説明

蛍光性ジルコニア材料

【課題】 蛍光性ジルコニア材料を提供する。
【解決手段】 フレーム14を構成するジルコニア材料にEu2O3が添加されているため、フレーム14を1300〜1600(℃)の高温で焼成すると、ジルコニア製のフレーム14に紫外線照射によって蛍光を発する蛍光性が付与される。そのため、このフレーム14は、例えば破損時において断面にUVランプやブラックライト等を照射すると蛍光を発するためトレーサビリティ機能を有する。また、ブラックライトを照射すると青色の蛍光を発することから、上層18の薄い部分やこれが設けられていない部分でもその上層18と同様な蛍光性を有するので、審美性にも優れる利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定波長の光で励起されて蛍光を発するジルコニア材料に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、口腔内に装着される歯科用補綴物を製造するに際して、ジルコニア(酸化ジルコニウム)から成るブロックからCAD/CAM技術によりフレームを切り出して用いることが行われている(例えば、特許文献2を参照。)。このようなジルコニア製フレームを用いることにより、補綴物全体をセラミック材料で構成したオールセラミック補綴物が得られる。そのため、金属製フレームの表面に天然歯の色調に調整したセラミック材料(陶材)を被覆する補綴物における生体に金属が接触することに起因する金属アレルギーや、金属色を隠すために設けられる不透明な下地層に起因して天然歯本来の色調が得られない等の問題が解消され或いは緩和される利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−036137号公報
【特許文献2】特開2005−053776号公報
【特許文献3】特開2007−314536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のジルコニアブロックは、従来から未焼成の成形体、仮焼処理を施した仮焼体、或いは焼成処理を施した焼結体の状態で技工所或いは技工士に提供され、歯科医の作製した模型に従って、それら技工所或いは技工士がブロックからフレームを作製すると共にこれに陶材を築盛等することによって補綴物が製造される。ところが、歯科業界で普及しつつあるジルコニア製歯冠フレームの市場拡大に伴い、一部において安価な海賊版ジルコニアブロックが使用される事態も生じている。
【0005】
上記のような海賊版の存在は、正規品の供給元としては看過し得ないものであるが、特に、歯冠フレームの強度が設計値に満たず破損に至ったときに備えて、保証との関連で出所確認を可能とすることが望まれている。しかしながら、補綴物は前述したような製造過程を経ることから、補綴物の外見にジルコニアブロックの供給元特有の特徴は何ら現れない。そのため、補綴物に使用されたジルコニアブロックの出所を正規品の供給元はもちろん歯科医が確認することすら困難で、このことが海賊版ブロックの使用を容易にさせている。
【0006】
上記の問題は、歯科用補綴物に用いられるジルコニアフレームに関するものであるが、このような問題は歯科用補綴物に限られない。例えば、機械装置等において交換用補修部品等として提供される種々の形態のジルコニアセラミックスにおいても、海賊版補修部品が用いられてこれが破損するような場合を想定すると、同様に出所確認を可能とすることが望まれる。すなわち、歯科用補綴物に用いられるジルコニアブロックに限られず、使用材料の出所を特に破損時等において確認可能とすること、すなわちトレーサビリティ機能を持たせることが望まれていた。
【0007】
本発明者等は、種々検討を重ねた結果、トレーサビリティ機能を持たせるためには、ジルコニア材料に蛍光性を付与することが適当であることを見出した。本発明は、斯かる知見に基づいて為されたもので、その目的は、蛍光を発するジルコニア材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる目的を達成するため、本発明の蛍光性ジルコニア材料の要旨とするところは、蛍光性成分を含み、所定波長の光で励起されて蛍光を発するようにされたことにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、蛍光性成分を含ませることによって蛍光性を有するジルコニア材料が得られる。そのため、前記所定波長の光を照射すれば、ジルコニア材料が蛍光を発することから、歯科材料や構造材等の用途を問わず、トレーサビリティ機能を有するものとなる。また、特に、歯科材料においては、その励起波長や蛍光色を適宜選択することにより、審美性が高められる利点もある。
【0010】
したがって、例えばCAD/CAMでフレーム等を作製するための歯科用のジルコニアブロックに本発明が適用された場合においては、少なくとも歯科用補綴物が破損した場合にその破断面の蛍光性を確認することで、正規品であるか否かの判断が容易になる。また、構造材等の用途においては、部品が破損した際にそれが正規品であるかの判断が容易になると共に、破損した部品が処理材料等に混入した可能性がある場合にも励起波長の光を照射することでその混入の有無を容易に調査し得る。
【0011】
なお、本発明において、ジルコニア材料には、原料、加熱処理の施されていない生成形体、これに脱脂および仮焼処理を施した仮焼体、焼成処理を施した焼結体の何れもが含まれる。
【0012】
因みに、従来から歯科用補綴物を製造するに際しては、フレームの表面に築盛する陶材に蛍光体材料を添加することが行われている(例えば前記特許文献1を参照。)。これは僅かな蛍光性を有する自然歯に可及的に色調を合致させることを目的とするもので、トレーサビリティについては何ら考慮されておらず、フレーム材料に蛍光性を付与することは考えられていない。
【0013】
また、フレームを含めた歯科用補綴物全体に何らかの着色を施すことも従来から種々行われてきている(例えば前記特許文献2,3を参照。)。そのような目的で蛍光性を有する金属酸化物等を添加することも公知であるが、添加された金属酸化物等がどのような蛍光性を有するものであるかや、焼成後にも蛍光性を保っているか否か等は何ら知見が無く、トレーサビリティについては何ら考慮されていない。
【0014】
ここで、好適には、前記所定波長は300(nm)以上の紫外線波長であり、前記蛍光は青色乃至青白色を呈するものである。このようにすれば、ジルコニア材料には可視光の短波長域或いはそれよりも僅かに紫外線側に外れた波長域において、青色〜青白色の蛍光を発する蛍光性が備えられる。そのため、自然歯に近似した蛍光性を有することから、歯科用補綴物のフレームや矯正用ブラケット等に好適で、審美性に優れた歯科用補綴物やブラケットが得られる。
【0015】
因みに、歯科用補綴物においては、審美性の観点からその質感を自然歯に可及的に近づけることが望まれている。また、矯正用ブラケットにおいても、近年では金属に代えてジルコニア製ブラケットも用いられるようになってきているが、歯の表面に固着されることから、歯科用補綴物と同様に、その質感を自然歯に可及的に近づけることが望まれている。
【0016】
また、好適には、前記所定波長は300(nm)以下の紫外線波長である。このようにすれば、励起波長が可視光よりも十分に短いことから、日常生活で人体が受ける光では蛍光が発しない。そのため、歯科用補綴物に用いられた場合において、自然歯とは異なる色の蛍光を発する場合にも、日常生活ではその蛍光が審美性に影響を与えない一方、300(nm)以下の紫外線を照射すれば蛍光を観察し得るので、何ら審美性を損なうことなくトレーサビリティ機能が付与された歯科用補綴物が得られる。
【0017】
また、好適には、前記蛍光性成分は酸化雰囲気下1300〜1600(℃)の範囲内の温度で焼成処理後に蛍光を発し得る蛍光体材料である。ジルコニア材料の蛍光性は、例えば、このような高温で焼成処理を施した後にも蛍光を発し得る蛍光体材料で与え得る。上記蛍光体材料は、例えば、ジルコニア材料を製造するに際して、原料粉末に蛍光体粉末を混合することで添加できる。
【0018】
また、上記態様において、好適には、前記蛍光体材料は、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y2O3:Eu、YAG:Ce、ZnGa2O4:Zn、BaMgAl10O17:Euのうちの少なくとも一種である。本発明においてジルコニア材料に蛍光性を付与するための蛍光体材料は特に限定されないが、例えば、これらの蛍光体材料であれば、適当な蛍光性を付与することができる。
【0019】
上記Y2SiO5:Ceは青色蛍光体としてよく知られるものの一つで、紫外線励起で青色に発光するが、これを添加してもジルコニア材料の色調は特に変化せず、略白色の体色に保たれる。1(wt%)程度の少量の添加では例えば1400(℃)以上の高温焼成時に蛍光性が失われるが、添加量を例えば3(wt%)以上にすれば蛍光性を維持でき、トレーサビリティ機能を付与すると共に自然歯に近い審美性を付与するために使用できる。
【0020】
また、Y2SiO5:Tbは、紫外線励起で緑色に発光する蛍光体であるが、ジルコニア材料の色調を薄オレンジ色に変化させる。そのため、その蛍光が表に現れるような形態では歯科材料としては利用し難いが、これでフレームを構成し、その表面に陶材を十分な厚さで設ける等、フレームの蛍光が観察できない態様であれば歯科材料としても用い得るし、構造材用途であれば特に支障はない。
【0021】
また、(Y,Gd,Eu)BO3およびY2O3:Euは、紫外線励起でピンク色の蛍光を発する蛍光体で、十分に高い輝度を有すると共に、ジルコニア材料の色調にも影響を与えないため歯科材料としても好ましいものである。これらは例えば3(wt%)程度の添加で十分な蛍光性を発揮する。
【0022】
また、ZnGa2O4:Znは、紫外線励起で青色に発光する蛍光体で、十分に実用に耐える輝度を有すると共に、ジルコニア材料の色調に影響を与えないため、歯科材料として用い得るものである。
【0023】
また、YAG:Ceは、紫外線励起で緑色に発光する蛍光体であるが、ジルコニア材料の色調を黄色に変化させる。そのため、その蛍光が表に現れるような形態では歯科材料としては利用し難いが、これでフレームを構成し、その表面に陶材を十分な厚さで設ける等、フレームの蛍光が観察できない態様であれば歯科材料としても用い得るし、構造材用途であれば特に支障はない。
【0024】
また、BaMgAl10O17:Euは、紫外線励起で青色に発光する蛍光体で、十分に高い輝度を有すると共に、ジルコニア材料の色調に影響を与えないため、歯科材料としても好ましいものである。
【0025】
また、好適には、前記蛍光性成分はPr,Sm,Eu,Ga,Gd,Tm,Nd,Dy,Tb,Erのうちの少なくとも一種の元素およびそれらの化合物の少なくとも一種であって、酸化ジルコニウム自体に蛍光性が付与されたものである。これらの元素が添加されると、如何なる存在状態になるためであるのかは確認できていないが、ジルコニア材料自体に蛍光性が付与されるので、前述したように蛍光体材料を添加した場合と同様に蛍光性を有するジルコニア材料が得られる。
【0026】
また、上記態様において、好適には、前記元素は0.0001(wt%)以上の割合で含まれるものである。前記各元素は極微量の含有量でもジルコニア材料に蛍光性を付与できるため、0.0001(wt%)以上含まれていれば十分である。また、含有量が多くなるほど強い蛍光を発するが、過剰に添加すると強度低下をもたらすものと考えられる。しかしながら、本発明者等が試験したところ10(wt%)までの添加では使用可能な程度の強度に保たれたので、含有量の上限は少なくとも10(wt%)である。一層高い輝度を得るためには、含有量は0.001(wt%)以上が好ましい。また、異物添加による強度低下を抑制するためには添加量を5(wt%)以下に留めることが一層好ましい。
【0027】
また、好適には、前記元素はそれぞれ化合物Pr2O3,Sm2O3,Eu2O3,EuCL3,Eu(NO3)3,Ga2O3,Gd2O3,Tm2O3,Nd2O5,Dy2O3,Tb4O7,Er(CH3COO)3の形態で添加されるものである。前記各元素は、上記のような酸化物或いは酢酸塩等の焼成処理の際に分解して生ずる生成物が特性に悪影響を与えない限りにおいて適宜の形態で添加することができる。例えば、上記化合物の水和物でもよい。また、ジルコニア材料に蛍光性を付与するに際しては、例えば、上記各元素の化合物をジルコニア原料粉末と混合し、成形後、焼成処理を施す等の方法を採りうるが、上記のような平均粒径のものを用いれば、混合の際に好適に分散し、十分に均一性の高いジルコニア材料を得ることができる。
【0028】
また、前記各元素のうち、Euは少量の添加でもオレンジ色の強い発光を示し、ジルコニア材料の色調の変化ももたらさないので、特に好ましい。添加量は例えば酸化物Eu2O3で0.05(wt%)程度で十分であるが、添加量を多くすれば一層高い輝度を得ることができる。また、還元雰囲気で焼成処理を施す等、焼成条件を変更して例えば青色の蛍光を発生させることも可能である。
【0029】
また、Sm,Ga,Gd,Tm,Ndは、Euよりは輝度が劣るが、ジルコニア材料にその色調の変化をもたらすことなく蛍光性を付与できるものである。これらは何れも弱い発光ではあるが青色の蛍光色を発する。
【0030】
また、Dyは、ジルコニア材料にその色調の変化をもたらすことなく、蛍光性を付与できるもので、比較的長波長側の365(nm)程度の紫外線で高輝度を発する。254(nm)程度の紫外線でも発光するが、それよりも輝度が低い傾向があるので、ブラックライトで検査するような用途への適用が好ましい。また、発光波長は広い範囲に亘り、青色の発光もあるが、オレンジの発光が最も強く、全体的に明るい薄オレンジ色の発光となる。
【0031】
また、Prは、ジルコニア材料を褐色に着色するものであるが、波長域が254(nm)程度の紫外線で励起することによってオレンジ色の蛍光を発するものである。
【0032】
また、Tbは、ジルコニア材料をオレンジ色に着色するものであるが、波長254(nm)程度の紫外線で励起することで青色乃至橙色で高輝度の発光が得られるものである。
【0033】
また、Erは、ジルコニア材料を薄ピンク色に着色するものであるが、波長254(nm)程度、365(nm)程度の紫外線で励起することで低輝度ではあるが蛍光を発する。
【0034】
なお、本発明において、ジルコニア材料の用途は、特に限定されない。例えば歯科用補綴物のフレームや矯正用ブラケットが挙げられるが、歯科用に限られず構造材にも適用される。例えば、構造材に適用した場合において、破損した部品が処理対象物に混入した場合にUV照射で発見できるようにする目的で本発明のジルコニア材料を用いることができる。
【0035】
また、蛍光体材料を添加する場合、酸化物等の形態で各種元素を添加する場合の何れにおいても、添加物は固体・液体を問わず適宜の形態で添加することができ、混合方法も乳鉢による乾式混合やボールミル等を用いた湿式混合等適宜の方法を採りうる。
【0036】
また、本発明を適用できるジルコニア材料の結晶系は特に限定しない。正方晶系、立方晶系の何れの場合にも、蛍光性を付与することが可能である。
【0037】
例えば、本発明を好適に適用し得るジルコニア材料としては、91.00〜98.45(wt%)の酸化ジルコニウムと、1.5〜6.0(wt%)の酸化イットリウムと、0.05〜0.50(wt%)のアルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウムの少なくとも一つの酸化物とを含むものである。ジルコニア材料の組成は特に限定されず、例えば、安定化材としては、酸化イットリウムの他に酸化セリウムや酸化カルシウム、酸化マグネシウム等も用いられるが、例えば歯科材料としての用途などでは、強度や色調等の面から上記のような組成が好ましい。
【0038】
また、好適には、前記ジルコニア材料は前記蛍光性を付与するための蛍光体材料や各種元素或いはその化合物の他に、着色剤を含むことができる。例えば、歯科材料用途において、酸化ジルコニウムの本来の色調のままでは困難な場合にも自然歯に近い色調の人工歯が得ることができる。着色剤としては、4〜6族の遷移金属酸化物、アルミニウム化合物、珪素化合物、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、硫化鉄、硫化マグネシウム、硫化ニッケル、酢酸ニッケル、酢酸鉄、酢酸マグネシウム等を用い得る。これら着色剤は、例えばジルコニア原料に有機結合剤を添加して造粒するに際して同時に添加することができる。また、その造粒の際には、必要に応じて焼結助剤を添加することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例の円盤状のジルコニアブロックを示す図である。
【図2】図1のジルコニアブロックから切り出して作成した単冠フレームの断面構造を示す図である。
【図3】図2の単冠フレームの表面に陶材を築盛して製造した人工歯の断面構造を示す図である。
【図4】図1のブロックの製造方法および使用方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0041】
図1は、円盤状の歯科用ジルコニアブロック10を示す斜視図である。ブロック10は、例えば酸化ジルコニウムに安定化材として酸化イットリウムを3(mol%)添加したジルコニアセラミックス(TZP)から成るものであって、例えば酸化ユウロピウム(Eu2O3)を0.05(wt%)程度の割合で含んでいる。また、このブロック10は、後述するように成形体に脱脂および低温の仮焼処理を施した仮焼体であって、直径が94(mm)程度、厚みが14(mm)程度の大きさを備えている。
【0042】
上記のブロック10は、例えばブリッジやクラウン等のオールセラミック補綴物のフレームに用いられるものである。図1に一点鎖線12で削り出すフレームの外形の一例を、図2に作製したフレーム14の一例の断面をそれぞれ示す。図2に示すフレーム14は、例えばその表面16に陶材が築盛されて上層18が形成されることによって、図3に示すような成人の上顎前歯に装着される歯冠20を構成するためのものである。
【0043】
上記のブロック10から製造されたフレーム14は、上述したようにEu2O3を含むことから、一般に用いられているUVランプによって波長が254(nm)程度の紫外線を照射すると、オレンジ色の蛍光を発する。また、波長365(nm)のブラックライトを照射すると、青色の蛍光を発する。そのため、自然歯と同様な蛍光性を有することから、従来の金属フレームや蛍光性を有しないジルコニアフレームに比較して一層自然歯に近い審美性を有する特徴がある。なお、フレーム14に上層18を設けて作製された歯冠20では、その上層18の薄い部分を除いて同様に紫外線を照射しても何ら蛍光発光は観察できなかった。すなわち、フレーム14は、剥き出しの状態であれば蛍光を発するが、陶材で覆われると発光し難くなる。本実施例においては、フレーム14の蛍光性が自然歯に近いため、露出部分があっても差し支えないが、上記のことから、仮に蛍光色の異なるジルコニア材料から構成されていても、上層18で十分な厚さ寸法で覆うことで何ら問題が生じない。
【0044】
また、上記歯冠20を割って露出したフレーム14の破断面にUVランプで紫外線を照射したところ、オレンジ色の蛍光が認められた。すなわち、例えば使用中に歯冠20が破損した場合には、歯冠20を構成するフレーム14が蛍光を発するか否かは容易に確認できる。
【0045】
なお、上記のブロック10およびこれを使用した歯冠20は、例えば以下のようにして製造される。図4において、まず、蛍光体添加工程S1では、適宜の合成方法および造粒方法を用いて製造したジルコニア顆粒を用意し、これにEu2O3粉末を0.05(wt%)だけ添加し、混合工程S2でこれを混合後、造粒工程S3でプレス成形に適した原料に造粒する。これらの工程は、例えば、乳鉢で混合して造粒することで実施される。なお、ジルコニア顆粒には、有機高分子バインダーや可塑剤が添加されている。また、上記蛍光材料に加えて着色剤を添加しても良い。また、上記乳鉢を用いた混合に代えて、エタノールや水等の溶媒とジルコニア玉石とを用いてボールミルにて湿式混合し、スプレードライヤーにて造粒する方法を用いることもできる。
【0046】
次いで、プレス成形工程S4では、一軸加圧プレスにより造粒原料を円盤状に成形する。次いで、CIP成形工程S5では、得られた円盤状の成形体に例えば100〜500(MPa)程度の圧力でCIP成形を施す。この工程は成形体の均一性を高めるためのもので、プレス成形のみで十分な均一性が得られる場合には実施しなくともよい。
【0047】
次いで、仮焼工程S6では、上記の成形体(すなわち生ブロック)に仮焼処理を施す。この仮焼処理は、800〜950(℃)の範囲内の温度まで昇温して1〜6時間程度係留するもので、その昇温過程で顆粒に含まれていた樹脂結合剤(バインダー)が焼失除去され、更に、粒子相互の結合が進んで前記ブロック10が得られる。
【0048】
以下の工程は、技工所乃至技工士による工程で、人工歯が装着される患者毎に実施される。フレームデザイン工程S7では、歯科医から提供された模型に従ってCADを用いてブロック10毎に定められた所定の割掛でフレームをデザインする。
【0049】
次いで、切削工程S8では、上記デザインに従い、CAMを用いてフレーム仮焼体をブロック10から切り出す。
【0050】
次いで、焼成工程S9では、切り出したフレーム仮焼体に焼成処理を施す。この焼成処理は、1300〜1600(℃)の範囲内の温度まで昇温して30分〜2時間程度係留するもので、これにより、ジルコニア原料が焼結し、前記フレーム14が得られる。
【0051】
次いで、築盛工程S10では、上記フレーム14の上に陶材を築盛する。例えば、セラミック粉末をプロピレングリコール水溶液等に分散したスラリーを塗布し、例えば930(℃)程度の温度で焼成してセラミック層(すなわち前記上層18等)を形成する。この工程を必要に応じて繰り返し実施することにより、所望の人工歯(すなわち前記歯冠20等)が得られる。
【0052】
このように、本実施例においては、フレーム14を1300〜1600(℃)の高温で焼成すると、Eu2O3が添加された結果としてジルコニア製のフレーム14に前述したような紫外線照射によって蛍光を発する蛍光性が付与される。すなわち、蛍光を有し、トレーサビリティを有するジルコニア材料から成るフレーム14が得られる。そのため、このフレーム14は、例えば破損時において断面にUVランプやブラックライト等を照射すると蛍光を発するためトレーサビリティ機能を有する。また、ブラックライトを照射すると青色の蛍光を発することから、上層18の薄い部分やこれが設けられていない部分でもその上層18と同様な蛍光性を有するので、審美性にも優れる利点がある。
【0053】
また、本実施例においては、蛍光性を付与するために添加された蛍光材料は0.05(wt%)に過ぎないため、特にデータは示さないが、ジルコニア材料本来の強度が何ら損なわれていない利点がある。
【0054】
ところで、ジルコニアに蛍光性を付与し得る元素はEuに限られず、Gaや幾つかの希土類が好適に用いられる。下記の表1は、Eu2O3に代えて他の希土類酸化物等をジルコニア原料に添加して試料を作製し、蛍光性等を評価した結果をまとめたものである。各試料は、前記蛍光体添加工程S1において、それぞれ表に示される量だけ希土類酸化物等を添加して造粒原料を調製し、加圧成形して1400(℃)で焼成処理を施して用意した。下記の表1において、「ブラックライト」欄および「UVランプ」欄はそれぞれを照射したときの蛍光の輝度を、補綴物に従来から用いられている陶材の蛍光を5として、0〜6の数値で相対的に表したもので、蛍光が観察できなかったものを0とした。ブラックライトの照射波長は365(nm)程度、UVランプの照射波長は254(nm)程度である。また、「体色」欄は可視光下における色調である。
【0055】
【表1】

【0056】
上記の表1に示されるように、Prを添加した試料1は、体色が褐色に変化するが、波長が254(nm)のUVランプ照射による励起では、365(nm)、468(nm)、486(nm)、614(nm)の発光ピークが生じる。なお、波長が365(nm)のブラックライトでは発光ピークが現れなかった。蛍光は発するものの体色の変化が著しく、使用に適さない。
【0057】
また、Smを添加した試料2は、ブラックライトの照射で黄〜オレンジの蛍光を発し、輝度も比較的高いが、UV照射による輝度は比較的低い値に留まった。なお、蛍光は、具体的には、254(nm)のUVランプ照射による励起では、365(nm)、395(nm)、451(nm)、468(nm)、573(nm)に発光ピークが生じ、365(nm)のブラックライトでは、573(nm)、622(nm)に発光ピークが生じる。体色の変化は無いため、ブラックライトで蛍光を発することが望まれる用途や、低輝度で足りる場合にはこれも用いうる。
【0058】
また、Euを添加した試料3〜7は、1〜0.01(wt%)の範囲で添加量を変化させたものであるが、0.01(wt%)と極微量の添加でもブラックライトおよびUVランプ何れの照射でも十分に高い輝度で発光し、添加量が多くなるほど何れも輝度が高くなる傾向が認められた。ブラックライトの場合には青色の蛍光を発し、UVランプの場合には青色の蛍光を発する。具体的には、254(nm)のUVランプ照射による励起では、366(nm)、397(nm)、451(nm)、468(nm)、591(nm)、605(nm)に発光ピークが生じ、365(nm)のブラックライトでは、372(nm)に発光ピークが生じる。また、体色の変化は認められなかった。また、UVランプ照射による輝度すなわち254(nm)の波長で励起したときの輝度の方がやや高い結果であった。しかも、Sm添加の場合に比較して微量で高い輝度が得られるため、ジルコニア材料に添加される不純物を可及的に少なくして材料本来の特性を損なう可能性を減じるためには、Euの方が好ましい蛍光材料であると言える。
【0059】
また、Ga、Gd、Tm、Ndを添加した試料8〜11は、何れも低輝度ではあるが、ブラックライト照射およびUVランプ照射の何れの場合にも青色の蛍光を発することが認められた。具体的には、Tm添加では、254(nm)のUVランプ照射による励起では、365(nm)、396(nm)、450(nm)、468(nm)、483(nm)に発光ピークが生じ、365(nm)のブラックライトでは、460(nm)に発光ピークが生じる。また、何れも体色の変化は無かった。
【0060】
また、Dyを添加した試料12は、ブラックライト照射で高輝度に発光することが認められた。青、黄、オレンジ等の複数色の発光が認められるが、オレンジの発光が強いので、全体的に明るい薄オレンジの発光になっている。また、UVランプ照射の場合にも、低輝度ではあるが発光する。具体的には、254(nm)のUVランプ照射による励起では、365(nm)、397(nm)、451(nm)、468(nm)、483(nm)、583(nm)に発光ピークが生じ、365(nm)のブラックライトでは、484(nm)、497(nm)、584(nm)に発光ピークが生じる。なお、体色の変化は認められなかった。
【0061】
また、Tbを添加した試料13は、体色がオレンジ色に変化したものの、UVランプ照射で高輝度に発光することが認められた。複数色の発光が生じているが、青色がやや強く、その他に黄色およびオレンジの弱い発光がある。また、ブラックライト照射の場合にも低輝度ではあるが発光する。具体的には、254(nm)のUVランプ照射による励起では、365(nm)、468(nm)、489(nm)、557(nm)、584(nm)、621(nm)に発光ピークが生じる。
【0062】
また、Erを添加した試料14は、体色が薄ピンクに変化したものの、青色の蛍光を発することが認められた。但し、低輝度であり、UVランプ照射よりもブラックライト照射の場合の方がやや輝度が高い。なお、Erは、酢酸塩四水和物を添加した。
【0063】
また、上記のような希土類酸化物等に代えて、一般に蛍光体材料として用いられているものを添加してジルコニア材料に蛍光性を付与することもできる。下記の表2は、種々の蛍光体をジルコニア原料に混合し、試料を作製して蛍光特性を評価したものである。表2において、「混合」欄はジルコニア原料と蛍光体粉末との混合方法で、「湿式」とあるのはボールミルを用いた湿式混合である。また、「ブラックライト」欄および「UVランプ」欄にそれぞれ記載した2つの温度は、試料の焼成温度である。
【0064】
【表2】

【0065】
上記の表2において、試料15〜17で添加されているY2SiO5:Ceは、色調を整える等の目的で陶材に従来から添加されている一般的な蛍光体である。これは青色の蛍光を発するもので、1(wt%)の添加量ではブラックライト照射である程度の蛍光を発するものの、UVランプ照射では蛍光が得られなかった。3(wt%)添加すると蛍光の輝度が向上すると共にUV照射でも蛍光を発するようになる。5(wt%)添加すると、更に輝度が向上する。具体的には、254(nm)のUVランプ照射による励起では、365(nm)、396(nm)、450(nm)、468(nm)、517(nm)に発光ピークが生じ、365(nm)のブラックライトでは、372(nm)、433(nm)に発光ピークが生じる。なお、何れも体色は変化していない。
【0066】
また、Y2SiO5:Tbを添加した試料18は、体色が薄オレンジに変化したものの高輝度の蛍光を発した。ブラックライト照射およびUV照射の何れの場合にも高輝度であるが、後者の場合の方がやや高い結果である。
【0067】
また、(Y,Gd,Eu)BO3を添加した試料19およびY2O3:Euを添加した試料21は、UVランプ照射でピンク色の蛍光を高輝度で発した。ブラックライト照射の場合にも、やや劣るが高輝度が得られた。なお、何れも体色の変化は認められなかった。
【0068】
なお、Zn2SiO4:Mnを添加した試料20は、ブラックライトおよびUVランプの何れを照射しても蛍光は発しなかった。また、体色がグレーに変化した。
【0069】
また、YAG:Ceを添加した試料22は、紫外線励起で緑色の蛍光を発したが、ブラックライト照射の方がUVランプ照射よりも高輝度であった。また、体色が黄色に変化した。
【0070】
また、ZnGa2O4:Znを添加した試料23は、湿式混合で蛍光体材料を混合したものであり、低輝度ではあるがブラックライト照射およびUVランプ照射の何れの場合にも青色の蛍光を発した。体色の変化は認められなかった。
【0071】
また、BaMgAl10O17:Euを添加した試料24も、湿式混合で蛍光体材料を混合したもので、UVランプ照射で極めて高輝度の青色の蛍光を発した。ブラックライト照射の場合にも、それよりも低輝度ではあるが青色の蛍光を発した。体色の変化は認められなかった。
【0072】
また、ZnGa2O4:Mnを添加した試料25およびBaMgAl10O17:EuMnを添加した試料26は、何れも蛍光を発しなかった。また、体色が何れもグレーに変化した。
【0073】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0074】
10:ジルコニアブロック、12:削り出すフレームの外形、14:フレーム、16:表面、18:上層、20:歯冠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光性成分を含み、所定波長の光で励起されて蛍光を発することを特徴とする蛍光性ジルコニア材料。
【請求項2】
前記所定波長は300(nm)以上の紫外線波長であり、前記蛍光は青色乃至青白色を呈するものである請求項1の蛍光性ジルコニア材料。
【請求項3】
前記所定波長は300(nm)以下の紫外線波長である請求項1の蛍光性ジルコニア材料。
【請求項4】
前記蛍光性成分は酸化雰囲気下1300〜1600(℃)の範囲内の温度で焼成処理後に蛍光を発し得る蛍光体材料である請求項1の蛍光性ジルコニア材料。
【請求項5】
前記蛍光体材料はY2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y2O3:Eu、YAG:Ce、ZnGa2O4:Zn、BaMgAl10O17:Euのうちの少なくとも一種である請求項4の蛍光性ジルコニア材料。
【請求項6】
前記蛍光性成分はPr,Sm,Eu,Ga,Gd,Tm,Nd,Dy,Tb,Erのうちの少なくとも一種の元素およびそれらの化合物の少なくとも一種であって、酸化ジルコニウム自体に蛍光性が付与されたものである請求項1の蛍光性ジルコニア材料。
【請求項7】
前記元素は0.0001(wt%)以上の割合で含まれるものである請求項6の蛍光性ジルコニア材料。
【請求項8】
前記元素はそれぞれ化合物Pr2O3,Sm2O3,Eu2O3,Ga2O3,Gd2O3,Tm2O3,Nd2O5,Dy2O3,Tb4O7,Er(CH3COO)3の形態で添加されるものである請求項6の蛍光性ジルコニア材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−222466(P2010−222466A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70990(P2009−70990)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】