蛍光体と発光器具
【課題】 青色および橙から赤色の蛍光体粉体を提供すること。
【解決手段】 本発明の蛍光体は、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgであり)またはその固溶体結晶に、少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素)が固溶されていることを特徴とする。
【解決手段】 本発明の蛍光体は、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgであり)またはその固溶体結晶に、少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素)が固溶されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発する無機結晶またはその固溶体結晶からなる蛍光体に関し、詳細には、すなわち420nm以上670nm以下の波長にピークを持つ光を発する特性を持つ蛍光体とそれを利用した照明器具および画像表示装置の発光器具に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum−Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display))、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode−Ray Tube))、白色発光ダイオード(LED(Light−Emitting Diode))などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、可視光線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し易く、輝度低下のない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、輝度低下の少ない蛍光体として、サイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体、窒化物蛍光体などの、結晶構造に窒素を含有する無機結晶を母体とする蛍光体が提案されている。
【0003】
サイアロン蛍光体の一例は、概略以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユーロピウム(Eu2O3)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEu2+イオンを付活したαサイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。また、β型サイアロンに希土類元素を添加した蛍光体(特許文献2参照)が知られており、Tb、Yb、Agを付活したものは525nmから545nmの緑色を発光する蛍光体となることが示されている。さらに、β型サイアロンにEu2+を付活した緑色の蛍光体(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
酸窒化物蛍光体の一例は、JEM相(LaAl(Si6−zAlz)N10−zOz)を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献4参照)、La3Si8N11O4を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献5参照)が知られている。
【0005】
窒化物蛍光体の一例は、CaAlSiN3を母体結晶としてEu2+を付活させた赤色蛍光体(特許文献6参照)が知られている。
【0006】
電子線を励起源とする画像表示装置(VFD、FED、SED、CRT)用途の青色蛍光体としては、Y2SiO5を母体結晶としてCeを固溶させた蛍光体(特許文献7)やZnSにAgなどの発光イオンを固溶させた蛍光体(特許文献8)が報告されている。
【0007】
Srを含む窒化ケイ素であるSrYSi4N7結晶の結晶構造とこれにEu2+またはCe3+を付活した蛍光体が非特許文献1に報告されている。Eu2+を付活したSrYSi4N7結晶は紫外線で励起されて550nmの緑色を発光する蛍光体である。Ce3+を付活したSrYSi4N7結晶は350nm以下の紫外線で励起されて450nmの青色を発光する蛍光体である。しかし、これらの蛍光体の発光強度は低かった。
【0008】
【特許文献1】特許第3668770号明細書
【特許文献2】特開昭60−206889号公報
【特許文献3】特許第3921545号明細書
【特許文献4】国際公開第2005/019376号パンフレット
【特許文献5】特開2005−112922号公報
【特許文献6】特許第3837588号明細書
【特許文献7】特開2003−55657号公報
【特許文献8】特開2004−285363号公報
【非特許文献1】Y.Q.Li他、「Preparation、 structure and photoluminescence properties of Eu2+ and Ce3+ −doped SrYSi4N7」、 Jounal of Solid State Chemistry、177巻、4687〜4694ページ、2004年。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
紫外LEDや青色LEDを励起源とする白色LEDやプラズマディスプレイなどの用途には、耐久性に優れ高い輝度を有する蛍光体として、青、緑、黄、橙、赤色などの様々な色を発する蛍光体が求められている。さらに、従来の酸窒化物をホストとする蛍光体は絶縁物質であり、電子線を照射しても、発光強度は低く、FEDなどの電子線励起の画像表示装置の用途には電子線で高輝度に発光する蛍光体が求められている。また、種々の材料からなる蛍光体があれば、用途に応じて適宜選択できるので、設計上好ましい。
【0010】
電子線励起で用いられる特許文献7に開示される酸化物の蛍光体は、使用中に劣化して発光強度が低下するおそれがあり、画像表示装置で色バランスが変化するおそれがあった。特許文献8に開示される硫化物の蛍光体は、使用中に分解が起こり、硫黄が飛散してデバイスを汚染するおそれがあった。
【0011】
本発明の目的は、このような要望に応えようとするものであり、従来の希土類付活サイアロン蛍光体、酸化物蛍光体とは異なる材料からなる蛍光体を提供することであり、中でも青色および橙から赤色の蛍光体粉体を提供しようというものである。さらに、電子線で効率よく発光する蛍光体粉体を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者においては、かかる状況の下で、CaYSi4N7結晶やCaLaSi4N7結晶などのRMSi4N7結晶(ただし、R元素はLa、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgである)結晶またはその固溶体結晶に着目し、少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素である)を固溶させた無機結晶について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成範囲、特定の固溶状態および特定の結晶相を有するものは、高輝度の蛍光体となることを見いだした。なかでも、CeやEuが固溶された特定の組成範囲のものは、紫外線や電子線励起で高い輝度の青色や橙から赤色の発光を有し、照明用途や、電子線で励起される画像表示装置に適することを見いだした。
【0013】
非特許文献1によれば、SrYSi4N7結晶の結晶構造や発光特性は明らかになっているが、CaYSi4N7結晶やCaLaSi4N7結晶をホストとする蛍光体に関する記述はない。また、SrYSi4N7結晶を母体とする蛍光体は、発光強度が低いという問題があった。
【0014】
この知見を基礎にしてさらに鋭意研究を重ねた結果、特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体と優れた特性を有する照明器具、画像表示装置を提供することに成功した。以下に、それぞれより具体的に述べる。
【0015】
発明1の蛍光体は、励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発する無機結晶からなる蛍光体であって、前記無機結晶が、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgであり)またはその固溶体結晶に、少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素)が固溶されているものであることを特徴とする。
発明2は、発明1の蛍光体において、前記R元素はLaまたはYであり、前記M元素はCaであり、前記A元素はCeまたはEuであることを特徴とする。
発明3は、発明1の蛍光体において、前記蛍光体は、前記R元素として少なくともLaまたはYを含み、前記M元素として少なくともCaを含み、前記A元素として少なくともCeを含み、励起光により、青色光を発することを特徴とする。
発明4は、発明3の蛍光体において、励起スペクトルのピーク波長が340nm以上420nm以下であり、発光ピーク波長が420nm以上500nm以下の蛍光を発することを特徴とする。
発明5は、発明1の蛍光体において、前記R元素として少なくともLaまたはYを含み、前記M元素として少なくともCaを含み、前記A元素として少なくともEuを含み、励起光により、橙から赤色光を発することを特徴とする。
発明6は、発明5の蛍光体において、発光ピーク波長が570nm以上670nm以下の蛍光を発することを特徴とする。
発明7は、発明1の前記蛍光体が、AaRbMcSidOeNfの組成式(ただし、a+b+c+d+e+f=1)で示され、パラメータa、b、c、d、e、fが
0.00001≦a≦0.10
0.05≦b≦0.10
0.05≦c≦0.10
0.25≦d≦0.35
0≦e≦0.10
0.43≦f≦0.65
の条件を満たすことを特徴とする。
発明8は、励起源と、その照射により蛍光現象を発する蛍光体からなる照明器具であって、前記励起源を、150〜480nmの波長の光を発する発光光源とし、前記蛍光体の少なくとも一部は、発明1〜7のいずれかの蛍光体であることを特徴とする。
発明9は、励起源と、その照射により蛍光現象を発する蛍光体からなる画像表示装置であって、前記蛍光体の少なくとも一部は、発明1〜7のいずれかの蛍光体であることを特徴とする。
発明10は、発明9の画像表示装置において、前記画像表示装置は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FEDまたはSED)または陰極線管(CRT)のいずれかであり、前記励起源が加速電圧10V以上30kV以下の電子線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛍光体は、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgである)またはその固溶体結晶を母体結晶とし、その母体結晶に少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素)が固溶されている。これにより、上述の母体結晶中においてA元素が発光中心として機能するので、本発明の蛍光体は蛍光を発する。このような蛍光体は、白色LEDの用途として利用される。電子線で効率よく発光するため、VFD、FED、SED、CRTなどに好適に使用され得る有用な蛍光体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。
【0018】
本発明の蛍光体は、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgである)またはその固溶体結晶を主成分とする。RMSi4N7結晶としては、例えば、LaCaSi4N7結晶やYCaSi4N7結晶を挙げることができる。また、RMSi4N7結晶の固溶体結晶とは、RMSi4N7結晶の結晶構造を保ったまま酸素/窒素比あるいはSi/Al比が変化するような、他の元素が添加された結晶である。他の元素の添加としては、Al、B、Ga、Ge、Zn、Ba、Sr、Li、Oを含むものなどを挙げることができる。これらの元素添加により結晶構造を保った固溶体となる。
【0019】
本発明では、これらの結晶を母体結晶として用いることができる。RMSi4N7結晶は、X線回折や中性子線回折により同定することができる。また、純粋なRMSi4N7結晶の他に、構成元素が他の元素と置き換わることにより格子定数が変化したものも本発明の一部として含まれる。本発明の蛍光体は、RMSi4N7結晶またはその固溶体結晶を母体結晶として、この母体結晶に少なくともA元素(A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から少なくとも1種選択される元素)が固溶されてなる。A元素は、発光中心となる光学活性な元素である。選択されるA元素によって、本発明の蛍光体は種々の波長を有する蛍光を発することができる。
【0020】
本発明の蛍光体の組成のひとつとして、RMSi4N7結晶におけるNの一部をOで置換した無機結晶を母体する蛍光体がある。このような蛍光体は、AaRbMcSidOeNfの組成(ただし、a+b+c+d+e+f=1)で示され、パラメータa、b、c、d、e、fが
0.00001≦a≦0.10
0.05≦b≦0.10
0.05≦c≦0.10
0.25≦d≦0.35
0≦e≦0.10
0.43≦f≦0.65
の条件を満たす組成は、特に高い発光効率を示す。
【0021】
ここでaは発光イオンの含有量であり、0.00001より少ないと発光強度が低下する。0.10より高いと、発光イオン間の相互作用により濃度消光を示して発光強度が低下する。bは発光に寄与しない希土類元素の含有量であり、0.05以上0.10以下が良い。これ以外の範囲では、結晶構造を保つことができずに他の結晶との混合物となって発光強度が低下する。理想的には、0.0769が好ましい。cはアルカリ土類元素(ここでは、Caおよび/またはMg)の含有量であり、0.05以上0.10以下が良い。これ以外の範囲では、結晶構造を保つことができずに他の結晶との混合物となって発光強度が低下する。理想的には、0.0769が好ましい。dはケイ素の含有量であり、0.25以上0.35以下が良い。これ以外の範囲では、結晶構造を保つことができずに他の結晶との混合物となって発光強度が低下する。理想的には、0.3077が好ましい。eは酸素の含有量であり、含まなくても良いが、組成制御などの目的で含む場合は0.10以下が良い。fは窒素の含有量であり、0.43以上0.65以下が良い。これ以外の範囲では、結晶構造を保つことができずに他の結晶との混合物となって発光強度が低下する。理想的には、0.538が好ましい。
【0022】
本発明の蛍光体の組成のひとつとして、RMSi4N7結晶におけるSiの一部をAlで置換した無機結晶を母体結晶とする蛍光体がある。Alの添加により、発光イオン周りの環境が変化して励起および発光スペクトルが変化するので、用途にあった組成を選ぶことができる。
【0023】
Alが固溶した組成のひとつに、RMSi4−zAlzOzN7−zただし(0<z<2)で示される無機結晶がある。この組成をとることにより、結晶が安定化するため多くのAlを固溶することができ、励起および発光スペクトルの変化が大きくなるので、用途にあった組成を選ぶことができる。
【0024】
本発明の蛍光体において、光学活性なA元素としてEuを含むものは、特に発光強度が高い。なかでも、R元素がLaまたはYであり、M元素がCaであり、A元素がEuである、LaCaSi4N7またはYCaSi4N7にEuが固溶した蛍光体は、橙から赤色の発光を示す。これらの蛍光体は、405nmや450nmの光を照射すると効率よく発光するため、紫LEDや青色LEDと組み合わせた白色LED用途に適する。さらに、La(Ca1−xEux)Si4N7またはY(Ca1−xEux)Si4N7で示され、パラメータxが、0.0001≦ x ≦0.5の条件を満たす組成の蛍光体は、特に発光強度が高い。xが0.0001より小さいと十分な発光が得られず、また、0.5より大きいとイオン間の干渉により濃度消光を起こして輝度が低下するおそれがある。
【0025】
本発明の蛍光体において、R元素としてLaまたはYを含み、M元素としてCaを含み、A元素としてCeを含む蛍光体は、ホトルミネッセンスにおいて励起スペクトルのピーク波長が340nm以上420nm以下であり、紫外線、電子線、X線などで励起すると、発光ピーク波長が420nm以上500nm以下となる発光特性を示す。紫外LEDと組み合わせた白色LED用途やディスプレイ用途の青色蛍光体として好ましい。
【0026】
本発明の蛍光体において、R元素としてLaまたはYを含み、M元素としてCaを含み、A元素としてEuを含む蛍光体は、紫外線、青色光、電子線、X線などで励起すると、発光ピーク波長が570nm以上670nm以下の橙から赤色の発光特性を示す。紫外LEDや青色LEDと組み合わせた白色LED用途やディスプレイ用途の橙または赤色蛍光体として好ましい。
【0027】
本発明の蛍光体を粉体として用いる場合、樹脂への分散性や粉体の流動性などの点から平均粒径は、0.1μm以上20μm以下が好ましい。また、粉体をこの範囲の単結晶粒子とすることにより、より発光輝度が向上する。
【0028】
本発明の蛍光体は、150nm以上480nm以下の波長を持つ紫外線または可視光で励起すると効率よく発光するので、照明用途に好ましい。特に、紫外LEDが放つ360nm〜400nmの光、紫LEDが放つ405nmの光、青色LEDが放つ450nmの光を照射すると効率よく発光するので、LEDを励起源とする白色LEDあるいは有色LEDの用途に適している。さらに、本発明の蛍光体は、電子線またはX線によっても励起することができる。特に、電子線励起では、他の窒化物蛍光体より効率よく発光するため、電子線励起の画像表示装置の用途に好ましい。
【0029】
本発明の蛍光体に励起源を照射することにより波長420nmから670nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発光し、その発光する色は、添加元素により異なる。
【0030】
本発明では、蛍光発光の点からは、その構成成分たるRMSi4N7結晶、あるいはその固溶体結晶は、高純度で極力多く含むこと、できれば単相から構成されていることが望ましいが、特性が低下しない範囲で他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成することもできる。この場合、RMSi4N7結晶、あるいはその固溶体結晶の含有量が5質量%以上、より好ましくは50質量%以上であることが高い輝度を得るために望ましい。本発明において、「RMSi4N7結晶またはその固溶体結晶を主成分として含む」とは、少なくともRMSi4N7結晶またはその固溶体結晶の含有量が5質量%以上であることを意味する。
【0031】
含有量の割合はX線回折測定を行い、RMSi4N7結晶、あるいはその固溶体結晶とそれ以外の結晶相についてリートベルト解析をすることにより求めることができる。簡易的には、RMSi4N7結晶、あるいはその固溶体結晶とそれ以外の結晶相について、それぞれの相の最強ピークの強さの比から求めることができる。
【0032】
他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成される蛍光体において、導電性を持つ無機物質との混合物とすることができる。VFDやFEDなどにおいて、本発明の蛍光体を電子線で励起する場合には、蛍光体上に電子が溜まることなく外部に逃がすために、ある程度の導電性を持つことが好ましい。導電性物質としては、Zn、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、または窒化物、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。なかでも、酸化インジウムとインジウム−スズ酸化物(ITO)は、蛍光強度の低下が少なく、導電性が高いため好ましい。
【0033】
本発明の蛍光体は組成によって決められる青から赤色の範囲の単色に発色するが、他の色との混合が必要な場合は、必要に応じてこれらの色を発色する蛍光体を混合することができる。他の蛍光体としては、酸化物、硫化物、酸硫化物、酸窒化物、窒化物結晶をホストとするものなどを使用することができるが、混合した蛍光体の耐久性が要求される場合は、酸窒化物や窒化物結晶をホストとするものがよい。酸窒化物や窒化物結晶をホストとする蛍光体としては、α−サイアロン:Euの黄色蛍光体、β−サイアロン:Euの緑色蛍光体、α−サイアロン:Ceの青色蛍光体、CaAlSiN3:Euや(Ca、Sr)AlSiN3:Euの赤色蛍光体(CaAlSiN3結晶のCaの一部をSrで置換したもの)、JEM相をホストした青色蛍光体(LaAl(Si6−zAlz)N10−zOz):Ce)、La3Si8N11O4:Ceの青色蛍光体、AlN:Euの青色蛍光体などを挙げることができる。
【0034】
本発明の蛍光体は、組成により励起スペクトルと蛍光スペクトルが異なり、これを適宜選択組み合わせることによって、さまざまな発光スペクトルを有してなるものに設定することができる。その態様は、用途に基づいて必要とされるスペクトルに設定すればよい。
【0035】
本発明の蛍光体の製造方法は、特に限定されないが、一例として次の方法を挙げることができる。
【0036】
Aを含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せと、Rを含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せと、Mを含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せと、ケイ素を含む原料と、必要に応じてアルミニウムを含む原料を準備する。Alを含まない高純度な蛍光体を合成する場合は、Aの酸化物や窒化物、Rの窒化物、Mの窒化物、窒化ケイ素を用いると良い。Aの窒化物、Rの窒化物、Mの窒化物を原料として使用する場合は、酸素や水分との反応を防ぐために、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを充填したグローブボックス中で混合すると良い。これらの原料の混合物を、相対嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填する。そして、5×10−2MPa以上1×102MPa以下の窒素を含有する雰囲気中において、12×102℃以上22×102℃以下の温度範囲で焼成する。このようにすることより、RMSi4N7結晶またはその固溶体結晶に、少なくとも、Aが固溶してなる本発明の蛍光体を製造することができる。最適焼成温度は組成により異なる場合もあり、適宜最適化することができる。一般的には、12×102℃以上22×102℃以下の温度範囲で焼成することが好ましい。このようにして高輝度の蛍光体が得られる。焼成温度が12×102℃より低いと、RMSi4N7結晶またはその固溶体結晶の生成速度が低いことがある。また、焼成温度が22×102℃より高温では特殊な装置が必要となり工業的に好ましくない。
【0037】
ケイ素源の出発原料としては、金属ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ素を含む有機物前駆体、シリコンジイミド、シリコンジイミドを加熱処理して得られたアモルファス体、などを用いることができるが、一般的には窒化ケイ素を用いることができる。これらは、反応性に富み、高純度な合成物を得ることができることに加えて、工業原料として生産されており入手しやすい利点がある。窒化ケイ素としては、α型、β型、アモルファス体、およびこれらの混合物を用いることができる。
【0038】
アルミニウム源の出発原料としては、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、アルミニウムを含む有機物前駆体などを用いることができるが、通常は窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムの混合物を用いるのがよい。これらは、反応性に富み、高純度な合成物を得ることができることに加えて、工業原料として生産されており入手しやすい利点がある。
【0039】
焼成時の反応性を向上させるために、必要に応じて出発原料の混合物に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加することができる。無機化合物としては、反応温度で安定な液相を生成するものが好ましく、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Alの元素の酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいはリン酸塩が適している。さらに、これらの無機化合物は、単体で添加するほか2種以上を混合してもよい。なかでも、フッ化カルシウムおよびフッ化アルミニウムは合成の反応性を向上させる能力が高いため好ましい。ただし、蛍光体の構成元素となっている無機化合物を添加する場合は、組成の変動に注意する必要がある。無機化合物の添加量は特に限定されないが、出発原料である金属化合物の混合物100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部以下で、特に効果が大きい。0.1重量部より少ないと反応性の向上が少なく、10重量部を越えると蛍光体の輝度が低下するおそれがある。これらの無機化合物を添加して焼成すると、反応性が向上して、比較的短い時間で粒成長が促進されて粒径の大きな単結晶が成長し、蛍光体の輝度が向上する。
【0040】
窒素雰囲気は5×10−2MPa以上1×102MPa以下の圧力範囲のガス雰囲気がよい。より好ましくは、1×10−1MPa以上1×101MPa以下がよい。窒化ケイ素を原料として用いる場合、1×10−1MPaより低い窒素ガス雰囲気中で1820℃以上の温度に加熱すると、原料が熱分解し易くなるのであまり好ましくない。1×101MPaあれば十分であり、1×102MPaを超えると特殊な装置が必要となり、工業生産に向かない。また、必要に応じて窒素と水素の混合ガスを用いることができる。混合ガスとすることにより、比較的低い温度域での原料の化学的安定性が向上するため、良質な生成物が得られる。
【0041】
粒径数μmの微粉末を出発原料とする場合、混合工程を終えた金属化合物の混合物は、粒径数μmの微粉末が数百μmから数mmの大きさに凝集した形態をなす(以下「粉体凝集体」と呼ぶ)。本発明では、粉体凝集体を嵩密度40%(2/5)以下の充填率に保持した状態で焼成する。さらに好ましくは嵩密度20%(1/5)以下がよい。ここで、相対嵩密度とは、容器に充填された粉体の質量を容器の容積で割った値(嵩密度)と粉体の物質の真密度との比である。通常のサイアロンの製造では、加圧しながら加熱するホットプレス法や金型成形(圧粉)後に焼成を行なう製造方法が用いられるが、このときの焼成は粉体の充填率が高い状態で行われる。しかし、本発明では、粉体に機械的な力を加えることなく、また予め金型などを用いて成形することなく、混合物の粉体凝集体の粒度をそろえたものを、そのままの状態で容器などに嵩密度40%(2/5)以下の充填率で充填する。必要に応じて、該粉体凝集体を、ふるいや風力分級などを用いて、平均粒径5×102μm以下に造粒して粒度制御することができる。また、スプレードライヤなどを用いて直接的に5×102μm以下の形状に造粒してもよい。また、容器は窒化ホウ素製を用いると蛍光体との反応が少ない利点がある。
【0042】
嵩密度を40%(2/5)以下の状態に保持したまま焼成するのは、原料粉末の周りに自由な空間がある状態で焼成するためである。最適な嵩密度は、顆粒粒子の形態や表面状態によって異なるが、好ましくは20%(1/5)以下がよい。このようにすると、反応生成物が自由な空間に結晶成長するので結晶同士の接触が少なくなり、表面欠陥が少ない結晶を合成することが出来ると考えられる。これにより、輝度が高い蛍光体が得られる。嵩密度が40%(2/5)を超えると焼成中に部分的に緻密化が起こって、緻密な焼結体となってしまい結晶成長の妨げとなり蛍光体の輝度が低下するおそれがある。また微細な粉体が得られ難い。また、粉体凝集体の大きさは5×102μm以下が、焼成後の粉砕性に優れるため特に好ましい。
【0043】
次に、充填率40%(2/5)以下の粉体凝集体を前記条件で焼成する。焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり焼成雰囲気が窒素であることから、金属抵抗加熱方式または黒鉛抵抗加熱方式であってよい。炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好ましい。焼成は、常圧焼結法やガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼成方法によるのが、所定の範囲の嵩密度を保ったまま焼成するために好ましい。
【0044】
焼成して得られた粉体凝集体が固く凝集している場合は、例えばボールミル、ジェットミル等の工業的に通常用いられる粉砕機により粉砕する。なかでも、ボールミル粉砕は粒径の制御が容易である。このとき使用するボールおよびポットは、窒化ケイ素焼結体またはサイアロン焼結体製等が好ましい。粉砕は平均粒径20μm以下となるまで施す。特に好ましくは平均粒径20nm以上10μm以下である。平均粒径が20μmを超えると粉体の流動性と樹脂への分散性が悪くなり、発光素子と組み合わせて発光装置を形成する際に部位により発光強度が不均一になる。20nmを下回ると、粉体を取り扱う操作性が悪くなる。粉砕だけで目的の粒径が得られない場合は、分級を組み合わせることができる。分級の手法としては、篩い分け、風力分級、液体中での沈殿法などを用いることができる。
【0045】
さらに、焼成後に無機化合物を溶解する溶剤で洗浄することにより、焼成により得られた反応生成物に含まれるガラス相、第二相、または不純物相などの蛍光体以外の無機化合物の含有量を低減すると、蛍光体の輝度が向上する。このような溶剤としては、水および酸の水溶液を使用することができる。酸の水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、有機酸とフッ化水素酸の混合物などを使用することができる。なかでも、硫酸とフッ化水素酸の混合物は効果が大きい。この処理は、焼成温度未満の温度で液相を生成する無機化合物を添加して高温で焼成した反応生成物に対しては、特にその効果が大きい。
【0046】
以上の工程で微細な蛍光体粉末が得られるが、輝度をさらに向上させるには熱処理が効果的である。この場合は、焼成後の粉末、あるいは粉砕や分級により粒度調整された後の粉末を、10×102℃以上で焼成温度未満の温度で熱処理することができる。10×102℃より低い温度では、表面の欠陥除去の効果が少ない。焼成温度以上では粉砕した粉体どうしが再度固着するため好ましくない。熱処理に適した雰囲気は、蛍光体の組成により異なるが、窒素、空気、アンモニア、水素から選ばれる1種又は2種以上の混合雰囲気中を使用することができ、特に窒素雰囲気が欠陥除去効果に優れるため好ましい。
【0047】
以上のようにして得られる本発明の蛍光体は、通常の酸化物蛍光体や既存のサイアロン蛍光体と比べて、高輝度の可視光発光を持つことが特徴である。なかでも特定の組成では、赤色または青色の発光をすることが特徴であり、照明器具、画像表示装置に好適である。これに加えて、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れている。
【0048】
本発明の照明器具は、少なくとも発光光源と本発明の蛍光体を用いて構成される。照明器具としては、LED照明器具、蛍光ランプなどがある。LED照明器具では、本発明の蛍光体を用いて、特開平5−152609号公報、特開平7−99345号公報、特許公報第2927279号などに記載されているような公知の方法により製造することができる。この場合、発光光源は330〜420nmの波長の光を発するものが望ましく、中でも330〜420nmの紫外(または紫)LED発光素子またはLD発光素子が好ましい。
【0049】
これらの発光素子としては、GaNやInGaNなどの窒化物半導体からなるものがあり、組成を調整することにより所定の波長の光を発する発光光源となり得る。
【0050】
照明器具において本発明の蛍光体を単独で使用する方法の他に、他の発光特性を持つ蛍光体と併用することによって、所望の色を発する照明器具を構成することができる。この一例として、450nmの青色LEDまたはLD発光素子と、この波長で励起されて500nmから560nmの波長に発光ピークを持つ緑色蛍光体と、本発明の赤色蛍光体の組み合わせがある。このような緑色蛍光体としてはβ−sialon:Eu2+を挙げることができる。この構成では、LEDまたはLDが発する青色光が蛍光体に照射されると、緑、赤の2色の光が発せられ、これの混合により白色の照明器具となる。
【0051】
別の手法として、330〜400nmの紫外LEDまたはLD発光素子と、この波長で励起され430nm以上500nm以下の波長に発光ピークを持つ本発明の青色蛍光体と、この波長で励起されて500nmから560nmの波長に発光ピークを持つ緑色蛍光体と、この波長で励起されて550nm以上600nm以下の波長に発光ピークを持つ黄色蛍光体と、この波長で励起されて600nm以上700nm以下の波長に発光ピークを持つ赤色蛍光体との組み合わせがある。このような黄色蛍光体としては特開2002−363554号公報に記載のα−サイアロン:Eu2+や特開平9−218149号公報に記載の(Y、Gd)2(Al、Ga)5O12:Ce3+を、このような赤色蛍光体としては、国際公開第2005/052087号パンフレットに記載のCaSiAlN3:Eu2+を挙げることができる。この構成では、LEDまたはLDが発する紫外光が蛍光体に照射されると、青、緑、黄、赤の4色の光が発せられ、光が混合されて白色または赤みがかった電球色の照明器具となる。
【0052】
本発明の画像表示装置は少なくも励起源と本発明の蛍光体で構成され、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FEDまたはSED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)などがある。本発明の蛍光体は、100〜190nmの真空紫外線、190〜380nmの紫外線、電子線などの励起で発光することが確認されており、これらの励起源と本発明の蛍光体との組み合わせで、上記のような画像表示装置を構成することができる。
【0053】
本発明の蛍光体は、電子線の励起効率が優れるため、加速電圧10V以上30kV以下で用いる、VFD、FED、SED、CRT用途に適している。
【0054】
FEDは、電界放射陰極から放出された電子を加速して陽極に塗布した蛍光体に衝突させて発光する画像表示装置であり、5kV以下の低い加速電圧で光ることが求められており、本発明の蛍光体を組み合わせることにより、表示装置の発光性能が向上する。
【0055】
次に本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1〜15>
先ず、原料粉末を合成した。純度99%の金属イットリウム、金属ユーロピウム、金属セリウムをアンモニア気流中で850℃に加熱して窒化イットリウム、窒化ユーロピウム、窒化セリウムを合成した。窒化ランタンは、高純度化学社製を用いた。窒化ケイ素は、平均粒径0.5μm、酸素含有量0.93重量%、α型含有量92%の窒化ケイ素粉末(宇部興産社製のE10グレード)を用いた。
【0057】
つぎに、購入品と合成品の原料粉末を用いて蛍光体を合成した。表1には、実施例1〜15の設計組成をまとめる。表1に示すパラメータで表される設計組成を得るべく、表2に示す質量比で原料粉末を秤量し、水分および酸素不純物が1ppm以下窒素雰囲気を保つグローブボックスの中で、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒を用いて混合した後に、目開き125μmのふるいを通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を内径20mm高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製るつぼに自然落下させて入れたところ、嵩密度は15〜30体積%であった。つぎに、るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.9995体積%の窒素を導入してガス圧力を0.5MPaとし、毎時500℃で1700℃まで昇温し、1700℃で2時間保持した。合成した試料を窒化ケイ素製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行ったところ、RMSi4N7結晶、あるいはRMSi4N7結晶の固溶体が確認された。組成によってはRMSi4N7結晶、あるいは固溶体以外の相が検出されたが、主ピークの高さの比より、RMSi4N7結晶あるいは固溶体の生成比は90%以上と判断された。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
この様にして得られた粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、表3に示す色に発光することを確認した。この粉末の発光スペクトルおよび励起スペクトルを蛍光分光光度計を用いて測定した。図1から図15に実施例1から実施例15のホトルミネッセンス測定結果を示す。これらの粉末は300〜480nmの範囲の波長に励起スペクトルのピークがあり、励起スペクトルのピーク波長での励起において、420〜650nmの範囲の波長に発光スペクトルのピークを持つ光を発する蛍光体であることが分かった。LaCaSi4N7にCeを固溶させた実施例1から5では、445nmから460nmに発光のピークを持つ青色蛍光体であった。LaCaSi4N7にEuを固溶させた実施例6から10では、610nmから644nmに発光のピークを持つ赤色蛍光体であった。YCaSi4N7にEuを固溶させた実施例11から15では、608nmから623nmに発光のピークを持つ赤色蛍光体であった。なお、励起スペクトルおよび発光スペクトルの発光強度(カウント値)は測定装置や条件によって変化するため単位は任意単位である。すなわち、同一条件で測定した本実施例内でしか比較できない。
【0061】
【表3】
【0062】
実施例1から実施例15について、電子線を当てたときの発光特性(カソードルミネッセンス、CL)を、CL検知器を備えたSEMで観察し、CL像を評価したところ、この蛍光体は電子線で励起されてホトルミネッセンスと同じ色の発光を示すことが確認された。
【0063】
次ぎに、本発明の窒化物からなる蛍光体を用いた照明器具について説明する。図16に、照明器具としての白色LEDの概略構造図を示す。本発明の窒化物からなる蛍光体及びその他の蛍光体を含む混合物蛍光体1と、発光素子として440nmの青LEDチップ2を用いる。本発明の実施例6の赤色蛍光体と、β−サイアロン:Euの緑色蛍光体とを樹脂層に分散させた混合物蛍光体1をLEDチップ2上にかぶせた構造とし、容器7の中に配置する。導電性端子3、4に電流を流すと、ワイヤーボンド5を介して電流がLEDチップ2に供給され、440nmの光を発し、この光で緑色蛍光体および赤色蛍光体の混合物蛍光体1が励起されてそれぞれ緑色、および赤色の光を発し、これらとLEDチップ2からの青色光が混合されて白色の光を発する照明装置として機能する。
【0064】
図17は、画像表示装置としてのフィールドエミッションディスプレイパネルの原理的概略図である。本発明の実施例1の青色蛍光体が陽極53の内面に塗布されている。陰極52とゲート54の間に電圧をかけることにより、エミッタ55から電子57が放出される。電子は陽極53と陰極の電圧により加速されて、蛍光体56に衝突して蛍光体が発光する。全体はガラス51で保護されている。図は、1つのエミッタと1つの蛍光体からなる1つの発光セルを示したが、実際には青色の他に、緑色、赤色のセルが多数配置されて多彩な色を発色するディスプレイが構成される。緑色や赤色のセルに用いられる蛍光体に関しては特に指定しないが、低速の電子線で高い輝度を発するものを用いるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の蛍光体は、従来のサイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体に匹敵する特性を有する蛍光体である。また、本発明の蛍光体は、従来のサイアロン蛍光体および酸窒化物蛍光体とは異なる母体結晶からなる。このように、種々の蛍光体があれば、用途に応じて適宜選択できるので、設計上有利である。また、本発明の蛍光体は、励起源に曝された場合の蛍光体の輝度の低下が少ないので、VFD、FED、PDP、CRT、白色LEDなどに好適に使用される窒化物蛍光体である。今後、LED照明や各種表示装置において大いに活用され、産業の発展に寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図2】実施例2の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図3】実施例3の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図4】実施例4の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図5】実施例5の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図6】実施例6の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図7】実施例7の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図8】実施例8の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図9】実施例9の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図10】実施例10の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図11】実施例11の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図12】実施例12の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図13】実施例13の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図14】実施例14の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図15】実施例15の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図16】本発明による照明器具(LED照明器具)の概略図。
【図17】本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイ)の概略図。
【符号の説明】
【0067】
1 本発明の赤色蛍光体と緑色蛍光体との混合物
2 LEDチップ
3、4 導電性端子
5 ワイヤーボンド
6 樹脂層
7 容器
51 ガラス
52 陰極
53 陽極
54 ゲート
55 エミッタ
56 蛍光体
57 電子
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発する無機結晶またはその固溶体結晶からなる蛍光体に関し、詳細には、すなわち420nm以上670nm以下の波長にピークを持つ光を発する特性を持つ蛍光体とそれを利用した照明器具および画像表示装置の発光器具に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum−Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display))、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode−Ray Tube))、白色発光ダイオード(LED(Light−Emitting Diode))などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、可視光線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し易く、輝度低下のない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、輝度低下の少ない蛍光体として、サイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体、窒化物蛍光体などの、結晶構造に窒素を含有する無機結晶を母体とする蛍光体が提案されている。
【0003】
サイアロン蛍光体の一例は、概略以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユーロピウム(Eu2O3)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEu2+イオンを付活したαサイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。また、β型サイアロンに希土類元素を添加した蛍光体(特許文献2参照)が知られており、Tb、Yb、Agを付活したものは525nmから545nmの緑色を発光する蛍光体となることが示されている。さらに、β型サイアロンにEu2+を付活した緑色の蛍光体(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
酸窒化物蛍光体の一例は、JEM相(LaAl(Si6−zAlz)N10−zOz)を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献4参照)、La3Si8N11O4を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献5参照)が知られている。
【0005】
窒化物蛍光体の一例は、CaAlSiN3を母体結晶としてEu2+を付活させた赤色蛍光体(特許文献6参照)が知られている。
【0006】
電子線を励起源とする画像表示装置(VFD、FED、SED、CRT)用途の青色蛍光体としては、Y2SiO5を母体結晶としてCeを固溶させた蛍光体(特許文献7)やZnSにAgなどの発光イオンを固溶させた蛍光体(特許文献8)が報告されている。
【0007】
Srを含む窒化ケイ素であるSrYSi4N7結晶の結晶構造とこれにEu2+またはCe3+を付活した蛍光体が非特許文献1に報告されている。Eu2+を付活したSrYSi4N7結晶は紫外線で励起されて550nmの緑色を発光する蛍光体である。Ce3+を付活したSrYSi4N7結晶は350nm以下の紫外線で励起されて450nmの青色を発光する蛍光体である。しかし、これらの蛍光体の発光強度は低かった。
【0008】
【特許文献1】特許第3668770号明細書
【特許文献2】特開昭60−206889号公報
【特許文献3】特許第3921545号明細書
【特許文献4】国際公開第2005/019376号パンフレット
【特許文献5】特開2005−112922号公報
【特許文献6】特許第3837588号明細書
【特許文献7】特開2003−55657号公報
【特許文献8】特開2004−285363号公報
【非特許文献1】Y.Q.Li他、「Preparation、 structure and photoluminescence properties of Eu2+ and Ce3+ −doped SrYSi4N7」、 Jounal of Solid State Chemistry、177巻、4687〜4694ページ、2004年。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
紫外LEDや青色LEDを励起源とする白色LEDやプラズマディスプレイなどの用途には、耐久性に優れ高い輝度を有する蛍光体として、青、緑、黄、橙、赤色などの様々な色を発する蛍光体が求められている。さらに、従来の酸窒化物をホストとする蛍光体は絶縁物質であり、電子線を照射しても、発光強度は低く、FEDなどの電子線励起の画像表示装置の用途には電子線で高輝度に発光する蛍光体が求められている。また、種々の材料からなる蛍光体があれば、用途に応じて適宜選択できるので、設計上好ましい。
【0010】
電子線励起で用いられる特許文献7に開示される酸化物の蛍光体は、使用中に劣化して発光強度が低下するおそれがあり、画像表示装置で色バランスが変化するおそれがあった。特許文献8に開示される硫化物の蛍光体は、使用中に分解が起こり、硫黄が飛散してデバイスを汚染するおそれがあった。
【0011】
本発明の目的は、このような要望に応えようとするものであり、従来の希土類付活サイアロン蛍光体、酸化物蛍光体とは異なる材料からなる蛍光体を提供することであり、中でも青色および橙から赤色の蛍光体粉体を提供しようというものである。さらに、電子線で効率よく発光する蛍光体粉体を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者においては、かかる状況の下で、CaYSi4N7結晶やCaLaSi4N7結晶などのRMSi4N7結晶(ただし、R元素はLa、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgである)結晶またはその固溶体結晶に着目し、少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素である)を固溶させた無機結晶について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成範囲、特定の固溶状態および特定の結晶相を有するものは、高輝度の蛍光体となることを見いだした。なかでも、CeやEuが固溶された特定の組成範囲のものは、紫外線や電子線励起で高い輝度の青色や橙から赤色の発光を有し、照明用途や、電子線で励起される画像表示装置に適することを見いだした。
【0013】
非特許文献1によれば、SrYSi4N7結晶の結晶構造や発光特性は明らかになっているが、CaYSi4N7結晶やCaLaSi4N7結晶をホストとする蛍光体に関する記述はない。また、SrYSi4N7結晶を母体とする蛍光体は、発光強度が低いという問題があった。
【0014】
この知見を基礎にしてさらに鋭意研究を重ねた結果、特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体と優れた特性を有する照明器具、画像表示装置を提供することに成功した。以下に、それぞれより具体的に述べる。
【0015】
発明1の蛍光体は、励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発する無機結晶からなる蛍光体であって、前記無機結晶が、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgであり)またはその固溶体結晶に、少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素)が固溶されているものであることを特徴とする。
発明2は、発明1の蛍光体において、前記R元素はLaまたはYであり、前記M元素はCaであり、前記A元素はCeまたはEuであることを特徴とする。
発明3は、発明1の蛍光体において、前記蛍光体は、前記R元素として少なくともLaまたはYを含み、前記M元素として少なくともCaを含み、前記A元素として少なくともCeを含み、励起光により、青色光を発することを特徴とする。
発明4は、発明3の蛍光体において、励起スペクトルのピーク波長が340nm以上420nm以下であり、発光ピーク波長が420nm以上500nm以下の蛍光を発することを特徴とする。
発明5は、発明1の蛍光体において、前記R元素として少なくともLaまたはYを含み、前記M元素として少なくともCaを含み、前記A元素として少なくともEuを含み、励起光により、橙から赤色光を発することを特徴とする。
発明6は、発明5の蛍光体において、発光ピーク波長が570nm以上670nm以下の蛍光を発することを特徴とする。
発明7は、発明1の前記蛍光体が、AaRbMcSidOeNfの組成式(ただし、a+b+c+d+e+f=1)で示され、パラメータa、b、c、d、e、fが
0.00001≦a≦0.10
0.05≦b≦0.10
0.05≦c≦0.10
0.25≦d≦0.35
0≦e≦0.10
0.43≦f≦0.65
の条件を満たすことを特徴とする。
発明8は、励起源と、その照射により蛍光現象を発する蛍光体からなる照明器具であって、前記励起源を、150〜480nmの波長の光を発する発光光源とし、前記蛍光体の少なくとも一部は、発明1〜7のいずれかの蛍光体であることを特徴とする。
発明9は、励起源と、その照射により蛍光現象を発する蛍光体からなる画像表示装置であって、前記蛍光体の少なくとも一部は、発明1〜7のいずれかの蛍光体であることを特徴とする。
発明10は、発明9の画像表示装置において、前記画像表示装置は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FEDまたはSED)または陰極線管(CRT)のいずれかであり、前記励起源が加速電圧10V以上30kV以下の電子線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛍光体は、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgである)またはその固溶体結晶を母体結晶とし、その母体結晶に少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素)が固溶されている。これにより、上述の母体結晶中においてA元素が発光中心として機能するので、本発明の蛍光体は蛍光を発する。このような蛍光体は、白色LEDの用途として利用される。電子線で効率よく発光するため、VFD、FED、SED、CRTなどに好適に使用され得る有用な蛍光体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。
【0018】
本発明の蛍光体は、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgである)またはその固溶体結晶を主成分とする。RMSi4N7結晶としては、例えば、LaCaSi4N7結晶やYCaSi4N7結晶を挙げることができる。また、RMSi4N7結晶の固溶体結晶とは、RMSi4N7結晶の結晶構造を保ったまま酸素/窒素比あるいはSi/Al比が変化するような、他の元素が添加された結晶である。他の元素の添加としては、Al、B、Ga、Ge、Zn、Ba、Sr、Li、Oを含むものなどを挙げることができる。これらの元素添加により結晶構造を保った固溶体となる。
【0019】
本発明では、これらの結晶を母体結晶として用いることができる。RMSi4N7結晶は、X線回折や中性子線回折により同定することができる。また、純粋なRMSi4N7結晶の他に、構成元素が他の元素と置き換わることにより格子定数が変化したものも本発明の一部として含まれる。本発明の蛍光体は、RMSi4N7結晶またはその固溶体結晶を母体結晶として、この母体結晶に少なくともA元素(A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から少なくとも1種選択される元素)が固溶されてなる。A元素は、発光中心となる光学活性な元素である。選択されるA元素によって、本発明の蛍光体は種々の波長を有する蛍光を発することができる。
【0020】
本発明の蛍光体の組成のひとつとして、RMSi4N7結晶におけるNの一部をOで置換した無機結晶を母体する蛍光体がある。このような蛍光体は、AaRbMcSidOeNfの組成(ただし、a+b+c+d+e+f=1)で示され、パラメータa、b、c、d、e、fが
0.00001≦a≦0.10
0.05≦b≦0.10
0.05≦c≦0.10
0.25≦d≦0.35
0≦e≦0.10
0.43≦f≦0.65
の条件を満たす組成は、特に高い発光効率を示す。
【0021】
ここでaは発光イオンの含有量であり、0.00001より少ないと発光強度が低下する。0.10より高いと、発光イオン間の相互作用により濃度消光を示して発光強度が低下する。bは発光に寄与しない希土類元素の含有量であり、0.05以上0.10以下が良い。これ以外の範囲では、結晶構造を保つことができずに他の結晶との混合物となって発光強度が低下する。理想的には、0.0769が好ましい。cはアルカリ土類元素(ここでは、Caおよび/またはMg)の含有量であり、0.05以上0.10以下が良い。これ以外の範囲では、結晶構造を保つことができずに他の結晶との混合物となって発光強度が低下する。理想的には、0.0769が好ましい。dはケイ素の含有量であり、0.25以上0.35以下が良い。これ以外の範囲では、結晶構造を保つことができずに他の結晶との混合物となって発光強度が低下する。理想的には、0.3077が好ましい。eは酸素の含有量であり、含まなくても良いが、組成制御などの目的で含む場合は0.10以下が良い。fは窒素の含有量であり、0.43以上0.65以下が良い。これ以外の範囲では、結晶構造を保つことができずに他の結晶との混合物となって発光強度が低下する。理想的には、0.538が好ましい。
【0022】
本発明の蛍光体の組成のひとつとして、RMSi4N7結晶におけるSiの一部をAlで置換した無機結晶を母体結晶とする蛍光体がある。Alの添加により、発光イオン周りの環境が変化して励起および発光スペクトルが変化するので、用途にあった組成を選ぶことができる。
【0023】
Alが固溶した組成のひとつに、RMSi4−zAlzOzN7−zただし(0<z<2)で示される無機結晶がある。この組成をとることにより、結晶が安定化するため多くのAlを固溶することができ、励起および発光スペクトルの変化が大きくなるので、用途にあった組成を選ぶことができる。
【0024】
本発明の蛍光体において、光学活性なA元素としてEuを含むものは、特に発光強度が高い。なかでも、R元素がLaまたはYであり、M元素がCaであり、A元素がEuである、LaCaSi4N7またはYCaSi4N7にEuが固溶した蛍光体は、橙から赤色の発光を示す。これらの蛍光体は、405nmや450nmの光を照射すると効率よく発光するため、紫LEDや青色LEDと組み合わせた白色LED用途に適する。さらに、La(Ca1−xEux)Si4N7またはY(Ca1−xEux)Si4N7で示され、パラメータxが、0.0001≦ x ≦0.5の条件を満たす組成の蛍光体は、特に発光強度が高い。xが0.0001より小さいと十分な発光が得られず、また、0.5より大きいとイオン間の干渉により濃度消光を起こして輝度が低下するおそれがある。
【0025】
本発明の蛍光体において、R元素としてLaまたはYを含み、M元素としてCaを含み、A元素としてCeを含む蛍光体は、ホトルミネッセンスにおいて励起スペクトルのピーク波長が340nm以上420nm以下であり、紫外線、電子線、X線などで励起すると、発光ピーク波長が420nm以上500nm以下となる発光特性を示す。紫外LEDと組み合わせた白色LED用途やディスプレイ用途の青色蛍光体として好ましい。
【0026】
本発明の蛍光体において、R元素としてLaまたはYを含み、M元素としてCaを含み、A元素としてEuを含む蛍光体は、紫外線、青色光、電子線、X線などで励起すると、発光ピーク波長が570nm以上670nm以下の橙から赤色の発光特性を示す。紫外LEDや青色LEDと組み合わせた白色LED用途やディスプレイ用途の橙または赤色蛍光体として好ましい。
【0027】
本発明の蛍光体を粉体として用いる場合、樹脂への分散性や粉体の流動性などの点から平均粒径は、0.1μm以上20μm以下が好ましい。また、粉体をこの範囲の単結晶粒子とすることにより、より発光輝度が向上する。
【0028】
本発明の蛍光体は、150nm以上480nm以下の波長を持つ紫外線または可視光で励起すると効率よく発光するので、照明用途に好ましい。特に、紫外LEDが放つ360nm〜400nmの光、紫LEDが放つ405nmの光、青色LEDが放つ450nmの光を照射すると効率よく発光するので、LEDを励起源とする白色LEDあるいは有色LEDの用途に適している。さらに、本発明の蛍光体は、電子線またはX線によっても励起することができる。特に、電子線励起では、他の窒化物蛍光体より効率よく発光するため、電子線励起の画像表示装置の用途に好ましい。
【0029】
本発明の蛍光体に励起源を照射することにより波長420nmから670nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発光し、その発光する色は、添加元素により異なる。
【0030】
本発明では、蛍光発光の点からは、その構成成分たるRMSi4N7結晶、あるいはその固溶体結晶は、高純度で極力多く含むこと、できれば単相から構成されていることが望ましいが、特性が低下しない範囲で他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成することもできる。この場合、RMSi4N7結晶、あるいはその固溶体結晶の含有量が5質量%以上、より好ましくは50質量%以上であることが高い輝度を得るために望ましい。本発明において、「RMSi4N7結晶またはその固溶体結晶を主成分として含む」とは、少なくともRMSi4N7結晶またはその固溶体結晶の含有量が5質量%以上であることを意味する。
【0031】
含有量の割合はX線回折測定を行い、RMSi4N7結晶、あるいはその固溶体結晶とそれ以外の結晶相についてリートベルト解析をすることにより求めることができる。簡易的には、RMSi4N7結晶、あるいはその固溶体結晶とそれ以外の結晶相について、それぞれの相の最強ピークの強さの比から求めることができる。
【0032】
他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成される蛍光体において、導電性を持つ無機物質との混合物とすることができる。VFDやFEDなどにおいて、本発明の蛍光体を電子線で励起する場合には、蛍光体上に電子が溜まることなく外部に逃がすために、ある程度の導電性を持つことが好ましい。導電性物質としては、Zn、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、または窒化物、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。なかでも、酸化インジウムとインジウム−スズ酸化物(ITO)は、蛍光強度の低下が少なく、導電性が高いため好ましい。
【0033】
本発明の蛍光体は組成によって決められる青から赤色の範囲の単色に発色するが、他の色との混合が必要な場合は、必要に応じてこれらの色を発色する蛍光体を混合することができる。他の蛍光体としては、酸化物、硫化物、酸硫化物、酸窒化物、窒化物結晶をホストとするものなどを使用することができるが、混合した蛍光体の耐久性が要求される場合は、酸窒化物や窒化物結晶をホストとするものがよい。酸窒化物や窒化物結晶をホストとする蛍光体としては、α−サイアロン:Euの黄色蛍光体、β−サイアロン:Euの緑色蛍光体、α−サイアロン:Ceの青色蛍光体、CaAlSiN3:Euや(Ca、Sr)AlSiN3:Euの赤色蛍光体(CaAlSiN3結晶のCaの一部をSrで置換したもの)、JEM相をホストした青色蛍光体(LaAl(Si6−zAlz)N10−zOz):Ce)、La3Si8N11O4:Ceの青色蛍光体、AlN:Euの青色蛍光体などを挙げることができる。
【0034】
本発明の蛍光体は、組成により励起スペクトルと蛍光スペクトルが異なり、これを適宜選択組み合わせることによって、さまざまな発光スペクトルを有してなるものに設定することができる。その態様は、用途に基づいて必要とされるスペクトルに設定すればよい。
【0035】
本発明の蛍光体の製造方法は、特に限定されないが、一例として次の方法を挙げることができる。
【0036】
Aを含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せと、Rを含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せと、Mを含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せと、ケイ素を含む原料と、必要に応じてアルミニウムを含む原料を準備する。Alを含まない高純度な蛍光体を合成する場合は、Aの酸化物や窒化物、Rの窒化物、Mの窒化物、窒化ケイ素を用いると良い。Aの窒化物、Rの窒化物、Mの窒化物を原料として使用する場合は、酸素や水分との反応を防ぐために、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを充填したグローブボックス中で混合すると良い。これらの原料の混合物を、相対嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填する。そして、5×10−2MPa以上1×102MPa以下の窒素を含有する雰囲気中において、12×102℃以上22×102℃以下の温度範囲で焼成する。このようにすることより、RMSi4N7結晶またはその固溶体結晶に、少なくとも、Aが固溶してなる本発明の蛍光体を製造することができる。最適焼成温度は組成により異なる場合もあり、適宜最適化することができる。一般的には、12×102℃以上22×102℃以下の温度範囲で焼成することが好ましい。このようにして高輝度の蛍光体が得られる。焼成温度が12×102℃より低いと、RMSi4N7結晶またはその固溶体結晶の生成速度が低いことがある。また、焼成温度が22×102℃より高温では特殊な装置が必要となり工業的に好ましくない。
【0037】
ケイ素源の出発原料としては、金属ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ素を含む有機物前駆体、シリコンジイミド、シリコンジイミドを加熱処理して得られたアモルファス体、などを用いることができるが、一般的には窒化ケイ素を用いることができる。これらは、反応性に富み、高純度な合成物を得ることができることに加えて、工業原料として生産されており入手しやすい利点がある。窒化ケイ素としては、α型、β型、アモルファス体、およびこれらの混合物を用いることができる。
【0038】
アルミニウム源の出発原料としては、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、アルミニウムを含む有機物前駆体などを用いることができるが、通常は窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムの混合物を用いるのがよい。これらは、反応性に富み、高純度な合成物を得ることができることに加えて、工業原料として生産されており入手しやすい利点がある。
【0039】
焼成時の反応性を向上させるために、必要に応じて出発原料の混合物に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加することができる。無機化合物としては、反応温度で安定な液相を生成するものが好ましく、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Alの元素の酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいはリン酸塩が適している。さらに、これらの無機化合物は、単体で添加するほか2種以上を混合してもよい。なかでも、フッ化カルシウムおよびフッ化アルミニウムは合成の反応性を向上させる能力が高いため好ましい。ただし、蛍光体の構成元素となっている無機化合物を添加する場合は、組成の変動に注意する必要がある。無機化合物の添加量は特に限定されないが、出発原料である金属化合物の混合物100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部以下で、特に効果が大きい。0.1重量部より少ないと反応性の向上が少なく、10重量部を越えると蛍光体の輝度が低下するおそれがある。これらの無機化合物を添加して焼成すると、反応性が向上して、比較的短い時間で粒成長が促進されて粒径の大きな単結晶が成長し、蛍光体の輝度が向上する。
【0040】
窒素雰囲気は5×10−2MPa以上1×102MPa以下の圧力範囲のガス雰囲気がよい。より好ましくは、1×10−1MPa以上1×101MPa以下がよい。窒化ケイ素を原料として用いる場合、1×10−1MPaより低い窒素ガス雰囲気中で1820℃以上の温度に加熱すると、原料が熱分解し易くなるのであまり好ましくない。1×101MPaあれば十分であり、1×102MPaを超えると特殊な装置が必要となり、工業生産に向かない。また、必要に応じて窒素と水素の混合ガスを用いることができる。混合ガスとすることにより、比較的低い温度域での原料の化学的安定性が向上するため、良質な生成物が得られる。
【0041】
粒径数μmの微粉末を出発原料とする場合、混合工程を終えた金属化合物の混合物は、粒径数μmの微粉末が数百μmから数mmの大きさに凝集した形態をなす(以下「粉体凝集体」と呼ぶ)。本発明では、粉体凝集体を嵩密度40%(2/5)以下の充填率に保持した状態で焼成する。さらに好ましくは嵩密度20%(1/5)以下がよい。ここで、相対嵩密度とは、容器に充填された粉体の質量を容器の容積で割った値(嵩密度)と粉体の物質の真密度との比である。通常のサイアロンの製造では、加圧しながら加熱するホットプレス法や金型成形(圧粉)後に焼成を行なう製造方法が用いられるが、このときの焼成は粉体の充填率が高い状態で行われる。しかし、本発明では、粉体に機械的な力を加えることなく、また予め金型などを用いて成形することなく、混合物の粉体凝集体の粒度をそろえたものを、そのままの状態で容器などに嵩密度40%(2/5)以下の充填率で充填する。必要に応じて、該粉体凝集体を、ふるいや風力分級などを用いて、平均粒径5×102μm以下に造粒して粒度制御することができる。また、スプレードライヤなどを用いて直接的に5×102μm以下の形状に造粒してもよい。また、容器は窒化ホウ素製を用いると蛍光体との反応が少ない利点がある。
【0042】
嵩密度を40%(2/5)以下の状態に保持したまま焼成するのは、原料粉末の周りに自由な空間がある状態で焼成するためである。最適な嵩密度は、顆粒粒子の形態や表面状態によって異なるが、好ましくは20%(1/5)以下がよい。このようにすると、反応生成物が自由な空間に結晶成長するので結晶同士の接触が少なくなり、表面欠陥が少ない結晶を合成することが出来ると考えられる。これにより、輝度が高い蛍光体が得られる。嵩密度が40%(2/5)を超えると焼成中に部分的に緻密化が起こって、緻密な焼結体となってしまい結晶成長の妨げとなり蛍光体の輝度が低下するおそれがある。また微細な粉体が得られ難い。また、粉体凝集体の大きさは5×102μm以下が、焼成後の粉砕性に優れるため特に好ましい。
【0043】
次に、充填率40%(2/5)以下の粉体凝集体を前記条件で焼成する。焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり焼成雰囲気が窒素であることから、金属抵抗加熱方式または黒鉛抵抗加熱方式であってよい。炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好ましい。焼成は、常圧焼結法やガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼成方法によるのが、所定の範囲の嵩密度を保ったまま焼成するために好ましい。
【0044】
焼成して得られた粉体凝集体が固く凝集している場合は、例えばボールミル、ジェットミル等の工業的に通常用いられる粉砕機により粉砕する。なかでも、ボールミル粉砕は粒径の制御が容易である。このとき使用するボールおよびポットは、窒化ケイ素焼結体またはサイアロン焼結体製等が好ましい。粉砕は平均粒径20μm以下となるまで施す。特に好ましくは平均粒径20nm以上10μm以下である。平均粒径が20μmを超えると粉体の流動性と樹脂への分散性が悪くなり、発光素子と組み合わせて発光装置を形成する際に部位により発光強度が不均一になる。20nmを下回ると、粉体を取り扱う操作性が悪くなる。粉砕だけで目的の粒径が得られない場合は、分級を組み合わせることができる。分級の手法としては、篩い分け、風力分級、液体中での沈殿法などを用いることができる。
【0045】
さらに、焼成後に無機化合物を溶解する溶剤で洗浄することにより、焼成により得られた反応生成物に含まれるガラス相、第二相、または不純物相などの蛍光体以外の無機化合物の含有量を低減すると、蛍光体の輝度が向上する。このような溶剤としては、水および酸の水溶液を使用することができる。酸の水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、有機酸とフッ化水素酸の混合物などを使用することができる。なかでも、硫酸とフッ化水素酸の混合物は効果が大きい。この処理は、焼成温度未満の温度で液相を生成する無機化合物を添加して高温で焼成した反応生成物に対しては、特にその効果が大きい。
【0046】
以上の工程で微細な蛍光体粉末が得られるが、輝度をさらに向上させるには熱処理が効果的である。この場合は、焼成後の粉末、あるいは粉砕や分級により粒度調整された後の粉末を、10×102℃以上で焼成温度未満の温度で熱処理することができる。10×102℃より低い温度では、表面の欠陥除去の効果が少ない。焼成温度以上では粉砕した粉体どうしが再度固着するため好ましくない。熱処理に適した雰囲気は、蛍光体の組成により異なるが、窒素、空気、アンモニア、水素から選ばれる1種又は2種以上の混合雰囲気中を使用することができ、特に窒素雰囲気が欠陥除去効果に優れるため好ましい。
【0047】
以上のようにして得られる本発明の蛍光体は、通常の酸化物蛍光体や既存のサイアロン蛍光体と比べて、高輝度の可視光発光を持つことが特徴である。なかでも特定の組成では、赤色または青色の発光をすることが特徴であり、照明器具、画像表示装置に好適である。これに加えて、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れている。
【0048】
本発明の照明器具は、少なくとも発光光源と本発明の蛍光体を用いて構成される。照明器具としては、LED照明器具、蛍光ランプなどがある。LED照明器具では、本発明の蛍光体を用いて、特開平5−152609号公報、特開平7−99345号公報、特許公報第2927279号などに記載されているような公知の方法により製造することができる。この場合、発光光源は330〜420nmの波長の光を発するものが望ましく、中でも330〜420nmの紫外(または紫)LED発光素子またはLD発光素子が好ましい。
【0049】
これらの発光素子としては、GaNやInGaNなどの窒化物半導体からなるものがあり、組成を調整することにより所定の波長の光を発する発光光源となり得る。
【0050】
照明器具において本発明の蛍光体を単独で使用する方法の他に、他の発光特性を持つ蛍光体と併用することによって、所望の色を発する照明器具を構成することができる。この一例として、450nmの青色LEDまたはLD発光素子と、この波長で励起されて500nmから560nmの波長に発光ピークを持つ緑色蛍光体と、本発明の赤色蛍光体の組み合わせがある。このような緑色蛍光体としてはβ−sialon:Eu2+を挙げることができる。この構成では、LEDまたはLDが発する青色光が蛍光体に照射されると、緑、赤の2色の光が発せられ、これの混合により白色の照明器具となる。
【0051】
別の手法として、330〜400nmの紫外LEDまたはLD発光素子と、この波長で励起され430nm以上500nm以下の波長に発光ピークを持つ本発明の青色蛍光体と、この波長で励起されて500nmから560nmの波長に発光ピークを持つ緑色蛍光体と、この波長で励起されて550nm以上600nm以下の波長に発光ピークを持つ黄色蛍光体と、この波長で励起されて600nm以上700nm以下の波長に発光ピークを持つ赤色蛍光体との組み合わせがある。このような黄色蛍光体としては特開2002−363554号公報に記載のα−サイアロン:Eu2+や特開平9−218149号公報に記載の(Y、Gd)2(Al、Ga)5O12:Ce3+を、このような赤色蛍光体としては、国際公開第2005/052087号パンフレットに記載のCaSiAlN3:Eu2+を挙げることができる。この構成では、LEDまたはLDが発する紫外光が蛍光体に照射されると、青、緑、黄、赤の4色の光が発せられ、光が混合されて白色または赤みがかった電球色の照明器具となる。
【0052】
本発明の画像表示装置は少なくも励起源と本発明の蛍光体で構成され、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FEDまたはSED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)などがある。本発明の蛍光体は、100〜190nmの真空紫外線、190〜380nmの紫外線、電子線などの励起で発光することが確認されており、これらの励起源と本発明の蛍光体との組み合わせで、上記のような画像表示装置を構成することができる。
【0053】
本発明の蛍光体は、電子線の励起効率が優れるため、加速電圧10V以上30kV以下で用いる、VFD、FED、SED、CRT用途に適している。
【0054】
FEDは、電界放射陰極から放出された電子を加速して陽極に塗布した蛍光体に衝突させて発光する画像表示装置であり、5kV以下の低い加速電圧で光ることが求められており、本発明の蛍光体を組み合わせることにより、表示装置の発光性能が向上する。
【0055】
次に本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1〜15>
先ず、原料粉末を合成した。純度99%の金属イットリウム、金属ユーロピウム、金属セリウムをアンモニア気流中で850℃に加熱して窒化イットリウム、窒化ユーロピウム、窒化セリウムを合成した。窒化ランタンは、高純度化学社製を用いた。窒化ケイ素は、平均粒径0.5μm、酸素含有量0.93重量%、α型含有量92%の窒化ケイ素粉末(宇部興産社製のE10グレード)を用いた。
【0057】
つぎに、購入品と合成品の原料粉末を用いて蛍光体を合成した。表1には、実施例1〜15の設計組成をまとめる。表1に示すパラメータで表される設計組成を得るべく、表2に示す質量比で原料粉末を秤量し、水分および酸素不純物が1ppm以下窒素雰囲気を保つグローブボックスの中で、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒を用いて混合した後に、目開き125μmのふるいを通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を内径20mm高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製るつぼに自然落下させて入れたところ、嵩密度は15〜30体積%であった。つぎに、るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.9995体積%の窒素を導入してガス圧力を0.5MPaとし、毎時500℃で1700℃まで昇温し、1700℃で2時間保持した。合成した試料を窒化ケイ素製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行ったところ、RMSi4N7結晶、あるいはRMSi4N7結晶の固溶体が確認された。組成によってはRMSi4N7結晶、あるいは固溶体以外の相が検出されたが、主ピークの高さの比より、RMSi4N7結晶あるいは固溶体の生成比は90%以上と判断された。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
この様にして得られた粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、表3に示す色に発光することを確認した。この粉末の発光スペクトルおよび励起スペクトルを蛍光分光光度計を用いて測定した。図1から図15に実施例1から実施例15のホトルミネッセンス測定結果を示す。これらの粉末は300〜480nmの範囲の波長に励起スペクトルのピークがあり、励起スペクトルのピーク波長での励起において、420〜650nmの範囲の波長に発光スペクトルのピークを持つ光を発する蛍光体であることが分かった。LaCaSi4N7にCeを固溶させた実施例1から5では、445nmから460nmに発光のピークを持つ青色蛍光体であった。LaCaSi4N7にEuを固溶させた実施例6から10では、610nmから644nmに発光のピークを持つ赤色蛍光体であった。YCaSi4N7にEuを固溶させた実施例11から15では、608nmから623nmに発光のピークを持つ赤色蛍光体であった。なお、励起スペクトルおよび発光スペクトルの発光強度(カウント値)は測定装置や条件によって変化するため単位は任意単位である。すなわち、同一条件で測定した本実施例内でしか比較できない。
【0061】
【表3】
【0062】
実施例1から実施例15について、電子線を当てたときの発光特性(カソードルミネッセンス、CL)を、CL検知器を備えたSEMで観察し、CL像を評価したところ、この蛍光体は電子線で励起されてホトルミネッセンスと同じ色の発光を示すことが確認された。
【0063】
次ぎに、本発明の窒化物からなる蛍光体を用いた照明器具について説明する。図16に、照明器具としての白色LEDの概略構造図を示す。本発明の窒化物からなる蛍光体及びその他の蛍光体を含む混合物蛍光体1と、発光素子として440nmの青LEDチップ2を用いる。本発明の実施例6の赤色蛍光体と、β−サイアロン:Euの緑色蛍光体とを樹脂層に分散させた混合物蛍光体1をLEDチップ2上にかぶせた構造とし、容器7の中に配置する。導電性端子3、4に電流を流すと、ワイヤーボンド5を介して電流がLEDチップ2に供給され、440nmの光を発し、この光で緑色蛍光体および赤色蛍光体の混合物蛍光体1が励起されてそれぞれ緑色、および赤色の光を発し、これらとLEDチップ2からの青色光が混合されて白色の光を発する照明装置として機能する。
【0064】
図17は、画像表示装置としてのフィールドエミッションディスプレイパネルの原理的概略図である。本発明の実施例1の青色蛍光体が陽極53の内面に塗布されている。陰極52とゲート54の間に電圧をかけることにより、エミッタ55から電子57が放出される。電子は陽極53と陰極の電圧により加速されて、蛍光体56に衝突して蛍光体が発光する。全体はガラス51で保護されている。図は、1つのエミッタと1つの蛍光体からなる1つの発光セルを示したが、実際には青色の他に、緑色、赤色のセルが多数配置されて多彩な色を発色するディスプレイが構成される。緑色や赤色のセルに用いられる蛍光体に関しては特に指定しないが、低速の電子線で高い輝度を発するものを用いるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の蛍光体は、従来のサイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体に匹敵する特性を有する蛍光体である。また、本発明の蛍光体は、従来のサイアロン蛍光体および酸窒化物蛍光体とは異なる母体結晶からなる。このように、種々の蛍光体があれば、用途に応じて適宜選択できるので、設計上有利である。また、本発明の蛍光体は、励起源に曝された場合の蛍光体の輝度の低下が少ないので、VFD、FED、PDP、CRT、白色LEDなどに好適に使用される窒化物蛍光体である。今後、LED照明や各種表示装置において大いに活用され、産業の発展に寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図2】実施例2の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図3】実施例3の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図4】実施例4の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図5】実施例5の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図6】実施例6の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図7】実施例7の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図8】実施例8の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図9】実施例9の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図10】実施例10の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図11】実施例11の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図12】実施例12の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図13】実施例13の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図14】実施例14の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図15】実施例15の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトル。
【図16】本発明による照明器具(LED照明器具)の概略図。
【図17】本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイ)の概略図。
【符号の説明】
【0067】
1 本発明の赤色蛍光体と緑色蛍光体との混合物
2 LEDチップ
3、4 導電性端子
5 ワイヤーボンド
6 樹脂層
7 容器
51 ガラス
52 陰極
53 陽極
54 ゲート
55 エミッタ
56 蛍光体
57 電子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発する無機結晶からなる蛍光体であって、前記無機結晶が、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgであり)またはその固溶体結晶に、少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素)が固溶されているものであることを特徴とする。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体において、前記R元素はLaまたはYであり、前記M元素はCaであり、前記A元素はCeまたはEuであることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1に記載の蛍光体において、前記蛍光体は、前記R元素として少なくともLaまたはYを含み、前記M元素として少なくともCaを含み、前記A元素として少なくともCeを含み、励起光により、青色光を発することを特徴とする。
【請求項4】
請求項3に記載の蛍光体において、励起スペクトルのピーク波長が340nm以上420nm以下であり、発光ピーク波長が420nm以上500nm以下の蛍光を発することを特徴とする。
【請求項5】
請求項1に記載の蛍光体において、前記R元素として少なくともLaまたはYを含み、前記M元素として少なくともCaを含み、前記A元素として少なくともEuを含み、励起光により、橙から赤色光を発することを特徴とする。
【請求項6】
請求項5に記載の蛍光体において、発光ピーク波長が570nm以上670nm以下の蛍光を発することを特徴とする。
【請求項7】
前記蛍光体は、AaRbMcSidOeNfの組成式(ただし、a+b+c+d+e+f=1)で示され、パラメータa、b、c、d、e、fが
0.00001≦a≦0.10
0.05≦b≦0.10
0.05≦c≦0.10
0.25≦d≦0.35
0≦e≦0.10
0.43≦f≦0.65
の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項8】
励起源と、その励起エネルギーの照射により蛍光現象を発する蛍光体からなる照明器具であって、前記励起源を、150〜480nmの波長の光を発する発光光源とし、前記蛍光体の少なくとも一部は、請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体であることを特徴とする照明器具。
【請求項9】
励起源と、その励起エネルギーの照射により蛍光現象を発する蛍光体からなる画像表示装置であって、前記蛍光体の少なくとも一部は、請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の画像表示装置において、前記画像表示装置は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FEDまたはSED)または陰極線管(CRT)のいずれかであり、前記励起源が加速電圧10V以上30kV以下の電子線であることを特徴とする。
【請求項1】
励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発する無機結晶からなる蛍光体であって、前記無機結晶が、RMSi4N7結晶(ただし、R元素は、La、Lu、YおよびScからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M元素は、Caおよび/またはMgであり)またはその固溶体結晶に、少なくともA元素(ただし、A元素は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種の元素)が固溶されているものであることを特徴とする。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体において、前記R元素はLaまたはYであり、前記M元素はCaであり、前記A元素はCeまたはEuであることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1に記載の蛍光体において、前記蛍光体は、前記R元素として少なくともLaまたはYを含み、前記M元素として少なくともCaを含み、前記A元素として少なくともCeを含み、励起光により、青色光を発することを特徴とする。
【請求項4】
請求項3に記載の蛍光体において、励起スペクトルのピーク波長が340nm以上420nm以下であり、発光ピーク波長が420nm以上500nm以下の蛍光を発することを特徴とする。
【請求項5】
請求項1に記載の蛍光体において、前記R元素として少なくともLaまたはYを含み、前記M元素として少なくともCaを含み、前記A元素として少なくともEuを含み、励起光により、橙から赤色光を発することを特徴とする。
【請求項6】
請求項5に記載の蛍光体において、発光ピーク波長が570nm以上670nm以下の蛍光を発することを特徴とする。
【請求項7】
前記蛍光体は、AaRbMcSidOeNfの組成式(ただし、a+b+c+d+e+f=1)で示され、パラメータa、b、c、d、e、fが
0.00001≦a≦0.10
0.05≦b≦0.10
0.05≦c≦0.10
0.25≦d≦0.35
0≦e≦0.10
0.43≦f≦0.65
の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項8】
励起源と、その励起エネルギーの照射により蛍光現象を発する蛍光体からなる照明器具であって、前記励起源を、150〜480nmの波長の光を発する発光光源とし、前記蛍光体の少なくとも一部は、請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体であることを特徴とする照明器具。
【請求項9】
励起源と、その励起エネルギーの照射により蛍光現象を発する蛍光体からなる画像表示装置であって、前記蛍光体の少なくとも一部は、請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の画像表示装置において、前記画像表示装置は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FEDまたはSED)または陰極線管(CRT)のいずれかであり、前記励起源が加速電圧10V以上30kV以下の電子線であることを特徴とする。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−96823(P2009−96823A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266812(P2007−266812)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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