説明

蛍光ランプ及び蛍光ランプの製造方法

【課題】本発明の目的は、屈曲部を有する蛍光ランプにおいて、従来よりもランプ全体の光束が改善された蛍光ランプを提供することであり、さらには、高光束の蛍光ランプを低コストで安定して製造できる蛍光ランプの製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の蛍光ランプは、透光性気密容器と、該透光性気密容器内に形成された蛍光体層と、該透光性気密容器内に封入された放電媒体と、電極とを具備する蛍光ランプであって、前記透光性気密容器は、1つ又は複数の屈曲部を有し、前記蛍光体層は、膜厚の最小値と最大値の比が0.63以上1.0以下であり、且つ膜厚の変動係数が20%以下であることから、従来よりもランプ全体の光束が改善される。また、本発明の蛍光ランプの製造方法によって、低コストで品質の高い蛍光ランプを安定して製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は屈曲部を有する蛍光ランプ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年省エネルギー化への関心はますます高まり、従来の白熱電球から電球型蛍光ランプへの代替が進んでいっている。蛍光ランプは白熱電球に比べて発光効率が高く長寿命であるため家庭用照明への更なる需要も見込まれる。
【0003】
電球型蛍光ランプとしては、複数のU字管をブリッジ部分で接続させたものや、旋回軸の周りに旋回させてなる螺旋形状のものを発光管とし、発光管の内面に蛍光体層を形成したものがある。
【0004】
他に屈曲部を有する蛍光ランプとしては円形または多角形の環状型蛍光ランプがあり、各種照明用途に用いられている。
【0005】
屈曲部を有する蛍光ランプは、直管型の蛍光ランプに比べて均一な蛍光膜の形成が困難である。更に、屈曲部を有する蛍光ランプにとって最適な蛍光膜の形態は未だ結論が出ているとは言えず、その設計思想はまちまちである。それゆえ様々な設計思想及びそれを実現するための蛍光膜形成方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−128826号公報
【特許文献2】特開2004−186147号公報
【特許文献3】特開平8−339781号公報
【特許文献4】特開2007−273263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来提案されてきた設計思想でも近年要求される蛍光ランプ全体の光束を満足するものではなかった。さらに、蛍光膜形成方法もコスト面で改善の余地があり、形成される蛍光膜は輝度ムラがあるなど特性が悪く品質も安定していなかった。
【0008】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、屈曲部を有する蛍光ランプにおいて、従来よりもランプ全体の光束が改善された蛍光ランプを提供することであり、さらには、高品質の蛍光ランプを低コストで安定して製造できる蛍光ランプの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、屈曲部の厚膜部と薄膜部の膜厚の比を調整し、透光性気密容器全体における膜厚のばらつきを抑えることでランプ全体の光束が改善されること、従来よりも少ない蛍光体塗布重量で高光束の蛍光ランプが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の特徴を有する。
【0010】
請求項1に記載の蛍光ランプは、透光性気密容器と、該透光性気密容器内に形成された蛍光体層と、該透光性気密容器内に封入された放電媒体と、電極とを具備する蛍光ランプであって、前記透光性気密容器は、1つ又は複数の屈曲部を有し、前記蛍光体層は、膜厚の最小値と最大値の比が0.63以上1.0以下であり、且つ膜厚の変動係数が20%以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の蛍光ランプは、請求項1に記載の蛍光ランプであって、前記透光性気密容器は、前記屈曲部が螺旋構造であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の蛍光ランプは、請求項2に記載の蛍光ランプであって、前記透光性気密容器は、前記屈曲部が第一の螺旋構造と、前記第一の螺旋構造と同じ旋回軸を有し旋回方向が前記第一の螺旋構造と反対である第二の螺旋構造と、前記第一及び第二の螺旋構造を接続する折り返し部とからなる二重螺旋構造であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の蛍光ランプは、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蛍光ランプであって、前記蛍光体層は、蛍光体の平均粒径が2μm以上8μm以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の蛍光ランプの製造方法は、透光性気密容器と、該透光性気密容器内に形成された蛍光体層と、該透光性気密容器内に封入された放電媒体と、電極とを具備し、該透光性気密容器が屈曲部を有する蛍光ランプの製造方法であって、前記透光性気密容器に蛍光体層形成用懸濁液を注入する注入工程と、前記注入工程で注入された蛍光体層形成用懸濁液を排出する排出工程と、前記透光性気密容器を自転及び公転させながら前記透光性気密容器内に残留する蛍光体層形成用懸濁液を移動させる均質化工程と、前記透光性気密容器を自転及び公転させながら乾燥させる乾燥工程とからなる蛍光体層形成工程を有することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の蛍光ランプの製造方法は、請求項5に記載の蛍光ランプの製造方法であって、前記注入工程で注入される蛍光体層形成用懸濁液中の蛍光体重量が、前記透光性気密容器の内容積1cmあたり0.2g以上0.45g以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛍光ランプは上記特徴を備えるため、屈曲部を有する蛍光ランプにおいて、ランプ全体の光束が改善される。また、本発明の蛍光ランプの製造方法によって、低コストで品質の高い蛍光ランプを安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の屈曲部が二重螺旋構造である蛍光ランプの一部を切り欠いた状態の図である。
【図2】本発明のU字構造の蛍光ランプの一部を切り欠いた状態の図である。
【図3】本発明の環状の蛍光ランプの一部を切り欠いた状態の図である。
【図4】本発明の蛍光ランプにおける蛍光体層の膜厚測定箇所を示す図である。
【図5】本発明の蛍光ランプにおいて、旋回軸Aを通り透光性気密容器の屈曲部と直交する平面によって切断される、透光性気密容器の断面を示す図である。
【図6】本発明の蛍光ランプの製造方法において、注入工程から排出工程の概要を示す図である。
【図7】本発明の蛍光ランプの製造方法において、均質化工程から乾燥工程の概要を示す図である。
【図8】実施例1の蛍光ランプの膜厚分布を模式的に示す図である。
【図9】実施例7の蛍光ランプの膜厚分布を模式的に示す図である。
【図10】実施例12の蛍光ランプの膜厚分布を模式的に示す図である。
【図11】比較例1の蛍光ランプの膜厚分布を模式的に示す図である。
【図12】蛍光ランプにおける薄膜部膜厚t1と厚膜部膜厚t2との比t1/t2と相対光束との関係を示す図である。
【図13】蛍光ランプにおける蛍光体塗布重量と相対光束の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第一の実施形態である屈曲部が二重螺旋構造である蛍光ランプ1を示す一部切欠正面図である。
【0020】
蛍光ランプ1は、透光性気密容器11と、電極12とからなり、透光性気密容器11の内面には蛍光体層13が形成され、透光性気密容器11の内部は放電媒体14が封入されている。
【0021】
透光性気密容器11はその全体が屈曲部からなり、全体として二重螺旋構造を形成している。より詳しくは、第一の螺旋構造111と、第二の螺旋構造112と、両者を接続する折り返し部113からなり、第一の螺旋構造111と第二の螺旋構造112は同一の旋回軸Aを共有し、異なる複数の周回部を有している。また、両端の開口部114(以下端部とも呼ぶ)には電極12が取り付けられる。
【0022】
第一及び第二の螺旋構造の旋回半径rは、60Wの一般電球の代替品(約13W品)の場合14〜20mm程度が好ましい。上記範囲であれば代替がスムーズであるし、代替後の違和感もない。
【0023】
蛍光ランプ全体の旋回軸A方向の長さLは、60Wの一般電球の代替品の場合、65〜70mm程度が好ましい。上記範囲であれば代替後の違和感がない。
【0024】
透光性気密容器の外径doは7.5〜10mm程度、内径diは5.5〜8mm程度が、60Wの一般電球の代替品の場合好ましい。上記範囲であれば強度を損なうことなく加工もしやすい。
【0025】
隣り合う周回部間の隙間sは、旋回軸A方向に平行な一つの周回部(図1では111a〜b及び112a〜bと各螺旋構造に2つ、計4つ描かれている)の下端と隣の周回部の上端との距離である。この値が大きいと発光時の輝度むらの原因となるので、sは3mm以下であることが好ましい。
【0026】
隣り合う周回部の間隔pは、旋回軸A方向に平行な各周回部間の距離であり、図1では各周回部における透光性気密容器の中心間の距離で表されている。実際に計測する際には各周回部の下端間の距離を旋回軸A方向に平行にノギス等で測定するなどすればよい。透光性気密容器の外径doが8.5mm、周回部間の隙間sが1.2mmならばpは9.7mmとなる。
【0027】
螺旋角度αは、第一及び第二の螺旋構造が旋回軸Aに直交する水平方向となす角度であり、10〜20°程度が好ましい。
【0028】
蛍光体層13を形成する蛍光体の好ましい平均粒径は2μm以上8μm以下、より好ましくは4μm以上7μm以下である。また、蛍光体層13の好ましい膜厚は10μm以上60μm以下、より好ましくは15μm以上55μm以下である。薄膜部膜厚t1と厚膜部膜厚t2の比t1/t2の好ましい範囲は0.63以上1.0以下、より好ましくは0.67以上1.0以下、さらに好ましくは0.70以上1.0以下である。また、蛍光体層13の膜厚の変動係数の好ましい範囲は20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。上記の範囲に調節することで水銀からの紫外線を効率良く吸収し、且つ蛍光体から放出される可視光が蛍光ランプ外部に効率良く取り出される、すなわちランプ光束が高まる。
【0029】
蛍光体層13に使用する蛍光体は従来蛍光ランプに使用されてきた蛍光体を適宜選択可能である。例えば白色蛍光体としてCa10(POFCl:Sb,Mn、等、青色蛍光体として(Sr,Ca,Ba)10(POCl:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)Al1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)等、緑色蛍光体としてLaPO:Ce,Tb、ZnSiO:Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)Al1017:Eu,Mn、(Ce,Tb)(Mg,Zn,Mn)Al1119等、赤色蛍光体としてY:Eu、Y(P,V)O:Eu、3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mn等
及び、上記各色蛍光体の混合蛍光体を用いることができる。
【0030】
放電媒体14はアルゴン、ネオン等の希ガスと、水銀蒸気からなる。希ガスの放電によって水銀原子が励起され、励起された水銀原子が基底状態に戻る際に紫外線を放出し、放出された紫外線が蛍光体層13中の蛍光体を励起し、蛍光体層から可視光が放出される。放電媒体14の封入によって透光性気密容器11の内部圧は500〜600Pa程度に調整される。
【0031】
この他に、透光性気密容器全体を覆う外管バルブ(図示せず)を設けてもよい。外管バルブの内壁に例えば炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン等の光拡散剤を塗布して発光時の輝度むら低減を図ることもできる。
【0032】
(実施の形態2)
図2は、本発明の第二の実施形態である二箇所の屈曲部を有し、他は直線状であるU字構造の蛍光ランプ2を示す一部切欠正面図である。
【0033】
蛍光ランプ2は、透光性気密容器21と、電極22とからなり、透光性気密容器21の内面には蛍光体層23が形成され、透光性気密容器21の内部は放電媒体24が封入されている。透光性気密容器21は二箇所の屈曲部211、212を有し、結果旋回軸Aを二本有することになる(図では紙面に垂直方向)。
【0034】
(実施の形態3)
図3は本発明の第三の実施形態である屈曲部が環状構造である蛍光ランプ3を示す一部切欠平面図である。
【0035】
蛍光ランプ3は、透光性気密容器31、電極(図示せず)を格納する口金32、及び口金32と電源を接続する端子ピン33とからなり、透光性気密容器31の内面には蛍光体層34が形成され、透光性気密容器31の内部は放電媒体35が封入されている。透光性気密容器31はその全体が屈曲部からなり、全体として環状構造を形成している。図では円形を成しているが、多角形であってもよい。
【0036】
(蛍光体層の形成)
以下、実施の形態1を例にとって本発明の実施の形態に係る蛍光体層を形成する工程について説明する。
【0037】
本発明の実施の形態に係る蛍光体層を形成する工程は(a)第一の注入工程、(b)第一の排出工程、(c)第二の注入工程、(d)第二の排出工程、(e)均質化工程、(f)乾燥工程を含んでいる。
【0038】
(a)第一の注入工程
図6に示すように、第一の注入工程では、開口部61、62を下方にし、開口部の一方(図では61)から蛍光体懸濁液64を折り返し部63を超えるまで注入する。
【0039】
(b)第一の排出工程
その後蛍光体懸濁液64の注入を止め、前記開口部の一方から蛍光体懸濁液を排出する。排出時間は蛍光体層にならない余剰の蛍光体懸濁液を凡そ除去できれば良く、20〜40秒程度で良い。排出時間が長すぎると透光性気密容器内の膜厚が不均一な状態で乾燥し始めるし、短すぎると残留する蛍光体懸濁液が多すぎて以降の工程に差障りが生じる。
【0040】
(c)第二の注入工程
蛍光体懸濁液を吸い上げる開口部を入れ替え(図5では62に替える)、第一の注入工程同様蛍光体懸濁液64を折り返し部63を超えるまで注入する。
【0041】
(d)第二の排出工程
その後第一の排出工程同様に余剰の蛍光体懸濁液を排出する。
【0042】
(e)均質化工程
第一及び第二の排出工程終了後、図7に示すように透光性気密容器72を自転及び公転させて残留した蛍光体懸濁液を移動させ、内壁上の蛍光体懸濁液の分布を均質化させる。自転及び公転は図7の自公転・温度制御部71によってなされる。公転角θは透光性気密容器の折り返し部が上方に向く角度を0°とし、時計回りを正方向とする。また、自転の方向は透光性気密容器の折り返し部と反対方向の端部に向かって時計回りを正方向、反時計回りを負方向とする。
【0043】
均質化工程は、さらに三つの工程に分けられる。まず自転をさせながら公転角θ=180°まで正方向に公転させ、残留した蛍光体懸濁液を折り返し部に徐々に集中させる。このときの自転の方向は、透光性気密容器の旋回方向が折り返し部に向かって時計回りであるなら正方向を選択する。次に公転角θ=100°まで負方向に公転させる。公転角θ=100°に到達し、透光性気密容器の蛍光体懸濁液が折り返し部で第一螺旋部と第二螺旋部に略2分割された時点で正方向の自転回転を負方向に逆転し、引き続き公転角θ=0°まで負方向に公転させながら余剰蛍光体懸濁液を透光性気密容器の外部に排出する。
【0044】
(f)乾燥工程
均質化工程後、外部ヒーターにより透光性気密容器全体を加温、また開口部から温風を送り込み、乾燥を開始する。自転は均質化工程から引き続き行う。公転角θ=180°まで正方向に公転させ、そのまま引き続き折り返し公転角θ=0°まで負方向に公転させる。公転角θ=0°まで引き返した後、そのまましばらく自転をさせ温風を送り込みながら乾燥工程を完了させる。
【0045】
(蛍光体懸濁液)
蛍光体懸濁液は、蛍光体、分散媒及び結着剤からなり、目的に応じて界面活性剤等の添加剤を加えても良い。分散媒は増粘剤/溶媒からなり、例えば油性ならばニトロセルロース/酢酸ブチル等、水性ならポリエチレンオキシド(PEO)/水等を用いることができる。結着剤はアルミナ、アルカリ土類ホウ酸塩、アルカリ土類ピロリン酸塩等を用いることができる。
【0046】
第一の注入工程及び第二の注入工程で注入される蛍光体懸濁液中の蛍光体重量は、透光性気密容器の内容積1cm辺り0.2g以上0.45g以下が好ましい。より好ましくは、0.25g以上0.4g以下である。上記範囲では屈曲部の薄膜部の膜厚t1と厚膜部の膜厚t2との比が、ランプ全体の光束を改善させるよう調節し易い。多すぎるとコスト上不利であるし、少なすぎれば膜厚分布の調整がしづらくなる。60Wの一般電球の代替品だとその内容積が約17cmなので4g〜8g程度投入すると良い。
【実施例】
【0047】
以下実施例をもってより具体的な説明を行う。もちろん本発明は上記実施の形態や以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
<方法A>
[実施例1]
ビーカーに1.5%ポリエチレンオキシド(PEO)水溶液450gを投入し、撹拌機で撹拌しながら平均粒径6μmのLaPO:Ce,Tb蛍光体60g、平均粒径6μmのY:Eu蛍光体240g、アルミナ粉末(デグザ社製アロンC)9g、10%界面活性剤(プルロニック)5gを加えて、粘度が130mPa・sの蛍光体懸濁液を作製する。ここで、蛍光体の平均粒径は、空気透過法によるフィッシャー・サブ・シーブ・サイザー(F.S.S.S)を用いて測定した値である。60W一般電球代替品用の透光性気密容器(外径do=9mm、内径di=7mm、旋回方向時計回り、螺旋角度α=14.5°、周回部間の隙間s=2mm、隣り合う周回部の間隔p=12mm、旋回軸方向の長さ65mm、旋回半径r=27mm(最大値)、内容積約17cm)を、その開口部を下にして一方の開口部を蛍光体懸濁液の入ったポリ瓶に接続し、ポリ瓶内を加圧して毎秒約3cmの速さで蛍光体懸濁液を折り返し部まで注入する。蛍光体懸濁液が折り返し部まで到達したら、常圧に戻して開口部とポリ瓶の接続を解除し、約60秒間静置して蛍光体懸濁液を排出する。排出後、蛍光体懸濁液との接続を他方の開口部に切り替え、同様に注入、排出する。排出が終了したら透光性気密容器を図7の装置に取り付け、自転速度+20°/秒で自転させ、公転速度+10°/秒で公転角θ=180°まで回転させる。到達したらその場で1秒間自転させた後、公転速度−20°/秒で公転角θ=100°まで公転させる。到達したらその場で14.5秒間自転させた後、自転速度を−20°/秒にして蛍光体懸濁液を第一螺旋部と第二螺旋部に略等分に振り分ける。その後公転速度−1°/秒で公転角θ=90°まで公転させる。到達したらその場で9.5秒間自転させた後、公転速度−1°/秒で公転角θ=60°まで公転させる。到達したらその場で6秒間自転させた後、公転速度−10°/秒で公転角θ=0°まで公転させる。到達したらその場で6秒間自転させる。次に、ヒーターのスイッチを入れ、周囲の温度を80℃にする。自転速度を+20°/秒にし、公転速度+90°/秒で公転角θ=180°まで公転させる。到達したらその場で1秒間自転させた後、公転速度−10°/秒で公転角θ=150°まで公転させる。到達したら一方の開口部より温風(60℃)を1分間あたり1リットルで挿入を開始し、その場で1秒間自転させた後、公転速度−1°/秒で公転角θ=120°まで公転させる(以後温風挿入を行う開口部は30秒毎に切り替える)。到達したらその場で2秒間自転させた後、温風(60℃)を1分間あたり2リットルにし、自転速度を−20°/秒にし、公転速度−2°/秒で公転角θ=60°まで公転させる。到達したらその場で10秒間自転させた後、温風(60℃)を1分間あたり10リットルにし、公転速度−0.3°/秒で公転角θ=0°まで公転させる。到達したらその場で200秒間自転させ、蛍光体層を形成する。その後、600℃で10分間ベーキングを行って分散媒を揮発させ、排気、放電媒体の封入、電極の取り付けを行い、本発明の屈曲部が二重螺旋構造である蛍光ランプを得る。この蛍光ランプは、第一の螺旋構造、第二の螺旋構造共に、旋回軸の周りを一回転半(540°)旋回しており、旋回軸に直交する方向に蛍光ランプを観察すると、3つの周回部が認められる(図4)。蛍光体塗布重量は0.4gである。
【0049】
[実施例2]
実施例1の蛍光体量を230gに変更した以外は実施例1と同様にして、蛍光体塗布重量が0.3gであること以外実施例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0050】
[実施例3]
実施例1の蛍光体量を260gに変更した以外は実施例1と同様にして、蛍光体塗布重量が0.6gであること以外実施例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0051】
[実施例4]
実施例1の蛍光体量を290gに変更した以外は実施例1と同様にして、蛍光体塗布重量が0.8gであること以外実施例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0052】
[実施例5]
実施例1の蛍光体量を320gに変更した以外は実施例1と同様にして、蛍光体塗布重量が1.0gであること以外実施例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0053】
[実施例6]
実施例1の蛍光体懸濁液の排出時間を30秒に変更した以外は実施例1と同様にして、膜厚の分布以外実施例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0054】
<方法B>
[実施例7]
実施例1と同じ60W一般電球代替品用の透光性気密容器に、実施例1同様に蛍光体懸濁液を注入、排出する。排出が終了したら図7の装置に透光性気密容器を取り付け、自転速度+20°/秒で自転させ、公転速度+90°/秒で公転角θ=180°まで公転させる。到達したらその場で35秒間自転させた後、公転速度−20°/秒で公転角θ=100°まで公転させる。到達したらその場で24秒間自転させた後、自転速度を−20°/秒にして蛍光体懸濁液を第一螺旋部と第二螺旋部に略等分に振り分ける。その後公転速度−1°/秒で公転角θ=90°まで公転させる。到達したらその場で27秒間自転させた後、公転速度−1°/秒で公転角θ=60°まで回転させる。到達したらその場で18秒間自転させた後、公転速度−10°/秒で公転角θ=0°まで公転させる。到達したらその場で12秒間自転させる。また、ヒーターのスイッチを入れ、周囲の温度を80℃にする。公転速度+90°/秒で公転角θ=180°まで公転させる。到達したらその場で10秒間自転させた後、公転速度−10°/秒で公転角θ=150°まで公転させる。到達したら開口部より温風(60℃)を1分間あたり1リットルで挿入を開始し、その場で1秒間自転させた後、公転速度−1°/秒で公転角θ=120°まで公転させる(以後温風挿入を行う開口部は30秒毎に切り替える)。到達したらその場で2秒間自転させた後、温風(60℃)を1分間あたり2リットルにし、公転速度−2°/秒で公転角θ=90°まで公転させる。到達したらその場で10秒間自転させた後、温風(60℃)を1分間あたり10リットルにし、公転速度−0.3°/秒で公転角θ=0°まで公転させる。到達したらその場で200秒間自転させ、蛍光体層を形成する。その後、600℃で10分間ベーキングを行って分散媒を揮発させ、排気、放電媒体の封入、電極の取り付けを行い、本発明の屈曲部が二重螺旋構造である蛍光ランプを得る。蛍光体塗布重量は0.4gである。
【0055】
[実施例8]
実施例7の蛍光体量を230gに変更した以外は実施例7と同様にして、蛍光体塗布重量が0.3gであること以外実施例7と同等である蛍光ランプを得る。
【0056】
[実施例9]
実施例7の蛍光体量を260gに変更した以外は実施例7と同様にして、蛍光体塗布重量が0.6gであること以外実施例7と同等である蛍光ランプを得る。
【0057】
[実施例10]
実施例7の蛍光体量を290gに変更した以外は実施例7と同様にして、蛍光体塗布重量が0.8gであること以外実施例7と同等である蛍光ランプを得る。
【0058】
[実施例11]
実施例7の蛍光体量を320gに変更した以外は実施例7と同様にして、蛍光体塗布重量が1.0gであること以外実施例7と同等である蛍光ランプを得る。
【0059】
<方法C>
[実施例12]
実施例1と同じ60W一般電球代替品用の透光性気密容器に、実施例1と同様に蛍光体懸濁液を注入、排出する。排出が終了したら図7の装置に透光性気密容器を取り付け、実施例1同様蛍光体懸濁液を均質化させる。その後ヒーターのスイッチをいれ、周囲の温度を80°にする。自転速度を+20°/秒にし、公転速度+90°/秒で公転角θ=180°まで公転させる。到達したらその場で1秒間自転させた後、公転速度−10°/秒で公転角θ=150°まで公転させる。到達したら開口部より温風(60℃)挿入を開始し、15秒間で1分間あたり10リットルまで増量する。以後、温風挿入したまま実施例1と同様に蛍光体層を形成する。その後、600℃で10分間ベーキングを行って分散媒を揮発させ、排気、放電媒体の封入、電極の取り付けを行い、本発明の屈曲部が二重螺旋構造である蛍光ランプを得る。蛍光体塗布重量は0.4gである。
【0060】
[実施例13]
実施例12の蛍光体量を230gに変更した以外は実施例12と同様にして、蛍光体塗布重量が0.3gであること以外実施例12と同等である蛍光ランプを得る。
【0061】
[実施例14]
実施例12の蛍光体量を260gに変更した以外は実施例12と同様にして、蛍光体塗布重量が0.6gであること以外実施例12と同等である蛍光ランプを得る。
【0062】
[実施例15]
実施例12の蛍光体量を290gに変更した以外は実施例12と同様にして、蛍光体塗布重量が0.8gであること以外実施例12と同等である蛍光ランプを得る。
【0063】
[実施例16]
実施例9の蛍光体量を320gに変更した以外は実施例12と同様にして、蛍光体塗布重量が1.0gであること以外実施例12と同等である蛍光ランプを得る。
【0064】
<方法Z>
[比較例1]
実施例1と同様に蛍光体懸濁液(但し蛍光体量は320gとする)と透光性気密容器を用意する。透光性気密容器の開口部を上にして両方の開口部から蛍光体懸濁液を毎秒約3cmの速さで注入し、透光性気密容器全体を蛍光体懸濁液で満たす。その後開口部を下向きにし、60秒間静置して開口部から蛍光体懸濁液を排出する。排出後、ヒーターのスイッチを入れて周囲の温度を80℃にし、温風(60℃)を1分間あたり1リットルで挿入しながら20分間静置して乾燥させ、蛍光体層を形成する。その後600℃で10分間ベーキングを行って分散媒を揮発させ、排気、放電媒体の封入、電極の取り付けを行い、比較用の屈曲部が二重螺旋構造である蛍光ランプを得る。蛍光体塗布重量は1.2gである。
【0065】
[比較例2]
比較例1の蛍光体量を300gに変更した以外は比較例1同様にして、蛍光体塗布重量が1.0gであること以外比較例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0066】
[比較例3]
比較例1の蛍光体量を330gに変更した以外は比較例1同様にして、蛍光体塗布重量が1.4gであること以外比較例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0067】
[比較例4]
比較例1の蛍光体量を350gに変更した以外は比較例1同様にして、蛍光体塗布重量が1.6gであること以外比較例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0068】
[比較例5]
比較例1の蛍光体量を380gに変更した以外は比較例1同様にして、蛍光体塗布重量が2.0gであること以外比較例1と同等である蛍光ランプを得る。
【0069】
表1は、実施例1、9、14及び比較例1について、各段の測定箇所における膜厚t、その平均値<t>、最小値t1、最大値t2、t1/t2、及び膜厚の変動係数CV(t)をまとめたものである。膜厚の測定箇所は、第一の螺旋構造において旋回軸周りに450°旋回し、旋回軸を含む平面によって切断された縦断面(図4の41)を第一断面とし、同様に第二の螺旋構造において270°における縦断面を第二断面(図4の42)、第一の螺旋構造において90°における縦断面を第三断面(図4の43)とする。各断面の様子を図5に示す。膜厚は各段の断面を走査電子顕微鏡で撮影してφ=0°から22.5°毎に測定しており、これらから<t>、t1、t2、t1/t2及びCV(t)を求めている。また、図8〜10及び図11は、それぞれ実施例1、7、12及び比較例1の膜厚分布を模式的に表したものである。
【0070】
表2は、実施例1〜16、比較例1〜5について、蛍光体塗布重量、膜厚の平均値<t>、最小値t1、最大値t2、t1/t2、膜厚の変動係数CV(t)、及びランプ全体の光束をまとめたものである。光束は積分球によって測定し、比較例1の光束を100%として相対値(相対光束)で示してある。図12は、膜厚の平均値<t>が一定のものについてt1/t2と相対光束との関係を示す。図13は、方法A、B、C(いずれも本発明の方法)、及びZ(従来の方法)について、蛍光体塗布重量と相対光束の関係を示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1、2及び図8〜11から、本発明の実施例において、膜厚の最小値と最大値の比t1/t2が0.63以上1.0以下であり、膜厚の変動係数CV(t)が20%以下であって、膜厚が均一な蛍光ランプが得られることがわかる。また、図12から、膜厚比t1/t2が0.63以上1.0以下の範囲でランプ光束(相対光束)は高くなっており、蛍光ランプの膜厚を均一にすることによって蛍光ランプの光束が改善されることがわかる。さらに、図13から、蛍光体塗布重量が同じ場合、本発明の製造方法(方法A、B、C)で得られる蛍光ランプは、従来の製造方法(方法Z)で得られる蛍光ランプに比べて、ランプ光束(相対光束)が高いことがわかる。また、ランプ光束(相対光束)が同じ場合、本発明の製造方法(方法A、B、C)で得られる蛍光ランプは、従来の製造方法(方法Z)で得られる蛍光ランプに比べて、蛍光体塗布重量を少なくすることができ、製造コストを削減することができる。そして、本発明の製造方法によって従来よりも少ない蛍光体塗布重量で高光束の蛍光ランプを得ることができる。さらに、本発明の製造方法によって膜厚が均一な蛍光ランプが得られることから、蛍光ランプ全体の輝度ムラを低減することができ、品質の高い蛍光ランプを安定して製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の蛍光ランプは、家庭用または業務用の照明等に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1:蛍光ランプ
11:透光性気密容器
111:第一の螺旋構造
112:第二の螺旋構造
113:折り返し部
114:開口部
12:電極
13:蛍光体層
14:放電媒体
2:蛍光ランプ
21:透光性気密容器
211、212:屈曲部
213:開口部
22:電極
23:蛍光体層
24:放電媒体
3:蛍光ランプ
31:透光性気密容器
32:口金
33:端子ピン
34:蛍光体層
35:放電媒体
41:周回部1段目
42:周回部2段目
43:周回部3段目
61:蛍光体懸濁液に接続された一方の開口部
62:他方の開口部
63:折り返し部
64:注入された蛍光体懸濁液
71:自公転・温度制御部
72:透光性気密容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性気密容器と、該透光性気密容器内に形成された蛍光体層と、該透光性気密容器内に封入された放電媒体と、電極とを具備する蛍光ランプであって、
前記透光性気密容器は、1つ又は複数の屈曲部を有し、前記蛍光体層は、膜厚の最小値と最大値の比が0.63以上1.0以下であり、且つ膜厚の変動係数が20%以下であることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
前記透光性気密容器は、前記屈曲部が螺旋構造であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光ランプ。
【請求項3】
前記透光性気密容器は、前記屈曲部が複数の周回部からなる第一の螺旋構造と、前記第一の螺旋構造と同じ旋回軸を有しかつ前記第一の螺旋構造と異なる複数の周回部からなる第二の螺旋構造と、前記第一及び第二の螺旋構造を接続する折り返し部とからなる二重螺旋構造であることを特徴とする請求項2に記載の蛍光ランプ。
【請求項4】
前記蛍光体層は、蛍光体の平均粒径が2μm以上8μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蛍光ランプ。
【請求項5】
透光性気密容器と、該透光性気密容器内に形成された蛍光体層と、該透光性気密容器内に封入された放電媒体と、電極とを具備し、該透光性気密容器が屈曲部を有する蛍光ランプの製造方法であって、
前記透光性気密容器に蛍光体層形成用懸濁液を注入する注入工程と、
前記注入工程で注入された蛍光体層形成用懸濁液を排出する排出工程と、
前記透光性気密容器を自転及び公転させながら前記透光性気密容器内に残留する蛍光体層形成用懸濁液を移動させる均質化工程と、
前記透光性気密容器を自転及び公転させながら乾燥させる乾燥工程とからなる蛍光体層形成工程を有することを特徴とする蛍光ランプの製造方法。
【請求項6】
前記注入工程で注入される蛍光体層形成用懸濁液中の蛍光体重量が、前記透光性気密容器の内容積1cmあたり0.2g以上0.45g以下であることを特徴とする請求項5に記載の蛍光ランプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−198768(P2010−198768A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39359(P2009−39359)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】