説明

蛍光体の製造方法

【課題】より効率的な窒化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】原料を加熱する工程を有する、下記式[1]で表される蛍光体の製造方法であって、当該原料として、少なくとも、M、およびAlを必須とする化合物を用いることを特徴とする、蛍光体の製造方法。
1−wEuAlSi ・・・ [1]
(但し、前記式[1]において、Mは、CaまたはSrを必須とする2価の金属元素を表す。また、x、y、およびzは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
0.0001≦w≦0.3
0.9≦x≦1.2
3.6≦y≦4.4
6.6≦z≦7.4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、可視光線を発する。
【0003】
近年、発光装置の演色性向上等が求められており、新規の蛍光体の開発が望まれている。従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、窒化物蛍光体や酸窒化物蛍光体についても探索されている。
最近、蛍光体母体としてアルカリ土類金属元素、Si及びAlを含む多元系窒化物が広く検討されている。特許文献1及び2にはSrAlSi:Euが記載されている。しかしながら、これらの文献に例示された蛍光体の発光ピーク波長は夫々644nm及び634nmであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4228012号
【特許文献2】WO2008/96300国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第一に、蛍光体で波長変換するLEDを使用する主要な用途であるディスプレイ及び照明分野においては、使用目的に応じて、例えば、明るさを優先したり、演色性を優先したりするため、設計の自由度が要求される。特許文献1及び2に記載の赤色発光蛍光体を俯瞰すると630nmより更に短波長を発する蛍光体が見当たらず、ピーク波長がより短波長側に存在する蛍光体が望まれていた。本発明者等はアルカリ土類金属元素、Si、及びAlを含む多元系窒化物を母体とする蛍光体を広く検討した結果、アルカリ土類金属元素として少なくともSr及びCaを含有する蛍光体(Sr,Ca)AlSi:Euが600nm〜630nm付近に発光ピークを有することを見出した。しかしながら、この蛍光体を製造するに当たり、通常の固相法では単一相を得ることが困難であり、MSi等の不純物相(Mはアルカリ土類金属元素)が共存するという課題があった。
【0006】
第二に、M´AlSi:Eu(M´はアルカリ土類金属元素)を製造する方法としては、加圧下で高温焼成して合成する方法、及び、1600℃等の低温で焼成して合成する方法が知られている。これらのうち、低温焼成法は、窒素ガス常圧下においても、窒化物の窒素ガスへの分解が抑制され、雰囲気ガスが常圧で済むため、大幅な製造コスト低減となり、メリットが大きい。しかし、低温焼成すると、SrSi等のM´Si相が副生するという問題がある。副生されるSrSi:Eu等は、公知蛍光体であるものの、長時間の使用で劣化する傾向があり、その副生は好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、M´AlSi:Euにおいて、不純物相であるM´Si相の副生を抑えることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、原料として、少なくとも、M(Mは、Ca、またはSrを必須とする2価の金属元素を表す。)、およびAlを必須とする化合物を用いることにより、不純物相であるM´Si相の副生を抑えることができることを見出し、本発明を完成させた。
(1)原料を加熱する工程を有する、下記式[1]で表される蛍光体の製造方法であって、当該原料として、少なくとも、M、およびAlを必須とする化合物を用いることを特徴とする、蛍光体の製造方法。
【0009】
1−wEuAlSi ・・・ [1]
(但し、前記式[1]において、Mは、CaまたはSrを必須とする2価の金属元素を表す。また、x、y、およびzは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
0.0001≦w≦0.3
0.9≦x≦1.2
3.6≦y≦4.4
6.6≦z≦7.4)
(2)前記M、およびAlを必須とする化合物が、Mに対するAlのモル比が、0.9以上、1.2以下であることを特徴とする、(1)に記載の蛍光体の製造方法。
(3)前記M、およびAlを必須とする化合物が、さらにSiを含有し、Mに対するSiのモル比が、0.9以上、1.2以下であることを特徴とする、(2)に記載の蛍光体の製造方法。
(4)前記M、およびAlを必須とする化合物として、合金を用いることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
(5)前記M、およびAlを必須とする化合物が、部分的に窒化されたものであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
(6)前記M、およびAlを必須とする化合物として、窒化物を用いる
ことを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
(7)原料として、前記M、およびAlを必須とする化合物と共に、Siを用いることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
(8)加熱工程における加熱温度が、1450℃以上、1650℃以下の範囲であることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
(9)前記式[1]において、MにおけるSrの含有量が、全M量に対し50モル%以上であることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
(10)前記式[1]において、Mが、Sr、およびCaを含有することを特徴とする、(1)〜(9)のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載の蛍光体の製造方法により得られる蛍光体であって、当該蛍光体のCuKαX線回折パターンにおいて、2θ値が24.8°以上、25.3°以下である範囲内に存在するピークの面積強度をA、2θ値が18.6°以上、19.1°以下である範囲内に存在するピークの面積強度をBとするとき、B/(A+B)≦0.11であることを特徴とする、蛍光体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば所望の結晶相を有する蛍光体以外の不純物相の副生を抑えることが出来る。
特に、M´AlSi:Euにおいて、M´としてCaおよびSrを含有する蛍光体を効率よく製造することができ、その結果、600nm〜630nm付近に発光ピークを有する視感度の高い赤色蛍光体を提供することができる。
【0011】
また、本発明の製造方法によれば、不純物相の副生を抑えたM´AlSi:Eu
の低温焼成が可能となり、製造コストを大幅に低減できるので産業上利用価値が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1及び比較例1の蛍光体のX線回折パターンを示す図である。
【図2】本発明の実施例1の蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[蛍光体]
まず、本発明の製造方法により製造される蛍光体(以下、「本発明の蛍光体」と称する場合がある。)について説明する。本発明の蛍光体としては、窒化物を母体とする蛍光体であることが好ましい。
なお、本明細書において、蛍光体の母体とは、付活元素を固溶し得る結晶又はガラス(アモルファス)を意味し、付活元素を含有せずに、結晶又はガラス(アモルファス)それ自体が発光するものも含むものとする。
【0014】
本発明の蛍光体は、一般式[1]で表される蛍光体である。
1−wEuAlSi ・・・ [1]
(但し、前記式[1]において、Mは、Ca、またはSrを必須とする2価の金属元素を表す。また、x、y、zおよびwは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
0.0001≦w≦0.3
0.9≦x≦1.2
3.6≦y≦4.4
6.6≦z≦7.4)
本発明の蛍光体は、付活元素としてEuを含み、高輝度の赤色発光を示す蛍光体を得ることができる。輝度を上げることや蓄光性を付与するなど様々な機能を持たせるために、本発明の効果が得られる範囲内で、Eu以外に共付活剤を1種又は複数種含有させることもできる。その例として、Ce、Mn、Pr、Yb、Sm等を挙げることができる。
【0015】
前記式[1]において、Mとして、CaおよびSrを含有することが好ましく、全M量のうち、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更により好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%がCaおよびSrである。また、全M量に対し、50モル%以上をSrとすることが好ましい。Sr,Ca以外の2価の元素としては、Mg、Zn、Sn、Sm、Yb等が挙げられる。
【0016】
発光強度が高く、深い赤色発光の蛍光体を得たい場合は、前記式[1]において、2価の金属元素Mの80モル%以上をSrとすることがより好ましく、90モル%以上をSrとすることがより好ましく、Srが100モル%であることが最も好ましい。
また、視感度が高く、明るい赤色発光の蛍光体を得たい場合は、2価の金属元素MにおけるCaの含有量が1モル%を超え、80モル%以下となるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましい。中でも、Caの下限値としては、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更により好ましく、15モル%以上が最も好ましい。Caの上限値としては、60モル%以下がより好ましく、40モル%以下が更により好ましく、30モル%以下が最も好ましい。
【0017】
また、前記式[1]において、Alについては、蛍光体の特性に悪影響を与えない範囲で他の3価の金属、例えばGaを含んでも差し支えないが、Alが100%であることが好ましい。
また、前記式[1]において、Siについては、蛍光体の特性に悪影響を与えない範囲
で他の4価の金属、例えばGeを含んでも差し支えないが、Siが100%であることが好ましい。
【0018】
また、前記式[1]において、Nについては、蛍光体の特性に悪影響を与えない範囲で、酸素等を含有していてもよい。酸素をOとして、O/(N+O)の値は、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、3モル%以下が更により好ましい。実際には、窒化物原料中の残存酸素、その他から蛍光体中に酸素がわずかに取り込まれてしまうので、工業的な観点から、O/(N+O)は、0.2モル%以上が好ましく、0.5モル%以上がより好ましい。
【0019】
また、前記式[1]において、w(Euの含有量を示す。)は、通常0.0001以上、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上であり、また、通常0.3以下、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下である。
前記式[1]において、x(Alの含有量を示す。)は、通常0.9以上、好ましくは0.95以上であり、また、通常1.2以下、好ましくは1.1以下であり、1.0に近いほど好ましい。
【0020】
前記式[1]において、y(Siの含有量を示す。)は、通常3.6以上、好ましくは3.7以上、より好ましくは3.8以上であり、また、通常4.4以下、好ましくは4.2以下、より好ましくは4.0以下である。微量酸素の残存のため、Si→Al、N→O同時置換がおこる場合があり、実質的にAlが1以上、Siが4以下で良好となる場合がある。また、上記の好ましさ範囲は、カチオン欠損、アニオン欠損も少々起こりうることも考慮した範囲となっているが、カチオン欠損、アニオン欠損がおこらないものが最も好ましい。
【0021】
前記式[1]において、z(Euの含有量を示す。)は、通常6.6以上、好ましくは6.7以上であり、また、通常7.4以下、好ましくは7.2以下、より好ましくは7.0以下である。アニオンのサイトが7モルあるときに、窒素以外に酸素が入ることを考慮した好ましい範囲となっている。また、カチオン欠損やアニオン欠損がわずかに起こりうることを考慮した範囲となっている。酸素がなるべく少ない方が、高輝度の観点から、好ましいが、現実には、微量の酸素混入が避けられないため、工業的な観点から、窒素の組成比が7以下の場合が良好となる場合がある。アニオン欠損が少々起こる場合があるが、アニオン欠損がゼロであることが最も好ましい。
【0022】
本発明の蛍光体に含まれる酸素は、原料金属中の不純物として混入するもの、粉砕工程、窒化工程などの製造プロセス時に混入するものなどが考えられる。
蛍光体の組成の具体例としては、SrAlSi:Eu、(Sr,Ca)AlSi:Eu等が挙げられる。
[蛍光体の製造方法]
従来の蛍光体の合成法は、目的の蛍光体、例えば(Sr,Ca)AlSi:Euを合成する場合、原料として、窒化ストロンチウム又はストロンチウム金属、窒化カルシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ユウロピウム又はフッ化ユウロピウムを出発原料として用い、これらを混合・加熱するプロセス(以降、「完全固相法」と称する)法であった。これに対し、本発明の製造方法は、原料として、少なくとも、M(Mは、Ca、またはSrを必須とする2価の金属元素を表す。)、およびAlを必須とする化合物を用いることを特徴とするものである。これにより、不純物相であるM´Si相の副生を抑えることができる。
【0023】
本製造方法が優位である理由は次のように推定できる。即ち、従来の完全固相法では反応系内で局所的にSrイオンが多数のSiイオンに包囲される状況が出現する。そのため
、Alイオンを含有しないSrSiが生成する。一旦、局所的にSrSiが生成するとSrAlSiへの変化が吸熱反応であり反応が進行しにくいことが熱力学計算から支持される。これに対して本発明のように、M(Mは、Ca、またはSrを必須とする2価の金属元素を表す。)、およびAlを必須とする化合物を原料として用いた場合には、Srイオンの周りに必ずAlイオンが存在するので、局所であれ、SrSiが生成しにくくなる。本発明の製造方法によれば、このような理由により、低温焼成においても、Sr以外のアルカリ土類金属元素を含有するM´AlSi:Eu合成においても、劣化の要因となるMSi相の生成を抑制することができる。
【0024】
[原料]
本発明の蛍光体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称する場合がある。)では、原料として少なくともM、およびAlを必須とする化合物を用いる。
ここで、「化合物」とは、岩波理化学辞典における化合物の定義「化学変化によって2種またはそれ以上の元素の単体に分けることが出来る純粋物質」と同義である。更に云えば、「M、およびAlを必須とする化合物」とは、MとAlがÅオーダーで混合している物質のこととして述べる。
【0025】
「M、およびAlを必須とする化合物」としては、窒化物、合金などが挙げられる。
窒化物の具体例としては、MAlSiN,MAl,MAlNなどが挙げられる。
窒化物としては、重量メジアン径D50が、0.5μm以上、30μm以下のものを用いることが好ましい。10μm以下がより好ましい。
【0026】
MとAlを含有する合金としては、両元素の固溶体、共晶、金属間化合物を適宜使用することができる。MとAlとがÅオーダーで充分に混合されていることにより、MSi相の副生を抑制するという意味で、固溶体や金属間化合物が特に好ましい。金属間化合物の具体例として、AlSiSr、AlSr、SrAlなどが挙げられる。
なお、上記のような合金を得るための方法は公知の合金製造法が使用できる(特開2007−262574号公報参照)。また、蛍光体原料として合金を用いて蛍光体を製造する方法についても、特開2006−307182号公報、特開2008−7751号公報などに開示されている。
【0027】
合金は製造工程上液相を経由するので、撹拌効果により微少成分を均一に分布させることができるので、特性の高い蛍光体が得られやすい。本発明の製造方法においては蛍光体の組成上、配合割合の少ない金属元素は金属単体で加えることも好ましい。金属単体としてはCa、Eu、Ceなどが例示できる。
合金は、所望の粒径の粉末状にして用いることが好ましい。粉末状の合金(合金粉末)を得るための粉砕方法については、特に制限はないが、例えば、特開2006−307182号公報等に記載の方法で粉砕することができる。
【0028】
合金粉末は、当該合金粉末を構成する金属元素の活性度により粒径を調整する必要があり、その重量メジアン径D50は、通常の場合、100μm以下、好ましくは80μm 以下、特に好ましくは60μm以下であり、また、0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは1μm以上である。また、合金粉末がSrを含有する場合は、雰囲気ガスとの反応性が高いため、合金粉末の重量メジアン径D50は、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは13μm以上とすることが望ましい。前述の重量メジアン径D50の範囲よりも小さいと、窒化等の反応時の発熱速度が上昇する傾向にあるので、反応の制御が困難となる場合や、また、合金粉末が大気中で酸化されやすくなるので、得られる蛍光体に酸素が取り込まれやすくなる等、取り扱いが難しくなる場合がある。一方で、前述の重量メジアン径D50の範囲よりも大
きいと、合金粒子内部での窒化等の反応が不十分となる場合がある。
【0029】
また、合金粉末中に含まれる、粒径10μm以下の合金粒子の割合は80重量%以下であることが好ましく、粒径45μm以上の合金粒子の割合は40重量%以下であることが好ましい。QDの値は、特に制限はないが、通常0.59以下である。ここで、QDとは、積算値が25%及び75%の時の粒径値をそれぞれD25、D75と表記し、QD=(D75−D25)/(D75+D25)と定義する。QDの値が小さいことは粒度分布が狭いことを意味する。
【0030】
合金は、その組成、または粒度によって非常に活性であり、空気中で自然発火する可能性もあり、また、蛍光体の性能を低下させるほど酸素が含有される可能性があるので、例えば、特開2008−7751号公報に記載の方法で、予め、合金を部分的に窒化して安定化した後、原料とすることも好ましい。部分的に窒化されている原料(部分窒化原料)とは、窒素を含有し、金属が残存している場合を言う。
【0031】
上述したように、M、Al、およびSiを含む窒化物の製造法において、従来の固相法では局所的にMイオンが多数のSiイオンに包囲される状況が出現する。一旦、局所的にMSiが生成するとMAlSiへの変化が吸熱反応であり反応が進行しにくいことが熱力学計算からも支持される。そのため、Alイオンを含有しないMSiが生成する。これに対して本願のM及びAl元素を含有する化合物を原料として用いた場合には、Mイオンの周りに必ずAlイオンが存在するので、MSiが生成しにくくなる。
【0032】
以上の観点、及び、SrSi5−xAl8−x相の生成がx≦0.2で起こる傾向にあるという観点から、原料化合物において、「M、およびAlを必須とする化合物」のMに対するAlのモル数が0.2を超えていることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.6以上であることがより好まし、0.8以上が更により好ましく、0.9以上が特に好ましい。xの値が0.2以下であるとAlイオンと結合もÅオーダー混合もしていないMイオンが存在する量が多くなり、MSi5−xAl8−x(x≦0.2)が生成する割合が増える傾向にある。また、1.2を超えると、不足するMを添加しなければならず、工程上煩雑となるため、1.2以下が好ましく、1.1以下がより好ましい。Mの金属、及び窒化物には安全な取扱上、注意を要する場合があることからM:Al=1:1である化合物が最も好ましい。また、「M、およびAlを必須とする化合物」がSiを含有する合金を用いる場合は、M:Al:Si=1:1:1である化合物が最も好ましい。
【0033】
また、Si源は、「M、およびAlを必須とする化合物」に含まれていても良いし、別の化合物として添加しても良い。Si源を別の化合物として添加する場合、前記M、およびAlを必須とする化合物と共に、Si等を用いることが好ましい。本発明の蛍光体を構成する元素に対応する原料は、それぞれ、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。すなわち、所望の蛍光体組成を得るために、上記「M、およびAlを必須とする化合物」のほかに必要な元素を窒化物の形で添加するとよい。「M、およびAlを必須とする化合物」の、M源となる原料全体に占める割合は、M量(モル基準)に対し、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更により好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0034】
窒化物としてはSi、AlNなどが必要に応じて使用できる。窒化ケイ素原料としては、例えば宇部興産社製SN−E10が使用できる。窒化アルミニウム原料としては、例えば株式会社トクヤマ製窒化アルミニウム粉末が使用できる。
なお、「M、およびAlを必須とする化合物」が窒化物の場合は、目的とする蛍光体の
組成と同じ組成(代表例 M:Al:Si=1:1:4)となるように各原料化合物を配合することが好ましい。
【0035】
また、「M、およびAlを必須とする化合物」が合金である場合、合金中のSi量比が増えると、窒化反応による発熱量が増大して蛍光体の合成反応を損なう可能性があるので、適宜、合金組成を調整することが好ましい。
[混合工程]
原料となる金属やその合金および化合物を秤量した後、公知の粉体混合法を用いて十分混合することが好ましい。合金原料を使用する場合は必要に応じて不活性雰囲気下で混合操作を行ない、不要な酸化反応を防ぐことが好ましい。
【0036】
[焼成工程]
焼成工程は、上述した蛍光体原料を、例えばルツボ、トレイ等の加熱容器に充填して窒素含有雰囲気下で加熱することにより行なう。具体的には、以下の手順により行なう。
即ち、まず、蛍光体原料を容器に充填する。ここで使用する容器の材質は本発明の製造方法の効果が得られる限り任意であるが、例えば、窒化ホウ素、モリブデン、窒化珪素、炭素、窒化アルミニウム、タングステン等が挙げられる。中でも、窒化ホウ素、及び、モリブデンが、それぞれ、耐食性に優れ、ガス雰囲気の還元力に優れることから好ましい。なお、前記の材質は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
また、ここで使用する容器の形状は本発明の製造方法の効果が得られる限り任意である。例えば、容器の底面が、円形、楕円形等の角のない形や、三角形、四角形等の多角形であってもよいし、容器の高さも加熱炉に入る限り任意であり、低いものでも高いものでもよい。中でも、放熱性のよい形状を選択することが好ましい。
この蛍光体原料を充填した容器を、加熱装置(「加熱炉」と称する場合もある。)に納める。ここで使用する加熱装置としては、本発明の製造方法の効果が得られる限り任意であるが、装置内の雰囲気を制御できる装置が好ましく、さらに圧力も制できる装置が好ましい。例えば、熱間等方加圧装置(HIP)、抵抗加熱式真空加圧雰囲気熱処理炉、常圧雰囲気炉等が好ましい。
【0038】
また、加熱開始前に、加熱装置内に窒素を含むガスを流通して系内を十分にこの窒素含有ガスで置換することが好ましい。必要に応じて、系内を真空排気した後、窒素含有ガスを流通しても良い。
加熱処理の際に使用する窒素含有ガスとしては、窒素元素を含むガス、例えば窒素、アンモニア、或いは窒素と水素の混合気体等が挙げられる。なお、窒素含有ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。系内の酸素濃度は製造される蛍光体の酸素含有量に影響し、余り高い含有量となると高い発光が得られなくなるため、窒化処理雰囲気中の酸素濃度は、低いほど好ましく、通常1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とする。また、必要に応じて、炭素、モリブデン、窒化アルミニウム等の酸素ゲッターを系内加熱部分に入れて、酸素濃度を低下させても良い。なお、酸素ゲッターは、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0039】
蛍光体原料の窒化処理は、窒素含有ガスを充填した状態或いは流通させた状態で蛍光体原料を加熱することにより行なうが、その際の圧力は大気圧よりも幾分減圧、大気圧或いは加圧の何れの状態でも良い。ただし、大気中の酸素の混入を防ぐためには大気圧以上とするのが好ましい。圧力を大気圧未満にすると加熱炉の密閉性が悪い場合には多量の酸素が混入して特性の高い蛍光体を得ることができない可能性がある。
【0040】
1650℃以下の低温焼成の場合は、常圧付近、及び、0.92MPa以下程度の加圧とするのが、製造コスト低減の観点から、好ましく、常圧付近がより好ましい。1650℃以上の高温焼成の場合は、0.2MPa以上0.92MPa以下が通常の雰囲気ガスの圧力として好ましいが、0.92MPaを超えて、200MPa以下の高圧とするのも、蛍光体の窒素欠陥を無くして、量子効率を向上させる観点で、好ましい。
【0041】
製造コスト低減の点で、常圧付近で焼成する場合、1450℃以上1650℃以下の低温焼成が好ましい。1500℃以上がより好ましく、1550℃以上がさらにより好ましい。短時間焼成で高輝度を得るやり方として、加圧で高温焼成する場合、1650℃を超えて、2100℃以下が好ましい。1750℃以上がより好ましく、1800℃以上が更により好ましい。上限値としては、2000℃以下がより好ましい。加熱温度が2100℃より高いと、生成する窒化物が揮発或いは分解し、得られる窒化物蛍光体の化学組成がずれて、特性の高い蛍光体が得られず、また、再現性も悪いものとなる可能性がある。
【0042】
加熱処理時の加熱時間(最高温度での保持時間)は、合金粉末と窒素との反応に必要な時間で良いが、通常1分間以上、好ましくは10分間以上、より好ましくは30分間以上、更に好ましくは60分間以上とする。加熱時間が1分間より短いと窒化反応が完了せず特性の高い蛍光体が得られない可能性がある。また、加熱時間の上限は生産効率の面から決定され、通常24時間以下である。
【0043】
(合金を用いる場合の昇温条件等)
加熱工程において、一度に大量の合金粉末について窒化処理を行なう場合には、窒化反応が急激に進行し、本発明の蛍光体の特性を低下させる可能性がある。
本発明の製造方法において、合金粉末に、窒化物を共存させると、急激な窒化反応の進行を抑えることができる。
【0044】
また、急激な窒化反応の進行を抑えるため、900℃〜1200℃における昇温速度を、0.01℃/分以上、2℃/分以下とすることが好ましい。
(再加熱工程)
加熱処理工程により得られた蛍光体は、必要に応じて再加熱工程を行ない、再度、加熱処理(再加熱処理)をすることにより粒子成長させても良い。これにより、粒子が成長し、蛍光体が高い発光を得ることが可能となる等、蛍光体の特性が向上する場合がある。
【0045】
この再加熱工程では、一度室温まで冷却してから、再度加熱を行なってもよい。再加熱処理を行なう場合の加熱温度は、通常800℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは1000℃以上、また、通常1600℃以下、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1400℃以下である。800℃未満で加熱すると、蛍光体粒子を成長させる効果が小さくなる傾向にある。一方、1600℃を超える温度で加熱すると、無駄な加熱エネルギーを消費してしまうだけでなく、蛍光体が分解する場合がある。また、蛍光体の分解を防止するためには雰囲気ガスの一部となる窒素の圧力を非常に高くすることになるため、製造コストが高くなる傾向にある。
【0046】
蛍光体の再加熱処理時の雰囲気は、基本的には窒素ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気が好ましい。なお、不活性ガス及び還元性ガスは、それぞれ、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、雰囲気中の酸素濃度は、通常1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とする。酸素濃度が1000ppmを越えるような酸素含有ガス中や大気中など酸化雰囲気下で再加熱処理すると、蛍光体が酸化され、目的の蛍光体を得ることができない可能性がある。ただし、0.1ppm〜10ppmの微量酸素を含有する雰囲気とすることで比較的低温での蛍光体の合成が可能となるので好ましい。
【0047】
再加熱処理時の圧力条件は、大気中の酸素の混入を防ぐためには大気圧以上の圧力とすることが好ましい。圧力が低すぎると、前述の窒化処理工程と同様に加熱炉の密閉性が悪い場合には多量の酸素が混入し、特性の高い蛍光体を得ることができない可能性がある。
再加熱処理時の加熱時間(最高温度での保持時間)は、通常1分間以上、好ましくは10分間以上、より好ましくは30分間以上であり、また、通常100時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。加熱時間が短すぎると粒子成長が不十分となる傾向にある。一方、加熱時間が長すぎると、無駄な加熱エネルギーが消費される傾向にあり、また、蛍光体の表面から窒素が脱離して発光特性が低下する場合もある。
【0048】
(後処理工程)
得られた蛍光体は、必要に応じて、分散工程、分級工程、洗浄工程、乾燥工程等の後処理工程を行なってから各種用途に用いてもよい。
(分散工程)
分散工程では、窒化工程中の粒子成長、焼結などにより凝集している蛍光体に機械的な力を加え、解砕する。例えば、ジェットミルなどの気流による解砕や、ボールミル、ビーズミル等のメディアによる解砕などの方法が使用できる。
【0049】
(分級工程)
上記の手法により分散された蛍光体の粉末は、分級工程を行なうことにより所望の粒度分布に調整できる。分級には、例えば、バイブレーティングスクリーン、シフター等の網目を使用した篩い分け装置、エアセパレータ、水簸装置等の慣性分級装置や、サイクロン等の遠心分級機を使用することができる。
【0050】
(洗浄工程)
洗浄工程では、蛍光体を、例えばジョークラッシャー、スタンプミル、ハンマーミル等で粗粉砕した後、中性又は酸性の溶液(以下、「洗浄媒」と称する場合がある。)を用いて、公知の手法により洗浄する。
洗浄工程を行なうことにより、蛍光体の酸素含有量も減少することがある。これは、酸素を含む不純物相、例えば結晶性の悪い窒化物が加水分解して生じた水酸化物が除去されるためと推察される。
【0051】
(乾燥工程)
上記洗浄後は、蛍光体を付着水分がなくなるまで乾燥させて、使用に供することができる。具体的な操作の例を挙げると、洗浄を終了した蛍光体スラリーを遠心分離機等で脱水し、得られた脱水ケーキを乾燥用トレイに充填すればよい。その後、100℃〜200℃の温度範囲で含水量が0.1重量%以下となるまで乾燥する。得られた乾燥ケーキを篩等に通し、軽く解砕し、蛍光体を得る。
【0052】
なお、蛍光体は多くの場合、粉体で使用され、他の分散媒中に分散した状態で使用される。従って、これらの分散操作を容易にするため、蛍光体に各種表面処理を行なうことが当業者の中では通常の手法として行われている。かかる表面処理が行われた蛍光体にあっては表面処理が行われる前の段階が本発明による蛍光体と理解するのが適切である。
[蛍光体の特性]
例えば、本発明の製造方法により得られる蛍光体( 以下、「本発明の蛍光体」と称する場合がある。)は、以下のような特性を有する。
【0053】
(発光色)
本発明の蛍光体の発光色は、化学組成等を調整することにより、橙色、赤色等、所望の
発光色とすることができる。
(発光スペクトル)
まず、本発明の方法により製造された蛍光体( 以下「本発明の蛍光体」と称す。)は、ピーク波長455nmの光で励起したときの発光スペクトルにおけるピーク波長λp(nm)が、通常600nmより大きく、中でも610n m以上、また、通常635nm以下、中でも630nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長λpが短過ぎると黄味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると暗赤味を帯びる傾向があり、何れも橙色ないし赤色光としての特性が低下する傾向にある。
【0054】
また、本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅(full width at half maximum。以下適宜「FWHM」と略称する。)が、通常100nmより大きく、中でも105nm以上、また、通常135nm未満、中でも130nm以下の範囲であることが好ましい。この半値幅FWHMが狭過ぎると演色性が低下する傾向にあり、広過ぎると色純度が低下する傾向にある。
【0055】
なお、本発明の蛍光体を波長455nmの光で励起するには、例えば、GaN系発光ダイオードを用いることができる。また、本発明の蛍光体の発光スペクトルの測定、並びにその発光ピーク波長、ピーク相対強度及びピーク半値幅の算出は、例えば、日本分光社製蛍光測定装置等の装置を用いて行なうことができる。
(温度特性)
本発明の蛍光体は、温度特性にも優れるものである。具体的には、波長455nmにピークを有する光を照射した場合における25℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値に対する100℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値の割合が、通常65%以上であり、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。
【0056】
また、通常の蛍光体は温度上昇と共に発光強度が低下するので、該割合が100%を越えることは考えられにくいが、何らかの理由により100%を超えることがあっても良い。ただし、150%を超えるようであれば、温度変化により色ずれを起こす傾向となる。
尚、上記温度特性を測定する場合は、例えば、発光スペクトル装置として大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、輝度測定装置として色彩輝度計BM5A、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、以下のように測定することができる。ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃から150℃の範囲で変化させる。蛍光体の表面温度が測定温度で一定となったことを確認する。次いで、光源から回折格子で分光して取り出したピーク波長455nmの光で蛍光体を励起して発光スペクトル測定する。測定された発光スペクトルから発光ピーク強度を求める。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値は、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いる。
【0057】
(重量メジアン径D50
本発明の蛍光体は、その重量メジアン径D50が、通常3μm以上、中でも5μm以上、また、通常30μm以下、中でも20μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径D50が小さすぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集してしまう傾向にある。一方、重量メジアン径D50が大きすぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0058】
なお、本発明における蛍光体の重量メジアン径D50は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等の装置を用いて測定することができる。
(粉末X線回折測定)
粉末X線回折は、例えばPanalytical製粉末X線回折装置X’Pertにて
精密測定できる。測定条件の一例を挙げると以下の通りである。
【0059】
CuKα管球使用
X線出力=45KV,40mA
発散スリット=1/4°,X線ミラー
検出器=半導体アレイ検出器X’Celerator使用、Niフィルター使用
走査範囲 2θ=10〜65度
読み込み幅=0.05度
計数時間=33秒
得られたX線回折チャートより、不純物相SrSiのピーク面積強度(18.6〜19.1度)と目的相(Sr,Ca)AlSiのピーク面積強度(24.8〜25.3度)を比較することにより、それぞれの結晶相の相対的な割合を半定量的に求めることができる。本発明の蛍光体は、CuKαX線回折パターンにおいて、2θ値が24.8°以上、25.3°以下である範囲内に存在するピークの面積強度をA、2θ値が18.6°以上、19.1°以下である範囲内に存在するピークの面積強度をBとするとき、B/(A+B)≦0.11であることが好ましく、B/(A+B)≦0.05であることがより好ましく、B/(A+B)=0であることが最も好ましい。
【0060】
(その他)
本発明の蛍光体は、その内部量子効率が高いほど好ましい。その値は、通常0.5以上、好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上である。内部量子効率が低いと発光効率が低下する傾向にあり、好ましくない。
[蛍光体の用途]
本発明の蛍光体は、上述したような特性をいかして、特に、LEDと組み合わせた発光装置として好適に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例、比較例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、実施例、比較例の蛍光体の発光特性等の測定は、次の方法で行った。
<測定方法>
[発光スペクトル]
発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて測定した。励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長455nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得た。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行なった。
【0062】
[色度座標]
x、y表色系(CIE 1931表色系)の色度座標は、上述の方法で得られた発光スペクトルの521nm〜800nmの波長領域のデータから、JIS Z8724に準じた方法で、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標xとyとして算出した。
【0063】
[粉末X線回折測定 一般同定用]
粉末X線回折はPANalytical製粉末X線回折装置X’Pertにて精密測定した。測定条件は以下の通りである。
CuKα管球使用
X線出力=45KV,40mA
発散スリット=1/4°,X線ミラー
検出器=半導体アレイ検出器X’Celerator使用、Niフィルター使用
走査範囲 2θ=10〜65度
読み込み幅=0.05度
計数時間=33秒
[実施例1]
(合金の製造)
金属元素組成比がAl:Si=1:1(モル比)となるように各金属を秤量し、黒鉛ルツボを用い、アルゴン雰囲気で高周波誘導式溶融炉を用いて原料金属を溶融した後、ルツボから金型へ注湯して凝固させ、元素比がAl:Si=1:1である合金(母合金)を得た。なお、合金の原料に用いた金属単体は、いずれも不純物濃度0.01モル%以下の高純度品である。また、原料金属の形状は、Srは塊状、その他は粒状である。
【0064】
Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.007:0.893:0.1:1:1(モル比)となるよう母合金、その他原料金属を秤量した。炉内を5×10-2Paまで真空排気し
た後、排気を中止し、炉内にアルゴンを所定圧まで充填した。この炉内でカルシアルツボ内の母合金を溶解し、次いでSr、Eu、Caを加えて、全成分が融解した溶湯が誘導電流により攪拌されるのを確認後、ルツボから水冷された銅製の金型へ溶湯を注湯して凝固させた。
【0065】
(合金の粉末化)
得られた合金を粉砕して、D50が12μmのEu0.007Sr0.893Ca0.1AlSi合金粉末を得た。
(蛍光体の合成)
水分1ppm以下、酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持することができるグローブボックス内で、上記合金粉末1.484gと窒化珪素粉末(宇部興産製SN−E10)1.516gをメノウ乳鉢で10分間混合し、得られた混合物のうちの0.3gを外径10mm、高さ10mmのモリブデン製坩堝に充填し、モリブデン製内壁電気炉にセットした。室温から900℃まで真空引きした後、4%水素含有窒素ガスを常圧まで導入し、2L/分の供給速度を保ちながら、900℃から1200℃までを0.9℃/分で昇温し、1200℃から1550℃までを3℃/分で昇温し、1550℃で8時間加熱した後、アルミナ乳鉢での粉砕、処理を経て、蛍光体粉末を得た。
【0066】
(蛍光体の評価)
得られた蛍光体粉末の発光特性及びX線回折を測定して、解析した結果を表1と図1に示す。図2に発光スペクトルを示す。X線回折の結果、得られた粉末は、不要な副生相SrSi相のピーク強度と目的のMAlSi相(Mは、Sr及び/又はCaを示す。)のピーク強度の合計を100%として、それぞれのピーク強度の割合を表した場合、SrSi相2%、MAlSi相98%と、ほとんど目的のMAlSi相からなっていることが判明した。発光ピーク波長が616nmの視感度の高い赤色発光を呈することがわかった。
【0067】
[比較例1]
水分1ppm以下、酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持することができるグローブボックス内で、窒化カルシウム粉末(Cerac製)0.046g、窒化ストロンチウム粉末(Cerac製)0.810g、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製Fグレード)0.
383g、窒化珪素粉末(宇部興産製SN−E10)1.748g、フッ化ユウロピウム粉末0.014gをメノウ乳鉢で10分間混合し、その混合物のうちの0.3gを原料として使用したこと以外は、実施例1と同様に実験を行ったところ、表1と図1に示す結果を得た。X線回折の結果、得られた粉末は、不要な副生相SrSi相のピーク強度と目的のMAlSi相(Mは、Sr及び/又はCaを示す。)のピーク強度の合計を100%として、それぞれのピーク強度の割合を表した場合、64%もSrSi相が副生し、わずか34%しかMAlSi相が得られていないことが判明した。構成元素の各化合物を原料とするよりも、アルカリ土類金属元素とAlが共存した化合物である(Eu,Sr,Ca)AlSi合金を原料とした方が目的のMAlSi:Eu蛍光体を顕著に有利に合成できることが判明した。
【0068】
[実施例2]
合金の組成をEu0.007Sr0.763Ca0.23AlSiに変え、蛍光体合成用原料として該合金粉末1.260gと窒化珪素1.336gを使用したこと以外は、全て、実施例1と同様に実験を行ったところ、表1に示す結果を得た。
X線回折の結果、得られた粉末は、不要な副生相SrSi相のピーク強度と目的のMAlSi相(Mは、Sr及び/又はCaを示す。)のピーク強度の合計を100%として、それぞれのピーク強度の割合を表した場合、SrSi相がわずか2%であり、98%がMAlSi相から成っていた。このようにして、Sr0.77Ca0.23AlSi:Eu蛍光体がはじめて合成され、その発光特性がはじめて明らかにされた。623nmの発光ピークを有する視感度の高い赤色発光を示した。
【0069】
[実施例3]
(合金の合成及びその粉末化)
実施例2と同様にして合金の合成及びその粉末化を行ない、Eu0.007Sr0.763Ca0.23AlSi合金粉末を得た。
(部分窒化)
ロータリーキルン方式で合金から窒素含有合金を以下のように合成した。得られたEu0.007Sr0.763Ca0.23AlSi合金粉末を窒化ホウ素製ルツボに充填し、管状電気炉内で窒素含有アルゴンガス(窒素:アルゴン=2:98(体積比))流通下、常圧下で、室温から1100℃まで昇温し、1100℃で5時間保持し、Eu0.007Sr0.763Ca0.23AlSiN1.5窒素含有合金粉末を合成した。
【0070】
(蛍光体の合成と評価)
蛍光体の原料として、Eu0.007Sr0.763Ca0.23AlSiN1.5窒素含有合金粉末1.351gと窒化珪素粉末1.649gを使用したこと以外は、全て、実施例1と同様に蛍光体を合成し、評価を行った。
X線回折の結果、得られた粉末は、不要な副生相SrSi相のピーク強度と目的のMAlSi相(Mは、Sr及び/又はCaを示す。)のピーク強度の合計を100%として、それぞれのピーク強度の割合を表した場合、SrSi相が10%であり、90%がMAlSi相から成っていた(表1)。本原料ルートによって、Sr0.77Ca0.23AlSi:Eu蛍光体が主相として合成され、623nmの発光ピークを有する視感度の高い赤色発光を示した。実施例3と比較例2との比較により、構成元素の各化合物を原料とするよりも、アルカリ土類金属元素とAlが共存した化合物である(Eu,Sr,Ca)AlSiN1.5窒素含有合金を原料とした方が目的のMAlSi:Eu蛍光体を顕著に有利に合成できることが判明した。
【0071】
[実施例4]
(合金の合成及びその粉末化)
合金組成をEu0.007Sr0.793Ca0.2AlSiとしたこと以外は、全て
、実施例1と同様に合金の合成とその粉末化を行って、Eu0.007Sr0.793Ca0.2AlSi合金粉末を得た。
【0072】
(部分窒化)
合金粉末5gを、窒化ホウ素製トレイに充填し、熱間等方加圧装置(HIP装置)内にセットした。300℃で真空排気し、窒素を1MPa充填し、窒素増圧・昇温を施し、190MPa,1900℃で2時間保持した後、アルミナ乳鉢での粉砕、処理を経て、Eu0.007Sr0.793Ca0.2AlSiN粉末を得た。
【0073】
(蛍光体の合成と評価)
該Eu0.007Sr0.793Ca0.2AlSiN粉末1.662gと窒化珪素1.338gを蛍光体合成用原料として使用したこと以外は、全て、実施例1と同様にして蛍光体の合成と評価を行った。
X線回折の結果、得られた粉末は、不要な副生相SrSi相のピーク強度と目的のMAlSi相(Mは、Sr及び/又はCaを示す。)のピーク強度の合計を100%として、それぞれのピーク強度の割合を表した場合、SrSi相がわずか11%であり、89%がMAlSi相から成っていた(表1)。本原料ルートによって、Sr0.77Ca0.23AlSi:Eu蛍光体が主相として合成され、625nmの発光ピークを有する視感度の高い赤色発光を示した。実施例4と比較例2との比較により、構成元素の各化合物を原料とするよりも、アルカリ土類金属元素とAlが共存した化合物である(Eu,Sr,Ca)AlSiN窒化物を原料とした方が目的のMAlSi:Eu蛍光体を顕著に有利に合成できることが判明した。
【0074】
[実施例5]
蛍光体合成時の加熱条件を次のように変えたこと以外は、実施例2と同様に実験を行った。
水分1ppm以下、酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持することができるグローブボックス内で、該合金粉末1.260gと窒化珪素粉末1.336gをメノウ乳鉢で10分間混合し、得られた混合物のうちの0.3gを外径20mm,高さ20mmの窒化ホウ素製坩堝に充填し、黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。加熱操作は、まず、拡散ポンプにより雰囲気を真空とし、室温から900℃まで加熱真空引きをしながら昇温し、900℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を0.92MPaとし、0.9℃/分で1200℃まで昇温し、900℃から1880℃まで15℃/分で昇温し、1880℃8時間保持した後、アルミナ乳鉢での粉砕、処理を経て、蛍光体粉末を得た。
【0075】
X線回折より、得られた粉末は、SrSi相が全くない、Eu0.007Sr0.763Ca0.23AlSi蛍光体単一相からなっていることがわかった(表1)。発光ピーク波長が623nmの視感度の高い赤色発光を呈することがわかった。
[比較例3]
比較例2と同様の蛍光体原料を使用し、該原料粉末を0.3g充填したこと以外は、全て、実施例5と同様に、蛍光体の合成とその評価を行った。
【0076】
X線回折の結果、得られた粉末は、不要な副生相SrSi相のピーク強度と目的のMAlSi相(Mは、Sr及び/又はCaを示す。)のピーク強度の合計を100%として、それぞれのピーク強度の割合を表した場合、SrSiN8相12%、MAlSi目的相88%から成っていた(表1)。構成元素の各化合物を原料とするよりも、アルカリ土類金属元素とAlが共存した化合物である(Eu,Sr,Ca)AlSi合金を原料とした方が目的のMAlSi:Eu蛍光体を有利に合成された。
【0077】
[実施例6]
実施例3と同様の蛍光体原料を使用し、該原料粉末を0.3g充填したこと以外は、全て、比較例3と同様に、蛍光体の合成とその評価を行った。得られた粉末は、X線回折より、不要な副生相SrSi相は全くなく、目的のMAlSi相が単一相として得られていることが判明した(表1)。構成元素の各化合物を原料とするよりも、アルカリ土類金属元素とAlが共存した化合物である(Eu,Sr,Ca)AlSiN1.5窒化物合金を原料とした方が目的のMAlSi:Eu蛍光体を顕著に有利に合成できることが判明した。実施例6と比較例3との比較により、構成元素の各化合物を原料とするよりも、アルカリ土類金属元素とAlが共存した化合物である(Eu,Sr,Ca)AlSiN1.5窒素含有合金を原料とした方が目的のMAlSi:Eu蛍光体を有利に合成できることがわかった。
【0078】
[実施例7]
合成し、粉末化した合金組成をEu0.007Sr0.493Ca0.5AlSiとし、使用した蛍光体原料を該Eu0.007Sr0.493Ca0.5AlSi合金粉末1.215gと窒化珪素粉末1.391gとしたこと以外は、全て、実施例5と同様に実験を行った。X線回折より、得られた粉末は、SrSi相が全くない、Eu0.007Sr0.493Ca0.5AlSi蛍光体単一相からなっていることがわかった(表1)。発光ピーク波長が624nmの視感度の高い赤色発光を呈することがわかった。
【0079】
[比較例4]
原料として混合した各粉末の量を、窒化カルシウム粉末0.245g、窒化ストロンチウム粉末0.481g、窒化アルミニウム粉末0.407g、窒化珪素粉末1.855g、フッ化ユウロピウム粉末0.012gとし、目的蛍光体組成をEu0.007Sr0.493Ca0.5AlSiとしたこと以外は、全て、比較例3と同様に実験を行った。
【0080】
X線回折の結果、得られた粉末は、不要な副生相SrSi相のピーク強度と目的のMAlSi相(Mは、Sr及び/又はCaを示す。)のピーク強度の合計を100%として、それぞれのピーク強度の割合を表した場合、SrSi相51%、MAlSi目的相49%から成っていた(表1)。構成元素の各化合物を原料とするよりも、アルカリ土類金属元素とAlが共存した化合物である(Eu,Sr,Ca)AlSi合金を原料とした方が目的のMAlSi:Eu蛍光体を顕著に有利に合成できることが判明した。
【0081】
なお、2θ値が24.8°以上、25.3°以下である範囲内に存在するピークの面積強度をA、2θ値が18.6°以上、19.1°以下である範囲内に存在するピークの面積強度をBとしたときのB/(A+B)の値は、表1中の左から6列目のI258/(I258+I1147)の割合(%表示の割合)を単純に100で割った値となる。比較例4の場合を例とすると、B/(A+B)=I258/(I258+I1147)/100=51/100=0.51である。このようにして得られるB/(A+B)の値を表1の左から8列目に示した。
【0082】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の製造方法により製造された蛍光体は、光を用いる任意の分野において用いることができ、例えば屋内及び屋外用の照明などのほか、携帯電話、家庭用電化製品、屋外設置用ディスプレイ等の各種電子機器の画像表示装置などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を加熱する工程を有する、下記式[1]で表される蛍光体の製造方法であって、
当該原料として、少なくとも、M、およびAlを必須とする化合物を用いる
ことを特徴とする、蛍光体の製造方法。
1−wEuAlSi ・・・ [1]
(但し、前記式[1]において、Mは、CaまたはSrを必須とする2価の金属元素を表す。また、x、y、およびzは、それぞれ以下の範囲の数を表す。
0.0001≦w≦0.3
0.9≦x≦1.2
3.6≦y≦4.4
6.6≦z≦7.4)
【請求項2】
前記M、およびAlを必須とする化合物が、Mに対するAlのモル比が、0.9以上、1.2以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記M、およびAlを必須とする化合物が、さらにSiを含有し、Mに対するSiのモル比が、0.9以上、1.2以下である
ことを特徴とする、請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記M、およびAlを必須とする化合物として、合金を用いる
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記M、およびAlを必須とする化合物が、部分的に窒化されたものである
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記M、およびAlを必須とする化合物として、窒化物を用いる
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
原料として、前記M、およびAlを必須とする化合物と共に、Siを用いる
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
加熱工程における加熱温度が、1450℃以上、1650℃以下の範囲である
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記式[1]において、MにおけるSrの含有量が、全M量に対し50モル%以上である
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記式[1]において、Mが、Sr、およびCaを含有する
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法により得られる蛍光体であって、
当該蛍光体のCuKαX線回折パターンにおいて、2θ値が24.8°以上、25.3°以下である範囲内に存在するピークの面積強度をA、2θ値が18.6°以上、19.1°以下である範囲内に存在するピークの面積強度をBとするとき、
B/(A+B)≦0.11である
ことを特徴とする、蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46625(P2012−46625A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189662(P2010−189662)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】