特有のDNAプローブがチップに取り付けられる。次いで、チップと、関心対象のPCR増幅遺伝子を接触させる。ハイブリダイゼーション後に、結合しなかったDNAが除去され、任意の適切な方法を用いて(例えば、取り込まれた蛍光基の蛍光デクエンチングによって)、ハイブリダイゼーションが検出される。
【0082】
さらに他の態様では、多型を検出するために「ビーズアレイ」が用いられる(Illumina, San Diego, CA;例えば、PCT公報WO99/67641およびWO00/39587を参照されたい,これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)。Illuminaは、光ファイバーバンドルと、アレイに自己集合するビーズを組み合わせたビーズアレイ技術を用いている。それぞれの光ファイバーバンドルは、バンドルの直径に応じて数千本〜数百万本の個々のファイバーを含む。ビーズは、ある特定のSNPまたは変異を検出するのに特異的なオリゴヌクレオチドでコーティングされる。数バッチ分のビーズが組み合わされて、アレイに特異的なプールを形成する。アッセイを行うために、ビーズアレイと、調製された被験体試料(例えば、DNA)を接触させる。任意の適切な方法を用いてハイブリダイゼーションが検出される。
【0083】
c.ハイブリダイゼーションの酵素的検出
ある態様では、TaqMan法(PE Biosystems, Foster City, CA;例えば、米国特許第5,962,233号および同第5,538,848号を参照されたい,これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)を用いて、結合したプローブのハイブリダイゼーションが検出される。このアッセイはPCR反応中に行われる。TaqManアッセイでは、AMPLITAQ DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性が用いられる。ある特定の対立遺伝子または変異に特異的なプローブがPCR反応物に入れられる。このプローブは、5'-レポーター色素(例えば、蛍光色素)および3'-クエンチャー色素を有するオリゴヌクレオチドからなる。PCR中に、プローブがその標的に結合すれば、AMPLITAQポリメラーゼの5'-3'核酸分解活性によって、プローブはレポーター色素とクエンチャー色素との間で切断される。レポーター色素がクエンチャー色素から分離すると、蛍光が増大する。シグナルは各PCRサイクルと共に蓄積し、フルオリメーターを用いてモニタリングすることができる。
【0084】
なおさらなる態様において、SNP-ITプライマー伸長アッセイ(Orchid Biosciences, Princeton, NJ;例えば、米国特許第5,952,174号および同第5,919,626号を参照されたい,これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)を用いて、多型が検出される。このアッセイでは、SNPは、特別合成されたDNAプライマー、および疑われたSNP位置でDNA鎖を1塩基ずつ選択的に伸張するDNAポリメラーゼを用いて特定される。関心対象の領域にあるDNAが増幅および変性される。次いで、マイクロフルイディクスと呼ばれる小型化システムを用いて、ポリメラーゼ反応が行われる。検出は、SNPまたは変異の位置にあると疑われるヌクレオチドに標識を添加することによって達成される。DNAへの標識の取り込みは任意の適切な方法によって検出することができる(例えば、ヌクレオチドがビオチン標識を含有していれば、検出は蛍光標識ビオチン特異的抗体によるものである)。他の非常に多くのアッセイが当技術分野において公知である。
【0085】
4.他の検出アッセイ
本発明において使用するのに適したさらなる検出アッセイには、酵素ミスマッチ切断法(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、Variagenics, 米国特許第6,110,684号、同第5,958,692号、同第5,851,770号);ポリメラーゼ連鎖反応;分枝ハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、Chiron, 米国特許第5,849,481号、同第5,710,264号、同第5,124,246号、および同第5,624,802号);ローリングサークル複製(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第6,210,884号および同第6,183,960号);NASBA(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第号5,409,818号);分子ビーコン技術(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第6,150,097号);Eセンサー技術(全体が参照として本明細書に組み入れられる、Motorola,米国特許第6,248,229号、同第6,221,583号、同第6,013,170号、および同第6,063,573号);INVADERアッセイ, Third Wave Technologies;例えば、米国特許第5,846,717号、同第6,090,543号、同第6,001,567号、同第5,985,557号、および同第5,994,069号を参照されたい;これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる;サイクリングプローブ技術(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第5,403,711号、同第5,011,769号、および同第5,660,988号);Dade Behringシグナル増幅法(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第6,121,001号、同第6,110,677号、同第5,914,230号、同第5,882,867号、および同第5,792,614号);リガーゼ連鎖反応(Barnay Proc. Natl. Acad. Sci USA 88, 189-93 (1991))、ならびにサンドイッチハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第号5,288,609号)が含まれるが、これに限定されない。
【0086】
5.質量分析アッセイ
ある態様では、変種配列を検出するために、MassARRAYシステム(Sequenom, San Diego, CA.)が用いられる(例えば、米国特許第6,043,031号、同第5,777,324号、および同第5,605,798を参照されたい;これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)。標準的な手順を用いて血液試料からDNAが単離される。次に、関心対象の変異またはSNPを含有する、長さが約200塩基対の特定のDNA領域がPCR増幅される。次いで、増幅された断片は1本鎖によって固体表面に取り付けられ、固定化されなかった鎖は標準的な変性および洗浄によって除去される。次いで、残存している固定化された1本鎖は、遺伝型に特異的な診断生成物を生じる自動酵素反応のテンプレートとして役立つ。
【0087】
次いで、SpectroREADER質量分析計を用いた後の自動分析のために、典型的に5〜10ナノリットルの極めて少量の酵素生成物がSpectroCHIPアレイに転写される。各スポットには、分配された診断生成物とマトリックスを形成する光吸収性結晶が予めロードされている。MassARRAYシステムでは、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型)質量分析が用いられる。脱離として知られるプロセスにおいて、マトリックスはレーザービームからのパルスとぶつかる。レーザービームからのエネルギーはマトリックスに移り、マトリックスは蒸発して、少量の診断生成物はフライトチューブに放出される。診断生成物は帯電しているので、後で電場パルスがチューブに印加されると、診断生成物は、フライトチューブの下にある検出器に向かって放出される。電場パルスの印加と、診断生成物と検出器の衝突の間の時間は飛行時間と呼ばれる。分子量の質量は飛行時間と直接相関し、小さな分子は大きな分子より速く飛行するので、飛行時間は生成物の分子量の非常に正確な尺度である。このアッセイは全体で1秒の1000分の1未満で完了するので、反復データ収集を含めて合計3〜5秒で試料を分析することができる。次いで、SpectroTYPERソフトウェアによって、試料1つ当たり3秒の速度で遺伝子型が計算、記録、比較、および報告される。
【0088】
6.VKORC1発現の検出
他の態様では、個体のワーファリン用量を決定するために、VKORC1遺伝子発現レベルが用いられる。本発明の開発中に行われた実験(例えば、実施例2を参照されたい)から、VKORC1ハプロタイプとVKORC1発現レベルに相関関係があることが証明された。従って、VKORC1発現レベルはワーファリン最適投与量と相関することが意図される。
【0089】
1.RNAの検出
ある好ましい態様において、VKORC1発現の検出は、血液試料中の対応するmRNAの発現を測定することによって検出される。mRNA発現は、以下に開示される方法を含むが、これに限定されない任意の適切な方法によって測定することができる。
【0090】
ある態様では、RNAはノザンブロット分析によって検出される。ノザンブロット分析は、RNAの分離、および標識された相補プローブのハイブリダイゼーションを伴う。
【0091】
他の態様では、RNA発現は、特定の構造の酵素的切断(INVADER法, Third Wave Technologies;例えば、米国特許第5,846,717号、同第6,090,543号、同第6,001,567号、同第5,985,557号、および同第5,994,069を参照されたい;これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)によって検出される。INVADER法では、重複オリゴヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションによって形成された複合体を切断する構造特異的酵素を用いて、特定の核酸(例えば、RNA)配列が検出される。
【0092】
なおさらなる態様において、RNA(または対応するcDNA)は、オリゴヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションによって検出される。ハイブリダイゼーションおよび検出のために様々な技術を用いた様々なハイブリダイゼーションアッセイを使用することができる。例えば、ある態様では、TaqManアッセイ(PE Biosystems, Foster City, CA;例えば、米国特許第5,962,233号および同第5,538,848号を参照されたい,これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)が用いられる。このアッセイはPCR反応中に行われる。TaqManアッセイでは、AMPLITAQ GOLD DNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性が用いられる。5'-レポーター色素(例えば、蛍光色素)および3'-クエンチャー色素を有するオリゴヌクレオチドからなるプローブがPCR反応物に入れられる。PCR中に、プローブがその標的に結合すれば、AMPLITAQ GOLDポリメラーゼの5'-3'核酸分解活性によって、プローブはレポーター色素とクエンチャー色素との間で切断される。レポーター色素がクエンチャー色素から分離すると、蛍光が増大する。シグナルは各PCRサイクルと共に蓄積し、フルオリメーターを用いてモニタリングすることができる。
【0093】
さらに他の態様において、RNA発現を検出するために逆転写酵素PCR(RT-PCR)が用いられる。RT-PCRにおいて、RNAは、逆転写酵素を用いて相補的DNAすなわち「cDNA」に酵素的に変換される。次いで、cDNAはPCR反応のテンプレートとして用いられる。PCR産物は、ゲル電気泳動およびDNA特異的染料を用いた染色または標識プローブとのハイブリダイゼーションを含むが、これに限定されない任意の適切な方法によって検出することができる。ある態様では、米国特許第5,639,606号、同第5,643,765号、および同第5,876,978号(これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)に記載の方法のように、定量的逆転写酵素PCRと競合テンプレートの標準化された混合物が用いられる。
【0094】
2.タンパク質の検出
他の態様において、VKORC1遺伝子発現は、対応するタンパク質またはポリペプチドの発現を測定することによって検出される。タンパク質の発現は任意の適切な方法によって検出することができる。ある態様では、タンパク質は、当技術分野において公知の免疫組織化学的方法によって検出される。他の態様では、タンパク質は、そのタンパク質に対する抗体に結合することによって検出される。抗体の作成を以下で説明する。
【0095】
抗体結合は、当技術分野において公知の技法(例えば、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈殿反応、免疫拡散法、インサイチューイムノアッセイ(例えば、コロイド金、酵素、または放射性同位体標識を使用する)、ウエスタンブロット、沈殿反応、凝集法(例えば、ゲル凝集法、赤血球凝集法など)、補体結合法、免疫蛍光法、プロテインA法、および免疫電気泳動法など)によって検出される。
【0096】
1つの態様において、抗体結合は、一次抗体にある標識を検出することによって検出される。別の態様において、一次抗体は、二次抗体または試薬と一次抗体との結合を検出することによって検出される。さらなる態様において、二次抗体は標識されている。イムノアッセイにおいて結合を検出する多くの方法が当技術分野において公知であり、本発明の範囲内である。
【0097】
ある態様では、自動検出アッセイが用いられる。イムノアッセイを自動化する方法には、米国特許第5,885,530号、同第4,981,785号、同第6,159,750号、および同第5,358,691に記載の方法が含まれ、これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる。ある態様では、結果の分析および提示も自動化される。例えば、ある態様では、癌マーカーに対応する一連のタンパク質の有無に基づいて予後を作成するソフトウェアが用いられる。
【0098】
他の態様では、イムノアッセイは、米国特許第5,599,677号および同第5,672,480号に記載されており、これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる。
【0099】
II.キット
ある態様では、本発明は、VKORC1多型を検出するためのキットを提供する。ある態様では、キットは、mRNAまたはcDNAの検出に特異的な試薬(例えば、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー)を含む。好ましい態様において、キットは、全ての対照、アッセイを行うための指示、ならびに結果を分析および提示するための任意の必要なソフトウェアを含む、検出アッセイを行うのに必要な全ての構成要素を含む。ある態様では、VKORC1多型を検出するための個々のプローブおよび試薬は、分析物に特異的な試薬として提供される。他の態様では、キットはインビトロ診断物として提供される。
【0100】
他の態様では、本発明は、被験体におけるVKORC1 mRNAまたはタンパク質の発現レベルを確かめるためのキットを提供する。例えば、ある態様では、キットは、mRNAまたはタンパク質の検出アッセイ(例えば、前記の検出アッセイ)を行うための試薬を含む。
【0101】
III.薬物スクリーニング
ある態様では、本発明は、(例えば、抗凝固薬をスクリーニングするための)薬物スクリーニング法を提供する。ある態様では、本発明のスクリーニング法はVKORC1の多型を用いる。例えば、ある態様では、本発明は、1つまたは複数の多型型VKORC1の活性または発現レベルを変える(例えば、低下させる)化合物をスクリーニングする方法を提供する。他の態様では、血液凝固を変えることが知られている化合物を、異なる多型型VKORC1を用いてスクリーニングするために、下記の薬物スクリーニング法が用いられる。
【0102】
スクリーニング法の1つにおいて、候補化合物がVKORC1発現を変える(例えば、増大または低下させる)能力は、化合物とVKORC1発現細胞を接触させ、次いで、発現に及ぼす候補化合物の影響をアッセイすることによって評価される。ある態様では、VKORC1発現に及ぼす候補化合物の影響は、細胞によって発現されたVKORC1 mRNAレベルを検出することによってアッセイされる。mRNA発現は、本明細書において開示された方法を含むが、これに限定されない任意の適切な方法によって検出することができる。
【0103】
他の態様では、候補化合物の影響は、VKORC1ポリペプチドのレベルを測定することによってアッセイされる。発現されたポリペプチドのレベルは、本明細書において開示された方法を含むが、これに限定されない任意の適切な方法を用いて、または表現型(例えば、凝固速度)をモニタリングすることによって測定することができる。
【0104】
ある態様では、インビトロ薬物スクリーニングは、精製された野生型VKORC1またはドミナントアクティブVKORC1、およびその結合パートナーまたはシグナル伝達パートナーを用いて行われる。化合物は、VKORC1タンパク質と相互作用し、VKORC1の機能またはVKORC1と結合パートナー(例えば、カドヘリン)の相互作用を阻害または増強する能力についてスクリーニングされる。
【0105】
なおさらなる態様において、薬物スクリーニング用途では、(例えば、多型)VKORC1遺伝子が変化している細胞またはトランスジェニック動物が用いられる。例えば、ある態様では、ある特定の多型型VKORC1を有するVKORC1マウスにおいて血液凝固を変える能力について化合物がスクリーニングされる。
【0106】
さらに他の態様において、ワーファリンまたは他の関連薬物(例えば、新薬)の投与量を試験するために、被験体(例えば、ヒト被験者)が臨床試験に登録される。好ましい態様において、多型VKORC1を有する被験者が、凝固薬物を試験する臨床試験に組み込まれる。
【0107】
本発明の試験化合物は、生物学的ライブラリー;ペプトイドライブラリー(ペプチドの官能基を有するが、新規の非ペプチドバックボーンを有する分子のライブラリー。この非ペプチドバックボーンは酵素分解に対して耐性があるが、それにもかかわらず依然として生理活性がある;例えば、Zuckennann et al., J. Med. Chem. 37: 2678-85[1994]を参照されたい);空間的にアドレス指定可能な平行固相または液相ライブラリー;デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;およびアフィニティクロマトグラフィー選択を用いた合成ライブラリー法を含む、当該技術分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における非常に多くの任意のアプローチを用いて入手することができる。生物学的ライブラリーおよびペプトイドライブラリーアプローチは、ペプチドライブラリーと使用するのに好ましいのに対して、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、または低分子の化合物ライブラリーに適用することができる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12:145)。
【0108】
分子ライブラリーを合成する方法の例は、当技術分野において、例えば、DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6909[1993]; Erb et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 91:11422[1994]; Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37:2678[1994]; Cho et al., Science 261:1303[1993]; Carrell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33.2059[1994]; Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061[1994];ならびにGallop et al., J. Med. Chem. 37:1233[1994]において見つけることができる。
【0109】
化合物ライブラリーは溶解状態にあってもよく(例えば、Houghten, Biotechniques 13:412-421[1992])、ビーズ(Lam, Nature 354:82-84[1991])、チップ(Fodor, Nature 364:555-556[1993])、細菌もしくは胞子(米国特許第5,223,409号;参照として本明細書に組み入れられる)、プラスミド(Cull et al., Proc. Nad. Acad. Sci. USA 89:18651869[1992])、またはファージ(Scott and Smith, Science 249:386-390[1990]; Devlin Science 249:404-406[1990]; Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 87:6378-6382[1990]; Felici, J. Mol. Biol. 222:301[1991])に付着していてもよい。
【0110】
IV.VKORC1多型配列を発現するトランスジェニック動物
本発明は、外因性VKORC1遺伝子または変異体およびその変種(例えば、一塩基多型)を含むトランスジェニック動物の作成を意図する。好ましい態様において、トランスジェニック動物の表現型(例えば、ワーファリンまたは他の抗凝固薬物に対する反応)は野生型動物と比較して変化している。このような表現型の有無を分析する方法には、本明細書において開示される方法が含まれるが、これに限定されない。
【0111】
本発明の等しい遺伝子型を有するトランスジェニック動物または天然の変種が薬物(例えば、抗凝固物質)のスクリーニングにおいて用いられる。ある態様では、試験化合物(例えば、抗凝固療法として有用であると考えられる薬物)および対照化合物(例えば、プラセボ)がトランスジェニック動物および対照動物に投与され、その効果が評価される。
【0112】
トランスジェニック動物は様々な方法によって作成することができる。ある態様では、トランスジェニック動物の作成のためにトランスジーンを導入するために、様々な発生段階にある胚細胞が用いられる。胚細胞の発生段階に応じて異なる方法が用いられる。マイクロインジェクションには接合子が最良の標的である。マウスでは、雄性前核は、直径が約20マイクロメートルの大きさになるので、1〜2ピコリットル(pl)のDNA溶液を再現可能に注入することができる。遺伝子導入の標的としての接合子の使用には、ほとんどの場合、注入されたDNAが最初に切断される前に宿主ゲノムに組み込まれる点で大きな利点がある(Brinster et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442[1985])。結果として、トランスジェニック非ヒト動物の全ての細胞にはトランスジーンが組み込まれている。これはまた、一般的には、生殖細胞の50%がトランスジーンを有するので、初代から子孫へトランスジーンの効率的な伝達にも反映される。米国特許第4,873,191号は、接合子のマイクロインジェクション法について述べている。この特許の開示は、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0113】
他の態様では、トランスジーンを非ヒト動物に導入するためにレトロウイルス感染が用いられる。ある態様では、レトロウイルスベクターを使用して、レトロウイルスベクターを卵母細胞の囲卵腔に注入することによって卵母細胞をトランスフェクトする(米国特許第号6,080,912号,参照として本明細書に組み入れられる)。他の態様では、発生中の非ヒト胚をインビトロで胚盤胞の段階まで培養することができる。この間、割球がレトロウイルス感染の標的になり得る(Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73:1260[1976])。割球の効率的な感染は、透明帯を除去する酵素処理によって得られる(Hogan et al., in Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.[1986])。トランスジーンを導入するのに用いられるウイルスベクター系は、典型的に、トランスジーンを有する複製欠損レトロウイルスである(Jahner et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6927[1985])。トランスフェクションは、ウイルス産生細胞の単層上で割球を培養することによって容易かつ効率的に得られる(Stewart, et al., EMBO J., 6:383[1987])。または、感染はさらに後の段階で行われてもよい。ウイルスまたはウイルス産生細胞は胞胚腔に注入することができる(Jahner et al., Nature 298:623[1982])。トランスジェニック動物を形作る細胞の一部でしか組み込みが起こらないので、初代の大部分はトランスジーンについてモザイクである。さらに、初代は、レトロウイルスによってゲノムの異なる位置に様々なトランスジーン挿入を含んでいる可能性があり、トランスジーン挿入は一般的に子孫において分離する。さらに、効率は低いが、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染によって、トランスジーンを生殖系列に導入することもできる(Jahner et al., 前記[1982])。当業者に公知の、レトロウイルスまたはレトロウイルスベクターを用いてトランスジェニック動物を作成するさらなる手段は、レトロウイルス粒子またはレトロウイルスを産生するマイトマイシンC処理細胞を受精卵の囲卵腔または初期胚にマイクロインジェクションすることを伴う(PCT国際出願WO90/08832[1990]、およびHaskell and Bowen, Mol. Reprod. Dev., 40:386[1995])。
【0114】
他の態様では、トランスジーンは胚性幹細胞に導入され、胚を形成するためにトランスフェクトされた幹細胞が用いられる。ES細胞は、インビトロで適切な条件下で移植前胚を培養することによって得られる(Evans et al., Nature 292:154[1981]; Bradley et al., Nature 309:255[1984]; Gossler et al., Proc. Acad. Sci. USA 83:9065[1986];およびRobertson et al., Nature 322:445[1986])。トランスジーンは、リン酸カルシウム共沈殿、プロトプラストまたはスフェロプラスト融合、リポフェクションおよびDEAE-デキストランを介したトランスフェクションを含む当業者に公知の様々な方法によるDNAトランスフェクションによってES細胞に効率的に導入することができる。トランスジーンはまた、レトロウイルスを介した形質導入またはマイクロインジェクションによってES細胞に導入することもできる。この後、このようなトランスフェクトされたES細胞は、胚盤胞段階の胚の胞胚腔に導入された後に胚をコロニー形成することができ、結果として生じるキメラ動物の生殖細胞系列に寄与する(総説については、Jaenisch, Science 240:1468[1988]を参照されたい)。トランスフェクトされたES細胞を胞胚腔に導入する前に、トランスジーンが選択プロトコールの一手段を提供すると想定して、トランスジーンを組み込んだES細胞を濃縮するために、トランスフェクトされたES細胞を様々な選択プロトコールにかけてもよい。または、トランスジーンを組み込んだES細胞をスクリーニングするために、ポリメラーゼ連鎖反応が用いられてもよい。この技術により、トランスフェクトされたES細胞を胞胚腔に移す前に、適切な選択条件下で増殖する必要が無くなる。
【0115】
さらに他の態様において、遺伝子機能をノックアウトするために、または欠失変異体(例えば、切断変異体)を作成するために、相同組換えが用いられる。相同組換え法は、参照として本明細書に組み入れられる米国特許第号5,614,396号に記載されている。
【0116】
実験
以下の実施例は、本発明のある特定の好ましい態様および局面を証明し、さらに例示するために示され、本発明の範囲を限定するものであると解釈してはならない。
【0117】
実施例1
VKORC1多型
本実施例は、VKORC1多型とワーファリン最適投与量の関係について説明する。
【0118】
A.方法
臨床被験体および対照被験体
本研究において用いた最初のヨーロッパ系アメリカ人臨床患者は以前に説明されており(Higashi et al., Jama 287, 1690-8 (2002))、同様に、追試験のヨーロッパ系アメリカ人患者の大部分も説明されている(Gage et al., Thromb Haemost 91, 87-94 (2004))。対照DNA集団試料は全て、Coriell Cell Repositoryにあるヒト変種コレクションおよびCEPH系統試料から購入した。アジア系アメリカ人試料は、HD100CHIパネルに由来する96人の個体(ロサンゼルスの漢族)、10人の東南アジア人(HD13)、7人の中国人(HD32)、および7人の日本人(HD07パネルに由来する)からなった。96人のヨーロッパ系アメリカ人試料はHD100CAUパネルから選択され、残り23人の個体はCEPH家系の親世代から選択された(これらの試料のさらなる情報については表4を参照されたい)。96人のアフリカ系アメリカ人試料はHD100AAパネルから選択された。
【0119】
配列分析およびジェノタイピング
SNPを発見するために、ヨーロッパ系アメリカ人一次コホートに由来する全ての臨床試料を、VKORC1のゲノム領域全体をカバーする約1kb断片のPCR増幅、ならびに標準的なABI Big-Dye Terminator配列決定化学およびABI 3730XL DNA分析機器による測定を用いたPCRアンプリコンの直接配列決定を用いて再配列決定した。SNPは、プログラムPolyphred(v.4.2)と、クオリティコントロール(quality control)および人間の分析者による全てのSNPおよび遺伝子型の検討を用いて特定した。特定された10個のSNPは、VKORC1参照配列(GenBank Accession AY587020; SEQ ID NO:1)の位置381(C/T)、861(A/C)、2653(G/C)、3673(A/G)、5808(T/G)、6009(C/T)、6484(C/T)、6853(C/G)、7566(C/T)、および9041(A/G)にあった。あるヨーロッパ系アメリカ人臨床患者では、1個のヘテロ接合性非同義SNPが特定された(ゲノム位置5432(G/T)-Ala41Ser)。この患者は最も高い全ワーファリン維持量(15.5mg/d)を有し、全ての分析から除外した。以前に報告された他の非同義SNPは特定されなかった(Rost et al., Nature 427, 537-41 (2004))。同じ方法を用いて他の全ての対照集団試料を再配列決定したが、ヨーロッパ系アメリカ人臨床集団において特定された10個の一般SNPを含有するアンプリコンのみを用いてジェノタイピングした。
【0120】
ヨーロッパ系アメリカ人二次コホートにおける追試験のために、情報価値のある4個のSNP(861、5808、6853、および9041)を用いて、図1の系統樹に基づいてハプロタイプH1、H2、H7、H8、およびH9を区別した。それぞれのSNP部位について、Primer Expressバージョン1.5(ABI, Foster City, CA)を用いて、PCRプライマーを設計した。ピロシークエンシング(Pyrosequencing)プライマーは、Pyrosequencing SNP Primer Design Version 1.01 ソフトウェアを用いて設計した。PCRプライマーの局在が重複しないことは、NCBI Blast(NCBIのインターネットサイトで入手可能)を用いて確認した。PCRは、Amplitaq Gold PCRマスターミックス(ABI, Foster City, CA)、5pmoleの各プライマー (IDT, Coralville, IA)、および1ngのDNAを用いて行った。ピロシークエンシングは、各SNPの以下のプライマー(5'-3'):

を用いて、以前に述べられたように行った(Rose et al., Methods Mol Med 85, 225-37 (2003)。各遺伝子型の試料を無作為に選択し、遺伝子型の割り当てを確認するために繰り返した。
【0121】
統計的方法
系統樹は、プログラムMEGAを使用し、ハプロタイプ間の差異の数およびUPGMAクラスタリング法に基づいて構築した。各個体試料のハプロタイプは、プログラムPHASE,バージョン2.0(Stephens and Donnelly, Am J Hum Genet 73, 1162-9 (2003))を使用して評価し、各試験集団について独立した測定を行った。
【0122】
各患者について評価された最も可能性の高いハプロタイプ対を用いて、各VKORC1ハプロタイプのコピー数(0、1、2とコードした)とワーファリン維持量との関係を付加的に評価した。多重線形回帰は、共変量である年齢、性別、人種、アミオダロン、ロサルタン、およびCYP2C9遺伝子型について調整を行って、対数変換された維持量を用いて行った。さらなる各ハプロタイプコピーと関連する調整されたワーファリン用量(および95%信頼区間)は、線形予測の平均フィット値および標準誤差の累乗によって評価した。ハプロタイプ割り当ての不確実性をさらに考慮に入れた一般化線形モデルスコア検定法(Lake et al., Hum Hered 55, 56-65 (2003))を用いた別の分析では、平均ワーファリン用量について同様の推定値が得られ、信頼値はわずかに広かった。
【0123】
A/A群、A/B群、およびB/B群間の維持量の差を評価するために、分布によらないANOVAであるKruskal-Wallis検定を使用した。これは、3つのデータサブセット:(1)2または3変種を有する被験者、(2)野生型を有する被験者、および(3)2または3および野生型の組み合わせを有する被験者について別々に行った。この分析では、非Aハプロタイプまたは非Bハプロタイプを有する被験者は使用しなかった。3つの群間の差について全カイ二乗検定を行った後に、各群内の総ランクの漸近正規性を用いて、群の対比較を行った。全ての第1種の誤りの率を制御するために、3つの個体比較(A/A対A/B、A/B対B/B、およびA/A対B/B)のそれぞれについてBonferroni補正を行った。
【0124】
集団特異的ハプロタイプ分布間の差はχ2検定を用いて検定した。
【0125】
B.結果
VKORC1にある一般的な非コード一塩基多型(SNP)とワーファリン投薬の関係を調べるために、長期ワーファリン療法を受けているヨーロッパ系アメリカ人患者185人からなるコホートにおいて、VKORC1遺伝子遺伝子座(11.2キロベース)の完全な遺伝子再配列決定を行った。患者は全て、低いワーファリン用量要件と関連する公知の機能的CYP2C9変異(2および3)について以前にジェノタイピングされている(Higashi et al., Jama 287, 1690-8 (2002); Aithal et al., Lancet 353, 717-9 (1999))。VKORC1において、全臨床試料を、5キロベースの上流プロモーター領域、4.2キロベースの遺伝子内(イントロンおよびエキソン)配列、ならびに2キロベースの3'下流領域にわたって再配列決定した。ヨーロッパ系アメリカ人臨床患者において、マイナーアレル頻度が5%を超える10個の非コードSNPを特定した。これらのSNPを用いて、各患者に割り当てられるVKORC1ハプロタイプを評価した。これらの185人の患者から、5個のコモンハプロタイプ(>5%)-H1、H2、H7、H8、H9(表1)を特定した。
【0126】
各SNPが個々に試験され、ワーファリン1日維持量に対して回帰分析された時に、7個の部位(381、3673、5808、6484、6853、7566、および9041)は有意性が高く(p<0.001)、3個の部位は有意性はわずかであった(861、2653、および6009、それぞれ、p=0.01、0.02、および0.02)。7個の有意性の高い部位のうち、5個(381、3673、6484、6853、7566)は強い連鎖不平衡(r2=0.9)にあり、2個の独立した部位(5808および9041)は、この領域における他のどのSNPとも相関していない。SNP-SNP相互作用の分析から、複数の部位組み合わせ間の有意な効果も分かり、従って、個々のハプロタイプとワーファリン用量の関係も定量された。ハプロタイプとワーファリン用量の関係を確かめるために、遺伝的な共変量および他の臨床的に重要な共変量(例えば、年齢、CYP2C9-2または3など;表1および表4を参照されたい)について調整を行いながら、各患者の推測ハプロタイプを用いた多重線形回帰分析を使用した。5個のコモンハプロタイプ(頻度>5%)のうち4個はワーファリン用量に有意に関連することが見出された(p<=0.05)(表1)。この分析から、2つの低用量(2.9mg/dおよび3.0mg/d)ハプロタイプ(H1およびH2)ならびに2つの高用量(6.0mg/dおよび5.5mg/d)ハプロタイプ(H7およびH9)が特定された。
【0127】
可能性のある階層的なハプロタイプグループを特定するために、5個のコモンハプロタイプから系統樹を構築した(図1-上パネル)。10個のVKORC1 SNPのうち5個で完全に分離している2つの異なるハプロタイプクレードが特定され、クレードA(H1およびH2)ならびにクレードB(H7、H8、およびH9)と指定した。この指定を用いて、全ての患者をCYP2C9遺伝子型に基づいてグループ分けし、A/A、A/B、またはB/BのVKORC1クレードディプロタイプ(すなわち、2つのクレードの組み合わせ)を割り当てた(図1-下パネル)。ワーファリン維持量の全平均(5.1±0.2mg/d)および範囲は他の臨床患者試験によくみられるものであった(Aithal et al., 前記)。組み合わされた患者群 (すなわち、図1-全ての患者)において、ワーファリン維持量は、3つ全てのクレードディプロタイプグループの間で有意な差があった(A/A、A/B、B/B、p<0.001)。CYP2C9野生型(WT)患者については、ワーファリン用量の範囲全体にわたって相加効果があった。全体的に見て、VKORC1クレードAおよびBによって説明されるワーファリン用量変化の比率は25%であり、相互作用のある全てのVKORC1 SNP部位を考慮した時に得られる値とほぼ同じであった。CYP2C92または3変異の保因者である患者の、ワーファリン用量に及ぼすVKORC1クレードディプロタイプの影響も同様であった(ディプロタイプA/AとA/Bとの間でp<0.001)。全体的に、ワーファリン用量がCYP2C9変種遺伝子型と関係して少なくなる傾向があり(図1、下パネル)、これらの対立遺伝子変種の保因者における公知のワーファリン代謝の低さと一致している(Rettie et al., Epilepsy Res 35、253-5(1999))。VKORC1ハプロタイプがCYP2C92および3とは独立して低用量関係クレードおよび高用量関連クレードに分離することから、VKORC1 SNPジェノタイピングは臨床の場で治療的血液凝固阻止を実現および維持するのに必要なワーファリン用量を決定するための強力な予測力を有すると示唆される。
【0128】
これらの最初の結果を確証するために、ワーファリンによる治療を受けているヨーロッパ系アメリカ人患者(n=368)からなるより大きく独立したコホートにおいて、追試験をおこなった。最初のヨーロッパ系アメリカ人臨床コホートに存在する5つ全てのコモンハプロタイプ(H1、H2、H7、H8、およびH9)を分離する情報価値のある4個のSNP(861、5808、6853、9041-図1-上パネル-太字の数字)を用いて、これらの患者をジェノタイピングした。ハプロタイプを推測し、クレードディプロタイプを割り当て、公知のCYP2C9遺伝子型に基づいて患者を分離した。全体的に見て、これらの大きな臨床集団からの結果は、3つ全ての患者サブグループの指標集団における目立った発見を再現した。この第2のコホートにおいて、CYP2C9-WT患者(n=233)および全ての患者(n=357)は、A/A(3.4±0.26mg/dおよび3.2±0.21mg/d)、A/B(4.9±0.17mg/dおよび4.4±0.13mg/d)ならびにB/B(6.7±0.29mg/dおよび6.1±0.23mg/d)クレードディプロタイプ全体にわたって有意な相加効果を示した(A/AとA/B、A/BとB/Bの間でp<0.05)。
【0129】
臨床ワーファリン用量の評価に用いられる変数の1つは患者の人種的背景である(Blann et al.,Br J Haematol 107, 207-9 (1999); Gan et al., Int J Hematol 78, 84-6 (2003))。アジア系、ヨーロッパ系、およびアフリカ系の個体は、それぞれ、平均して、低用量(約3.0mg/d)、中用量(約5.0mg/d)、および高用量(約6.5mg/d)を必要とする傾向がある(Yu et al., Ojm 89, 127-35 (1996); Chenhsu et al., Ann Pharmacother 34, 1395-401 (2000); Absher et al., Ann Pharmacother 36, 1512-7 (2002); Gage et al., Thromb Haemost 91, 87-94 (2004))。この用量要件の変化がVKORC1ハプロタイプ分布の集団特異的な差によるものであり得るかどうかを調べるために、これらの集団祖先から選択された血縁関係のない対照個体335人(ヨーロッパ系,n=119、アフリカ系,n=96、アジア系,n=120)を再配列決定し、ヨーロッパ系臨床患者に存在する10個のSNPのそれぞれで、遺伝子型を決定した。各個体のハプロタイプ対を推測し、集団ハプロタイプ頻度と、クレードAおよびBハプロタイプの分布を求めた(表2)。ヨーロッパ系アメリカ人臨床集団と対照集団の間のコモンハプロタイプ(H1、H2、H7、H8、およびH9)の分布には、主に、臨床患者における高用量関連H7ハプロタイプの増加によって有意な差があった(p<0.001)。これは、患者の募集を行う学術医療センターへの優先的な紹介に起因する、臨床集団での選択バイアスによるものかもしれない。
【0130】
5個の予測ハプロタイプがヨーロッパ系アメリカ人臨床集団および対照集団における全ハプロタイプの99%および96%を占めた。クレードA(35%対37%)およびB(64%対58%)の分布に基づいて、有意な差は存在しなかった。ヨーロッパ系アメリカ人集団内の5個のコモンハプロタイプはアフリカ系アメリカ人の全ハプロタイプの61%しか占めなかった。アフリカ系アメリカ人集団におけるこの多様なハプロタイプ分布は、アフリカ系集団において見出された高いゲノム配列多様性と一致している(Przeworski et al., Trends Genet 16, 296-302 (2000); Crawford et al., Am J Hum Genet 74, 610-22 (2004))。これらの集団特異的なハプロタイプ差は、地理的な選択圧、移動、またはボトルネックなどの人口学的効果による可能性があり、他の医学的に関連する遺伝子について観察されている(例えば、ADRB2(Drysdale et al., Proc Natl Acad Sci U S A 97, 10483-8(2000))。アフリカ系アメリカ人集団およびアジア系アメリカ人集団は、ヨーロッパ系アメリカ人対照集団と比較してクレードAおよびBの頻度において有意な差を示した(p<0.001)。クレードAハプロタイプの頻度は、ヨーロッパ系アメリカ人対照集団(37%)と比較してアジア系アメリカ人集団の中では高く(89%)、アフリカ系アメリカ人集団では低かった(14%)。クレードAハプロタイプによってワーファリン低用量表現型が予測されるので(表1)、VKORC1ハプロタイプ頻度の民族差は、ワーファリン維持量要件に集団差があるという臨床上の経験と一致する。従って、本実施例は、人種群間でのワーファリン維持量要件の変化の主因であるハプロタイプ分布の集団特異的な差について説明する。
【0131】
これらのハプロタイプまたはこれらを含む個々のSNP対立遺伝子がワーファリン用量を決める分子機構はまだ明らかにされない。これらのSNPのうち2個(381および3673)は5'上流プロモーター領域に存在し、2個(5808および6484)は最初のイントロンに存在し、1個(9041)は3'非翻訳領域(UTR)に存在する。有意に関連するSNPはどれも、マウスまたはラットに存在する高度に保存された非コード配列に存在しない。本発明はある特定の機構に限定されない。実際には、本発明を実施するのに分子機構を理解する必要はない。それにもかかわらず、3'UTRにあるSNPはmRNAのフォールディングおよび安定性に影響を及ぼす可能性があり(Durrin, L. K., Haile, R. W., Ingles, S. A. & Coetzee, G. A. Vitamin D receptor 3'- untranslated region polymorphisms: lack of effect on mRNA stability. Biochim Biophys Acta 1453, 311-20 (1999); Carter, A. M., Sachchithananthan, M., Stasinopoulos, S., Maurer, F. & Medcalf, R. L. Prothrombin G20210A is a bifunctional gene polymorphism. Thromb Haemost 87, 846-53 (2002))、これがVKORC1発現を変え、恐らく、ワーファリン反応を変え得ると意図される。本発明はある特定の機構に限定されない。実際には、本発明を実施するのに分子機構を理解する必要はない。それにもかかわらず、個々のハプロタイプとワーファリン用量の強い関係は、同じハプロタイプにあるSNP対立遺伝子間の機能的な相互作用が、観察された結果の一因となり得ることも示唆していると意図される。
【0132】
要約すると、本実施例は、ワーファリン用量と強く関連するVKORC1非コードSNPおよびハプロタイプについて説明する。これらのハプロタイプは、患者を低いワーファリン維持量、中間のワーファリン維持量、および高いワーファリン維持量に分ける高次のクレードにグループ分けされる。VKORC1遺伝子とワーファリン用量の関係はCYP2C9遺伝子型とは独立しており、ワーファリン用量のばらつきの23%〜25%を説明する。これらのVKORC1 SNPおよびハプロタイプについてジェノタイピングすることによって、より正確な初期投薬が行われ、安定した血液凝固阻止までの時間が短縮し、それによって、ワーファリン療法に関連する安全性、有効性、および入院費用が改善される。
【0133】
(表1)VKORC1ハプロタイプに基づく平均ワーファリン維持量要件

人種、年齢、性別、アミオダロン、ロサルタン、およびCYP2C9変種遺伝子型について調整した。
各ハプロタイプのワーファリン用量効果は平均(95%信頼区間)で示した。各ハプロタイプのp値は、H1,p<0.0001;H2,p<0.001;H7,p<0.001;H8,p=0.76、およびH9,p=0.05であった。n=185臨床試料。
注意:各ハプロタイプ配列について、対立遺伝子は、VKORC1遺伝子にわたる配列の順-381、861、2653、3673、5808、6009、6484、6853、7566、および9041に列挙した。
【0134】
(表2)ヨーロッパ系、アフリカ系、およびアジア系アメリカ人集団におけるVKORC1ハプロタイプ分布

注意:各位置にあるハプロタイプ対立遺伝子は表1と同じ順に列挙した。
各集団について、予測されたハプロタイプの数を列挙した。括弧内の数字は特定のハプロタイプを有する個体の比率を示す。
【0135】
(表3)VKORC1 SNP遺伝子型試験およびワーファリン維持量

年齢、人種、性別、アミオダロン、ロサルタン、CYP2、およびCYP3について調整した。
P値は、相加的遺伝モデルまたは共優性遺伝モデルを表すためにSNP対立遺伝子の数を0、1、2とコードした線形回帰モデルの尤度比検定統計値から得た。
【0136】
(表4)185人のヨーロッパ系アメリカ人ワーファリン臨床患者の特徴

【0137】
(表5)2つのヨーロッパ系アメリカ人臨床コホート間のワーファリン1日量およびクレードディプロタイプの比較
指標集団(n=185)-Seattle-ワシントン大学

追試験集団(n=368)-St.Louis-ワシントン大学

注意:個体の中には、AクレードにもBクレードにも分類できないものもあった。
【0138】
実施例2
VKORC1 mRNAの発現
ワーファリン用量とVKORC1多型が関係する機構を調べるために、ヒト肝臓組織におけるVKORC1 mRNAレベルをアッセイし、主要なVKORC1ハプロタイプ群(A/A、A/B、B/B)と比較した。
【0139】
A.方法
VKORC1 mRNAアッセイ
SYBR緑色レポーター(Applied Biosystems, Foster City, CA)の存在下での定量PCR(9μL反応物を使用)のために、各試料からの総cDNA 1.2μLをテンプレートとして使用した。PCRプライマー(5'から3'-

は、VKORC1コード配列(アクセッション番号NM_024006)のエキソン1および3の中の配列から選択した。全ての定量PCRをApplied Biosystems 7900HTで行い、サーモサイクリング全期間中に(サイクリング条件:初回変性に95℃-15分、94℃-30秒、60℃-30秒、72℃-30秒の40サイクル、72℃-5分の最終伸長)、リアルタイムデータを収集した。各試料を2通り測定し、2回の独立した実験からの結果を平均した。全てのVKORC1 mRNAレベルを、GAPDH発現レベル(プライマー(5'から3')

に対して標準化し、A/Aハプロタイプ群(平均値=1.49)と比べてスケール変更した。
【0140】
肝臓mRNA発現データを対数変換後に分析し、群差の試験全体はANOVAを用いて行った。有意性についての群間の対比較は、チューキースチューデント化範囲検定を用いて行った。有意水準はp<0.05に設定した。
【0141】
B.結果
結果を図3に示した。段階的で、有意性の高い(p=0.002)遺伝子-用量効果は明らかであり、B/B(「高用量」)群のmRNAレベルは、A/A(「低用量」群)と比較して約3倍高かった(図3-p<0.05)。
【0142】
前記明細書で述べられた全ての刊行物および特許は参照として本明細書に組み入れられる。説明された本発明の方法およびシステムの様々な修正および変更は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明らかであろう。本発明は特定の好ましい態様に関して説明されたが、主張された本発明は、このような特定の態様に過度に限定されてはならないことが理解されるはずである。実際には、当業者に明らかな本発明を実施するための記載の態様の様々な修正は、以下の特許請求の範囲の中にあることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】ワーファリン臨床用量に及ぼすVKORC1系統クレードの影響を示す。上パネルは、VKORC1から決定されたコモンハプロタイプ(H1(SEQ ID NO:14)、H2(SEQ ID NO:15)、H7(SEQ ID NO:16)、H8(SEQ ID NO:17)、およびH9(SEQ ID NO:18)を示す。下パネルは、CYP2C9遺伝子座にある公知の機能的変異、ならびにVKORC1クレード(A/A(白色バー)、A/B(灰色バー)、およびB/B(黒色バー)に従って分類された臨床患者(n=185)のワーファリン投与量を示す。
【図2】VKORC1(SEQ ID NO:1)遺伝子の広範囲にわたるゲノム参照配列の核酸配列を示す。
【図3】VKORC1ハプロタイプ群がmRNA発現と相関することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から試料を得る工程;および
該被験体のVKORC1ハプロタイプを決定して、ワーファリン療法に対する反応性を決定する工程を含む、方法。
【請求項2】
被験体のVKORC1ハプロタイプに基づいて、被験体のワーファリン最適用量を決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験体のハプロタイプが、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、およびH9からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
被験体のCYP2C9遺伝子型を決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
被験体のVKORC1ハプロタイプを決定する工程が、核酸に基づく検出アッセイを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
核酸に基づく検出アッセイが、配列決定アッセイおよびハイブリダイゼーションアッセイからなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
被験体のクレードタイプを決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
クレードタイプがAA、AB、およびBBからなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
a)被験体から試料を得る工程;
b)SEQ ID NO:1の位置381、3673、5808、6484、6853、7566、および9041、ならびに該位置と連鎖不平衡にある位置からなる群より選択される1つまたは複数の位置にある一塩基多型の遺伝子型を検出する工程;および
c)該一塩基多型の該遺伝子型に基づいて、該被験体のワーファリン最適投与量を決定する工程
を含む、方法。
【請求項10】
被験体のCYP2C9遺伝子型を決定する工程をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
被験体のVKORC1ハプロタイプを決定する工程が、核酸に基づく検出アッセイを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
核酸に基づく検出アッセイが、配列決定アッセイおよびハイブリダイゼーションアッセイからなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
被験体のワーファリン最適投与量を決定するためのキットであって、以下を含むキット:
a)該被験体のVKORC1ハプロタイプを特異的に検出するように構成されている検出アッセイ;および
b)該被験体のワーファリン最適投与量を決定するための説明書。
【請求項14】
被験体のVKORC1ハプロタイプが、H1、H2、H7、H8、およびH9からなる群より選択される、請求項13記載のキット。
【請求項15】
被験体のCYP2C9遺伝子型を決定するための試薬をさらに含む、請求項13記載のキット。
【請求項16】
検出アッセイが、核酸に基づく検出アッセイである、請求項13記載のキット。
【請求項17】
核酸に基づく検出アッセイが、配列決定アッセイおよびハイブリダイゼーションアッセイからなる群より選択される、請求項16記載のキット。
【請求項18】
被験体のクレードタイプを決定するための説明書をさらに含む、請求項13記載のキット。
【請求項19】
クレードタイプがAA、AB、およびBBからなる群より選択される、請求項18記載のキット。
【請求項20】
被験体から試料を得る工程;および
該被験体のVKORC1発現レベルを決定して、ワーファリン療法に対する反応性を決定する工程を含む、方法。
【請求項21】
被験体のVKORC1発現レベルに基づいて、被験体のワーファリン最適用量を決定する工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
被験体のCYP2C9遺伝子型を決定する工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項23】
被験体のVKORC1発現レベルを決定する工程が、該被験体によって発現されたVKORC1 mRNAの量を決定する工程を含む、請求項20記載の方法。
【請求項24】
被験体によって発現されたVKORC1 mRNAの量を決定する工程が、定量RT-PCRアッセイを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
被験体によって発現されたVKORC1 mRNAの量を決定する工程が、核酸ハイブリダイゼーションアッセイを含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
被験体のVKORC1発現レベルを決定する工程が、被験体によって発現されたVKORC1ポリペプチドの量を決定する工程を含む、請求項20記載の方法。
【請求項27】
被験体によって発現されたVKORC1ポリペプチドの量を決定する工程が、試料を、該VKORC1ポリペプチドに特異的に結合する抗体に曝露する工程を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
被験体のワーファリン最適投与量を決定するためのキットであって、以下を含むキット:
a)該被験体のVKORC1発現レベルを特異的に検出するように構成されている検出アッセイを実施するための試薬;および
b)該被験体のワーファリン最適投与量を決定するための説明書。
【請求項29】
試薬が、被験体によって発現されたVKORC1 mRNAの量を決定するための試薬を含む、請求項28記載のキット。
【請求項30】
試薬が、定量RT-PCRアッセイを実施するための試薬を含む、請求項29記載のキット。
【請求項31】
試薬が、核酸ハイブリダイゼーションアッセイを実施するための試薬を含む、請求項29記載のキット。
【請求項32】
試薬が、被験体によって発現されたVKORC1ポリペプチドの量を決定するための試薬を含む、請求項28記載のキット。
【請求項33】
試薬が、VKORC1ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む、請求項32記載のキット。
【請求項34】
被験体のCYP2C9遺伝子型を決定するための試薬をさらに含む、請求項28記載のキット。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−516630(P2008−516630A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537938(P2007−537938)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/037058
【国際公開番号】WO2006/044686
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(507127439)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (2)
【Fターム(参考)】