説明

蛍光体微粒子の製造方法、蛍光体微粒子及びエレクトロルミネッセンス表示装置

【課題】製造工程を簡略化し、かつ高い輝度を有する蛍光体微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】蛍光体微粒子を製造する方法であって、上記製造方法は、蛍光体の母体となる硫化亜鉛等の母体材料の粉末と蛍光体の発光中心となる元素を含む硫化銅等の付活剤の粉末とに熱プラズマ中を通過させることで、母体材料及び付活剤を含有する混合気体にし、該混合気体を冷却させることで、該混合気体中の原子を凝集させる工程を含む蛍光体微粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体微粒子の製造方法、蛍光体微粒子及びエレクトロルミネッセンス表示装置に関する。より詳しくは、無機エレクトロルミネッセンス素子に好適な蛍光体微粒子の製造方法、蛍光体微粒子及び上記蛍光体微粒子を備えるエレクトロルミネッセンス表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化に伴いフラットパネルディスプレイのニーズが高まっており、次世代のフラットパネルディスプレイの候補としてエレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)素子を用いた表示装置が大きな注目を集めている。EL素子には、発光層等に有機材料を用いた有機EL素子と、硫化亜鉛(ZnS)等の無機材料を蛍光体の母体材料として用いた無機EL素子とに大別される。有機EL素子については、自己発光型で極薄の表示装置を製造することができることから盛んに研究開発が行われている。
【0003】
無機EL素子は水分、温度等の外的要因に対して強く、携帯電話の表示素子に用いるバックライト等に利用されてきた。この無機EL素子は、例えば、誘電物質中に分散型の蛍光体の粒子を分散し、この分散した蛍光体の両側に配置した電極間に電圧を印加することで発光させているものである。
【0004】
無機EL素子に使用する蛍光体としては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)を母体とし、付活剤として銅(Cu)、マンガン(Mn)等を導入した一般式がZnS:Cu、ZnS:Mn等が広く利用されている。蛍光体の発光色はZnS中の添加物の種類によって決まり、例えば、Cuを添加した場合には青緑色、Mnを添加した場合には黄橙色の発光が得られる。このような蛍光体微粒子を製造する方法としては、母体材料の粉末と付活剤の材料粉末とを混合して石英等の坩堝に充填し、焼成を行うことによりを製造する固相法が一般的に用いられている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0005】
ところで、固相法を用いて硫化亜鉛を母体材料とした蛍光体を製造する方法としては、硫化亜鉛に銅化合物とハロゲン化合物とを添加した混合物を、比較的高温で長時間の第1回目の焼成により六方晶形の結晶からなる粉末状の中間蛍光体を製造する工程と、中間蛍光体に衝撃力を加えて歪を発生させ、結晶に欠陥を生じさせる工程と、結晶欠陥の生じた中間蛍光体を比較的低温で短時間の第2回目の焼成により立方晶形の結晶を混在させる工程とを含む製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、活性化された硫化亜鉛ZnS:Cu、Cl、発光体にMn存在下に加熱反応させヒ化ガリウムGaAsを有する発光体を製造する方法において、攪拌混合した生成物を坩堝にいれ、石英管中硫黄ガス約10%の窒素気流中約650℃の温度で約3時間坩堝を焼成して六方晶系形への転移を誘発させる方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0006】
また、微粒子を製造する方法としては固相法の他に、気相法の一つである熱プラズマ法を用いる方法も開示されている(例えば、特許文献5参照。)。特許文献5では、粉末原材料を溶媒中にいれてスラリーにし、スラリーを液滴化させ、液滴化させたスラリーを熱プラズマ中に導入してスラリーを蒸発させ気相状態の混合物にし、スラリーを蒸発させた気相状態の混合物を急冷することにより微粒子を生成している。
【特許文献1】特開2002−155275号公報
【特許文献2】特開2004−244479号公報
【特許文献3】特開平5−152073号公報
【特許文献4】特開2005−336275号公報
【特許文献5】特開2005−170760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2では固相法を用いて蛍光体を生成していることから、添加された付活剤を蛍光体微粒子内で均一に分布させて生成するには、長時間の焼成が必要であり生産性の観点から改善の余地があった。また、固相法を用いた蛍光体微粒子の製造では、蛍光体の粒径を小さくすることが困難であり、蛍光体微粒子を用いた表示装置等の発光効率の向上を妨げる要因の一つとなっていた。
【0008】
また、特許文献3及び4では、蛍光体の母体材料として立方晶の硫化亜鉛を母体材料とした蛍光体の生成を試みているが、固相法を用いて2回の焼成工程が必要であることから生産性の観点から改善の余地があった。
【0009】
更に、特許文献5では、微粒子を製造する方法において、原料粉末をスラリーとして熱プラズマ装置内に投入することとなるため、製造工程数が増加する点で改善の余地があった。また、スラリーとして投入した場合、原料粉末を分散させた分散液が熱プラズマ装置内に残留し、微粒子内に不純物が混入するおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、製造工程を簡略化し、かつ高い輝度を有する蛍光体微粒子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、製造工程を簡略化し、かつ高い輝度の蛍光体微粒子の製造方法について種々検討したところ、従来の蛍光体は固相法を用いて形成していることに着目した。そして、上記製造方法が、蛍光体の母体となる母体材料の粉末と蛍光体の発光中心となる元素を含む付活剤の粉末とに熱プラズマ中を通過させることで、熱プラズマにより母体材料及び付活剤を含有する混合気体にし、その後、該混合気体が熱プラズマ中から出ることによって冷却されるため、混合気体中の分子が凝集して蛍光体微粒子を製造することができ、これにより、ナノサイズであり高輝度の蛍光体微粒子を得ることができることを見いだした。また、母体材料として硫化亜鉛を用いる場合には、冷却する温度を制御することによって、より高い輝度の蛍光体微粒子とすることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、蛍光体微粒子を製造する方法であって、上記製造方法は、蛍光体の母体となる母体材料の粉末と蛍光体の発光中心となる元素を含む付活剤の粉末とに熱プラズマ中を通過させる工程を含む蛍光体微粒子の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明は、蛍光体微粒子を製造するものである。蛍光体とは、電子線、X線、紫外線、電界等のエネルギーを吸収して、吸収したエネルギーの一部を光として放出(発光)する物質のことであり、一般的には、母体材料中の一部の元素を発光中心となる元素(付活剤の構成元素)で置換し、母体材料によって吸収されたエネルギーによって付活剤を構成する元素で発光を生じるようにしたものであり、上記蛍光体微粒子は、蛍光体を含む微粒子のことである。微粒子は、粒状の微小なものを指し、一般的には、直径数nmから100μm程度の粒子をいう。
【0014】
上記蛍光体微粒子の製造方法は、蛍光体の母体となる母体材料の粉末と蛍光体の発光中心となる元素を含む付活剤の粉末とに熱プラズマ中を通過させる工程を含む。これによれば、蛍光体の母体となる母体材料の粉末と蛍光体の発光中心となる元素を含む付活剤の粉末とが熱プラズマ中に導入されることで、母体材料及び付活剤を含有する混合気体にすることができ、該混合気体が熱プラズマ中から出るときに冷却される。そのため、混合気体は熱プラズマ中からその外部に出ることで急冷されることとなり、混合気体中の原子が凝集して蛍光体微粒子は製造される。熱プラズマ中で原子レベルまで分解された原子を凝集させて製造することで、例えば、固相法等を用いた場合と比較して蛍光体微粒子の粒径を小さくすることができ、ナノサイズのものとすることができる。ナノサイズの蛍光体微粒子とすることで、発光素子等に用いた場合の高輝度化を図ることができる。蛍光体微粒子を表示装置等に用いる発光素子に使用した場合、その粒径が小さい蛍光体微粒子である方が、粒径の大きな蛍光体微粒子を同体積で用いた場合と比較して、発光に用いられる表面積を大きくすることができるため、その発光素子の輝度を向上させることができる。また、ナノサイズの蛍光体微粒子にすることで蛍光体微粒子の表面が活性化されて発光効率を高めることができる。例えば、従来の分散型EL素子(例えば、シートタイプの印刷EL素子)では、粒子径が20〜30μm程度の蛍光体微粒子を用いており、発光に寄与する発光中心となる付活剤であるCu、Cl等の添加エリア(Cu、Cl等の付活剤が偏析したエリア)が1〜数箇所であるが、本発明のように、蛍光体微粒子の粒径をより小さくしてナノサイズの蛍光体微粒子とすることによって、付活剤の添加エリアを10〜100倍増加させることができ、発光効率を改善することができるためである。なお、偏析したエリアは、例えば、六方晶と立方晶との双晶界面にCuが偏析することで形成される。これにより、一種のナノワイヤーが形成され、そのナノワイヤーが導電性をもつためにZnS結晶内にキャリアを伝播する経路が作られ、発光機構の面から効率があがる。なお、母体材料及び付活剤を含有する混合気体は、母体材料の粉末と付活剤の粉末とが原子レベルまで分解されて気相状態となったものを含むものであり、その混合気体中にはその他の元素が含まれていてもよい。例えば、一般的には、熱プラズマを発生させるためのプラズマガスが混合気体中には含まれる。また、蛍光体微粒子中に添加する発光中心を形成する元素以外のものが含まれていてもよく、例えば、発光効率を向上させるために蛍光体微粒子中に添加する元素、残光を抑制するために蛍光体微粒子に添加する元素等が含まれていてもよく、この場合、母体材料及び付活剤とともに、これらの添加元素の原料を熱プラズマ中に投入することとなる。
【0015】
上記蛍光体微粒子の製造方法は、粉末を直接熱プラズマ中に導入するため、原料粉末を分散液中に分散させてスラリー等にする場合と比較して製造工程の簡略化を図ることができる。また、スラリーにするときに用いた分散液等が熱プラズマ装置中に残留することがなく熱プラズマ装置内の汚染を低減することができ、製造した蛍光体微粒子中に不純物が混入することを抑制することができる。
【0016】
上記通過工程では、母体材料及び付活剤を含有する混合気体が熱プラズマ中からその外部に出ることで急冷されるが、予め熱プラズマ周囲の温度を制御することによって、母体材料及び発光中心材料を急冷させる温度を制御することが好ましい。熱プラズマ周囲の温度は、例えば、プラズマ室(プラズマを発生させるチャンバ)の前後にヒーターを取り付ける、熱プラズマ装置の周囲に水又は液体窒素を循環させることで冷却させるクライオ構造を設ける等のことによって制御することができる。例えば、母体材料が相転移点を有する物質である場合、母体材料及び発光中心材料を相転移点より低い又は高い温度まで急冷するように温度を制御することによって、製造された蛍光体微粒子の構造を制御することができる。
【0017】
上記熱プラズマを用いた蛍光体微粒子の製造方法は、クリーンで生産性が高く、高融点材料にも対応可能であり、他の気相法に比べて他の機構との複合化が容易であるといった利点を有する。例えば、化学蒸着法等の場合には、有機金属ガスや反応性の高いガスを利用するが、熱プラズマ法の場合には、プラズマ放電を用いた物理反応であるため、化学反応を用いる場合よりも装置内の汚染、装置を構成する部材の劣化を低減することができ、他の機構と複合化したときの影響が小さいと考えられる。また、上記蛍光体微粒子は、熱プラズマを用いて製造されることによって、例えば、固相法によって蛍光体微粒子を合成する場合と比較して、粒径を小さくすることができるため蛍光体微粒子の製造方法として好適である。
【0018】
上記熱プラズマとは、熱平衡状態にあるプラズマのことであり、通常はイオン、電子、中性原子等の温度がほぼ等しく、それらの温度が0.5〜2.0eVのプラズマのことをいう。熱プラズマを用いることによって、被熱物体を容易に高温に加熱することが可能である。また、熱プラズマ中では反応速度が大きく向上し、活性化エネルギーの高い反応でも容易に進行させることが可能となる。プラズマエネルギーは、例えば、プラズマ放電の電圧を調整することで制御することができる。また、RF(Radio Frequency)電源で放電を行う場合は周波数を調整することで制御することができる。
【0019】
上記母体材料としては、BaMgAl1017(BAM)等の酸化物、GaN、AlN等の窒化物、ZnS、ZnSe、MgS、BaAl、並びに、BaSiS等の3元素化合物等の硫化物等が挙げられる。発光中心となる付活剤としては、Cu、Mn、Ag、Ir等の遷移金属元素、Ce、Eu、Tb等の希土類金属元素等が挙げられる。熱プラズマを用いた製造方法では、母体材料と付活剤の材料とが気相状態まで分解されるため、発光中心を形成する元素が母体材料中へ均一に添加された蛍光体微粒子を生成することができる。この観点からも、蛍光体微粒子の製造方法として熱プラズマを用いた製造方法を用いることは特に有効である。母体材料及び付活剤を気相状態にする観点からは、熱プラズマの中心温度が母体材料及び付活剤の沸点又は昇華点よりも高いことが好ましい。これにより、蛍光体微粒子の材料粉末を気相状態にすることができるため、蛍光体微粒子の粒径の縮小及び輝度の向上を図ることができる。また、蛍光体微粒子は、母体材料及び付活剤の他の元素を含んでいてもよく特に限定されない。例えば、発光効率を高めるための元素を含んでいてもよいし、残光等を抑制するための元素を含んでいてもよい。
【0020】
本発明の蛍光体微粒子の製造方法は、蛍光体の母体となる母体材料の粉末と蛍光体の発光中心となる付活剤の粉末とに熱プラズマ中を通過させる工程を含むものである限り、その他の構成要素を含んでいてもいなくてもよく、特に限定されるものではない。
本発明の蛍光体微粒子の製造方法における好ましい形態について以下に詳しく説明する。
【0021】
上記母体材料は、硫化亜鉛であり、上記通過工程は、硫化亜鉛の粉末と付活剤の粉末とに中心温度が1000℃以上の熱プラズマ中を通過させることで、硫化亜鉛及び付活剤を含有する混合気体にするものであることが好ましい。大気圧における硫化亜鉛の昇華温度は1180℃であるが、熱プラズマ装置の圧力は大気圧よりも低く、昇華温度も低い温度となるため、中心温度が1000℃以上の熱プラズマであれば、硫化亜鉛の粉末及び付活剤の粉末を原子レベル又はクラスターサイズまで分解し、気相状態にすることができる。クラスターとは、原子及び分子が、数個〜数十個集合した状態のものをいう。また、大気圧における硫化亜鉛の昇華点は1180℃であるため、上記通過工程は、硫化亜鉛の粉末と付活剤の粉末とに中心温度が1180℃以上の熱プラズマ中を通過させることがより好ましく、これによれば、熱プラズマ装置内の圧力が大気圧以下であれば、充分に硫化亜鉛の粉末及び付活剤の粉末を気相状態にすることができる。熱プラズマの温度が昇華温度未満である場合には、原子レベルまで分解されずに熱プラズマ中を通過してしまうおそれがある。熱プラズマの中心温度は、熱プラズマ装置の安定性の観点から10000℃以下であることが好ましい。10000℃以上である場合には、熱プラズマ装置中で発生させる熱プラズマの温度が安定しないおそれがある。また、硫化亜鉛の粉末と付活剤の粉末とを原子レベル又はクラスターサイズまで分解する観点からは、熱プラズマの中心温度は1100〜2000℃の温度範囲であることがより好ましく、硫化亜鉛の昇華温度が1180℃である観点から、熱プラズマの中心温度は1180〜2000℃であることが更に好ましい。熱プラズマの中心温度を1000℃以上にする観点からは、熱プラズマ装置のプラズマエネルギーを10kw以上、好ましくは20kw以上の出力で放電させることが好ましい。なお、硫化亜鉛の粉末と付活剤の粉末とに熱プラズマ中を通過させることで、硫化亜鉛の粉末と付活剤の粉末との温度を熱プラズマの温度にすることができる。
【0022】
上記通過工程は、硫化亜鉛及び付活剤を含有する混合気体を100〜600℃に冷却するものであることが好ましい。これによれば、製造される蛍光体微粒子を、優先的に蛍光体として適した立方晶構造の硫化亜鉛とすることができる。上記硫化亜鉛及び付活剤を含有する混合気体は、熱プラズマを出ると急冷されることとなるが、熱プラズマから出た後の5秒以内に100〜600℃の温度に冷却されることが好ましく、1秒以内に100〜600℃の温度に冷却されることがより好ましい。100〜600℃の温度まで冷却する時間が5秒を超えると六方晶の硫化亜鉛の生成が過剰に促進されるおそれがある。硫化亜鉛は、一般的に蛍光体材料として用いられている材料であり、大気圧下では1020℃に構造相転移点を有しており、1020℃以上の温度では、六方晶形の高温相が安定であり、1020℃以下の温度では、立方晶の低温相が安定である。そのため、固相法により蛍光体を製造する場合、1020℃以上の温度で焼成を行うと六方晶の結晶構造を有する硫化亜鉛になる傾向がある。また、固相法を用いて1000℃以下の温度で焼成を行うことにより付活剤を添加した硫化亜鉛微粒子を製造する場合、付活剤の粉末を構成する元素が充分に拡散されずに、発光効率が低下するおそれがある。本発明では、中心温度が1000℃以上の熱プラズマ中を通過した後、100〜600℃の構造相転移点以下の温度に急冷することによって、蛍光体に適した立方晶の硫化亜鉛を優先的に生成することができ、かつその粒径を小さくすることができる。また、急冷する温度を100℃未満にすることは難しく、冷却のための不必要なコストが発生するおそれがある。また、600℃を超えると結晶系が六方晶の蛍光体微粒子の含有割合が増加するおそれがある。なお、付活剤を添加していない常圧における硫化亜鉛の構造相転移点は1020℃であるが、本発明のように、Cu等の付活剤を添加し、更に減圧を行ったプラズマ装置内では、構造相転移点が700℃近辺に変化する場合がある。この点から、構造相転移点以下の温度である600℃に急冷することが好ましい。また、構造相転移点は、圧縮応力(主に、六方晶と立方晶の熱収縮係数の違いによって双晶界面で生じる歪み応力)によっても変化する。そのため、上記通過工程が、硫化亜鉛及び付活剤を含有する混合気体を100〜600℃に冷却させるものであることによって、高輝度を有する蛍光体微粒子とすることができる。上記付活剤としては、Cu、Mn、塩素(Cl)等を用いることができる。なお、Cuを付活剤として用いた場合に、CuとZnSとの界面に形成されるCuの化合物は、導電性が一般的に高いため、Cuを付活剤として用いることが好ましい。界面を形成するものはCuの中でもx<yである組成がヘテロ接合(Cu/ZnS)を形成するうえで好ましい。上記急冷を100〜600℃の温度範囲で行う場合にはCuを用いることが特に好ましい。また、熱プラズマ装置内の圧力は、平均自由工程距離の大きな真空雰囲気であることが好ましい。そのため、熱プラズマ装置内の圧力の範囲としては1×10−4〜1×10−2Paであることが好ましく、1×10−3Pa程度であることがより好ましい。
【0023】
上記通過工程は、硫化亜鉛及び付活剤を含有する混合気体を300〜500℃に冷却するものであることが好ましい。冷却する温度を300〜500℃とすることによって、立方晶である硫化亜鉛の割合を増加させることができ、より高い輝度の蛍光体微粒子とすることができる。
【0024】
本発明は更に、上記蛍光体微粒子の製造方法を用いて製造された蛍光体微粒子でもある。熱プラズマ装置を用いて製造することで、固相法等で製造した場合と比較して蛍光体微粒子の粒径を細かくすることができ、この蛍光体微粒子を用いたEL素子等を高い輝度のものとすることができる。高い輝度を得る観点からは、粒径が10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。また、図5は、一つの蛍光体の粒子を示す模式図であるが、蛍光体の粒子15の中に六方晶構造18と立方晶構造17との双晶が形成されている場合、双晶界面16が存在する。このように、一つの蛍光体の粒子の中に双晶界面が少なくとも1箇所存在する蛍光体微粒子であることが好ましく、双晶界面の存在数はより高密度であることが好ましい。なお、双晶界面の存在数は、蛍光体粉末の後方電子線回折像(EBSP像)を観察することで確認することができる。平均粒径については、X線回折測定の回折ピーク幅より、下記式(1)で示すシェラーの式を用いて算出することができる。下記式(1)中において、Tは結晶粒の大きさ、λはX線回折測定に用いたX線の波長、Bはピークの半値幅、θは回折角を示している。
T=0.9λ/(B・cosθ) (1)
【0025】
上記母体材料は、硫化亜鉛であり、上記蛍光体微粒子は、実質的に立方晶で構成されている蛍光体微粒子であることが好ましい。ここで、実質的に立方晶で構成されているとは、立方晶が50%以上含まれていることをいう。硫化亜鉛には、高温相である六方晶のウルツ鉱型結晶と、低温相である立方晶の塩化ナトリウム型の結晶とが存在するが、硫化亜鉛を蛍光体として用いる場合、一旦、六方晶で形成したZnSを立方晶に転移させる際に、六方晶よりも立方晶の量が相対的に多いほうが双晶界面の量が多いため、六方晶であるよりも立方晶である方が高い輝度を得ることができる。上記蛍光体微粒子は、微量に六方晶の硫化亜鉛が混在していてもよいが、少なくとも80%以上の割合で立方晶の硫化亜鉛であることが好ましく、より好ましくは90%以上が立方晶の硫化亜鉛であることが好ましい。立方晶の割合については、X線回折(XRD)測定によりα−ZnS(ウルツ鉱)回折強度比とβ−ZnS(閃亜鉛鉱)の回折強度比から求めることができる。硫化亜鉛を母体材料とした蛍光体微粒子は、発光中心として銅が添加されていることが好ましく、母体材料に対する銅の添加率が0.01mol%であることがより好ましい。上記蛍光体微粒子を備えるEL素子は、フルカラーディスプレイ、照明器具等として使用することができる。
【0026】
本発明はそして、上記製造方法で製造した蛍光体微粒子を備えるエレクトロルミネッセンス表示装置でもある。これによれば、粒径が小さく高輝度の蛍光体微粒子を備えることによって、より高輝度のEL表示装置とすることができる。EL表示装置としては、例えば、シアノ樹脂、ポリエステル樹脂等のバインダ材料に蛍光体微粒子を混合してペースト状にして印刷した発光を行う層を、両側から電極で挟み込み電圧を印加することで発光させるもの等が挙げられる。発光した光を外部に取り出すため、両側から挟み込む電極の少なくとも一方は、酸化インジウム錫(ITO)等の透明電極であることが好ましい。また、発光を制御するためのドライバ回路等を備えていることが好ましい。
【0027】
本発明はまた、上記蛍光体微粒子の製造方法で製造した蛍光体微粒子を備えるエレクトロルミネッセンス(EL)表示装置の製造方法でもある。上記製造方法で製造した蛍光体微粒子をEL表示装置に用いる蛍光体とすることで、より高輝度のEL表示装置とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の蛍光体微粒子の製造方法によれば、製造工程を簡略化することができるとともに、ナノサイズの粒径を有し、かつ高輝度の蛍光体微粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に実施例を掲げ、本発明を図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
図1は、熱プラズマ装置の構成と蛍光体微粒子の製造方法を示す概略図である。蛍光体微粒子を製造する装置としては、熱プラズマ装置(日清エンジニアリング社製)を用いた。上記熱プラズマ装置100は、冷却するためのチャンバ102に原料供給装置106が接続されており、原料供給装置106にはプラズマガス供給源101a及び101bに接続された配管110と、蛍光体微粒子の原料を外部から供給するための配管が接続されている。また、原料供給装置106の外側には、その周囲を取り巻くように高周波発振用コイル105が配置されており、これにより、原料供給装置106内部に熱プラズマ14を発生させることができる。チャンバ102内には形成された蛍光体微粒子を収集するためのフィルタ103が設けられており、そのフィルタ103を通してチャンバ102内のガスを吸引するための配管104が設けられている。また、熱プラズマ装置100のチャンバ102の周囲にヒーターを取り付けて加熱することや、水又は液体窒素を循環させる管を取り付けて水又は液体窒素を循環させることでより効率的な温度制御を行うことができる。
【0031】
図1を用いて、実施例1に係る発光中心となる銅を添加した硫化亜鉛微粒子の製造方法について説明する。まず、チャンバ102内部を真空引きし、その後、プラズマガス供給源101a及び101bから配管110を通して、Arガス又はNガスを原料供給装置106に導入する。Arガスは3cm/min.の流量で、Nガスは3cm/min.の流量で原料供給装置106に供給される。このとき、チャンバ内の圧力は1×10−3Paで設定している。そして、20kWのプラズマエネルギーで熱プラズマ14を発生させる。このとき、熱プラズマ14の中心部14aの温度は2000℃であり、熱プラズマ14の外周部14bの温度は200〜500℃である。なお、硫化亜鉛を母体材料とした蛍光体材料を製造する際にはプラズマガスとしてArガスを用いることが好ましいが、その他、窒素、アルゴン、水素等を使用することもできる。
【0032】
次に、熱プラズマ装置の原料供給装置106から、蛍光体微粒子の母体材料として粒径が1〜5μmの硫化亜鉛粉末11を50g、発光中心となる付活剤として硫化銅粉末12を0.5g投入する。投入された硫化亜鉛粉末11及び硫化銅粉末12は、熱プラズマの中心部14aを通過して原子レベルまで分解された気相状態となる。気相状態となった硫化亜鉛及び硫化銅は熱プラズマ14中で10msの滞留時間を経てチャンバ102内に引き込まれる。気相状態の硫化亜鉛及び硫化銅は、熱プラズマ14中を通過した直後に100〜200℃に急冷される。急冷されることで凝集が起こり蛍光体微粒子13は生成される。凝集して形成された蛍光体微粒子13は、フィルタ103によって回収され、白抜きの矢印で示された部分からチャンバを開けて蛍光体微粒子を外部に搬出する。このとき、生成されたZnS:Cuの蛍光体微粒子13の平均粒径が97nmであり、ナノサイズの蛍光体微粒子が生成されている。また、生成された蛍光体微粒子中の立方晶の割合は、60%であり、残りは六方晶である。そして、六方晶と立方晶との双晶界面は、1個の蛍光体粒子の中に1〜2箇所の割合で存在していた。ここで、図2に、実施例1で生成された蛍光体微粒子についてX線回折測定を行った結果を示す。平均粒径については、X線回折測定の回折ピークの半値幅より、シェラーの式を用いて算出している。回折ピークの半値幅については、回折面のいずれのピークの半値幅を用いても理論上は変化しないが、測定の誤差を小さくするため、最大のピーク値を示す回折面のピークを用いることが好ましい。例えば、硫化亜鉛の立方晶ではβ−ZnS(200)の回折面、六方晶ではα−ZnS(100)の回折面のピークの半値幅を用いることが好ましい。
【0033】
このようにして生成された蛍光体微粒子は、その粒度分布幅が小さく、均一な粒径を有し、粗大粒子の混入が少ないものとすることができる。
【0034】
ここで得られたZnS:Cu微粒子は、バインダ材料と混合されてペースト状にされる。そして、ペースト状にされたZnS:Cu微粒子を印刷して無機ELパネルを作製する。このとき、無機ELパネルは、バインダ材料中に微粒子を含む発光層を酸化インジウム錫(ITO)電極と、銀(Ag)からなる電極とで挟んで構成された無機EL素子を含んで構成されている。
【0035】
(実施例2)
実施例2に係る発光中心となる銅を添加した硫化亜鉛微粒子の製造方法は、熱プラズマ装置の原料供給装置から投入する硫化銅粉末が0.1gである(硫化銅を1重量%添加したものである)こと以外は、実施例1と同様である。実施例2で生成されたZnS:Cuの蛍光体微粒子の平均粒径は、10nmであり、ナノサイズの蛍光体微粒子が生成されている。また、生成された蛍光体微粒子中の立方晶の割合は、50%であり、残りは六方晶である。そして、六方晶と立方晶との双晶界面は、1個の蛍光体粒子の中に1〜2箇所の割合で存在していた。ここで、図3に、実施例2で生成された蛍光体微粒子についてX線回折測定を行った結果を示す。実施例1と同様に平均粒径については、X線回折測定の回折ピークの半値幅より、シェラーの式を用いて算出している。
【0036】
(比較例1)
比較例1に係る硫化亜鉛微粒子の製造方法は、熱プラズマ装置の原料供給装置106から硫化銅粉末を投入していない(硫化銅は無添加である)こと以外は、実施例1と同様である。比較例1で生成されたZnSの蛍光体微粒子の平均粒径は、12nmであり、実施例1及び2により生成された蛍光体微粒子よりも粒子径の大きいものである。また、硫化銅粉末を投入していないため蛍光体微粒子とはなっていない。ここで、図4に、比較例1で生成された硫化亜鉛微粒子についてX線回折測定を行った結果を示す。実施例1と同様に平均粒径については、X線回折測定の回折ピークの半値幅より、シェラーの式を用いて算出している。
【0037】
(比較例2)
比較例2では、固相法を用いた硫化亜鉛微粒子の製造方法について説明する。まず、蛍光体微粒子の母体材料として粒径が1〜5μmの硫化亜鉛粉末を50g、発光中心となる付活剤として銅粉末0.05gを湿式混合して乾燥させる。その後、石英の坩堝等に乾燥させた原料粉末を充填し、不活性ガス雰囲気下、800℃で焼成を行う。焼成を行った後蛍光体微粒子の表面に付着した硫化銅を洗浄し、分級を行う。このようにして生成した蛍光体微粒子の平均粒径は、10〜30μmである。また、生成された蛍光体微粒子中の立方晶の割合は、95%であり、残りは六方晶である。そして、六方晶と立方晶との双晶界面は、10個の蛍光体粒子の中に1〜2個の割合で存在していた。ここで得られるZnS:Cu微粒子は、バインダ材料と混合されてペースト状にされる。そして、ペースト状にされたZnS:Cu微粒子を印刷して、無機ELパネルを作製する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】熱プラズマ装置の構成と蛍光体微粒子の製造方法を示す概略図である。
【図2】実施例1に係る硫化亜鉛微粒子のX線回折測定の結果を示す図である。
【図3】実施例2に係る硫化亜鉛微粒子のX線回折測定の結果を示す図である。
【図4】比較例1に係る硫化亜鉛微粒子のX線回折測定の結果を示す図である。
【図5】蛍光体の粒子中の双晶界面を示す模式図である。
【符号の説明】
【0039】
11:母体材料の粉末
12:付活剤粉末
13:蛍光体微粒子
14:熱プラズマ
14a:熱プラズマ中心部
14b:熱プラズマ外周部
15:蛍光体の粒子
16:双晶界面
17:立方晶構造
18:六方晶構造
101a、101b:プラズマガス供給源
102:チャンバ
103:フィルタ
104:ガス吸引管
105:高周波発振用コイル
106:原料供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体微粒子を製造する方法であって、
該製造方法は、蛍光体の母体となる母体材料の粉末と蛍光体の発光中心となる元素を含む付活剤の粉末とに熱プラズマ中を通過させる工程を含むことを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記母体材料は、硫化亜鉛であり、
前記通過工程は、硫化亜鉛の粉末と付活剤の粉末とに中心温度が1000℃以上の熱プラズマ中を通過させることで、硫化亜鉛及び付活剤を含有する混合気体にするものであることを特徴とする請求項1記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記通過工程は、硫化亜鉛及び付活剤を含有する混合気体を100〜600℃に冷却するものであることを特徴とする請求項2記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記通過工程は、混合気体を300〜500℃に冷却するものであることを特徴とする請求項3記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする蛍光体微粒子。
【請求項6】
前記母体材料は、硫化亜鉛であり、
前記蛍光体微粒子は、実質的に立方晶で構成されていることを特徴とする請求項5記載の蛍光体微粒子。
【請求項7】
請求項5又は6記載の蛍光体微粒子を備えることを特徴とするエレクトロルミネッセンス表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−149765(P2009−149765A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328846(P2007−328846)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】