説明

蛍光体、発光デバイス及び結晶化ガラス

【課題】本発明は、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、従来の樹脂の劣化による発光デバイスの発光強度劣化や短寿命化を抑制できる蛍光体、発光デバイス及び結晶化ガラスを提供する。
【解決手段】発光デバイス20は、カソードリード端子1とアノードリード端子2とを備えたステム3と、アノードリード端子2に接続された青色発光ダイオードチップ4と、青色発光ダイオードチップ4とカソードリード端子1を接続する金属線5と、ステム3と共に青色発光ダイオードチップを気密封止するように固定され、青色発光ダイオードチップの上方に窓部6が形成された収納容器7と、収納容器7の窓部6に取り付けられた結晶化ガラスかなる蛍光体8とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体、発光デバイス及び結晶化ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1993年に発表された青色の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)により光の3原色RGB(R:赤色、G:緑色、B:青色)のLEDが揃い、これらのLEDを並べて用いることによって白色光を得ることが提案されている。このうち、緑色の発光デバイスとしては、燐化ガリウム等の緑色発光ダイオードチップを用いた緑色発光デバイス(例えば、特許文献1参照)や、300〜500nmの光を発する半導体発光素子からの光を緑色発光蛍光体に照射して緑色を得る発光デバイス(例えば、特許文献2)等が開示されている。
【0003】
前者の場合、図4に示すような砲弾型の緑色発光ダイオード30は、リード21、22、緑色発光ダイオードチップ(緑色LEDチップ)23、リード細線24を、樹脂からなる封止材25で封止した構造を有している。また、後者の場合は、緑色発光ダイオードチップ23の替わりに300〜500nmの光を発する半導体発光素子(例えば青色LEDチップ)を使用し、樹脂からなる封止材5中に粉末状の緑色発光蛍光体(図示せず)を分散させた構造を有している。
【0004】
また、バルク状の蛍光体として、一部ガラス化した焼結体で析出結晶がSrAlである蛍光体が開示されている(非特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平7−176789号公報
【特許文献2】特開2005−68412号公報
【非特許文献1】Journal of Ecotechnology Research,9(2),137−142(2003)「Sr−Al−B−O系におけるEu付活蛍光体の評価」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載の緑色発光デバイスは、封止材として樹脂を使用しているため、長期使用時に、この樹脂がLEDチップや蛍光体の発熱、あるいはそれらから発せられる光によって、徐々に劣化して変色し、それが緑色発光デバイスの発光強度や寿命を低下させる原因となっている。
【0006】
また、特許文献2の緑色発光デバイスの場合、粉末状の蛍光体を分散させた樹脂製の封止材がLEDチップを覆うように固定されるため、その樹脂の塗布条件によっては封止材の厚みにばらつきが生じやすく、それが発光色の色むら原因となっている。
【0007】
また、非特許文献3の黄緑色のバルク状蛍光体は、蛍光強度が低く、また、蛍光のピーク波長も520nmよりも短波長側に存在し(508nm)、所望の緑色の蛍光は得られていない。
【0008】
本発明は、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、従来の樹脂の劣化による発光デバイスの発光強度劣化や短寿命化を抑制できる蛍光体、発光デバイス及び結晶化ガラスを提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、発光色の色むらを抑制できる蛍光体、発光デバイス及び結晶化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の蛍光体は、単一の無機材料からなり、ピーク波長が300〜490nmの励起光を入射すると、ピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、発光光の色度が国際照明委員会(CIE)のXYZ表色系のxy色度座標上において、(x,y)=(0.15,0.2)、(0.18,0.2)、(0.37,0.55)、(0.36,0.62)、(0.08,0.82)、(0.02,0.78)、(0,0.6)、(0.02,0.44)の座標点で囲まれた範囲にあることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、紫外光線又は青色の可視光線からなる励起光を吸収してピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、しかも励起光の一部が透過することにより、透過励起光と蛍光とが混色し、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光、すなわち国際照明委員会(CIE)のXYZ表色系のxy色度座標上において、(x,y)=(0.15,0.2)、(0.18,0.2)、(0.37,0.55)、(0.36,0.62)、(0.08,0.82)、(0.02,0.78)、(0,0.6)、(0.02,0.44)の座標点で囲まれた範囲にある光を発する蛍光体となる。
【0012】
また、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、従来の樹脂の劣化による発光デバイスの発光強度劣化や短寿命化を抑制できる。すなわち、蛍光体が有機物質である樹脂を含まず、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れた単一の無機材料からなり、これを発光デバイスに使用した場合、樹脂を使用せずにデバイスを構成できるため、従来の発光デバイスにおいて見られるようなLEDチップ等の励起光源や蛍光体自身の発熱、あるいはそれらから発せられる光による樹脂の着色や劣化がない。その結果、発光デバイスの発光強度が劣化し難く寿命が長くなる。また、高温の厳しい環境下においても、例えば発光デバイスの収納容器にメタライズ金属等の無機系の接着剤でこれを固定するような場合でも、発光デバイスの発光特性が変化し難くなる。また、太陽光等からの紫外線に曝されても、樹脂を含まないため樹脂による着色や劣化がない。また、長期間の高温高湿下(2000時間、温度85℃、湿度85%)の厳しい環境下においても、発光デバイスの発光特性が変化し難くなる。
【0013】
尚、発光光の色度の好ましい範囲は、(x,y)=(0.15,0.2)、(0.18,0.2)、(0.37,0.55)、(0.36,0.62)、(0.02,0.44)の座標点で囲まれた範囲である。発光光の色度のさらに好ましい範囲は、(x,y)=(0.15,0.2)、(0.18,0.2)、(0.37,0.55)、(0.3,0.55)の座標点で囲まれた範囲である。
【0014】
また、本発明の蛍光体は、大面積の板状体であれば、その板状体の下面に青色LEDを複数個設置することによって、発光機能と拡散機能を兼ね備えた大面積面発光デバイスの構成部材として利用することが可能である。
【0015】
また、本発明の蛍光体は、青色発光ダイオードチップ上に固定せずにカバーガラスとして用いるだけで、緑色又は青味がかった緑色の発光光を発し、シンプルな構造の発光デバイスが得られる。
【0016】
また、本発明の蛍光体は、板形状を有していると、厚みを一定にすることが容易となり、均質な発光光を得ることができる。また、厚みを変化させるだけで、励起光強度と蛍光強度とのバランスを自由に変化させることができるため、所望の緑色又は青味がかった緑色の発光光が得られる。
【0017】
上記した構成において、蛍光体の肉厚が0.1mm〜2mmであると、緑色又は青味がかった緑色の発光光が得られるため好ましい。肉厚が0.1mmよりも薄いと、励起光に対する蛍光強度が小さく、全体として青みが強く緑色光が得られ難い。肉厚が2mmよりも厚いと、励起光及び蛍光強度共に低下して発光強度が低くなる。より好ましい肉厚は、0.1〜1mmであり、さらに好ましくは0.2mm〜0.6mmである。
【0018】
本発明の蛍光体は、アルカリ土類シリケート結晶を析出してなる結晶化ガラスからなり、前記アルカリ土類シリケート結晶がEu2+を含有すると、Eu2+が発光中心となり、紫外光線又は青色の可視光線からなる励起光を吸収してピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、しかも励起光の一部が透過することにより、透過励起光と蛍光とが混色し、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光を発する蛍光体となる。
【0019】
また、本発明の蛍光体は、蛍光スペクトルが520nmよりも短波長成分を含有していてもよい。
【0020】
また、本発明の蛍光体は、非晶質ガラスを熱処理することによってアルカリ土類シリケート系結晶を析出する結晶化ガラスからなると、アルカリ土類シリケート系結晶が結晶化ガラスのマトリックスガラス中に泡を巻き込むことなく分散して存在する。そのため、蛍光や透過励起光の一部があらゆる方向に散乱して、蛍光体自身が散乱板の役目も果たし、緑色光が広角度に広がる。また、マトリックスガラス中又はマトリックスガラスと析出結晶の界面には、二種以上の異なる材料の複合体中又は異なる材料の界面に見られるような泡がないため、蛍光や透過励起光のうち、析出結晶によって散乱しない蛍光や透過励起光が透過しやすく、そのため発光効率が高くなる。
【0021】
また、本発明の蛍光体は、結晶化ガラスからなると、用途に応じて、任意形状、例えば、板形状、球形状、非球面レンズ形状、ロッド形状、円筒形状、ファイバー形状等に容易に成形して使用することが可能となる。
【0022】
尚、アルカリ土類シリケート系結晶とは、一般的にはMで表される結晶(M=Li、Na、K、Ca、等:M=Mg、Al、Ga、Si、Ge等)であり、アルカリ土類金属元素とSi元素が必須成分として含まれるものである。上記したアルカリ土類シリケート系結晶が、特に、メリライト族結晶(Ca(Al、Mg)[(Al、Si)])であると、520〜560nmのピーク波長を有する蛍光を発するため好ましい。メリライト族結晶には、オケルマナイト(CaMg(Si))、ゲーレナイト(CaAl(AlSiO))及びオケルマナイトとゲーレナイトとの固溶体であるメリライト(Ca(Al1−xMg)[(Al1−ySi]:0<x<1、0<y<1)があるが、特にオケルマナイト又はメリライトであることがより好ましい。また、オケルマナイト又はメリライトのCaの一部をLi、Na及びKからなる群から選択された少なくとも1種の元素で、及び/又はMgの一部をAl、Si、Ge及びGaからなる群から選択された少なくとも1種の元素で置換したアルカリ土類シリケート結晶固溶体であってもよい。
【0023】
発光中心となるEuは0.1〜10質量%含有することが好ましい。Euの含有量が0.1質量%よりも少ないと、発光中心成分としての役割を果たし難く、蛍光強度が充分でない。また、10質量%よりも多いと、濃度消光により発光効率が低くなるため好ましくない。Euの好ましい範囲は1〜8重量%であり、より好ましくは3〜6質量%である。
【0024】
本発明の蛍光体は、例えば、質量%で、SiO+B+Al+GeO+Ga 30〜60%、CaO+MgO 35〜65%、LiO+NaO+KO+SrO+BaO+Sc 0〜20%、Eu 0.1〜10%含有してなる結晶化ガラスからなることが好ましい。
【0025】
また、本発明の蛍光体は、質量%でSiO 30〜50%、Al0〜15%、GeO 0〜20%、Ga 0〜15%、CaO 30〜50%、MgO 10〜20%、LiO+NaO+KO+SrO+BaO+Sc 0〜20%、Eu 0.1〜10%含有してなる結晶化ガラスからなることがより好ましい。
【0026】
次に、本発明の結晶化ガラスの組成を限定した理由を次に示す。
【0027】
SiO、B、Al、GeO、Gaは、ガラスの網目形成酸化物で、母ガラス作成時に失透を抑制する成分であり、SiO、B、Al、GeO、Gaの含有量は合量で30〜60質量%であることが好ましい。SiO、B、Al、GeO、Gaの合量が30質量%よりも少ないとガラス化せず、60質量%よりも多いと所望の結晶が析出しにくくなる。SiO、B、Al、GeO、Gaの合量の好ましい範囲は、40〜50質量%である。SiOの含有量は30〜50質量%であることが好ましい。SiOが30質量%よりも少ないとガラス化しにくく、50質量%よりも多いと所望の結晶が析出しにくくなる。Alの含有量は0〜15質量%であることが好ましい。Alの含有量が15質量%よりも多いと、ガラス化しにくくなるとともに、異種結晶が析出するため好ましくない。また、GeOはアルカリ土類シリケート系結晶に一部固溶し、結晶の析出量を増加させる効果を有し、その含有量は0〜20質量%であることが好ましい。また、GaはGeO2と同様、アルカリ土類シリケート系結晶に一部固溶し、結晶の析出量を増加させる効果を有するため、その含有量は0〜15質量%であることが好ましい。
【0028】
CaOとMgOは、オケルマナイト、メリライト等のアルカリ土類シリケート系結晶の構成成分であり、合量で35〜65質量%であることが好ましい。CaOとMgOの含有量が合量で35質量%よりも少ないと、アルカリ土類シリケート系結晶が析出しにくく、また、ガラス化しにくくなる。また65質量%よりも多いと、ガラス化しにくくなるとともにアルカリ土類シリケート系結晶が析出しにくくなり、化学的耐久性も低下するため好ましくない。CaOとMgOの合量の好ましい範囲は、40〜50質量%である。またCaOの含有量は30〜50質量%であることが好ましい。CaOが30質量%よりも少ない、あるいは、50質量%よりも多いと、オケルマナイトを析出しにくくなるため好ましくない。またMgOの含有量は、10〜20質量%であることが好ましい。MgOが10質量%よりも多い、あるいは、20質量%よりも多いと、オケルマナイトを析出しにくくなるため好ましくない。
【0029】
LiO、NaO、KO、SrO、BaO、Scは、結晶を粗大化させず、また析出結晶量を減少させずに網目修飾成分としてガラスの粘性を調整する成分であり、合量で0〜20質量%であることが好ましい。20質量%よりも多いと、ガラス成形時に多量の失透が発生しガラス化しにくく、結晶化のための熱処理を行っても失透が消失せず好ましくない。これらの成分は、アルカリ土類シリケート結晶中に固溶し、Eu2+の発光波長を調整することができる。
【0030】
TiOとZrOは、合量で5%以下であれば含有させることができるが、合量で5%よりも多くなると、ガラス成形時に失透するため好ましくない。
【0031】
また、本発明の発光デバイスは、上記構成の蛍光体を用いてなるため、紫外光線又は青色の可視光線からなる励起光を吸収してピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、しかも励起光の一部が透過することにより、透過励起光と蛍光とが混色し、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光を発する。また、蛍光体が有機物質である樹脂を含まず、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れた単一の無機材料からなり、しかも樹脂を使用せずに固定できるため、従来の発光デバイスにおいて見られるようなLEDチップや蛍光体の発熱、あるいはそれらから発せられる光による樹脂の着色や劣化がない。その結果、発光強度が劣化し難く、発光光の色の長期安定性に優れ、寿命が長くなる。
【0032】
また、本発明の結晶化ガラスは、アルカリ土類シリケート結晶を析出してなる結晶化ガラスからなり、前記アルカリ土類シリケート結晶がEu2+を含有するため、Eu2+が発光中心となり、紫外光線又は青色の可視光線からなる励起光を吸収してピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、しかも励起光の一部が透過することにより、透過励起光と蛍光とが混色し、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光を発する蛍光体となる。
【0033】
また、本発明の結晶化ガラスは、非晶質ガラスを熱処理することによってアルカリ土類シリケート系結晶を析出してなり、アルカリ土類シリケート系結晶が結晶化ガラスのマトリックスガラス中に泡を巻き込むことなく分散して存在している。そのため、本発明の結晶化ガラスを蛍光体として使用した場合には、蛍光や透過励起光の一部があらゆる方向に散乱して、蛍光体自身が散乱板の役目も果たし、発光光が広角度に広がる。また、マトリックスガラス中又はマトリックスガラスと析出結晶の界面には、二種以上の異なる材料の複合体中又は異なる材料の界面に見られるような泡がないため、蛍光や透過励起光のうち、析出結晶によって散乱しない蛍光や透過励起光が透過しやすく、そのため発光効率が高くなる。
【0034】
また、Eu2+を含む粉末蛍光体は、直接空気(酸素)に触れて酸化し、あるいは水分を吸って分解し、蛍光特性が劣化するため、必ず樹脂等でその表面を覆って空気(酸素)や水分と遮断することが必要であるが、本発明の結晶化ガラスは、Eu2+を含むアルカリ土類シリケート結晶がマトリックスガラス中に分散して存在するため、蛍光を発する結晶が直接空気(酸素)と触れることがなく、又水分を吸うことが無く、耐酸化性や耐水性(耐久性)に優れ、樹脂等でその表面を覆う必要がない。
【0035】
また、本発明の結晶化ガラスは、例えば次のようにして製造することができる。まず、Eu3+をEu2+に還元するために還元剤、例えば金属シリコン、金属アルミニウム等を酸化物換算で0.01〜3質量%含有させたガラス原料を上記した組成となるように溶融し、ロール成形、鋳込み成形体からの切り出し、スロットダウン成形、オーバーフロー成形、ダウンドロー成形、ダンナー成形、リドロー成形等の一般的なガラス板の成形方法によって任意形状、例えば、板形状、球形状、非球面レンズ形状、ロッド形状、円筒形状、ファイバー形状等の結晶性ガラスを作製する。次いで、この結晶性ガラスを、850〜1100℃、好ましくは950〜1050℃で0.5〜20時間熱処理すると、アルカリ土類シリケート系結晶を析出させることができる。また、結晶化後に、所望の形状に加工してもよい。また、Eu2+の原料として、Euの代わりにEuOを使用してもよい。
【発明の効果】
【0036】
以上のように本発明の蛍光体によれば、紫外光線又は青色の可視光線からなる励起光を吸収してピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、しかも励起光の一部が透過することにより、透過励起光と蛍光とが混色し、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光を発する。それを発光デバイスに用いた場合、樹脂を使用せずにデバイスを構成できるため、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、従来の樹脂の劣化によるデバイスの発光強度劣化や短寿命化を防止できる。
【0037】
また、本発明の発光デバイスによれば、紫外光線又は青色の可視光線からなる励起光を吸収してピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、しかも励起光の一部が透過することにより、透過励起光と蛍光とが混色し、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光を発する。また蛍光体は、有機物質である樹脂を含まず、耐熱性や、耐光性及び耐候性に優れた単一の無機材料からなり、しかも樹脂を使用せずに固定できるため、従来の発光デバイスにみられたようなLEDチップや蛍光体の発熱、あるいはそれらから発せられる光による樹脂の着色や劣化が無い。その結果、発光強度が劣化し難く、発光光の色の長期安定性に優れ、寿命が長くなる。
【0038】
また、本発明の結晶化ガラスによれば、アルカリ土類シリケート結晶を析出してなる結晶化ガラスからなり、前記アルカリ土類シリケート結晶がEu2+を含有するため、Eu2+が発光中心となり、紫外光線又は青色の可視光線からなる励起光を吸収してピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、しかも励起光の一部が透過することにより、透過励起光と蛍光とが混色し、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光を発する蛍光体となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
実施の形態に係る発光デバイス20は、例えば、図1に示すように、カソードリード端子1とアノードリード端子2とを備えたステム3と、アノードリード端子2に接続された青色発光ダイオードチップ4と、青色発光ダイオードチップ4とカソードリード端子1を接続する金属線5と、ステム3と共に青色発光ダイオードチップを気密封止するように固定され、青色発光ダイオードチップの上方に窓部6が形成された収納容器7と、収納容器7の窓部6に取り付けられた結晶化ガラスからなる蛍光体8とを具備している。そのため、この窓部6は、カバーガラスとしての機能だけでなく、蛍光体としての機能も果たすことができ、すなわち、青色発光ダイオードチップ4から発せられた青色の励起光9が、蛍光体8に入射され、励起光9の一部が蛍光体8によって吸収されて波長変換され、発光デバイス20から外部にピーク波長が520〜560nmの蛍光9aとなって発せられる。また、励起光9の一部も蛍光体8を透過し、透過励起光9bとなって発光デバイス20から外部に発せられる。ピーク波長が520〜560nmの蛍光9aと青色の透過励起光9bとが混色して、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光10を発する。
【0040】
また、蛍光体8は、金属製の収納容器7に接着剤11によって固定されるが、接着剤11が樹脂製接着剤であっても、励起光9が直接接着剤11に当たらないため、劣化しにくく、たとえ蛍光体8が発熱して接着剤11が変色しても、蛍光9aや透過励起光9bに悪影響を与えることはない。また接着剤11が低融点ガラスからなると、蛍光体8が発熱しても接着剤11が劣化することがないため好ましい。また、ステム3と収納容器7を、樹脂製又は低融点ガラスからなるシール材12で気密封止できるが、特に低融点ガラスからなるシール材12によって気密封止してなると、シール材12の劣化が少なく信頼性が高くなるため好ましい。また、蛍光体8は、0.1〜2mmの肉厚であると、励起光が透過しやすく、緑色又は青味がかった緑色の発光光が得られるため好ましい。肉厚の好ましい範囲は0.2〜1mmである。また、蛍光体8の端部は、欠けにくいように面取りしてあることが好ましい。
【実施例1】
【0041】
以下、実施例について説明する。
【0042】
表1は本発明の実施例1〜5を、表2は実施例6〜10を、表3は比較例1〜3を示す。また、図2は、実施例5において励起光を透過させた際の発光スペクトルを示すグラフである。図3は、実施例5について、肉厚を0.3mm〜0.6mmまで変化させたときの発光光の色度を示す図である。



【表1】


【表2】


【表3】

【0043】
実施例1〜10の結晶化ガラスは以下のようにして作製した。
【0044】
まず、表1〜2に示した組成となるように調合したガラス原料(還元剤としての金属SiをSiO換算で1質量%含む)をアルミナ坩堝に入れ、1500℃にて2時間溶融した後、融液をカーボン板上に流し出すことによって結晶性ガラスを得た。次いでこれらの結晶性ガラスを1000℃(結晶化温度)で5〜20時間熱処理することによって実施例1〜10の結晶化ガラスを得た。尚、比較例2は、実施例1の結晶性ガラス、比較例3は、実施例9の結晶性ガラスであって、ともに熱処理を行わなかった。
【0045】
また、比較例1の焼結体はJournal of Ecotechnology Research,9(2),137−142(2003)「Sr−Al−B−O系におけるEu付活蛍光体の評価」に記載の方法を用いて作製した。すなわち、SrCO粉末、Al(OH)粉末、B粉末、Eu粉末を出発原料とし、これらをモル比で(Sr1−xEu):Al:B=2:2:2(x=0.01)となるように混合した混合粉末をアルミナボートに入れて空気中で620℃で1時間仮焼成した。次いで、この仮焼成体を粉砕し、30MPaの圧力でペレット状に加圧成形し、これを白金板を敷いたアルミナボートに載せた。このアルミナボートをアルミナ反応管内に置き、アルミナ反応管内を真空ポンプにより脱気した後に、アルゴン−水素混合ガス(体積比でAr:H=95:5)フロー下で1000℃(焼成温度)で12時間固相反応を行った。その後300℃まで炉中で徐冷して比較例1の焼結体を得た。
【0046】
表1、2から分かるように、実施例1〜10ではオケルマナイト結晶が析出していた。また、図2に示すように、発光スペクトル測定において、実施例5では、540nmにピーク波長を持つ蛍光と、460nmにピーク波長を持つ青色の励起光を有する発光スペクトルが観測された。また、板状試料の励起光入射面と反対の表面からは、緑色の発光光が発せられていることが肉眼で確認できた。また、実施例2について、600℃で1時間熱処理した際、熱処理前の発光強度に対する熱処理後の発光強度が95%以上であり、耐熱性に優れていた。また、実施例2について、温度85℃、湿度85%の環境下で2000時間処理する前の発光強度に対する処理後の発光強度が97%以上であり、耐候性に優れていた。
【0047】
また、図3に示すように、実施例5の結晶化ガラスの肉厚を0.3〜0.6mmまで変化させ、それにピーク波長が465nmの青色励起光を照射したときに発する発光光の色度を積分球内で測定し、解析ソフトによって計算したところ、肉厚が薄い場合には、青味がかった緑色光(x値及びy値が小さい)を発するが、肉厚が大きくなるにつれて、緑色光(x値及びy値が大きい)を発するようになる。このように、結晶化ガラスの肉厚を変化させることによって所望の発光光が得られることが分かった。
【0048】
一方、比較例1は、一部ガラス化した焼結体であり、析出結晶は、アルカリ土類シリケート結晶以外の異種結晶(SrAl)であったため、蛍光強度が低く、また、蛍光のピーク波長も520nmよりも短波長側に存在し(510nm)、所望の蛍光は見られなかった。また、比較例2及び3は、アルカリ土類シリケート結晶を含まないため、全く蛍光を発しなかった。
【0049】
尚、析出結晶種は、粉末X線回折法により同定した。
【0050】
発光光スペクトルは、励起波長465nmの光を試料の片面に入射し、その面の反対側の面から発せられた発光光を汎用の蛍光スペクトル測定装置を用いて測定した。尚、試料厚さは、0.4mmとした。
【0051】
表1〜3における発光特性については、ピーク波長が520〜560nmの蛍光スペクトルが得られる場合は“○”、それ以外は“×”とした。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明の蛍光体は、紫外線発光装置や青色LEDと組み合わせることにより、すなわち紫外光線又は青色の可視光線からなる励起光を吸収してピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、しかも励起光の一部が透過することにより、透過励起光と蛍光とが混色し、結果として見かけ上緑色又は青味がかった緑色の発光光を発する。また、構造が簡単で、且つ、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、樹脂の劣化による発光デバイスの発光強度劣化や短寿命化を抑制できるため、緑色発光デバイスの蛍光体として、あるいは発光機能と拡散機能を兼ね備えた大面積面発光デバイスの構成部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施の形態に係る発光デバイスを示す断面図である。
【図2】実施例5の発光光スペクトルを示すグラフである。
【図3】実施例5について、肉厚を0.3mm〜0.6mmまで変化させたときの発光光の色度を示す図である。
【図4】従来の砲弾型の緑色発光ダイオードの説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 カソードリード端子
2 アノードリード端子
3 ステム
4 青色発光ダイオードチップ
5 金属線
6 窓部
7 収納容器
8 蛍光体
9 励起光
9a 蛍光
9b 透過励起光
10 発光光
11 接着剤
12 シール材
20 発光デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の無機材料からなり、ピーク波長が300〜490nmの励起光を入射すると、ピーク波長が520〜560nmの蛍光を発し、該発光光の色度が国際照明委員会(CIE)のXYZ表色系のxy色度座標上において、(x,y)=(0.15,0.2)、(0.18,0.2)、(0.37,0.55)、(0.36,0.62)、(0.08,0.82)、(0.02,0.78)、(0,0.6)、(0.02,0.44)の座標点で囲まれた範囲にあることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
板形状を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
肉厚が0.1mm〜2mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
アルカリ土類シリケート結晶を析出してなる結晶化ガラスからなり、前記アルカリ土類シリケート結晶がEu2+を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項5】
前記アルカリ土類シリケート結晶がオケルマナイト、メリライト又はゲーレナイトからなることを特徴とする請求項4に記載の蛍光体。
【請求項6】
Euを0.1〜10質量%含有することを特徴とする請求項4又は5に記載の蛍光体。
【請求項7】
質量%で、SiO+B+Al+GeO+Ga 30〜60%、CaO+MgO 35〜65%、LiO+NaO+KO+SrO+BaO+Sc 0〜20%、Eu 0.1〜10%を含有する結晶化ガラスからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項8】
質量%で、SiO 30〜50%、Al0〜15%、GeO 0〜20%、Ga 0〜15%、CaO 30〜50%、MgO 10〜20%、LiO+NaO+KO+SrO+BaO+Sc 0〜20%、Eu 0.1〜10%を含有する結晶化ガラスからなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の蛍光体を用いてなることを特徴とする発光デバイス。
【請求項10】
カソードリード端子とアノードリード端子とを備えたステムと、アノードリード端子に接続された発光ダイオードチップと、発光ダイオードチップとカソードリード端子を接続する金属線と、ステムと共に発光ダイオードチップを気密封止するように固定され、発光ダイオードチップの上方に窓部が形成された収納容器と、収納容器の窓部に取り付けられた請求項1〜8のいずれかに記載の蛍光体とを具備してなることを特徴とする発光デバイス。
【請求項11】
アルカリ土類シリケート結晶を析出してなり、前記アルカリ土類シリケート結晶がEu2+を含有することを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項12】
前記アルカリ土類シリケート結晶がオケルマナイト、メリライト又はゲーレナイトからなることを特徴とする請求項11に記載の結晶化ガラス。
【請求項13】
Euを0.1〜10質量%含有することを特徴とする請求項11又は12に記載の結晶化ガラス。
【請求項14】
質量%で、SiO+B+Al+GeO+Ga 30〜60%、CaO+MgO 35〜65%、LiO+NaO+KO+SrO+BaO+Sc 0〜20%、Eu 0.1〜10%含有してなることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項15】
質量%で、SiO 30〜50%、Al0〜15%、GeO 0〜20%、Ga 0〜15%、CaO 30〜50%、MgO 10〜20%、LiO+NaO+KO+SrO+BaO+Sc 0〜20%、Eu 0.1〜10%含有する結晶化ガラスからなることを特徴とする請求項11〜14に記載の結晶化ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−39563(P2007−39563A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225743(P2005−225743)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】