説明

薬物含有ナノ粒子及び薬物含有複合粒子、並びにそれらの製造方法

【課題】含有される薬物の油水バランスに係わらず薬物のナノ粒子への含有率を高め、且つ投与直後から長期間に亘って薬物放出を維持可能な薬物含有ナノ粒子及び薬物含有複合粒子、並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】薬物含有ナノ粒子1は、生体適合性高分子2と薬物3aとがアミド結合した薬物結合生体適合性高分子4が多数凝集して形成されたものであり、ナノ粒子1にも薬物3bが内包されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性の高分子で形成されたナノ粒子に生物活性成分を含有させた薬物含有ナノ粒子及び薬物含有複合粒子、並びにそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬物療法を行う場合、通常、薬物は体内で吸収・分解されたり、全身、即ち患部(臓器や組織、細胞、病原体など)以外の部位にも広範囲に拡散したりするため、患部に到達する薬物は投与された内の極微量であると言われている。つまり、患部に薬物が到達できるか否かは、人為的にコントロールできるものではなかった。一方、患部に到達すべき薬物量から逆算して薬剤投与量を決定すると、その投与量は非常に多いものとなり、副作用発現の可能性が高くなってしまう。
【0003】
一般的に、薬物は、必要な量を必要な時間に必要な部位で作用させるのが理想とされている。 そこで、薬物が患部に到達するまで吸収・分解されないようにして、過剰な薬物投与を抑える技術、いわゆるDrug Delivery System(以下、DDSという)が考案され、近年、盛んに研究されている。DDSは、目標とする患部に薬物を効果的かつ集中的に送り込み、患部で薬物を放出させる技術であり、薬物の治療効果を高めるだけでなく、副作用の軽減も期待できるというメリットがある。
【0004】
DDSにおいて中心となる技術の一つは、微量の薬物を生体適合性の高分子の内部または表面に担持させ、細胞への薬物導入効率の高い数十から数百ナノメートル程度のナノ粒子とする技術である。この薬物含有ナノ粒子は、目標とする患部まで薬物を安定して確実に運搬するとともに、高分子の種類や投与後の経過時間で薬物の放出速度(徐放性)をコントロールすることにより、患部に到達した時点で薬物を放出することができ、注射剤や経口剤としての用途の他、従来、皮膚深部まで十分浸透させることが困難であった外用薬剤にも高い効果を発揮する。
【0005】
ナノ粒子を構成する素材としての生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包する薬物を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材として、例えばポリ乳酸・グリコール酸共重合体(以下、PLGAという)が好適に用いられている。PLGAは薬物を内包可能であり、当該薬物の効力を保持したまま長期間保存できることが知られている。さらに、PLGAの加水分解・長期半減期の特徴から、数日から1ヶ月単位の徐放ができると考えられる。
【0006】
薬物をPLGAナノ粒子に担持させる手法としては、ナノ粒子を構成する高分子のマトリクス中に薬物を包埋するか、或いはナノ粒子のコア部分(核)とする「内包」と、粒子表面に担持させる「外付け」とが開発されている。例えば特許文献1には、薬物としてNFκBデコイオリゴヌクレオチドを粒子内に「内包」し、且つ粒子表面に「外付け」したPLGAナノ粒子を含む医薬製剤が開示されている。
【0007】
このようなナノ粒子は、良溶媒に溶解させた薬物溶液を、撹拌下、薬物を溶解し難い貧溶媒中に滴下することで、薬物の結晶を析出させる球形晶析法を用いて製造される。球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要なく、容易に形成することができる。しかしながら、貧溶媒として水相を用いた水中エマルション溶媒拡散法の場合、一般に水に対する溶解度の高い親水性の薬物は、晶析時に良溶媒の拡散に伴い貧溶媒中へ拡散してしまうため、薬物の親水性及び疎水性のバランス(油水バランス)によってはPLGAナノ粒子への薬物内包率が数%以下となる。
【0008】
また、水中エマルション溶媒拡散法で調製された親水性(水溶性)薬物内包PLGAナノ粒子では、薬物が粒子マトリクスの外縁側に偏析し易いため、粒子の膨潤、溶解を待たずに薬物が放出されてしまう、いわゆる初期バーストが発生するおそれがあった。従って、特許文献1の方法では、親水性の薬物を多く含有させ長期間に亘り持続して放出させることにおいて、なお改善の余地があった。
【0009】
そこで、親水性の薬物を高含有率でナノ粒子に含有させるとともに初期バーストを抑制する方法が種々提案されており、例えば特許文献2、3には、ナノ粒子を構成する生体適合性高分子の末端を所定の官能基に置換し、タンパク質やペプチド等と共有結合させることによりタンパク質やペプチドの含有率を高める方法が開示されている。また、特許文献4には、種々の薬物分子と生分解性高分子とを共有結合させて薬物の初期バーストを抑制する薬物分子伝達システムが開示されている。
【0010】
一方、特許文献5には、生物活性剤が結合しているポリマー及び粒子が導電性表面に電気化学的に結合した医療用デバイスが開示されている。
【特許文献1】特開2008−56611号公報
【特許文献2】特開2007−169261号公報
【特許文献3】特表2005−504066号公報
【特許文献4】特表2002−526383号公報
【特許文献5】特表2008−506493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2〜4の方法では、生体適合性高分子と薬物分子との共有結合により初期バーストを抑制できるものの、薬物の初期放出量が少ないため即効性の面で十分とはいえなかった。また、特許文献5の方法では、ナノ粒子表面の官能基は主として導電性表面への電気化学的結合に用いられており、生物活性剤の含有率向上、及び放出速度のコントロールについては具体的に記載されていなかった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、封入される薬物の油水バランスに係わらずナノ粒子の薬物含有率を高め、且つ投与直後から長期間に亘って薬物放出を維持可能な薬物含有ナノ粒子及びこれを複合化した薬物含有複合粒子を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、簡便且つ低コストな薬物含有ナノ粒子及び薬物含有複合粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、生体適合性高分子と薬物分子とをアミド結合させた薬物結合生体適合性高分子により形成されるナノ粒子の内部または表面の少なくとも一方に、前記薬物をさらに担持した薬物含有ナノ粒子である。
【0014】
また本発明の第2の構成は、上記第1の構成の薬物含有ナノ粒子において、前記薬物結合生体適合性高分子は、生体適合性高分子のカルボキシル基と前記薬物分子のアミノ基とをアミド結合させて成ることを特徴としている。
【0015】
また本発明の第3の構成は、上記第2の構成の薬物含有ナノ粒子において、前記生体適合性高分子がポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかであることを特徴としている。
【0016】
また本発明の第4の構成は、上記第1の構成の薬物含有ナノ粒子において、前記薬物結合生体適合性高分子は、生体適合性高分子のアミノ基と前記薬物分子のカルボキシル基とをアミド結合させて成ることを特徴としている。
【0017】
また本発明の第5の構成は、上記第4の構成の薬物含有ナノ粒子において、前記生体適合性高分子がポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかの末端カルボキシル基をアミノ基に置換したものであることを特徴としている。
【0018】
また本発明の第6の構成は、上記第1乃至第5のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子において、前記薬物が水溶性薬物であることを特徴としている。
【0019】
また本発明の第7の構成は、上記第6の構成の薬物含有ナノ粒子において、前記水溶性薬物がアニオン性薬物であり、カチオン性高分子で被覆された前記ナノ粒子の表面に担持されることを特徴としている。
【0020】
また本発明の第8の構成は、上記第7の構成の薬物含有ナノ粒子において、前記カチオン性高分子がキトサンであることを特徴としている。
【0021】
また本発明の第9の構成は、上記第1乃至第8のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子が結合剤によって複合化された薬物含有複合粒子である。
【0022】
また本発明の第10の構成は、上記第9の構成の薬物含有複合粒子において、前記結合剤にさらに薬物を封入したことを特徴としている。
【0023】
また本発明の第11の構成は、生体適合性高分子と薬物分子とをアミド結合させて薬物結合生体適合性高分子とする薬物結合工程と、ポリビニルアルコール水溶液に、前記薬物結合生体適合性高分子と前記薬物とを含む有機溶媒を加えて前記薬物が内包された薬物含有ナノ粒子を形成してナノ粒子含有溶液とするナノ粒子形成工程と、前記ナノ粒子含有溶液から前記有機溶媒を留去する溶媒留去工程と、を有する薬物含有ナノ粒子の製造方法である。
【0024】
また本発明の第12の構成は、上記第11の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記薬物結合工程の前に、前記生体適合性高分子の官能基を置換する官能基置換工程を有することを特徴としている。
【0025】
また本発明の第13の構成は、上記第11または第12の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記溶媒留去工程の後に、前記ナノ粒子含有溶液からポリビニルアルコールを除去する除去工程を有することを特徴としている。
【0026】
また本発明の第14の構成は、上記第11乃至第13のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記ナノ粒子形成工程において、ポリビニルアルコール水溶液にカチオン性高分子を溶解させて前記ナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することを特徴としている。
【0027】
また本発明の第15の構成は、上記第14の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、前記ナノ粒子形成工程において、ポリビニルアルコール水溶液にさらにアニオン性薬物を添加することにより、前記カチオン性高分子で被覆された前記ナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させることを特徴としている。
【0028】
また本発明の第16の構成は、上記第14の構成の製造方法により製造された薬物含有ナノ粒子を凍結乾燥により複合化するとともに、凍結乾燥前のナノ粒子懸濁液にアニオン性薬物を添加して前記カチオン性高分子で被覆された前記ナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させる薬物含有複合粒子の製造方法である。
【0029】
また本発明の第17の構成は、上記第11乃至第15のいずれかの構成の製造方法により製造された薬物含有ナノ粒子を結合剤と共に複合化するとともに、前記結合剤に薬物を封入する薬物含有複合粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の第1の構成によれば、薬物が生体適合性高分子にアミド結合され、さらにナノ粒子内部または表面の少なくとも一方に担持されているため、薬物の油水バランスに係わらず、粒子の大径化を伴わずにトータルでの薬物含有量を高めた薬物含有ナノ粒子が提供される。また、ナノ粒子内部または表面からの薬物の物理的な拡散と、アミド結合の加水分解に伴う薬物の化学的な放出により、薬物を長期間に亘って放出可能な薬物含有ナノ粒子が提供される。
【0031】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の薬物含有ナノ粒子において、生体適合性高分子のカルボキシル基と薬物分子のアミノ基とをアミド結合させて薬物結合生体適合性高分子を合成することにより、薬物がアミノ基を有する場合に適した薬物含有ナノ粒子が提供される。
【0032】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第2の構成の薬物含有ナノ粒子において、生体適合性高分子としてポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかを用いることにより、アミノ基を有する薬物と容易にアミド結合可能であるとともに、生体への刺激・毒性が低く薬物を担持可能であり、且つ薬物の効力を保持したまま長期間の保存や生体適合性高分子の分解による薬物の徐放が可能な薬物含有ナノ粒子を提供できる。
【0033】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1の構成の薬物含有ナノ粒子において、生体適合性高分子のアミノ基と薬物分子のカルボキシル基とをアミド結合させて薬物結合生体適合性高分子を合成することにより、薬物がカルボキシル基を有する場合に適した薬物含有ナノ粒子が提供される。
【0034】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第4の構成の薬物含有ナノ粒子において、生体適合性高分子としてポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかの末端カルボキシル基をアミノ基に置換したものを用いることにより、カルボキシル基を有する薬物と容易にアミド結合可能であるとともに、生体への刺激・毒性が低く薬物を担持可能であり、且つ薬物の効力を保持したまま長期間の保存や生体適合性高分子の分解による薬物の徐放が可能な薬物含有ナノ粒子を提供できる。
【0035】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第1乃至第5のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子において、従来の球形晶析法ではナノ粒子へ内包させることが極めて困難であった水溶性薬物を薬物として用いても、トータルでの含有率を高めることができる。また、良溶媒中の水溶性薬物が、生体適合性高分子とアミド結合した薬物と相互作用することにより、水溶性薬物の貧溶媒中への漏出が抑制され、ナノ粒子内部への内包率が高くなる。
【0036】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第6の構成の薬物含有ナノ粒子において、水溶性薬物としてアニオン性薬物を用い、カチオン性高分子で被覆されたナノ粒子の表面に静電気的に担持させることにより、ナノ粒子の粒子径を増大させることなくナノ粒子の表面にアニオン性薬物を担持可能となる。また、ナノ粒子表面を被覆するカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するアニオン性薬物と相互作用し、貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出を抑制してナノ粒子への内包率も高めることができる。さらに、カチオン性高分子によりナノ粒子表面のゼータ電位が正となるため、負帯電の細胞壁に対するナノ粒子の接着性を増大させることができる。
【0037】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第7の構成の薬物含有ナノ粒子において、カチオン性高分子として生分解性のキトサンを用いることにより、生体への悪影響がなく、安全性の高い薬物含有ナノ粒子となる。
【0038】
また、本発明の第9の構成によれば、上記第1乃至第8のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子を結合剤と共に複合化して薬物含有複合粒子とすることにより、使用前までは取り扱いが容易で、使用時には再分散可能な凝集粒子となる。また、複合化されたナノ粒子の分散性、耐熱性も向上する。
【0039】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第9の構成の薬物含有複合粒子において、ナノ粒子表面に形成される結合剤にさらに薬物を封入することにより、薬物含有量が高く、取り扱いも容易な薬物含有複合粒子を低コストで提供できる。
【0040】
また、本発明の第11の構成によれば、生体適合性高分子と薬物とをアミド結合させて薬物結合生体適合性高分子とし、得られた薬物結合生体適合性高分子と薬物とを含む有機溶媒をポリビニルアルコール水溶液に加えて薬物が内包された薬物含有ナノ粒子を形成してナノ粒子含有溶液とした後、ナノ粒子含有溶液から有機溶媒を留去して薬物含有ナノ粒子を製造することにより、薬物含有率が高く、且つ含有率や平均粒子径のばらつきの少ない薬物含有ナノ粒子を簡便且つ低コストで製造することができる。
【0041】
また、本発明の第12の構成によれば、上記第11の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、薬物結合工程の前に、生体適合性高分子の官能基を置換する官能基置換工程を設けることにより、薬物結合生体適合性高分子の原料として選択可能な生体適合性高分子および生体適合性高分子と結合可能な薬物の種類が多くなる。
【0042】
また、本発明の第13の構成によれば、上記第11または第12の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、溶媒留去工程の後に、ナノ粒子含有溶液からポリビニルアルコールを除去する除去工程を設けることにより、高濃度のポリビニルアルコール水溶液を用いてナノ粒子を形成した後、余剰のポリビニルアルコールを除去することができ、再分散性に優れた薬物含有ナノ粒子を製造することができる。
【0043】
また、本発明の第14の構成によれば、上記第11乃至第13のいずれかの構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、ポリビニルアルコール水溶液にカチオン性高分子を溶解させてナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することにより、ナノ粒子表面を被覆するカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するアニオン性薬物と相互作用し、貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出が抑制される。また、カチオン性高分子によりナノ粒子表面のゼータ電位が正となるため、負帯電の細胞壁に対するナノ粒子の接着性が増大した薬物含有ナノ粒子を製造することができる。
【0044】
また、本発明の第15の構成によれば、上記第14の構成の薬物含有ナノ粒子の製造方法において、ポリビニルアルコール水溶液にカチオン性高分子と共にアニオン性薬物を添加し、カチオン性高分子で被覆されたナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させることにより、ナノ粒子の粒子径を増大させることなくナノ粒子の表面にアニオン性薬物を効率良く担持させることができる。
【0045】
また、本発明の第16の構成によれば、上記第14の構成の製造方法により製造された薬物含有ナノ粒子を凍結乾燥により複合化するとともに、凍結乾燥前のナノ粒子懸濁液にアニオン性薬物を添加し、カチオン性高分子で被覆されたナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させることにより、ナノ粒子の粒子径を増大させることなくナノ粒子の表面にアニオン性薬物を効率良く担持させることができる。さらに、凍結乾燥により使用前までは取り扱いが容易で使用時には再分散可能な複合粒子となる。
【0046】
また、本発明の第17の構成によれば、上記第11乃至第15のいずれかの構成の製造方法により製造された薬物含有ナノ粒子を結合剤と共に複合化するとともに、前記結合剤に薬物が封入された薬物含有複合粒子を製造することにより、複合化されたナノ粒子の分散性、耐熱性を一層向上させるとともに、簡便な方法で複合粒子に薬物を封入可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。本発明の薬物含有ナノ粒子は、予めナノ粒子の基材となる生体適合性高分子と薬物分子とをアミド結合させて薬物結合生体適合性高分子を合成し、この薬物結合生体適合性高分子により形成されるナノ粒子内部または表面の少なくとも一方に薬物をさらに担持させたものである。
【0048】
図1及び図2は、本発明に用いられる薬物結合生体適合性高分子の構造を示す模式図であり、図3は、本発明の第1実施形態に係る薬物含有ナノ粒子の構造を示す模式図である。薬物含有ナノ粒子1は、生体適合性高分子2と薬物3とがアミド結合した薬物結合生体適合性高分子4が多数凝集して形成されたものであり、ナノ粒子1に薬物3が内包されている。なお、説明の便宜上、図3では生体適合性高分子2に結合した薬物を薬物3a、粒子に内包される薬物を薬物3bとしている(図4及び図5においても同じ)。
【0049】
本発明に用いられる生体適合性高分子は、薬物とアミド結合を形成可能なカルボキシル基またはアミノ基を有し、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。このような素材としては、特に乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を好適に用いることができる。PLGAナノ粒子は薬物を内包可能であり、薬物の効力を保持したまま長期間保存可能である。さらに、PLGAの加水分解・長期半減期の特徴から、数日から1ヶ月単位の徐放ができると考えられる。これらの特徴から、PLGAナノ粒子はDDSの優れたキャリアとなる。
【0050】
PLGAの分子量は、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、15,000〜25,000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、50:50〜75:25であることが好ましい。
【0051】
PLGA以外の生体適合性高分子としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリアスパラギン酸、アスパラギン酸・乳酸共重合体(PAL)、アスパラギン酸・乳酸・グリコール酸共重合体(PALG)等のポリエステル系高分子を挙げることができる。結合される薬物3がアミノ基を有する場合、図1のように上記の生体適合性高分子2の末端カルボキシル基をそのまま用いてアミド結合を形成することができる。また、結合される薬物3がカルボキシル基を有する場合、図2のように、上記の生体適合性高分子2の末端カルボキシル基を従来公知の方法によりアミノ基に置換したものを用いることができる。
【0052】
本発明に用いられる薬物としては、分子内に生体適合性高分子とアミド結合を形成可能なカルボキシル基またはアミノ基を1つ以上有するものであれば良く、ペプチド、タンパク質、治療剤及び診断剤を含む生理活性物質で、特にアニオン性官能基を持つ物質が好適に用いられる。
【0053】
ペプチドとしては、インスリン、インクレチン誘導体カルシトニン、ACTH、グルカゴン、ソマトトロピン、ソマトメジン、パラチロイドホルモン、エリトロポイエチン、視床下部の分泌物質、プロラクチン、チロイド刺戟ホルモン、エンドルフィン、エンケファリン、バソプレシン、非天然発生オピオイド、スーパーオキシドジスムターゼ、インターフェロン、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンジアミナーゼ、アデノシンジアミナーゼリボヌクレアーゼ、トリプシン、ケモトリプシン及びペプシン等が含まれる。
【0054】
治療剤は、抗癌剤、抗生物質、抗凝血剤、抗菌剤、抗不整脈製剤、生活習慣病治療剤、遺伝子医薬、抗体及びこれらの前駆体または誘導体が含まれる。抗癌剤には、ジデオキシイノシン、フロクスウリジン、6−メルカプトプリン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、L−ダルビシン、シスプラシン等が含まれる。抗生物質には、エリスロマイシン、バンコマイシン、オレアンドマイシン、アンピシリン等が含まれる。抗凝血剤にはヘパリンが含まれる。抗菌剤には、アラーA、アクリルグアノシン、ノルデオキシグアノシン、アジドチミジン、ジデオキシアデノシン、ジデオキシチミジンが含まれる。生活習慣病治療剤は、糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症などを対象とした治療剤であり、フィブラート系薬剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ニコチン酸誘導体、尿酸合成阻害剤、尿酸排泄促進剤等が含まれる。
【0055】
次に、薬物含有ナノ粒子の製造方法について説明する。薬物含有ナノ粒子の製造方法としては、薬物および生体適合性高分子を1,000nm未満の平均粒径を有する粒子に加工することができる方法であれば特に限定されるものではないが、球形晶析法を好適に用いることができる。球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0056】
ESD法は、次に示すような原理によって、ナノ粒子(ナノスフェア)を製造する技術である。本法には、基材ポリマーとなる薬物結合生体適合性高分子を溶解できる良溶媒と、これとは逆に薬物結合生体適合性高分子を溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒が用いられる。この良溶媒には、薬物結合生体適合性高分子を溶解し、且つ貧溶媒へ混和するアセトン等の有機溶媒を用いる。そして、貧溶媒には、通常、ポリビニルアルコール水溶液等を用いる。以下、生体適合性高分子として乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を用いた場合の操作手順を詳述する。
【0057】
まず、PLGAと薬物とを従来公知の方法によりアミド結合させて薬物結合PLGAを合成する(薬物結合工程)。アミド結合の形成法としては、例えばPLGAとアミノ基を有する薬物とを嫌気条件下無水ジメチルスルホキシド中で反応させる方法が挙げられる。また、カルボキシル基を有する薬物を結合させる場合は、PLGAのカルボキシル基を従来公知の方法によりアミノ基に置換する工程(官能基置換工程)を設けておけば良い。
【0058】
薬物結合工程で得られた薬物結合PLGAを良溶媒中に溶解後、薬物結合PLGAが析出しないように、薬物溶解液を良溶媒中へ添加混合する。この薬物結合PLGAと薬物を含む混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内の薬物結合PLGA並びに薬物の溶解度が低下し、最終的に、薬物を結合及び内包した球形結晶粒子のPLGAナノ粒子が生成する(ナノ粒子形成工程)。
【0059】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要なく、容易に形成することができる。その後、良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、ナノ粒子粉末を得る。
【0060】
ここで、薬物が水溶性である場合、生体適合性高分子とアミド結合した薬物が水分子を引き付けて保持する能力が高くなる。そのため、貧溶媒として水相を用いた水中エマルジョン法でナノ粒子を調製すると、図3に示すように、薬物3aが粒子表面に偏在する傾向が見られる。
【0061】
良溶媒に添加された水溶性の薬物はナノ粒子晶析時に有機溶媒(良溶媒)の拡散に伴い貧溶媒中へと拡散するが、アミド結合した薬物(貧溶媒中の水分子を引き付けて水和相を形成する)と相互作用することにより、貧溶媒中への漏出が抑制され、図3におけるナノ粒子1への薬物3bの内包率が高くなる。この効果は、薬物の分子量が同程度であれば親水性基が多い(親水性が高くなる)ほど、また親水性が同程度であれば分子量が大きくなるほど顕著になるものと考えられる。
【0062】
本発明で製造される薬物含有ナノ粒子は、1,000nm未満の平均粒子径を有するものであれば特に制限はないが、標的部位に薬物を導入するためナノ粒子を細胞内に取り込ませる必要がある。標的細胞内への浸透効果を高めるためには、平均粒子径を500nm以下とすることが好ましく、50nmから300nmがさらに好ましい。
【0063】
特に、経皮投与用途に用いられる場合、標的部位に送達されたナノ粒子が細胞膜のエンドサイトーシスを受けて細胞内に取り込まれることによる高い薬効を発現させるためには平均粒子径で200nm以下がより好ましく、この粒子サイズであれば付属器官(毛包や汗腺)ルートを通じてナノ粒子は浸透し、薬物の表皮や真皮、毛根への送達が可能となる。さらに、一般に、皮膚細胞の大きさは15,000nmであって、皮膚細胞間隔は皮膚の浅い所と深い所でバラツキがあるが、70nm程度であると考えられているため、ナノ粒子の平均粒子径を100nm以下とすることで、細胞間隙ルート(皮膚角質細胞間隙)を通してナノ粒子の表皮や真皮への浸透がなされ、薬物をそれらの部位へと効果的に送達させることができると期待できる。
【0064】
ナノ粒子への薬物の内包量は、ナノ粒子形成時に添加する薬物量の調整、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子の種類及び分子量等により調整可能である。ナノ粒子形成時に有機溶媒に混合する薬物量としては、生体適合性高分子に対する重量比を0.001以上1.0以下とすることが好ましい。生体適合性高分子に対する重量比が0.001未満の場合、良溶媒中での薬物の濃度が低すぎてナノ粒子への内包率が低くなり、1.0を超えると、ナノ粒子の形成が阻害される。
【0065】
上記良溶媒および貧溶媒の種類は、目的となる薬物の種類等に応じて決定されるものであり特に限定されるものではないが、ナノ粒子は人体へ直接投与する医薬製剤の原料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いる必要がある。このような貧溶媒としては、例えばポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられ、ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0066】
良溶媒としては、低沸点の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトンのみ、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。なお、余剰のポリビニルアルコールが残存している場合は、溶媒留去工程の後に、遠心分離操作や限外ろ過操作等によりポリビニルアルコールを除去する工程(除去工程)を設けても良い。
【0067】
ポリビニルアルコール水溶液の濃度についても、生体適合性高分子の濃度等に応じて適宜決定すればよいが、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が高いほどナノ粒子表面へのポリビニルアルコールの付着が良好となり、乾燥後の水への再分散性が向上する反面、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が所定以上になると、貧溶媒の粘度が上昇して良溶媒の拡散性に悪影響を与える。そのため、ポリビニルアルコールの重合度やけん化度によっても異なるが、除去工程を設ける場合は0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、2%程度がより好ましい。なお、除去工程を設けない場合は0.5重量%以下とすることが好ましい。
【0068】
また、ナノ粒子に内包される薬物がアニオン性薬物である場合、上記ナノ粒子形成工程において貧溶媒にカチオン性高分子を添加することで、ナノ粒子へのアニオン性薬物の内包率を高めることができる。なお、本明細書中においてアニオン性薬物とは、水溶液中でアニオン分子として存在するような有機薬物を指すものとする。
【0069】
一般に、液体中に分散された粒子の多くは正又は負に帯電しており、逆の電荷を有するイオンが粒子表面に強く引き寄せられ固定された層(固定層)と、その外側に存在する層(拡散層)とで、いわゆる拡散電気二重層が形成されており、拡散層の内側の一部と固定層とが粒子と共に移動するものと推定される。
【0070】
ゼータ電位は、粒子から十分に離れた電気的に中性な領域の電位を基準とした場合の、上記移動が生じる面(滑り面)の電位である。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性は高くなり、逆にゼータ電位が0に近づくにつれて粒子は凝集を起こしやすくなる。そのため、ゼータ電位は粒子の分散状態の指標として用いられている。
【0071】
従来の球形晶析法を用いてアニオン性薬物を内包したナノ粒子を製造しようとすると、良溶媒中に分散混合した水溶性のアニオン性薬物が貧溶媒中に漏出、溶解してしまい、ナノ粒子を形成する高分子だけが沈積するため、アニオン性薬物がほとんど内包されなかった。これに対し、上記ナノ粒子形成工程においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加した場合は、ナノ粒子表面を被覆したカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するアニオン性薬物と相互作用し、貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出を抑制できるものと考えられる。
【0072】
また、生体内の細胞壁は負に帯電しているが、従来の球形晶析法で製造されたナノ粒子の表面は、一般的に負のゼータ電位を有しているため、電気的反発力によりナノ粒子の細胞接着性が悪くなるという問題点があった。従って、本発明のようにカチオン性高分子を用いてナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させることは、負帯電の細胞壁に対するナノ粒子の接着性を増大させ、アニオン性薬物の細胞内移行性を向上させる観点からも好ましい。
【0073】
本発明に用いられるカチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)、細胞膜(生体膜)の構成成分であるリン脂質極性基(ホスホリルコリン基)と重合性に優れたメタクリロイル基とを併せ持つ2−メタクリロイルオキシエチルホスホルコリン(MPC)を構成単位とする高分子に第4級アンモニウム塩等のカチオン基を結合させたカチオン性高分子(例えばMPCと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとのコポリマー)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0074】
キトサンは、エビやカニ、昆虫の外殻に含まれる、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合したカチオン性の天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いアニオン性薬物含有ナノ粒子を製造することができる。
【0075】
なお、良溶媒中でのアニオン性薬物の親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にDOTAP等のカチオン性脂質を添加し、アニオン性薬物と複合体を形成させても良い。但し、細胞内において放出されたカチオン性脂質により細胞障害性を示すおそれがあるため、添加量には注意が必要である。
【0076】
そして、得られたナノ粒子をそのまま用いるか、或いは必要に応じて複合化する(複合化工程)。この複合化により、使用前まではナノ粒子が集まった取り扱いの容易な凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることでナノ粒子に戻って高反応性等の特性を復元可能となる。
【0077】
ナノ粒子の複合化方法としては、凍結乾燥法が好適に用いられる。また、流動層乾燥造粒法(例えば、アグロマスタAGM(ホソカワミクロン(株)製を使用して流動造粒を行うこと)または乾式機械的粒子複合化法(例えば、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株)製)を使用して圧縮力および剪断力を加えること)により複合化しても良い。特に、流動層乾燥造粒法の中でも粒子化する材料を含む混合物を流動ガス中に噴霧する噴霧乾燥式流動層造粒法を用いた場合、時間と手間のかかる凍結乾燥工程を省略可能となり、複合粒子を容易に且つ短時間で製造できるため工業化にも有利となる。
【0078】
次に、ナノ粒子の表面にさらに薬物を担持させる方法について説明する。ここでは、正のゼータ電位を有するナノ粒子表面へアニオン性薬物を静電気的に担持させる方法を例に挙げて説明する。
【0079】
アニオン性薬物をナノ粒子表面へ静電気的に担持させるためには、ナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させておく必要がある。上記ナノ粒子形成工程においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加すると、形成されたナノ粒子の表面がカチオン性高分子により修飾(被覆)され、ナノ粒子表面のゼータ電位が正となる。このとき、貧溶媒中にアニオン性薬物を添加しておくことで、貧溶媒中で負の電荷を持つアニオン分子となったアニオン性薬物が静電気的相互効果によりナノ粒子表面に所定量担持(外付け)される。また、凍結乾燥によりナノ粒子を複合化する際に、凍結乾燥前のナノ粒子懸濁液にアニオン性薬物を添加することにより、アニオン分子となったアニオン性薬物をナノ粒子表面に静電気的に担持することもできる。
【0080】
図4は、アニオン性薬物が粒子表面に静電気的に担持された第2実施形態に係る薬物含有ナノ粒子の構造を示す模式図である。ナノ粒子1の表面はポリビニルアルコール5で被覆され、さらにその外側をカチオン性高分子6で被覆されており、カチオン性高分子6により正のゼータ電位を有している。薬物3は、生体適合性高分子2にアミド結合され(薬物3a)、ナノ粒子1に内包される(薬物3b)とともに、粒子表面にも静電気的に担持されている。なお、図4ではナノ粒子表面に担持される薬物を薬物3cとしている(図5においても同じ)。
【0081】
なお、カチオン性高分子の中でもカチオン性のより強いものを用いることにより、ゼータ電位がより大きな正の値となるため、ナノ粒子表面により多くのアニオン性薬物を担持可能になるとともに、ナノ粒子間の反発力が強くなってナノ粒子の安定性も高くなる。例えば、元来カチオン性であるキトサンの一部を第四級化することで、さらにカチオン性を高めた塩化N−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]キトサン等のキトサン誘導体(カチオニックキトサン)を用いることが好ましい。
【0082】
ナノ粒子表面へのアニオン性薬物の担持量は、カチオン性高分子の種類及び添加量や、貧溶媒中または凍結乾燥前のナノ粒子懸濁液中に添加する薬物量の調整により変更可能である。貧溶媒中またはナノ粒子懸濁液中に添加する薬物量としては、生体適合性高分子に対する重量比を0.001以上1.0以下とすることが好ましい。生体適合性高分子に対する重量比が0.001未満の場合、薬物の濃度が低すぎてナノ粒子表面への担持率が低くなり、1.0を超えると、静電気的に担持可能な量を大幅に超えてしまい、ナノ粒子表面へ担持されない余剰の薬物が多くなる。
【0083】
なお、ここでは薬物が内包されたナノ粒子の表面にさらに薬物を担持させる場合について説明したが、ナノ粒子形成工程において薬物を良溶媒へ添加せず、薬物結合生体適合性高分子のみを凝集させて形成したナノ粒子の表面に上記方法を用いて薬物を担持させても良い。
【0084】
このようにして製造された本発明の薬物含有ナノ粒子では、薬物が生体適合性高分子にアミド結合されているため、薬物の油水バランスに係わらず薬物含有量を高めることができる。本発明では薬物と生体適合性高分子とがモル比1:1で結合しているため、薬物分子量をMwd、生体適合性高分子の分子量をMwpとすると、ナノ粒子の基材となる薬物結合生体適合性高分子中の薬物含有率(重量%)は理論値計算でMwd/(Mwp+Mwd)となる。
【0085】
つまり、生体適合性高分子の分子量に対する薬物の分子量の割合が大きくなるにつれて薬物結合生体適合性高分子の薬物結合率を増大できる利点がある。薬物の分子量に対する生体適合性高分子の分子量の割合を大きくすれば、ナノ粒子に薬物を内包しやすくなる。従って、薬物結合生体適合性高分子の薬物結合率とナノ粒子の薬物内包率を考慮して生体適合性高分子の分子量を決定することが好ましい。
【0086】
また、従来の球形晶析法ではナノ粒子への内包が極めて困難であった水溶性薬物のトータルでの含有率を高めることができ、多種多様な薬物を含有したナノ粒子を簡便且つ低コストで製造することができる。
【0087】
さらに、ナノ粒子内部または表面からの薬物放出が物理的な拡散による放出であるのに対し、薬物結合生体適合性高分子からの薬物放出には加水分解酵素等による化学反応が必要となる。アミド結合はエーテル結合等の他の化学結合に比べて切断され易いため、生体適合性高分子に結合した薬物が適度な速度で長期間持続して放出される。即ち、薬物の放出は、ナノ粒子表面に担持された薬物、ナノ粒子に内包された薬物、生体適合性高分子と結合した薬物の順となるため、生体適合性高分子への薬物の結合とナノ粒子内部または表面への薬物の担持とを組み合わせることで、ナノ粒子からの薬物の放出速度を任意に制御することができる。
【0088】
次に、薬物含有ナノ粒子を結合剤によって複合化させた薬物含有複合粒子について説明する。ナノ粒子を結合剤と共に再分散可能な複合粒子(ナノコンポジット粒子)に複合化し、結合剤に薬物を封入することにより、ナノ粒子を含む複合粒子にさらに薬物を封入させる方法を用いることもできる。図5は、薬物が結合剤に封入された薬物含有複合粒子の構造を示す模式図である。複合粒子7は、ナノ粒子1を結合剤8により複合化したものであり、薬物3は、ナノ粒子1の内部のみでなく結合剤8にも封入されている(薬物3d)。結合剤を用いた封入法では、アニオン性薬物以外の種々の薬物3dをナノ粒子1を含む複合粒子7に封入することができる。
【0089】
結合剤は、複合化の際にナノ粒子どうしを隔てる層を形成して複合粒子の分散性、耐熱性を向上させる。このような結合剤としては、例えばマンニトール、トレハロース、ソルビトール、エリスリトール、マルトース、キシリトール等の糖アルコールやショ糖、アクリル系ポリマーやエチルセルロース等の高分子化合物粉末等が挙げられる。なお、噴霧乾燥式流動層造粒法においては、結合剤として結晶性の弱い糖アルコールを用いると、複合化の際にアモルファス化してしまい良好に粒子化できなくなる。そのため、結晶性の強いマンニトールを用いることが好ましい。
【0090】
さらに、静電気的担持法と結合剤を用いた封入法とを組み合わせることにより、ナノ粒子を含む薬物含有複合粒子は、結合剤に封入された薬物、ナノ粒子表面に担持された薬物の順に2段階で放出される。従って、ナノ粒子に内包された薬物の放出及び薬物結合生体適合性高分子の加水分解による薬物の放出と併せて薬物の放出速度を最大4段階に制御可能となる。
【0091】
本発明の薬物含有ナノ粒子或いは薬物含有複合粒子を医薬製剤の原料として用いた場合、高濃度の薬物を含有するため剤形の小型化が可能となり、皮下及び静脈注射用、経肺投与用、或いは経皮、経口投与用等の種々の用途に使用することができる。また、複合粒子の結合剤に封入された薬物、ナノ粒子表面に担持された薬物の物理的拡散による即効性と、ナノ粒子に内包された薬物の物理的拡散による徐放性と、アミド結合の加水分解に伴う薬物の化学的放出による長期徐放性とを兼備した医薬製剤を提供できるため、患者の服用回数の減少、コンプライアンスの改善等を図ることができ、治療効果の向上や副作用の軽減も期待できる。
【0092】
生体適合性高分子へ結合される薬物、ナノ粒子に内包される薬物、及びナノ粒子表面に担持される薬物の割合は、医薬製剤に要求される即効性、持続性の程度等により適宜設定することができる。即ち、投与直後より効果の発現が要求される製剤の場合は、ナノ粒子の表面への担持割合を高くすれば良い。一方、投与後長期間に亘る効果の持続性が要求される製剤の場合は、生体適合性高分子への結合割合及びナノ粒子への内包割合を高くすれば良い。
【0093】
ナノ粒子の薬物含有率が高いほど、製剤中に配合するナノ粒子量を少なくできるため好ましいが、薬物をナノ粒子に内包する場合、薬物の特性によってはナノ粒子の粒子径も大きくなってしまうことがある。本発明の薬物含有ナノ粒子では、生体適合性高分子へ結合する薬物によってトータルの薬物含有率を高め、且つナノ粒子の小径化も可能となる。
【0094】
また、生体適合性高分子にアミド結合される薬物、ナノ粒子に内包される薬物、及びナノ粒子表面に担持される薬物の少なくとも一つが異なっていても良い。例えば効能や作用機序の異なる成分を結合、内包、表面担持(外付け)しておけば、各成分の相乗効果により薬効の促進が期待できる。或いは、異なる成分をそれぞれ単独で内包、外付けした複数種のナノ粒子を所定の割合で混合したものを用いて医薬製剤としても良い。
【0095】
皮下または静脈内等への注射用製剤に用いる場合は、ナノ粒子を生体適合性の緩衝液、例えばハンクスの溶液、リンゲル溶液、緩衝化生理食塩水等の水溶液、或いはゴマ油等の脂肪酸、オレイン酸エチルやトリグリセリド等の合成脂肪エステルのような油性溶媒に分散して、水性または油性の注射懸濁液とすることが好ましい。
【0096】
経皮製剤に用いる場合は、ワセリン、ラノリン、パラフィン、ろう、硬膏剤、樹脂、プラスチック、高級アルコール類、グリコール類、グリセリン等の基剤と共に、必要に応じて水や乳化剤、懸濁化剤等を配合して混合し、軟膏、クリーム剤、ローション、或いはゲル剤等とすることが好ましい。また、ナノ粒子の表面にリン脂質(レシチン/フォスファチジルコリン)を複合化させて皮膚親和性を高めてもよい。また、ポリエチレングリコール(PEG)を複合化することで、水に溶けやすくなり、皮膚への浸透性を高められる。さらに、タルクを複合化することで、粒子のすべり性が向上し、肌への使用感を高めることができる。
【0097】
また、経口製剤に用いる場合は、ナノ粒子表面に担持された薬物が消化酵素による分解を受けにくくなるように、キトサンや糖アルコール等の賦形剤を用いて錠剤化するか、カプセル内に充填してカプセル剤とすることが好ましい。
【0098】
なお、上記製剤中に、薬効成分以外の任意の成分、例えば粘性多糖類、リン酸塩、尿素、リン脂質等の浸透促進剤、界面活性剤、pH調整剤、油脂、水溶性高分子、着色料、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等を、本発明の効果を妨げない範囲で配合することができる。
【0099】
その他、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、本発明の薬物含有ナノ粒子について実施例及び比較例により更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0100】
(FITC結合PLGAの合成)
乳酸・グリコール酸共重合体(分子量20,000、重合比75:25、和光純薬工業(株)製PLGA7520)20gを無水ジクロロメタン200mLに溶解した。この溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、関東化学(株)製)602.28mgを無水ジクロロメタン20mLに溶解した溶液を添加し、十分に混和した。これにN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS、関東化学(株)製)335.56mgを無水ジクロロメタン20mLに溶解した溶液を添加し、嫌気条件下45℃で5時間反応させた。フィルター(0.2μm)ろ過により副生成物を除去し、無水エチレンジアミン145.24mgを無水ジクロロメタン20mLに溶解した溶液を加え、さらに嫌気条件下45℃で4時間反応させた。反応後、過剰量の氷冷ジエチルエーテルを加え、析出物を減圧乾燥して末端カルボキシル基が第1級アミンに置換された粉末状のアミノ化PLGAを得た。
【0101】
アミノ化PLGA10g及びフルオレセインイソチオシアネート(FITC)389.38mg(アミノ化PLGAに対し2モル当量)を秤量し、それぞれ嫌気条件下で無水ジメチルスルホキシド及びジメチルスルホキシドに溶解した。なお、各溶液の重量比は1:3となるようにした。アミノ化PLGAの無水ジメチルスルホキシド溶液にFITCのジメチルスルホキシド溶液を攪拌下添加し、嫌気条件下45℃で5時間反応させ、アミノ化PLGAのアミノ基とFITCのカルボキシル基をアミド結合させた。精製プロセスとして超純水による透析(約8時間毎に外側の超純水を交換)を5日間行い、有機溶媒及び遊離FITCを除去した。さらに、遠心分離操作(2,000rpm、−20℃、20分間)を行い、上澄み液中に遊離FITCが検出されなくなるまで精製を繰り返した。凍結乾燥により粉末化してFITC結合PLGA8gを得た。
【0102】
赤外分光光度計(IRPrestige-21型、島津製作所製)を用いてATR(Attenuated Total Reflection)法により近赤外スペクトルを測定したところ、アミド結合由来のピーク(アミノ基:3,500〜3,300cm-1、カルボニル基:1,700cm-1付近、RCO−NHR:1,530〜1,570cm-1)が確認された。また、核磁気共鳴スペクトル測定装置(DPX300型、Bruker社製)を用いて核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、原料であるPLGAのピークとFITC結合PLGAのピークがほぼ同一であり、反応の前後で立体構造が維持されていることが確認された。
【実施例2】
【0103】
(トラネキサム酸結合PLGAの合成)
乳酸・グリコール酸共重合体(和光純薬工業(株)製PLGA7520)20gを無水ジメチルスルホキシド200mLに溶解した。この溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、関東化学(株)製)602.28mgを無水ジメチルスルホキシド20mLに溶解した溶液を添加し、十分に混和した。これにN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS、関東化学(株)製)335.56mgを無水ジメチルスルホキシド20mLに溶解した溶液を添加し、嫌気条件下45℃で5時間反応させた。フィルター(0.2μm)ろ過により副生成物を除去し、PLGA溶液を調製した。
【0104】
トラネキサム酸0.15721g(分子量157.21、和光純薬工業(株)製)をジメチルスルホキシド40mLに溶解した溶液と、先に調製したPLGA溶液とを攪拌下混和し、嫌気条件下45℃で5時間反応させた。精製プロセスとして超純水による透析(約8時間毎に外側の超純水を交換)を5日間行い、有機溶媒及び遊離トラネキサム酸を除去した。さらに、遠心分離操作(2,000rpm、−20℃、20分間)を行い、上澄み液中に遊離トラネキサム酸が検出されなくなるまで精製を繰り返した。凍結乾燥により粉末化してトラネキサム酸結合PLGA8gを得た。
【実施例3】
【0105】
(FITC内包・結合PLGAナノ粒子の調製)
1重量%のポリビニルアルコール(PVA EG05、日本合成化学工業(株)製)水溶液200mL中に2重量%キトサン(日油(株)製)水溶液7gを混合し貧溶媒とした。また、実施例1で合成したFITC結合PLGA1gをアセトン・エタノール混液(混合比2:1)120mLに溶解させ、ここにFITC10mgを精製水10mLに溶解させた溶液を添加し、均一に混合し良溶媒とした。
【0106】
貧溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で良溶媒を滴下した。滴下終了後5分間攪拌したのち、減圧下200rpmで攪拌しながら4時間で有機溶媒を留去した。その後、遠心分離操作によって過剰のポリビニルアルコールを除去し、約1日かけて凍結乾燥を行いFITC結合・内包PLGAナノ粒子の凍結乾燥粉末1.2gを得た。
【実施例4】
【0107】
(FITC外付け・内包・結合PLGAナノ粒子の調製)
1重量%のポリビニルアルコール(PVA EG05、日本合成化学工業(株)製)水溶液200mL中に2重量%キトサン(日油(株)製)水溶液7g、FITC80mgを混合し貧溶媒とした。また、実施例1で合成したFITC結合PLGA1gをアセトン・エタノール混液(混合比2:1)120mLに溶解させ、ここにFITC80mgを精製水10mLに溶解させた溶液を添加し、均一に混合し良溶媒とした。
【0108】
貧溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で良溶媒を滴下した。滴下終了後5分間攪拌したのち、減圧下200rpmで攪拌しながら4時間で有機溶媒を留去した。その後、遠心分離操作によって過剰のポリビニルアルコールを除去し、約1日かけて凍結乾燥を行いFITC外付け・内包・結合PLGAナノ粒子の凍結乾燥粉末1.2gを得た。
【比較例1】
【0109】
(FITC外付けPLGAナノ粒子の調製)
1重量%のポリビニルアルコール(PVA EG05、日本合成化学工業(株)製)水溶液200mL中に2重量%キトサン(日油(株)製)水溶液7g、FITC80mgを混合し貧溶媒とした。また、乳酸・グリコール酸共重合体(和光純薬工業(株)製PLGA7520)1gをアセトン・エタノール混液(混合比2:1)120mLに溶解させて均一に混合し良溶媒とした。
【0110】
貧溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で良溶媒を滴下した。滴下終了後5分間攪拌したのち、減圧下200rpmで攪拌しながら4時間で有機溶媒を留去した。その後、遠心分離操作によって過剰のポリビニルアルコールを除去し、約1日かけて凍結乾燥を行いFITC外付けPLGAナノ粒子の凍結乾燥粉末1.3gを得た。
【比較例2】
【0111】
(FITC内包PLGAナノ粒子の調製)
1重量%のポリビニルアルコール(PVA EG05、日本合成化学工業(株)製)水溶液200mLを貧溶媒とした。また、乳酸・グリコール酸共重合体(和光純薬工業(株)製PLGA7520)1gをアセトン・エタノール混液(混合比2:1)120mLに溶解させ、ここにFITC40mgを精製水10mLに溶解させた溶液を添加し、均一に混合し良溶媒とした。
【0112】
貧溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で良溶媒を滴下した。滴下終了後5分間攪拌したのち、減圧下200rpmで攪拌しながら4時間で有機溶媒を留去した。その後、遠心分離操作によって過剰のポリビニルアルコールを除去し、約1日かけて凍結乾燥を行いFITC内包PLGAナノ粒子の凍結乾燥粉末1.2gを得た。
【比較例3】
【0113】
(FITC結合PLGAナノ粒子の調製)
1重量%のポリビニルアルコール(PVA EG05、日本合成化学工業(株)製)水溶液200mLを貧溶媒とした。また、実施例1で合成したFITC結合PLGA1gをアセトン・エタノール混液(混合比2:1)120mLに溶解させ均一に混合し良溶媒とした。
【0114】
貧溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で良溶媒を滴下した。滴下終了後5分間攪拌したのち、減圧下200rpmで攪拌しながら4時間で有機溶媒を留去した。その後、遠心分離操作によって過剰のポリビニルアルコールを除去し、約1日かけて凍結乾燥を行いFITC結合PLGAナノ粒子の凍結乾燥粉末1.2gを得た。
【比較例4】
【0115】
(FITC外付け・内包PLGAナノ粒子の調製)
1重量%のポリビニルアルコール(PVA EG05、日本合成化学工業(株)製)水溶液200mL中に2重量%キトサン(日油(株)製)水溶液7g、FITC80mgを混合し貧溶媒とした。また、乳酸・グリコール酸共重合体(和光純薬工業(株)製PLGA7520)1gをアセトン・エタノール混液(混合比2:1)120mLに溶解させ、ここにFITC40mgを精製水10mLに溶解させた溶液を添加し、均一に混合し良溶媒とした。
【0116】
貧溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で良溶媒を滴下した。滴下終了後5分間攪拌したのち、減圧下200rpmで攪拌しながら4時間で有機溶媒を留去した。その後、遠心分離操作によって過剰のポリビニルアルコールを除去し、約1日かけて凍結乾燥を行いFITC外付け・内包PLGAナノ粒子の凍結乾燥粉末1.2gを得た。
【0117】
実施例4及び比較例1〜4で得られたPLGAナノ粒子を水中へ再分散させた際の平均粒子径を動的光散乱法(測定装置:MICROTRAC UPA、HONEYWELL社製)により測定した。また、凍結乾燥後の粒子表面のゼータ電位をゼータ電位計(ZETASIZER Nano-z、Malvern Instruments社製)を用いて測定した。さらに、蛍光光度計(V−530、日本分光(株)製)を用いて粒子中のFITC含有率(PLGAに対するFITCの重量%)を定量した。測定結果を表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
表1に示すように、FITC結合PLGAを用いて形成したナノ粒子にFITCを外付け及び内包した実施例4のPLGAナノ粒子のFITC含有率は13.2重量%であり、FITCを別個に外付け、内包、或いは結合した比較例1〜3のFITC含有率の和(10重量%)よりも約3%高くなった。また、FITCの結合していないPLGAを用いて形成したナノ粒子にFITCを外付け及び内包した比較例4との比較では約5%高くなった。
【0120】
ここで、PLGAに結合したFITCは溶出が起こりにくく、FITC結合PLGAの仕込み量がそのまま含有率に反映されるため、実施例4のFITC含有率(13.2重量%)におけるPLGAへの結合分の割合は比較例3のFITC含有率(0.6重量%)とほぼ同等であると考えられる。また、ナノ粒子表面に外付け可能なFITC量はナノ粒子表面の正電荷量及びFITCの添加量によって決まるため、実施例4のFITC含有率(13.2重量%)及び比較例4のFITC含有率(8.4重量%)における外付け分の割合は、貧溶媒中へのキトサン及びFITCの添加量が等しい比較例1のFITC含有率(6.3重量%)とほぼ同等であると考えられる。
【0121】
以上のことから、実施例4では比較例4に比べて内包されるFITCの割合が増加していることがわかる。この理由としては、実施例4のPLGAナノ粒子ではFITCがPLGA末端に結合することでPLGAの親水性が増大し、水分子を引き付けて水和層を形成するため、良溶媒中のFITC分子がナノ粒子中に内包され易くなるものと推認される。
【0122】
また、FITC結合PLGAを用いてナノ粒子を形成した実施例4及び比較例3では、比較例1、2及び4に比べて平均粒子径が小さくなった。この理由としては、水中エマルション溶媒拡散法により粒子を調製する際、PLGA末端に結合したFITCがエマルション液径を小さくするために粒子径が微細化するためであると考えられる。
【実施例5】
【0123】
(PLGAナノ粒子からのFITC溶出試験)
実施例4及び比較例1〜4で調製したFITC含有ナノ粒子を用いてFITCの放出パターンを調査した。試験方法は、容量5mLの半透膜(分子量14,000以下の分子のみ透過)製の透析チューブ(内相)内に100mgのナノ粒子を入れて精製水100mLを入れたビーカ(外相)に浸漬した。所定時間毎にビーカ内の精製水を1mLずつサンプリングし、蛍光光度計(V−530、日本分光(株)製)を用いて所定時間経過後のFITC溶出量(%)を測定した。溶出開始から24時間後までの累積溶出率を図6に、21日後までの累積溶出率を図7に示す。
【0124】
図6及び図7から明らかなように、FITCを外付けした比較例1(図中、□のデータ系列で表示)では、ナノ粒子に外付けされたFITCが試験開始直後から溶出し始めるため、4時間後にはFITCがほぼ100%溶出した。また、FITCをナノ粒子に内包した比較例2(図中、◇のデータ系列で表示)では、ナノ粒子を形成するPLGAの解離により内包されたFITCが溶出するため、初期段階における溶出速度は比較例1に比べてやや遅く、8時間後で累積溶出率は約50%であった。その後は溶出速度が徐々に遅くなり7日後には累積溶出率が約90%に達した。
【0125】
また、FITCをPLGA末端に結合した比較例3(図中、△のデータ系列で表示)では、PLGA末端の加水分解により結合されたFITCが溶出するため、初期段階における溶出速度は極めて遅く、溶出開始24時間後においても累積溶出率は10%以下であった。その後、PLGA末端の加水分解の進行に伴いFITCが徐々に溶出し、21日後に累積溶出率が約80%に達した。さらに、FITCをナノ粒子に外付け及び内包した比較例4(図中、□のデータ系列で表示)では、外付けされたFITCの溶出により4時間後には累積溶出率が約70%となったが、それ以降は溶出速度がやや緩やかになり、比較例2と同様に7日後において累積溶出率が約90%に達した。
【0126】
一方、FITCを外付け、内包及び結合した実施例4(図中、●のデータ系列で表示)では、6時間後にはFITCが約50%溶出し、その後の累積溶出率は24時間後で約60%、7日後で約80%、21日後で約95%であった。この結果より、実施例4のPLGAナノ粒子では、初期段階においてはナノ粒子に外付けされたFITCが急速に溶出し、その後、PLGAが徐々に解離してナノ粒子に内包されたFITCが溶出し、最後にPLGA骨格の加水分解によりFITC末端にアミド結合したFITCが溶出するという3段階の溶出挙動を示すことにより、溶出開始6時間後までに約50%のFITCが溶出する即効性と、溶出開始21日後までFITCの溶出が持続する長期徐放性とを兼ね備えることが確認された。
【0127】
なお、ここでは示さないが、FITCを内包及び結合した実施例3のPLGAナノ粒子を用いた場合も、FITCが外付けされている実施例4に比べて初期段階の放出速度はやや低下するものの、実施例4と同様に長期間に亘ってFITCを継続して溶出できることが確認されている。また、結合剤を用いて実施例3のFITC内包・結合PLGAナノ粒子を複合化する際、さらにFITCを結合剤に封入したFITC外付け・内包・結合PLGAナノコンポジット(図5参照)を用いても実施例4と同様の溶出挙動が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の薬物含有ナノ粒子は、薬物が生体適合性高分子にアミド結合された薬物結合生体適合性高分子で形成され、さらに薬物がナノ粒子内部または表面の少なくとも一方に担持されているため、粒子径が小さく、且つ薬物の油水バランスに係わらず薬物含有量を高めた、DDSに好適に利用可能な薬物含有ナノ粒子が提供される。特に、従来の球形晶析法ではナノ粒子への内包が極めて困難であった水溶性薬物のトータルでの含有率を高めることができる。また、良溶媒中の水溶性薬物と、薬物結合生体適合性高分子中のアミド結合した薬物とが相互作用することにより、水溶性薬物の貧溶媒中への漏出が抑制され、ナノ粒子への内包率が高くなる。
【0129】
また、ナノ粒子内部または表面からの薬物の物理的な拡散と、アミド結合の加水分解に伴う薬物の化学的な放出により、薬物を投与直後から長期間に亘って放出可能となるため、患者の服用回数の減少、コンプライアンスの改善、治療効果の向上や副作用の軽減も期待できる。薬物結合生体適合性高分子は、生体適合性高分子のアミノ基と薬物分子のカルボキシル基とをアミド結合させるか、或いは生体適合性高分子のカルボキシル基と薬物分子のアミノ基とをアミド結合させることで合成できる。
【0130】
また、生体適合性高分子としてポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGA、若しくはPALのいずれかを用いることで、一層安全性が高く、安定性、徐放性にも優れた薬物含有ナノ粒子となる。カルボキシル基を有する薬物分子の場合は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかの末端カルボキシル基をアミノ基に置換したものを用いれば良い。
【0131】
薬物がアニオン性である場合、ナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することで貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出を抑制してナノ粒子への内包率を高めることができる。また、カチオン性高分子によりナノ粒子表面のゼータ電位が正となるため、ナノ粒子表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させることができる。さらに、負帯電の細胞壁に対するナノ粒子の接着性を増大させることができる。
【0132】
また、球形晶析法を用いてナノ粒子を形成する本発明の薬物含有ナノ粒子の製造方法は、薬物含有率が高く、且つ含有率や平均粒子径のばらつきの少ない薬物含有ナノ粒子を簡便且つ低コストで製造することができる。また、カチオン性高分子で被覆されたナノ粒子の場合、貧溶媒中にアニオン性薬物を添加するか、或いは凍結乾燥による複合化の際にアニオン性薬物を添加することで、ナノ粒子表面にアニオン性薬物を容易に担持可能となる。さらに、薬物含有ナノ粒子を結合剤と共に複合化する場合、複合粒子の分散性、耐熱性が一層向上するとともに結合剤に薬物を封入可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】は、本発明の薬物含有ナノ粒子に用いられる薬物結合生体適合性高分子の構造を示す模式図である。
【図2】は、薬物結合生体適合性高分子の他の構造を示す模式図である。
【図3】は、本発明の第1実施形態に係る薬物含有ナノ粒子を示す模式図である。
【図4】は、アニオン性薬物が粒子表面に静電気的に担持された本発明の第2実施形態に係る薬物含有ナノ粒子を示す模式図である。
【図5】は、薬物が結合剤に封入された本発明の薬物含有複合粒子を示す模式図である。
【図6】は、実施例5における溶出開始から24時間後までのFITCの累積溶出率を示すグラフである。
【図7】は、実施例5における溶出開始から21日後までのFITCの累積溶出率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0134】
1 薬物含有ナノ粒子
2 生体適合性高分子
3 薬物
3a 薬物(結合)
3b 薬物(内包)
3c 薬物(外付け)
3d 薬物(封入)
4 薬物結合生体適合性高分子
5 ポリビニルアルコール
6 カチオン性高分子
7 複合粒子
8 結合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性高分子と薬物分子とをアミド結合させた薬物結合生体適合性高分子により形成されるナノ粒子の内部または表面の少なくとも一方に、前記薬物をさらに担持した薬物含有ナノ粒子。
【請求項2】
前記薬物結合生体適合性高分子は、生体適合性高分子のカルボキシル基と前記薬物分子のアミノ基とをアミド結合させて成ることを特徴とする請求項1に記載の薬物含有ナノ粒子。
【請求項3】
前記生体適合性高分子がポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の薬物含有ナノ粒子。
【請求項4】
前記薬物結合生体適合性高分子は、生体適合性高分子のアミノ基と前記薬物分子のカルボキシル基とをアミド結合させて成ることを特徴とする請求項1に記載の薬物含有ナノ粒子。
【請求項5】
前記生体適合性高分子がポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかの末端カルボキシル基をアミノ基に置換したものであることを特徴とする請求項4に記載の薬物含有ナノ粒子。
【請求項6】
前記薬物が水溶性薬物であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の薬物含有ナノ粒子。
【請求項7】
前記水溶性薬物がアニオン性薬物であり、カチオン性高分子で被覆された前記ナノ粒子の表面に担持されることを特徴とする請求項6に記載の薬物含有ナノ粒子。
【請求項8】
前記カチオン性高分子がキトサンであることを特徴とする請求項7に記載の薬物含有ナノ粒子。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の薬物含有ナノ粒子を結合剤によって複合化して成る薬物含有複合粒子
【請求項10】
前記結合剤にさらに薬物を封入したことを特徴とする請求項9に記載の薬物含有複合粒子。
【請求項11】
生体適合性高分子と薬物分子とをアミド結合させて薬物結合生体適合性高分子とする薬物結合工程と、
ポリビニルアルコール水溶液に、前記薬物結合生体適合性高分子と前記薬物とを含む有機溶媒を加えて前記薬物が内包された薬物含有ナノ粒子を形成してナノ粒子含有溶液とするナノ粒子形成工程と、
前記ナノ粒子含有溶液から前記有機溶媒を留去する溶媒留去工程と、
を有する薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記薬物結合工程の前に、前記生体適合性高分子の官能基を置換する官能基置換工程を有することを特徴とする請求項11に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒留去工程の後に、前記ナノ粒子含有溶液からポリビニルアルコールを除去する除去工程を有することを特徴とする請求項11または請求項12に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
前記ナノ粒子形成工程において、ポリビニルアルコール水溶液にカチオン性高分子を溶解させて前記ナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれか1項に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子形成工程において、ポリビニルアルコール水溶液にさらにアニオン性薬物を添加することにより、前記カチオン性高分子で被覆された前記ナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させることを特徴とする請求項14に記載の薬物含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法により製造された薬物含有ナノ粒子を凍結乾燥により複合化するとともに、凍結乾燥前のナノ粒子懸濁液にアニオン性薬物を添加して前記カチオン性高分子で被覆された前記ナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させることを特徴とする薬物含有複合粒子の製造方法。
【請求項17】
請求項11乃至請求項15のいずれか1項に記載の方法により製造された薬物含有ナノ粒子を結合剤と共に複合化するとともに、前記結合剤に薬物を封入することを特徴とする薬物含有複合粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−30923(P2010−30923A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193046(P2008−193046)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】