説明

蛍光X線分析方法及び蛍光X線分析装置

【課題】濃度に拘わらずに液体試料中の元素の定量分析を行うことができる蛍光X線分析方法及び蛍光X線分析装置を提供する。
【解決手段】本発明においては、平坦な試料台2上に所定量の液体試料を滴下し、乾燥させ、残渣試料(残渣)31を作成する。蛍光X線装置は、駆動部41で試料台2を移動しながらX線源11から試料台2へX線を照射することにより、残渣試料31を含む試料台2上をX線で走査する。検出部12は、蛍光X線を検出する。分析部13は、特定の元素に起因する蛍光X線の強度分布を生成し、蛍光X線の強度の積算値を計算し、予め記憶部16に記憶された検量線を用いて、積算値から液体試料中の特定の元素の濃度を計算する。液体試料の濃度に拘わらず、残渣試料31の全体にX線が照射され、液体試料に含まれる特定の元素の定量分析が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析により、液体試料に含まれる元素の定量分析を行う蛍光X線分析方法、及び蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線を試料に照射し、試料から発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線のスペクトルから試料の元素分析を行う手法である。特許文献1には、液体試料に含まれる特定の元素の定量分析を行う技術が開示されている。特許文献1に開示された従来技術では、薄膜上に液体試料を滴下し、溶媒を蒸発させ、薄膜上に残留した残渣にX線を照射することによって、液体試料に含まれる特定の元素の定量分析を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−291823号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光X線分析において試料に照射されるX線の照射範囲の面積は一定である。液体試料の残渣がX線の照射範囲よりも広い範囲に広がっている場合は、残渣の中にX線が照射されない部分が発生し、元素の定量分析ができない。液体試料中の溶質の濃度が高くなるほど残渣の面積が広くなる傾向があり、残渣の面積がX線の照射範囲以上の広さとなる濃度以上では、液体試料中の元素の定量分析ができなくなるので、元素の定量分析ができる濃度に限界があった。液体試料の滴下量を減少させた場合は、高濃度の液体試料でも元素の定量分析が可能になるものの、低濃度の液体試料において蛍光X線の強度が低下し、検出感度が悪化する。液体試料の濃度に応じて滴下量を変更した場合は、検量線が使用できず、滴下量に測定誤差が発生するので、定量分析の精度が悪化する。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、濃度に拘わらずに精度良く液体試料中の元素の定量分析を行うことができる蛍光X線分析方法及び蛍光X線分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る蛍光X線分析方法は、液体試料に含まれる特定の元素の定量分析を蛍光X線分析により行う方法において、試料台上に液体試料を滴下し、乾燥させ、乾燥後の残渣が残留した前記試料台上へX線を照射しながら、X線の光路と前記試料台とを相対移動させることにより、前記残渣を含む前記試料台上をX線で走査し、前記試料台上の各点から発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線の検出結果から、前記試料台上で発生した特定の元素に対応する蛍光X線の強度分布を生成し、生成した強度分布に含まれる前記特定の元素に対応する蛍光X線の強度を積算した積算値を計算し、計算した積算値に基づいて、前記液体試料に含まれる前記特定の元素の量を求めることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る蛍光X線分析方法は、前記強度分布から、前記特定の元素に対応する蛍光X線の強度が所定値以上の強度である領域を抽出し、前記積算値を計算する際に、抽出した前記領域に含まれる前記特定の元素に対応する蛍光X線の強度を積算することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る蛍光X線分析方法は、前記液体試料の滴下量を予め定めておき、滴下した前記液体試料に含まれる前記特定の元素の量として、前記液体試料に含まれる前記特定の元素の濃度を計算することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る蛍光X線分析装置は、液体試料に含まれる特定の元素の定量分析を行う蛍光X線分析装置において、液体試料を滴下して乾燥させるための平坦な試料台と、前記試料台上へX線を照射する手段と、X線の光路と前記試料台とを相対移動させることにより、乾燥後の残渣を含む前記試料台上をX線で走査する手段と前記試料台上の各点から発生する蛍光X線を検出する手段と、蛍光X線の検出結果から、前記試料台上で発生した特定の元素に対応する蛍光X線の強度分布を生成する手段と、該手段により生成した強度分布に含まれる前記特定の元素に対応する蛍光X線の強度を積算した積算値を計算する手段と、該手段により計算した積算値に基づいて、前記液体試料に含まれる前記特定の元素の量を計算する元素量計算手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る蛍光X線分析装置は、前記特定の元素の量と前記積算値との関係を表す予め求められた検量線を記憶してある手段を更に備え、前記元素計算手段は、計算した前記積算値及び前記検量線に基づいて前記液体試料に含まれる前記特定の元素の量を計算するように構成してあることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、試料台上に液体試料を滴下し、乾燥させ、乾燥後の残渣が残留した試料台上をX線で走査し、特定の元素に起因して発生した蛍光X線の強度分布を生成し、蛍光X線の強度の積算値を計算し、積算値に基づいて特定の元素の量を計算する。残渣の広さに拘わらず、残渣の全体にX線が照射されるので、蛍光X線の強度の積算値により、液体試料に含まれる特定の元素の量が求められる。
【0012】
また本発明においては、蛍光X線の強度分布から強度が所定値以上である領域を抽出し、抽出した領域に含まれる蛍光X線の強度を積算した積算値を計算する。蛍光X線の強度が所定値以上である領域は、特定の元素を含む残渣に対応する部分であり、この領域に含まれる蛍光X線の強度を積算した積算値は、残渣に含まれる特定の元素の量に応じた値となる。
【0013】
また本発明においては、液体試料の滴下量を一定としておき、蛍光X線の強度の積算値に基づいて、液体試料に含まれる特定の元素の濃度を計算する。
【0014】
また本発明においては、蛍光X線分析装置は、濃度等の液体試料に含まれる特定の元素の量と蛍光X線の強度の積算値との関係を表す検量線を予め記憶しておき、検量線上で積算値に対応する特定の元素の量を特定する。
【発明の効果】
【0015】
本発明にあっては、液体試料に含まれる特定の元素の濃度が高濃度であっても、液体試料に含まれる特定の元素の量が求められるので、濃度に拘わらずに液体試料中の元素の定量分析を行うことができる。また濃度に拘わらず定量分析が可能になるので、液体試料の滴下量を一定にすることができ、滴下量の測定誤差が発生しなくなるので、液体試料に含まれる元素の量の分析精度が向上する等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る蛍光X線分析装置の構成を示す模式図である。
【図2】残渣試料を作成する方法を示す模式的斜視図である。
【図3】シート材上に残渣試料が残留した状態を示す模式的斜視図である。
【図4】液体試料の濃度と円状の残渣試料の直径との関係を表す特性図である。
【図5】液体試料の濃度と試料台を動かさずに測定した蛍光X線の強度との関係を表す特性図である。
【図6】液体試料の濃度と残渣試料の全体から検出した蛍光X線強度の積算値との関係を表す特性図である。
【図7】本発明の蛍光X線分析装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】蛍光X線の強度分布を示す模式図である。
【図9】蛍光X線の強度分布内に境界線が指定された状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明に係る蛍光X線分析装置の構成を示す模式図である。蛍光X線分析装置は、試料台2と、試料台2上へX線を照射するX線源11と、X線の照射によって発生する蛍光X線を検出する検出部12と、蛍光X線の検出結果を分析する分析部13とを備えている。図1中には、X線源11が照射するX線と発生する蛍光X線との経路を矢印で示している。少なくともX線源11、試料台2及び検出部12は、X線を遮蔽する図示しない筐体内に納められている。分析部13には、分析の途中経過及び分析結果を出力するためのディスプレイ等の出力部14と、使用者が操作することにより各種の指示を入力するためのマウス又はキーボード等の入力部15とが接続されている。また分析部13には、分析部13での処理に必要な各種のプログラム及びデータを記憶する記憶部16が接続されている。試料台2は、平板状の支持板22と、支持板22上に張設したシート材21と、支持板22を載置した可動ステージ23とを含んで構成されている。可動ステージ23は、水平方向に移動することが可能なステージである。可動ステージ23は、可動ステージ23を移動させるためのステッピングモータ等の駆動部41に連結されており、駆動部41は、駆動部41の動作を制御する制御部42に接続されている。
【0018】
X線源11は、金属製のターゲットに加速電子を衝突させることによってX線を発生させるX線管である。検出部12は、検出素子として比例計数管を用いた構成となっており、比例計数管に入射した蛍光X線のエネルギーに比例した電気信号を分析部13へ出力する。なお、検出部12は、検出素子として、半導体検出素子等の比例計数管以外の検出素子を用いた形態であってもよい。分析部13は、コンピュータを用いてなり、検出部12からの電気信号を信号強度に応じて選別し、各信号強度の電気信号をカウントすることにより、蛍光X線のエネルギー又は波長とカウント数との関係、即ち蛍光X線のスペクトルを取得する。記憶部16は、フラッシュメモリ又はハードディスク等、不揮発性の記憶素子を用いて構成されている。また分析部13は、蛍光X線のスペクトルから特定の元素に対応する蛍光X線信号の強度を取得する処理を行う。
【0019】
支持板22は、平坦に形成されており、シート材21を支持板22上に張設することにより、シート材21は平坦に配置される。可動ステージ23は、載置された支持板22上に張設されたシート材21が水平になるように構成されている。シート材21は、その上に液体試料が滴下され、滴下された液体試料が乾燥した残渣試料(残渣)31が残留され、X線源11からX線を照射されるためのものである。シート材21は、散乱X線の発生を抑制するために、X線が透過しやすい材料で形成されていることが望ましい。例えば、シート材21は、ポリエチレンテレフタレート又はポリプロピレン等の有機薄膜で形成されている。シート材21の厚みは、支持板22上に張設できる強度を保つことができる最低限の厚み以上である必要がある。またシート材21の厚みが小さいほど散乱X線の発生が抑制され、蛍光X線分析の精度が向上する。高精度の蛍光X線分析を可能とするためには、シート材21の厚みが8μm以下であれば好ましく、シート材21の厚みが4μm以下であれば最も好ましい。またシート材21には、液体試料の撥水性を高めるために、フッ素樹脂コートを行ってあることが望ましい。フッ素樹脂コートの厚みは、撥水性を保つことができる最低限の厚み以上である必要がある。またフッ素樹脂コートの厚みが小さいほど散乱X線の発生が抑制され、蛍光X線分析の精度が向上する。良好な蛍光X線分析を行うためには、フッ素樹脂コートの厚みは1μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であればより好ましい。
【0020】
図2は、残渣試料31を作成する方法を示す模式的斜視図である。図2に示すように、支持板22は平板に孔を開けて形成しており、シート材21は、支持板22の穴を塞ぐように張設されている。図2中には、シート材21で隠れている支持板22の穴の部分を破線で示している。予め定められた所定量の液体試料32がピペット5によりシート材21上に滴下される。シート材21上に滴下された液体試料32は乾燥し、残渣試料31がシート材21上に残留する。図3は、シート材21上に残渣試料31が残留した状態を示す模式的斜視図である。残渣試料31は、通常、円状の形状をなしてシート材21上に残留する。
【0021】
図4は、液体試料32の濃度と円状の残渣試料31の直径との関係を表す特性図である。液体試料32として、濃度1,5,10,50,100,500,1000ppmのCa(カルシウム)液体標準試料を作成し、作成した液体試料32をシート材21へ5μl滴下し、乾燥後に残渣試料31の直径を測定した。図4の横軸は液体試料32中のCa濃度を示し、縦軸は円状の残渣試料31の直径を示す。液体試料32中のCa濃度が大きくなるほど、残渣試料31の直径が大きくなることが明らかである。
【0022】
図5は、液体試料32の濃度と試料台2を動かさずに測定した蛍光X線の強度との関係を表す特性図である。各濃度の液体試料32から作成した残渣試料31に対して、試料台2を動かさずにX線源11からX線を照射し、Caに起因する蛍光X線を検出部12で検出し、分析部13でカウントした。図5の横軸は液体試料32中のCa濃度を示し、縦軸はCaに起因する蛍光X線の強度を示す。蛍光X線の強度はカウント数で表される。図5に示すように、Ca濃度が100ppm程度まではCa濃度の増加に応じて蛍光X線の強度が増加する。しかし、Ca濃度が100ppmより大きい場合は、Ca濃度が増加しても蛍光X線の強度は増加しない。実験に用いた蛍光X線分析装置では、X線源11からのX線の照射範囲が直径100μmの円である。Ca濃度がある程度以上大きい場合は、残渣試料31の直径がX線の照射範囲よりも大きくなり、残渣試料31の中にX線が照射されない部分が発生するので、蛍光X線の強度が増加しなくなると考えられる。
【0023】
図6は、液体試料32の濃度と残渣試料31の全体から検出した蛍光X線強度の積算値との関係を表す特性図である。各濃度の液体試料32から作成した残渣試料31に対して、試料台2を駆動部41で移動させながらX線源11からX線を照射することにより、残渣試料31の全体をX線で走査した。残渣試料31の各点から発生した蛍光X線を検出部12で検出し、Caに起因する蛍光X線の強度を分析部13で積算した。図6の横軸は液体試料32中のCa濃度を示し、縦軸はCaに起因する蛍光X線の強度の積算値を示す。残渣試料31をX線で照射しながら各点からの蛍光X線を検出するので、蛍光X線強度はcpsではなく、カウント数の単位で計算される。図6に示すように、Ca濃度の増加に応じて蛍光X線強度の積算値が増加している。残渣試料31をX線で走査することにより、残渣試料31の中にX線の照射されない部分が無くなり、残渣試料31の全体に含まれるCaの量に応じた蛍光X線強度の積算値が得られていると考えられる。
【0024】
図6に示す如き、液体試料32に含まれる特定の元素の濃度と当該元素に起因する蛍光X線強度の積算値との関係を表す特性図は、蛍光X線強度の積算値から液体試料32に含まれる特定の元素の濃度を求めるための検量線である。検量線は元素によって異なる。記憶部16は、分析対象となる複数の元素の夫々について予め測定された検量線を記憶している。なお、液体試料32の溶媒が異なる場合、分析対象の元素が同じでも検量線が異なる可能性がある。記憶部16は、複数の溶媒の夫々について予め測定された検量線を記憶している形態であってもよい。
【0025】
次に、本発明の蛍光X線分析方法を説明する。支持板22上にシート材21を張設しておく。濃度不明の液体試料32を所定の容積だけピペット5で取得し、図2に示すように、ピペット5から支持板22上のシート材21へ所定の容積の液体試料32を滴下する。ピペット5としては、一定の容積の液体試料32を取得するピペット5を使用する。滴下した液体試料32を乾燥させることにより、図3に示すように、シート材21上に残渣試料31が残留する。その後、支持板22を可動ステージ23上に載置する。これにより、試料台2上に残渣試料31が配置される。
【0026】
図7は、本発明の蛍光X線分析装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。使用者が入力部15を操作することにより、分析部13は、分析対象の元素の指定を受け付け、分析対象の元素を設定する(S1)。なお、分析部13は、ステップS1で、液体試料32の溶媒の指定、X線で試料台2上を走査する際の走査範囲の大きさ、及び走査のスピード等のその他の条件を設定してもよい。制御部42は、駆動部41に可動ステージ23を水平に移動させることにより、試料台2を走査の開始位置へ移動させる(S2)。試料台2が走査の開始位置に配置された状態で、蛍光X線分析装置は、X線源11から試料台2へのX線の照射と、検出部12での蛍光X線の検出とを開始する(S3)。X線源11は試料台2上へX線を照射し、検出部12は蛍光X線を検出し、分析部13は蛍光X線のスペクトルを取得する。
【0027】
X線の照射及び蛍光X線の検出と並行して、制御部42は、試料台2の位置が操作を終了すべき終了位置であるか否かを判定する(S4)。試料台2の位置が終了位置ではない場合は(S4:NO)、制御部42は、駆動部41に試料台2を次の位置へ移動させ(S5)、処理をステップS4へ戻す。制御部42は、試料台2上の予め定められた走査範囲内に均一にX線が照射されるように、駆動部41に試料台2を水平に二次元的に移動させる。走査範囲としては、残渣試料31を包含するのに十分な広さの範囲が予め指定されている。制御部42は、駆動部41に試料台2を連続的に移動させてもよく、間欠的に移動させてもよい。間欠的に移動させる場合は、試料台2の一ステップ分の移動量は、X線源11から試料台2上に照射されるX線の照射範囲の大きさよりも小さい量とする。分析部13は、試料台2が移動する都度、蛍光X線のスペクトルを取得し、試料台2上のX線が照射された夫々の点に関連付けて、各点から発生した蛍光X線のスペクトルを記憶する。ステップS4で試料台2の位置が終了位置である場合は(S4:YES)、蛍光X線分析装置は、X線の照射及び蛍光X線の検出を終了する(S6)。ステップS3〜S6の処理により、X線による試料台2上の走査が行われ、試料台2上の各点で発生した蛍光X線が検出される。
【0028】
分析部13は、次に、試料台2上のX線の走査範囲から発生した蛍光X線の強度分布を生成する(S7)。ステップS7では、分析部13は、試料台2上の各点から発生した蛍光X線のスペクトルに含まれる特定の元素に起因する蛍光X線の信号を特定し、特定した信号の強度を検出し、検出した強度と試料台2上の点とを対応づける処理を行う。走査時の各ステップでX線が照射される照射範囲はオーバーラップしており、試料台2上の各点からの蛍光X線は重複して検出されているものの、ステップS7では、分析部13は、重複した蛍光X線の強度を補正した上で強度分布を生成している。分析部13は、次に、生成した蛍光X線の強度分布を出力部14に表示させる(S8)。図8は、蛍光X線の強度分布を示す模式図である。図中のハッチングは、試料台2上の部分の内、蛍光X線の強度が所定の閾値以上である部分を示す。特定の元素に起因する蛍光X線の強度が所定の閾値以上である部分は、試料台2上で残渣試料31が存在する部分に対応する。ステップS8では、図8に示す如き蛍光X線の強度分布の画像が出力される。
【0029】
分析部13は、次に、使用者が入力部15を操作することにより、蛍光X線の強度分布の内で残渣試料31に対応する領域の指定を受け付ける(S9)。図9は、蛍光X線の強度分布内に境界線が指定された状態を示す模式図である。使用者は、出力部14に出力された蛍光X線の強度分布の画像を目視し、図9に示すごとく、蛍光X線の強度が閾値以上である部分を囲む境界線を指定する。分析部13は、次に、蛍光X線の強度分布の中から、境界線で囲まれた残渣試料31に対応する領域を抽出する(S10)。なお、分析部13は、使用者の操作によらず、自動で残渣試料31に対応する領域を指定してもよい。具体的には、分析部13は、ステップS9で、蛍光X線の強度分布の中で蛍光X線の強度が所定の閾値以上である部分を検出し、ステップS10で、検出した部分からなる領域を抽出する処理を行う形態であってもよい。この形態では、分析部13は、ステップS8の処理を省略する形態であってもよい。
【0030】
分析部13は、次に、抽出した領域の全体に亘って蛍光X線の強度を積算した積算値を計算する(S11)。分析部13は、次に、分析対象の元素の検量線を記憶部16から読み出し、読み出した検量線上で計算した積算値に対応する濃度を特定することにより、液体試料32に含まれる特定の元素の濃度を計算する(S12)。分析部13は、計算した濃度、及び強度分布等、蛍光X線分析の結果を出力部14で出力し(S13)、処理を終了する。
【0031】
なお、記憶部16は、特定の元素の絶対量と蛍光X線の強度の積算値との関係を示した検量線を記憶しておき、分析部13は、検量線に基づいて、残渣試料31に含まれる特定の元素の絶対量を計算する処理を行う形態であってもよい。また分析部13は、計算した特定の元素の絶対量と予め定められた液体試料32の滴下量とから液体試料32に含まれる特定の元素の濃度を計算する処理を行う形態であってもよい。
【0032】
以上詳述した如く、本発明の蛍光X線分析方法では、残渣試料31を含む試料台2上をX線で走査し、特定の元素に起因して発生した蛍光X線の強度分布を生成し、蛍光X線の強度の積算値を計算し、積算値に基づいて液体試料32中の特定の元素の濃度を計算する。残渣試料31を含む試料台2上をX線で走査するので、残渣試料31の面積が一回のX線照射の照射範囲よりも大きい広さであっても、残渣試料31の全体にX線が照射され、残渣試料31に含まれる特定の元素の定量分析が可能となる。従って、液体試料32に含まれる特定の元素の濃度が、残渣試料31の面積が一回のX線照射の照射範囲よりも大きくなるような高濃度であっても、液体試料32に含まれる特定の元素の定量分析が可能となる。高濃度の液体試料32でも元素の定量分析が可能になるので、元素の定量分析ができる濃度に限界を上げるために液体試料32の滴下量を減少させる必要が無くなる。この結果、低濃度の液体試料32においても十分な蛍光X線強度の積算値が得られるように、液体試料32の滴下量を適切な容積に定めることができるので、蛍光X線の検出感度が向上する。
【0033】
また本発明では、滴下量を一定としても液体試料32の濃度に拘わらず元素の定量分析が可能となるので、液体試料32の濃度に応じて液体試料32の滴下量を変更する必要が無くなり、常時一定の滴下量で液体試料32の定量分析を行うことができる。液体試料32の滴下量を一定にすることにより、液体試料32の滴下量を変更することに起因する滴下量の測定誤差が発生しなくなるので、液体試料32に含まれる元素の濃度の分析精度が向上する。
【0034】
なお、本実施の形態においては、液体試料32をシート材21上に滴下する際の滴下量を一定としたが、これに限るものではなく、本発明は、液体試料32の滴下量を不定にした形態であってもよい。この形態の場合は、分析部13は、特定の元素の質量と蛍光X線の強度の積算値との関係を示した検量線に基づいて、残渣試料31に含まれる特定の元素の質量を計算する処理を行う形態であってもよい。また分析部13は、測定された液体試料32の滴下量を入力され、入力された滴下量と計算した質量から液体試料32に含まれる特定の元素の濃度を計算する処理を行う形態であってもよい。
【0035】
また本実施の形態においては、液体試料32をシート材21上に滴下する形態を示したが、これに限るものではない。蛍光X線分析装置が備える試料台2は、上面に液体試料32を滴下して乾燥させることができる構成であれば、シート材21を用いずに構成した形態であってもよい。また本実施の形態においては、試料台2上をX線で走査するために試料台2を移動させる形態を示したが、本発明でX線の光路と試料台2とを相対移動させる方法はこれに限るものではない。蛍光X線分析装置は、試料台2上に照射されるX線の光路を移動させることによって走査を行う形態であってもよく、X線の光路と試料台2との両方を適宜移動させる形態であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
11 X線源
12 検出部
13 分析部
16 記憶部
2 試料台
21 シート材
22 支持板
23 可動ステージ
31 残渣試料(残渣)
32 液体試料
41 駆動部
42 制御部
5 ピペット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料に含まれる特定の元素の定量分析を蛍光X線分析により行う方法において、
試料台上に液体試料を滴下し、乾燥させ、
乾燥後の残渣が残留した前記試料台上へX線を照射しながら、X線の光路と前記試料台とを相対移動させることにより、前記残渣を含む前記試料台上をX線で走査し、
前記試料台上の各点から発生する蛍光X線を検出し、
蛍光X線の検出結果から、前記試料台上で発生した特定の元素に対応する蛍光X線の強度分布を生成し、
生成した強度分布に含まれる前記特定の元素に対応する蛍光X線の強度を積算した積算値を計算し、
計算した積算値に基づいて、前記液体試料に含まれる前記特定の元素の量を求めること
を特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項2】
前記強度分布から、前記特定の元素に対応する蛍光X線の強度が所定値以上の強度である領域を抽出し、
前記積算値を計算する際に、抽出した前記領域に含まれる前記特定の元素に対応する蛍光X線の強度を積算すること
を特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項3】
前記液体試料の滴下量を予め定めておき、
滴下した前記液体試料に含まれる前記特定の元素の量として、前記液体試料に含まれる前記特定の元素の濃度を計算すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項4】
液体試料に含まれる特定の元素の定量分析を行う蛍光X線分析装置において、
液体試料を滴下して乾燥させるための平坦な試料台と、
前記試料台上へX線を照射する手段と、
X線の光路と前記試料台とを相対移動させることにより、乾燥後の残渣を含む前記試料台上をX線で走査する手段と
前記試料台上の各点から発生する蛍光X線を検出する手段と、
蛍光X線の検出結果から、前記試料台上で発生した特定の元素に対応する蛍光X線の強度分布を生成する手段と、
該手段により生成した強度分布に含まれる前記特定の元素に対応する蛍光X線の強度を積算した積算値を計算する手段と、
該手段により計算した積算値に基づいて、前記液体試料に含まれる前記特定の元素の量を計算する元素量計算手段と
を備えることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記特定の元素の量と前記積算値との関係を表す予め求められた検量線を記憶してある手段を更に備え、
前記元素計算手段は、計算した前記積算値及び前記検量線に基づいて前記液体試料に含まれる前記特定の元素の量を計算するように構成してあること
を特徴とする請求項4に記載の蛍光X線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−88196(P2012−88196A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235681(P2010−235681)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】