説明

血圧降下作用を有するローヤルゼリーの製造方法

【課題】 血圧降下作用などの有用な特性を発揮するローヤルゼリーを得ることのできる新しい技術を提供する。
【解決手段】 ローヤルゼリーを微生物(例えば、アスペルギルス属、モナスカス属またはリゾプス属の微生物)で発酵させ、好ましくは、発酵工程の後に微生物を殺菌する工程を含む、血圧降下作用を有するローヤルゼリーの製造方法。アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有するローヤルゼリーが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下作用を有するローヤルゼリーの製造方法、ならびに、該方法によって得られるローヤルゼリーを含有するローヤルゼリー組成物および血圧降下剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ローヤルゼリーとは、若い働き蜂の咽頭腺により分泌される乳白色したペースト状物質であり、その成分は必須アミノ酸をはじめとするアミノ酸が豊富に含まれ良質なタンパク質を構成している。さらに、ビタミン類、ミネラル類、炭水化物などの微量成分を含んでいる。例えばビタミン類ではビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、成長促進や老化防止に効果のあるパントテン酸、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなどが挙げられる。ミネラル類ではカリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、鉄、リンなどがあげられる。炭水化物ではブドウ糖、果糖などが挙げられる。さらに、アセチルコリン様物質、有機酸(10−ヒドロキシデセン酸など)、脂肪、タンパク質性の抗菌物質であるロイアリシンなどが含まれている。
【0003】
このようにローヤルゼリーには様々な栄養成分を含んでおり、例えば、抗菌作用、免疫増強作用、抗炎症作用、老化防止作用、更年期障害の予防・治療、抗がん作用など数多くの効果が知られている。
【0004】
一方、生活習慣病の中でも高血圧患者数は我が国では30歳以上で2000万人と推定され、高血圧は現在の国民病ともいわれる側面をもっている。高血圧は各種慢性疾患に対するリスクファクターとなり、脳血管障害、心筋梗塞などの血管障害を誘発することが知られている。今後ますます高齢化が進むにつれ、高血圧症者も増大することが予想され、高血圧の改善あるいは発症の予防が課題となっている(非特許文献1)。
【0005】
アンジオテンシン変換酵素(以下ACEと略することがある)はアンジオテンシンIを血圧上昇物質であるアンジオテンシンIIに変換し、血圧降下作用をもつブラジキニンを分解するため血圧を上昇させる働きがある。したがってACEを阻害する物質(ACE阻害物質)があれば血圧を下げることができ、高血圧症予防又は治療に効果があることが期待される。
ACE活性を抑制させることにより血圧を降下させるACE阻害物質として、例えば、カプトプリルが開発され医薬品として利用されている。
【0006】
一方、食品分野においては、乳カゼイン(非特許文献2)、わかめタンパク質(非特許文献3)、かつお節(非特許文献4、非特許文献5)、イワシ(非特許文献6)などの酵素分解物、発酵乳(非特許文献7)、ブナハリタケエキス(非特許文献8)などACE阻害阻害物質を含む食品が数多く市販されている。
【0007】
近年では動物の消化酵素であるトリプシンや枯草菌(Bacillus subtilis)どの微生物由来のプロテアーゼを用いてローヤルゼリーを加水分解することによりACE阻害物質を得る試みがなされている(特許文献1、非特許文献9)。さらに、枯草菌由来のプロテアーゼを用いてローヤルゼリーを加水分解した際の血圧降下の関与成分としてはイソロイシン−チロシン、バリン−チロシンおよびイソロイシン−バリン−チロシンなどのペプチドが知られている(非特許文献10)。しかし、ローヤルゼリーの消化に用いるトリプシンは動物由来の消化酵素であり、トリプシンで加水分解したローヤルゼリーは動物由来の感染性物質の混入を完全に否定することは困難であるという問題があり、より安全なローヤルゼリー由来のACE阻害物質が望まれている。また、プロテアーゼにより生産されるものはローヤルゼリーが加水分解されたペプチドであり、それ以外の有用産物の生産は見込めず、食品の高付加価値化は期待できない。
【0008】
ローヤルゼリーは上記のように様々な効果があり、長年食されてきたが最近になって、ローヤルゼリーにアレルゲンが含まれていることが徐々に明らかになってきた。アレルゲンを低下させるために蛋白質分解酵素処理及び/又は糖分解酵素処理を行う方法が知られている(特許文献2、特許文献3)。しかし、アレルギーの低下とACE阻害物質を産生する酵素が異なるため、一度の操作でACE阻害物質と低アレルゲン化を行うには操作が煩雑であり、簡便な方法が望まれていた。
【非特許文献1】藤田裕之他、薬理と治療 Vol.25 No.8 147(2155)−151(2159)
【非特許文献2】S.maruyama,Agr.Biol.Chem.,51,1581(1987).
【非特許文献3】Health Sciences,20,82−90,2004
【非特許文献4】Yokoyama K,Biosci.Biotech.Biochem.,56,1541(1992)
【非特許文献5】H. Fujita.et al., J. Food Sci., 65:564(2000)
【非特許文献6】関英治 他、日本農芸化学会誌 第69巻(8号)、1013−1020(1995)
【非特許文献7】Yamamoto N. et al, J Dairy Sci, 77, 917−922 (1994)
【非特許文献8】坂元雄二 他、応用薬理 第61巻(4/5)、221−229(2001)
【非特許文献9】丸山広恵 他、日本食品科学工学会誌 第50巻(7号)、310−315(2003年)
【非特許文献10】Tokunaga K. et al, Bio.Pharm.Bull.,27(2),189−192(2004)
【特許文献1】特開平4−279597号公報
【特許文献2】特開2002−112715号公報、
【特許文献3】特開2005−287411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、血圧降下作用などの有用な特性を発揮するローヤルゼリーを得ることのできる新しい技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ローヤルゼリーには抗菌物質である10−ヒドロキシデセン酸やロイアリシンが含まれているにもかかわらず、ローヤルゼリーと微生物を混合し、発酵を行うことにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
1.ローヤルゼリーを微生物で発酵させる工程を含むことを特徴とする、血圧降下作用を有するローヤルゼリーの製造方法。
2.微生物がアスペルギルス属(Aspergillus属)、モナスカス属(Monascus属)または、リゾプス属(Rhizopus属)の微生物であることを特徴とする、前記1に記載のローヤルゼリーの製造方法、
3.微生物がアスペルギルス ホエニシス(Aspergillus phoenicis)、アスペルギルス メレウス(Aspergillus melleus)、モナスカス パープレウス(Monascus purpureus)または、リゾプス ニベウス(Rhizopus niveus)であることを特徴とする、前記1に記載のローヤルゼリーの製造方法、
4.発酵工程の後に、微生物を殺菌する工程を含むことを特徴とする、前記1〜3のいずれかに記載のローヤルゼリーの製造方法、
5.加熱により微生物の殺菌を行うことを特徴とする、前記4に記載のローヤルゼリーの製造方法、
6.血圧降下作用を有するローヤルゼリーがアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有することを特徴とする、前記1〜5のいずれか1に記載のローヤルゼリーの製造方法、
7.前記1〜6のいずれかの方法によって得られる血圧降下作用を有するローヤルゼリーを含有することを特徴とする、ローヤルゼリー組成物、
8.前記1〜6のいずれかの方法によって得られる血圧降下作用を有するローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする、血圧降下剤、
からなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるとより安全で簡便な方法により血圧降下作用を有するローヤルゼリーを製造することができ、この血圧降下作用を有するローヤルゼリーを利用して、ローヤルゼリー組成物質や血圧降下剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の血圧降下作用を有するローヤルゼリーは、ローヤルゼリーを微生物で発酵させる工程により製造される。
【0014】
ローヤルゼリーの原産国は例えば日本、中国、台湾、タイ、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカなどを挙げることができ、いずれの原産国のローヤルゼリーを用いてもよい。また、複数の原産国のローヤルゼリーを適宜混合して用いてもよい。ローヤルゼリーは液体であることが必要であり、凍結乾燥状態のローヤルゼリーを用いる場合は精製水、水道水または適当な緩衝液などで溶解して用いることができる。また、凍結状態のローヤルゼリーは融解して用いることができる。
【0015】
さらに、ローヤルゼリーは加熱、遠心分離、アルコール抽出、ろ過、フリーズドライまたは熱風乾燥などの加工並びに各種栄養素などが添加されたものであってもよい。
ローヤルゼリーと混合する微生物は特に制限がなく例えば細菌、酵母、カビなどを挙げられ、これらの中でもカビが好適に挙げられる。さらにアスペルギルス属(Aspergillus属)、モナスカス属(Monascus属)または、リゾプス属(Rhizopus属)に属するカビを好適に挙げることができる。アスペルギルス属のカビとして具体的にはアスペルギルス ホエニシス(Aspergillus phoenicis)、アスペルギルス オリーゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス メレウス(Aspergillus melleus)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス ソウヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス コニカス(Aspergillus conicus)、アスペルギルス ウエンティ(Aspergillus wentii)、アスペルギルス スルフレウス(Aspergillus sulphureus)、アスペルギルス タマリ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス シドウィ(Aspergillus sydowii)などを挙げることができ、好ましくはアスペルギルス ホエニシス、アスペルギルス メレウスを挙げることができる。
またモナスカス属(Monascus属)のカビとして具体的にはモナスカス ピロウサス(Monascus pilosus)、モナスカス パープレウス(Monascus purpureus)、モナスカス ルーバー(Monascus rubber)、モナスカス ルニスポラス(Monascus lunisporas)などを挙げることができ、好ましくはモナスカス パープレウス(Monascus purpureus)を挙げることができる。
さにらに、リゾプス属(Rhizopus属)のカビとして具体的にリゾプス ニベウス(Rhizopus niveus)を挙げることができる。
【0016】
これら微生物は単独で使用してもよく、2種以上の微生物を使用してもよい。また、微生物とローヤルゼリーを混合する場合、必要な菌体量を一度にローヤルゼリーと混合してもよいし、必要な菌体量を2回以上に分けて混合してもよい。また、2種以上の微生物を使用する場合、ぞれぞれの微生物を同時にローヤルゼリーと混合してもよく、別々に分けてローヤルゼリーと混合してもよい。
【0017】
ローヤルゼリーと混合する微生物は、固体培地で培養した微生物、液体培地で培養した微生物などを用いることができる。固体培地を用いて培養した微生物の場合、例えば、固体培地を用いて培養した微生物を滅菌水、滅菌した生理的食塩水または滅菌した緩衝液に懸濁してローヤルゼリーと混合してもよい。また、固体培地を用いて培養した微生物を白金耳または白金鈎でかきとりローヤルゼリーと混合してもよい。
【0018】
また、液体培養した微生物をローヤルゼリーと混合する場合、滅菌水、滅菌した生理的食塩水または滅菌した緩衝液などで菌体を洗浄し培養液を除去しても良い。さらに、菌体を洗浄した場合、ガラスフィルター等で菌体より余分な水分を除去した後、ローヤルゼリーと混合してもよいし、洗浄した菌体を再度、滅菌水、滅菌した生理的食塩水または滅菌した緩衝液に懸濁してローヤルゼリーと混合してもよい。
【0019】
さらに、液体培養終了後、上記のような洗浄を行わず、菌体と培養液の混合液をローヤルゼリーと混合してもよい。
微生物の培養の条件は微生物が生育できる条件であれば特に制限はなく、適宜条件を選択できる。
例えば、培地のpHは微生物が増殖できるpHであれば特に限定されないが、カビであればpH3〜8、好ましくはpH4〜6のpHを挙げることができる。
また、培養温度は微生物が増殖できる温度であれば特に限定されないが、カビであれば5〜40℃、好ましくは20〜30℃の培養温度を挙げることができる。
【0020】
さらに、培養方法は静置培養、振とう培養、攪拌培養、通気攪拌培養などの培養方法で培養することができる。
培地成分として例えば、炭素源としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、グリセリン、エチレングリコール、澱粉、糖蜜、コーン・ステープ・リカー、麦芽エキス、澱粉水解物などを単独または二種以上混合したものを例示できる。窒素源としては、アンモニユウム塩、硝酸塩などの無機性窒素源や、ペプトン、大豆粉、肉エキス、カゼイン、カザミノ酸、尿素などの有機性窒素源を単独または二種以上混合したものを例示できる。また、培地には必要に応じて、アミノ酸、各種ビタミン、酵母エキス、粉末酵母、脂肪酸などの有機微量栄養素、リン酸塩、鉄塩、マンガン塩、マグネシウム塩、その他の金属塩などの無機塩類をそれぞれ単独または二種以上併用して用いることができる。
【0021】
微生物と混合した後のローヤルゼリーの固形分濃度は、0.1〜30W/V%を挙げることがで、好ましくは1〜15W/V%、より好ましくは4〜10W/V%を挙げることができる。ここで、例えば10W/V%は、100mLのローヤルゼリー混合物を凍結乾燥などにより乾燥させたとき10gの乾燥品が得られることを意味している。
【0022】
微生物とローヤルゼリーを混合し発酵する時間は目的とする血圧降下物質が産生及び/又はアレルゲン性タンパク質が減少する時間であれば特に限定されないが、半日〜10日間、好ましくは1日〜4日間が好ましい。
また、微生物とローヤルゼリーを混合する際のローヤルゼリーのpHは目的とする血圧降下物質が産生及び/又はアレルゲン性タンパク質が減少するpHであれば特に限定されないが、カビを用いた場合は、pH3〜8、好ましくはpH4〜6が好ましい。
【0023】
微生物とローヤルゼリーを混合し発酵させている間の温度は血圧降下物質が産生及び/又はアレルゲン性タンパク質が減少する温度であれば特に限定されないが、カビを用いた場合は5℃〜40℃、好ましくは15℃〜35℃、より好ましくは20℃〜30℃が好ましい。
微生物とローヤルゼリーを混合し発酵させている間は、静置、振とう、攪拌、通気攪拌などを行ってもよい。
【0024】
ローヤルゼリーに炭素源、窒素源、有機微量栄養素、無機塩類、脂質類などを単独または二種以上を添加してもよい。例えば炭素源としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、グリセリン、エチレングリコール、澱粉、糖蜜、コーン・ステープ・リカー、麦芽エキス、澱粉水解物などを単独または二種以上混合したものを例示できる。窒素源としては、アンモニユウム塩、硝酸塩などの無機性窒素源や、ペプトン、大豆粉、肉エキス、カゼイン、カザミノ酸、尿素などの有機性窒素源を単独または二種以上混合したものを例示できる。また、有機微量栄養素としては、アミノ酸、各種ビタミン、酵母エキス、粉末酵母、脂肪酸、または無機塩類としては、リン酸塩、鉄塩、マンガン塩、マグネシウム塩、その他の金属塩をそれぞれ単独または二種以上混合したもの例示できる。
【0025】
なお、本明細書で用いる発酵の意味は微生物とローヤルゼリーと混合することにより、血圧降下作用を有するローヤルゼリーが産生されればよく、ローヤルゼリーと微生物の混合物中で微生物が増殖してもしなくてもよい。本発明によって得られる血圧降下性ローヤルゼリーは、重要な特徴の一つとしてACE阻害作用を発揮する。このようなACE阻害物質は、微生物により作られたプロテアーゼなどの酵素の他に種々の酵素の作用により、単に酵素処理する場合に比べてACE阻害物質の生産性の向上や、種々の栄養成分の生産が見込まれる。さらに、微生物が菌体内にローヤルゼリーまたはその分解物を取込み菌体内で生産されたものであってもよい。
【0026】
本発明に従う血圧降下作用を有するローヤルゼリーの製造においては、一般に、如上の発酵工程の後に微生物を殺菌する工程を含む。微生物とローヤルゼリーの発酵液の殺菌方法は、微生物が食品として問題がない程度に殺菌されればよい。殺菌方法としては、加熱により殺菌する方法、薬剤を用いて殺菌する方法、ろ過により微生物を除菌する方法、遠心分離を用いて微生物を除菌する方法が例示でき、これら方法を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。好ましくは、加熱により微生物を殺菌する。加熱温度は60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上で加熱することが好ましい。
【0027】
本発明のローヤルゼリーを各種クロマトグラフィーを用いてACE阻害物質を精製してもよい。精製方法としてはゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、限外ろ過、電気泳動などを挙げることができ、これら単独若しくは組み合わせることにより精製を行うことも可能である。
【0028】
ゲルろ過クロマトグラフィーは、種々な分子量のタンパク質を分離できるゲルろ過クロマトグラフィー用の担体があり、分子量が約1万以下のタンパク質を分離できるゲルろ過クロマトグラフィー用の担体が好ましい。イオン交換クロマトグラフィーに用いられているイオン交換基としては、陰イオン交換体、陽イオン交換体などがあり、陰イオン交換体としては、ジエチルアミノエチル基(DEAE基)、四級アミノエチル基(QAE)などを例示することができる。また、陽イオン交換体としては、カルボキシメチル(CM)基、スルホプロピル(SP)基を例示することができる。疎水クロマトグラフィーに用いられる担体としてはブチル基(Butyl基)、エチル基(Ethyl基)、フェニル基(Phenyl基)が結合した担体を例示することができる。逆相クロマトグラフィーに用いられる担体としとはオクタデシル基(C18)、オクタデシル基とはアルキル基の長さが異なるC30、C8、C4などが結合した担体が例示される。順相クロマトグラフィーに用いられる担体としてはシリカゲルのほか、シアノプロピル基、ジオール構造を有する官能基、アミノプロピル基、ポリアミンなどが結合した担体が例示される。
【0029】
本発明の血圧降下作用を有するローヤルゼリーは、上記のクロマトグラフィー等を用いて精製を行なうことにより血圧降下剤として利用することができる。また、本発明の血圧降下性ローヤルゼリーまたはその精製品に各種成分を添加することによりローヤルゼリー組成物として供することができる。各種成分としては、例えば糖、脂質、乳化剤、増粘剤、調味料、香料、酸味調整剤、保存料、果汁、香料、各種栄養成分などが挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。また、各種成分は単独で用いても良いし二種以上を混合して用いてもよい。例えば糖としては、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等を例示することができる。乳化剤としては、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等を例示することができる。増粘剤としてはカラギーナン、アラビアガム、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム増粘剤澱粉、ジェランガム等を例示することができる。酸味調整剤としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、酒石酸等を例示することができる。保存料としては、安息香酸及びその塩、ソルビン酸及びその塩、パラベン、亜硫酸ナトリウム、ペクチン分解物、グリシン等を例示することができる。果汁としては、トマト果汁、梅果汁、リンゴ果汁、レモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等を例示することができる。香料としては、ハーブ、スパイスなどの香辛料、フルーツ系香料、バニラなどの香料等を例示することができる。この他、好ましい他の栄養成分として、ビタミンD等のビタミン類やカルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類等が挙げられる。
【0030】
本発明によって得られる血圧降下作用を有するローヤルゼリー、ローヤルゼリー組成物または血圧降下剤はそれらを添加・配合して調製した食品として供することもできる。そのような食品の具体的形態としては、例えば、飲料類、菓子、キャンディ、ガム、パン、畜肉製品、乳製品、レトルト食品、即席食品、冷凍食品、ゼリー状食品、養蜂産品、漬物、調味料等を挙げることができる。これらの食品は、いわゆる健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメントなどとしても有用である。また、それらの食品としての形状としては、顆粒、粉末、タブレット、カプセル、チュアブル、ドリンク、ゼリー、ペースト、粒などを挙げることができる。
さらに、ローヤルゼリーを発酵させることにより、上記のようにACE阻害物質の生産の他に、抗酸化物質、モナコリンK、γ−アミノ酪酸(GABA)、コリン(アセチルコリンの前駆体)などの生産が見込まれる。これらの効果としては、抗酸化物質は血流改善、モナコリンKは血中コレステロールの低下、GABAは血圧降下、コリンは血圧降下および動脈硬化予防などが期待される。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
ACE阻害活性測定方法
<ホウ酸緩衝液の調製>
50mM Na450mLと220mM
BO550mLを混合し、pH8.3のホウ酸緩衝液を調製した。
<基質溶液の調製>
約30mLのホウ酸緩衝液にBz−Gly−His−Leu・HO(分子量447.49 ペプチド研究所社製)170mg、NaCl1.78gを溶解後、1NNaOHでpH8.3に調整し、ホウ酸緩衝液で50mLにメスアップして、基質溶液とした。
<ACE溶液の調製>
アンギオテンシン変換酵素(ウサギ肺由来 シグマ社製)をホウ酸緩衝液で溶解して60mU/mLの溶液をACE溶液とした。
ACE阻害活性の測定方法
【0032】
(1)阻害活性の測定
サンプル30μLと基質溶液250μLを混合し、37℃で5分間放置した。5分間放置した後、ACE溶液を100μL添加し、37℃で30分間反応後、1NHClを250μL添加し、反応を停止させた。反応停止後1.5mLの酢酸エチルを添加し、激しく1分間攪拌した。次に3,000rpmで10分間遠心分離を行い上層の酢酸エチル層を0.5mL分取し、遠心エバポレーター(40℃、1.5時間)で蒸発乾固させた。蒸発乾固させたものに2mLの精製水を加え、溶解後、228nmにおける吸光度を測定した。このときの吸光度をAとする。
【0033】
(2)ブランクの測定
サンプル30μL、基質溶液250μL及び1NHCl250μLを混合し、37℃で5分間放置した。5分間放置した後、ACE溶液を100μL添加し、37℃で30分間放置した。放置の後、1.5mLの酢酸エチルを添加し、激しく1分間攪拌した。次に3,000rpmで10分間遠心分離を行い上層の酢酸エチル層を0.5mL分取し、遠心エバポレーター(40℃、1.5時間)で蒸発乾固させた。蒸発乾固させたものに2mLの精製水を加え、溶解後、228nmにおける吸光度を測定した。このときの吸光度をBとする。
【0034】
(3)コントロールの測定
前記(1)活性の測定でサンプルの代わりにホウ酸緩衝液を用いて同様に操作を行い、228nmにおける吸光度を測定した。このときの吸光度をCとする。さらに、前記(2)ブランクの測定の測定でサンプルの代わりにホウ酸緩衝液を用いて同様に操作を行い、228nmにおける吸光度を測定した。このときの吸光度をDとする。
【0035】
(4)計算
下式によりACE阻害活性を求めた。
ACE阻害活性(%)=(A−B)×100/(C−D)
【実施例2】
【0036】
微生物の準備
独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門より、アスペルギルス ホエニシス NBRC6648(以下、NBRC6648と略することがある)のL−凍乾標品を購入した。L−凍乾標品のアンプルを開封し、下記に示す方法で調製した復元液0.2mLを滅菌したバスツールピペット用いて加えた。約30分放置後、攪拌してNBRC6648を懸濁し、懸濁液を調製した。栄研器材株式会社製パールコア(登録商標)ポテトデキストロース寒天培地を用いて使用方法に従い平板培地(直径9cmの丸型シャーレ)を調製し、前記懸濁液を滅菌したパスツールピペットで0.1mLとり、前記平板培地に接種し、コーンラージ棒で平板培地全体に塗布した。25℃で7日間培養を行し、NBRC6648が増殖した平板を調製した。
【0037】
<復元液の調製>
精製水100mLにペプトン(日本製薬株式会社製)0.5g、酵母エキス(日本製薬株式会社製)0.3g、MgSO・7HO0.1gを溶解し、1NNaOHまたは1NHClでpHを7.0に調製し、121℃で15分間オートクレーブを行い滅菌した。
【実施例3】
【0038】
NBRC6648の培養
実施例2のNBRC6648が増殖した平板1枚に滅菌した0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を5mL添加し、滅菌したスパーテルで培地を削らないように注意しながら、NBRC6648をかきとった。さらに10mLの滅菌した0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を添加し、かきとったNBRC6648を懸濁し懸濁液を調製した。平板2枚分の懸濁液を全量下記に示す方法で用意したジャーファメンターに接種し、培養温度24℃、攪拌スピード300rpm、通気量10L/minで培養を3日間行い、NBRC6648培養液を得た。
【0039】
<ジャーファメンターの用意>
約5Lの精製水にグルコース240g、大豆ペプチド(不二製油株式会社製)60g、酵母エキス(日本製薬株式会社製)30g、KHPO 30g、MgSO・7HO 12gを溶解し、さらに、消泡剤0.6mL(消泡シリコーンTSA737 GE東芝シリコーン社製)を添加し、1NNaOHまたは1NHClでpHを4.8に調製後、精製水で6Lにメスアップし培地を調製した。調製した6Lの培地を株式会社MBS社製10Lジャーファメンターに入れ、121℃で20分間オートクレーブを行い滅菌した。
【実施例4】
【0040】
750mLの滅菌水に30w/v%の中国製ローヤルゼリー250mLを加え攪拌を行いながら、10NNaOHを用いてpHを5.5に調整し、滅菌した500mL容量のバッフル付三角フラスコに250mL分注した。下記に示す方法により調製したNBRC6648 7.5gを投入し、滅菌したシリコセン(登録商標)で蓋をし、発酵を行った。発酵は温度30℃、攪拌スピード140rpm、で5日間行い、適宜、無菌的にサンプリングを行った。ついで、サンプリングした発酵液約5mLをガラス製試験管にとり、沸騰水中に10分放置し、殺菌を行い、実施例1に示すACE阻害活性測定方法に従ってACE阻害活性を測定した。その結果を図1に示す。なお、ACE阻害活性測定用サンプルは下記に示す方法で調製した。
図1に示すようにACE阻害活性がローヤルゼリーとNBRC6648を混合することにより上昇した。また、2日間でACE阻害活性は約30%になり、その後、徐々に上昇した。
【0041】
<NBRC6648の調製方法>
実施例3で得られたNBRC6648培養液を、滅菌した17G1ガラスろ過器にとり吸引ろ過を行い、培養液を除去した。ろ過されずに残ったNBRC6648の約5倍量(重量比)の滅菌した0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を加え、吸引ろ過を行い、菌体を洗浄した。さらに、吸引を行い余分な0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を取除き、NBRC6648の調製を行った。なお、NBRC6648の調製は無菌的に行った。
【0042】
<ACE阻害活性測定用サンプルの調製方法>
殺菌を行った発酵液を、3,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を実施例1に示すACE阻害活性測定方法で調製したホウ酸緩衝液で1.5倍希釈してACE阻害活性測定用サンプルとした。
【実施例5】
【0043】
2日目にNBRC6648を7.5g再度投入した以外は、実施例4と同様に操作を行った。その結果を図2に示す。
図2に示すようにACE阻害活性はローヤルゼリーをNBRC6648で発酵することにより上昇した。また、3日間でACE阻害活性は約45%になりその後、ACE阻害活性が徐々に上昇した。さらに、実施例4のNBRC6648を1回投入するよりも、2日目にNBRC6648を再度投入した方が、ACE阻害活性が高かった。
【実施例6】
【0044】
4.5Lの滅菌水に30w/v%の中国製ローヤルゼリー1.5Lを加え攪拌を行いながら、10NNaOHを用いてpHを5.5に調整し、滅菌した10Lジャーファメンター(株式会社MBS社製)に分注した。下記に示す方法により調製したNBRC6648 180gを投入し発酵を行った。温度30℃、攪拌スピード200rpm、通気量5L/minで発酵を行い、発酵開始後、2日目に再度下記に示す方法により調製したNBRC6648 180gを投入した。適宜、無菌的にサンプリングを行った。ついで、サンプリングした発酵液約5mLをガラス製試験管にとり、沸騰水中に10分放置し、殺菌を行い、実施例1に示すACE阻害活性測定方法に従ってACE阻害活性を測定した。その結果を図3に示す。なお、ACE阻害活性測定用サンプルは下記に示す方法で調製した。
図3に示すようにACE阻害活性はローヤルゼリーをNBRC6648で発酵することにより上昇した。
NBRC6648の調製方法
【0045】
実施例3で得られたNBRC6648培養液を、滅菌した17G1ガラスろ過器にとり吸引ろ過を行い、培養液を除去した。ろ過されずに残ったNBRC6648の約5倍量(重量比)の滅菌した0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を加え、吸引ろ過を行い、菌体を洗浄した。さらに、吸引を行い余分な0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を取除き、NBRC6648の調製を行った。なお、NBRC6648の調製は無菌的に行った。
ACE阻害活性測定用サンプルの調製方法
殺菌を行った発酵液を、3,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を実施例1に示すACE阻害活性測定方法で調製したホウ酸緩衝液で6倍希釈してACE阻害活性測定用サンプルとした。
【実施例7】
【0046】
1.25Lの滅菌水に30w/v%の中国製ローヤルゼリー1.25Lを加え攪拌を行いながら、10NNaOHを用いてpHを5.5に調整し、滅菌した10Lジャーファメンター(株式会社MBS社製)に分注した。実施例3で得られたNBRC6648の培養液2Lを投入し、温度30℃、攪拌スピード200rpm、通気量5L/minで放置し、2日目に再度NBRC6648の培養液2Lを投入した。適宜無菌的にサンプリングを行った。ついで、サンプリングした発酵液約5mLをガラス製試験管にとり、沸騰水中に10分放置し、殺菌を行い、実施例1に示すACE阻害活性測定方法に従ってACE阻害活性を測定した。その結果を図4に示す。なお、ACE阻害活性測定用サンプルは下記に示す方法で調製した。
図4に示すようにACE阻害活性はローヤルゼリーをNBRC6648で発酵することにより上昇した。また、実施例6の菌体を洗浄した場合よりACE阻害活性が高かった。これは、菌体の他に培養液を投入することにより、培養液に残存している栄養素が好適に働いたためだと考えられる。
【0047】
<ACE阻害活性測定用サンプルの調製方法>
殺菌を行った発酵液を、3,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を実施例1に示すACE阻害活性測定方法で調製したホウ酸緩衝液で希釈した。希釈倍率は培養液の再投入前は6.6倍に希釈し、培養液再投入後は4.6倍希釈に希釈してACE阻害活性測定用サンプルとした。
【実施例8】
【0048】
1.25Lの滅菌水に30w/v%の中国製ローヤルゼリー1.25Lを加え攪拌を行いながら、10NNaOHを用いてpHを5.5に調整し、滅菌した10Lジャーファメンター(株式会社MBS社製)に分注した。実施例3で得られたNBRC6648の培養液2Lを投入し、温度30℃、攪拌スピード200rpm、通気量5L/minで放置し、2日目に再度NBRC6648の培養液2Lを投入した。4日後に終了し、発酵液を2つの5Lのステンレス製ビーカーに等量ずつ分注した。それぞれを沸騰水中に40分間放置し、殺菌を行い、3M社製「ペトリフィルムカビ・酵母用」を使用手順に従って操作を行い、無菌試験を行った。その結果、NBRC6648は検出されなかった。なお、「ペトリフィルムカビ・酵母用」の培養は24℃で2日間行った。
【実施例9】
【0049】
実施例8の殺菌した発酵液を凍結乾燥したところ、約650gと凍結乾燥品が得られた。
【実施例10】
【0050】
アスペルギルス メレウス(Aspergillus melleus)
NBRC4339(以下NBRC4339と略することがある)によるACE阻害物質の生産
NBRC4339が生育したポテトデキストロース平板培地1枚(直径9cmの丸型シャーレ)に滅菌した0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を5mL添加し、滅菌したスパーテルで培地を削らないように注意しながら、NBRC4339をかきとった。さらに10mLの滅菌した0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を添加し、かきとったNBRC4339を懸濁し懸濁液を調製した。懸濁液0.25mLを下記に示す前培用培地に植菌し、24℃で3日間前培養を行い、前培養液を得た。
【0051】
次に30mLの滅菌水に30w/v%の中国製ローヤルゼリー30mLを加え攪拌を行いながら、10NNaOHを用いてpHを5.5に調整し、滅菌した300mL容量のバッフル付三角フラスコに全量分注し、滅菌したシリコセン(登録商標)で蓋をした。次いで前記前培養液50mLを接種し、温度24℃、攪拌スピード300rpmで発酵を行った。その結果を図5に示す。図5に示すようにNBRC4339でローヤルゼリーを発酵させることにより、ACE阻害物質が生産された。なお、ACE阻害活性測定用サンプルはサンプリングを行った発酵液を、3,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を実施例1に示すACE阻害活性測定方法で調製したホウ酸緩衝液で6.5倍希釈してACE阻害活性測定用サンプルとした。
【0052】
<前培用培地>
4w/v%グルコース、1w/v%大豆ペプチド(不二製油株式会社製)、0.5w/v%酵母エキス(日本製薬株式会社製)、0.5w/v%KHPO、0.2w/v%MgSO・7HO、pH4.8の前培養培地50mLを200mL容量のバッフル付三角フラスコに入れ、121℃で20分間オートクレーブを行い滅菌した。
【実施例11】
【0053】
モナスカス パープレウス(Monascus purpureus)NBRC4478(以下NBRC4478と略することがある)によるACE阻害物質の生産
NBRC4478が生育したポテトデキストロース平板培地1枚(直径9cmの丸型シャーレ)に滅菌した0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を5mL添加し、滅菌したスパーテルで培地を削らないように注意しながら、NBRC4478をかきとった。さらに10mLの滅菌した0.5%NaCl含有10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を添加し、かきとったNBRC4478を懸濁し懸濁液を調製した。懸濁液10mLを下記に示す前培用培地に植菌し、培養温度30℃、攪拌スピード150rpm、通気量4L/minの培養条件で3日間前培養を行い、前培養液を得た。
【0054】
次に30mLの滅菌水に30w/v%の中国製ローヤルゼリー30mLを加え攪拌を行いながら、10NNaOHを用いてpHを5.5に調整し、滅菌した300mL容量のバッフル付三角フラスコに全量分注し、滅菌したシリコセン(登録商標)で蓋をした。次いで前記前培養液50mLを接種し、温度30℃、攪拌スピード140rpmで発酵を行った。その結果を図6に示す。図6に示すようにNBRC4478でローヤルゼリーを発酵させることにより、ACE阻害物質が生産された。なお、ACE阻害活性測定用サンプルはサンプリングを行った発酵液を、3,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を実施例1に示すACE阻害活性測定方法で調製したホウ酸緩衝液で8.8倍希釈してACE阻害活性測定用サンプルとした。
【0055】
<前培用培地>
4w/v%グルコース、1w/v%大豆ペプチド(不二製油株式会社製)、0.5w/v%酵母エキス(日本製薬株式会社製)、0.5w/v%KHPO、0.2w/v%MgSO・7HO、0.01v/v%消泡剤0.6mL(消泡シリコーンTSA737 GE東芝シリコーン社製)、pH4.8の前培養培2Lを5L容量のジャーファメンターに入れ、121℃で20分間オートクレーブを行い滅菌した。
【実施例12】
【0056】
リゾプス ニベウス(Rhizopus niveus)NBRC4759(以下NBRC4759と略することがある)によるACE阻害物質の生産
NBRC4759が生育したポテトデキストロース平板培地1枚(直径9cmの丸型シャーレ)に滅菌水を5mL添加し、滅菌したスパーテルで培地を削らないように注意しなが、NBRC4759をかきとった。さらに10mLの滅菌水を添加し、かきとったNBRC4759を懸濁し懸濁液を調製した。懸濁液0.3mLを下記に示す前培用培地に植菌し、培養温度30℃、攪拌スピード140rpmの培養条件で6日間前培養を行い、前培養液を得た。
【0057】
次に30mLの滅菌水に30w/v%の中国製ローヤルゼリー30mLを加え攪拌を行いながら、6NHClを用いてpHを3.0に調整し、滅菌した300mL容量のバッフル付三角フラスコに全量分注し、滅菌したシリコセン(登録商標)で蓋をした。次いで前記前培養液30mLを接種し、温度37℃、攪拌スピード140rpmで発酵を行った。その結果を図7に示す。図7に示すようにNBRC4759でローヤルゼリーを発酵させることにより、ACE阻害物質が生産された。なお、ACE阻害活性測定用サンプルはサンプリングを行った発酵液を沸騰水中で30分間放置後、3,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を実施例1に示すACE阻害活性測定方法で調製したホウ酸緩衝液で15倍希釈してACE阻害活性測定用サンプルとした。
【0058】
<前培用培地>
4w/v%グルコース、1w/v%大豆ペプチド(不二製油株式会社製)、0.5w/v%酵母エキス(日本製薬株式会社製)、0.2w/v%KHPO、0.2w/v%MgSO・7HO、pH3.0の前培養培100mLを300mL容量のバッフル付三角フラスコに入れ、121℃で15分間オートクレーブを行い滅菌した。
【実施例13】
【0059】
プロテアーゼ活性測定方法
(1)基質溶液の調製
75mLの100mM乳酸緩衝液(pH3.0)に0.6gのカゼイン(ハマルステイン処方)を懸濁させ、沸騰水中で加熱溶解した。放冷後、pHを3.0に調整し、100mLにメスアップして、基質溶液とした。
【0060】
(2)プロテアーゼ活性の測定
2mLの基質溶液を37℃で5分間放置した後、サンプル液を0.4mL添加し、37℃で1時間反応後、0.44Mトリクロロ酢酸溶液を2mL添加し、反応を停止させた。反応停止後10分間室温に放置して、No2のろ紙(アドバンテック東洋)でろ過を行った。ろ液0.5mLに0.55MNaCO溶液1.25mL及び精製水で3倍希釈したフェノール試薬0.25mLを添加し、37℃で30分間放置後660nmにおける吸光度を測定した。このときの吸光度をAとする。
【0061】
(3)ブランクの測定
0.44Mトリクロロ酢酸溶液を2mL添加後にサンプル液0.4mLを加えた以外は上記(2)プロテアーゼ活性の測定と同様に行った。このときの660nmにおける吸光度をBとする。
【0062】
(4)計算
下式によりΔA660を求めた。
ΔA660=A−B
【実施例14】
【0063】
実施例12で得られた前培養液を100mM乳酸緩衝液(pH3.0)で40倍に希釈して実施例13に示すプロテアーゼ活性測定を行ったところ、ΔA660が0.50であった。リゾプス ニベウス由来のプロテアーゼであるニューラーゼ(天野エンザイム社製)を精製水で溶解し、実施例12で得られた前培養液と同じΔA660になるように濃度調整をおこなった。濃度調整を行ったニューラーゼ溶液を実施例12の前培養液の代わりにローヤルゼリー溶液に添加し、発酵(実施例12)と酵素処理(ニュラーゼ)の違いによるACE阻害物質の生産性の比較を行った。その結果を図8に示す。
図8に示すように発酵の方がACE阻害物質の生産性が高かった。
【実施例15】
【0064】
40mLの滅菌水に30w/v%の中国製ローヤルゼリー40mLを加え攪拌を行いながら、10NNaOHを用いてpHを7.0に調整し、前培養液20mLを接種した以外は実施例10と同様に操作を行いローヤルゼリーを発酵させた。発酵開始後、2日目の発酵液を沸騰水中で30分間加熱して殺菌後凍結乾燥を行い、ローヤルゼリー組成物を得た。高血圧自然発症マウス(SHR)を2週間予備飼育後、13週齢のSHRマウスに(一群6匹、雄)にローヤルゼリー組成物を2.5mg/mLになるように精製水で溶解し、体重1kg当り10mL投与した(25mg/Kg)。その結果、投与後6時間後ローヤルゼリー組成物投与群の血圧の平均は164mmHgであり、対象群の血圧の平均は196mmHgであり、ローヤルゼリー組成物を投与することにより有意(p<0.05)に血圧降下作用を示した。なお、対象群は精製水を10mL投与した。
ddYマウスを用いてマウス局所アナフラキシー法によるアレルゲン検定試験を行った。つまり、ローヤルゼリー組成物の蛋白質濃度を5mg/mLになるように調製し、フロイント不完全アジュバントを1:1の割合で混合してエマルジョンを作成した。各エマルジョンをマウス1匹あたり0.2mL腹腔内投与して感作し、14日間飼育を行った(一群12匹、雄)。マウスをエーテル麻酔後、腹部を約3×4cmの広さに刈毛し、0.5%エバンスブルーを0.2mL静脈内投与した。感作に使用したローヤル組成物の蛋白質濃度を2mg/mLになるように調製し、エバンスブルー投与後2分以後に、マウス1匹あたり50μL腹壁皮内投与して惹起した。10分後、腹部皮膚を剥離し、惹起によって生じた青色斑の長径と短径を測定して、平均直径を求めた。発酵前のローヤルゼリーも同様に行った。その結果、発酵前のローヤルゼリーと比較して発酵後のローヤルゼリー組成物のアレルゲンが低下した。
【実施例16】
【0065】
実施例12で得られた発酵液を沸騰水中で30分間加熱して殺菌後凍結乾燥を行い、ローヤルゼリー組成物を得た。高血圧自然発症マウス(SHR)を2週間予備飼育後、6週齢のSHRマウスに(一群9匹、雄)にローヤルゼリー組成物を0.93mg/mLになるように精製水で溶解し、体重1kg当り10mL投与した(9.3mg/Kg)。その結果、投与後4週間後ローヤルゼリー組成物投与群の血圧の平均は172mmHgであり、対象群の血圧の平均は190mmHgであり、ローヤルゼリー組成物を投与することにより有意(p<0.05)に血圧降下作用を示した。なお、対象群は精製水を10mL投与した。
SDラットを1週間予備飼育後、6週目のSDラット(一群雄、雌各6匹)を使用して、単回投与毒性試験を行った。SDラットに体重1kgあたり2gの割合で経口投与し、14日間観察した。その結果、全例とも死亡動物はなく、また副作用も認められず、14日目の剖検においても、組織、臓器の異常はなんら観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によって得られる血圧降下作用を有するローヤルゼリーは、ローヤルゼリー組成物または血圧降下剤として飲食物などに好適に使用することができ、特に健康食品などに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】NBRC6648を用いた発酵日数とACE活性の推移を示す図である。
【図2】NBRC6648を用いた別の例における発酵日数とACE活性の推移を示す図である。
【図3】NBRC6648を用いた更に別の例における発酵日数とACE活性の推移を示す図である。
【図4】NBRC6648を用いた更に別の例における発酵日数とACE活性の推移を示す図である。
【図5】NBRC4339を用いたときの発酵日数とACE活性の推移を示す図である。
【図6】NBRC4478を用いたときの発酵日数とACE活性の推移を示す図である。
【図7】NBRC4759を用いたときの発酵日数とACE活性の推移を示す図である。
【図8】発酵(実施例12)と酵素処理(ニュラーゼ)の違いによるACE阻害物質の生産性の比較を行った図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリーを微生物で発酵させる工程を含むことを特徴とする、血圧降下作用を有するローヤルゼリーの製造方法。
【請求項2】
微生物がアスペルギルス属(Aspergillus属)、モナスカス属(Monascus属)または、リゾプス属(Rhizopus属)の微生物であることを特徴とする、請求項1に記載のローヤルゼリーの製造方法。
【請求項3】
微生物がアスペルギルス ホエニシス(Aspergillus phoenicis)、アスペルギルス メレウス(Aspergillus melleus)、モナスカス パープレウス(Monascus purpureus)または、リゾプス ニベウス(Rhizopus niveus)であることを特徴とする、請求項1に記載のローヤルゼリーの製造方法。
【請求項4】
発酵工程の後に、微生物を殺菌する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のローヤルゼリーの製造方法。
【請求項5】
加熱により微生物の殺菌を行うことを特徴とする請求項4に記載のローヤルゼリーの製造方法。
【請求項6】
血圧降下作用を有するローヤルゼリーがアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1に記載のローヤルゼリーの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの方法によって得られる血圧降下作用を有するローヤルゼリーを含有することを特徴とする、ローヤルゼリー組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかの方法によって得られる血圧降下作用を有するローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする、血圧降下剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−48729(P2008−48729A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191689(P2007−191689)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(592207809)森川健康堂株式会社 (14)
【Fターム(参考)】