説明

血液分離器具及び血液分離装置

【課題】 血液採取容器に採取された血液を血球と血漿または血清とに簡便に、かつ短時間で分離することができる血液分離材、該血液分離材を備える血液分離装置を提供する。
【解決手段】 一端側に向かって延びる第1の中空針3と、他端側に向かって延びる第2の中空針4と、血液が流れる内部空間2Aとを有する筒状の容器本体2、および血液を血球と血漿または血清とに分離するための血液分離膜9とを備え、容器本体2が、第1の中空針3の針先3aから内部空間2Aに向かって、内部空間2Aに血液が流入される第1の流路5と、内部空間2Aから第2の中空針4の針先4aに向かって、内部空間2Aから血液が流出される第2の流路6と、かつ外部空間から第1の中空針3の針先3aに向かって、大気が流通可能な状態となり得る第3の流路7とを有する、血液分離器具1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を血球と血漿または血清とに分離するための血液分離器具に関し、より詳細には、血液採取容器に採取された血液を血球と血漿または血清とに簡便に、かつ短時間で分離することができる血液分離器具および該血液分離器具を備える血液分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液から血球を除去し、臨床検査に必要な血漿または血清を得るために、遠心分離法が用いられてきた。しかし、遠心分離法では、凝固過程や分離後に上澄みの血漿または血清を移しかえる過程などの作業が煩雑であった。また、検査結果を得るまでに時間を要し、さらに大型で高価な遠心分離機が必要であった。
【0003】
この問題を解決するために、遠心分離機を用いることなく、血液から血球を除去し、臨床検査に必要な血漿または血清を得ることを可能とする様々な分離方法・分離器具が提案されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、採血と同時または直後に、採取した血液から血清・血漿成分を分離回収することが可能な血清・血漿分離器具が示されている。図11を参照して、特許文献1に示されている血清・血漿分離器具を説明する。
【0005】
図11に縦断面図で示すように、血清・血漿分離器具101は、外管102と、採血管103と、連結具104と、分離液採取管105とを有する。
【0006】
外管102は円筒状の形状を有し、下端102aが開口している。外管102は、上端面102bの中央から外側と内側とに延びる採血針105を有する。採血管103は、円筒状の容器106と、筒状容器106の上端106aと下端106bとに取り付けられた栓体107,108とを有する。栓体107,108は、針により刺通可能な材料により構成されている。採血管103内には、栓体107側に血球分離繊維材層109と、栓体108側に血球凝集材層110とが配置されている。採血管103内は減圧されている。図11では、外管102の下端102aの開口から、採血管103が外管102内に挿入されている。
【0007】
分離液採取管105は、一端側に開口105aを有する。開口105aには、針により刺通可能な栓体111が取付けられている。分離液採取管105内は減圧されている。連結具104は、円筒状の形状を有し、中央に仕切壁104aを有する。連結具104は、仕切壁104aの中央から上下に延びる中空針112を有する。
【0008】
上述した血清・血漿分離器具101の使用に際しては、外管102の外側に位置する採血針105の一端105aを血管に挿入する。それと同時に、外管102内に採血管103をさらに押し込み、採血針105の一端105aとは反対側の他端105bを栓体107に刺通させる。この結果、内部が減圧されている採血管103内に血液が流入する。必要量の血液が流入した後、採血針105の一端105aを血管から抜去する。
【0009】
次に、連結具104の中空針112の一端112aを、採血管103の栓体108に刺通させる。これと同時に、連結具104の中空針111の一端112aとは反対側の他端112bを分離液採取管105の栓体111に刺通させる。この結果、採血管103内に流入している血液が、分離液採取管105に真空吸引される。このとき、血球分離繊維材層109および血球凝集材層110を血液が通過し、血液から血清・血漿成分が分離される。分離された血清・血漿成分は、中空針112を通じて、分離液採取管105内に流入する。
【特許文献1】特開平05−93721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の血清・血漿分離器具101では、採血管103内の減圧により、採血管103内に血液を流入させている。しかしながら、採血管103の減圧度が低いと、採血管103内に必要量の血液が速やかに流入しないことがあった。また、血清・血漿分離器具101では、採血針105の一端105aを血管に挿入し血液を採取している。この場合、例えば一旦採取された血液が血管内に逆流し、採血管103内の血球分離繊維材層108の繊維成分等が血管内に流入するおそれがあった。
【0011】
他方、血液の採取容器を別途用意し、この容器に血液を採取した後、容器内に採取された血液を採血管103内に流入させる方法も考えられる。しかしながら、この場合にも、採血管103の減圧度が低いと、採血管103内に必要量の血液が速やかに流入しないことがあった。さらに、例えば、採血管103内に血液が流入するに従って、血液の採取容器と採血管内103との圧力差がなくなり、採血管103内への血液の流入が停止することがあった。
【0012】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、血液採取容器に採取された血液を血球と血漿または血清とに簡便に、かつ短時間で分離することができる血液分離材、該血液分離材を備える血液分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、血液を血球と血漿または血清とに分離し、該血漿または血清中の成分を検査するのに用いられる血液分離器具であって、一端側に向かって延びる第1の中空針と、一端側とは反対側の他端側に向かって延びる第2の中空針と、第1,第2の中空針間に配置されており、血液が流れる内部空間とを有する筒状の容器本体、および容器本体の内部空間に配置されており、血液を血球と血漿または血清とに分離するための血液分離材を備え、容器本体が、第1の中空針の針先から内部空間に向かって、内部空間に血液が流入される第1の流路と、内部空間から第2の中空針の針先に向かって、内部空間から血液が流出される第2の流路と、かつ外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得る第3の流路とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の血液分離器具のある特定の局面では、第3の流路に弁部材が液密的に配置されており、弁部材を挟んだ外部空間側と第1の中空針の針先側との圧力差により、外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得るように構成されている。
【0015】
本発明の血液分離器具の他の特定の局面では、弁部材が切り込みを有し、圧力差の有無によって切り込みが開閉するように構成されており、かつ切り込みが開口することで、外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得るように構成されている。
【0016】
本発明の血液分離器具のさらに他の特定の局面では、第3の流路に液密的に連続発泡体が配置されており、連続発泡体が液密性および通気性を有する。
【0017】
本発明の血液分離装置は、少なくとも一端側に開口を有し、該開口に栓体が圧入されており、血液が採取される血液採取容器と、本発明に従って構成された血液分離器具とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の血液分離装置のある特定の局面では、少なくとも一端側に開口を有し、該開口に栓体が圧入されて内部の減圧が維持されており、分離された血漿または血清が収納される検体収納容器をさらに備えている。
【0019】
本発明の血液分離装置の他の特定の局面では、血液分離器具は、容器本体から容器本体の一端側に向かって延びる筒状の第1のホルダーを有し、第1の中空針に血液採取容器の栓体が刺通された際に栓体が係合されるように、第1のホルダーの内周面から突出した第1の係合部を第1のホルダーが有している。
【0020】
本発明の血液分離装置のさらに他の特定の局面では、第1の中空針に血液採取容器の栓体が刺通される手前の位置で栓体が係合されるように、第1のホルダーの内周面から突出した第2の係合部を第1のホルダーが有している。
【0021】
本発明の血液分離装置のさらに他の特定の局面では、血液分離器具が、容器本体から容器本体の他端側に向かって延びる筒状の第2のホルダーを有し、第2の中空針に検体収納容器の栓体が刺通された際に栓体が係合されるように、第2のホルダーの内周面から突出した第1の係合部を第2のホルダーが有している。
【0022】
本発明の血液分離装置のさらに他の特定の局面では、第2の中空針に検体収納容器の栓体が刺通される手前の位置で栓体が係合されるように、第2のホルダーの内周面から突出した第2の係合部を第2のホルダーが有している。
【発明の効果】
【0023】
本発明の血液分離器具は、血液を血球と血漿または血清とに分離し、該血漿または血清中の成分を検査するのに用いられる血液分離器具であって、一端側に向かって延びる第1の中空針と、一端側とは反対側の他端側に向かって延びる第2の中空針と、第1,第2の中空針間に配置されており、血液が流れる内部空間とを有する筒状の容器本体、および容器本体の内部空間に配置されており、血液を血球と血漿または血清とに分離するための血液分離材を備えている。
【0024】
本発明では、容器本体が、第1の中空針の針先から内部空間に向かって、内部空間に血液が流入される第1の流路と、内部空間から第2の中空針の針先に向かって、内部空間から血液が流出される第2の流路と、かつ外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得る第3の流路とを有するため、例えば血液が採取されており、かつ内部が減圧されている血液採取容器内に第1の中空針の針先を挿入すると、第3の流路を通じて外部空間側から針先側に大気が移動し、針先から血液採取容器内に大気を流入させることができる。よって、第1の流路を通じて血液が内部空間に流入し、血液採取容器の空容積が増加しても、血液採取容器内に大気が流入されるため、血液採取容器内の圧力の低下を防ぐことができる。また、第1,第2の中空針を通じて、血液採取容器内の血液を第2の中空針の針先から流出させることができる。
【0025】
第3の流路に弁部材が液密的に配置されており、弁部材を挟んだ外部空間側と第1の中空針の針先側との圧力差により、外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得るように構成されている場合には、例えば血液が採取されており、かつ内部が減圧されている血液採取容器内に第1の中空針の針先を挿入すると、第3の流路を通じて外部空間側から針先側に大気が移動し、針先から血液採取容器内に大気を流入させることができる。さらに、第3の流路を通じて、第1の中空針の針先側から外部空間側に血液が移動しても、弁部材によりその移動が停止される。よって、第3の流路を通じて、血液の外部空間への流出を防ぐことができる。
【0026】
弁部材が切り込みを有し、圧力差の有無によって切り込みが開閉するように構成されており、かつ切り込みが開口することで、外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得るように構成されている場合には、弁部材を挟んだ外部空間側と第1の中空針の針先側との圧力差が無いときに切り込みが閉口するため、血液の外部空間への流出をより一層確実に防ぐことができる。
【0027】
第3の流路に液密的に連続発泡体が配置されており、連続発泡体が液密性および通気性を有する場合には、例えば血液が採取されており、かつ内部が減圧されている血液採取容器内に第1の中空針の針先を挿入すると、第3の流路を通じて外部空間側から針先側に大気が移動し、針先から血液採取容器内に大気を確実に流入させることができる。よって、血液採取容器内の圧力の低下をより一層効果的に防ぐことができる。
【0028】
本発明の血液分離装置は、少なくとも一端側に開口を有し、該開口に栓体が圧入されており、血液が採取される血液採取容器と、本発明に従って構成された血液分離器具とを備えている。よって、血液採取容器の栓体に第1の中空針の針先を刺通させると、第3の流路を通じて外部空間側から針先側に大気が移動し、針先から血液採取容器内に大気を流入させることができる。よって、第1の流路を通じて血液が内部空間に流入し、血液採取容器の空容積が増加しても、血液採取容器内の圧力の低下を抑えることができる。よって、第1の流路から内部空間に効果的に血液が流入し、さらに第2の流路を経由して第2の中空針の針先から血漿または血清を短時間で分離採取することができる。
【0029】
少なくとも一端側に開口を有し、該開口に栓体が圧入されて内部の減圧が維持されており、分離された血漿または血清が収納される検体収納容器をさらに備えている場合には、血液採取容器の栓体に第1の中空針の針先を刺通させ、さらに検体収納容器の栓体に第2の中空針の針先を刺通させると、血液採取容器内の血液が検体収納容器に真空吸引される。また、第1の流路を通じて血液が内部空間に流入し、血液採取容器の空容積が増加しても、第3の流路から大気が血液採取容器内に流入されるため、血液採取容器内の圧力の低下が防がれている。よって、血液採取容器と検体収納容器との圧力差が小さくなり難いため、血液を血球と血漿または血清とに短時間で分離できる。
【0030】
血液分離器具が、容器本体から容器本体の一端側に向かって延びる筒状の第1のホルダーを有し、第1の中空針に血液採取容器の栓体が刺通された際に栓体が係合されるように、第1のホルダーの内周面から突出した第1の係合部を第1のホルダーが有する場合には、血液採取容器の栓体を第1の中空針に容易に刺通させることができる。さらに、血液の分離の際には、血液分離器具に血液採取容器が把持されるため、血液の分離を安全に行うことができる。
【0031】
第1の中空針に血液採取容器の栓体が刺通される手前の位置で栓体が係合されるように、第1のホルダーの内周面から突出した第2の係合部を第1のホルダーが有する場合には、血液の分離の前に血液分離器具に血液採取容器を予め把持させることができ、さらに第1の中空針に血液採取容器の栓体をより一層容易に刺通させることができる。
【0032】
血液分離器具が、容器本体から容器本体の他端側に向かって延びる筒状の第2のホルダーを有し、第2の中空針に検体収納容器の栓体が刺通された際に栓体が係合されるように、第2のホルダーの内周面から突出した第1の係合部を第2のホルダーが有する場合には、検体収納容器の栓体を第2の中空針に容易に刺通させることができる。さらに、血液の分離の際には、血液分離器具に検体収納容器が把持されるため、血液の分離を安全に行うことができる。
【0033】
第2の中空針に検体収納容器の栓体が刺通される手前の位置で栓体が係合されるように、第2のホルダーの内周面から突出した第2の係合部を第2のホルダーが有する場合には、血液の分離の前に血液分離器具に検体収納容器を予め把持させることができ、さらに第2の中空針に検体収納容器の栓体をより一層容易に刺通させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面を参照しつつ説明することにより、本発明を明らかにする。
【0035】
図1(a)〜(c)を用いて、本発明の第1の実施形態に係る血液分離器具を説明する。図1(a)は、血液分離器具の外観を示す斜視図であり、図1(b)は、血液分離器具の正面図であり、図1(c)は、血液分離器具の正面断面図である。
【0036】
図1(a)〜(c)に示すように、血液分離装置1は、円筒状の容器本体2を有する。容器本体2は、円筒状に限られず、例えば角筒状などの形状を有していてもよい。容器本体2の形状は、後述する血液採取容器、検体収納容器の形状に対応させて適宜変更され得る。
【0037】
容器本体2の材質としては、特に限定されず、射出成形が可能な合成樹脂等からなる。容器本体2の材質としては、例えば、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、またはアクリル等からなる樹脂が挙げられる。
【0038】
図1(c)に示すように、容器本体2は、一端側である上方に向かって延びる第1の中空針3と、一端側とは反対側の他端側である下方に向かって延びる第2の中空針4とを有する。第1の中空針3と第2の中空針4との間に、容器本体2は内部空間2Aを有する。
【0039】
容器本体2は、第1の中空針3の針先3aから内部空間2Aに向かって、内部空間2Aに血液が流入される第1の流路5を有する。容器本体2は、内部空間2Aから第2の中空針4の針先4aに向かって、内部空間2Aから血液が流出される第2の流路6を有する。さらに、容器本体2は、外部空間から第1の中空針3の針先3aに向かって、大気が流通可能な状態となり得る第3の流路7を有する。
【0040】
第3の流路7は、第1の中空針3の針先3aから下方に延ばされており、かつ内部空間2Aに至る手前で側方に延ばされて、容器本体2の側面2aの開口2bに至っている。よって、第3の流路7により、針先3aと容器本体2の外部空間とが接続されている。
【0041】
容器本体2の開口2bには、弁部材8が挿入されている。すなわち、弁部材8を挟んだ外部空間側と第1の中空針3の針先3a側との圧力差により、外部空間から第1の中空針3の針先3aに向かって、大気が流通可能な状態となり得るように弁部材8が配置されている。弁部材8は、例えばゴム弾性を有する材料等で構成されており、柔軟性を有する。
【0042】
図2(a)に、弁部材8を拡大して正面図で示し、図2(b)に、弁部材8を拡大して正面断面図で示す。
【0043】
図2(a),(b)に示すように、弁部材8は略円筒状の形状を有し、一端側に肉厚部8aを有する。肉厚部8aの外周径は、第3の流路7に圧入し得る程度の大きさとされており、開口2bの内周径とほぼ等しいか、若しくはわずかに大きくされている。そして、肉厚部8aから本体部8bが連ねられており、本体部8bの径が肉厚部8aの径よりも相対的に小さくされている。本体部8bには、切り込み8cが形成されている。切り込み8cは、例えばゴム弾性を有する材料からなる弁部材8を、カッター等を用いて切断するだけで容易に形成することができる。
【0044】
本実施形態では、切り込み8cは、弁部材8の長さ方向と直交する方向に延びるように形成されており、圧力差の有無によって切り込み8cが開閉するように弁部材8が構成されている。また、切り込み8cが開口することで、外部空間から第1の中空針3の針先3aに向かって、大気が流通可能な状態となり得るように弁部材8が構成されている。
【0045】
弁部材8は、常温でゴム弾性を有する材料により構成されていれば特に限定されない。弁部材8を構成する材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ウレタン、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
【0046】
図1(c)に戻り、弁部材8は、肉厚部8a側が側面2a側に位置するように挿入されている。弁部材8は、肉厚部8aとは反対側、すなわち本体部8bの閉じられている部分から開口2bに挿入され、圧入されている。肉厚部8aの外周面が第3の流路7の内周面に液密的に密着されている。
【0047】
他方、切り込み8cは、弁部材8の第3の流路7に固定されている部分、すなわち上記肉厚部8aよりも第1の中空針の針先3a側に位置している。また、第3の流路7は開口2bから内側に向かって延ばされているが、この内側に向かって延ばされている第3の流路7部分において、切り込み8cは、第3の流路7の形成されている方向と直交する方向に延びている。
【0048】
容器本体2の内部空間2Aには、血液分離材9が配置されている。
【0049】
血液分離材9を構成する材料としては、特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ウレタン、アクリル、レーヨン、ガラス等が挙げられる。
【0050】
血液分離材としては、例えば、極細繊維の集積体、連続した気泡を有する発泡体または焼結体、中空糸膜、多孔質膜、多孔性粒子、複数溝および/または孔を有するフィルムなどがあげられるが、実質的に血液を血球と血漿または血清に分離できるものであれば、上記の例示に限定されるものではではない。また、血球成分をフィルタの内部で捕捉することで分離しても良いし、血球成分と血漿または血清成分の移動速度差によって分離してもよい。
【0051】
また血液分離材は非対称フィルタと対称フィルタに分けることができる。非対称フィルタとはここでは血液の流入側から流出側にかけて孔径が小さくなるような構造を有するフィルタを総称する。それ以外の血液分離材を対称フィルタと総称する。
【0052】
これらの血液分離材のうち対称フィルタとしては、平均孔径は1μm以上、10μm以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは2μm以上、8μm以下の範囲である。平均孔径が1μmより小さいと赤血球が溶血することがあり、10μmより大きくなると血球と血漿もしくは血清との分離が著しく悪くなってしまうからである。
【0053】
また、血液分離材のうち非対称フィルタとしては平均孔径が0.01μm以上、10μm以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは0.1μm以上、6μm以下である。平均孔径が0.01μmより小さいと血球成分が目詰まりを起こし分離できなくなる、または溶血することがあり、平均孔径が10μmより大きくなると血球と血漿もしくは血清との分離が著しく悪くなってしまうからである。
【0054】
血液分離材が極細繊維の集積体からなる場合には平均繊維径が0.5〜3.0μmの範囲にある繊維体が集積されて形成されていることが好ましい。平均繊維径が0.5μmより小さいと、血液を分離する際に溶血を起こし易くなる。平均繊維径が3.0μmより大きいと、血球と血漿または血清とを分離するために、血液分離材を高密度に形成する必要があり、また使用する繊維の量も多くなりコストが高くなる。血液の分離効果をより一層高めるためには、平均繊維径は、0.5〜2.5μmの範囲にあることがより好ましい。
【0055】
容器本体内に設置されたときの血液分離材の平均密度は、0.1〜0.5g/cm3の範囲であることが好ましい。平均密度が0.1g/cm3より低い場合には、血液の分離が効果的に行えないことがあり、得られる血漿若しくは血清の量が少なくなることがある。平均密度が、0.5g/cm3より高い場合には、赤血球への負荷が大きくなり、溶血を起こし易くなる。血液をより一層効率的に分離するためには、平均密度は0.15〜0.40g/cm3の範囲にあることが好ましい。
【0056】
なお血液分離材として前記対称フィルタ、非対称フィルタを組み合わせて使用することも可能である。
【0057】
血液分離材は、血液中の成分を吸着する性質を有していてもよい。この場合には、血液中の成分の吸着を抑制または制御するために血液分離材に表面処理が施されていてもよい。表面処理剤としては、特に限定されないが、ポリエーテル系、シリコーン系等の潤滑剤、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドン等の親水性高分子類、さらには天然の親水性高分子類、高分子界面活性剤等が挙げられる。また、血液分離材の表面は、酸化剤による化学処理、プラズマ処理などにより親水化処理がされていてもよい。また逆に、疎水シリコーン、フッ素系表面処理剤により撥水処理がされていても良い。
【0058】
血液分離器具1は、容器本体2の上端面2cから上方に向かって延びる円筒状の第1のホルダー10を有する。第1のホルダー10の上端10a近傍の内周面には、第1のホルダー10の内周面から内側に向かって延びる環状の第1の係合部10bが形成されている。血液分離器具1は、容器本体2の下端面2dから下方に向かって延びる円筒状の第2のホルダー11を有する。第2のホルダー11の下端11a近傍の内周面には、第2のホルダー11の内周面から内側に向かって延びる環状の第1の係合部11bが形成されている。
【0059】
本実施形態では、容器本体2と、第1,第2のホルダー10,11とが一体的に構成されているが、異なる部材を用いて構成されてもよい。第1の係合部の形状は特に限定されず、上述した環状の形状ほか、例えばドット状などの形状であってもよい。第1,第2のホルダー10,11は、特に限定されないが、例えば上述した容器本体と同様の材質により構成される。
【0060】
図3〜図5を用いて、上述した血液分離器具1の使用方法を説明する。
【0061】
図3に、容器本体2内に血液が流入される直前の状態を縦断面図で示す。図4に、容器本体2内に流入された血液が分離される途中段階の状態を縦断面図で示す。図5に、分離された血漿または血清を取り出すときの状態を縦断面図で示す。
【0062】
図3に示すように、先ず血液が採取される血液採取容器21と、分離された血漿または血清が収納される検体収納容器31とを用意する。
【0063】
血液採取容器21は、例えばガラス等からなる有底の管状容器22を有する。管状容器22は、一端側に開口22aを有する。開口22aには、内部を気密封止するように栓体23が圧入されている。栓体23は、大径部23aと、大径部23aよりも径が小さな小径部23bとを有する。採血針またはシリンジによる刺通を容易とするために、栓体23の外側および内側の表面の中央には、凹部23c,23dがそれぞれ設けられている。小径部23bが開口22aに圧入されており、栓体23により開口22aが気密封止されている。使用前は、血液採取容器21内は減圧されている。なお、例えば栓体23を一旦取外して血液採取容器21内に血液を採取する場合には、血液採取容器21内は減圧されていなくてもよい。
【0064】
検体収納容器31は、上述した血液採取容器21と同様に構成されている。よって、同一の符号を付して、その説明を省略する。なお、検体収納容器31内は減圧されている。検体収納容器31内が減圧されているのは、後述するように、血液を真空吸引し、かつ濾過するためである。
【0065】
栓体23は、気密性を有し、かつ第1,第2の中空針3,4により刺通可能な材料により構成されていれば特に限定されない。栓体23は、例えばゴム弾性材料により構成される。このようなゴム弾性材料としては、天然ゴム、ブチルゴム、熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0066】
検体収納容器31内の減圧度は、特に限定されないが、2〜90kPaの範囲が好ましく、20〜60kPaの範囲がより好ましい。減圧度が低すぎると、血液の分離を速やかに行うことができないことがあり、減圧度が高すぎると、赤血球に圧力が加わり、溶血を引き起こすおそれがある。
【0067】
血液の分離の際には、先ず上述した血液採取容器21に血液を採取する。採血方法としては、特に限定されないが、例えば採血針などを用いて、採血針の一端を血管に刺通し、他端を栓体23に刺通することで、血液採取容器21内に血液を流入させる。
【0068】
図3に示すように、血液採取容器21に血液が採取された後、第1のホルダー10の上端10aより血液採取容器21を栓体23側から挿入する。すなわち、第1の中空針3の針先3aが、血液採取容器21の栓体23に刺通される。針先3aが栓体23に刺通されて血液採取容器21の内部空間に至ると、栓体23の外表面が上端面2cに当接される。このとき、栓体23の大径部23aと小径部23bとの段差面が第1の係合部10bにより係合され、血液採取容器21が血液分離器具1に把持される。
【0069】
次に、図4に示すように、第2のホルダー11の下端11aより検体収納容器31を栓体23側から挿入する。すなわち、第2の中空針4の針先4aが、検体収納容器31の栓体23に刺通される。針先4aが栓体23に刺通されて検体収納容器31の内部空間に至ると、栓体23の外表面が下端面2dに当接される。このとき、栓体23の大径部23aと小径部23bとの段差面が第1の係合部11bにより係合され、検体収納容器31が血液分離器具1に把持される。
【0070】
本実施形態では、血液採取容器21内の圧力をP1、検体収納容器31内の圧力をP2、外部空間の圧力、すなわち大気圧をP3としたときに、分離開始時の圧力の関係がP3>P1>P2もしくはP3≒P1>P2とされている。よって、針先4aが栓体23に刺通されると、内部が減圧されている検体収納容器31により血液が真空吸引される。検体収納容器31内の血液は、第1の流路5を通過し、血液分離材9に達する。血液分離材9では、血液が通過するときに血球よりも血漿または血清が相対的に早く移動する。相対的に早く移動した血漿または血清は第2の流路6を通過し、検体収納容器31に流出される。
【0071】
上述した圧力の関係がP3>P1>P2である場合には、弁部材8を挟んだ外部空間側と第1の中空針3の針先3a側との圧力差により、弁部材8の切り込み8cが開口し、第3の流路7を通じて大気が血液採取容器21内に流れ込む。この結果、圧力の関係がP3≒P1>P2となる。
【0072】
すなわち、図2(c)に正面断面図で示すように、弁部材を挟んだ外部空間側と第1の中空針3の針先3a側との圧力差により、弁部材8の切り込み8cが開口する。切り込み8cが開口すると、第3の流路7を通過して大気が血液採取容器21内に流入する。なお、血液採取容器21内と外部空間との圧力差がほぼ等しくなると、ゴム弾性を有する弁部材8の切り込み8cが閉口し、図2(b)に示す状態に戻る。よって、血液採取容器21内と外部空間との圧力差がほぼ等しくなり、針先3aから第3の流路7に血液が流れ込んだ場合でも、弁部材8の切り込み8cから外部空間に血液が流出することがない。
【0073】
他方、上述した圧力の関係がP3≒P1>P2である場合には、第1,第2の流路5,6を血液が通過し第2の中空針4の針先4aから血液が流出される。しかしながら、血液が分離されるに従って、血液採取容器21内の空容積が大きくなる。空容積が大きくなると血液採取容器21内の圧力が低下し、圧力の関係がP3>P1>P2となる。この場合にも、第3の流路7を通じて大気が血液採取容器21内に流れ込み、圧力の関係がP3≒P1>P2となる。
【0074】
上記のように、本実施形態では、血液採取容器21内の空容積が大きくなり、血液採取容器21内の圧力が低下することが防がれている。すなわち、血液が分離されている間に、血液採取容器21内の圧力P1と、検体収納容器31の圧力P2とがほぼ等しくなり、血液の分離速度が低下したり、血液の分離が停止することが防がれている。よって、血液分離器具1では、血液を血球と血漿または血清とに簡便に、かつ短時間で分離することができる。
【0075】
図5に示すように、血液の分離が終了した後、検体収納容器31から血液分離器具1を取り外す。このとき、栓体23の大径部23aと小径部23bの段差面が第2のホルダー11の第1の係合部11bにより係合されているため、栓体23ごと血液分離器具1を容易に取り外すことができる。
【0076】
分離された血漿または血清は、検体収納容器31の開口22aからスポイトを用いて、若しくは検体収納容器31を傾けて血漿または血清を容易に取り出すことができる。
【0077】
図6に、本発明の第2の実施形態に係る血液分離器具を正面断面図で示す。
【0078】
第1の実施形態の血液分離器具1では、第3の流路7に弁部材8が挿入されていたが、図6に示す血液分離器具41では、弁部材8に替えて、連続発泡体42が挿入されている。
【0079】
連続発泡体42の外周径は、第3の流路7に圧入し得る程度の大きさとされており、開口2bの内径とほぼ等しいか、若しくはわずかに大きくされている。連続発泡体42は、開口2bに挿入され、圧入されている。連続発泡体42の外周面が第3の流路7の内周面に液密的に密着されている。連続発泡体42は、液密性および通気性を有する。
【0080】
血液分離器具41では、外部空間から第1の中空針3の針先3aに向かって、大気が第3の流路7を通過し、血液採取容器21内に大気が流通可能とされている。よって、血液分離器具41では、血液採取容器21内の圧力の低下を抑えることができるため、血液を血球と血漿または血清とに簡便に、かつ短時間で分離することができる。
【0081】
連続発泡体42は、液密性および通気性を有するように構成されていれば、特に限定されない。連続発泡体42を構成する材料としては、ウレタン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン(PE)等を挙げられる。連続発泡体42には、不織布などの多孔質体も含まれる。
【0082】
図7に、本発明の第3の実施形態に係る血液分離器具を正面断面図で示す。
【0083】
第1の実施形態の血液分離器具1と、図7に示す血液分離器具51とは、第1のホルダーの構造が異なっている。血液分離器具51では、後述するように、血液採取容器21の栓体23が第1の中空針3に刺通される手前の位置、および栓体23が第1の中空針3に刺通された際に、血液採取容器21が血液分離器具1に把持され得る。
【0084】
血液分離器具51は、容器本体2の上端面2cから上方に向かって延びる円筒状の第1のホルダー52を有する。第1のホルダー52の上端52a近傍の内周面には、第2の係合部52bが形成されている。さらに、第1のホルダー52の中央近傍の内周面には、第1の係合部52cが形成されている。すなわち、第1のホルダー52は、第1,第2の係合部52b,52cの間に血液採取容器を把持する把持部52dを有する。なお、本実施形態では、容器本体2と、第1のホルダー52とが一体的に構成されている。
【0085】
図8(a)に、血液採取容器の栓体23が第1の中空針3に刺通される手前の位置で、血液分離器具51に血液採取容器が把持されている状態を正面断面図で示す。図8(b)に、血液採取容器の栓体23が第1の中空針3に刺通された際に、血液採取容器が血液分離器具51に把持されている状態を正面断面図で示す。
【0086】
図8に示す血液採取容器55は、上述した血液採取容器21と管状容器22の形状が異なる。血液採取容器55は、両端56a,56bが開口された筒状容器56を有する。そして、両端56a,56bの開口に、上述した栓体23が圧入されている。このように、血液採取容器および検体収納容器は両端が開口されて、該開口に栓体が圧入されていてもよい。また、血液採取容器および検体収納容器の形状も、例えば角筒状などの形状に適宜変更することができる。
【0087】
図8(a)に示すように、血液分離器具51では、針先3aが栓体23に刺通される手前の位置で、栓体23の大径部23aが第2,第1の係合部52b,52c間に配置され、かつ大径部23aと小径部23bとの段差面が第2の係合部52bにより係合されている。よって、血液分離器具51が検体採取容器55を把持することができる。
【0088】
図8(b)に示すように、血液分離器具51では、第1のホルダー52の上端52aから血液採取容器55をさらに挿入すると、針先3aが栓体23に刺通される。針先3aが血液採取容器55の内部空間に至ると、栓体23の外表面が上端面2cに当接される。このとき、栓体23の大径部23aと小径部の段差面が第1の係合部52cにより係合され、血液分離器具51に検体採取容器55が把持される。
【0089】
血液分離器具51は、第2のホルダー11も上述した第1のホルダー52と同様に構成されていてもよい。すなわち、検体収納容器31の栓体23が第2の中空針4に刺通される手前の位置、および栓体23が第2の中空針4に刺通された際に、検体収納容器31が血液分離器具1に把持され得るように、第2のホルダーが構成されていてもよい。
【0090】
図9に、本発明の第4の実施形態に係る血液分離器具を正面断面図で示す。
【0091】
図9に示す血液分離器具61では、血液分離器具1と容器本体2の形状が異なり、特に内部空間2Aの形状が異なる。血液分離器具61では、容器本体62の内部空間62Aに血液分離材63と血球停止膜64とが配置されている。
【0092】
血液分離器具61は、円筒状の容器本体62を有する。容器本体62は第1の中空針3と第2の中空針4とを有し、かつ第1の中空針3と第2の中空針4との間に内部空間62Aを有する。容器本体62は、第1〜第3の流路5〜7を有する。
【0093】
容器本体62の下端面62aより上側の内周側面、すなわち内部空間62Aから第2の流路6に連なる部分の内周側面おいて、内側に向かって延びる円環状の段差62bが設けられている。
【0094】
上記段差62bに支持されるように、内部空間62Aに血球停止膜64が配置されている。血球停止膜64より上方の内部空間62Aには血液分離材63が配置されており、血球停止膜64の上面が血液分離材63の下面と接している。
【0095】
血球停止膜64は、血球は通過しないが、血漿または血清は通過し得るように多数の孔64aが形成された膜からなる。もっとも膜以外のフィルタ部材であってもよい。
【0096】
血液分離器具61では、血液分離材63により、血球よりも血漿または血清が速く移動する。相対的に速く移動した血漿または血清は、血球停止膜64の孔64aを通過する。血漿または血清よりも低速で移動した血球は、血球停止膜64に達しても、血球停止膜64を通過しない。従って、検体収納容器31などに収容された血漿または血清に血球は混入しない。従って、得られた血漿または血清を検査すると、信頼性の高い検査結果を得ることができる。
【0097】
血球停止膜64を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、ポリビニリデンジフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラスファイバー、ボロシリケート、塩化ビニルまたは銀等を挙げることができる。血球停止フィルタは赤血球の通過を防止できる性質を有していればよく、その材質は特に限定されない。このような性質を有する材質としては、例えば、ポリビニリデンジフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラスファイバー、ボロシリケート、塩化ビニルまたは銀等を挙げることができる。
【0098】
血球停止膜が多孔質物質を用いて構成されている場合には、血漿または血清の通過が可能である。血球停止膜を構成する多孔質物質としては、赤血球の通過を防止できる範囲の孔径を有するものであれば、特に限定されるものではない。赤血球の通過を防止するためには、孔径は1μm以下であることが好ましい。孔径が小さいと、血液中のタンパク成分などにより目詰まりを起こす可能性があるため、孔径は0.01μm以上であることが好ましい。赤血球の通過をより効果的に防止するためには、孔径は0.05μm以上、1μm以下の範囲にあることがより好ましい。
【0099】
濾過の流速を高めるために、血球停止膜の表面は親水処理されていてもよい。親水処理の方法としては、プラズマ処理、親水性高分子によるコーティング等が挙げられるが、これらの方法に限定されず、他の方法を用いてもよい。
【0100】
図10に、本発明の第5の実施形態に係る血液分離器具を正面断面図で示す。
【0101】
図10に示す血液分離器具71では、血液分離器具1と容器本体2の形状が異なり、特に内部空間2Aの形状が異なる。さらに、血液分離器具71では、容器本体72の内部空間72Aに、血液分離材73、血球停止膜64および流路閉塞部材74が配置されている。
【0102】
血液分離器具71は、円筒状の容器本体72を有する。容器本体72は第1の中空針3と第2の中空針4とを有し、かつ第1の中空針3と第2の中空針4との間に内部空間72Aを有する。容器本体72は、第1〜第3の流路5〜7を有する。
【0103】
容器本体72は、下端面72aよりわずかに上方において、内周側面から内側に向かって延びる環状突部72bを有する。
【0104】
環状突部72bに支持されるように、内部空間72Aに血球停止膜64が配置されている。血球停止膜64より上方の内部空間72Aには血液分離材73が配置されており、血球停止膜64の上面が血液分離材73の下面と接している。
【0105】
容器本体72下端面72aと環状突部72bとに挟持されるように、流路閉塞部材74が配置されている。流路閉塞部材74は中央に孔74aを有し、孔74aは第2の流路6に連ねられている。
【0106】
流路閉塞部材74は、水分等の液状成分に接触すると膨潤する材料で構成されている。
流路閉塞部材74は、血漿または血清に接触されることにより、次第に膨潤し、収容されるべき血漿または血清が通過した後に流路を閉塞する。より具体的には、血液分離材73において相対的に速く移動した血漿または血清が、流路閉塞部材74が配置されている流路部分を通過した後、流路閉塞部材74が膨潤する。すなわち、流路閉塞部材74の孔74aが塞がるように膨張し、流路が閉塞される。
【0107】
検体収納容器31などに血漿または血清収容された後、長時間放置された場合でも、流路が閉塞されるため、溶血により生じた赤血球内成分は下方に滴下しない。また、流路が閉塞されると、流路閉塞部材74の下方において、圧力差を駆動力とした血液成分の移動も停止される。よって赤血球内成分は、血漿または血清に混入しない。従って、得られた血漿または血清を検査すると、信頼性の高い検査結果を得ることができる。
【0108】
流路閉塞部材74を構成する材料としては、例えば、分子骨格に親水性の官能基を有し、自重に対し同量以上の水を吸収できる性質を有する樹脂が挙げられる。流路閉塞部材74を構成する材料の具体例としては、ポリアクリル酸アルカリ金属塩系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、ポリアクリルアミド系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、ポリN−ビニルアセトアミド系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、シリコン系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、ポリビニルエーテル系樹脂およびその共重合体およびそれら架橋体、ポリアルキレンオキサイド系樹脂またはその共重合体およびそれらの架橋体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはその共重合体およびそれらの架橋体等が挙げられる。
【0109】
流路閉塞部材としては、粉末状、粒状としたものを用いてもよく、フィルムやシート状に成形したものを用いてもよく、ペースト状、スラリー状または溶液等にして添加し乾燥させるなどしてもよい。
【0110】
流路閉塞部材74は、血漿または血清に接触されることでそれ自身が膨潤し、流路を閉塞させる。そのため、流路閉塞部材の必要量は、閉塞させる流路体積、流路閉塞部材の膨潤率及び膨潤速度によって異なる。よって、閉塞させる流路体積、流路閉塞部材の膨潤率及び膨潤速度から、流路閉塞部材の最適な量が計算される。
【0111】
閉塞させる流路体積は、血液中の水分が吸収されかつ検体の回収量が低下しない範囲で設定される。流路体積が大きくなると、閉塞させるための流路閉塞部材の量も多くなるため、検体の回収量が低下するおそれがある。
【0112】
従って、閉塞させる流路体積は、0.005〜1.0cm3の範囲にあることが好ましい。また、流路閉塞部材の体積は閉塞させる流路体積に対し、5〜95%の範囲にあることが好ましい。流路閉塞部材の体積が閉塞させる流路体積に対し5%より小さいと、流路を閉塞するまでの時間が長くなるため、溶血により赤血球から漏洩してきた成分が、分離した血漿もしくは血清に混入するおそれがある。流路閉塞部材の体積が閉塞させる流路体積に対し95%より大きいと、血漿または血清がすべて回収される前に流路が閉塞されてしまうことがあり、血漿または血清の回収効率が低下するおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態に係る血液分離器具を示す斜視図、正面図および正面断面図。
【図2】(a),(b)は、本発明の第1の実施形態に係る血液分離器具の弁部材を拡大して示す正面図、および正面断面図。(c)は、弁部材の切り込みが開口した状態を示す正面断面図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る血液分離器具の使用方法を説明するための図であり、容器本体内に血液が流入される直前の状態を示す縦断面図。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る血液分離器具の使用方法を説明するための図であり、容器本体内に流入された血液が分離される途中段階の状態を示す縦断面図。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る血液分離器具の使用方法を説明するための図であり、分離された血漿または血清を取り出すときの状態を示す縦断面図。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る血液分離器具を示す正面断面図。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る血液分離器具を示す正面断面図。
【図8】(a),(b)は、本発明の第3の実施形態に係る血液分離器具に血液採取容器が把持された状態を示す正面断面図。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る血液分離器具を示す正面断面図。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る血液分離器具を示す正面断面図。
【図11】従来の血液分離器具を模式的に示す正面断面図。
【符号の説明】
【0114】
1…血液分離器具
2…容器本体
2a…側面
2b…開口
2c…上端面
2d…下端面
2A…内部空間
3…第1の中空針
3a…針先
4…第2の中空針
4a…針先
5…第1の流路
6…第2の流路
7…第3の流路
8…弁部材
8a…肉厚部
8b…本体部
8c…切り込み
9…血液分離材
10…第1のホルダー
10a…上端
10b…第1の係合部
11…第2のホルダー
11a…下端
11b…第2の係合部
21…血液採取容器
22…管状容器
22a…開口
23…栓体
23a…大径部
23b…小径部
23c,23d…凹部
31…検体収納容器
41…血液分離器具
42…連続発泡体
51…血液分離器具
52…第1のホルダー
52a…上端
52b…第2の係合部
52c…第1の係合部
52d…把持部
55…血液採取容器
56…筒状容器
56a,56b…両端
61…血液分離器具
62…容器本体
62a…下端面
62b…段差
62A…内部空間
63…血液分離材
64…血球停止膜
64a…孔
71…血液分離器具
72…容器本体
72A…内部空間
72a…下端面
72b…環状突部
73…血液分離材
74…流路閉塞部材
74a…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を血球と血漿または血清とに分離し、該血漿または血清中の成分を検査するのに用いられる血液分離器具であって、
一端側に向かって延びる第1の中空針と、一端側とは反対側の他端側に向かって延びる第2の中空針と、前記第1,第2の中空針間に配置されており、血液が流れる内部空間とを有する筒状の容器本体、および前記容器本体の内部空間に配置されており、血液を血球と血漿または血清とに分離するための血液分離材を備え、
前記容器本体が、第1の中空針の針先から内部空間に向かって、内部空間に血液が流入される第1の流路と、内部空間から第2の中空針の針先に向かって、内部空間から血液が流出される第2の流路と、かつ外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得る第3の流路とを有することを特徴とする、血液分離器具。
【請求項2】
前記第3の流路に弁部材が液密的に配置されており、前記弁部材を挟んだ外部空間側と第1の中空針の針先側との圧力差により、外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得るように構成されている、請求項1に記載の血液分離器具。
【請求項3】
前記弁部材が切り込みを有し、前記圧力差の有無によって前記切り込みが開閉するように構成されており、かつ前記切り込みが開口することで、外部空間から第1の中空針の針先に向かって、大気が流通可能な状態となり得るように構成されている、請求項2に記載の血液分離器具。
【請求項4】
前記第3の流路に液密的に連続発泡体が配置されており、前記連続発泡体が液密性および通気性を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の血液分離器具。
【請求項5】
少なくとも一端側に開口を有し、該開口に栓体が圧入されており、血液が採取される血液採取容器と、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液分離器具とを備えることを特徴とする、血液分離装置。
【請求項6】
少なくとも一端側に開口を有し、該開口に栓体が圧入されて内部の減圧が維持されており、分離された血漿または血清が収納される検体収納容器をさらに備える、請求項5に記載の血液分離装置。
【請求項7】
前記血液分離器具が、前記容器本体から前記容器本体の一端側に向かって延びる筒状の第1のホルダーを有し、前記第1の中空針に前記血液採取容器の栓体が刺通された際に栓体が係合されるように、前記第1のホルダーの内周面から突出した第1の係合部を前記第1のホルダーが有する、請求項5または6に記載の血液分離装置。
【請求項8】
前記第1の中空針に前記血液採取容器の栓体が刺通される手前の位置で栓体が係合されるように、前記第1のホルダーの内周面から突出した第2の係合部を前記第1のホルダーが有する、請求項7に記載の血液分離装置。
【請求項9】
前記血液分離器具が、前記容器本体から前記容器本体の他端側に向かって延びる筒状の第2のホルダーを有し、前記第2の中空針に前記検体収納容器の栓体が刺通された際に栓体が係合されるように、前記第2のホルダーの内周面から突出した第1の係合部を前記第2のホルダーが有する、請求項5〜8のいずれか1項に記載の血液分離装置。
【請求項10】
前記第2の中空針に前記検体収納容器の栓体が刺通される手前の位置で栓体が係合されるように、前記第2のホルダーの内周面から突出した第2の係合部を前記第2のホルダーが有する、請求項9に記載の血液分離装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−3480(P2007−3480A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187119(P2005−187119)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】