説明

蛋白質担持フィルター及びその製造方法

【課題】本発明は、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、効率よく不活性化することができる酵素、抗体物質等の蛋白質担持フィルターを提供する。
【解決手段】酵素、抗体物質をフィルター上で有効に機能させるために、非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維を構成成分とする担体シートに蛋白質を担持したフィルターである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、不活性化することができる酵素、抗体物質等の蛋白質を担持したフィルターに関する。さらに詳しくは、酵素、抗体物質等の蛋白質の活性発現を安定化するために、非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維を構成成分とする担体シートに蛋白質を担持したフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、不活性化することができる酵素、抗体物質等の蛋白質担持フィルターに関しては、これまで、酵素を種々の担体に様々な方法で担持した、フィルターが提案されてきた(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】WO98/04334
【特許文献2】特開2003−210919号公報
【特許文献3】特開平2−41166号公報
【特許文献4】特開昭61−49795号公報
【0003】
これらの文献では、共有結合、イオン結合、架橋法、包括法等の方法で各種酵素を、種々の担体に担持させたフィルターが開示されている。しかしながら、酵素、抗体物質等の蛋白質の活性発現を特異的に安定化する担体シートに関して、蛋白質の溶液にフィルターを含浸するという簡便な方法で蛋白質を担持し、高い性能を発現させるという提案は、これまでなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フィルター上にて、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、効率よく不活性化することのできる、酵素、抗体物質等の蛋白質を担持したフィルターを簡便な方法で実現することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、担体となり得る種々の織布、不織布素材に検討を加えた結果、これまで提案されていない特定の構成成分を有する担体シートが、酵素、抗体物質の活性発現に適している事を見出し、ついに本願発明を完成するに到った。即ち本発明は、(1)非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維を構成成分とする担体シートに酵素、抗体物質等の蛋白質を担持したことを特徴とする蛋白質担持フィルターであり、(2)前記非晶性共重合ポリエステル成分がテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールを含有することを特徴とする(1)記載の蛋白質担持フィルターであり、(3)前記非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維が、非晶性共重合ポリエステル成分と、ポリアルキレンテレフタレート系ポリエステル成分の複合繊維であることを特徴とする(1)及び(2)に記載の蛋白質担持フィルターであり、(4)酵素、抗体物質等の蛋白質溶液に前記担体シートを含浸することにより蛋白質を担持することを特徴とする蛋白質担持フィルターの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の蛋白質担持フィルターは、簡便な方法により、酵素、抗体物質等の蛋白質の活性発現を特異的に安定化することで、フィルター上にて、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、効率よく不活性化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明にかかる蛋白質担持体フィルターは、非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維を構成成分とする担体シートに酵素、抗体物質等の蛋白質を担持させることが好ましい。
【0008】
非晶性共重合ポリエステルを含む繊維を構成成分とする担体シートと、酵素、抗体物質等の蛋白質との組み合わせにより、蛋白質の活性発現を安定化した蛋白質担持フィルターを提供できるからである。当該蛋白質担持フィルターは担体シートの蛋白質溶液への含浸による担持という簡便な方法で実現できるという有利な効果を有するものである。
【0009】
本発明の非晶性共重合ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸とグリコール成分の重縮合反応によるポリエステル生成の際に共重合成分を添加して得ることが好ましい。より好ましくは、テレフタル酸とエチレングリコールをベースとし、共重合成分としては例えばイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。このような非晶性共重合ポリエステルは、ガラス転移点がTg=50〜100℃の範囲となり、明確な結晶融点を示さない。
【0010】
また本発明は、酵素、抗体物質等の蛋白質を担持し、その活性発現を安定化させる上で、前記非晶性共重合ポリエステル成分がテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールを含むことが好ましく、その共重合モル比が、テレフタル酸/イソフタル酸=40/60〜80/20であり、エチレングリコール/ジエチレングリコール=70/30〜97/3であることがさらに好ましい。
【0011】
本発明の非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維は、前記非晶性共重合ポリエステル成分とポリアルキレンテレフタレート系ポリエステル成分との複合繊維であることが好ましい。ポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルとは具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートである。また複合繊維としては、シース・コア型、偏心シース・コア型、サイド・バイ・サイド型などの形態が可能である。その中でも、非晶性共重合ポリエステルをシース成分とし、ポリエチレンテレフタレートをコア成分とするシース・コア型複合繊維が加工性の面で好ましいものとして挙げられる。また非晶性共重合ポリエステル成分の複合率は10〜90%であり、性能、加工性の両面から好ましくは30〜70%である。
【0012】
本発明の非晶性共重合ポリエステルを含む繊維を製造するには、周知の紡糸装置を用い、その特性に応じて紡糸、延伸、熱処理条件を適宜組み合わせて得てもよい。すなわち、重合物の融点に応じて、150〜240℃で溶融押出機により所定の繊度に溶融紡糸し、500〜2500m/分の速度で引き取り、未延伸のまま、あるいは必要に応じて延伸して、所定の繊維長に切断すればよい。この際、本発明の非晶性共重合ポリエステルを含む繊維の繊度は1〜30dtexの範囲で調整することが、シート化時の加工性、フィルター特性の面から好ましい。
【0013】
また、本発明の非晶性共重合ポリエステルを含む繊維の製造の際に用いられる付与油剤は、繊維の製造工程及び、その後の担体シートへの加工に適したものを選択すればよく、アルキル硫酸エステルおよびその塩、アルキルリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール共重合物などの油剤を、適宜混合して使用することができる。
【0014】
本発明の担体シートは、前記非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維以外に、ポリエチレンテレフタレート単成分、アクリル、ナイロン、ポリオレフィン系、レーヨン、セルロース、パルプ等の繊維と混合して製造できるが、非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維の混合率が10〜90%であることが好ましい。10%未満ではほとんどその効果を得ることができず、90%を超えるとシート化時の加工性の面で適していない。
【0015】
本発明の担体シートはスパンボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、メルトブロー不織布、フラッシュ紡糸不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ステッチボンド不織布、および湿式抄紙不織布など不織布、あるいは織物の何れでもよい。また、その目付は特に限定されないが、好ましい範囲を例示すると10〜200g/m2である。10g/m2未満だと各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などの不活性化対象物を十分捕捉できない可能性があり、また200g/m2超えるとフィルターの圧力損失が大きくなるという不具合が生じやすくなる。
【0016】
本発明における、酵素、抗体物質等の蛋白質の担体シートへの担持の方法は、担体シートを適当な濃度の蛋白質水溶液に含浸し、適当な温度および時間で乾燥する方法が好ましい。ここで用いる蛋白質水溶液は、各々の蛋白質の活性発現に適したpHに調節することが好ましい。蛋白質はその種類によって活性発現に適したpHが異なり、通常はそのpH付近でないと十分な活性の発現は得られないためである。また、乾燥温度と時間は、担持する蛋白質が変性により失活しない温度にすることが重要である。蛋白質はその種類によって耐熱性が大きく異なる。通常は高温で乾燥させた方が効率が良いが、蛋白質の耐熱性を考慮して乾燥条件を決めることが好ましい。
【0017】
本発明の蛋白質担持フィルターに適用可能な酵素、抗体物質等としては、溶菌酵素(リゾチーム)、蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)、各種アレルゲンを酸化還元する酵素(オキシドレダクターゼ)、細菌、あるいは、カビ、ウィルス、環境アレルゲンなどを不活性化する抗体などが挙げられるが、特に限定されない。
【0018】
担体シート上での蛋白質の活性発現を安定化させるには、その素材に適度な調湿作用が必要である。なぜなら、水分が多すぎると蛋白質の劣化が早くなり、少なすぎると蛋白質の活性が発現されないからである。本発明の担体シートは、本来疎水性であるポリエステルに特定の共重合成分を加えることにより、適度な調湿作用が付与され、そのことが蛋白質の活性発現を安定化しているものと考えられる。また、かかる担体シートを蛋白質溶液に含浸することで得られる蛋白質担持フィルターは、担体と蛋白質が強固な疎水性相互作用で吸着しておらず、そのことが蛋白質の活性発現安定化に寄与している可能性がある。なぜなら、蛋白質の疎水基と担体シートが引き合い吸着すると、界面安定化作用により、蛋白質は疎水基が担体側に、親水基がその反対側に来るように高次構造が変化し、その活性が失われるからである。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これによって本発明はなんら限定されるものではない。
【0020】
(非晶性共重合ポリエステル成分を含む複合繊維Aの製造例)
シース成分の非晶性共重合ポリエステルとして酸成分がモル比でテレフタル酸が60%、イソフタル酸が40%、ジオール成分がモル比でエチレングリコールが95%、ジエチレングリコールが5%の割合で共重合された、固有粘度が0.56、Tgが64℃の非晶性共重合ポリエステル、コア成分として固有粘度が0.64、Tgが67℃、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレートを用い、各々のペレットを減圧乾燥した後、シース・コア型複合紡糸機にて複合紡糸し、短繊維用延伸機にて延伸、カットの工程を通し、定法により重量比シース/コア=50/50の複合比率で、単糸繊度が約2.2dtexのシース・コア型複合繊維を得た。なお後述の不織布の製造法に応じて、適当な油剤を選定して使用した。
【0021】
(ポリエチレンテレフタレート単成分繊維Bの製造例)
固有粘度が0.64、Tgが67℃、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレートのペレットを減圧乾燥した後、単繊維紡糸機にて紡糸し、短繊維用延伸機にて延伸、カットの工程を通し、単糸繊度が約2.2dtexのポリエチレンテレフタレート単成分繊維を得た。なお後述の不織布の製造法に応じて、適当な油剤を選定して使用した。
【0022】
(担体シート1の製造)
上記の非晶性共重合ポリエステル成分を含む複合繊維Aを5mmでカットし、該複合繊維A/NBKPパルプ/ポリビニルアルコール繊維(1.1dtex,カット長3mm)を80/15/5の質量混合比で配合し、湿式抄紙法により、目付30g/m2の担体シート1を得た。
【0023】
(担体シート2の製造)
上記の非晶性共重合ポリエステル成分を含む複合繊維Aおよびポリエチレンテレフタレート単成分繊維Bをそれぞれ51mmでカットし、複合繊維A/単成分繊維Bを70/30の質量混合比で配合し、カーディングによりウェブを作成後、水流パンチ加工することにより目付30g/m2の担体シート2を得た。
【0024】
(担体シート3の製造)
ポリエチレンテレフタレート単成分繊維Bを5mmでカットし、該単成分繊維B/NBKPパルプ/ポリビニルアルコール繊維(1.1dtex,カット長3mm)を80/15/5の質量混合比で配合し、湿式抄紙法により、目付30g/m2の担体シート3を得た。
【0025】
(担体シート4の製造)
ポリエチレンテレフタレート単成分繊維Bを51mmでカットし、この繊維のみを用いてカーディングによりウェブを作成後、水流パンチ加工することにより目付30g/m2の担体シート4を得た。
【0026】
(酵素活性試験:試験例1)
実施例および比較例の蛋白質担持フィルター上にルテウス菌(Micrococcus luteus)をフリーズドライした顆粒を振りかけ、逆さにして余分な顆粒を除いた後、湿度90%に保持したデシケータ中で24時間静置した。その後、低真空走査型電子顕微鏡で観察し、ルテウス菌の溶菌の程度を目視観察した。菌の球形状が崩れている場合を溶菌活性あり、球形状が残存している場合を溶菌活性なしと判定した。
【0027】
(インフルエンザウィルス不活性化試験:試験例2)
実施例および比較例の蛋白質担持フィルターを33mm四方に裁断したものを試験片として、密閉された容器に入れ、それぞれにインフルエンザウィルスを1mlあたり2.5g含む水溶液を容器内に噴霧した後、室温で15時間処理を行った。その後、不活性化したインフルエンザウィルスを1mlあたり10g含む水溶液を容器内に噴霧して、抗体をブロッキングし、処理の終わった試験片をリン酸緩衝溶液9mlで洗い出し、回収した液を10日卵に接種、37℃にて48時間培養後、CAM液を採取し、HAテストを行い、Karber法によりウィルス感染価EID50(50% egg−infective doses)の計算を行った。
【0028】
(実施例1〜2)
溶菌酵素リゾチームの1%水溶液に担体シート1および担体シート2を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、それぞれ実施例1および実施例2の蛋白質担持フィルターを調製した。
【0029】
(比較例1〜2)
担体シート3および担体シート4を用いて、実施例1〜2と同工程にてそれぞれ比較例1および比較例2の蛋白質担持フィルターを調製した。
【0030】
(実施例3〜4)
インフルエンザウィルス抗体濃度5mg/1mlの水溶液に担体シート製造例1および担体シート2を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、それぞれ実施例3および実施例4の蛋白質担持フィルターを調製した。
【0031】
(比較例3〜4)
担体シート3および担体シート4を用いて、実施例3〜4と同工程にてそれぞれ比較例3および比較例4の蛋白質担持フィルターを調製した。
【0032】
実施例1〜2および比較例1〜2の蛋白質担持フィルターについて試験例1で示した酵素活性試験を実施した。その結果、実施例1、実施例2ではリゾチームの溶菌作用によるルテウス菌の崩壊が確認されたが、比較例1、比較例2ではルテウス菌は崩壊していなかった。また実施例3〜4および比較例3〜4の蛋白質担持フィルターについて試験例2で示したインフルエンザウィルス不活性化試験を実施した。その結果、製造例3、製造例4のウィルス感染価はEID50=0.5×104.5、比較例3、比較例4のウィルス感染価はEID50=0.5×108.5であり、活性化ウィルス量の4桁減少、すなわち99.99%の不活性化が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の蛋白質担持フィルターは、その担体シートの特異的な組成が、担持された酵素、抗体物質等の蛋白質の活性発現に寄与することで、高い性能を実現したものであり、当該組成の非晶性共重合ポリエステル繊維の製造は従来法により可能である。しかも、この効果は、担体シートの蛋白質溶液への含浸による担持という簡便な方法で達成することができ、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維を構成成分とする担体シートに酵素、抗体物質等の蛋白質を担持したことを特徴とする蛋白質担持フィルター。
【請求項2】
前記非晶性共重合ポリエステル成分がテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールを含有することを特徴とする請求項1記載の蛋白質担持フィルター。
【請求項3】
前記非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維が、非晶性共重合ポリエステル成分と、ポリアルキレンテレフタレート系ポリエステル成分の複合繊維であることを特徴とする請求項1乃至2記載の蛋白質担持フィルター。
【請求項4】
酵素、抗体物質等の蛋白質溶液に前記担体シートを含浸することにより蛋白質を担持することを特徴とする蛋白質担持フィルターの製造方法。

【公開番号】特開2006−166878(P2006−166878A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367755(P2004−367755)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】