説明

蛍光性の炭素ナノ粒子

光ルミネセンス粒子を開示する。該粒子は、炭素のコアナノサイズ粒子と該ナノ粒子の表面に結合させた不動態化剤を含む。不動態化剤は、例えば、高分子物質であり得る。また、不動態化剤は、特定の用途のために誘導体化し得る。例えば、光ルミネセンス炭素ナノ粒子は、ターゲッティング物質、例えば、タグ付け又は染色プロトコールにおけるような生物学的に活性な物質、汚染物、或いは組織又は細胞表面上の表面レセプターを認識し、結合するように誘導体化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本出願は、2005年10月27日付きで出願した米国仮特許出願第60/730,790号の出願の権利を主張し、該出願は、本明細書にその全体を参考として合体させる。
【背景技術】
【0002】
極めて大きい表面積対容積比を有する粒子は、特異的でかつ多くの場合驚くべき特性を示す。とりわけ、ナノ粒子、即ち、大きさが約100nmよりも小さい粒子は、その巨視的な対応物とは同等ではない物理的性質、電子的性質、工学的性質及び触媒特性のような諸性質を示し得る。発光性ナノ粒子の構築は、この現象を活用している1つの分野である。例えば、発光性のナノサイズ粒子は、とりわけ、測定及び感知用途、発光ディスプレー装置、並びにコヒーレント光発生及び光学利得分野での使用について提案されている。
既知の発光性ナノ粒子は、シリコンナノ粒子又は発光性量子ドットのいずれかである。シリコンナノ粒子は、本来発光性ではないが、通常酸化させ、その後、必要に応じて二次物質を添加して所望の表面末端基を形成させることによって、光ルミネセンスを示すように表面処理し得る。量子ドットは、所望の光学及び物理的性質を得るように不動態化及び/又はキャップすることのできる蛍光性半導体又は金属ナノ粒子である。いずれの場合も、その材料及び/又は形成方法は、通常費用高で、複雑であり、多くの場合、極めて少量の発光材料を形成させるのにしか適していない。さらにまた、多くの材料、例えば、鉛又はカドミウム含有半導体材料は、これら材料の潜在的毒性故に、医療又は生物学的用途においてはあまり魅力的ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当該技術において求められているのは、安価で豊富な出発材料から、また、比較的簡単で安価な方法により形成させることのできる発光性材料である。さらにまた、当該技術において求められているのは、大量の発光性材料を提供するようにスケールアップすることのできる形成方法である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの実施態様においては、開示する主題は、約100nmよりも小さい大きさの炭素コアを含む光ルミネセンス性ナノ粒子に関する。例えば、炭素コアは、非晶質炭素を含み得る。炭素コアは、ある実施態様においては、より小さくあり得る。例えば、炭素コアは、大きさが約30nmよりも小さいか、或いは大きさが約1nm〜約10nmであり得る。
炭素コアには、不動態化剤をカップリングさせ得る。不動態化剤は、例えば、ポリマー又はバイオポリマーであり得る。不動態化剤は、炭素コアに、例えば、これら2つ間の共有結合のような任意の適切な形でカップリングさせ得る。1つの実施態様においては、不動態化剤は、反応性の官能基を保持し得る。
本明細書において説明するような光ルミネセンスナノ粒子は、さらなる物質を含み得る。例えば、物質(例えば、金属又は磁性物質)を炭素コア中又は上に埋込み得る。1つの実施態様においては、特異結合性の対の一員を、不動態化剤に、例えば、不動態化剤を炭素コアに結合させた後に、不動態化剤上に保持させた反応性の官能性化学物質を介して結合させ得る。
もう1つの実施態様においては、開示する主題は、光ルミネセンス炭素ナノ粒子の形成方法に関する。これらの方法は、例えば、炭素コアを、例えば、グラファイトのレーザーアブレーション又は炭素粉末の電気アーク放電によって形成させる工程を含む。1つの形成方法は、不動態化剤を、炭素コアに、任意の適切な方法によりカップリングさせる工程を含む。1つの実施態様においては、1つの形成方法は、さらなる物質、例えば、特異結合性対の1員を、炭素ナノ粒子に、例えば不動態化剤を介して結合させることを含み得る。
【0005】
光ルミネセンス炭素ナノ粒子は、多くの用途において使用し得る。例えば、光ルミネセンス炭素ナノ粒子を使用して、試験サンプル中の化合物を、サンプルを炭素ナノ粒子と接触させ、サンプル中に存在する化合物を炭素ナノ粒子に結合させて複合体を形成させることによって検出することができる。化合物は、その場合、上記複合体の光ルミネセンス特性によって検出し得る。
詳細には、上記複合体の光ルミネセンス特性は、上記化合物、炭素ナノ粒子又はその両方の光ルミネセンス特性とは異なり得る。例えば、出発炭素ナノ粒子は光ルミネセンス性であり得、上記化合物との結合時に、それらの光ルミネセンス特性は、形成された複合体が光ルミネセンスを殆ど又は全く示さないように失活させ得る。もう1つの実施態様においては、出発炭素ナノ粒子は光ルミネセンスを殆ど又は全く示し得ず、上記化合物が、複合体の形成時に、複合体が光ルミネセンスを示すような不動態化剤として作用し得る。さらにもう1つの実施態様においては、光ルミネセンス炭素ナノ粒子が非ルミネセンス化合物をタグ付けし得、複合体も光ルミネセンス性であり、従って、検出可能である。
本明細書において説明するような炭素ナノ粒子に結合させ得る化合物の例としては、限定するものではないが、生存生物体の表面の化合物(例えば、細胞表面レセプター)、生物学的活性物質又は環境上の危険物質があり得る。
発明の最良の形態を含む、当業者に対しての本発明の主題の完全且つ実施可能な開示は、添付図面を参照しての本明細書の残余において、さらに詳細に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、開示する主題の各種実施態様を詳細に説明し、その1以上の例を下記に示す。各実施態様は、説明のためであり、主題を限定するものではない。事実、当業者にとっては、種々の修正及び変更を本開示の範囲又は思想を逸脱することなくなし得ることは明白であろう。例えば、1つの実施態様の1部として例示又は説明した特徴は、さらなる実施態様を得るために他の実施態様において使用し得る。
本開示は、一般に、発光ナノ粒子、及び該発光ナノ粒子の形成方法に関する。とりわけ、本明細書において開示する発光ナノ粒子は、光ルミネセンス性であり得、炭素ナノ粒子のコア及び該炭素ナノ粒子の表面に結合させた1種以上の物質を含み得る。
何ら特定の理論によって拘束することは望まないが、開示するナノ粒子の電子状態は、量子封じ込み効果及び表面不動態化効果双方の組合せから理解し得るものと考えられる。具体的には、量子封じ込みと表面不動態化双方の組合せは、上記ナノ粒子の電子状態の諸性質を決定し得、適切な励起により、本明細書において開示するナノ粒子は強く発光性となり得るものと考えられる。従って、開示する材料の特定の性質は、粒子の大きさに依存するのみならず、炭素ナノ粒子の表面に結合させる物質(1種以上)にも依存するものと考えられる。例えば、粒子の発光特性のある種の変更は、炭素ナノ粒子の表面に結合させる特定の物質(1種以上)を変えることによって達成し得る。
【0007】
本発明の目的においては、用語“表面不動態化”とは、ナノ粒子表面の安定化を称し、本明細書においては、ナノ粒子表面上での反応性結合を終わらせ化学的に不動態にするあらゆる方法を包含するように定義する。従って、上記の用語は、不動態化成分を表面上の存在する結合に結合させる成分不動態化、並びに、物質を、表面に、該表面と物質間に共有結合を形成させることによって結合させ得、結合部位の残存の可能性が不動態化反応後も表面に依然として残っているより包括的な概念の不動態化も包含し得る。この第2の例においては、例えば、不動態化用物質は、ポリマーであり得、その不動態化過程において、ナノ粒子表面の少なくとも1部上にシェル又はコーティーングが形成され得る。このシェル又はコーティーングは、ナノ粒子表面に複数の位置で共有結合させ得るが、必ずしも、表面上の全ての反応性結合を化学的に不動態にすることはない。
【0008】
コア炭素ナノ粒子は、炭素粒子をナノメートルスケールで形成することのできる任意の適切な方法によって形成させ得る。例えば、1つの実施態様においては、コア炭素ナノ粒子は、カーボンブラックのような非晶質炭素源;グラファイト(例えば、グラファイト粉末形の)、又は結晶質炭素(例えば、ダイアモンド)から形成させ得る。例えば、1つの実施態様によれば、コア炭素ナノ粒子は、グラファイト出発物質から、レーザーアブレーション法によって形成させ得る。もう1つの実施態様においては、コア炭素ナノ粒子は、炭素粉末から、電気アーク放電において形成させ得る。他の方法、例えば、炭素リッチポリマー粒子の熱炭化も同様に使用し得る。そのような方法は、当業者にとって一般に公知であり、従って、本明細書において詳細に説明することはない。
炭素ナノ粒子は、一般に、平均直径において約1nm〜約100nmの任意の大きさを有する。何ら特定の理論によって拘束することは望まないが、該材料の観測された発光性に対する量子封じ込め効果が存在し、とりわけ、比較的大きい表面積対容積比を、ナノ粒子表面へのエキシトンの再結合を封じ込むためには必要とするようである。従って、高めの発光量子収量は、同じ又は同様な表面不動態化を有する大きめのナノ粒子と比較したとき、小さめのコア炭素ナノ粒子によって達成され得るようである。そのように、比較的大きい、例えば、平均直径で約30nmよりも大きいコア炭素ナノ粒子を含む発光粒子は、小さめの粒子よりも低い発光性である。1つの実施態様においては、コア炭素ナノ粒子は、平均直径で約20nmよりも小さく、例えば、1つの特定の実施態様においては、平均直径で約1〜約10nmであり得る。
【0009】
光ルミネセンスを示す能力を得るためには、不動態化剤を、炭素ナノ粒子の表面に結合させ得る。不動態化剤は、炭素ナノ粒子表面に結合し、エキシトンの放射再結合(量子封じ込め効果及びナノ粒子の大きい表面積対容積比の結果としての表面に存在する励起エネルギー“トラップ”の安定化により生じるものと考えられている)を促進し且つ安定化させ得る任意の物質であり得る。この剤(1種以上)は、任意の結合方法に従って、ナノ粒子表面に結合させ得る。例えば、不動態化剤は、ナノ粒子表面に、共有結合又は非共有結合により、或いは共有結合と非共有結合の組合せにより結合し得る。さらにまた、不動態化剤は、ナノ粒子表面を不動態化し得る高分子、分子、バイオ分子又は任意の他の物質であり得る。例えば、不動態化剤は、ポリ(乳酸) (PLA)、ポリ(エチレングリコール) (PEG)、ポリ(プロピオニルエチレンイミン-コ-エチレンイミン) (PPEI-EI)及びポリ(ビニルアルコール) (PVA)のような合成ポリマーであり得る。1つの実施態様においては、不動態化剤は、バイオポリマー、例えば、タンパク質又はペプチドであり得る。他の不動態化剤の例としては、アミノ基又は他の官能基を担持する分子があり得る。
不動態化剤及び/又は不動態化剤を介してコアナノ粒子にグラフトさせるさらなる物質(その実施態様の例は、下記で詳細に説明する)は、さらなる望ましい特性を有する発光粒子を提供し得る。例えば、親水性不動態化剤をコア炭素ナノ粒子に結合させてナノ粒子の水中での溶解性及び/又は分散性を改良することができる。もう1つの実施態様においては、不動態化剤は、炭素ナノ粒子の有機溶媒中での溶解性を改良するように選定することもできる。
【0010】
1つの特定の実施態様においては、コア炭素ナノ粒子は、主として非晶質であり得る。局在化π電子の存在及び非晶質炭素粒子上の懸垂結合の存在により、この実施態様の不動態化用物質は、任意の数の可能性ある物質であり得る。事実、現在のところ、炭素ナノ粒子は、炭素ナノ粒子の表面に共有結合により、非共有結合により或いは共有結合及び非共有結合の組合せにより結合することのできる任意の物質の結合時に、不動態化され、光ルミネセンスを示す能力を獲得し得ると理解されている。詳細には、不動態化剤又は不動態化反応によって形成される表面末端基のタイプに特段の制限はない。
1つの実施態様においては、コア炭素ナノ粒子は、炭素以外に、他の成分を含み得る。例えば、金属及び/又は他の成分をコア炭素ナノ粒子中に埋込み得る。1つの特定の実施態様においては、磁性金属単独又は他の物質、例えばNi/Yと組合せた磁性金属をコア炭素ナノ粒子中に埋込み得る。例えば、所望物質、例えば、金属粉末の炭素コアへの添加は、炭素粒子の形成工程において該物質を添加することにより達成し得、該物質は、そのようにしてコア中に取込ませ得る(例えば、例3参照)。そのようなナノ粒子を官能化して表面不動態化を提供することにより、得られた埋込み金属、例えば、埋込み磁性金属を含む発光炭素ナノ粒子は、磁力応答性であり得、例えば、磁力検出、沈降及び分離、シグナル化等のような多くの用途において有用であり得る。
1つの実施態様においては、炭素ナノ粒子は、所望の用途、例えば、タグ付け又は分析物認識プロトコールにおいて使用するのに適する反応性の官能性化学物質を含むように形成させ得る。例えば、不動態化剤は、例えば、特定の分析物又はサンプル中に見出し得る群の物質をタグ付けするプロトコールにおいて直接使用し得る反応性の官能基を含み得る。物質の例としては、例えば、分析物又は生物種上に炭水化物を接合させる炭水化物分子があり得る。
【0011】
もう1つの実施態様においては、不動態化剤の官能性化学物質は、特定の用途に適する特定の化学物質へさらに誘導体化し得る。例えば、1つの実施態様においては、不動態化剤の反応性の官能基は、二次的な表面の化学的官能化により、物質用の結合部位として作用するようにさらに誘導体化し得る。例えば、特異結合性の対の一員、即ち、分子の1つが二次分子に化学的及び/又は物理的に結合する、抗原又は抗体のような2つの異なる分子の一員を、ナノ粒子に、コア炭素ナノ粒子の不動態化後にナノ粒子上に保持されている不動態化剤の官能性化学物質を介して直接又は間接的に結合させ得る。コア炭素ナノ粒子の不動態化及びさらなる誘導体化は、別々の反応工程で実施する必要はないが、1つの実施態様においては、炭素ナノ粒子の不動態化及び誘導体化は、単一プロセスで実施し得る。
従って、発光炭素ナノ粒子は、有利には、生物学的に活性な物質、例えば、薬物、毒物、ウイルス、抗体、抗原、タンパク質等;生物学的物質それ自体、例えば、細胞、細菌、真菌、寄生虫等;並びに、分析すべきサンプル中で見出し得る気体、液体又は固体(例えば、粒状物)の汚染物のような環境物質のような物質をタグ付け、染色又は標識するのに使用し得る。例えば、不動態化用物質は、例えば大腸菌又はリステリア モノサイトゲネス(L. monocytogenes)のような細菌の表面レセプターに対して特異性の官能基を含み得るか或いは含むように誘導体化し得る。認識し結合したとき、上記細菌は、表面に結合させた光ルミネセンス性のタグによって明らかに識別可能であり得る。
とりわけ標的物質に対する適切な反応性の官能基は、当業者にとって一般に既知である。例えば、液体サンプル中の特定の抗体の認識又はタグ付けのために設計したプロトコールの開発を考慮する場合、その抗体に適するリガンド、例えば特にその抗体に対するハプテン、完全抗原、抗原のエピトープ等を、不動態化用物質の反応性の官能基により、高分子物質に結合させ得る。
【0012】
もう1つの実施態様においては、ナノ粒子は、ナノ粒子が標的物質の存在下にある場合にのみ、特定の物質の存在を、ナノ材料上に光ルミネセンス特性を発生させることにより、タグ付け又は標識するのに使用し得る。例えば、炭素ナノ粒子は、形成させて、不動態化反応に供しないか或いは必要に応じて部分的にのみ不動態化させてナノ粒子が殆ど又は全く光ルミネセンスを示さないようにすることができる。不動態化用物質(例えば、標的物質)と反応条件下に接触させたとき、ナノ粒子は、サンプル中の該標的物質によって不動態化され、その後、ナノ粒子は、増大した光ルミネセンスを示し得、標的物質の存在を、ナノ粒子の増大した発光により確認し得る。
もう1つの実施態様においては、不動態化した高発光炭素ナノ粒子からの発光は、特定の標的物質の存在下に失活させ得る。例えば、可視発光は、潜在的に有害な環境上の物質、例えばニトロ誘導体化ベンゼン、TNT、又は爆発物中の主要成分存在下に失活させ得る。例えば、不動態化した発光性のナノ粒子を標的物質と接触させたとき、該ナノ粒子の発光特性は、失活剤分子(即ち、検出可能な物質)の発光性炭素ナノ粒子との衝突又は接触(当業者には一般的に知られているような電子移動又は他の失活メカニズムをもたらす)により失活させ得る。
【0013】
光ルミネセンスナノ粒子は、明らかに、上述したプロトコールのようなタグ付け及び認識プロトコール以外にも、多くの他の用途において同様に使用し得る。例えば、開示する発光性ナノ粒子は、光ルミネセンスシリコンナノ粒子において適切であると先に説明した用途においても一般的に使用し得る。ある実施態様においては、本明細書において説明するような発光性ナノ粒子は、発光性ナノ粒子において適切である用途において使用し得る。例えば、開示する発光性ナノ粒子は、発光性量子ドットにおいて一般的であるような用途においても使用し得る。
有利なことに、発光性炭素ナノ粒子は、従来公知の発光性ナノ粒子よりも環境的及び生物学的に適合性である。例えば、発光性炭素ナノ粒子は、使用中の環境又は健康上の危険性、即ち、多くの従来公知の発光性ナノ粒子によって存在する危険性を殆ど又は全くもたらさないように製造し得る。そのようなものとして、本明細書において説明するような発光性炭素ナノ粒子は、当業者には一般的に知られている可能性ある用途を数例挙げれば、発光用途、光保存媒体のようなデータ保存用途、光検知用途、発光インク、並びに光格子、フィルター、スイッチ類等において使用することができ、従来公知の発光性ナノ粒子よりも環境的に優しくあり得る。
さらにまた、開示する炭素系材料は、種々の励起波長において種々の色合を発出するので、実際の現実の用途において経済的に使用し得る。例えば、開示する炭素系材料をラベル化用途において使用するに当っては、検出及び/又は分析(例えば、共焦点蛍光顕微鏡の使用による)は、異なる発光性材料の複数のセットを必要とせずに、複数の色合で実施することができる。
【0014】
(例)
本発明は、以下に示す例を参照することにより、より良好に理解し得るであろう。
例1
炭素粒子を、Y. Suda等によって開示されているような標準法 (Thin Solid Films, 415, 15 (2002);該文献は、参考として本明細書に合体させる)に従い、グラファイト粉末炭素標的物の水蒸気の存在下でのレーザーアブレーションによって製造した(アルゴンを担体ガスとして使用した)。製造したままのサンプルは、電子顕微鏡分析からの結果によれば、ナノスケールの炭素粒子のみを含んでいた。粒子は、懸濁又は固形状態において、また、酸化的酸処理(2.6M硝酸水溶液中で12時間還流処理)の前又は後のいずれにおいても、検出し得る発光を示さなかった。
酸化的酸処理の後、粒子サンプルを、ジアミン末端化ポリエチレングリコール、H2NCH2(CH2CH2O)nCH2CH2CH2NH2 (平均n数 約35、PEG1500N)と混合した。その後、混合物を、撹拌しながら120℃に72時間保持した。この後、サンプルを室温に冷却し、次いで、水を添加し、遠心分離した。均質な上清は、表面不動態化炭素ナノ粒子を含んでいた。TEM及びAFMによる特性決定は、約5nm〜約10nmの直径を有するナノ粒子を示していた。図1は、上記不動態化ナノ粒子のTEM暗視野画像である。
上記表面不動態化炭素ナノ粒子は、溶液様懸濁液中及び固形状態の双方において強い発光性であることが判明した。例えば、添付図面を参照すれば、図2及び3は、水性懸濁液中のPEG1500Nコーティーング炭素ナノ粒子のサンプルを示している。図2においては、サンプルを400nmで励起し、図示しているように、450、500、550、600、640及び690nmの種々の帯域通過フィルターにより撮影した。図3は、PEG1500Nコーティーング炭素ナノ粒子の、図示しているような400、450、500、550、600、650及び694nmの増分波長で励起し、直接撮影した一連の写真である。図4A〜4Cは、PEG1500Nコーティーング炭素ナノ粒子の、図示しているような種々の励起波長で励起し、種々の帯域通過フィルターによる共焦点顕微鏡画像である。詳細には、図4A(上図)においては、505nmロングパスフィルターによるλex = 458nm;図4B(中央図)においては、530nmロングパスフィルターによるλex = 488nm;図4C(下図)においては、585nmロングパスフィルターによるλex = 543nm。
【0015】
例2
上記で説明したのと同じプロトコールを実施したが、不動態化剤として、ポリ(プロピオニルエチレンイミン-コ-エチレンイミン) (PPEI-EI)を使用した。図5は、PPEI-EI不動態化粒子の吸収及び発光スペクトルを示している。詳細には、粒子を、400nmの励起波長(左側)で、さらに、20nm増分で増大する次第に長めの励起波長で励起した。
両例において観測された発光量子収率は、励起波長、使用する特定の不動態化剤及び媒体に応じて約5%〜約10%以上であることが判明した。これらの収率は、従来公知のシリコンナノ結晶の収率に匹敵している。また、発光は光照射に対して安定であり、数時間に亘る連続の繰返し励起において観測された強度の有意の低下を示していないことも判明した。
図面を参照すれば理解し得るように、上記材料の発光は、可視光の広い波長領域にわたり得て、近赤外線にまで及び得ており、発光種及び/又は部位の分布を示唆している。そのような分布は、種々の発光色の選択も、各図面に例示しているような材料の単一のサンプルにより種々の励起波長を使用することによって可能にし得る。
【0016】
例3
Ni/Yを埋込んだ炭素ナノ粒子を電気アーク放電装置において製造した。アークは、反応器内の2つの電極間にヘリウム雰囲気(101kPa (760トール))下に発生させた。アノードは、Ni、Y2O3及びグラファイト粉末の混合物を充填した中空グラファイトロッド(6mm外径、3mm内径、200mm長)であり、ロッドの全体的組成は、~4%のNi、~1%のY及び~95%の炭素であるようにした。アーク放電は、90Ampの電流により発生させた。電極間で35Vの電圧降下を自動溶接制御装置により維持し、カソードと消費されるアノード間に一定距離(約0.5mm)を保った。生成物ナノ粒子は、図6においてSEMで示している。
【0017】
例4
細菌細胞の発光性炭素ナノ粒子によるラベル化においては、PEG1500N官能化炭素ナノ粒子を使用して、大腸菌ATCC 25922細胞と相互作用させた。典型的な試験において、PBS中大腸菌細胞溶液(200μL、~108 cfu/mL)をPEG1500N官能化炭素ナノ粒子の溶液(75μL)と混合し、混合物を24時間穏やかに回転させた。その後、混合物を10,000rpmで10分間遠心分離し、沈降物を集め、顕微鏡特性決定(図7A)のために再懸濁させた。
同じ試験手順を使用して、PEG1500N官能化炭素ナノ粒子をリステリア モノサイトゲネスScott A細胞及び大腸菌ATCC 25922細胞と結合させた。PEG1500N官能化炭素ナノ粒子によるリステリア モノサイトゲネスScott A細胞の発光ラベル化後の、図7Aaは共焦点画像を示し、図7Abは明視野画像を示す。図7Ac、7Ad及び7Aeは、458/475nm (図7Ac)、477/505nm (図7Ad)及び514/560nm(図7Ae)の異なる励起/ロングパス検出フィルターによる共焦点画像化での大腸菌ATCC 25922細胞の同じラベル化処理後の生成物を示す。
発光性炭素ナノ粒子を病原体特異性抗体でコーティーングしてイムノ-炭素ナノ粒子を得た。典型的な試験において、PEG1500N官能化炭素ナノ粒子(2mg)、無水コハク酸(18mg、1.84ミリモル)及びDMAP (1mg、0.008ミリモル)を、乾燥CH2Cl2 (5mL)中に溶解した。室温で24時間撹拌後、溶媒を除去し、粗生成物を脱イオン水(2mL)中に再溶解した。水溶液をセルロース膜チューブ(MWCO〜1,000)に移して、新鮮脱イオン水に対して2日間透析し、末端基としてカルボン酸を有するPEG1500N官能化炭素ナノ粒子を得た。水を除去した後、酸末端化粒子をMES緩衝液(1mL、pH 6.1)中に再懸濁させた。この懸濁液に、EDAC (54mg)とNHS (70mg)を添加し、混合物を室温に24時間保った。溶液を、新鮮脱イオン水に対して24時間透析した(MWCO〜1,000)。溶媒を除去した後、生成物をPBS緩衝液(0.5mL、pH 約7.4)に再溶解させ、アフィニティー精製ヤギ抗-大腸菌O157 IgGの溶液と混合し、24時間穏やかに振盪させてイムノ-炭素ナノ粒子を得た。これらの粒子は、病原性大腸菌O157:H7細胞を特異的にターゲットする。上述の同じ試験プロトコールを使用することにより、上記イムノ-炭素ナノ粒子の大腸菌O157:H7細胞との結合性を、病原性大腸菌O157:H7細胞の発光ラベル化についての共焦点画像(図7Ba)及び明視野画像(7Bb)を含む図7Bに示す顕微鏡画像において観測した。
【0018】
例5
PEG1500N官能化炭素ナノ粒子の光ルミネセンススペクトルを、種々の濃度のN,N-ジエチルアニリン(DEA)の存在下に、室温クロロホルム溶液中で測定した。観測した発光スペクトルプロフィールは変化してなかったが、強度は、DEA濃度の増大につれて増大し(逆Stern-Volmer失活挙動)、およそ40mMのDEA濃度で最高に達し、その後、さらなるDEA濃度の増大によっては低下する(正常Stern-Volmer失活挙動)ことが判明した。このことは、PEG1500N官能化炭素ナノ粒子における失活剤 N,N-ジエチルアニリン(DEA)濃度の関数としての発光失活比(失活剤無しでの強度)/(失活剤有りでの強度)、I0/Iの図8における失活プロットにより例証されている。
【0019】
例6
上述したのと同じ発光失活プロトコールを実施したが、エタノール溶液中の失活剤としてニトロベンゼンを使用した。発光スペクトルは、種々の濃度の失活剤によって殆ど影響を受けていない(図9Aは、失活剤濃度増大によるスペクトル強度低下を示し;図9Bは、Stern-Volmerプロットを示している)。失活は、正常Stern-Volmer挙動、即ち、発光強度が増分失活剤濃度により低下しているという事実に従っている。また、失活は、拡散制御の限界に近い失活速度定数(約1010 M-1s-1、図9)でもって高度に有効である。
【0020】
例示目的で示した上記の例は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでないことを承知されたい。本発明のほんの僅かの例としての実施態様を上記で詳細に説明してきたけれども、当業者であれば、多くの修正が、本発明の新規な教示及び利点を実質的に逸脱することなく、上記の例としての実施態様において可能であることは、容易に理解されることである。従って、そのような修正は、全て本発明の範囲内に包含されるものとする。さらに、幾つかの実施態様の利点の全てを達成していない多くの実施態様も考えられ得ること、さらに、特定の利点が無いことを、そのような実施態様が本発明の範囲外であると必然的に意味するものとは解釈すべきでないことも認識されたい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】例1において説明したようなPEG1500Nでコーティーングした炭素ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)画像(暗視野)である。
【図2】例1のPEG1500Nコーティーング炭素ナノ粒子の水溶液の、400nmで励起し、種々の帯域通過フィルターにより撮影した一連の写真である。
【図3】例1のPEG1500Nコーティーング炭素ナノ粒子の水性懸濁液の、種々の波長で励起し、直接撮影した一連の写真である。
【図4】図4A〜Cは、例1のPEG1500Nコーティーング炭素ナノ粒子の、種々の励起波長で励起し、種々の帯域通過フィルターによる共焦点顕微鏡画像である。
【図5】例2において説明したようなポリ(プロピオニルエチレンイミン-コ-エチレンイミン) (PPEI-EI)コポリマーでコーティーングした炭素ナノ粒子の吸収及び発光スペクトルである。
【図6】Ni/Yを埋込んだ製造したまま(アーク放電法により)の炭素ナノ粒子のSEM画像である。
【図7A】PEG1500N官能化炭素ナノ粒子によるリステリア モノサイトゲネスScott A細胞の発光ラベル化における顕微鏡画像(図7Aa:共焦点、図7Ab:明視野)、さらに、458/475nm (図7Ac)、477/505nm (図7Ad)、及び514/560nm(図7Ae)の異なる励起/ロングパス検出フィルターによる共焦点画像化においての大腸菌ATCC 25922細胞の同じラベル化における顕微鏡画像である。
【図7B】イムノ-炭素ナノ粒子(抗-大腸菌O157コーティーング)による特異的ターゲッティングによる病原性大腸菌O157:H7細胞の発光ラベル化における共焦点(図7Ba)及び明視野(図7Bb)画像である。
【図8】PEG1500N官能化炭素ナノ粒子における失活剤 N,N-ジエチルアニリン(DEA)濃度の関数としての発光失活比(失活剤無しでの強度)/(失活剤有りでの強度)、I0/Iのプロットを示す。
【図9】エタノール溶液中のPEG1500N官能化炭素ナノ粒子のニトロベンゼンによる発光失活を示す(A:増分失活剤濃度によるスペクトル強度の低下、B:Stern-Volmerプロット)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素コアと該炭素コアにカップリングさせた不動態化剤を含み、該炭素コアの大きさが約100ナノメートルよりも小さく、該コアが光ルミネセンス性であるナノ粒子。
【請求項2】
前記炭素コアが、非晶質炭素を含む、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記炭素コアの大きさが約30ナノメートルよりも小さい、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記炭素コアの大きさが約1〜約10ナノメートルである、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記不動態化剤がポリマーである、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記不動態化剤がバイオポリマーである、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項7】
前記不動態化剤が前記炭素コアに共有結合している、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項8】
前記ナノ粒子が前記炭素コア中に埋込まれた物質をさらに含む、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項9】
前記物質が金属である、請求項8記載のナノ粒子。
【請求項10】
前記物質が磁性である、請求項8記載のナノ粒子。
【請求項11】
前記不動態化剤が反応性の官能基を含む、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、前記ナノ粒子の表面において前記不動態化剤に結合させた特異結合性の対の一員をさらに含む、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項13】
下記の工程を含む、光ルミネセンスナノ粒子の形成方法:
炭素ナノ粒子を用意する工程;
不動態化剤を炭素ナノ粒子の表面にカップリングさせる工程、ここで該不動態化剤の炭素ナノ粒子表面へのカップリング時に、不動態化炭素ナノ粒子が光ルミネセンスを示す。
【請求項14】
前記不動態化剤を、前記炭素ナノ粒子に、前記不動態化剤を前記炭素ナノ粒子の炭素に共有結合させることによってカップリングさせる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記炭素粒子を形成させる工程をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記炭素ナノ粒子を、グラファイト出発物質からのレーザーアブレーション法によって形成させる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記炭素ナノ粒子を、炭素粉末出発物質からの電気アーク放電法によって形成させる、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記炭素ナノ粒子内に物質を埋込む工程をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項19】
前記不動態化剤が、前記不動態化剤を前記炭素ナノ粒子にカップリングさせた後、反応性の官能基を保持する、請求項13記載の方法。
【請求項20】
特異結合性の対の一員を前記反応性の官能基に結合させる工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
下記の工程を含むことを特徴とする、サンプル中の化合物の存在の検出方法:
炭素ナノ粒子に結合可能である化合物を含むサンプルを、炭素ナノ粒子に接触させる工程;
前記炭素ナノ粒子を前記化合物に結合させて複合体を形成させる工程、ここで該複合体の光ルミネセンス特性は、前記化合物及び前記炭素ナノ粒子の少なくとも1つの光ルミネセンス特性とは異なる;及び
前記化合物を、前記複合体の光ルミネセンス特性に従って検出する工程。
【請求項22】
前記炭素ナノ粒子が光ルミネセンス炭素ナノ粒子であり、前記炭素ナノ粒子の光ルミネセンス特性を前記炭素ナノ粒子の前記化合物への結合によって失活させる、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記炭素ナノ粒子及び前記化合物のいずれも光ルミネセンス性ではなく、前記複合体が光ルミネセンス性である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記炭素ナノ粒子が光ルミネセンス不動態化炭素ナノ粒子であり、前記複合体が光ルミネセンス性である、請求項21記載の方法。
【請求項25】
前記化合物が、生存生物体の表面に存在する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記化合物が、生物学的に活性な物質である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記化合物が、環境上の危険物質である、請求項24記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−513798(P2009−513798A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538059(P2008−538059)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/042233
【国際公開番号】WO2007/050984
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508122390)クレムソン・ユニヴァーシティ (4)
【Fターム(参考)】