説明

蛍光CT装置

【課題】 被計測体内における蛍光射出量の分布を求め、かつ該蛍光射出量の分布に基づいた蛍光断層画像を生成する。
【解決手段】 予め蛍光試薬が投与された被検者の乳房4へ、第1極短パルス光L2を照射し、光検出部32により乳房4内を伝播した極短パルス光L4の光量の空間分布および時間変化を検出し、光学特性値分布算出部47により、光検出部32の検出結果に基づいて乳房4内における光学特性値の分布を算出する。また、第2極短パルス光L3を乳房4へ射出し、光検出部32により第2極短パルス光L3を照射されることにより乳房4内から発せられ、乳房4内を伝播した蛍光L4の光量の空間分布および時間変化を検出し、蛍光分布算出部48において、この検出結果と、光学特性値分布とに基いて、乳房4内における蛍光射出量の分布を算出する。この蛍光射出量の分布に基いて、乳房4の蛍光断層画像を生成して表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光CT装置、すなわち蛍光を用いたCT(Computed Tomography)装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、X線を用いたX線CT装置が、医療等の分野で実現されており、近年では、光を使った断層撮影法(光CT)を生体に適用するための研究が盛んに行なわれている。生体は高散乱体であるため生体に照射された光は多重散乱を繰り返しながら吸収されて生体の外部に出てくる。このようにして生体の外部に出射した光を検出することにより生体の吸収係数分布または散乱係数分布等の光学特性値分布を得ることができる。このような検出を行う方法の一例として、時間幅の極めて狭い、ピコ秒程度の極短パルス光を用いるピコ秒時間分解計測法を用いたシステムが提案されている(非特許文献1参照)。
【0003】
一般に生体等の被計測体内での光伝播を記述する方程式として、下記の光拡散方程式が知られている。
【数1】

【0004】
ここで、cは被計測体内における光速、φ(r,t)は光の積分強度で位置rおよび時間tの関数、D(r)は拡散係数で等価散乱係数μ’(r)を用いて、D(r)=1/3μ’(r)で与えられ、μ(r)は吸収係数である。S(r,t)は、被計測体内の光源であるが、蛍光などの発光がなければ0である。
【0005】
発光がない被計測体内において、等価散乱計数μ’(r)および吸収計数μ(r)の分布が与えられれば上式を有限要素法などの数値計算手法を用いて解くことができ、その結果、被測定体の表面で測定される光量の空間分布および時間変化を求めることができる。このように与えられた条件下で、上記の光拡散方程式を解いて、測定される光量を得るプロセスを順問題解析という。
【0006】
また、ピコ秒時間分解計測法を用いたシステムでは、被計測体へ入射させる入射光として、ピコ秒程度の極短パルス光を用い、被計測体内を伝播した光を複数点においてピコ秒の時間分解計測法を用いて検出する。この検出により、被計測体の表面の複数位置における光量の空間分布および時間変化を取得できる。一方で、被計測体内の光学特性値の分布、例えば吸収計数分布または散乱計数分布等を推定し、上記の入射光を被測定体へ入射させた場合の被計測体表面で測定される光量の空間分布および時間変化を光拡散方程式に基づいて、すなわち順問題計算を行って計算する。この計算結果と実際に測定した測定結果とが一致すれば、推定した光学特性値分布は正しいと考えられる。通常計算結果と測定結果は一致しないため、その誤差に基づいて光学特性値分布を推定しなおし、再度計算を行う。このプロセスを繰り返し、計算結果と測定結果の誤差が許容値以下になれば、そのときの光学測定値分布が解となる。また、このような光学測定値分布に基づいて、被計測体の光断層画像を生成することができる。このようなプロセスは逆問題解析と呼ばれている。なお、光路長を検出することにより、より高精度に光断層画像を生成することができる。
【非特許文献1】APPLIED OPTICS Vol.41, No.4 P778〜P791 by Fing Gao, et al.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記のように、順問題解析を行う際には、被計測体内に光源がないこと、すなわち蛍光などの発光がないことを前提としている。このため、上記のような逆問題解析では、被計測対内に蛍光を発する部位が存在する場合には、光学特性値分布を求めることができず、ましてや蛍光射出量の分布を求め、該蛍光射出量の分布に基づいて蛍光断層画像を生成することはできないという問題がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて、被計測体内における蛍光射出量の分布を求め、かつ該蛍光射出量の分布に基づいた蛍光断層画像を生成する蛍光CT装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による蛍光CT装置は、第1の極短パルス光を被計測体へ照射する第1の光照射手段と、
第2の極短パルス光を前記被計測体へ照射する第2の光照射手段と、
前記被計測体内部を伝播した前記第1の極短パルス光の光量の空間分布および時間変化を検出する光検出手段と、
該光検出手段の検出結果に基づいて前記被計測体内における光学特性値の分布を算出する光学特性値分布算出手段と、
前記第2の極短パルス光を照射されることにより前記被計測体内から発せられ、前記被計測体内を伝播した蛍光の光量の空間分布および時間変化を検出する蛍光検出手段と、
該蛍光検出手段の検出結果と、前記光学特性値分布算出手段により算出された前記光学特性値分布とに基いて、前記被計測体内における蛍光射出量の分布を算出する蛍光分布算出手段と、
該蛍光分布算出手段により算出された前記蛍光射出量の分布に基いて、前記被計測体の蛍光断層画像を生成する蛍光断層画像生成手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、「極短パルス光」とは、パルス長が500ps以下のパルス光を意味している。第1の極短パルス光と第2の極短パルス光は、波長およびパルス長が等しい同一のパルス光であってもよく、異なるパルス光であってもよい。また、「第1の極短パルス光」の波長は、被計測体内を伝播する波長を選択する必要がある。さらに、「第2の極短パルス光」の波長は、「第2の極短パルス光」を被計測体へ照射した場合に、被計測体から蛍光が発せられる波長である必要がある。例えば被計測体が蛍光試薬を投与された生体であれば、「第2の極短パルス光」の波長は、投与された蛍光試薬から蛍光を発生させる波長帯域のである必要がある。また、被計測体が蛍光試薬が投与されていない生体であれば、「第2の極短パルス光」の波長は、生体から自家蛍光を発生させる波長帯域の波長である必要がある。また、第1の極短パルス光と蛍光の波長は近いことが好ましい。
【0011】
ここで、「光量の空間分布および時間変化を検出する」とは、被計測体の周囲の複数の位置において、被計測体内を伝播し、周囲に射出された光の光量を高い時間分解能で検出することを意味している。例えば、時間分解能が非常に大きい光検出装置であるTAC(Time-to-Amplitude-Converter)等を用いて、被計測体周囲の複数の位置において検出を行うことである。また前記被計測体内を透過した前記第1の極短パルス光の空間分布および時間変化を検出する際には、被計測体から発せられる蛍光をカットする蛍光カットフィルタ等を用いて蛍光の影響を受けないようにする必要がある。また同様に、前記被計測体を伝播した蛍光の光量の空間分布および時間変化を検出する際には、第2の極短パルス光をカットするカットフィルタ等を用いて、第2の極短パルス光の影響を受けないようにする必要がある。
【0012】
なお、「光学特性値」とは、例えば散乱係数や吸収係数等である。
【0013】
また、前記被計測体の画像情報を担持する放射線を検出し、前記被計測体の放射線画像を生成する放射線画像取得手段と、
前記蛍光断層画像および前記放射線画像を同時に表示する表示手段とを備えたものであってもよい。
【0014】
前記光検出手段および前記光照射手段と、前記被計測体とを相対的に螺旋状に移動させる移動手段を備え、
前記光学特性値算出手段が、複数位置で検出した、被計測体内を伝播した前記第1の極短パルス光の光量の前記空間分布および前記時間変化に基づいて前記被計測体内における3次元光学特性値分布を算出するものであり、
前記蛍光分布算出手段が、前記3次元光学特性値分布と、複数位置で検出した、前記被計測体内を伝播した前記蛍光の前記空間分布および前記時間変化とに基いて、前記蛍光射出量の3次元分布を算出するものであれば、
前記蛍光断層画像生成手段は、前記蛍光射出量の前記3次元分布に基いて、前記被計測体の3次元蛍光断層画像を生成するものであってもよい。
【0015】
前記被計測体が乳房であり、前記第1の極短パルス光および第2の極短パルス光が近赤外光であり、前記蛍光断層画像が、前記乳房の胸壁と平行な断面における蛍光断層画像であってもよい。なお、ここで「近赤外光」とは、波長700nm以上1500nm以下の光を意味している。
【0016】
前記乳房には、異常組織に対する親和性を有する蛍光試薬が予め投与され、前記蛍光が前記蛍光試薬から主に発せられるものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光CT装置は、第1の極短パルス光を被計測体へ照射する第1の光照射手段と、第2の極短パルス光を前記被計測体へ照射する第2の光照射手段と、前記被計測体内部を伝播した前記第1の極短パルス光の光量の空間分布および時間変化を検出する光検出手段と、該光検出手段の検出結果に基づいて前記被計測体内における光学特性値の分布を算出する光学特性値分布算出手段と、前記第2の極短パルス光を照射されることにより前記被計測体内から発せられ、前記被計測体内を伝播した蛍光の光量の空間分布および時間変化を検出する蛍光検出手段と、該蛍光検出手段の検出結果と、前記光学特性値分布算出手段により算出された前記光学特性値分布とに基いて、前記被計測体内における蛍光射出量の分布を算出する蛍光分布算出手段と、該蛍光分布算出手段により算出された前記蛍光射出量の分布に基いて、前記被計測体の蛍光断層画像を生成する蛍光断層画像生成手段とを備えたことにより、被計測体の蛍光断層画像を取得することができる。すなわち、まず、極短パルス光を用いて、被計測体の光学特性値分布、例えば等価散乱係数逸数μ’(r)の分布および吸収係数μ(r)の分布を算出する。さらに、被計測体内を伝播した蛍光の光量の空間分布および時間変化を測定により求める。この算出した光学特性値分布と、測定した被計測体内を伝播した蛍光の光量の空間分布および時間変化が与えられれば、上述の光拡散方程式を解くことができ、その結果、被計測体内の光源S(r,t)の分布、すなわち蛍光射出量の分布を得ることができ、該蛍光射出量の分布に基いて蛍光断層画像を生成することができる。
【0018】
なお、「光量の空間分布および時間変化を検出する」際には、複数位置での検出を行うことが好ましく、検出位置数が増加することにより、光学特性値の分布あるは蛍光射出量の分布を高精度で算出することができる。
【0019】
また、前記被計測体の画像情報を担持する放射線を検出し、前記被計測体の放射線画像を生成する放射線画像取得手段と、前記蛍光断層画像および前記放射線画像を同時に表示する表示手段とを備えたことにより、観察者は前記蛍光断層画像と放射線画像とを容易に比較することができる。
【0020】
前記光検出手段および前記光照射手段と、前記被計測体とを相対的に螺旋状に移動させる移動手段を備え、前記光学特性値算出手段が、複数位置で検出した、被計測体内を伝播した前記第1の極短パルス光の光量の前記空間分布および前記時間変化に基づいて前記被計測体内における3次元光学特性値分布を算出するものであり、前記蛍光分布算出手段が、前記3次元光学特性値分布と、複数位置で検出した、前記被計測体内を伝播した前記蛍光の前記空間分布および前記時間変化とに基いて、前記蛍光射出量の3次元分布を算出するものであり、前記蛍光断層画像生成手段が、前記蛍光射出量の前記3次元分布に基いて、前記被計測体の3次元蛍光断層画像を生成するものであれば、3次元蛍光断層画像を高分解能で取得することができる。
【0021】
前記被計測体が乳房であり、前記第1の極短パルス光および第2の極短パルス光が近赤外光であり、前記蛍光断層画像が、前記乳房の胸壁と平行な断面における蛍光断層画像であれば、近赤外光は乳房を透過しやすいため、高精度に蛍光断層画像を取得することができる。
【0022】
前記乳房に、予め異常組織に対する親和性を有する蛍光試薬が投与され、前記蛍光が前記蛍光試薬から主に発せられるものであれば、蛍光断層画像を観察することにより、容易に異常組織を視認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明による第1の実施形態である蛍光CT装置である。本蛍光CT装置は、乳房の蛍光断層画像およびX線断層画像を同時に取得できる装置である。
【0024】
蛍光CT装置は、図1に示すように、X線源21、X線検出部22およびX線断層画像取得部23からなるX線CT部と、極短パルス光を射出する光照射部31、光検出部32および蛍光断層画像取得部33とからなる蛍光CT部とが、回転リング10を中心に設けられている。また、回転リング10は、図2に示すように、台1に設けられた空間2内に、水平に配置されている。被検者3は、蛍光診断画像を取得する方の乳房4が回転リング10の内側に収容されるように、台1にうつ伏せる。なお、被検者3には、異常組織、例えば癌組織に対する親和性を有する蛍光試薬が予め投与されている。この蛍光試薬は、波長750nmの光を照射されることにより、波長800nm近傍の蛍光を発するものである。
【0025】
X線源21は、X線L1を射出するものであり、回転リング10の一端へ配置されている。回転リング10のX線源21とほぼ対向した位置に、X線検出部22が設けられている。X線検出部22は、多数のX線検出素子24a、24b、24c・・・からなり、各X線検出素子24a、24b、24c・・・は、X線が入射すると入射量に応じた可視光を射出するシンチレータと各シンチレータから射出された可視光の光強度を検出するフォトダイオードとから構成されている。
【0026】
光照射部31は、一端が回転リング10内へ開放され、他端が半導体レーザへ接続されているファイバ35、ファイバ35へ波長800nm、パルス幅100psの第1極短パルス光L2を射出する半導体レーザ36およびファイバ35へ波長750nm、パルス幅100psの第2極短パルス光L3を射出する半導体レーザ37とからなる。なお、半導体レーザ36および半導体レーザ37は、不図示の切り替え部によりどちらか一方がファイバ35へ接続される。
【0027】
光検出部32は、時間分解能が100psの光検出装置であるTAC(Time-to-Amplitude-Converter)40a、40b、40c・・・と、一端が回転リング10内へ開放され、他端がそれぞれTAC40a、40b、40c・・・へ接続されている32本のファイバ41a、41b、41c・・・と、ファイバ41a、41b、41c・・・とTAC(Time-to-Amplitude-Converter)40a、40b、40c・・・との間にそれぞれ設けられた切り替えフィルタ42a、42b、42c・・・とからなる。各切り替えフィルタ42a、42b、42c・・・は、図3に示すように波長850nm以上の光をカットするフィルタ43と、波長800nm以下の光をカットするフィルタ44とが組み合わされたものであり、不図示の切り替え部により適宜切り替えて使用される。各ファイバ41a、41b、41c・・・は、回転リング10の光照射部31と対向している部位を中心に等間隔に配置されている。
【0028】
蛍光断層画像取得部33は、検出毎に各TAC40a、40b、40c・・・の検出結果を記憶するメモリ46と、乳房4内における光学特性値の分布を算出する光学特性値分布算出部47と、乳房4内における蛍光射出量の分布を算出する蛍光分布算出部48と、該蛍光分布算出部48により算出された蛍光射出量の分布に基いて、乳房4の蛍光断層画像を生成する蛍光断層画像生成部49と、3次元蛍光断層画像を生成する3次元蛍光断層画像生成部50とからなる。
【0029】
また、回転リング10は移動機構11により水平回転、上下移動、または螺旋状に回転しながらの上下移動を行うものである。
【0030】
以下、まずX線画像の取得方法について説明する。被検者の乳房4を回転リング10の内側に収容した状態で、X線源21からX線L1を射出する。X線検出部22の各X線検出素子24a、24b、24c・・・では、乳房4を透過したX線が入射すると各シンチレータから入射量に応じた可視光が射出され、各フォトダイオードによりこの可視光の光強度が検出されて、X線断層画像生成部23へ出力される。その後、回転リング10が、移動機構11により僅かに回転され、再度X線源21からX線L1が射出され、次の検出が行われる。回転リング10を回転させる毎に、このようなX線源21からのX線L1の射出および検出が繰り返される。回転リング10が360度回転された後に、X線断層画像生成部23では、X線断層画像を生成する。また、必要であれば、回転リング10の上下位置を僅かに下降させ、同様にX線断層画像を生成する。乳房4全体のX線断層画像を生成後、乳房4の3次元X線断層画像を生成する。また、このように多数枚に輪切り状の断層画像を取得するのではなく、回転リング10を螺旋状に回転させながら下降する、すなわちヘリカルスキャンを行うことにより、3次元X線断層画像を生成するデータを取得すれば、高分解能で3次元X線断層画像を生成することができる。
【0031】
次に蛍光断層画像の取得方法について説明する。まず、半導体レーザ36をファイバ35へ接続し、波長800nm、パルス幅100psの第1極短パルス光L2を乳房4へ射出する。なお、光検出部32のファイバ41a、41b、41c・・・の端部とTAC40a、40b、40c・・・との間にそれぞれ設けられた切り替えフィルタ42a、42b、42c・・・は、波長850nm以上の光をカットするフィルタ43が各TAC40a、40b、40c・・・の前面に配置されている。波長800nmの光が乳房4へ入射されると、乳房4の異常組織に蛍光試薬が集まっている場合には、蛍光試薬から蛍光が発せられる。通常発せられる蛍光の波長は、照射される光の波長から長波長側へずれるため、フィルタ43をTACの前面へ配置することにより、TACへ蛍光が入射することはない。
【0032】
各TAC40a、40b、40c・・・により、図4に示すように、各測定点において異なる時間分解曲線が検出され、蛍光断層画像取得部33のメモリ46へ出力され、検出位置データと組み合わせて記憶される。なお、この検出位置データおよび時間分解曲線が、本発明における「被計測体内部を伝播した第1の極短パルス光の光量の空間分布および時間変化」と対応するものである。
【0033】
その後、回転リング10が、移動機構11により僅かに回転され、同様の検出が行われる。検出を繰り返しながら、回転リング10が360度回転された後に、光学特性値分布算出部47では、メモリ46に記憶された検出位置データおよび時間分解曲線に基いて、すなわち乳房4内を伝播した第1極短パルス光の光量の空間分布と時間変化に基いて、逆問題解析手法により光拡散方程式を解いて、光学特性値の分布、すなわち等価散乱計数μ’(r)および吸収計数μ(r)の分布を求める。
【0034】
次に、半導体レーザ37をファイバ35へ接続し、波長750nm、パルス幅100psの第2極短パルス光L3を乳房4へ射出する。なお、切り替えフィルタ42a、42b、42c・・・では、波長800nm以下の光をカットするフィルタ44が各TAC40a、40b、40c・・・の前面に配置されている。波長750nmの光が乳房4へ入射されると、乳房4の異常組織に蛍光試薬が集まっている場合には、蛍光試薬から波長850nm近傍の蛍光が発せられる。フィルタ44をTACの前面へ配置することにより、TACへ第2極短パルス光L3が入射することはない。
【0035】
各TAC40a、40b、40c・・・により、各測定点における時間分解曲線が検出され、蛍光断層画像取得部33のメモリ46へ出力され、検出位置データと組み合わせて記憶される。なお、この検出位置データおよび時間分解曲線が、本発明における「被計測体内を伝播した蛍光の光量の空間分布および時間変化」と対応するものである。
【0036】
その後、回転リング10が、移動機構11により僅かに回転され、同様の検出が行われる。検出を繰り返しながら、回転リング10が360度回転された後に、蛍光分布算出部48では、蛍光検出部32の検出結果、すなわち乳房4内を伝播した蛍光の光量の空間分布および時間変化と、光学特性値分布算出部47により算出された光学特性値分布(等価散乱計数μ’(r)および吸収計数μ(r)の分布)とに基いて、逆問題解析手法により光拡散方程式を解いて、乳房4内における蛍光射出量の分布を算出する
また、蛍光断層画像生成部49は、蛍光分布算出部48により算出された蛍光射出量の分布に基いて、乳房4の蛍光断層画像を生成する。また、必要であれば、回転リング10の上下位置を僅かに下降させ、同様に蛍光断層画像を生成する。乳房4全体の蛍光断層画像を生成後、乳房4の3次元蛍光断層画像を生成する。また、このように多数枚に輪切り状の断層画像を取得するのではなく、回転リング10を螺旋状に回転させながら下降する、すなわちヘリカルスキャンを行うことにより、3次元蛍光断層画像を生成するデータを取得すれば、高分解能で3次元蛍光断層画像を生成することができる。なおこの場合には、蛍光分布算出部47において、3次元光学特性値分布を算出し、蛍光分布算出部48が、光検出部32の検出結果と、3次元光学特性値分布に基いて、蛍光射出量の3次元分布を算出し、蛍光断層画像生成部49は、該蛍光射出量の3次元分布に基いて3次元蛍光断層画像を生成するものである。
【0037】
なお、説明を簡単にするためにX線断層画像と蛍光断層画像の取得動作を別個に説明したが、これらの動作は並行して行われる。例えば1回ヘリカルスキャンを行うのみで、3次元X線断層画像および3次元蛍光断層画像を取得することができる。
【0038】
観察者は、X線断層画像および蛍光断層画像を取得後に図5に示すように不図示の表示部へ各画像を表示する。この際、X線断層画像61の隣に、同じ位置において取得した蛍光断層画像62を表示する。観察者は、同一断面から取得したX線断層画像と蛍光断層画像を同時に観察でき、容易に比較することができる。また、X線断層画像を読影する場合とほぼ同じ感覚で、蛍光断層画像を読影することができ、容易に発光している異常組織63を視認することができる。
【0039】
さらに、X線断層画像と蛍光断層画像とを重畳した重畳画像65を形成して表示してもよい。重畳画像65を観察することにより、石灰化64の状態および蛍光を発している異常組織63の状態を同時に視認することができる。
【0040】
3次元X線断層画像および3次元蛍光断層画像も同時にあるいは重畳して表示することができ、観察者は容易に異常組織の3次元分布状態を認識することができる。
【0041】
なお、本実施の形態においては、予め蛍光試薬を投与したが、これに限定されものではない。ある種の、例えば癌等の異常組織は正常組織に比べ僅かではあるが強い蛍光(自家蛍光)を発する傾向がある。第2極短パルス光の強度および波長を適切に選択し、かつ光検出部の検出感度を上げることにより、蛍光試薬を投与せずに蛍光画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態の蛍光CT装置
【図2】蛍光断層画像の取得状態の説明図
【図3】切り替えフィルタの説明図
【図4】時間分解曲線の説明図
【図5】蛍光断層画像およびX線断層画像の説明図
【符号の説明】
【0043】
3 被検者
4 乳房
10 回転リング
11 移動機構
21 X線源
22 X線検出部
23 X線断層画像取得部
31 光照射部
32 光検出部
33 蛍光断層が像取得部
35 ファイバ
36、37 半導体レーザ
40a、40b、40c・・・ TAC
41a、41b、41c・・・ ファイバ
42a、42b、42c・・・ 切り替えフィルタ
46 メモリ
47 光学特性値分布算出部
48 蛍光分布算出部
49 蛍光断層画像生成部
50 3次元蛍光断層画像生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の極短パルス光を被計測体へ照射する第1の光照射手段と、
第2の極短パルス光を前記被計測体へ照射する第2の光照射手段と、
前記被計測体内部を伝播した前記第1の極短パルス光の光量の空間分布および時間変化を検出する光検出手段と、
該光検出手段の検出結果に基づいて前記被計測体内における光学特性値の分布を算出する光学特性値分布算出手段と、
前記第2の極短パルス光を照射されることにより前記被計測体内から発せられ、前記被計測体内を伝播した蛍光の光量の空間分布および時間変化を検出する蛍光検出手段と、
該蛍光検出手段の検出結果と、前記光学特性値分布算出手段により算出された前記光学特性値分布とに基いて、前記被計測体内における蛍光射出量の分布を算出する蛍光分布算出手段と、
該蛍光分布算出手段により算出された前記蛍光射出量の分布に基いて、前記被計測体の蛍光断層画像を生成する蛍光断層画像生成手段とを備えたことを特徴とする蛍光CT装置。
【請求項2】
前記被計測体の画像情報を担持する放射線を検出し、前記被計測体の放射線画像を生成する放射線画像取得手段と、
前記蛍光断層画像および前記放射線画像を同時に表示する表示手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の蛍光CT装置。
【請求項3】
前記光検出手段および前記光照射手段と、前記被計測体とを相対的に螺旋状に移動させる移動手段を備え、
前記光学特性値算出手段が、複数位置で検出した、前記被計測体内を伝播した前記第1の極短パルス光の光量の前記空間分布および前記時間変化に基づいて前記被計測体の3次元光学特性値分布を算出するものであり、
前記蛍光分布算出手段が、前記3次元光学特性値分布と、複数位置で検出した、前記被計測体内を伝播した前記蛍光の前記空間分布および前記時間変化とに基いて、前記蛍光射出量の3次元分布を算出するものであり、
前記蛍光断層画像生成手段が、前記蛍光射出量の前記3次元分布に基いて、前記被計測体の3次元蛍光断層画像を生成するものであることを特徴とする請求項1または2記載の蛍光CT装置。
【請求項4】
前記被計測体が乳房であり、前記第1の極短パルス光および第2の極短パルス光が近赤外光であり、前記蛍光断層画像が、前記乳房の胸壁と平行な断面における蛍光断層画像であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の蛍光CT装置。
【請求項5】
前記乳房には、異常組織に対する親和性を有する蛍光試薬が予め投与され、前記蛍光が前記蛍光試薬から主に発せられるものであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の蛍光CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−26017(P2006−26017A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207768(P2004−207768)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】