説明

蛍光体前駆体、エレクトロルミネッセンス蛍光体、それらの製造方法及び分散型エレクトロルミネッセンス素子

【課題】粒子サイズ分布の狭い微粒子のEL蛍光体を高効率で得る方法および該方法により得られた微粒子のEL蛍光体を用いた高輝度で均一性の高い発光の分散型EL素子を提供する。
【解決手段】中心粒子サイズが1〜20nmの範囲の1次粒子が凝集してなる、中心粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にあり、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する2次粒子を含有してなる硫化亜鉛系蛍光体前駆体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化亜鉛を母体とし発光の中心となる付活剤及び共付活剤を含有するエレクトロルミネッセンス(EL)蛍光体およびその製造方法、並びに前記蛍光体を分散塗布した発光層を有するエレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の硫化亜鉛(ZnS)蛍光体の製造方法において、EL蛍光体粒子の粒子サイズを小さくする方法としては、アルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ土類金属ハロゲン化物の融剤の添加量を減少したり、焼成温度を低下することで調整していた。しかし、この方法では、融剤の添加量の減少や焼成温度の低下によって、得られる蛍光体の結晶性が低下したり、銅イオンなどの付活剤が母体中に均一に導入できなくなるという問題が発生してしまい、粒子サイズの調整範囲には限界があった。
【0003】
また、従来の製造方法では、ZnSの原料として20nm程度の結晶子を有する数μmの前駆体粒子を用いているため、前駆体粒子の表面活性が低く、結晶成長に高温焼成を必要としている原因となっている。さらに、このとき付活剤は固相添加されるため、母体内に均一に導入するためには同様に高温焼成を必要とする。このような高温焼成は、蛍光体製造で大きなエネルギーを消費するとともに、蛍光体への亜鉛空孔や硫黄空孔などの点欠陥の増加という問題を発生していた。
【0004】
従来の製造方法とは異なる方法として、特許文献1に記載の均一沈殿法を用いた製造方法が開示されている。この方法では、得られる前駆体の結晶性を高めて、焼成工程では前駆体粒子を結晶成長させていない。このような方法では、焼成工程での結晶成長や組み替えの頻度が低いことが予想され、それら成長に伴い生成する積層欠陥の密度が、EL蛍光体に必要な量に達しないという問題があった。
【0005】
さらに別の製造方法として、特許文献2に記載の噴霧熱分解法を用いた製造方法が開示されている。この方法では、粒子サイズを制御した硫化物の製造方法を示しているが、付活剤の導入、1次粒子(結晶子)、回収粒子の再焼成などは考慮されておらず、蛍光体粒子に適用するには不十分である。
【特許文献1】特開昭53−82682号公報
【特許文献2】特開平7−61816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粒子サイズ分布の狭い微粒子のEL蛍光体を高効率で得ることを目的とする。また、該微粒子のEL蛍光体を用いて、高輝度で均一性の高い発光の分散型EL素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)中心粒子サイズが1〜20nmの範囲の1次粒子が凝集してなる、中心粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にあり、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する2次粒子を含有してなることを特徴とする硫化亜鉛系蛍光体前駆体。
(2)一般式;ZnS:M,X
(式中、MはCu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Xはハロゲン元素及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。)
で表され、中心粒子サイズが0.1〜15μmの範囲にあり、少なくとも(1)項に記載の前駆体とXで表される元素を含有する化合物とを混合・焼成して得られることを特徴とするエレクトロルミネッセンス蛍光体。
(3)前記蛍光体が面状の積層欠陥を有しており、前記積層欠陥の平均面間隔が5nm以下の面間隔で10層以上の積層欠陥を有する粒子が全蛍光体粒子の30%以上存在することを特徴とする(2)項に記載のエレクトロルミネッセンス蛍光体。
(4)粒子サイズの変動係数が35%未満であることを特徴とする(2)又は(3)項に記載のエレクトロルミネッセンス蛍光体。
【0008】
(5)中心粒子サイズが1〜20nmの範囲の1次粒子が凝集してなる、中心粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にあり、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する2次粒子を含有してなる硫化亜鉛系蛍光体の前駆体の製造方法であって、
少なくとも亜鉛化合物とCu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物とが溶解した溶液を調製する工程と、前記溶液にチオアセトアミドを添加する工程と、前記溶液を60〜100℃の範囲の温度に加熱することでチオアセトアミドを加水分解させてCu、Mn、Ag、Au又は希土類元素の少なくとも1種を含有した硫化亜鉛の沈殿物を得る工程とを含むことを特徴とする硫化亜鉛系蛍光体の前駆体の製造方法。
(6)中心粒子サイズが1〜20nmの範囲の1次粒子が凝集してなる、中心粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にあり、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する2次粒子を含有してなる硫化亜鉛系蛍光体の前駆体の製造方法であって、
少なくとも亜鉛化合物と、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物と、チオアセトアミド、チオ尿素及びそれらの誘導体とが溶解した溶液を調製する工程と、前記溶液を微小液滴として霧化してキャリアーガス中に導入し、前記キャリアーガス中に導入した微小液滴を500〜1000℃の範囲の温度に加熱することで熱分解させて、Cu、Mn、Ag、Au又は希土類元素の少なくとも1種を含有した硫化亜鉛の粒子を得る工程とを含むことを特徴とする硫化亜鉛系蛍光体の前駆体の製造方法。
【0009】
(7)一般式;ZnS:M,X
(式中、MはCu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Xはハロゲン元素及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。)
で表されるエレクトロルミネッセンス蛍光体の製造方法であって、
少なくとも(5)又は(6)項に記載の方法で得られたCu、Mn、Ag、Au又は希土類元素の少なくとも1種を含有した硫化亜鉛系蛍光体の前駆体とハロゲン元素及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物とを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を700〜1200℃の範囲の温度で焼成して蛍光体粒子を得る工程とを含むことを特徴とするエレクトロルミネッセンス蛍光体の製造方法。
(8)前記焼成工程の後、蛍光体粒子が破砕しない程度に応力を与える工程と、応力を与えた蛍光体粒子を500〜1000℃で再焼成する工程とを含むことを特徴とする(7)項に記載のエレクトロルミネッセンス蛍光体の製造方法。
(9)(2)〜(4)のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス蛍光体を発光層に含有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
(10)前記発光層の膜厚が0.5〜30μmであることを特徴とする(9)項に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明のEL蛍光体は、微粒子でありながら高効率のEL発光を示すとともに、粒子サイズ分布が狭いため分散性が良好であり、均一な発光層を形成することができる。また、本発明のEL蛍光体の製造方法は、微粒子のEL蛍光体を高収率で再現性良く製造することができるとともに、焼成温度を低くすることができるため、製造に伴う消費エネルギーが小さくなり、地球環境への影響も少ない。このEL蛍光体を用いた分散型EL素子は、発光層が膜厚を薄くできるため、高輝度を示す。さらには、微粒子で粒子サイズ分布の狭いEL蛍光体を用いた分散型EL素子は、発光のざらつき(粒状性)が飛躍的に向上し、高画質の透過写真やインクジェットの透過照明用途として最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のEL蛍光体の前駆体、EL蛍光体、それらの製造方法、及びEL素子について詳細に説明する。
【0012】
[EL蛍光体前駆体]
本発明において硫化亜鉛系蛍光体前駆体とは、中心粒子サイズが1〜20nmの粒子(1次粒子)が凝集した粒子(2次粒子)を含み、粒子内にハロゲン元素又はアルミニウムを含まない硫化亜鉛母体の粒子数100個以上の粒子集団を意味する。
本発明のZnS系EL蛍光体の前駆体は、焼成温度を低く抑えるのに必要な表面活性を得るために、1次粒子の中心粒子サイズが1〜20nmの範囲であることが好ましく、1〜15nmの範囲であることがより好ましく、1〜10nmの範囲であることがさらに好ましい。さらに、焼成後の粒子サイズの変動係数を35%未満にするためには、前記1次粒子が凝集した2次粒子を用いることが好ましく、2次粒子の中心粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲であることが好ましく、0.1〜2.0μmの範囲であることがより好ましく、0.2〜1.0μmの範囲であることがさらに好ましい。これは、ナノサイズの前駆体をそのまま焼成原料として用いると、表面活性や凝集力が強すぎて均一に焼結させることが困難となり、得られる蛍光体の粒子サイズ分布が広くなってしまうためである。1次粒子が凝集した2次粒子を用いることで、表面活性と凝集力を適度に調整できるとともに、粒子のハンドリング特性が向上し、混合や充填などの作業性も向上する。
前記2次粒子にEL蛍光体の付活剤となる元素を含有させることが好ましい。付活剤元素はCu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、中でもCu、Mnを用いることが好ましい。付活剤元素は、前記1次粒子の表面や2次粒子の表面に均一に含有させることが好ましく、1次粒子の内部に均一に含有させることが最も好ましい。これは、焼成工程での付活剤の拡散による均一化がより容易になるためである。
【0013】
本発明のZnS系EL蛍光体の前駆体は、チオアセトアミド(以下TAと略)の加水分解を利用した均一沈殿法により製造できる。均一沈殿法によるZnS蛍光体の前駆体合成は、反応母液として亜鉛の硝酸塩、ハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩等の水溶性塩を水に溶解したものを用いることができる。これらの中でも、均一沈殿により球形の凝集体を得ることができる硝酸亜鉛を用いることがより好ましい。反応母液の中には、付活剤となるCu、Mn、Ag、Au又は希土類元素の水溶性塩を添加する。これらの付活剤の添加量は、添加元素によっても異なるが、均一沈殿するZnSの1モルに対して、Cuの場合には5×10-5〜5×10-3モル程度が好ましく、Mnの場合には10-3〜5×10-1程度が好ましい範囲である。このときの塩濃度は、収量を考慮すると0.01M以上が好ましく、使用する塩の飽和濃度までが利用可能である。沈殿剤として作用するTAは、亜鉛に対して化学量論量以上を添加すれば良いが、反応速度や収率を増加させるために、亜鉛の物質量の2〜10倍の範囲が好ましく、2〜4倍の範囲がより好ましい。さらに、初期の反応を促進するのに反応母液中にH+が存在することが好ましいため、pHは1〜4の範囲に調整することが好ましい。pH調整は、酸を添加すれば良いが、硝酸、塩酸、酢酸、等が利用でき、反応母液に溶解している亜鉛塩のアニオンと同一にすることが好ましい。
【0014】
均一沈殿反応は、TAを塩が溶解した水溶液中に添加することで開始される。このとき、TAは固体で添加しても、水溶液で添加しても良い。水溶液で添加する場合には、添加精度の高いシリンジポンプ等を用いることが好ましい。反応母液は、沈殿物が溶液中で均一に流動するように撹拌することが好ましい。TAの加水分解は水溶液の温度が60℃以上で開始されるため、反応母液は60〜100℃の範囲で保持することが好ましく、反応速度や制御性の点で、70〜90℃の範囲がより好ましい。TAは、60℃以下の反応母液に予め添加してから昇温しても、60℃以上に予め昇温・保持した反応母液に添加しても良い。TAを添加した後、反応が完全に終了するまで保温を保持することが好ましい。これは、付活剤が亜鉛に対して非常に少ないので、共沈できないことが発生しないためである。反応の終了を亜鉛濃度を同時検出して決定することや、十分な反応時間を取ることで反応を終了させる。そして、得られた前駆体の沈殿物は、副生成物が粒子表面に残留しないように十分に水洗し、乾燥する。
【0015】
さらに、噴霧熱分解法を用いても前駆体の製造ができる。噴霧熱分解法は、蛍光体の原料溶液を、霧化器を用いて微小液滴化して、液滴内での凝縮や化学反応又は液滴周囲の雰囲気ガスとの化学反応により、蛍光体前駆体を合成する方法である。原料溶液は、亜鉛の硝酸塩、ハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩等の水溶性塩を水に溶解したものを用いることができる。この溶液に、付活剤となるCu、Mn、Ag、Au又は希土類元素の水溶性塩と、硫黄供給源となるTA、チオ尿素及びそれらの誘導体とを添加する。チオ尿素誘導体としては、N−メチルチオ尿素、N−エチルチオ尿素、N,N−ジメチルチオ尿素、N,N−ジエチルチオ尿素、N−アリルチオ尿素等が挙げられる。溶液の濃度は、飽和濃度まで利用可能だが、収率や得られる粒子サイズの点で、0.01〜5.0Mの範囲が好ましく、0.1〜1.0Mの範囲がより好ましい。硫黄供給源は、亜鉛に対して化学量論量以上であれば良いが、2〜10倍量がより好ましい。2倍以下では硫化物の生成効率が低下し、10倍以上では有毒ガスの発生が顕著になるためである。付活剤の添加量の適量は、上記均一沈殿法と同一である。
【0016】
微小液滴を生成する霧化器としては、2流体ノズル、超音波霧化器、静電霧化器を用いることが好ましく、超音波霧化器が液滴サイズの調整の点でより好ましい。霧化器によって生成した微小液滴を、キャリアーガスで電気炉などに導入する。キャリアーガスは、窒素、アルゴンなどの不活性ガスや、硫化水素、二硫化炭素などの硫化ガスを用いることができる。微小液滴を含むキャリアーガスは、電気炉で加熱された石英管などに導入することで、脱水・縮合し、熱分解反応によって付活剤を含有したZnSを得る。電気炉の温度は、500〜1000℃の範囲が好ましく、600〜800℃の範囲がより好ましい。500℃以下では熱分解反応が十分に行われず、1000℃以上では硫化物の分解や酸化物の生成が発生するためである。微小液滴の電気炉内の滞留時間は、0.5秒〜10分の範囲が好ましく、10秒〜1分がより好ましい。0.5秒以下では熱分解反応が十分に行われず、10分以上ではキャリアーガスの流速が低すぎて液滴や生成した前駆体を運ぶことができなくなるためである。生成した前駆体粒子は、最後にフィルターによって回収する。
【0017】
[EL蛍光体]
本発明のEL蛍光体は、一般式;ZnS:M,Xで表される。式中、MはCu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Xはハロゲン元素及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。MとしてはCu、Mnが好ましく、XとしてはCl、Alが好ましい。
本発明のEL蛍光体粒子は、発光層の膜厚を小さくして電界強度を高めるために、中心粒子サイズが0.1〜15μmの範囲が好ましく、10μm以下がより好ましい。その粒子内部は、面状の積層欠陥が多い構造を有する方がEL発光の効率が高いため、積層欠陥の平均面間隔が5nm以下の面間隔で10層以上の積層欠陥を有する粒子が全蛍光体粒子の30%以上存在することが好ましく、50%以上存在することがより好ましく、70%以上存在することがさらに好ましい。
【0018】
本発明のEL蛍光体は、粒子サイズ分布が狭く、かつ従来の粒子に比べてより平均粒子サイズの小さいEL用硫化亜鉛粒子の集団である。本発明においては、粒子サイズ分布は、粒子100個以上で測定した変動係数(粒子サイズ分布の標準偏差÷平均粒子サイズ×100%)で好ましくは35%未満、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下である。個々の粒子サイズは、体積を球換算してその直径で表す。粒子サイズは、その個々の粒子の写真をとって測定してもよいし、光学的にその分布を測定してもよいし、沈降速度から分布を割り出してもよい。
【0019】
本発明のZnS系EL蛍光体は、前記前駆体を焼成することで製造することができる。焼成は固相反応で行うことができる。まず、付活剤を含有した前駆体とハロゲン共付活剤の供給源ともなるアルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ土類金属ハロゲン化物などの融剤、必要に応じてAl化合物とを混合する。この混合は、乳鉢などによる乾式混合でも良いし、一度水を加えて懸濁液として乾燥させることでさらに均一に混合することもできる。融剤としては、特に塩化物を用いることが好ましい。化合物としては、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。融剤の添加量は、1〜90質量%の範囲が好ましく、10〜60質量%の範囲がより好ましい。融剤が少なすぎると結晶成長が十分に進まないことがあり、多すぎると粒子サイズが大きくなりすぎる。この混合物を、アルミナ製の坩堝に充填し、好ましくは700〜1200℃の範囲の焼成温度で焼成する。焼成温度は、エネルギー消費や点欠陥の生成の点で低い方が好ましく、1100℃以下がより好ましい。焼成時間は、結晶成長が十分に進み、付活剤がZnS中に均一に拡散するために、30分〜12時間の範囲が好ましく、1〜6時間がより好ましい。焼成の雰囲気は、空気などの酸化性雰囲気、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気、水素−窒素混合雰囲気、炭素−酸素混合雰囲気などの還元雰囲気、硫化水素、二硫化炭素などの硫化雰囲気などを利用できる。
【0020】
焼成した混合物を坩堝から取り出し、余分な融剤、反応副生成物、ZnSが酸化されてできたZnOなどを除去するために、酸洗浄や水洗を十分に繰り返す。洗浄した粒子を乾燥してEL蛍光体が得られる。焼成後の粒子は、粒子同士が軽く癒着している場合があるので、ボールミルや超音波分散などでほぐすことが好ましい。粗大粒子を除去するために、メッシュなどで篩い分けしても良い。また、Cuを添加している場合には、余分のCuがZnS蛍光体の表面に析出しているので、シアン化合物、Cuキレート剤、等の水溶液で洗浄することが好ましい。
【0021】
上記焼成した蛍光体は、そのままでも十分に性能を発揮するが、高い温度で焼成してウルツ鉱型構造をとった場合には、蛍光体粒子に応力を与えた後、再焼成することが輝度を高めるためより好ましい。蛍光体粒子への応力付与は、ボールミル、超音波、静水圧、等が利用でき、いずれの場合も蛍光体粒子を破壊しない程度の負荷で、粒子に均一に加えることが好ましい。応力を与えた蛍光体は、好ましくは500〜1000℃の温度で再焼成する。これによって、閃亜鉛鉱型構造に一部変換されてEL発光の効率が増加する。再焼成の焼成時間や雰囲気は、上記焼成と同様の条件が利用できる。
【0022】
本発明により得られる蛍光体素子は、蛍光体粒子の表面に非発光シェル層を有することがより好ましい。このシェル層形成は、蛍光体素子のコアとなる半導体微粒子の調製に引き続いて化学的な方法を用いて0.1μm以上の厚みで設置するのが好ましい。好ましくは0.1μm以上1.0μm以下ある。
非発光シェル層は、酸化物、窒化物、酸窒化物や、蛍光体母体物質上に形成した同一組成で発光中心を含有しない物質から作成することができる。また、蛍光体母体物質上に異なる組成の物質をエピタキシャルに成長させて形成することもできる。
非発光シェル層の形成方法として、レーザー、アブレーション法、CVD法、プラズマ法、スパッタリングや抵抗加熱、電子ビーム法などと、流動油面蒸着を組み合わせた方法、等の気相法と、複分解法、ゾルゲル法、超音波化学法、プレカーサーの熱分解反応による方法、逆ミセル法やこれらの方法と高温焼成を組み合わせた方法、尿素溶融法、凍結乾燥法、等の液相法や噴霧熱分解法なども用いることができる。
【0023】
また、尿素溶融法や噴霧熱分解法も、非発光シェル層の合成に適している。
例えば、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層を付設する場合は、非発光シェル層材料となる金属塩が溶解し、溶融した尿素溶液中に、硫化亜鉛蛍光体を添加する。硫化亜鉛は尿素に溶解しないため、粒子形成の場合と同様に溶液を昇温し、尿素由来の樹脂中に硫化亜鉛蛍光体と非発光シェル層材料が均一に分散した固体を得る。この固体を微粉砕した後、電気炉中で樹脂を熱分解させながら焼成する。焼成雰囲気として、不活性雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、アンモニア雰囲気、真空雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物からなる非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
【0024】
また、例えば、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に噴霧熱分解法で非発光シェル層を付設する場合は、非発光シェル層材料となる金属塩が溶解した溶液中に、硫化亜鉛蛍光体を添加する。この溶液を霧化し、熱分解することで、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層が生成する。熱分解の雰囲気や追加焼成の雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物からなる非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
【0025】
[EL素子]
本発明により得られた蛍光体は、エレクトロルミネッセンス素子に用いられることが好ましく、該エレクトロルミネッセンス素子は基本的には発光層を、少なくとも一方が透明な、対向する一対の電極で挟持した構成で且つ発光層と電極の間に誘電体層を隣接することが好ましい。
発光層には、本発明の蛍光体を分散剤に分散したものを用いることができる。分散剤としては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。これらの樹脂に、BaTiO3やSrTiO3などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。発光層の膜厚は0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜60μmであることがより好ましく、0.5〜30μmが特に好ましい。
誘電体層は、誘電率と絶縁性が高く、且つ高い誘電破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。これらは金属酸化物、窒化物から選択され、例えばTiO2、BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、KNbO3、PbNbO3、Ta23、BaTa26、LiTaO3、Y23、Al23、ZrO2、AlON、ZnSなどが用いられる。これらは均一な膜として設置されても良いし、また粒子構造を有する膜として用いても良い。
【0026】
発光層と誘電体層は、スピンコート法、ディップ法、バーコート法、スクリーンプリント法、あるいはスプレー塗布法などを用いて塗布することができる。特に、連続的に塗布が可能なドクターブレード法、スライドコート法、エクストルージョンコート法が好ましい。これに用いられる塗布液は、少なくともEL蛍光体粒子又は誘電体粒子、結合剤、及び結合剤を溶解する溶剤を含有してなる塗布液である。ここで、溶剤としては、アセトン、MEK、DMF、酢酸ブチル、アセトニトリルなどが用いられる。常温における塗布液の粘度は、0.1Pa・s以上5Pa・s以下の範囲が好ましく、0.3Pa・s以上1.0Pa・s以下の範囲が特に好ましい。塗布液の粘度が、低すぎるときは、塗膜の膜厚ムラが生じやすくなり、また分散後の時間経過とともに蛍光体粒子が分離沈降してしまうことがある。一方、塗布液の粘度が高すぎるときには、比較的高速での塗布が困難となる場合があるので、上述の範囲内とするのが好ましい。なお、前記粘度は、塗布温度と同じ16℃において測定される値である。
また、誘電体膜の調製法はスパッター、真空蒸着等の気相法であっても良く、この場合膜の厚みは通常100〜1000nmの範囲で用いられる。
【0027】
上記エレクトロルミネッセンス素子において、透明電極は一般的に用いられる任意の透明電極材料が用いられる。例えばインジウムドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫などの酸化物、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造、ポリアニリン、ポリピロールなどのπ共役系高分子などが挙げられる。
これら透明電極にはこれに櫛型あるいはグリッド型等の金属細線を配置して通電性を改善することも好ましい。
光を取り出さない側の背面電極は、導電性の有る任意の材料が使用出来る。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作成する素子の形態、作成工程の温度等により適時選択されるが、導電性さえあればITO等の透明電極を用いても良い。
【0028】
上記エレクトロルミネッセンス素子は、最後に適当な封止材料を用いて、外部環境からの湿度の影響を排除するよう加工することが好ましい。素子の基板自体が十分な遮蔽性を有する場合には、作成した素子の上方に遮蔽性のシートを重ね、周囲をエポキシ等の硬化材料を用いて封止する。
このような遮蔽性のシートは、ガラス、金属、プラスチックフイルム等の中から目的に応じて選択される。
【0029】
また、本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、誘電体物質と接触した蛍光体を発光層に含むことも好ましく、蛍光体を含む発光層と必要に応じて隣接させる無機誘電体物質を含む絶縁層の合計膜厚みが、該蛍光体粒子の平均粒子サイズ(平均円相当直径)の3倍〜10倍であることが好ましい。蛍光体粒子と誘電体物質の接触とは、蛍光体粒子が非発光シェル層で完全に被覆、ないしは部分的に被覆されていることが好ましい。しかし、蛍光体粒子と誘電体物質が単に接触しているだけでも良い。
例えば、蛍光体と誘電体物質との接触によって形成される界面準位から電子が提供され、蛍光体内部に導入された電子は、強電界によって加速され、ホットエレクトロンになる。この加速電子が、蛍光体結晶内にドープされた発光中心を衝突励起し、高輝度の発光を得ることができる。
【0030】
また、素子厚みの下限は、蛍光体粒子のサイズ(平均円相当直径)に相当するが、素子の平滑性を確保するためには、蛍光体粒子のサイズに対して素子の厚みが3〜10倍であることが好ましい。ここで言う素子の厚みとは、電極で挟まれた蛍光体を含む発光層とそれに近接する無機誘電体層の合計厚みを指す。
また、蛍光体粒子の上部の一部を覆うように、すなわち発光層の一部に、誘電体層が一部乗り入れるように塗設することで、接触点を増加させ、また素子表面の平滑性を改良するなどの効果が現れ、好ましい。
【0031】
また、上記エレクトロルミネッセンス素子内で用いられる誘電体物質は、薄膜結晶層であっても粒子形状であってもよい。またそれらの組み合わせであっても良い。誘電体物質を含む誘電体層は、発光層の片側に設けてもよく、また発光層の両側に設けることが好ましい。薄膜結晶層の場合は、基板にスパッタリング等の気相法で形成した薄膜であっても、BaやSrなどのアルコキサイドを用いたゾルゲル膜であっても良い。粒子形状の場合は、蛍光体粒子の大きさに対し十分に小さいことが好ましい。具体的には蛍光体粒子サイズの1/3〜1/100の大きさが好ましく、より好ましくは1/5〜1/50の大きさである。
また、本発明の製造方法で製造したエレクトロルミネッセンス蛍光体を好ましく用いたエレクトロルミネッセンス素子において、その厚みが薄く、高電界で励起する場合は、エレクトロルミネッセンス素子を挟持する電極間の距離が、均一であることが重要である。具体的には、電極間距離のバラツキを中心線平均粗さRaとして見たとき、発光層厚みdμmに対して(d×1/8)μm以下であることが好ましい。より好ましくは(d×1/10)μm以下である。
【0032】
本発明により得られたエレクトロルミネッセンス蛍光体を好ましく用いたエレクトロルミネッセンス素子の用途は、特に限定されるものではないが、光源としての用途を考えると、発光色は白色が好ましい。発光色を白色とする方法としては、エレクトロルミネッセンス素子の発光層に複数の発光色の蛍光体を混合することが好ましい(青−緑−赤の組み合わせや、青緑−オレンジの組み合わせ等)。また、青色のように短い波長で発光させて、発光の一部を緑や赤色に波長変換して白色化することも好ましい。
【0033】
その他、本発明の製造方法で製造したエレクトロルミネッセンス蛍光体を用いたエレクトロルミネッセンス素子の構成において、基板、透明電極、背面電極、各種保護層、フィルター、光散乱反射層などを必要に応じて付与することができる。特に基板に関しては、ガラス基板やセラミック基板に加え、フレキシブルは透明樹脂シートを用いることができる。
【0034】
本発明で得られる蛍光体粒子は、上記のようなエレクトロルミネッセンス素子構成と適宜組み合わせることが好ましく、それにより高輝度、高効率のエレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の蛍光体前駆体、EL蛍光体、それらの製造方法、EL素子を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の各実施例に制限されるものではない。
【0036】
実施例1
[蛍光体前駆体の形成]
表1に基づき、均一沈殿法を用いて蛍光体前駆体を合成した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すZn塩、付活剤及びpH調整剤(酸)を蒸留水に添加・溶解した反応母液を調製し、その反応母液を300ml容積の三口フラスコに収容した。反応母液を約40mmφのスクリュー型撹拌機を用いて、200rpmの回転数で撹拌した。各反応母液は、pH調整剤にてpHを2に調整した。この反応母液を収容した三口フラスコを、マントルヒーターで加熱して70℃まで昇温・保持した。
70℃に保持した反応母液中に、表1に示す量の固体のTAを一括添加し、所定の時間反応させた。得られた沈殿物を、遠心分離器を用いて3000rpmで20分間固液分離し、300mlの蒸留水を用いて3回水洗・デカンテーションを繰り返した後、温風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥してCu、又はMn及びCuを含有するZnS蛍光体前駆体粒子を得た。生成したZnS蛍光体前駆体粒子は、一次粒子が凝集してなる二次粒子からなる。
【0039】
実施例2
[蛍光体前駆体の形成]
表2に基づき、噴霧熱分解法を用いて蛍光体前駆体を合成した。
【0040】
【表2】

【0041】
超音波霧化器、5ゾーン管状炉、捕集器を組み合わせた噴霧熱分解装置を用いて前駆体を合成した。超音波霧化器は、1.7MHzの超音波発振器を8器使用した。管状炉の5ゾーンは、それぞれ200℃、400℃、600℃、800℃、800℃に設定し、各ゾーンは30cmとした。管状炉に挿入した炉心管は、内径50mmφで長さが2mの石英管を用いた。捕集器は、0.45μmポアのバグフィルターを用いて、結露防止のため捕集器を120℃に保温した。キャリアーガスとしてN2を用いて、流量を10リットル/分とした。
表2に示す反応溶液を調製し、噴霧熱分解装置の超音波霧化器に収容した。この溶液中の、亜鉛に対する硫黄の比率は2とした。キャリアーガスを導入した後、超音波霧化器を動作させ、反応溶液を霧化した。約2時間噴霧熱分解装置を動作させて、捕集器のフィルターに堆積した粒子を回収し、Cu又はMnとCuを含有するZnS蛍光体前駆体粒子を得た。生成したZnS蛍光体前駆体粒子は、一次粒子が凝集してなる二次粒子からなる。
【0042】
比較例1
[蛍光体前駆体の形成]
硝酸亜鉛六水和物7.44gと硝酸銅三水和物0.006gとを、蒸留水250mlに溶解した反応母液を調製し、その反応母液を300ml容積の三口フラスコに収容した。反応母液を約40mmφのスクリュー型撹拌機を用いて、200rpmの回転数で撹拌した。この反応母液を収容した三口フラスコを、マントルヒーターで加熱して60℃まで昇温・保持した。
60℃に保持した反応母液中に、硫化ナトリウム九水和物6.0gを蒸留水25mlに溶解した反応液を1ml/分の速度で添加し、1時間反応させた。得られた沈殿物を、遠心分離器を用いて3000rpmで20分間固液分離し、300mlの蒸留水を用いて3回水洗・デカンテーションを繰り返した後、温風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥してCu、又はMn及びCuを含有するZnS蛍光体前駆体粒子を得た。生成したZnS蛍光体前駆体粒子は、1次粒子サイズは6.5nmであるが、定形の2次凝集粒子は示さなかった。
【0043】
比較例2
市販の硫化亜鉛を蛍光体前駆体として用いた。この蛍光体前駆体は、1次粒子サイズが19nmで2次粒子サイズは7μmであった。
【0044】
実施例3
[蛍光体前駆体の焼成]
上記実施例1及び2で作成した前駆体と下記の融剤を加えて乳鉢混合し、それぞれ混合物を得た。
・蛍光体前駆体 ・・・25.0g
・塩化ナトリウム ・・・1.0g
・塩化バリウム2水和物 ・・・2.1g
・塩化マグネシウム6水和物 ・・・4.25g
上記混合物を、アルミナ坩堝に充填し、蓋をして室温のマッフル炉内に設置した。マッフル炉を400℃/hの速度で昇温し、900℃に保持し、空気中で4時間焼成した。焼成終了後、室温まで冷却し、アルミナ坩堝を取り出した。アルミナ坩堝から、焼成した混合物を取り出し、0.1MのHCl水溶液500mlで酸洗浄した後、500mlのH2Oで5回水洗・デカンテーションを繰り返し、温風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥した。これによって、ZnS:Cu,Cl中間蛍光体粒子又は、ZnS:Mn,Cu,Cl中間蛍光体粒子を得た。
【0045】
さらに、乾燥した上記の各蛍光体粒子5gを、1mmのアルミナボール20gとともに30ml容積のサンプル瓶に充填し、10rpmの回転速度で20分間ボールミルした後、篩いを用いてアルミナボールと蛍光体粒子を分離した。分離した蛍光体粒子を、アルミナ坩堝に充填し、蓋をして室温のマッフル炉内に再度設置した。マッフル炉を400℃/hの速度で昇温し、700℃に保持し、空気中で4時間焼成した。焼成終了後、室温まで自然冷却し、アルミナ坩堝を取り出した。アルミナ坩堝から、焼成した混合物を取り出し、10%のKCN水溶液100mlで洗浄した後、500mlの蒸留水で5回水洗・デカンテーションを繰り返し、温風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥した。これによって、ZnS:Cu,Cl蛍光体粒子又は、ZnS:Mn,Cu,Cl蛍光体粒子を得た。
【0046】
比較例3
[蛍光体前駆体の焼成]
上記比較例1及び2で作成した前駆体を、実施例3と同様の方法で焼成を行いZnS:Cu,Cl蛍光体粒子を得た。
【0047】
[粒子の評価]
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた粒子に対して、下記項目を評価し、結果を表3に示した。
・中心粒子サイズ(堀場製作所製LA−920(商品名)で計算されるメジアン径を用いる)
・粒子サイズ分布(堀場製作所製LA−920(商品名)で計算される変動係数を用いる)
・1次粒子サイズ(粉末X線回折の(111)面の半値幅を測定し計算)
・粒子形状(SEM観察)
・積層欠陥面間隔(蛍光体粒子をメノー乳鉢で磨りつぶし、破片をTEM観察し、積層欠陥の面間隔を測定し、間隔が5nm以下を○)
積層欠陥頻度(蛍光体粒子100個をTEM観察し、積層欠陥の頻度を測定し、30%以上を○)
【0048】
【表3】

【0049】
実施例4
[EL素子の作成]
上記実施例1−2及び2−2を焼成して得た蛍光体(それぞれ蛍光体A及びBとする)を用いてEL素子を作成した。
100μmのPET支持体上に、表面抵抗率100Ω/□のITO電極を積層させ、次にITO電極の表面に、前記蛍光体A又はBをシアノレジン(信越化学工業社製;CR−S(商品名))に分散した蛍光体粒子分散液(溶剤としてDMFを使用、固形分濃度約60質量%)をスライドコーターで塗布することにより、発光層を20μmの乾燥膜厚で形成した。次いで、形成した発光層に重ねて、中心粒子サイズ0.2μmのBaTiO3誘電体粒子をシアノレジンに分散した誘電体粒子分散液(溶剤としてDMFを使用、固形分濃度58質量%)をスライドコーターで塗布することにより、誘電体層を20μmの乾燥膜厚で形成した。次いで、誘電体層の上に、誘電体層と同じ面積で、銀微粒子をポリエステル樹脂に分散した銀粒子分散液(溶剤として酢酸ブチルを使用、固形分濃度55質量%)を用いて背面電極層を10μmの膜厚でスライドコーターで形成し、ITO電極上に発光層、誘電体層、背面電極が順次積層された積層体シートを得た。最後に、各積層体をA4サイズに切り出し、透明電極と背面電極にそれぞれ引き出し電極を付設して、積層体全体を防湿フィルムで封止してEL素子を得た。蛍光体粒子A及びBを発光層に用いたEL素子を、それぞれEL素子A及びEL素子Bとした。
【0050】
比較例4
[EL素子の作成]
上記比較例1及び2を焼成して得た蛍光体(それぞれ蛍光体C及びDとする)を用いて実施例4と同様の方法でEL素子を作成し、EL素子C及びEL素子Dを得た。
【0051】
[EL素子の評価]
上記EL素子に、200Vで1kHzの交流電圧を印加して、EL輝度を輝度計(トプコン社製;BM9(商品名))で測定した。輝度の測定結果を表4に示した。
【0052】
【表4】

【0053】
本発明の実施例の蛍光体粒子は、積層欠陥の面間隔と頻度が良好であるのに対して、比較例の蛍光体粒子は面間隔、頻度とも不足であった。加えて比較例1の蛍光体粒子の変動係数は極めて大きく、2次凝集粒子のサイズが重要であることが明確である。EL輝度においても、実施例のEL素子は、比較例のEL素子に比べて高い輝度を示した。
以上のように、本発明のZnS蛍光体前駆体及びそれを用いて作成したEL蛍光体は、900℃の焼成温度においても高いEL輝度を得ることができる。また、本発明のZnS蛍光体前駆体の製造方法は、前記のような有用なZnS蛍光体前駆体を高収率に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心粒子サイズが1〜20nmの範囲の1次粒子が凝集してなる、中心粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にあり、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する2次粒子を含有してなることを特徴とする硫化亜鉛系蛍光体前駆体。
【請求項2】
一般式;ZnS:M,X
(式中、MはCu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Xはハロゲン元素及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。)
で表され、中心粒子サイズが0.1〜15μmの範囲にあり、少なくとも請求項1記載の前駆体とXで表される元素を含有する化合物とを混合・焼成して得られることを特徴とするエレクトロルミネッセンス蛍光体。
【請求項3】
前記蛍光体が面状の積層欠陥を有しており、前記積層欠陥の平均面間隔が5nm以下の面間隔で10層以上の積層欠陥を有する粒子が全蛍光体粒子の30%以上存在することを特徴とする請求項2に記載のエレクトロルミネッセンス蛍光体。
【請求項4】
粒子サイズの変動係数が35%未満であることを特徴とする請求項2又は3に記載のエレクトロルミネッセンス蛍光体。
【請求項5】
中心粒子サイズが1〜20nmの範囲の1次粒子が凝集してなる、中心粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にあり、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する2次粒子を含有してなる硫化亜鉛系蛍光体の前駆体の製造方法であって、
少なくとも亜鉛化合物とCu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物とが溶解した溶液を調製する工程と、前記溶液にチオアセトアミドを添加する工程と、前記溶液を60〜100℃の範囲の温度に加熱することでチオアセトアミドを加水分解させてCu、Mn、Ag、Au又は希土類元素の少なくとも1種を含有した硫化亜鉛の沈殿物を得る工程とを含むことを特徴とする硫化亜鉛系蛍光体の前駆体の製造方法。
【請求項6】
中心粒子サイズが1〜20nmの範囲の1次粒子が凝集してなる、中心粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にあり、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する2次粒子を含有してなる硫化亜鉛系蛍光体の前駆体の製造方法であって、
少なくとも亜鉛化合物と、Cu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物と、チオアセトアミド、チオ尿素及びそれらの誘導体とが溶解した溶液を調製する工程と、前記溶液を微小液滴として霧化してキャリアーガス中に導入し、前記キャリアーガス中に導入した微小液滴を500〜1000℃の範囲の温度に加熱することで熱分解させて、Cu、Mn、Ag、Au又は希土類元素の少なくとも1種を含有した硫化亜鉛の粒子を得る工程とを含むことを特徴とする硫化亜鉛系蛍光体の前駆体の製造方法。
【請求項7】
一般式;ZnS:M,X
(式中、MはCu、Mn、Ag、Au及び希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Xはハロゲン元素及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。)
で表されるエレクトロルミネッセンス蛍光体の製造方法であって、
少なくとも請求項5又は6に記載の方法で得られたCu、Mn、Ag、Au又は希土類元素の少なくとも1種を含有した硫化亜鉛系蛍光体の前駆体とハロゲン元素及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物とを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を700〜1200℃の範囲の温度で焼成して蛍光体粒子を得る工程とを含むことを特徴とするエレクトロルミネッセンス蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程の後、蛍光体粒子が破砕しない程度に応力を与える工程と、応力を与えた蛍光体粒子を500〜1000℃で再焼成する工程とを含むことを特徴とする請求項7に記載のエレクトロルミネッセンス蛍光体の製造方法。
【請求項9】
請求項2〜4のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス蛍光体を発光層に含有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記発光層の膜厚が0.5〜30μmであることを特徴とする請求項9に記載のエレクトロルミネッセンス素子。

【公開番号】特開2006−8806(P2006−8806A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186612(P2004−186612)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】