説明

薬物含有ナノ粒子

本発明は、ピオグリタゾンまたはその塩および生体適合性高分子を含有するナノ粒子、該ナノ粒子を含む動脈硬化性疾患の予防または治療のための医薬製剤、ならびに該ナノ粒子を担持したステントに関する。本発明のナノ粒子を用いることにより、動脈硬化性プラークの破綻を抑制することができ、動脈硬化性疾患の予防または治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピオグリタゾンまたはその塩を含有するナノ粒子、それを含有する医薬製剤およびステントに関する。
【0002】
[発明の背景]
薬剤溶出ステント(Drug eluting stent; DES)を含めた冠動脈に対するインターベンション(Percutaneous coronary intervention; PCI)技術の発達に伴い、従来問題となっていたPCI後再狭窄は減少した。しかし、現在世界で用いられているDESは免疫抑制剤(例えばシロリムス(sirolimus))および抗がん剤(例えばパクリタキセル(paclitaxel))を用いたものであり、従来のベアメタルステント(BMS)と比べてDESは再狭窄を抑制できても致死的な病態である急性冠症候群(Acute coronary syndrome; ACS)の長期予後における頻度はBMSより高いと報告されており、生命予後も改善しないことが明らかになっている。
【0003】
その理由として、急性冠症候群は従来、PCIの対象とされてきた高度狭窄病変ではなく、比較的軽度から中等度の病変の動脈硬化性プラークの破綻(plaque rupture)により生じることが多いためと考えられるが、免疫抑制剤や抗がん剤を用いたDESでは平滑筋細胞の増殖を抑制して新生内膜肥厚を抑制することにより再狭窄は抑制されるものの非特異的な細胞増殖抑制作用により血管内皮再生が妨げられ、不安定化プラークが形成されて血栓となるため、ACSの頻度が高まったものと考えられる。
【0004】
従って、生命予後改善のためには急性冠症候群の原因であるプラークの破綻を予防することが重要であり、新生内膜肥厚の抑制作用と共に血管内皮再生を妨げないことなどによりプラーク安定化作用を持つステントの開発が効果的な治療戦略と考えられる。
【0005】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome proliferator-activated receptor; PPAR)はリガンドにより活性化され転写因子としてはたらく核内受容体である。PPARにはα、γ、β/δのサブタイプがあり、炭水化物、脂質等の代謝と細胞の分化に密接に関与している。PPARγは動脈硬化病変においては血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、マクロファージ、Tリンパ球に発現していることが知られている。
【0006】
動脈硬化においてPPARγアゴニストは、
・内皮細胞におけるICAM-1、VCAM-1などの接着因子の発現抑制など内皮機能の保護改善
・平滑筋細胞における遊走、増殖、MMP(matrix metalloproteinase)産生抑制
・単球の分化、炎症性サイトカイン産生抑制
・マクロファージにおけるABCA1を介したコレステロール逆輸送の促進などの直接作用により抗動脈硬化作用を発揮すると考えられている。
【0007】
インスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾンは、PPARγアゴニスト作用およびアポトーシス抑制作用を有し、アテローム性動脈硬化性疾患の治療、バイパス手術後の血管再閉塞・再狭窄の予防・治療およびインターベンション(経皮的冠動脈形成術、経皮的冠動脈血行再開術、ステント留置、冠動脈内視鏡、血管内超音波、冠注血栓溶解療法など)後の血管肥厚の予防・治療に有用であることが知られている(WO99/25346、WO02/087580等)。
【0008】
また、ドラッグデリバリーシステムとして、核酸化合物を封入してなるナノ粒子(特開2007−119396号公報)や生理活性物質が封入されたナノ粒子をコーティングした薬剤溶出型ステント(特開2007−215620号公報)が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[発明の開示]
PPARγアゴニストを不安定プラークに選択的に送達することができれば、プラークの破綻とそれに引き続く急性冠症候群を予防し生命予後を改善することが期待される。
【0010】
しかし、PPARγアゴニスト作用を有するグリタゾン系の薬剤は全身投与(内服)時の副作用として浮腫を来たすことがあることが知られている。
【0011】
従って、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を用い、少量の薬物を標的臓器(血管)に効率よく送達することにより、全身性の副作用を最小限にし、これまでグリタゾン系薬剤が使用できなかった患者においても有望な治療となる可能性がある。
【0012】
本発明は、動脈硬化性疾患の予防または治療に有用な新規医薬製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ピオグリタゾンまたはその塩を含有するナノ粒子を用いることによって、PPARγアゴニストであるピオグリタゾンまたはその塩を不安定プラークに効率的に送達して、プラーク破綻の発生を抑制することができ、動脈硬化性疾患の予防または治療に有用な医薬製剤となり得ることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)ピオグリタゾンまたはその塩および生体適合性高分子を含有するナノ粒子;
(2)生体適合性高分子が乳酸・グリコール酸共重合体である前記(1)記載のナノ粒子;
(3)ピオグリタゾンまたはその塩の含有量がピオグリタゾンとして0.1〜10重量%である前記(1)記載のナノ粒子;
(4)動脈硬化性疾患の予防または治療のための前記(1)記載のナノ粒子;
(5)非経口投与用である前記(4)記載のナノ粒子;
(6)前記(1)記載のナノ粒子を含む動脈硬化性疾患の予防または治療のための医薬製剤;
(7)前記(1)記載のナノ粒子を含む動脈硬化性疾患の予防または治療のための非経口投与用医薬製剤;
(8)前記(1)記載のナノ粒子を担持したステント;
(9)前記(1)記載のナノ粒子を担持した動脈硬化性疾患の予防または治療のためのステント;
(10)哺乳動物に、前記(1)記載のナノ粒子の有効量を投与することを特徴とする当該哺乳動物における動脈硬化性疾患の予防または治療方法;
(11)動脈硬化性疾患の予防または治療用医薬を製造するための、前記(1)記載のナノ粒子の使用;
(12)哺乳動物の血管内に、前記(8)記載のステントを留置することを特徴とする当該哺乳動物における動脈硬化性疾患の予防または治療方法;
(13)動脈硬化性疾患の予防または治療用のステントを製造するための、前記(1)記載のナノ粒子の使用等に関する。
【0015】
また、本発明は、
(14)カチオン性高分子をさらに含有する前記(1)記載のナノ粒子;
(15)カチオン性高分子がキトサンである前記(14)記載のナノ粒子;
(16)前記(14)記載のナノ粒子を担持したステント;
(17)前記(14)記載のナノ粒子を担持した動脈硬化性疾患の予防または治療のためのステント等に関する。
【0016】
本発明のナノ粒子は、ピオグリタゾンまたはその塩を不安定プラークに効率的に送達してプラーク破綻の発生を抑制する作用を有し、血管障害部位に長期にわたり安定して停留する特性、血管障害後の新生内膜形成抑制作用も有する。よって、本発明のナノ粒子は、動脈硬化性疾患、ステント内再狭窄等の予防または治療に用いることができる。本発明のナノ粒子を用いることによって、少量の薬物を標的臓器(血管)に効率よく送達することができるため、全身性の副作用を軽減することが可能となる。また、ナノ粒子から徐々に薬物を放出させることができるので、持続性に優れた医薬製剤の提供が可能となる。
【0017】
下肢虚血においてPPARγアゴニストは、内皮細胞におけるeNOSの発現亢進による内皮機能の保護改善作用などの直接作用により虚血組織における血管新生作用を発揮すると考えられている。
【0018】
本発明のナノ粒子は、ピオグリタゾンまたはその塩を虚血部位の血管内皮細胞に特異的・効率的に送達して内皮機能を保護改善する作用を有する。その作用機序はeNOSの発現亢進によると考えられている。よって、本発明のナノ粒子は虚血性疾患の治療に用いることができる。本発明のナノ粒子を用いることによって、少量の薬物を虚血臓器(血管内皮細胞)に効率よく送達することができるため、全身性の副作用を軽減することが可能となる。また、ナノ粒子から徐々に薬物を放出させることができるので、持続性に優れた医薬製剤の提供が可能となる。
【0019】
さらに、本発明の医薬製剤およびステントもプラーク破綻の発生を抑制する作用を有する。よって、動脈硬化性疾患、ステント内再狭窄等の予防または治療に用いることができる。
【0020】
特に、本発明のナノ粒子を担持したステントは、ステント留置後の新生内膜形成を抑制する作用を有し、動脈硬化性疾患、ステント内再狭窄等の予防または治療に有用である。
【0021】
さらに、本発明のナノ粒子、医薬製剤およびステントは、単球走化因子(MCP−1)の産生を抑制する作用も有する。よって、MCP−1が関与する疾患の予防または治療、例えば、炎症性疾患の予防または治療に用いることができる。
【0022】
[発明の詳細な説明]
本発明のナノ粒子は、ピオグリタゾンまたはその塩と生体適合性高分子を含有し、ナノ単位の大きさの粒子(ナノスフェア)としたものである。
【0023】
本発明のナノ粒子の製造方法としては、ピオグリタゾンまたはその塩および生体適合性高分子を1,000nm未満の平均粒子径を有する粒子に加工することができる方法であれば特に限定されるものではないが、非高剪断力粒子調製法である球形晶析法を好適に用いることができる。
【0024】
球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0025】
ESD法は、次に示すような原理によって、ナノスフェアを製造する技術である。本法には、薬物を含有する基剤ポリマーとなる乳酸・グリコール酸共重合体(以下、PLGAという)等を溶解できる良溶媒と、これとは逆にPLGAを溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒が用いられる。この良溶媒には、PLGAを溶解し、且つ貧溶媒へ混和するアセトン等の有機溶媒を用いる。そして、貧溶媒には、通常、ポリビニルアルコール水溶液等を用いる。
【0026】
操作手順としては、まず、良溶媒中にPLGAを溶解後、このPLGAが析出しないように、薬物溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このPLGAと薬物を含む混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内のPLGA並びに薬物の溶解度が低下し、最終的に、薬物を包含した球形結晶粒子のPLGAナノスフェアが生成する。
【0027】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要がなく、容易に形成することができる。その後、良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、薬物含有ナノ粒子粉末を得る。そして、得られた粉末をそのまま、或いは必要に応じて凍結乾燥等により再分散可能な凝集粒子に複合化し(複合化工程)、複合粒子とした後、容器内に充填する。
【0028】
良溶媒および貧溶媒の種類は、ナノ粒子が含有する薬物、生体適合性高分子の種類等に応じて決定されるものであり特に限定されるものではないが、生体適合性ナノ粒子は、人体へ作用させる医薬製剤の原料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いる必要がある。
【0029】
このような貧溶媒としては、水、或いは界面活性剤を添加した水が挙げられるが、例えば界面活性剤としてポリビニルアルコールを添加したポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられる。ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。なお、余剰のポリビニルアルコールが残存している場合は、溶媒留去工程の後に、遠心分離等によりポリビニルアルコールを除去する工程(除去工程)を設けても良い。
【0030】
良溶媒としては、低沸点且つ難水溶性の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトン、若しくはアセトンとメタノールの混合液が好適に用いられる。
【0031】
ポリビニルアルコール水溶液の濃度、或いはアセトンとメタノールの混合比や、結晶析出時の条件も特に限定されるものではなく、ナノ粒子が含有する薬物の種類、球形造粒結晶の粒径(本発明の場合ナノオーダー)等に応じて適宜決定すればよいが、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が高いほどナノ粒子表面へのポリビニルアルコールの付着が良好となり、乾燥後の水への再分散性が向上する反面、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が所定以上になると、貧溶媒の粘度が上昇して良溶媒の拡散性に悪影響を与える。
【0032】
そのため、ポリビニルアルコールの重合度やけん化度によっても異なるが、ナノ粒子形成後に有機溶媒を留去し、さらに凍結乾燥等により一旦粉末化する場合は、ポリビニルアルコール水溶液の濃度として0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、2重量%程度がより好ましい。なお、ナノ粒子形成後の懸濁液から有機溶媒を留去し、そのままナノ粒子をステントに担持させる工程に用いる場合は、ポリビニルアルコール水溶液の濃度を0.5重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%程度が特に好ましい。
【0033】
また、後述する電気泳動法や噴霧法によってステントにナノ粒子を担持させる場合、ナノ粒子表面を正に帯電させるために、貧溶媒にカチオン性高分子を添加することが好ましい。
【0034】
カチオン性高分子としては、キトサンおよびキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0035】
キトサンは、エビやカニ、昆虫の外殻に含まれる、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合した天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いナノ粒子を製造することができる。
【0036】
なお、元来カチオン性であるキトサンの一部を第四級化することで、さらにカチオン性を高めた塩化N−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]キトサン等のキトサン誘導体(カチオニックキトサン)を用いることにより、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性も高くなるため好ましい。
【0037】
また、良溶媒中での薬物の親和性および分散安定性を向上させるため、良溶媒中にDOTAP等のカチオン性脂質を添加し、薬物と複合体を形成させても良い。但し、細胞内において放出されたカチオン性脂質により細胞障害性を示すおそれがあるため、添加量には注意が必要である。
【0038】
以上のようにして得られたナノ粒子は、凍結乾燥等により粉末化させる際に再分散可能な凝集粒子(ナノコンポジット)に複合化できる。このとき、有機または無機の物質を再分散可能に複合化させ、ナノ粒子と共に乾燥させることが好ましい。例えば、糖アルコールやショ糖を適用することにより、糖アルコールやショ糖が賦形剤となりナノ粒子の取り扱い性を高めることができる。糖アルコールとしては、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、エリスリトール、マルチトース、キシリトースなどが挙げられ、この中でも特にトレハロースが好ましい。
【0039】
この複合化により、使用前まではナノ粒子が集まった、取り扱いやすい凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることでナノ粒子に戻って高反応性等の特性を復元する複合粒子となる。なお、凍結乾燥法に代えて、流動層乾燥造粒法(例えば、ホソカワミクロン(株)製アグロマスタAGMを使用)により複合化して、再度分散可能な状態で一体化することもできる。
【0040】
本発明に用いられる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包する薬剤を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材としては、特にPLGAを好適に用いることができる。
【0041】
PLGAの分子量(重量平均分子量)は、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、15,000〜25,000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、乳酸1に対しグリコール酸0.333であることが好ましい。また、乳酸およびグリコール酸の含有量が25重量%〜65重量%の範囲内であるPLGAは、非晶質であり、かつアセトン等の有機溶媒に可溶であるから、好適に使用される。
【0042】
生体内分解性の生体適合性高分子としては、ほかに、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアスパラギン酸等が挙げられる。また、これらのコポリマーであるアスパラギン酸・乳酸共重合体(PAL)やアスパラギン酸・乳酸・グリコール酸共重合体(PALG)を用いても良く、アミノ酸のような荷電基あるいは官能基化し得る基を有していてもよい。
【0043】
上記以外の生体適合性高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルおよびポリビニルエステルのようなポリビニル化合物、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマー、セルロースおよび他の多糖類、ならびにペプチドまたはタンパク質、あるいはそれらのコポリマーまたは混合物が挙げられる。
【0044】
その後、得られたナノ粒子の懸濁液をそのまま、或いは必要に応じて良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、さらに必要に応じて凍結乾燥等によりナノ粒子を一旦粉末化させた後、再度水に分散させて次のナノ粒子付着工程に用いる。ナノ粒子を懸濁液のまま次工程に用いる場合は、凍結乾燥等を行う必要がなくなり、製造工程が簡略化できるとともに、貧溶媒中へのポリビニルアルコールの添加量も低減できるため好ましい。
【0045】
なお、ナノ粒子を一旦粉末化する場合、結合剤(例えばトレハロース等)と共に再分散可能な凝集粒子に複合化して複合粒子としておけば、使用前まではナノ粒子が集まった、取り扱いやすい凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることで結合剤が溶解して再分散可能なナノ粒子に復元できるため好ましい。
【0046】
後述する電気泳動法や噴霧法によってステントにナノ粒子を担持させる場合、得られたナノ粒子をカチオン性高分子の溶液と混合することによって、ナノ粒子表面を正に帯電させることが好ましい。カチオン性高分子としては、前記と同様のものが挙げられる。特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。カチオン性高分子の溶液に用いられる溶媒としては、前記で「貧溶媒」として例示したものが挙げられる。特にカチオン性高分子の水溶液が好適に用いられる。溶液中のカチオン性高分子の濃度は、0.01重量%以上1.0重量%以下が好ましい。
【0047】
本発明に用いられる薬物含有ナノ粒子は、1,000nm未満の平均粒子径を有するものであれば特に制限はないが、患部への到達効率を高めるためには平均粒子径を600nm以下とすることが好ましく、500nm以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは100nm〜400nm等である。
【0048】
本発明において、ナノ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した平均粒子径を意味する。
【0049】
ピオグリタゾンの塩としては、医薬上許容される塩であれば特に制限されず、無機酸との塩(例、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩);有機酸との塩(例、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との塩)等が挙げられる。好ましくは、塩酸塩である。
【0050】
ナノ粒子中のピオグリタゾンまたはその塩の含有量は、ナノ粒子形成時に添加する薬物の量やカチオン性高分子の種類および添加量の調整、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子の種類により調整可能である。ナノ粒子中のピオグリタゾンまたはその塩の含有量は、ピオグリタゾンとして0.1〜10重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
【0051】
本発明のナノ粒子をステントに担持させることによって、薬物(ピオグリタゾンまたはその塩)を標的部位(血管)に安全に且つ効率よく送達可能となるため、動脈硬化性疾患等の有効な予防・治療法となり得る。
【0052】
ナノ粒子をステントに担持させる方法としては、ナノ粒子懸濁液への浸漬やミストコート等によりナノ粒子をステント本体に物理的に付着させる方法を用いることができる。或いは、ナノ粒子にカチオン性高分子化合物を添加して、ナノ粒子表面を正に帯電させ、ナノ粒子を電気的に付着させることによりステント本体に強固且つ均一にコーティングする方法を用いてもよい。このような方法としては、例えば、(1)生体適合性ナノ粒子の懸濁液中でステント本体を負極として通電する電気泳動法、(2)負に帯電させたステント表面に生体適合性ナノ粒子含有液滴を付着させる噴霧法が挙げられる。これらの方法は、特開2007−215620号公報に記載の方法に従って行うことができる。
【0053】
ステント本体の形状としては、繊維材料を用いて編み上げて成形したものの他、レーザ等により金属製のパイプを網目状に切削したものを用いても良く、冠状、筒状等、従来公知の種々の形状を用いることができる。また、ステント本体は、バルーン拡張タイプ、自己拡張タイプのいずれであっても良く、ステント本体の大きさも適用箇所に応じて適宜選択すれば良い。例えば心臓の冠状動脈に用いる場合は、通常、拡張前における外径は1.0〜3.0mm、長さは5.0〜50mm程度が好ましい。
【0054】
また、電気泳動法によりナノ粒子を付着させる場合、ステント本体は金属等の導電性材料を用いる必要がある。ステント本体に用いられる金属としては、ステンレス、マグネシウム、タンタル、チタン、ニッケル−チタン合金、インコネル(登録商標)、金、プラチナ、イリジウム、タングステン、コバルト系合金等が挙げられる。ステントが自己拡張タイプの場合、元の形状への復元性が必要なことからニッケルチタン等の超弾性合金等が好ましい。一方、バルーン拡張タイプの場合、拡張後の形状復帰の起こりにくいステンレス等が好ましく、中でも最も耐腐食性に優れたSUS316Lが好適に用いられる。
【0055】
金属以外の導電性材料としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリエチレンジオキシチオフェン等の導電性ポリマーや、導電性セラミックス等が挙げられる。また、導電性フィラーを添加するか、或いはコーティング等により表面を導電性処理して非導電性樹脂に導電性を付与したものを用いても良い。
【0056】
なお、ステント本体の材料として、ステンレス等の生体内で分解されない材料を用いた場合、長期間のステント留置により血管内壁に炎症が発生して再狭窄の原因となる場合があるため、数ヶ月毎に経皮的冠動脈形成術(PTCA)を行い、再度ステントを留置する必要があり、患者の負担が大きかった。そこで、ステント本体を生分解性の金属であるマグネシウムで形成しておけば、ステント本体は生体内で徐々に分解されて留置後数ヶ月で消失するため、ステント留置による炎症の発生を抑制することができる。
【0057】
特に、マグネシウム製のステント本体に、生体適合性高分子としてPGA、PLA、PLGA、PAL等の生分解性高分子で形成されたナノ粒子を付着することにより、生体内に留置後、所定期間で完全に消失する生体への負荷の少ない薬剤溶出ステント(DES)となる。このとき、ナノ粒子を形成する生分解性高分子は、後述する含浸工程でナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子よりも生体内での分解速度の遅いものを用いることが好ましい。
【0058】
ここで、電気泳動時に正極および負極間に印加される電圧が高いほど、単位時間当たりにステント表面に引き付けられるナノ粒子量も多くなるため、ステント表面へのナノ粒子層の形成を短時間で行うことができる反面、一度に多量のナノ粒子が付着するため、均一なナノ粒子層の形成が困難となる。そのため、電気泳動時に印加する電圧は、要求されるナノ粒子層の均一性やナノ粒子層の形成効率に応じて適宜設定すれば良い。
【0059】
次に、噴霧法について説明する。噴霧法は、通電により負に帯電させたステント本体表面に、正電荷付与された生体適合性ナノ粒子の微小な懸濁液滴を電気的に付着させる方法であり、ナノ粒子懸濁液を超音波によりミスト化する超音波ミスト法、スプレー装置或いはエアーブラシを用いてナノ粒子懸濁液をステント表面に吹き付けるスプレー法、エアーブラシ法等が挙げられる。
【0060】
この噴霧法においてもステント本体に通電して負に帯電させておくため、電気泳動法の場合と同様に、ステント本体を帯電させずに噴霧処理した場合に比べて正電荷修飾されたナノ粒子層が著しく強固に付着し、ステント本体とナノ粒子との密着性が良く耐蝕性にも優れたDESを製造することができる。さらに、液滴中のナノ粒子がステント本体に能動的に付着するため、ミスト化または噴霧された液滴が直接付着し難いステントの側面や裏面へのナノ粒子の付着効率を高めることもできる。なお、噴霧法において使用するステント本体の形状や材質については電気泳動法の場合と同様であるため説明を省略する。
【0061】
また、電気泳動法或いは噴霧法によりステント表面にナノ粒子層を形成する工程に加えて、さらにその上にナノ粒子層を積層する工程(以下、第2付着工程という)を設けることもできる。第2付着工程では、ステント表面に形成された均一なナノ粒子層に沿って新たなナノ粒子層が積層されるため、単位時間当たりのナノ粒子付着量を多くしても所望の層厚を有するナノ粒子層を均一に且つ効率的に形成することができる。第2付着工程には、上述したような電気泳動法や超音波ミスト法、スプレー法、エアーブラシ法等が用いられる。第2付着工程に超音波ミスト法、スプレー法、エアーブラシ法等を用いる場合、ナノ粒子層をより効率的且つ強固に積層するため、ステント本体を負に帯電させておくことが好ましい。
【0062】
なお、ステント表面に形成されたナノ粒子層は、そのままでは生体内に留置された後、短時間で一度に溶出してしまい、薬効の持続性のコントロールが困難となる。また、ナノ粒子層を完全に乾燥させると、ナノ粒子同士がますます強固に凝集してナノ粒子層が不溶性の皮膜となり、ナノ粒子がステント表面から溶出せず細胞内に取り込まれなくなるおそれもある。そこで、上記のようにステント表面にナノ粒子層を形成した後、ナノ粒子層が完全に乾燥する前に生分解性高分子の溶液に含浸させ(含浸工程)、その後ナノ粒子層を乾燥させて(乾燥工程)、生分解性高分子を固化することが好ましい。
【0063】
ステントの表面に形成されたナノ粒子層が完全に乾燥する前に生分解性高分子の溶液に含浸させると、ナノ粒子層を形成する各ナノ粒子の隙間に生分解性高分子の溶液が浸透する。そして、生分解性高分子の溶解に用いた溶媒およびナノ粒子層に残存していた水分を乾燥させると、生分解性高分子層が形成される。これにより、個々のナノ粒子は生分解性高分子によって凝集することなく保持されることとなり、DESを生体内に留置した後、生分解性高分子層の分解によりナノ粒子が徐々に溶出する。
【0064】
生分解性高分子としては、例えばポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート等の微生物産生系の高分子や、コラーゲン、酢酸セルロース、バクテリアセルロース、ハイアミロースコーンスターチ、澱粉、キトサン等の天然高分子等が挙げられる。中でも、ナノ粒子の形成に用いられるPLGA等の生体適合性高分子よりも生体内分解速度が速いコラーゲン等を用いることが好ましい。これらの生分解性高分子の種類や分子量等を適宜選択することにより、ステント表面に付着させたナノ粒子の溶出速度を制御可能となる。なお、生分解性高分子としてPGA、PLA、PLGA、PAL等を用いることも可能であるが、その場合はナノ粒子の分解速度よりも速くなるように分子量の小さいものを使用すれば良い。
【0065】
以上のようにして得られたDESは、ステント本体に担持されたナノ粒子の表面が正に帯電しているため、ステント表面から溶出されたナノ粒子の細胞接着性が増大する。これにより、ステントが留置される病変部位細胞へのナノ粒子の導入効率を高めることができる。
【0066】
さらに、ナノ粒子層を含浸させる生分解性高分子の溶液中にも薬物(ピオグリタゾンまたはその塩)を添加することにより、ナノ粒子外部の生分解性高分子層中に含有された薬物を即効的に作用させるとともに、ナノ粒子内部に含有された薬物を遅効的且つ持続的に作用させることができる。ナノ粒子およびステント中の薬物の含有量は、要求される即効性、持続性の程度等により適宜設定することができる。
【0067】
即ち、投与後長期間に亘る効果の持続性が要求される場合は、薬物をナノ粒子内部に含有させればよく、投与直後より効果の発現が要求される場合は、薬物をナノ粒子外部の生分解性高分子層中にも含有させればよい。
【0068】
本発明のステント中のピオグリタゾンまたはその塩の含有量は、ピオグリタゾンとして1〜1000μgが好ましく、10〜50μgがより好ましい。
【0069】
本発明の薬物含有ナノ粒子は、単独で、または常法に従って、薬理学的に許容される担体を混合した医薬製剤(医薬組成物)、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠なども含む)、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、吸入剤、坐剤、徐放剤(例、舌下錠、マイクロカプセル等)、貼布剤、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルムなどとして、経口的または非経口的(例、皮下、局所、直腸、静脈内、動脈内、気管内、経肺投与等)に安全に投与することができる。本発明の医薬製剤は、好ましくは非経口的に投与される。さらに好ましくは静脈内投与、動脈内投与、気管内投与、経肺投与などである。
【0070】
上記薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機または無機担体物質が挙げられ、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤および崩壊剤、または液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤および無痛化剤等が挙げられる。更に必要に応じ、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量用いることもできる。
【0071】
賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。結合剤としては、例えば結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。溶剤としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油などが挙げられる。溶解補助剤としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などが挙げられる。等張化剤としては、例えばブドウ糖、D−ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。無痛化剤としては、例えばベンジルアルコールなどが挙げられる。防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロールなどが挙げられる。
【0072】
ピオグリタゾンまたはその塩の投与量は、投与対象、投与ルート、症状により異なり、特に限定されないが、例えば動脈硬化性疾患の治療の目的で成人患者に動脈内投与する場合、有効成分であるピオグリタゾンとして約1〜約560mg、好ましくは約1〜約200mg、さらに好ましくは約1〜約100mgであり、これらの投与量を症状に応じて1日約1ないし3回投与するのが望ましい。
【0073】
本発明の医薬製剤(医薬組成物)中のピオグリタゾンまたはその塩の含有量は、製剤(組成物)全体の約0.1〜約10重量%である。
【0074】
本発明のナノ粒子は、優れたプラーク破綻の発生抑制作用、プラーク安定化作用、単球走化因子(MCP−1)産生抑制作用、血管障害部位に長期安定する停留作用、血管障害後の新生内膜形成抑制作用、虚血部位における血管新生促進作用等を有する。
【0075】
本発明のナノ粒子、医薬製剤およびステントは低毒性であり、例えば動脈硬化性疾患の予防または治療に用いることができる。動脈硬化性疾患としては、例えば動脈硬化症(例、アテローム性動脈硬化症等)、心筋梗塞、不安定狭心症等の(急性)冠動脈症候群、末梢動脈閉塞症、経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の再狭搾、ステント留置後の再狭窄、虚血性心疾患(例、狭心症等)、間歇性跛行、脳卒中、脳梗塞、脳塞栓、脳出血、ラクナ梗塞、脳血管性認知症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDL血症、高脂血症などが挙げられる。
【0076】
また、本発明のナノ粒子、医薬製剤およびステントは、ステント内再狭窄の予防または治療にも用いることができる。
【0077】
また、本発明のナノ粒子、医薬製剤およびステントは、MCP−1が関与する疾患(例、炎症性疾患等)の予防または治療に用いることもできる。炎症性疾患としては、例えば肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺高血圧症などの肺疾患などが挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例および試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0079】
実施例1
ピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子の調製
0.5重量%ポリビニルアルコール(日本合成化学製;ゴーセノールEG-05(登録商標))水溶液を調製し、貧溶媒とした。また、乳酸・グリコール酸共重合体(和光純薬工業製;PLGA7520、乳酸/グリコール酸=75/25、重量平均分子量20,000)(1 g)をアセトン(40 mL)に溶解させ、これにピオグリタゾン塩酸塩(40 mg)を溶解したメタノール(20 mL)を添加混合し、ポリマー溶液とした。この溶液を先の貧溶媒中に40℃、400 rpmで攪拌下、4 mL/分で滴下し、ピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子の懸濁液を得た。アセトンとメタノールを減圧下にて1.5時間留去した後、凍結乾燥してピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子粉末を得た。
得られた粉末の水への再分散性は良好であり、ナノ粒子粉末を精製水中に再分散させた際の平均粒子径を動的光散乱法により測定したところ、314 nmであった。ナノ粒子粉末中のピオグリタゾンの含有量は2.37重量%であった。
【0080】
試験例1
ApoE欠損マウスにおけるプラーク破綻の抑制効果
実施例1で得られたピオグリタゾン含有ナノ粒子を用いて、ApoE欠損マウスにおけるプラーク破綻の抑制効果を試験した。
【0081】
(1)実験動物
オスのApoE欠損マウス(C57Bl/6J background)をJackson研究所(米国)より購入し使用した。飲水は自由とし、試験開始までは普通食を与え飼育した。
【0082】
(2)食餌およびアンジオテンシンII投与
ApoE欠損マウスに16週齢より高脂肪食(21%ラード、0.15%コレステロール含有)を与え、20週齢よりアンジオテンシンII(1.9 mg/kg/日)の腹腔内投与を開始した。
【0083】
(3)投与方法および投与量
対照群には、薬物を含有しないPLGAナノ粒子(8.75 mg/マウス/週)を投与した。
ピオグリタゾン含有ナノ粒子群には、実施例1で得られたピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子(8.75 mg/マウス/週)を投与した(ピオグリタゾンとして210 μg、7 mg/kg/週相当を含有)。
各ナノ粒子(8.75 mg)をリン酸緩衝生理食塩水(0.5 mL)に懸濁して、20週齢から23週齢まで週1回、計4回、静脈内投与した。
【0084】
(4)評価方法
アンジオテンシンIIを28日間投与後、心臓よりリン酸緩衝生理食塩水、中性緩衝ホルマリンにて洗浄、固定した後、右腕頭動脈を摘出した。パラフィン切片作成後、Elastica van Gieson染色を行い、プラーク破綻、線維性被膜(fibrous cap)の厚さの評価を行った。
【0085】
(5)結果
結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
これより、ピオグリタゾン含有ナノ粒子の投与は、動脈硬化モデルであるApoE欠損マウスにおけるプラーク破綻の発生を有意に抑制することがわかった。また、ピオグリタゾン含有ナノ粒子の投与によって、線維性被膜の厚さが有意に増加し、プラークを安定化することもわかった。
【0088】
試験例2
THP-1による単球走化因子(MCP-1)産生に対する抑制効果
(1)試験方法
ヒト単球細胞株THP-1(ヒューマンサイエンス振興財団ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手)を0.5%胎児ウシ血清、1%ペニシリンを含有するRPMI培地で5×105 cells/well/500 μLに調整し、48ウェルプレートに播いた(0日目)。1日目にピオグリタゾン塩酸塩、または実施例1で得られたピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子(ピオグリタゾンとしての濃度;1.0、10 μM)を添加し、2日目にLPS 1 μg/mLを加え刺激を行った。
【0089】
(2)評価方法
3日目に上清を回収し、ヒトMCP-1 ELISA kit(BIOSOURCE社)を用いMCP-1の定量を行った。
【0090】
(3)結果
ピオグリタゾン含有ナノ粒子を用いることにより、より少量のピオグリタゾンの投与でMCP-1産生抑制効果が得られることがわかった。
【0091】
試験例3
実施例1と同様の方法で蛍光色素であるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)含有ナノ粒子を作成し、ApoE欠損マウスへの静脈注射後の体内動態を試験した。
【0092】
(1)FITC含有ナノ粒子
実施例1に記載の方法において、ピオグリタゾン塩酸塩に代えてFITC (100 mg)を用いた以外は、同様に処理することにより、FITC含有ナノ粒子粉末を得た。
【0093】
(2)実験動物
オスのApoE欠損マウス(C57Bl/6J background)をJackson研究所(米国)より購入し使用した。飲水は自由とし、試験開始までは普通食を与え飼育した。
【0094】
(3)食餌およびアンジオテンシンII投与
ApoE欠損マウスに16週齢より高脂肪食(21%ラード、0.15%コレステロール含有)を与え、20週齢よりアンジオテンシンII(1.9 mg/kg/日)の腹腔内投与を開始した。
【0095】
(4)投与方法、投与量および評価方法
(1)で得られたFITC含有ナノ粒子(8.75 mg)をリン酸緩衝生理食塩水(0.5 mL)に懸濁し、21週齢時にマウスに静脈内投与した。2時間後に静脈血を採取、赤血球溶血後の白血球を、TexasRedで標識した抗CD11bまたは抗Gr-1抗体で染色し、フローサイトメトリーで検討した。また、48時間後に右腕頭動脈を摘出し、パラフィン切片作成後、HE染色およびFITC免疫染色により動脈硬化プラークにおけるFITCを取り込んだマクロファージの同定を行った。
【0096】
(5)結果
FITC含有ナノ粒子をマウスへ静脈注射したところ、2時間後の末梢血では、CD11b(+)Gr-1(-)である単球に選択的にFITCの取り込みを認めた。また、48時間後に右腕頭動脈を摘出し組織学的検討を行ったところ、腕頭動脈・動脈硬化巣内のマクロファージにFITC免疫染色を認めた。
これより、本発明のナノ粒子が単球・マクロファージ選択的キャリアとなることがわかった。
【0097】
試験例4
ピオグリタゾン含有ナノ粒子によるマクロファージ遺伝子発現制御
実施例1で得られたピオグリタゾン含有ナノ粒子の静脈注射による、マクロファージの遺伝子発現への効果を試験した。
【0098】
(1)実験動物
オスのApoE欠損マウス(C57Bl/6J background)をJackson研究所(米国)より購入し使用した。飲水は自由とし、試験開始までは普通食を与え飼育した。
【0099】
(2)食餌およびアンジオテンシンII投与
ApoE欠損マウスに16週齢より高脂肪食(21%ラード、0.15%コレステロール含有)を与え、20週齢よりアンジオテンシンII(1.9 mg/kg/日)の腹腔内投与を開始した。
【0100】
(3)投与方法および投与量
対照群には、薬物を含有しないPLGAナノ粒子(8.75 mg/マウス/週)を投与した。
ピオグリタゾン含有ナノ粒子群には、実施例1で得られたピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子(8.75 mg/マウス)を投与した(ピオグリタゾンとして210μg、7 mg/kg体重相当を含有)。
各ナノ粒子(8.75 mg)をリン酸緩衝生理食塩水(0.5 mL)に懸濁して、21週齢時に静脈注射で単回投与した。
【0101】
(4)評価方法
PLGAナノ粒子またはピオグリタゾン含有ナノ粒子の静脈注射と同時に、腹腔内にチオグリコレート培地(Difco社)2 mLを投与した。3日後に腹腔内マクロファージを採取し、mRNAを抽出した。RT-PCR法により、対照群およびピオグリタゾン含有ナノ粒子群マクロファージにおける各種遺伝子の発現を測定し、発現レベルを比較した。
【0102】
(5)結果
対照群マクロファージに対してピオグリタゾン含有ナノ粒子群マクロファージで顕著に発現が亢進および抑制された遺伝子を表2に示す。ピオグリタゾン含有ナノ粒子群マクロファージでは、コレステロールの逆輸送を促進するABCA1の発現が亢進する一方、単球走化因子であるMCP-1やRANTES等のCCケモカインの発現が抑制されていた。
【0103】
【表2】

【0104】
これより、ピオグリタゾン含有ナノ粒子の投与は、ApoE欠損マウス体内で単球・マクロファージに選択的に送達され、MCP-1抑制を含めた遺伝子発現を制御しうることがわかった。
【0105】
試験例5
マウスの血管傷害モデルおける新生内膜形成の抑制効果
実施例1で得られたピオグリタゾン含有ナノ粒子を用いて、マウス血管傷害モデルにおける新生内膜形成の抑制効果を試験した。
【0106】
(1)実験動物
オスの野生型マウス(C57Bl/6J)を日本クレアより購入し使用した。飲水および摂餌は自由とし、試験終了まで普通食を与え飼育した。
【0107】
(2)血管傷害モデルの作製
8-10週齢の野生型マウスをペントバルビタールで深麻酔し、右大腿動脈を露出させ6-0絹糸で血管の両端を結紮し、血流を一時的に遮断した。分枝を切開しワイヤー(直径0.15インチ、No.C-SF-15-15,COOK)を腸骨動脈側に5 mm挿入し、血管に傷害を与えた。
【0108】
(3)投与方法および投与量
ワイヤー傷害後、実験動物を溶媒対照群およびピオグリタゾン含有ナノ粒子群に割り付けた。ワイヤーを抜去し、分枝から溶媒、ピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子溶液それぞれ100 μLを5分間かけ動脈内投与した。
溶媒対照群には、溶媒(リン酸緩衝生理食塩水)のみを単回投与した。
ピオグリタゾン含有ナノ粒子群には、実施例1で得られたピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子(ナノ粒子として0.5 mg/マウス相当、ピオグリタゾン濃度として0.015 mg/マウス(0.5 mg/kg体重)相当を含有)を単回投与した。投与後、分枝部分を結紮し、血流を再開させ皮膚を縫合した。
さらにワイヤー傷害直後、ピオグリタゾン塩酸塩(ピオグリタゾンとして0.15 mg/マウス(5 mg/kg体重))の高用量(臨床用量の10倍量)単回腹腔内投与群を設けた。
【0109】
(4)評価方法
血管傷害28日後、心臓よりリン酸緩衝生理食塩水、中性緩衝ホルマリンにて洗浄、固定した後、右大腿動脈を摘出した。パラフィン切片作製後、Elastica van Gieson染色および増殖細胞核抗原(PCNA)に対する免疫組織化学的染色を行い、内膜・中膜比、新生内膜面積、中膜面積および細胞増殖の評価を行った。免疫組織化学的染色は全細胞数に対する増殖細胞の割合をカウントし算出した。
【0110】
(5)結果
結果を表3および表4に示す。ピオグリタゾン含有ナノ粒子の投与は、溶媒対照群に対して内膜・中膜比、新生内膜面積の顕著な減少を認めた。また、ピオグリタゾン含有ナノ粒子は、ピオグリタゾン塩酸塩よりも強力に平滑筋細胞の増殖を抑制した。新生内膜形成は中膜から内膜への平滑筋細胞の遊走と増殖により進展することから、この増殖抑制作用がピオグリタゾン含有ナノ粒子による新生内膜形成の抑制に寄与することが示された。
【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
これより、ピオグリタゾン含有ナノ粒子の投与は、血管傷害後の血管における新生内膜形成を有意に抑制することがわかった。また、10倍量のピオグリタゾン塩酸塩よりピオグリタゾン含有ナノ粒子がより強力な作用を有することが明らかになった。その作用の機序として平滑筋細胞の過剰増殖抑制作用が一部、関与していることが明らかになった。
【0114】
試験例6
ナノ粒子の培養ラット冠動脈平滑筋細胞への早期送達、長期停留効果
試験例3(1)で作成したFITC含有ナノ粒子を用いて、培養ラット冠動脈平滑筋細胞への送達性、停留性試験を行った。
【0115】
(1)試験方法
ラット大動脈平滑筋細胞(TOYOBOより入手)を、10%胎児ウシ血清を含有するDMEM培地(Sigma)でサブコンフルエントの細胞密度になるようにスライドグラスチャンバー上に播いた(0日目)。2日目、FITCまたはFITC含有ナノ粒子(ナノ粒子濃度として0.5 mg/mL)を含有する培地に交換した。
【0116】
(2)評価方法
培地交換後、5分後および24時間後にそれぞれメタノールを用いて固定し、Propidium iodide (Vector laboratories, Inc.)を用いて核染色を行った後、蛍光顕微鏡を用いて観察を行った。視野ごとの総核数および蛍光陽性細胞数をカウントし、蛍光陽性細胞の割合を算出した。
【0117】
(3)結果
FITCのみを含有する培地を添加した細胞では陽性細胞はまったく認められなかった(0%)が、FITC含有ナノ粒子を含有する培地を添加した細胞では5分間で90%以上の蛍光陽性細胞が認められ、24時間後でも同様に90%以上の蛍光陽性細胞が認められた。即ち、FITC含有ナノ粒子は培養ラット大動脈平滑筋細胞に、5分という極めて短時間に高率に送達され、しかも24時間以上の長期にわたり安定して停留する特性を有することが明らかになった。従って、実施例1で作成したピオグリタゾン含有ナノ粒子も、同様に冠動脈平滑筋細胞に早期に送達し、かつ長期にわたって停留する効果を有することが示唆された。
【0118】
試験例7
培養ヒト冠動脈平滑筋細胞増殖の抑制効果
実施例1で得られたピオグリタゾン含有ナノ粒子を用いて、培養ヒト冠動脈平滑筋細胞の増殖抑制効果を試験した。
【0119】
(1)試験方法
ヒト冠動脈平滑筋細胞(Lonza Walkersville Inc., Walkersville, MD, USAより入手)を5%胎児ウシ血清、1%ペニシリンを含有するSmBM培地(Lonza)で5×103 cells/well/500 μLに調整し、48ウェルプレートに播いた(0日目)。2日目に培地を交換し、0.1%胎児ウシ血清、1%ペニシリンを含有するSmBM培地で2日間、飢餓状態にした。3日目に溶媒(リン酸緩衝生理食塩水)のみ、または実施例1で得られたピオグリタゾン含有PLGAナノ粒子(ピオグリタゾンとしての濃度;10 μM)を添加し、10%胎児ウシ血清、1%ペニシリンを含有するSmBM培地中で培養を3日間行った。10%胎児ウシ血清がヒト冠動脈平滑筋の細胞増殖活性を有することは広く知られており、本試験では増殖刺激剤としてこれを用いた。
【0120】
(2)評価方法
培養開始から7日目にメタノールで固定し、Diff-Quick 染色液(Sysmex Corporationより購入)で細胞を染色し、視野あたりの細胞数をカウントした。
【0121】
(3)結果
結果を表5に示す。ピオグリタゾン含有ナノ粒子群では10%ウシ胎児血清刺激による平滑筋細胞増殖を顕著に抑制した。
【0122】
【表5】

【0123】
これより、実施例1で作成したピオグリタゾン含有ナノ粒子は、強い血管平滑筋細胞の増殖抑制作用を有することが明らかになった。
【0124】
実施例2
(1)ピオグリタゾン含有キトサン修飾PLGAナノ粒子の調製
PLGA(和光純薬工業製;PLGA7520、乳酸/グリコール酸=75/25、重量平均分子量20,000)(2 g)をアセトン(20 mL)に溶解した後、メタノール(10 mL)に溶解したピオグリタゾン塩酸塩(100 mg)を添加してポリマー溶液とした。これを、40℃で攪拌している2wt%のポリビニルアルコール(PVA、クラレ製)水溶液(50 mL)に、4 mL/minの一定速度で滴下した。この時、アセトン、メタノールおよび水の相互拡散によるエマルション液滴界面の乱れによる自己乳化作用によって、ナノメートルサイズのエマルション滴が調製される。その後、アセトンとメタノールを留去して得られたPLGAナノ粒子懸濁液を遠心分離(遠心加速度41000G、-20℃、20分)してPLGAナノ粒子の沈殿を回収し、精製水中に再懸濁させ、PLGA表面に吸着しなかった余剰なPVAを除去した。ここに0.02wt%キトサン(片倉チッカリン製)水溶液(50 mL)を添加し、1時間攪拌混合した後、−45℃で凍結乾燥してピオグリタゾン含有キトサン修飾PLGAナノ粒子を粉末化した。
【0125】
得られた粉末の水への再分散性は良好であり、ナノ粒子粉末を精製水中に再分散させた際の平均粒子径を動的光散乱法により測定したところ、584 nmであった。ナノ粒子粉末中のピオグリタゾンの含有量は2.42重量%であった。
【0126】
(2)ピオグリタゾン含有ナノ粒子溶出ステントの製造
(1)で得られたピオグリタゾン含有キトサン修飾PLGAナノ粒子を精製水中に懸濁させ、ナノ粒子(0.25wt%)懸濁液を作製した。長さ15 mmステンレス(SUS316L)製マルチリンク様ステントをステント加工前の内径1.1 mm, 外径1.3 mmのステンレス製パイプに通し、陰極とした。陽極には炭素棒を配した。ナノ粒子懸濁液を上面が開口した内径8.5 mm、外径9.5 mm、高さ23 mmの電解浴に満たし、ステント本体が装着されたステンレス製パイプをステント本体部分がナノ粒子懸濁液に完全に浸漬し、かつステンレス製パイプの一部が液面から突出するように電解浴に起立させた。そして、炭素棒が陽極、ステンレス製パイプが陰極となるように外部電源発生装置(DC power supply, Nippon Stabilizer Industry Co., Ltd.)および電流計を直列に接続し、電流5 mA定電圧を維持するよう電圧を調整し、10分間通電した。ステント本体とステンレス製パイプは同一の材質で製造されており導電性が等しいため、ステント本体に均一に通電することが可能である。通電終了後、ステント本体をステンレス製パイプから取り外して乾燥させた。
【0127】
試験例8
霊長類ステント狭窄モデルにおける再狭窄の抑制効果
実施例2で得られたピオグリタゾン含有ナノ粒子溶出ステントを用いて、霊長類ステント狭窄モデルにおける再狭窄の抑制効果を試験した。
【0128】
(1)実験動物
オスの5歳カニクイザルを有限会社プライメイトより購入し使用した。飲水は自由とし、試験開始までは普通食を与え飼育した。
【0129】
(2)食餌
試験開始から解剖時まで高脂肪食(0.5%コレステロール含有)を与えた。
【0130】
(3)評価方法
試験開始から1ヵ月後に左右腸骨動脈に実施例2で得られたピオグリタゾン含有ナノ粒子溶出ステント、FITC含有ナノ粒子溶出ステントおよびベアメタルステントを留置した。留置より28日後に、心臓よりリン酸緩衝生理食塩水、中性緩衝ホルマリンにて洗浄、固定した後、ステントを留置した動脈を摘出した。樹脂切片作製後、ヘマトキシリンエオシン染色を行い、新生内膜面積の評価を行った。
【0131】
(4)結果
結果を表6に示す。
【0132】
【表6】

【0133】
これより、ピオグリタゾン含有ナノ粒子溶出ステントは、ステント留置後の新生内膜形成を有意に抑制し、再狭窄を抑制することがわかった。
【0134】
試験例9
マウス下肢虚血モデルにおけるピオグリタゾン含有ナノ粒子の血管新生促進効果
実施例1で得られたピオグリタゾン含有ナノ粒子を用いて、マウス下肢虚血モデルにおける血管新生促進効果を試験した。
【0135】
(1)実験動物
オスの野生型マウス(C57BL/6J)を日本クレアより購入し使用した。飲水および摂餌は自由とし、試験終了まで普通食を与え飼育した。
【0136】
(2)下肢虚血モデルの作製
8週齢の野生型マウスをペントバルビタールで深麻酔し、左大腿動脈/静脈を露出させ、6-0絹糸で浅大腿動脈及び静脈(大腿深動脈及び静脈の下から膝窩動脈及び静脈)を結紮し、切除して虚血モデルを作製した。
【0137】
(3)投与方法及び投与量
下肢虚血モデル作製後、実験動物を(1)溶媒対照群、(2)ピオグリタゾン含有ナノ粒子群の2群に割り付けた。モデル作製直後、左大腿筋に溶媒あるいはピオグリタゾン含有ナノ粒子を溶媒に懸濁した懸濁液(ナノ粒子として0.9 mg/100 μL相当、ピオグリタゾン濃度として0.027 mg/100 μL)をそれぞれ100 μL筋肉内注射した(投与量 1.125 mg/kg相当)。溶媒には、リン酸緩衝生理食塩水を用いた。投与後、皮膚を縫合した。
【0138】
(4)評価方法
虚血後21日目に、laser Doppler perfusion image (LDPI) analyzer (Moor Instruments)を用いて虚血肢(左肢)及び非虚血肢(右肢)の血流量の評価を行った。下肢血流比は非虚血肢に対する虚血肢のLDPIシグナルの割合で求めた。
【0139】
(5)結果
結果を表7に示す。
【0140】
【表7】

【0141】
これより、高濃度のピオグリタゾン(3 mg/kg)の7週間連続経口投与(累計投与量147 mg/kg)で有効性が得られているのに対して(Biomedicine & Pharmacotherapy 62 (2008) 46-52参照)、130分の1という極めて少量のピオグリタゾンを含有したナノ粒子の投与が内皮機能改善作用によると思われる血管新生を有意に促進することがわかった。
【0142】
本出願は、日本で出願された特願2007−322409および特願2008−125071を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピオグリタゾンまたはその塩および生体適合性高分子を含有するナノ粒子。
【請求項2】
生体適合性高分子が乳酸・グリコール酸共重合体である請求項1記載のナノ粒子。
【請求項3】
ピオグリタゾンまたはその塩の含有量がピオグリタゾンとして0.1〜10重量%である請求項1記載のナノ粒子。
【請求項4】
動脈硬化性疾患の予防または治療のための請求項1記載のナノ粒子。
【請求項5】
非経口投与用である請求項4記載のナノ粒子。
【請求項6】
請求項1記載のナノ粒子を含む動脈硬化性疾患の予防または治療のための医薬製剤。
【請求項7】
請求項1記載のナノ粒子を含む動脈硬化性疾患の予防または治療のための非経口投与用医薬製剤。
【請求項8】
請求項1記載のナノ粒子を担持したステント。
【請求項9】
請求項1記載のナノ粒子を担持した動脈硬化性疾患の予防または治療のためのステント。
【請求項10】
哺乳動物に、請求項1記載のナノ粒子の有効量を投与することを特徴とする当該哺乳動物における動脈硬化性疾患の予防または治療方法。
【請求項11】
動脈硬化性疾患の予防または治療用医薬を製造するための、請求項1記載のナノ粒子の使用。
【請求項12】
哺乳動物の血管内に、請求項8記載のステントを留置することを特徴とする当該哺乳動物における動脈硬化性疾患の予防または治療方法。
【請求項13】
動脈硬化性疾患の予防または治療用のステントを製造するための、請求項1記載のナノ粒子の使用。

【公表番号】特表2011−506268(P2011−506268A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523213(P2010−523213)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/JP2008/073139
【国際公開番号】WO2009/075391
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】