説明

融液から単結晶を引き上げるための方法及び装置

【課題】融液からの引き上げによる単結晶の製造において、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を整合させかつワイヤケーブルの振り子運動の能動的な減衰を行うための手段を提供する。
【解決手段】単結晶5が引き上げられるチャンバ1内の圧力と同じく、大気圧より低い圧力下に収容されているワイヤケーブル回転ヘッド8の回転軸線を中心にワイヤケーブル6を回転させる単結晶の引き上げ方法において、るつぼ軸18の回転軸線にワイヤケーブル回転ヘッド8の回転軸線を整合させ、かつ、ワイヤケーブル6の振り子運動の能動的な減衰を行うために、大気圧中に設置されたX−Yステージ13を用いて、ワイヤケーブル回転ヘッド8の制御された移動を行う。X−Yステージ13は、大気圧に配置された環境にあるため、特定の複雑な技術を用いることなく、駆動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、るつぼに収容された融液から単結晶を引き上げる方法に関する。引上げチャンバにおいて、単結晶は、ワイヤケーブルに懸吊されながら、ワイヤケーブルをドラムに巻き取ることによって融液から引き上げられる。るつぼ及びワイヤケーブルは、この間単結晶と共に回転させられ、特にるつぼはるつぼ軸の回転軸線を中心に回転させられ、ワイヤケーブルはワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を中心に回転させられる。
【背景技術】
【0002】
最適な条件においては、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線と、るつぼ軸の回転軸線とは、好適には引上げチャンバの中心を通って延びる共通の鉛直方向軸線上に位置するように互いに整合させられている。このような条件においては、ワイヤケーブルに懸吊された単結晶も同様に、横方向の移動成分を有していない。これは、数百キログラムの重さの単結晶を引き上げる場合には特に有利である。その重量により、このような単結晶は、一般的に、ワイヤケーブルにかかる荷重を軽減するために、結晶ネックの太くなった部分において付加的に支持されなければならない。支持機器が、太くなった部分の下側に係合させられた場合、単結晶は、可能な限り横方向の移動を行うべきではない。しかしながら、ワイヤケーブルは、単結晶が引き上げられる時に振り子運動を行いやすい。
【0003】
特開昭62−252396号公報は、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線からのワイヤケーブルのずれを決定し、ワイヤケーブル回転ヘッドにおけるX−Yステージにおいてドラム又はワイヤケーブル案内部材を移動させることによって、制御された形式でワイヤケーブルの補償移動を誘発することによって、ワイヤの振動を減衰させることができることを開示している。特開昭62−079176号公報及び特開昭63−170297号公報に記載の方法は、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線のずれた位置、又はワイヤケーブルの振り子運動を決定するためにカメラを使用する。カメラのデータは制御機器に送られ、制御機器は、装置を駆動し、この装置によって、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線のずれた位置が排除されるか、又はワイヤケーブルの振り子運動が減衰される。
【0004】
全てのこれらの公知の方法は、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を整合させかつワイヤケーブルの振り子運動を減衰させるために、大気圧よりも低い圧力での介入を必要とする。このような介入は特に精巧である。なぜならば、軸受及び駆動装置のために、真空に適した構成部材が使用されなければならないからである。また、このことは、成長する結晶に進入して結晶格子における転位を開始する恐れがある粒子を生ぜしめる危険性を必然的に伴うため、問題でもある。さらに、この介入は、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転する基準システムへの誤りがちな電力及び信号供給を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−252396号公報
【特許文献2】特開昭62−079176号公報
【特許文献3】特開昭63−170297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を整合させるための及びワイヤケーブルの振り子運動の能動的な減衰のための、従来技術と比較してより有利な解決手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、るつぼに収容された融液から単結晶を引き上げる方法に関し、この方法において、ワイヤケーブルがドラムに巻き取られることにより、ワイヤケーブルにおいて融液から単結晶を引き上げ、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を中心にワイヤケーブルを回転させ、ワイヤケーブル回転ヘッドにはドラムが配置されており、ワイヤケーブル回転ヘッドは、単結晶が引き上げられる時に大気圧よりも低い圧力にあり、るつぼを支持するるつぼ軸の回転軸線を中心にるつぼを回転させ、るつぼが、単結晶が引き上げられる時に大気圧よりも低い圧力にある引上げチャンバに収容されており、るつぼ軸の回転軸線上にワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を整合させるために及びワイヤケーブルの振り子運動の能動的な減衰のために、大気圧中のX−Yステージにおいてワイヤケーブル回転ヘッドの制御された移動を行う。
【0008】
本発明は、融液から単結晶を引き上げるための装置にも関し、この装置には、るつぼ軸に支持されたるつぼを有する引上げチャンバと、引上げチャンバの上方に配置されたワイヤケーブル回転ヘッドとが設けられており、このワイヤケーブル回転ヘッドには、融液から単結晶を引き上げるためのワイヤケーブルを巻き取るためのドラムが配置されており、引上げチャンバ及びワイヤケーブル回転ヘッドにおける圧力が大気圧よりも低いが、大気圧でワイヤケーブル回転ヘッドを移動させるためのX−Yステージが設けられており、るつぼ軸の回転軸線上にワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を整合させるために及びワイヤケーブルの振り子運動の能動的な減衰のために、X−Yステージにおいてワイヤケーブル回転ヘッドの制御された移動のための機器が設けられている。
【0009】
本発明は、ワイヤケーブルの振り子運動の能動的な振動減衰と、るつぼ軸の回転軸線に対するワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線の整合とが、ワイヤケーブル回転ヘッド及び引上げチャンバとは異なり大気圧にあって、ひいては単結晶が引き上げられる時にも容易にアクセス可能であり、かつワイヤケーブル回転ヘッドの回転システムの外側にある位置から行われる、という利点を有している。この利点は、本質的に、X−Yステージを引上げチャンバとワイヤケーブル回転ヘッドとの間に配置することによって達成され、X−Yステージにおいて回転ヘッドが制御された形式で移動させられる。つまり、X−Yステージは、単結晶が引き上げられる時に通常は排気されるワイヤケーブル回転ヘッドと引上げチャンバとの外側に位置している。
【0010】
ワイヤケーブル回転ヘッド内のドラムは、好適には、ワイヤケーブルがドラムから引き出されている転動箇所(rolling point)が、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線上に位置するように配置されている。ワイヤケーブル回転ヘッドは、別のX−Yステージを有していてもよく、この別のX−Yステージにおいて、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線上にワイヤケーブルの転動箇所を位置させるためにドラムが移動させられることができる。
【0011】
本発明の別の好適な実施形態によれば、X−Yステージは、X−Yステージの面が静止状態で水平方向に整合させられるように、ベースフレームの鉛直に配置された壁部に固定されている。この配置は、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線が鉛直方向に固定されており、必要な場合にワイヤケーブル回転ヘッドの位置を修正するためにワイヤケーブル回転ヘッドの横方向移動のみで十分である、という利点を有している。X−Yステージが引上げチャンバに固定されていると、X−Yステージは例えば、引上げチャンバを排気する場合又は引上げチャンバの壁部を流過する冷媒の温度変化により傾斜させられる恐れがあり、ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線が、鉛直方向の配置からずれる恐れがある。
【0012】
るつぼ軸は、るつぼ軸の回転軸線が鉛直方向に整合させられかつ好適には引上げチャンバの中心に位置するように配置されている。るつぼ軸のこの配置が引上げチャンバが排気される場合でさえも保持されるために、るつぼ軸の駆動装置を引上げチャンバの基部又はベースフレームに係止することが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明により構成された装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な特徴を図面を参照しながら以下により詳細に説明する。図面は、本発明により構成された装置の断面図を示している。図は、主に本発明の理解を助ける特徴を示している。
【0015】
装置は、るつぼ4が配置された引上げチャンバ1を有している。るつぼは、融液3,例えばシリコン融液を有しており、左向きの湾曲した矢印によって示されているように、鉛直方向に整合した回転軸線を中心に回転するるつぼ軸18に載置されている。加熱装置2がるつぼ4の周囲に配置されており、この加熱装置2によって融液3が形成され、融液3に熱が供給される。ワイヤケーブル6を駆動装置9によってドラム7に巻き取ることによって融液3から単結晶5が引き上げられる。ドラムは、引上げチャンバ1の上方に配置されたワイヤケーブル回転ヘッド8に収容されている。ワイヤケーブル回転ヘッドは、ワイヤケーブル回転ヘッドの上方に右向きの矢印で示されているように、回転軸線を中心に駆動装置10によって回転させられる。ワイヤケーブル回転ヘッド8の気密な回転軸受15が、水平方向に移動可能なX−Yステージ13に取り付けられている。X−Yステージは、鉛直方向に配置されたベースフレーム17に支持されており、これにより、X−Yステージの面は静止状態で水平方向に整合させられている。X−Yステージの中央にはアクセスボアが設けられており、このアクセスボアを通じて、引上げチャンバ1内のガス空間と、ワイヤケーブル回転ヘッド8におけるガス空間とが連通している。アクセスボアの領域において、両ガス空間は、弾性のベローズ16によって、大気圧の環境から気密に隔離されている。ベローズ16は回転軸受15から引上げチャンバ1まで延びている。ワイヤケーブル回転ヘッドの移動は、弾性のベローズによって吸収される。したがって、X−Yステージ及びX−Yステージの駆動装置は、大気圧の環境の領域に位置している。X−Yステージ13におけるワイヤケーブル回転ヘッド8の制御された移動のための機器は、カメラ11と、制御ユニット14とを有している。カメラ11は、引上げチャンバ1に設けられた観察開口12を通じて、単結晶5と、単結晶に隣接した融液3の表面の領域とに向けられている。単結晶の位置、ひいてはワイヤケーブルの位置及び振動動作についてカメラによって提供される情報は、制御ユニットにおいて利用され、検出されたワイヤケーブルの振り子運動に対する負のフィードバックを開始するために、及び/又はるつぼ軸の回転軸線に対するワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線の必要な整合を行うために、X−Yステージが移動させられるべき位置を特定する変位座標を計算する。制御ユニットは、変位座標に従ってX−Yステージの駆動を制御する。これは、大気圧よりも低い圧力に配置されたワイヤケーブル回転ヘッドへの介入をも必要としない。X−Yステージは、大気圧に配置された環境にあるため、特定の複雑な技術を用いることなく、駆動することができる。
【符号の説明】
【0016】
1 引上げチャンバ、 2 加熱装置、 3 融液、 4 るつぼ、 5 単結晶、 6 ワイヤケーブル、 7 ドラム、 8 ワイヤケーブル回転ヘッド、 9 駆動装置、 10 駆動装置、 11 カメラ、 12 観察開口、 13 X−Yステージ、 14 制御ユニット、 15 回転軸受、 16 ベローズ、 17 ベースフレーム、 18 るつぼ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
るつぼに収容された融液から単結晶を引き上げる方法において、
ワイヤケーブルがドラムに巻き取られることによって、ワイヤケーブルにおいて融液から単結晶を引き上げ、
ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を中心にワイヤケーブルを回転させ、前記ワイヤケーブル回転ヘッドに前記ドラムが配置されており、前記ワイヤケーブル回転ヘッドが、単結晶が引き上げられている時に大気圧よりも低い圧力にあり、
るつぼを支持するるつぼ軸の回転軸線を中心にるつぼを回転させ、るつぼが、単結晶が引き上げられている時に大気圧よりも低い圧力にある引上げチャンバに収容されており、
るつぼ軸の回転軸線にワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を整合させるために及びワイヤケーブルの振り子運動の能動的な減衰のために、大気圧中のX−Yステージにおいてワイヤケーブル回転ヘッドの制御された移動を行うことを特徴とする、るつぼに収容された融液から単結晶を引き上げる方法。
【請求項2】
融液から単結晶を引き上げるための装置において、
るつぼ軸に支持されたるつぼを有する引上げチャンバと、
該引上げチャンバの上方に配置されたワイヤケーブル回転ヘッドとが設けられており、該ワイヤケーブル回転ヘッドに、融液から単結晶を引き上げるためにワイヤケーブルを巻き取るためのドラムが配置されており、
引上げチャンバ及びワイヤケーブル回転ヘッド内の圧力が大気圧よりも低いが、ワイヤケーブル回転ヘッドを大気圧中で移動させるためのX−Yステージが設けられており、
るつぼ軸の回転軸線にワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線を整合させるために及びワイヤケーブルの振り子運動の能動的な減衰のために、X−Yステージにおいてワイヤケーブル回転ヘッドの制御された移動を行うための機器が設けられていることを特徴とする、融液から単結晶を引き上げるための装置。
【請求項3】
ワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸受からX−Yステージに設けられたアクセスボアを通って引上げチャンバまで延びておりかつワイヤケーブル回転ヘッドと引上げチャンバとを大気圧の環境から気密に隔離している弾性のベローズが設けられている、請求項2記載の装置。
【請求項4】
X−Yステージが、鉛直方向に配置されたベースフレームに支持されている、請求項3又は4記載の装置。
【請求項5】
前記ドラムが、ワイヤケーブルがドラムから引き出されている転動箇所がワイヤケーブル回転ヘッドの回転軸線上に位置するように、ワイヤケーブル回転ヘッドに配置されている、請求項2から4までのいずれか1項記載の装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−285343(P2010−285343A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−123066(P2010−123066)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】