説明

蛍光体及びその製造方法、蛍光体含有組成物、発光装置、並びに画像表示装置及び照明装置

【課題】緑色の蛍光を発する蛍光体であって、青色光又は近紫外光に対する変換効率及び色純度に優れた、高特性な蛍光体を提供する。
【解決手段】蛍光体を下記式の化学組成にする。
(MI(1-x-y)IIxIIIyαSiOβ
Iは、Ba、Ca、Sr、Zn及びMgの元素を表わし、MIIは、2価及び3価の原子価を取り得る金属元素を表わし、MIIIは、Tb、Pr、Ce、Lu、La、及びGdの元素を表わし、x、y、α及びβは、0.01<x<0.3、0.0001≦y≦0.025、1.5≦α≦2.5、及び、3.5≦β≦4.5を満たす数を表わす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色の蛍光を発する蛍光体及びその製造方法と、その蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。より詳しくは、液晶用バックライトに適した緑色蛍光体と、その緑色蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
照明用及びディスプレイの用途で用いられる白色光は、光の加算混合原理により、青色、緑色、赤色の発光を組み合わせることによって得るのが一般的である。ディスプレイ用途の一分野であるカラー液晶表示装置用バックライトにおいては、色度座標上の広い範囲の色を効率よく再現するために、青色、緑色、赤色の各発光体は、出来るだけ発光強度が高いこと、色純度が良いことが望まれる。例えば、TVの色再現範囲の標準の一つとして、NTSC(National Television Standard Committee)が知られている。
【0003】
最近、この3色の発光源として、半導体発光装置を使用する試みがなされている。しかしながら、3色全てに半導体発光装置を用いることは、使用中の色シフトを補償する回路が必要となるため、一般的でない。そこで、蛍光体を使用して半導体発光素子からの発光を波長変換し、所望の3色を得ることが実際的である。具体的には、近紫外発光の半導体発光素子を光源として青色、緑色、赤色を発光させる方式と、青色発光の半導体発光素子からの発光はそのまま青色として使用し、緑色と赤色は蛍光体による波長変換で得る方法とが知られている。
【0004】
これらの3色の中で、緑色は、人間の眼に対する視感度が最も高く、ディスプレイの全体の明るさに大きく寄与するため、他の2色に比べ、とりわけ重要である。
【0005】
緑色の蛍光を発する蛍光体(以下適宜「緑色蛍光体」という。)としては、その蛍光の中心波長が、通常498nm以上、好ましくは510nm以上、また、通常550nm以下、好ましくは540nm以下の範囲内にあるものが望ましい。このような緑色蛍光体としては、例えば、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si222:Euで表わされるユウロピウム賦活アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、(Ba,Ca,Sr,Mg)2SiO4:Euで表わされるユウロピウム賦活アルカリ土類マグネシウムシリケート系蛍光体等が挙げられる。
【0006】
しかしながら、これら従来知られている緑色蛍光体は、明るさや色度の要求に応えることが難しく、実用化されることはなかった。
【0007】
半導体発光素子からの近紫外光又は青色光を波長変換し、緑色発光を得る蛍光体の公知例として、特許文献1に、SrBaSiO4:Euが記載されている。
【0008】
しかしながら、この特許文献1記載の蛍光体は、Euを0.0001重量%〜5重量%含有しており、実施例1のEu濃度は0.9重量%、実施例2のEu濃度は0.8重量%であり、2価の元素の合計に対するEu量は何れも約1モル%である。これらの蛍光体は色再現範囲が狭い上に輝度も低く、上記の目的に対して不十分なものであった。
【0009】
また、特許文献1には、Ba、Sr、及びCaの組成を変化させることにより、波長を変化させることができると記載されているが、その実施例に記載された組成及び製法で作製される蛍光体は、何れも青色光又は近紫外光に対する変換効率が低く、色再現範囲及び輝度の両者を満たすには不充分であった。
【0010】
【特許文献1】米国特許第6982045号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
照明用及びディスプレイ用の緑色発光体としては、発光ピーク波長が525nm付近に存在し、発光効率が高く、半値幅が出来るだけ狭いことが求められる。しかしながら、上記特許文献1記載のものに代表される既存の緑色蛍光体は、青色光又は近紫外光に対する変換効率及び色純度の点で、何れも不十分なものであった。このため、上記目的に適う高特性の緑色蛍光体が望まれていた。
また、さらに、蛍光体を発光装置に用いた場合に、長時間の駆動に耐え得る耐久性の高い蛍光体が求められていた。
【0012】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、緑色の蛍光を発する蛍光体であって、青色光又は近紫外光に対する変換効率及び色純度に優れた、高特性な蛍光体を提供するとともに、この蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置と、この発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記課題に鑑み、蛍光体の構成元素、及び構成比について詳細に検討した結果、特定の組成範囲を有し、且つ、下記式[1]におけるMIII元素を含有する蛍光体が、高特性であり、かつ、耐久性に優れることを見出した。
また、本発明者等は、この蛍光体が緑色光源として非常に優れた特性を示し、発光装置等の用途に好適に使用できることを見出して、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明の要旨は、下記式[1]で表わされる化学組成を有することを特徴とする蛍光体に存する(請求項1)。
(MI(1-x-y)IIxIIIyαSiOβ [1]
(前記式[1]中、MIは、Ba、Ca、Sr、Zn及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を表わし、MIIは、2価及び3価の原子価を取り得る1種以上の金属元素を表わし、MIIIは、Tb、Pr、Ce、Lu、La、及びGdからなる群より選ばれる1種以上の元素を表わし、x、y、α及びβは、各々、0.01<x<0.3、0.0001≦y≦0.025、1.5≦α≦2.5、及び、3.5≦β≦4.5を満たす数を表わす。)
【0015】
このとき、本発明の蛍光体は、物体色をL***表色系で表わした場合に、L*、a*、及びb*が、それぞれL*≧90、a*≦−20、及びb*≧30を満たすことが好ましい(請求項2)。
【0016】
また、本発明の蛍光体は、表面がポリフタルアミドにより形成された深さ0.85mm径2.4mmの凹部を有する容器の前記凹部の底に、発光ピーク波長460nm、発光強度0.85lmの発光ダイオードを設置し、該蛍光体とシリコーン樹脂とからなる組成物であって、その重量比が該蛍光体:シリコーン樹脂=6:100である組成物で前記凹部を封止してなる試験用発光装置について、周囲温度85℃、相対湿度85%の条件下、駆動電流20mAで連続して1000時間点灯させた場合に、点灯開始後1000時間の時点における「緑色ピークの発光強度/青色ピークの発光強度」の強度比が、点灯開始後0時間の時点での前記強度比に対して85%以上であることが好ましい(請求項3)。
【0017】
また、本発明の蛍光体は、前記試験用発光装置について、周囲温度85℃、相対湿度85%の条件下、駆動電流20mAで連続して1000時間点灯させた場合に、下記式[2]で表される変化量が0.042以下であることが好ましい(請求項4)。
変化量 = {(Δx)2+(Δy)20.5 [2]
(前記式[2]において、Δxは、点灯開始後0時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のx値と、点灯開始後1000時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のx値との差を表わし、Δyは、点灯開始後0時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のy値と、点灯開始後1000時間の時点において前記試験用発光装置から得られる色度座標のy値との差を表わす。)
【0018】
また、本発明の蛍光体は、ピーク波長400nm又は455nmの光で励起した場合の発光色のCIE色度座標のx値及びy値が、それぞれ0.210≦x≦0.330、及び、0.480≦y≦0.670を満たすことが好ましい(請求項5)。
【0019】
さらに、前記式[1]において、MIIIが少なくともTbを含有することが好ましい(請求項6)。
【0020】
また、前記式[1]において、MIが少なくともBaを含有するとともに、MI全体に対するBaのモル比が0.5以上、1未満であることが好ましい(請求項7)。
【0021】
また、前記式[1]において、MIが少なくともBa及びSrを含有するとともに、MI全体に対するBa及びSrのモル比をそれぞれ[Ba]及び[Sr]とした場合に、[Ba]及び[Sr]が、0.5<{[Ba]/([Ba]+[Sr])}≦1を満たすことが好ましい(請求項8)。
【0022】
また、本発明の蛍光体は、重量メジアン径が10μm以上、30μm以下であることが好ましい(請求項9)。
【0023】
また、本発明の蛍光体は、前記式[1]に記載された元素以外に、更に、1価の元素、2価の元素、3価の元素、−1価の元素、及び−3価の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、これらの元素の含有量の合計が1ppm以上であることが好ましい(請求項10)。
【0024】
また、本発明の蛍光体は、前記式[1]に記載された元素以外に、更に、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、リン(P)、ホウ素(B)、窒素(N)、希土類元素及びハロゲン元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、これらの元素の含有量の合計が1ppm以上であることが好ましい(請求項11)。
【0025】
本発明の別の要旨は、本発明の蛍光体と、液状媒体とを含有することを特徴とする、蛍光体含有組成物に存する(請求項12)。
【0026】
本発明の更に別の要旨は、第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、該第2の発光体が、本発明の蛍光体を少なくとも1種以上、第1の蛍光体として含有することを特徴とする、発光装置に存する(請求項13)。
【0027】
このとき、前記第2の発光体が、前記第1の蛍光体とは発光ピーク波長の異なる少なくとも1種以上の蛍光体を、第2の蛍光体として含有することが好ましい(請求項14)。
【0028】
また、前記第1の発光体が、420nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、570nm以上780nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも一種の蛍光体を含有することが好ましい(請求項15)。
【0029】
更に、前記第1の発光体が、300nm以上420nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、420nm以上490nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも一種の蛍光体と、570nm以上780nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも一種の蛍光体とを含有することも好ましい(請求項16)。
【0030】
更に、前記第1の発光体が、420nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、580nm以上620nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体を含有することも好ましい(請求項17)。
【0031】
本発明の更に別の要旨は、本発明の発光装置を光源として備えることを特徴とする、画像表示装置に存する(請求項18)。
【0032】
本発明の更に別の要旨は、本発明の発光装置を光源として備えることを特徴とする、照明装置に存する(請求項19)。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、青色光又は近紫外光に対する変換効率及び色純度に優れた、高特性な蛍光体を提供するとともに、この蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置と、この発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0035】
なお、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。但し、括弧内に併記される元素の合計は1モルである。例えば、「(Ba,Sr,Ca)Al24:Eu」という組成式は、「BaAl24:Eu」と、「SrAl24:Eu」と、「CaAl24:Eu」と、「Ba1-xSrxAl24:Eu」と、「Ba1-xCaxAl24:Eu」と、「Sr1-xCaxAl24:Eu」と、「Ba1-x-ySrxCayAl24:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、前記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である。)。
【0036】
また、本明細書における色名と色度座標との関係は、すべてJIS規格に基づく(JISZ8110及びZ8701)。
【0037】
[1.蛍光体]
[1−1.蛍光体の組成]
本発明の蛍光体は、下記式[1]で表される化学組成を有する。
(MI(1-x-y)IIxIIIyαSiOβ [1]
(前記式[1]中、
Iは、Ba、Ca、Sr、Zn及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を表わし、
IIは、2価及び3価の原子価を取り得る1種以上の金属元素を表わし、
IIIは、Tb、Pr、Ce、Lu、La、及びGdからなる群より選ばれる1種以上の元素を表わし、
x、y、α及びβは、各々、
0.01<x<0.3、
0.0001≦y≦0.025、
1.5≦α≦2.5、及び、
3.5≦β≦4.5
を満たす数を表わす。)
【0038】
前記式[1]中、MIは、Ba、Ca、Sr、Zn及びMgからなる群より選ばれる1以上の元素を表わす。MIとしては、これらの元素のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有していてもよい。
【0039】
中でも、MIは、少なくともBaを含有することが好ましい。この場合、MI全体に対するBaのモル比は、通常0.5以上、中でも0.55以上、更には0.6以上が好ましく、また、通常1未満、中でも0.97以下、更には0.9以下、特に0.8以下の範囲が好ましい。Baのモル比が高過ぎると、発光ピーク波長が短波長側にシフトする傾向がある。一方、Baのモル比が低過ぎると、発光効率が低下する傾向がある。
【0040】
特に、MIは、少なくともBa及びSrを含有することが好ましい。ここで、MI全体に対するBa及びSrのモル比をそれぞれ[Ba]及び[Sr]とすると、[Ba]及び[Sr]の合計に対する[Ba]の割合、即ち、[Ba]/([Ba]+[Sr])で表わされる値が、通常0.5より大きく、中でも0.6以上、更には0.65以上であることが好ましく、また、通常1以下、中でも0.9以下、更には0.8以下の範囲であることが好ましい。この[Ba]/([Ba]+[Sr])の値が小さ過ぎる(即ち、Baの比率が少な過ぎる)と、蛍光体の発光ピーク波長が長波長側にシフトし、半値幅が増大する傾向がある。一方、この[Ba]/([Ba]+[Sr])の値が大き過ぎる(即ち、Baの比率が多過ぎる)と、蛍光体の発光ピーク波長が短波長側にシフトする傾向がある。
【0041】
また、[Ba]と[Sr]との相対比、即ち、[Ba]/[Sr]で表わされる値が、通常1より大きく、中でも1.2以上、更には1.5以上、特に1.8以上であることが好ましく、また、通常15以下、中でも10以下、更には5以下、特に3.5以下の範囲であることが好ましい。この[Ba]/[Sr]の値が小さ過ぎる(即ち、Baの比率が少な過ぎる)と、蛍光体の発光ピーク波長が長波長側にシフトし、半値幅が増大する傾向がある。一方、この[Ba]/[Sr]の値が大き過ぎる(即ち、Baの比率が多過ぎる)と、蛍光体の発光ピーク波長が短波長側にシフトする傾向がある。
【0042】
また、前記式[1]において、MIが少なくともSrを含有する場合、Srの一部がCaによって置換されていてもよい。この場合、Caによる置換量は、Srの全量に対するCa置換量のモル比率の値で、通常35%以下、中でも10%以下、更には2%以下の範囲であることが好ましい。Caによる置換量の割合が高過ぎると、発光が黄色味を帯び、発光効率が低下する傾向がある。
【0043】
また、Siは、Ge等の他の元素によって一部置換されていてもよい。但し、緑色の発光強度等の面から、Siが他の元素によって置換されている割合は、できるだけ低い方が好ましい。具体的には、Ge等の他の元素をSiの20モル%以下含んでいてもよく、全てがSiからなることがより好ましい。
【0044】
前記式[1]中、MIIは、付活元素として挙げられているもので、2価及び3価の原子価を取り得る1種以上の金属元素を表わす。具体例としては、Cr、Mn等の遷移金属元素;Eu、Sm、Tm、Yb等の希土類元素;等が挙げられる。MIIとしては、これらの元素のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有していてもよい。中でも、MIIとしてはSm、Eu、Ybが好ましく、Euが特に好ましい。また、MII全体(2価の元素及び3価の元素の合計)に対する2価の元素のモル比は、通常0.5以上、好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上、また、通常1未満であり、1に近い程好ましい。MII全体に対する2価の元素のモル比が低過ぎると、発光効率が低下するとなる傾向がある。2価の元素も3価の元素も結晶格子内に取り込まれるが、3価の元素は結晶中で発光エネルギーを吸収してしまうと考えられるからである。
【0045】
前記式[1]中、MIIIは、Tb、Pr、Ce、Lu、La、及びGdからなる群より選ばれる1種以上の元素を表わす。MIIIとしては、これらの元素のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有していてもよい。
これらのTb、Pr、Ce、Lu、La、及びGdはイオン化エネルギーが小さいという性質を有する。中でも、Tb、Pr及びCeは、2価から3価に変化しやすく、3価から4価にも変化しやすい。また、Lu、La及びGdは2価から3価に変化しやすい。
【0046】
これらのMIIIは、MIIと共に発光に寄与しており、共付活元素として機能しているものと推察される。即ち、MIIIとして、例えば、Tbを含有させた場合、MII(付活元素。例えば、Eu)を過剰に含有させた場合と同様の発光スペクトルの変化が見られる。即ち、発光ピーク波長は長波長側にシフトするが、発光スペクトルの半値幅には変化は見られず、色純度の高い緑色発光スペクトルが維持できる。したがって、Tbを始めとするMIIIは、MIIと共に発光に寄与しており、共付活元素として機能していると推測される。
【0047】
中でも、MIIIは、Tb、Pr及びCeからなる群より選ばれる1以上の元素であることが好ましく、少なくともTbを含有することがより好ましく、Tbのみからなることが特に好ましい。MIIIとしてTbを含有すると、本発明の蛍光体と半導体発光素子等の光源(後述する第1の発光体)とを組み合わせて発光装置を作製した場合、付活元素としてMIIのみを用いる場合よりも耐久性が向上し、長時間点灯した場合のスペクトルの形状変化が小さく、色ずれが小さいという効果が得られる。また、さらに、Tbを特定範囲の量加えた場合は温度特性も向上させることもできる。Tb以外のその他の元素においてもTbと同様の効果が得られるものと推測される。
【0048】
前記式[1]中、xは、MIIのモル数を表わす数であり、具体的には、通常0.01より大きく、好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.06以上、また、通常0.3未満、好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.16以下の数を表わす。xの値が小さ過ぎると、発光強度が小さくなる傾向がある。一方、xの値が大き過ぎると、発光強度が低下する傾向がある。
【0049】
前記式[1]中、yは、MIIIのモル数を表わす数であり、具体的には、通常0.0001以上、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.002以上、また、通常0.025以下、好ましくは0.02以下、更に好ましくは0.015以下の数を表わす。yの値が小さ過ぎると、耐久性向上効果が得られにくくなる傾向がある。一方、yの値が大き過ぎると、温度特性が低下する傾向がある。中でも、耐久性に優れ、かつ、温度特性も良好な蛍光体を得たい場合は、yの値を0.002以上0.01以下の範囲に調整することが好ましい。
【0050】
前記式[1]中、αは、2に近いことが好ましいが、通常1.5以上、好ましくは1.7以上、更に好ましくは1.8以上、また、通常2.5以下、好ましくは2.2以下、更に好ましくは2.1以下の範囲の数を表わす。αの値が小さ過ぎても大き過ぎても、異相結晶が現れ、発光特性が低下する傾向がある。
【0051】
前記式[1]中、βは、通常3.5以上、好ましくは3.8以上、更に好ましくは3.9以上、また、通常4.5以下、好ましくは4.4以下、更に好ましくは4.1以下の範囲の数を表わす。βの値が小さ過ぎても大き過ぎても、異相結晶が現れ、発光特性が低下する傾向がある。
【0052】
また、本発明の蛍光体は、前記式[1]に記載された元素、即ちMI、MII、MIII、Si(ケイ素)及びO(酸素)以外に、更に、1価の元素、2価の元素、3価の元素、−1価の元素及び−3価の元素からなる群から選ばれる元素(これを以下適宜「微量元素」という。)を含有していてもよい。
【0053】
中でも、微量元素としては、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、リン(P)、ホウ素(B)、窒素(N)、希土類元素、及びハロゲン元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有していることが好ましい。
【0054】
上記の微量元素の含有量の合計は、通常1ppm以上、好ましくは3ppm以上、更に好ましくは5ppm以上、また、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下である。本発明の蛍光体が複数種の微量元素を含有する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにする。
【0055】
本発明の蛍光体の好ましい組成の具体例を下記の表1に挙げるが、本発明の蛍光体の組成は以下の例示に制限されるものではない。
【0056】
【表1】

【0057】
また、本発明の蛍光体は、上記の元素以外に、Alを含有する場合がある。Alの含有量としては、通常1ppm以上、好ましくは5ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、また、通常500ppm以下、好ましくは200ppm以下、更に好ましくは100ppm以下である。
【0058】
また、本発明の蛍光体は、上記の元素以外に、B(ホウ素)を含有する場合がある。Bの含有量としては、通常1ppm以上、好ましくは3ppm以上、更に好ましくは5ppm以上、また、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下である。
【0059】
また、本発明の蛍光体は、上記の元素以外に、Feを含有する場合がある。Feの含有量としては、通常1ppm以上、好ましくは3ppm以上、更に好ましくは5ppm以上、また、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下である。
【0060】
また、本発明の蛍光体は、上記の元素以外に、Nを含有する場合がある。Nの含有量としては、該蛍光体中に含有される酸素の量に対し、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、更に好ましくは3モル%以下である。
【0061】
[1−2.蛍光体の特性]
本発明の蛍光体は、以下のような特性を有することが好ましい。
【0062】
<物体色>
本発明の蛍光体は、その物体色をL***表色系(CIE 1976表色系)で表わした場合に、L*値、a*値及びb*値が以下の式を満たすことを、もう一つの特徴とする。
*≧90
*≦−20
*≧30
【0063】
本発明の蛍光体は、上記条件を満たす物体色を有することにより、後述する発光装置に利用した場合に、高発光効率の発光装置を実現することが可能となる。
【0064】
具体的に、本発明の蛍光体のa*の上限値は、通常−20以下、好ましくは−25以下、より好ましくは−30以下である。a*が大き過ぎる蛍光体は、全光束が小さくなる傾向にある。また、輝度を高くする観点からも、a*の値は小さいことが望ましい。
【0065】
また、本発明の蛍光体のb*は、通常30以上、好ましくは35以上、より好ましくは40以上の範囲である。b*が小さ過ぎると、輝度が低下する傾向がある。一方、b*の上限は、理論上は200以下であるが、通常120以下であることが好ましい。b*が大き過ぎると、発光波長が長波長側にシフトし、輝度が低下する傾向がある。
【0066】
また、本発明の蛍光体のa*とb*との比、即ちa*/b*で表わされる値は、通常−0.45以下、好ましくは−0.5以下、更に好ましくは−0.55以下の範囲である。a* /b*の値が大き過ぎると、物体色が黄色味を帯び、輝度も低下する傾向がある。
【0067】
また、本発明の蛍光体のL*は、通常90以上、好ましくは95以上、より好ましくは100以上である。L*の値が小さ過ぎると、発光が弱くなる傾向がある。一方、L*の上限値は、一般的には照射光で発光しない物体を扱うので、100を超えることは無いが、本発明の蛍光体は、照射光によって励起されて生じた発光が反射光に重畳されるので、L*の値が100を超える場合もある。具体的には、本発明の蛍光体のL*の上限値は、通常115以下である。
【0068】
なお、本発明の蛍光体の物体色の測定は、例えば、市販の物体色測定装置(例えば、ミノルタ社製CR−300)を使用することにより行なうことが可能である。
また、物体色とは、光が物体で反射したときの色を意味する。本発明においては、測定物(即ち、蛍光体)を決められた光源(白色光源。例えば、標準光D65を使用することができる。)で照射し、得られた反射光をフィルターで分光して、L*、a*、b*の値を求めている。
物体色は、蛍光体原料の還元度(例えば、MII全体に対する2価の元素のモル比の割合で示される。)と関連し、還元度が高いと(例えば、MII全体に対する2価の元素のモル比の割合が高いと)上記範囲の物体色を有すると考えられる。後述するように、固体カーボン存在下等の強還元性雰囲気下で蛍光体原料を焼成する等、本発明の製造方法に従って製造すると、上記の範囲の物体色を有する蛍光体を得ることができる。
【0069】
<発光スペクトルに関する特徴>
本発明の蛍光体は、緑色蛍光体としての用途に鑑みて、ピーク波長400nm又は455nmの光で励起した場合における発光スペクトルを測定した場合に、以下の特徴を有する。
【0070】
まず、本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピーク波長λp(nm)が、通常510nm以上、好ましくは518nm以上、より好ましくは520nm以上、また、通常542nm以下、好ましくは528nm以下、より好ましくは525nm以下の範囲である。発光ピーク波長λpが短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾向があり、何れも緑色光としての特性が低下する場合がある。
【0071】
また、本発明の蛍光体の発光ピークの相対強度(以下「相対発光ピーク強度」という場合がある。)は、通常75以上、好ましくは85以上、より好ましくは95以上である。なお、この相対発光ピーク強度は、化成オプトニクス社製BaMgAl1017:Eu(製品番号LP−B4)を365nmで励起した時の発光強度を100として表わしている。この相対発光ピーク強度は高い方が好ましい。
【0072】
また、本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピーク半値幅(full width at half maximum。以下適宜「FWHM」と略称する。)が狭いという特徴を有する。FWHMが狭いということは、即ち、色純度が優れていることを意味し、例えば、バックライト等の用途において優れた蛍光体となる。
【0073】
具体的に、本発明の蛍光体のFWHMは、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは25nm以上、また、通常75nm以下、好ましくは70nm以下、より好ましくは65nm以下、更に好ましくは60nm以下の範囲である。FWHMが狭過ぎると輝度が低下する場合があり、一方、広過ぎると色純度が低下する場合がある。
【0074】
なお、蛍光体をピーク波長400nm又は455nmの光で励起するには、例えば、GaN系発光ダイオードを用いることができる。
また、蛍光体の発光スペクトルの測定、並びにその発光ピーク波長、相対発光ピーク強度及びピーク半値幅の算出は、例えば、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて行なうことができる。
【0075】
<色度座標>
本発明の蛍光体の発光色は、CIE色度座標の一つ、x、y表色系(CIE 1931表色系)で表現することができる。本発明の蛍光体は、ピーク波長400nm又は455nmの光で励起した場合に、以下のCIE色度座標を満たすことが好ましい。
【0076】
具体的に、本発明の蛍光体のCIE色度座標xの値は、通常0.210以上、好ましくは0.240以上、より好ましくは0.263以上、また、通常0.330以下、好ましくは0.310以下、より好ましくは0.300以下の範囲であることが望ましい。
また、本発明の蛍光体のCIE色度座標yの値は、通常0.480以上、好ましくは0.490以上、より好ましくは0.495以上、また、通常0.670以下、好ましくは0.660以下、より好ましくは0.655以下の範囲であることが望ましい。
CIE色度座標x及びyの値が上述の範囲を満たすことにより、白色光合成時には色再現範囲が広くなるという利点が得られる。
なお、蛍光体のCIE色度座標x及びyの値は、波長480nm〜800nmの範囲における発光スペクトルから、JIS Z8724に準じて計算することにより算出することができる。
【0077】
<励起波長に関する特性>
本発明の蛍光体は、励起波長は特に限定されないが、通常300nm以上、中でも350nm以上、更には380nm以上、また、通常500nm以下、中でも480nm以下、更には470nm以下の波長範囲の光で励起可能であることが好ましい。例えば、青色領域の光、及び/又は、近紫外領域の光で励起可能であれば、半導体発光素子等を第1の発光体とする発光装置に好適に使用することができる。
【0078】
なお、励起スペクトルの測定は、室温、例えば25℃において、蛍光分光光度計F−4500型(株式会社日立製作所製)を用いて測定することができる。得られた励起スペクトルから、励起ピーク波長を算出することができる。
【0079】
<重量メジアン径>
本発明の蛍光体は、その重量メジアン径が、通常10μm以上、中でも12μm以上、また、通常30μm以下、中でも25μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径が小さ過ぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集してしまう傾向がある。一方、重量メジアン径が大き過ぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。なお、本発明の蛍光体の重量メジアン径は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等の装置を用いて測定することができる。
【0080】
<結晶子径>
また、本発明の蛍光体は、その結晶子径が大きいほど好ましく、通常20nm以上、中でも100nm以上であることが好ましい。ここで、結晶子径とは、粉末X線回折において半値幅を測定することにより求めることができるものである。結晶子間の界面では、無輻射失活が起こり、発光エネルギーの熱エネルギーへの変換が起こると考えられている。結晶子が大きいと、結晶子界面が少なくなるため、熱エネルギーへの変換が少なく、輝度が高くなる。
【0081】
<耐久性>
また、本発明の蛍光体は、MIII元素を含有することにより耐久性(発光の持続性)にも優れる。具体的には、本発明の蛍光体を用いて下記試験用発光装置を構成したときに、当該試験用発光装置を周囲温度85℃、相対湿度85%の条件下、駆動電流20mAで連続して1000時間点灯させた場合に、点灯開始後1000時間の時点における「緑色ピークの発光強度/青色ピークの発光強度」の強度比(以下適宜、「緑/青ピーク強度比」という)が、点灯開始直後(点灯開始後0時間の時点をいう。以下適宜、「0時間」という)での緑/青ピーク強度比に対して、通常85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。即ち、点灯開始後0時間の緑/青ピーク強度比の値を100%とした時の点灯開始後1000時間の緑/青ピーク強度比の値が、上記範囲となることが好ましい。
【0082】
ここで、試験用発光装置は、表面がポリフタルアミドにより形成された深さ0.85mm径2.4mmの凹部を有する容器の前記凹部の底に、発光ピーク波長460nm、発光強度0.85lmの発光ダイオードを設置し、該蛍光体とシリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製、SCR−1011、2液タイプ)とからなる組成物(但し、該蛍光体:シリコーン樹脂の割合は、重量比で6:100とする。例えば、該蛍光体の量を0.0849gとし、シリコーン樹脂の量を1.415gとすればよい。)で前記凹部を封止してなるものである。
【0083】
なお、上記耐久性の測定は、例えば以下の手順で行なうことができる。試験用発光装置の点灯開始後0時間に、ファイバマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社製USB2000)を用いて発光スペクトル及び色度座標を測定する。次いで、エージング装置、LED AGING SYSTEM 100ch LED環境試験装置(山勝電子工業(株)製、YEL−51005)を用いて、85℃、相対湿度85%の条件下、発光装置を駆動電流20mAで連続して1000時間点灯させ、再度、ファイバマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社製USB2000)を用いて発光スペクトル及び色度座標を測定する。測定した各々の発光スペクトルにおいて、青色ピーク(420nm以上500nm未満の波長範囲に存在する発光ピークのことをいう。発光ダイオード(以下適宜、「LED」という)に由来する。)の発光強度に対する、緑色ピーク(500nm以上540nm以下の波長範囲に存在する発光ピークのことをいう。蛍光体に由来する。)の発光強度の比、即ち、緑/青ピーク強度比を算出し、点灯開始後0時間の緑/青ピーク強度比の値を100%とした時の点灯開始後1000時間の緑/青ピーク強度比の値を求める。なお、測定された発光スペクトルにおいて、蛍光体に由来する緑色ピークの発光ピーク波長が不明瞭な場合は、該蛍光体を単独で波長460nmで励起して発光ピーク波長を測定することにより発光ピーク波長を特定してもよい。
【0084】
<色ずれ>
本発明の蛍光体は、前記の試験用発光装置について、周囲温度85℃、相対湿度85%の条件下、駆動電流20mAで連続して1000時間点灯させた場合に、下記式[2]で表される変化量が、通常0.042以下、好ましくは0.035以下、より好ましくは0.03以下である。
変化量 = {(Δx)2+(Δy)20.5 [2]
(前記式[2]において、Δxは、点灯開始後0時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のx値と、点灯開始後1000時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のx値との差を表わす。また、Δyは、点灯開始後0時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のy値と、点灯開始後1000時間の時点において前記試験用発光装置から得られる色度座標のy値との差を表わす。)
【0085】
この変化量は、1000時間点灯したときのCIE色度座標上での移動距離を表わす。したがって、この変化量の値が小さいほど、本発明の蛍光体を発光装置に組み込んで長時間点灯させた場合にその発光色の色ずれの程度が小さいことを表わす。なお、前記変化量の下限は0に近いほど好ましい。
【0086】
なお、前記のΔx及びΔyは、<耐久性>の項で説明したのと同様にして測定した発光スペクトルから、JIS Z8724に準じて計算することにより算出することができる。
【0087】
<温度特性>
また、前述したように、Tb等のMIII元素を含有することにより、本発明の蛍光体は、温度特性にも優れる。具体的には、本発明の蛍光体に455nmの波長の光を照射した場合の発光スペクトルにおいて、25℃での輝度I(25)に対する100℃での輝度I(100)の割合が、通常64%以上、好ましくは65%以上、特に好ましくは66%以上である。
【0088】
また、通常の蛍光体は温度上昇と共に発光強度が低下するので、該割合が100%を越えることは考えられ難いが、何らかの理由により100%を超えることがあってもよい。但し150%を超えるようであれば、温度変化により色ずれを起こす傾向となる。
【0089】
尚、上記温度特性を測定する場合は、例えば、発光スペクトル装置として大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ、及び、光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、以下のように測定することができる。ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃から180℃の範囲で変化させる。蛍光体の表面温度が所定温度で一定となったことを確認する。次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長455nmの光で蛍光体を励起して発光スペクトル測定する。測定された発光スペクトルから励起光が混在しない波長域(具体的には480nm以上780nm以下)においてJIS27824に準じて輝度を求める。ここで、蛍光体の表面温度の測定値は、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いる。
【0090】
<吸収効率αq、内部量子効率ηi、及び外部量子効率ηo
(吸収効率αq
吸収効率(以下「αq」で表わす場合がある。)は、励起光源(後述する「第一の発光体」に相当する。)が発する光(励起光)の光子数に対し、蛍光体が吸収する光子数の割合を意味する。なお、以下の記載では「光子」を「フォトン」と言う場合がある。
【0091】
本発明の蛍光体は、その吸収効率αqが高いほど好ましい。
具体的に、本発明の蛍光体をピーク波長400nm又は455nmの光で励起した場合における吸収効率αqは、通常0.55以上、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.75以上であることが望ましい。蛍光体の吸収効率αqが低過ぎると、所定の発光を得るために必要な励起光量が大きくなり、消費エネルギーが大きくなる傾向がある。
なお、蛍光体の吸収効率αqの測定方法については後述の通りである。
【0092】
(内部量子効率ηi
内部量子効率(以下「ηi」で表わす場合がある。)とは、蛍光体が吸収した励起光の光子数に対する、蛍光体が発光した光子数の比率を意味する。
【0093】
本発明の蛍光体は、その内部量子効率ηiが高いほど好ましい。
具体的に、本発明の蛍光体をピーク波長400nm又は455nmの光で励起した場合における内部量子効率ηiは、通常0.57以上、好ましくは0.69以上、より好ましくは0.79以上であることが望ましい。蛍光体の内部量子効率ηiが低過ぎると、所定の発光を得るために必要な励起光量が大きくなり、消費エネルギーが大きくなる傾向がある。
なお、蛍光体の内部量子効率ηiの測定方法については後述の通りである。
【0094】
(外部量子効率ηo
外部量子効率(以下「ηo」で表わす場合がある。)とは、励起光の光子数に対する蛍光体の発光光子数の割合を表わす値であり、前記の吸収効率αqと前記の内部量子効率ηiとの積に相当する。即ち、外部量子効率ηoは、下記式で規定されることになる。
(外部量子効率ηo)=(内部量子効率ηi)×(吸収効率αq
【0095】
本発明の蛍光体は、この外部量子効率ηoが高いことを特徴とする。
具体的に、本発明の蛍光体をピーク波長400nm又は455nmの光で励起した場合における外部量子効率ηoは、通常0.42以上、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.55以上、更に好ましくは0.65以上である。蛍光体の外部量子効率ηoが低いと、所定の発光を得るために必要な励起光量が大きくなり、消費エネルギーが大きくなる傾向がある。
なお、蛍光体の外部量子効率ηoの測定方法については後述の通りである。
【0096】
(吸収効率αq、内部量子効率ηi、及び外部量子効率ηoの測定方法)
蛍光体の吸収効率αq、内部量子効率ηi及び外部量子効率ηoを求める方法について、以下に説明する。
【0097】
まず、測定対象となる蛍光体サンプル(例えば蛍光体の粉末等)を、測定精度が保たれるように、十分に表面を平滑にしてセルに詰め、積分球等の集光装置に取り付ける。積分球等の集光装置を用いるのは、蛍光体サンプルで反射したフォトン、及び蛍光体サンプルから蛍光現象により放出されたフォトンを全て計上できるようにする、即ち、計上されずに測定系外へ飛び去るフォトンをなくすためである。
【0098】
この集光装置に、蛍光体サンプルを励起するための発光源を取り付ける。発光源としては、例えばXeランプ等を用いる。また、発光源の発光ピーク波長が例えば405nmや455nmの単色光となるように、フィルターやモノクロメーター(回折格子分光器)等を用いて調整を行なう。
【0099】
この発光ピーク波長が調整された発光源からの光を、測定対象の蛍光体サンプルに照射し、発光(蛍光)及び反射光を含むスペクトルを分光測定装置(例えば大塚電子株式会社製MCPD7000等)で測定する。ここで測定されるスペクトルには、実際には、励起発光光源からの光(以下では単に「励起光」と記す。)のうち、蛍光体に吸収されなかった反射光と、蛍光体が励起光を吸収して蛍光現象により発する別の波長の光(蛍光)とが含まれる。すなわち、励起光領域は反射スペクトルに相当し、それよりも長波長領域は蛍光スペクトル(ここでは、発光スペクトルと呼ぶ場合もある)に相当する。
【0100】
吸収効率αqは、蛍光体サンプルによって吸収された励起光のフォトン数Nabsを、励起光の全フォトン数Nで割った値として求められる。具体的な算出手順は以下の通りである。
【0101】
まず、後者の励起光の全フォトン数Nを、次のようにして求める。
すなわち、励起光に対してほぼ100%の反射率Rを持つ物質、例えばLabsphere製「Spectralon」(450nmの励起光に対して98%の反射率Rを持つ。)等の白色反射板を測定対象として、蛍光体サンプルと同様の配置で上述の集光装置に取り付け、該分光測定装置を用いて反射スペクトルを測定する(この反射スペクトルを以下「Iref(λ)」とする。)。
【0102】
この反射スペクトルIref(λ)から、下記(式I)で表わされる数値を求める。下記(式I)で表わされる数値は、励起光の全フォトン数Nに比例する。
【数1】

【0103】
なお、上記(式I)の積分区間は、実質的にIref(λ)が有意な値を持つ区間のみに
限定してもよい。
【0104】
一方、蛍光体サンプルによって吸収された励起光のフォトン数Nabsは、下記(式II)で求められる量に比例する。
【数2】

【0105】
上記(式II)において、「I(λ)」は、吸収効率αqの測定対象となる蛍光体サンプルを集光装置に取り付けたときの反射スペクトルを表わす。
【0106】
また、上記(式II)の積分区間は、上記(式I)で定めた積分区間と同じにする。このように積分区間を限定することで、上記(式II)の第二項は、測定対象の蛍光体サンプルが励起光を反射することによって生じたフォトン数に対応した数値、即ち、測定対象の蛍光体サンプルから生ずる全フォトンのうち蛍光現象に由来するフォトンを除いたフォトン数に対応した数値になる。実際のスペクトル測定値は、一般にはλに関するある有限のバンド幅で区切ったデジタルデータとして得られるため、上記の(式I)及び(式II)の積分は、そのバンド幅に基づいた和分によって求まる。
【0107】
以上より、吸収効率αqは、次の式で求められる。
吸収効率αq = Nabs/N =(式II)/(式I)
【0108】
次に、内部量子効率ηiを求める方法を説明する。
内部量子効率ηiは、蛍光現象に由来するフォトンの数NPLを、蛍光体サンプルが吸収したフォトンの数Nabsで割った値である。
【0109】
ここで、NPLは、下記(式III)で求められる量に比例する。
【数3】

【0110】
なお、上記(式III)の積分区間は、蛍光体サンプルの蛍光現象に由来するフォトンの有する波長範囲に限定する。蛍光体サンプルから反射されたフォトンの寄与をI(λ)から除くためである。
具体的に、上記(式III)の積分区間の下限は、上記(式I)の積分区間の上端を取り、積分区間の上限は、蛍光に由来するフォトンを包含するために必要十分な範囲とする。
【0111】
以上より、内部量子効率αqは、次の式で求められる。
ηi = (式III)/(式II)
【0112】
なお、デジタルデータとなったスペクトルから積分を行なう点に関しては、吸収効率αqを求めた場合と同様である。
【0113】
そして、上記の手順により求めた吸収効率αqと内部量子効率ηiとの積をとることで、外部量子効率ηoを求めることができる。
【0114】
また、外部量子効率ηoは、以下の関係式から求めることもできる。
ηo = (式III)/(式I)
即ち、外部量子効率ηoは、蛍光に由来するフォトンの数NPLを励起光の全フォトン数
Nで割った値である。
【0115】
[1−3.蛍光体の製造方法]
本発明の蛍光体を得るための原料、蛍光体製造法等については以下の通りである。
【0116】
本発明の蛍光体の製造方法は特に制限されないが、例えば、前記式[1]における、金属元素MIの原料(以下適宜「MI源」という。)、Siの原料(以下適宜「Si源」という。)、付活元素である元素MIIの原料(以下適宜「MII源」という。)、及び、共付活元素である元素MIIIの原料(以下適宜「MIII源」という)を秤量後、混合し(混合工程)、得られた混合物(これを「蛍光体前駆体」という場合がある。)を所定の焼成条件で焼成し(焼成工程)、必要に応じて粉砕、洗浄、表面処理等を行なうことにより製造することができる。
【0117】
<蛍光体原料>
本発明の蛍光体の製造に使用されるMI源、Si源、MII源及びMIII源としては、例えば、MI、Si、MII及びMIIIの各元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。これらの化合物の中から、複合酸化物への反応性や、焼成時におけるNOx、SOx等の発生量の低さ等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0118】
〔MI源の説明〕
I源のうち、Ba源の具体例としては、BaO、Ba(OH)2・8H2O、BaCO3、Ba(NO32、BaSO4、Ba(C24)・2H2O、Ba(OCOCH32、BaCl2等が挙げられる。中でもBaCO3、BaCl2等が好ましく、取扱の点からBaCO3が特に好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解するため、目的外の元素が残留し難く、更に、高純度の原料を入手し易いからである。
【0119】
I源のうち、Ca源の具体例としては、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、Ca(NO32・4H2O、CaSO4・2H2O、Ca(C24)・H2O、Ca(OCOCH32・H2O、無水CaCl2(但し、水和物であってもよい。)等が挙げられる。中でもCaCO3、無水CaCl2等が好ましい。
【0120】
I源のうち、Sr源の具体例としては、SrO、Sr(OH)2・8H2O、SrCO3、Sr(NO32、SrSO4、Sr(C24)・H2O、Sr(OCOCH32・0.5H2O、SrCl2等が挙げられる。中でもSrCO3、SrCl2等が好ましく、SrCO3が特に好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解し、目的外の元素が残留し難く、更に、高純度の原料を入手し易いからである。
【0121】
I源のうち、Zn源の具体例としては、ZnO、Zn(C24)・2H2O、ZnSO4・7H2O等が挙げられる。
【0122】
I源のうち、Mg源の具体例としては、MgCO3、MgO、MgSO4、Mg(C24)・2H2O等が挙げられる。
【0123】
これらのMI源は、何れか一種のみを用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0124】
〔Si源の説明〕
Si源の具体例としては、SiO2、H4SiO4、Si(OCOCH34等が挙げられる。中でもSiO2等が好ましい。
これらのSi源は、何れか一種のみを用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0125】
〔MII源の説明〕
II源のうち、Eu源の具体例としては、Eu23、Eu2(SO43、Eu2(C243、EuCl2、EuCl3、Eu(NO33・6H2O等が挙げられる。中でもEu23、EuCl2等が好ましい。
また、Sm源、Tm源、Yb源等の具体例としては、Eu源の具体例として挙げた各化合物において、EuをそれぞれSm、Tm、Yb等に置き換えた化合物が挙げられる。
II源のうち、Mn源の具体例としては、MnO、MnO2、Mn23、MnF2、MnCl2、MnBr2、Mn(NO32・6H2O、MnCO3、MnCr24等が挙げられる。
II源のうち、Cr源の具体例としては、Cr23、CrF3(水和物であってもよい)、CrCl3、CrBr3・6H2O、Cr(NO32・9H2O、(NH42CrO4等が挙げられる。
なお、MII源は、何れか一種のみを用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0126】
〔MIII源の説明〕
III源のうち、Tb源の具体例としては、Tb47、TbCl3(水和物を含む。)、TbF3、Tb(NO33・nH2O、Tb2(SiO43、Tb2(C243・10H2O等が挙げられる。中でも、Tb47、TbCl3、TbF3が好ましく、Tb47がより好ましい。また、MII源(例えば、Eu源)とTb源とを共沈させてから用いることもできる。
【0127】
III源のうち、Pr源の具体例としては、Pr23、PrCl3、PrF3、Pr(NO33・6H2O、Pr2(SiO43、Pr2(C243・10H2O等が挙げられる。中でも、Pr23、PrCl3、PrF3が好ましく、Pr23がより好ましい。
【0128】
III源のうち、Ce源の具体例としては、CeO2、CeCl3、Ce2(CO33・5H2O、CeF3、Ce(NO33・6H2O等が挙げられる。中でも、CeO2、CeCl3が好ましい。
【0129】
III源のうち、Lu源の具体例としては、Lu23、LuCl3、LuF3(水和物であってもよい)、Lu(NO33(水和物であってもよい)等が挙げられる。中でも、Lu23、LuCl3が好ましい。
【0130】
III源のうち、La源の具体例としては、La23、LaCl3・7H2O、La2(CO33・H2O、LaF3、La(NO33・6H2O、La2(SO43等が挙げられる。中でも、La23、LaCl3・7H2Oが好ましい。
【0131】
III源のうち、Gd源の具体例としては、Gd23、GdCl3・6H2O、Gd(NO33・5H2O、Gd2(SO43・8H2O、GdF3等が挙げられる。中でも、Gd23、GeCl3・6H2Oが好ましい。
【0132】
なお、MIII源は、何れか一種のみを用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0133】
〔その他の蛍光体原料〕
目的とする本発明の蛍光体の組成に応じて、他の元素を含有する化合物を原料として使用してもよい。
【0134】
例えば、Geを含む組成の蛍光体を製造する場合、Ge源の具体例としては、GeO2、Ge(OH)4、Ge(OCOCH34、GeCl4等が挙げられる。中でもGeO2等が好ましい。
【0135】
例えば、Gaを含む組成の蛍光体を製造する場合、Ga源の具体例としては、Ga23、Ga(OH)3、Ga(NO33・nH2O、Ga2(SO43、GaCl3等が挙げられる。
【0136】
例えば、Alを含む組成の蛍光体を製造する場合、Al源の具体例としてはα−Al23、γ−Al23、等のAl23、Al(OH)3、AlOOH、Al(NO33・9H2O、Al2(SO43、AlCl3等が挙げられる。
【0137】
例えば、Pを含む組成の蛍光体を製造する場合、P源の具体例としては、P25、Ba3(PO42、Sr3(PO42、(NH43PO4等が挙げられる。
【0138】
例えば、Bを含む組成の蛍光体を製造する場合、B源の具体例としては、B23、H3BO3等が挙げられる。
これらの他の元素を含有する化合物は、何れか一種のみを用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0139】
<混合工程>
I源、Si源、MII源及びMIII源を混合する手法は特に制限されないが、例としては、下記の(A)及び(B)として挙げられたような公知の手法を任意に用いることができる。また、これらの各種条件については、例えば、ボールミルにおいて2種の粒径の異なるボールを混合して用いる等、公知の条件が適宜選択可能である。
【0140】
(A)ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、前述の原料を粉砕混合する乾式混合法。
【0141】
(B)前述の原料に水、メタノール、エタノール等の溶媒又は分散媒を加え、粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と撹拌棒等を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
【0142】
また、上記混合・粉砕時に必要に応じて、原料を篩いにかけても良い。この場合、各種市販の篩いを用いることが可能であるが、金属メッシュのものよりもナイロンメッシュのものを用いる方が、不純物混入防止の点で好ましい。
【0143】
<焼成工程>
焼成工程は通常、上述の混合工程により得られた混合物を、各蛍光体原料と反応性の低い材料からなるルツボ又はトレイ等の耐熱容器中に充填し、焼成することにより行なう。焼成時に用いる耐熱容器の材質としては、アルミナ、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム等のセラミックス、白金、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ、イリジウム、ロジウム等の金属、或いは、それらを主成分とする合金、カーボン(グラファイト)等が挙げられる。ここで、石英製の耐熱容器は、比較的低温、すなわち、1200℃以下での熱処理に使用することができ、好ましい使用温度範囲は1000℃以下である。このような耐熱容器の例として、好ましくはアルミナ製、白金製、モリブデン製、タングステン製、タンタル製の耐熱容器などが挙げられる。特に、モリブデン製の耐熱容器を用いると、不純物の混入を抑制することができる。
またここで、蛍光体原料として金属炭酸塩を用いている場合には、脱離する二酸化炭素により焼成炉が傷まないよう、多段焼成の形式での焼成を行い、一次焼成(後述する)で少なくとも一部を金属酸化物に変換することが好ましい。
【0144】
なお、蛍光体原料を前記耐熱容器内へ充填する際の充填率(以下、「耐熱容器内充填率」と称する。)は、焼成条件によっても異なるが、後述する後処理工程において焼成物を粉砕しにくくならない程度に充填すれば良く、通常10体積%以上、通常90体積%以下である。
【0145】
また、一度に処理する蛍光体原料の量を増やしたいときは、昇温速度を減速する等、耐熱容器内に熱が均一に周るようにすることが好ましい。
また、耐熱容器を炉内に充填する際の充填率(以下適宜、「炉内充填率」と称する)は、炉内の耐熱容器間で熱が不均一にならない程度につめることが好ましい。
さらに、上記焼成において、焼成炉中の耐熱容器の数が多い場合には、例えば、上記の昇温速度を遅めにする等、各耐熱容器への熱の伝わり具合を均等にすることが、ムラなく焼成するためには好ましい。
【0146】
焼成時の昇温過程においては、その一部で減圧条件下とすることが好ましい。具体的には、好ましくは室温以上であって、且つ、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1200℃以下、更に好ましくは1000℃以下の温度となっているいずれかの時点において、減圧状態(具体的には通常10-2Pa以上0.1MPa未満の範囲)とすることが好ましい。中でも、系内を減圧した後で後述する不活性ガス又は還元性ガスを系内に導入し、その状態で昇温を行なうことが好ましい。
【0147】
このとき、必要に応じて、目的とする温度で、通常1分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上保持しても良い。保持時間は通常5時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下である。
【0148】
焼成時の温度(最高到達温度)は、通常850℃以上、好ましくは950℃以上、また、通常1400℃以下、好ましくは1350℃以下の範囲である。焼成温度が低過ぎると充分に結晶が成長せず、粒径が小さくなる場合がある一方で、焼成温度が高過ぎると結晶が成長しすぎて粒径が大きくなり過ぎる場合がある。
【0149】
また、昇温速度は、通常2℃/分以上、好ましくは3℃/分以上、また、通常10℃/分以下、好ましくは6℃/分以下である。この範囲を下回ると、焼成時間が長くなる可能性がある。また、この範囲を上回ると、焼成装置、容器等が破損する場合がある。
【0150】
焼成時の圧力は、焼成温度等によっても異なるため特に限定されないが、通常0.01MPa以上、好ましくは0.1MPa以上であり、また、通常200MPa以下、好ましくは100MPa以下である。このうち、工業的には通常は大気圧〜0.3MPa程度であり、大気圧がコスト及び手間の点で簡便であり好ましい。
【0151】
焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるため特に制限されないが、通常10分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、更に好ましくは4時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは15時間以下の範囲である。
【0152】
焼成時の雰囲気は特に制限されないが、本発明では後述のように、酸素濃度の低い雰囲気下で焼成を行なうことが好ましい。焼成時の酸素濃度は、通常150ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは20ppm以下、特に好ましくは10ppm以下であり、理想的には、酸素が全く存在しないことが好ましい。具体例としては、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、水素、アルゴン等の気体のうち、何れか一種単独の雰囲気下、或いは、二種以上の混合雰囲気下で行なう。この中でも、一酸化炭素、水素等の還元性の気体を含むことが好ましく、特に、水素含有窒素雰囲気下が好ましい。
【0153】
ここで、水素含有窒素雰囲気に含まれる水素含有量としては、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、また、通常5体積%以下が好ましく、特に好ましい水素含有量としては4体積%である。雰囲気中の水素の含有量は、高過ぎると安全性が低下する可能性が生じ、低過ぎると十分な還元雰囲気を達成できないからである。
【0154】
更に、本発明では焼成の際に、焼成雰囲気を水素含有窒素雰囲気等の還元性雰囲気とし、更に、反応系に固体カーボンを共存させること等により、酸素濃度を下げ、強還元性雰囲気下とすることが好ましいが、これについては次節以降で詳述する。
【0155】
(固体カーボン)
本発明の蛍光体を製造するためには、本発明の付活元素MIIが発光に寄与するイオン状態(価数)となるように、必要な雰囲気を選択する。例えば、本発明の蛍光体における緑色発光をもたらす好ましいMII元素の一つである付活元素のEuは、少なくともその一部が2価イオンであることが望ましい。具体的に、全Euに占めるEu2+の割合は高いほど好ましく、通常50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。しかしながら、Euの原料として通常は、Eu23等の3価のEuイオンを含む化合物が用いられる。従って、2価イオンであるEu2+を含有し、緑色発光をもたらす蛍光体を得るために、従来は、3価イオンEu3+を2価イオンEu2+に還元するべく、一酸化炭素、水素含有窒素、水素等の何らかの還元雰囲気下で焼成するのが一般的であった。しかし、これらの焼成雰囲気下でも、原料等由来の酸素が含まれてしまうため、酸素濃度を充分に低減することは困難であった。また、MII元素としてSm、Tm、Yb等を用いる場合にも、上述のEuの場合と同様の課題があった。
【0156】
本発明者等は検討の結果、MII元素の3価イオンを2価イオンに還元すると同時に母体結晶中に導入するに際し、通常の還元雰囲気下に加えて、固体カーボンを共存させる条件(即ち、より還元力の強い条件)で焼成することが有効であることを見出した。これによって、得られる蛍光体は、前記のような通常510nm以上、542nm以下の波長範囲において輝度の高い発光をもたらし、同時に発光スペクトル幅が狭いという特徴を有することになる。
【0157】
また、前記の物体色が、MII元素の還元度合いを示す指標となっていると考えられる。強還元雰囲気下において焼成することにより、MII元素が充分に還元され、前記式[1]で表される蛍光体が、前記範囲の物体色を有するようになるものと考えられる。
【0158】
固体カーボンの種類は特に制限されず、任意の種類の固体カーボンを使用することが可能である。その例としては、カーボンブラック、活性炭、ピッチ、コークス、黒鉛(グラファイト)等が挙げられる。固体カーボンを使用することが好ましい理由としては、焼成雰囲気中の酸素が固体カーボンと反応し、一酸化炭素ガスを発生し、更にこの一酸化炭素が焼成雰囲気中の酸素と反応し、二酸化炭素となり、焼成雰囲気中の酸素濃度を低減させることが出来るからである。前述の例示の中でも、酸素との反応性が高い活性炭が好ましい。また、固体カーボンの形状については、粉末状、ビーズ状、粒子状、ブロック状等が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0159】
共存させる固体カーボンの量は、一度に処理する原料の量やその他の焼成条件にもよるが、蛍光体の特性と生産性のバランスの観点から、蛍光体に対して通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは15重量%以上である。
【0160】
また、焼成容器として黒鉛のルツボを使用することにより、固体カーボンの共存と同様の効果を得ることも可能である。一方、アルミナルツボ等のカーボン以外の材料からなるルツボを使用する場合には、黒鉛のビーズ、粒状物、ブロック等の固体カーボンを別途共存させることが好ましい。
なお、ルツボに蓋をする等、密閉した条件下で焼成を行なうことが好ましい。
【0161】
なお、固体カーボンの共存下で焼成を行なうとは、同一の焼成容器内に蛍光体原料と固体カーボンとが存在すればよく、近接配置させることが好ましい。ここで、蛍光体原料と固体カーボンを混合して焼成してもよい。一般的に、蛍光体製品中にカーボンが混入すると、黒色であるカーボンが蛍光体の発光を吸収するため、蛍光体の発光効率が低下することが多いので注意を要する。
固体カーボンを近接配置させる手法としては、蛍光体原料を入れた容器とは別の容器に固体カーボンを入れ、これらの容器を同一のルツボ内に(例えば、原料の容器の上部に固体カーボンの容器が位置するように)設置する、固体カーボンを入れた容器を蛍光体原料中に埋め込む、或いはこの反対に、蛍光体原料粉末を充填した容器の周囲に固体カーボンを配置する、等の手法が具体的に挙げられる。なお、大型のルツボを使用する場合には、固体カーボンを入れた容器を蛍光体原料と同一容器内に入れて焼成する手法をとることが好ましい。何れの場合にも、固体カーボンが蛍光体原料中に混入しないように工夫して行なうことが好ましい。
【0162】
II元素の2価イオンを得る手法として、前述の固体カーボンを共存させる手法に加え、或いは固体カーボンを共存させる手法に代えて、以下の手法を実施することも可能である。すなわち、原料粉末と同時にルツボ内に存在する空気を出来るだけ除去し、酸素濃度を下げることが好ましい。具体的な手法としては、所定の原料を仕込んだルツボを真空炉中で減圧して空気を除去し、焼成時に用いる雰囲気ガスを導入して復圧することが好ましい。さらに、この操作を繰り返して行なうのが更に好ましい。或いは、必要に応じてMo等の酸素ゲッターを使用することもできる。また、安全上の対策をすれば、水素を5体積%以上含有する窒素雰囲気で焼成することによってもMII元素の2価イオンを得ることができる。
【0163】
このように固体カーボンを存在させること等によって、焼成雰囲気の酸素濃度を低減し、焼成雰囲気を還元性の強い雰囲気とし、それにより特性の高い蛍光体が得られるので好ましい。
【0164】
(フラックス)
焼成工程においては、良好な結晶を成長させる観点から、反応系にフラックスを共存させることが好ましい。フラックスの種類は特に制限されないが、1価の元素又は原子団と−1価の元素とを含有する化合物、1価の元素又は原子団と−3価の元素又は原子団とを含有する化合物、2価の元素と−1価の元素とを含有する化合物、2価の元素と−3価の元素又は原子団とを含有する化合物、3価の元素と−1価の元素とを含有する化合物、並びに、3価の元素と−3価の元素又は原子団を含有する化合物とからなる群から選ばれる化合物をフラックスとして使用することが好ましい。
【0165】
1価の元素又は原子団は、例えば、アルカリ金属元素及びアンモニウム基(NH4)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましく、セシウム(Cs)又はルビジウム(Rb)であることがより好ましい。
2価の元素は、例えば、アルカリ土類金属元素、及び亜鉛(Zn)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましく、ストロンチウム(Sr)又はバリウム(Ba)であることがより好ましい。
3価の元素は、例えば、ランタン(La)等の希土類元素、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、及びスカンジウム(Sc)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましく、イットリウム(Y)又はアルミニウム(Al)であることがより好ましい。
−1価の元素は、例えば、ハロゲン元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましく、塩素(Cl)又はフッ素(F)であることが好ましい。
−3価の元素又は原子団は、例えば、リン酸基(PO4)であることが好ましい。
【0166】
上記の中でも、フラックスとしては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、亜鉛ハロゲン化物、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、及び希土類元素からなる群から選ばれる3価の元素のハロゲン化物、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、リン酸亜鉛、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)、及びスカンジウム(Sc)からなる群から選ばれる3価の元素のリン酸塩からなる群から選ばれる化合物を使用することが好ましい。
【0167】
より具体的には、NH4Cl、LiCl、NaCl、KCl、CsCl、CaCl2、BaCl2、SrCl2、YCl3・6H2O(但し、無水和物であってもよい。)、ZnCl2、MgCl2・6H2O(但し、無水和物であってもよい。)、RbCl等の塩化物、LiF、NaF、KF、CsF、CaF2、BaF2、SrF2、AlF3、MgF2、YF3等のフッ化物、K3PO4、K2HPO4、KH2PO4、Na3PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、Li3PO4、Li2HPO4、LiH2PO4、(NH43PO4、(NH42HPO4、(NH4)H2PO4等のリン酸塩等が挙げられる。
【0168】
中でも、LiCl、CsCl、BaCl2、SrCl2、YF3を用いることが好ましく、CsCl、SrCl2を用いることが特に好ましい。
【0169】
ここで、上記フラックスのうち潮解性のあるものについては、無水物を用いる方が好ましく、また、蛍光体を多段焼成により製造する場合には、より後段の焼成時にフラックスを用いることが好ましい。
【0170】
これらのフラックスは、一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよいが、二種以上を組み合わせて用いると以下のような効果が得られる。
【0171】
フラックスの種類や焼成条件等によっても異なるが、一般的に、フラックスを蛍光体原料中に共存させると、蛍光体の結晶成長が促進され、粒径の大きい蛍光体が得られる傾向にある。また、本発明の蛍光体は、粒径が大きいほど輝度が高くなる傾向にある。以上より、フラックスを蛍光体原料中に共存させると、一見、輝度が向上して好ましいように思われるが、粒径が大き過ぎると塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる等、取り扱い性が悪くなる傾向にある。
【0172】
二種以上のフラックスを組み合わせて用いる場合において、上記のフラックスの中でも、SrCl2、BaCl2等の2価の元素を含有する化合物をフラックスとして用いると、結晶成長促進作用があり、一方、上記のフラックスの中でも、CsCl、LiCl、YCl3・6H2O等の1価又は3価の元素を含有する化合物をフラックスとして用いると、結晶成長抑制作用があることが本発明により明らかになった。よって、結晶成長促進作用のあるフラックスと、結晶成長抑制作用のあるフラックスとを組み合わせて用いると、両者のフラックスの相乗効果により、高輝度で、且つ、結晶成長が抑制された、扱い易い重量メジアン径(具体的には10μm以上25μm以下)の蛍光体を得ることが出来るので、特に好ましい。
【0173】
フラックスを2種以上組み合わせて用いる場合の好ましい組み合わせとしては、SrCl2とCsCl、SrCl2とLiCl、SrCl2とYCl3・6H2O、SrCl2とBaCl2とCsCl等が挙げられ、中でも、SrCl2とCsClとを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0174】
フラックスの使用量(フラックスを2種以上組み合わせて用いる場合、その合計の使用量)は、原料の種類、フラックスの材料、焼成温度や雰囲気等によっても異なるが、通常0.01重量%以上、更には0.1重量%以上、また、通常20重量%以下、更には10重量%以下の範囲が好ましい。フラックスの使用量が少な過ぎると、フラックスの効果が現れない場合がある。フラックスの使用量が多過ぎると、フラックス効果が飽和したり、粒径が大きくなりすぎて取り扱い性が悪くなったり、母体結晶に取り込まれて発光色を変化させたり、輝度低下を引き起こす場合がある。
【0175】
また、フラックスを2種以上組み合わせて用いる場合、1価又は3価の元素を含有する化合物の使用割合(モル比)は、2価の元素を含有する化合物のモル数を1とした場合に、通常0.1以上、中でも0.2以上、また、通常10以下、中でも5以下とすることが好ましい。
【0176】
なお、SrCl2等の好ましいフラックスを適量用いると、固体カーボンを共存させない弱還元性雰囲気下(例えば、水素含有窒素雰囲気下(窒素:水素=96:4(体積比))であっても本発明の蛍光体を得ることができる。
【0177】
(一次焼成及び二次焼成)
なお、焼成工程を一次焼成と二次焼成とに分割し、混合工程により得られた原料混合物をまず一次焼成した後、ボールミル等で再度粉砕してから前述の焼成条件で二次焼成を行なってもよい。
【0178】
一次焼成の温度(最高到達温度)は、通常850℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1050℃以上、また、通常1350℃以下、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1150℃以下の範囲である。
【0179】
また、一次焼成の昇温速度は、通常2℃/分以上、好ましくは3℃/分以上、また、通常10℃/分以下、好ましくは5℃/分以下である。この範囲を下回ると、焼成時間が長くなる可能性がある。また、この範囲を上回ると、焼成装置、容器等が破損する場合がある。
【0180】
一次焼成時の圧力は、焼成温度等によっても異なるため特に限定されないが、通常0.01MPa以上、好ましくは0.1MPa以上であり、また、通常200MPa以下、好ましくは100MPa以下である。このうち、工業的には通常は大気圧〜0.3MPa程度であり、大気圧がコスト及び手間の点で簡便であり好ましい。
【0181】
一次焼成時の雰囲気は特に制限されず、前述のように酸素濃度の低い雰囲気下で行なってもよい。必ずしも酸素濃度の低い雰囲気下や還元雰囲気下でなくてもよく、例えば、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行ってもよい。ただし、酸素雰囲気下で行うと発光強度が低下することがある。
【0182】
一次焼成の時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは13時間以下の範囲である。
【0183】
二次焼成の温度、時間等の条件は、基本的に上述の(焼成条件)、(固体カーボン)及び(フラックス)の欄に記載した条件と同様である。
【0184】
なお、フラックスは一次焼成の前に混合してもよいし、二次焼成の前に混合してもよい。また、雰囲気等の焼成条件も一次焼成と二次焼成で変更してもよい。
【0185】
<後処理>
上述の焼成工程の加熱処理後は、必要に応じて、洗浄、乾燥、粉砕、分級処理等がなされる。
粉砕処理には、原料の混合工程に使用できるとして列挙した粉砕機が使用できる。洗浄は、脱イオン水等の水、メタノール、エタノール等の有機溶剤、アンモニア水等のアルカリ性水溶液等で行なうことができる。分級処理は、篩分や水篩を行なう、或いは、各種の気流分級機や振動篩等各種の分級機を用いることにより行なうことができる。中でも、ナイロンメッシュによる乾式分級を用いると、重量メジアン径20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0186】
洗浄処理は、例えば、脱イオン水等の水、エタノール等の有機溶剤、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などで行なうことができる。また、使用されたフラックス等の蛍光体表面に付着した不純物相を除去し発光特性を改善するなどの目的のために、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸;又は、酢酸などの有機酸の水溶液を使用することもできる。この場合、酸性水溶液中で洗浄処理した後に、水で更に洗浄することが好ましい。
【0187】
洗浄の程度としては、洗浄後の蛍光体を重量比で10倍の水に分散後、1時間静置して得られる上澄み液のpHが中性(pH7〜9程度)であることが好ましい。塩基性、又は酸性に偏っていると、後述の液体媒体等と混合するときに液体媒体等に悪影響を与えてしまう可能性があるためである。
また、上記洗浄の程度は、洗浄後の蛍光体を重量比で10倍の水に分散後、1時間静置して得られる上澄み液の電気電導度でも表わすことができる。前記電気伝導度は、発光特性の観点からは低いほど好ましいが、生産性も考慮すると通常10mS/m以下、好ましくは5mS/m以下、より好ましくは4mS/m以下となるまで洗浄処理を繰り返し行なうことが好ましい。
【0188】
電気伝導度の測定方法としては、当該蛍光体の10重量倍の水中で所定時間、例えば10分間撹拌して分散させた後、1時間静置することにより、水よりも比重の重い蛍光体粒子を自然沈降させ、このときの上澄み液の電気伝導度を東亜ディケーケー社製電気伝導度計「EC METER CM−30G」等を用いて測定すればよい。洗浄処理、及び電気伝導度の測定に用いる水としては、特に制限はないが、脱塩水又は蒸留水が好ましい。中でも特に電気伝導度が低いものが好ましく、通常0.0064mS/m以上、また、通常1mS/m以下、好ましくは0.5mS/m以下のものを用いる。なお、電気伝導度の測定は、通常、室温(25℃程度)にて行なう。
【0189】
分級処理は、例えば、水篩や水簸処理を行なう、あるいは、各種の気流分級機や振動篩など各種の分級機を用いることにより行なうことができる。中でも、ナイロンメッシュによる乾式分級を用いると、重量メジアン径20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0190】
また、洗浄処理後に乾燥処理を行なうことが好ましい。乾燥処理の方法に特に制限はないが、必要に応じて、蛍光体の性質に合わせて適宜乾燥処理方法を選択することが好ましい。例えば、本発明の蛍光体は、長時間、高温高湿の雰囲気下(例えば熱水中)にさらしたりすると、蛍光体の母体表面の一部が溶解し、溶解した部分は空気中の二酸化炭素と反応して炭酸塩に変わることがある。したがって、本発明の蛍光体に乾燥処理を施す際は、真空乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等の低温乾燥や、スプレードライ等の短時間乾燥が好ましく、また、窒素やアルゴンガス等の二酸化炭素を含まない雰囲気中で乾燥するか、もしくは水分を低沸点溶剤に置換して風乾する方法が好ましい。
【0191】
<表面処理>
なお、上述の手順により得られた本発明の蛍光体を用いて、後述の方法で発光装置を製造する際には、耐湿性等の耐候性を一層向上させるために、又は、後述する発光装置の蛍光体含有部における樹脂に対する分散性を向上させるために、必要に応じて、蛍光体の表面を異なる物質で被覆する等の表面処理を行なってもよい。
【0192】
蛍光体の表面に存在させることのできる物質(以下適宜「表面処理物質」と称する。)の例としては、例えば、有機化合物、無機化合物、ガラス材料等を挙げることができる。
【0193】
有機化合物の例としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレン等の熱溶融性ポリマー、ラテックス、ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0194】
無機化合物の例としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ゲルマニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化硼素、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化ビスマス等の金属酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、燐酸カルシウム、燐酸バリウム、燐酸ストロンチウム等のオルト燐酸塩、ポリリン酸塩等が挙げられる。なお、燐酸リチウム、燐酸ナトリウム、及び燐酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種と、硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、塩酸バリウム、塩酸カルシウム、及び塩酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種とを組み合わせて用いることもできる。中でも、燐酸ナトリウムと硝酸カルシウムとを組み合わせて用いることが好ましい。また、蛍光体表面にバリウム、カルシウム、ストロンチウムが存在する場合には燐酸ナトリウム等の燐酸塩のみを用いても表面処理を行なうことができる。
【0195】
ガラス材料の例としてはホウ珪酸塩、ホスホ珪酸塩、アルカリ珪酸塩等が挙げられる。
【0196】
これらの表面処理物質は、何れか一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0197】
表面処理を施した本発明の蛍光体は、これらの表面処理物質を有することになるが、その表面処理物質の存在態様としては、例えば下記のものが挙げられる。
(i)前記表面処理物質が連続膜を構成して、本発明の蛍光体の表面を被覆する態様。
(ii)前記表面処理物質が多数の微粒子となって、本発明の蛍光体の表面に付着することにより、本発明の蛍光体の表面を被覆する態様。
【0198】
本発明の蛍光体の表面への表面処理物質の付着量ないし被覆量は、本発明の蛍光体の重量に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは15重量%以下であることが望ましい。蛍光体に対する表面処理物質量の量が多過ぎると、蛍光体の発光特性が損なわれる場合があり、少な過ぎると表面被覆が不完全となって、耐湿性、分散性の改善が見られない場合がある。
【0199】
また、表面処理により形成される表面処理物質の膜厚(層厚)は、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、また、通常2000nm以下、好ましくは1000nm以下であることが望ましい。この膜厚が厚過ぎると蛍光体の発光特性が損なわれる場合があり、薄過ぎると表面被覆が不完全となって、耐湿性、分散性の改善が見られない場合がある。
【0200】
表面処理の方法には特に限定は無いが、例えば、以下に説明するような、金属酸化物(酸化珪素)による被覆処理法を挙げることができる。
【0201】
本発明の蛍光体をエタノール等のアルコール中に混合して、攪拌し、更にアンモニア水等のアルカリ水溶液を混合して、攪拌する。次に、加水分解可能なアルキル珪酸エステル、例えばテトラエチルオルト珪酸を混合して、攪拌する。得られた溶液を3分間〜60分間静置した後、スポイト等により蛍光体表面に付着しなかった酸化珪素粒子を含む上澄みを除去する。次いで、アルコール混合、攪拌、静置、上澄み除去を数回繰り返した後、120℃〜150℃で10分〜5時間、例えば2時間の減圧乾燥工程を経て、表面処理蛍光体を得る。
【0202】
蛍光体の表面処理方法としては、この他、例えば球形の酸化珪素微粉を蛍光体に付着させる方法(特開平2−209989号公報、特開平2−233794号公報)、蛍光体に珪素系化合物の皮膜を付着させる方法(特開平3−231987号公報)、蛍光体微粒子の表面をポリマー微粒子で被覆する方法(特開平6−314593号公報)、蛍光体を有機材料、無機材料及びガラス材料等でコーティングする方法(特開2002−223008号公報)、蛍光体の表面を化学気相反応法によって被覆する方法(特開2005−82788号公報)、金属化合物の粒子を付着させる方法(特開2006−28458号公報)等の公知の方法を用いることができる。
【0203】
〔1−4.蛍光体の用途〕
本発明の蛍光体は、蛍光体を使用する任意の用途に用いることができる。また、本発明の蛍光体は、本発明の蛍光体を単独で使用することも可能であるが、本発明の蛍光体を2種以上併用したり、本発明の蛍光体とその他の蛍光体とを併用したりした、任意の組み合わせの蛍光体混合物として用いることも可能である。
また、本発明の蛍光体は、特に、青色光又は紫外光で励起可能であるという特性を生かして、各種の発光装置(後述する「本発明の発光装置」)に好適に用いることができる。本発明の蛍光体が通常は緑色発光蛍光体であることから、例えば、本発明の蛍光体に、青色光又は紫外光を発する励起光源を組み合わせれば、青緑色、緑色または黄緑色の発光装置を製造することができる。また、本発明の蛍光体に、青色光を発する励起光源及び赤色光を発光する蛍光体を組み合わせれば、白色発光装置を製造することができる。また、本発明の蛍光体と、紫外光を発する励起光源、青色光を発光する蛍光体、及び赤色光を発光する蛍光体を組み合わせても、白色発光装置を製造することができる。
【0204】
発光装置の発光色としては白色に制限されず、蛍光体の組み合わせや含有量を適宜選択することにより、電球色(暖かみのある白色)やパステルカラー等、任意の色に発光する発光装置を製造することができる。こうして得られた発光装置を、画像表示装置の発光部(特に液晶用バックライトなど)や照明装置として使用することができる。
【0205】
[2.蛍光体含有組成物]
本発明の蛍光体は、液体媒体と混合して用いることもできる。特に、本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。本発明の蛍光体を液体媒体中に分散させたものを、適宜「本発明の蛍光体含有組成物」と呼ぶものとする。
【0206】
[2−1.蛍光体]
本発明の蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体の種類に制限は無く、上述したものから任意に選択することができる。また、本発明の蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体は、1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。更に、本発明の蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、本発明の蛍光体以外の蛍光体を含有させてもよい。
【0207】
[2−2.液体媒体]
本発明の蛍光体含有組成物に使用される液体媒体としては、該蛍光体の性能を目的の範囲で損なわない限りにおいて特に限定されない。例えば、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の蛍光体を好適に分散させるとともに、好ましくない反応を生じないものであれば、任意の無機系材料及び/又は有機系材料が使用できる。
【0208】
無機系材料としては、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液、又はこれらを組み合わせた無機系材料(例えばシロキサン結合を有する無機系材料)等を挙げることができる。
【0209】
有機系材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具体例を挙げると、ポリメタアクリル酸メチル等のメタアクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0210】
これらの中で特に照明など大出力の発光装置に蛍光体を用いる場合には、耐熱性や耐光性等を目的として珪素含有化合物を使用することが好ましい。
【0211】
珪素含有化合物とは、分子中に珪素原子を有する化合物をいい、例えば、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系材料)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、ハンドリングの容易さ等の点から、シリコーン系材料が好ましい。
【0212】
上記シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば下記式(i)で表される化合物及び/又はそれらの混合物が挙げられる。
(R123SiO1/2M(R45SiO2/2D(R6SiO3/2T(SiO4/2Q・・・式(i)
【0213】
上記式(i)において、R1からR6は同じであっても異なってもよく、有機官能基、水酸基、水素原子からなる群から選択される。
また、上記式(i)において、M、D、T及びQは、各々0以上1未満の数であり、且つ、M+D+T+Q=1を満足する数である。
【0214】
該シリコーン系材料は、半導体発光素子の封止に用いる場合、液状のシリコーン系材料を用いて封止した後、熱や光によって硬化させて用いることができる。
【0215】
シリコーン系材料を硬化のメカニズムにより分類すると、通常、付加重合硬化タイプ、縮重合硬化タイプ、紫外線硬化タイプ、パーオキサイド架硫タイプなどのシリコーン系材料を挙げることができる。これらの中では、付加重合硬化タイプ(付加型シリコーン系樹脂)、縮合硬化タイプ(縮合型シリコーン系樹脂)、紫外線硬化タイプが好適である。以下、付加型シリコーン系材料、及び縮合型シリコーン系材料について説明する。
【0216】
付加型シリコーン系材料とは、ポリオルガノシロキサン鎖が、有機付加結合により架橋されたものをいう。代表的なものとしては、例えばビニルシランとヒドロシランとをPt触媒などの付加型触媒の存在下反応させて得られるSi−C−C−Si結合を架橋点に有する化合物等を挙げることができる。これらは市販のものを使用することができ、例えば付加重合硬化タイプの具体的商品名としては信越化学工業社製「LPS−1400」「LPS−2410」「LPS−3400」等が挙げられる。
【0217】
一方、縮合型シリコーン系材料とは、例えば、アルキルアルコキシシランの加水分解・重縮合で得られるSi−O−Si結合を架橋点に有する化合物を挙げることができる。その具体例としては、下記一般式(ii)及び/又は(iii)で表わされる化合物、及び/又はそのオリゴマーを加水分解・重縮合して得られる重縮合物が挙げられる。
【0218】
m+n1m-n (ii)
(式(ii)中、Mは、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びチタンより選択される少なくとも1種の元素を表わし、Xは、加水分解性基を表わし、Y1は、1価の有機基を表わし、mは、Mの価数を表わす1以上の整数を表わし、nは、X基の数を表わす1以上の整数を表わす。但し、m≧nである。)
【0219】
(Ms+t1s-t-1u2 (iii)
(式(iii)中、Mは、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びチタンより選択される少なくとも1種の元素を表わし、Xは、加水分解性基を表わし、Y1は、1価の有機基を表わし、Y2は、u価の有機基を表わし、sは、Mの価数を表わす1以上の整数を表わし、tは、1以上、s−1以下の整数を表わし、uは、2以上の整数を表わす。)
【0220】
また、縮合型シリコーン系材料には、硬化触媒を含有させてもよい。この硬化触媒としては、例えば、金属キレート化合物などを好適なものとして用いることができる。金属キレート化合物は、Ti、Ta、Zrの何れか1以上を含むものが好ましく、Zrを含むものが更に好ましい。なお、硬化触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0221】
このような縮合型シリコーン系材料としては、例えば特開2007−112973号〜112975号公報、特開2007−19459号公報及び特願2006−176468号明細書に記載の半導体発光デバイス用部材が好適である。
【0222】
縮合型シリコーン系材料の中で、特に好ましい材料について、以下に説明する。
シリコーン系材料は、一般に半導体発光素子や素子を配置する基板及びパッケージ等との接着性が弱いことが課題とされるが、密着性が高いシリコーン系材料として、特に、以下の特徴〔1〕〜〔3〕のうち1つ以上を有する縮合型シリコーン系材料が好ましい。
【0223】
〔1〕ケイ素含有率が20重量%以上である。
〔2〕後に詳述する方法によって測定した固体Si−核磁気共鳴(NMR)スペクトルにおいて、下記(a)及び/又は(b)のSiに由来するピークを少なくとも1つ有する。
(a)ピークトップの位置がテトラメトキシシランを基準としてケミカルシフト−40ppm以上、0ppm以下の領域にあり、ピークの半値幅が0.3ppm以上、3.0ppm以下であるピーク。
(b)ピークトップの位置がテトラメトキシシランを基準としてケミカルシフト−80ppm以上、−40ppm未満の領域にあり、ピークの半値幅が0.3ppm以上5.0ppm以下であるピーク。
〔3〕シラノール含有率が0.1重量%以上、10重量%以下である。
【0224】
本発明においては、上記の特徴〔1〕〜〔3〕のうち、特徴〔1〕を有するシリコーン系材料が好ましく、上記の特徴〔1〕及び〔2〕を有するシリコーン系材料がより好ましく、上記の特徴〔1〕〜〔3〕を全て有するシリコーン系材料が特に好ましい。
以下、上記の特徴〔1〕〜〔3〕について説明する。
【0225】
[2−2−1.特徴〔1〕(ケイ素含有率)]
従来のシリコーン系材料の基本骨格は炭素−炭素及び炭素−酸素結合を基本骨格としたエポキシ樹脂等の有機樹脂であるが、これに対し本発明に好適なシリコーン系材料の基本骨格はガラス(ケイ酸塩ガラス)などと同じ無機質のシロキサン結合である。このシロキサン結合は、下記表2の化学結合の比較表からも明らかなように、シリコーン系材料として優れた以下の特徴がある。
【0226】
(I)結合エネルギーが大きく、熱分解・光分解し難いため、耐光性が良好である。
(II)電気的に若干分極している。
(III)鎖状構造の自由度は大きく、フレキシブル性に富む構造が可能であり、シロキサン鎖中心に自由回転可能である。
(IV)酸化度が大きく、これ以上酸化されない。
(V)電気絶縁性に富む。
【0227】
【表2】

【0228】
これらの特徴から、シロキサン結合が3次元的に、しかも高架橋度で結合した骨格で形成されるシリコーン系のシリコーン系材料は、ガラス或いは岩石などの無機質に近く、耐熱性・耐光性に富む保護皮膜となることが理解できる。特にメチル基を置換基とするシリコーン系材料は、紫外領域に吸収を持たないため光分解が起こり難く、耐光性に優れる。
【0229】
本発明に好適なシリコーン系材料のケイ素含有率は、通常20重量%以上であるが、中でも25重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。一方、上限としては、SiO2のみからなるガラスのケイ素含有率が47重量%であるという理由から、通常47重量%以下の範囲である。
【0230】
なお、シリコーン系材料のケイ素含有率は、例えば以下の方法を用いて誘導結合高周波プラズマ分光(inductively coupled plasma spectrometry:以下適宜「ICP」と略する。)分析を行ない、その結果に基づいて算出することができる。
【0231】
{ケイ素含有率の測定}
シリコーン系材料を白金るつぼ中にて大気中、450℃で1時間、次いで750℃で1時間、950℃で1.5時間保持して焼成し、炭素成分を除去した後、得られた残渣少量に10倍量以上の炭酸ナトリウムを加えてバーナー加熱し溶融させ、これを冷却して脱塩水を加え、更に塩酸にてpHを中性程度に調整しつつケイ素として数ppm程度になるよう定容し、ICP分析を行なう。
【0232】
[2−2−2.特徴〔2〕(固体Si−NMRスペクトル)]
本発明に好適なシリコーン系材料の固体Si−NMRスペクトルを測定すると、有機基の炭素原子が直接結合したケイ素原子に由来する前記(a)及び/又は(b)のピーク領域に少なくとも1本、好ましくは複数本のピークが観測される。
【0233】
ケミカルシフト毎に整理すると、本発明に好適なシリコーン系材料において、(a)に記載のピークの半値幅は、分子運動の拘束が小さいために、全般に後述の(b)に記載のピークの場合より小さく、通常3.0ppm以下、好ましくは2.0ppm以下、また、通常0.3ppm以上の範囲である。
一方、(b)に記載のピークの半値幅は、通常5.0ppm以下、好ましくは4.0ppm以下、また、通常0.3ppm以上、好ましくは0.4ppm以上の範囲である。
【0234】
上記のケミカルシフト領域において観測されるピークの半値幅が大き過ぎると、分子運動の拘束が大きくひずみの大きな状態となり、クラックが発生し易く、耐熱・耐候耐久性に劣る部材となる場合がある。例えば、四官能シランを多用した場合や、乾燥工程において急速な乾燥を行ない大きな内部応力を蓄えた状態などにおいて、半値幅範囲が上記の範囲より大きくなる。
【0235】
また、ピークの半値幅が小さ過ぎると、その環境にあるSi原子はシロキサン架橋に関わらないことになり、三官能シランが未架橋状態で残留する例など、シロキサン結合主体で形成される物質より耐熱・耐候耐久性に劣る部材となる場合がある。
【0236】
但し、大量の有機成分中に少量のSi成分が含まれるシリコーン系材料においては、−80ppm以上に上述の半値幅範囲のピークが認められても、良好な耐熱・耐光性及び塗布性能は得られない場合がある。
【0237】
本発明に好適なシリコーン系材料のケミカルシフトの値は、例えば以下の方法を用いて固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(半値幅やシラノール量解析)は、例えばガウス関数やローレンツ関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
【0238】
{固体Si−NMRスペクトル測定及びシラノール含有率の算出}
シリコーン系材料について固体Si−NMRスペクトルを行なう場合、以下の条件で固体Si−NMRスペクトル測定及び波形分離解析を行なう。また、得られた波形データより、シリコーン系材料について、各々のピークの半値幅を求める。また、全ピーク面積に対するシラノール由来のピーク面積の比率より、全ケイ素原子中のシラノールとなっているケイ素原子の比率(%)を求め、別に分析したケイ素含有率と比較することによりシラノール含有率を求める。
【0239】
{装置条件}
装置:Chemagnetics社 Infinity CMX-400 核磁気共鳴分光装置
29Si共鳴周波数:79.436MHz
プローブ:7.5mmφCP/MAS用プローブ
測定温度:室温
試料回転数:4kHz
測定法:シングルパルス法
1Hデカップリング周波数:50kHz
29Siフリップ角:90゜
29Si90゜パルス幅:5.0μs
繰り返し時間:600s
積算回数:128回
観測幅:30kHz
ブロードニングファクター:20Hz
基準試料:テトラメトキシシラン
【0240】
シリコーン系材料については、512ポイントを測定データとして取り込み、8192ポイントにゼロフィリングしてフーリエ変換する。
【0241】
{波形分離解析法}
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについてローレンツ波形及びガウス波形或いは両者の混合により作成したピーク形状の中心位置、高さ、半値幅を可変パラメータとして、非線形最小二乗法により最適化計算を行なう。
なお、ピークの同定は、AIChE Journal, 44(5), p.1141, 1998年等を参考にする。
【0242】
[2−2−3.特徴〔3〕(シラノール含有率)]
本発明に好適なシリコーン系材料は、シラノール含有率が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、更に好ましくは5重量%以下の範囲である。シラノール含有率を低くすることにより、シラノール系材料は経時変化が少なく、長期の性能安定性に優れ、吸湿・透湿性何れも低い優れた性能を有する。但し、シラノールが全く含まれない部材は密着性に劣るため、シラノール含有率に上記のごとく最適な範囲が存在する。
【0243】
なお、シリコーン系材料のシラノール含有率は、例えば上記[2−2−2.特徴〔2〕(固体Si−NMRスペクトル)]の{固体Si−NMRスペクトル測定及びシラノール含有率の算出}の項において説明した方法を用いて固体Si−NMRスペクトル測定を行ない、全ピーク面積に対するシラノール由来のピーク面積の比率より、全ケイ素原子中のシラノールとなっているケイ素原子の比率(%)を求め、別に分析したケイ素含有率と比較することにより算出することができる。
【0244】
また、本発明に好適なシリコーン系材料は、適当量のシラノールを含有しているため、通常は、デバイス表面に存在する極性部分にシラノールが水素結合し、密着性が発現する。極性部分としては、例えば、水酸基やメタロキサン結合の酸素等が挙げられる。
【0245】
また、本発明に好適なシリコーン系材料は、通常、適当な触媒の存在下で加熱することにより、デバイス表面の水酸基との間に脱水縮合による共有結合を形成し、更に強固な密着性を発現することができる。
【0246】
一方、シラノールが多過ぎると、系内が増粘して塗布が困難になったり、活性が高くなり加熱により軽沸分が揮発する前に固化したりすることによって、発泡や内部応力の増大が生じ、クラックなどを誘起する場合がある。
【0247】
[2−3.液体媒体の含有率]
液体媒体の含有率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の蛍光体含有組成物全体に対して、通常50重量%以上、好ましくは75重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。液体媒体の量が多い場合には特段の問題は起こらないが、半導体発光装置とした場合に所望の色度座標、演色指数、発光効率等を得るには、通常、上記のような配合比率で液体媒体を用いることが望ましい。一方、液体媒体が少な過ぎると流動性がなく取り扱い難くなる可能性がある。
【0248】
液体媒体は、本発明の蛍光体含有組成物において、主にバインダーとしての役割を有する。液体媒体は、一種を単独で用いてもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。例えば、耐熱性や耐光性等を目的として珪素含有化合物を使用する場合は、当該珪素含有化合物の耐久性を損なわない程度に、エポキシ樹脂など他の熱硬化性樹脂を含有してもよい。この場合、他の熱硬化性樹脂の含有量は、バインダーである液体媒体全量に対して通常25重量%以下、好ましくは10重量%以下とすることが望ましい。
【0249】
[2−4.その他の成分]
なお、本発明の蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、蛍光体及び液体媒体以外に、その他の成分を含有させてもよい。また、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0250】
[3.発光装置]
本発明の発光装置(以下、適宜「発光装置」という)は、第1の発光体(励起光源)と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを有する発光装置であって、該第2の発光体として前述の[1.蛍光体]の項で記載した本発明の蛍光体を1種以上、第1の蛍光体として含有するものである。
【0251】
本発明の蛍光体としては、通常は、励起光源からの光の照射下において、緑色領域の蛍光を発する蛍光体(以下「本発明の緑色蛍光体」と言う場合がある。)を使用する。具体的には、発光装置を構成する場合、本発明の緑色蛍光体としては、485nm〜555nmの波長範囲に発光ピークを有するものが好ましい。なお、本発明の緑色蛍光体は、何れか一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0252】
本発明の緑色蛍光体を使用することにより、本発明の発光装置は、紫外から青色領域までの発光を有する励起光源(第1の発光体)に対して高い発光効率を示し、更には、照明装置、液晶ディスプレイ用光源等の白色発光装置に使用した場合に優れた発光装置となる。
【0253】
また、本発明の発光装置に用いられる本発明の緑色蛍光体の好ましい具体例としては、前述の[1.蛍光体]の項に記載した本発明の蛍光体や、後述の[実施例]の欄の各実施例に用いた蛍光体が挙げられる。
【0254】
本発明の発光装置は、第1の発光体(励起光源)を有し、且つ、第2の発光体として少なくとも本発明の蛍光体を使用している他は、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。装置構成の具体例については後述する。
【0255】
本発明の発光装置の発光スペクトルにおける緑色領域の発光ピークとしては、515nm〜535nmの波長範囲に発光ピークを有するものが好ましい。
【0256】
なお、発光装置の発光スペクトルは、気温25±1℃に保たれた室内において、オーシャン オプティクス社製の色・照度測定ソフトウェア及びUSB2000シリーズ分光器(積分球仕様)を用いて20mA通電して測定を行なうことができる。この発光スペクトルの380nm〜780nmの波長領域のデータから、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標として色度値(x,y,z)を算出できる。この場合、x+y+z=1の関係式が成立する。本明細書においては、前記XYZ表色系をXY表色系と称している場合があり、通常(x,y)で表記している。
【0257】
また、発光効率は、前述のような発光装置を用いた発光スペクトル測定の結果から全光束を求め、そのルーメン(lm)値を消費電力(W)で割ることにより求められる。消費電力は、20mAを通電した状態で、Fluke社のTrue RMS Multimeters Model 187&189を用いて電圧を測定し、電流値と電圧値の積で求められる。
【0258】
本発明の発光装置のうち、特に白色発光装置として、具体的には、第1の発光体として後述するような励起光源を用い、上述のような緑色蛍光体の他、後述するような赤色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「赤色蛍光体」という)、青色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「青色蛍光体」という)、黄色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「黄色蛍光体」という)等の公知の蛍光体を任意に組み合わせて使用し、公知の装置構成をとることにより得られる。
【0259】
ここで、該白色発光装置の白色とは、JIS Z 8701により規定された、(黄みの)白、(緑みの)白、(青みの)白、(紫みの)白及び白の全てを含む意であり、このうち好ましくは白である。
【0260】
[3−1.発光装置の構成(発光体)]
(第1の発光体)
本発明の発光装置における第1の発光体は、後述する第2の発光体を励起する光を発光するものである。
【0261】
第1の発光体の発光波長は、後述する第2の発光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、幅広い発光波長領域の発光体を使用することができる。通常は、紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体が使用され、近紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体を使用することが特に好ましい。
【0262】
第1の発光体の発光ピーク波長の具体的数値としては、通常200nm以上が望ましい。このうち、近紫外光を励起光として用いる場合には、通常300nm以上、好ましくは330nm以上、より好ましくは360nm以上、また、通常420nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。また、青色光を励起光として用いる場合には、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、また、通常500nm以下、好ましくは480nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。何れも、発光装置の色純度の観点からである。
【0263】
第1の発光体としては、一般的には半導体発光素子が用いられ、具体的には発光LEDや半導体レーザーダイオード(semiconductor laser diode。以下、適宜「LD」と略称する。)等が使用できる。その他、第1の発光体として使用できる発光体としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス発光素子、無機エレクトロルミネッセンス発光素子等が挙げられる。但し、第1の発光体として使用できるものは本明細書に例示されるものに限られない。
【0264】
中でも、第1の発光体としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDやLDが好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、非常に低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系LEDやLDはSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDにおいては、AlXGaYN発光層、GaN発光層又はInXGaYN発光層を有しているものが好ましい。GaN系LEDにおいては、それらの中でもInXGaYN発光層を有するものは発光強度が非常に強いので特に好ましく、GaN系LEDにおいては、InXGaYN層とGaN層の多重量子井戸構造のものが発光強度は非常に強いので特に好ましい。
【0265】
なお、上記においてX+Yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。
【0266】
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlXGaYN層、GaN層、又はInXGaYN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高くて好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率が更に高いため、より好ましい。
なお、第1の発光体は、1個のみを用いてもよく、2個以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0267】
(第2の発光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、上述した第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する発光体であり、第1の蛍光体として前述の本発明の蛍光体(緑色蛍光体)を含有するとともに、その用途等に応じて適宜、後述する第2の蛍光体(赤色蛍光体、青色蛍光体、橙色蛍光体等)を含有する。また、例えば、第2の発光体は、第1及び第2の蛍光体を封止材料中に分散させて構成される。
【0268】
上記第2の発光体中に用いられる、本発明の蛍光体以外の蛍光体の組成には特に制限はない。その例を挙げると、結晶母体となる、Y23、YVO4、Zn2SiO4、Y3Al512、Sr2SiO4等に代表される金属酸化物、Sr2Si58等に代表される金属窒化物、Ca5(PO43Cl等に代表されるリン酸塩及びZnS、SrS、CaS等に代表される硫化物、Y22S、La22S等に代表される酸硫化物等にCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等の希土類金属のイオンやAg、Cu、Au、Al、Mn、Sb等の金属のイオンを付活元素又は共付活元素として組み合わせたものが挙げられる。
【0269】
結晶母体の好ましい例としては、例えば、(Zn,Cd)S、SrGa24、SrS、ZnS等の硫化物;Y22S等の酸硫化物;(Y,Gd)3Al512、YAlO3、BaMgAl1017、(Ba,Sr)(Mg,Mn)Al1017、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn,Mn)Al1017、BaAl1219、CeMgAl1119、(Ba,Sr,Mg)O・Al23、BaAl2Si28、SrAl24、Sr4Al1425、Y3Al512等のアルミン酸塩;Y2SiO5、Zn2SiO4等の珪酸塩;SnO2、Y23等の酸化物;GdMgB510、(Y,Gd)BO3等の硼酸塩;Ca10(PO46(F,Cl)2、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2等のハロリン酸塩;Sr227、(La,Ce)PO4等のリン酸塩等を挙げることができる。
【0270】
但し、上記の結晶母体、付活元素及び共付活元素は、元素組成には特に制限はなく、同族の元素と一部置き換えることもでき、得られた蛍光体は近紫外から可視領域の光を吸収して可視光を発するものであれば用いることが可能である。
【0271】
具体的には、蛍光体として以下に挙げるものを用いることが可能であるが、これらはあくまでも例示であり、本発明で使用できる蛍光体はこれらに限られるものではない。なお、以下の例示では、前述の通り、構造の一部のみが異なる蛍光体を、適宜省略して示している。
【0272】
(第1の蛍光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、第1の蛍光体として、少なくとも上述の本発明の蛍光体を含有する。本発明の蛍光体は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、第1の蛍光体としては、本発明の蛍光体以外にも、本発明の蛍光体と同色の蛍光を発する蛍光体(同色併用蛍光体)を用いてもよい。通常、本発明の蛍光体は緑色蛍光体であるので、第1の蛍光体として、本発明の蛍光体と共に他種の緑色蛍光体を併用することができる。
【0273】
該緑色蛍光体としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。該緑色蛍光体の具体例を挙げると、破断面を有する破断粒子から構成され、緑色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)Si222:Euで表わされるユウロピウム付活アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体等が挙げられる。
【0274】
また、その他の緑色蛍光体としては、Sr4Al1425:Eu、(Ba,Sr,Ca)Al24:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ba)Al2Si28:Eu、(Ba,Mg)2SiO4:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu、(Ba,Sr,Ca)2(Mg,Zn)Si27:Eu、(Ba,Ca,Sr,Mg)9(Sc,Y,Lu,Gd)2(Si,Ge)624:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、Y2SiO5:Ce,Tb等のCe,Tb付活珪酸塩蛍光体、Sr227−Sr225:Eu等のEu付活硼酸リン酸塩蛍光体、Sr2Si38−2SrCl2:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、Zn2SiO4:Mn等のMn付活珪酸塩蛍光体、CeMgAl1119:Tb、Y3Al512:Tb等のTb付活アルミン酸塩蛍光体、Ca28(SiO462:Tb、La3Ga5SiO14:Tb等のTb付活珪酸塩蛍光体、(Sr,Ba,Ca)Ga24:Eu,Tb,Sm等のEu,Tb,Sm付活チオガレート蛍光体、Y3(Al,Ga)512:Ce、(Y,Ga,Tb,La,Sm,Pr,Lu)3(Al,Ga)512:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、Ca3Sc2Si312:Ce、Ca3(Sc,Mg,Na,Li)2Si312:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaSc24:Ce等のCe付活酸化物蛍光体、Eu付活βサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、BaMgAl1017:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、SrAl24:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(La,Gd,Y)22S:Tb等のTb付活酸硫化物蛍光体、LaPO4:Ce,Tb等のCe,Tb付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al等の硫化物蛍光体、(Y,Ga,Lu,Sc,La)BO3:Ce,Tb、Na2Gd227:Ce,Tb、(Ba,Sr)2(Ca,Mg,Zn)B26:K,Ce,Tb等のCe,Tb付活硼酸塩蛍光体、Ca8Mg(SiO44Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)(Al,Ga,In)24:Eu等のEu付活チオアルミネート蛍光体やチオガレート蛍光体、(Ca,Sr)8(Mg,Zn)(SiO44Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、M3Si694:Eu、M3Si6122:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素を表わす。)等のEu付活酸窒化物蛍光体等を用いることも可能である。
【0275】
また、緑色蛍光体としては、ピリジン−フタルイミド縮合誘導体、ベンゾオキサジノン系、キナゾリノン系、クマリン系、キノフタロン系、ナルタル酸イミド系等の蛍光色素、テルビウム錯体等の有機蛍光体を用いることも可能である。
以上例示した緑色蛍光体は、何れか一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0276】
本発明の発光装置に使用される第1の蛍光体の発光ピーク波長λp(nm)は、通常500nmより大きく、中でも510nm以上、更には515nm以上であり、また、通常550nm以下、中でも542nm以下、更には535nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長λpが短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾向があり、何れも緑色光としての特性が低下する場合がある。
【0277】
また、本発明の発光装置に使用される第1の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピーク半値幅(full width at half maximum。以下適宜「FWHM」と略称する。)が、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは25nm以上、また、通常85nm以下、中でも75nm以下、更には70nm以下の範囲であることが好ましい。この半値幅FWHMが狭過ぎると発光強度が低下する場合があり、広過ぎると色純度が低下する場合がある。
【0278】
(第2の蛍光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、その用途に応じて、上述の第1の蛍光体以外にも蛍光体(即ち、第2の蛍光体)を1種以上含有していてもよい。この第2の蛍光体は、第1の蛍光体とは発光ピーク波長が異なる蛍光体である。通常、これらの第2の蛍光体は、第2の発光体の発光の色調を調節するために使用されるため、第2の蛍光体としては第1の蛍光体とは異なる色の蛍光を発する蛍光体を使用することが多い。上記のように、通常は第1の蛍光体として緑色蛍光体を使用するので、第2の蛍光体としては、例えば橙色ないし赤色蛍光体、青色蛍光体、黄色蛍光体等の緑色蛍光体以外の蛍光体を用いる。
【0279】
本発明の発光装置に使用される第2の蛍光体の重量メジアン径は、通常10μm以上、中でも12μm以上が好ましく、また、通常30μm以下、中でも25μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径が小さ過ぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集してしまう傾向がある。一方、重量メジアン径が大き過ぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0280】
(橙色ないし赤色蛍光体)
第2の蛍光体として橙色ないし赤色蛍光体を使用する場合、当該橙色ないし赤色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、橙色ないし赤色蛍光体の発光ピーク波長は、通常570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0281】
このような橙色ないし赤色蛍光体としては、例えば、赤色破断面を有する破断粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si58:Euで表わされるユーロピウム賦活アルカリ土類シリコンナイトライド系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Y,La,Gd,Lu)22S:Euで表わされるユーロピウム賦活希土類オキシカルコゲナイド系蛍光体等が挙げられる。
【0282】
更に、特開2004−300247号公報に記載された、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、W、及びMoよりなる群から選ばれる少なくも1種類の元素を含有する酸窒化物及び/又は酸硫化物を含有する蛍光体であって、Al元素の一部又は全てがGa元素で置換されたアルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体も、本発明において用いることができる。なお、これらは酸窒化物及び/又は酸硫化物を含有する蛍光体である。
【0283】
また、そのほか、赤色蛍光体としては、(La,Y)22S:Eu等のEu付活酸硫化物蛍光体、Y(V,P)O4:Eu、Y23:Eu等のEu付活酸化物蛍光体、(Ba,Mg)2SiO4:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、LiW28:Eu、LiW28:Eu,Sm、Eu229、Eu229:Nb、Eu229:Sm等のEu付活タングステン酸塩蛍光体、(Ca,Sr)S:Eu等のEu付活硫化物蛍光体、YAlO3:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、Ca28(SiO462:Eu、LiY9(SiO462:Eu、(Sr,Ba,Ca)3SiO5:Eu、Sr2BaSiO5:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、(Y,Gd)3Al512:Ce、(Tb,Gd)3Al512:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si(N,O)2:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Eu等のEu付活酸化物、窒化物又は酸窒化物蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Ce等のCe付活酸化物、窒化物又は酸窒化物蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、Ba3MgSi28:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)3(Zn,Mg)Si28:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn等のMn付活ゲルマン酸塩蛍光体、Eu付活αサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)23:Eu,Bi等のEu,Bi付活酸化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)22S:Eu,Bi等のEu,Bi付活酸硫化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)VO4:Eu,Bi等のEu,Bi付活バナジン酸塩蛍光体、SrY24:Eu,Ce等のEu,Ce付活硫化物蛍光体、CaLa24:Ce等のCe付活硫化物蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgP27:Eu,Mn、(Sr,Ca,Ba,Mg,Zn)227:Eu,Mn等のEu,Mn付活リン酸塩蛍光体、(Y,Lu)2WO6:Eu,Mo等のEu,Mo付活タングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)xSiyz:Eu,Ce(但し、x、y、zは、1以上の整数を表わす。)等のEu,Ce付活窒化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba,Mg)10(PO46(F,Cl,Br,OH):Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、((Y,Lu,Gd,Tb)1-x-yScxCey2(Ca,Mg)1-r(Mg,Zn)2+rSiz-qGeq12+δ等のCe付活珪酸塩蛍光体等を用いることも可能である。
【0284】
赤色蛍光体としては、β−ジケトネート、β−ジケトン、芳香族カルボン酸、又は、ブレンステッド酸等のアニオンを配位子とする希土類元素イオン錯体からなる赤色有機蛍光体、ペリレン系顔料(例えば、ジベンゾ{[f,f’]−4,4’,7,7’−テトラフェニル}ジインデノ[1,2,3−cd:1’,2’,3’−lm]ペリレン)、アントラキノン系顔料、レーキ系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、アントラセン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、フタロシアニン系顔料、トリフェニルメタン系塩基性染料、インダンスロン系顔料、インドフェノール系顔料、シアニン系顔料、ジオキサジン系顔料を用いることも可能である。
【0285】
以上の中でも、赤色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O)2:Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Ce、(Sr,Ba)3SiO5:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)22S:Eu又はEu錯体を含むことが好ましく、より好ましくは(Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O)2:Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Ce、(Sr,Ba)3SiO5:Eu、(Ca,Sr)S:Eu又は(La,Y)22S:Eu、もしくはEu(ジベンゾイルメタン)3・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体又はカルボン酸系Eu錯体を含むことが好ましく、(Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu又は(La,Y)22S:Euが特に好ましい。
【0286】
また、以上例示の中でも、橙色蛍光体としては(Sr,Ba)3SiO5:Euが好ましい。
【0287】
(青色蛍光体)
第2の蛍光体として青色蛍光体を使用する場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、青色蛍光体の発光ピーク波長は、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、更に好ましくは460nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0288】
このような青色蛍光体としては、規則的な結晶成長形状としてほぼ六角形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Euで表わされるユーロピウム賦活バリウムマグネシウムアルミネート系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)5(PO43(Cl,F):Euで表わされるユウロピウム賦活ハロリン酸カルシウム系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ立方体形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Ca,Sr,Ba)259Cl:Euで表わされるユウロピウム賦活アルカリ土類クロロボレート系蛍光体、破断面を有する破断粒子から構成され、青緑色領域の発光を行なう(Sr,Ca,Ba)Al24:Eu又は(Sr,Ca,Ba)4Al1425:Euで表わされるユウロピウム賦活アルカリ土類アルミネート系蛍光体等が挙げられる。
【0289】
また、そのほか、青色蛍光体としては、Sr227:Sn等のSn付活リン酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)Al24:Eu又は(Sr,Ca,Ba)4Al1425:Eu、BaMgAl1017:Eu、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu、BaMgAl1017:Eu,Tb,Sm、BaAl813:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、SrGa24:Ce、CaGa24:Ce等のCe付活チオガレート蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu、(Ba,Sr,Ca)5(PO43(Cl,F,Br,OH):Eu,Mn,Sb等のEu付活ハロリン酸塩蛍光体、BaAl2Si28:Eu、(Sr,Ba)3MgSi28:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、Sr227:Eu等のEu付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Ag、ZnS:Ag,Al等の硫化物蛍光体、Y2SiO5:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaWO4等のタングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)BPO5:Eu,Mn、(Sr,Ca)10(PO46・nB23:Eu、2SrO・0.84P25・0.16B23:Eu等のEu,Mn付活硼酸リン酸塩蛍光体、Sr2Si38・2SrCl2:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、SrSi9Al19ON31:Eu、EuSi9Al19ON31等のEu付活酸窒化物蛍光体、La1-xCexAl(Si6-zAlz)(N10-zz)(ここで、x、及びzは、それぞれ0≦x≦1、0≦z≦6を満たす数である。)、La1-x-yCexCayAl(Si6-zAlz)(N10-zz)(ここで、x、y、及びzは、それぞれ、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦6を満たす数である。)等のCe付活酸窒化物蛍光体等を用いることも可能である。
【0290】
また、青色蛍光体としては、例えば、ナフタル酸イミド系、ベンゾオキサゾール系、スチリル系、クマリン系、ピラリゾン系、トリアゾール系化合物の蛍光色素、ツリウム錯体等の有機蛍光体等を用いることも可能である。
【0291】
以上の例示の中でも、青色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46(Cl,F)2:Eu又は(Ba,Ca,Mg,Sr)2SiO4:Euを含むことが好ましく、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46(Cl,F)2:Eu又は(Ba,Ca,Sr)3MgSi28:Euを含むことがより好ましく、BaMgAl1017:Eu、Sr10(PO46(Cl,F)2:Eu又はBa3MgSi28:Euを含むことがより好ましい。また、このうち照明用途及びディスプレイ用途としては(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu又は(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Euが特
に好ましい。
【0292】
(黄色蛍光体)
第2の蛍光体として黄色蛍光体を使用する場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、黄色蛍光体の発光ピーク波長は、通常530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上、また、通常620nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0293】
このような黄色蛍光体としては、各種の酸化物系、窒化物系、酸窒化物系、硫化物系、酸硫化物系等の蛍光体が挙げられる。
特に、RE3512:Ce(ここで、REは、Y、Tb、Gd、Lu、及びSmからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表わし、Mは、Al、Ga、及びScからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表わす。)やMa3b2c312:Ce(ここで、Maは2価の金属元素、Mbは3価の金属元素、Mcは4価の金属元素を表わす。)等で表わされるガーネット構造を有するガーネット系蛍光体、AE2d4:Eu(ここで、AEは、Ba、Sr、Ca、Mg、及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表わし、Mdは、Si、及び/又はGeを表わす。)等で表わされるオルソシリケート系蛍光体、これらの系の蛍光体の構成元素の酸素の一部を窒素で置換した酸窒化物系蛍光体、AEAlSiN3:Ce(ここで、AEは、Ba、Sr、Ca、Mg及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表わす。)等のCaAlSiN3構造を有する窒化物系蛍光体等のCeで付活した蛍光体が挙げられる。
【0294】
また、その他、黄色蛍光体としては、CaGa24:Eu、(Ca,Sr)Ga24:Eu、(Ca,Sr)(Ga,Al)24:Eu等の硫化物系蛍光体、Cax(Si,Al)12(O,N)16:Eu等のSiAlON構造を有する酸窒化物系蛍光体等のEuで付活した蛍光体、(M1-a-bEuaMnb2(BO31-p(PO4pX(但し、Mは、Ca、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種以上の元素を表し、Xは、F、Cl、及びBrからなる群より選ばれる1種以上の元素を表わす。a、b、及びpは、各々、0.001≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦p≦0.2を満たす数を表わす。)等のEu付活又はEu,Mn共付活ハロゲン化ホウ酸塩蛍光体等を用いることも可能である。
【0295】
また、黄色蛍光体としては、例えば、brilliant sulfoflavine FF (Colour Index Number 56205)、basic yellow HG (Colour Index Number 46040)、eosine (Colour Index Number 45380)、rhodamine
6G (Colour Index Number 45160)等の蛍光染料等を用いることも可能である。
【0296】
(第2の蛍光体の組み合わせ)
上記第2の蛍光体としては、1種類の蛍光体のみを使用してもよく、2種以上の蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、第1の蛍光体と第2の蛍光体との比率も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。従って、第2の蛍光体の使用量、並びに、第2の蛍光体として用いる蛍光体の組み合わせ及びその比率等は、発光装置の用途等に応じて任意に設定すればよい。
【0297】
本発明の発光装置において、以上説明した第2の蛍光体(橙色ないし赤色蛍光体、青色蛍光体、黄色蛍光体等)の使用の有無及びその種類は、発光装置の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、本発明の発光装置を緑色発光の発光装置として構成する場合には、第1の蛍光体(緑色蛍光体)のみを使用すればよく、第2の蛍光体の使用は通常は不要である。
【0298】
一方、本発明の発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合には、所望の白色光が得られるように、第1の発光体と、第1の蛍光体(緑色蛍光体)と、第2の蛍光体とを適切に組み合わせればよい。具体的に、本発明の発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合における、第1の発光体と、第1の蛍光体と、第2の蛍光体との好ましい組み合わせの例としては、以下の(i)〜(iii)の組み合わせが挙げられる。
【0299】
(i)第1の発光体として青色発光体(青色LED等)を使用し、第1の蛍光体として緑色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として赤色蛍光体を使用する。この場合、赤色蛍光体としては、(Sr,Ca)AlSiN3:Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の赤色蛍光体が好ましい。
【0300】
(ii)第1の発光体として近紫外発光体(近紫外LED等)を使用し、第1の蛍光体として緑色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として青色蛍光体及び赤色蛍光体を併用する。この場合、青色蛍光体としては、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu及び(Mg,Ca,Sr,Ba)5(PO43(Cl,F):Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の青色蛍光体が好ましい。また、赤色蛍光体としては、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu及びLa22S:Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の赤色蛍光体が好ましい。中でも、近紫外LEDと、本発明の蛍光体と、青色蛍光体としてBaMgAl1017:Euと、赤色蛍光体として(Sr,Ca)AlSiN3:Euとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0301】
(iii)第1の発光体として青色発光体(青色LED等)を使用し、第1の蛍光体として緑色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として橙色蛍光体を使用する。この場合、橙色蛍光体としては、580nm以上620nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものが好ましく、中でも(Sr,Ba)3SiO5:Euが好ましい。
【0302】
上記の(i)の場合における蛍光体の組み合わせについて、好ましい具体例を表3に挙げる。
【表3】

【0303】
上記組み合わせにおいて、下記表4に示すように、さらに緑色蛍光体として(Ba,Sr)2SiO4:EuやSr2GaS4:Euを使用することにより、特に、色調と発光強度のバランスに優れた液晶バックライト光源用発光装置を得ることができる。
【表4】

【0304】
また、本発明の蛍光体は、他の蛍光体と混合(ここで、混合とは、必ずしも蛍光体同士が混ざり合っている必要はなく、異種の蛍光体が組み合わされていることを意味する。)して用いることができる。特に、上記に記載の組み合わせで蛍光体を混合すると、好ましい蛍光体混合物が得られる。なお、混合する蛍光体の種類やその割合に特に制限はない。
【0305】
(封止材料)
本発明の発光装置において、上記第1及び/又は第2の蛍光体は、通常、封止材料である液体媒体に分散させて用いられる。該液体媒体としては、前述の[2.蛍光体含有組成物]の項で記載したのと同様のものが挙げられる。
【0306】
また、該液体媒体は、封止部材の屈折率を調整するために、高い屈折率を有する金属酸化物となり得る金属元素を含有させることができる。高い屈折率を有する金属酸化物を与える金属元素の例としては、Si、Al、Zr、Ti、Y、Nb、B等が挙げられる。これらの金属元素は1種のみで使用されてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で併用されてもよい。
【0307】
このような金属元素の存在形態は、封止部材の透明度を損なわなければ特に限定されず、例えば、メタロキサン結合として均一なガラス層を形成していてもよく、封止部材中に粒子状で存在していてもよい。粒子状で存在している場合、その粒子内部の構造はアモルファス状であっても結晶構造であってもよいが、高屈折率を与えるためには結晶構造であることが好ましい。また、その粒子径は、封止部材の透明度を損なわないために、通常は、半導体発光素子の発光波長以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。例えばシリコーン系材料に、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化ニオブ等の粒子を混合することにより、上記の金属元素を封止部材中に粒子状で存在させることができる。
また、上記液体媒体としては、更に、拡散剤、フィラー、粘度調整剤、紫外線吸収剤等公知の添加剤を含有していてもよい。なお、これらの添加剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0308】
[3−2.発光装置の構成(その他)]
本発明の発光装置は、上述の第1の発光体及び第2の発光体を備えていれば、そのほかの構成は特に制限されないが、通常は、適当なフレーム上に上述の第1の発光体及び第2の発光体を配置してなる。この際、第1の発光体の発光によって第2の発光体が励起されて(即ち、第1及び第2の蛍光体が励起されて)発光を生じ、且つ、この第1の発光体の発光及び/又は第2の発光体の発光が、外部に取り出されるように配置されることになる。この場合、第1の蛍光体と第2の蛍光体とは必ずしも同一の層中に混合されなくてもよく、例えば、第1の蛍光体を含有する層の上に第2の蛍光体を含有する層が積層する等、蛍光体の発色毎に別々の層に蛍光体を含有するようにしてもよい。
【0309】
また、本発明の発光装置では、上述の励起光源(第1の発光体)、蛍光体(第2の発光体)及びフレーム以外の部材を用いてもよい。その例としては、前述の封止材料が挙げられる。該封止材料は、発光装置において、蛍光体(第2の発光体)を分散させる目的以外にも、励起光源(第1の発光体)、蛍光体(第2の発光体)及びフレーム間を接着する目的で用いたりすることができる。
【0310】
[3−3.発光装置の実施形態]
以下、本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0311】
本発明の発光装置の一例における、励起光源となる第1の発光体と、蛍光体を有する蛍光体含有部として構成された第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を図1に示す。図1中の符号1は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号2は励起光源(第1の発光体)としての面発光型GaN系LD、符号3は基板を表わす。相互に接触した状態をつくるために、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とそれぞれ別個に作製し、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させてもよいし、LD(2)の発光面上に蛍光体含有部(第2の発光体)を製膜(成型)させてもよい。これらの結果、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とを接触した状態とすることができる。
【0312】
このような装置構成をとった場合には、励起光源(第1の発光体)からの光が蛍光体含有部(第2の発光体)の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
【0313】
図2(a)は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。該発光装置(4)において、符号5はマウントリード、符号6はインナーリード、符号7は励起光源(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有樹脂部、符号9は導電性ワイヤ、符号10はモールド部材をそれぞれ指す。
【0314】
また、図2(b)は、表面実装型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。図中、符号22は励起光源(第1の発光体)、符号23は蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部、符号24はフレーム、符号25は導電性ワイヤ、符号26及び符号27は電極をそれぞれ指す。
【0315】
[3−4.発光装置の用途]
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、演色性が高いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【0316】
[3−4−1.照明装置]
本発明の発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、図3に示されるような、前述の発光装置(4)を組み込んだ面発光照明装置(11)を挙げることができる。
【0317】
図3は、本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。この図3に示すように、該面発光照明装置は、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース(12)の底面に、多数の発光装置(13)(前述の発光装置(4)に相当)を、その外側に発光装置(13)の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)を設けて配置し、保持ケース(12)の蓋部に相当する箇所に、乳白色としたアクリル板等の拡散板(14)を発光の均一化のために固定してなる。
【0318】
そして、面発光照明装置(11)を駆動して、発光装置(13)の励起光源(第1の発光体)に電圧を印加することにより光を発光させ、その発光の一部を、蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部における前記蛍光体が吸収し、可視光を発光し、一方、蛍光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、この光が拡散板(14)を透過して、図面上方に出射され、保持ケース(12)の拡散板(14)面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0319】
[3−4−2.画像表示装置]
本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0320】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0321】
<評価方法>
[発光スペクトルの測定方法]
発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)用いて測定した。励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長455nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得た。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行なった。
【0322】
得られた発光スペクトルから、発光ピーク波長、相対発光ピーク強度、及び発光ピーク半値幅を求めた。相対発光ピーク強度は、BaMgAl1017:Eu(化成オプトニクス社製、製品番号LP−B4)を波長365nmの光で励起したときの発光ピークの強度を100として表した。
【0323】
[相対輝度の測定方法]
JIS Z8701で規定される刺激値Yは輝度に比例するので、刺激値Yの相対値を相対輝度とした。なお、Y3Al512:Ce(化成オプトニクス社製P46−Y3)を455nmで励起したときの輝度を100として表わした。
【0324】
[色度座標]
発光スペクトルの480nm以上800nm以下の波長領域のデータから、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標xとyを算出した。
【0325】
[重量メジアン径]
重量メジアン径D50は、堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−300を用いて、分散媒として水を使用して測定した。
【0326】
[物体色]
***表色系に基づく物体色は、色彩色度計(ミノルタ社製、CR−300)を使用して、標準光をD65として測定した。
【0327】
<蛍光体の製造>
[実施例1〜4]
蛍光体原料として、炭酸バリウム(BaCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、酸化ユウロピウム(Eu23)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化テルビウム(Tb47)の各粉末を用いた。これらの蛍光体原料は何れも、純度が99.9%以上で、重量メジアン径D50が10nm以上、5μm以下の範囲内のものを用いた。
【0328】
これらの蛍光体原料を、各元素の比率が下記表5の実施例1〜4の欄に示すモル比となるように秤取した。さらに、蛍光体原料として酸化テルビウムを、蛍光体1モル(即ち、蛍光体中のケイ素(Si)1モル)に対するTbのモル比が下記表5の「Tb含有量」の欄に示すモル比となるように秤量して使用した。例えば、実施例1では、蛍光体1モルに対してTbが0.002モルとなるように、即ち、蛍光体に対するTbのモル比が0.2モル%となるように、酸化テルビウムを秤量した。なお、蛍光体のモル数は、上記式[1]で表わされる組成を1分子と見做して算出された分子量に基づいて求めた。なお、表5において「α」の欄の数値は、各実施例の蛍光体の組成を前記式[1]に当てはめた場合のαの値を表わし、「2価の元素(アルカリ土類金属元素とEu)の合計モル数に対するEuの比」の欄の数値はMI、MII及びMIIIの合計に対するMIIの含有量(モル%)を表わす。
【0329】
これらの蛍光体原料の粉末を、エタノールとともに自動乳鉢にて十分均一となるまで混合し、乾燥後150メッシュの篩を通して、アルミナ製ルツボに充填して、大気圧下、窒素雰囲気中で昇温速度5℃/分で1100℃まで昇温し、1100℃で12時間加熱した。次いで、ルツボの内容物を取り出し、フラックスとしてSrCl2を加えて乾式ボールミルで混合粉砕した。得られた混合粉砕物を再度、アルミナ製ルツボに充填し、その上に固形カーボンを載せて蓋をした。真空炉中で真空ポンプにて2Paまで減圧した後、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。この操作を再度繰り返した後、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を流通させながら、大気圧下で昇温速度4.5℃/分で1200℃まで昇温し、1200℃で6時間加熱することにより、焼成を行なった。得られた焼成物をボールミルで解砕した後、スラリー状態のまま篩を通して粗い粒子を除去した後、水洗し、水簸分級により微粒子を流去し、乾燥後、凝集した粒子を解すために篩仕上げすることにより、蛍光体を製造した。これらを以下、実施例1〜4の蛍光体と呼ぶ。
【0330】
[比較例1]
蛍光体原料として酸化テルビウム(Tb47)を用いなかったこと以外は、実施例1〜4と同様の条件で蛍光体を製造した。これを以下、比較例1の蛍光体と呼ぶ。
【0331】
【表5】

【0332】
[評価]
実施例1〜4、及び比較例1の蛍光体について、発光ピーク波長、相対発光ピーク強度、発光ピークの半値幅、相対輝度、色度座標、L***表色系に基づく物体色、及び重量メジアン径D50を測定した。その結果を表6に示す。また、実施例2及び比較例1の蛍光体について測定した発光スペクトルを図4に示す。
【0333】
【表6】

【0334】
表6の結果から、Tbを含有する実施例1〜4の蛍光体は、Tbを含有しない比較例1の蛍光体と比較して、同程度以上の発光特性を有していることが分かる。特に、蛍光体に対するTbのモル比が0.2モル%〜0.5モル%の場合(即ち、前記式[1]におけるyの値が0.001〜0.0025である場合)に相対発光ピーク強度の向上効果が得られることがわかる。
【0335】
続いて、実施例1〜4、及び比較例1の蛍光体について、以下の方法により輝度維持率の評価を行なった。
【0336】
発光スペクトル測定装置として、大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ、及び、光源として、150Wキセノンランプと分光器を備えた装置を使用した。
【0337】
ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃から180℃の範囲で変化させた。蛍光体サンプルの表面温度が所定の温度で一定となったことを確認した。次いで、光源からの発光を回折格子で分光して波長455nmの光を取り出し、この波長455nmで蛍光体サンプルを励起して発光スペクトルを測定した。測定された発光スペクトルから輝度を求めた。なお、蛍光体サンプルの表面温度の測定値としては、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いた。
【0338】
以上の手順により得られた、25℃における輝度に対する100℃における輝度の相対値を、輝度維持率として求めた。
具体的には、25℃において、ピーク波長455nmの光で励起して得られる輝度をI455(25)とし、100℃において、ピーク波長455nmの光で励起して得られる輝度をI455(100)としたとき、{I455(100)/I455(25)}の値を、輝度維持率として求めた。
【0339】
実施例1〜4、及び比較例1の蛍光体について得られた輝度維持率の結果を下記の表7に示す。
【表7】

【0340】
表7の結果から明らかなように、Tbを0.2モル%〜1モル%含有する(即ち、前記式[1]におけるyの値が0.001〜0.005である)実施例1〜3の蛍光体は、Tbを含有しない比較例1の蛍光体と比べて、明らかな輝度維持率の向上が認められた。一方、実施例4の蛍光体のように、Tbの濃度を更に増加させると、輝度維持率の向上が認められない傾向にある。従って、本発明の蛍光体において、特定の範囲の量のTbを含有する場合、後述する耐久性に加え、温度特性にも優れた蛍光体となることがわかる。
【0341】
以上の結果は、Euイオンと別のイオン(ここではTbイオン)とが共存することで、Eu発光の非輻射緩和量が低減し、温度特性向上効果が得られたためと考えられる。
なお、本発明者等の検討では、他の希土類イオンや、周期表第IB族の金属イオンにも、同様の効果が見られることが推測される。
【0342】
<発光装置の作製>
実施例1〜4、及び比較例1の蛍光体をそれぞれ用いて、図2(b)に示す発光装置と同様の構成の発光装置を、以下の手順により作製した。
第1の発光体(22)としては、波長450nm〜470nmで発光する青色発光ダイオード(青色LED)であるCree社製のC460EZ290(発光強度0.85lm)を用いた。この青色LED(22)を、表面がポリフタルアミドにより形成された深さ0.85mm径2.4mmの凹部を有するフレーム(24)の凹部の底の端子に、接着剤として銀ペーストを用いてダイボンディングした。この際、青色LED(22)で発生する熱の放熱性を考慮して、接着剤である銀ペーストは薄く均一に塗布した。150℃で2時間加熱し、銀ペーストを硬化させた後、青色LED(22)とフレーム(24)の電極(26)とをワイヤボンディングした。ワイヤ(25)としては、直径25μmの金線を用いた。
【0343】
蛍光体含有樹脂部(23)の発光物質としては、実施例1〜4、及び比較例1の蛍光体をそれぞれ、蛍光体の重量に対し、6:100の重量比となるようにシリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製、SCR−1011、2液タイプ)を加えて蛍光体スラリー(蛍光体含有組成物)を作製した。具体的には、シリコーン樹脂1.415gと蛍光体0.0849gとを混合した。得られた蛍光体スラリーを、上述のフレーム(24)の凹部に注入し100℃で3時間、続いて140℃で3時間加熱することにより硬化させ、蛍光体含有樹脂部(23)を形成した。ここで得られた発光装置をそれぞれ実施例1〜4、比較例1の発光装置と呼ぶ。
【0344】
実施例1〜4、及び比較例1の発光装置を、それぞれ、その青色LED(22)に20mAの電流を通電して駆動し、発光させたところ、いずれも青緑色光が得られた。また、発光装置から発せられた光を、ファイバマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社製USB2000)により測定した。このとき得られた実施例2の蛍光体を用いた発光装置の発光スペクトルを図5に示す。
【0345】
続いて、実施例1〜4、及び比較例1の発光装置を用いて耐久性試験を以下の方法で行なった。
【0346】
発光装置の点灯開始直後(即ち、0時間)に、ファイバマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社製USB2000)を用いて、発光スペクトル及び色度座標を測定した。次いで、エージング装置、LED AGING SYSTEM100ch LED環境試験装置(山勝電子工業(株)製、YEL−51005)を用いて、85℃、相対湿度85%の条件下、発光装置を駆動電流20mAで連続して1000時間点灯させた後(即ち、1000時間)、ファイバマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社製USB2000)を用いて再度、発光スペクトル及び色度座標のx値及びy値を測定した。
【0347】
測定した各々の発光スペクトルにおいて、青色ピーク(LEDに由来する。)の発光強度に対する、緑色ピーク(蛍光体に由来する。)の発光強度、即ち、「緑色ピークの発光強度/青色ピークの発光強度」を算出し、点灯開始後0時間の「緑/青ピーク強度比」の値を100%とした時の、点灯開始後1000時間の「緑/青ピーク強度比」の値を求め、この値を耐久性試験結果(%)とした。
【0348】
実施例1〜4、及び比較例1の発光装置について得られた耐久性試験結果(%)と、点灯開始後0時間における色度座標のx値と点灯開始後1000時間における色度座標のx値との差Δxと、点灯開始後0時間における色度座標のy値と点灯開始後1000時間における色度座標のy値の差Δyと、変化量とを、下記の表8に記載した。なお、表8中、「変化量」とは、下記式[A]で求められる値であり、色度座標上の変化量(移動量)を示す。
変化量 = {(Δx)2+(Δy)20.5 式[A]
【0349】
【表8】

【0350】
上記の表8の結果から、Tbを含有する実施例1〜4の蛍光体を用いた発光装置の方が、Tbを含有しない比較例1の蛍光体を用いた発光装置と比べて、耐久性に優れていることが分かる。いずれの実施例においても耐久性向上効果が認められた。
また、比較例1の色度座標を見ると、ΔxよりもΔyの値が大きく、色度座標におけるy軸方向の色ずれが大きいことがわかる。一方、実施例1〜4の発光装置は、Δyの値が、比較例1と比較して小さい。従って、本発明の実施例の蛍光体では、特に、色度座標におけるy軸方向の色ずれを抑制する効果があることが分かる。
【0351】
なお、Δxについても、比較例1よりも実施例1〜4の方が小さいことから、色度座標におけるx軸方向の色ずれを抑制する効果も認められる。また、前記式[A]で求められる変化量も実施例1〜4の方が小さいことから、全体的に見ても、実施例の発光装置には長時間点灯しても色ずれが小さいという特徴があることがわかる。
【0352】
以上の実施例1〜4、及び比較例1の結果を総合して考えると、上記式[1]で表わされる組成を有する蛍光体にTbを添加しても、Tbを添加しない場合と同等もしくはより優れた発光特性を有する蛍光体が得られ、この蛍光体を発光装置に用いると、色ずれが少なく、温度特性及び耐久性に優れた発光装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0353】
本発明の蛍光体は産業上の任意の分野で使用することができ、例えば、発光装置に用いることができる。中でも、本発明の蛍光体は、白色発光装置に用いて好適である。
また、本発明の蛍光体、蛍光体含有組成物及び発光装置の用途は広く、照明、ディスプレイの分野に使用できる。中でも一般照明用LEDで特に高出力ランプ、とりわけ高輝度で色再現範囲の広いバックライト用白色LEDを実現する目的に適している。
【図面の簡単な説明】
【0354】
【図1】本発明の発光装置の一例における、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)との位置関係を示す模式的斜視図である。
【図2】図2(a)及び図2(b)は何れも、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施例2及び比較例1の蛍光体について測定した発光スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の実施例2の蛍光体の発光スペクトルを表わす図である。
【符号の説明】
【0355】
1:第2の発光体
2:面発光型GaN系LD(第1の発光体)
3:基板
4:発光装置
5:マウントリード
6:インナーリード
7:第1の発光体
8:蛍光体含有樹脂部
9:導電性ワイヤ
10:モールド部材
11:面発光照明装置
12:保持ケース
13:発光装置
14:拡散板
22:第1の発光体
23:蛍光体含有樹脂部(第2の発光体)
24:フレーム
25:導電性ワイヤ
26,27:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で表わされる化学組成を有する
ことを特徴とする蛍光体。
(MI(1-x-y)IIxIIIyαSiOβ [1]
(前記式[1]中、
Iは、Ba、Ca、Sr、Zn及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を表わし、
IIは、2価及び3価の原子価を取り得る1種以上の金属元素を表わし、
IIIは、Tb、Pr、Ce、Lu、La、及びGdからなる群より選ばれる1種以上の元素を表わし、
x、y、α及びβは、各々、
0.01<x<0.3、
0.0001≦y≦0.025、
1.5≦α≦2.5、及び、
3.5≦β≦4.5
を満たす数を表わす。)
【請求項2】
物体色をL***表色系で表わした場合に、L*、a*、及びb*が、それぞれ
*≧90、
*≦−20、及び
*≧30
を満たす
ことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
表面がポリフタルアミドにより形成された深さ0.85mm径2.4mmの凹部を有する容器の前記凹部の底に、発光ピーク波長460nm、発光強度0.85lmの発光ダイオードを設置し、該蛍光体とシリコーン樹脂とからなる組成物であって、その重量比が該蛍光体:シリコーン樹脂=6:100である組成物で前記凹部を封止してなる試験用発光装置について、周囲温度85℃、相対湿度85%の条件下、駆動電流20mAで連続して1000時間点灯させた場合に、
点灯開始後1000時間の時点における「緑色ピークの発光強度/青色ピークの発光強度」の強度比が、点灯開始後0時間の時点での前記強度比に対して85%以上である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記試験用発光装置について、周囲温度85℃、相対湿度85%の条件下、駆動電流20mAで連続して1000時間点灯させた場合に、
下記式[2]で表される変化量が0.042以下である
ことを特徴とする請求項3に記載の蛍光体。
変化量 = {(Δx)2+(Δy)20.5 [2]
(前記式[2]において、
Δxは、点灯開始後0時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のx値と、点灯開始後1000時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のx値との差を表わし、
Δyは、点灯開始後0時間の時点において前記試験用発光装置から得られる発光の色度座標のy値と、点灯開始後1000時間の時点において前記試験用発光装置から得られる色度座標のy値との差を表わす。)
【請求項5】
ピーク波長400nm又は455nmの光で励起した場合の発光色のCIE色度座標のx値及びy値が、それぞれ
0.210≦x≦0.330、及び、
0.480≦y≦0.670
を満たす
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記式[1]において、MIIIが少なくともTbを含有する
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記式[1]において、MIが少なくともBaを含有するとともに、
I全体に対するBaのモル比が0.5以上、1未満である
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の蛍光体。
【請求項8】
前記式[1]において、MIが少なくともBa及びSrを含有するとともに、
I全体に対するBa及びSrのモル比をそれぞれ[Ba]及び[Sr]とした場合に、[Ba]及び[Sr]が、
0.5<{[Ba]/([Ba]+[Sr])}≦1
を満たす
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の蛍光体。
【請求項9】
重量メジアン径が10μm以上、30μm以下である
ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載の蛍光体。
【請求項10】
前記式[1]に記載された元素以外に、更に、1価の元素、2価の元素、3価の元素、−1価の元素、及び−3価の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、これらの元素の含有量の合計が1ppm以上である
ことを特徴とする、請求項1〜9の何れか一項に記載の蛍光体。
【請求項11】
前記式[1]に記載された元素以外に、更に、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、リン(P)、ホウ素(B)、窒素(N)、希土類元素及びハロゲン元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、これらの元素の含有量の合計が1ppm以上である
ことを特徴とする、請求項10記載の蛍光体。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載の蛍光体と、液状媒体とを含有する
ことを特徴とする、蛍光体含有組成物。
【請求項13】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、
該第2の発光体が、請求項1〜11の何れか一項に記載の蛍光体を少なくとも1種以上、第1の蛍光体として含有する
ことを特徴とする、発光装置。
【請求項14】
前記第2の発光体が、前記第1の蛍光体とは発光ピーク波長の異なる少なくとも1種以上の蛍光体を、第2の蛍光体として含有する
ことを特徴とする、請求項13記載の発光装置。
【請求項15】
前記第1の発光体が、420nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、
前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、570nm以上780nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも一種の蛍光体を含有する
ことを特徴とする、請求項14記載の発光装置。
【請求項16】
前記第1の発光体が、300nm以上420nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、
前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、420nm以上490nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも一種の蛍光体と、570nm以上780nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも一種の蛍光体とを含有する
ことを特徴とする、請求項14記載の発光装置。
【請求項17】
前記第1の発光体が、420nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、
前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、580nm以上620nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体を含有する
ことを特徴とする、請求項14記載の発光装置。
【請求項18】
請求項13〜17の何れか一項に記載の発光装置を光源として備える
ことを特徴とする、画像表示装置。
【請求項19】
請求項13〜17の何れか一項に記載の発光装置を光源として備える
ことを特徴とする、照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−40918(P2009−40918A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208457(P2007−208457)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】