蛍光及び磁気共鳴によるデュアルモーダルイメージング用ナノ粒子、及びその製造方法
【課題】 MRI用の陽性造影機能を有する新規なナノ粒子及びその製造方法を提供し、さらには、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つ新規なナノ粒子を提供する。
【解決手段】 母体として、ガーネット構造を有する、YAGナノ粒子を用い、その表面にガドリウム(Gd)を局在させることにより、MRI用の陽性造影剤機能を有するナノ粒子とすることができ、さらに、母体のYAGナノ粒子を、Yb3+等の希土類金属がドープした固溶体とすることにより、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つプローブを得ることができる。
【解決手段】 母体として、ガーネット構造を有する、YAGナノ粒子を用い、その表面にガドリウム(Gd)を局在させることにより、MRI用の陽性造影剤機能を有するナノ粒子とすることができ、さらに、母体のYAGナノ粒子を、Yb3+等の希土類金属がドープした固溶体とすることにより、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つプローブを得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機光学微粒子、特に、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つナノ微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特定の生体高分子に吸着もしくは結合する物質に蛍光物質を担持させた蛍光標識物質を用いて、生体高分子を光学的に検出する種々の測定方法及び物質の開発が行われている。このような蛍光標識物質に担持させる蛍光物質としては、通常、有機色素、金属錯体、半導体ナノ粒子などが用いられている。
しかしながら、有機色素を用いた蛍光標識化合物では、蛍光波長が不安定で、寿命が短いという問題があり、また、金属錯体をもちいた蛍光標識化合物では配位子等によって発光波長、発光強度が変化しやすいという問題がある。そのような不安定性を解決する材料として半導体ナノ粒子を蛍光物質に用いる方法が検討されている。しかしながら半導体ナノ粒子の粒径を制御することは容易ではなく、半導体ナノ粒子の粒径によって発光波長が異なり検出される蛍光強度が異なるという問題が生ずる。また、一般に、半導体ナノ粒子を効率よく発光させるためには、半導体ナノ粒子の表面を不動態化するため、他の半導体等でコーティングされたコアシェル構造と言われる構造の粒子を製造するということが行われており、製造コストがかかる。さらにカドミウムやセレンを原料とする半導体ナノ粒子は毒性があるという問題があった。
【0003】
本発明者等は、こうした問題点に鑑みて、蛍光物質として安定な無機光学微粒子を用い、特定の生体由来の物質に吸着もしくは結合する物質と一体化させることによって、安定な蛍光標識物質が得られることを見いだしており、このような無機光学結晶として、特に、イットリウム、アルミニウム、酸素の元素からなるガーネット構造を有する(以下、「YAG」という。)結晶に、近赤外領域に発光スペクトルを持つ、イッテルビウム(Yb)、プラセオジム(Pr)、エルビウム(Er)、ネオジウム(Nd)等の希土類元素成分をドーパントとして含むものが好ましいことを見いだしている(特許文献1、2)。
【0004】
該特許文献に記載の発明では、発光標識試薬として、近赤外領域の光を吸収する無機発光微粒子を用いるので、測定用の励起光源および検出装置は、光通信等で利用されている一般的な近赤外領域の光源を使用すればよい。この近赤外領域の光源は、高出力・長寿命の特性を有するだけでなく、安価かつ容易に入手することができるため、トータル的なコストを削減することができる。また、近赤外領域の光を用いることにより、ヘモグロビンやメラニンなどの可視光を吸収する色素を有する生体組織においても高い透過性を示すため、測定対象の試料の内部情報を得ることが容易となり、三次元的なイメージを得ることもできるようになる。
したがって、近赤外光は、内部観察のための新しい非侵襲検出器としても応用が検討されている。
【0005】
また、他の非侵襲の撮像法の1つに、MRI(Magnetic resonance imaging,磁気共鳴画像法)がある。このMRIによる検査・診断は、放射線被爆の問題がなく、非侵襲的に生体の任意断面を得られることから、急速に普及している画像診断技術である。
MRIで観測しているのは、有機化学でよく用いられるNMRと同じくプロトン(1H)の緩和であるが、この2つの違いは、NMRはできるだけ均一な試料を均一な磁場においてNMRの信号を得るのであるが、その信号は発生部位の場所を特定する必要がないのに対し、MRIは部位の場所と信号の強度を特定しなければならないというところにある。
【0006】
MRIを用いた血管撮影などにおいては、コントラストを増強して鮮明な画像を得るために、MRI用造影剤が広く使用されている。
近年、MRI用造影剤の緩和度(relaxivity) Rを大きくすることにより、より優れた造影能力を持つ造影剤の開発が行われている。陽性造影剤については、従来から用いられているジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などの多座配位子とガドリニウムイオン(Gd3+)によるガドリニウム錯体を用いて、高いR1値を出すことが研究されている(特許文献3、4)。これは、Gdは遷移元素及びランタニド元素の中で最も多い7個の孤立電子を持ち、最も強い常磁性元素であるためである。しかしながら、単体のGd3+は、他の重金属と同様に毒性が強く、そのままでは体内投与はできないので、前記のGd−DTPAなどでGd3+をキレート化して無毒化が行われているが、副作用が出る可能性がある。
【0007】
また、陰性造影剤については、主に酸化鉄粒子が用いられている。この酸化鉄粒子は超磁性としての性質を持っており、外部磁場が存在する環境下において大きな磁性を持ち、この磁性により酸化鉄粒子周辺の磁場が乱され、大きなR2値を得ることができる。
しかしながら、MRIによる画像診断を行なっていくにあたり、病変部位が特異的に白くなるようなコントラストを生み出す陽性造影剤のほうが明らかに診断は容易であり、陰性造影剤を使用した場合、その部位が特異的に暗くなっているのか、または偶然にその部位のMRシグナル強度が低くて画像上で暗くなっているのか、という判別が必要になるという問題がある。
【0008】
一方、無機化合物を主体とする公知のMRI用陽性造影剤は、主として金属の酸化物から成るが、このような無機化合物を主体とする公知のMRI用造影剤は、粒子が磁性を持ち、それによりR2値が大きくなるため、陽性造影剤としての使用が困難となってくるという問題点を有する。
こうした問題を解決する1つに、金属塩又はその水和物で構成された微粒子からなる陽性造影剤が提案されている(特許文献5)。
【0009】
さらに、最近、複数の撮像法を同時に実施できるマルチモーダルイメージングが注目され始めている。
マルチモーダルイメージングとは、2つ以上のモーダリティ(医療用画像における撮画手段)をもつイメージングである。2つ以上の撮影手段を一つの測定装置で行うため、得られた情報を補い合うことができる。また、一つの装置で画像を管理することから、複数の種類の画像を合成させ、より精密な画像を作成することも容易になる等の特徴がある。現在実際に使用されているマルチモーダルの装置としてPET−CTがある。PETは、陽電子放射断層撮影であり、癌の検査方法の1つとして知られている。CTはコンピュータ断層撮影であり、調べたい部位によって造影剤を使用したりする。
【0010】
このマルチモーダリティを利用するための造影剤として、マルチモーダルイメージングプローブの開発が進められており、近年、MRIと光学特性に注目したものの研究が始まっている。
例えば、ローダミン色素をドープしたシリカを核として、周りに前記の陰性造影剤である酸化鉄を結合させたナノ粒子を作成し、蛍光とT2強調像が得られて神経芽細胞腫のイメージングができるという報告がなされている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−230877号公報
【特許文献2】国際公開第2005/073342号パンフレット
【特許文献3】国際公開第98/56427号パンフレット
【特許文献4】特開2001−233877号公報
【特許文献5】特開2008−37856号公報
【非特許文献1】J.H.Lee, Y.W.Jun, S.I.Yeon, J.S.Shin, J.Cheon, “Dual-Mode Nanoparticle Probes for High-PerformanceMagnetic Resonance and Fluorescence Imaging of Neuroblastoma ”, Angew. Chem. Int. Ed., 45,8160-8162(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、MRI用の陽性造影機能を有する新規なナノ粒子及びその製造方法を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つ新規なナノ粒子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、デュアルモーダルイメージングにおいて、MRIと近赤外蛍光イメージングに注目した。即ち、前述のとおり、MRIは非侵襲性であり、近赤外蛍光イメージングは、600nm〜1200nmに生体透過性のある近赤外領域を利用した撮像法で短時間での解析や細胞組織レベルの検出が可能である。そこで、本発明者等は、MRIにおいて4f殻に7つの不対電子をもつ常磁性のGd3+がT1造影剤として広く利用されていること、また、近赤外蛍光において、Yb3+等の希土類金属が、近赤外励起及び発光を示すことから、それぞれに注目した。
そして、まず、YAGナノ粒子を母体とする粒子を用いて、MRI用の陽性造影剤機能を有するナノ粒子を得る方法について検討したところ、母体となるナノ粒子の表面にガドリウム(Gd)を局在させることにより、MRI用の陽性造影剤機能を有するナノ粒子とすることができることが判明した。また、そのためには、ナノ粒子の製造工程を、二段階とすることが必要であることも判明した。さらに、このYAG粒子に、Yb3+等の希土類金属をドープさせることにより、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つナノ粒子を得ることができることも判明した。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
[1]ガーネット構造をもつ、YAG(イットリウム−アルミニウム)ナノ粒子の表面にガドリウム(Gd)が局在していることを特徴とするナノ粒子。
[2]前記YAGナノ粒子は、近赤外領域に発光機能を有する原子の一つ又はまたは複数が、前記のガーネット構造を有する母体に固溶されていることを特徴する前記[1]のナノ粒子。
[3]前記近赤外領域に発光機能を有する原子が、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数である前記[2]のナノ粒子。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかのナノ粒子からなることを特徴とする磁気共鳴画像法用造影剤。
[5]前記[2]〜[4]のいずれかのナノ粒子からなることを特徴とする近赤外蛍光及び磁気共鳴によるデュアルイメージング用プローブ。
[6]前記[1]のナノ粒子の製造方法であって、イットリウムの無機塩とアルミニウムのアルコキシドと有機溶媒を含有する出発原料を、加圧下で加熱することによりYAGナノ粒子(イットリウム−アルミニウム)のコロイド溶液を得た後、更にガドリニウムの無機塩と有機溶媒を加え、再度加圧下で加熱する工程を有することを特徴とする前記[1]のナノ粒子の製造方法。
[7]前記無機塩が酢酸塩であり、前記有機溶媒が1,4−ブタンジオールであることを特徴とする前記[6]のナノ粒子の製造方法。
[8]前記出発原料が、光励起による発光特性を示す原子の一つ又は複数の無機塩を含有することを特徴とする前記[6]又は[7]のナノ粒子の製造方法。
[9]前記近赤外領域に発光機能を有する原子が、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数である前記[8]のナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、無機材料からなる、陽性造影剤としての機能を有するナノ粒子が得られるので、MRIプローブを提供することができる。また、本発明のナノ粒子として、近赤外領域に発光スペクトルを有するナノ粒子を用いることにより、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つナノ粒子が得られるので、デュアルモーダルイメージング用プローブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明におけるナノ粒子の母体となる微粒子には、ガーネット構造をとる微粒子が用いられる。
ガーネットと呼ばれる結晶構造を持つ化合物の化学式は、一般的に化学式A3B2C3O12等で表されるものであって、Y3Al5O12を始め、Gd3Ga5O12、Li5La3Bi2O12、Li6SrLa2Bi2O12やMg3Al2(SiO4)3など表記や元素は様々であり、上記一般的な化学式のA、B、Cサイトに原子が入り込んでいる。
本発明においては、ガーネット構造をとる微粒子として、上記のイットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、酸素(O)の元素からなるガーネット構造(以下、「YAG」という。)の微粒子が用いられるが、その理由は、本発明等が既に研究を行い、YAG:Ce等のYAGを母体とする微粒子が、バイオイメージングへの応用が可能であることが実証されており、また、近赤外レーザの結晶母体として利用されているためである。
【0016】
本発明において、母体となるYAG粉末粒子の作製方法には、従来、共沈法、ゾル−ゲル法、燃焼法、固相法、水熱合成などが知られているが、近年では、有機溶媒を用いたソルボサーマル法が用いられることが多く、このソルボサーマル法の中でも、グリコール溶媒を用いた方法は、通常、グリコサーマル法と呼ばれ、グリコール溶媒として、特に1,4−ブタンジオール(1,4−BD)が用いられている。
【0017】
このソルボサーマル法は、有機溶媒を含む溶液中に出発物質を溶解し、溶媒の沸点以上の温度で反応させることによって、結晶性の高い目的物質を合成する技術である。この方法では、オートクレーブ(AC)と呼ばれる耐圧装置などを使用して高圧状態で合成を行うものであり、一般には100℃から1000℃の温度と、1atmから10,000atmの圧力の下で、溶媒を用いて行われる。該方法によれば、平均粒子サイズが約30nmで狭い粒度分布の粒子の作製が可能である。本発明においては、特に1,4−ブタンジオール(1,4−BD)を用いたグリコサーマル法が好ましく用いられる。
【0018】
本発明の、MRI用の陽性造影機能を有する新規なナノ粒子は、前記YAGナノ粒子の粒子表面にガドリニウム(Gd)が、局在している点に特徴を有している。
すなわち、後述する実施例から明らかなように、MRI用陽性造影剤としての機能を有するナノ粒子を得るために、Yの全部をGdに置き換えたGd3Al5O12(ガドリニウムアルミニウムガーネット)ナノ粒子、又は、YAGナノ粒子中にGdをxモル%ドープして得られる(GdxY1−x)3Al5O12ナノ粒子について検討したところ、いずれも充分なMRI用陽性造影剤としての機能は得られなかった。これに対し、生成したYAGナノ粒子の表面のYの一部だけをGdに置き換え、YAGナノ粒子の粒子表面にガドリニウム(Gd)を局在させたものは、MRI用の陽性造影剤としての機能を有するものであることが判明した。
【0019】
本発明のMRI用陽性造影剤としての機能を有するナノ粒子は、イットリウムの無機塩とアルミニウムのアルコキシドと有機溶媒を含有する液体を、加圧下で加熱することによりYAGナノ粒子(イットリウム−アルミニウム)のコロイド溶液を得た後、更にガドリニウムの無機塩と有機溶媒を加え、再度加圧下で加熱するという二段階の工程を経て製造される。
本発明において、好ましくは、二段階のグリコサーマル法が用いられるが、具体的には、例えば、無機塩に酢酸塩、アルコキシドにアルミニウムイソプロポキシドを用い、以下のようにして製造される。
第1段階:
オートクレーブ(AC)の反応容器に、酢酸イットリウム四水和物とアルミニウムトリイソプロポキシドを、Y/Al=3/5となるように入れ、そこに1,4−BDを加えて攪拌した後、攪拌しながら室温から300℃まで90分で昇温し、280℃又は300℃で2時間保持する。その後、室温まで空冷して、母体となるYAGナノ粒子のコロイド溶液を得る。
第2段階:
得られたYAGナノ粒子のコロイド溶液に、酢酸ガドリニウム4水和物と1,4−BDを加え、上記と同様にして、再度オートクレーブ処理して、コロイド溶液を得、得られたコロイド溶液を、洗浄・乾燥を行うことで、Gd−YAGナノ粒子を得る。
【0020】
本発明において、Gd−YAGナノ粒子におけるGdのモル比は、Gd:Y=0.1:99.9〜25:75、好ましくは、1:99〜15:85が好ましい。少なすぎると、造影能が低下し、また、多すぎると陽性造影剤として作用しないためである。
【0021】
本発明の微粒子の平均粒径は、プローブとして用いた場合に容易に拡散し、また、造影剤として優れた性能を発揮するために、0.5〜500nmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜200nmであり、さらに好ましくは0.5〜50nmである。
【0022】
本発明において、上記のナノ粒子に、近赤外発光用の機能を兼用させるためには、母体となるYAGナノ粒子として、近赤外領域に発光機能をするYAGナノ粒子を用いる。
発光機能を有するYAG微粒子とは、光の刺激によって励起され、異なる波長の光を発するものであり、光励起による発光(蛍光)特性を示す原子の一つ、または複数を、前記のガーネット構造を有する母体に固溶(ドープ)させた結晶性微粒子である。
【0023】
本発明において用いられる近赤外領域に発光機能を持つYAG微粒子は、近赤外領域(波長650nm以上)の光を照射することにより励起され、近赤外領域(波長650〜1600nm)の光を発するものであって、希土類元素である、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数の成分をドーパントとして含むものが用いられる。
本発明においては、イッテルビウム(Yb)が好ましく用いられる。また、複数の成分を用いる態様の1つとして、このイッテルビウム(Yb)からエネルギー移動を起こすツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、エルビウム(Er)を、イッテルビウム(Yb)と一緒に含有させることも好ましい。
【0024】
本発明において、近赤外発光の機能とMRI用陽性造影剤としての機能を有するナノ粒子は、前述の第1段階において、前記出発原料であるイットリウムの無機塩の一部を所定量の近赤外領域に発光機能を有する原子の無機塩に代える以外は、同様の二段階の方法を行うことにより製造される。
本発明において、ドープする近赤外領域に発光機能を有する原子の量は、1〜90モル%が好ましく、より好ましくは、5〜30モル%である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について、製造例を用いて具体的に説明する。製造例では、近赤外領域で励起し近赤外領域で発光する原子として、イッテルビウム(Yb)を用いた。しかしながら、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
なお、必要に応じて、以下の簡略した表記を用いることとする。
・YAG:Y3Al5O12(イットリウムアルミニウムガーネット)
・GAG:Gd3Al5O12(ガドリニウムアルミニウムガーネット)
・(GdY)AG:(GdxY1−x)3Al5O12 (Gdxmol%ドープYAG)
例えば、(Gd0.75Y2.25)AGは、Gdを25mol%ドープしたYAG
・YAG:Yb3+:Y3(1−y)Al5O12:Yb3+3y(Yb3+ymol%ドープしたYAG)
通常、Yb3+のドープ量を表す時は%で表す。%=mol%
例えば、YAG:Yb3+5%は、Y2.85Al5O12:Yb3+0.15(Yb3+5mol%ドープしたYAG)
・Gd−YAG:Yb3+:Gd添加YAG:Yb3+
・酢酸Y:酢酸イットリウム4水和物
・酢酸Gd:酢酸ガドリニウム4水和物
・酢酸Yb:酢酸イッテルビウム4水和物
・AIP:アルミニウムイソプロポキシド
・1,4−BD:1,4−ブタンジオール
また、得られた試料の走査型電子顕微鏡(SEM)観察には「S-4700、HITACHI」を使用し、粉末X線回折装置(XRD)には、「RINT 2200、Rigaku」を使用した。
【0026】
(製造例1)
(GdY)AG固溶体ナノ粒子の製造
オートクレーブ(AC)の反応容器(金属筒)に、酢酸Y、酢酸Gd及びAIPを下記の表1に示す規定量入れ、そこに1,4−BDを加え、軽く攪拌した後、ACにセットした。300rpmで攪拌しながら、室温から300℃まで90分で昇温し、300℃で2時間保持した。室温まで空冷したコロイド溶液を、95%メタノール変性アルコールにより遠心洗浄を行い、50℃で1日乾燥させ、粉末状の(GdY)AGナノ粒子を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
結果及び考察
得られた(GdY)AGナノ粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行った。
図1に、Gdドープ量を変化させて合成した(GdY)AGナノ粒子のSEM像を示す。
図中、Gdドープ量(モル%)は、(a)100、(b)75、(c)50、(d)25、(e)0である。これらの画像から算出した数平均粒子径を以下の表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
得られた(GdY)AGナノ粒子について、粉末X線回折装置(XRD)による結晶性評価を行った。
図2に、Gdドープ量を変化させて合成した(GdY)AGナノ粒子のXRDにおける第一強線(420)の拡大図とピーク位置を示す。
試料のX線回折ピークは単相のガーネット構造に帰属された。また、(GdY)AG固溶体ではGd濃度の増加に伴い第一強線である(420)ピークは低角度側にシフトした。これはY3+よりもイオン半径の大きなGd3+の含有量が増加することによって面間隔が増大したことに起因すると考えられる。
【0031】
得られた(GdY)AGナノ粒子(Gd=25%、50%、75%、及び100%)をアガロースゲルと混ぜ、MRIの測定を行い、プローブとしての性能を調べた。
図3に、アガロースゲルに分散させたナノ粒子のMR造影画像を示す。T2(陰性)画像ではGdの含有濃度に関わらず、粒子濃度が増大するに従って、画像はより暗くなった。しかし、T1(陽性)画像では、粒子濃度が増大するに従い像が暗くなるという、従来のGd錯体のT1造影剤とは逆の傾向を示した。これには粒子中のGd含有量に応じた次の2つの原因が考えられる。
(1)Gd含有量が低濃度の場合、粒子表面に存在するGdが僅かであり、水分子の1Hと粒子表面Gd3+との双極子−双極子相互作用による磁気緩和が不十分である。
(2)Gd含有量が高濃度の場合、(GdY)AG固溶体ナノ粒子の磁化率効果が大きく、T2緩和の影響を大きく受けて正常なT1造影が行えない。
【0032】
(製造例2)
Gd−YAGナノ粒子の製造
製造例1と同様の操作により、規定量の酢酸YとAIPを1,4−BDに投入し、YAGコロイド溶液を得た。次に、得られたYAGコロイド溶液に、酢酸Gdと1,4−BDを加え、再度オートクレーブ処理し、前述と同様の洗浄・乾燥を行うことで、Gd−YAGナノ粒子(Y:Gd=93.0:7.0)を得た。
【0033】
結果及び考察
上記の二段階による製造方法で得られたGd−YAGナノ粒子について、走査型電子顕微鏡SEM観察を行った。
図4の右側に、Gd−YAGナノ粒子のSEM像を示す。参考として、同図の左側に、YAGナノ粒子のSEM像を示す。
画像から算出した、YAGナノ粒子及びGd−YAGナノ粒子の数平均粒径は、それぞれ、56.0±10.0nm、及び55.5±7.2nmであって、前述の製造例1において得られた(GdY)AGナノ粒子の場合とは異なり、両者に粒径の差異は見られなかった。
【0034】
得られたGd−YAGナノ粒子について、粉末X線回折装置(XRD)による結晶性評価を行った結果、X線回折ピークは単相のガーネット構造に帰属でき、Gdを後添加したことによる副生成物の生成は確認されなかった。また、第一強線である(420)ピークは、Gd後添加により低角度側にシフトした。これはイオン半径の大きなGd3+がY3+と置換固溶し、面間隔が増大したためと考えられる。
【0035】
得られたGd−YAGナノ粒子をアガロースゲルと混ぜ、MRIの測定を行い、プローブとしての性能を調べた。
図5に、アガロースゲルに分散させたGd−YAGナノ粒子のMR造影画像を示す。これよりGd−YAGナノ粒子はT1及びT2造影剤として機能することが確認され、単位Gd濃度あたりの緩和能R1、R2はそれぞれR1=6.6mM−1s−1、R2=56.0mM−1s−1で、R2/R1=8.48であった。
前述の(GdY)AG固溶体ナノ粒子の場合と異なり、Gd−YAGナノ粒子がT1造影剤として機能した理由は次のように考えられる。
Gd−YAGでは、GdがYとイオン交換して固溶できるのは粒子表面近傍だけである。このため、表面近傍でのGd3+−1H間の双極子−双極子相互作用が十分に行われ、またGd含有量が少ないため磁化率効果が小さいのでT2緩和の影響が抑制され、その結果、T1造影が正常に示されたものと考えられる。
【0036】
(製造例3)
YAG:Yb3+ナノ粒子の製造
製造例1と同様の操作により、規定量の酢酸Y、酢酸Yb(Y:Yb=95:5)及びAIPを1,4−BDに投入し、同様の操作によりYAG:Yb3+コロイド溶液を得、前述と同様の洗浄・乾燥を行うことで、YAG:Yb3+5%ナノ粒子を得た。
【0037】
(製造例4)
Gd−YAG:Yb3+ナノ粒子の製造
製造例1と同様の操作により、規定量の酢酸Y、酢酸Yb(Y:Yb=95:5)及びAIPを1,4−BDに投入し、同様の操作によりYAG:Yb3+コロイド溶液を得た。次に、得られたYAG:Yb3+コロイド溶液に、酢酸Gdと1,4−BDを加え、再度オートクレーブ処理し、前述と同様の洗浄・乾燥を行うことで、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子(Y:Gd:Yb=86.1:8.2:5.7)を得た。
【0038】
結果及び考察
得られたYAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子について、SEM観察を行った。
図6及び図7に、YAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のSEM像を示す。両画像から算出した、YAG:Yb3+5%ナノ粒子及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子の数平均粒径は、それぞれ59.9±9.7nm、及び61.6±12.9nmであって、Gdを添加したことによる粒径の優位な差違は観察されなかった。
【0039】
得られたYAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子について、XRDによる結晶評価を行った。
図8に、YAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のXRDプロファイルを示す。
図8から明らかなように、いずれもX線回折ピークは単相のガーネット構造に帰属でき、副生成物は確認されなかった。また、第一強線(420)は、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のほうが低角度側へシフトした。これは、面間隔の増大を示す。
前記SEMの結果と併せると、イオン単位の大きなGd3+がY3+と置換固溶したためであろうと考えられる。
【0040】
得られたGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子について、近赤外レーザー励起によるスペクトルを測定した。
図9に、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子の吸収スペクトルと、近赤外レーザー(波長940nm)励起による蛍光スペクトルを示す。
図から明らかなように、波長940nmの近赤外レーザーで励起すると、Yb3+の2F5/2→2F7/2遷移による波長1030nmをピークとする近赤外蛍光が観測された。
【0041】
得られたGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子と市販の有機色素について、発光強度の安定性を比較した。
図10に、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子と有機色素(Alexa 680)の発光強度の経時変化を示す。
図から明らかなように、2時間の励起光照射により、有機色素であるAlexa 680は、35%まで退色したのに対し、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子は全く退色しなかった。
【0042】
得られたGd−YAG:Yb3+ナノ粒子をアガロースゲルと混ぜ、MRIの測定を行い、プローブとしての性能を調べた。
図11に、アガロースゲルに分散させたGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のMR造影画像を示す。
図に示すように、Gd濃度が高くなるに従って、T1では信号強度が高くなり、T2では信号強度が低くなっている。
【0043】
Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のGd濃度を変化させて、緩和速度との関係を調べた。
図12に、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のGd濃度に対するT1及びT2緩和速度のプロットを示す。
単位Gd濃度あたりの緩和能R1、R2はそれぞれR1=5.60mM−1s−1、R2=30.4mM−1s−1であり、R2/R1は、5.42となり、前述のGd−YAGより小さい値となった。
【0044】
以上のとおり、グリコサーマル法により(GdY)AG固溶体ナノ粒子及びGd−YAGナノ粒子を作製したところ、前者はT2造影剤、後者はT1造影剤として機能することが示された。また、Gd−YAG:Yb3+ナノ粒子はT1造影剤として機能すると同時に、近赤外レーザー励起によりYb3+の2F5/2→2F7/2遷移による近赤外発光を示し、デュアルモーダルイメージングに応用できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】Gdドープ量を変化させて合成した(GdY)AGナノ粒子のSEM像を示す図。
【図2】Gdドープ量を変化させて合成した(GdY)AGナノ粒子のXRDにおける第一強線(420)の拡大図とピーク位置を示す。
【図3】(GdY)AGナノ粒子のMR造影画像を示す図。
【図4】YAG粒子及びGd−YAGナノ粒子のSEM像を示す図。
【図5】Gd−YAGナノ粒子のMR造影画像を示す図。
【図6】YAG:Yb3+5%ナノ粒子のSEM像を示す図。
【図7】Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のSEM像を示す図。
【図8】YAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のXRDプロファイルを示す図。
【図9】Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子の吸収スペクトルと、近赤外レーザ(波長940nm)励起による蛍光スペクトルを示す図。
【図10】Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子と有機色素(Alexa 680)の発光強度の経時変化を示す図。
【図11】アガロースゲルに分散させたGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のMR造影画像を示す図。
【図12】Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のGd濃度に対するT1及びT2緩和速度を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機光学微粒子、特に、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つナノ微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特定の生体高分子に吸着もしくは結合する物質に蛍光物質を担持させた蛍光標識物質を用いて、生体高分子を光学的に検出する種々の測定方法及び物質の開発が行われている。このような蛍光標識物質に担持させる蛍光物質としては、通常、有機色素、金属錯体、半導体ナノ粒子などが用いられている。
しかしながら、有機色素を用いた蛍光標識化合物では、蛍光波長が不安定で、寿命が短いという問題があり、また、金属錯体をもちいた蛍光標識化合物では配位子等によって発光波長、発光強度が変化しやすいという問題がある。そのような不安定性を解決する材料として半導体ナノ粒子を蛍光物質に用いる方法が検討されている。しかしながら半導体ナノ粒子の粒径を制御することは容易ではなく、半導体ナノ粒子の粒径によって発光波長が異なり検出される蛍光強度が異なるという問題が生ずる。また、一般に、半導体ナノ粒子を効率よく発光させるためには、半導体ナノ粒子の表面を不動態化するため、他の半導体等でコーティングされたコアシェル構造と言われる構造の粒子を製造するということが行われており、製造コストがかかる。さらにカドミウムやセレンを原料とする半導体ナノ粒子は毒性があるという問題があった。
【0003】
本発明者等は、こうした問題点に鑑みて、蛍光物質として安定な無機光学微粒子を用い、特定の生体由来の物質に吸着もしくは結合する物質と一体化させることによって、安定な蛍光標識物質が得られることを見いだしており、このような無機光学結晶として、特に、イットリウム、アルミニウム、酸素の元素からなるガーネット構造を有する(以下、「YAG」という。)結晶に、近赤外領域に発光スペクトルを持つ、イッテルビウム(Yb)、プラセオジム(Pr)、エルビウム(Er)、ネオジウム(Nd)等の希土類元素成分をドーパントとして含むものが好ましいことを見いだしている(特許文献1、2)。
【0004】
該特許文献に記載の発明では、発光標識試薬として、近赤外領域の光を吸収する無機発光微粒子を用いるので、測定用の励起光源および検出装置は、光通信等で利用されている一般的な近赤外領域の光源を使用すればよい。この近赤外領域の光源は、高出力・長寿命の特性を有するだけでなく、安価かつ容易に入手することができるため、トータル的なコストを削減することができる。また、近赤外領域の光を用いることにより、ヘモグロビンやメラニンなどの可視光を吸収する色素を有する生体組織においても高い透過性を示すため、測定対象の試料の内部情報を得ることが容易となり、三次元的なイメージを得ることもできるようになる。
したがって、近赤外光は、内部観察のための新しい非侵襲検出器としても応用が検討されている。
【0005】
また、他の非侵襲の撮像法の1つに、MRI(Magnetic resonance imaging,磁気共鳴画像法)がある。このMRIによる検査・診断は、放射線被爆の問題がなく、非侵襲的に生体の任意断面を得られることから、急速に普及している画像診断技術である。
MRIで観測しているのは、有機化学でよく用いられるNMRと同じくプロトン(1H)の緩和であるが、この2つの違いは、NMRはできるだけ均一な試料を均一な磁場においてNMRの信号を得るのであるが、その信号は発生部位の場所を特定する必要がないのに対し、MRIは部位の場所と信号の強度を特定しなければならないというところにある。
【0006】
MRIを用いた血管撮影などにおいては、コントラストを増強して鮮明な画像を得るために、MRI用造影剤が広く使用されている。
近年、MRI用造影剤の緩和度(relaxivity) Rを大きくすることにより、より優れた造影能力を持つ造影剤の開発が行われている。陽性造影剤については、従来から用いられているジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などの多座配位子とガドリニウムイオン(Gd3+)によるガドリニウム錯体を用いて、高いR1値を出すことが研究されている(特許文献3、4)。これは、Gdは遷移元素及びランタニド元素の中で最も多い7個の孤立電子を持ち、最も強い常磁性元素であるためである。しかしながら、単体のGd3+は、他の重金属と同様に毒性が強く、そのままでは体内投与はできないので、前記のGd−DTPAなどでGd3+をキレート化して無毒化が行われているが、副作用が出る可能性がある。
【0007】
また、陰性造影剤については、主に酸化鉄粒子が用いられている。この酸化鉄粒子は超磁性としての性質を持っており、外部磁場が存在する環境下において大きな磁性を持ち、この磁性により酸化鉄粒子周辺の磁場が乱され、大きなR2値を得ることができる。
しかしながら、MRIによる画像診断を行なっていくにあたり、病変部位が特異的に白くなるようなコントラストを生み出す陽性造影剤のほうが明らかに診断は容易であり、陰性造影剤を使用した場合、その部位が特異的に暗くなっているのか、または偶然にその部位のMRシグナル強度が低くて画像上で暗くなっているのか、という判別が必要になるという問題がある。
【0008】
一方、無機化合物を主体とする公知のMRI用陽性造影剤は、主として金属の酸化物から成るが、このような無機化合物を主体とする公知のMRI用造影剤は、粒子が磁性を持ち、それによりR2値が大きくなるため、陽性造影剤としての使用が困難となってくるという問題点を有する。
こうした問題を解決する1つに、金属塩又はその水和物で構成された微粒子からなる陽性造影剤が提案されている(特許文献5)。
【0009】
さらに、最近、複数の撮像法を同時に実施できるマルチモーダルイメージングが注目され始めている。
マルチモーダルイメージングとは、2つ以上のモーダリティ(医療用画像における撮画手段)をもつイメージングである。2つ以上の撮影手段を一つの測定装置で行うため、得られた情報を補い合うことができる。また、一つの装置で画像を管理することから、複数の種類の画像を合成させ、より精密な画像を作成することも容易になる等の特徴がある。現在実際に使用されているマルチモーダルの装置としてPET−CTがある。PETは、陽電子放射断層撮影であり、癌の検査方法の1つとして知られている。CTはコンピュータ断層撮影であり、調べたい部位によって造影剤を使用したりする。
【0010】
このマルチモーダリティを利用するための造影剤として、マルチモーダルイメージングプローブの開発が進められており、近年、MRIと光学特性に注目したものの研究が始まっている。
例えば、ローダミン色素をドープしたシリカを核として、周りに前記の陰性造影剤である酸化鉄を結合させたナノ粒子を作成し、蛍光とT2強調像が得られて神経芽細胞腫のイメージングができるという報告がなされている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−230877号公報
【特許文献2】国際公開第2005/073342号パンフレット
【特許文献3】国際公開第98/56427号パンフレット
【特許文献4】特開2001−233877号公報
【特許文献5】特開2008−37856号公報
【非特許文献1】J.H.Lee, Y.W.Jun, S.I.Yeon, J.S.Shin, J.Cheon, “Dual-Mode Nanoparticle Probes for High-PerformanceMagnetic Resonance and Fluorescence Imaging of Neuroblastoma ”, Angew. Chem. Int. Ed., 45,8160-8162(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、MRI用の陽性造影機能を有する新規なナノ粒子及びその製造方法を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つ新規なナノ粒子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、デュアルモーダルイメージングにおいて、MRIと近赤外蛍光イメージングに注目した。即ち、前述のとおり、MRIは非侵襲性であり、近赤外蛍光イメージングは、600nm〜1200nmに生体透過性のある近赤外領域を利用した撮像法で短時間での解析や細胞組織レベルの検出が可能である。そこで、本発明者等は、MRIにおいて4f殻に7つの不対電子をもつ常磁性のGd3+がT1造影剤として広く利用されていること、また、近赤外蛍光において、Yb3+等の希土類金属が、近赤外励起及び発光を示すことから、それぞれに注目した。
そして、まず、YAGナノ粒子を母体とする粒子を用いて、MRI用の陽性造影剤機能を有するナノ粒子を得る方法について検討したところ、母体となるナノ粒子の表面にガドリウム(Gd)を局在させることにより、MRI用の陽性造影剤機能を有するナノ粒子とすることができることが判明した。また、そのためには、ナノ粒子の製造工程を、二段階とすることが必要であることも判明した。さらに、このYAG粒子に、Yb3+等の希土類金属をドープさせることにより、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つナノ粒子を得ることができることも判明した。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
[1]ガーネット構造をもつ、YAG(イットリウム−アルミニウム)ナノ粒子の表面にガドリウム(Gd)が局在していることを特徴とするナノ粒子。
[2]前記YAGナノ粒子は、近赤外領域に発光機能を有する原子の一つ又はまたは複数が、前記のガーネット構造を有する母体に固溶されていることを特徴する前記[1]のナノ粒子。
[3]前記近赤外領域に発光機能を有する原子が、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数である前記[2]のナノ粒子。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかのナノ粒子からなることを特徴とする磁気共鳴画像法用造影剤。
[5]前記[2]〜[4]のいずれかのナノ粒子からなることを特徴とする近赤外蛍光及び磁気共鳴によるデュアルイメージング用プローブ。
[6]前記[1]のナノ粒子の製造方法であって、イットリウムの無機塩とアルミニウムのアルコキシドと有機溶媒を含有する出発原料を、加圧下で加熱することによりYAGナノ粒子(イットリウム−アルミニウム)のコロイド溶液を得た後、更にガドリニウムの無機塩と有機溶媒を加え、再度加圧下で加熱する工程を有することを特徴とする前記[1]のナノ粒子の製造方法。
[7]前記無機塩が酢酸塩であり、前記有機溶媒が1,4−ブタンジオールであることを特徴とする前記[6]のナノ粒子の製造方法。
[8]前記出発原料が、光励起による発光特性を示す原子の一つ又は複数の無機塩を含有することを特徴とする前記[6]又は[7]のナノ粒子の製造方法。
[9]前記近赤外領域に発光機能を有する原子が、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数である前記[8]のナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、無機材料からなる、陽性造影剤としての機能を有するナノ粒子が得られるので、MRIプローブを提供することができる。また、本発明のナノ粒子として、近赤外領域に発光スペクトルを有するナノ粒子を用いることにより、近赤外蛍光及び磁気共鳴造影能の2つの機能を併せ持つナノ粒子が得られるので、デュアルモーダルイメージング用プローブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明におけるナノ粒子の母体となる微粒子には、ガーネット構造をとる微粒子が用いられる。
ガーネットと呼ばれる結晶構造を持つ化合物の化学式は、一般的に化学式A3B2C3O12等で表されるものであって、Y3Al5O12を始め、Gd3Ga5O12、Li5La3Bi2O12、Li6SrLa2Bi2O12やMg3Al2(SiO4)3など表記や元素は様々であり、上記一般的な化学式のA、B、Cサイトに原子が入り込んでいる。
本発明においては、ガーネット構造をとる微粒子として、上記のイットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、酸素(O)の元素からなるガーネット構造(以下、「YAG」という。)の微粒子が用いられるが、その理由は、本発明等が既に研究を行い、YAG:Ce等のYAGを母体とする微粒子が、バイオイメージングへの応用が可能であることが実証されており、また、近赤外レーザの結晶母体として利用されているためである。
【0016】
本発明において、母体となるYAG粉末粒子の作製方法には、従来、共沈法、ゾル−ゲル法、燃焼法、固相法、水熱合成などが知られているが、近年では、有機溶媒を用いたソルボサーマル法が用いられることが多く、このソルボサーマル法の中でも、グリコール溶媒を用いた方法は、通常、グリコサーマル法と呼ばれ、グリコール溶媒として、特に1,4−ブタンジオール(1,4−BD)が用いられている。
【0017】
このソルボサーマル法は、有機溶媒を含む溶液中に出発物質を溶解し、溶媒の沸点以上の温度で反応させることによって、結晶性の高い目的物質を合成する技術である。この方法では、オートクレーブ(AC)と呼ばれる耐圧装置などを使用して高圧状態で合成を行うものであり、一般には100℃から1000℃の温度と、1atmから10,000atmの圧力の下で、溶媒を用いて行われる。該方法によれば、平均粒子サイズが約30nmで狭い粒度分布の粒子の作製が可能である。本発明においては、特に1,4−ブタンジオール(1,4−BD)を用いたグリコサーマル法が好ましく用いられる。
【0018】
本発明の、MRI用の陽性造影機能を有する新規なナノ粒子は、前記YAGナノ粒子の粒子表面にガドリニウム(Gd)が、局在している点に特徴を有している。
すなわち、後述する実施例から明らかなように、MRI用陽性造影剤としての機能を有するナノ粒子を得るために、Yの全部をGdに置き換えたGd3Al5O12(ガドリニウムアルミニウムガーネット)ナノ粒子、又は、YAGナノ粒子中にGdをxモル%ドープして得られる(GdxY1−x)3Al5O12ナノ粒子について検討したところ、いずれも充分なMRI用陽性造影剤としての機能は得られなかった。これに対し、生成したYAGナノ粒子の表面のYの一部だけをGdに置き換え、YAGナノ粒子の粒子表面にガドリニウム(Gd)を局在させたものは、MRI用の陽性造影剤としての機能を有するものであることが判明した。
【0019】
本発明のMRI用陽性造影剤としての機能を有するナノ粒子は、イットリウムの無機塩とアルミニウムのアルコキシドと有機溶媒を含有する液体を、加圧下で加熱することによりYAGナノ粒子(イットリウム−アルミニウム)のコロイド溶液を得た後、更にガドリニウムの無機塩と有機溶媒を加え、再度加圧下で加熱するという二段階の工程を経て製造される。
本発明において、好ましくは、二段階のグリコサーマル法が用いられるが、具体的には、例えば、無機塩に酢酸塩、アルコキシドにアルミニウムイソプロポキシドを用い、以下のようにして製造される。
第1段階:
オートクレーブ(AC)の反応容器に、酢酸イットリウム四水和物とアルミニウムトリイソプロポキシドを、Y/Al=3/5となるように入れ、そこに1,4−BDを加えて攪拌した後、攪拌しながら室温から300℃まで90分で昇温し、280℃又は300℃で2時間保持する。その後、室温まで空冷して、母体となるYAGナノ粒子のコロイド溶液を得る。
第2段階:
得られたYAGナノ粒子のコロイド溶液に、酢酸ガドリニウム4水和物と1,4−BDを加え、上記と同様にして、再度オートクレーブ処理して、コロイド溶液を得、得られたコロイド溶液を、洗浄・乾燥を行うことで、Gd−YAGナノ粒子を得る。
【0020】
本発明において、Gd−YAGナノ粒子におけるGdのモル比は、Gd:Y=0.1:99.9〜25:75、好ましくは、1:99〜15:85が好ましい。少なすぎると、造影能が低下し、また、多すぎると陽性造影剤として作用しないためである。
【0021】
本発明の微粒子の平均粒径は、プローブとして用いた場合に容易に拡散し、また、造影剤として優れた性能を発揮するために、0.5〜500nmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜200nmであり、さらに好ましくは0.5〜50nmである。
【0022】
本発明において、上記のナノ粒子に、近赤外発光用の機能を兼用させるためには、母体となるYAGナノ粒子として、近赤外領域に発光機能をするYAGナノ粒子を用いる。
発光機能を有するYAG微粒子とは、光の刺激によって励起され、異なる波長の光を発するものであり、光励起による発光(蛍光)特性を示す原子の一つ、または複数を、前記のガーネット構造を有する母体に固溶(ドープ)させた結晶性微粒子である。
【0023】
本発明において用いられる近赤外領域に発光機能を持つYAG微粒子は、近赤外領域(波長650nm以上)の光を照射することにより励起され、近赤外領域(波長650〜1600nm)の光を発するものであって、希土類元素である、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数の成分をドーパントとして含むものが用いられる。
本発明においては、イッテルビウム(Yb)が好ましく用いられる。また、複数の成分を用いる態様の1つとして、このイッテルビウム(Yb)からエネルギー移動を起こすツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、エルビウム(Er)を、イッテルビウム(Yb)と一緒に含有させることも好ましい。
【0024】
本発明において、近赤外発光の機能とMRI用陽性造影剤としての機能を有するナノ粒子は、前述の第1段階において、前記出発原料であるイットリウムの無機塩の一部を所定量の近赤外領域に発光機能を有する原子の無機塩に代える以外は、同様の二段階の方法を行うことにより製造される。
本発明において、ドープする近赤外領域に発光機能を有する原子の量は、1〜90モル%が好ましく、より好ましくは、5〜30モル%である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について、製造例を用いて具体的に説明する。製造例では、近赤外領域で励起し近赤外領域で発光する原子として、イッテルビウム(Yb)を用いた。しかしながら、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
なお、必要に応じて、以下の簡略した表記を用いることとする。
・YAG:Y3Al5O12(イットリウムアルミニウムガーネット)
・GAG:Gd3Al5O12(ガドリニウムアルミニウムガーネット)
・(GdY)AG:(GdxY1−x)3Al5O12 (Gdxmol%ドープYAG)
例えば、(Gd0.75Y2.25)AGは、Gdを25mol%ドープしたYAG
・YAG:Yb3+:Y3(1−y)Al5O12:Yb3+3y(Yb3+ymol%ドープしたYAG)
通常、Yb3+のドープ量を表す時は%で表す。%=mol%
例えば、YAG:Yb3+5%は、Y2.85Al5O12:Yb3+0.15(Yb3+5mol%ドープしたYAG)
・Gd−YAG:Yb3+:Gd添加YAG:Yb3+
・酢酸Y:酢酸イットリウム4水和物
・酢酸Gd:酢酸ガドリニウム4水和物
・酢酸Yb:酢酸イッテルビウム4水和物
・AIP:アルミニウムイソプロポキシド
・1,4−BD:1,4−ブタンジオール
また、得られた試料の走査型電子顕微鏡(SEM)観察には「S-4700、HITACHI」を使用し、粉末X線回折装置(XRD)には、「RINT 2200、Rigaku」を使用した。
【0026】
(製造例1)
(GdY)AG固溶体ナノ粒子の製造
オートクレーブ(AC)の反応容器(金属筒)に、酢酸Y、酢酸Gd及びAIPを下記の表1に示す規定量入れ、そこに1,4−BDを加え、軽く攪拌した後、ACにセットした。300rpmで攪拌しながら、室温から300℃まで90分で昇温し、300℃で2時間保持した。室温まで空冷したコロイド溶液を、95%メタノール変性アルコールにより遠心洗浄を行い、50℃で1日乾燥させ、粉末状の(GdY)AGナノ粒子を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
結果及び考察
得られた(GdY)AGナノ粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行った。
図1に、Gdドープ量を変化させて合成した(GdY)AGナノ粒子のSEM像を示す。
図中、Gdドープ量(モル%)は、(a)100、(b)75、(c)50、(d)25、(e)0である。これらの画像から算出した数平均粒子径を以下の表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
得られた(GdY)AGナノ粒子について、粉末X線回折装置(XRD)による結晶性評価を行った。
図2に、Gdドープ量を変化させて合成した(GdY)AGナノ粒子のXRDにおける第一強線(420)の拡大図とピーク位置を示す。
試料のX線回折ピークは単相のガーネット構造に帰属された。また、(GdY)AG固溶体ではGd濃度の増加に伴い第一強線である(420)ピークは低角度側にシフトした。これはY3+よりもイオン半径の大きなGd3+の含有量が増加することによって面間隔が増大したことに起因すると考えられる。
【0031】
得られた(GdY)AGナノ粒子(Gd=25%、50%、75%、及び100%)をアガロースゲルと混ぜ、MRIの測定を行い、プローブとしての性能を調べた。
図3に、アガロースゲルに分散させたナノ粒子のMR造影画像を示す。T2(陰性)画像ではGdの含有濃度に関わらず、粒子濃度が増大するに従って、画像はより暗くなった。しかし、T1(陽性)画像では、粒子濃度が増大するに従い像が暗くなるという、従来のGd錯体のT1造影剤とは逆の傾向を示した。これには粒子中のGd含有量に応じた次の2つの原因が考えられる。
(1)Gd含有量が低濃度の場合、粒子表面に存在するGdが僅かであり、水分子の1Hと粒子表面Gd3+との双極子−双極子相互作用による磁気緩和が不十分である。
(2)Gd含有量が高濃度の場合、(GdY)AG固溶体ナノ粒子の磁化率効果が大きく、T2緩和の影響を大きく受けて正常なT1造影が行えない。
【0032】
(製造例2)
Gd−YAGナノ粒子の製造
製造例1と同様の操作により、規定量の酢酸YとAIPを1,4−BDに投入し、YAGコロイド溶液を得た。次に、得られたYAGコロイド溶液に、酢酸Gdと1,4−BDを加え、再度オートクレーブ処理し、前述と同様の洗浄・乾燥を行うことで、Gd−YAGナノ粒子(Y:Gd=93.0:7.0)を得た。
【0033】
結果及び考察
上記の二段階による製造方法で得られたGd−YAGナノ粒子について、走査型電子顕微鏡SEM観察を行った。
図4の右側に、Gd−YAGナノ粒子のSEM像を示す。参考として、同図の左側に、YAGナノ粒子のSEM像を示す。
画像から算出した、YAGナノ粒子及びGd−YAGナノ粒子の数平均粒径は、それぞれ、56.0±10.0nm、及び55.5±7.2nmであって、前述の製造例1において得られた(GdY)AGナノ粒子の場合とは異なり、両者に粒径の差異は見られなかった。
【0034】
得られたGd−YAGナノ粒子について、粉末X線回折装置(XRD)による結晶性評価を行った結果、X線回折ピークは単相のガーネット構造に帰属でき、Gdを後添加したことによる副生成物の生成は確認されなかった。また、第一強線である(420)ピークは、Gd後添加により低角度側にシフトした。これはイオン半径の大きなGd3+がY3+と置換固溶し、面間隔が増大したためと考えられる。
【0035】
得られたGd−YAGナノ粒子をアガロースゲルと混ぜ、MRIの測定を行い、プローブとしての性能を調べた。
図5に、アガロースゲルに分散させたGd−YAGナノ粒子のMR造影画像を示す。これよりGd−YAGナノ粒子はT1及びT2造影剤として機能することが確認され、単位Gd濃度あたりの緩和能R1、R2はそれぞれR1=6.6mM−1s−1、R2=56.0mM−1s−1で、R2/R1=8.48であった。
前述の(GdY)AG固溶体ナノ粒子の場合と異なり、Gd−YAGナノ粒子がT1造影剤として機能した理由は次のように考えられる。
Gd−YAGでは、GdがYとイオン交換して固溶できるのは粒子表面近傍だけである。このため、表面近傍でのGd3+−1H間の双極子−双極子相互作用が十分に行われ、またGd含有量が少ないため磁化率効果が小さいのでT2緩和の影響が抑制され、その結果、T1造影が正常に示されたものと考えられる。
【0036】
(製造例3)
YAG:Yb3+ナノ粒子の製造
製造例1と同様の操作により、規定量の酢酸Y、酢酸Yb(Y:Yb=95:5)及びAIPを1,4−BDに投入し、同様の操作によりYAG:Yb3+コロイド溶液を得、前述と同様の洗浄・乾燥を行うことで、YAG:Yb3+5%ナノ粒子を得た。
【0037】
(製造例4)
Gd−YAG:Yb3+ナノ粒子の製造
製造例1と同様の操作により、規定量の酢酸Y、酢酸Yb(Y:Yb=95:5)及びAIPを1,4−BDに投入し、同様の操作によりYAG:Yb3+コロイド溶液を得た。次に、得られたYAG:Yb3+コロイド溶液に、酢酸Gdと1,4−BDを加え、再度オートクレーブ処理し、前述と同様の洗浄・乾燥を行うことで、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子(Y:Gd:Yb=86.1:8.2:5.7)を得た。
【0038】
結果及び考察
得られたYAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子について、SEM観察を行った。
図6及び図7に、YAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のSEM像を示す。両画像から算出した、YAG:Yb3+5%ナノ粒子及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子の数平均粒径は、それぞれ59.9±9.7nm、及び61.6±12.9nmであって、Gdを添加したことによる粒径の優位な差違は観察されなかった。
【0039】
得られたYAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子について、XRDによる結晶評価を行った。
図8に、YAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のXRDプロファイルを示す。
図8から明らかなように、いずれもX線回折ピークは単相のガーネット構造に帰属でき、副生成物は確認されなかった。また、第一強線(420)は、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のほうが低角度側へシフトした。これは、面間隔の増大を示す。
前記SEMの結果と併せると、イオン単位の大きなGd3+がY3+と置換固溶したためであろうと考えられる。
【0040】
得られたGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子について、近赤外レーザー励起によるスペクトルを測定した。
図9に、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子の吸収スペクトルと、近赤外レーザー(波長940nm)励起による蛍光スペクトルを示す。
図から明らかなように、波長940nmの近赤外レーザーで励起すると、Yb3+の2F5/2→2F7/2遷移による波長1030nmをピークとする近赤外蛍光が観測された。
【0041】
得られたGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子と市販の有機色素について、発光強度の安定性を比較した。
図10に、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子と有機色素(Alexa 680)の発光強度の経時変化を示す。
図から明らかなように、2時間の励起光照射により、有機色素であるAlexa 680は、35%まで退色したのに対し、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子は全く退色しなかった。
【0042】
得られたGd−YAG:Yb3+ナノ粒子をアガロースゲルと混ぜ、MRIの測定を行い、プローブとしての性能を調べた。
図11に、アガロースゲルに分散させたGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のMR造影画像を示す。
図に示すように、Gd濃度が高くなるに従って、T1では信号強度が高くなり、T2では信号強度が低くなっている。
【0043】
Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のGd濃度を変化させて、緩和速度との関係を調べた。
図12に、Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のGd濃度に対するT1及びT2緩和速度のプロットを示す。
単位Gd濃度あたりの緩和能R1、R2はそれぞれR1=5.60mM−1s−1、R2=30.4mM−1s−1であり、R2/R1は、5.42となり、前述のGd−YAGより小さい値となった。
【0044】
以上のとおり、グリコサーマル法により(GdY)AG固溶体ナノ粒子及びGd−YAGナノ粒子を作製したところ、前者はT2造影剤、後者はT1造影剤として機能することが示された。また、Gd−YAG:Yb3+ナノ粒子はT1造影剤として機能すると同時に、近赤外レーザー励起によりYb3+の2F5/2→2F7/2遷移による近赤外発光を示し、デュアルモーダルイメージングに応用できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】Gdドープ量を変化させて合成した(GdY)AGナノ粒子のSEM像を示す図。
【図2】Gdドープ量を変化させて合成した(GdY)AGナノ粒子のXRDにおける第一強線(420)の拡大図とピーク位置を示す。
【図3】(GdY)AGナノ粒子のMR造影画像を示す図。
【図4】YAG粒子及びGd−YAGナノ粒子のSEM像を示す図。
【図5】Gd−YAGナノ粒子のMR造影画像を示す図。
【図6】YAG:Yb3+5%ナノ粒子のSEM像を示す図。
【図7】Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のSEM像を示す図。
【図8】YAG:Yb3+5%ナノ粒子、及びGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のXRDプロファイルを示す図。
【図9】Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子の吸収スペクトルと、近赤外レーザ(波長940nm)励起による蛍光スペクトルを示す図。
【図10】Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子と有機色素(Alexa 680)の発光強度の経時変化を示す図。
【図11】アガロースゲルに分散させたGd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のMR造影画像を示す図。
【図12】Gd−YAG:Yb3+5%ナノ粒子のGd濃度に対するT1及びT2緩和速度を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガーネット構造をもつ、YAG(イットリウム−アルミニウム)ナノ粒子の表面にガドリウム(Gd)が局在していることを特徴とするナノ粒子。
【請求項2】
前記YAGナノ粒子は、近赤外領域に発光機能を有する原子の一つ又はまたは複数が、前記のガーネット構造を有する母体に固溶されていることを特徴する請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記近赤外領域に発光機能を有する原子が、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数である請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載されたナノ粒子からなることを特徴とする磁気共鳴画像法用造影剤。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載されたナノ粒子からなることを特徴とする近赤外蛍光及び磁気共鳴によるデュアルイメージング用プローブ。
【請求項6】
請求項1に記載されたナノ粒子の製造方法であって、イットリウムの無機塩とアルミニウムのアルコキシドと有機溶媒を含有する出発原料を、加圧下で加熱することによりYAGナノ粒子(イットリウム−アルミニウム)のコロイド溶液を得た後、更にガドリニウムの無機塩と有機溶媒を加え、再度加圧下で加熱する工程を有することを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記無機塩が酢酸塩であり、前記有機溶媒が1,4−ブタンジオールであることを特徴とする請求項6に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記出発原料が、近赤外領域に発光機能を有する原子の一つ又は複数の無機塩を含有することを特徴とする請求項6又は7に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記近赤外領域に発光機能を有する原子が、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数である請求項8に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項1】
ガーネット構造をもつ、YAG(イットリウム−アルミニウム)ナノ粒子の表面にガドリウム(Gd)が局在していることを特徴とするナノ粒子。
【請求項2】
前記YAGナノ粒子は、近赤外領域に発光機能を有する原子の一つ又はまたは複数が、前記のガーネット構造を有する母体に固溶されていることを特徴する請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記近赤外領域に発光機能を有する原子が、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数である請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載されたナノ粒子からなることを特徴とする磁気共鳴画像法用造影剤。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載されたナノ粒子からなることを特徴とする近赤外蛍光及び磁気共鳴によるデュアルイメージング用プローブ。
【請求項6】
請求項1に記載されたナノ粒子の製造方法であって、イットリウムの無機塩とアルミニウムのアルコキシドと有機溶媒を含有する出発原料を、加圧下で加熱することによりYAGナノ粒子(イットリウム−アルミニウム)のコロイド溶液を得た後、更にガドリニウムの無機塩と有機溶媒を加え、再度加圧下で加熱する工程を有することを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記無機塩が酢酸塩であり、前記有機溶媒が1,4−ブタンジオールであることを特徴とする請求項6に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記出発原料が、近赤外領域に発光機能を有する原子の一つ又は複数の無機塩を含有することを特徴とする請求項6又は7に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記近赤外領域に発光機能を有する原子が、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)の何れか一つ又は複数である請求項8に記載のナノ粒子の製造方法。
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【公開番号】特開2010−37169(P2010−37169A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204063(P2008−204063)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月 日本分子イメージング学会発行の「日本分子イメージング学会機関誌 第3回総会・学術集会」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月22日 日本希土類学会発行の「希土類 No.52」に発表
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月 日本分子イメージング学会発行の「日本分子イメージング学会機関誌 第3回総会・学術集会」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月22日 日本希土類学会発行の「希土類 No.52」に発表
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
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