説明

蛍光体複合材料

【課題】 化学的に安定で、エネルギー変換効率が高く、しかも、機械的強度が高い蛍光体複合材料を提供することである。
【解決手段】 本発明の蛍光体複合材料は、無機材料基材とガラス焼結層とを有する蛍光体複合材料であって、無機材料基材の片面若しくは両面にガラス焼結層が形成されてなり、励起光を照射したときに、無機材料基材が励起光の波長域に対して透光性を有し、且つ、ガラス焼結層が励起光の波長域の光を吸収し波長380〜780nmの蛍光を発する性質を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源から発せられた光の波長を、別の波長に変換する蛍光体複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LEDは、白熱電球や蛍光灯に替わる次世代の光源として照明用途への応用が期待されている。
【0003】
蛍光体を用いて波長変換するLED素子においては、LEDチップの発光面をシールする有機系バインダー樹脂(モールド樹脂)等に蛍光体粉末を混合してモールドし、LEDチップの発光の一部または全部を吸収して所望の波長に変換を行っている。
【0004】
しかしながら、上記LED素子は、LEDチップの発光面をシールする有機系バインダー樹脂に蛍光体粉末を混合してモールドしているため、青色〜紫外線領域の高出力の短波長の光や、蛍光体の発熱、或いはLEDチップの熱によってLED素子を構成する樹脂が劣化し、変色を引き起こす。その結果、発光強度の低下や色ずれが起こり、寿命が短くなるという問題がある。
【0005】
そこで樹脂に代わってガラスで蛍光体粉末を固定することが提案されている。(例えば特許文献1)
【特許文献1】特開2003−258308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された蛍光体複合材料は、ガラス粉末と蛍光体粉末との混合粉末を焼成することにより作製される。このようにして作製される蛍光体複合材料は、母材となるガラスが熱や照射光で劣化しないという特徴を有している。
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されている蛍光体複合材料は、ガラス粉末と無機蛍光体粉末の混合物を焼成するものであるため、機械的強度が低い。機械的強度を高くするために、蛍光体複合材料の肉厚を厚くすると、エネルギー変換効率が低下するという問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、化学的に安定で、エネルギー変換効率が高く、しかも、機械的強度が高い蛍光体複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の蛍光体複合材料は、無機材料基材とガラス焼結層とを有する蛍光体複合材料であって、無機材料基材の片面若しくは両面にガラス焼結層が形成されてなり、励起光を照射したときに、無機材料基材が励起光の波長域に対して透光性を有し、且つ、ガラス焼結層が励起光の波長域の光を吸収し波長380〜780nmの蛍光を発する性質を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蛍光体複合材料は、無機材料基材とガラス焼結層の無機材料のみから形成されてなるため、化学的に安定で、発光強度の劣化や短寿命化を抑制できる。また、無機材料基材の表面にガラス焼結層が形成されてなるため、ガラス焼結層の肉厚が薄くても、高い機械的強度を得ることができる。従って、エネルギー変換効率の高い蛍光体複合材料を得ることができる。それ故、照明、ディスプレイ等の発光装置、自動車等の前照光として用いる部材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
蛍光体材料において、化学的に安定で、高出力の光や、蛍光体やLEDチップの熱によって引き起こされる発光強度の劣化や短寿命化を抑制するには、蛍光体材料中に有機材料を含まないように設計すればよい。本発明の蛍光体複合材料は、無機材料基材とガラス焼結層の無機材料のみから形成されてなる。そのため、化学的に安定で、高出力の光や、蛍光体やLEDチップの発熱によって引き起こされる発光強度の劣化や短寿命化を抑制できる。
【0012】
また、ガラス粉末と蛍光体粉末とを焼成してなるガラス焼結層だけでは、機械的強度が低いが、本発明の蛍光体複合材料は、ガラス焼結層よりも機械的強度の高い無機材料基材の表面にガラス焼結層が形成されてなる。そのため、ガラス焼結層の肉厚を厚くしなくても、高い機械的強度を得ることができる。
【0013】
更に、無機材料基材が励起光の波長域に対して透光性を有するため、無機材料基材表面に形成されているガラス焼結層に励起光が届き蛍光を発することができる。
【0014】
尚、励起光は、波長が300〜500nmの光線を用いることが好ましい。その理由は、この波長域の光を照射すると蛍光を発する無機蛍光体粉末の種類が多く存在し、部材の入手が容易であるためである。
【0015】
本発明の蛍光体複合材料において、無機材料基材とガラス焼結層は、ガラス焼結層を無機材料基材上に融着一体化させることにより密着してなることが好ましい。無機材料基材とガラス焼結層との間に空間を設けない構造にすることで、発光強度の低下を抑えることができ、しかも、機械的強度を向上させることができる。また、変色の原因となる接着剤等の樹脂を用いなくて済む。
【0016】
無機材料基材からのガラス焼結層の剥離を防止するには、無機材料基材の熱膨張係数をα1、ガラス焼結層の熱膨張係数をα2としたとき、α1−α2≦±1ppm/℃にすることが好ましい。この範囲外になると、剥離しやすくなる。好ましくは、α1−α2≦±0.8ppm/℃である。
【0017】
尚、本発明の蛍光体複合材料を構成する無機材料基材としては、励起光の波長域に対して透光性を有するものを用いることが好ましく、具体的には、励起光の波長域において、拡散透過率を含めた全透過率が50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上)のものを用いることが好ましい。励起光の波長域における全透過率が低くなると、ガラス焼結層に励起光が届き難くなり、結果として、蛍光体複合材料の発光効率が低くなるためである。
【0018】
また、無機蛍光材料は、25℃における熱伝導率が10W/m・K以上(好ましくは15W/m・K以上、より好ましくは20W/m・K以上)であるものを用いることが好ましい。その理由は、無機材料基材の熱伝導率が大きくなると、放熱効果が大きくなり、蛍光体やLEDチップから発生した熱を逃がすことができ、熱による蛍光体やLEDチップの劣化を抑えることができるためである。
【0019】
また、無機材料基材は、板状であることが好ましい。その理由は、無機材料基材が板状であると、無機材料基材上にガラス焼結層を形成しやすくなるためである。
【0020】
また、無機材料基材は、0.1〜10.0mmの肉厚を有することが好ましい。その理由は、無機材料基材の肉厚が薄くなりすぎると、蛍光体複合材料としての機械的強度が低下しやすくなる。一方、肉厚が厚くなりすぎると、励起光が透過し難くなる傾向にあり、結果として、蛍光体複合材料の発光効率が低下しやすくなる。
【0021】
また、無機材料基材としては、励起光の波長域に対して透光性を有する材料であれば、特に、材質に制限はなく、ガラス、Al23、MgO、ZrO2、Y23の透光性セラミック、サファイア単結晶等を用いることができる。尚、熱による劣化を抑えたい場合は、熱伝導率の大きいAl23、MgO、ZrO2、Y23及びサファイア単結晶のいずれかを用いることが好ましい。
【0022】
また、本発明の蛍光体複合材料を構成するガラス焼結層としては、励起光の波長域の光を吸収し、波長380〜780nmの光の蛍光、特に、青色(波長440〜480nm)、緑色(波長500〜550nm)、黄色(波長550〜600nm)、赤色(波長600〜780nm)の蛍光を発する性質を有するものを用いることが好ましい。
【0023】
上記性質を有するガラス焼結層を得るには、ガラス粉末と、無機蛍光体粉末を含む混合物を焼成すればよい。このようなガラス焼結層は、ガラス中に無機蛍光体が分散した構造となるため、化学的に安定で、高出力の光に長期間曝されても変色を抑えることができる。
【0024】
ガラス焼結層に含まれる無機蛍光体粉末としては、一般的に市中で入手できるものであれば使用でき、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、ハロリン酸塩化物などからなるものがある。上記の無機蛍光体の中でも、特に、波長300〜500nmに励起帯を有し、波長380〜780nmに発光ピークを有するもの、特に、青色、緑色、赤色に発光するものを用いることが好ましい。
【0025】
波長300〜440nmの紫外域の励起光を照射すると青色の蛍光を発する蛍光体としては、Sr5(PO43Cl:Eu2+、(Sr,Ba)MgAl1017:Eu2+、(Sr,Ba)3MgSi28:Eu2+を用いることができる。
【0026】
波長300〜440nmの紫外域の励起光を照射すると緑色の蛍光を発する蛍光体としては、SrAl24:Eu2+、SrGa24:Eu2+、SrBaSiO4:Eu2+、CdS:In、CaS:Ce3+、Y3(Al,Gd)512:Ce2+、Ca3Sc2Si312:Ce3+、SrSiOn:Eu2+、ZnS: Al3+,Cu+、CaS:Sn2+、CaS:Sn2+,F、CaSO4:Ce3+,Mn2+、LiAlO2:Mn2+、BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+、ZnS:Cu+,Cl-、Ca3WO6:U、Ca3SiO4Cl2:Eu2+、SrxBayClzAl24-z/2:Ce3+,Mn2+(X:0.2、Y:0.7、Z:1.1)、Ba2MgSi27:Eu2+、Ba2SiO4:Eu2+、Ba2Li2Si27:Eu2+、ZnO:S、ZnO:Zn、Ca2Ba3(PO43Cl:Eu2+、BaAl24:Eu2+を用いることができる。
【0027】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると緑色の蛍光を発する蛍光体としては、SrAl24:Eu2+、SrGa24:Eu2+、SrBaSiO4:Eu2+、CdS:In、CaS:Ce3+、Y3(Al,Gd)512:Ce2+、Ca3Sc2Si312:Ce3+、SrSiON:Eu2+を用いることができる。
【0028】
波長300〜440nmの紫外域の励起光を照射すると黄色の蛍光を発する蛍光体としては、ZnS:Eu2+、Ba5(PO43Cl:U、Sr3WO6:U、CaGa24:Eu2+、SrSO4:Eu2+,Mn2+、ZnS:P、ZnS:P3-,Cl-ZnS:Mn2+を用いることができる。
【0029】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると黄色の蛍光を発する蛍光体としては、Y3(Al,Gd)512:Ce2+、Ba5(PO43Cl:U、CaGa24:Eu2+を用いることができる。
【0030】
波長300〜440nmの紫外域の励起光を照射すると赤色の蛍光を発する蛍光体としては、CaS:Yb2+,Cl、Gd3GA412:Cr3+、CaGa24:Mn2+、Na(Mg,Mn)2LiSi4102:Mn、ZnS:Sn2+、Y3Al512:Cr3+、SrB813:Sm2+、MgSr3Si28:Eu2+,Mn2+、α−SrO・3B23:Sm2+、ZnS−CdS、ZnSe:Cu+,Cl、ZnGa24:Mn2+、ZnO:Bi3+、BaS:Au,K、ZnS:Pb2+、ZnS:Sn2+,Li+、ZnS:Pb,Cu、CaTiO3:Pr3+、CaTiO3:Eu3+、Y23:Eu3+、(Y、Gd)23:Eu3+、CaS:Pb2+,Mn2+、YPO4:Eu3+、Ca2MgSi27:Eu2+,Mn2+、Y(P、V)O4:Eu3+、Y22S:Eu3+、SrAl47:Eu3+、CaYAlO4:Eu3+、LaO2S:Eu3+、LiW28:Eu3+,Sm3+、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu2+,Mn2+、Ba3MgSi28: Eu2+,Mn2+
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると赤色の蛍光を発する蛍光体としては、ZnS:Mn2+,Te2+、Mg2TiO4:Mn4+、K2SiF6:Mn4+、SrS:Eu2+、Na1.230.42Eu0.12TiSi411、Na1.230.42Eu0.12TiSi513:Eu3+、CdS:In,Te、CaAlSiN3:Eu2+、CaSiN3:Eu2+、(Ca,Sr)2Si58:Eu2+、Eu227を用いることができる。
【0031】
尚、励起光の波長域や発光させたい色に合わせて複数の無機蛍光体粉末を混合して用いてもよい。例えば、紫外域の励起光を照射して、白色光を得たい場合は、青色、緑色及び赤色の蛍光を発する蛍光体を混合して使用すればよい。
【0032】
上記の無機蛍光体粉末の中には、焼結時の加熱によりガラスと反応し、発泡や変色などの異常反応を起こす物もあり、その程度は、焼結温度が高温であればあるほど著しくなる。しかし、このような無機蛍光体粉末であっても、焼成温度とガラス組成を最適化することで使用できる。
【0033】
ガラス焼結層を作製する際に用いるガラス粉末には、無機蛍光体を安定に保持するための媒体としての役割がある。また、ガラス粉末の組成系によって、焼結体の色調が異なり、無機蛍光体との反応性に差がでるため、種々の条件を考慮してガラス粉末の組成を選択する必要がある。さらにガラス組成に適した無機蛍光体の添加量や、部材の厚みを決定することも重要である。ガラス粉末としては、無機蛍光体と反応しにくいものであれば、特に、組成系に制限はなく、例えば、SiO2−B23−RO(ROはMgO、CaO、SrO、BaOを表す)系ガラス、SiO2−B23系ガラス、SiO2−B23−R2O(R2OはLi2O、Na2O、K2Oを表す)系ガラス、SiO2−B23−Al23系ガラス、SiO2−B23−ZnO系ガラスを用いることができる。中でも、焼成時において、無機蛍光体と反応が起こりにくいSiO2−B23−RO系ガラスを用いることが好ましい。
【0034】
SiO2−B23−RO系ガラスの組成範囲は、モル百分率で、SiO2 30〜70%、B23 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 5〜40%、RO 10〜45%、Al23 0〜20%、ZnO 0〜10%であることが好ましい。上記範囲を決定した理由は以下の通りである。
【0035】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。その含有量が30モル%よりも少なくなると化学的耐久性が悪化する傾向にある。一方、70モル%よりも多くなると、焼結温度が高温になり、蛍光体が劣化しやすくなる。SiO2のより好ましい範囲は45〜65%である。
【0036】
23は、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を著しく改善する成分である。その含有量が1モル%よりも少なくなると、その効果が得にくくなる。一方、15モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。B23のより好ましい範囲は2〜10%である。
【0037】
MgOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。MgOのより好ましい範囲は0〜5%である。
【0038】
CaOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が25モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。CaOのより好ましい範囲は3〜20%である。
【0039】
SrOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。SrOのより好ましい範囲は0〜5%である。
【0040】
BaOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する共に、蛍光体との反応を抑制する成分である。その含有量が5モル%よりも少なくなると、蛍光体との反応抑制効果が低下する傾向にある。一方、40モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。BaOのより好ましい範囲は10〜35%である。
【0041】
尚、化学的耐久性を悪化させることなく、ガラスの溶融性を向上させるためには、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量であるROを、10〜45モル%にすることが好ましい。ROの含有量が10モル%より少なくなると、溶融性を改善する効果が得にくくなる。一方、45モル%より多くなると、化学的耐久性が悪化しやすくなる。ROのより好ましい範囲は11〜40%である。
【0042】
Al23は、化学的耐久性を向上させる成分である。その含有量が20モル%よりも多くなると、ガラスの溶融性が悪化する傾向にある。Al23のより好ましい範囲は2〜15%である。
【0043】
ZnOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量が10モル%よりも多くなると、化学的耐久性が悪化する傾向にある。ZnOのより好ましい範囲は1〜7%である。
【0044】
また、上記成分以外にも、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、アルカリ金属酸化物、P25、La23等を添加してもよい。
【0045】
また、ガラス粉末の平均粒度は、1〜100μmのものを使用することが望ましい。ガラス粉末の平均粒度が小さくなると、コストが高騰しやすくなり、一方、平均粒度が大きくなると、ガラス焼結層中に励起光が効率良く蛍光体に照射されにくくなる。
【0046】
ガラス焼結層の発光効率は、ガラス中に分散した蛍光体粒子の種類や含有量、及びガラス焼結層の肉厚によって変化する。蛍光体の含有量とガラス焼結層の肉厚は、エネルギー変換効率が最適になるように調整すればよいが、蛍光体が多くなりすぎると、焼結しにくくなり、気孔率が大きくなって、励起光が効率良く蛍光体に照射されにくくなるなどの問題が生じる。一方、少なすぎると十分に発光させることが難しくなる。それ故、ガラス粉末と無機蛍光体粉末の混合割合を、質量比で、ガラス粉末を70〜99.99%(好ましくは80〜99.95%、より好ましくは85〜99.92%)、無機蛍光体粉末0.01〜30%(好ましくは0.5〜20%、より好ましくは0.8〜15%)の範囲に調整することが好ましい。
【0047】
また、上記のガラス焼結層を得るには、上記のガラス粉末と無機蛍光体粉末に有機系溶剤及びバインダー樹脂を加えた混合物を、例えば、ペーストやグリーンシートなどの形態にして、焼成することで得ることができる。
【0048】
ペーストを用いてガラス焼結層を得る方法について説明する。
【0049】
ペーストは、上述したガラス粉末及び無機蛍光体粉末と共に、結合剤、可塑剤、溶剤等を使用する。
【0050】
ペースト全体に占めるガラス粉末と無機蛍光体粉末の割合としては、30〜90質量%程度が一般的である。
【0051】
結合剤は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分であり、その含有量は、0.1〜20質量%程度が一般的である。結合剤としては、ポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース、ニトロセルロース等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
【0052】
可塑剤は、乾燥速度をコントロールすると共に、乾燥膜に柔軟性を与える成分であり、その含有量は0〜10質量%程度が一般的である。可塑剤としては、フタル酸ジブチル、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
【0053】
溶剤は材料をペースト化するための材料であり、その含有量は10〜50質量%程度が一般的である。溶剤としては、テルピネオール、酢酸イソアミル、トルエン、メチルエチルケトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等を単独または混合して使用することができる。
【0054】
ペーストの作製は、ガラス粉末、無機蛍光体粉末、結合剤、可塑剤、溶剤等を用意し、これらを所定の割合で混練することにより行うことができる。
【0055】
このようなペーストを用いて、無機材料基材上にガラス焼結層を直接形成するには、スクリーン印刷法や一括コート法等を用いて無機材料基材上にペーストを塗布し、所定の膜厚の塗布層を形成した後、乾燥させ、700〜1000℃で焼成することで所定のガラス焼結層を得ることができる。
【0056】
次に、グリーンシートを用いてガラス焼結層を得る方法について説明する。
【0057】
グリーンシートは、上記ガラス粉末及び無機蛍光体粉末と共に、結合剤、可塑剤、溶剤等を使用する。
【0058】
ガラス粉末と無機蛍光体粉末のグリーンシート中に占める割合は、50〜80質量%程度が一般的である。
【0059】
結合剤、可塑剤及び溶剤としては、上記ペーストの調製の際に用いられるのと同様の結合剤、可塑剤、溶剤を用いることができ、結合剤の混合割合としては、0.1〜30質量%程度が一般的であり、可塑剤の混合割合としては、0〜10質量%程度が一般的であり、溶剤の混合割合としては、1〜40質量%程度が一般的である。
【0060】
グリーンシートを作製する一般的な方法としては、上記ガラス粉末、無機蛍光体粉末、結合剤、可塑剤等を用意し、これらに溶剤を添加してスラリーとし、このスラリーをドクターブレード法によって、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルムの上にシート成形する。続いて、シート成形後、乾燥させることによって有機系溶剤等を除去することでグリーンシートとすることができる。
【0061】
以上のようにして得られたグリーンシートを用いて、無機材料基材上にガラス焼結層を直接形成するには、無機材料基材上にグリーンシートを積層し熱圧着して塗布層を形成した後、上述のペーストの場合と同様に焼成することでガラス焼結層を得ることができる。
【0062】
尚、ガラス焼結層の製造方法として、ペーストまたはグリーンシートを用いる例を挙げたが、本発明の蛍光体複合材料に用いられるガラス焼結層はこれに限定されるものではなく、一般にセラミックスの製造に用いられる各種の方法を適用することが可能である。
【0063】
また、ガラス焼結層は、0.01〜1.0mmの肉厚を有することが好ましい。ガラス焼結層の肉厚が薄すぎると、ガラス焼結層が蛍光を発することが難しくなる。一方、肉厚が厚すぎると、エネルギー変換効率が低下しやすくなる。
【0064】
次に、本発明の蛍光体複合材料を製造する好適な方法を説明する。
【0065】
まず、上述の無機材料基材と、ガラス焼結層を得るためのペーストまたはグリーンシートを用意する。次に、無機材料基材表面に、スクリーン印刷法や一括コート法等を用いてペーストを塗布する、若しくは、グリーンシートを積層し、無機材料基材表面に、ガラス層を形成する。その後、ガラス層を形成した無機材料基材を焼成する。このようにすることで、本発明の蛍光体複合材料を得ることができる。
【0066】
尚、ペーストを用いて本発明の蛍光体複合材料を作製する場合、複数の無機蛍光体粉末を含むものを無機材料基材表面に形成しても良い。
【0067】
また、グリーンシートを用いて本発明の蛍光体複合材料を作製する場合、一枚のグリーンシートに複数の無機蛍光体粉末を含むものを無機材料基材表面に形成しても良いし、各色のシートを作製し積層したものを無機材料基材表面に形成しても良い。
【0068】
尚、本発明の蛍光体複合材料は、ガラス層を形成した無機材料基材を焼成して得た蛍光体複合材料を、切断、研磨加工して、任意の形状、例えば、円盤状、柱状、棒状等の形状に加工してもよい。
【0069】
尚、ガラス層を形成した無機材料基材を焼成する温度としては、700〜1000℃であることが好ましい。その理由は、700℃より低い温度では、無機材料基材からガラス焼結層が剥離しやすくなったり、緻密なガラス焼結層が得にくくなるため、ガラス焼結層の発光強度が低下し、所望の光を発する蛍光体複合材料が得難くなる。一方、1000℃より高い温度では、ガラス焼結層中のガラスと無機蛍光体の反応により、所望の光を発する蛍光体複合材料が得難くなる。
【実施例1】
【0070】
以下、実施例に基づき、本発明の蛍光体複合材料ついて詳細に説明する。
【0071】
まず、無機材料基材とガラス焼結層を得るためのペーストを用意した。
【0072】
無機材料基材については、サイズが50.0×50.0×1.0mm、波長300〜500nmにおける透過率が93%以上、25℃における熱伝導率が33W/m・Kの透光性アルミナセラミック基板を用いた。
【0073】
尚、透過率については、積分球を取り付けた分光光度計にて波長300〜500nmにおける全透過率を測定した。また、熱伝導率については、JIS R2616に基づいて、25℃における値を測定した。
【0074】
ガラス焼結層を得るためのペーストについては、以下のように作製した。
【0075】
モル百分率でSiO2 60%、B23 5%、CaO 10%、BaO 15%、Al23 5%、ZnO 5%を含有する組成になるように調合したガラス原料を白金坩堝に入れ、1400℃で2時間溶融して均一なガラスを得た。次いで、これをアルミナボールで粉砕し、分級して平均粒径が2.5μmのガラス粉末を得た。次に、作製したガラス粉末に無機蛍光体粉末を質量比で90:10の割合で添加し、混合して混合粉末を作製した。尚、無機蛍光体粉末には、波長300〜440nmの紫外域の励起光を照射すると青色の蛍光を発するSr5(PO4)Cl3:Eu3+(平均粒径:8μm)、緑色の蛍光を発するZnS:Al3+,Cu+(平均粒径:8μm)、赤の蛍光を発するY22S:Eu3+(平均粒径:8μm)を質量比で10:10:80の割合で混合したものを用いた。次いで、作製した混合粉末100に対して、結合剤としてエチルセルロースを6質量%、溶剤としてテルピネオールを90質量%添加し、混合してペーストを作製した。
【0076】
蛍光体複合材料は以下のようにして作製した。
【0077】
上記の透光性アルミナセラミック基板の表面に、上記方法で作製したペーストを一括コート法で塗布しガラス層(肉厚50μm)を形成した。次いで、ガラス層を塗布した透光性アルミナセラミック基板を300℃で1時間脱脂し、850℃で20分焼成して蛍光体複合材料を作製した。
【0078】
このようにして得られた蛍光体複合材料について、マイクロメーターを用いて肉厚を測定したところ、1040μmであり、ガラス焼結層の肉厚は40μmであった。また、蛍光分光光度計を用いて、励起光及び蛍光スペクトルを測定したところ、波長365nm付近に中心を持つ紫外線の励起スペクトルと、波長450nm付近に中心を持つ青色の蛍光スペクトルと、波長530nm付近に中心を持つ緑色の蛍光スペクトル、波長620nm付近に中心を持つ赤色の蛍光スペクトルがそれぞれ観測された。また、透光性アルミナセラミック基板側から波長365nmにピークを有する紫外線発光ダイオードの光を照射しガラス焼結層側から発する光を、色度計を用いて測定したところ、CIE座標でx=0.379、y=0.390の白色光が得られた。さらに、蛍光体複合材料の機械的強度を上記方法で測定したところ、250MPaであった。尚、機械的強度については、JIS R1601に基づいて3点曲げ試験により求めた。
【0079】
尚、比較のために、上記方法で作製したペーストを用いてガラス焼結層(肉厚40μm)のみを作製し、機械的強度を上記と同じ方法で測定したところ、43MPaであった。
【0080】
ガラス焼結層は、上記方法で作製したペーストを、多孔質ムライトセラミック基板上に一括コート法で塗布しガラス層(肉厚50μm)を形成し、300℃で1時間脱脂し、850℃で20分焼成した後、冷却して、ムライト基板を除去することで得た。
【実施例2】
【0081】
まず、無機材料基材とガラス焼結層を得るためのグリーンシートを用意した。
【0082】
無機材料基材については、サイズが50.0×50.0×1.2mm、波長300〜500nmにおける透過率が93%以上、25℃における熱伝導率が41W/m・Kのサファイア単結晶基板を用いた。尚、透過率及び熱伝導率については、実施例1と同じ方法で求めた。
【0083】
ガラス焼結層を得るためのグリーンシートについては、以下のように作製した。
【0084】
実施例1で作製したガラス粉末に、無機蛍光体粉末として、Y3Al512(YAG)(平均粒径:8μm)を、質量比で95:5の割合で添加し、混合して混合粉末を作製した。次いで、作製した混合粉末100に対して、結合剤としてポリビニルブチラール樹脂を12質量%、可塑剤としてフタル酸ジブチルを3質量%、溶剤としてトルエンを40質量%添加し、混合してスラリーを作製した。続けて、上記スラリーをドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート成形し、乾燥して、肉厚50μmのグリーンシートを得た。
【0085】
蛍光体複合材料は以下のようにして作製した。
【0086】
上記方法で作製したグリーンシートを上記のサファイア単結晶基板の表面に積層し熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、400℃で1時間脱脂し、900℃で20分焼成した後、冷却して蛍光体複合材料を作製した。
【0087】
このようにして得られた蛍光体複合材料について、蛍光分光光度計を用いて励起光及び蛍光スペクトルを測定したところ、波長465nm付近に中心を持つ青色の励起スペクトルと、波長560nm付近に中心を持つ黄色の蛍光スペクトルが観測された。また、サファイア単結晶基板側から波長465nmにピークを有する青色発光ダイオードの光を照射しガラス焼結層側から発する光を、色度計を用いて測定したところ、CIE座標でx=0.280、y=0.318の白色光が得られた。さらに、蛍光体複合材料の機械的強度を実施例1と同じ方法で測定したところ、265MPaであった。
【0088】
尚、比較のために、上記方法で作製したグリーンシートを用いてガラス焼結層(肉厚40μm)のみを作製し、機械的強度を上記と同じ方法で測定したところ、50MPaであった。
【0089】
ガラス焼結層は、上記方法で作製したグリーンシート(肉厚50μm)を、アルミナセラミックグリーンシート基板上に積層し熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、400℃で1時間脱脂し、900℃で20分焼成した後、冷却して、アルミナセラミックシートを除去することで得た。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の蛍光体複合材料は、LED用途に限られるものではなく、レーザーダイオード等のように、ハイパワーの励起光を発するものに用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】無機材料基材とガラス焼結層とからなる蛍光体複合材料を示す説明図である。
【符号の説明】
【0092】
1 無機材料基材
2 結晶化ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料基材とガラス焼結層とを有する蛍光体複合材料であって、無機材料基材の片面若しくは両面にガラス焼結層が形成されてなり、励起光を照射したときに、無機材料基材が励起光の波長域に対して透光性を有し、且つ、ガラス焼結層が励起光の波長域の光を吸収し波長380〜780nmの蛍光を発する性質を有することを特徴とする蛍光体複合材料。
【請求項2】
波長300〜500nmの光によって励起されることを特徴とする請求項1記載の蛍光体複合材料。
【請求項3】
無機材料基材表面にガラス焼結層を融着させることにより、無機材料基材とガラス焼結層とが密着してなることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体複合材料。
【請求項4】
無機材料基材の熱膨張係数をα1、ガラス焼結層の熱膨張係数をα2としたとき、α1−α2≦±1ppm/℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体複合材料。
【請求項5】
無機材料基材が、励起光の波長域において、50%以上の透過率を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体複合材料。
【請求項6】
無機材料基材が、25℃において、10W/m・K以上の熱伝導率を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体複合材料。
【請求項7】
無機材料基材が、板状であり、且つ、0.1〜10.0mmの肉厚を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体複合材料。
【請求項8】
無機材料基材がAl23、MgO、ZrO2、Y23及びサファイア単結晶の群から選ばれたいずれか一種からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体複合材料。
【請求項9】
ガラス焼結層が、ガラス粉末、無機蛍光体粉末を含む混合物を焼成してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体複合材料。
【請求項10】
無機蛍光体粉末が、波長300〜500nmに励起帯を有し、波長380〜780nmに発光ピークを有することを特徴とする請求項9に記載の蛍光体複合材料。
【請求項11】
ガラス粉末が、モル百分率で、SiO2 30〜70%、B23 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 5〜40%、RO(ROはMgO、CaO、SrO、BaOを表す) 10〜45%、Al23 0〜20%、ZnO 0〜10%含有することを特徴とする請求項9に記載の蛍光体複合材料。
【請求項12】
混合物が、質量比で、ガラス粉末70〜99.99%と無機蛍光体粉末0.01〜30%の範囲にあることを特徴とする請求項9に記載の蛍光体複合材料。
【請求項13】
ガラス焼結層が、ガラス粉末、無機蛍光体粉末、有機系溶剤及びバインダー樹脂を含むペーストあるいはグリーンシートを焼成してなることを特徴とする請求項1〜4、9及び10のいずれかに記載の蛍光体複合材料。
【請求項14】
ガラス焼結層が、0.01〜1.0mmの肉厚を有することを特徴とする請求項1〜4、9及び13のいずれかに記載の蛍光体複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−48864(P2007−48864A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230369(P2005−230369)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】