説明

蛍光X線分析装置

【課題】アッテネータのみを移動させるだけの簡単な構造でコストダウンを図り、試料の測定領域の面積を可変して精度のよい分析ができる蛍光X線分析装置を提供する。
【解決手段】本発明の蛍光X線分析装置は、X線源1と、1次X線2が照射された試料Sから発生する2次X線4を検出する検出手段9と、試料を回転させる試料回転手段10とを備え、試料を回転させながら試料から発生する2次X線を検出する蛍光X線分析装置であって、試料と検出手段9との間に配置され、所定の半径の仮想円30内に2次X線を通過させる複数の絞り孔32を有し、仮想円30を通して検出手段9が見込む試料領域から発生する2次X線4を複数の絞り孔32によって通過させるアッテネータ3と、アッテネータ3を移動させるアッテネータ移動手段11とを備え、アッテネータ3の移動距離Xに応じて、2次X線4が検出される試料の測定領域の面積が可変である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料にX線源からの1次X線を照射して試料から発生する2次X線を検出する蛍光X線分析装置において、検出手段に入射する2次X線の強度をアッテネータによって減衰させて測定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同じX線励起条件(X線管の管電流や管電圧の条件)で複数の試料を測定していると、測定対象元素の含有率によっては試料から発生する蛍光X線の強度が強くなり、蛍光X線の強度を検出する検出器の信号を増幅する増幅器が飽和する場合がある。特に、試料の測定径が大きい場合に増幅器が飽和し易くなる。この増幅器の飽和状態を解消するために、従来、複数の貫通孔を有するアッテネータを有し、測定する2次X線強度を減衰させて測定する蛍光X線分析装置がある。この装置は1つの測定径用のアッテネータのみを備えており、異なる測定径で測定する場合には、X線管の管電流値を小さくするなどのX線励起条件を変えて測定している。しかし、X線管の管電流値などのX線励起条件を変えると、装置の安定性が悪くなり、安定に長時間を要する。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に記載されている蛍光X線分析装置によると、図8に示すように、第1のコリメータ10の基板60に形成された絞り孔65には、蛍光X線の通過孔29aを複数設けたアッテネータ29が取り付けられている。第2のコリメータ40は、小径絞り孔42a,中径絞り孔42b,大径絞り孔42c有している。いずれかの絞り孔を選択して、この絞り孔を通過した蛍光X線を検出手段6に入射させて蛍光X線分析を行うときに、被測定試料において特定の元素の含有量が大きいために、その蛍光X線強度が過度に強いことがある。この場合、第1のコリメータ10をY方向に移動させ、アッテネータ29が取り付けられた絞り孔65を、第2のコリメータ40の絞り孔42a,42b,42cのいずれかと対応させて蛍光X線5の通路に配置する。これにより、両コリメータ10,40を経て検出手段6に入射する蛍光X線の強度を小さくすることができる。
【0004】
この装置では、X線励起条件を変えることなく所望の測定径および所望の蛍光X線強度で精度のよい分析をすることがきる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−199750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の蛍光X線分析装置では、異なる測定径で測定できるように、試料の測定径を可変する第2コリメータ40とアッテネータ29の絞り孔65とを蛍光X線5の通路に配置して測定している。そのためアッテネータに加え、試料の測定径を可変するコリメータが必要であり、装置の構造が複雑になるとともにコストアップの要因になっている。
【0007】
そこで、本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、試料の測定径を可変するコリメータを備えず、アッテネータのみを移動させるだけの簡単な構造でコストダウンを図り、試料の測定領域の面積を可変して精度のよい分析をすることができる蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の蛍光X線分析装置は、1次X線を発生するX線源と、1次X線が照射された試料から発生する2次X線を検出する検出手段と、試料を所定の回転軸の回りに回転させる試料回転手段とを備え、前記試料回転手段によって試料を回転させながら試料から発生する2次X線を前記検出手段で検出する蛍光X線分析装置であって、前記2次X線の通路における試料と前記検出手段との間に配置され、所定の半径の仮想円内に前記2次X線を通過させる複数の絞り孔を有し、前記仮想円を通して前記検出手段が見込む試料領域から発生する2次X線を前記複数の絞り孔によって通過させるアッテネータと、前記アッテネータを前記2次X線の通路の軸方向に垂直な平面上で移動させるアッテネータ移動手段とを備え、前記アッテネータ移動手段によって移動される前記アッテネータの移動距離に応じて、前記検出手段によって2次X線が検出される試料の測定領域の面積が可変である。
【0009】
本発明の蛍光X線分析装置によれば、試料の測定径を可変するコリメータを備えず、アッテネータのみを移動させるだけの簡単な構造でコストダウンを図り、試料の測定領域の面積を可変して精度のよい分析をすることができる。
【0010】
本発明の蛍光X線分析装置は、前記アッテネータ移動手段によって所定位置に移動された前記アッテネータの絞り孔が試料上に投影されて、前記試料回転手段によって回転される試料の回転軸を中心にして回転された場合に、前記検出手段側から見た前記複数の絞り孔の描く環状の軌跡が径方向に繋がるように配置されているのが好ましい。さらに、前記複数の絞り孔は、試料の回転中心から半径方向に遠ざかるにしたがって、開口面積が大きくなるように形成されているのがより好ましい。この場合には、試料の測定領域全体にわたって偏りなく2次X線を取り込んで測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図2】同装置によるアッテネータを検出器側から見た平面図である。
【図3】同装置によるアッテネータの図1のA方向の斜視図である。
【図4】同装置の第1測定径による試料測定領域を示す図である。
【図5】同装置の第2測定径に設定されたアッテネータの位置を示す図である。
【図6】同装置の第2測定径に設定されたアッテネータの図1のA方向の斜視図である。
【図7】同装置の第2測定径による試料測定領域を示す図である。
【図8】従来の蛍光X線分析装置のアッテネータを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。まず、蛍光X線分析装置の構成について、図面にしたがって説明する。図1に示すように、この蛍光X線分析装置は、試料Sに向けて1次X線2を照射するX線管などのX線源1と、1次X線2の照射によって試料Sから発生する2次X線(蛍光X線)4を、ソーラスリット5を通過させ、その2次X線4の強度を検出する検出手段9と、試料Sを載置する試料台8と、この試料台8を試料Sの測定面に垂直な軸を中心に回転させる試料回転手段10と、2次X線4の通路における試料Sと検出手段9との間に配置され、試料Sから発生する2次X線4の強度を減衰させるアッテネータ3と、アッテネータ3を2次X線4の通路の軸方向(2次X線4の進行方向)に垂直な平面上で移動させるアッテネータ移動手段11と、を備え、試料回転手段10によって試料Sを回転させながら試料Sから発生する2次X線4を検出手段9で検出する。検出手段9は、2次X線4を分光する分光素子6と2次X線4の強度を検出する検出器7とを含む。
【0013】
さらに、この蛍光X線分析装置は、試料の所望の測定径を入力する入力手段12と、入力手段12によって入力された測定径に基づいてアッテネータ移動手段11を制御してアッテネータ3を入力された測定径に対応した位置に移動させる制御手段13とを備え、アッテネータ移動手段11によって移動されるアッテネータ3の移動距離に応じて、検出手段9が2次X線4を検出する試料Sの測定領域を可変する。試料Sの測定領域を可変する動作については、後述する。
【0014】
図2のアッテネータ3を検出器側から見た平面図に示すように、アッテネータ3には、例えば、矩形状の平板31上にアッテネータ3の中心Oを中心とする仮想円30内に2次X線4を通過させる貫通孔である複数の絞り孔32が形成されている。複数の絞り孔32の開口面積の総和は、仮想円の面積の、1/3〜1/30が好ましく、より好ましくは1/5〜1/20、さらに好ましくは約1/10である。例えば、直径20mmの仮想円30内に、直径1.6mmの15個の複数の絞り孔32がアッテネータ3に形成されている。
【0015】
アッテネータ3が制御手段13設定された測定径に対応した位置において、複数の絞り孔32は、試料回転手段11によって回転される試料Sの任意の測定点から発生する2次X線4を複数の絞り孔32のいずれかを通過させるように、配置されているのが好ましい。この場合において、回転される試料Sの任意の測定点から発生する2次X線4が複数の絞り孔32のいずれかを通過する通過時間が、いずれの測定点においてもほぼ同一になるように、複数の絞り孔32が配置されているのがより好ましい。なお、試料の回転中心Qからの2次X線4は、測定中、試料Sの回転中心Qに配置された絞り孔32を通過して検出手段9によって検出される。
【0016】
例えば、アッテネータ移動手段11によって所定位置に移動されたアッテネータ3の絞り孔32が試料S上に投影されて、試料回転手段10によって回転される試料Sの回転軸15を中心にして回転された場合に、検出手段9側から見た複数の絞り孔32の描く環状の軌跡が半径方向に繋がるように配置されているのが好ましく、さらに、複数の絞り孔32は、試料Sの回転中心Qから半径方向に遠ざかるにしたがって開口面積が大きくなるように形成されているのがより好ましい。すなわち、試料Sの回転中心Qを中心とする任意の半径の環状部分において、複数の絞り孔32の開口率(孔の開口面積/(孔の開口面積+未開口面積))がほぼ同一であることを意味する。
【0017】
例えば、アッテネータの図1のA方向の斜視図である図3に示すように、仮想円(試料上では円であるが、図3では楕円である)30の中心O(試料Sの回転中心Q)から半径方向に遠ざかるにしたがって複数の絞り孔(図3では円形で描かれているが、厳密には楕円形である)32の個数は円周方向に多く配置され、仮想円30の中心Oを中心にしてアッテネータ3を回転させたときに、複数の絞り孔32が描く環状の軌跡が半径方向に繋がるように配置されている。図3では、複数の絞り孔32の半径方向の配置が分かり易いように仮想円30の同心円(試料上では円であるが、図3では楕円である)37を2点鎖線で示している。複数の絞り孔32をこのように配置することによって、回転される試料Sの任意の測定点から発生する2次X線4を複数の絞り孔32のいずれかを通過させ、その通過時間をいずれの測定点においてもほぼ同じにでき、試料の測定領域全体にわたって偏りなく2次X線を取り込んで測定することができる。なお、試料Sの回転中心Qから半径方向に遠ざかるにしたがって複数の絞り孔32の孔径を大きく、あるいは絞り孔32を円形以外の形状にするなどして開口面積を大きくしてもよい。
【0018】
本実施形態では、試料Sの測定面から斜め方向に出射する2次X線4を検出しているので、直径20mmの仮想円30を通して検出手段9が見込む試料領域は図4に示すような長軸が20mmの楕円35の領域となり、楕円35の中心Oは仮想円30の中心Oに対応する。この楕円35の試料領域から発生する2次X線4をアッテネータ3の複数の絞り孔32を通過させて検出手段9によって検出する。
【0019】
図4に示すように、アッテネータ3は初期位置においてアッテネータ移動手段11によって、2次X線4の通路の軸Pがアッテネータ3の中心Oを通るように、さらに試料回転手段10によって回転される試料Sの回転中心Qと試料面における2次X線4の通路の軸Pとが一致するように設定されている。このアッテネータ3の初期位置において、試料の測定領域の面積が最小、すなわち最小の測定径になるように設定されている。アッテネータ移動手段11によってアッテネータ3が移動される移動距離が大きくなるにしたがって試料Sの測定領域の面積、すなわち測定径は大きくなり、アッテネータ3が移動される移動距離が仮想円30の半径と同一になったときに最大の測定径となる。
【0020】
次に、本実施形態の蛍光X線分析装置の動作について説明する。測定者が図1に示す入力手段12に、他の測定条件とともにアッテネータ3の使用による最小の測定径である第1測定径(例えば、直径20mm)を入力すると、制御手段13がアッテネータ移動手段11を制御してアッテネータ3を初期位置である第1測定径位置に設定する。次に、試料台8に試料Sが載置されると、試料回転手段11によって試料台8および試料Sを、試料Sの回転中心Qの周りに、例えば、矢印の方向に30回、回転(スピン)させながら、試料SにX線源1から1次X線2を照射し、試料Sから発生する2次X線4を、アッテネータ移動手段11によって第1測定径位置に設定されたアッテネータ3を通して検出手段9により検出して測定する。
【0021】
この場合、アッテネータ3を使用した最小の測定径(第1測定径)での測定であり、図4に示す長軸20mmの楕円35の試料領域から発生する2次X線4を測定する。直径20mmのコリメータを使用して測定した場合に比べ、検出される2次X線強度は約1/4に減少している。
【0022】
次に、アッテネータ3の使用による第2測定径での装置の動作について説明する。第1測定径の場合と同様に、測定者がアッテネータ3の使用による第2測定径を入力すると、制御手段13がアッテネータ移動手段11を制御してアッテネータ3を第2測定径位置に設定する。例えば、第2測定径が直径30mmとすると、アッテネータ移動手段11によってアッテネータ3は2次X線4の通路の軸方向に垂直な平面上で、図1における矢印方向のうち紙面手前方向に5mm移動される。このとき、図5に示すようにアッテネータ3の中心Oは2次X線の通路の軸Pから5mm移動される。なお、図5では、アッテネータ3の移動距離は符号Xで表示されている。
【0023】
5mm移動されたアッテネータ3の図1のA方向の斜視図を図6に示す。図6に示すように、試料Sの回転中心Qから半径方向に遠ざかるにしたがって複数の絞り孔(図6では円形で描かれているが、厳密には楕円形である)32の個数は円周方向に多く配置され、試料の回転中心Qを中心にしてアッテネータ3が回転されたときに、複数の絞り孔32の描く環状の軌跡が半径方向に繋がるように配置されている。なお、図6では、複数の絞り孔32の試料の回転中心Qから半径方向の配置が分かり易いように、試料の回転中心Qを中心とする同心円(試料上では円であるが、図6では楕円である)47を2点鎖線で示している。
【0024】
直径20mmの仮想円30のアッテネータ3が2次X線通路の軸Pから5mm移動されると、2次X線4の通路の軸Pとこの軸Pから最も離れている絞り孔32の縁との距離L(図7)は15mmとなるので、試料回転手段11によって試料Sを回転させながら測定すると、直径30mmの仮想円を通して検出手段9が2次X線4を検出していることに相当する。したがって、この場合の試料Sの測定領域は図7に示すような長軸30mmの楕円36の領域となる。すなわち、直径30mmの測定径での測定となる。直径30mmのコリメータを使用して測定した場合に比べ、検出される2次X線強度は約1/10に減少している。第1測定径と第2測定径の差異が明確に分かるように、図7に第1測定径の楕円35も2点鎖線で表示している。
【0025】
このように、アッテネータ移動手段11によって移動されるアッテネータ3の移動距離Xに応じて、検出手段9によって2次X線が検出される試料Sの測定領域の面積を変えることができる。
【0026】
上記では、直径20mmと30mmの測定径である第1および第2測定径での測定について説明したが、アッテネータ移動手段11によってアッテネータ3が移動される移動距離Xに応じて、直径25mmや28mmなどその他の測定径に設定して測定することができる。さらに、複数の絞り孔の径、位置、アッテネータ3の移動距離Xなどを変えることによって、15mmや40mmなど種々の測定径で測定することができる。
【0027】
本発明の実施形態の蛍光X線分析装置によれば、試料の測定径を可変するコリメータを備えず、アッテネータのみを移動させるだけの簡単な構造でコストダウンを図り、試料の測定領域の面積を可変して精度のよい分析をすることができる。
【0028】
本実施形態の装置では、波長分散型蛍光X線分析装置について説明したが、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 X線源
2 1次X線
3 アッテネータ
4 2次X線
8 試料台
9 検出手段
10 試料回転手段
11 アッテネータ移動手段
15 試料回転手段の回転軸
30 仮想円
32 絞り孔
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次X線を発生するX線源と、
1次X線が照射された試料から発生する2次X線を検出する検出手段と、
試料を所定の回転軸の回りに回転させる試料回転手段と、
を備え、
前記試料回転手段によって試料を回転させながら試料から発生する2次X線を前記検出手段で検出する蛍光X線分析装置であって、
前記2次X線の通路における試料と前記検出手段との間に配置され、所定の半径の仮想円内に前記2次X線を通過させる複数の絞り孔を有し、前記仮想円を通して前記検出手段が見込む試料領域から発生する2次X線を前記複数の絞り孔によって通過させるアッテネータと、
前記アッテネータを前記2次X線の通路の軸方向に垂直な平面上で移動させるアッテネータ移動手段と、
を備え、
前記アッテネータ移動手段によって移動される前記アッテネータの移動距離に応じて、前記検出手段によって2次X線が検出される試料の測定領域の面積が可変である蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記アッテネータ移動手段によって所定位置に移動された前記アッテネータの絞り孔が試料上に投影されて、前記試料回転手段によって回転される試料の回転軸を中心にして回転された場合に、前記検出手段側から見た前記複数の絞り孔の描く環状の軌跡が径方向に繋がるように配置されている蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蛍光X線分析装置において、
前記複数の絞り孔は、試料の回転中心から半径方向に遠ざかるにしたがって、開口面積が大きくなるように形成されている蛍光X線分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−159404(P2012−159404A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19591(P2011−19591)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】