説明

蛍光化合物

式(A)の対称的骨格構造を有する水溶性フォトルミネセンス化合物が開示される。このような化合物を含むタンパク質検出剤及び流体サンプル中の全溶解タンパク質含有量の測定方法も開示される。
【化1】


式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なフォトルミネセンス化合物、新規なタンパク質検出剤、及び流体、特に水又は体液、中のタンパク質の存在を検出する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトルミネセンス化合物が知られており、既知のフォトルミネセンス化合物としては、スクアレン染料、特にインドレニン系スクアレン染料、として知られている種類の染料が挙げられ、インドレニン系スクアレン染料は次の一般式の置換及び無置換化合物である。
【0003】
【化1】

【0004】
式中、XはS、Se又はC(CH32であり、R1はアルキルであり、R2はH、アルキル又はハロゲンである。
【0005】
既知のインドレニンスクアレン染料としては対称的及び非対称的化合物の両方があり、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0006】
これらの染料は水に不溶であり、特に、流体中のタンパク質の存在を定性的に検出するのに使用される。タンパク質はそれ自体が流体(特に水性流体)中で水溶性であるが、このタンパク質の存在を検出するのにこれらの染料を使用するには、この染料は水とメタノールのようなアルコールとの混合物を含む溶媒に溶けなくてはならない。タンパク質をインドレニンスクアレン染料の水/メタノール溶液に添加すると、蛍光が増加する。上で引用した文献に開示されている分析方法は純粋に定性的方法であり、試験流体サンプル中のタンパク質の存在又は不存在を単に記録するのみであるので、存在するタンパク質の量を決定するのには使用することができない。
【0007】
流体中のタンパク質の定量分析及びゲル中のタンパク質のステインとしての半定量的/定量的分析のための現在の方法としては、流体のためのブラッドフォード(Bradford)法[非特許文献2]、ローリー(Lowry)法[非特許文献3]、及びビシンコニン酸(BCA)法[非特許文献4]、並びにゲルのための銀ステイン[非特許文献5]及びクーマシー・ブルー[非特許文献6]が挙げられる。ブラッドフォード法、ローリー法及びBCA法は比色技術(即ち、色変化)であり、8〜2000μg/mLの溶液タンパク質範囲に適しているが、複数の試薬及び培養時間を必要とし、多数の一般的な試薬からの妨害を受ける。クーマシー・ブルーはブラッドフォード法に使用されているが、20〜30分を要し、トリス緩衝液に妨害されない。銀ステインは非常に高感度(10〜100ng/mL)の色素形成技術であり、ゲルステインとして使用されるが、ゲルの取扱いに注意を払わなくてはならず、また技術全体で2〜3時間を要する。クーマシー・ブルーもゲル染料であり、タンパク質範囲が色素形成μg範囲内である場合に銀ステインの代わりに使用できる。タンパク質濃度の検出のための他の商業的技術としては、共にモレキュラー・プローブズ社(Molecular Probes)からの、ナノオレンジ(NanoOrange)(商標)タンパク質定量キット及びCBQCA(商標)タンパク質定量キットが挙げられ、これらは蛍光変化に依存する超高感度溶液技術であるが、スクアレン誘導体について与えられる範囲に亘って直線的ではない。また、これらの二つの技術は30分の調製時間を必要とする。
【非特許文献1】Anal.Chim.Acta、第282巻(1993年)、第633−641頁に於けるE.Terpetschnigらによる論文
【非特許文献2】M.M.Bradford、Anal.Biochem.、第72巻(1976年)、第248頁
【非特許文献3】O.H.Lowryら、J.Biol.Chem.、第193巻(1951年)、第265頁
【非特許文献4】P.K.Smithら、Anal.Biochem.、第150巻(1985年)、第76頁
【非特許文献5】C.R.Merril、Meth.Enzymol.、第182巻(1990年)、第477頁
【非特許文献6】S.Fazekas de St.Grothら、Biochim.Biophys.Acta、第71巻(1963年)、第377頁
【非特許文献7】E.Havingaら、Synthetic Metals、第69巻(1995年)、第581−582頁
【非特許文献8】Sprenger及びZiegenbein、Agnew.Chem.Int.第6版(1967年)、第533頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、新規なフォトルミネセンス化合物、特に、水又は水含有溶媒混合物に可溶であり、これらの媒体中でそのフォトルミネセンス特性を保有する新規なフォトルミネセンス化合物を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、前記の時間制約が減少するか又は実質的に取り除かれ、より高い感度で、流体中の又はゲルステインとしてのタンパク質の存在を検出するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の式の対称的骨格構造を有する水溶性フォトルミネセンス化合物を提供する。
【0011】
【化2】

【0012】
式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい。
【0013】
本発明に従った特に好ましい化合物には、xが3であるものが含まれる。
【0014】
本発明に従った更に好ましい化合物には、置換されていないか、又は一方若しくは両方のフェニル環が、5位でアルキル基(イソプロピル及びt−ブチルを含む)若しくはハロゲン基によって置換されているものが含まれる。
【0015】
本発明に従った特に好ましい化合物には、2,4−ビス(1−(プロパン−3−スルホン酸)−3,3−トリメチル−2−インドリニリデンメチル)シクロブテンジイリウム−1,3−ジオラート(diolate)又はこのスルホン酸の全ての金属若しくは第四級窒素(即ち、アンモニウム、モノ−、ジ−又はトリアルキルアンモニウム、ピリジニウムなど)塩が含まれる。
【0016】
本発明は、更に、1×10-9〜1モル/リットルの濃度で水又は水含有溶媒混合物に溶けた状態の、下記一般式の対称的骨格構造を有する化合物を含むタンパク質検出剤を提供する。
【0017】
【化3】

【0018】
式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい。
【0019】
本発明は、更に、
(a)下記一般式(式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい)の対称的骨格構造を有する化合物を、1×10-10〜1モル/リットルの濃度で水に溶けた状態に溶解させる工程、
【0020】
【化4】

【0021】
(b)工程(a)の溶液を試験流体サンプルと混合する工程、
(c)そのサンプルの蛍光を測定する工程、及び
(d)この蛍光を、標準値又は標準値群(即ち、較正プロット)と比較して、全タンパク質含有量についての値を得る工程、
を含む流体サンプルの全溶解タンパク質含有量の測定方法を提供する。
【0022】
本発明は、更に、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下又は不存在下で、水性メタノール及び酢酸を含む水/有機/酸混合物中に固定された支持マトリックス(例えば、ポリアクリルアミド、アグロース又はデンプン)中で電気泳動的に分離されたタンパク質の検出及び/又は定量方法であって、このマトリックスを、続いて、1×10-10〜1モル/リットルの濃度で10%メタノール水溶液又は酢酸水溶液に溶けた状態の、下記一般式の対称的骨格構造を有するフォトルミネセンス化合物を用いて、染色し、バンド(帯域)を可視化するために脱色する方法を提供する。
【0023】
【化5】

【0024】
式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい。
【0025】
必要な検出範囲に亘る、タンパク質水溶液の蛍光に関する標準値を確立するために、既知の濃度のタンパク質BSAを含有する溶液の蛍光を、下記の一般式(式中xは3)の対称的骨格構造を有する化合物の5×10-8M水溶液を使用して、624nmの励起波長(ε=1.0×105mol-1cm-1)及び638nmの検出波長で測定した。
染料1
【0026】
【化6】

【0027】
0〜100ng/mLのBSAの範囲に亘る2個の別個の較正プロットについての結果を図1に示し、0〜500ng/mLのBSAの検出範囲に亘る3個の別個の較正プロットについての結果を図2に示し、0〜10μg/mLのBSAの検出範囲に亘る3個の別個の較正プロットについての結果を図3に示す。
【0028】
これらの検出範囲に亘る直線的応答に気づくことが特に際だっている。
【0029】
また、一旦BSAを使用して検量線を作図すると多くのタンパク質濃度を即座に決定できることが、本発明のフォトルミネセンス化合物の利点である。また、この蛍光は高波長にあり、如何なる拡散性のより低い波長の有機蛍光によってもマスクされない。
【実施例】
【0030】
実験での出発物質
【0031】
【化7】

【0032】
2,3,3−トリメチル−1−(プロパン−3−スルホニル)インドレニンを、非特許文献7の文献記載の方法を使用して、過剰の1,3−プロパンスルトン及びトルエン中で2,3,3−トリメチルインドレニンを、ディーン−スターク装置を使用して加熱することによって製造した。冷却して、過剰の溶媒をデカンテーションによって除去し、生成物を石油エーテルで繰り返して洗浄して、赤色油状物質を得た。数週間放置すると、この油状物質から2,3,3−トリメチル−1−(プロパン−3−スルホニル)インドレニンの結晶が生成した。単結晶のX線構造を図4に示す。

染料1の製造
【0033】
【化8】

【0034】
2,4−ビス(1−(プロパン−3−スルホン酸)−3,3−ジメチル−2−インドリニリデンメチル)シクロブテンビス(イリウム)−1,3−ジオラート(diolate)を、非特許文献8の文献記載の方法を使用して、2:1モル量の2,3,3−トリメチル−1−(プロパン−3−スルホニル)インドレニン及び四角酸を、触媒量のキナリン(quinaline)と共に、50/50トルエン/ブタン−1−オール中で、ディーン−スターク装置を使用して還流させることによって製造した。反応溶媒を除去した後、生成物を真空中で集め、石油エーテルによる熱洗浄を繰り返した。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】0〜100ng/mLのBSAの範囲に亘る2個の別個の較正プロットについての結果を示す。
【図2】0〜500ng/mLのBSAの検出範囲に亘る3個の別個の較正プロットについての結果を示す。
【図3】0〜10μg/mLのBSAの検出範囲に亘る3個の別個の較正プロットについての結果を示す。
【図4】2,3,3−トリメチル−1−(プロパン−3−スルホニル)インドレニンの構造についての分子立体配座及び原子命名図式を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式の対称的骨格構造を有する水溶性フォトルミネセンス化合物。
【化1】

(式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい。)
【請求項2】
xが3である請求項1記載のフォトルミネセンス化合物。
【請求項3】
置換されていない、請求項1又は請求項2記載のフォトルミネセンス化合物。
【請求項4】
一方又は両方のフェニル環が、5位で、イソプロピル及びt−ブチルを含むアルキル基又はハロゲン基によって置換されている、請求項1又は請求項2記載のフォトルミネセンス化合物。
【請求項5】
2,4−ビス(1−(プロパン−3−スルホン酸)−3,3−トリメチル−2−インドリニリデンメチル)シクロブテンジイリウム−1,3−ジオラート又はこのスルホン酸の全ての金属若しくは第四級窒素(即ち、アンモニウム、モノ−、ジ−又はトリアルキルアンモニウム、ピリジニウムなど)塩である、請求項1から4のいずれか1項記載のフォトルミネセンス化合物。
【請求項6】
本明細書に於いて及び実施例を参照して実質的に記載された、フォトルミネセンス化合物。
【請求項7】
1×10-10〜1モル/リットルの濃度で水に溶けた状態の、下記一般式の対称的骨格構造を有するフォトルミネセンス化合物を含むタンパク質検出剤。
【化2】

(式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい。)
【請求項8】
(a)下記一般式の対称的骨格構造を有するフォトルミネセンス化合物を、1×10-10〜1モル/リットルの濃度で水に溶けた状態に溶解させる工程、
【化3】

(式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい)
(b)工程(a)の溶液を試験流体サンプルと混合する工程、
(c)そのサンプルの蛍光を測定する工程、及び
(d)この蛍光を、標準値と比較して全溶解タンパク質含有量についての値を得る工程、
を含む流体サンプルの全溶解タンパク質含有量の測定方法。
【請求項9】
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下又は不存在下で、水性メタノール及び酢酸を含む水/有機/酸混合物中に固定された支持マトリックス中で電気泳動的に分離されたタンパク質の検出及び/又は定量方法であって、このマトリックスを、続いて、1×10-10から1モル/リットルの濃度で10%メタノール水溶液又は酢酸水溶液に溶けた状態の、下記一般式の対称的骨格構造を有するフォトルミネセンス化合物を用いて、染色し、帯域を可視化するために脱色する方法。
【化4】

(式中、xは全ての整数を表すことができ、フェニル環は置換されていてもよい。)
【請求項10】
支持マトリックスが、ポリアクリルアミド、アグロース又はデンプンである、請求項9記載の方法。

【公表番号】特表2007−507576(P2007−507576A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530575(P2006−530575)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004167
【国際公開番号】WO2005/033245
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(500530340)コベントリー ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】