説明

蛍光誘導体化試薬ならびに蛍光誘導体化方法

【課題】試料中に存在する多種類のアミン類ならびにアミノ酸関連物質を誘導体化する誘導体化試薬および誘導体化方法を提供すること。
【解決手段】この発明の蛍光誘導体化試薬および蛍光誘導体化方法は、化学構造式[I]
および [II] で表される蛍光誘導体化試薬を用いて、試料中の多種類のアミン類ならびにアミノ酸関連物質を一括して誘導体化すると共に、同時にフルオラスタグを脱離しかつ未反応の蛍光誘導体化試薬を吸着除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蛍光誘導体化試薬および蛍光誘導体化方法に関し、更に詳細には、フルオラスタグを有する蛍光誘導体化試薬、それを用いた蛍光誘導体化方法および試料中のアミン類もしくはアミノ酸関連物質の分離測定方法ならびに残存未反応試薬の除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体試料中には、アミン類ならびにアミノ酸関連物質を含む数多くの生体成分が含まれている。生体試料中に極微量含まれる生体成分の分析においては、微量の試料を用いて高感度にかつ高精度に分析することが要求されている。そのため、様々な分析機器ならびに分析方法が採用されているが、そのなかでも高速液体クロマトグラフィー (HPLC) は、近年、多成分を同時に測定することができる有用な分離・分析方法の一つとして、医療、食品、環境などの多様な分野で幅広く使用されている。 HPLC による検出は、分析対象物質の物理的ならびに化学的性質に基づいていて、吸光度、示差屈折率、電気化学、質量分析、蛍光、化学発光などの各検出器などが用いられている。これらの検出法は、測定する試料の種類や状態、分析対象物質の化学的性質や濃度などにより適宜選択するのがよい。しかし、これら検出法は、測定対象物質が各測定器に対して強い応答を示す場合には、測定は可能であるが、測定に十分な応答を示さない場合とか、全く応答を示さない場合には、そのままでは測定は不可能である。
【0003】
これら検出法に対して、分析対象物質の応答が不充分な場合とか、応答しない場合には、かかる分析対象物質が測定できるように、化学反応などにより検出器に対して強い応答を示す物質へ変換して、例えば、蛍光を発するように蛍光誘導体に変換する必要がある。このように蛍光誘導体に変換することが、いわゆる蛍光誘導体化(ラベル化または標識)と呼ばれていて、またそれに使用する試薬は誘導体化(ラベル化)試薬と呼ばれている。このような誘導体化は、特に、複雑なマトリックスからなる試料中に存在する微量の目的成分である分析対象物質を分析するために極めて有用な手法である。
【0004】
近年、この誘導体化法および誘導体化試薬の開発が進み、一部では日常的に用いられつつある。この中でも、蛍光誘導体化が、その高感度性ならびに高選択性などの理由から汎用されていて、蛍光法が誘導体化の主流となっている。この蛍光検出法は、特定波長の光(励起光)を照射し、それを吸収した目的成分より発する蛍光を検出する方法である。その光エネルギーを蛍光として発する蛍光物質はごく一部であるので、この蛍光検出法は他の検出法に比べて選択性が高く、高感度であるといえる。
【0005】
また、このような蛍光誘導体化試薬のほとんどは、同一分子内に、目的物質を標識するための反応部位と蛍光発生に関与する蛍光部位とが共存している。かかる蛍光部位を構成する多くの蛍光団が開発されている(非特許文献1、2、3)。しかしながら、従来の蛍光誘導体化法および蛍光誘導体化試薬はそれぞれ一長一短があり、更に高感度でかつ高選択性の蛍光誘導体化法ならびに蛍光誘導体化試薬の開発が要請されている。
【0006】
そこで、それらの問題点を解決するために、無蛍光性試薬を使用する新しい発蛍光誘導体化法の開発や、特殊な蛍光現象、例えば、蛍光偏光、時間分解蛍光、蛍光共鳴エネルギー移動、エキシマー蛍光などを導入した誘導体化法の開発が試みられている。このうち、エキシマー蛍光誘導体化法は、ピレンなどの多環芳香族蛍光分子が互いに近接して、励起光を吸収して励起状態となった分子同士が会合して形成した励起2量体(エキシマー)が発光するエキシマー蛍光現象を誘導体化に導入した蛍光誘導体化法である。このエキシマ
ー蛍光誘導体化法は、従来の誘導体化法では困難であった対象物質1分子当たり1個の発光団が導入された誘導体と複数個導入された誘導体とを分光的に識別することができる(非特許文献4)。
【0007】
しかし、これまで報告されている蛍光誘導体化試薬のほとんどは、過剰に残存した未反応の試薬自身からも蛍光が発せられるため、目的成分の検出が妨害されるという問題点があった。また、試薬自身は無蛍光性でアミン誘導体のみが蛍光を発する発蛍光誘導体化試薬も市販されているが、蛍光団が持つ特殊な発光機構を利用するため、使用できる蛍光団の種類に制限があり、実用上必ずしも満足できるものばかりではなかった。
【非特許文献1】Ohkura, Y., et al., J. Chromatogr. B, 659,85-107 (1994)
【非特許文献2】Yamaguchi, M., et al., "Reagentsfor FluorescenceDetection", ed. by Toyooka, T/,John Wiley and Sons Ltd., New York, 1999,pp. 99-166
【非特許文献3】Fukushima, K., et al., J. Pharm. Biomed. Anal.,30,1655-1687 (2003)
【非特許文献4】吉田秀幸、YAKUGAKU ZASSHI 123(8) 691-696 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明者らは、特にアミン類ならびにアミノ酸関連物質を特異的に分析できかつクロマトグラム上に未反応の試薬ピークが現れない蛍光誘導体化試薬ならびに蛍光誘導体化法を鋭意研究した結果、クロマトグラム上に試薬ピークが検出されないF−trap
という新しい概念に基づく蛍光誘導体化法を見出して、この発明を完成した。
さらに、本発明者らは、このF−trap という新概念に基づいてアミン用の誘導体化試薬としてF−trap 誘導体を合成して、このF−trap 誘導体が HPLC を妨害しないことを確認した。
【0009】
したがって、この発明は、蛍光部位と、アミン類反応部位と、フルオラスタグと呼ばれるフッ素性部位を有する蛍光誘導体化試薬を提供することを目的としている。
なお、ここで使用する用語「フルオラス (fluorous)」とは、「親フルオロカーボン性の」という意味の造語であって、「フルオラスタグ」は、分子中にフッ素結合を豊富に含む領域を持つ標識部分を意味している。
【0010】
この発明の好ましい態様は、一般式 [I]:
【0011】
【化11】

【0012】
(式中、Rfは炭素原子数4ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のフッ素原子で完全にもしくは部分的に置換されたフルオラスアルキル基を意味し、nは0または1ないし6の整数を意味する)
または一般式 [II]:
【0013】
【化12】

(式中、Rは炭素原子数1ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のアルキル基またはアルコキシ基を意味し、Rfおよびnは前記と同じ意味を有する)
で表される多環化合物である蛍光誘導体化試薬を提供することを目的としている。
【0014】
この発明のさらに好ましい態様は、化学構造式[Ia]:
【0015】
【化13】

で表されるF-trap ピレンまたは化学構造式[IIa]:
【0016】
【化14】

で表されるF-trap クマリンであることからなる蛍光誘導体化試薬を提供することを目的としている。
【0017】
また、この発明は、別の形態として、上記蛍光誘導体化試薬 [I] 、[II] 、[Ia] または [IIa] を使用して、アミン類もしくはアミノ酸関連物質の誘導体化方法、またはアミン類もしくはアミノ酸関連物質を分離測定することからなるアミン類もしくはアミノ酸関連物質の測定方法を提供することを目的としている。
【0018】
さらに、この発明は、試料中のアミン類やアミノ酸関連物質を蛍光誘導体化試薬または誘導体化方法を用いて誘導体化したとき、過剰に残存する未反応試薬を親フッ素性吸着剤により選択的に除去することからなる除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、この発明は、蛍光部位と、アミン類反応部位と、フルオラスタグと呼ばれるフッ素性部位を有する蛍光誘導体化試薬を提供する。
【0020】
この発明は、その好ましい態様として、一般式 [I]:
【0021】
【化15】

(式中、Rfは炭素原子数4ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のフッ素原子で完全にもしくは部分的に置換されたフルオラスアルキル基を意味し、nは0または1ないし6の整数を意味する)
または一般式[II]:
【0022】
【化16】

(式中、Rは炭素原子数1ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のアルキル基またはアルコキシ基を意味し、Rfおよびnは前記と同じ意味を有する)
で表される多環化合物である蛍光誘導体化試薬を提供する。
【0023】
この発明は、そのさらに好ましい態様として、化学構造式[Ia]:
【0024】
【化17】

で表されるF-trap ピレンまたは化学構造式[IIa]:
【0025】
【化18】

で表されるF-trap クマリンであることからなる蛍光誘導体化試薬を提供する。
【0026】
また、この発明は、別の形態として、上記蛍光誘導体化試薬を使用して、アミン類またはアミノ酸関連物質を分離測定することからなるアミン類またはアミノ酸関連物質の測定方法を提供することを目的としている。
【0027】
さらに、この発明は、更に別の形態として、試料中のアミン類やアミノ酸関連物質を蛍光誘導体化試薬または誘導体化方法を用いて誘導体化したとき、過剰に残存する未反応試薬を親フッ素性吸着剤により選択的に除去する方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
この発明に係る蛍光誘導体化試薬ならびに蛍光誘導体化方法は、生理活性アミン類、アミノ酸、ペプチド類などの試料中に含まれているアミン類やアミノ酸関連物質を、試料中に残存する蛍光誘導体化試薬と未反応の妨害を受けることなく高感度かつ網羅的に分離・検出することができるという大きな効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
この発明に係る蛍光誘導体化試薬は、蛍光部位と、アミン類反応部位と、フルオラスタグであるフッ素性部位とから構成されている。
【0030】
具体的には、この発明の蛍光誘導体化試薬は、
一般式 [I]:
【0031】
【化19】

(式中、Rfは炭素原子数4ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のフッ素原子で完全にもしくは部分的に置換されたフルオラスアルキル基を意味し、nは0または1ないし6の整数を意味する)
または一般式[II]:
【0032】
【化20】

(式中、Rは炭素原子数1ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のアルキル基またはアルコキシ基を意味し、Rfおよびnは前記と同じ意味を有する)
で表される多環化合物である。
【0033】
更に具体的には、この発明の蛍光誘導体化試薬は、化学構造式[Ia]:
【0034】
【化21】

で表されるF-trap ピレンまたは化学構造式[IIa]:
【0035】
【化22】

で表されるF-trap クマリンである。
【0036】
この発明に係る誘導体化試薬[Ia]および[IIa]は、例えば、1−ピレン酪酸または7−メトキシクマリン−4−酢酸を、4−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルチオ)フェノールと、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミドとN,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を用いて、テトラヒドロフランなどの溶媒の存在下で、室温などの条件下において合成することができる。
【0037】
また、この発明に係る蛍光誘導体化方法は、この発明の蛍光誘導体化試薬が、例えば、下記化学反応式 [Ib]:
【0038】
【化23】

(式中、Rは炭素原子数1ないし20個の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を意味し、R、Rfならびにnは前記と同じ意味を有する)
または下記化学反応式 [IIb]:
【0039】
【化24】

(式中、R、R、Rfならびにnは前記と同じ意味を有する)
に従って、試料中のアミン類またはアミノ酸関連物質のアミノ基と反応して、試料中のアミン類またはアミノ酸関連物質が誘導体化され疎フッ素性の蛍光性アミン誘導体を生成すると同時に、フルオラスタグであるフッ素性部位が脱離して親フッ素性のフルオラスタグ含有反応副生成物が生成する。
【0040】
このようにして得られた蛍光誘導体化試薬ならびにそれを用いた誘導体化方法は、試料中のアミン類やアミノ酸関連物質を緩和な条件下で誘導体化することができると共に、その誘導体化と同時にフルオラスタグを脱離する。このようにフルオラスタグが脱離するため、未反応の試薬のみがフルオラスタグを有していることになる。したがって、このフルオラスタグを有する化合物は、市販の親フッ素性シリカゲルなどの吸着剤で容易に選択的に吸着分離して除去することができる。その結果、この発明の蛍光誘導体化試薬ならびに誘導体化方法は、アミン類ならびにアミノ酸関連物質のみを選択的に誘導体化することができることから、アミン類ならびにアミノ酸関連物質を選択的にかつ高感度に分離・分析することができる。
【0041】
この発明に係る蛍光誘導体化試薬ならびに誘導体化方法によって高感度にかつ高選択的に誘導体化することができるアミン類ならびにアミノ酸関連物質としては、アミン類としては、例えば、エチルアミン(C2)、プロピルアミン(C3)、n-ブチルアミン(C4)、n-ペンチルアミン(C5)、n-ヘキシルアミン(C6)、n-ヘプチルアミン(C7)、n-オクチルアミン(C8)、n-ノニルアミン(C9)、n-デシルアミン(C10)、n-アミノウンデカン(C11)、n-ドデシルアミン(C12)、n-テトラデシルアミン(C14)、n-ヘキサデシルアミン(C16)等の脂肪族アミン類などが挙げられ、またアミノ酸関連物質としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンなどが挙げられる。
【実施例1】
【0042】
(F-trap ピレンの合成)
F-trap ピレンの合成スキームを下記化学反応式 [Ic]の通りである。1-ピレン酪酸(288
mg、1 mmol)および4-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシルチオ)フェノール(286 mg、0.5 mmol)を7 mLの脱水テトラヒドロフラン(THF)に溶解し、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(155 μL、1 mmol)、およびN,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(61 mg、0.5 mmol)を加え、20時間室温で撹拌した。反応液に100 mLの酢酸エチルを加えた後、30mLの0.1 M塩酸および水でそれぞれ3回ずつ洗浄した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、白色粉末のF-trapピレン[4-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシルチオ)フェニル4-(ピレン-1-イル)ブタノエート]を得た(236 mg、収率56.1 %)。
【0043】
【化25】

【0044】
得られたF-trapピレンの核磁気共鳴スペクトルの分析結果は次の通りであった。
1H-NMR(600
MHz、CDCl3) δ 2.32
(2H, m), 2.69 (2H, t, J=7.0 Hz), 3.08 (2H, t, J=8.2 Hz), 3.49 (2H, t, J=7.6
Hz), 7.03 (2H, d, J=4.6 Hz), 7.36(2H, d, J=4.6 Hz), 7.88 (1H, d, J=7.6 Hz),
7.99 (1H, t, J=7.6 Hz), 8.03 (4H,s), 8.12 (1H, d, J=4.6 Hz), 8.16 (1H, d, J=6.7
Hz), 8.31 (1H, d, J=9.2 Hz)。
【実施例2】
【0045】
(F-trapクマリンの合成)
F-trapクマリンの合成スキームは下記化学反応式 [IIc] の通りである。7-メトキシクマリン-4-酢酸(117 mg、0.5 mmol)および4-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシルチオ)フェノール(286 mg、0.5 mmol)を7 mLの脱水テトラヒドロフラン(THF)に溶解し、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(93 μL、0.6 mmol)、およびDMAP(61 mg、0.5 mmol)、を加え、3時間室温で撹拌した。反応液に100 mLの酢酸エチルを加えた後、30mLの0.1 M塩酸および水でそれぞれ3回ずつ洗浄した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン: 酢酸エチル=2:1)で精製し、白色粉末のF-trapクマリン[4-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシルチオ)フェニル2-(7-メトキシ-2-オキソ-2H-クロメン-4-イル)アセテート]を得た(99 mg、収率25.1 %)。
【0046】
【化26】

【0047】
得られたF-trapクマリンの核磁気共鳴スペクトルの分析結果は次の通りであった。
1H-NMR(600
MHz、CDCl3) δ 2.39
(2H, m), 3.08 (2H, t, J=7.9 Hz), 3.10 (2H,s), 3.95 (3H, s), 6.33 (1H, s), 6.87
(1H, s), 6.88 (1H, d, J=8.9 Hz), 7.02 (2H,d, J=8.9 Hz), 7.35 (2H, d, J=8.9 Hz),
7.56 (1H, d, J=8.9 Hz)。
【実施例3】
【0048】
(F-trapピレンによるアミンの誘導体化分析)
被検体試料であるアミン溶液200 μLにピリジン1.4 mLおよび5 mM F-trapピレンのTHF溶液400 μLを加えて90℃、1時間加熱する。反応液100 μLをフルオラス固相抽出カートリッジ(F-SPE)(2 g、フルオラステクノロジーズ社製)に添加する。カートリッジを水4 mL で洗浄後、80%(v/v)メタノール4 mLで溶出し、その20 μLをHPLCに注入した。HPLC分析条件は次の通り。カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II (内径4.6
mm×長さ15 cm、ナカライテスク社製)、移動相:80%(v/v)アセトニトリル(0-10 min)、アセトニトリル-水-THF(8:1:1、v/v)(10-40 min)のグラジエント溶出、流速1.0mL/min、蛍光検出:励起波長 345 nm、蛍光波長 375 nm。
【0049】
13種の脂肪族アミン(エチルアミン(C2)、プロピルアミン(C3)、n-ブチルアミン(C4)、n-ペンチルアミン(C5)、n-ヘキシルアミン(C6)、n-ヘプチルアミン(C7)、n-オクチルアミン(C8)、n-ノニルアミン(C9)、n-デシルアミン(C10)、n-アミノウンデカン(C11)、n-ドデシルアミン(C12)、n-テトラデシルアミン(C14)、n-ヘキサデシルアミン(C16))を上記操作に従って誘導体化分析した際のクロマトグラムを図4示す。
【0050】
40分以内に13種類全てのアミン誘導体の蛍光ピークが検出された。このとき、未反応の試薬のピークが26分付近に僅かに観測されたが、アミン誘導体の分離・定量を妨害しなかった。一方、図4には、上記操作のうちフルオラス固相抽出操作を行わなかった以外は同様に操作したときのクロマトグラムを示す。図3とは異なり、26分付近に未反応の試薬ピークが大きく出現し、n-テトラデシルアミン(C14)の分離・定量を大きく妨害していた
。以上の結果より、フルオラス固相抽出操作により未反応試薬のみが選択的に除去できることが示された。図3と図4のクロマトグラムのピーク面積の比からフルオラス固相抽出操作により未反応試薬の除去率を算出した。このとき、未反応試薬は少なくとも99.95%以上が除去された。
【0051】
表1にはフルオラス固相抽出に用いる溶出液の組成を変化させたときのF-trapピレンの除去率を示した。親フッ素性溶媒(メタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなど)と疎フッ素性溶媒(水、ジメチルスルホキシド)を組み合わせることで、未反応試薬のみを最大99.97 %以上の除去率で固相抽出カートリッジ中に吸着させることが可能であった。
【0052】
【表1】

【実施例4】
【0053】
(F-trapクマリンによるアミンの誘導体化分析)
被検体試料であるアミン溶液200 μLに20 %ピリジンのアセトニトリル溶液1.4mLおよび5 mM F-trapクマリンのTHF溶液400 μLを加えて90℃、10分間加熱する。反応液100 μLをフルオラス固相抽出カートリッジ(F-SPE)(2 g、フルオラステクノロジーズ社製)に添加する。カートリッジを水4 mL で洗浄後、70 %(v/v)アセトニトリル4 mLで溶出し、その20 μLをHPLCに注入した。HPLC分析条件は次の通り。カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II
(内径4.6 mm×長さ15 cm、ナカライテスク社製)、移動相:アセトニトリル水溶液のグラ
ジエント溶出(0 - 30 min)(40 - 90%(v/v))、流速1.0 mL/min、蛍光検出:励起波長345 nm、蛍光波長 375 nm。
【0054】
13種の脂肪族アミン(エチルアミン(C2)、プロピルアミン(C3)、n-ブチルアミン(C4)、n-ペンチルアミン(C5)、n-ヘキシルアミン(C6)、n-ヘプチルアミン(C7)、n-オクチルアミン(C8)、n-ノニルアミン(C9)、n-デシルアミン(C10)、n-アミノウンデカン(C11)、n-ドデシルアミン(C12)、n-テトラデシルアミン(C14)、n-ヘキサデシルアミン(C16))を上記操作に従って誘導体化分析した際のクロマトグラムを図5示す。
【0055】
40分以内に13種類全てのアミン誘導体の蛍光ピークが検出された。このとき、未反応の試薬のピークが32分付近に僅かに観測されたが、アミン誘導体の分離・定量を妨害しなかった。一方、図6には、上記操作のうちフルオラス固相抽出操作を行わなかった以外は同様に操作したときのクロマトグラムを示す。図5とは異なり、25分に試薬由来のピークと32分付近に未反応の試薬ピークが大きく出現し、n-テトラデシルアミン(C12)の分離・定量を大きく妨害していた。以上の結果より、フルオラス固相抽出操作により未反応試薬のみが選択的に除去できることが示された。図5と図6のクロマトグラムのピーク面積の比からフルオラス固相抽出操作により未反応試薬の除去率を算出した。このとき、未反応試薬は少なくとも99.99 %以上が除去されることが分かった。
【0056】
表2にはフルオラス固相抽出に用いる溶出液の組成を変化させたときのF-trapクマリンの除去率を示した。親フッ素性溶媒(メタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなど)と疎フッ素性溶媒(水、ジメチルスルホキシド)を組み合わせることで、未反応試薬のみを最大99.99 %以上の除去率で固相抽出カートリッジ中に吸着した。
【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明に係る蛍光誘導体化試薬ならびに蛍光誘導体化方法は、試料中に含まれる生理活性アミン類、アミノ酸、ペプチド類などのアミン類やアミノ酸関連物質を分離・検出することができることから、例えば、医療、食品、環境などの分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】F-trap ピレンによる13種の脂肪族アミンの誘導体化分析結果を示すクロマトグラムを示す図(実施例3)。
【図2】F-trap ピレンによる13種の脂肪族アミンの誘導体化分析操作においてフルオラス固相抽出操作を行わなかった場合を比較したクロマトグラムを示す図(実施例3)。
【図3】F-trapクマリンによる13種の脂肪族アミンの誘導体化分析結果を示すクロマトグラムを示す図(実施例4)。
【図4】F-trapクマリンによる13種の脂肪族アミンの誘導体化分析操作においてフルオラス固相抽出操作を行わなかった場合を比較したクロマトグラムを示す図(実施例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光部位と、アミン類反応部位と、フッ素性部位とを有することを特徴とする蛍光誘導体化試薬。
【請求項2】
請求項1に記載する蛍光誘導体化試薬において、前記蛍光誘導体化試薬が一般式 [I]:
【化1】

(式中、Rfは炭素原子数4ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のフッ素原子で完全にもしくは部分的に置換されたフルオラスアルキル基を意味し、nは0または1ないし6の整数を意味する)
または一般式 [II]:
【化2】

(式中、Rは炭素原子数1ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のアルキル基またはアルコキシ基を意味し、Rfおよびnは前記と同じ意味を有する)
で表される多環化合物であることを特徴とする蛍光誘導体化試薬。
【請求項3】
請求項1または2に記載する蛍光誘導体化試薬において、前記蛍光誘導体化試薬が、
化学構造式[Ia]:
【化3】

で表されるF-trap ピレンまたは
化学構造式[IIa]:
【化4】

で表されるF-trap クマリンであることを特徴とする蛍光誘導体化試薬。
【請求項4】
一般式 [I]:
【化5】

(式中、Rfは炭素原子数4ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のフッ素原子で完全にもしくは部分的に置換されたフルオラスアルキル基を意味し、nは0または1ないし6の整数を意味する)
または一般式[II]:
【化6】

(式中、Rは炭素原子数1ないし10個の直鎖状もしくか分岐状のアルキル基またはアルコキシ基を意味し、Rfならびにnは前記と同じ意味を有する)
で表される蛍光誘導体化試薬をアミン類またはアミノ酸関連物質と反応させて、
反応式[Ib]:
【化7】

(式中、Rは炭素原子数1ないし20個の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を意味し、R、Rfならびにnは前記と同じ意味を有する)
または化学式[IIb]:
【化8】

(式中、R、R、Rfならびにnは前記と同じ意味を有する)
に従って誘導体化することを特徴とする蛍光誘導体化方法。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光誘導体化方法において、前記蛍光誘導体化試薬が、
一般式[IIa]:
【化9】

で表されるF-trap ピレンまたは
一般式[IIa]:
【化10】

で表されるF-trap クマリンであることを特徴とする蛍光誘導体化方法。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の蛍光誘導体化試薬または請求項4もしくは5に記載の誘導体化方法を用いて、試料中のアミン類やアミノ酸関連物質を誘導体化して分離測定することを特徴とする試料中のアミン類やアミノ酸関連物質の測定方法。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の蛍光誘導体化試薬または請求項4もしくは5に記載の誘導体化方法を用いて、試料中のアミン類やアミノ酸関連物質を誘導体化したときに過剰に残存する未反応試薬を親フッ素性吸着剤により選択的に除去することを特徴とする除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−143821(P2009−143821A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320522(P2007−320522)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年7月26日 社団法人 日本分析化学会発行の「第25回九州分析化学若手の会夏季セミナー 講演要旨集」に発表
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】